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時間の矛盾 第1章 はじめに 第2章 研究の展開

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時間の矛盾 第1章 はじめに 第2章 研究の展開
タイムパラドックス
時間の矛盾
所属:物理系
2年8組21番
志村 例音
第1章 はじめに
第1節 主題設定の理由
タイムトラベルを扱った SF 作品は数多く存在する。しかし、タイムトラベルというテーマ
は同じでも、
『タイムパラドックス』に関する表現方法は作品によって大きく異なる。ある作品
では、過去を変えたことで現在に影響が及んだり、別の作品では、どんなに過去を変えようと
しても絶対に過去は変えられなかったりと、実際はどれが正解なのかと以前から疑問に思って
いた。そこで、今回の総合学習を機にこの疑問に対する本当の答えを理論物理の観点から調べ
てみよう思ったのである。
第2節 研究のねらい
「時間」という物理学上最も難解ともいえる分野に関する理解を深めるとともに、理論物理
に対する興味・関心を高める。
第3節 研究の見通し
タイムパラドックスに関する疑問に理論物理の観点から迫り、タイムパラドックスについて
の解決方法を考察する。
第4節 研究の内容と方法
1 研究の内容
今回行う研究は以下の2点である。
①過去へ行くことはできるのか。
②タイムパラドックスの解決方法について~親殺しのパラドックスを例に~
2 研究の方法
書籍・インターネットを通した文献調査
第2章 研究の展開
第1節 過去へは行けるのか
タイムパラドックスへの解決方法を研究する前に1つ明らかにしておかなければならないこ
とがある。それは、そもそも過去へのタイムトラベルは可能かということだ。今回の研究テー
マは『タイムトラベル』ではなく、あくまで『タイムパラドックス』のため未来へのタイムト
・
・
・
ラベルについては触れないが、結論を言ってしまうと未来へのタイムトラベルは理論上確実に
-1-
可能である。問題なのはこれから取り上げる過去へのタイムトラベルについてである。確かに
未来へ行くのは時間という流れに沿っているのに対し、過去へ行くことは時間という流れに逆
らわなければならない。時間を川の流れに例えるのなら、未来へのタイムトラベルは川の流れ
に沿って動力付きの船(タイムマシン)で進むことであるのに対し、過去へ行くことは上流に
向かって船を無理矢理進めることである。こう考えれば過去へ行くことがどれほど厄介なこと
かということが専門的な知識のない我々にも想像がつくだろう。さて、前置きが少々長くなっ
たが、これから過去へのタイムトラベルが可能かどうか、具体的な方法も提示しつつ紹介して
いこうと思う。
1 過去には行けない仮説
まず紹介したいのは、過去へいくことは一切不可能であるという考え方である。過去へ行く
のは因果律(すべての事象は、必ずある原因によって起こり、原因なしには何ごとも起こらな
いという原理)が崩れること(要するにパラドックスが発生すること)を理由に不可能だと考
える物理学者は多いが、代表的な考え方としては「車椅子の物理学者」として知られるイギリ
スの物理学者スティーブン・ホーキング博士が提唱する時間順序保護仮説が有名である。これ
は、過去へ行こうとするとそれを邪魔する自然現象が必ず発生し、結果的に過去へ行くことは
出来ず、パラドックスが発生しないという考え方である。例えば、過去へ戻れるタイムトンネ
ルを作ったとしても、量子効果と呼ばれる現象が生じてトンネルが非常に不安定になり、すぐ
につぶれてしまうといった具合である。この自然現象は量子論という原子や素粒子といった
1000 万の 1 ミリメートル以下の物質のふるまい方について示した理論によって説明されるもの
で、過去へのタイムトラベルを禁止していない相対性理論(後述)とは真逆の内容になってい
る。
2 過去には行ける仮説
次に紹介するのは、先ほどとは逆に過去へのタイムトラベルを肯定する説である。先程も少
し述べたが、過去へ行くことは相対性理論では禁止されていない。それどころか、相対性理論
の方程式を解くと、もし宇宙全体が回転していれば時間がループしているという考え方が存在
しているのである。どういうことかというと、時間は何千億年というスパンで循環しており、
未来の行きつく先は過去であるということである。この考え方を示したのは、アメリカのプリ
ンストン高等研究所でアインシュタインの同僚であったクルト・ゲーテルという数学者で、過
去へ行く方法を初めて具体的に示した人物と言われている。過去へ行くのは不可能だという物
理学者も多い一方、クルト・ゲーテルをはじめとし過去へのタイムトラベルに肯定的な物理学
者もいることは事実であり、必ずしも空想上の産物でないことは確かなのである。
3 過去への行き方
以上のように過去へのタイムトラベルは否定的な考え方をする物理学者も多い一方、理論上
必ずしも不可能なことではない。では、過去へ行くためには具体的にはどのような方法がある
かここではまとめていこうと思う。
(※今回は2つの方法を挙げたが、この他にもさまざまな方
法がある。
)
-2-
方法1:ワームホールを利用する(図1)
キップソーンが1988年に発表し
た方法である。ワームホールとは出入
り口の2か所を同時刻でつないだもの
で、2か所をほぼ一瞬で移動できると
いうものである。作り方は以下の通り。
①10兆度の超高温状態を作り出す。
②超高温の塊を圧縮、さらに加熱する
ことで小さなワームホールが出来る。
③できたワームホールを拡大する。
④図1のように B 地点の出口を光に近
い速度で C 地点まで移動させ、再び B
地点に戻すことでワームホールの出口
と入口に時間差を作る。これは、相対
性理論の「動いている物体の時間は遅
く進む」という性質を利用したもので
ある。
図1 ワームホール型タイムマシンの作り方
方法2:宇宙ひもを利用する(図2)
(図の出典:tokyotimetravel.wordpress.com)
宇宙ひもとは宇宙の初期に
「真空の
相転移」
(最低のエネルギー状態が温度
の変化のため最低ではなくなり、よりエ
ネルギーの低いエネルギー状態に移行
すること。たとえば、水が0度以下にな
ると氷に変化するようなものである)と
いう現象の過程で作られ、現在も存在す
ると予測されているひも状のエネルギ
ーのかたまりである。まだ存在は確認さ
れていないが、
亜光速で移動する2つ
図2 宇宙ひもを利用するタイムトラベル
の宇宙ひもを利用すれば過去へ行く
(図の出典:tokyotimetravel.wordpress.com)
ことが出来るのではないかといわれ
ている。
具体的な方法としては、
図2の A 地点を3時に出発し B 地点に4時に到着したとする。
B 地点と C 地点は空間的にくっついているので、すぐに C 地点から出てくる。しかし、静止し
ている観測者から見ると、左側に移動している宇宙ひもの右側の時刻は進んでいる(光の進行
方向と同じ方向に光速に近い速度で移動するため、左右の光が観測者に到達するのに時間差が
発生する。
)ので、B 地点に到着するより先に C 地点から出てきたように見える。左側より右側
のほうが3時間進んでいるとすると,1時に C 地点から出てきたように見える。1時に C 地点
-3-
を出て、2時に D 地点へ到着する。同様にして、D 地点、E 地点、F 地点を経由して A 地点へ
1時に到着する。このようにして、A 地点を3時に出発して、1時の A 地点へ戻ることができ
る。
第2節 タイムパラドックスの解決方法について
~親殺しのパラドックスを例に~
1 タイムパラドックスの具体的な解決策について
第1節では過去へのタイムトラベルが理論上可能であることを示した。未来へのタイムトラベ
ルと違ってまだ確実ではないが、それでも可能性はあるのは確かであることが判明した。では、
過去に行くことはできると仮定したうえで、タイムパラドックスについて考えてみたいと思う。
今回タイムパラドックスの例として使うのは「親殺しのパラドックス」である。これは、過去へ
行った人が自分を生む前の母親を殺すことで発生するパラドックスである。自分の母親が自分を
生む前に死んでしまえば当然自分は生まれない。自分が生まれないということは、母親は未来か
ら来た自分に殺されることはない。これは明らかにつじつまが合わない奇妙な現象である。この
パラドックスを解決するには理論物理学では以下のような方法があるとされている。
方法1:自己矛盾の原理
自己矛盾の原理とは「例え過去に戻っても、因果律を破ってタイムパラドックスを引き起こす
行為は絶対に出来ない」という考え方である。要するに過去は絶対に変えられないということだ。
SF 作品でいうなら、H・G・ウェルズの『タイムマシン』がこのパターンにあたる。親殺しのパ
ラドックスの場合、親を殺そうとしても銃が詰まってしまったり、殺そうとしている場面を目撃
されて取り押さえられてしまったりというように何かしらの邪魔が絶対に入り、過去は変えられ
ないのだ。
方法2:多世界解釈
これは「母親を殺した世界」と「母親を殺さなかった世界」が同時並行で存在するという考え
方である。つまり、殺したのは「もう1人の母」であり、未来からやってきた自分には一切影響
がないというということだ。まるで SF 作品のような解釈の仕方だが、これには第2章でも登場
した量子論が関係してくる。量子論の示すミクロの物質の性質の1つに「私たちが見ていないと
き、ミクロの物質は波になっており、私たちが見た瞬間に、広がった電子の波は収縮してしまう」
というものがある。なぜ私たちが見た瞬間に波が収縮するかは分かっていないが、1部の物理学
者がこの性質に基づいて「電子の波は私たちの世界とは別の複数の世界にまたがっている」とい
う説を唱えた。どういうことかというと、私たちがいる「この世界」では、電子はある1点にい
る。しかし「別の世界」では電子は別の点にいる。複数の世界で複数の場所にいる電子の状態が、
私たちには「波のように広がった電子」として把握されているということなのである。これが「多
世界解釈」なのである。
-4-
2 正しいのは?
さて、ここまででタイムパラドックスに対する解決策をすべて挙げた。1つは「自己矛盾の原
理」
。2つめは「多世界解釈」
。そしてもう3つ目は「過去へのタイムトラベルは不可能(つまり、
パラドックスは発生せず、解決策を考える必要ない)」の3つである。しかし問題なのは結局のと
ころどれが本当に正しいのかということだ。結論から述べてしまおう。答えは「はっきりとは分
からない」である。過去へ行けるか行けないかという疑問に対しても同様である。ここまで読ん
でくれた人からすれば、
「そんな結論があるか!」と言いたくなるかもしれないが、この問題の答
えを知るのは非常に難解で、世界中の物理学者でさえも頭を抱えているのである。ましては学者
でない自分が答えを求めるのはあまりにも無理がある。力及ばず申し訳ないが、なぜこんなにも
この答えを求めるのが難しいか説明しよう。原因は今回の研究でもたびたび登場した「相対性理
論」と「量子論」にある。この2つの理論は共に現代物理学を飛躍的に発展させ、いまや現代物
理学の柱となる理論であるが、1つ大きな問題がある。それは2つの理論を同時に成り立たせよ
うとすると矛盾点が発生するということだ。矛盾点をすべて説明するのは専門的な知識がないと
難しいが、具体例を1つ挙げると、先ほどの「多世界解釈」の説明時に、量子論では物質の状態
は1つに確定できないと説明した。これを詳しく説明すると、電子は様々な場所に発生する確率
があり、それぞれの場所に電子が現れる確率を足し合わせると常に100%になるのだ(これを
「確率が保存する」という)
。これに対し相対性理論にこの考えを当てはめると、確率の合計が保
存されず変動的であり、それを避けようとすると「マイナスの確率」という妙な数値が発生して
しまうのである。このように、2つの理論を同時に成り立たせようとすると、必ずつじつまが合
わない点が発生するのである。いうなれば相対性理論と量子論は犬猿の仲と言えるのだ。この相
性の悪い2つの理論を融合させた理論を「量子重力理論」というがこの理論の完成したときこそ、
今回の研究のすべての疑問の答えが明らかになるときなのである。
第3章 感想・まとめ
今回の研究では残念ながら、タイムパラドックスの真実を完全に明らかにすることは出来なか
った。しかし、今日も量子重力理論を完成させようと多くの物理学者が研究している。いつかす
べての謎が明らかになる日も遠くないかもしれない。また、タイムマシンはよく永久機関をつく
ることに似ている(要するに作ることは不可能)という物理学者もいる。確かに過去に行くこと
は容易でないことは今回の研究を通してはっきり分かった。しかし、可能性が0でないこともま
た確かである。タイムマシンを SF だけに存在するものと考えず、探求していけば本当に空想が
現実になるかもしれないし、仮に行き着いた答えが「タイムマシンは建造不可」だとしても、あ
らたなる時間に対する発見があるかもしれない。時間という物理学の分野は難解ながらも、非常
に興味深い分野であると、この研究を通して実感した。
-5-
第4章 参考文献
・タイムマシンを作ろう!(ポール・デイヴィス著
・Newton(ニュートンプレス)
・タイムマシンがみるみるわかる本(佐藤勝彦著)
・
【図解】相対性理論と量子論(佐藤勝彦著)
・tokyotimetravel.wordpress.com
-6-
林一訳)
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