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4. 高電磁場のプラズマ物理
田1 ㌦■,甲一一■■■一一■一一一■一■■㌔,,P甲, 講座 高出力超短パルス電磁波とプラズマの相互作用▽ 4.高電磁場のプラズマ物理 小 山和 義 (電子技術総合研究所) (1997年5月14日受理〉 Interactions between Intense Ultra−Short Electromagnetic Pulse and Plasmas KOYAMA Kazuyoshi Elε6かo云εoh%乞αzl Lσ607厩o貿y,Tsz漉zめα305,∫彰)α冗 (Received l4May l997) Abstract Interactions between ultra−intense short Iaser pulses and either electrons or plasmas are highly non− linear and relativistic,and result in a wide variety of new phenomena.This paper briefly addresses a number of phenomena from the viewpoint of the relativistic motion of electrons,including(i)trajectory of electrons in the intense laser fiel(1,(ii)electron energy(iuring an(i after the laser pulse,(iii)influence of collisions an(1space−charge force on the energy distribution,(iv)relativistic Thomson scattering spec− tra,(v)relativlstic optical guiding of the laser pulse,and(vi)excitation of large amplitude wake fields. Keywords: ultra−intense short laser,nonlinear intraction,relativistic e丘ect,space−charge force,relativistic optical guiding,wake fie1αplasma海igh energy electron,high energy radiation,Thomson scattering に伴う激しい吹き出し(アブレーション)が始まる.そ 1 はじめに 電磁波はレンズや反射鏡で集光することができる.そ れを利用しているのが,レーザー核融合における爆縮過 の焦点径は回折で決まる大きさ,すなわちビーム径を 程であり,照射強度は1015−1016W/cm2でパルス幅は 0,波長をλo,焦点距離を∫とすると,ほぼ角/Z)で あり,電磁波の波長に近い大きさにすることができる. 数nsである.このように,従来はレーザーによって得 られる高温度,すなわちプラズマの熱的性質の利用が中 特にレーザーは理想的な光源に近く,自然光に比べて桁 心であった.一方,近年の進歩が著しい高強度・超短パ 違いの高強度電磁場を作ることができるので,レーザー ルスレーザーは,熱的以外の多くの相互作用が予想され の発明以来,高強度電磁場とプラズマの相互作用に関し て数多くの研究が行われてきたが,近年になるまでは理 ており,徐々にではあるが,実験でも確かめられつつあ る.最近までは1016W/cm2以上の照射強度を得るには, 論研究が主であった.狭い領域にエネルギーを集中して 巨大なレーザー装置が必要であったが, レーザーの超 得られる高温度は,ほとんどの物質を短時問で溶解・蒸 短パルス化技術の急速な進歩によって,現在では,数メー 発させることができるので,産業界などでレーザー加工 トル四方のテーブルの上で10TW (テラワット)以上 などに応用されている.そのときのレーザー照射強度は の超高出力を,100fs(フェムト秒)以下の超短パルス 107−109W/cm2であり,パルス幅は数百ns∼数msで で得ることが可能になった.たとえば,小規模な実験室 ある.さらに高い照射強度では,物質のイオン化とそれ にも置ける1TWのレーザーの出力を,反射鏡によっ 701 プラズマ・核融合学会誌 第73巻第7号 1997年7月 て10μmに集光すると,13×王018W/cm2のレーザー強 放射源,または超強磁場などを実現できる可能性がある. 度を得ることができる. また,基礎物性,原子核物理,または天文学などが新し レーザーの電場強度(振幅値)Eo IV/m]は,レーザー い領域に展開できる可能性も持っている. 強度を1b IW/cm2】とすると,Eo篇2.74×10%1/2で与え ここにあげた相互作用のいくつかは,この講座の今後 られ,たとえば1b=1018W/cm2,レーザー波長λoニ800 のシリーズで採り上げられることになっている.超高強 nmのときはEo駕2.7TV/mと,水素原子のボーア半径 度・超短レーザーパルスとプラズマの相互作用では,強 における電場強度0。5TV/mより大きな値になる.その 力なレーザー電場で高エネルギーにまで振られる電子の 結果,原子核が作るポテンシャルが大きく歪められ,原 運動が鍵を握っている.この講座では,高強度電磁場 子からは瞬時(電磁波の半周期以内)に電子がはぎ取ら 内での電子の運動とそれに付随したことを説明し,プラ れ,電子衝突や振動場が関与しない「トンネル電離」が ズマのエネルギー分布や放射について考える.次いで, 起こる[1].強度1018W/cm2における光圧は100 電子の運動だけでは説明しきれない集団的相互作用に関 Mbar(10TPa)以上と,巨大惑星の中心部に匹敵する大 きさである.電子が電場で振られる速度は,あ誕lol8 して述べる.なお,レーザー強度が1030W/cm2近くに なるとまったく別の世界が広がっていると予想されてい W/cm2でも∂。s。/cニ0.55(cは光速度)と,光速度の約 るが,本講座ではそこまでは立ち入らない. 半分に達し,電子質量の増大などに代表される相対論的 な影響が現れ始める. このような極端な条件では,プ 2 高電磁場中での電子の運動と放射[2−4] ラズマやそれを構成する電子はレーザー強度が低い場合 とは異なる応答をし,極端な非線形相互作用や相対論的 レーザー光強度は電子の運動にどれだけ影響を与える かの指標として,α0ニdd。4/勉062)を用いることが多 効果などによる多くの新しいプラズマ現象をもたらす. い.この量は規格化されたベクトルポテンシャルといわ また,パルス幅が100fs以下と短かく,プラズマの特 れる.電場が電子に与える振動エネルギーを電子の静止 性時問(衝突など)と同程度またはそれ以下であるため, エネルギーで規格化した値はα02=(8.5×10『1%1/2λo)2に 極端に非平衡かつ非等方なプラズマが生成されることに 等しい.ただし,且=一(1/6)(∂且∂渉)はレーザーのベ なる. クトルポテンシャル,一εと窺oはそれぞれ電子の電荷 なお,1018W/cm2のレーザー強度を,波長800nm と静止質量であり,レーザー波長λoの単位はnmとした. の光子フラックスに換算すると1037photons/cm2sにな また,簡単のため,ここではレーザーの振動磁場以外 る.ある瞬問をとると水素原子の体積の中に約200個の の磁場は考えないことにする. 光子が詰まっていることになり,高強度レーザー光との 2.1電子の運動とエネルギー 相互作用は,個々の光子とではなく光子の集団と相互作 相対論的効果を含めた電子の運動量をρニγ規o”とす 用をしていると考えたほうが都合がよい.つまり,特別 ると,運動方程式は,レーザーの電場と磁場をそれぞれ な場合を除いて,古典的な取り扱いで十分であるといえる. EとBとおき,dρ/磁二一6E一(6/6)(∂×局と表される. 超高強度・超短レーザーパルスが電子やプラズマに入 ここでγはローレンツ因子(γ2=1+ρ2/〃ZO202)である. 射したときに引き起こされる新現象としては,例えば, 高強度レーザー場の中では∂/o駕1であるので,相対論 (1)レーザーによる大振幅プラズマ波(航跡場)励起, 効果に加え,磁場Bを含む項に起因する非線形効果も (2)相対論効果によるプラズマ中のレーザーガイド, 考えなければならない.このことは,普通のレーザー強 (3)プラズマチャンネルによるレーザーガイド,(4)ポ 度で自由電子の運動を扱う場合と大きく異なる点である. ンデロモーティブカなどによる爆縮プラズマヘのホール まず,高強度レーザー電磁場中での電子の軌道を考え ボーリングと核融合の高速点火,(5)電離フロントによ る.初期に電子は静止しているとして,レーザーが入射 るレーザーの短波長化,(6)プラズマ波によるレーザー したときの,レーザーパルス中での電子の運動量P の短波長化,(7)電子の相対論的運動に伴う高調波発生, (〃ZOOで規格化P=ρ/郷oC)と静止エネルギーも含む全 (8)プラズマや電子ビームによる誘導後方散乱,(9)プ エネルギーE(〃Zo♂で規格化)は,それぞれ ラズマや電子からの非線形トムソン散乱,(10)レーザー 、曜 による電子ビームの冷却,(11)逆ファラデー効果などを ρ瓢一α〇+β「ガ あげることができる.これらを利用することによって, 従来にない高性能の高エネルギー粒子源や高エネルギー 702 (1) 4.高電磁場のプラズマ物理 講 座 小山 運動吻に乗った系で電子の運動を見るとx−y面内で円 磁 (2) E濡1+⊇「ニγ 運動になる. 直線偏光の場合と円偏光の場合の,高強度レーザー場 となる[2].ただしここで2は,レーザーパルス進行方 中での電子の運動の軌道を,Fig.1に示す.実験室系で 向の単位ベクトルであり,劣軸をαo(〃司に平行にとる. 第(1)式の右辺第一項はレーザー電場(周波数ωo)に 見ると,直線偏光の場合は8の字運動をドリフト速度で 引き伸ばした鋸歯状の軌道に,円偏光ではコイルを引き よる調和振動を表しており,レーザー強度が極端に強く 伸ばした螺旋状の軌道になる. ない場合はこの項だけになる.また,右辺第二項は ∂×Bから出てくる項であり,周波数がゼロの成分と2 つぎに,レーザーパルスが入射したときの電子の運動 倍の成分(2ωo)とを持つ.周波数がゼロの成分はレー レーザーパルス入射前に静止していた電子は,レーザー ザービーム方向に電子が(E×B)ドリフトすること パルス通過に伴って振動しながらレーザーの進行方向に 並進運動する.α02》1の時には電子の運動エネルギー 量と運動エネルギーを考える.平面波(一次元)の場合, を表し,その速度の (6で規格化)は, 砺二召。2/(4+α。2) は非常に大きくなるが,レーザーの振動場とエネルギー (3) をやり取りしているだけであり,レーザーパルス通過後 で与えられる. は再び静止状態に戻る.ただし,位置はレーザー伝播方 ドリフト運動のに乗った系で電子の運動を観測する 向にずれている.一方,電離などによってレーザーパル と,直線偏光の場合には,第(1)式から劣軸方向の調和 スの途中で電子が生成される場合は,レーザーパルスの 振動(ωo)とg軸方向の2倍の周波数成分(2ωo)とで, 通過後も電子は有限の運動エネルギーを持つ.たとえば %一z面内で8の字型の軌道を描くことがわかる.一方, レーザーパルスの途中で,電離によって電子が発生した レーザーが円偏光している場合には,電場ベクトルの方 ときの運動量とそのときの電子の速度(㏄ベクトルポテ 向がz軸の周りで周期的に回転するので,ドリフト ンシャルの瞬時値)をそれぞれ,∫㌔iとαi。iとすると, レーザー通過後の電子の残留運動量R (規ocで規格化) は, O 傷ni R駕1君ml一¢ni]一盆 212君ni(T)一傷nil 2 4 になる.ここで,運動量の添え字(T)はレーザーの電場 6 方向向りを表す.レーザーの振動電場が最大のときにも 1 っともトンネル電離しやすいが,直線偏光の場合,そこ 0.5 では電子はほとんど静止(αo彩0)している.すなわち 鋭 η。iと傷。iの値は小さいので,電子が持つ最終的な運動 ♂5 (a) (4〉 量は,第(4)式の第一項に近い値をとり,あまり大きく −O.5 はなれない.このように,レーザーパルス通過後の光電 子が持つ残留エネルギーは比較的小さい.一方,円偏光 の場合には電子が発生したときの運動量1㌔呈は小さい が,振動周期の問に,電場は向きを変えるだけで強度は 変わらないので残留運動量は, O .曜ni 0.5 R駕一砺ni+言 (5) 2 0 2 −0.5 4 (b) と大きな値になる.実際,レーザー強度があλ02舘3 0.5 0 −0.5 6 ×1016W/cm2μm2の領域で,円偏光の場合には1keV と,直線偏光の場合の200eVに比べて,電子のエネル Fig.1 0rbital motions of the electron in the Iaboratory ギーが高くなっているという報告がある[5]. frame for incident闘nearly polarized Iight(a)and cir− cularly polarized light(b》, ここまでは,主にレーザーパルス通過後の電子が持つ エネルギーに関して述べ,直線偏光したレーザーパルス 703 プラズマ・核融合学会誌 第73巻第7号 1997年7月 通過後は電子のエネルギーはあまり大きくはなれないこ ともいう.一様密度のプラズマに入射する場合に,プラ とを述べてきた.しかし,パルスのピーク付近でレーザー ズマの単位体積に働く力の大きさは,第(6)式に電子密 が突然なくなると,ある位相条件を満たす電子は,レー 度n,をかけ,プラズマ周波数をωPとして, ザー進行方向に高速で放出される.このときの運動エネ ルギーは約α02/2であり,後述のポンデロモーティブポ 姫塘▽〈誓>一一躯曜▽㎡ (7) テンシャルに等しく,非常に大きなものになり得る.こ のような状況は,レーザーパルスを,遮断密度で急峻な となる[7].ポンデロモーティブカはレーザー電場の圧 密度勾配を持つプラズマに入射することによって実現す 力勾配に比例した力であり,レーザーの伝播方向以外の ることができ,レーザー光の遮断密度より奥へのしみこ 方向にも働く.この力は電場中での運動をレーザーの振 み距離は半波長程度である.遮断密度での急峻な密度勾 動周期より長い時問で平均してみると,電子に対して, 配は,超短パルスレーザーを薄膜に照射するか,高強度 あたかも通常の圧力のように振る舞い,レーザーパルス レーザーの巨大なポンデロモーテイブ圧によって,プラ が存在する場所から電子を排除するように働く.遮断密 ズマを奥に押しつけることによって形成できる. 度に近い電子密度のプラズマ(ωp舘ωo)に,lTWのレー 爆縮プラズマにレーザーによって,急峻な密度分布を ザーを集光し1.3×1018W/cm2のレーザー強度にした場 持つ孔を開け,孔の奥の臨界密度近傍でレーザー強度 1λ2>1020W/cm2μm2のパルスによって大量のMeV以 合,ポンデロモーティブカによる圧力は220Mbar(22 上の高速電子を発生し,核融合反応に点火しようという 集光されたレーザーパルスと静止している電子が出会 TPa)という大きな値になる. 提案がある[6コ.いくつかの研究所でそのための基礎的 うと,レーザーパルスのポンデロモーティブカによって, 実験が進められている.また,金属薄膜にレーザーと位 電子は横方向に跳ね飛ばされる.はねとばされた電子は 相関係を適当に保った電子ビームを同時に照射して,電 光速度に近く,相対論的なエネルギーを得ることがわか 子加速の可能性を検証しようという計画もある. る[3,4].レーザーパルスに乗った系でみた時の軌跡と, 実際のレーザーパルスは一次元平面波ではなく時間的 電子エネルギーの変化をFig.2に示す. 空間的に変化している.その場合には,ポンデロモーテ 2.2 衝突や空問電荷の影響 ィブカ(動重力ともいわれる)の影響も加わる.レーザー 非常に希薄な気体(例えば10−4Torr;4×1012cm㎜3) 電場によって振られる電子の運動と磁場とによって生じ にレーザーを照射すると,電子温度を10eVとして, るカー(6/6)∂×Bは,電磁波の伝播方向に電子のドリ デバイ長は焦点の大きさ10μmと同程度の大きさであ フト運動を引き起こすことは前に述べた。レーザーの振 り,空間電荷などの影響はほとんど現れない.このとき, 幅が一定の場合にはドリフト運動を保つためには何の力 電子はレーザーの振動場とエネルギーの交換をしている も必要ないが,レーザー強度が増大している場合には, だけであり,レーザーパルス通過後には,電子には正味 強度が高い部分では電子はより大きな速度を受け,振幅 のエネルギーはほとんど残らず,初期エネルギーに近い の小さな方に押しやられる.一方,パルスが通り過ぎた 値になることは,前に述べた. 後ろでは,レーザー強度が高い部分にある電子は尾部に しかし,プラズマの密度が高く,レーザーパルス通過中 比べて速いドリフト速度を持っているがレーザーパルス に電子の衝突や空問電荷の影響が現れると事情は異な よりは遅い.この様子をレーザーパルスに乗った系で見 る.衝突によって,電子とレーザーの振動エネルギーの ると,あたかも電場の圧力勾配に比例した力で電子を排 やり取りの位相が乱されると,レーザーへのエネルギー 除しながら進んでいるように見える.これがポンデロ の戻りはなくなり,電子の振動エネルギーはランダムな モーティブカであり電子に働く大きさは, 熱エネルギーへと変換され, レーザーエネルギーの減 62 1 ん謹万齋▽E・2=て勉・・2▽α・2 少につながる.この過程は,いわゆる「逆制動放射」と =一1.5×10−25λ。2▽る[dyne] 呼ばれるものであり,レーザーの主な吸収機構の一つで ある.この機構は,電子とイオンの衝突が支配している (6) ので,レーザー強度が大きいときは電子の振動エネル である.ここで,〃Zoo2α02/2(窺062で規格化したときは ギーが増大し,吸収率が低下するので電子温度は低いが, α02/2〉は,電子の振動エネルギーを一周期にわたって 密度の上昇とともに,吸収率は上昇し電子温度は高くな 平均した値に等しく,ポンデロモーティブポテンシャル る[8].レーザー強度が1016W/cm2で波長が800nm, 704 4.高電磁場のプラズマ物理 講 座 小山 は空間電荷によって引き戻される.このとき,パルス幅 Electron tr司ectories とプラズマ振動周期が共鳴条件を満たすと,レーザーパ seen丘om the laserpulse{z(t)一ct,x(t)} ルスの後ろにはレーザーと同じ速さの大振幅プラズマ波 200 が励起される.この波については,次節でもう少し詳し く触れる.このような振動する空間電荷が電磁場中の電 150 子の運動に与える効果は,運動方程式に空間電荷による 豊100 復元力∫ニー〃zωp㌔の項を付け加えることによって評 ) 850 価できる. レーザーのパルス幅τLが,プラズマ振動の )100 周期に比べて極めて短い場合(ωpτL《2π)には,レー 憂一曼1♂給 ザー伝播方向への電子の運動量ρ、は,レーザーパルス 0 一200 400 0 100 200 の通過中はレーザー強度にほぼ比例して増減するだけで あり,レーザー通過後の残留運動量はそれほど大きくは z(μm)一α ない.しかし,レーザーのパルス幅がプラズマ振動の周 (a) 期に一致したとき(ωpτL彩2フ∂には,空間電荷による 電場エネルギー(縦波のエネルギー)と電子の運動エネ Gamma ルギーとの間で効率のよいエネルギー交換が行われる. このとき,レーザーパルス通過後の残留エネルギーは非 5 4 常に大きなものになる.これは最終的には衝突によって 熱化される[3]. 電磁場中の電子の運動に与える効果は複雑であり,条 》3 2 1 件によっては思いもよらない軌道を描く.様々な場合に 関して計算を行い,条件によっては,低温多価電離プラ ズマを生成できる可能性も示されている[10].そのよう 一400−200 0 200400 なプラズマは,X線レーザーの媒質として関心が持たれ ている.一方,固体に照射して生成される高密度プラズ ∫(fs) マでは,電子温度をMeV以上の超高温にできる可能性 がある.そのような超高温プラズマは,陽電子発生や核 (b) 反応などに影響する可能性があり,物理的興味だけでな Fig.2 Trajectories of electrons in the Iaser pulse of Gaus− く応用の面からも興味ある問題を多く含んでいる. slan temporal−and spatial−profile for four differeat impact parameters(a).The peak laser intensity and 2.3 電磁波の放射・散乱 the wavelength are1020W/cm2and790nm,re− 高速で運動する電子によって生ずる放射の電場は, spectively,and time dependence ofγof an electron (b).The initial position of the electron is O.5μm off E−1[響講。]卜丑 the laser axis。 (8) パルス幅が100fsの場合の,モンテカルロ法による電 子の分布関数の計算では,低密度(1016cm−3)のとき で与えられる[11].ただし,πは電子のある位置から観 の分布関数の形は,単粒子近似の場合とほとんど変わら 測点に向いた単位ベクトルであり,R(めは電子と観測 ずエネルギーがゼロの近傍にピークを持つが,密度を上 点の距離,βニがoは光速度で規格化した電子の速度で ‘ げる(1020cm−3)に連れて急速にマックスウェル分布 ある.ここで第(8)式右辺のすべての量には,オ’ニ」一 に近づくことが示されている[9]. ノ∼(め/cから決まる遅延時刻ガにおける値を用いなけれ プラズマの密度が高い場合には,衝突の影響に加え, ばならない.運動方程式によって電磁場中での電子の運 電子密度の不均一による空間電荷の影響が現れる. 高 動を求め, 第(8)式に代入すると,散乱波の電場強度 強度・超短レーザーパルスでは,ポンデロモーティブカ を求めることができる。非相対論的な場合(β《1)は, が電子密度の擾乱に大きな役割を果たす.ポンデロモー 普通のトムソン敵乱,すなわち入射光の周波数と同一の ティブカによって排除された電子は,パルスの通過後に 周波数で電子の運動方向に垂直な方向に極大を持つ双極 705 プラズマ・核融合学会誌 第73巻第7号 1997年7月 子放射になる.なお,レーザーの波長程度では,放射の ザー強度がまだ極端に大きくはない直線偏光(αo=0.5; 反作用は考えなくてもよい. 1018W/cm2,λo=800nm)が入射したときの,前方およ 電子のドリフト伽に乗った座標系で考えると,入射 び側方での電場の変化の計算値とそのフーリエ成分を 光が円偏光のときは電子は円運動をしているので,そこ Fig.4に示す.光軸上への前方散乱では,基本波成分の からの放射はシンクロトロン放射に等しく,すべての高 みになるが,他の観測方向では,角度と偏光成分に応じ 調波成分を含む.同様に,8の字運動している場合でも, て偶数次や奇数次のスペクトルが現れるなど,相対論の 放射には高次の成分が現れる.これらは放射場の遅延に 効果が現れ始めている.レーザー強度を増すに従って, よる因子かπ,および電子の座標系での時間「固有時」 スペクトルシフトと次数の高い放射が現れるようにな と実験室系とでは時間の進みがγ倍だけ異なり,それ る.このようなスペクトルシフトや高調波などの,散乱 が一周期の問にも変化することに由来する. の様々な特性を応用すると,レーザーの集光での相互作 電子の運動を実験室系でみると,電子のドリフト∂D 用に関する様々な情報を得ることができる. に乗った系での運動に,レーザー伝播方向へのドリフト 運動が加わる.Fig.3のように,レーザーの伝播方向に 3 プラズマの応答 対する観測者の方向をθL,入射波の実験室系での周波 前項では,レーザー場中での電子の運動とそれに伴う 数をωOLとするとき,散乱波の周波数ωLは, 放射について簡単に述べたが,ここでは高強度電磁場と ωL一ω・Ll一識卿L/(1+音α・2sin2募) プラズマの相互作用のもう一つの側面である,集団運動 について概略を説明する.粒子的な扱いは,エネルギー (9) 分布などに対する見通しを得るためには便利であった で与えられ,基本周波数はレーザー強度に応じたスペク が,電子の集団運動に対しては難しい.集団運動を扱う トルシフトをする.この式で分子の(三一∂D)はドリフ 場合,粒子のエネルギー分布には立ち入れないが,単粒 トの影響を,分母(1一∂DCOSθ)は放射場の遅延の影響 子の運動とは別の極限である電磁流体モデルを用いたほ を表す.相対論の効果がそれほど大きくない(α02≦1〉 うが考えやすい. ときは,観測方向を適当に選べば任意の周波数(≧ωOL) プラズマと高強度電磁波の相互作用は,相対論的効果 の放射を得ることができるが,α8が大きくなると,放 を考慮したプラズマの運動方程式と連続の式および,マ 射の全エネルギーが増大すると同時に,ほとんどの放射 ックスウェルの電磁方程式で記述できる.簡単のため, エネルギーが前方に集中するようになる[2]. レーザーのポンデロモーティブ圧力に比べて熱的な圧力 放射のスペクトルは,放射電場の時間変化を求め,フー が無視でき,プラズマ密度は遮断周波数より十分低い場 リエ成分を求めることによって知ることができる.レー 合を考える.さらに,時間が短いのでイオンは静止して いるとして,レーザーパルスに乗った座標系(ωp《ω。 1−VD のときは光速度)への変換(ζニg−6オとτ謡!)と,適 Observer 軌=ω・L1.VDC。s仇≧ω・L 当な近似[11]を行うと,レーザー場αと静電場φを表 す式は,一次元の場合に次のようになる, ガ R1/c R2/0 n α [18ζ 62∂τ] ∂α_ωP 1 ∂ 2 621+φ ∂τ (10a) 誰一鏑艀 (10b) 1/ ここで,φニ1ε1φ/挽062は規格化されたスカラーポテン シャルであり,プラズマ波を表す.プラズマの密度,運 Electron VD 動エネルギー,速度を,φとαで表すと,π/物踏1+[(1 ∫fニ∫一Rl/o ∫2冒=∫一R2/c ぜ)/(1+φ)2−1】/2γ一[1+♂+(1+φ)2】/[2(1+φ)二βz一[1 Fig.3 The field of an quivering eiectron in uniform drift +♂一(1+φ)21/[1+’+(1+φ)2】となる.これらの式から, motion.The electron moves along the z−axis with プラズマの非線形屈折率とそれを利用したレーザー光ガ the drift velocity vD. イド,大振幅プラズマ波(航跡場)励起,プラズマ振動 706 講 座 4.高電磁場のプラズマ物理 Ep(v) Es(v) FouherE(ω) 0.2 圃 0.1 0.05 四 0.2 0.8 蝉)i 0.6 0.4 0.2 0 Hamonics1〉 ObservedEp(∫) 0.4 0 0 2 4 6 2 4 6 8 10 Fourier E(ω) 0.6 FounerE(ω) Observedち(‘) 0.15 0 小山 2 4 6 8 10 H訂monics N Es(v) Ep(b) I lO 214 6 2 4 6 8 10 Hamonics1〉 Backward 死o Ep(f) Es(h) 璽 Electron tr勾ectory FourierEs(ω) 0.2 1.0 囲 0。1 0.05 0 Fourier E(ω) Observed Es(ご) 0.15 〉{一 0.8 0.6 0.4 0 2 4 6 0.2 2 4 6 8 10 0 Hamonics1〉 ObservedEp(‘) 囮 0 2 4 6 2 4 6 8 10 Harmonics!〉 Fig.4 Fourier spectra and waveforms of electric fields(insets of each Fourier spectra)of forward一,side−and back−scattered light for ao冨0、5(1018W/cm2,Ti:sapphire laser fieId). となる.多くの場合,レーザー強度は周辺部の方が弱く と電磁波の結合による高調波発生などが導かれる.プラ ズマ中では,プラズマ波と電磁波の結合によって,高い (∂1αol/∂7<0),屈折率は周辺部で小さい.屈折率が 効率で高調波を発生できることが知られているが,ここ 小さい所ではレーザーの位相速度が大きくなるので,屈 では取りあげない. 折率が中心軸上よりも周辺部で小さい分布のときは,プ 3.1 プラズマによるレーザー光ガイド ラズマはレーザー光に対し収束作用をする.径方向の屈 強力なレーザーがプラズマに入射すると,レーザーに 折率分布が適当な形のときは,収束作用と回折によって よって振られる電子の速度が光速に近くなるので,相対 広がる作用とが打ち消しあい,レーザーパルスは焦点を 論効果によって電子質量は増大しプラズマ周波数は低下 過ぎた後でも広がることなく長距離伝播できる.このよ する.そのため,屈折率は,レーザーのパルス幅がプ うな相対論効果による光ガイド形式を「相対論的光ガイ ド」といい,この効果を起こすためには,臨界パワー ラズマ波の波長に比べて長い場合(ωpτL>1;τLはパル Pc,it駕174(ωo/ωp)2【GW1以上のレーザー出力が要求さ ス幅)に, れる[12].一方,レーザーのパルス幅がプラズマ波の振 η一・一去(謝(1÷1嵩1暫1一謝諾γ(・1) 動周期に比べて短い場合(ωpτL《1)には,プラズマ 振動よりも速くレーザーパルスが消滅するので,プラズ 707 プラズマ・核融合学会誌 第73巻第7号 1997年7月 マ振動はレーザーパルスによって大きな変調を受けるこ α3 E…[GV/ml彩a8×1σ8緬厭 とができない.そのため,相対論的光ガイドは期待でき (12) ない. 最近では,あらかじめ生成した遮断密度に近いプラズ となり,この電場強度は現在の加速器の加速勾配の百∼ マに10TWの出力でl psのパルス幅のレーザーパルス 千倍の大きさである[14].大振幅プラズマ波は第(10)式 を十数mmに集光し,「相対論的光ガイド」を観測した によって解析することができるが,円偏光で矩形パルス という報告も行われるようになってきた[13]. といった特別な場合を除いては,解析的に解くことは難 光ガイドのためにプラズマ密度分布をあらかじめ作ら しく,数値解析に頼らざるを得ない.非常にレーザー強 なくても,一定のレーザーパワーがあれば,自動的に高 度が大きい(αo=2;9×1018W/cm2for800nm)場 強度パルスを長距離伝播できるような相対論的光ガイド 合には,極度の非線形性が現れ,Fig.5に示すように密 は,短波長光発生や後述の航跡場加速などへの応用の面 度変動は壁のような形になり,プラズマ波の電場は急峻 からも注目されている. になる.このような大振幅プラズマ波を励起するために 3.2大振幅プラズマ波の励起 は,レーザーのパルス幅がプラズマ波の波長の約半分と レーザーパルスがプラズマ中を伝播するとき,プラズマ いう共鳴条件を満たさなければならない. にはポンデロモーティブカが働き,レーザーパルスのある これに対して,レーザーのパルス幅がプラズマ波の波 場所から電子を排除する.レーザーのパルス幅がプラズマ 長の数倍と長い場合には,レーザーの立ち上がり部分で 振動の周期との共鳴条件を満たすときは,大振幅プラズマ 励起された小振幅航跡場がきっかけとなって前方ラマン 波が励起される.この波は,レーザーパルスの後にできる 散乱を励起するだけでなく,電子密度の局所的な変動(二 ので航跡場と呼ばれる.その位相速度はレーザーの群速度 次元的効果)がレーザー光の相対論的自己収束効果をよ に等しく,ほぼ光速度である.直線偏光レーザーパルスに り強調する.その結果,レーザーのパルスは大きな変調 よるプラズマ波の最大振幅は,一次元近似で, を受け,極端な場合にはレーザーのパルス列がプラズマ F■砥PSTR三紳0τK FI凪DS㎜G皿 400 40 200 20 一〇。03 一〇.02 一〇.0 ,02 一〇.01 一〇.01 200 一20 一400 一40 Dn将1τY㎜几M■ON⇔ノnO)一1 皿踊m㎜AfI囎mO)一1 2.5 0,1 2 05 1,5 1 0,03 .02 一〇〇1 5 一〇。05 一〇.0 _0.02 一〇.01 (a) ・ (b) Fig.5 Density variationδη/η==η/ηo一超ower trace)and axiaI eIectric fieid Ez(upper trace)for the Iaser intensity ofαo=0.5 (a)andαo==2.0(b). 708 講 座 4.高電磁場のプラズマ物理 小山 波の波長で並んだような形になり,いくつものパルスに る.しかし,まだ限られた条件でのほんの一部の事柄し よって大振幅プラズマ波が共鳴的に励起されることにな か判っていない.この分野は,物理現象の面白さだけで る[15].・ なく,応用面でも従来言われている以上に広がる可能性 大振幅プラズマ波の実験は,干渉計による航跡場の密 がある.巨大装置もいらないので,この分野への多くの 度変調の測定や[16],高エネルギー粒子の検出とそれに 方々の参加を期待したい. 伴うラマン散乱スペクトルなどが[17]報告されるように なってきたばかりでなく,干渉性トムソン散乱によって 参考文献 航跡場の成長や減衰が計測されるなど[18],近年急速に [1]L V.Kel(lysh,Sov Phys.JETP 20,1307 (1965); 精密な実験へと移行しつつある. M.V.Ammosov,N.B.Delone and V.P.Krainov, ほぼ光速で進む大振幅プラズマ波を,電子加速に応用 Sov.Phys.JETP64,1191(1986). [2]E S Sarachik and G.T.SchapperもPhys.Rev.D1, しようというアイデアがあるが,それについては,この 2738(1970). 講座の今後に予定されている. [3]J.N.Bardsley,B.M.Penetrante and M.H.Mitde− man,Phys.Rev.A40,3823(1989). 4 まとめ [4]U.Mohideed,H.W.K.Tom,R.R.Freeman,J Bokor ここでは,超高強度・極短レーザーパルスとプラズマ and P.H.Bucksbaum,J.Opt.Soc.Am.B。9,2190 の相互作用で,現在までに話題になってきた事柄のほん (1992). [5]P。B.Corkum,N.H,Bumett and R Brunel,Phys. の一部を説明した.超高強度・極短レーザーパルスとプ Rev.Lett.62,1259(1989). ラズマの相互作用で,もっとも特徴的なことは,電子の [6]S.C.Wllks,Phys.Fluids B5,2603(王993);M.Tabak, 速度が光速に近く,極めて大きなエネルギーを持つこと 6厩ム,Phys,Plasmas l,1626(1994). と,時間スケールがプラズマの様々な特性時間と同程度 [7]F.F.Chen,乃zヶ04zκあoπ渉o Plα3規αPh』ysぢ03αフz4Coκ一 かそれ以下になることであろう.そのような条件でのプ ケoll64翫sガoπVol.1(Plenum,New York,1984), ラズマの挙動を調べる強力な手段として計算機シミュ p305. [8]R D.Jones an(1K.Lee,Phys.Fluids25,2307(1982). レーションがある.特にPIC(particle−in−cell)コードは多 [9]T.Ditmire,Phys.Rev.E54,6735(1996). くの研究グループで使われているが,誰でも簡単に扱え [10]B.M.Penetrante and J.N.Bardsley,Phys.Re凧A る訳ではない.本講座では,超高強度・極短レーザーパ 43,3100(1991). ルスとプラズマの相互作用に関する概略をつかむため [11]」.D.Jackson,Classical Electrodynamics (Wiley, に,一個の電子の運動から出発した.電子の運動だけを New York,1975),p657. 見ても,超高強度電磁場中では電子の速度が大きく,衝 [13]M.Borghesi8如乙,Phys.Rev.Lett78,879(1997). [12]P.Sprangle,E Esarey and A.Ting,Phys.Rev.A41, 突頻度が少ないのである程度の見通しを得ることができ 4463(1990). る.実際のプラズマでは,衝突や空間電荷の影響を受け [14]P.Sprangle,E。Esarey,A.Ting and,G.Joyce,Appl. るが,衝突は主に方向やエネルギー分布の広がりに寄与 Phys,Lett53,2146(1988). する.一方,空間電荷の影響は複雑であり,初期条件な [15]J.Kra11,A.Ting,E.Esarey an(1P.Sprangle,Phys. どの少しの差でも結果は大きく変化する.この辺のこと Rev.E48,2157(1993). は,ありふれたパソコンでも,Fortranや数式処理ソフ [16]」.R Marques8緬乙,Phys.Rev.Lett76,3566(1996); トが走れば,様々な場合について確かめることができる. C。W.Siders,6的乙,IEEE Trans.Plasma Sci.24,301 (1996). 面白いモードが見つかるかも知れないので,暇なときに [17]A.Modena6的乙,IEEE Trans.Plasma Sci.24,289 試してみると面白い. (1996). 超高強度レーザーパルスとプラズマの相互作用に関す [18]A.Ting窃oム,Phys.Rev.Lett.,77,5377(1996); る研究は,最近までは実験では確かめようがなかったが, S.P.LeBlanc,αα乙,Phys,Rev.Lett,77,5381(1996). 近年方々で実験が行われるようになり成果も出つつあ 著者Email k.koyama@etLgojp 709