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特別史跡三内丸山遺跡出土の人物画土器について

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特別史跡三内丸山遺跡出土の人物画土器について
平 成 2 3 年 7 月 6 日
青森県教育庁文化財保護課
特別史跡三内丸山遺跡出土の人物画土器について
1
経緯
平成23年6月、発掘調査報告書作成のための三内丸山遺跡北盛土出土土器の選
別作業において、「人物」が描かれたとみられる土器片を発見した。
なお、当資料は平成5年11月に北盛土のⅢa-5層(縄文時代中期)から出土
したものである。
※ 北盛土……三内丸山遺跡では北・南・西の3箇所の盛土遺構が確認されてお
り、遺跡中心部の北側に位置するものを「北盛土」と呼んでいる。盛土は土
砂や炭、土器や石器などの生活道具等が約 1,000 年間にわたって廃棄され続
け、最も厚いところでは約2mにも達している。土偶などの祭祀遺物も多い
ことからまつりや儀式が行われた可能性が考えられている。
2
概要(資料 1)
榎林式土器と考えられる土器片(上下8㎝×幅6㎝)に、
「人物」
(上下4㎝×幅
3㎝)と思われるモチーフが認められた。
(描画方法)
縄文施文後に幅約3㎜の浅い線で土器の文様が描かれ、その後に「人物」が幅約
1㎜、長さ約5~10数㎜の短い、やや深めの線で比較的しっかりと描かれている。
書き直しを行った形跡は認められず、描き手の中で出来上がったイメージ像を、迷
わずに具象化したようである。
(人物について)
頭・胴・手・足の表現があり、さらに頭部上位には、細長い2本の線が表現され
ている。右手を上方に曲げ、左手側には下方・上方への線が残る。両足を広げ、膝
を曲げ、しっかりと立った状態を示し、足先は上位を向き、履物の表現とも考えら
れる。右手側には祭具あるいは弓矢と考えられるクランク状の形が描かれる。
(年代について)
土器の特徴から縄文時代中期後葉(約 4,300 年前)のものと考えられる。
3
資料の価値について
① 縄文時代には線描画による絵画表現は少なく、当資料のように土器に人物を
描いたものは極めて少ない。
② 当資料には「人物」の「着装物」・「道具」・「動き」など豊かな表現が見られ
る。頭部上位の長い線は「羽根飾り」、巻き上がった足先は「履物」など、
「人
物」の右手側の表現は祭具や弓矢などの「道具」と推測できる。
「人物」は右手を上方へ上げ、膝を曲げてしっかりと立っており、何らかの「動
き」を示している可能性がある。
③ 北東北では縄文時代後期初頭に線描画による人物画が、やや多く見られよう
になるが、当資料はそれらより300年ほど古い。
以上のことから、縄文時代におけるまつりや儀式など祭祀の様子、縄文人の精
神世界を知る上で貴重な資料である。
4
北東北における縄文時代の線表現による人物表現事例
県名
岩手県
岩手県
市町村
遺跡名
内容
対称/非対称
備考
ひるかわだて
対称
中期前葉(約4,800年前)
きよただい
対称
中期前葉(約4,700年前)
土器体部上半の平行沈線間に人物様の表現 非対称
中期末~後期初頭(約4,000年前)
北上市 蛭川館遺跡 土器口縁部直下に板状土偶様の人物を表現
一関市 清田台遺跡 土器口縁部突起直下に四肢を広げた人物を表現
いしがみ
青森県 つがる市 石神遺跡
岩手県
北上市 八天遺跡
土器口縁部直下に両腕を曲げた人物を表
現。頭部上位に羽根飾り様の表現。
対称
後期初頭(約4,000年前)
岩手県
みやざわはら
土器波状口縁直下に顔を表現し、底部に
奥州市 宮沢原C遺跡
向けて、人物全体を表現
対称
後期初頭(約4,000年前)
岩手県
一関市 清水遺跡
はってん しみず
土器の上半部に人物を表現
対称
後期初頭(約4,000年前)
ちかの
石冠側面に3体の人物線刻
対称2/非対称1
後期前葉(約4,000年前)
対称
晩期前葉(約2,800年前)
青森県
青森市 近野遺跡
岩手県
花巻市 小田遺跡
こ
だ
円形岩版に、頭部上位に羽根飾り様の表
現がある人物
5 専門家のコメント(資料2・参考資料)
岡村道雄氏(三内丸山遺跡発掘調査委員会委員長・奈良文化財研究所名誉研究員、考古学)
『人物頭部の長い線は、他の出土例にも見られるように、アジア北方民族チュク
チのシャーマンにも見られる羽根飾りの可能性を指摘できる。当資料のモチーフか
らは「祭具を持ち、靴を履き羽根飾りをつけて、祈り、踊るシャーマンの姿」が線
で描かれたものと推定され、縄文時代中期後葉に遡る最古の例と考えられる。』
※シャーマンとは呪術や精霊と交信する特殊な力を持ち、まつりや儀式の際に中
心的な役割を担う人物と考えられている。
【資料1】
三内丸山遺跡北盛土出土「人物画」土器
(中期後葉 約 4,300 年前)
沈線部に赤く色付けしたもの
(黄色部は不明確な線、人為的ではない可能性有)
【資料2】
羽根飾りをつけた人体線刻岩版
(晩期 約 2,800 年前? 岩手県小田遺跡)
羽根飾りをつけた人体文土器
(中期末 約 4,100 年前 岩手県御所野遺跡)
沈線表現の人体文土器
羽根飾り様の線が頭部に見られる
(後期初頭 約 4,000 年前 岩手県八天遺跡)
【参考資料】
チュクチ族のシャーマン
北欧サミ族男性のトナカイ毛皮製の冬靴
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