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厚生労働科学研究報告書「スイッチOTC医薬品の選定及び一般使用が
平成 22 年度厚生労働科学研究費補助金 (医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業) 総括研究報告書 研究課題 「スイッチ OTC 医薬品の選定要件及び一般使用が求められる検査薬等に関する研究」 ( H22-医薬-指定-030 ) 研究代表者 慶應義塾大学薬学部医薬品情報学 2011 年 3 月 31 日 教授 望月眞弓 研究組織 研究代表者 望月眞弓(慶應義塾大学薬学部医薬品情報学教授) 研究協力者 山崎幹夫(千葉大学名誉教授) 清水直容(帝京大学名誉教授) 埜中征哉(国立精神・神経医療研究センター病院名誉院長) 西川 徹(日本 OTC 医薬品協会薬制委員長) 加藤景紹(日本 OTC 医薬品協会薬制常任委員長) 二宮伸二(日本 OTC 医薬品協会薬制委員会-新規領域推進検討部会長) 大山恵造(日本 OTC 医薬品協会安全性委員長) 生出泉太郎(日本薬剤師会副会長) 藤原英憲(日本薬剤師会常務理事) 安部好弘(日本薬剤師会常務理事) 武政文彦(東和薬局開設者) 小田兵馬(日本チェーンドラッグストア協会副会長) 宗像 守(日本チェーンドラッグストア協会事務総長) 横田 敏(日本チェーンドラッグストア協会第三事業部長) 堀美智子(日本チェーンドラッグストア協会顧問) 前川雅男(日本臨床検査薬協会専務理事) 橋口正行(慶應大学薬学部医薬品情報学准教授) 作業チーム 西川 徹(日本 OTC 医薬品協会薬制委員長) 二宮伸二(日本 OTC 医薬品薬制委員会-新規領域推進検討部会長) 武政文彦(東和薬局開設者) 横田 敏(日本チェーンドラッグストア協会第三事業部長) 前川雅男(日本臨床検査薬協会専務理事) 上村 浩(日本臨床検査薬協会 OTC 検査薬検討部会長) 目 次 総括研究報告書・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 資料 1 スイッチ OTC 医薬品候補成分の選定要件と選定方法・・・・・・・・・・・25 資料 2 一般用検査薬のあり方とセルフメディケーション・・・・・・・・・・・・29 資料 3 これからのスイッチ OTC 医薬品について実際に対応する薬剤師の役割・・・37 資料 4 これからのスイッチ OTC 医薬品について製造販売業者に求められる要件・・45 平成 22 年度厚生労働科学研究費補助金 (医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業) 総括研究報告書 研究課題 「スイッチ OTC 医薬品の選定要件及び一般使用が求められる検査薬等に関する研究」 ( 研究代表者 H22-医薬-指定-030 ) 慶應義塾大学薬学部医薬品情報学 教授 望月眞弓 研究要旨 本研究では、今後望まれる新しい領域の用途を有するスイッチ OTC 医薬品候補成分の選 定要件および選定方法を提案した。また、セルフチェックやセルフケアに必要な一般用検 査薬に求められる機能・項目を明らかにし、一般用検査薬に関わる製販業者、薬剤師等、 行政の役割についても明確化した。新スイッチ OTC 医薬品の販売を想定した薬剤師の役割 としては、新スイッチ OTC 医薬品の啓発、販売とモニタリングへの薬剤師の関与(介入) 、 生活者による自己検査キットの活用と適正受診の確保および新スイッチ OTC 医薬品の活用 に関する適切な支援を提案した。製販業者の役割としては、承認申請等の開発業務に加え て、製造販売後の適正使用や安全性確保を念頭においた情報提供の仕組みや各種情報提供 支援ツールの作成、副作用特別調査や適正使用調査(仮称)等の実施などが求められるとした。 研究総括 A. 研究目的 「自分の健康は自分で守る」という国民のセルフケア意識の高さは最近の健康食品ブー ム等にも表れている。国においても、セルフケアに資するセルフメディケーション推進の 観点からスイッチ OTC 医薬品化の推進を図っているが、最近の調査によると、第一類医薬 品の販売額は減尐傾向にあるという。これには種々の原因が考えられるが、どういう場合 に薬局・薬店の薬剤師に相談して OTC 医薬品を利用できるのかを国民自身が認識していな いことが一因に挙げられよう。換言すると、どういう医療用医薬品が OTC 医薬品にスイッ チされ、また、どのような場合にそれを利用できるのかを、国民一人一人がより具体的に 自分に当てはめて考えることができるような明確な目安がなかったためであると考える。 実際、スイッチ OTC 医薬品候補成分の選定要件は、平成 14 年、厚生労働省の「一般用医 薬品承認審査合理化等検討会」において示されているが、例えば「医師の指導監督なしで 使用しても、重篤な状態になるおそれのないもの」というように大まかな内容であった。 その後、同省は平成 19 年度より日本薬学会に委託してスイッチ OTC 医薬品候補成分選定事 業を行っているが、これまでの選定方針や医学関係学会からの問題点の指摘等を踏まえ、 昨年 6 月から施行された改正薬事法に基づく新販売制度の特色も生かした、 より具体的で、 1 こうした環境の変化をも反映した選定要件の策定が必要であると考える。 一方、一般用検査薬に関しては、平成 3 年、同省の「セルフケア領域における検査薬に 関する検討会」にて、国民が自身の健康状態を自宅等で自身でチェックできる一般用検査 薬が必要との意見等を踏まえ、尿糖、尿蛋白及び妊娠検査薬について対応がなされたが、 それ以降新たなものは認められていない。最近では平成 21 年に、生活習慣病予防を念頭に 置いて日本臨床検査薬協会及び日本 OTC 医薬品協会から便潜血、尿黄体形成ホルモン、尿 試験(pH、ケトン体等)及び自己検査用グルコースキットの一般用検査薬導入要望が出さ れている。 このような背景を踏まえて本研究では、①これからのスイッチ OTC 医薬品の選定要件お よび選定方法について検討するとともに、②国民が自身の健康状態を自宅等で独自にチェ ックできたり、セルフケアにおいて自ら自己治療の範囲にあることを確認できたりする一 般用検査薬にはどのような機能・測定項目が求められるかを検討し、セルフチェックやセ ルフケアと一般用検査薬との有機的な組合せを提案する。 また、これら選定要件を満たすために、③新たに選定されスイッチされる OTC 医薬品(新 スイッチ OTC 医薬品)について実際に対応する薬剤師に求められる役割や、④新スイッチ OTC 医薬品について製造販売業者に求められる要件(製造販売後調査や薬剤師向け・使用者 向け情報提供資材の充実等)についても合わせて検討し、それぞれのあるべき姿を提言す る。 B.研究方法 検討 1:スイッチ OTC 医薬品候補成分の選定要件および選定方法 平成 14 年、厚生労働省の「一般用医薬品承認審査合理化等検討会」にて示された「スイ ッチ成分の選択の要件」を基に、諸外国や日本薬学会、日本 OTC 医薬品協会、日本薬剤師 会などでの候補成分選定の考え方等を参考に検討した。 検討に当たっては、候補成分選定の経験を有する日本薬学会「医療用医薬品の有効成分 の一般用医薬品への転用に係る候補成分検討調査委員会」委員や日本 OTC 医薬品協会、日 本薬剤師会、日本チェーンドラッグストア協会から推薦を受けた者を研究協力者として検 討を進めた。 検討 2:一般用検査薬のあり方とセルフメディケーション 平成 21 年に業界から要望のあった 4 種類の検査(便潜血、尿黄体形成ホルモン、尿試験、 自己検査用グルコースキット)を含め、セルフチェックや①で明確化した適応の範囲であ ることを確認するための検査薬にはどのような機能・項目が必要なのかを念頭に置いて、 これからの一般用検査薬あり方について検討した。検討に当たっては検討 1 のメンバーに 日本臨床検査薬協会から推薦を受けた者を研究協力者として加えて実施した。 検討 3:これからのスイッチ OTC 医薬品について実際に対応する薬剤師に求められる役割 検討 1 を行う過程で明らかとなる薬剤師の役割について整理し、セルフメディケーショ 2 ンにおいて国民の相談に応じて、自己検査や OTC 医薬品選択の支援、薬歴等の把握や情報 提供あるいは受診勧奨等に関与していく薬剤師に求められる業務を明らかにした。この検 討は、日本薬剤師会、日本チェーンドラッグストア協会から推薦を受けた者を研究協力者 として進めた。 検討 4:これからのスイッチ OTC 医薬品について製造販売業者に求められる要件 検討 1 に掲げたスイッチ OTC 医薬品の選定要件においては、薬剤師の高度な専門性に基 づく顧客の薬歴確認や副作用等に係る説明、また軽度ではない方を見分けて受診勧奨する といったことが含まれてくるが、医薬品毎に適切な対応を行うためには、薬剤師自身によ る資質向上もさることながら、企業が行う製造販売後調査や薬剤師向け情報提供資材の充 実、説明会の開催等も重要になってくる。そのためには、新スイッチ OTC 医薬品の製造販 売業者においては、開発段階から OTC 医薬品としての適正使用を主眼として、製造販売後 の使用実態の検証や副作用発現頻度の検出等を見据えたライフプランニングを立てるとと もに、製造販売後には GVP に基づく対応に加え、薬剤師と連携した製造販売直後の使用実 態調査の実施や副作用頻度調査、情報提供の充実や受診勧奨等の徹底に努める体制を備え ていることが求められる。この検討は、日本 OTC 医薬品協会等から推薦を受けた者を研究 協力者として進めた。 なお、研究全体を通じて、セルフメディケーションにおける医師、薬剤師、薬局・薬店、 製造販売業者及び国民の役割についてその適切なあり方を鳥瞰しながら、4 項目の内容の調 和を医学的見地から検証してもらうため、研究協力者として清水直容元帝京大医学部教授 及び埜中征哉国立精神・神経医療研究センター病院名誉院長に参画いただいた。 3 本研究組織は以下の通りである。 研究代表者 望月眞弓(慶應義塾大学薬学部医薬品情報学教授) 研究協力者 山崎幹夫(千葉大学名誉教授) 清水直容(帝京大学名誉教授) 埜中征哉(国立精神・神経医療研究センター病院名誉院長) 西川 徹(日本 OTC 医薬品協会薬制委員長) 加藤景紹(日本 OTC 医薬品協会薬制常任委員長) 二宮伸二(日本 OTC 医薬品協会薬制委員会-新規領域推進検討部会長) 大山恵造(日本 OTC 医薬品協会安全性委員長) 生出泉太郎(日本薬剤師会副会長) 藤原英憲(日本薬剤師会常務理事) 安部好弘(日本薬剤師会常務理事) 武政文彦(東和薬局開設者) 小田兵馬(日本チェーンドラッグストア協会副会長) 宗像 守(日本チェーンドラッグストア協会事務総長) 横田 敏(日本チェーンドラッグストア協会第三事業部長) 堀美智子(日本チェーンドラッグストア協会顧問) 前川雅男(日本臨床検査薬協会専務理事) 橋口正行(慶應大学薬学部医薬品情報学准教授) 作業チーム 西川 徹(日本 OTC 医薬品協会薬制委員長) 二宮伸二(日本 OTC 医薬品薬制委員会-新規領域推進検討部会長) 武政文彦(東和薬局開設者) 横田 敏(日本チェーンドラッグストア協会第三事業部長) 前川雅男(日本臨床検査薬協会専務理事) 上村 浩(日本臨床検査薬協会 OTC 検査薬検討部会長) 4 C.研究結果 検討 1:スイッチ OTC 医薬品候補成分の選定要件および選定方法(詳細は資料 1 を参照) 1)選定の基本コンセプト 欧米での現状と動向も踏まえて、今後、日本が必要とする一般用医薬品として、現在使 用されている医療用医薬品の成分の中から、一般用医薬品への転用が望まれるものを選定 する。基本的な選定要件は表 1 に示す通りである。 今後、望まれる領域としては、生活者の自覚症状を基本とした急性症状のみならず、現 在いわゆる健康志向食品が事実上カバーしている「疾病の予防」分野にも適用できる成分 や、慢性疾患でも境界領域か軽度で発症前までを対象として使用できる成分を考慮するこ とも考えられる。このため、新スイッチ OTC 医薬品候補成分の選定にあたっては基本要件 を満たすことはもちろん、新たな用途も視野にいれながら検討しなければならない。この ため、成分の選定に入る前に新スイッチ OTC 医薬品の対象となる症状および疾患の検討か ら着手し選定を行うことが必要であると考えた。 1 2 3 4 5 表1. スイッチ成分の選択の基本要件 医療用としての使用実績があり、再審査又は再評価が終了してお り、副作用の発生状況、海外での使用状況、再審査又は再評価結 果等からみて一般用医薬品として適切であること 医師の指導監督なしで使用しても、薬剤師の情報提供・相談応需に より重篤な状態に陥ることを回避できるもの(初回医師の診断を受け た後の再使用を含む) 習慣性、依存性、耽溺性がないこと 麻薬、覚せい剤、覚せい剤原料、毒薬でないこと 国民の選択の幅の拡大が期待できるもの (厚生労働省一般用医薬品承認審査合理化等検討会で提案されたスイッチ成分の選択の要件を一部改変) 2)選定方法 具体的な選定に当たっては、以下のステップに従って作業と検討を進め、最終的にスイ ッチ OTC 医薬品候補成分を選定する。 ステップ1:全般的な選定方法の確認 ステップ2:スイッチ OTC 医薬品候補成分の対象症状および疾患の選定 ステップ3:スイッチ OTC 医薬品候補成分の評価のためのワークシートの作成 ステップ4:症状および疾患ごとのスイッチ OTC 医薬品候補成分の評価 ステップ5:スイッチ OTC 医薬品候補成分としての適切性の判定 ワークシート(表 2)は、①安全性、②医療用医薬品としての実績、③自己判断の可 能性、④販売時の環境の4つの領域から成る。ワークシートによって、表 1 の選定の 5 基本要件の評価はもちろん、さらに新スイッチ OTC 医薬品として相応しい要件を満たして いるか、あるいは一定の条件を付すことで満たすことが可能であるかを評価する。そして、 最終判定の前には専門家の特別な関与の要否についても検討し、表 3 に示す判定を行う。 なお選定結果は、社会の要請、経済的観点、科学的水準の変化、スイッチ OTC 医薬品の販 売環境の変化等により、見直されることも考えられる。 表 2 スイッチ OTC 医薬品候補成分のワークシート 項 目 安全性用量域の幅広さは十分か 安 全 性 医 療 用 医 実薬 績品 と し て の 自 己 判 断 の 可 能 性 販 売 時 の 環 境 自己判断で頻回使用による危険 性は? 過量服用による危険性は? 内 容 毒性試験データ(最小致死量、無影響量)と臨床用量の比を出 す 自己判断で頻回使用する可能性のあるもののみ評価 添付文書の過量投与の項 重篤な有害作用は? 添付文書の重大な副作用の項、あれば頻度も 重篤な薬物相互作用を起こす可 能性のある薬剤や食品等はない か 依存性の有無 添付文書の併用禁忌と併用注意 投与禁忌 適応症と鑑別が難しい禁忌があるか 不適切な使用あるいは治療開始 の遅れによる有害性の検討 医療用としての使用における安 全性プロフィールの評価 海外での使用実績の検討 用法用量、効能効果の不適切な場合と治療開始の遅れによって 有害性があるか 再審査または再評価が終了しているか、終了年月は 医師の介入なしに安全性と有効 性が確保できるか 効能に関して正確な自己判定が できるか 治癒、軽減の目安は明確か 服用(使用)方法は簡便か 習慣性医薬品、向精神薬 海外での一般用医薬品としての承認年ならびに販売されてい る場合には、有効成分量や効能効果、用法用量、包装単位など。 医師による診察と処方が絶対必要なものかどうか 自己検査キット等による自己検査を含めて自己判定が可能か 服薬中止時期が明確に判断可能か 有害作用は容易に確認可能か 複雑な服用(使用)方法により安全性、有効性が損なわれない か 自覚症状によるモニタリングが可能か 特別な介入の要否 事前の医師による診断の要否、販売時の薬剤師の介入の要否 販売者のガイダンス・研修 販売者の事前のガイダンス・研修の要否 自己検査の必要性 必要な場合は検査薬を具体的に例示 代理販売の可否 本人以外の人に販売することが可能かどうか。否の場合はその 理由。 新たな市販後モニタリングシス テムの開発の必要性 薬歴作成の要否 従来のスイッチ OTC 医薬品で行われているものと異なる場合 包装単位・販売個数制限の要否 要の場合は具体的に 関係者との事前協議 地域薬剤師会、医師会、その他医療サービス関係機関との連携。 医師の診断内容の紹介状などの必要性 服薬(使用)経過の記録と活用が必ず必要か 6 表3 判定の分類 A判定 B判定 C判定 X判定 スイッチ OTC 医薬品候補成分の判定基準 基準 一般用医薬品として医療用から転用することが妥当な医薬品成分 適正使用確保のため専門家(医師または薬剤師)による何らかの特別な関 与が必要とされる成分 リスクの大きさや使用上の煩雑さなどから一般用医薬品としてはふさわ しくない医薬品成分 評価に足りうる十分な根拠資料が得られなかった成分 検討 2:一般用検査薬のあり方とセルフメディケーション(詳細は資料 2 を参照) 1)一般用検査薬の現状 現在、日本国内における一般用検査薬は、平成元年に専門家による「セルフケア領域に おける検査薬に関する検討会」が設置され、その報告書に基づき、平成 2 年に尿糖及び尿 蛋白が、また、平成 3 年に妊娠検査薬の一般用検査薬化が実現した。しかし、それ以降の 一 般 用 検 査 薬 化 は 足 踏 み 状 態 で あ る 。 こ れ に 対 し て 米 国 の FDA ( Food and Drug Administration)では、体外診断用医薬品のうち疾患や体調を自宅で検査することができ る検査項目を Home Use Test に分類し、費用、迅速性等で有用であるとしている(例:コ レステロール、肝炎検査、血糖値など) 。また、欧州における一般用検査薬市場では、血糖 値検査薬(Blood glucose tests)の市場規模が大きく、排卵日検査薬(Pregnancy tests) 、 妊娠検査薬(Ovulation tests)等も販売されている。 2)これからの一般用検査薬に求められるもの 近年の臨床検査関連技術の進歩を踏まえ、生活者が安全かつ適正に使用できる一般用検 査薬の範囲拡大は可能である。生活者の健康への意識の高まりとニーズを踏まえ、自らの 健康状態を知ることができる検査項目の拡充が求められる。 近年の臨床検査関連技術の進歩を踏まえ、生活者が安全かつ適正に使用できる一般用検 査薬の範囲拡大は可能であり、それによって生活者の健康維持・増進に大きく貢献できる と考えられる。すなわち、一般用検査薬により、生活者が自ら健康状態を把握する機会を 増やし、健康管理、疾病の早期発見に寄与することが期待され、医療機関への早期受診や セルフメディケーションへとつなげることにより、疾病の早期治療に貢献することができ ると考えられる。 一般用検査薬を生活者に提供する仕組みとしては、家庭での一般用検査薬の利用に加え、 併用する医療機器を薬局店頭等に設置し、薬剤師等の指導の下、一般用検査薬を購入した 生活者が自ら検体の採取を店頭で行い、その場で検査をするといった仕組みも考えられる。 7 図 1.これからの一般用検査薬とセルフメディケーション 新たな一般用検査薬活用の事例 ○ 生活習慣病に関する検査 自覚症状を伴わない生活習慣病の早期発見の他に、生活習慣の改善や医薬品によ る効果の確認が可能となる。 ○ 生活の質の改善に寄与する検査薬 一例として、晩婚化と出産年齢の高齢化などから、妊娠・出産に適した期間も短く なってきており、排卵日検査薬は妊娠の機会を高め、尐子化に歯止めをかける一助 になる。 ○ 疾病の早期発見により早期治療につなげることができる検査薬 8 便潜血検査薬などにより、消化器系の出血の確認など、疾病の早期発見、早期治療 に大きく寄与することが可能となる。 ○ 感染症を早期発見する検査薬 インフルエンザ検査薬を一般用検査薬化することにより、家庭で簡便に検査するこ とができ、陽性となった場合にはインフルエンザの疑いがあると判断され、医療機 関への早期受診の促進や感染拡大の抑制につなげることができる。 ○ 薬剤の影響(副作用)を知るための検査薬 将来的に侵襲の尐ない検体採取が可能となれば、無機塩類や血球等、血中の特定 成分を測定することにより、一般用医薬品の副作用等の確認が可能となる。 3)一般用検査薬の範囲拡大に関する要件 【製品及び許認可の要件】 (製造販売業者の役割) ○製品の要件について ・検体の採取及び検査の手順、検査結果の判定が簡便であり、検体採取の際の侵襲が尐 なく、生活者が検査結果から、自らの健康状態を理解することが容易であること。 ・併用する医療機器等は、生活者が簡便に操作でき、構成作業等も容易であること。 ・生活者が保存すると想定される状況において安定性が担保できていること。 (行政の役割) ○許認可の要件について ・検査結果にバラツキを生じないよう、判定基準を統一化するためのガイドラインを作 成する必要がある。 ・ 「一般用検査薬」あるいは「家庭用検査機器」としての新たな枠組みを作る必要がある。 【情報提供・適正使用確保のための要件】 (製造販売業者) ○生活者への情報提供 ・一般用検査薬および併用する医療機器について、生活者の理解が容易となるよう生活 者向け添付文書記載要領(ガイドライン)を作成する必要がある。 ・併用する医療機器の操作方法、検体の採取方法、測定結果・判定基準についての取扱 説明書を作成し、適正使用を確保する必要がある。 ・お客様相談室等の設置が求められる。 ○薬剤師等販売者への情報提供 ・一般用検査薬及び併用する医療機器の使用方法、検体の採取方法、測定結果、判定基 準及び測定結果の解釈について薬剤師等販売者向け資料を作成する必要がある。 ・薬剤師等販売者向け説明会・研修会の開催などを通じて、適正使用に向けた、協力体 制をとる必要がある。 9 ・お客様相談室や担当窓口を通じて、コミュニケーションをとれる体制を構築する必要 がある。 ○適正使用の確保 ・一般用検査薬と医療機器を併用する場合、誤組合せにより誤使用が発生しないよう適 正使用確保に努めること。 ○広告の要件 ・広告適正基準に基づき広告する必要がある。 ○その他 ・血液検体や穿刺針等、感染の恐れのある廃棄物について、適切な処理ができるシステ ム構築とツールを提供する必要がある。 (薬剤師等の役割) ○生活者への情報提供 ・一般用検査薬の使用方法、検体採取方法あるいは併用する医療機器の使用方法を説明 する。 ・検査結果に対して、生活者自身が適切に判断できるよう、アドバイスを行う。 ・血液検体や穿刺針等、感染の恐れのある廃棄物の廃棄についての情報を提供する。 ○製造販売業者への情報提供 ・生活者からの苦情等の情報を製造販売業者にフィードバックするとともに、製品の改 良や適正使用の確保に向けた協力体制をとる必要がある。 (行政の役割) ○適正使用の確保 ・一般用検査薬と併用される可能性のある医療機器のうち、高度管理医療機器や特定保 守管理医療機器についても、薬局、薬店で検査薬と同時に購入ができるような環境を整 備する必要がある。 ・一般用検査薬と併用される医療機器を誤った組み合わせで使用することを避けるため に、一般用検査薬と併用される医療機器のセット販売を可能とする必要がある。 4)セルフメディケーションと一般用検査薬 薬局等を通じての一般用検査薬の普及は、生活者が検査結果について薬局等の薬剤師等 に相談することを可能とし、疾病の早期発見や、薬剤師等からの生活指導や受診勧奨を受 ける機会を増やすことに繋がる。さらに、適切な一般用医薬品が存在する場合には、早期 対応を図ることもできる。 5)一般用医薬品と一般用検査薬との有機的な組合せが実現する将来像 生活者が一般用検査薬を活用し、自らの判断や薬剤師等への相談を行い、医療機関の受 診や一般用医薬品の使用を適正に行うことができる環境が整うことにより、疾病の早期対 10 応、発症の予防などに貢献できると考えられる。 生活習慣病等においても、一般用検査薬により健康状態を正しく把握することが可能と なり、生活習慣の改善努力を継続するための動機付けとしても活用されると考えられる。 医薬品の服用時に、一般用検査薬を活用し効果や副作用を自己観察することを可能にす ることによって、医薬品の適正使用が推進される。 一般用検査薬が健康の自己管理手段として普及することによって、セルフメディケーシ ョンにおける薬局等と医療機関の連携の手段として活用され、OTC 医薬品の役割の拡大も図 られると考えられる。そして、疾病の早期発見と悪化の防止を可能とし、生活者の健康寿 命を延ばし、医療費削減に寄与するとも考えられる。 検討 3:これからのスイッチ OTC 医薬品について実際に対応する薬剤師に求めら れる役割(詳細は資料 3 を参照) スイッチ OTC 医薬品に限らず、すべての OTC 医薬品の販売に共通して薬剤師に求められ る役割については、 平成 22 年 6 月日本薬剤師会発行の「一般用医薬品販売の手引き第1版」 を参考に一部用語変更)に示されているところである。ここでは、特にセルフメディケー ションの枠組みの中で、新たに選定されスイッチされる OTC 医薬品(新スイッチ OTC 医薬 品)の販売に関して薬剤師に求められる役割について記述する。 1)新スイッチ OTC 医薬品に関する啓発 •セルフメディケーションの枠組みの中で対応できる症状や状態と、それらに対応できる OTC 医薬品の特徴と差異をわかりやすく生活者に説明する。 •セルフメディケーションから除外すべき症状や状態を把握し、受診が必要な場合はその 理由を説明し適切に医療機関を紹介する。 •個々の生活者だけでなく、広く社会に対して普及・啓発する。 2)新スイッチ OTC 医薬品の販売とモニタリングへの薬剤師の関与(介入) •生活者の状況を評価した上で薬剤師トリアージ業務を行い、適切な選択肢(スイッチ OTC 医薬品の選択助言・受診勧奨・養生法を含む生活指導)を生活者に提供する。 •販売および相談業務で得られた重要な情報について、生活者の承諾を得た上でかかりつ け医等の医療関係者に情報提供し、医師等の医療関係者と生活者の架け橋となる。 •製造販売業者から提供される販売時の情報提供の手順、薬剤師向製品説明書、使用者向 製品説明書、その他新しい情報ツール(登録カード等)などを臨床薬学的業務に有効に 活用する。 •OTC 医薬品としての使用経験の浅いスイッチ OTC 医薬品の販売後モニタリングおよび有 害事象の報告等により、使用後の重篤な副作用等の発生や拡大を防止し、かつ不適切な 使用を改善する。 11 •製造販売業者が行う原則 3 年間の製造販売後調査に協力し、適正販売及び使用の確保に 貢献する。 3)生活者による自己検査キットの活用と適正受診の確保および新スイッチ OTC 医薬品 の活用に関する適切な支援 •自己検査キットの使用方法を熟知し、適正な使用方法を助言する。 •検査結果の判断に関する助言を生活者に行い、適切な受診勧奨を行ったり、関係するス イッチ OTC 医薬品の適用や継続使用について助言を行ったりする。 検討 4:これからのスイッチ OTC 医薬品について製造販売業者に求められる要件 (詳細は資料 4 を参照) 製造販売業者(以下、製販業者)が新たに選定されたスイッチOTC医薬品について適正使 用を確保するための仕組みとして、4つの要件を取りまとめた。 1)製品の要件 1-1)申請資料の科学的妥当性 原則として、医療用医薬品としての再審査又は再評価が終了しており、生活者が直 接使用する一般用医薬品として適切な成分でなければならない。更にスイッチ成分の 有効性・安全性、効能・効果、用法・用量、海外での一般用医薬品としての使用状況、 再審査や再評価の結果との整合性等を踏まえ、一般用医薬品として妥当であることを 示す資料に基づき申請資料を作成する。 なお、現在は医療用医薬品先発会社が持つ詳細な情報等がなければ申請は困難であ るが、将来的には、先発会社が持つ情報がない場合にあっては、下記の試験を追加実 施し、その結果をもって一般用医薬品としての妥当性を評価するための情報を補完し、 申請可能となることが期待される。 <有効性・安全性> ■臨床試験:150例以上 GCPに準拠した、一般用医薬品としての使用を想定した有用性評価のための臨床試験 <製剤品質> ■ヒト生物学的同等性試験 各種ガイドラインに準拠する(対照薬:先発医療用医薬品) ■溶出試験 ■製剤均一性試験 12 1-2)開発段階における適正使用推進計画の立案 製販業者は、承認申請等の開発業務に併せ、開発段階から製造販売後の適正使用や 安全性確保を念頭においた情報提供の仕組みや各種情報提供ツールの作成、副作用特 別調査や適正使用調査(仮称)等の実施に関する計画を統合的に立案する必要がある。 (詳細は 3)製造販売後安全管理・製造販売後調査の要件 参照) 新スイッチOTC医薬品の開発 申 請 一般用医薬品として妥当であること を示す資料に基づいた申請資料 承 認 審 査 一般用医薬品としての適正使用を主 眼とした審査(安全性確保) Aに加え、 新 たにBを実施する 目的 効能・効果 用法・用量 スイッチ成分の副作用 海外OTCの使用状況等 再審査や再評価の結果 との整合性 ・・・等 効能・効果 用法・用量 使用上の注意 情報提供方法 情報提供ツール ・・・等 確認 13 A B 副 作 用 特 別 調 査 適 正 使 用 調 査 (仮 称 ) 製 造 販 売 後 調 査 計 画 書 (案) 2)情報の要件 新スイッチOTC医薬品の販売にあたり、適正使用を確保するため、薬剤師等の販売者と協 力して薬剤の特性に合わせた販売手順やカウンセリングの仕組みを構築する必要がある。 さらに各種情報ツールをそろえて、全ての取り扱い店舗において共通した適正情報を提供 できるように整備するとともに、予め説明会等を通じて薬剤師等に適切に情報を提供し、 正しい理解を求めることが肝要である。 適正使用確保のための情報提供の仕組み(案) 薬 DRUG カウンセリング セミナー テキスト 薬剤師 向 説明書 チェックシート実施 検査値等把握 受 診 勧 奨 トリアージ 該当スイッチ 購入相談 症状相談 製造販売後調査協力打診 医師紹介 or 研修会 勉強会 テキスト 生活 指導 のみ or 該当 スイッチ 販売 別の OTC等 販売 診 察・診 断 PD処方 処置 治 療 再来店時対応 情 報 提 供 副作用特別調査 登 録 カード 適正使用調査 お薬手帳 の機能 チェックシート実施 検査値等把握 トリアージ 受診勧奨 継 続 終 了 2-1)情報提供の仕組み 1. 販売時における情報提供の手順書 製販業者は薬剤の特性に基づく情報提供の手順を示すことが必要であり、販売 者は新スイッチ OTC 医薬品の販売に際しその手順書を用いることにより一定の共 通した情報提供が可能となる。 情報提供の手順書に関する基本項目は、以下の通りである。 1. 相談窓口・体制の確保 2. 情報収集と状況確認 3. 適正使用のための情報提供 4. 各種情報ツール解説 5. 再来店時対応 6. 販売後の調査協力の依頼 7. Q&A及び参考資料 14 2. 情報提供ツール 製販業者は各種情報ツールを作成し、販売店に提供する必要がある。 情報提供ツールについては、以下の例があげられる。 1. 薬剤師向説明書 2. 使用者向説明書 3. セルフチェックシート 4. 登録カード 3. 再来店対応 使用者の2回目以降の来店に対しても、使用者の適正使用を確保するための共 通した対応が必要である。(セルフチェックシートの利用、臨床検査値の把握、登 録カードの活用等) 4. 製品説明会・薬剤師研修 適正使用を確保するための情報提供を行うにあたり、薬剤師会等と協力して薬 剤師向説明会等を開催し、共通した情報を正確かつ詳細に伝えることが肝要であ る。また、発売後もフォローする体制の構築が望まれる。将来的には、薬剤師の 研修認定や薬剤師教育のプログラムへの組み込み等を考えることも期待される。 2-2)情報提供ツール 1. 薬剤師向説明書 ここ数年、第一類医薬品として承認されたスイッチOTC医薬品で作成された薬剤 師向説明書の記載項目は、概ね下記一覧表1~8の項目である。 1. 対象疾患について 2. 成分・分量 3. 効能・効果 4. 用法・用量 5. 臨床効果・安全性 6. 使用上の注意及び解説 7. 生活上の注意 8. Q&A 生活習慣病等の新薬効領域の新スイッチOTC医薬品は、従来の一般用医薬品には ない注意を要するものもある。このため、今後、新スイッチOTC医薬品の薬剤師向 説明書の記載項目には、上記1~8の必須項目に加え下記1~8の項目を盛り込む等 内容を充実させることが求められる。 15 1. 当該新スイッチOTC領域(疾患)の治療ガイドラインと当該新スイッチOTCの関 連(位置づけ) 2. 2. 当該新スイッチOTCの使用対象者(特徴ある症状等) 3. 対象者に確認すべき情報(年齢、薬歴、既往歴等) 4. 除外基準、使用禁忌、薬物相互作用、医療用医薬品の使用実態 5. 当該新スイッチOTCが使用対象外であった場合の対処方法 (受診勧奨 6. 発現の可能性がある副作用とその対処方法 7. 継続使用する際の判断基準(再来店時) 8. その他 等 等) 使用者向情報提供資料 一般用医薬品の販売に際し、使用者に対してリスクの程度に応じた情報提供が 必要である。情報提供の範囲は薬事法により規定されているが、現在、製販業者 が独自に作成する使用者向説明書、第三者機関による情報提供資料及び医薬品医 療機器総合機構(以下、PMDA)が推奨する使用者向医薬品ガイドの3種類の情報提供 ツールが存在する。 1)製販業者が独自に作成する使用者向説明書 現在、日本OTC医薬品協会加盟会社が使用者向説明書として使用者に提供して いる情報の範囲は以下の通りである。 1. 対象疾患について 2. 成分・分量 3. 効能・効果 4. 用法・用量 5. 使用方法 6. 生活上の注意 7. 使用上の注意 8. Q&A 9. お問い合わせ先 10. その他 2)第三者機関による情報提供データベース 具体例として、株式会社プラネットが運営する「医薬品説明文書セルフメディ ケーションデータベース」サービスがあり、その内容は以下の通りである。 16 1. 名称 2. 有効成分名・分量 3. 用法・用量 4. 効能・効果 5. 使用上の注意のうち、「してはいけないこと」及び「相談すること」 6. その他 3)PMDAによる使用者向医薬品ガイド PMDAでは、薬局における購入者に対する情報提供の強化を図るため、製販業者 に一般用医薬品「使用者向医薬品ガイド」の記載要領を医療用医薬品「患者向医薬 品ガイド」に準拠した内容で作成することを求めている。 3. セルフチェックシート 薬剤師は、生活者からの相談等を通じて当該医薬品の使用対象者であるか否か 等を判断する必要がある(トリアージ業務)。その際、適切なトリアージ業務を遂 行するためにセルフチェックシートの使用が推奨される。 4. 1. 生活者自らが使用対象者であるか否かを判断できる事項(症状や健康状態等) 2. 使用上の注意の「してはいけないこと」、「相談すること」に記載されている事項 3. 妊娠又は妊娠の可能性の有無 4. アレルギーの有無 5. その他、薬剤の特性に応じた事項 6. 服用による副作用及び効果の有無(継続使用時) 7. その他 登録カード 生活習慣病治療薬などの継続使用が前提となる新スイッチOTC医薬品の販売に 際して、薬剤師は使用者の適正使用を確保するための情報を把握することが求め られる。このため、製販業者は下記内容が記載された登録カードを販売者に提供 し、継続使用時の適正使用を確保するための情報提供ツールとして活用すること が推奨される。 また新スイッチOTC医薬品では医療機関(医師)と販売者(薬剤師)が使用者の健 康状態や服薬状況等の情報を共有する必要も考えられ、医療用医薬品「お薬手帳」 を活用することも期待される。 17 1. 購入の記録(購入日、購入者名等) 2. 販売店の記録(販売店名、所在地等) 3. 購入者の健康状態(検査結果、医療機関の受診日:必要応じて購入者が記載) 4. その他(薬剤の服用記録等:必要に応じて購入者が記載) 3)製造販売後安全管理・製造販売後調査の要件 3-1)製造販売後安全管理 スイッチOTC医薬品における製造販売後の安全管理の目的は、医療用医薬品成分を初 めて一般用医薬品として使用するに当たり、その使用実態下での安全性・有効性に関 する情報を収集・評価・分析し、それを薬局・薬店等の販売現場に提供・伝達するこ とにより、スイッチOTC医薬品が適正に使用されることにある。スイッチOTC医薬品を 販売する製販業者は、製造販売後安全管理について理解し、実行する十分な能力を有 していなければならない。 3-2)製造販売後調査 スイッチ OTC 医薬品等新一般用医薬品の製造販売後調査として、現在は、昭和 63 年 に発出された「新一般用医薬品の製造販売後調査の実施の自主基準について[昭和 63 年 12 月 26 日付、薬安第 154 号、厚生省薬務局安全課長通知、(以下、63 年通知)]」に 従い実施することになっている。この調査は、特別調査(モニター店による副作用頻度 調査)及び一般調査(販売店等からの副作用報告)からなる。平成 17 年 4 月 1 日以降、 一般調査は実質的に GVP 業務として実施されているため、この研究班では現行の一般 調査を廃止して GVP 業務に含めることとし、 「副作用特別調査(モニター店での調査を 原則とする)=現行の特別調査」(以下、副作用特別調査) と新たな「適正使用調査(仮 称)」を提案する。「適正使用調査(仮称)」は、今後考えられる新規性の高い領域の成 分(降圧薬、高脂血症治療薬、糖尿病治療薬、抗肥満薬、その他生活習慣病治療薬等) を含む新スイッチ OTC 医薬品について、これまでの「副作用特別調査」に加えて、そ の適正使用実態の検証を目的に実施するものである。製造販売後1年以内を目処に 300 例程度を目標として、下記内容について検証する。 【適正使用調査(仮称)の内容】 1. セルフチェックシートによる使用判断の適否 2. 薬剤師からの必要十分な説明の有無 3. パッケージ・添付文書・使用者向説明書の記載内容に関する理解度 4. 使用開始・終了の適正判断状況 5. 使用期間中の用法・用量の遵守状況 6. 副作用発現時における対応状況 18 この調査結果に基づき適正な販売及び使用が遵守されているか確認・検証でき、必要 に応じて表示内容或いは説明資材等を変更することも可能になる。 製造販売後安全管理・調査 製造販売後の安全管理 承 認 新販売制度 (第一類医薬品) ・少なくとも4年間は、薬剤師による文書での情報提供を行う対面販売が義務となる GVP (副作用症例の把握) ・重篤症例報告 ・研究報告・措置報告 ・未知・非重篤定期報告、他 製造販売後調査 A 副作用特別調査 有害事象(副作用)の頻度調査 ・内服薬:3,000例、・外用薬:1,000例 ★現行製造販売後調査の「一般調査(自発報告)」はGVPに置き換える B 適正使用調査(仮称) 薬剤師による適正使用調査 300例 ★生活習慣病薬等、一般用医薬品として使用実態のない製品について実施 (一般用医薬品として使用実態のある製品に類似のものは不要) 一原 年則 毎三 に年 報間 告 一 年 以 内 に 報 告 必要に応じ、 改訂・改善等 ・添付文書 ・外箱表示 ・販売方法・情報 提供方法 ・・・・等 4)組織体制の要件 適正使用を確保する仕組みとして、製品の要件、情報の要件、製造販売後安全管理・製 造販売後調査の要件について前述したが、これらの検討・実施にあたって、製販業者の組 織体制を整備することが求められる。 4-1)新スイッチOTC医薬品を承認申請できる開発体制 一般用医薬品の承認申請については、 「医薬品の承認申請について(H17.3.31 薬食発 0331015 及び H20.10.20 薬食発 1020001)」及び「医薬品の承認申請に際し留意するべ き事項(H17.3.31 薬食審査発 0331009 及び H20.10.20 薬食審査発 1020002)」による。 また、申請区分の考え方、申請に必要な添付資料等は「一般用医薬品の承認申請区分 及び添付資料に関する質疑応答集(Q&A)について(H20.10.20 審査管理課事務連絡)」に 示されている。新スイッチ OTC 医薬品を承認申請する企業は、申請区分(4)(新一般用 医薬品有効成分含有医薬品)の承認申請に際し添付すべき資料を完備できる体制が求 められる。 なお、現在は医療用医薬品先発会社が持つ詳細な情報等がなければ申請は困難であ るが、将来的には、先発会社が持つ情報がない場合にあっては、1)製品の要件に示し た下記の試験を追加実施し、情報を補完することも考えられる。 その場合、別途下記 が検討できる体制が求められる。 19 <有効性・安全性> ■臨床試験:150 例以上 <製剤品質> ■ヒト生物学的同等性試験 ■溶出試験 ■製剤均一性試験 さらに、製販業者は、承認申請等の開発業務に併せ、開発段階から各種情報提供ツ ールの作成及び副作用特別調査や適正使用調査(仮称)の実施に関する計画を立案する 必要があるため、これらに対応する体制も求められる。 4-2)製造販売後の安全管理ができる GVP 体制 GVP で製販業者に求められている主な安全管理業務を円滑に実施するための社内体 制としては、 「総括製造販売責任者・安全管理責任者・品質保証責任者のいわゆる製販 業者三役の設置」 、「製造販売後の安全管理業務手順書の制定」、「安全確保業務を適正 かつ円滑に遂行しうる能力を有する人員の確保」、「情報収集・伝達経路の確保」、「記 録類の保管場所の確保」等があげられる。 4-3)製造販売後調査を実施できる体制 現時点でのスイッチ OTC 医薬品の製造販売後調査に係る根拠法令等は 63 年通知であ る。ただし、昨今のスイッチ OTC 医薬品の製造販売承認時に付与される製造販売後調 査(特別調査)では、63 年通知に上乗せした症例数や調査内容を求められている例もあ る。 現行の製造販売後調査のうち「副作用特別調査」を遂行するために必要な社内体制 として、63 年通知の記載内容は、『情報の収集、評価、対応、伝達、提供の社内体制 については、 「医薬品の情報の収集、評価、対応、伝達、提供に関する規範作成の指標 及び解説(医療用・一般用医薬品)[昭和 55 年 12 月日本製薬団体連合会]」を参考にし て整備する』とされている。新スイッチ OTC 医薬品開発を行う製販業者においては、 現行の製造販売後調査を行える体制に加え、 「適正使用調査(仮称)」を実施するに必要 充分かつ不測の事態に迅速に対応できる人員及び管理体制が確保されていることが求 められる。即ち、新スイッチ OTC 医薬品に係る一連の安全管理業務の遂行のために、 製販業者としての充分な運用体制が確保されていることが必要となる。 4-4)品質を確保できるGQP体制 薬事法第 12 条の 2 第 1 号に規定する製造販売業の許可要件の一つとして、医薬品等 の品質管理の方法に関する基準としての「医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器 の品質管理の基準に関する省令(GQP:Good Quality Practice)」が平成 17 年 4 月 1 日 20 より施行されている。GQP は医薬品、医療機器等の品質管理の方法に関する基準を定め たものであり、製造販売業の許可要件となっている。 従って、新スイッチ OTC 医薬品を取り扱う製販業者は、その手順書等を整備してい るなど、品質保証の体制を構築していることが求められる。 4-5)適切な情報提供ができる営業・学術体制 製販業者として、一般用医薬品、特に新スイッチ OTC 医薬品を販売するにあたって 適切に情報提供できる営業・学術組織体制が求められる。そのためには次の事項を実 施する。 1.一般用医薬品における医薬情報担当者(以下、OTC-MR)教育体制 2.製品説明会、勉強会の開催 3.学術体制 1) OTC-MR 支援機能の設置 2)生活者、販売者等から直接相談を受け付ける体制(お客様相談室の設置等)の構築 3)医師・薬剤師との連携 対象疾患によっては医師の関与が必要となる場合もあるため、例えばアドバイザ リードクターによる学術支援やその勉強会での講演に組み入れることも考慮され る。今後は製販業者が医師、薬剤師との連携や支援をフォローすることも期待さ れる。 4-6)薬局・生活者からの照会へ迅速かつ正確に対応できる体制 新スイッチ OTC 医薬品の販売においては、薬剤師を主体とする医療関係者、行政及び 製販業者といったヘルスケア情報の提供者が、製販業者より提供される適正使用情報 を共有し、お互い連携しながら生活者に対して迅速かつ双方向の情報対応を実現する ことが望まれる。このような重層的な情報提供体制の確立により、生活者が要望する 新スイッチ OTC 医薬品の適正使用が確保され、セルフメディケーションの進展が実現 される。 以下、各種情報提供者の対応について記載する (製販業者) 1)生活者向対応 (1)ツール ①電話(365 日・フリーダイヤル対応の場合もある) ②FAX (2)内容 ①添付文書記載情報の一部(使用者向説明書の内容を含む) ②製剤の性状 ③容量 ④希望小売価格 ⑤日常生活上の注意点 ⑥疾患・症状 に関する情報 21 ⑦食品・他の医薬品との飲み合わせ ⑧有害事象 ⑨緊急時・中毒時の対応(営 業時間外の緊急時は中毒センターの番号を案内している場合もある) ⑩取扱 店 2)薬剤師(医療従事者)向対応 (1)ツール ①OTC-MR ②電話(365 日・フリーダイヤル対応の場合もある) ③FAX *薬剤師向と生活者向で問い合わせ電話・FAX 番号を分ける場合もある (2)内容 ①生活者向の内容とその解説 ②薬剤師向説明書とその解説 ③有効性・安全性及び薬物動態等に係るデータ・文献の対応と解説 ④製品サイズ・重量、JAN コード (行政・業界団体) 1)生活者向 ①PMDA「おくすり相談・医療機器相談窓口」(電話) ②各都道府県の薬剤師会又は薬務課等による相談窓口(電話等) ③日本中毒情報センター 24 時間・365 日対応(過量、誤飲、誤用のみ) 4-7)HP 等により継続的・日常的に情報提供できる体制 近年広く浸透してきた HP(インターネットのホームページ等)は、情報量や情報の更 新性に優れており、一般用医薬品の適正使用情報の継続的・日常的な共有に有効なツ ールとなっている。 (製販業者が提供している web サイト) 1)生活者向情報 (1)ツール ①PC 用(一部のモバイル通信機器を含む) ②携帯電話専用 (2)内容 ①添付文書記載情報の一部(PC 用に添付文書のファイルも掲載する場合が多い) ②使用者向医薬品ガイド ③製品画像 ④性状(製剤の画像) ⑤容量 ⑥希望小売価格(税込) ⑦FAQ ⑧日常生活上の注意点 ⑨疾患・症状に関する情報 ⑩セルフチェックシート ⑪製品又は取扱店に関する問い合わせ(E メールで回答) 2)薬剤師向情報 (1)ツール ①PC 用(一部のモバイル通信機器を含む) 22 *閲覧者が薬剤師であることを確認するゲートを設けている場合もある (2)内容 ①生活者向情報の内容とその解説 ②薬剤師向説明書とその解説 ③有効性・安全性及び薬物動態等に係るデータと解説 ④製品サイズ・重量、JAN コード ⑤薬剤師向研修資料 (行政、業界団体、流通との連携) 1)連携する HP 等 (1)医薬品医療機器総合機構(PMDA)の HP (2)日本薬剤師会の HP (3)JSM-DB(プラネット) D.考察 「自分の健康は自分で守る」という国民のセルフケア意識の高まりに対して、今後求め られるスイッチ OTC 医薬品と一般用検査薬について検討した。 新たなスイッチ OTC 医薬品候補成分の選定方法については、平成 14 年厚生労働省「一 般用医薬品承認審査合理化等検討会」において示されたスイッチ成分の要件を基本に、日 本薬学会、 日本 OTC 医薬品協会、 日本薬剤師会などの各組織の選定方法を参考に検討した。 その結果、一般用医薬品承認審査合理化等検討会の要件を基礎として、新たな用途(QOL の向上や生活習慣病の予防等)を目的とする候補成分について、新しい OTC 医薬品販売制 度下での専門家の関与も考慮した、より具体的な選定要件、選定方法を提案できたと考え る。 また、一般用検査薬に関しては、セルフチェックやセルフケア領域での一般用検査薬に 求められる機能・測定項目を明らかにできた。一般用検査薬が真に社会貢献できるように なるためには、製販業者はもちろんのこと、販売者である薬剤師等の関与によってその適 正使用が確保されることが不可欠である。また、生活者が一般用検査薬を活用し、自らの 判断や薬剤師等への相談を行い、医療機関の受診や生活習慣の改善、一般用医薬品の使用 を適正に行うことができる環境が整うことにより、疾病への早期対応、発症の予防などに 貢献できると考えられる。なお、一般用検査薬の普及に際しては、検査に必要な機器とど のように連動させるかについても考えておく必要がある。 新スイッチ OTC 医薬品には、従来の急性の軽度な疾病に伴う症状の改善や健康の維持増 進などを目的としたものに加えて、生活習慣病等の疾病に伴う症状発現の予防、生活の質 の改善・向上等の分野についても国民の選択肢を拡大するものが出てくる可能性がある。 これを踏まえて、販売者である薬剤師等にはこれまでにも増して重要な役割と重い責任が ある。今回、薬剤師の役割について、①新スイッチ OTC 医薬品に関する啓発、②新スイッ 23 チ OTC 医薬品の販売とモニタリングへの薬剤師の関与(介入) 、③生活者による自己検査キ ットの活用と適正受診の確保および新スイッチ OTC 医薬品の活用に関する適切な支援を提 案した。これらを適切に遂行するために、薬剤師はこれまで以上の研鑽を積み、実践につ なげなければならない。薬学教育 6 年制においても OTC 医薬品に関する十分な教育がおこ なわれることが求められる。 製販業者の役割については、製品の要件、情報の要件、安全管理・調査の要件、組織体 制の要件について検討した。とくに、新スイッチ OTC 医薬品は対象領域の新規性が高いこ とから、製販業者は、承認申請等の開発業務に加えて、開発段階から製造販売後の適正使 用や安全性確保を念頭においた情報提供の仕組みや各種情報提供ツールの作成、副作用特 別調査や適正使用調査(仮称)等の実施に関する計画を統合的に立案し実行しなければなら ないとした。適正使用調査は販売および使用の実態が適正であるかを確認・検証するため に実施するもので、その結果は表示内容や説明資材の改善にも利用可能であると考える。 情報提供ツールについては、薬剤師向説明書で不足していた情報の充実、使用者向医薬品 ガイドの作成、登録カードの提供、などを新たに提案した。また、発売前には日本薬剤師 会等と協力体制をつくり、薬剤師等に対して、販売に関する手順を含め、適正な販売・情 報提供のための研修会等を実施することも求めた。将来的には薬剤師の研修認定も視野に 入れる。こうした情報の充実には、OTC-MR の充実、お客様相談窓口の設置および強化、医 師・薬剤師等との連携なども併せて推進する必要があると考える。 新しい領域へのスイッチ OTC 医薬品の実現には、セルフチェックなどを活用した適切な 受診勧奨や生活習慣の改善を前提に新スイッチ OTC 医薬品の適正使用が行われることを保 証する仕組みが重要である。製造販売業者、薬剤師等の販売者、使用者である生活者が、 それぞれに自らの役割を認識し実践することが求められる。 E.結論 本研究では、 新しいスイッチ OTC 医薬品候補成分の選定要件および選定方法を提案した。 また、セルフチェックやセルフケアに必要な一般用検査薬に求められる機能・項目を明ら かにし、一般用検査薬に関わる製販業者、薬剤師等、行政の役割についても明確化した。 新スイッチ OTC 医薬品の販売を想定した薬剤師の役割としては、①新スイッチ OTC 医薬品 に関する啓発、②新スイッチ OTC 医薬品の販売とモニタリングへの薬剤師の関与(介入) 、 ③生活者による自己検査キットの活用と適正受診の確保および新スイッチ OTC 医薬品の活 用に関する適切な支援を提案した。一方、製販業者には、承認申請等の開発業務に加えて、 開発段階から製造販売後の適正使用や安全性確保を念頭においた情報提供の仕組みや各種 情報提供ツールの作成、副作用特別調査や適正使用調査(仮称)等の実施に関する計画を統 合的に立案し実行することが求められる。 新しい領域へのスイッチ OTC 医薬品の実現には、製販業者、薬剤師等の販売者、使用者 である生活者が、それぞれに自らの役割を認識し実践することが不可欠である。 24 資料1 検討 1. スイッチ OTC 医薬品候補成分の選定要件と選定方法 これまで、一般用医薬品の役割は主に承認前例のある薬効群であって、軽度な疾病に伴 う症状の改善や健康の維持・増進及び保健衛生であった。しかしながら、平成 14 年 11 月 「一般用医薬品承認審査合理化等検討会-中間報告書-(以下、中間報告書)」にて、従来 の分野に加え、生活習慣病等の疾病に伴う症状発現の予防、生活の質の改善・向上等の分 野についても積極的に検討を進め、国民の選択肢を拡大する旨報告されて以降、これまで 一般用医薬品として承認されなかった領域で新たな製品が承認・上市されている*。一方 中間報告書で提言されたものの未だ承認されていない領域・製品も多くある**。 *生活の質の改善・向上(発毛、禁煙補助、不眠、軽い尿もれ)、軽度な疾病に伴う症状 の改善[膣カンジダ(膣のかゆみ、おりもの)の改善、口唇ヘルペスの改善] **生活習慣病等の疾病に伴う症状発現の予防(①検査で軽度の血清高コレステロール、 高血圧、高血糖が発現され、そのままにしておくと、将来高コレステロール血症、高血圧 症、糖尿病等の生活習慣病の発症が予測される場合の使用、②花粉症・ハウスダストなど によるアレルギー症状発現の予防)、健康状態の自己検査(浸襲がない又は少ない測定項目) 等、軽度な疾病に伴う症状の改善(創傷面の化膿の防止・改善) また、厚生労働省は平成 19 年 3 月スイッチ OTC 医薬品の更なる推進を目指し「医療用医 薬品の有効成分の一般用医薬品への転用について(いわゆるスイッチスキーム)」を、更に 平成 19 年 8 月「新医薬品産業ビジョン」を公表し、一般用医薬品市場の育成において「医 療用医薬品からの転用によるスイッチ OTC 医薬品や新規効能を持つ一般用医薬品の開発が 進むことにより、従来の一般用医薬品の効能効果を越え、国民が求める健康等新たな志向 (例えばメタボリックシンドロームの予防、スキンケア効果)などに応えることができる。」 ことを提言した。同省は平成 19 年度より日本薬学会に委託してスイッチ OTC 医薬品候補成 分選定事業を行っているが、研究代表者は当初よりこの事業に関与し、選定を行ってきた ところであり、これまでの選定方針や医学関係学会からの問題点の指摘等を踏まえ、昨年 6 月から施行された改正薬事法に基づく新販売制度の特色も生かした、より具体的で、こう した環境の変化をも反映した選定要件の策定が必要である。 本研究班では、これまで厚生労働省一般用医薬品承認審査合理化等検討会、日本薬学会、 日本 OTC 医薬品協会、日本薬剤師会などにおいてスイッチ OTC 医薬品候補成分が選定され る際に用いられてきた選定要件及び選定方法を調査し、これらをもとに見直し等を行い、 新たにスイッチ医薬品を選定する際の選定要件および選定方法について以下のように考え た。 (1)選定の基本コンセプト 欧米での現状と動向も踏まえて、今後、日本が必要とする一般用医薬品として、現在使 用されている医療用医薬品の成分の中から、一般用医薬品への転用が望まれるものを選定 25 する。また、転用に当たって、生活者の安全確保のため医薬の専門家がどのように関与す る必要があるかについても併せて考慮する必要がある。また、将来を視野に入れて下記の 2 点についても考慮しながら選定することも考えられる。 ①生活者の自覚症状を基本とした急性症状のみが対象となっていたこれまでの OTC 医薬 品の範囲を広げ、積極的に新たな効能も視野にいれる。その際、生活者ニーズのみを根拠 とせず、薬学的、社会的な見地から必要と考えられる分野を考慮する。 ②現在いわゆる健康志向食品が事実上カバーしている「疾病の予防」分野にも適用でき る成分や、慢性疾患でも境界領域か軽度で発症前までを対象として使用できる成分も考慮 する。 なお、選定のための基本的要件は、厚生労働省一般用医薬品承認審査合理化等検討会で 提案されたスイッチ成分の選択の要件を一部改変(相互作用に関する記述は第 2 項で代表 されることから削除)したものを使用する(表 1) 。 (2)選定方法 ステップ1:全般的な選定方法の確認 ステップ2:スイッチOTC医薬品候補成分の対象症状および疾患の選定 ステップ3:スイッチOTC医薬品候補成分の評価のためのワークシートの作成 ステップ4:症状および疾患ごとのスイッチOTC医薬品候補成分の評価 ステップ5:スイッチOTC医薬品候補成分としての適切性の判定 ステップ1で総合的な討論による意見交換を行い、その方針に従って、ステップ2にお いてスイッチ OTC 医薬品候補成分の対象症状および疾患について意見を集約する。ステッ プ3では、ステップ2で整理をした症状および疾患に該当する医療用医薬品をリストアッ プし、 「疾患名、薬効分類、一般名、剤形」などを整理する。ステップ4では、ステップ2 で選定した症状または疾患に属する医療用医薬品毎にワークシート(表 2)を記入し完成す る。ワークシートは、①安全性、②医療用医薬品としての実績、③自己判断の可能性、④ 販売時の環境の4つの領域から成る。その結果を用いて、ステップ5では表 3 の判定基準 に基づいて、医療的・社会的必要性を考慮しつつ、スイッチ OTC 医薬品候補成分としての 適否、および転用にあたっての医師および薬剤師関与の程度について総合的に勘案し、最 終判定を行う。その際、転用の可能性のある候補成分については、①事前の医師による診 断および指導の必要性、②販売時の薬剤師の介入の必要性、③販売時の情報提供手順書・ 研修の必要性についても考慮する。 なお、選定結果は、社会の要請、経済的観点、科学的水準の変化、スイッチ OTC 医薬品 の販売環境の変化等により、見直されることも考えられる。 26 1 2 3 4 5 表1. スイッチ成分の選択の要件 医療用としての使用実績があり、再審査又は再評価が終了してお り、副作用の発生状況、海外での使用状況、再審査又は再評価結 果等からみて一般用医薬品として適切であること 医師の指導監督なしで使用しても、薬剤師の情報提供・相談応需に より重篤な状態に陥ることを回避できるもの(初回医師の診断を受け た後の再使用を含む) 習慣性、依存性、耽溺性がないこと 麻薬、覚せい剤、覚せい剤原料、毒薬でないこと 国民の選択の幅の拡大が期待できるもの 表 3 スイッチ OTC 医薬品候補成分の判定基準 判定の分類 A判定 B判定 C判定 X判定 基準 一般用医薬品として医療用から転用することが妥当な医薬品成分 適正使用確保のため専門家(医師または薬剤師)による何らかの特別な関 与が必要とされる成分 リスクの大きさや使用上の煩雑さなどから一般用医薬品としてはふさわし くない医薬品成分 評価に足りうる十分な根拠資料が得られなかった成分 27 表2 スイッチ OTC 医薬品候補成分のワークシート 項 目 安全性用量域の幅広さは十分か 安 全 性 医 療 用 医 実薬 績品 と し て の 自 己 判 断 の 可 能 性 販 売 時 の 環 境 自己判断で頻回使用による危険 性は? 過量服用による危険性は? 内 容 毒性試験データ(最小致死量、無影響量)と臨床用量の比を出 す 自己判断で頻回使用する可能性のあるもののみ評価 添付文書の過量投与の項 重篤な有害作用は? 添付文書の重大な副作用の項、あれば頻度も 重篤な薬物相互作用を起こす可 能性のある薬剤や食品等はない か 依存性の有無 添付文書の併用禁忌と併用注意 投与禁忌 適応症と鑑別が難しい禁忌があるか 不適切な使用あるいは治療開始 の遅れによる有害性の検討 医療用としての使用における安 全性プロフィールの評価 海外での使用実績の検討 用法用量、効能効果の不適切な場合と治療開始の遅れによって 有害性があるか 再審査または再評価が終了しているか、終了年月は 医師の介入なしに安全性と有効 性が確保できるか 効能に関して正確な自己判定が できるか 治癒、軽減の目安は明確か 服用(使用)方法は簡便か 習慣性医薬品、向精神薬 海外での一般用医薬品としての承認年ならびに販売されてい る場合には、有効成分量や効能効果、用法用量、包装単位など。 医師による診察と処方が絶対必要なものかどうか 自己検査キット等による自己検査を含めて自己判定が可能か 服薬中止時期が明確に判断可能か 有害作用は容易に確認可能か 複雑な服用(使用)方法により安全性、有効性が損なわれない か 自覚症状によるモニタリングが可能か 特別な介入の要否 事前の医師による診断の要否、販売時の薬剤師の介入の要否 販売者の研修 販売時の情報提供手順書および販売者の事前の研修の要否 自己検査の必要性 必要な場合は検査薬を具体的に例示 代理販売の可否 本人以外の人に販売することが可能かどうか。否の場合はその 理由。 新たな市販後モニタリングシス テムの開発の必要性 薬歴作成の要否 従来のスイッチ OTC 医薬品で行われているものと異なる場合 包装単位・販売個数制限の要否 要の場合は具体的に 関係者との事前協議 地域薬剤師会、医師会、その他医療サービス関係機関との連携。 医師の診断内容の紹介状などの必要性 服薬(使用)経過の記録と活用が必ず必要か 28 資料 2 検討 2:一般用検査薬のあり方とセルフメディケーション 1.一般用検査薬の現状 1-1. 日本国内における一般用検査薬 ● 国内における一般用検査薬は、平成元年に専門家による「セルフケア領域における検査薬に関 する検討会」が設置され、その報告書に基づき、平成 2 年に尿糖及び尿蛋白が、また、平成 3 年に妊娠検査薬の一般用検査薬化が実現した。 ● 「セルフケア領域における検査薬に関する検討会」の報告書には「セルフケア領域への導入に 際しての基本的な考え方」が示されており、 「医療との関連においてその役割に配慮すること」 とされている。 ● 平成 3 年に妊娠検査薬と同時期に検討された便潜血検査薬は、検討会の報告書において「セル フケア領域への導入を図っていくことが適当な分野」とされ、条件が整えば一般用検査薬とす ることは差し支えないとされた。しかしながら、当時の便潜血検査薬は、操作性、判定の容易 さ等に課題があり、速やかな一般用検査薬化は適当ではないとされた。現在は、免疫法を原理 とする製品において前述の課題は解決されており、一般用検査薬化すべきと考えられる。 1-2. 海外における一般用検査薬 ● 米国のFDA(Food and Drug Administration)では、体外診断用医薬品のうち疾患や体調を自宅で 検査することができる検査項目をHome Use Testに分類し、費用、迅速性等で有用であるとしてお り、以下の例が示されている。 (例) ○ 無症状な時は、その後の合併症が広がるのを抑え、早期治療を受けることができるように健 康状態を診断することができる(例えばコレステロールの検査、肝炎検査)。 ○ すぐに処置できるよう兆候のない時でも特有の症状を検出できる(例えば妊娠検査) ○ 治療の頻繁な変更が可能となるよう症状を監視(観察)できる (例えば糖尿病の血糖値を監視 するグルコーステスト) ● 更に、FDA は Over the Counter (OTC)として販売される IVD(In Vitro Diagnostics)製品群 を公開している(別紙 1 FDA の OTC 検査薬リスト) 。 ● 英国の MHRA(Medicines and Healthcare products Regulatory Agency)では Self-Testing IVD として CE マークを取得することにより、生活者への販売が可能となっている。欧州における一 般用検査薬市場では、血糖値検査薬(Blood glucose tests)の市場規模が大きく、排卵日検査 薬(Pregnancy tests) 、妊娠検査薬(Ovulation tests)等も販売されている。 29 2.これからの一般用検査薬に求められるもの 平成 3 年の妊娠検査薬の一般用検査薬化から約 20 年が経過した現在、 体外診断用医薬品は技術の 進歩に伴い、新たな疾患マーカー群の開発や遺伝子検査の普及などから、高い精度と新たな臨床的 意義を有する検査が可能となった。また、必要検体量の尐ない検査機器や人体侵襲性の低い検体採 取方法も開発された。更に、検査機器の小型化、簡便化も図られており、生活者が自ら安全かつ適 正に使用できる可能性のある検査項目がある。 このような近年の臨床検査関連技術の進歩を踏まえ、生活者が安全かつ適正に使用できる一般用 検査薬の範囲拡大は可能であり、それによって生活者の健康維持・増進に大きく貢献できると考え られる。すなわち、一般用検査薬により、生活者が自ら健康状態を把握する機会を増やし、健康管 理、疾病の早期発見に寄与することが期待され、医療機関への早期受診やセルフメディケーション へとつなげることにより、疾病の早期治療に貢献することができると考えられる(図1) 図 1.これからの一般用検査薬とセルフメディケーション 30 3.生活者の健康に寄与できる新たな検査項目と仕組み ● 生活者の健康への意識の高まりとニーズを踏まえ、自らの健康状態を知ることができる検査項 目の拡充が求められる。なお、具体的な検査項目は生活者のニーズも調査し、その結果を踏ま えて検討する必要がある。 新たな一般用検査薬活用の事例 ○ 生活習慣病に関する検査 自覚症状を伴わない生活習慣病の早期発見の他に、生活習慣の改善や医薬品による効果の 確認が可能となる。 ○ 生活の質の改善に寄与する検査薬 一例として、晩婚化と出産年齢の高齢化などから、妊娠・出産に適した期間も短くなって きており、排卵日検査薬は妊娠の機会を高め、尐子化に歯止めをかける一助になる。 ○ 疾病の早期発見により早期治療につなげることができる検査薬 便潜血検査薬などにより、消化器系の出血の確認など、疾病の早期発見、早期治療に大き く寄与することが可能となる。 ○ 感染症を早期発見する検査薬 インフルエンザ検査薬を一般用検査薬化することにより、家庭で簡便に検査することがで き、陽性となった場合にはインフルエンザの疑いがあると判断され、医療機関への早期受 診の促進や感染拡大の抑制につなげることができる。 ○ 薬剤の影響(副作用)を知るための検査薬 将来的に侵襲の尐ない検体採取が可能となれば、無機塩類や血球等、血中の特定成分を測 定することにより、一般用医薬品の副作用等の確認が可能となる。 ● 生活者による家庭での一般用検査薬の利用に加え、経済性も鑑み、併用する医療機器を薬局店 頭等に設置し、一般用検査薬を購入し、薬剤師等の指導の下、生活者自ら検体の採取を店頭で 行い、その場で検査をするといった仕組みも考えられる。 31 4.一般用検査薬の範囲拡大に関する要件 一般用検査薬の範囲拡大に関する要件を、①製品及び許認可の要件、②情報提供・適正使用確保 のための要件の 2 つに大別して示した。これらの要件を「一般用検査薬のセルフメディケーション 領域への導入に際しての基本的考え方」としてまとめ、平成 2 年 6 月付「セルフケア領域における 検査薬に関する検討会第一次報告書」に示された「セルフケア領域への導入に際しての基本的考え 方」と比較した。 (別紙2) 4-1.製品及び許認可の要件 ● 一般用検査薬の範囲拡大にあたっては、生活者が安全かつ適正に使用できる製品であることが 重要である。また、生活習慣病関連検査薬を一般用検査薬とする場合、穿刺血を検体として用 いる等、医療機器等の使用が必要な検査項目が考えられる。したがって、一般用検査薬と医療 機器の両面から現在の法規制(許認可等)を検討する必要がある。 (製造販売業者の役割) ○ 製品の要件について ・ 検査内容について臨床的意義が確立されており、生活者が検査結果から、自らの健康 状態を理解することが容易であること。 ・ 検体の採取及び検査の手順、検査結果の判定が簡便であり、検体採取の際の侵襲が尐 ないこと。特に、血液を検体として用いる場合は穿刺血等を用い、穿刺針は再使用が できない等の事故防止が考慮されていること。 ・ 併用する医療機器等は、一定の性能が担保されている必要があり、生活者が簡便に操 作でき、構成作業等も容易であること。 ・ 室温での保管ができるなど、生活者が保存すると想定される状況において安定性が担 保できていること。 (行政の役割) ○ 許認可の要件について ・ 従来の一般用検査薬と同様に、検査結果にバラツキを生じないよう、判定基準を統一 するためにガイドラインを作成する必要がある。 ・ 「一般用検査薬」及び「家庭用検査機器」としての新たな枠組みを作る必要がある。 32 4-2.情報提供・適正使用確保のための要件 (製造販売業者) ○ 生活者への情報提供 ・ 一般用検査薬について、生活者の理解が容易となるよう生活者向け添付文書記載要領 (ガイドライン)を作成する必要がある。 <記載項目> ①「一般用検査薬」である旨の記載 ②改訂年月 ③添付文書の必読及び保存に関する事項 ④一般用医薬品の区分表示 ⑤販売名(一般的名称)及び使用目的 ⑥製品の特徴 ⑦使用上の注意 ⑧使用目的 ⑨使用方法 ⑩キットの内容及び成分・分量 ⑪保管及び取扱い上の注意 ⑫保管方法・有効期間 ⑬包装単位 ⑭消費者相談窓口 ⑮製造販売業者の氏名又は名称及び住所 ・ 併用する医療機器についても、生活者の理解が容易となるよう生活者向け添付文書記 載要領(ガイドライン)を作成する必要がある。 ・ 併用する医療機器の操作方法、検体の採取方法、測定結果・判定基準についての取扱 説明書を作成し、適正使用を確保する必要がある。併せて、生活者が検査結果を経日 的に記載出来る手帳の準備又は測定機器内に記録が保存出来る装置などを検討する。 ・ お客様相談室等を設置し、生活者と迅速かつ直接コミュニケーションをとれる体制構 築が必要である。 ○ 薬剤師等販売者への情報提供 ・ 一般用検査薬及び併用する医療機器の使用方法、検体の採取方法、測定結果、判定基 準及び測定結果の解釈について薬剤師等販売者向け資料を作成する必要がある。 ・ 薬剤師等販売者向け説明会・研修会の開催などの積極的な情報提供を行い、適正使用 に向けた、協力体制をとることが必要である。 ・ お客様相談室や担当窓口を通じて、薬剤師等販売者と迅速かつ直接、コミュニケーシ ョンをとれる体制を構築する必要がある。 ○ 適正使用の確保 ・ 一般用検査薬と医療機器を併用する場合、誤使用が発生しないよう適正使用確保に努 33 めること。また、誤った組合せにより不適切な検査結果が提供されないよう、リスク を排除する必要がある。 ○ 広告の要件 ・ 広告適正基準に基づき、一般用検査薬に適した広告の検討を行う必要がある。 ○ その他 ・ 血液検体や穿刺針等、感染の恐れのある廃棄物について、適切な処理ができるシステ ム構築とツールを提供する必要がある。例えば、一度、採血した後の穿刺針は再使用 ができない等の事故防止が考慮されている場合は、家庭用廃棄物として廃棄が可能と できるか検討する。 (薬剤師等の役割) ○ 生活者への情報提供 ・ 一般用検査薬の使用方法、検体採取方法あるいは併用する医療機器の使用方法を説明 する。 ・ 検査結果に対して、生活者自身が適切に判断できるよう、受診勧奨あるいは生活習慣 の指導、セルフメディケーションに関するアドバイスを行う。 ・ 血液検体や穿刺針等、感染の恐れのある廃棄物の廃棄について、必要な情報を一般使 用者に提供する。 ○ 製造販売業者への情報提供 ・ 生活者からの苦情等の情報を製造販売業者にフィードバックするとともに、製品の改 良や適正使用の確保に向けた協力体制をとる必要がある。 (行政の役割) ○ 適正使用の確保 ・ 一般用検査薬と併用される可能性のある医療機器のうち、高度管理医療機器や特定保 守管理医療機器にあっては、高度医療機器販売業許可の取得が必要であるなど販売に 制限がある。これら併用される医療機器について、検査薬の一般用検査薬化に合わせ、 薬局、薬店で検査薬と同時に購入ができるような環境を整備する必要がある。 ・ 一般用検査薬と併用される医療機器を誤った組み合わせで使用することを避けるた めに、一般用検査薬と併用される医療機器(例:専用測定器、再使用不可の穿刺針等) のセット販売を可能とする必要がある。 34 5.セルフメディケーションと一般用検査薬 ● 社団法人日本臨床検査薬協会と日本 OTC 医薬品協会が共同で選定した一般用検査薬化候補項目 とスイッチ OTC 医薬品候補成分の関係をまとめた(別紙3 検査薬の一般用検査薬化候補項目 とスイッチ OTC 医薬品候補の対応) 。 例えば、一般用検査薬で血糖や血清脂質等の検査が可能になれば、生活者はより健康状態を 正しく把握することが可能となり、一般用医薬品の生活習慣病用薬等を用いたセルフメディケ ーションも可能となる。 ● セルフメディケーションへの自己血糖測定の利用 ○ 例えば代表的な生活習慣病である糖尿病領域における検査項目として、血糖、尿糖、ヘモ グロビン A1c、などの中で、血糖は簡易迅速に自己測定可能な機器・試薬が販売されてお り、インスリン自己注射療法との組み合わせなどにより、医療現場では急速に普及し、有 用性が高く評価されている。この自己血糖測定を一般用検査薬化することにより、薬剤師 等の補助の下、糖尿病の疑いがある生活者は自ら血糖を測定することが可能となり、生活 改善、受診、将来的にはセルフメディケーションが可能となる。 図2.糖尿病領域における自己血糖測定(SMBG)の役割(案) SMBG=selfmonitoring of blood glucose 35 6.一般用医薬品と一般用検査薬との有機的な組み合わせが実現する将来像 一般用医薬品と一般用検査薬を有機的に組み合せることによって、以下が実現できると考える。 ● 生活者が一般用検査薬を活用し、自らの判断あるいは薬剤師等による受診勧奨によって、早期 の医療機関の受診または一般用医薬品の使用が適正に行うことができる環境が整っている。 ● 生活習慣病等においても、一般用検査薬により健康状態を正しく把握することが可能となり、 生活習慣の改善努力を継続するための動機付けとしても活用されている。 ● 一般用検査薬は低侵襲化、ローコスト化、小型携帯化、簡便迅速化が進み、生活者の負担が軽 減されている。またこれらの進歩により、一般用検査薬が拡充されている。 ● 一般用医薬品の服用時に、効果や副作用を確認し、服薬の終了および中止のタイミングを自己 判断するために一般用検査薬が活用され、一般用医薬品の適正使用の点でも検査薬は欠かせな いものとなっている。 ● 疾病の早期発見と悪化の防止を可能とし、生活者の健康寿命を延ばし、医療費削減に寄与して いる。 ● 一般用検査薬が健康の自己管理手段として国民に認知され、セルフメディケーションにおける 一般用医薬品の役割を拡大し、更には薬局等と医療機関の連携の手段としても活用されること で、国民の健康維持増進に大きく寄与している。 36 FDAのOTC検査薬リスト 生 活 習 慣 病 関 連 検 査 妊 娠 ・ 排 卵 関 連 検 査 尿 ・ 糞 便 検 査 そ の 他 薬 物 関 連 検 査 別紙1 (FDA OTC-IVDデータベースより) 検体 試験項目 血液 尿・糞便 その他 Cholesterol コレステロール ○ Creatinine クレアチニン ○ Glucose グルコース ○ Glucose Monitoring Devices (FDA Cleared/Home Use) 血糖測定装置(FDA許可/家庭用) ○ Glucose, Fluid (Approved By Fda For Prescription H) グルコース、液(FDA承認処方H) ○ Glucose, Urine グルコース、尿 ○ Glycated Hemoglobin, Total 糖化ヘモグロビン、総 ○ Glycosylated Hemoglobin (Hgb A1c) グリコヘモグロビン(ヘモグロビンA1C) ○ HDL Cholesterol HDLコレステロール ○ Hemoglobin A1 ヘモグロビンA1 ○ Ketone, Blood ケトン、血液 ○ Ketone, Urine ケトン、尿 ○ LDL Cholesterol LDLコレステロール ○ Microalbumin 微量アルブミン ○ Triglyceride トリグリセリド ○ Uric Acid 尿酸 ○ Urine Qualitative Dipstick Glucose 糖 尿定性試験紙 ○ Urine Qualitative Dipstick Ketone ケトン 尿定性試験紙 ○ Urine Qualitative Dipstick Protein 蛋白 尿定性試験紙 ○ Whole Blood Qualitative Dipstick Glucose グルコース 全血定性試験紙 ○ Estrone-3 Glucuronide エストロン-3-グルクロニド ○ Fern Test, Saliva ファーン(シダ)テスト、唾液 ○ Follicle Stimulating Hormone (FSH) 卵胞刺激ホルモン(FSH) ○ hCG, Serum, Qualitative ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン、血清、定量 ○ ○ hCG, Urine ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン、尿 ○ Luteinizing Hormone (LH) 黄体形成ホルモン(LH) ○ Ovulation Test (LH) By Visual Color Comparison 視覚的な色比較による排卵検査(LH) ○ Semen 精液 ○ Urine hCG By Visual Color Comparison Tests 視覚的な色比較による尿hCG検査 ○ Vaginal pH 膣pH ○ Bilirubin, Urine ビリルビン、尿 ○ chloride 塩化物 ○ Fecal Occult Blood 便潜血 ○ Leukocyte Esterase, Urinary 白血球エステラーゼ、尿 ○ Nitrite, Urine 亜硝酸塩、尿 ○ pH, Urine pH、尿 ○ Protein, Total (Urine) 蛋白、総(尿) ○ Urinary Protein, Qualitative 尿蛋白、定性 ○ Urine Dipstick Or Tablet Analytes, Nonautomated 尿検査紙 or タブレット検体、非自動化 ○ Urine Qualitative Dipstick Bilirubin ビリルビン 尿定性試験紙 ○ Urine Qualitative Dipstick Blood 血液 尿定性試験紙 ○ Urine Qualitative Dipstick Leukocytes 白血球 尿定性試験紙 ○ Urine Qualitative Dipstick Nitrite 亜硝酸塩 尿定性試験紙 ○ Urine Qualitative Dipstick pH pH 尿定性試験紙 ○ Urine Qualitative Dipstick Specific Gravity 比重 尿定性試験紙 ○ Urine Qualitative Dipstick Urobilinogen ウロビリノーゲン 尿定性試験紙 ○ Urobilinogen, Urine ウロビリノーゲン、尿 ○ Allergen Specific IgE And/Or Mixed Allergen Panel アレルゲン特異的IgE and/or 混合アレルゲンパネル ○ Fructosamine フルクトサミン ○ Hemoglobin ヘモグロビン ○ Lactic Acid (Lactate) 乳酸(乳酸塩) ○ pH pH ○ Alcohol, Breath アルコール、呼気 ○ Amphetamines アンフェタミン ○ Barbiturates バルビツール酸系催眠薬 ○ Benzodiazepines ベンゾジアゼピン系薬 ○ Buprenorphine ブプレノルフィン ○ Cannabinoids (THC) カンナビノイド(テトラヒドロカンナビノール) ○ Cocaine Metabolites コカイン代謝物 ○ EDDP (Methadone Metabolite) EDDP(メサドン代謝物) ○ Methadone メサドン ○ Methamphetamine/Amphetamine 塩酸メタンフェタミン/アンフェタミン ○ Methamphetamines 塩酸メタンフェタミン ○ Methylenedioxymethamphetamine (MDMA) メチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA) ○ Morphine モルヒネ ○ Opiates アヘン ○ Oxycodone オキシコドン ○ Phencyclidine (PCP) フェンサイクリジン(PCP) ○ Tricyclic Antidepressants 三環系抗うつ薬 ○ 別紙2 セルフケア領域への導入に際しての基本的考え方 セルフメディケーション領域への導入に際しての基本的考え方 (セルフケア領域における検査薬に関する検討会第一次報告書より) 項目 検体 導入に際しての一般原則 導入に際しての一般原則 ①検体から得られる検査結果の臨床的意義が確立されていること ①検体から得られる検査結果の臨床的意義が確立されていること ②検査に必要な量が容易に採取できるなど使用者の負担が尐ないこと ②検査に必要な量を採取する際、使用者への侵襲がないか、あっても負担が尐ないこと ③検査手順において特別な器具及び処理を必要としないこと ③検体採取器具を用いる場合は安全かつ簡便に使用でき、煩雑な操作および処理によらず検体を得られるこ と これらの条件から、尿、糞便が検体として適当である これらの条件から尿、糞便、鼻汁、唾液、涙液など侵襲性のない検体、あるいは穿刺血、咽頭拭い液、角結膜・ 口腔内・子宮頚管等擦過検体などの侵襲性が尐ない検体が適当である 測定項目 ①学術的な評価が確立しているもので、正しい判定ができるもの ①学術的な評価が確立しているもので、正しい判定ができるもの ②検査意義が分かり易く、健康状態の指標となるもの ②検査を行うことの意義が明確であり、検査によって健康状態やその他の生理状態を容易に把握できること ③情報の提供により結果に対する適切な対応ができるもの ③情報提供により、検査結果がその後の適切な措置(医師による診療、セルフメディケーションの選択、経過観 察等)へと結びつくものであること 方法 ①検査手順が簡便であること ①検査手順が簡便であること ②判定に際して特別な器具機械を用いず容易にできること ②判定に際して特別な機械器具を用いないか、あるいは使用者自身が簡便に操作できる機械器具を用いるこ とができる ③短時間に情報が得られるものであること ③短時間に情報が得られるものであること 検査に用いる測定機器(医療機器)については、一定の性能が担保される必要がある 性能 適切な性能(感度、正確性、精密性)を有し、特に感度について、製品間の差に よる混乱を生じないよう配慮することが必要である。定性ないしは半定量のも ので、判定は2段階又は3段階程度とし説明を統一することが適当と考えられ る 適切な性能(感度、正確性、精密性)を有し、特に感度について、製品間の差による混乱を生じないよう配慮 し、説明を統一することが適当と考えられる 定性、半定量、定量等に測定機器を用いる場合には、測定機器側の製品間の差による混乱も生じないよう配 慮することが適当と考えられる 使用者に提供 検査薬がもつ機能を使用者にわかり易く、且つ正確に伝えられるよう配慮す 一般用検査薬に要求される一般的事項の他、以下の点については可能な限り平易かつ正確な情報提供を心 されるべき情 る。添付文書などには、次のような工夫をすべきである。 掛ける必要がある 報 ① 検体採取などについて説明すること ①検査を行うことの意義。 ② 検査手順などについて平易な説明及び図解を多く取り入れること ②検査に用いる検体の種類と採取方法。 ③ 判定に対する解釈を加え、検査結果への妨害物質の影響を説明すること ③検体採取、採取器具の取扱い方法および残検体、使用済み器具の処理方法。 また使用者に検査結果の経時的変化がわかるように検査結果を記録すること ④操作手順 を勧めることがのぞましい。 ⑤測定結果の判定 ⑥誤判定の可能性 ⑦判定結果に対してとるべき措置 また、使用者に検査結果の経時変化がわかるように検査結果を記録することをすすめることが望ましい その他 使用の便宜及び品質確保の点から適切な小包装の供給が望まれる。 使用の便宜及び品質確保の点から適切な小包装の供給が望まれる 別紙3 検査薬の一般用検査薬化候補項目とスイッチOTC医薬品候補の対応 一般用検査薬候補 検査項目 一般的名称 日本薬学会 スイッチOTC医薬品の候補成分 対応薬効群 日本OTC医薬品協会 スイッチOTC医薬品の候補成分 ボグリボース アカルボース ボグリボース アカルボース コレスチミド ニコチン酸トコフェロール コレスチミド、ベザフィブラート、コレスチラミン、 プラバスタチンナトリウム、シンバスタチン、 アトルバスタチン、フルバスタチンナトリウム イコサペント酸エチル イコサペント酸エチル グリコヘモグロビンA1c 尿試験 ケトン体 自己検査用グルコースキット 血液検査用グルコースキット グリコヘモグロビンA1cキット ケトン体キット 糖尿病用剤 コレステロール(T-CHO) HDL-コレステロール(HDL-C) LDL-コレステロール(LDL-C) コレステロール HDL コレステロール LDL コレステロール 高脂血症用剤 トリグリセライド(TG) トリグリセライドキット 脂質異常症用剤 尿酸 痛風治療薬 アロプリノール ベンズブロマロン ノルフロキサシン、オフロキサシン、レボフロキサシン、トスフロキサシントシ ル酸塩、ロメフロキサシン塩酸塩、フレロキサシン グルコース(GLU) 尿試験 pH 尿酸キット pHキット 尿試験 亜硝酸塩 白血球 潜血 食塩 ビリルビン ウロビリノーゲン 比重 亜硝酸塩キット 白血球キット 潜血キット 食塩キット ビリルビン ウロビリノーゲン 比重キット 抗生物質剤 抗菌剤 - - - - - クラミジア抗原 淋菌抗原 ヘリコバクターピロリ抗原 クラミジア抗原キット 淋菌抗原キット ヘリコバクターピロリ抗原キット 抗生物質剤 A型インフルエンザウイルス抗原 B型インフルエンザウイルス抗原 インフルエンザウイルスキット 化学療法剤 (抗ウイルス剤) アレルゲン特異IgE 免疫グロブリンE単一試験・複数結果用の多種抗原キット 抗ヒスタミン薬、他 総IgE 免疫グロブリンEキット - アデノウイルス アデノウイルスキット - 黄体形成ホルモン(LH) 黄体形成ホルモンキット 自己検査用黄体形成ホルモンキット - 便潜血 便潜血キット ヘモグロビンキット - クレアチニン 尿素窒素 血液検査用クレアチニンキット 血液検査用尿素窒素キット - - GOT(AST) GPT(ALT) γ -グルタミントランスペプチダーゼ(γ -GTP) 乳酸脱水素酵素(LDH) ビリルビン(総ビリルビン) 総蛋白(TP) アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼキット アラニンアミノトランスフェラーゼキット 血液検査用γ -グルタミントランスペプチダーゼキット 乳酸脱水素酵素キット 血液検査用ビリルビンキット 血液検査用総蛋白キット - - - - - - インスリン インスリンキット - トランスフェリン トランスフェリンキット - エストロン-3-グルクロニド(E3G) 自己検査用エストロン-3-グルクロニドキット - アルブミン(微量アルブミンを含む) アルブミンキット - C反応性蛋白(CRP) 前立腺特異抗原(PSA) C反応性蛋白キット 前立腺特異抗原キット - - カルシウム マグネシウム 無機リン 鉄 血液検査用カルシウムキット 血液検査用マグネシウムキット 血液検査用リン/無機リンキット 鉄キット - - - - クレアチンキナーゼ(CPK,CK) 白血球 赤血球 クレアチンキナーゼキット 白血球数セット 赤血球数セット - - - トラニラスト、ペミロラストカリウム、エバスチン、ベポタスチンベシ アンレキサノクス、ペミロラストカリウム、トラニラスト、イブジラスト、アシタザ ル酸塩、オロパタジン塩酸塩、セチリジン塩酸塩、アンレキサノク ノラスト水和物、レボカバスチン塩酸塩、エメダスチンフマル酸塩、レピリナ ス スト、エピナスチン塩酸塩、エバスチン、プランルカスト水和物、セチリジン 塩酸、ベポタスチンベシル酸塩、オロパタジン塩酸塩 資料 3 検討 3:これからのスイッチ OTC 医薬品について実際に対応する薬剤師の役割 特にスイッチ OTC 医薬品の販売に関して薬剤師に求められる要件は以下のとおりである。 (1) スイッチ OTC 医薬品を含むセルフメディケーションによって対応可能な範囲や OTC 医薬品のリスク分類ごとの特徴の把握と生活者への説明および周知(啓発) セルフメディケーションで対応できる症状や状態と、それらに対応できる OTC 医薬 品の特徴と差異をわかりやすく生活者に説明する。 セルフメディケーションから除外すべき症状や状態を把握し、受診が必要な場合は その理由を説明し適切に医療機関を紹介する。 個々の生活者だけでなく、広く社会に対しセルフメディケーションならびにスイッ チ OTC 医薬品の特徴や有益性を周知(啓発)する。 (2)スイッチ OTC 医薬品の販売とモニタリングに薬剤師が関与(介入)することによ る臨床薬学的業務の提供 生活者の状況を評価した上で薬剤師トリアージ業務を行い、適切な選択肢(スイッ チ OTC 医薬品の選択助言・受診勧奨・養生法を含む生活指導)を生活者に提供する。 相談業務で得られた情報のうち既往症等に関わる重要な情報について、生活者の承 諾を得た上でかかりつけ医等の医療関係者に情報提供し、医師等の医療関係者と生 活者の架け橋となる。 製造販売業者が提供する臨床薬学的業務をサポートする、販売時の情報提供の手順 書、薬剤師向製品説明書、使用者向製品説明書、その他新しい情報ツール(登録カ ード等)などを有効に活用する。 生活者からの情報収集により禁忌症、有害な相互作用、副作用等による症状の重篤 化を防止する。 OTC 医薬品の薬理や薬物動態、臨床成績などを把握して、効果的な情報提供を行う。 OTC 医薬品としての使用経験の浅いスイッチ OTC 医薬品の販売後モニタリングにより、 使用後の重篤な副作用等の発生や拡大を防止し、かつ不適切な使用を改善する。 製造販売業者が行う原則 3 年間の製造販売後調査に協力し、適正販売及び使用の確 保に貢献する。 (3)生活者による自己検査キットの適正使用をサポートすることによる新たなスイッチ OTC 医薬品の活用と適正受診の確保 自己検査キットの使用方法を熟知し、適正な使用方法を助言する。 検査結果の判断に関する助言を生活者に行い、適切な受診勧奨を行ったり、関係す るスイッチ OTC 医薬品の適用や継続使用について助言を行ったりする。 37 <参考資料> OTC 医薬品の販売全般に関して薬剤師に求められる要件 スイッチ OTC 医薬品に限らず、すべての OTC 医薬品の販売に共通して薬剤師に求められる 役割に関する要件を法的なものとプロフェッショナルなものに大別して以下に示した。 (平 成 22 年 6 月日本薬剤師会発行の「一般用医薬品販売の手引き第1版」を参考に一部用語変 更) 【法的要件】 ① 分類ごとの陳列管理 ② リスクの程度に応じた生活者への情報提供 ③ 副作用等の報告 ④ 生活者からの相談応需 ⑤ 個人情報の守秘 ⑥ その他、法に定められた事項 【プロフェッショナルな要件】 ① 生涯学習により得られた適正な最新情報の活用 ② 不適切な購入の求めに対する販売自粛 ③ 生活者への適切な受診勧奨 ④ 夜間、休日における販売応需 ⑤ 非薬剤師スタッフへの適切な指導・監督 ⑥ リコール製品に関する速やかな対応 38 生活者の来局・来店 相談の受付 生活者からの情報収集と状況確認 状況の評価 薬剤師によるトリアージ業務 生活指導 (養生法を含む) 更なる情報収集 受診勧奨 OTC 医薬品や一般用検査薬の製品選択助言 選択した OTC 医薬品等についてリスクの程度に応じた情報提供 ならびに生活指導(養生法を含む) ・販売後モニタリングと事後対応 ・相談があった場合の情報提供 図1 OTC医薬品の標準的な販売手順(初回) 39 生活者の来局・来店 相談の受付 前回来局・来店以降の情報収集と状況確認 (登録カードなどの活用) 状況の評価 薬剤師によるトリアージ業務 継続使用の可否助言 更なる情報収集 生活指導 (養生法を含む) 受診勧奨 同じ製品の継続 または 他の OTC 医薬品や一般用検査薬の製品選択助言 選択した OTC 医薬品等についてリスクの程度に応じた情報提供 ならびに生活指導(養生法を含む) ・販売後モニタリングと事後対応 ・相談があった場合の情報提供 図2 OTC医薬品の標準的な販売手順(2回目以降) 40 ◆◆◆◆◆ 販売手順に即した薬剤師の役割 ◆◆◆◆◆ 日本薬剤師会作成「一般用医薬品販売の手引き第1版」を参考に、標準的な販売手順(図 1, 2)に沿った薬剤師の具体的な要件を以下に示した。 (1) 生活者からの相談の受付 「抱えている問題を解決するために支援する」という姿勢で臨む。 OTC医薬品の販売は、相談の結果であり目的ではない。 (2) 生活者からの情報収集と状況確認 生活者の適切な選択を支援するため、下記の基本的項目に従って状況確認を行う。 1. 「購入の動機」は何か。 2. 「使用する者」は誰か。 3. 「服用してはいけない人」、「してはいけないこと」に該当するか否か。 4. 「医師等による治療を受けている」か否か。 確認にあたっては、生活者の顔色や表情、話しぶり、臭いなど五感を使った観察も重視す る。 (3) 状況の評価 生活者から得られた情報を基に下記の状況を評価する。 得られた情報の中には、生活者 の自己検査キット利用により判明した検査結果も含む。 1. OTC 医薬品の使用が、生活者本人に適しているか否か。 2. 医療機関への受診を勧める必要があるか否か。 3. 生活指導(養生法も含む)で対応可能か。 その際、病名を告げるなど、医師の診断行為と混同しないよう注意が求められる。 (4) 薬剤師によるトリアージ業務 状況の評価の結果、①OTC医薬品の使用(非販売も含む)、②医療機関への受診の勧め(受 診勧奨)、③生活指導(養生法を含む)のいずれかに振り分けて生活者に提案する。これ を薬剤師によるトリアージ(triage)業務という。 薬剤師は、生活者からの相談を受けるにあたり、あらかじめ、医療機関への受診勧奨を 行う基準を整理しておく必要がある。そして、受診勧奨を行う場合には、生活者に対して、 受診しなければならない理由を分かりやすく説明(情報提供)する必要がある。 (5)OTC医薬品の製品選択(販売の可否を含む)、継続使用の可否の助言 得られた情報(生活者の体質や病状、生活習慣等) 、薬学的知識とコミュニケーションス 41 キル等の専門能力および倫理観に基づき、生活者が適切な OTC 医薬品を選択・使用できる よう助言する。 OTC医薬品を使用すること、あるいは同じ製品の継続使用が不適切であると判断した場合 には、医療機関への受診の勧め等、を提案する。 販売あるいは同じ製品の継続使用が不適切だと判断される理由としては、その症状等が OTC医薬品の適応ではないこと以外に、連用や乱用の疑いがあるケースも含まれる。 (6)リスクの程度に応じた情報提供と適正使用のための指導・助言 OTC医薬品のリスクの程度(区分)にかかわらず、生活者には添付文書を基本として、個々 に必要とされる情報を提供する。その際、安全性を確保するために生活者の状況に合わせ て指導が必要な項目は下記のものが考えられる。 1. 主な副作用の内容と早期発見のための確認事項および発現時の対処法 2. 重篤な副作用の内容と早期発見のための確認事項および発現時の対処法 3. 併用してはいけない薬剤、あるいは併用に注意が必要な特定保健用食品、ならび にいわゆる健康食品等に関する情報 4. 定められた回数を服用しても症状が改善しない場合の対処法(長期連用に関する 注意を含む) 5. 小児の用法・用量がある場合の注意点 6. 誤飲、誤用した場合の対処法 7. 服用により疾病検査の値に影響を及ぼす可能性がある場合、その内容の説明 8. 自己検査キットに関する正しい使用方法と結果の活用方法 9. 保管および取り扱い上の注意 10. 健康被害救済制度に関する情報 11.購入後の相談方法 (7)養生法を含む生活指導 OTC医薬品の使用、あるいは医療機関への受診の勧め、といった対処のいずれもが必要な い来局・来店者に対してはもちろんのこと、OTC医薬品を使用する場合であっても、その相 談に対応した養生法や食事の助言を行う。 もし、栄養士や保健師等専門職種の援助が必要であれば、できる限り仲介して生活者の 期待に応えるよう努力する。 (8)販売後モニタリングと事後対応 ① 副作用への対応 生活者がOTC医薬品を使用した後、副作用あるいは何らかの不快な症状が認められた場合 には、生活者と共にその状態を確認し、適切な情報提供・助言を行う。 42 また、漫然使用が望ましくないOTC医薬品については、短期間に反復継続した購入となっ ていないか留意する。 そして、発生頻度は希ではあるが、「重篤な副作用」(アナフィラキシーショックやス ティーブンス・ジョンソン症候群等)の場合は、直ちに医薬品の使用を中止させ、かつ、 その製品や添付文書等を持参してかかりつけ医等に受診させる。 さらに「医薬品副作用報告システム」を生活者に紹介し、生活者による自主的な副作用 情報の報告を啓発する。 ②有害事象報告 生活者とのコミュニケーションから得られた「有害事象」(よく知られている軽微なも のを除く)を当該企業へ、あるいは医薬品・医療機器等安全性情報報告制度を用い、直接 厚生労働大臣へ報告する。 ③ 事後対応 販売後、生活者からの相談応需やリコール製品への対応等、事後対応を担う。 ④ 適正使用に資する販売実例データの収集と活用等 薬剤師が販売に関与したことにより、生活者による不適切使用や選択ミスを未然に防止 できた場合は報告書形式にまとめ、薬事・食品衛生審議会での安全性調査やリスク分類審 議等に役立てられるようデータを整理する。 ⑤ 健康被害救済制度の活用支援 (6)の10.にも記したが、生活者から医薬品を正しく使用したにも関わらず入院相当 の副作用が発生した場合に同制度を活用する上での手続きに関する助言等を行う。 (9) 臨床薬学的情報の整備と活用 専門家としての能力を発揮するために、新しい情報提供ツールの開発や製薬企業が作成 する薬剤師向製品説明書等の改良に積極的に関与する。 43 44 資料 4 検討 4:これからのスイッチ OTC 医薬品について製造販売業者に求められる要件 1.適正使用を確保する仕組み(全体像) 生活者がセルフメディケーションへ新スイッチ OTC 医薬品*を使用する際、製造販売業 者(以下、製販業者)に求められる最も重要なことは、医薬品の適正な使用を確保すること である。今回、適正使用を確保するための仕組みとして、以下の通り4つの要件として 取りまとめた。 * 生活習慣病等、これまで一般用医薬品として使用実態のない新薬効領域のスイッチOTC医薬品 製販業者に求められる要件 適正使用を確保する仕組みの構築 申請資料の科学的妥当性及び製剤品質の確保 開発段階からの適正使用推進計画の設定 製造販売後安全管理 製造販売後調査 製品の要件 安全管理・調査の要件 全体の仕組みを俯瞰し 4つの視点から検討 情報の要件 組織体制の要件 開発体制 安全管理・品質保証体制 製造販売後調査実施体制 営業・学術体制 etc 情報提供の仕組み 情報提供ツール 2.製品の要件 これまで、一般用医薬品の役割は主に承認前例のある薬効群であって、軽度な疾病に伴 う症状の改善や健康の維持・増進及び保健衛生であった。しかしながら、平成14年11月「一 般用医薬品承認審査合理化等検討会-中間報告書-(以下、中間報告書)」にて、従来の分 野に加え、生活習慣病等の疾病に伴う症状発現の予防、生活の質の改善・向上等の分野に ついても積極的に検討を進め、国民の選択肢を拡大する旨報告されて以降、これまで一般 用医薬品として承認されなかった領域で新たな製品が承認・上市されている*。一方中間報 告書で提言されたものの未だ承認されていない領域・製品も多くある**。 * 生活の質の改善・向上(発毛、禁煙補助、不眠、軽い尿もれ)、軽度な疾病に伴う症状の改善[膣カンジダ(膣のかゆみ、 おりもの)の改善、口唇ヘルペスの改善] ** 生活習慣病等の疾病に伴う症状発現の予防(①検査で軽度の血清高コレステロール、高血圧、高血糖が発現され、そ のままにしておくと、将来高コレステロール血症、高血圧症、糖尿病等の生活習慣病の発症が予測される場合の使用、 ②花粉症・ハウスダストなどによるアレルギー症状発現の予防)、健康状態の自己検査(浸襲がない又は尐ない測定項 目)等、軽度な疾病に伴う症状の改善(創傷面の化膿の防止・改善) 45 また、厚生労働省は平成19年3月スイッチOTC医薬品の更なる推進を目指し「医療用医薬 品の有効成分の一般用医薬品への転用について(いわゆるスイッチスキーム)」を、更に平 成19年8月「新医薬品産業ビジョン」を公表し、一般用医薬品市場の育成において「医療用 医薬品からの転用によるスイッチOTC医薬品や新規効能を持つ一般用医薬品の開発が進む ことにより、従来の一般用医薬品の効能効果を越え、国民が求める健康等新たな志向(例え ばメタボリックシンドロームの予防、スキンケア効果)などに応えることができる。」こと を提言した。 以下に、製販業者が新スイッチOTC医薬品を開発する上で留意すべき項目について記載する。 2-1.申請資料の科学的妥当性 原則として、医療用医薬品としての再審査又は再評価が終了しており、スイッチOTC 医薬品化にあたっては、生活者が直接使用する一般用医薬品として適切な成分である ことが重要である。更にスイッチ成分の有効性・安全性、効能・効果、用法・用量、 海外での一般用医薬品としての使用状況、再審査や再評価の結果との整合性等を踏ま え、一般用医薬品として妥当であることを示す資料に基づき申請資料を作成する。 なお、現在は医療用医薬品先発会社が持つ詳細な情報等がなければ申請は困難である が、将来的には、一般用医薬品としての妥当性に関する資料(有効性、安全性、品質等) が不十分な場合でも、下記検討等を行うことにより申請可能となることが期待される。 <有効性・安全性> ■臨床試験:150例以上 GCPに準拠した、一般用医薬品としての使用を想定した有用性評価のための臨床試験 <製剤品質> ■ヒト生物学的同等性試験 各種ガイドラインに準拠する(対照薬:先発医療用医薬品) ■溶出試験 ■製剤均一性試験 2-2.開発段階における適正使用推進計画の立案 製販業者は、承認申請等の開発業務に併せ、開発段階から製造販売後の適正使用や 安全性確保を念頭においた情報提供の仕組みや各種情報提供ツールの作成、副作用特 別調査や適正使用調査(仮称)等の実施に関する計画を統合的に立案する必要がある。 (詳細は「3.製造販売後安全管理・製造販売後調査の要件」参照) 46 新スイッチOTC医薬品の開発 申 請 一般用医薬品として妥当であること を示す資料に基づいた申請資料 承 認 審 査 一般用医薬品としての適正使用を主 眼とした審査(安全性確保) Aに加え、 新 たにBを実施する 目的 効能・効果 用法・用量 スイッチ成分の副作用 海外OTCの使用状況等 再審査や再評価の結果 との整合性 ・・・等 効能・効果 用法・用量 使用上の注意 情報提供方法 情報提供ツール ・・・等 確認 A B 副 作 用 特 別 調 査 適 正 使 用 調 査 (仮 称 ) 製 造 販 売 後 調 査 計 画 書 (案) 承認申請添付資料の考え方 添付資料内容 → 申 請 医療用医薬品情報をベースとし、一般用医薬品として妥当であることを示す資料に基づく下記申請資料 ■スイッチ成分の有効性・安全性 ■効能・効果、用法・用量 ■海外OTCの使用状況 ■再審査や再評価の結果との整合性 ■製剤品質 ■薬剤師・使用者向説明書(案) ・・・・・・・・etc 審 査 → 承 認 なお、現在は医療用医薬品先発会社が持つ詳細な情報等がなければ申請は困難であるが、将来的に は、一般用医薬品としての妥当性に関する資料(有効性、安全性、品質等)が不十分な場合でも、下 記検討等を行うことにより申請可能となることが期待される。 <有効性・安全性> ■臨床試験:150例以上 GCPに準拠した、一般用医薬品としての使用を想定した有用性評価のための臨床試験 <製剤品質> ■ヒト生物学的同等性試験 各種ガイドラインに準拠する(対照薬:先発医療用医薬品) ■溶出試験 ■製剤均一性試験 47 3.情報の要件 新スイッチOTC医薬品の販売にあたり、適正使用を確保するため、下図の通り薬剤師等の 販売者と協力して薬剤の特性に合わせた販売手順やカウンセリングの仕組みを構築する必 要がある。更に各種情報ツールをそろえて、全ての取り扱い店舗において共通した適正情 報を提供できるように整備するとともに、予め説明会等を通じて薬剤師等に適切に情報を 提供し、正しい理解を求めることが肝要である。 適正使用確保のための情報提供の仕組み(案) 薬 DRUG カウンセリング セミナー テキスト 薬剤師 向 説明書 チェックシート実施 検査値等把握 受 診 勧 奨 トリアージ 該当スイッチ 購入相談 症状相談 研修会 勉強会 テキスト 製造販売後調査協力打診 医師紹介 or 生活 指導 のみ or 該当 スイッチ 販売 別の OTC等 販売 診 察・診 断 PD処方 処置 治 療 再来店時対応 情 報 提 供 副作用特別調査 登 録 カード 適正使用調査 お薬手帳 の機能 48 チェックシート実施 検査値等把握 トリアージ 受診勧奨 継 続 終 了 3-1.情報提供の仕組み (1)販売時における情報提供の手順書 製販業者は、新スイッチ OTC 医薬品の上市に際し各種情報ツールを作成しなけ ればならない。その際、製販業者は薬剤の特性に基づく情報提供の手順を示すこ とが必要であり、販売者は新スイッチ OTC 医薬品の販売に際しその手順書を用い ることにより一定の共通した情報提供が可能となる。また、製販業者は新スイッ チ OTC 医薬品の上市に際して、その情報提供の手順を薬剤師等に提供することが 求められる。 情報提供の手順書に関する基本項目は、以下の通りである。 1. 相談窓口・体制の確保 2. 情報収集と状況確認 3. 適正使用のための情報提供 4. 各種情報ツール解説 5. 再来店時対応 6. 販売後の調査協力の依頼 7. Q&A及び参考資料 (2)情報提供ツール 製販業者は各種情報ツールを作成し、販売店に提供する必要がある。 情報提供ツールについては、以下の例があげられる。 1. 薬剤師向説明書 2. 使用者向説明書 3. セルフチェックシート 4. 登録カード (3)再来店対応 使用者の2回目以降の来店に対しても、使用者の適正使用を確保するための共 通した対応が必要である。(セルフチェックシートの利用、臨床検査値の把握、登 録カードの活用等) (4)製品説明会・薬剤師研修 適正使用を確保するための情報提供を行うにあたり、薬剤師向説明会等を開催 し、共通した情報を正確かつ詳細に伝えることが肝要である。その際、薬剤師会 等との協力体制をとることも必要である。また、地区単位、企業単位等での研修 会や勉強会の開催、発売後もフォローする体制の構築が望まれる。また、将来的 には、薬剤師の研修認定や薬剤師教育のプログラムへの組み込み等を考えること も期待される。 49 3-2.情報提供ツール (1)薬剤師向説明書 ここ数年、第一類医薬品として承認されたスイッチOTC医薬品で作成された薬剤 師向説明書の記載項目は、概ね下記一覧表1~8の項目である。 1. 対象疾患について 2. 成分・分量 3. 効能・効果 4. 用法・用量 5. 臨床効果・安全性 6. 使用上の注意及び解説 7. 生活上の注意 8. Q&A 生活習慣病等の新薬効領域の新スイッチOTC医薬品は、従来の一般用医薬品には ない注意を要するものもある。このため、今後、新スイッチOTC医薬品について薬 剤師等に提供すべき情報として、下記1~8の項目等も考えられるが、どのような 形で提供するかについては検討が必要である。 1. 当該新スイッチOTC領域(疾患)の治療ガイドラインと当該新スイッチOTCの関連(位置づけ) 2. 当該新スイッチOTCの使用対象者(特徴ある症状等) 3. 対象者に確認すべき情報(年齢、薬歴、既往歴等) 4. 除外基準、使用禁忌、薬物相互作用、医療用医薬品の使用実態 5. 当該新スイッチOTCが使用対象外であった場合の対処方法 (受診勧奨 6. 発現の可能性がある副作用とその対処方法 7. 継続使用する際の判断基準(再来店時) 8. その他 等 等) (2)使用者向情報提供資料 一般用医薬品の販売に際し、使用者に対してリスクの程度に応じた情報提供が 必要である。情報提供の範囲は薬事法により規定されているが、現在、製販業者 が独自に作成する使用者向説明書、第三者機関による情報提供資料及び医薬品医 療機器総合機構(以下、PMDA)が推奨する使用者向医薬品ガイドの3種類の情報提 供ツールが存在する。 1)製販業者が独自に作成する使用者向説明書 現在、日本OTC医薬品協会加盟会社が使用者向説明書として使用者に提供し ている情報の範囲は以下の通りである。様式は製販業者に委ねられており、一般 的に使用者の携帯便益を考慮して小冊子化されており、購入時に薬剤師から提供 50 される。また、現在、第一類医薬品においては、セルフチェック項目が当該小冊 子に付記されおり、症状の程度、頻度、合併症、既往歴などの情報に基づいて使 用の可否が判断できるよう工夫されている。(詳細はセルフチェックシート項目 参照) 1. 対象疾患について 2. 成分・分量 3. 効能・効果 4. 用法・用量 5. 使用方法 6. 生活上の注意 7. 使用上の注意 8. Q&A 9. お問い合わせ先 10. その他 2)第三者機関による情報提供データベース 具体例として、株式会社プラネットが運営する「医薬品説明文書セルフメディ ケーションデータベース」サービスがある。一般用医薬品に関する情報は製販業 者が登録し、登録情報の変更・更新も製販業者が行う。対象は全ての一般用医薬 品であり、提供される情報は薬事法等に規定されている以下の範囲に限定されて いる。 1. 名称 2. 有効成分名・分量 3. 用法・用量 4. 効能・効果 5. 使用上の注意のうち、「してはいけないこと」及び「相談すること」 6. その他 3)PMDAによる「使用者向医薬品ガイド」 PMDAでは、薬局における購入者に対する情報提供の強化を図るため、製販業者 に一般用医薬品「使用者向医薬品ガイド」の記載要領を医療用医薬品「患者向医薬 品ガイド」に準拠した内容で作成することを求めている。情報提供の範囲は添付 文書と同範囲であり、便宜上一部の用語は生活者が理解できるよう配慮されてい る。 51 (3)セルフチェックシート 薬剤師は、生活者からの相談等を通じて当該医薬品の使用対象者であるか否か 等を判断する必要がある(トリアージ業務)。その際、適切なトリアージ業務を遂 行するためにセルフチェックシートの使用が推奨される。医薬品の特性によりチ ェック項目は異なるが、原則として以下の項目が必要となる。なお、セルフチェ ックシートは使用者向説明書に付記することも可能である。 1. 生活者自らが使用対象者であるか否かを判断できる事項(症状や健康状態等) 2. 使用上の注意の「してはいけないこと」、「相談すること」に記載されている事項 3. 妊娠又は妊娠の可能性の有無 4. アレルギーの有無 5. その他、薬剤の特性に応じた事項 6. 服用による副作用及び効果の有無(継続使用時) 7. その他 (4)登録カード 現在、一般用医薬品の販売において、販売者は使用者の情報(氏名や年齢、健康 状態、アレルギー体質など)を入手する義務はなく、また、使用者は自らの判断で 購入することができる。しかしながら、生活習慣病治療薬などの継続使用が前提 となる新スイッチOTC医薬品の販売に際して、薬剤師は使用者の適正使用を確保す るための情報を把握することが求められる。 このため、製販業者は下記内容が記載された登録カードを販売者に提供し、継続 使用時の適正使用を確保するための情報提供ツールとして活用することが推奨さ れる。なお、この登録カードは使用者向説明書に添付した形で使用者に提供する ことも可能である。 また今後、新スイッチOTC医薬品を用いた生活習慣病や継続治療が必要な疾患等 のセルフメディケーションを実現するためには、医療機関(医師)と販売者(薬剤 師)が使用者の健康状態や服薬状況等の情報を共有する必要がある。医療用医薬 品では、医師、薬剤師及び患者の三者をつなぐ情報提供ツールとして「お薬手帳」 が活用されており、将来的には新スイッチOTC医薬品販売においても、この「お薬 手帳」を活用した情報提供が期待される。 1. 購入の記録(購入日、購入者名等) 2. 販売店の記録(販売店名、所在地等) 3. 購入者の健康状態(検査結果、医療機関の受診日:必要応じて購入者が記載) 4. その他(薬剤の服用記録等:必要に応じて購入者が記載) 52 4.製造販売後安全管理・製造販売後調査の要件 4-1.製造販売後安全管理 スイッチOTC医薬品における製造販売後の安全管理の目的は、医療用医薬品成分を初 めて一般用医薬品として使用するに当たり、その使用実態下での安全性・有効性に関 する情報を収集・評価・分析し、それを薬局・薬店等の販売現場に提供・伝達するこ とにより、スイッチOTC医薬品が適正に使用されることにある。スイッチOTC医薬品が 生活者に適正に使用されることにより、セルフメディケーションの正しい理解が進み、 そのことが更なるセルフメディケーションの推進・普及に寄与すると考えられる。従 って、スイッチOTC医薬品が適正に使用されていることを検証する製造販売後の安全管 理は非常に重要な意味を持つ。 以下に製造販売後の安全管理の具体的な内容をあげるが、スイッチOTC医薬品を販売 する製販業者はこれらの業務について理解し、実行する十分な能力を有していなけれ ばならない。 1. 情報の収集 2. 情報の検討・評価・分析 3. 販売現場への情報提供・伝達 4-2.製造販売後調査 スイッチ OTC 医薬品等新一般用医薬品の製造販売後調査として、現在は、昭和 63 年 に発出された「新一般用医薬品の製造販売後調査の実施の自主基準について[昭和 63 年 12 月 26 日付、薬安第 154 号、厚生省薬務局安全課長通知、(以下、63 年通知)]」に 従い、原則3年間の使用時の安全性に関する調査を実施することになっている。この 調査は、特別調査(モニター店による副作用頻度調査)及び一般調査(販売店等からの副 作用報告)からなり、前者は通常、内服薬 3,000 例、外用薬 1,000 例の症例を収集する とされている。なお、平成 17 年 4 月 1 日以降、一般調査は実質的に GVP 業務として実 施されているため、この研究班では現行の一般調査を廃止して GVP 業務に含めること とし、 「副作用特別調査(モニター店での調査を原則とする)=現行の特別調査」(以下、 副作用特別調査) と新たな「適正使用調査(仮称)」を提案する。 これまでのスイッチ OTC 医薬品は、消炎鎮痛薬(インドメタシン等の外用剤)、水虫 薬(外用剤)、抗アレルギー薬(内服、点眼、点鼻)、鎮咳去痰薬、胃腸薬等であり、い ずれも一般用医薬品として既存の領域のものであったが、今後は新規性の高い領域の 成分(降圧薬、高脂血症治療薬、糖尿病治療薬、抗肥満薬、その他生活習慣病治療薬等) を含む新スイッチ OTC 医薬品の登場が期待される。このことから、これまでの「副作 用特別調査」に加えて、新規性の高い領域の新スイッチ OTC 医薬品に対して、その適 正使用実態の検証を目的に「適正使用調査(仮称)」を実施する。すなわち、製造販売 後1年以内を目処に 300 例程度を目標として、下記内容について検証することを目的 に調査する。 53 【適正使用調査(仮称)の内容】 1. セルフチェックシートによる使用判断の適否 2. 薬剤師からの必要十分な説明の有無 3. パッケージ・添付文書・使用者向説明書の記載内容に関する理解度 4. 使用開始・終了の適正判断状況 5. 使用期間中の用法・用量の遵守状況 6. 副作用発現時における対応状況 この調査結果に基づき適正な販売及び使用が遵守されているか確認・検証でき、必 要に応じて表示内容或いは説明資材等を変更することも可能になる。 製造販売後安全管理・調査 製造販売後の安全管理 承 認 新販売制度 (第一類医薬品) ・少なくとも4年間は、薬剤師による文書での情報提供を行う対面販売が義務となる GVP (副作用症例の把握) ・重篤症例報告 ・研究報告・措置報告 ・未知・非重篤定期報告、他 製造販売後調査 A 副作用特別調査 有害事象(副作用)の頻度調査 ・内服薬:3,000例、・外用薬:1,000例 ★現行製造販売後調査の「一般調査(自発報告)」はGVPに置き換える B 適正使用調査(仮称) 薬剤師による適正使用調査 300例 ★生活習慣病薬等、一般用医薬品として使用実態のない製品について実施 (一般用医薬品として使用実態のある製品に類似のものは不要) 一原 年則 毎三 に年 報間 告 一 年 以 内 に 報 告 必要に応じ、 改訂・改善等 ・添付文書 ・外箱表示 ・販売方法・情報 提供方法 ・・・・等 製造販売後調査 項目 製 造 販 売 後 将来 現行 GVP(副作用症例の把握) ・重篤症例報告 ・研究報告・措置報告 ・未知・非重篤定期報告 他 ○ ○ A.副作用特別調査 内服薬:3,000例 外用薬:1,000例 ○ ○ ○ 不要 B.適正使用調査(仮称) 300例 生活習慣病薬等、一般用医薬品として使用実態のない製品について実施 (一般用医薬品として使用実態のある製品に類似のものは不要) 54 5.組織体制の要件 適正使用を確保する仕組みとして、製品の要件、情報の要件、製造販売後安全管理・製 造販売後調査の要件について前述したが、これらの検討・実施にあたって、製販業者の組 織体制を整備することが求められる。 5-1.新スイッチOTC医薬品を承認申請できる開発体制 一般用医薬品の承認申請については、 「医薬品の承認申請について(H17.3.31 薬食発 0331015 及び H20.10.20 薬食発 1020001)」及び「医薬品の承認申請に際し留意するべ き事項(H17.3.31 薬食審査発 0331009 及び H20.10.20 薬食審査発 1020002)」による。 また、申請区分の考え方、申請に必要な添付資料等は「一般用医薬品の承認申請区分 及び添付資料に関する質疑応答集(Q&A)について(H20.10.20 審査管理課事務連絡)」に 示されている。新スイッチ OTC 医薬品を承認申請する企業は、申請区分(4)(新一般用 医薬品有効成分含有医薬品)の承認申請に際し添付すべき資料を完備できる体制が求 められる。 資料の種類 イ ー 1 イ ー 2 イ ー 3 ロ ー 3 ハ ー 1 ハ ー 3 発起 見源 の又 経は 緯 外 使国 用に 状お 況け る 特 と性 の及 比び 較他 検の 討医 等薬 品 試規 験格 方及 法び 長 期 保 存 試 験 ○ ○ ○ ○ △ 申請区分 (4) ホ ー 1 ヘ ー 1 ヘ ー 2 ヘ ー 6 ヘ ー 7 ト 加 速 試 験 吸 収 単 回 投 与 毒 性 反 復 投 与 毒 性 局 所 刺 激 性 そ の 他 の 毒 性 臨 床 試 験 成 績 △2) △ △ △ △ △ ○ (150 例以上) ○:添付、△:個々の医薬品により判断される 個々加速試験により 3 年以上の安定性が推定されないものについては長期保存試験が必要である。 ・・・・(詳細略) 2) また、現在は医療用医薬品先発会社が持つ詳細な情報等がなければ申請は困難であ るが、将来的には、一般用医薬品としての妥当性に関する資料(有効性、安全性、品質 等)が不十分な場合でも、下記検討等を行うことにより申請可能となることが期待され る。その場合、別途下記検討ができる体制が求められる。 <有効性・安全性> ■臨床試験:150 例以上 GCP に準拠した、一般用医薬品としての使用を想定した有用性評価のための臨床試験 <製剤品質> ■ヒト生物学的同等性試験 各種ガイドラインに準拠する(対照薬:先発医療用医薬品) ■溶出試験 ■製剤均一性試験 更に、製販業者は、承認申請等の開発業務に併せ、開発段階から各種情報提供ツール の作成及び副作用特別調査や適正使用調査(仮称)の実施に関する計画を立案する必要 があるため、これらに対応する体制も求められる。 55 5-2.製造販売後の安全管理ができる GVP 体制 GVP で製販業者に求められている主な安全管理業務は、 「品質・有効性及び安全性等 に関する情報の収集、検討、措置の立案、措置の実施」等の“情報の活用”とその業 務の円滑かつ継続的な実施のための「手順書の制定」、「教育訓練」、「自己点検」、「適 正な記録の作成と保存」等“的確な情報活用を支援する業務”である。これらの業務 を円滑に実施するための社内体制としては、 「総括製造販売責任者・安全管理責任者・ 品質保証責任者のいわゆる製販業者三役の設置」、「製造販売後の安全管理業務手順書 の制定」、「安全確保業務を適正かつ円滑に遂行しうる能力を有する人員の確保」、「情 報収集・伝達経路の確保」 、 「記録類の保管場所の確保」等があげられる。 <製造販売後の安全管理業務手順書に記載すべき手順> 1. 安全管理情報の収集に関する手順 2. 安全管理情報の検討及びその結果に基づく安全確保措置の立案に関する手順 3. 安全確保措置の実施に関する手順 4. 安全管理責任者から総括製造販売責任者への報告に関する手順 5. 安全管理実施責任者から安全管理責任者への報告に関する手順 6. 市販直後調査に関する手順 7. 自己点検に関する手順 8. 製造販売後の安全管理に関する業務に従事する者に対する教育訓練に関する手順 9. 製造販売後の安全管理に関する業務に係る記録の保存に関する手順 10. 品質保証責任者その他の医薬品等の製造販売に係る業務の責任者との相互の連携 に関する手順 5-3.製造販売後調査を実施できる体制 現時点でのスイッチ OTC 医薬品の製造販売後調査に係る根拠法令等は 63 年通知である。 ただし、昨今のスイッチ OTC 医薬品の製造販売承認時に付与される製造販売後調査(特別 調査)では、63 年通知に上乗せした症例数や調査内容を求められている例もある。 (1)具体的な業務内容と具備すべき社内体制 現行の製造販売後調査のうち「副作用特別調査」を遂行するために必要な社内体制と して、63 年通知の記載内容は、 『情報の収集、評価、対応、伝達、提供の社内体制に ついては、 「医薬品の情報の収集、評価、対応、伝達、提供に関する規範作成の指標 及び解説(医療用・一般用医薬品)[昭和 55 年 12 月日本製薬団体連合会]」を参考にし て整備する』とされている。 社内体制に係る具体的な部門(機能)には、「情報収集部門としての文献情報担当 者・学術情報担当者・医薬情報担当者」、 「情報取り纏め部門としての本社情報主管部 所」 、 「情報の評価機関としての評価委員会」、 「必要に応じた対応の実施部門としての 添付文書改訂・副作用等の報告の実施部門」、 「対応内容の販売店等への情報伝達部門 としての学術情報担当者・医薬情報担当者」等がある。 スイッチ OTC 医薬品は、初めて販売店を介して一般使用者に供されるものである。 56 通例、製造販売開始にあたっては、販売店に対し、当該医薬品に関する説明会が随時 開催される。そこで使用する情報提供資材や製造販売後調査に供する専門家向・使用 者向の文書等の資材類には、適正使用に関する充分な情報がわかりやすく記載されて いる必要があり、製販業者の責任において作成すべきものである。新スイッチ OTC 医 薬品開発を行う製販業者においては、現行の製造販売後調査を行える体制に加え、 「適 正使用調査(仮称)」を実施するに必要充分かつ不測の事態に迅速に対応できる人員及 び管理体制が確保されていることが求められる。即ち、新スイッチ OTC 医薬品に係る 一連の安全管理業務の遂行のために、製販業者としての充分な運用体制が確保されて いることが必要となる。 (2)その他 今後、新スイッチ OTC 医薬品の適正使用を確保するためには、より一層高いレベルで 安全管理業務を行う必要がある。このため、製造販売後の情報収集が重要であり、そ の第一歩が今回新たに提案する「適正使用調査(仮称)」である。従って、調査対象販 売店の薬剤師に対して、当該医薬品に関する情報に加え、その調査方法や内容につい て充分説明し、理解を得ることが重要である。 5-4.品質を確保できるGQP体制 薬事法第 12 条の 2 第 1 号に規定する製造販売業の許可要件の一つとして、医薬品等 の品質管理の方法に関する基準としての「医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器 の品質管理の基準に関する省令(GQP:Good Quality Practice)」が平成 17 年 4 月 1 日 より施行されている。GQP は医薬品、医療機器等の品質管理の方法に関する基準を定め たものであり、製造販売業の許可要件となっている。 従って、新スイッチ OTC 医薬品を取り扱う製販業者は、その手順書等を整備している など、品質保証の体制を構築していることが求められる。 5-5.適切な情報提供ができる営業・学術体制 製販業者として、一般用医薬品、特に新スイッチ OTC 医薬品を販売するにあたって適 切に情報提供できる営業・学術組織体制が求められる。そのためには次の事項を実施 する。 1.一般用医薬品における医薬情報担当者(以下、OTC-MR)教育体制 OTC-MR 教育は製販業者とって重要であり、下記に基づいた教育体制の構築が求め られる。 1)目的 OTC-MR が薬剤師等に対して適正使用の徹底のために必要な安全性情報、製品知識及 び販売方法について、確実に情報提供ができるための知識とスキルの習得を目的と した MR 研修教育を実施する。 2)内容 (1) OTC-MR 集合研修(製品情報、病気の知識、副作用、関連商品競合情報、製造販 売後調査、その他) 57 (2)その他 OTC-MR 個人でも研鑽できるツールの活用 例:e-ラーニングなど 3)実施のタイミング 定期的な研修(例えば月毎や年に数回等)が望まれる。特に新製品の発売に際しては、 その新発売案内、導入開始前までに十分な研修を終了させる。 2.製品説明会、勉強会の開催 販売店の適正販売に向けた製品説明会を必要に応じて実施する。OTC-MR 自らが実施 するケースと規模や内容によって本社スタッフが支援するケースがある(薬剤師向 説明会の場合は本社部門中心で開催する場合もある)。 3.学術体制 製販業者として、製品関連の情報提供は必須であり、その学術体制として下記の事 項の実施が求められる。 1) OTC-MR 支援機能の設置 OTC-MR 教育及びその営業支援するための専門機能(学術・研修部門等)の設置が求 められる。 2)生活者、販売者等から直接相談を受け付ける体制の構築 適正使用等の確保のために、直接購入者からの相談を受け付ける窓口の設置(お客 様相談室の設置等)及びその強化が求められる。 3)医師・薬剤師との連携 対象疾患によっては医師の関与が必要となる場合もあるため、例えばアドバイザ リードクターによる学術支援やその勉強会での講演に組み入れることも考慮され る。薬剤師が薬剤以外の情報(医療現場における使われ方、各疾患のガイドライン、 生活指導・服薬指導、疾患の知識など)についての理解も必要とされ、今後は製販 業者が医師、薬剤師との連携や支援をフォローすることも期待される。 5-6.薬局・生活者からの照会へ迅速かつ正確に対応できる体制 製販業者はお客様相談部門などを設置し、電話など双方向なコミュニケーションを用 いた情報提供体制を整備し、一般用医薬品の適正使用を確保している。また、生活者は 一般用医薬品の購入検討時に限らず、使用開始時又は使用中に当該製品や疾患に係る情 報を得て、適正使用に役立てている。また、薬剤師等はカウンセリング内容の充実やス キル向上に向け、個別事案の照会や最新情報の確認に活用している。今後、薬剤師を主 体とする医療関係者、行政及び製販業者といったヘルスケア情報の提供者が、製販業者 より提供される適正使用情報を共有し、お互い連携しながら生活者に対して迅速かつ双 方向の情報対応を実現することが望まれる。このような重層的な情報提供体制の確立に より、生活者が要望する新スイッチ OTC 医薬品の適正使用が確保され、セルフメディケ ーションの進展が実現される。 以下、各種情報提供者の対応について記載する 58 1.製販業者 1)生活者向対応 (1)ツール ①電話(365 日・フリーダイヤル対応の場合もある) ②FAX (2)内容 ①添付文書記載情報の一部(使用者向説明書の内容を含む) 販売名及び薬効名、医薬品分類、製品の特徴、使用上の注意、効能又は効果、 用法及び用量、成分及び分量、保管及び取り扱い上の注意、製造業者又は輸入 業者及び販売業者の氏名又は名称 ②製剤の性状 ③容量 ④希望小売価格 ⑤日常生活上の注意点 ⑥疾患・症状 に関する情報 ⑦食品・他の医薬品との飲み合わせ ⑧有害事象 ⑨緊急時・中毒時の対応(営 業時間外の緊急時は中毒センターの番号を案内している場合もある) ⑩取扱 店 2)薬剤師(医療従事者)向対応 (1)ツール ①OTC-MR ②電話(365 日・フリーダイヤル対応の場合もある) ③FAX *薬剤師向と生活者向で問い合わせ電話・FAX 番号を分ける場合もある (2)内容 ①生活者向の内容とその解説 ②薬剤師向説明書とその解説 ③有効性・安全性及び薬物動態等に係るデータ・文献の対応と解説 ④製品サイズ・重量、JAN コード 2.行政・業界団体 1)生活者向 ①PMDA「おくすり相談・医療機器相談窓口」(電話) ②各都道府県の薬剤師会又は薬務課等による相談窓口(電話等) ③日本中毒情報センター 24 時間・365 日対応(過量、誤飲、誤用のみ) 5-7.HP 等により継続的・日常的に情報提供できる体制 近年広く浸透してきた HP(インターネットのホームページ等)は、情報量や情報の更新性 に優れており、一般用医薬品の適正使用情報の継続的・日常的な共有に有効なツールと なっている。 電話での対応と並行して、生活者は一般用医薬品の購入検討時に限らず、使用開始時又 は使用中に当該製品や疾患に係る情報を入手して適正使用に活用している。また、薬剤 師等は、カウンセリング内容の充実やスキル向上に向け薬剤や疾患領域の知識の確認に 活用している。 HP 等の発展的活用として、製販業者や薬剤師を主体とする医療関係者及び行政などのヘ 59 ルスケア情報の提供者が、フォーマットとして共通化された情報を基礎情報として盛り 込みつつ、それぞれの立場で生活者の利便性やニーズに配慮した HP を作成し、相互に連 携して運用することが望まれる。これにより、新たな領域に対応した一般用医薬品の適 正使用を浸透させる情報提供体制が強化されるとともに、セルフメディケーション意識 の一層の高まりが期待できる。 1.製販業者が提供している web サイト 1)生活者向情報 (1)ツール ①PC 用(一部のモバイル通信機器を含む) ②携帯電話専用 (2)内容 ①添付文書記載情報の一部(PC 用に添付文書のファイルも掲載する場合が多い) 改訂年月、添付文書の必読及び保管に関する事項、販売名及び薬効名、医薬品 分類、製品の特徴、使用上の注意、効能又は効果、用法及び用量、成分及び分 量、保管及び取り扱い上の注意、生活者相談窓口、製造業者又は輸入業者及び 販売業者の氏名又は名称及び住所 ②使用者向医薬品ガイド ③製品画像 ④性状(製剤の画像) ⑤容量 ⑥希望小売価格(税込) ⑦FAQ ⑧日常生活上の注意点 ⑨疾患・症状に関する情報 ⑩セルフチェックシート ⑪製品又は取扱店に関する問い合わせ(E メールで回答) 2)薬剤師向情報 (1)ツール ①PC 用(一部のモバイル通信機器を含む) *閲覧者が薬剤師であることを確認するゲートを設けている場合もある (2)内容 ①生活者向情報の内容とその解説 ②薬剤師向説明書とその解説 ③有効性・安全性及び薬物動態等に係るデータと解説 ④製品サイズ・重量、JAN コード ⑤薬剤師向研修資料 2.行政、業界団体、流通との連携 1)連携する HP 等 (1)医薬品医療機器総合機構(PMDA)の HP (2)日本薬剤師会の HP (3)JSM-DB(プラネット) 以上 60 セルフチェックシート例