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すべてのラテン的教養は 「牧歌』 第~歌を読むことで始まった柿澤ー。

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すべてのラテン的教養は 「牧歌』 第~歌を読むことで始まった柿澤ー。
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文化論集第11号
】997年10月
『牧 歌』訳 注
一第 一 歌−
野 村 圭 介
すべてのラテン的教養は「牧歌j第二歌を読むことで始まった補注1。
E.R.クルチウス
ププリウス・ウェルギリウス・マロPubliusVergiliusMaro(70B.C.−19
B.C.)のF牧歌』Bucolica(r詩選j Eclogaeとも呼ばれる)に収められた10篇の
詩は,ほぼ紀元前42−37年頃作られたものと推定されるが,各篇が制作順に配
列されているとは言い薄い。前40年の後半に書かれたと考えられる第一歌は,
フィT)ッピの戦い(42B.C.)の彼の,アントニウスAntonius,レビドゥス
Lepidus,オクタウイアヌスOctauianusの第二次三頭政治による土地没収を時
代背景とする。退役兵に定住地を与えるために強行された土地接収はイタリア
全土に及んだが,とりわけウェルギリウスの出身地北イタリアのガリア・キサ
ルビアでは多くの農地が没収の憂き目にあった。「ああ不幸なクレモナに余り
にも近いマントウアよ」MantuauaemiseraenimiumuicinaCremonaeと詩人自
ら r牧歌j 第九で歌っている。
第一歌は,6歩格hexameter83行からなる対話体の詩である。登場人物は
二人の牧人。常ならぬ億倖により没収を免れ,平和な牧歌的世界を享受する
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60
文化論集第11号
Tityrusティテユルスと,父祖の土地を奪われ山羊の群をつれて泣く泣く・故郷
をあとにする,牧歌に別れを告げるMeliboeusメリボエウス。詩はこの相反す
る二人の運命をあふれんばかりの詩情をもって,時に痛切に,時にしみじみと
歌い上げる。以下は,遅れて来た1atinisteの『牧歌』精読の試みである。精
読の最良の手段としての訳注の読みである。日暮れて道達しの感愈々深いので
あるが,せめてウェルギリウスだけは,自分なりにしっかりと読んでおきたい
と思っている。なお,ラテン語本文は,E.deSaint−Denis編の通称Bude版に
依拠した。
MELI80EVS
Tityre,tupatulaerecubanssubtegminefagi
Siluestremtenuimusammeditaris auena;
nospatriaefinisetdulcia’linquimusarua;
nospatriamfugimus;tu,Tityre,1entusinumbra,
formosamresonaredocesAmaryllidasiluas.
メリボユウス
ティテユルス,君は枚を拡げたブナの木陰に身を横たえ,
かな か細い葦笛で森の調べを奏でているんだね。
ぼくらは故里に,いとしい田園に別れを告げる。
くに ぼくらは故郷を追われる。ティテユルス,君は木陰に憩い
森に教えている,「美しいアマリエリス」といくども木魂をひびかせるように。
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r牧歌】訳注
TITYRVS
OMeliboee,deusnobishaecotiafecit:
namqueeritillemihisemperdeus;i11iusaram
SaepetenernOStrisabouilibusimbuetagnus.
Illemeaserrareboues,utCernis,etipsum
luderequaeuellemcalamopermisitagresti.
10
ティテユルス
メリボエウスよ,神様がこのような閑暇をお恵み下さった。
彼の方こそわが永遠の神。彼の方の祭壇を
僕の小屋の柔らかい子羊の血がいくども潤すことだろう。
彼の方のおかげで,ごらん,牛たちは気ままに野をさまよい,
僕もまた思いのままに葦笛を吹くことができるのだ。
MELIBOEVS
Nonequideminuideo,mirormagis:undiquetotis
usqueadeoturbaturagris!Enipsecapellas
protinusaegerago:hancetiamuix,Tityre,duco:
hicinterdensascorylosmodonamquegemellos,
SpemgreglS,a!siliceinnudaconixareliquit.
ユ5
Saepemalumhocnobis,Simensnonlaeuafuisset,
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62
文化論集第11号
decaelotactasmeminlpraedieerequercus.
SedtamenistedeusqulSit,da,Tityre,nObis.
メリボエウス
いや,羨ましいというより,驚きなのだむしろ。田園は
到る所こんなにも荒れているのに!ほら,泣く泣く
僕は山羊を追い立て,そしてティテユルス,こいつを無理矢理引っばっていく。
たった今あのハシバミの茂みで,あろうことか裸の岩の上に,
双子を,群の希望を,産み落としたばかりのこいつを。
思えばこの不運を,樫の木に落ちた雷が何度も
予告したはずなのに。何故それが僕にはわからなかったのか。
ティテユルス,でもその神とはいったいどんな? ねえ。
TITYRVS
VrbemquamdicuntRomam,Meliboee,puta11i
Stultusegohuicnostraesimilem,quOSaepeSOlemus
pastoreso11iumtenerosdepellerefetus.
Siccanibuscatulossimilis,Sicmatribushaedos
noram,Sicparuiscomponeremagnasolebam.
Verumhaectantumaliasintercaputextuliturbes
quantumlentasolentinteruiburnacupressi.
62
20
63
F牧歌J訳注
ティテユルス
ローマと人が呼ぶ町を,メリボエウス,おろかにも
僕は,仲間たちがいとけない羊をいつも連れていく,
あの田舎町のようなものと思っていた。
子犬は親犬に,子山羊は母親に似ているものだから,
大きな都もちっちゃな町とさほど変りはしないと思っていた。
でもローマは全ての町の上に頭をもたげている
しなやかなガマズミの間に糸杉が高くそびえているように。
MELIBOEVS
EtquaetantafuitRomamtibicausauidendi?
TITYRVS
Libertas,quaeSeratamenreSpeXitinertem,
candidiorpostquamtondentibarbacadebat;
respexittamen,etlongoposttemporeuenit,
postquamnosAmaryllishabet,Galateareliquit・
30
Namque,fateborenim,dummeGalateatenebat,
necspeslibertatiserat,neCCurapeCuli.
Quamuismultameisexiretuictimasaeptis,
pinguisetingrataepremereturcaseusurbi,
nonumquamgrauisaeredomummihidextraredibat・
35
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文化論集第11号
メリポエウス
で,どうしてそれほどまでにローマに行きたいと?
ティテユルス
自由さ。それは遅まきながらこの能なしめにも眼をおとめ下さった。
そり落とすヒゲに白いものが目立つようになってから1ようやく,
僕を振り返り,長い時を経てやっとのことおいで下さった。
ガラテアが僕を棄て去り,アマリエリスと一緒になってからやっと。
まったく正直言って,ガラテアの尻にしかれていた時は,
自由の望みはなかったし,お金をためることもできなかった。
何度も囲いから子羊を連れ出したけれど,
あぶら
脂ののったチーズを,しみったれの町のために搾ったけれど,
おあし
たんまり硬貨を握って家路についたことなど一度もなかった。
MELIBOEVS
Mirabarquidmaestadeos,Amarylli,uOCareS,
Culpenderesuapatererisinarborepoma:
TityruShincaberat.Ipsaete,Tityre,pinus,
ipsitefontes,ipsahaecarbustauocabant.
64
F牧歌」訳注
65
メリボエウス
変だと思っていたよ,アマリエリス,なぜ君が悲しそうに神々に祈っていたの
か。
誰のためにリンゴを枝に残しておくのか。
ティテユルスがいなくなったのだ。松だって,
泉だって,この果樹園だって,ティテユルス,君を呼び求めていた。
TITYRVS
Quidfacerem?Nequeseruitiomeexirelicebat,
40
nectampraesentis alibicognoscerediuos.
Hicillumuidiiuuenem,Meliboee,quOtannis
bis senos cllinostra dies altaria fumant.
Hicmihirespons11mprimusdeditillepetenti:
(くPascite,utante,boues,Pueri;Submittitetauros.〉〉
45
ティテユルス
どうすればよかったのだ? 奴隷の身から脱することも,
これほどありがたい神様を見つけることも,よそでは無理だった。
このローマで僕は彼の若者を見た,メリボエウス,年々
ひとたび
月に一度,彼の方のために僕の祭壇は煙を上げるのだ。
65
文化論集第11号
66
このローマで,彼の方は初めて僕の願いにお答え下さった。
「牛を飼え,以前のように,わが子等よ,牡牛を育てよ」
MELIBOEVS
Fortunatesenex,ergOtuaruramanebunt!
Ettibimagnasatis,quamuislaplSOmnianudus
limosoquepalusobd11CatpaSCuaiunco;
noninsuetagrauistemptabuntpabulafetas,
necmalauicinlpeCOriscontagialaedent.
50
Fortunatesenex,hicinterfluminanota
etfontissacrosfriguscaptabisopacum.
Hinctibi,quaeSemper,uicinoablimitesaepes
Hyblaeis apibusfloremdepastasalicti
SaepeleuisomrlumSuadebitiniresusurro;
55
hincaltasub rupecanetfrondatoradauras;
nectameninterearaucae,tuaCura,palumbes,
necgemereaeriacessabitturtur ab ulmo.
メリボエウス
幸せな老人よ,君の土地は手つかず残るだろう!
君にはそれで十分だ,たとえむきだしの石や
まきば 泥に汚れたイグサの沼で一面牧場がおおわれていようとも。
66
67
r牧歌j訳注
見知らぬ草が仔をはらんだ羊をまどわすこともなく,
隣の群から悪い痛をうつされることもなかろう。
幸せな老人よ,君はこの慣れ親しんだ川の流れと,
聖なる泉に,涼しい木陰を求めることだろう。
ヒュブラの蜜蜂が花の蜜を集める境界の柳の生垣は,
いつものようにかすかなざわめきで
いぎな 君を眠りへと誘うことだろう。
切立ったあの岩場の下で,枝打ち職人がそよ風に向かって歌うだろう。
けれど変らず,君の大好きなジュズカケバトはしわがれ声をあげ,
にれ
高くそびえた槍の木からは,ナゲキバトがいつまでも鳴きやまないだろう。
TITYRVS
Anteleuesergopascenturin aetherecerui,
etfretadestituentnudosinlitorepiscis,
60
antepererratisamborumfinibusexsul
autArarim ParthusbibetautGermaniaTigrim,
quamnostroilliuslabaturpectoreuoltus.
ティテユルス
軽やかな鹿たちが空中で草を食み,
うし由
潮が浜に裸の魚を置き去りにするまでは,
ふるさと 故郷を追われた者がたがいの国をとりかえ,
67
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文化論集第11号
ぴと
パルティア人がアラルの,ゲルマニア人がティグリスの水を飲むまでは,
彼の方の面影が僕の胸から消えることはない。
MELIBOEVS
Atnos hinc aliisitientisibimus Afros,
parsScythiametrapidumcretaeueniemusOaxen
etpenitustotoditlisosorbeBritannos.
En unquampatrioslongoposttemporefinlS,
pauperisettuguricongesttlmCaeSpiteculmefl,
postaliquot,mearegnauidens,miraboraristas?
Impiushaectamcultanoualiami1es habebit?
Barbarushassegetes?Enquodiscordiaciuis
produxitmiseros!Hisnosconseuimusagros!
Inserenunc,Meliboee,piros,pOneOrdineuitis!
Itemeae,felixquondampecus,ite,Capellae:
nonegouosposthac,uiridiproiectusin antro.
dumosapendereproclユ1derupeuidebo;
Carminanullacanam;nOn,mepaSCente,Capellae,
florentemcytisumetsalicescarpetisamaras.
メリボエウス
けれどぼくらは遠く,ある者は渇きにあえぐアフリカ人のもとへ,
68
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F牧歌」訳注
69
ある者はスキュティアに,また白亜の急流オアクセスに,
あるいははるか地の果ブリダニアへと至るだろう。
ああいつか再び,長い年月ののち故里を,
まなこ つましいわが家の草ぶき屋根を眼にし,
わが王国に今一度まみえて,数本の麦の穂に驚く日は来るのだろうか?
このよく耕した土地が神をも恐れぬ兵士のものに?
この畑が野蛮人の手に? ああ,これが不幸な民に
内乱のもたらしたものか!やつらのためにぼくらは種をまいたのか!
さあメリボエウス,梨を接木せよ,まっすぐに葡萄の苗を植えろ!
山羊たちよ,さあ進め。行け,かつては幸せだったわが群よ。
もはやこの先再び,緑の洞窟に寝そべりながら遠く,
イバラの崖にすがりついたお前たちを眺めることはないだろう。
僕はもう歌はない。山羊たちよ,もはや僕に導かれてお前たちは,
うまこやし
花の咲いた首積も苦い柳も食べることはないだろう。
TITYRVS
Hictamenhancmecumpoterasrequiescerenoctem
frondesuperuiridi.Suntnobismitiapoma,
80
CaStaneaemOllesetpressicoplalactis;
etiamsummaproculuillarum culminafumant,
maioresquecaduntaltisdemontibusumbrae.
69
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文化論集第11号
ティテユルス
せめて今夜はここで僕と共に,緑の木の葉の上で
う 休んでゆけばよかったのだ。熟れた果物もある,
やわらかい栗も,搾りたてのチーズだってたっぷりと。
ほら,向こうの農家の屋根からはもう夕餉の煙が立ち始めたし,
高い山から落ちる日影がだんだん大きく伸びてきた。
注
1(行目)Tit汀e:第九歌とともに最も自伝的な作品とされる第一歌に,一旦
は土地没収の憂き目を見ながら,最終的にオクタウイアヌスの取りなしによっ
て土地を取戻したウェルギリウス自身の痛切な体験が強く反映されていること
はいうまでもない。しかしティテユルス=ウェルギリウスでは断じてない。単
に年齢だけを見ても,ヒゲに白いものが目立ち,老人と呼ばれるティテユルス
に対し,『牧歌』制作時の詩人は30前後の青年。また彼は決して解放奴隷では
ない。土地没収事件,マントヴァ,ローマへの嘆願等自伝的要素を混在させな
がら,作者はティテユルスをことさら素朴な,さほど教養もない純朴な牧人に
仕立てあげているようにみえる。とはいえ牧歌第一の努頭にすえたこのティ
テユルスという名には特別の愛着があったのであろう。例えば第六歌の序の部
分(4∼5)で,アポロンは詩人に向かって「ティテユルスよ,羊飼いは羊を
肥らせ,歌はつましいものでなくてはいけない」Pastorem,Tityre,pinguis
pascereoportetouis,deductumdicerecarmenと忠告する。その他第三(20,
96),五(12),八(55),九(23,24)歌でティテユルスは,端役的な牧人と
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F牧歌」訳注
71
して登場する。すなわち牧歌全10篇のうち6篇でティテユルスの名に言及され
るのである。
subtegmineh由:「ブナのおおいの下」ではいささか重苦しいので「ブナの
木陰」と訳した。動詞tego(通例により直説法現在一人称単数形をもって不
よろいか.よと
定形に代える)に由来するtegmen(tegimen,tegumen)は,衣服,鎧,甲,屋
根等広く体や事物をおおい,保護するものb Cf.『アエネーイス』Ⅲ,594「ト
ゲで留めた服」consertumtegmenspinis
2 silues仕em:牧人たちは夏の暑い季節,涼を求めて家畜の群を森の中に連
れていった。
me心血ris:「練習する,実行する」という意もあわせ持つが故に「奏でる」
と訳したが,meditorは本来「考える,思いをこらす,沈思黙考する」の意。
乱uena‥詩を歌うに先立ち,あるいは詩の合い間に吹いた素朴な笛(穀物等
の茎でできた野笛,牧笛,草笛)。ウェルギリウスの田園詩に欠かせない大切
な小道具で,Cicuta,Calamus,fisutula,harundo,tibia等と様々な名称で呼ばれ
ながら第四,九歌を除く他の8篇でくり返し言及される。本訳ではtenuis
auenaを「か細い葦笛」としたが,参考までにいくつかの諸訳をあげると,ま
4
ず仏訳ではmincepipeau2,frelepipeau3,1egerpipeau,mincechalumeau5,有名
なヴァレリー訳は単にflAte6。英訳slenderreed7.slenderoat8,1ightshepherd7s
pipe9,thine oaten strawlO,伊訳sottile zampognall,umile zampogna12,eSile
fla。tO13,SOttile canna,umile flauto15,独訳einfache F16te des Hirten16, 14
schm急ChtigerHalm17,kleineF16te18。総じてauenaの訳は「笛,。麦笛,葦笛」の
3つに大別できそうだ。またtenuisの解釈では,少数ながらこれを「粗末な,
慎ましい,見すぼらしい」といった卑下,謙遜の意を含むとするものもある。
l∼2 Tityre,tupatuherecubanssubtegminefagi/siluestremltenuimu$am
medi血ris乱uema:木陰や草むらにくつろいで笛を吹き,歌を歌うのは典型的な
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72
文化論集第11号
牧歌的情景。クルチウスはこのくだりを,そこから後世無数の子孫が生まれた
「牧歌的な横臥のモティーフ19」の源とし,ウェルギリウス自身によるバリ
エーションとして,第三(55∼58),五(1∼6)歌を引用している。「ウェル
ギリウスは翻訳不可能だ。何故なら音楽は翻訳できないからだ」とはヴオル
テールの言であるが,この1∼2行のまさしく音楽的ともいえる美しさは類を
見ない。たどたどしく笛を吹き始めたかのように連なる冒頭のいく分硬い歯音
〈t〉 は,やがて2行目に移って,やわらかくやさしい鼻音〈m〉 と混じり合
い,流麗な旋律を奏でる。
3 nos:1行目のtu「君」と対照させてnos「ぼくら」。nOSpatriae・・・/nos
patriam・・・と3,4行目の冒頭の反復は,1,4行目のTityre,tu・・・/tu,Titire
の反復と明確な交錯配列chiasme(ABBA)をとり対立が強く浮彫りにされる。
のんびりと田園の閑暇を享受するティテユルスと,一方土地を奪われて故郷を
去るメリボエウス。
4 fugimus‥動詞fugi0は単に「逃げる,のがれる」だけでなく,ギ1)シヤ語
の≠∈∂γαのように受身的な「追い払われる,、放逐される」の意も併せ持つ20。
1entusinumbra:1行目のrecubanssubtegminepatulaefagiを要約し言葉を
変えてIentusimumbra,これをさらに抽象化して次々行にotia「閑暇」と総
括する。このumbra「影」と共に始まった第一歌はやはり影maioresumbrae
(83,最終行)と共に幕を閉じることになる。
4∼5 tu,.../formosamresonaredocesAmaryllidasiluas:わかりやすく語順を
変えれば,TudocessiluasresonareformosamAmary11ida.不定形resonareの
主語はもちろんsiluuasで,formosamAmaryllidaはその直接目的語。擬人化
された「森」silua,牧歌的世界では自然もまたあたかも精神をもつかのよう
に人間と交流する。
Amaryllida:TityrtlS同様Amary11isの名もテオクリトスからの借用。その他
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F牧歌j訳注
73
Corydon,Daphnis,Galatea,Menalca等々『牧歌』のほとんどすべての人物はそ
の名を前3世紀のシチリアの詩人に負う。アマリエリスは,第一歌では,心根
のやさしい,美しくまた家庭的な女性として理想的に描かれている。しかし第
二歌(14,52)や三(81)で言及される彼女は怒り易いわがままな女。他に八
(77,78,101),九(22)にアマリエリスの名。
6 Meliboee:Meliboeusの名はそのギリシャ語風(FLi人W世話をする,βoU⊂
牛)にもかかわらず,ウェルギリウスの創作と考えられる。メリボエウスは他
に,三(1),五(87),七(9)に姿を見せる。『牧歌』10簾中Tityrusは6
篇に,Amaryllisは5篇に,Meliboeusは4篇に,さらに30行目のGalateaも
4篇にといった具合に,ウェルギリウスは,性格・役柄等の微妙にまた時には
かなりかけ違った諸人物に同一名を冠してくり返し登場させる。これは『牧
歌』の多様でしかも同質的な世界を形成するにあずかって大いに力がある。
deus;オクタウイアヌス(63B.C.”A.D.14)を暗示する。しかし彼がアウダ
ストウスAugustusの称号を与えられて公式に神格化されるのは,第一歌制作
時より10数年後の前27年。とはいえユリウス・カエサル(100B.C.〝44B.C.)
が死後神と認められた前42年1月1日以来,養子であるオクタウイアヌスは
「神の子」divifiliusになったといえよう21。
7ille…i11ius‥.ille(9):3度くり返し強調されるi11e。≡人称の指示代名詞
illeは時に誇張的な価値valeuremphatiqueを持ち,名高いもの,普通でないも
のを指し示す。例えば,i11eHomerus「彼の(有名な)ホメロス」,Sapiensi11e
Socrates「彼の(名高き)賢者ソクラテス」
8irLlbuet:もちろんimbuetsanguine,いけにえの血を注ぐということ。
9∼10Illemeaserrareboues,‥.etipsum/Luderequaeuellemcalamopermi$it
agresti:語順をわかりやすく変れば,Illepermisitmeasboueserrareetipsum
ltlderequaeue11em calamoagresti.ipsum=meips11m,quaeuellem=CantuSquOS
73
74
文化論集第11号
uellem
llmgis:pOtius「むしろ」
12 tJsque:adeoを強調する。
twb血ー:非人称動詞として用いられたラテン語の3人称単数の受動態は行
為そのものを強く浮彫りにし,強い表現力を持つ。とりわけそれは一語で言い
切る形,すなわち現在形,未完了過去形等においてインパクトがある。例えば
curro走る,を例にとれば,Curritur(oncourt,manrunSなど近代語では主語
を添えざるをえないために行為自体の力は幾分そがれる),Currebaturは,複
合形の完了cursumestや過去完了cursumeratより一段と強い表現力を持つ。
13 aeger:痛といっても,精神的な心痛をより強く意味するのであろう。い
くつか訳例をあげれは,dolent22,tOut triste23,heartTSick24,eSauStO亭5,
affranto26,krankimHerzen27
ago...duco:メリボエウスは山羊の群を背後からせきたてて前へprotinusと
歩ませるが,出産したばかりの一匹は綱をつけでやっとの思いで引っばって行
く。prOtinusaegerago;hancetiamuix,Tityre,duco.と3度も句点で区切りな
がらプツリプツリと短い語をつらねたこの13行目は,あえぎあえぎ,よろよろ
と進んで行く感じを音韻面からも巧みに表している。
15 spemgregis:子供は将来の繁栄の夢を託す希望spesである。『農耕詩』Ⅲ,
473でも家畜の子はspesと呼ばれ,また蜜蜂をテーマとした第4巻(162)、で
は働き蜂たちをspesgentis「一族の希望」と表現する。なおセルウイウスは,
spesgregisであるgemellus「双子」はオスとメスであったと注している芦8。
siliceiれnuda:通常は草などを手厚く敷いて出産するのに,旅の途中で,し
かもあろうことかむきだしの裸の岩の上に生み落とされた子はすぐに死んだの
であろう。双子であっだけに嘆きはより深かったと思える。
conixa:能相欠如動詞いわゆるデポネントconitor「努力する,きばる」の完
74
F牧歌」訳注
75
了分詞d
16∼17 Saepemaluml10C nObis‥./decaelotactasrmeminipraedicerequercus:
語順を変えればMeminiquercustactas de caelopraediceresaepe nobishoc
malum.
16▲1aeua:右(手)を示す形容詞dexterが,器用な,幸福な,好都合なと
いぅた意を含むのに対し,左(手)のを示す1aevsは,へたな,愚かな,不幸
な等を含意とする。この事情は,droit/gauche,right/1eft,destro/sinistro,
recht/linkにおいてもほほ同様。
17 dec血el¢也ぬs:古代人は樹木への落雷を災難の予告と見なした。例えばオ
リニブの木への落雷は不毛・不作を,樫の木へのそれは追放を意味した29。
18iste:ティテユルスがややのほぜせあがってilleを連発するのに対し,メ
リボエウスの少し距離を置いた,冷静な感じのこの冷静なisteはなかなかに
面良く効果的である。
qui:疑問代名詞quis「誰」ではなく,疑問形容詞qui「どのような」。
da=dic
19∼2ト VrbemquamdicuntRomam‥.puhui/5血血ge卯h豆kno血ae5imilem,
quo saeFie solemus/pa$tOreざOuium teneros depellere fbttzs:Ego stultus putaui
urbemquamdicuntRomamsimilemhuicnostrae(urbi),quOSaepe(nos)pastor’eS
SO】emu5depej】ereteJ】erO5fe亡U5■01血m.
20 huicnostrae:ウェルギ1)ウスの故郷Andesにほど近いMantua(マントウ
ア,現在のMantovaマントヴ了)の町を指す。第一歌では明示されないがト
同じ土地没収事件をテーマとする九歌ではマントウアの名は2度くり返される
(27,28)。この箇所「田舎町」と訳したが,ほとんどがsemblableえ1a
n6tre30,likethis′ofours31,Simileallanostra32等直訳であるのに対しレクラム
版の独訳のみunserLandstadtchen33としている。
75
76
文化論集弟11号
21depellere:unuSdemultis,nemOdeiisなど前置詞deに全体からの部分の
分離,の意があるのをくみ,Bude版はこのくだりをmenerlespetitsenlevesえ
nosbrebisと訳している。同様にGaffiot辞典ではsolemusouiumdepellere
fetus を nous avonsI’habitude de menerles rejetons de nos brebis【enles
s色parantdutroupeau]と解説している。一方dejicere岳edemuroトarborde
caelotactaのようにこのdeを上から下への動きに係わる前置詞として解釈す
ることもできる。Benoistはアンデスは高台にあり,マントウアへは下り道に
なると注し34,LangenscheidtsGroBes Schulw6rterbuchはdepelloの項に
hinabtreiben[oviumfetusMantuamlとしるす。J.H.VoLi訳1をあげれば,Zu
welcher(マントウア)wir Hirten zarte Kinder der Schafehinabzutreiben
gewohntsind35.
22 noram=nOVeram
24∼25 Verum haec tantumaliusinter caput extulit urbes/quanthmlenta
solentinteruiburnacupressi:Verumhaec(urbs)tantumextulitcaputinter alias
urbes,quantumCupreSSisolent(extollerecaput)interlentauiburna.
24 ex血1it:このような場合われわれなら普通extolletと現在形と用いるとこ
ろを,ラテン語は完了形に置く。現在の状態よりも,その現在を結果としても
たらした過去をより重視する。Romeestgrandeparcequ,elleagrandi36.
25 uiburna:0ⅩfordLatinDictionary(以下0.L.D.)によればuiburnumはa
shrub,eitherthe wayfaringtree(スイカズラ科ガマズミ属の低木)orthe
guelderrose(てまりかんぼく)。讃訳は「ガマズミ」と「柳」の二系統に大き
く別れるようだ。1entauiburnaの訳例をいくつかあげると,まず「ガマズ
ミ」系は,Vivornesflexibles37,ヴァレリーは単にvivornes38,mO11iviburni39,
d。1civibu,ni40等々,「柳」の方はbendingosiersチ1,niedererWeidengebtlSCh42
等0この二者以外は・bruyere43,drooingundergrowth44等olentnsほ「柔軟
76
r牧歌j訳注
77
な,しなやかな,曲げ易い」の意だが,「(ローマに向かって)なびく,頭をた
れる,お辞儀をする」といった含意があるのだろう。
25 solent:19−25にsolemus(20),SOlebam(23)と動詞soleoが3度もくり返さ
れ,’いささかうるさい感じがしないではない。Perretはティテユルスに比べ
てメリボエウスの言葉の方がよりch飢ie(練られた)されているとするが45,
この少々無造作なsoleoの反復も田舎者ティテユルスの純朴さの表現であろう
か。
26 Et:ティテユルスのもってまわったローマ賛美に対するいらだちを示して。
27 Liberbs:擬人化された自由の女神。ローマのアウェンティウスの丘には
自由の女神の神殿があった46。
inertem:Gaffiotによればinersはin+ars,すなわちetranger良toutart,
sanscapacite,SanStalent,SanSaCtivite,SanSenergie.自由を買い取るためにお
金をためるのに熱心ではなかったティデュルスを,また派手好きなガラテアの
せいで貯蓄どころではなかった彼をinersと言っている。
28 tondenti:tOndeoの現在分詞tondensの与格。(mihi)tondenti「ヒゲを剃る
私の手元に」
eadeも嶽・ヒゲ剃りは当然くり返し行なわれたが故に1未完了過去,対して
respexit(27,29),uenit(29)は点行為を示して完了過去。
30 血bet:今なおアマリエリスと暮らしているが故に現在形。
Galatea:ガラテアはここでは派手好きのわがままな田舎娘。他にガラテアは
第三歌でいたずらっぼい小娘の役で(64,72),また七(37)九(37)では海
のニンフとして登場する。セルウイウスはガラテアがマントウアを,アマリエ
リスがローマを諷しているとするがいかがなものか47。
32 curapeculi:自由を購うためにこつこつと小銭を貯めること。peCuS(女性
名詞として「家畜,羊」中性名詞で「家畜とりわけ羊の群」)に由来する
77
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文化論集第11号
peculiumは元来主人が奴隷に分かち与えた家畜等を意味したが,そこから派
生して「奴隷が貯めた個人財産」の意を持つ。
33∼35 Quamuis multa meis exiret uictima saepti5,/pinguis etingratae
premereturcaseusurbi,/nonumquamgrauisaeredom11mmihidextraredibat」:
Quamuis multa uictima exiret meis saeptis,et pinguis caesus premeretur
ingrataeurbi,nOnumquammihidextragrauisaereredibatdomum.
33 uictima:21行目のtenerosfetusと同一物を示すと考えあえて「子羊」′と
した。諸訳は多く文字通り「犠牲」と訳しているが,中にあってH.des
Abbayesのみは拙訳と同じくagneau48と,またH.C.SchurlCj:Opferlamm49
とする。
34 pinguis:セルウイウスはpinguisはcaseusよりもむしろuictimaにかかる
とする。
ingrataeurbi:目的を示す与格(dativusfinalis),マントウアのこと。町が
ingratusとは中々面白い表現だが,期待通りの値で子羊やチーズを買ってもら
えないのでこのように言ったのだろう。いくつか訳例をあげれば,pOurla
villeplut6tchiche50,pOurCetteVi11elngrate51,forthethanklesstown52,per
l,avariacitta53,これは随分はっきりしているがperlacittえchesisfrutta54(搾
取する町のために)
36∼37 Mirabarquidmae$tadeos,Amarylli,uOCare$,/cuipenderesuapatereris
inarborepoma:Mirabarquid(何故)Amarylli,maeSta,uOCareSdeos,Cuipatereris
(patiorの接続法半過去)pomainsuaarbore.
37 cui:誰のために,利害関係の与格(dativuscommodiautincommodi)
poma:pOmumは0.L.D.によれば果実,とりわけ果樹園の果実とある。拙
訳ではイメージの明快を優先して「リンゴ」(80行目のmitiapomaは「熟れた
果実」と訳した)としたが,諸訳も果実とリンゴの2つに大別できる。
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r牧歌」訳注
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cuipenderesuapatererisinarborepoma:Perretは3通りの解釈の可能性を示
唆する 1)ローマから戻ったティテユルスがつみ取って食べるように 2)
ティテユルスがいなくなった悲しみの余り,アマリュリスは果実をつみ取る元
気もなかったので 3)祈願する神々に僕するために55。
38∼39 Tityrus hinc abemt.Ipsaete,Tityre,Pinus,/ipsitefbntes,ipsahaec
arbustauocabant:TityruS,Tityreと二度呼ばれるティテユルス。ipsaete,ipsi
te,ipsahaecと3度くり返されるipse.自然もまた魂あるもののごとく,アマ
リエリスと悲しみを分かちあい,共に不在のティテユルスに呼びかける。この
2行,リズム・音韻と意味の両者があいまって切迫した美しい抒情を示す。
39 arbu$t&:Gaffiotによれば,plantation,lieuplanted’arbres
41praesentes:praeSenS(praesum)はpr色Sentが本義だが,神々について言う
場合はprOpice,favorable
alibi:もちろん「ローマ以外では」
42Ⅷ鮎…班c(44);「ここで」,「ここ(ローマ)で」と,あたかも現に今ロー
マに居るかのごとき感慨をこめて二度文頭でくり返す。
illum‥.’iuuenem;オクタウイ.アヌスは当時まだ25歳にも満たなかった。敬恭
の念をこめてティテユルスはHicillum(42),Hic・・・ille(44)とくり返す。
43 bisノSenOS…曲s:月に⊥度,年に12回。ローマ人は毎月一回,ラレスLar,
いけにえ Lares(家庭の守護神,先祖の霊)に犠牲を捧げた。
45pueri:puer「子供」はまた,、奴隷,召使いの意でも用いられる。
46 For血natesenex,ergOtuaruram乱れebumt!;詩はここから後半部分に移る。
meditaris(2)と現在形で始まった前半がティテユルスの体験を語って過去時
称を主としできたのに対t,未来形manebuntを皮切りとする後半は一転して,
obducat(48),temptabunt(49);1aedent(50),Captabis(52)等々未来時称を軸とし,
結末はまた現在形で終る。さて「幸せな老人よ」と呼びかけて始まるメリボエ
79
80
文化論集第11号
ウスの46∼58行は,ウェルギリウスの詩の中でも,あるいは少々大仰に言えば
古今束酉の詩文をとっても,最も高揚した抒情歌の一つ,・最も美しい韻文の一
つではなかろうかとひそかに思っている。
血a:tuaを所有形容詞ではなく,所有代名詞と解する訳も多い。例えば
Bnde版でteschampsteresteront56とあるのに対し,R.Colemanはtua.is
predicative‥・sothelandwillremainyours,.と注釈している57。
47∼48 quamuislapisomnianudus/llmosoquepalusobducatpascuaiunco:やや
解釈の分かれるところである(A)quamuislapisnuduslimosoquejuncopalus
(ここまでを主語の部分ととる)obducatomnia′paSCua.
(B)quamuisomnia(est)lapisnudus,limosoque、juncopalusobducatpascua.
例えばM.Ratのqt10iquedespierresnuesetunmarecageauxjoncslimoneux
couvrenttouscespacages58やM.Geymonatのancheselanuda・pietraetla
paludecolgiuncolimacciosoricopronotuttiipascoli59はAの立場をとる。,対し
てBude版のbienquelapierreanuaffleurepartoutetqu’unmarecageborde
lespresdejonclimoneux60やまたLoeb版のthoughbarestonescoverall,and
themarshchokesyourpastureswithslimyrushes61はほぼBのように解して
訳している。なおこの個所はミンキウスMincius川(現在のミンチオMineio)
に接する湿地帯にあったウェルギリウス自身の土地を描写しているのであろう。
49 grauis…fetas;仔をはらんだ羊や山羊のこと。ただしgrauisを「疲れ
きった,衰弱した」の意ととる者も少々ある。’M.Geymonatの1e mad・re
sfinite62ぁるいはJ.H.Ⅴ。BのdieschwachlichenM批ter63
49∼50 noninsueta…pahula.../necmala…COmtagia:nOn,neCと否定辞を冠
して強調するが,この否定をはずせばそれはそのままメリボエウスの山羊の群
が出会うであろう危険であり,苛酷な運命である。
52 fbntissacros:泉はニンフの住処,それ故sacer
80
r牧歌」訳注
81
53∼55 Hinctibi,quaeSemper,uicinoablimite$aepeS/Hyblaeisapibusflorem
depa$taSalicti/saepeleuisomnum5uadet,itinire飢1SurrO:少々構文が複雑である。
試みに書き直せば,Hincuicinoablimite,SaepeSSalictidepastaapibusflorem,
quae semper(suasit),Suadebit saepelevisusurro tibiinire somnum.saepes
salicti(柳の生垣)が主語で,動詞はsuadebit(誘うだろう),目的語がtibiinire
somnum(君が眠りに入るのを)。depastaはdepascoの完了分詞でsaepesに
かかり,floremは関係を示すギリシャ語的用法の村椿一花において,花に
関して蜜を集める。
54 Hyblaeisapibus:Hybla山はシシリア島の名高い蜂蜜の産地。もっともここ
ではhyblaeusは単なる文飾で,枕詞のようなもの。
salicti:柳salictumがしばしば生垣となり,そこに蜜蜂が訪れたことは『農
耕詩』Ⅱ434∼436にも記されている。Quidmaiorasequar?Saliceshumilesque
genistae,/autillae pecorifrondem aut pastoribus umbram/sufficiunt
saepemquesatisetpabulamelli.「どうして大きな木のことばかり言うのか。柳
や丈の低いユニシダだって,T家畜に葉を,牧人に蔭を与え,畑の生垣や蜜蜂の
食物となるのに」。Benoistは湿地にあったウェルギリウスの土地は柳の生育に
通していたと注している?4。
551evi.‥SuSurrO:蜜蜂の羽音と木の葉のそよぐかすかな音。
saepelevisomnumsuadebitinire8uSurrO:Sのalliteration頭韻法が,昼下が
りの眠気を誘うようなかすかな羽音と木の葉のさやぎをやさしく表現して実に
美しい。
56 fiondator:セルウイウスは3種類のfrondatorを列挙する。(A)勢定(枝
打ち)する者(B)・冬に備えて家畜のエサとなる菓を刈り取る者(C)日当た
りをよくするためにブドウの葉をちぎりとる者65。M.Geymonatはこれを野鳥,
おそらくはmerlo(ツグミ)とする解釈にも魅力を感じるとする66。
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文化論集第11号
57 tameninterea:frondatorの歌にもかかわらず,鳥はいっこうに恐れる風も
なく,むしろ人声に和するように鳴きつづける。人と自然との親密,交流。
ttzacura:deliciaetuaeつまり、Objetdetonamotlr,yOurpetS.第十歌(22)で
はtuacuraLycoris「君の恋人のリエコリス」と歌う。
palumbes:0.L.D.によればwoodpiegeon,ringdove(モリバト,ジュズカケ
バト)
58 aeria:aerius(aer)はここでは空高くそびえたreachinghighintotheair
の意。Cf.『農耕詩』Ⅲ,474aeriasAlpis「空高くそびえるアルプス」,『ア土
ネアス』Ⅲ,680aeriaequercus(樫)
turtur:turtle−dove(コキジバト,ナゲキバト)
57∼58 nectameninterearaucae,tuaCura,palumhes,/necgemereaeriaces$ahit
turturabulmo:ニレの木で鳴いているのは(A)palumbesとturturの両者な
のか,それとも(B)turturのみなのか,少々あいまいである。例えばM,
RatのSanspourtantquelesroucoulantespalombes,Objetdetessoins,niquela
tourt占rellecessentdeg色mirausommetdel▼ormeau67.やLoeb版のwhilestill
the couing wood・pigeons,yOur petS,and the turtle−dove shallcease not their
moaningfrom the skyey elm68.などは明確に(A)である。+−一方H.des
Abbayes の Tes palombes aimees roucouleront sans cesse et du plus haut
rameaulatourte;elleencorgemiradans170rmeau69.は明らかに(B)だし,レ
クラム版の und es gurren bestandig die Tauben,die du solieb hast,
TurteltaubenauchschluchzenihrLiedinluftigerUlme70.もどちらかといえば
(B)だろう。なおこの2行は,子音r(7回)とt(6回)と母音a(11
回)u(7回)の反復が,のどかでしかもちょっぴり悲しげなハトの鳴き声を
写して印象深い。
59∼62:あり得ないこと,不可能なことを並びたてるギリシャ以来の修辞法
82
r牧歌J訳注
83
adynatonアデュナトン。ウェルギリウスはしばしばこの事を用いるがその一
例をあげれば,第八歌(27∼28)に,Iungenturiamgrypesequis,aeVOque
Sequenti/cumcanibustimidiuenientadpoculadamnae.「ハゲタカが馬と交わ
り,やがて臆病なカモシカが犬と連れだって水飲み場に来るだろう」
60 fretadestituerLtnudosinlitorepiscis:nudosはdestituentの直接目的語
piscisの,仏文法でいうところのattribut「属詞」と見なすべきだろう。Ce
VerS$ignitiequelespoissons,CeSSantd’etreenvelopp色Sparl’eau(勒di),Vivront
surlerivage.(Benoist71)
62 autArarimParthusbibetautGermaniatigrim:Partiaパルティアはカスピ
海の南l声あった西アジアの国。Arar(現在のSa6neソーヌ)アラル川は正確を
期せばゲルマニアではなくガリアの川。しかしアラルが西方を,ティグリスが
東方をそれぞれ喚起すれば十分なのだろう。さて少し横道にそれるが,リヨン
市をゆったりと縦断するソーヌ川は訳注者にとっても,実になつかしい川であ
る故,『ガリア戦記』から,アラル川に関して印象的な描写を引用しておきた
いo Flumen est Arar,quOd per fines Haeduorum et Sequanorumin Rhodanum
influit,incredibililenitate,ita ut oculisin utram partem fluatiudicarinon
possit.(Ⅰ−12)「アラル川はハエドゥイ族とセクアニ族の領地を流れてログヌ
ス川に注ぐ。その流れは信じられないほどゆるやかで,眼でみただけではどち
らにながれているのか分からないほどだ」
64 Atnoshinc...:ティテユルスの素朴なadynatonを受けて,atnOS「しか
し我々は」ゲルマニアやパルティアよりもさらに遠く,地の果てまでも逃れて
いくのだと,メリボエウスは絶望の余り嘆いてみせる。
66 Scythiam:Scythiaスキュティアは黒海の北方にあった遊牧民の国。
rapidtlmCretae:quientrainedelacraie72,SnatChingupchalkasitgoes73な
おcretaeを「クレタ島の」と解する者もある。
83
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文化論集第11号
Oaxen:M.Geymonatは,Oaxesはおそらく中央アジアの大河0ⅩuSであろ
うとし,東西南北の地の果をオアクセス,ブリタニア,アフリカ,スキュティ
アでそれぞれ代表させたのだろうと言う74。
67∼69 En unquam patrioslongo post tempore finis,/pauperis et tuguri
c011geS血m caespite eulmen,/卯St aliquot,mea re訂1a uidens,山江abr aris也S?:
postほ2つとも前置詞ではなく,副詞(=pOStea)と解するべきだろう。En
umquam,Videns postlonge tempore patrios fines et culmen congestum caespite
pauperistuguri,mearegina,mirabor(post)aliquotaristas?mearegina「わが
王国」はpatriifines「父祖の地」ノとpaupertugurium「粗末な家」の同格。
73Inseremume,Melib眠e,piros,押neOrdine・uitis!:今はもはやなしても無駄な
ことを,甲斐ないことを,自嘲の思いをこめて,自らにあえて命じる。64∼78
行のメリボエウスの語りは,彼の心の混乱,不安,高揚,絶望を表して,疑問
文,感嘆文,命令文等さまざまな叙述法がめぐるましく交錯する。
75∼78 momego…/earminanu11a…/motl…:牧歌的世界への決別を,帰ら
ぬ昔の幸福を,否定辞を3度くり返しながら,パテティツクにしかし実に美し
いイメージで歌う。
75 uiridiproiec血siれanhI:一行目の「ブナの木蔭に身を横たえたティテユル
ス」の,すなわち「牧歌的な横臥のモティーフ」のバリューシ・ヨン。「緑の洞
窟」とは,ビロードのように一面に苔の生えた洞窟のことであろうか。諸訳が
ほとんど,allongedansunegrotleverdoyante75,StreChedinsomegreencave76;
sdraiatoinunaJerdagrotta77,ingrtinenderGrottemichstreckend78といった
ように直訳であるのに対し,唯一Ldeb版のみstretchedinsomemossygrot79
とはっきり「苔」と言っている。失われた楽園の,もはや永久忙過ぎ去った牧
歌的世界の象徴としての「緑の洞窟」という美しいイメージは,訳注者にボー
ドレールの詩“MOESTAETERRABUNDA”80(悲シミサマヨフ女)を思い起
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85
F牧歌」訳注
こさせる。このラテン語のタイトルを冠した詩で,19世紀のフランスの詩人は,
Commevousetesloin,paradisparfum色!「御身はなんと遠いのだろう,香り高
い楽園よ!」とくり返し歌い,その1evertparadis「緑の楽園」,1’innocent
paradis「無邪気な楽園」は,Est−ildejえplusloinquel’IndeetquelaChine?
「もうすでにインドよりもシナよりも遠いのか?」と嘆くのである。なおボー
ドレールは同詩で海のことを,私達の労苦をなぐさめるrauquechanteuse「し
わがれ声の歌い手」と言っているが,『牧歌』第一歌56行目のraucae,tua
cura,palumbes「君の大好きなしわがれ声のジュズカケバト」と比べて大変面
白い。
78 norentemcytisum:第二歌64にもflorentemcytisumsequiturlascivacapella
う王こやし
「陽気な山羊は花の咲いた首荷を探し回る」とある。
79 Hicねmemhamcmecumpoterasrequiescerenoetem:この個所の未完了過去
poterasは仏語なら条件法過去を用いるところだろう。例えばBude版では,
Ici,dumoins,tuauraisputereposeravecmoi81;同様にLoeb版の英訳では
Yetthisnightyoumighthaverestedherewithme8Z.
80 丘omdesuperuiride:メリボエウスの「緑の洞窟」を受けて,ティテユルス
は「緑の木の葉の上で」と応じる。
81pressi...1actis:1acpressum「搾った乳」とは,fromagefrais(フレッシュ
チーズ),1aitdesseche83
83 maioresquecaduntaltisdemontibusumbrae:冒頭のumbra「影」に照応し
て,第一歌はumbraeとやはり影をもって詩は閉じられる。しかし最初の単
数形のumbraは枝を広げたブナの木が作るやさしく平和な日蔭であるのに対
し,最後の複数形におかれたumbraeは,夜を告げ知らせて山から落ちてく
る大きな影,夜の安らぎをもたらすかに見えて他方同時に,闇のもつ不吉な,
不気味なイメージを内包した影でもある。夕暮れの訪れと共に第一歌は終了す
85
86
文化論集第11ぢ・
るのであるが,F牧歌」では他にやはり,第二 六,十歌で詩の結末と夕刻が
一致し,第九歌でもまた夕べの間近いことを感じさせる。
参考文献
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86
r牧歌」訳注
87
補注
(1)a11elateinisheBildungmitderLektnrederersterEklogebegonnen.参考文献23,P.197(以下
単に23−P.197と表記)
(2)8−P.38 (3)6−P.13 (4)7−P.33 (5)4−P.18 (6)5−P.225
(7)12−P.3 (8)16−P.31(9)14−P.21 ㈹13−P.7 (川 22−P.121
㈹19−P.3 仕3)18−P.55 a4)21−P.5 伍尋 20−P.27 ㈹ 25−P.3
抑 27−P.75 (咽 26−P.23 (19 23−P.198 鋤 3−P.3 餌19−P.3
幽 8−P.38 (姻 5−P.225
糾 25−P.3
幽 28−P.7
幽 20−P.29
囲 25−P.3
銅 8−P.39 β尋 5−P.226
糾12−P.3
¢功1−P.6
糾1−P.7
¢功18−P.57
鍋 21−P.5
鋤 8−P.39
㈹ 27−P.77
㈹ 21−P.5
¢㊥18−P.57
飢12−P.5
錮 3−P.4
拙12−P.5
経カ 25−P.4 ㈹ 6−P.13
掴14−P.23
㈹ 9∬P.19
㈹ 3−P.4
的 28−P.7 ㈹ 6−P.ユ5
㈹ 25−P.4
鯛 8−P.39
机 7−P.34
柑12−P.5
囲18−P.59
帥15−P.82
囲 7−P.35
紹19−P.45
棉 27−P.79
印 7−P.35
縛12−P.7
田 3−P.7
㈹15−P.8ユ
糾 22−P.122
銅19−P.45
糾1−P.10
缶切 6−P.17
㈹1㌻−P.ユ0
悶 9−P.22
(醐 8−P.40
錮 28−P.13
㈹ 25−P.5
ク9 8−P.41
缶句 8−P.40
机12−P.7
㈹19−P.44
印1−P.11
クゆ16−P.35
㈹12−P.9 ¢q Baudelaire,αumscomi)letesI.Gallimard,
1975,P.63 訳は阿部良雄(Fボードレール全集IJ筑摩書房,1983) 軌 8−P.41
幽12−P.9 幽 3−P.8
囲18−P.63
㈹ 25−P.6
87
Fly UP