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Inspection and Direction of Technical Ability of Die
わが国の金型産業の技術力の 点検とその方向性 福 井 雅 彦 東京工科大学 世界同時不況が起こり 1 年になるが、わが国の金型産業が現在どのよう な状況で生産活動を行い、未来に向かって変わろうとしているのか金型 産業の実態を点検すると同時に金型産業の今後について事例を交え紹 介をさせていただく。 1.最近の金型産業 アメリカのいい加減なマネー商売が引き金となっ ちていないこともあり従来の 50 % 程度の仕事量を て世界同時不況に陥って早や 1 年になるが、我が国 やっと確保している。図 1 に自動車産業のものづく の製造業、特に金型産業では先の読めない状況がい り構造図を示しておく。 まだに続いている。この状況はこの後も 1 ∼ 2 年程 現在独立系金型企業での金型の受注は最も良い 度続くことが予想される。と言うのは、先のサブプ 時期の 0 ∼ 10 % で、社員の出勤日数も週に 3、4 回 ライム問題が引き金となって起こった世界同時不況 程度である。このため、国から雇用者確保調整金な の影響と産業構造の変革(地球環境問題など)や購 る名目の補助金を受け、何とかこの不況を乗り切る 買力の大幅低下で、自動車産業のトヨタ自動車 ㈱ や 努力を行っているが、先の読めない状況にある。で ㈱ ホンダなど大手自動車メーカーあるいはその傘下 は、今後の受注予測であるが、トヨタ自動車 ㈱ で のサブアセンブルメーカー(デンソー ㈱ 、アイシン は 2009 年末までは月 15,000 台生産で、2010 年度にな ㈱ …)など自動車メーカーの系列下にある企業では ると 12,000 台の生産台数にすると下請け企業に伝え 7 ∼ 8 月頃になってようやく従来の 60 ∼ 70 % の仕事 が確保できているが、ただ特定車種の部品に限られ た状況にある他、今まで外注した部品も社内で製作 することが行われている。つまり、系列系で部品製 作も含め自給自足で製品作りを行うようになってい る。これに対して、系列に所属していない独立系金 型企業は未だに金型の仕事がほとんどない状況が続 いている。このため、金型の仕事を探すのに血眼に なって営業活動を展開している他、金型の受注を無 理やり確保するため格安価格で受注活動を行う金型 企業もある。また、金型専業メーカーとは少し仕事 の内容が異なる成形メーカー(プレス、プラスチッ ク、ダイカストなど)やサブアセンブルメーカーは 軽自動車やマニュアックな車の生産台数があまり落 2 図 1 自動車メーカーでのものづくり構造図 特集 金型技術力と経営力を問う∼金型企業はなぜ儲からないのか∼ ている。従来月産 18,000 台生産していた車を 70 % 程 度に生産台数を抑えることになる。また、2010 年に なると今まで生産してきたエンジン車に変ってハイ ブリッド車の生産が増える他、電気自動車の生産が 増えてくることが予想される。問題は日本の自動車 メーカーがハイブリッド車で世界市場を圧倒できる か、あるいは新たな電気自動車が日本以外の国(中 国、韓国など)から発売され、それが低価格の場合、 現状の日本の自動車メーカーではこれに対抗する手 段があるのか非常に興味がある。特に、日本の自動 車メーカーが価格面での対応を下請け企業に負担を 押付けないで行うことができるかが今後の業界発展 の鍵になることが考えられる。 上記より独立系金型企業では 2010 年以降も、それ ほど大きな受注増が見込めるとは言い難い状況にな 図 2 新聞掲載記事 (出所:日経新聞) る。このため、金型企業だけでなく多くのものづく り企業も倒産の危機に追い込まれることが考えられ る。期待は電気自動車関連の部品の生産が早い時期 と言える。つまり、金型産業界にとって少し期待が に始まり、日本の自動車メーカーが世界の指導権を 持てる製品が現れ始めたと言える。これとは別にも 握れば話はまた変わってくる。 のづくりや製品販売の商売で新たな動きがある。 他方、OA 機器(携帯電話、ノートパソコン、モバ 1)食品産業 2)繊維産業 3)物流産業 イルパソコンなど)、家電、半導体などの分野での これらの産業の売上が大幅に伸びているキーテク 金型関連の仕事は、2009 年 7 月頃から徐々に上向き ノロジーは、製品の低価格化と新たなビジネスモデ になってきている。その代表的な部品は携帯電話関 ルの導入、活用である。例えば、1)の食品産業では 係の部品、パソコン関係の部品でかなりの生産量が マクドナルド、みずほ村市場、2)の繊維産業では あるとの期待が高まってきている。このため、この ユニクロ、H & M に見られる超低価格販売と新たな 関係の仕事に携わる金型企業やサブアセンブルメー ファストファッションを取り込んだ製品の販売、3) カーなどでは生産体制を整えるため生産設備の増強 の物流産業ではセブンイレブン、ベジタベの無農薬 をする動きもある。ただ、この動きは台湾、韓国で 野菜の栽培と宅配便の有効利用などが時代ニーズを のパソコン、携帯電話の生産量に引きずられた形で 反映して急激に売上げ業績を伸ばしてきている。こ 進行しているとも言える。つい最近の日経新聞に掲 れ以外にも、内需型産業のユニチャームの紙おむつ 載された大垣精工 ㈱ の“HDD(ハードディスク)用 のアジア諸国への販売拡大やヤマハの教育用ピアノ 部品の生産能力 6 倍に増強”や京セラ、村田製作所、 の中国市場への販売など新たなビジネスモデルに基 日本電産などの IT 用電子部品の生産量が図 2 に示し づく商売が業績を伸ばしている。問題は自動車産業 たように 7 月頃から増える傾向にある。つまり、自 のように製造業の 50 % 以上がこの関連の仕事に携わ 動車用の部品は生産量が未だに低迷が続いているが、 る業種が見つからない今しばらくは低迷が続くこと IT 関連の電子部品にだいぶ明るさが見え始めてきた が考えられる。 2.金型産業の技術力の点検 産業界の状況は別にして、金型産業の現状をみる いる。ところが、金型産業自体、一品生産である、 と、この数年 CAD/CAM、NC 工作機械、最近では 言い換えれば経営のやり方を変えることができない 多軸工作機械、デジタルサーボプレス機など最先端 産業である。このような経営のやり方や仕事の内容 の生産設備が工場に多数導入され収益の割には設備 では現在、あるいは近い将来を考えた場合、経営自 過剰になっているが、合理的なものづくりにはこれ 体今以上に苦しくなることが考えられる。このため らの設備は大いに貢献するはずであるが、金型産業 如何にしてこの現状から脱皮するかが金型産業に の 50 % 以上が相変わらず技能重視のやり方を行って とって大きな課題になる。このような金型産業の現 3 (1)シミズ工業 ㈱ 状を打破する方策としては、 1)一業種だけに特化しないこと(業種のバランス) シミズ工業は愛知県刈谷市に本社がある ㈱ デン 2)金型製作だけと言った狭い技術分野だけに特 ソーの第一下請けの会社で、プラスチックの各種成 化しないこと 形とその金型作りを行っている。プラスチック成形 3)一気通貫生産(材料、金型、成形、アセンブル では、ウレタンフォーム成形、FEM キャリア成形、 など全てを考慮)を建前にしたものづくりでの A/C 用複合ロータリードア成形、ファミリーモール 金型の生かし方を考えものづくり計画の立案 ド成形など単品生産からユニット生産に力を入れて と実行を行うこと いる。代表的な部品にはカーエアコンやラジエータ 4)時代趨勢の素早い分析と新たな方案の提案、 実行を行うこと のアセンブル生産がある。図 3 にそのアセンブル部 品のサンプル写真を示しておく。また、シミズ工業 5)先の 4)を行うためのセンスの良い人材の確保、 投入を行うこと(学歴に関係ない) では、最近蓄積してきた金型技術と成形技術のレベ ルアップを行うと同時に、新たな技術開発を行うた 6)経験、常識技術の見直しを積極的に行うこと め設備、機械などの改良、開発なども行い始めてい 7)合理的なものづくり(金 型 を 含 む )を 行 う た る。これにより、より複雑な成形品にトライしたり、 めの IT 技術の構築とその有効活用を行うこと 異種材質との接合などの仕事も行うようになって (技術と技能の結合、金型設計の合理化など) いる。 8)新しい設備(5 軸マシニングセンタ、複合加工 これ以外では、金型設計のスピードアップ化を達 機など)の導入とその有効活用を行うこと 成するため、ハイエンドとミッドレンジの CAD を組 9)新たなものづくり(金型を活用した)のビジネ み合わせ活用している。これにより以前にも増して スモデルの構築と活用を行うこと(先の 3)で 自動車部品金型の設計生産のレベルアップと技術向 上げた一気通貫生産など) 上を可能にしている。図 4 にシミズ工業でのハイエ などである。特に、最近のものづくりでは種々の技 ンド CAD と ICAD/SX の使い分けしたコンカレント 術分野の知識が必要である。また、最終製品(金型 製作だけの受注であっても)の機能、性能アップな どを想定した視野の広い、理にかなったものづくり を行う必要があり、それには技能、技術の両方面を 持ち合わせた人材の登用が必要になるが、それ以外 に新たな金型技術の活かし方や常識の打破等積極的 に行うしか金型産業単独での生き残りの道がないと 言える。 そこで、金型産業である企業がどのように生き残 りをかけて変わってきているのか事例を以下に紹介 図 3 シミズ工業で生産しているアセンブル製品 する。 図 4 ハイエンド CAD と ICAD/SX の適用範囲 4 特集 金型技術力と経営力を問う∼金型企業はなぜ儲からないのか∼ 金型設計システムの構成図を示しておく。なお、シ を示しておく。この会社では、自動車をはじめとす ミズ工業では自社で成形する金型は自社の金型工場 る機器は全て電子化が進むとの考え方で電子部品と で製作することに加え、金型の保守作業の現場も社 IT 関連部品の生産に力を入れ、会社には金型製作部 内に持っている。 門もあるが、自動機つまり自社で生産する部品を作 る機械の設計から製作まで行う部門がある。勿論、 (2)第一精工 ㈱ プラスチック成形(インサート成形、熱可塑性樹脂 第一精工は電子部品、精密部品、自動車部品、金 の成形、熱硬化性樹脂の成形、IC モールの成形…) 型・生産設備などの事業を手掛ける IC モールド金型 も盛んに行っている。 と成形からスタートした会社である。従業員数は国 内 1,200 名、海外 5,000 名で、コネクタとハードディ (3)㈱ 南雲製作所 スク用を始めとする電子部品が 60 %、自動車用セン 南雲製作所は新潟県上越市にある従業員数 140 名 サー、カードキー等の電装部品、その他プラスチッ 程度の会社で、IC リードフレームのトリミング金 ク精密部品等を一貫生産している。特に、携帯電話 型、フォーミング金型、タイバーカット金型の設計 や Web-PC をはじめとするネットブック機器に欠か 製作を行っているが、最近の半導体不況もありトラ せない高速信号伝送用の細線同軸コネクタ分野(折 ンスファーモールド金型、プラスチック成形金型に り畳み方式の携帯電話で利用)で「アイベックス」 加え、各種成形金型の設計製作も行うこともはじめ ブランドで世界のトップシェアを誇る他、小型ハー ている。また、省力化・合理化のための専用自動機 ドディスクドライブに使用される特殊精密成形部品 の設計製作や特殊プレス加工も行っている。図 7 に では、新たな市場を形成している。図 5、6 に手掛 各種成形品のサンプル写真を、図 8 に設計製作した けている電子部品サンプルと精密部品サンプル写真 省力化装置の外観写真を示しておく。 図 7 成形品のサンプル 図 5 サーバ、ビデオ・カーナビ用ハードディスク用電子部品 図 6 携帯電話、パソコン用各種コネクタ 図 8 設計製作した省力化装置 5 (4)三晶技研工業 ㈱ (5)㈱ 明輝 三晶技研工業は富山県滑川市に本社があり、マ 明輝は神奈川県の厚木市に 2 工場、九州、一関に レーシア、中国にも製造工場を持ち技術力(製品設 工場を持つ他、イギリス、タイ、マレーシア、メキ 計)から一貫生産体制で行う他、あらゆる製品に対 シコ、アメリカ、スロバキア等にも製造工場を持つ して挑戦する会社である。取扱っている製品は、マ 国内 300 人、海外 300 人の従業員を持つ会社である。 グネシウム合金製品、自動車、産業機器、家電、民 この会社は、ブラウン管テレビのバックカバーの金 生用のコネクタ製品、インサート成形品、自動車電 型製作からスタートし、現在は液晶テレビ、プロジェ 装品、機構部品、メディア関連品の他、金型の設計・ クターの外装プラスチック部品、自動車のバンパー 製作も行っている。この会社の特徴は、図 9 に示し 等の金型の設計、製作を行っているが、プラスチッ たように独自のオリジナル製品の開発を行うことに ク部品の超大型金型は得意とする分野である。図 11 加え、製造コストの削減、金型寿命延命、納期短縮 に 70 インチプロジェクター用金型とフロントバン 等に挑戦している。ちなみに、モールド製品の製造 パー用金型の製作例を示しておく。 サイクルを 1/3 にする、金型寿命を 5 倍に延命する、 金型納期を 3 D CAD/CAM を活用することで従 来納期より 1 か月短縮することを可能にしてい る。また、製品の一貫生産では製造ラインのオー トメーション化を行い、月産 100 万個を超える超 大量生産部品から小量生産部品までの製造コス トを 30 % コストダウンすることに成功している。 図 10 に自動機による一貫生産ライン(ABS ハウ ジング)図と生産状況を示しておく。 図 11 70 インチプロジェクタ金型とフロントバンパ 金型プラスチック製品 最近、明輝では新幹線の窓ガラスのプラス チック製品の金型製作と生産を行うことに加 え、金型技術では明輝スタックモールド(2 面 取り成形ともいい、金型内に固定側、可動側を 2 面ずつ重ねて配置した構造で、1 サイクルで 図 9 独自のオリジナル製品 生産性を 2 倍に出来る特長を持つため、コスト 削減に効果がある)金型開発に成功している。 これ以外にも機上 3 次元測定機や金型開き量測 定システム等の開発も行っている。図 12 に明輝 が開発した明輝スタックモールド金型の構成図 を示しておく。 図 10 自動機による一貫生産ライン図と生産状況 6 図 12 明輝スタックモールド金型構成図 特集 金型技術力と経営力を問う∼金型企業はなぜ儲からないのか∼ 3.金型産業の技術力の方向性 金型産業も対象製品(自動車、OA 機器、家電…) に開発が進められている高張力鋼板のプレス成形の により技術力の差異がある。 現状とプラスチック材の軽量化の方策について紹介 自動車産業では、自動車メーカーの指示により車 する。 体重量を 30 % 軽くする軽量化技術の開発が脚光を 浴びている。これは地球環境問題に端を発して二酸 (1)高張力鋼板のプレス成形 化炭素排出量の大幅削減規制等で車体の軽量化によ 高張力鋼板としては、材料引張り強度が 490 ∼ る燃費向上や排ガス規制に対応するエコカーの開発 780 MPa の鋼鈑が使われていたが、最近では超高張 に拍車がかかっている。このため、自動車車体の衝 力鋼板なる引張り強度が 980 ∼ 1,470 MPa なる鋼板 突安全性と軽量化を合わせ持つ材料として高張力鋼 も使われるようになってきている。この高張力鋼板 板が出現し、この材料が自動車車体の骨格部品に使 は主にサイドドアビーム、センターピラーなどに われ始めている。この高張力鋼板は一般鋼板より引 使われ、従来の一般厚肉鋼板に代わって薄肉鋼板と 張り強度が大きいため、骨格部品の薄肉化ができ して車体の薄肉化に寄与することから注目されてい るが、プレス成形などでの形状凍結性(スプリング る。高張力鋼板プレス成形での問題点は、鋼板の材 バック)、成形割れやしわの発生など解決すべき問 料特性に依存するスプリングバック量の数値把握が 題が多々ある。このため、大学、産業界で高張力鋼 できないことに加え、鋼板自体比強度が一般鋼板に 板を車体部品として用いるための種々の研究開発が 比べて遥かに高いため金型寿命にも影響する。また、 行われている。また、自動車の内外装部品(インパ スプリングバック量の数値把握ができないことから ネ、バンパー、その他)には、プラスチック材が多 金型製作を何度も作り直す等解決すべき問題が多く く用いられている。プラスチック材の自動車車体へ ある。筆者らの開発では、金型材料の開発とプレス の適用に関しても、軽量化を可能にすることが求め 成形技術開発以外にもプレス成形機の開発も行って られている。このため、鉄やガラスに変わる高強度 いる。図 13 は ㈱ 木村鋳造所、三恵技研工業 ㈱ と筆 プラスチック材の開発なども進んできている。以下 者らが開発を行っている高張力鋼板のプレス成形の 図 13 筆者らが開発を進めている開発コンセプト図 図 14 鋳物材を用いて製作したプレス成形用金型 7 コンセプト図で、図 14 に鋳物材で製作した金型例 生する。これに関しては、高張力鋼板にアルミメッ を、図 15、16、17、18 に成形品、成形品寸法測定結 キを伏した材料も最近新たに発売されている。 果例などを示しておく。成形品サンプルの測定結果 以上自動車部品で注目されている高張力鋼板を用 で言えることは、成形素材である高張力鋼板を材料 いたプレス成形について実験結果を交え産業界で開 の変態点以上の高温で加熱してプレス成形するダイ 発現状を説明したが、自動車メーカーや種々の自動 クエンチ法などを用いると成形での最大の課題であ 車用プレス金型企業が種々の手法(シミュレーション るスプリングバック量が大幅に小さくなることが分 を活用する手法、成形工法を工夫する手法、その他) かる。ただし、ダイクエンチ法で成形を行うと成形 を提案しそれぞれの提案方案で開発を進めている。 品表面に酸化スケールが発生する等新たな問題が発 図 15 プレス実験のサンプル測定箇所 一般プレス成形品 ダイクエンチ成形品 図 16 成形品測定例 図 18 最近注目を浴びているダイクエンチ成形での成形品サンプル写真 図 17 プレス成形したサンプル測定例と測定結果の一例 8 特集 金型技術力と経営力を問う∼金型企業はなぜ儲からないのか∼ (2)プラスチック成形品の薄肉化 度が優れ、反り、引けのない軽量の成形品が得る。 プラスチック成形品の薄肉化も車体の軽量化に大 図 20 に小野産業 ㈱ で行った Mucell 成形品と RHCM きな影響を与える。このため、現在の製品に使われ + Mucell 成形品のサンプル写真を示しておく。 ているプラスチック材を安価な材料に変えることに 事例を紹介したが自動車用部品では軽量化が最優 加え、製品肉厚を現状の 1/2 にする開発と厚肉をそ 先でこれをクリヤーするためこれ以外にも種々の工 のままにしてその内部を発泡層にする Mucell 成形 法が提案され、実用化のための開発努力が行われて 法等が検討されている。 いる。 薄肉化で問題になるのが、強度低下と流動可能性 である。強度低下に関しては、薄肉部の補強に用い (3)ダイカスト部品の高信頼性化 るリブ部での引けと流動で生じるウエルド問題解決 最近、産業界のニーズはすべて省エネ化、短納期 手段として種々の提案(ヒートアンドクール法、真 化、低コスト化の傾向にある。そのため、現在ダイ 空成形法など)を行い実用性の評価が行われている。 カスト成形品も金型の設計段階で解析を用い、試作 薄肉部の引け防止手法として最も注目されている の回数を減らすなどの短納期化を図る努力が行われ のが、ヒートアンドクール成形法である。図 19 は ている。しかし、ダイカスト成形後の工程について 小野産業 ㈱ が実用化している高速ヒートアンドクー は、抜き勾配を取り除く加工や穴加工等の精度が要 ル成形法(RHCM 成形法)の成形工程図である。こ 求され、非常に手間の掛かる切削加工等の後加工を の成形法は従来の一般射出成形法に比べ射出時の金 行っているのが実状で、これが製造時のコストや納 型温度の設定が一般成形より数倍高い温度に設定さ 期の増大を招く要因になっている。 れ、保圧時のある段階で金型温度を一般射出成形法 しかし、ダイカスト成形後の工程については、抜 より低い温度設定に切替え冷却を行う成形法であ き勾配を取り除く加工や穴加工等の精度が要求さ る。この成形法を使うと、リブ部の引けや流動がぶ れ、非常に手間の掛かる切削加工等の後加工を行っ つかる箇所に発生するウエルドの発生を防ぐことに ているのが実状で、これが製造時のコストや納期の 加え、金型との接触性が良くなり成形品の転写性が 増大を招く要因にもなっている。 向上し、シボ等の成形性も良くなると言われている。 上記よりダイカスト成形で 部品のストレート部 また、成形品の軽量化技術として、微細発泡技術が に抜き勾配を付ける と言う常識を打破するため、 以前からある。この技術は、微細発泡技術(Mucell)、 マグネシウム合金材、アルミ合金材を用いて、部品 超臨界状態の N2、CO2 などをプラスチック材に注入 のストレート部に抜き勾配を付けない ストレート させ微細発泡(数十 m)させることにより、寸法精 鋳抜き成形方案 を開発するため、新たな成形方案 を提案し、自動車部品(キーロックボディ等)に適用 した結果、実用化に成功した。図 21 に実用化に成功 した自動車のキーロックボディ部品(マグネシウム 合金)の外観写真を示しておく。この結果では、 ① マグネシウム合金材を用いた新ストレート鋳抜 き成形方案は実用化が可能であること ② ストレート鋳抜き成形方案は鋳造条件、その中 でも金型温度(マグネシウム合金材の材料特性 に起因する)、金型設計方案(ゲート方案)等が 図 19 ヒートアンドクール(RHCM)の成形工程図 図 20 微細発泡(Mucell)技術を生かした成形品サンプル 方案成功に大きな影響を与えること 図 21 開発に成功した自動車部品 9 (1)マグネシウム合金材の材料特性、その中でも材 料の温度特性に注目する。 (2)金型設計方案では、金型冷却方案に注目する(金 型冷却回路の配置、冷却方式など)。 以上の結果から、金型各部温度把握を十分行い成 形中に高温になり易い箇所には、金型の冷却をキメ 細かく行うことが大切であることが分かる。この事 例では、量産化が達成できた他、歩留まりも一般成 形方案より 1 桁下げることができた。 図 22 マグネシウム合金材の温度特性 (4)ダイカスト部品の高品質化 ダイカスト成形品では、成形品内にガス、引け巣 等が明確になった。② の金型温度では、図 22 に示し が発生すると熱処理や溶接を行う際に成形品が割 たマグネシウム合金材の伸びと引張り強さの関係か れ破損すると言われている。この問題を解決する ら 150℃以下の青枠の温度帯では、鋳抜き時に製品カ ため新たなダイカスト成形方案の開発が各所で行 ジリ等の成形不良が多く起きることが分かった。また、 われている。筆者らは、成形品内のガス含有量を 400℃を越える高温条件では、製品が金型にはりつい 4 cc/100 g 以下にすることで、先に挙げた問題解決 て取り出せない状態になる製品トラレが起こった。 ができると考え開発を行った。図 25 は開発を行った 以上のような成形時の諸現象の把握ができ、諸現 成形品である。この開発では、4 つの方案を盛り込 象が起こる原因が成形時の金型温度に依存すること んで開発を行った。具体的には、以下の方案である。 まで分かった。このため、ストレート鋳抜き成形方 ① キャビティ内の真空引き方案 ② ランナー部の 案の確立を行うため、以下の項目が重要であること 空気逃がし方案 ③ 高速射出方案 ④ 金型方案(ラ が分かった。図 23 に鋳抜き部の温度測定結果を、図 ンナーピン導入) 24 に鋳抜き部の冷却方案を示しておく。 上記 ① では、④ のランナーピンを設ける金型方 案を導入することにより一般真空ダイカスト成形方 案ではキャビティ部の真空引き時間を 1 ∼ 1.5 sec し か取れなかったが、提案した新真空ダイカスト成形 方案では真空引き時間が 10 sec 取れることに加え、 ランナーピンをランナー部に設けることでキャビ ティ部と溶湯部の遮断が一時的にでき、または破断 チルソの混入の防止もできる。上記②、④では、ラ ンナーピンと溶湯部の間にある空気が射出時にキャ ビティに混入することを出来るだけ防ぐため設けた ものである。上記③では、高速射出開始位置の方案 図 23 鋳抜き部にジェットクール方案を用いた場合の 鋳抜き部の温度測定結果 図 24 鋳抜き部のジェットクール方案図 10 で、この射出開始位置を間違えるとキャビティ内に 図 25 ガス含有量低減ダイカスト方案品 特集 金型技術力と経営力を問う∼金型企業はなぜ儲からないのか∼ 図 26 一般真空ダイカスト成形方案と開発した新真空ダイカスト成形方案の違い 図 27 新真空ダイカスト成形方案でのガス含有量測定結果 (○内が本成形方案品) 空気を持ちこむ。図 26 に新真空ダイカスト成形方案 結果である。この結果でも、明らか成形品内のガス での真空サイクルを、図 27 に一般真空ダイカスト成 含有量が違うことが分かる。現在実用品の成形に適 形方案での成形品のガス含有量を測定し、比較した 用している。 4.今後のものづくり これから 2 ∼ 3 年は短納期、低価格化に益々拍車 他方、独立系金型企業は従来の金型づくりからの脱 が掛る。特に、大手製品メーカーは製造コストの大 却と新たな量産技術との結合を行うことが企業生き 幅低減のため系列企業による自給自足での製品製作 残りの一方策であると言える。もし、今のままの金 を今以上に行うことが考えられる。たのため、最近 型づくりと経営のやり方を行えばこれからの時代に 数社の技術力のある金型企業が大手製品メーカーの 生き残ることができない。 傘下に入り資金援助を受けることが起こっている。 11