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PDF(1.22MB) - COPD情報サイト GOLD
プライマリケアでのスパイロメトリー Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease (GOLD) 2008 この資料は、GOLDが作成・公開している英文資料をGOLD日本委員会が日本語に翻訳したものです。 資料中のスパイロメーターや薬剤に関する記載の一部は、日本で利用可能なものと異なる場合がありますのでご 注意ください。 2009年7月 GOLD日本委員会 序論:スパイロメトリー • スパイロメトリーは、COPD診断のゴールド・スタ ンダード である • スパイロメトリーの使用が進まないとCOPDは正 しく診断されない • スパイロメトリーの普及を妨げる要因: – オペレーションに関する技術的な問題 – 結果の解釈が難しい – 適切なトレーニングの機会がない – スパイロメトリー導入の経営的なベネフィットに関す る明確なエビデンスがない スパイロメトリーとは? スパイロメトリー は、最大限に吸 い込んだのち、肺から吐き出せる 空気の量を測定することにより、 肺機能を評価する方法である。 スパイロメトリーの主な目的 • • • • • • • • 気流制限の測定によるCOPDの確定診断 気道閉塞の存在の確認 COPDの気流制限の重症度評価 ほとんど症状のない喫煙者での気流制限検出 COPDの進行の把握 治療効果の判定材料のひとつとして COPDの呼吸機能 (FEV1)の予後評価 術前の呼吸機能評価 スパイロメトリーのその他の用途 • さまざまな呼吸器疾患の診断と重症度の把握 • 息切れの原因の鑑別:閉塞性か拘束性か • 就業環境下での労働者の健康診断 • ダイビング前の健康状態評価 • ある種の職業での就業適性検査の実施 スパイロメトリーの種類 • 据え置き型スパイロメーター: ボリュームの測定: 主に肺機能ユニット • デスクトップ型電子スパイロメーター: リアルタイムディスプレー表示付で気流と ボリュームを測定 • 小型手持ち式スパイロメーター: 低価格ですばやく測定できるが結果の プリントアウトができない ボリューム測定用スパイロメーター フロー測定用スパイロメーター デスクトップ型電子スパイロメーター 小型手持ち式スパイロメーター 標準的なスパイロメトリー測定項目 • FEV1 – 努力性1秒量: 最初の1秒間に呼出される空気の量 • FVC – 努力性肺活量: 1回の呼吸で努力性呼出される空気の総量 • FEV1/FVC 1秒率: 最初の1秒間で呼出される空気の量の総呼出量に 対するパーセンテージ その他のスパイロメトリー測定項目 • VC – 肺活量: ゆっくり時間をかけて呼出したときに呼出される空気 の総量。特にCOPDではFVCより大きくなることが多い。 • FEV6 – 努力性6秒量: FVCとほぼ同じであることが多い。COPD患者や高齢 者で1秒量より測定しやすいが、COPD診断上の意義 は検証中である。 • MEFR – 中間呼気流速: フローボリュームカーブの中間から得られる指標であ るが、COPDの診断には有用性がない。 肺気量に関連する用語 Inspiratory reserve volume (予備吸気量) Total lung capacity (全肺気量) Inspiratory capacity (最大吸気量) Tidal volume(1回換気量) Expiratory reserve volume (予備呼気量) Residual volume (残気量) Vital capacity (肺活量) スパイログラムのパターン • 正常 • 閉塞性換気障害 • 拘束性換気障害 • 閉塞性と拘束性の混合性障害 スパイロメトリー 正常予測値 正常予測値 影響する要因: 9 年齢 9 身長 9 性別 9 人種 正常値の基準 気管支拡張薬吸入後のスパイロメトリー • FEV1: % predicted > 80% (正常予測値の80%以上) • FVC: % predicted > 80% (正常予測値の80%以上) • FEV1/FVC: > 0.7 (1秒率が70%未満でない) FEV1 と FVCの正常例 (ボリューム-タイム曲線) FVC Volume, liters 5 4 FEV1 = 4L 3 FVC = 5L 2 FEV1/FVC = 0.8 1 1 2 3 4 5 Time, seconds 6 スパイロメトリー 閉塞性疾患 閉塞性換気障害のスパイロメトリー例 (ボリューム-タイム曲線) Volume, liters 5 4 Normal 3 FEV1 = 1.8L 2 FVC = 3.2L 1 FEV1/FVC = 0.56 1 2 3 4 5 Time, seconds 6 閉塞性 (Obstructive) スパイロメトリーによるCOPDの診断 • COPDの診断基準は気管支拡張薬吸入後の 1秒率が70%未満( FEV1/FVC < 0.7) • 気管支拡張薬吸入後のFEV1/FVCはサルブタ モール400µg(または等価の気管支拡張薬) 吸入15分後に測定する 気管支拡張薬による可逆性試験 • ベストな FEV1 (and FVC)が得られる • COPDと気管支喘息の鑑別に有用である 臨床歴を考慮して診断すること。 スパイロメトリー単独で、気管支喘息やCOPD を診断することはできない。 気管支拡張薬による可逆性試験 • 未診断患者に対して、初回診察時に実施するこ とができる • 望ましいのは、気管支拡張薬吸入前後のスパイ ロメトリーを実施する(最低20分は必要)方法。 • 気管支拡張薬吸入後のスパイロメトリーだけで あれば時間を短縮できるが、気管支喘息の有無 が確定できない。 • 検査の4時間以上前から、短時間作用型気管支 拡張薬の使用をやめさせる必要がある。 気管支拡張薬による可逆性試験 気管支拡張薬* サルブタモール テルブタリン イプラトロピウム 用量 200 – 400 µg 大きなスペーサーで吸入 500 µg 専用スペーサーで吸入 160 µg** スペーサーで吸入 FEV1 測定の タイミング 吸入前& 15分後 吸入前& 15分後 吸入前& 45分後 * いくつかのガイドラインでは、ネブライザーによる気管支拡張薬の吸入も可能としている が、標準的な用量は示されていない。「検査室での使用薬剤、用量、吸入方法に関する コンセンサスはない」 Ref: ATS/ERS Task Force : Interpretive strategies for Lung Function Tests ERJ 2005;26:948 ** 通常、 20 µgを8パフ Figure 5.1-6. COPD患者の 気管支拡張薬によ る可逆性試験 GOLD Report (2006) Figure 5.1-6. COPD患者の 気管支拡張薬による可逆性試験 準備 • 検査は患者の状態が安定しており、気道感染がないと きに実施すること。 • 検査の前には、気管支拡張薬を使用してはいけ ない 9 短時間作用型気管支拡張薬は6時間前から 9 長時間作用型気管支拡張薬は12時間前から 9 テオフィリン徐放性製剤は24時間前から Figure 5.1-6. COPD患者の 気管支拡張薬による可逆性試験 スパイロメトリー •FEV1 は気管支拡張薬吸入前に測定する (差が 5%以内のデータが少なくとも2回得られるまで) •気管支拡張薬は、スペーサーを使ったMDIまた はネブライザーを使って、やり慣れた方法で吸入 する。 •気管支拡張薬の用量は、用量反応曲線上の高 用量を選択する。 (…..続く) Figure 5.1-6. COPD患者の 気管支拡張薬による可逆性試験 スパイロメトリー (続き) • 使用可能な気管支拡張薬の用量: 9 400 µg のβ2-刺激薬 または 9 80-160 µg の抗コリン薬 または 9 上記2つの組み合わせ • FEV1 を再度測定する: 9 短時間作用型β2-刺激薬吸入の10-15分後 9 混合の場合、吸入の30-45分後 Figure 5.1-6. COPD患者の 気管支拡張薬による可逆性試験 結果 • FEV1が気管支拡張薬吸入前(ベースライン) より200mLおよび12%増加すれば、可逆性が あると考えられる。 • 変化率(%)に加え、ベースラインからの変 化の絶対量(mL)を記録することは治療指 針の決定に有用である。 スパイロメトリー 拘束性疾患 拘束性換気障害: • FEV1: % predicted < 80% (正常予測値の80%未満) • FVC: % predicted < 80% (正常予測値の80%未満) • FEV1/FVC: > 0.7 (1秒率が70%未満でない) 拘束性換気障害のスパイロメトリー例 (ボリューム-タイム曲線) Normal Volume, liters 5 4 拘束性 (Restrictive) FEV1 = 1.9L 3 2 FVC = 2.0L 1 FEV1/FVC = 0.95 1 2 3 4 5 Time, seconds 6 閉塞性と拘束性の混合性換気障害 • FEV1: % predicted < 80% (正常予測値の80%未満) • FVC: % predicted < 80% (正常予測値の80%未満) • FEV1 /FVC: < 0.7 (1秒率70%未満) 混合性換気障害のスパイロメトリー例 Volume, liters (ボリューム-タイム曲線) Normal FEV1 = 0.5L 閉塞性と拘束性の混合 FVC = 1.5L FEV1/FVC = 0.30 Time, seconds 拘束性と拘束性の混合性換気障害をスパイロメトリーだけで診断するのは難し く、通常、総合的な肺機能検査が必要となる(ボディ・プレチスモグラフィなど) スパイロメトリー フローボリューム フローボリューム曲線 • ほとんどのデスクトップ型スパイロメー ターで測定できる • ボリューム-タイム曲線よりも多くの情報が 得られる • あまり理解されていないが、解釈はそれ ほど難しくない • 軽い気流閉塞を示すのに効果的である フローボリューム曲線 最大呼気流速 (PEF:ピークフロー) 呼気流速 L/sec TLC: 全肺気量 FVC: 努力肺活量 吸気流速 L/sec Volume (L) RV: 残気量 フローボリューム曲線のパターン 閉塞性と拘束性換気障害 閉塞性障害 Volume (L) ピークフローが低く、 カーブが内側に凹む 拘束性障害 Expiratory flow rate Expiratory flow rate Expiratory flow rate 重度の閉塞性障害 Volume (L) 極端な例では ピークフローが低く、 すぐに流速が減じる Volume (L) 形は正常で ピークフローも正常だが ボリュームが小さい スパイロメトリー(ボリューム-タイム曲線) の異常パターン 閉塞性障害 Time 上昇が遅く、 呼出量が少なく、 最大呼出量到達まで に時間がかかる 混合性障害 Volume Volume Volume 拘束性障害 Time 立ち上がりが早く すぐにプラトーに達するが 最大呼出量は小さい Time 最大呼出量は減少し、 カーブはゆっくりと上昇。 確認のために 安静時肺気量測定と 総合的な肺機能検査を 行う必要がある。 実践編 スパイロメトリーの実施 スパイロメトリーのトレーニング • 正しい実施法と結果の解釈を学ぶためにトレーニング はきわめて重要である。 • スパイロメトリーの適切な実施法を習得するには、最低 3時間のトレーニングが必要である。 • よいスパイロメトリー実施法と診断技術を身につけるた めには、実践と評価、レビューが必要である。 • スパイロメトリーの実施(誰が、いつ、どこで)は、地域の ニーズと資源に合わせて調整する必要がある。 • スパイロメトリーのトレーニング法は評価される必要が ある。 正常予測値を設定する • スパイロメーターの種類によって設定方法は 異なる • 測定対象集団に最も適した値を選択する • スパイロメーターにあらかじめ設定されている 場合には、適切かどうかをチェックする 最適の状態で実施するため、 検査対象者は検査の前に 10分間の休憩をとるべきである。 薬剤の使用を中止する スパイロメトリーの前には次の薬剤を使わない: 9 短時間作用型β2-刺激薬は6 時間前から 9 長時間作用型β2-刺激薬は12 時間前から 9 イプラトロピウムは6 時間前から 9 チオトロピウムは24 時間前から 最適の状態で実施するため、 検査対象者は検査の30分前から カフェイン摂取やタバコ喫煙を避けるべきである。 スパイロメトリーの実施: 準備 1. 検査の目的を説明し、やり方を示す。 2. 患者の年齢、身長、性別を記録し、スパイロメーター に入力する。 3. 検査前に気管支拡張薬を使用した時間を確認する。 4. 患者を楽な状態で座らせる。 5. 衣服がきつい場合にはゆるめる。 6. 必要であれば排尿させ膀胱を空にする。 スパイロメトリーの実施 • 肺がいっぱいになるまで、息を吸わせる。 • 息をとめて、マウスピースに唇をしっかりあて てくわえさせる。 • 一気に、できるだけ強く、速く息を吐き出させる。 声をかけて激励する。 • 肺が空っぽになったと感じるまで呼出を続けさ せる。 スパイロメトリーの実施 • 患者が呼出を続ける間、マウスピースから息が もれないよう唇でしっかり塞いでいることを注意 深く観察する。 • 適切なカーブが得られたかどうかをチェックす る。 • 少なくとも2回、理想的には3回、差が100mL以 内かまたは5%以内に収まる結果が得られるま で、繰り返して行う。 Volume, liters 再現性:質のよい結果 Time, seconds 3回の測定でFVCの差が5%または0.1 L(100 mL)以内に収まる スパイロメトリーで起こりうる有害事象 • めまいやふらふら感 • 頭痛 • 潮紅 • 失神: 静脈還流量の減少または血管迷走神 経性発作(反射)による • 一過性の尿失禁 最近心臓発作や脳卒中を起こした人には スパイロメトリーは実施すべきでない スパイロメトリーの品質管理 • 一貫性のない結果が得られる原因で最も多い のは、患者の技術的な問題である。 9 十分に息を吸い込めていない 9 呼出努力が十分でない 9 呼出努力が遅れる 9 十分吐き切る前に呼出をやめる 9 マウスピースの回りから息漏れする • 検査の間はずっと、対象者を十分観察し、激励 する必要がある。 スパイロメトリーの一般的な問題 9 不十分または不適格な呼出 9 一気に呼出しようとする努力がなされない 9 最大努力を開始するのが遅れる 9 マウスピースを完全に唇で塞いでいない(息漏れ) 9 呼出中に咳をする 9 呼出中に息を吸ってしまう 9 声門を閉鎖したり、またはマウスピースを舌や歯で塞 いだりしてしまう 9 姿勢が悪く、前傾になる 装置のメンテナンス • ほとんどのスパイロメーターは、定期的にキャリブ レーションを実施して精度を確認する必要がある。 • キャリブレーションは通常3リットルのシリンジを使っ て行う。 • 1日1回または1週間に1回のキャリブレーションを必 要としない電子スパイロメーターもある。 • 機器を清潔に保ち、感染を防ぐことは重要である。操 作マニュアルに従って実施すること。 • スパイロメーターは定期的にメンテナンス・サービス を受ける必要がある。製造元の勧告を確認すること。 トラブルへの対応 例 – よい結果が得られない場合 Volume, liters 不適格なカーブ:呼出努力不十分 Normal 呼出努力にムラがある 呼出努力を最後まで続けていない 呼出努力を始めたのが遅い可能性がある Time, seconds 不適格なカーブの例: 吐き切る前に呼出をやめる Volume, liters Normal Time, seconds 不適格なカーブの例: 呼出努力のスタートが遅い Volume, liters Normal Time, seconds 不適格なカーブの例: 呼出中に咳をする Volume, liters Normal Time, seconds 不適格なカーブの例: 呼出中に息を吸ってしまう Volume, liters Normal Time, seconds スパイロメトリーに関する参考資料 • Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease (GOLD) - www.goldcopd.org • Spirometry in Practice - www.brit-thoracic.org.uk • ATS-ERS Taskforce: Standardization of Spirometry. ERJ 2005;29:319-338 www.thoracic.org/sections/publications/statements • National Asthma Council: Spirometry Handbook www.nationalasthma.org.au スパイロメトリーに関する参考資料 • スパイロメトリーハンドブック(社団法人 日本呼吸 器学会 肺生理専門委員会編)- www.jrs.or.jp/