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精神遅滞児の人物描画表現発達 - 奈良教育大学学術リポジトリ

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精神遅滞児の人物描画表現発達 - 奈良教育大学学術リポジトリ
姦艮教育大学紀要 第37巻 第1号(人文・社会)昭和63年
Bull. Nara Univ. Educ. Vol. 37, No.1(cult.& soc), 1988
精神遅滞児の人物描画表現発達
げIl'.-1 ∴ r-i ij い
田辺正友・田村浩子*
(奈良教育大学障害児教育教室)
(昭和63年 4 月26日受理)
は じ め に
描画活動は、子どもの能力や人格にかかわる様々な要素を含んでいる。それゆえに、子どもの
描画を発達の指標と考えることに異論があるだろうし、子どもの表現方法が必ずしも子どもの見
方、感じ方と同一レベルのものでないとも考えられる。また、描画表現は教育実践の中味によっ
ても変わってくるものであろう。しかし、子どもの描画についてのこれまでの研究(Lowenfeld,
1947)の結果では、子どもの表現方法は一定の発達段階に対応することが示され、また、新見
(1981)や鳥居(1981)も子どもの描画を科学的観点から発達的に把握しようとしている。
子どもたちの全面発達をめざす障害児教育においては、この描画活動は欠くことのできないき
わめて基礎的な教育活動である。しかし、この描画活動には多くの困難が伴うものである。なぜ
なら、描く力は、手指の操作機能、眼球運動機能、言語、視知覚機能の発達など子どもの全体的
な発達と密接に関連し合いながら獲得されていくものであり、さらには、生活実態や障害の状況
ともかかわり合っているからである。こうした様々な要因との関連において、子どもたちの描画
表現の発達の過程を把握し、ひとりひとりの学習課題を明らかにしていくことが必要となる。
筆者らは、これまでに自閉症候群児を含む精神遅滞児の描画表現発達を、図形模写やGoodenoughの人物描画検査(DAM)における発達的変容の側面から分析を試みてきた(田辺、
1985;田辺・田村1986;田村、 1987)。その結果、図形模写能力にはかなりはっきりとした発達
的変化が示された。円・十字・正方形・三角形等の基本的幾何図形の模写から斜線の合成からな
る斜線図形、 2図形の接合あるいは交叉図形、立体図形といった部分要素が多様な性質をもった
図形の模写へといった発達過程がみられた。さらに、人物描画も操作特性の高次化に伴って、頭
部人間像、頑足人的表現から全体像としてバランスのとれた人物像の描画-といった発達的変容
を示すこと、また、人物描画と図形模写能力との問に一定の関連性がみられることが明らかにさ
れるとともに、人物描画には様々な要因がかかわっていることが示唆された。こうした様々な要
因との関連において、子どもたちの描画表現の発達過程を把握していく必要がある。また、これ
らの結果を障害別に比較すると、その表現のあり方、しかた、あるいは描写された人物像から受
けるイメージに障害による若干の傾向性が示された。しかし、障害別による傾向性をその障害の
固定的な特徴とみるのではなく、このような傾向性が発達過程の中でどのように変容をとげてい
くかを吟味していく必要があることを指摘した。
そこで、本研究では、以上のような問題意識から、先の報告での横断的資料の分析によって導
き出された人物描画表現の発達変容過程とその関連要因についての仮説を、 4名の精神遅滞児の
縦断的な資料の分析を通じて検証することを目的とする。
*現在、耳原総合病院′ト児科心理判定員・大阪教育大学非常勤講師
61
62
田 辺 正 友・田 村 浩 子
方 法
1 対象児
本研究は、奈良市内のN中学校障害児学級の発達診断活動の一環としてなされたものであるが、
本稿での対象児は、 1年生時(1984年)と3年生時(1986年)での発達診断結果で操作特性の高
次化がみられた下記の4名の精神遅滞児である。なお、表1中に示した各対象児の操作特性は、
K式発達検査結果を基本としながら、各操作特性段階の指標課題(田中・田中、 1984、 1986 ;良
島、 1984)の通過状況の分析を付加し、さらに日常行動観察結果を考慮して決定した。
1) Y.S児1971年7月24日生、 16歳、男児。現在奈良県内の養護学校高等部在籍。生IF時
体重24809、安産、噂育器3カ月、晴乳力は弓鍋)った。乳児期の「定頚」 「寝かえり」 「はいは
い」 「初歩」の運動性発達はすべて正常であった。しかし、 「指さし」が2歳頃、 「始語」 2歳頃、
「バイバイ」 3歳頃と言語性発達に遅れがみられた。 2歳の時県内の児童相談所で発達の遅れを
指摘された。この頃のY.S児の特徴は「もの舌に敏感である」ことであった。 2歳から4歳ま
で障害児の療育機関で療育。その後幼稚園で保育。小学校・中学校の障害児学級を経て現在に至
る。
2) H.M児1972年2月23日生、 16歳、男児。現在奈良県内の養護学校高等部在籍。生IF時
体重2600( 、嘱乳力は強かった。乳児期の「定頚」 「寝かえり」 「はいはい」 「初歩」の運動性発
達はすべて正常であった。しかし、 「指さし」 「動作の模倣」はなく、 「バイバイ」 1歳頃、 「始
語」 1歳6カ月頃と言語性発達に弱さを示していた。 3歳児健診で発達の遅れがあると指摘され
た.この頃のH.M児の特徴は「ひとり遊びが多い」 「クレ-ン現象が長く続く」 「もの昔に敏感
である」 「ものなどへのこだわりがある」などであった。就学前は幼稚園で保育。その後小学校・
中学校障害児学級を経て現在に至る。
3) E.M児1972年2月2日生、 16歳、女児。現在奈良県内の養護学校高等部在籍。生下時
体重31∝)9、安産、噛乳力は普通であった。乳児期の「定朝」 「寝がえり」 「はいはい」 「初歩」
の運動性発達は正常であった。しかし、 「始語」が遅く、 「オーム返し」 「奇声」があった。 1歳
前後でひきつけをおこしたがその後はない。 1歳6カ月頃より対人的交流が少なく、自分勝手な
行動が目立ち、落ちつきがなく、 3歳の時県内の児童相談所で発達の遅れを指摘された。その頃
のE.M児の特徴は「ひとり遊びが多い」 「人見知りをしない」 「視線が合わない」 「クレーン現象
が長く続く」 「ものなどへのこだわりがある」 「多動である」などであった。生後6カ月から6
歳まで保育所、幼稚園で保育.その後小学校・中学校障害児学級を経て現在に至る。
4) M.K児1971年11月11日生、 16歳、男児。現在奈良県内の養護学校高等部在籍。生下時
体重32(カ9、安産、晴乳力は普通であった。乳児期の運動性・言語性発達は正常であったo就学
前保育を受けた幼稚園で発達の遅れを指摘された。その頃のM.K児の特徴は「ひとり遊びが多
い」 「多動である」などであった。就学前は幼稚園で保育。その後小学校・中学校障害児学級を
経て現在に至る。
2 分析方法・資料、手続
本研究の目的は、操作特性の高次化に伴う人物描画表現の発達的変容をその関連要因とかかわ
らせて検討することであるが、本稿では、 4名の対象児それぞれの事例研究によって分析する方
法をとった。分析対象とした資料は、各対象児のDAM、図形模写およびK式発達検査通過項目
であった。
精神遅滞児の人物描画表現発達
63
表1対象児のCA、 DAおよび図形模写 DAM得点
対
性
学
操
C
象
児
別
年 (中 学 )
作
特
性
A
全
領
域
D
認
知
適
応
A
言
語
社
会
図 形 模 写 得 点
/ 30
得
点 / 50
人
物
の
那
分
D
1
2
3
4
頑
眼
胴
脚
5
6
7
9
14
16
22
[]
腕
毛髪
w
普
脂
耳
+
+
+
+
+
胴の長さ
脚 の割合
眼の型
5V >判
腕 の割A
ロ口
頭の割A
ll'Ju
耳の位置と割合
顎 と額
顔貌
+
8
18
21
24
21
'
の 29
比 33
37
蝣
r45
,s
那
分
眼 ll
jo
蝣
口 30
40
負 44
A
13
那 覗 17
那 25
46
M
Y . S児
H .M 児
E .M 児
M .K 児
男
男
t<
男
1
3
1
3
1
3
1
3
2 形 2 可 2 可 3 形 3 形 3 可 1変形 1変可
12 ‥
10 14 ‥
11 12 ‥3 h :4 12 : 4 14 : 5 12 ‥7 14
3 : 7 4 ‥8 5 ‥9 7 ‥6 6 ‥1 7 ‥
11 10 ‥0 11‥8
5 ‥4 5 ‥4 6 ‥6 9 : 0 5 ‥7 7 ‥9 9 ‥
11 11‥
11
10 6 ‥8 8 ‥0 10 ‥1 11‥3
2 : 8 4 ‥1 5 ‥1 6 ‥
28
12
16
20
21
2.1
26
26
20
32
33
14
16
21
'I
40
+
+
+
+
十
+
+
+
+
+
十
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
毛髪 B
首の輪郭
頭の輪郭
顎の突出
23
手 28
32
足 38
細
48
鍾
指の細部
指の数
掌
栂 指の分化
12
衣 19
26
皮
脂 39
蝣
¥l
43
そ
49
の 40
他 50
衣服
衣服 2 つ以上
衣服 全部
衣服 の部分 4 つ以上
衣服 の種類完成
横 向きA
横 向きB
描線 A
描線 B
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
まゆまたはまつ毛
両眼の
眼の向き
鼻 とH の輪郭
鼻孔
分 胴 10 腕 と脚 のつけ方 A
15 腕 と脚 のつけ方 B
31 胴 の輪郭
腕
34 腕 と脚 の輪郭
の
35 宿
脚
36 肩 あ るいは腕の関節
那
41 脚 の関節
明
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
十
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
十
+
+
+
+
+
十
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
十
+
+
+
十
+
十
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
(蝣
+
+
+
+
+
+
十
+
+
+
+
+
+
+
+
十
十
+
+
十
十
十
+
+
十
+
+
+
+
+
+
+
+
十
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
十
十
+
+
+
注1) 2形: 2次元形成期. 2可: 2次元可逆操作期、 3形: 3次元形成期
3可: 3次元可逆操作期、 1変形: 1次変換形成期、 1変可: 1次変換可逆操作期
2) (+)は当該項目通過を示す。
+
田 辺 正 友・田 村 浩 子
ss
△-由9
×
醍
-
[∪18-
- o
○-ア
1) DAMの実施・採点手続 小林(1977)の方法に従った。
2)図形模写課題および実施・採点手続 図形模写課題は対象児の発達段階を考慮して10個の
幾何図形を選んだ(図1)。実施・採点手続は田辺(1985)と同様であった。
なお、 DAMおよび図形模写課題の採点は2名の独立した採点者によっておこなわれたが採点
者問に高い一致をみた。不一致の項目については協議して再度採点をおこなった。さらに、 4名
の対象児にK式発達検査が実施された。
図1 図形模写課題
結果と考察
2次元形成期から1次変換可逆操作期までの人物描画表現の発達的変容をその関連要因とかか
わらせて分析するが、本稿では、 2次元形成期から2次元可逆操作期-の操作特性の高次化によ
る変容についてはY.S児の、以下、 2次元可逆操作期から3次元形成期へはH.M児の、 3次
元形成期から3次元可逆操作期へはE.M児の、そして、 1次変換形成期から1次変換可逆操作
期へはM.K児、それぞれの縦断的資料による分析を試みる。 4名の対象児の生活年齢(CA)、
発達年齢(DA)、図形模写得点、およびDAM得点は表1に示すとおりである。表中にはDA
M50採点項Ejを「人物の部分」 「各部分の比率」 「部分の明細度」に関する項目ごとに整理した
ものも合わせて示した。図形模写課題およびDAMそれぞれの満点は30点、 50点である。
1 2次元形成期から2次元可逆操作期への変容一Y.S児の人物描画
まず、 Y. S児の人物描画の分析から、 2次元形成期から2次元可逆操作期-の人物描画の発
達的変容について検討する。表1に示されているように操作特性の高次化によるDAM得点の変
化はわずかである。しかし、括出された人物描画(図2)の質的変容は著しい。 「人物の部分」
に関する項目は、 2次元可逆操作期において11項目全てが出現しており、描出された人物像は頭
部、胴部、腕部、脚部が分化され、それぞれの部分の接合、位置関係が秩序づけられ始め全身像
の描出がみられる。 「部分の明細度」では、 2次元形成期においてすでに首の輪郭、腕・脚のつ
け方A ・ Bの項目の出現がみられる。しかし、描出された人物像の胴部、腕部、脚部は一筆括き
のこ、とく輪郭をなぞった結果の描出であり、脚部は3本の脚が描写されており、まだ人物の各部
分は分化されていないことが示されている。ここから、 2次元形成期では「形」に先導され人物
精神遅滞児の人物描画表現発達
像を措こうとしているものの、自分
の中には明確に人物像がイメージさ
れていないのではないか、また、胴
と腕、胴と脚といった部分と部分と
の関係でとらえる形象化もできてい
ないのではないかと推察される。 2
次元可逆操作期ではそれができ始め、
そこには人物像のとらえ方に質的な
変容がみられる。この点については、
65
2 次元形成期 2 次
元可
逆
操作
期
〇十 ロ X △〇 十ロ メ△
◇
ロ◎ U
/ ◇ C3 自 由
d予
二
二
○占 '
r/
n
◎
J>
\
Cフ
/
く
こ
=プ
∃
後述する人物描画にかかわる要因と
の関連で分析を試みる。 2次元可逆
操作期では、まゆまたはまつ毛の項
目の描出がみられるがこの項目は頭
部の部分の描出とみなすことができ、
2次元形成期から2次元可逆操作期
にかけては頭部の明細化がはじまる
図2 Y.S児の人物描画と図形模写
とともに、人物像の各部分の位置関
係が明確化していくといった変容がみられることが指摘される。これらの結果は、筆者らの先の
研究(田辺・田村、 1987)の結果とも一致するものである。 「各部分の比率」では、 2次元形成
期に胴の長さ、 2次元可逆操作期に脚の割合と各々1項目の出現がみられるが操作特性の高次化
による出現項目の増加は認められない。この結果から、 2次元可逆操作期では各部分が分化した
人物像が描出されているが、全体をみとおした郡分部分の描写は困難であり分化された部分と部
分の組み合せの結果として全身像が描出されていることが示唆される0
次に、かかる人物描画の変容を、図形模写、 K式発達検査の通過項目との関連から検討する。
図2に示すとおり2次元形成期において、図形模写課題1、 2、 4を通過している。そして課題
3、 5、 7は角とか描線が不正確であり、また、課題10は2図形の交叉のしかたが不正確で当該
課題の通過はみられないものの四角形、三角形らしき形は描出されている。 2次元可逆操作期に
なると、基本図形課題1 -5および斜線図形課題7が角とか描線のゆがみはあるものの通過し、
課題6、 8の接合図形および課題9の立体図形の描出がみられはじめる。しかし、その接合のし
かたは正確性に欠け、課題8のように複雑な形状のものに対してはトポロジー的表現の段階であ
る。こうした。 2次元形成期から2次元可逆操作期-の操作特性の高次化による図形模写能力の
伸長は、人物描画において2次元形成期には全身像が描出しているものの四肢部の各部分の分化
はみられず、 2次元可逆操作期において四肢郡の各部分が分化されはじめたことと共通するもの
であると考えられる。
次に、 K式発達検査項目の通過状況の分析から検討を試みる。表2に示すとおり2次元形成期
では動作性の課題の通過が言語性の課題の通過に比して優位である。この結果が、 2次元形成期
でありながら頑胴二足二手人間像を描出しているひとつの要因になっていると考えられる。これ
は、精神遅滞児を対象に、 wi seやWA I Sを用いてDAMの妥当性を検討した研究(Gunzburg,
1955 ; Tobias & Gorelick, 1960 ; Rohrs & Haworth, 1962)において、 DAM I Qは
V IQよりもP IQとの相関が高く、精神遅滞児のDAMは動作性知能との関連が深いことが示
田 辺 止 友・田 村 浩 子
66
表2 対象児のK式発達検査項目の通過状況
対象児
K
式 項 目
D 警Mn 芸慧
積 木 の 模 倣 . トラ ッ ク
家
門
クb
]ニ
間
関
階段 再生
形 の 弁別
折 り紙
例後
例前
10/
8 / 10
Ⅲ
班
四 角 構成
例後
例前
日
模 様 構成 日
Y
. S 児
2 形
14
+
+
+
+
+
+
+
十
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
十
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
-....
+
+
+
+
+
十
+
+
+
+
+
+
十
+
+
+
+
+
+
十
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
蝣 sa l
十
.
-
+
■ほ
-
I
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
七
+
+
+
+
+
+
+
+
+
十
十
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
…i …
財布 探 し I
m
写 . 円
十字
描
例後
例前
正方形
三角 形
菱
形
画
図 形 記憶
∼… 復 唱
+
+
+
+
+
+
1招
捌
記
-
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
十
十
+
-
3 可
32
M . K 児
1変 形 1変 可
3 形
20
N
模
V. - M 児
3 形
27
把
つなぎ
. M 児
2 可
21
係
悪露
H
2 可
16
-
∼
33
40
+
+
+
+
+
+
+
+
十
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
十
+
+
+
+
+
+
+
十
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
4 数 逆唱
5 数
品警 復 唱 孟
1/ 3
1/ 3
浴
M
+
憶
吉
三五
玩
i .,'f- 'V M
全逆
全正
招
-
til
什
識
お
t
ひ
哩
m
警 管
日
…
蓋≡ 蓋 薫
2/ 3
招
蝣
>i<:刺
、
ボ
昔
.......十
+
+
■け
-
+
+
+
+
1
十
+
+
+
十
十
十
+
+
+
+
+
+
+
+
十
十
+
+
+
十
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
M
+
8 つ の記 憶
左右 弁 別
+
+
+
+
"柑
+
+
+
+
+
+
+
注1) 2形: 2次元形成期、 2可: 2次元可逆操作期、 3形: 3次元形成期
3可: 3次元可逆操作期、 1変形: 1次変換形成期、 1変可: 1次変換可逆操作期
2) (+)は通過項目, (-)は木通過項E]
3)口は不通過が通過した項目
精神遅滞児の人物描画表現発達
67
されていることとも一致するものである。そして2次元可逆操作期では言語性課題の通過項目が
著しく増している(表1、 2)。鳥居(1981)は、イメ-ジで絵を描くという描画活動の画期的
な開始は、言語表象の発達とともに切り拓かれる能力であると指摘しているが、 Y.S児の人物
描画の発達的変容も、表象の世界の拡がりとも関連させて把握していく必要があると考えられる。
2 2次元可逆操作期から3次元形成期-の変容-H.M児の人物描画
表1に示されるとおり操作特性の高次化によるDAM得点の上昇がみられる。 「人物の部分」
はすでに2次元可逆操作期で全項目出現し、 3次元形成期では「部分の明細度」においても出現
項目が急増している。 2次元可逆操作期では眼・H・鼻、頭部、胴・腕・脚部での描出がみられ
はじめているが、その出現項目は、たとえば、腕・脚のつけ方A、 Bといった全身像の形状に関
する項目および頭部内部の部分の項目がほとんどである。しかし、 3次元形成期では指の数、毛
髪Bといった各部分の明細化および衣服の描出がみられ、 3次元という今までみえていない世界
がみえはじめた姿がそこにみい出せる。とともに、分化した人間像となり空間関係における一定
の称序づけに対する認識のはじまりがみられはじめる。
描画方法をみると、図3に示す
とおり2次元可逆操作期よりレン
トゲン描法的であり、内部と外部
を同時に描写しようとする姿が伺
3 次 元形 成 期
2 次元可逆操作期
〇 十 ロ × △ 0 + ロ メ △
㌢ 0 01 蝪 四 6 0 Q) 白 瓜
われる。 2次元可逆操作期、 3次
元形成期とも自分の知ったとおり
= 筆
描こうとしている点では同じであ
るが、その描出された人物描画を
K= >
・
詛
-.
⊂
⊃
比較すると、操作特性の高次化に
伴って衣服と人物の関係が正確性
を増すとともに、衣服の描写も明
∫
細化がみられはじめる。これらの
結果は、人物像のイメージがより
明確になるとともに具体化され、
描出された人物像がより鮮明になっ
てきたことを示唆するものである。
そこには、鳥居(1986)の指摘す
図3 H.M児の人物描画と図形模写
る、実体と、衣服という「偶有的
属性」とが分化された人物像が明確になりつつある姿をみい出すことができる。
「各部分の比率」は、 2次元可逆操作期で出現した眼の型、腕の割合の項目は3次元形成期で
は出現せず、新たに胴の長さ、耳の位置と割合の項目の出現がみられる。全身像をイメージしな
がらバランスよく各部分を関係づけていくことにおいては困難さはあるが、部分と部分における
位置関係や割合を関係づけていく力は獲得されはじめていると考えられる。
これらの結果を、図3に示す図形模写との関連から検討を深めたい。操作特性の高次化に伴い
図形模写課題7、 8の通過がみられる。これらは、 2次元可逆操作期においてもその形らしきも
68
凹 辺 正 友・田 村 浩 子
のは描出されているが、課題7は角、描線とも不正確であり、また、角や描線が全体の中に位置
づけられていない。接合図形の課題8では、その描画過程からみて2つの図形を各々1つ1つの
図形をたし算的に認知し、それを組み合せた結果として一つの図形を描出している姿が伺える。
3次元形成期に入ると、まだ角や描線に不正確さを残し、全体の中に位置づけきれていない面も
あるが接合図形を1つの図形として認知し描いていることが認められる。また、課題10では、基
本図形の円と三角形の交叉図形であることは認知しているが、その交叉のしかたにおいて不正確
であり、全体をみとおして描くという点で困難さを残している。課題9の立体図形においても、
その形らしきものは描出されているものの、基底線の奥行の描写は不正確であり3次元の空間認
知の困難さが残る。これらの図形模写の結果は、前述した人物描画において部分と部分の位置関
係や割合を関係づけていく力は獲得されはじめたが、全体をバランスよく関係づけていくことに
困難さがあることと共通するものであり、ここでも、人物描画と図形模写との関連性を指摘でき
るものである。
さらに、 K式発達検査の通過状況をみると、 H.M児は、表1、 2に示すとおり動作性の課題
が言語性の課題より優位であり、 3次元形成期ではその傾向が顕著に示されている。先に、 DA
M得点は動作性知能との相関が高いことを指摘したが、 H.M児のDAM得点が後述するE.M
児の3次元形成期の得点と比較して高いのは、このことを裏づけるものと考えられる。とくに、
空間関係把握では、 1次変換形成の指標課題である模様構成Ⅲ、財布探しI、 Ⅲの通過がみられ
るのに対して、言語性の課題、とくに、言語的知識および理解の了解問題、絵の叙述、語の差異
などの課題での弱さがみられる。これは、動作レベルでは、各部分を個別に再現するのではなく、
全体としての特徴をとらえて、同一場面にあらわれている部分を空間的に関係づけることが可能
であるのに、言語レベルでは、そうした弱さがみられることを示すものである。そして、この結
果は、人物描画での部分と部分の位置関係や割合の関係づけが描出されはじめているものの、全
身像をイメージして一定の枠組にまとめあげるといったみとおしをもって、部分を全体の中に関
係づけていくことに困難さが残ることと関連する問題であると考えられる。
3 3次元形成期から3次元可逆操作期への変容-E.M児の人物描画
操作特性の高次化によりDAM得点は表1に示すとおり急激な上昇が認められる。特に「部分
の明細度」においては、 3次元可逆操作期には全部位にわたって出現項目がみられ、衣服の明細
化が増し、図4に示すとおり着衣人間像を描出している。また、 3次元形成期では全身像は描出
されているものの、顔を中心とした頭部の明細化が中心で、胴・腕・脚部の明細化はみられなかっ
た。 3次元可逆操作期に入り、胴・腕・脚部の明細化が進み、 「部分の比率」においても胴の長
さ、脚の割合、耳の位置と割合、足の割合の項目の出現がみられ、部分内の比率だけではなく部
分と部分の問の比率に関する項目の描出へと発展している。そして、その描出された人物像は頭
部と胴・腕・脚部のバランスにはやや欠けるものの、後述する図形模写(課題10)とも合せて考
えると、人物の部分を一定のみとおしをもって全体の中に位置づけて系列化させた結果としての
全身像の描出となっているものと考えられる。また、頭部の描画方法をみると、 3次元形成・可
逆操作期とも「マンガ」的表現方法であるが、 3次元可逆操作期には、鼻や口の表現方法がやや
写実性を帯びてきている点において、また、胴・腕・脚部の衣服の表現方法においてもまだ視覚
的イメージに先導されるといった傾向を残しながらも、部分的には現実を写しとろうとする姿が
精神遅滞児の人物描画表現発達
みられはじめたと考えられる。
図4に示すとおり3次元形成期
では図形模写課題9の立体図形お
よび課題10の交叉図形を除く、 3
69
3 次元形成期
3 次元可逆操作期
〇 十 口 X △ 〇十 □ × △
牛 o o) 田 の V o (D 田 の
次元可逆操作期では課題9を除く
他のすべての模写課題の通過が認
/TT\
められる。 3次元形成・可逆操作
w
期とも課題9、 10は立体あるいは
交叉図形らしきものの描出はみら
/
t、
れるが、課題9の立体図形では基
底線の奥行が不正確であった。課
題10は3次元形成期においてはそ
の交叉のしかたに不正確さがみら
れたが、 3次元可逆操作期では全
体をみとおしながら1つ1つの交
叉のしかたが正石酎こなっている。
図4 E.M児の人物描画と図形模写
3次元形成期の人物描画では、
頭部に比して胴・腕・脚部の描写に末熱さを残していた。この時期のK式発達検査の通過項目
(表2)をみると、身体像の形成や表象能力の拡がりに関連すると考えられる項目丁動作性課題
の階段再生および言語性課題の左右弁別、了解問題-が不通過であった。しかし、 3次元可逆操
作期に入りこれらの項目の通過が認められ、動作および言語の両レベルで全体をみとおしながら
部分と部分をまとめあげるといった思考が人物描画にも図形模写にも反映されているものと考え
られる。
4 1次変換形成期から1次変換可逆操作期への変容-M.K児の人物描画
図5に示すとおり、横向きの人物像が描出されている。 「人物の部分」では、 1次変換形成期
では全項目出現しているのに対して、 1次変換可逆操作期では出現しない項目が認められ、小林
(1977)のいう、描画における省略化がみられる。その反面、 1次変換可逆操作期では「部分の
明細度」において衣服の完成がみられるように、表現方法が多様化し、さらには、 1次変換形成
期よりみられた関節の表現が明確化し、描画に写実性を帯びてくる。 「走っている自分」といっ
た運動姿勢描画を求めた藤本(1979)は、図式的表現が写実的表現に転換する時期は、走姿勢人
物描画の各身体部位毎に異なり、腕・膝の部位では7-8歳を境にして両手両足が伸びきった固
定的な人物像から実際の走姿勢に近い四肢の屈曲した(関節の表現)人物像へと変容するといっ
た結果を得ている。本研究の結果とも一致するものである。
9、 10歳頃は、 「写実的傾向の芽生える時期」 (Lowenfeld, 1947)とか「視覚的写実性の時
期」 (Piaget, 1950)とか言われるように、子どもにとって最も写実性に重きをおく時期であ
る M.K児の1次変換形成期の横向き像は、上半身は完全に横向き像として描写されておりバ
ランスもよいが、下半身では脚部の重なりが明確ではない。これは、横向きの人物像を描写する
上で現実を写しとろうとしているが、まだ、後述する視線の固定のあいまいさがあるのではない
田 辺 正 友・関 村 浩 子
70
と考えられる。しかし、 1次変換
1 次変 換 形 成 期
〇 十
口 × △
1 次変換可逆操作期
〇 十
O
Y
△
可逆操作期では、この横向き像に
t-
LiJ
い出し、描くことに成功している
◇
q
8
6
◇
0
日
四
おいて重なり合いという法則をみ
と考えられる。このように、 1次
変換可逆操作期のM. K児の人物
描画にも、知的リアリズムから視
覚的的リアリズム-移行した姿を
みることができる。つまり、視覚
的リアリズムの段階に移行した
M.K児は、自分の経験とは独立
した客観的な世界を自分の視点に
よってよりよくみようとして、現
実の3次元の諸関係を2次元の画
面に写しとろうとしている。そこ
図5 M.K児の人物描画と図形模写
には新しい表現方法一遠近表現で
ある奥行技法とか重なり合い-が
認められる。さらに、描画は、より写実的になり全体的バランスのとれた、そして、人物像とし
て柔軟な動きのあるものへと変容していく姿が認められる。
図形模写課是削ま、図5に示すとおり全課題通過が認められるo Lかし、課題9の立体図形の基
底線の奥行の不正確さは1次変換可逆操作期まで残る。立方体の描画は、視点を固定して底の線
が角度をもち、線が互いに平行になるように描くものである。 1次変換形成期における人物描画
では、脚部の重なり合いにおいて明確でなく、図形模写課題9の奥行の不正確さと共通するもの
であると考えられる。 1次変換可逆操作期では、人物描画は重なり合いが明確になっている姿が
認められ、図形模写9の立体図形においても今後正確な奥行表現が可能になり得るであろう。
K式発達検査通過項目の分析から、操作特性の高次化によって、動作性課題では図形記憶2/
2、言語性課題では6数復唱の通過が示されている(表2)。これらの課題の通過は、単純な記
憶ではなく、たとえば、 「2つの四角形を線でつないでいる」とか「数を意味として」記憶する、
つまり、寺田(1987)のいう、異体的事実をそのままとり扱うのではなく、一般化、法則化して
記号に置きかえて(概念化)理解できることを示すものである。そして、こうした理解のしかた
が先に指摘した、 1次変換可逆操作期の横向きの人物像における重なり合いという法則性の発見
の基盤になっているものと考えられる。
お わ り に
以上、縦断的分析によって、 2次元形成期から1次変換形成・可逆操作期までの操作特性の高
次化による人物描画の発達的変容について検討を試みてきた。本稿での結果は、筆者らの前研究
(田辺・田村、 1986;田村、 1987)の横断的研究の結果とも一致するものであった。そして、縦
断的分析を通していくつかの問題、課題もみい出された。
1つは、 DAMは子どもの一定の発達の指標になり得るものであるが、 DAM得点には表われ
精神遅滞児の人物描画表現発達
Ml
ない描出過程における人物像の認知のしかたを把握すること、つまり、質的な変容をみ落しては
ならないということ、また、その質的変容は、描く力にかかわる様々な諸要因との連関で把握し
ていく必要があるということである。
2つは、描画活動では、描画は単に「形」を描くことではなく、内容を伴った描画であるとい
うことが重要視されていかなければならないということである。発達に弱さをもつ子どもたちに
とって、描画活動は最も身近なものであるが、 「形」という結果ではなく、そこに表現されてい
る内容をもっと大切にしていくべきであり、そのためにはひとりひとりの子どもの発達の姿を把
握していかなければならないであろう。
引 用 文 献
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Lowenfeld.V. 1947 (竹内渚 他訳1963 美術による人間形成 繋明書房)
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新見俊呂1981幼児の美術教育 大阪保育運動センター
Piaget.J. 1950 (滝沢武久訳1967 知能の心理学 みすず書房)
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鳥居昭美1981子どもの人格形成と美術教育 ささら書房
72
Developmental Changes of Human Figure Drawing
in Mentally Retarded Children
Masatomo TANABE and Hiroko TAMURA
(Department of Defectology, Nara University of Education, Nara 630, Japan)
(Received April 26, 1988)
This study is one of a series of studies attempting to clarify the problems of
drawing development in handicapped children. Its important for us to look at the
drawing of child in relation to various other functions. In the present reseach, we
attempted to analyze the developmental changes of human figures with the progress of
the developmental stages in relation to the ability of copying geometric figures, and to
examine the basic factors with the drawing performance in mentally retarded children.
Subjects were four mentally retarded children enrolled in class for handicapped
children at junior high school. They ranged at the developmental stages from the twodimensional forming to the linear transformation operation. They were administered the
the Goodenough Draw-A-Man Test both at the lst grade and 3rd grade of junior
high school. Drawings of each subject were analyzed in changes of the developmental
stages. Each subject was also tested the copying ten geometric figures such as O, + ,
口, △, ◇,凸in order to trace the development of the copying geometric figures. Fur
thermore, the Kyoto Child Guidance Clinic Infant Development Test was given to
each subject in order to examine the basic factors with the drawing performance.
Results were as follows :
1 ) With the progress of the developmental stages, the Draw-A-Man Test
scores of each subject increased and the qualitative change of drawings were shown.
2) The Draw-A-Man Test were connected with space-cognition abilities and
with manual operations such as copying geometric figures.
3 ) From these results, we discussed the developmental changes of drawings at various
developmetal stages between the stage of the two-dimensional forming and that of
the linear transformation operation in relation to the basic factors with the drawing performance.
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