Comments
Description
Transcript
医療訴訟 医療側の言い分
東京医科歯科大学大学院 医療政策学講座 高瀬浩造 2008-02-17 ` 刑事的責任 ` 民事的責任 ` 行政的責任 ` ` ` ` ` ` ` 組織内での常識は議論されない 組織内での常識は記録されない 内部では、何の疑問も持たれない 外部からは、理解されない(非常識) 外部が理解しないことの理由がわからない その集団が社会で孤立する潜在理由 意識改革の標的 ` ` ` ` ` ` ` 「医療訴訟に巻き込まれた」 「運が悪かった」 「悪い患者に当たった」 「患者に良かれと思ってやったのに」 ・・・・・・・・・ 加害者意識の欠如、逆に被害者意識 事例は、氷山の一角ではないかという意識 なぜ、訴訟になったのか正確に理解できていない ` 「医は仁術」とした場合の医療は、 ◦ ボランティア精神 ◦ パターナリズム ◦ 最大努力型 ◦ サプライチェーン ◦ コスト意識の欠如 ◦ 世襲的な医師のメンタリティー ` 「医は仁術」としない場合の医療は、 ◦ プロフェッショナル意識 ◦ サービスの提供(患者のニーズへの対応) ◦ 技術に対する責任意識 ◦ バリューチェーン ◦ 強烈な生産性意識 ◦ 職業としての医師の選択 安全管理の必要性・重要性は認識されていたが、 ` 安全管理の方法が分からない ` 安全管理に関わる実態が把握できない ` 安全管理に関する情報が収集できない ` 安全管理に関わる経費、財源が見当らない 1. 2. 3. 4. 問題発生時に速やかに対策を講じることが出来るか 事故の発生を予測し防止策を講じることができるか 正確な事故の発生頻度を予測できるか 事故発生についての情報開示を行えるか 1)病気が原因 2)医療技術・水準の問題 3)安全管理上の問題 ` ` たとえ2)3)が問題でも、医療を受けた理由は1)では。 だから病気が悪い? 2)3)は、センチネルイベントに該当 ` 原則医療保険制度には含まれていない ◦ (例外)院内感染対策に対する加算 ◦ (例外)特定指定病院に対する加算 x 現実には、十分対応できていない ` ` ` 医療機関の体制あるいは良識任せ 医療事故及び風評により、賠償以外に数億円の減 益:安全管理コストの根拠 財源は保障されているのか ` 医療における判断のプロセス ◦ 可能性の高いものから考えていく x 特異的にその症状・結果が見られる疾患 x 低確率でその症状・結果が見られるが、高頻度の疾患 ◦ 順次、事前確率を事後確率に修正しながら判断 ◦ 診療上のリスク判断も同様 ◦ 時間的な余裕はない ` 「鑑別」診断 ◦ 法曹界では、「鑑別」はdiscrimination , 少年鑑別所など ◦ 医療では、 「鑑別」はdifferential, 比較検討の意味 x 裁判所はしばしば「鑑別」が終了していないのに治療を開始する ことに違和感を感じている ` 医療において常識的な用語の用法が、司法を含めて 一般社会の用法と異なる場合がある ` 「まれ」とはどの程度の頻度のことか ◦ 司法:頻繁ではないこと、5-10%程度の頻度 ◦ 医療:めったにないこと、0.1%以下、少なくとも1%以下 x 「極めてまれ」とは、無いとは言えないが、見たことはない ` 因果関係を否定できるか? ◦ 医療・医学では可能性が否定できないものは排除しないと教 育されている ` ` ` ` 法曹での処理 特殊例→判例→一般化 医療での処理 特殊例→例外→特殊化 医療の司法評価(手術の例) 明らかなミス 不顕性のミス 技術に依存する合併症 異常 不可避な合併症 正常な医療行為 刑事訴追の可能性 損害賠償の対象 意図的な傷害行為 医療紛争 対象 診断の困難さ 患者の不利益 医療水準1 許容水準 医療水準2 医療水準1での診断可能時期 手遅れ 早期診断 時間経過 ` 裁判所がpivotalと考える「点」が争点 ◦ その時点で,どう判断すべき,どう対処すべき ◦ その時点でのその行為がどう影響を与えたか ` 医療は点ではなく,時間経過(線) ◦ 全体的な流れで医療行為を評価して欲しい ◦ 選択肢の存在、裁量権 ` ` 法律では学説(通説・異説)に対する比較論が発達 法曹界は医療の比較論もあると誤解 ◦ どちらの治療方法が優位であるかの判断がされていると誤解 ◦ EBMに過大の期待 ` 薬剤の添付文書は絶対と誤解 ◦ ほとんど現場では利用されていないのに ◦ 内容は画一的で、現実にそぐわないのに 医療水準・医療の質の要素 1. 医療技術水準 2. 安全管理水準 3. 患者満足度 前の段階が十分な水準に達して次の要素 が意味を持つ Standard Risk-ALLの場合(1980以前は未分類) 寛解導入率 3年DFS 5年DFS 1960年 50% 20% <10% 1975年 75% 50% 30% 1980年 90% 70% 50% 現在 >95% 90% 80% この30年間で明らかな改善が認められる。 変化が著しい時点では、施設間較差が拡大していたと予想される。 1960年代にALLの患者に安全管理の意味があったのか。 ` 合併症 ◦ 問題のない医療者が問題のない手順・手技で実施しても発 生する事象 ◦ 不可避な合併症/能力に依存する合併症 ◦ 予見され説明済みの合併症/不測の合併症 ` 過誤 ◦ 手順・手技のあきらかな問題 ◦ 熟達度の問題(不適切な術者) ◦ 指示など情報の間違い ` ` やってはいけないことを行った(非適用) やるべきことを行わなかった ◦ これにより、患者に不利益が発生した ` 患者の期待に添えなかった ◦ ◦ ◦ ◦ 医療契約は、結果主義ではない 患者の期待度が高いほど訴訟になりやすい 医師の裁量権の問題 インフォームドコンセント 診療現場としての対応 1)患者の被害を最小限に食い止める 2)情報の記録 3)家族への対応 4)警察への届け出および司法解剖の必要性 事故調査 情報管理 適応に問題はないか ` インフォームドコンセントは妥当か ` 術者は妥当か ` 手技・手順に問題はないか ` 患者への対処法の説明は十分か ============================= ` 発生後の処置・対応に問題はないか ` 患者が被った損害の程度は ` 改善の余地はあるのか(予見性、回避性) ` ` 医療保険制度 ◦ 支払い制度であり、医療制度ではない ◦ 保険診療は、保険で請求される医療ということで、保険適用 外の医療は行わないという契約ではない ` 保険適用外で医学的に有効な治療法があり、本人が 希望した場合 ◦ 保険適応外というだけでは拒否できない ` 違法性阻却事由 ◦ 障害行為が違法とみなされない ◦ 妥当性 x 診断が的確で、その医療行為の適応に問題がない x 具体的な医療行為の実施方法・実施者に問題がない x 患者個人の自己決定権が尊重されている ◦ 言い換えると x やることに相当性があること x やり方に妥当性があること x 同意があること 違法性が無い ` 注意義務 問題回避(一般*の医療水準において) ◦ 予見可能性 ◦ 回避可能性 ` その他の違法行為 一般*とは、その医療機関の水準による ` ` 診療契約として債務不履行がない 権利侵害 ◦ 安全で、有効な医療行為を受けられるために、医療側は最 善を尽くすものという前提 ◦ 患者の自己決定権の行使 ◦ 特殊な状況 x 期待権 x 特殊な契約(特約) ` その時点での妥当な患者の判断材料 ` 医学的に妥当な知識集約 ` 違法な内容ではないこと ◦ ◦ ◦ ◦ ◦ EBMがある場合はエビデンス 大規模統計があれば、解説付きで 自験例の集計があれば,注意付きで 患者の要望に応えた説明があるべき 患者の誤解を解消すべき ◦ 第三者の医師の立場で見ても妥当か ◦ セカンドオピニオンの有効利用 ◦ 他の医療機関での成績との比較は ` 内容は ◦ ◦ ◦ ◦ ◦ ◦ ` 患者の自己決定権を侵害しないもの 「そのことを説明されていたら、選択しなかった」 具体的に誰が、何を、どこで、いつ、実施するのか 妥当性、論理性のある説明 患者の知識、理解力に対応した説明 他の医療機関での治療も選択肢となること 手順 ◦ 口頭でも可能、ただし文書での実施が不可能な場合 ◦ IC実施者の資格、権限が重要:介入の実施者との関係 ◦ 陪席者の重要性 ` ` ` ` ` 本人への説明をしていない 同じ処置なので、初回のみ実施 内容が医学的におかしい 強要的な内容・表現がある 患者の誤解を招きやすい内容・手順 ◦ ICの実施者と術者が違う ◦ 紹介対象者と術者が違う ◦ 「考えていたことと違う」は慰謝料の対象 ` 違法性阻却事由の構成を証明 ◦ 論理的に解説可能 ◦ 診療録にその証拠が残っている ` 患者の自己決定権が尊重されている ◦ インフォームドコンセント(内容、手順) ` 合併症が発生した場合 ◦ 不可避であることの証明と説明義務の遵守 ` 診療契約として期待権侵害が無いこと ◦ 診療の選択が、裁量権の範囲内であること ` 診療録で違法性阻却事由が構成できない ◦ 「適用に問題がある」が多い ` 予見可能性、回避可能性があった ◦ 注意義務違反 ` インフォームドコンセントが不備 ◦ 説明義務違反 ` 患者の期待権侵害 ◦ 患者のニーズを把握していない、慰謝料 倫理的に問題ありとされる場合 ` ◦ 血友病保因者での胎児診断 適用外だが患者が希望する場合 ` ◦ 手術適用から外れるも、希望がある場合 1. 患者の自己決定権の行使は、違法性阻却の範囲内に 限られる。社会性の範囲に限られる。 2. 適用を超えて患者が希望するのは、説明に問題がある のでは。 ` 同じ処置であっても、そのつど必要 ◦ 患者は前回の処置でいやになっているかも ◦ ドナーは、麻酔の直前まで翻す権利 ` 本人以外への説明でよいのは ◦ ◦ ◦ ◦ 本人が希望した場合 本人に意識が無い場合 本人の判断力に疑義ありと判断された場合 家族は第三者、特に本人が希望しない限り家族への説明 は違法、ましてや家族だけへの説明は本人への人格権の 侵害(入院時などあらかじめの確認が重要) ` ` ` ` ` ` 医療側に課せられるリスクに対して、報酬が低すぎ るのでは(国民皆保険は医療の味方?) 医療従事者は、この収入でやっていけるのか 現在の診療報酬制度には、安全管理は勘案されて いない、事故は起きない設計 でも、それを承知で医療をやってるのでしょ 医療賠償保険の崩壊 社会に対して、医療者の立場を発信する必要性 ` ` 医療側は、患者を選べないことがリスク 患者教育の重要性 ◦ 診察なしでの処方要求:訴訟患者に多い ◦ 無意味に高い患者期待度:訴訟患者に多い ◦ 医師の正確な指示に対応できない患者は、自己責任で:一 方的な信頼よりは教育 ` 危険な「患者のため」 ◦ 積極的処置のない末期の患者への対応 ` ` 次の3要素のうち、2つしか実現できない 1) 医療の水準 2) アクセシビリティー 3) 低コスト 医療の生産性=質 x 量=医療の人的資源 ◦ 国民が期待する質と量の医療を提供するには、人的資 源があきらかに不足 ◦ 医療従事者への過重労働の強要状態 ◦ 質より量を低コストでという政策:安全管理の軽視 ` ` ` ` 本来医療行政が負わねばならないリスクを医療現場 および患者に負わせている 医療事故の刑事訴追(法の不備) 問題のある医療従事者への対応(法の不備) 医療環境の問題 ◦ ◦ ◦ ◦ 予防接種行政のつけ 医薬品・機器認可のつけ 中医協の機能不全 医療機関は信用できないという風評 ` 不測なので、説明していない ◦ 「そんなことがあるのなら、やらなかった」 ◦ 自己決定権の行使に影響 ◦ 説明義務違反の事実 ` 医療側も no care ◦ 予期していれば回避できた可能性は ◦ 一般には、知られていなかったのか ◦ 注意義務違反の可能性 ` 潜在的に、技術に依存する合併症では ` 難しい症例を対象とする場合 ◦ 医療技術水準が高度の場合:チャレンジ ◦ 医療技術水準が低い場合:練習?(犯罪性) ` 難度症例に高度水準で対応 ◦ 医療水準が+20%なら、+20%以内の難度を ◦ 難度症例を対象としても、成績は水準以上 ◦ 水準以上の難度症例を対象とすると、成績から水準保障で きない ` 一般的に適応でない(over indication)が、本人が 強く希望している場合の対応 ◦ 適用外なので違法性が阻却できない危険性 ` 包括的に倫理審査を受ける ◦ チャレンジであるという技術水準を保証 ◦ 本人の同意について、倫理上のチェック(IC) ◦ 一般症例と分離する x 症例集計、治療成績報告を別にする ` ` ` 前医が被告となった場合、後医の記載・意見はきわめ て重要な証拠 後医は、正確な記録を残さないと、巻き込まれるリス クが高くなる 後医は前医をかばう事はできるが、前医が後医を救う ことはできない ◦ 前医での訴訟が不成功だと、後医が訴訟対象となりやすい ` 医療事故における民事と刑事の建前 ◦ 民事は x 医療事故における責任の有無と損害の因果関係に重点がある x 過失に対する損害賠償 x 注意義務違反、説明義務違反(不法行為) x 債務不履行(ただし個人ではなく医療機関) ◦ 刑事は x 医療事故における犯罪性の有無の判断 x 刑事罰の適用の妥当性 x 業務上過失致死傷罪 x 医師法違反、保助看法違反など 不起訴 簡易 裁判所 依頼 弁護士 略式起訴 判決 裁判所 患者 告訴 送検 検 察 警 察 公判請求 証言 意見 鑑定 聴取・捜査 弁護 証人 参考人 鑑定人 医師 司法解剖など 弁護士 医療機関 依頼 判決 和解 調停 弁護士 依頼 患者 提訴 疑義 求説明 裁 鑑定 鑑定人 判 所 調査 説明 解説 整理 専門委員 弁護士 示談 依頼 医師 医療機関 ` ` 刑事事件における世論は、被害者あるいはその家 族が代表していると考えられる 患者側の強い申し入れは、検察を動かしうる ◦ 示談が成立している場合、不起訴となる場合が多い ◦ 患者側からの要望(告訴)がなく、かつ著しい犯罪性がな ければ、警察は「不起訴処分が適当」との意見を付けて送 検することが通常だった ` 患者側が犯罪性を強く主張する場合 ◦ 行為自体に重大な問題があるとして不信感が強い場合 ◦ 医療機関側が、当事者である医師を非難した場合 ◦ 家族側に罪悪感がある場合 ` 医療機関の初期対応 ` 担当した医療従事者の対応 司法解剖などの鑑定 参考人(公判での証人) ` ` ` ◦ 患者側への対応 ◦ 警察への対応 ◦ 医療機関内での対応 ◦ 検察に協力する参考人(複数の名誉教授) ◦ 指名された専門家の素質の問題 検察はこれらに基づいて判断した場合、医療側の コンセンサスが得られていると考える ` ミス(過失、negligence)をおかしたが守られるべき ◦ 故意ではない ◦ 不遵守がない ◦ 調査などに協力的 ` 医療側としては過失を容認するが個人の責任にだ け帰着できないと考えられる例 ◦ 肺動脈塞栓の可能性のある患者を入院させたが救急外来 患者診療のため対応が遅れた ◦ 救急隊が心筋梗塞であった患者を、肩痛として整形外科 に搬送したが、診断できなかった ◦ 脳外科医が交通外傷患者の心タンポナーデの発症を早期 に気付かず、心のう穿刺が確実にできなかった 不起訴 簡易 裁判所 有罪 依頼 弁護士 略式起訴 判決 裁判所 患者 告訴 送検 検 察 警 察 公判請求 証言 意見 鑑定 聴取・捜査 弁護 証人 参考人 鑑定人 医師 司法解剖など 弁護士 医療機関 依頼 ` ` 最高検の報告によると、医療事故の刑事訴追件数の 約半数が、略式起訴で終決している 被疑者(この場合医療従事者)の同意が前提 ◦ 検察が妥当と判断した場合、医療側が一般的な起訴(公判請 求)か略式起訴を選択することになる ◦ 検察と被疑者(簡易裁判所からみると被告人)との間に罪状に ついての争点がない ` ` ` ほぼ自動的に有罪が確定 検察側が被疑者を略式起訴に誘導するという現実 医療関係者は容易に調書にサインするという事実 ` 交通事故を例にすると ` これが医療では ` 刑事の原則は、「疑わしきは罰せず」 ◦ 交差点で信号無視し重大な事故を起こした ◦ 「赤信号を無視して進入したのはないか」という質問に対して 「よく覚えていない」という返答 ◦ 交差点に進入する際、信号を確認しなかったことを自ら認め たと認定(検察と被告に争点がない) ◦ 「静注したキシロカインが点滴用であったか、静注用であった か記憶がない」と答えると ◦ 薬剤の内容(検察は一時期、静注用キシロカインと点滴用キ シロカインという別の薬剤があると認識していた)を確認すべ きであったという注意義務違反を医師が明確に認めたとして 処理 ◦ 事実に関してのあいまいな対応が、医療では逆手に取られ る ` 医療における事件性、刑事上の過失の再定義が必須 ◦ 民事と刑事で、同じフレームで二度叩かれないといけないのか ◦ 検察側への医療についての啓発活動 ` ` 社会が医療について正確に理解することの実現 今医療側のやるべきこと ◦ 日ごろの説明および事故発生時の対応 x 特に当事者に刑事的な責任がない場合の対応:当事者を守る ◦ 司法解剖を含めた鑑定の精度の確保:犯罪性の有無 ◦ 検察側参考人の意識および見解の質向上 ◦ 安易に略式起訴に応じない ` 刑事責任に問われない医療行為の認識 ◦ 治験は、GCP遵守であるかぎり、結果による刑事罰はありえない 2008/2/7 1 2008/2/7 2