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成長が約束された無線通信市場の 要求とSiGeの実力

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成長が約束された無線通信市場の 要求とSiGeの実力
特集 2
ワイヤレス・システム・オン・チップ
特集 2 ワイヤレス・システム・オン・チップ
第2 章
成長が約束された無線通信市場の
要求とSiGeの実力
―― RFシステム設計からレイアウト設計までカバーする環境を用意
Teddy O'Connell,JC Barnum,Mike Keene,Walt Lange
無線通信システムの四つのトレンド
米国 IBM Microelectronics では,現在,30 以上のSiGe
IC の開発プロジェクトが進行しているという.SiGe の製造ラ
インを使ったファウンドリ・サービスも行っており,すでに
無線通信市場の成長が続くなかで,無線通信システムにお
1Gbps のSONET,ギガビットEthernet,セルラ基地局お
いて数多くの重要なトレンドが出現している.
よび携帯電話機,光トランスミッタ/レシーバ・システム,無
①限りのある周波数帯域
線 LAN などのアプリケーションに対応したIC を顧客が製品
無線通信システムにアクセスするユーザの数が増加し続け
化している.IBM 社自身もSiGe のRF(radio frequency)
るなかで,利用可能な周波数チャネルの不足が慢性的に続い
IC などを搭載したGPS モジュールを発表している.ここでは,
ている.使える周波数帯域は有限なので,システム設計者は
今後の成長が約束されていると言っても過言ではない無線通信
利用者の数を最大化する通信システムを実現するための新し
市場におけるSiGe 技術の優位性と,同社が提供している
い手法を模索している.この問題は現在,周波数効率
(スペ
SiGe 技術の概要について解説する.
クトラム効率)
を改善した,従来よりも複雑な変調方式の採用
(編集部)
によって解決されている.たとえば,第 3 世代のW-CDMA
ハイテク産業では最近,無線通信アプリケーションに適し
(wideband-code division multiple access)
セルラ・システ
たシリコン・ゲルマニウム
(SiGe)
半導体技術に高い関心が集
ムでは,2bps/Hz の周波数効率を備えたQPSK(quadrature
まっている.筆者ら
(米国 IBM Microelectronics;IBM 社
phase shift keying)
変調方式が採用されている.これはGSM
の半導体部門)
はSiGe 技術の開発に力を入れており,比較的
(Global System for Mobile Communication)
などの旧式のセ
最近になって無線通信の市場に参入した.
ここでは無線通信の技術的な動向について言及するととも
に,なぜ SiGe 技術がこのアプリケーションに適しているの
ルラ・システムとは異なる.GSM では GMSK(Gaussian
filtered minimum shift keying)
変調技術が使用されている
ため,周波数効率が低い.
かを概説する.筆者らは,高い性能と集積度をもつSiGe チ
加えて,利用可能な周波数チャネルの数は引き続き減少して
ップに加えて,IC 設計業務を合理化する各種の幅広いサー
いるため,いまや最新の無線通信システムは,混雑していない
ビスと設計ツールも提供している.これらの概要についても
高い周波数帯で動作している.たとえば,第 3 世代のセルラ・
紹介する.
システムは2GHz のキャリア周波数で動作することになるが,
2002 年度の無線通信市場は約 2,000 億ドル
2,500
他の無線通信装置
2,000
傾向は21 世紀になっても衰えることなく持続すると考えられ
1,500
ている.調査会社である米国 Dataquest(GartnerGroup)
の
予測では,無線通信の世界市場規模が1998 年度で1,400 億
億ドル
近年,無線通信の市場は驚異的な成長を遂げており,この
無線放送通信装置
地域無線通信装置
1,000
携帯型通信装置
500
ドル以上に達し,2002 年度までにはトータルで約 2,000 億ド
ルにおよぶとされている
(図 1).
図 1 から明らかなように,無線通信のなかでもっとも成長
の可能性が高く,将来においてもそれが続くと予測されてい
る市場セグメントは,ほとんどがディジタル携帯電話機
(無線
ハンドセット)
で構成される移動体無線通信の分野である.
0
1993
1995
1997
1999
2001
〔図 1〕無線通信の世界市場規模
Dataquest の予測
(1999 年 2 月)
.この図は1993 年から2002 年までの無線通
信装置の売り上げの予測を示している.無線通信装置の市場は,次の各サブセ
グメントで構成されている.すなわち,携帯型通信装置,地域無線通信装置,
無線放送通信装置,その他の無線通信装置.
Design Wave Magazine 2000 March
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③相互運用性
6
現代社会では,人は簡単に遠くへ移動できるようになり,
電源電圧
(V)
5
消費者は国や大陸をまたいだ無線通信,あるいは全世界をカ
4
バーする無線通信を要求するようになった.そのため,無線
3
通信システム間の相互運用性が要求されている.
2
こうした問題に対処するため,数多くのセルラ・プロトコ
1
1996
1999
2001
2003
2005
年
ルとの相互運用性を維持する目的で,ソフトウェア無線など
の高度なアーキテクチャを利用する携帯電話機が現在開発さ
れている.ソフトウェア無線はRF(無線周波数)
信号をディ
〔図 2〕携帯電話機に使用される半導体の電源電圧
この図では,1996 年∼ 2005 年の期間を対象に,携帯電話機
(無線ハンドセッ
ト)
の内部で使用される半導体の電源電圧に関する業界のトレンドを示している.
電源電圧は2 年ごとに約 0.7V 低下するという傾向にある.この図はIBM 社が作
成した.
ジタル化し,復調,チャネル・フィルタリングなどの信号処
理の大半をディジタル回路で実行する.この方式では,複数
のプロトコルを簡単に利用できる.また,各種の異なるソフ
トウェア技術も適用しやすい.ソフトウェア無線などの高度
なアーキテクチャには,非常に高い直線性を備えたRF 回路
〔表 1〕Si,GaAs,SiGe の比較
この表では,速度,低電圧への対応,直線性,コスト,集積のしやすさについ
て,Si,GaAs,SiGe の各半導体技術を相対的に比較している.
半導体技術
Si
GaAs
SiGe
速度
遅い
速い
速い
低電圧
対応しやすい
対応しにくい
対応しやすい
直線性
良くない
良い
良い
コスト
低い
高い
低い
集積のしやすさ
集積しやすい
集積しにくい
集積しやすい
やミックスト・シグナル回路が必要になる.
④消費者指向の製品
携帯型無線装置の普及が進み,消費者指向が強まるにつれ
て,機能の充実や性能の向上(たとえば,バッテリ寿命の延
長)
に加えて,つねに小型軽量・低価格が求められるようにな
った.したがって,システム設計者はさらなる回路集積度の
これはGSMで利用されている900MHz よりも大幅に高い.
向上を考えながら,製品の開発を進めている.
さらに,新しい広帯域無線システムの多くは,現在,ミリ
波領域のより高い周波数で動作している.たとえば LMDS
無線通信用半導体に要求される五つの特性
(local microwave distribution system)
の周波数は28GHz
となっており,ここでは帯域幅に余裕がある.
②より高いデータ転送レート
最近の無線通信システムは,たんに音声だけ
(またはデータ
だけ)
の通信機能から,音声とデータの両方を取り扱う,完全
上述のトレンドにもとづいて,無線通信装置の心臓部とな
る半導体に要求されるいくつかの特性がある.こうした要求
特性を以下に列挙する.
①高い動作速度
に統合化された無線マルチメディア・システムへと進化して
無線通信システムのキャリア周波数が高くなり,より広い
いる.これを裏付ける事実として,たとえば日本,欧州およ
帯域幅が利用されるので,半導体の動作周波数も同様に高く
び米国では無線を使う
「スマートホン」
がたいへんな人気を博
せざるをえなくなっている.そのうえ,移動体通信装置は小
している.この携帯電話機は,利用者に音声通信を提供する
型化と携帯化が進んでいるので,バッテリの低電圧化が要求
だけでなく,ディジタル音声メッセージ,電子メール,ポケ
される傾向が強い.そこで,駆動電圧が低くても f T(トラン
ベル,さらにはインターネット・アクセスなど,数多くの機
ジション周波数)
が高い半導体がとくに必要とされている.
能を備えている.将来製品化される第 3 世代システムは,完
②高い直線性
全な双方向ビデオ通信機能さえも備えることになるだろう.
最近のトレンドとして,より高次の変調方式が採用されよ
このような高度なアプリケーションでは,既存の無線通信
うとしている.また高レベルのダイナミック・レンジを備えた
リンクよりも高いデータ転送性能が要求される.その結果,
A-D コンバータやD-A コンバータを使うソフトウェア無線ア
システム設計者はデータ・トラフィックの増加に対応できる
ーキテクチャが一般化しつつある.そこで,高い直線性を備
広い帯域幅を使用する必要がある.限りのある周波数帯域の
えた半導体が求められている.
上で,可能な限り高いデータ転送性能を実現するために,現
③低価格化
在,システム設計者は新しいシステムの開発を進めており,
携帯型無線装置はますます消費者指向になってきているの
ここでも周波数効率を改善する高次の変調方式が採用されて
で,とくに価格が重要となっている.Dataquest によると,
いる.
たとえば携帯電話機メーカは携帯電話機/PCS(Personal
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