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スタートアップ講座テキスト - LEC東京リーガルマインド

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スタートアップ講座テキスト - LEC東京リーガルマインド
中小企業診断士
15 年スタートアップ講座
はじめに
LEC 東京リーガルマインド
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中小企業診断士に求められる能力
1
試験制度と求められる能力
「試験案内」によると診断士試験の目的が次のように明記されています。
第1次試験は「中小企業診断士となるのに必要な学識を有するかどうかを判定する」、第2
次試験は「中小企業診断士となるのに必要な応用能力を有するかどうかを判定する」となって
います。これを、「試験を通じて、経営コンサルタント(中小企業診断士)に求められる能力
は何か」という観点から少し具体的にまとめてみましょう。
な知識を習得
な能力を習得
わかる!
登録
コンサルティングに必要
三次試験
(実務補習)
1
二次試験
一次試験
(選択式)
コンサルティングに必要
知る!
2
(論述・口述)
<図表1-1 中小企業診断士制度の全体スキーム>
コンサルティングを実践
できる!
3つの求められる能力
知識
まず、経営コンサルタントに求められるものは企業の経営・管理(マネジメント)に関する
知識を保有していることです。さらに、企業を経営していく際に必要になる経済・社会の幅広
い知識も必要です。これらの知識は、主に1次試験で問われます。
経営コンサルタントを職業としていくためにはこれだけでは足りません。どのような業界の
依頼主(クライアント)からのコンサルティングの要請がきても大丈夫なように、代表的な業
種・業界の知識を一通り保有しなければなりません。また、次に述べる思考プロセス(問題解
決力)の武器となる、問題解決技法(メソッド)をいくつか身に付けていることも必要です。
これらの知識は、部門専門性の薄れた1次試験ではあまり重視されません。どちらかと言うと
2次筆記試験に臨む際のベース知識ということになります。
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技法:思考プロセス(構想力・問題解決力)
コンサルタントの仕事は突き詰めればクライアント企業の問題解決をサポートすることです。
2次筆記試験はまさにこの能力を試そうとするものです。長文の与件(問題文)を因果関係な
どを意識して整理し、問われている各設問のねらいを構造化していく作業です。構造化とは、
部分ではなく対象の全体像を浮かび上がらせることです。
この作業は、実際の経営コンサルティングプロセスのミニチュア版といえます。そこには、
思考の一貫性・総合性と具体性、さらに創造性が要求されます。言い換えれば、「知識」を「知
恵」に変換するプロセスといえます。
また、与えられた条件から論理的に解答を導き出すという意味では、「計算力」も問題解決
力の範囲に入ります。
3
表現力
経営コンサルタントはクライアント企業の経営上の問題を的確に発見しすばらしい解決策を
立案できても、その案をわかりやすく報告書にまとめ、さらに口頭でクライアントに伝えなけ
ればなりません。このためにまず「記述力」が必要になります。これは、主に2次筆記試験で
問われます。また、せっかく心血を注いだ解決案もクライアントから採用されなければ宝の持
ち腐れになります。企業経営者は、その案が良いものだと認めても、それを実行する勇気がも
てない場合があります。そこで必要になるのが「説得力」と「助言能力」です。これは主に2
次口述試験で問われることになっています。
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1次試験とは
1
1 次試験科目の体系図
中小企業診断士試験(1次試験)の科目には「経済学・経済政策」「財務・会計」「企業経
営理論」「運営管理」「経営法務」「経営情報システム」「中小企業経営政策」と7科目もあ
り、他の国家試験と比べても試験範囲はかなり広いものとなっています。
<図表1-2 中小企業診断士制度の全体スキーム>
<経営環境>
中小企業政策
組織論
マーケティング論
運営管理
店舗・販売管理
生産管理
クライアント(
中小企業)
経営戦略論
経営情報システム
財務・
会計
経済学・
経済政策
企業経営理論
中小企業経営
<マネジメント>
経営法務
特に上図の科目間体系図の中心にある「企業経営理論」「運営管理」「財務・会計」は企業
経営の根幹を成すものであり、2次試験においても関連性が非常に高い科目であるため、重点
的に学習する必要があります。(2次試験の詳細については後述します)
しかし1次試験においては7科目の配点はそれぞれ100点満点であり、限られた時間でま
んべんなく広範囲にわたる試験科目に対応するためには、何よりもまず「効率的」に学習する
ことが求められます。
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科目設置目的
経済学・経済政策
企業経営において、基本的な経済指標の動きや為替、国際収支、市場動向などを把握するこ
とは、経営者がビジネス上の意思決定を行う際の基本である。また、企業財務を学ぶために、
ミクロ経済の知識を身につけることも必要である。そこで、経済学の主要理論及びそれに基づ
く経済政策について科目を設ける。
2
財務・会計
財務・会計に関する知識は企業経営の基本であり、また企業の現状把握や問題点の抽出にお
いて、財務諸表等による経営分析は重要な手法となる。また、今後、中小企業が資本市場から
資金を調達したり、成長戦略の一環として他社の買収等を行うケースが増大することが考えら
れることから、ディスカウント・キャッシュフローの手法を活用した投資評価や、企業価値の
算定等、企業財務に関する知識も獲得する必要がある。
3
企業経営理論
相談企業の経営に関する現状分析及び問題解決、将来の事業計画策定に必要な最低限の知識
を獲得することを目的とする。
創業や経営革新に関する診断・助言においては、マネジメント・プロセスに即した診断・助
言能力が必要である。企業経営理論を活用し、必要な情報の収集・分析から企画の策定、必要
な経営資源の調達など、幅広い応用能力を習得することが求められる。
4
運営管理(オペレーション・マネジメント)
中小企業に対する診断・助言において、製造工程の管理や店舗・販売管理に関する基本的な
知識を身につけることによって、企業経営の現場に即した問題点の把握や課題解決方法の提示
ができる能力を身につける。
5
経営法務
創業者、中小企業経営者に助言を行う際に、企業経営に関係する法律、諸制度、手続等に関
する実務的な知識を身につける必要がある。特に、経営支援において必要に応じてそれぞれの
分野の有資格者を活用していく場合、有資格者に仲介するための最低限の実務知識を有してい
ることが求められる。
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経営情報システム
企業経営において情報システムを活用するために必要な基礎的な知識及びシステム設計の基
礎知識を身につけて、システムエンジニア等適切な専門家と経営者との橋渡しができるように
する。
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中小企業経営・中小企業政策
【中小企業経営】
中小企業診断士は、中小企業に対するコンサルタントとしての役割を期待されており、中小
企業経営の特徴を踏まえて、経営分析や経営戦略の策定等の診断・助言を行う必要がある。そ
こで、各種統計等により、経済・産業における中小企業の役割や位置づけを理解するとともに、
中小企業の経営特質や経営における大企業との相違を把握する必要がある。
【中小企業政策】
創業や中小企業経営の診断・助言を行う際には、国や地方自治体等が講じている各種の施策
を、成長ステージや経営課題に合わせて適切に活用することが有効である。そのため、中小企
業に関する法規や施策について、内容、活用方法等を熟知していることが望まれる。
また、高度化融資制度や小規模企業等設備導入資金貸付に伴う診断についても、診断要領に
基づく診断実務を知っておく必要がある。
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2次試験とは
1
2次試験科目と経営戦略立案フロー
経営理念・ビジョン
自社はどうあるべきか、どうありたいか
内部環境分析
外部環境分析
自社のもつ強み、
弱みは何か
自社にとってチャン
ス、ピンチはあるか
ドメイン
自社はどの分野で勝負するか
経営戦略
どの市場を選ぶか、競合他社にどのようにして打ち勝つか
機能戦略
組織づくり、人材活用
財務・資金管理
モノづくり・販売
戦略目標を達成するために、どのように組
織をデザインするか、人材を有効に活用す
るか(事例Ⅰ)
事業に必要なお金をどのように調達する
か、成長性と健全性が両立する財務体質を
いかに構築するか(事例Ⅳ)
ニーズに合った製品をいかに効率よく製造
するか、
いかに効果的に販売していくか
(事
例Ⅱ&Ⅲ)
情報活用
情報を管理し、いかに効率的・効果的に企業経営を行うか
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2次試験科目の設置目的
事例Ⅰ:
「組織・人事を中心とした経営戦略に関する事例」
機能別戦略の1つである組織・人事戦略に関する事項を中心に出題される事例です。組織・
人事とは、組織再編や組織改革による組織力の強化、人事施策による労働生産性の向上等を図
る戦略を指します。主として、企業経営理論で学習する経営組織論を、事例企業の戦略・戦術
に応用することが求められます。
2
事例Ⅱ:
「マーケティング・流通を中心とした経営戦略に関する事例」
機能別戦略の1つであるマーケティング・流通に関する事項を中心に出題される事例です。
主として、企業経営理論で学習するマーケティング論と運営管理で学習する店舗・販売管理を、
事例企業の戦略・戦術に応用することが求められます。
3
事例Ⅲ:
「生産・技術を中心とした経営戦略に関する事例」
機能別戦略の1つである生産・技術戦略に関する事項を中心に出題される事例です。生産・
技術戦略とは、生産性や技術の向上、技術の活用等を図る戦略を指します。主として、運営管
理で学習する生産管理を、事例企業の戦略・戦術に応用することが求められます。
4
事例Ⅳ:
「財務・ファイナンスを中心とした経営戦略に関する事例」
機能別戦略の1つである財務戦略に関する事項を中心に出題される事例です。財務戦略とは、
資本の適切な調達と運用を図る戦略を指します。主として、財務・会計で学習する財務戦略の
前提である経営分析等、企業財務全般に関わる内容を含めて事例企業の戦略・戦術に応用する
ことが求められます。
3
1次試験と2次試験の関わり
これまでで紹介した1次試験と2次試験は、重点的に整理すべき1次試験科目と2次試験科
目の関係を示すと次の表の通りになります。
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<図表1-4 1次試験と2次試験の関係>
1次試験中核3科目
企業経営理論
運営管理
財務会計
ファイナンス
アカウンティング
店舗・
販売管理
生産管理
マーケティング論
組織論
戦略論
全体で共通
事例Ⅰ
事例Ⅱ
事例Ⅲ
事例Ⅳ
組織(人事を含む)を中心と
した経営の戦略および管理
に関する事例
マーケティング・流通を中心
とした経営の戦略および管
理に関する事例
生産・技術を中心とした経
営の戦略および管理に関す
る事例
財務・会計を中心とした経
営の戦略および管理に関す
る事例
2次試験4科目
このように2次試験は、1次試験科目7科目のうち3科目にあたる「企業経営理論」「運営
管理」「財務・会計」の知識が必要な構成となっています。
事例問題で求められる1次試験科目からの応用力を考えると、1次試験科目からの内容全て
を網羅するのではなく、重点学習領域を絞り込む必要があります。ストレート合格の可能性を
少しでも高めるためには、中核3科目で学ぶ知識は2次試験でも直接関連するところが多いと
いえます。
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1次試験と2次試験
の関わり
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経営環境を分析する
1
外部環境分析とは何か
【外部環境分析】
外部環境は、マクロ環境とミクロ環境に分けられます。マクロ環境とは企業に間接的に
影響を及ぼすものであり、ミクロ環境とは直接的に影響を及ぼすものです。
マクロ環境…政治・経済・文化・自然環境・技術
ミクロ環境…業界・市場・競合・製品動向・中間媒介者
企業の経営は様々な要因から影響を受けています。政治、経済、社会的な動向、顧客の志向
の変化、競合他社の動向、法規制の変更など、その存在は列挙しきれないくらいです。しかし、
企業経営においては、それらを読み取って対応することが必要です。
例えば、「景気対策」という言葉を新聞でよく見かけますが、それが経済にどのような効果
を生み出すのか、財政政策と金融政策がどのような場面で行われるのかを知っておくことで、
企業活動を有利に展開することができます。
企業の置かれた環境を理解し、成功している企業の事例を見ることによって、経営のヒント
とすることができます。国や行政がどのような支援を行っているかを知りその活用を考えるこ
とも重要です。
また、昨今では、コーポレートガバナンス(企業は誰のためにあるのか、どう運営されるべ
きなのかを定義し遵守する考え)やCSR(企業の社会的責任)の観点からの経営が問われて
います。これは市場からの企業に対する要望ととらえることができます。
2
内部環境分析とは何か
【内部環境分析】
企業は、内部環境分析により、自社の特性、企業能力(経営資源)を客観的に評価する
必要があります。
また他社との競争において、自社を差別化し優位とするための中核的な能力をコア・コ
ンピタンスといいます。
【内部環境要因】
組織構造・人材力・財務力・販売力・生産力・研究開発力
技術・特許・マーケティング力等
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内部環境分析において、自社のコア・コンピタンスの明確化は、非常に重要です。そこで、
コア・コンピタンスを中心に経営戦略を立案する必要があります。そうでなければ、自社の
独自性を発揮できず、結果として競争に敗れてしまうからです。
3
経営環境を分析するコンサルタントツール
経営環境を分析するツールとして、SWOT分析があります。
<図表2-1 SWOT分析>
内部環境
外部環境
Case
好影響
悪影響
強み
弱み
(Strengths)
(Weaknesses)
機会
脅威
(Opportunities)
(Threats)
小林製薬のコア・コンピタンス
「ブルーレット」
「キズドライ」
「サラサーティ」
「のどぬーるスプレー」
「熱さまシー
ト」
「チン!してふくだけ」…。小林製薬は知らなくても、そこでつくられたユニークな
ネーミングの商品はよく知られています。こうした商品開発力こそが、小林製薬のコア・
コンピタンスです。では、この開発力はどこから生まれるのでしょうか。
これら個性ある商品のアイデアは、いずれも社員提案制度によって一般社員から出て
きたものばかりです。小林製薬の社員提案制度では、1年間に3万5千件以上の提案が
社員から出されます。製品化され、ある程度の売上を達成した提案には社長特別賞とし
て最高 100 万円が支給されます。毎年、上位優良者は社長とのホテルディナーもありま
す。年間 280 件のアイデアを出す猛者もいるそうです。
会社が、
「面白いものがあれば多少の問題があっても採用し、とりあえず製品化する」
という姿勢を取り続けていることが、社員の提案へのやる気を生み出しています。さら
に、自分や、周りの仲間が提案した商品が巷にあふれることで、さらに提案意欲が掻き
立てられるのです。こうした社内風土こそが、小林製薬の強みを生み出す本当の中核能
力(コア・コンピタンス)であると言えます。
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機能戦略の決定
1
機能戦略とは何か
機能戦略
企業は、経理、製造、営業、マーケティングというように、役割(=機能)を持った
複数の部署から成り立っています。これらの各機能別の意思決定や戦略の具体的内容が
機能戦略である。目的は、各機能ごとに効率性や収益性を最大化することである。
2
マーケティングとは何か
マーケティング
企業はいくら経営理念やビジョン、戦略がすばらしくても、製品が売れなくては存続
していけません。製品を販売するために、市場や顧客に様々な働きかけを行うのがマー
ケティングです。マーケティングとは、標的となる市場や顧客を定め、そこに顧客の満
足を充足させる製品を、適正な価格で、ふさわしい販売チャネルで、効果的な販売促進
政策を行っていくことといえます。
<図表2-5 マーケティングの4P>
製品戦略(Product)
マーケティング
・ミックス
価格戦略(Price)
販売促進戦略(Promotion)
チャネル戦略(Place)
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第2次試験出題例
B社は現在、本店の他に支店を2店舗持つ美容院である。現在の経営者の夫人Mさんが、美
容師にあこがれて美容師免許を取得し、数年間美容院に勤務した。その後独立し、現在本店の
ある場所で美容院を創業してから 30 年がたった。
B社の立地は、もともとJRの駅からは徒歩圏内の距離にあった。近隣には古くからの居住
者が多く、人口の変化もなく、限定された市場の中での競争であった。地域にいかにして溶け
込むかを考え、誠心誠意、「任せきって安心できる、リラックスして過ごせる親切なお店」を
目指した。その後、夫も経営に参加し法人に改組した。従業員を雇うようになり、Mさんは現
場と従業員の指導にあたり、B社のマネジメントは夫が引き受けるようになった。
開業から 15 年後、JRと連絡する地下鉄が開通することになり、JRの駅と連絡する駅を合
わせて3駅が徒歩圏内になるなど交通の便も良くなり、近隣に新しい居住者も増えた。通勤・
通学のために店舗の前を通って駅に行く人の数も増え、B社は順調に売り上げを伸ばしていっ
た。人口の増加とともに美容院も増え、特に低価格店が近隣駅周辺に開業するようになった。
経営環境の変化に伴い、B社は多店舗展開を始めた。支店を地下鉄の駅前に展開し、それぞれ
に1店舗ずつ2店舗持つようになった。
現在の従業員数は 15 名で、その内訳は美容師が 10 名、美容師の国家試験合格を目指して勤
務している者が5名である。年齢層は、10 歳代が3名、20 歳代が8名、30 歳代が4名である。
ちなみに経営者夫婦は 50 歳代である。また、従業員の採用については、美容学校や美容組合に
働きかけ、地元出身者を積極的に採用している。
3階建ての店舗兼自宅ビルの1階に本店の店舗と2階に事務所があるが、特徴的なのは、そ
の店舗の隣に地元の人々との交流を目的とした、掲示板を備えたサロンがあることである。B
社は、わずかな参加費に材料費を加えた程度の費用で、生け花教室から社交ダンスまで、各分
野の講師を招き、少人数のカルチャー教室を運営している。B社のこのような経営は、次第に
地域住民の支持を得るようになり、Mさんの「自分を育ててくれた地域に対しての感謝の心」
が顧客に浸透し、客と技術者という関係よりも、友達、親・兄弟(姉妹)・娘というように、
揺るぎない信頼関係で結ばれるようになった。B社は顧客が真に安心して任せられる技術、ひ
とときの息抜きの中にファッションの夢に浸れる憩いの場、そして誠心誠意顧客の立場に立っ
た、信頼に裏打ちされた人間関係を築いてきた。
さらにサロンを通じて、地域のコミュニケーションのネットワークの一部を形成するように
なった。掲示板は顧客同士の情報交換ツールとして機能し、備え付けの「ひとくち一口カード」
と呼ぶ小紙片に、伝言と連絡先を記入して貼り付けるようになっている。
B社の昨年度の売り上げは一億円弱である。この中には、ヘアケア、スキンケア商品を中心
に物販が約8%占めている。
本店は、あくまでもサービスの質を高めた憩いの場の提供である。顧客にゆったりとした雰
囲気を味わってもらいたいため、基本的に完全予約制であり、順番待ちの顧客とサービスを受
けている顧客との間の気まずい関係を排除している。しかし、緊急を要する顧客やカルチャー
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教室の時間の都合による事情等については、臨機応変に対応している。また、着付けのサービ
スはもとより、最近はネイルアート技術を若手従業員に習得させ、ネイルのサービス提供も始
めている。今後はエステの導入も視野に入れ、幅広い顧客層からの支持を広げようとしている。
これに対して支店は、本質的サービスを基本とし、付随的サービスを軽減している。基本的
に手洗いシャンプーは省略し、効率化のためにオートシャンプー(自動洗髪機)を導入してい
る。もっともオートシャンプーの導入は、美容師の職業病である腰痛や手荒れの解消にもつな
がり、美容組合あっせんのオートシャンプーは手洗いにも対応しているため、本店でも1台導
入している。従業員も若手スタッフを配置し、スタッフの服装も各自の趣味とセンスに任せて
いる。店舗の内装や設備、顧客との会話などにおいてもカジュアルな雰囲気を醸成している。
また、支店は予約制は取らず、待ち時間が長くても顧客は減る気配がない。これも本店の技術
と信頼の影響ではないだろうか。
プロモーション活動については、基本的に本店と支店共通に行っている。会計時に顧客に配
布する手作りの会報「時わすれ」は、夫と若手従業員の企画による手作りのものであり、カル
チャー教室の案内、流行のヘアスタイル、ファッションからグルメ情報までが満載である。そ
れ以外はくち口コミとチラシのポスティングが主であるが、ポスティングは支店対象のもので
ある。新規顧客対象というよりは既存顧客との関係を大切にし、会報を通じてイベントやコン
テストを案内し、参加を呼びかけている。また、顧客管理をコンピュータ化し、顧客一人ひと
りのカルテを作成して、最終来店日から一定期日経過後に、「そろそろ髪がまとまりにくくな
ってきませんか?」などという文面でDMの発送を行っている。また、物販にも力をいれ、ヘ
アケア、スキンケア商品の紹介もしている。
B社は、従業員の技術と接客の質の安定と向上のために、美容組合主催の講習会には積極的
に従業員を参加させている。もちろん、参加させる順番には偏りがないようにしている。また、
本店、支店の報酬格差はなく、経営者夫婦は店長会議において、各店長から現場の意見を吸い
上げ、十分時間をかけて報酬を決定している。さらに各店舗で、店長が店舗全体の目標、従業
員が職務についての期間目標を定め、達成度に応じたインセンティブを与えることも積極的に
行っている。また、各店舗に意見箱を置き、経営者夫婦に直接仕事上の悩みや相談を持ちかけ
られるようなシステムを作っている。もちろん電子メールによる従業員との対話も積極的に心
がけている。
Mさんが美容院を開業してから 30 年が経過したが、最近、地域の人口の伸びも止まってきて
いる。B社は地域に根を下ろし、地域密着で経営してきたが、安定と変化の中で経営者夫婦は
悩み始めていた。
ある日、長期入院中のお客さんが美容サービスを受けるため、わざわざ外泊の許可を取って
きた。このとき以来、Mさんは出張美容サービスへの思いを強く抱くようになった。出張美容
には美容師法の規制や保健所等との関係もあるが、Mさんは、移動美容車を使い、保健所から
美容室としての許可を受けて営業する方法を選び、現在、バスを改造した移動美容車購入を真
剣に検討している。
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第1問(配点 30 点)
B社は地域の人口動態の変化とともに新しい戦略を展開してきている(あるいは展開しよう
としている)が、それはどのような戦略なのか。それらを三段階に分けて(a)欄に具体的に示し、
また、それぞれの戦略の意義を 60 字以内で(b)欄に述べよ。
(第1段階)
(a)
(b)
(第2段階)
(a)
(b)
(第3段階)
(a)
(b)
25
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第5問(配点 20 点)
B社にとって、インターネットを活用し、顧客との関係を強化するための有効な方策はどの
ようなものか。具体的に2つ挙げ、それぞれ 60 字以内で述べよ。
①
②
26
1次試験各科目の
学習ポイント
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企業経営理論
1
科目概要
全7科目の中でも中核的科目として位置づけられており、2次試験にも直結している科目で
す。
①経営戦略論、②組織論、③マーケティング論の3分野から構成されており資金面以外の経
営に関する基本的な理論の習得を目的としています。これは、経営に関する現状分析や問題解
決、新たな事業への展開等に関する助言を行うにあたり必要不可欠な知識となります。それぞ
れの分野は非常に奥が深いので、診断士試験の合格という本来の目的をしっかりと意識し、枝
葉末節にとらわれずに他の科目や2次試験との関連を踏まえて、早い段階で学習内容の骨格を
掴むことが重要です。
2
学習指針
企業経営理論は診断士試験の基幹となる科目です。概要でも書きましたが、それぞれの分野
は非常に奥が深いので、あくまでも「試験に出るかどうか」という基準で割り切ることが必要
です。テキストは過去問を通して、重要な理論やキーワードがコンパクトにまとまっています
ので、テキストを中心にそれらの論点を理解する学習を心がけるようにしましょう。
また、知識や理論を丸覚えして終わりにするのではなく、その知識や理論を日常生活の中で
応用して、現実を分析することが 1 次試験対応力を養うという観点からは何より重要です。
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過去の出題例
平成 23 年度 第 32 問(設問1)
次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。
ある地方の山間部の温泉地で旅館を経営しているB社は、当該温泉地を代表する老舗高
級旅館で、高サービス・高価格を特徴としている。その主要な顧客層は比較的裕福な中高
年層であるが、景気の悪化の影響もあり、ここ数年来客数が減少しており、客室稼働率の
低下に悩まされている。このような状況への対策として、同社は顧客満足度の向上に取り
組もうとしていた。
(設問 1)
物財と比べたときのサービス財の一般的特徴に関する記述として、最も不適切なもの
はどれか。
ア サービス財の場合、買い手がその生産に関与し成果に影響を及ぼす。
イ サービス財は需要の変動が大きいため、物財よりも多くの在庫をもたなければなら
ない。
ウ サービス財は生産と消費を時間的・空間的に分離して行うことができない。
エ サービス財は物財と比べて品質を標準化することが困難である。
オ サービス財は無形であるため、物財に比べ、利用前にその品質水準を評価することが難
しい。
解答
42
イ
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