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迷走神経刺激による大脳皮質の神経活動の同期度の変化 Vagus
迷走神経刺激による大脳皮質の神経活動の同期度の変化 Vagus-nerve-stimulation induced modulation of neuronal synchronization in the cortex 狩野竜示 (Ryuji Kano),指導教員 高橋宏知 (Hirokazu Takahashi) Keywords: vagus nerve stimulation, cerebral cortex, local field potential, microelectrode array, rat 1. 序論 迷 走 神 経 刺 激 療 法 (Vagus nerve stimulation; VNS) は , 迷 走 神 経 に ら せ ん 電 極 を 巻 き つ け , 電 気 刺 激を施すことにより,てんかん発作を抑制する治療方 法である.抗てんかん薬の効果が薄い難治性てんかん に 対 し ,VNS は 治 療 の 選 択 肢 の 一 つ と な る . VNS は 臨床上で既に 6 万人以上の患者に用いられているが, そ の 作 用 機 序 は 完 全 に は 解 明 さ れ て い な い .VNS の 効 果として,年単位の長期間の使用により,てんかん特 有 の 脳 波 で あ る 棘 波 が 減 少 す る [1].短 期 的 に も ,て ん か ん 発 作 開 始 時 に VNS を 施 す と , 発 作 の 持 続 時 間 が 短 縮 さ れ る こ と か ら [2], VNS は 大 脳 皮 質 に 何 ら か の 急 性 的 影 響 を 与 え て い る は ず で あ る .し か し ,VNS が 脳 波 に 与 え る 影 響 は 未 だ 解 明 さ れ て い な い [3].本 実 験 で は , ラ ッ ト 聴 覚 皮 質 の 局 所 電 場 電 位 (Local Field Potential; LFP)を , 0.4 mm 単 位 と い う 高 い 空 間 分 解 能 を 持 つ 多 点 電 極 で 計 測 し ,VNS が 神 経 活 動 の 同 期 に 与える急性的影響を解析した.実験では,健常状態と てんかんモデル発作状態の二つの状態に分けて,神経 活 動 の 同 期 を 解 析 し , 脳 の 状 態 に 依 存 し た VNS の 効 果を調べた. 2. 実験方法 2.1 生理実験 96 個 の 計 測 点 を 持 つ 多 点 電 極 を 用 い て ,麻 酔 下 の ラ ッ ト 聴 覚 皮 質 第 4 層 の LFP を 同 時 計 測 し た (図 1 (a)). 本実験で用いた迷走神経刺激装置は,ジェネレータ とらせん電極から成る.計測一週間前にジェネレータ Fig.1. Animal preparation (a) Cortical mapping of neural activities using multi-electrode array. (b) Implantation of VNS device. (i) The generator implanted subcutaneously on the dorsal side of rats. (ii) The spiral electrode wrapped around the left vagus nerve. PLV (ch1, ch2) = 1 ei (Φ ch1 − Φ ch 2 ) ∑ T t (1) を 背 側 の 皮 下 に 埋 植 し (図 1 (b) (i)), ら せ ん 電 極 を 左 上記 PLV を聴覚皮質内の計測点の全組み合わせで求めた.な 迷 走 神 経 に 留 置 し た (図 1 (b) (ii)). VNS の 刺 激 電 流 お,計測点の全組み合わせ数は,聴覚皮質内の計測点数を N と は 0.25 mA か ら 2.0 mA,刺 激 頻 度 は 5 Hz か ら 30 Hz すると,N×(N-1)/2 となる.これらの PLV の平均値,PLVmean と し た . 健 常 な ラ ッ ト で VNS の 効 果 を 調 べ た 後 , カ を 神 経 活 動 全 体 の 同 期 の 指 標 と し て 用 い た . VNS 直 前 イ ニ ン 酸 n 水 和 物 (Kainic acid) 3 mg を 腹 腔 注 射 し , (PreVNS)と VNS 直後 (PostVNS) の各 25 秒間で PLVmean を計算 人工的にてんかん性異常脳波,すなわち,発作状態を した.ただし,紡錘波と判断した時間帯は PLV の計算に含め 誘 発 し た .注 射 後 ,約 30 分 後 に VNS を 30 秒 間 与 え , なかった.なお,PLV の計算は次の 7 種類の帯域で行った:δ 発 作 状 態 で の VNS の 効 果 を 調 べ た . 波,1~4 Hz; θ波,4~8 Hz; α波,8~13 Hz; Low-β波,13~21 Hz; 2.2 同期度の解析 LFP の 解 析 に あ た っ て ,同 期 度 の 指 標 を 示 す 位 相 同 期 度( Phase Locking Value; PLV)を 導 出 し た .ま ず , 計測信号にバンドパスフィルタ,ヒルベルト変換を順 High-β波,21~30 Hz; Low-γ波,30~45 Hz; High-γ波,55~80 Hz. 3. 実験結果とその検討 図 2 (a) に,1.0 mA,10 Hz の条件で VNS を与えた例を示す. 次 施 し ,各 時 刻 の 瞬 時 位 相 を 求 め た .2 計 測 点 間( ch1, 健常なラットでは,VNS の直後で PLV が上昇する傾向を示し ch2) の 瞬 時 位 相 の 位 相 差 を ∆ Φ = ( Φ ch 1 − Φ ch 2 ) , 時 間 た.この PLV の上昇傾向は,図 2 (b) に示すように,すべての 長 を T と し , PLV は 式 (1)で 定 義 し た . 帯域で認められ (n = 6), 特に High-γ帯域においては有意に上 昇した.一方,発作状態では,PLV が減少する傾向にあった. 発 作 状 態 で の PLV の 減 少 は , 特 に , δ, Low−β帯 域 で 有 意 に 認 め ら れ た ( 図 2 (b)). ま た , 健 常 状 態 に お け る ∆PLV m e a n と 発 作 状 態 に お け る ∆PLV m e a n で は , δ , Low−β , Low−γ 帯 域 で 有 意 な 差 が 見 ら れ た (p<0.05; 2 標 本 t 検 定 ).な お ,カ イ ニ ン 酸 の 投 与 後 ,ラ ッ ト 聴 覚 皮 質 に お け る PLV は ,図 2(c)の よ う に 漸 増 傾 向 を 示 し た . VNS に よ る , 発 作 状 態 の PLV の 減 少 作 用 は , こ の上昇傾向を上回った. 健 常 ラ ッ ト に お け る VNS の 同 期 化 作 用 は ,VNS が 認知機能に好影響を与えていることを示唆している. 一方,てんかん発作状態では脳の活動が過剰に同期す る . こ の 発 作 状 態 に お け る VNS の 脱 同 期 化 作 用 は , て ん か ん 発 作 の 抑 制 を 示 唆 し て い る . 一 般 的 に ,高 い 周波数帯域の同期は局所的な情報処理を反映している. 一方,低い周波数帯域の同期は,異種感覚統合や注意 のように,様々な領野にまたがる広域的な情報の統合 を 担 う と 考 え ら れ て い る [4,5].し た が っ て , 健 常 時 の VNS に よ る High-γ帯 域 の 同 期 は , 局 所 的 な 情 報 処 理 の 亢 進 を 促 し ,て ん か ん 発 作 状 態 の δ,Low−β帯 域 の 脱 同期は,領野間の相互作用を抑制することで,発作を 抑える効果を反映していると考える.このように, VNS の 効 果 が 健 常 時 と 発 作 状 態 で 異 な る こ と か ら , VNS が 同 期 の 恒 常 性 を 保 つ 作 用 を 有 す る こ と が 示 唆 される. 4. 結論 本 研 究 で は , ラ ッ ト 聴 覚 皮 質 に お け る LFP を 計 測 し , VNS が LFP の 同 期 度 に 与 え る 影 響 を 解 析 し た . また,その影響が,カイニン酸投入前後でどのように 変 わ る か を 調 べ た .そ の 結 果 ,VNS は 脳 活 動 の 同 期 度 が低い健常状態では同期を促し,同期度が高いてんか ん発作状態では脱同期を促すことがわかった.このこ と か ら ,VNS は 脳 活 動 の 恒 常 性 を 保 つ 機 能 を 担 っ て い ることが示唆される. 参考文献 Fig.2. VNS-induced modulation of neural activities (a) PLV among auditory cortex before and after VNS. Each dot shows a channel of electrode. Lines sho w PLVs in certain ranges. (b) Band specific ∆PLV me a n induced by VNS in normal state (gray dotted line) and epileptic state (black solid line). Asterisks indicate ∆PLV me a n is significantly higher than zero (one-sided t-test): *: p<0.05; (c) Time course of PLV me a n in Lo w β (gray dotted line) and Low γ (black solid line) band after ad ministration of kainic acid. [1] Morris, G. L., 3 r d and W. Mueller: “Long-term treatment with vagus nerve stimulation in patients with refractory epilepsy”, Neurology, Vol.53, (1999), pp.1731-1735. [2] A. Zagon, AA. Kemen y: “Slow h yperpolarization in cortical neurons: a possible mechanisms behind vagus nerve stimulation therap y for refractory epilepsy?”, Epilepsia, Vol.41, (2000), pp.1382-1389. [3] E. Hammond, B. Uthmanm, S. Reid, and B. Wilder: “Electrophysiological studies cervical vagus nerve stimulation in humans: I EEG effects”, Epilepsia, Vol.33, (1992), pp.1013-1020. [4] C. E. Schroeder and P. Lakatos: “Lo w-frequency neuronal oscillations as instruments of sensory selection”, Trends in Neurosciences, Vol.32, (2009), pp.9-18 [5] X. J. Wang: “Neuroph ysiological and computational principles of cortical rh ythms in cognition”, Physiological Reviews, Vol.90, (2010), pp. 1195-1268