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Economic Indicators 定例経済指標レポート

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Economic Indicators 定例経済指標レポート
Economic Trends
経済関連レポート
アベノミクス1年、なさざること 発表日:2013年12月26日(木)
~ 消 費 税 増 税 に 挑 戦 す る 2014年 に 襟 を 正 す ~
第一生命経済研究所 経済調査部
担当 熊野英生(℡:03-5221-5223)
安倍政権が発足して 12 月 26 日でちょうど1年目になる。循環的景気拡大は進んだが、一方で構造問題が
置き去りにされてはいけない。人口減少、地方の疲弊、産業空洞化など構造的課題はまだ残されている。財
政規律が、消費税収の増加で緩むという見方もある。アベノミクスが求心力を維持していくためには今一度
課題を描きなおして、再出発することが大切であろう。
まだ改善していない部分はどこか
安倍政権が誕生して、2013 年 12 月 26 日で、
ちょうど1年が経つ。1 年前の就任会見では、
「内閣の総力を挙げて、大胆な金融政策、機
動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦
略、この三本の矢で経済政策を力強く進めて
結果を出してまいります」と語っていた。事
実、経済が復活して、企業や勤労者が楽観ム
ードに大きく切り替わったことは確かだ。
実質 GDP 成長率は、4 四半期連続でプラスに
なる。日経平均株価は 2013 年 12 月 26 日終値
16,174.44 円が、ちょうど 1 年前の 1.58 倍で
ある(図表 1)。為替レートも 12 月 25 日時
点で 104.74 円/ドルで 1 年前の 1.22 倍の円安である。アベノミクスを歓迎する人々には、そうした株価
上昇、円安の好影響を受けた人が多い。
筆者は、だからこそ問いたい。アベノミクスが本当に日本経済を変えたのか。変わったところもあれ
ば、変わらないところもある。今は変わっていないところにもっと焦点を当てるべきではないか。
変わったところの代表格は、前述のように相場の動きである。そこを起点にして、円安は製造業の収
益を押し上げ、株高は個人消費を増やして非製造業の収益を押し上げた。また、製造業の生産活動は上
向きに変わって、それが雇用拡大、設備投資へと徐々に広がりをみせている。エコノミストは、こうし
た動きを循環的景気拡大と呼ぶ。循環的景気拡大の作用は、通常であれば1年以上の景気拡張を呼び起
こす。今回は 2014 年 4 月に消費税増税が控えているので、循環的景気拡大の作用が増税ショックを乗り
切れるかどうか、正念場ということになる。
反面、「変わっていない」部分として注目したいのは、循環的景気拡大に対して、残されている構造
問題である。90 年代以降、日本経済は構造不況に見舞われた。景気拡大が進んでも、構造不況の体質は
そのまま持ち越されているように思える。例えば、業種別、企業規模別、地域別には景況感などにかな
り大きなばらつきが残っている。日銀短観の業種別クロスセクションのデータを並べると、景気回復の
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調
査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更され
ることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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恩恵が十分には表れず、依然としてマインドの改善が出遅れている業種などが存在することがわかるだ
ろう(図表 2、3)。その背景には、各業種などが抱えている構造問題がそれぞれに業績改善の足を引っ
張っている事情がある。
視点を変えて、日本経済が抱えている問題には、人口減少、地方の疲弊、産業空洞化、高齢化による
財政悪化、非正規労働の増加、などが挙げられる。これらは、相互に関連していて、単に景気が良くな
っただけでは消えてなくなることのない問題である。ところが、90 年代以降、ちょっと景気が良くなる
と、構造問題の深刻さは忘れられ、政策の優先順位から外れることが少なくなかった。そして、景気悪
化が起こると、その度に構造不況が訴えられてきた。
成長戦略への過大な期待が剥落
翻って、アベノミクスは、人口減少、地方の疲弊、産業空洞化に取り組もうとしているのか。
こうした疑問への回答は、安倍政権は「第三の矢」で構造問題を視野に入れた改革を構想していて、
これから取り組むだろうというものだ。確かに安倍首相自身は、成長戦略の推進には熱心である。2014
年初に成長戦略の実行計画を閣議決定する方針を打ち出し、2014 年 6 月に今まで盛り込めなかった規制
緩和策を加えて、成長戦略を策定すると述べている。
しかし、残念なことに「これから成長戦略をやる」という情報発信には、すでに国民やマーケットが
以前ほど強くは反応しなくなっている。その理由は、成長戦略が実行段階に移されて、臨時国会で法案
審議に移ったが、その内容がイメージされていた成長プランとやや食い違ってきていることが大きい。
10 月 15 日から 12 月 8 日まで開催された臨時国会は、始まったときは「成長戦略実行国会」と位置づけ
られた。安倍首相の所信表明演説は、大方の部分が経済政策に使われていた。ところが、臨時国会が終
わってみると、臨時国会は特定秘密保護法案の強行採決の印象が残された。成立した法案には、国土強
靭化法案もある。そこでは首相が国土強靭化本部長になるという。
肝心の成長戦略に該当するものは、産業競争力強化法と国家戦略特区法が主軸になる。しかし、この
2つの法案で日本経済が変わると思う人がどれだけいるであろうか。当初「民間投資を喚起する成長戦
略」という枕詞が付いていたが、どうして2つの法律で設備投資が増えるのかという疑問も湧いてくる。
マーケットからの視点で言えば、民間投資を喚起するのは、法人税減税であろうという声が大きい。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調
査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更され
ることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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法人税減税については、復興特別法人税の前倒し廃止ではなく、法人税の実効税率を下げていく議論が
期待される。法人実効税率の引き下げは自民党税制調査会の答申でも先送りされた。今のところの成長
戦略は、プロビジネス(企業支援重視)ではあるが、必ずしもプロマーケット(市場重視)ではないと
いう批判※もある。政府の側に立って考えてみると、産業競争力強化法も国家戦略特区も、大枠を示した
ものであり、個別の規制緩和に成果を発揮するのはこれからになる。政府はその手前で、期待外れと言
われるのは心外だろう。その点は、この先、できるだけ早期に実績を積み重ねることが必要と言える。
※2013 年 11 月 13 日の日本経済新聞「経済教室」では、中央大学の森信茂樹教授がこうした視点で鋭い批判を述べていた。
手付かずの構造問題
筆者が最も深刻な構造問題だと考えるのは、社会保障関係費の膨張である。ここへの切り込みは、ま
だ本格的に着手されていない。社会保障改革と言えば、過去 1 年間には社会保障制度改革国民会議が開
催されて、そのとりまとめが提言として安倍首相に渡された。その中には、ICT 活用としてレセプト・デ
ータを分析して健康寿命を延ばす、とか、後発医薬品(ジェネリック医薬品)の利用促進などの的確な
指摘がなされている。しかし、その成果は未だ目にみえるかたちにはなっていないようだ。
むしろ、社会保障の見直しは、高齢者の窓口負担を増やす方針が先行しているようにも感じる。高齢
者・高所得者の負担増は、ひとつの規律付けにはなろうが、医療費そのものが膨張する仕組みを変える
ものではない。医療サービスの裾野が広がって、高齢者の健康管理をもっとサポートする仕組みづくり
が必要だろう。少子化対策は、現金給付などよりも、祖父・祖母などを含め、家族全体が子育てを支援
する視点を重視して、企業の勤務形態をより裁量的にすることが望まれる。こうした社会政策は、それ
を評価する尺度を「見える化」した方が効率的だ。
財政再建の視座
2014 年を展望すると、財政再建と経済成長を両立させる年になろう。過去1年よりも財政再建に重き
をおいた運営になることは間違いない。たとえ 2015 年 10 月の消費税増税を 2014 年 11 月辺りに再判断
したとしても、そこでは以前のような大規模な財政出動は到底許されない。財政学者などには、消費税
増税を決めた 2014 年度政府予算案の歳出スタンスをみて、手厳しい批判をする人が少なからずいる。増
税とともに歳出抑制方針が緩んでしまっては元も子もないという想いがあるのだろう。
筆者は、この点に関しては、安倍政権の財政運営の方針を再確認しておくことが有益だと考える。例
えば、2015 年度を目処に推進されている基礎的財政収支の赤字半減の方針を前倒し達成できることを示
すとともに、2020 年度の基礎的財政収支の黒字化ができるという中長期試算の数字に置き直すことも一
案だ(現在は経済再生シナリオでも 2020 年度▲12.4 兆円<名目 GDP 比▲2.0%>の赤字が残る見通し)。
2014 年 8 月には、中期財政計画を修正するタイミングが来る。公的年金の 5 年に一度の財政検証も行わ
れる予定である。
これまでの財政運営について言えば、いくつか疑問を抱く対応があったことは事実だ。例えば、中期
財政計画の進捗させできていれば、計画比で上ぶれした税収が経済対策などに流用されていた。こうし
た対応を見直して、政府債務縮減の優先順位を上げることがアベノミクスの信頼度を高めることになる
だろう。政府が財政運営の襟を正さなくては、2014 年 4 月に消費税増税をした後、多くの国民が二度目
の消費税増税はこりごりだと感じる人も出てくるであろう。そうした心理的な反発がないように、今一
度、何のための消費税増税なのかを確認しておくことが賢明だ。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調
査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更され
ることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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