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国外所得免除方式 考 国外所得免除方式 考

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国外所得免除方式 考 国外所得免除方式 考
みずほ総研論集 2009年Ⅲ号
国外所得免除方式
考
∼新たな国際課税制度と今後の着目点∼
*
政策調査部 主任研究員 鈴木 将覚
▲
要 旨 1.2009年度の税制改正で国外所得免除方式が導入された。国外所得免除方式は、外国と自国における
「二重課税」を国外所得に対する課税免除により回避する方法である。「二重課税」を回避する手段
を現行の外国税額控除方式から国外所得免除方式に切り替えることの利点は、国外所得の国内還流
が進み、それによる国内投資の活発化が期待されること等である。現行税制では、外国子会社から
の配当は国内に送金されるまで課税が繰り延べされるため、所得を海外に滞留させるインセンティ
ブが生じる。一方で、国外所得免除方式の欠点としては、同方式によって源泉地課税が強化される
ため、国際的な租税競争や所得移転といった開放経済下で生じる問題が悪化すること等がある。
2.日本における国外所得免除方式の導入は、自国企業の競争力を阻害せず自国資本の海外流出を防ぐ
改革として評価される。しかし、日本の国外所得免除方式は次の2点で課題を残した。第1に、制度
設計上の問題である。日本の国外所得免除方式は、①外国子会社からの配当に対してのみ適用され、
外国支店については適用されない、②キャピタルゲインが適用除外とされる、③国外所得を得るた
めに用いられた国内親会社の費用が簡便的に国外所得の5%に固定的に見積もられるという特徴が
ある。これらの論点に関して、日本では議論が尽くされたとは言い難い。国外所得免除方式に関す
る議論が活発な米国では、①国外所得免除方式の適用対象に外国支店の所得やキャピタルゲインが
含まれ、②国外所得を得るために用いられた国内親会社の費用は企業ごとに見積もられ、国外所得
にも配賦される等の提案がなされている。日本で今後国外所得免除方式の見直しが検討される際に
は、米国等での議論を踏まえた上での判断が求められよう。
3.第2に、日本では現行税制が抱える問題を国外所得免除方式とは異なる方向で解決しようという議
論がほとんどみられなかったことである。米国等では、国外所得免除方式では克服できない国際的
な租税競争や所得移転の問題への対処として、居住地主義の強化や仕向地主義の課税が提案されて
いる。今後国際資本移動が激しさを増すことが予想されるなかで、日本でも幅広い国際課税改革オ
プションのなかで国外所得免除方式を捉え、その利点と欠点を十分に認識しておくことが長期的な
国際課税改革を考える上では大切であろう。
*
E-Mail:[email protected]
83
国外所得免除方式をどう考えるか
《目 次》
1.はじめに………………………………………………………………………………… 85
2.国際課税の基本的な考え方…………………………………………………………… 86
⑴ 国際課税主義の分類………………………………………………………………………………… 86
⑵ 国際課税の効率性基準……………………………………………………………………………… 87
⑶ 開放経済下の法人税が直面する問題……………………………………………………………… 91
3.国外所得免除方式に対する賛否……………………………………………………… 92
⑴ 国外所得免除方式に対する賛成意見……………………………………………………………… 92
⑵ 国外所得免除方式に対する批判…………………………………………………………………… 94
4.日本の国外所得免除方式の制度設計上の特徴……………………………………… 95
⑴ 外国税額控除方式…………………………………………………………………………………… 95
⑵ 国外所得免除方式…………………………………………………………………………………… 98
5.その他の国際課税改革オプション………………………………………………… 102
⑴ 居住地主義課税の徹底……………………………………………………………………………… 103
⑵ 仕向地主義の法人税………………………………………………………………………………… 105
6.おわりに……………………………………………………………………………… 107
84
みずほ総研論集 2009年Ⅲ号
1.はじめに
結びつける好循環の確立が重要」であり、
「国
際展開する我が国企業が、税制に左右されずに、
2009年度税制改正で、外国子会社からの配当
外国子会社の利益を必要な時期に必要な金額を
に対して国外所得免除方式(益金不算入制度)
国内に戻すことが可能となるよう、外国子会社
が導入されることになった。国外所得免除方式
利益の国内還流に際しての税制上の障害を取り
とは、外国と自国における「二重課税」を国外
除く国際租税改革が必要」であるとされた。
所得に対する課税免除によって回避する方法で
しかし、今回導入された国外所得免除方式は、
ある。日本では、伝統的に外国税額控除による
海外資金の国内還流や自国企業の競争力向上と
「二重課税」の調整が行われてきたが、今回の
いう利点がある一方で、我々が直面する国際課
改正ではその一部が廃止され、国外所得免除方
税の問題を全て解決する万能薬とまでは至らな
式に転換された。
い。第1に、今回の改正では、国外所得免除方
国外所得免除方式は欧州諸国を中心に採用さ
式の適用対象や費用配賦の方法など、いくつか
れている国際課税方式であるが、近年米国を中
の点が今後の検討課題として残されたことであ
心とする国外所得免除方式の非採用国において
る。第2に、国外所得免除方式は、国際的な租
その導入の是非が議論されてきた。各国は、経
税競争や多国籍企業による所得移転のような開
済のグローバル化が進展するなかで、自国企業
放経済下の法人税が直面する問題に対応するこ
の競争力を阻害せず自国資本の海外流出を招か
とができないことである。米国等では、経済の
ない国際課税制度を目指しており、日本の国外
グローバル化に対応する国際課税制度として、
所得免除方式導入もそうした流れに沿ったもの
居住地主義の強化や仕向地主義の法人税が提案
と捉えられる。日本では、昨年、経済産業省「経
されている。日本でも、将来的には国外所得免
済社会の持続的発展のための企業税制改革に関
除方式とは異なるアプローチも視野に入れて国
する研究会」の下に国際租税小委員会が設置さ
際課税改革を検討することが必要になるかもし
れ、国外所得免除方式に関する議論が行われた。
れない。
同小委員会は、昨年8月に「中間論点整理」
(経
以上の問題意識から、本稿では日本の国外所
済産業省国際租税小委員会(2008))を提出し、
得免除方式の特徴を明らかにするとともに、よ
日本の国外所得免除方式の制度設計に関する具
り幅広い視点から国外所得免除方式を捉え、長
体的な議論が進展した。そして、国外所得免除
期的な国際課税改革における国外所得免除方式
方式はその親委員会の報告書を経て、与党の
の位置づけを考えてみたい。以下では、まず次
2009年度税制改正大綱(2008年12月12日公表)
節で国際課税の基本的な考え方として、国際課
に盛り込まれた。「中間論点整理」では、国外
税主義の基本と効率性基準を整理し、第3節で
所得免除方式への移行の理由として、「中長期
は国外所得免除方式に対する賛否を整理する。
的に海外の市場の伸びが大きくなると見込まれ
これらの節では、これまでの外国税額控除方式
る中で、わが国が持続的な成長を実現するため
から国外所得免除方式に国際課税方式を大きく
には、世界経済の成長の果実を国内の豊かさに
転換することの意味を考える。第4節では、国
85
国外所得免除方式をどう考えるか
外所得免除方式を所与とした上で、その制度設
合は生じない。両国ともに源泉地主義課税を採
計上の問題に焦点を当てる。特に、ここでは日
用する場合にも、A国はA国源泉所得のみに課
本の国外所得免除方式を米国の国外所得免除方
税し、B国はB国源泉所得のみに課税するので、
式案と比較することにより、その制度設計上の
課税権の競合は生じない。これに対して、A国
特徴を明らかにし、若干の課題を指摘する。最
が居住地主義課税、B国が源泉地主義課税を採
後に第5節では、国外所得免除方式以外の国際
用している場合は、A国企業のB国源泉所得は
課税改革オプションとして、居住地主義の徹底
A国政府とB国政府の双方から課税され、課税
案(完全合算方式)と仕向地主義の法人税の2
権の競合が生じる。また、両国が居住地主義課
つを紹介し、より大きな視点から国際課税改革
税を採用している場合でも、現実には外国企業
を考える。
の国内源泉所得に対する課税権が国際法上認め
2.国際課税の基本的な考え方
まず、国際課税の基本的な考え方から整理し
よう。
られているため、A国(B国)企業のB国(A
国)源泉所得には両国政府による課税が行われ
る の が 普 通 で あ り、 課 税 権 の 競 合 が 生 じ る
(図 表1)。
こうした自国と外国の「二重課税」を防ぐた
⑴ 国際課税主義の分類
86
めに、国際課税では通常税額控除(credit)か
法人税の伝統的な国際課税主義としては、居
課税免除(exemption)のどちらかによる調整
住地主義(Residence Principle)と源泉地主義
が行われる。外国税額控除方式(Foreign Tax
(Source Principle)の2つがある。純粋な居住
Credit Method)は、自国企業が外国で納付し
地主義とは、居住者の全世界所得に対して課税
た外国税額について自国の法人税額からの税額
する方法である(全世界所得課税方式)
。海外
控除を認めるものであり、国外所得免除方式
に事業展開している自国企業は、その所得が国
(Exemption Method)は自国企業の国外所得
内で発生したにせよ、海外で発生したにせよ、
に対して課税しないものである。外国税額控除
全て国内政府によって課税される。一方で、純
方式は居住地主義(全世界所得課税方式)と、
粋な源泉地主義は、企業の国籍にかかわらず、
国外所得免除方式は源泉地主義(テリトリアル
所得の源泉地での課税を行うものである。海外
方式)とそれぞれ関係が深い。2005年時点で、
に事業展開している自国企業は、その国内源泉
OECD30カ国のなかで外国税額控除方式を採用
所得のみが課税され、国外源泉所得は課税され
している国は米国、英国、日本、韓国、アイル
ない(テリトリアル方式(領土内課税方式))。
ランド、チェコ、ポーランド、ニュージーラン
一般に、各国が居住地主義課税と源泉地主義
ド、メキシコの9カ国で、国外所得免除方式を
課税を任意に選択すれば、課税権の競合が生じ
採用している国はドイツ、フランス、イタリア、
る。例えば、A国とB国の2国が存在し、両国
オランダ、スペイン、カナダ、オーストラリア、
が居住地主義課税を採用する場合には、両国と
スウェーデン、ノルウェー等の欧州を中心とし
もに自国企業のみに課税するため、課税権の競
た21カ国であった。その後、チェコとポーラン
みずほ総研論集 2009年Ⅲ号
図表1:「二重課税」の発生
居住地
A 国企業
B 国企業
A 国源泉所得
A 国による居住地主義課税
A 国による源泉地主義課税
B 国による居住地主義課税
B 国源泉所得
B 国による源泉地主義課税
A 国による居住地主義課税
B 国による居住地主義課税
源泉地
(資料)川上編(2008)より、みずほ総合研究所作成
ドが国外所得免除方式に移行し、2009年には日
も、無制限の外国税額控除が認められるときに
本と英国がそれに続き、ニュージーランドも国
は外国税額が全て控除されるため、CEN が確
外所得免除方式を検討している。その結果、国
保される。
外所得免除方式を採用しない OECD 加盟国は、
米国を含む4カ国に減少する見込みである。
一方で、CIN は企業の居住国にかかわらず、
収益率が同じ税率で課税されるという原則であ
る。国外所得免除方式では CIN が確保される。
⑵ 国際課税の効率性基準
では、外国税額控除方式と国外所得免除方式
のどちらが望ましいと考えられるであろうか。
a.資本輸出中立性(CEN)と資本輸入中
立性(CIN)
こうした状況を自国(H国)と外国(F国)
の2国が存在する世界を例にとって考えてみよ
う(図表2)。自国の収益率を
を
、外国の収益率を
、自国の税率
、外国の税率を
とし、
完全な資本移動を想定する。企業収益最大化の
国際課税方法の評価は、効率性の観点から行
条件は「自国での税引き後収益率=外国での税
1)
われるのが普通である 。効率性の基準として
引き後収益率」である。このとき、無制限の外
は、伝統的に資本輸出中立性(Capital Export
国税額控除が適用されれば、企業収益最大化の
Neutrality、CEN)と資本輸入中立性(Capital
条件より、
Import Neutrality、CIN) が あ る。CEN は、
資本がその投資場所にかかわらず同じ税率で課
税されるという原則であり、CEN が確保され
(1− ) =
(1− ) −
自国での税引き後収益率
=
(1− )
外国での税引き後収益率
るとき、企業の投資場所は税制の影響を受けな
となる。結局
い。CEN が成り立つ状況では、税引き後の収
の外国税額控除が認められる状況では、企業が
益最大化を目指す企業はまるで税引き前の収益
税引き前収益率を最大化するような行動をとる
を最大化するかのような行動をとる。純粋な居
ことになる。
住地主義では、自国企業が世界のどこで収益を
=
+
が成り立つから、無制限
これに対して、国外所得免除方式の場合は、
上げても原則としてその全世界所得が課税され
同じように「自国での税引き後収益率=外国で
るため、CEN が成り立つ。また、国外所得が
の税引き後収益率」という条件より、
現地で課税される課税権の競合が生じる状況で
1) 公平性の観点からは、水平的な平等及び累進性の点で、全世界課税(+外国税額控除)が望ましいとされる。
87
国外所得免除方式をどう考えるか
図表2:「二重課税」の回避措置と効率性基準
⒜ 無制限の税額控除が適用される場合(Credit)
「自国での税引後収益率=外国での税引後収益率」より、
+
(1− ) =(1− ) −
=(1− )
資本輸出中立性(CEN)が確保される。
⒝ 国外所得が非課税にされる場合(Exemption)
「自国での税引後収益率=外国での税引後収益率」より、
(1− ) =(1− )
資本輸入中立性(CIN)が確保される。
⒞ 所得控除が適用される場合(Deduction)
「自国での税引後収益率=外国での税引後収益率」より、
(1− ) =(1− ) − (1− )
=(1− )
(1− )
国家中立性(NN)が確保される。
(注)自国(H):収益率
、税率 。
外国(F):収益率 、税率 。
(資料)みずほ総合研究所作成
(1− ) =
(1− )
除方式の採用国が増えるなかで、このままでは
が得られる。これは、自国と外国の税率が等し
外国税額控除方式の採用国の企業が競争の不利
くない限り
を被るとの問題意識から CIN が追求されるよ
≠
であることを意味する。つ
まり、国外所得免除方式では税制が投資場所に
影響を及ぼし、CEN は確保されない。一方で、
88
になるからである。しかし、近年は国外所得免
うになってきた。
ところで、日本や米国における現実の制度は、
外国での収益に対しては外国で課税されるのみ
次のような理由から理想的な「居住地主義+外
で自国では課税されないから、ある国において
国税額控除」の形にはなっていないことには注
外国企業と自国企業の収益に対する課税上の差
意が必要である。第1に、外国税額控除が無制
別はない。このため、国外所得免除方式の下で
限に認められていない。CEN が確保されるた
は CIN が成立する。
めには外国税額控除が無制限に認められなけれ
国際課税主義の基準として、これまで CIN
ばならないが、外国税額控除が無制限に認めら
よりも CEN が優先される傾向があり、米国を
れると外国政府が自国企業に対して重税を課す
中心に伝統的には「居住地主義+外国税額控除」
インセンティブが生じるという別の問題が発生
が望ましいとの見方が採用されてきた。これは、
する。自国で無制限の外国税額控除が認められ
CEN は自国のみの政策で実現することができ
ると、自国企業にとって外国での課税は問題に
るのに対して、CIN が確保されるには自国の
ならなくなり、外国政府は自国企業の投資イン
みならず世界各国が同じ政策をとることが必要
センティブに悪影響を与えることなく自国企業
みずほ総研論集 2009年Ⅲ号
に重税を課すことができる。これは、自国政府
外での実体のある経済活動を妨げるものではな
から外国政府に対して税収が移転することを意
い。例えば、日本の外国子会社合算税制では特
味する。このため、外国税額控除は「自国であ
定の基準に従って、外国子会社が独立企業とし
れば課されたであろう税額」が限度とされるの
ての実体を備え、外国で事業活動を行うことに
が普通である。
十分な経済合理性があると認められる場合には
第2に、自国企業の国外所得が国内に還流し
適用除外となる4)。このため、タックスヘイブ
た時点でのみ課税されることである。国外所得
ン税制が存在しても、海外所得全体としては課
が自国に還流されるまでは、課税が繰り延べさ
税が繰り延べされる余地があり、海外での資金
れる。このため、対外投資の実効税率が低くな
滞留インセンティブが生じていると考えられ
り、国内から海外への資本流出インセンティブ
る。
が生じる。こうした資本流出インセンティブを
b.国家中立性(NN)とは何か
抑制する方法の1つとして、各国ではタックス
CEN はグローバルな観点からみた場合に、
ヘイブン税制が適用されている。タックスヘイ
資源が効率的に配分される基準である。これに
ブン税制は、基本的に軽課税国にある特定の所
対して、グローバルな観点ではなく、国家的な
得に対して、国内送金時ではなく発生時に課税
観点から効率性を捉える基準も提唱されている
を行うものである。タックスヘイブン税制の先
(Richman(1963))。 こ こ で の「国 家」 と は、
駆けとなった米国のサブパート F ルール(1962
企業と政府の合計を意味する。
「国家」にとっ
2)
年 導 入) で は、 被 支 配 外 国 法 人 (Controlled
ての追加的な海外所得は、外国で課税された後
Foreign Corporation, CFC)の持株比率10%以
の所得に等しいと考えられる。このため、
「国家」
上の株主は、特定の所得(サブパートF所得3))
の所得を最大化する条件は、自国での税引き前
に関して、配当の国内送金の有無にかかわらず
収益率が外国での税引き後収益率に等しくなる
所得の発生時に課税される。日本の外国子会社
ことである。こうした条件が成り立てば、国家
合算税制(78年導入)では、持株比率が50%を
中立性(National Neutrality, NN)が満たされ
超える外国法人(外国関係会社)のうち、その
る。
税負担が25%以下である法人(特定外国子会社)
についてはその留保所得が居住地国の所得に合
算されて即時に課税される。
国家的な観点からみると、「二重課税」の回
避手段として税額控除(credit)と課税免除
(exemption)のいずれも適切とは言えない。
しかし、こうした課税繰り延べ対応策が講じ
国家的な観点からみた中立性は、外国税額の所
られているとはいえ、全ての海外所得が即時に
得控除(deduction)が認められるときに実現
課税されるわけではない。一般に、タックスヘ
する。所得控除が認められるとき、企業収益最
イブン税制は、租税回避を目的とした所得に対
大化の条件「自国での税引き後収益率=外国で
する即時的な課税を意図するものであって、海
の税引き後収益率」より、
2) 議決権のある株式の50%超を米国株主が保有している外国子会社を指す。
3) 保険所得、国外ベースカンパニー所得(販売所得、配当・利子・ロイヤリティ等の持株会社所得、石油関連所得等)、外国
における贈賄等の違法支払等。
4) ①事業基準(主たる事業が株式の保有等、一定の事業でないこと)、②実体基準(本店所在地国に主たる事業に必要な事務
所等を有すること)、③管理支配基準(本店所在地国において主たる事業の管理、支配及び運営を自ら行っていること)等
を全て満たすことが条件となっている。
89
国外所得免除方式をどう考えるか
(1− ) =
(1− ) − (1− )
=
(1− )
(1− )
率性基準である。R&D やマーケティング等を
通じて発展した多国籍企業の資産は、高度に特
が得られる。つまり、自国の税引き前の収益率
殊なものであり、それら資産の生産性は誰が会
が外国の税引き後の収益率に等しくなる。所得
社を経営するかに大きく依存する。こうした状
控除による「二重課税」の調整は、税額控除に
況では、税制が資本の所有形態に影響を及ぼさ
よる調整と比べて海外投資が不利になるため、
ないことが世界的な厚生の観点からみて重要で
資本が国内に維持され、その分だけ税収が確保
ある。各国が保有する物理的な資本ストックの
される。NN の観点からすれば、CEN を満た
総量が国際租税ルールに影響を受けないという
す外国税額控除方式は海外への資本流出によっ
極端なケースを考えよう。この状況では、直接
て国内税収を減少させるものと捉えられる。
投資は単に国内と海外の投資家の割合を変化さ
現実には、いずれの主要国でも所得控除方式
せるだけであり、最も生産性の高い経営者がそ
が採用されていない。この理由としては次のよ
れぞれの資産を保有するような税制が構築でき
うなものが挙げられる(JCT(2006))。第1に、
れば、生産が最も効率的になる。
自国の厚生を改善させる試みによって相手も同
CON は、①すべての国が無制限の外国税額
様の措置で対抗してくる可能性があることであ
控除付きの全世界所得課税方式を採用するか、
る。このとき、グローバルな意味で厚生が低下
または②すべての国が国外所得免除方式を採用
する。第2に、対外投資を抑制する政策は対外
するかのいずれかの方法で達成される。前者の
投資が国内投資減少の犠牲の下で行われるとき
場合は同時に CEN が成り立ち、後者の場合は
にのみ、国家の厚生を高めることである。対外
同時に CIN が成り立つ。すべての国が無制限
投資が国内投資を減少させないのであれば、対
の外国税額控除付きの全世界所得課税方式を採
外投資を抑制する政策は国内雇用には影響を及
用する場合には、各国企業は税引き後収益率の
ぼさない。過去の経験では、対外投資は輸入の
みならず、税引き前収益率を最大にするような
増加だけではなく、輸出の増加につながる可能
資産を購入することになるため、資産を最も効
性があり、こうした場合に対外投資を抑制すれ
率的に活用できる企業が資産を保有することに
ば国内雇用にとってマイナスの影響が生じる。
なる。一方で、すべての国が国外所得免除方式
c.資本所有中立性(CON)とは何か
を採用する場合には、企業は各国において同じ
以上の伝統的な効率性基準に対して、近年で
実効税率に直面するため、各国に投資された資
は 資 本 所 有 中 立 性(Capital Ownership Neu-
産は最も高い税引き前収益を生み出す企業に
trality, CON)という概念が提唱されるように
よって保有される。
なった(Desai and Hines(2003))。CON とは、
90
ものの動きではなく、資本の所有に着目した効
他国が無制限の外国税額控除付きの全世界所
税制が企業の所有形態に歪みを与えない状態を
得課税方式を採用するなかで、自国のみ国外所
指す。CEN や CIN が資本の動きに着目した効
得免除方式に移行する場合はどうであろうか。
率性基準であるのに対して、CON は資本その
A国が無制限の外国税額控除付きの全世界所得
みずほ総研論集 2009年Ⅲ号
課税方式、B国が国外所得免除方式を採用して
and Hines(2003)は対外 FDI の増加が追加的
いるとしよう。両国の企業がともに法人税率
な対内 FDI で相殺されると楽観的にみている。
20%の第三国に子会社を設立し、ともに100の
FDI の多くは M & A の形態をとるため、多く
利益を上げるものとする。このとき、A国企業
の場合、対外 FDI はある国から他の国への貯
は第三国に20だけ税金を納め、A国の法人税率
蓄の移転というよりも、世界的な資本の所有形
が35%である場合には、A国企業は本国に15の
態のリシャッフルを意味する。このため、対外
税金を納める。一方で、国外所得免除方式のB
FDI の増加は対内 M & A によって相殺される
国では、B国企業が本国に追加的に税を納める
と Desai and Hines(2003)は考えている。国
必要がないため、最終税額は第三国に収めた20
内税収が変化しないのであれば、税収と自国企
のままである。このため、B国企業はA国企業
業の税引き後収益の最大化を目指す国は国外所
5)
よりも税制上有利である 。
得免除方式を採用する。そして、各国が NON
これを所有中立性の観点からみると、B国が
の観点から国外所得免除方式に移行し、最終的
国外所得免除方式を採用することは、B国企業
に全ての国が国外所得免除方式を採用すればグ
が第三国で資産を購入するために許容できる価
ローバルな観点から資本所有の中立性(CON)
格(reservation prices)がA国企業よりも高
が成立する。
くなるものと解釈される。第三国において、た
とえA国企業の方がより生産性が高くても、税
⑶ 開放経済下の法人税が直面する問題
制上の理由でB国企業がA国企業の資産を買収
国際課税を考える際には、開放経済下の法人
することができるかもしれない。こうした状況
税が直面する2つの問題も考慮に入れなければ
は、グローバルな観点からすれば望ましいとは
ならない。第1に、国際的な租税競争である。
言えないが、B国にとっては「国家」の観点か
これは、各国が法人税率の引き下げ競争を行う
ら正当化される。このため、国外所得免除方式
ことである。法人税が源泉地主義で賦課される
は国家所有中立性(National Ownership Neu-
場合、ホスト国の法人税率は企業の立地選択に
trality, NON)を満たすと言われる。
影響を及ぼす。このため、各国政府が自国企業
もっとも、現実には、税制は資本の所有形態
の国内引き止めや外国企業の国内誘致を目的と
だけでなく資本の投下量や投下場所も決めるの
して法人税率の引き下げ競争を行い、最終的に
で、税制の世界厚生への影響はそれらの効果全
いずれの国も十分な税収を上げることができな
体に依存する。このため、工場や設備等が税率
くなる恐れがある(race to the bottom)
。
の差異に応じて国際的に移動する場合には、
国際的な租税競争が目立つのは、現在のとこ
CON の含意はそれほど明確ではなくなる。特
ろ途上国である。途上国では外資に対する税制
に、国外所得免除方式が対外 FDI 投資を増や
優遇措置など、様々な方法を用いた国際的な租
して国内投資を抑制し、その結果国内税収が減
税競争が繰り広げられた結果、90年代初頭から
少する可能性がある。この場合には NON は成
2000年代初頭にかけて法人税収の対 GDP 比が
立 し な い。 し か し、 こ の 点 に つ い て、Desai
低下した(Keen and Simone(2004))。先進国
5) A 国が国外所得免除方式に移行すれば CIN が成り立つ。
91
国外所得免除方式をどう考えるか
では各国の連動した税率引き下げがみられるも
がそもそも特許の成立条件となっており、そこ
のの、法人税収の対 GDP 比の低下はみられて
から発生する使用料に関して他の比較可能な取
いない。しかし、日本でも近年アジア諸国や欧
引を利用することは基本的には不可能である。
州先進国における法人税率引き下げに対抗すべ
国際的な租税競争と多国籍企業の所得移転と
きとの声が多く聞かれるようになり、国際的な
いう2つの問題は、ともに現行の国際課税が源
租税競争に対する懸念は高まっている。
泉地主義の要素を含んでいることから生じるも
第2に、多国籍企業による所得移転である。
のである。純粋な居住地主義に基づく全世界所
政府が望ましいと考えられる国際課税ベースと
得課税が行われていれば、企業は世界のどこで
税率を設定しても、多国籍企業による所得操作
活動しようとも、所得の全てが課税されるため、
が可能であれば、実際にはそうした課税を実現
これら2つの問題は回避される。日本はこれま
することはできない。多国籍企業による所得移
で居住地主義に基づく全世界所得課税を行って
転の代表例は、企業グループ内で行われる取引
きたが、国外所得の課税繰り延べが認められて
価格(移転価格)の操作である。例えば、親会
いること等により、その国際課税方式は実質的
社に対する税率が高く、外国子会社に対する税
に居住地主義と源泉地主義のハイブリッドな性
率が低い場合には、親会社から外国子会社への
質を持っていた。国外所得免除方式への移行は、
部品供給等において、取引価格を低く設定する
現状のハイブリッドな税制から源泉地主義に向
ことによって外国子会社の所得を増やし、企業
かう国際課税改革であるため、国際的な租税競
グループ全体として税額を減らすことができる。
争と多国籍企業の所得移転という2つの問題を
こうした移転価格操作の対抗措置として、各
解決することはできない。国外所得免除方式は、
国では移転価格税制が導入されている(日本で
むしろそうした問題を悪化させると考えられ
は86年に導入)。移転価格税制では、企業グルー
る。
プ内取引に用いられる価格が独立企業間価格
(arm’s length prices)と乖離する場合に、取
引が独立企業間価格で行われたものとして課税
所得が計算される。日本でも、OECD の移転
3.国外所得免除方式に対する賛否
次に、国外所得免除方式に対する賛否の意見
を整理しよう(図表3)。
6)
価格ガイドライン に基づいて、伝統的な取引
基準法(独立価格比準法、再販売価格基準法、
⑴ 国外所得免除方式に対する賛成意見
原価基準法)とその他の方法(利益分割法、取
一般に、国外所得免除方式に関する議論をみ
引単位営業利益法)のいずれかが用いられるこ
ると、同方式が望ましいとする理由には次のよ
とになっている。しかし、独立企業間価格の算
うな点が挙げられている。
定は、比較可能な独立企業間取引が存在する場
第1に、外国税額控除方式では、自国企業が
合は容易であるが、無形資産など取引の対象が
海外市場において競争上の不利を被るとの見方
希少である場合には技術的に難しい。例えば、
である。この見方は米国で多い。米国が国外所
特許権の場合、同一の技術等が存在しないこと
得免除方式を採用すれば CIN が成立し、第三
6) 各国の課税権を適切に配分し、二重課税を回避することを目的に作成されたもの。
92
みずほ総研論集 2009年Ⅲ号
図表3:国外所得免除方式に対する賛否
① 賛成する理由
・第三国における自国企業の競争上の不利が解消される。
・国内送金が増加し、国内投資が増加する。
・現行税制で国外所得に対する課税がほとんどなされておらず、国外所得に対する課税を免除しても税収への影響は少ない。
・国際課税の簡素化、「彼此流用」問題への対応。
② 反対する理由
・現行税制で自国企業が受けている競争上の不利の程度が必ずしも明らかではない。
・自国資本の海外流出を促進し、かつ多国籍企業の所得移転を激化させる可能性がある。
・成熟子会社にとっては、国内送金税はその行動に影響を及ぼさない(国際課税の new view)
。
(資料)みずほ総合研究所作成
国における米国とその他の国外所得免除方式の
め、その経験だけで国外所得免除方式の下での
採用国の競争力は同じになる。このため、外国
資金の国内還流のインパクトを測ることはでき
税額控除方式から国外所得控除方式への移行
ないが、国外所得免除方式の国内還流効果を示
は、一般的に CEN から CIN への移行であると
す証拠の1つとしてしばしば利用される。
言われる。また、NON の観点からみれば、前
述のように国外所得免除方式が望ましい。
第3に、現行税制で国外所得が実質的に課税
されていないので、国外所得を課税免除しても
第2に、国外所得免除方式が海外収益の国内
税収は減少せず、国外所得免除方式導入の弊害
送金を増やし、国内の投資増加につながるとの
は少ないとする現状追認的な見方である。国外
見方である。日本では、これが国外所得免除方
所得が実質的に課税されていないのであれば、
式導入の主な理由とされている。経済産業省資
国外所得に課税する仕組みによって海外から国
料によれば、日本の外国子会社の内部留保残高
内への資金還流を妨げるよりも、国外所得への
は約17兆円に達し、近年は年間2∼3兆円の資金
課税を諦めて国内へ資金が還流する仕組みを整
が海外の内部留保として積み上がる傾向があ
えた方が良いと考えるのは自然である。しかし、
る。このため、海外で増加する日本企業の資金
日本では国外所得に対する実効税率や、国外所
を国内に還流させて国内経済の活性化に用いる
得免除方式を導入した場合の税収変化に関する
べきだとの主張がなされるようになった。
試算がないため、その影響については不透明な
米国では、2004年に雇用創出法(American
部分が多い。
Jobs Creation Act, AJCA)が制定され、2005
この点に関して、米国では海外所得に対する
年の1年間に限って国内送金される配当に対す
法人税率が2.7%に過ぎないとの報告がなされ
る税率が通常の35%から5.25%に引き下げられ
ている(Grubert and Mutti(1995))。後述す
た。これによって、米国への国内送金は2004年
るように、米国の国外所得免除方式案では、国
の500億ドルから2005年には2,440億ドルに増加
外所得に対する課税を単に諦めるのではなく、
した(Mullins(2006))。米雇用創出法におけ
使用料収入に対する完全課税を実現すること等
る国内送金税の減免は1年限りの措置であるた
により、全体として国外所得に対する課税の強
93
国外所得免除方式をどう考えるか
化が図られる。このため、現行税制から国外所
外所得免除方式への移行は自国よりも投資先国
得免除方式への移行は、CEN から CIN への動
への影響が大きい(Mullins(2006))。
きではなく、より完全な CEN に向かう動きで
また、所得移転については、国外所得免除方
あ る と 指 摘 さ れ て い る(Grubert and Mutti
式では所得の発生場所が税額の決定的な要素に
(2001))。
なるため、多国籍企業が所得操作によって所得
第4に、国際課税制度の簡素化である。現行
の発生場所を変えるインセンティブが大きい。
制度では、企業は外国子会社全てに関する情報
このため、国外所得免除方式では現行方式より
を収集し、それに基づいて複雑な外国税額控除
も関連会社間の取引が独立企業間価格で行われ
の限度額の計算を行わなければならない。国外
ることの重要性が高まり、移転価格税制を強化
所得免除方式では、こうした情報収集・書類作
するためにより多くの資源を投入しなければな
成等の事務作業から解放されるという利点があ
らなくなる。
る。また、国外所得免除方式は後述する外国税
額控除の「彼此流用」への対応策にもなる。
第3に、成熟子会社にとっては、配当の国内
送金に対する課税が国内送金に影響を及ぼさな
いとの見方がある。Hartman(1985)は投資資
⑵ 国外所得免除方式に対する批判
金を内部留保によって賄うことが可能な成熟子
一方で、国外所得免除方式への移行に対して
会社にとっては、国内送金税は中立的であるこ
批判的な意見として、次のようなものがある。
とを指摘した。このような国際的な配当課税に
第1に、現行税制において、自国企業が受け
7)
が成り立つの
関する新しい見方(new view)
ている競争上の不利の程度が必ずしも明らかで
は、投資資金が現地の収益で賄われる成熟子会
ないことである(Mullins
(2006))。企業の対外
社にとって考えるべき問題が、どの地域に投資
投資の決定要因には税制のほか、政治情勢、イ
すれば最も高い収益を得ることができるかに集
ンフラ整備、労働者の質、言語、市場の大きさ
約されるからである。国内送金に対する増税は、
など様々な要因がある。
親企業にとって将来生まれる外国子会社の収益
第2に、前述のように、全世界所得課税方式
の価値を低下させるものの、外国の成熟子会社
から国外所得免除方式への移行は、基本的には
の意思決定には影響を及ぼさない。こうした配
居住地主義から源泉地主義への移行を意味する
当課税に対する new view が正しければ、現状
ため、資本の海外流出や多国籍企業による所得
の全世界課税制度の下で徴収される国内送金税
移転を促す恐れがあることである。源泉地主義
は本質的に一括税となり、効率性を損なうこと
的な国外所得免除方式への移行が、自国企業の
なく税収を確保できる。国内から海外に対して
対外投資を増加させるインパクトについては確
送金が必要な未成熟な外国子会社の場合のみ、
かなことはわかっていない。国外所得免除方式
国内税制がその投資に影響を与えると考えられる。
は、自国企業の国内か海外かの選択ではなく、
もっとも、国内投資家は外国子会社の活動や
自国企業が海外投資を決めた後の立地先の選択
投資機会をモニタリングすることが難しいため、
に影響を及ぼすとの見方もあり、その場合は国
収益性のシグナルや経営者の行動の制約を目的
7) 配当課税に関して、配当課税が資本コストに影響を及ぼすとの見方(old view)と、企業の投資は内部留保によって賄わ
れるため、配当課税は資本コストに影響を及ぼさないとの見方(new view)がある。
94
みずほ総研論集 2009年Ⅲ号
に、外国子会社からの国内親会社への分配を好
外国税額(法人税、源泉所得税)を国内税額か
む非税制関連の選好があるかもしれない。この
ら控除するものである。例えば、内国法人の全
場合には、国内送金増税は多国籍企業の投資や
世界所得を100(国内所得60、外国所得40)、国
8)
分配政策に影響を及ぼす(古い見方、
old view)
。
内 と 外 国 の 法 人 税 率 を と も に30% と す る
4.日本の国外所得免除方式の制度設
計上の特徴
(図 表 4)。このとき、外国支店の場合は、外国
税額12を仮の法人税額30から控除して、最終的
な国内法人税額が18になる。
では、日本の国外所得免除方式の制度設計上
一方で、間接外国税額控除は、内国法人の外
の特徴をこれまでの外国税額控除方式及び米国
国子会社が負担した外国税額を、その内国法人
の国外所得免除方式案との比較により明らかに
が納付した外国税額とみなして日本の税額から
しよう。
控除するものである。間接外国税額控除は、海
外での事業活動が必ずしも海外支店の形態をと
⑴ 外国税額控除方式
ることができるとは限らないことを考慮して、
a.基本的な仕組み
支店と子会社を税制上イコールフッティングに
日本の外国税額控除は、米国の外国税額控除
扱うために設けられた措置である。国内親会社
(間接税額控除、一括限度額方式)を参考に
が一定の要件9)を満たす外国子会社(または孫
1962年に改正されて、ほぼ現在の形になった。
会社)から配当等を受け取った場合に、国内で
外国税額控除は、直接外国税額控除と間接外国
課税される国外所得は送金された配当額に外国
税額控除の2つに分けられる。直接外国税額控
税額を加えた額(グロスアップされた額)とし
除は、法人税の場合、内国法人が自ら負担した
て計算され、そこから計算される法人税額から
図表4:外国税額控除
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࿖ౝⷫળ␠
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㪋㪇
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㪋㪇
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㪉㪏
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㪈㪉
㪋㪇
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㪈㪉
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(注)税率は、国内、海外ともに30%とする。
(資料)財務省資料より、みずほ総合研究所が加筆・修正
8) Desai, Foley, and Hines(2001)は、1982∼97年の米国のデータを用いて、送金税率の1%の低下が外国子会社からの配当
を1%高めると推計しており、国内送金税に対する old view を支持している。
9) 持株比率が25%以上で、その保有期間が6ヵ月以上(子会社の場合)。
95
国外所得免除方式をどう考えるか
96
外国税額を控除することができる。図表4の例
る外国税額控除の余裕額(控除限度額>外国税
では、外国税額控除の外国子会社の場合は、国
額控除として、控除限度額−外国税額)に対し
内親会社の全世界所得は表面的には88である
て利用されることを指す。例えば、外国A、外
が、間接外国税額控除ではグロスアップされた
国Bでそれぞれ100の所得が発生するものとし
全世界所得100が用いられる。一方で、外国子
て、A国の税率を40%、B国の税率を20%、自
会社が納めた外国税額12があたかも国内親会社
国の税率を30%とする。このとき、国別限度額
が支払ったかのように扱われ、仮の法人税額30
方式ではA国の所得に関する控除限度額は30、
から控除される。この結果、最終国内税額は直
B国の所得に関する控除限度額は20になり、控
接外国税額控除の場合と同じ18になる。
除限度額の合計は50となる。一方で、一括限度
b.限度額方式
額方式では控除限度額は60
(200×0.3)と計算
外国税額控除制度では、その限度額が「国外
される。これは、A国で発生する所得に対する
所得が全て国内で課税されていたならば生じた
外国税額控除の超過額10
(40−30)が、B国で
であろう税額」に定められる(外国税額控除限
発生する所得に対する外国税額控除の余裕額10
度額=国外所得×国内税率)
。この控除限度額
(30−20)で相殺されることに等しい。「彼此流
の決め方は、大きく分けて国別限度額方式、所
用」の問題点は、「二重課税」を回避するとい
得項目別限度額方式、一括限度額方式の3つが
う外国税額控除の本来の目的を超えて、税額控
ある。国別限度額方式は、国単位で国外所得の
除が認められてしまうことである。日本よりも
控除限度額を計算し、各国ごとに外国税額控除
税率が高い国で発生する所得については日本の
を適用する方式である(フランス、ドイツで採
課税を超える分は本来課税されてしかるべきで
用)。所得項目別限度額方式は、所得項目ごと
あるが、
「彼此流用」が認められると低税率国
に外国税額控除を適用する方式で、例えば利子
について発生する外国税額控除の余裕額によっ
所得の外国税額控除は利子所得に関してのみ適
てこれが相殺されてしまう10)。
用される(英国で採用)
。一括限度額方式は、
「彼此流用」に対する取組みとして、日本で
全ての国外所得を合算して控除限度額を計算す
は88年に外国税額控除の改正が行われ、①非課
る方法であり、日本や米国ではこの方式が採用
税国外所得の2分の1
(現行税制では3分の2)を
されている。
除外、②国外所得に対するシーリング(90%)
一括限度額方式の最大の利点は、手続きが簡
の設定、③50%超の高率外国税額部分の除外の
便であることである。国別限度額方式は数多く
3つの項目が導入された。非課税国外所得に対
の国で活動する企業にとって事務負担が大き
する課税を強化すると同時に、
(当時の)日本
い。一方で、一括限度額方式の欠点としては「彼
の実効税率である50%を超える高率部分につい
此流用」
(cross-crediting)
の問題を指摘できる。
ては「二重課税」の調整の必要がないことから、
「彼此流用」とは、ある所得に関する外国税額
限度額計算における外国税額から外された11)。
控除の超過額(外国税額控除>控除限度額とし
米国では、
「彼此流用」への対応として、一
て、外国税額−控除限度額)が別の所得に関す
括限度額方式の下でバスケット方式が導入され
10) CEN の観点からは、全世界所得課税の下で無制限の外国税額控除が認められることが望ましく、
「彼此流用」はむしろ肯
定される。「彼此流用」は税収確保の観点から問題とされるものであり、
「彼此流用」それ自体の是非については議論がある。
11) 日本の法人実効税率が40%に引き下げられた今となっては、高率部分の基準を50%から40%に引き下げる必要がある。
みずほ総研論集 2009年Ⅲ号
た。米国では、現在(AJCA 以降)一般所得
A 企業が税率10%の国へ、B 企業が税率40%の
(general category income)と受動所得(passive
国へ投資するものとし、米国の税率を35%とす
category income)の2つの所得バスケットが設
る。両企業ともに100ドルの外国所得を得て、
けられている12)。バスケット方式では、外国税
全額を米国に送金するものとする。このとき、
額控除の「彼此流用」は同じ所得バスケット内
基本ケースでは企業 A は外国税額を除いた25
のみで認められ、異なる所得バスケット間では
ドル(35−10)を米国で納める。企業 B は外
認められない。このため、低税率国で可動性の
国税額が40ドルであるため、外国税額控除に
高い受動所得を計上し、それに対する外国税額
よって国内税額はゼロになり、5ドルの外国税
控除の余裕額を高税率国での能動所得に対する
額控除の超過額を持つ。
外国税額控除の超過額と相殺することができな
これに対して、100ドルの外国所得のうち、
いという利点がある。しかし、所得バスケット
親会社が10ドルを配当ではなく、外国で控除可
は所得項目別限度額方式と比べると幅広く設定
能な使用料として受け取る場合は、まず課税外
されているため、実際には相当程度の「彼此流
国所得が90ドルに減少する。企業Aの場合は、
用」が認められている。Grubert(2004)によ
外国税額が10ドルから9ドルに減少するものの、
れば、配当で生じた外国税額控除の超過分が使
国内税額が25ドルから26ドルに上昇するため、
用料に対する課税の相殺に用いられ、その結果
国内外合計の税負担は35のまま変わらない。一
米国では利子・使用料所得の72%は課税されて
方で、企業Bの場合は外国税額が40ドルから36
いないという。
ドルに減少するものの、外国税額控除の限度額
米国における
「彼此流用」
の例を示そう
(図表5)
。
は35ドルのまま変わらないから、企業Bの国内
図表5:米国の外国税額控除の計算例
A 企業
B 企業
基本ケース
①外国所得
②(−)使用料
③課税外国所得
A 企業
B 企業
使用量あり
A 企業
B 企業
利子配賦あり
100
0
100
100
0
100
100
10
90
100
10
90
100
0
100
100
0
100
④外国税額
⑤外国所得に配賦される負債利子
⑥外国税額の上限
⑦外国税額控除(④と⑥の小さい方)
⑧最終の国内税額(35−⑦)
10
0
35
10
25
40
0
35
35
0
9
0
35
9
26
36
0
35
35
0
10
10
31.5
10
25
40
10
31.5
31.5
3.5
⑨国内外の合計税額(④+⑧)
⑩外国税額控除の超過額(④−⑦)
35
0
40
5
35
0
36
1
35
0
43.5
8.5
税率:
低税率国(A 企業の投資先)
10%
高税率国(B 企業の投資先)
40%
米国 35%
(資料)U.S. Despartment of the Treasury
(2007)より、みずほ総合研究所が加筆・修正
12) AJCA 以前は、9つの所得バスケットが設定され、主に非金融能動所得、金融サービス業の所得、受動所得の3つのバスケッ
トに分かれていた。2つの所得バスケットへの集約は、2007年1月以降の実施
97
国外所得免除方式をどう考えるか
税額は依然としてゼロである。企業Bのように
⑵ 国外所得免除方式
十分な外国税額控除の超過額を持つ企業につい
a.日本の国外所得免除方式
(益金不算入制度)
ては、使用料は外国では所得控除され、米国で
では、2009年度税制改正で実現した日本の国
も課税されない。
外所得免除方式(益金不算入制度)の内容をみ
c.費用配賦
てみよう(図表6)。着目点としては、次の3点
最後に、外国税額控除の限度額を決める際の
が挙げられる。
論点の1つとして、費用配賦の問題に触れたい。
第1に、国外所得免除方式の適用対象として
外国税額控除の限度額を決める際の国外所得
何が含まれたかという点である。日本の国外所
は、外国での所得を発生させるために必要とさ
得免除方式ではいくつかの理由により適用対象
れる費用を除いた国外所得である。国外所得を
が限定的なものになった。外国子会社のみが国
得るための国内親会社の費用としては、負債利
外所得免除方式の対象とされ、外国支店はその
子、R&D 経費、その他の一般経費が挙げられる。
対象外とされた。ここで、外国子会社とは、内
外国税額控除の計算でこれら費用の全額を国内
国法人(国内親会社)の持分が25%以上で、そ
親会社の費用とみなせば、国外所得と外国税額
の保有期間が6ヵ月以上の外国法人である。こ
控除の限度額がその分だけ過大に評価される。
の基準は、これまで間接外国税額控除に用いら
具体的な数値例として、負債利子が国外所得
れてきた適用基準と同じである。国外所得免除
に配賦される状況を考えよう(前掲図表5)。
方式が外国支店に適用されないため、直接外国
企業A、企業Bともに課税外国所得は100、外
税額控除は現状のまま存続し、外国子会社に適
国税額は10のままである。一方で、負債利子が
用される間接外国税額控除のみが廃止され
国外所得に10配賦されるため、外国税額控除の
る 13)。
上限は31.5ドル(=90ドル×0.35)に低下する。
国外所得免除方式の適用が外国子会社に限定
企業Aの場合、外国税額が控除限度額に達しな
されたことに関して、同様の提案をした経済産
いため、国内外での納税額はともに基本ケース
業省国際租税小委員会(2008)は、外国支店は
と何ら変わらない。企業Bは、外国税額控除の
「現行制度上、国内法人自体の国外源泉所得と
上限が31.5ドルに低下することから、国内税額
して発生時に課税対象とされているため、海外
が0ドルから3.5ドルに増加する。つまり、国外
蓄積利益の資金還流促進につながらないこと、
所得に対する費用配賦は、外国税額控除の余裕
また、支店利益算定の困難性や PE 帰属利益の
額を持つ企業にとっては意味を持たないもの
扱いに関する OECD の議論が一致をみていな
の、外国税額控除の超過額を持つ企業にとって
い」ことを理由に挙げている。外国支店と外国
は国内税額を変化させる可能性がある。
子会社を税制上イコールフッティングに扱うこ
との必要性は間接外国税額控除導入の経緯から
明らかであるが、今回は国外所得免除方式導入
の目的として海外資金の国内還流が重視された
ことから、そうした効果が期待できない外国支
13) 配当に対する源泉税については、これまで直接外国税額控除の対象とされてきたが、国外所得免除方式では配当に対する
課税が源泉地国によるものに限られ、
「二重課税」の調整が必要なくなることから、直接外国税額控除の対象から外される。
98
みずほ総研論集 2009年Ⅲ号
図表6:日本の国外所得免除制度
2009年度税制改正
配当に対する課税
利子、使用料、キャ
ピタルゲインに対
する課税
費用の配賦
国際租税小委員会(2008)の考え方
・外国子会社から受ける配当等の額につ ・外国支店は、現行制度上、国内法人自
いて、その95%を益金の額に算入しな
体の国外源泉所得として発生時に課税
い。外国子会社は、持株比率25%以上、
対象とされているため、海外蓄積利益
6カ月以上保有。
の資金環流促進につながらない。
・間接外国税額控除制度は廃止。
・海外支店については、これまで通り直
接外国税額控除が適用される。
・利子・使用料は、益金不算入制度の対
象外。
・キャピタルゲインは、益金不算入制度
の対象外。
・利子・使用料は、海外で損金算入され
るため、国内でも課税しないという理
屈は立たない。
・キャピタルロスとの関係、租税回避等
の懸念等から益金不算入制度の対象に
することは難しい。
・益金に算入しない額は配当額の95% ・益金不算入割合は、①受取配当額の一
(費用を5%と固定的に見積もる)。
定割合、②受取配当額から当該配当を
受け取るために生じた費用を除いた
額、のいずれが適当であるか、今後我
が国企業の実態(費用(ex. 負債利子)
が受取配当額のうちどれくらいの額と
なるか等)や実額計算を行うための事
務コスト、費用把握の困難性を十分に
精査し、決定していくことが適当。
(資料)自由民主党「平成21年度税制改正大綱」、経済産業省国際租税小委員会(2008)等より、
みずほ総合研究所作成
店所得への課税免除が見送られたものと思われ
る。
第2に、国外所得免除方式が対象とする所得
と 等 を 鑑 み」
(経 済 産 業 省 国 際 租 税 小 委 員 会
(2008))て、今回は国外所得免除方式の対象外
とされた。
は配当のみで、利子や使用料、キャピタルゲイ
第3に、費用の配賦に関しては、費用を国外
ンは適用除外とされた。利子と使用料は、外国
所得の5%に固定的に見積もり、益金不算入割
の税制で損金算入される所得であるため、国内
合を95%に設定する簡便的な方法が採用され
でも課税しなければ課税の空白ができるとの理
た。この手法は、フランス、ドイツ、イタリア
由により、国外所得免除方式の適用外とされた。
等でみられるものであり、今回はこれら事例を
この点は、課税の論理からみて説得的であり、
参考にしたものと思われる。しかし、経済産業
後述する米国の国外所得免除方式案とも一致す
省国際租税小委員会(2008)は、国外所得の算
る。一方で、キャピタルゲインについては、
「一
出に用いられる費用として「①受取配当額の一
義的には配当と同一という性質を有するが、
定割合、②受取配当額から当該配当を受け取る
キャピタルロスとの関係、租税回避等の懸念や
ために生じた費用を除いた額、のいずれが適当
所得算定の困難性を含めた実務面での煩雑さ、
であるか、今後我が国企業の実態(費用(ex.
株式を売却するまでは課税が繰り延べされるこ
負債利子)が受取配当額のうちどれくらいの額
99
国外所得免除方式をどう考えるか
図表7:米国の国外所得免除方式案
配当に対する課税
利子、使用料、キャ
ピタルゲインに対
する課税
費用の配賦
大統領税制改革諮問委員会(2005)
JCT
(2005)
・外国関連会社(支店、子会社)の能動
所得から支払われる配当は、米国では
課税されない。
・CFC
(被支配外国法人)の株式の10%
以上を保有する内国法人株主に関し
て、当該 CFC の能動所得から支払わ
れる配当は、米国では課税されない。
・ 外 国 支 店 の 所 得 は、 そ れ が ま る で
CFC で発生したかのように扱われる。
・利子・使用料など外国で損金算入され ・利子・使用料など外国で損金算入され
る収益については、米国で課税される。
る収益については、米国で課税される。
・キャピタルゲインは課税免除の対象と ・キャピタルゲインは、未分配の免税所
される(課税免除の割合については検
得に対応する分だけ、課税免除される。
討の余地がある)。
それを超えた部分については課税され
る。
・負債利子・その他の一般経費について
は、免税対象となる国外能動所得を生
み出すために用いられた米国内の費用
は、損金として認められない(現行法
の費用配分ルールを保持)。
・研究開発費は、全て国内所得に配賦さ
れる。
・負債利子・その他の一般経費について
は、免税対象となる国外能動所得を生
み出すために用いられた米国内の費用
は、損金として認められない(現行法
の費用配分ルールを保持)。
・研究開発費についても、国内所得のみ
ならず国外免税所得にも配賦される
(使用料ではなく配当で受け取るイン
センティブを抑制するため)。
(資料)JCT(2005)、米大統領税制改革諮問委員会(2005)ほかより、みずほ総合研究所作成
となるか等)や実額計算を行うための事務コス
(2005)によって具体的な国外所得免除方式案
ト、費用把握の困難性等を十分に精査し、決定
が提案されるなど、国外所得免除方式に関する
していくことが適当」と指摘し、企業ごとに費
議論は多い。ここでは、米大統領税制改革諮問
用を積み上げる方法を今後の課題として挙げた。
委員会(2005)と JCT(2005)案を用いて、米
b.米国の国外所得免除方式案
国の国外所得免除方式の特徴をまとめてみよ
以上の日本の国外所得免除方式の内容は、既
う 14)。
に同方式が導入されている欧州諸国の制度を参
100
米国の国外所得免除方式案の第1の特徴は、
考に、実務面も考慮に入れて決定されたもので
日本の国外所得免除方式よりもその適用対象が
あろう。そうした判断自体には違和感はないが、
広いことである(図表7)。米大統領税制諮問
国外所得免除方式の議論が活発な米国では制度
委員会(2005)案では、国外所得免除方式の適
設計に関してそれとは異なる考え方が提示され
用対象が外国関連会社(foreign affiliates)、す
ており、比較対象として興味深い。米国では、
なわち支店(branches)と被支配外国子会社
特に2000年以降、米国企業の競争力を向上させ
(controlled foreign subsidiaries) の 能 動 所 得
る国際課税の検討が進められ、国外所得免除方
とされている。JCT(2005)案では、免税所得
式導入の議論もその一環として行われた。米大
は持株比率10%以上の CFC の能動所得とされ
統 領 税 制 改 革 諮 問 委 員 会(2005) や 両 院 税
ているが、外国支店の所得についてもそれがま
制委員会(Joint Committee on Taxation, JCT)
るで CFC で発生したかのように扱われ、課税
14) この他の提案及び議論としては、Grubert and Mutti(2001)、Graetz and Oosterhuis(2001)等が挙げられる。また、
JCT(2008)は JCT(2005)の改革案を中心に、大統領税制諮問委員会案との違いにも言及しつつ、米国の国外所得免除
方式案を説明している。
みずほ総研論集 2009年Ⅲ号
が免除される。つまり、米国の国外所得免除方
み上げられる。費用配賦の方法については様々
式案では、いずれの案でも外国子会社と外国支
な議論が行われており、いまだに意見が収斂し
店が税制上イコールフッティングに扱われる。
ていない。米大統領税制諮問委員会(2005)案、
受動所得については、両案ともにこれまで通り、
JCT(2005)案ともに、基本的には資産等の規
外国税額控除が適用される(バスケット方式は
模に応じて費用を配賦する現行制度の継続を主
廃止)。
張している。つまり、課税免除とされる国外所
第2に、利子・使用料のように外国で損金算
入されるものについては、日本の国外所得免除
得を生み出すために用いられた米国内の費用
は、米国内の損金としては認められない。
方式と同様に、国内で完全に課税される。これ
しかし、研究開発費の配賦については、両案
によって、外国税額控除の超過額が利子・使用
で意見が分かれている。米大統領税制諮問委員
料への課税を防ぐ「彼此流用」の問題が解消さ
会(2005)案では、研究開発費は全額国内所得
れる。
に配賦されるものとされ、JCT(2005)案では
一方で、キャピタルゲインは免税所得に含ま
国内所得と国外所得の双方に配賦されるものと
れる。キャピタルゲインの取り扱いについては、
されている。研究開発費が全額国内所得に配賦
米 大 統 領 税 制 諮 問 委 員 会(2005) 案 と JCT
されるべきとの考え方の背景には、研究開発費
(2005)案は認識がやや異なる。米大統領税制
用がすべて国内親会社の受け取る使用料に反映
諮問委員会(2005)案では、原則として国外免
されるとの見方がある。米大統領税制諮問委員
除方式の適用対象とされ、課税免除される割合
会(2005)案では、使用料は完全に課税される
については検討の余地があるとされている。
ため、研究開発費はすべて国内親会社に配賦し
JCT(2005)案では、キャピタルゲインは未分
てもよいとされる。これに対して、JCT(2005)
配の免税所得に対応する部分については課税免
は使用料が現在でも過小申告されている可能性
除され、それを超える部分については課税とさ
があり、国外所得免除方式によって使用料が完
れる。ただし、JCT(2005)は、キャピタルゲ
全に課税される一方で配当が課税免除されれ
インを免税所得の獲得のための資産と非免税所
ば、国内親会社が使用料ではなく配当で収益を
得の獲得のための資産に分割することが現実的
受け取るインセンティブがさらに高まると指摘
に難しいことを認めており、現実にどのような
する。こうした歪みを縮小させるために、研究
運用がなされるかは不明である。しかし、基本
開発費を国外免税所得にも配賦する方法が望ま
的にキャピタルゲインを国外所得免除方式の適
しいとされる。
用対象に含めるという点については両案ともに
このように費用配賦について意見が分かれる
共通しており、この点は日本の国外所得免除方
なかで、最近 Hines(2008)は国内所得と国外
式とは異なる。
所得を生み出すための国内費用はすべて国内所
第3に、国外所得を得るために用いられた国
得に配賦すべきであるとの議論を展開した。彼
内外の共通費用(負債利子、研究開発費、その
の主張は、次のように説明される。国内所得と
他一般経費)については、企業ごとに費用が積
国外所得を生み出すための国内費用
、国内生
101
国外所得免除方式をどう考えるか
産を ( )
、海外生産を
*
( )とし、費用は
ている。彼は、現在国外所得免除方式を採用し
当年の生産に用いられるものとする。国内税率
ている多くの国で益金不算入割合が100%に設
*
をτ、外国税率をτ 、国内の損金算入割合
15)
をα、税引き後収益をπとすれば、
定されていることはこうした理由により正当化
( (
)1−τ*)
+τ
α −
π= ( (
)1−τ)
+ *
されると主張する。Hines(2008)の考え方は、
⑴
米 大 統 領 税 制 諮 問 委 員 会(2005) 案 や JCT
(2005)案のそれとは異なるものであり、また
となり、税引き後収益を最大化する企業は、次
日本の国外所得免除方式における益金不算入割
の式を満たすように行動する(1階の条件)
。
合のあり方にも示唆を与えるものであるため、
(
′ )
(1−τ)+
*
(
′ )
(1−τ*)=1−τα
⑵
今後の議論の進展が注目される。
このように、米国の国外所得免除方式案をみ
ここで、Hines(2008)は、国外所得免除方
ると、①外国支店と外国子会社が税制上イコー
式では政府が国内税引き後所得1ドルと外国税
ルフッティングに扱われること、②課税免除と
引き後所得1ドルを等しく評価することに着目
なる国外所得のなかにキャピタルゲインが含ま
する。国外所得免除方式が所有中立性(Owner-
れること、③国外所得獲得のための費用が企業
ship Neutrality)を目指す政府によって導入さ
ごとに積み上げられることの少なくとも3点に
れたのであれば、国内所得と国外所得に関する
おいて、日本の国外所得免除方式と異なる。米
このような相対評価は妥当であると考えられ
国の国外所得免除方式案には、執行面からみた
る。このとき、政府は⑶式を最大化するような
有効性について疑問符が付けられる部分もあ
税制を選択する。
り、そして何よりも現実に適用されていない改
*
( )
+
( (
) −τ*)
−
−τ
⑶
革案に過ぎない。このため、日本の国外所得免
除方式が米国の国外所得免除方式案よりも劣っ
⑶式における第2項の分母(1−τ)は、国内
ているとは判断できない。しかし、米国の国外
税引き後所得と外国税引き後所得が等しく評価
所得免除方式を巡る議論は幅が広く、今後日本
されることを反映している。1階の条件は、⑷
の国外所得免除方式の見直しが検討される際に
式になる。
は貴重な判断材料を提供するのではないかと思
(
′ )
(1−τ)+
*
(
′ )
(1−τ*)=1−τ
⑷
⑵式と⑷式よりα=1が得られる。つまり、
国内親会社における費用の全額控除が認められ
われる。
5.その他の国際課税改革オプション
以上が、日本の国外所得免除方式の特徴と今
るときに経済厚生が最大になる。Hines(2008)
後の着目点である。最後に、国外所得免除方式
は、国内外の所得を生み出すために用いられた
以外の国際課税改革案を検討しよう。国外所得
費用をすべて国内で損金算入する仕組みが望ま
免除方式は、主に自国企業の競争力向上の観点
しいとの論理は、国外所得免除方式を所有中立
から支持されるものであるが、国際的な租税競
性の観点から導入する論理と同じであると考え
争や多国籍企業による所得移転のような開放経
15) Hines(2008)は、このほか費用の外国における損金算入割合(γ)を考慮に入れているが、これは現実的にはゼロなので
無視した。
102
みずほ総研論集 2009年Ⅲ号
済下の法人税の問題には対応できない。このた
る。第2に、外国税額控除は国外所得に対する「二
め、米国等では経済のグローバル化に対応した
重課税」を緩和するために何らかの形で残るこ
国際課税として、国外所得免除方式とは全く別
とである。完全合算方式では、外国子会社の所
のアプローチによる国際課税改革案が提案され
得が即時に課税されるものの、
「二重課税」に
ている。そうした例として、居住地主義課税の
ついては何らかの方法で調整されなければなら
徹底案(完全合算方式)と仕向地主義の法人税
ず、その際外国税額控除が用いられる。
を検討しよう16)。
JCT(2008)では、完全合算方式の具体案と
して①パススルー課税制度、②全世界連結課税
⑴ 居住地主義課税の徹底
まず、純粋な居住地主義が概念的にはグロー
制度、③拡張サブパート F 制度の3つが挙げら
れている(図表8)。3つの完全合算方式案は、
バル化に対応できる優れた国際課税であること
いずれも国内親会社の持分に応じて外国子会社
を確認しよう。前述のように、開放経済で法人
の所得に対して即時に課税するものであるが、
に対する課税が難しいのは、現実の法人税が源
異なる制度を国際課税の文脈に拡張したもので
泉地主義的な性質を持つことに起因する。多く
あるため、課税スタイルは異なる。
の国では形式的には居住地主義の全世界所得課
まず、パススルー課税制度は現行のパート
税方式が採用されているものの、実際には国外
ナー制度を外国法人に適用したものである。米
所得への課税が繰り延べされ、国外所得が国内
国株主は、外国法人の所得、キャピタルゲイン、
所得よりも軽課されている。これに対して、全
控除、損失について持分が決められ、それに応
世界所得に対して即時に課税する純粋な居住地
じて即時に課税される。外国法人の損失は、株
主義課税が行われる場合には、企業の課税ベー
式の基準価格等の範囲内で米国株主にフロース
スが収益の発生場所に依存しないため、国際的
ルーされる。外国税額控除は維持されるが、米
な租税競争や多国籍企業グループの所得移転の
国株主が持分に応じて直接課税される形になる
問題を回避することができる17)。
ため、間接外国税額控除は廃止される。持分を
このため、米国では開放経済下の法人税が直
決定する方法は、①現在パートナー制度に適用
面する問題への対応策として居住地主義の徹底
されている方法(実質的経済効果ルールを含む
が提唱されており、その具体案は完全合算方式
サブチャプター K の適用)、②外国法人に対す
(full inclusion system)として知られている。
る株主の経済的利益(議決権、収益参加権、残
完全合算方式の改革案の内容には必ずしも定
余財産分配権)に基づくプロラタ方式が提案さ
まったものがあるわけではないが、JCT(2008)
れている。持分が10%未満の株主については、
によれば、次の2つの特徴がある。第1に、
(持
必要な財務情報が得られないため別途ルールが
分が一定基準以上の)外国法人の米国株主が持
設けられる。
分に応じて即時に課税されることである。これ
全世界連結制度は、米国の関連グループを外
によって、国外所得の課税繰り延べが防止され
国法人と連結させることで外国法人の収益に対
16) その他の課税方法として、「域内共通の統合法人課税ベース」
(common consolidated corporate tax base, CCCTB)を設定
して、それを賃金や売上等を説明変数とする定式によって各国に配分する方法(formulary apportionment, FA)がある。
EU では、こうした国際課税方法(CCCTB + FA)の検討が続けられている。
17) ただし、企業が居住国を変えるインセンティブは排除されない。これを排除するには、法人収益が個人株主に帰属するも
のとして、企業段階ではなく、個人段階で居住地に基づく株主課税を行うことが必要である。
103
国外所得免除方式をどう考えるか
して即時に課税するものである。課税の帰結は、
なり、米国株主にフロースルーしない。間接外
パススルー課税制度と似ているが、①外国法人
国税額控除制度は残存し、CFC の持分の10%
の損失が親会社に何ら制限なしでフロースルー
以上を保有する親会社は CFC が支払う外国税
すること、②法人株主のみに適用されること等
額に対して間接外国税額控除を要求することが
の点でパススルー課税制度とは異なる。全世界
できる。CFC と認定される基準は、米国株主
連結制度を適用する持分の基準としては80%、
の持分50%から25%に引き下げられ、サブパー
50%、10%などが候補として挙げられているが、
トFルールの拡張方式の適用基準については持
同制度の適用範囲が広がればその分だけ制度は
分10%が維持される。CFC の持分が10%未満
複雑化する。
及び非 CFC の株主は、現行制度と同じく配当
拡張サブパートF制度は、課税繰り延べを制
限するサブパートFルールの拡張である。外国
の送金時点まで課税が繰り延べされる。
完全合算方式の論点は、主に2つある。第1に、
法人の収益に対する持分に応じて外国法人の収
完全合算方式は国外所得免除方式のように国外
益がみなし配当と捉えられ、米国株主の所得に
所得への課税を免除するのではなく、逆に国外
含められる。能動所得を含めたすべての所得に
所得に対する課税を強化するものであるため、
対する即時課税を目的とすることから、現行制
そのままでは増税になることである。このため、
度におけるサブパートF所得と非サブパートF
自国企業の競争力低下を回避する観点から税率
所得の区別がなくなる。CFC の損失について
の 引 き 下 げ が 必 要 に な る。Grubert and Alt-
は、パススルー課税制度や全世界連結制度と異
shuler(2008)によれば、完全合算方式を採用
図表8:完全合算方式案
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ߩㆡ↪ၮḰߦߟ޿ߡߪ‫ޔ‬ᜬಽ 10㧑߇⛽ᜬߐࠇࠆ‫ޕ‬
(資料)JCT(2008)、増井(2008)より、みずほ総合研究所作成
104
みずほ総研論集 2009年Ⅲ号
する際に税収を一定に保つために必要とされる
の二重課税の問題は発生せず、また国際的な租
税率は28%である。
税競争や所得移転の問題も解消される。
第2に、完全合算方式では外国税額控除が維
仕向地主義の法人税では、輸出が課税されず
持されることから、それに伴う税制上の歪みは
輸入が課税されるが、これを単純に実施しよう
残ることである。外国税額控除の超過額を持つ
とすると(輸入として)外国企業の所得にも課
企業は、超過額を低税率国からの所得と「彼此
税しなければならない。しかし、自国政府の課
流用」するインセンティブを持つ。この問題に
税権は外国にまで及ばない。そこで、仕向地主
対して、外国税額控除の基準を緩め、外国税額
義の法人税の課税ベースが VAT に似ているこ
控除の超過額を縮小させることで「彼此流用」
とに着目して、VAT と同様の手続きによる課
を抑制するように修正するべきだとの意見があ
税方法が提案されている。これは、VAT 型仕
る(Grubert and Altshuler(2008))。彼らは、
向地主義キャッシュフロー法人税(VAT-type
米国の親会社による一般経費(負債利子を含む)
destination-based cash flow tax) と 呼 ば れ て
の国外所得への配賦をゼロにして、控除限度額
いる19)。キャッシュフロー法人税とは、通常の
を大きくすることで外国税額控除の超過額(外
法人税において設備投資の即時償却を認めたも
国税額−控除限度額)を縮小させることを提案
のである。VAT でも資本財購入は全て控除さ
している。こうした措置は正しい所得の計測
れ て い る た め、 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー 法 人 税 と
ルールに反すると考えられるものの、彼らは外
VAT の課税ベースの違いは、課税ベースのな
国税額控除の超過分を最小にする措置として望
かに賃金が入るか否かの違いしかない。
ましいと考えている。しかし、こうした措置に
この点を、図表9で確認しよう。まず、
「所
ついては批判もあり、完全合算方式の下での外
得面=支出面」の恒等式から、⑸式が成り立つ。
国税額控除の限度額の算定方法については明確
⑸式は、消費が賃金(労働所得)と(資本財購
な結論は出ていない。
入を除く)企業収益(資本所得)の合計から純
輸出を除いたものに等しいことを示している。
⑵ 仕向地主義の法人税
法人税を仕向地主義(Destination Principle)
VAT では、(資本財購入を除く)企業の付加
価値(
+ − )が課税される。また、輸出
で賦課する方法も考えられる。具体的な提案と
は課税されず、輸入は課税される(− + )
。
しては、米大統領税制改革諮問委員会(2005)
すなわち、VAT では⑸式の右辺に課税し、そ
の投資・成長税案等が挙げられる。仕向地主義
れが左辺の消費に転嫁されることが想定されて
は、通常は VAT のような間接税に適用される
いる。
もので、製品の原産地ではなく最終消費地を基
次に、国際収支の恒等式から⑹式が成り立ち、
準に課税する方法である18)。日本を含む多くの
⑸式と⑹式から⑺式が成り立つ。⑺式は、消費
国では仕向地主義の VAT が採用されており、
が賃金と国内資本から得られる純所得(投資分
輸出は課税されず、輸入は課税される。全ての
を除く)と海外の国内所有資本から得られる純
国が仕向地主義の法人税を採用すれば、国内外
所得(同)の合計に等しいことを示している。
18) 原産地を基準にした課税は、原産地主義(Origin Principle)課税と呼ばれる。
19) 詳しくは、Devereux and Sorensen(2005)、Auerbach et al.(2007)等を参照されたい。
105
国外所得免除方式をどう考えるか
仕向地主義のキャッシュフロー法人税は、⑺式
の右辺の「
( − )+(
付される。
− )」に課税するも
仕向地主義の法人税の利点は、その生産場所
のである。国内に存在する資本(外国所有資本
がどこであれ、国内市場での売上から生じる収
を含む)から得られる純所得(投資分を除く)
益に対して課税するため、国際的な企業立地に
と海外にある国内所有資本から得られる純所得
影響を及ぼさないことである。また、仕向地主
(同)が国内で消費される限り、課税される。
義の法人税では、輸入が一切控除されず、かつ
⑸式及び⑺式から明らかなように、仕向地主
海外売上から得られる所得が課税ベースに含ま
義のキャッシュフロー法人税の課税ベースは、
れないため、地域別の所得額を操作するインセ
VAT の課税ベースから賃金を除いたものに等
ンティブが生じない。このため、移転価格問題
しい。このため、仕向地主義の VAT の課税方
が解消される。
法を利用することができる。具体的には、課税
逆に、仕向地主義の法人税の問題としては、
ベースから控除されるのは国内中間財のみで、
少なくとも次のような点が挙げられる。第1に、
輸入中間財は控除されない。一方で、輸出から
企業収益から輸出分が控除されるため、製品が
得られる収益は課税免除となる。仕向地主義の
本当に輸出されるか否かを監視する必要があ
VAT と同じように輸出の際に国内中間財に支
る。同様に、輸入による中間財調達は控除され
払った VAT が還付され、また労働コストも還
ず、国内からの中間財調達のみ控除されること
図表9:仕向地主義のキャッシュフロー法人税の課税ベース
٤ ᶖ⾌ࠍ C ‫⾓ޔ‬㊄㧔ഭ௛ᚲᓧ㧕ࠍ W ‫ޔ‬ડᬺ෼⋉㧔⾗ᧄᚲᓧ㧕ࠍ R ‫ޔ‬ᛩ⾗ࠍ I ‫ޔ‬ャ಴ࠍ X ‫ޔ‬ャ
M ߣ ߔ ࠇ ߫ ‫ ޟ ޔ‬ᚲ ᓧ 㕙 㧩ᡰ ಴ 㕙 ‫ ߩ ޠ‬ᕡ ╬ ᑼ ‫ ߜ ࠊ ߥ ߔޔ‬Y ≡W + R ෸ ߮
Y ≡ C + I + X − M ߆ࠄ(5)ᑼ߇ᚑࠅ┙ߟ‫ޕ‬
౉ࠍ
C = W + (R − I ) − X + M
(5) f
٤ ᶏᄖ߆ࠄߩ⚐෼⋉ࠍ R ‫ޔ‬ᶏᄖ߳ߩ⚐ᛩ⾗ࠍ I
f
ߣߔࠇ߫‫ޔ‬࿖㓙෼ᡰߩᕡ╬ᑼ߆ࠄ(6)ᑼ߇ᚑࠅ
┙ߟ‫ޕ‬
( X − M + R f ) + (− I f ) = 0 (6)
٤ (5)ᑼߣ(6)ᑼࠃࠅ‫(ޔ‬7)ᑼ߇ᚑࠅ┙ߟ‫ޕ‬
C = W + ( R − I ) + (R f − I f ) (7)
٤ ઀ะ࿾ਥ⟵ߩࠠࡖ࠶ࠪࡘࡈࡠ࡯ᴺੱ⒢ߪ‫(ޔ‬7)ᑼߩฝㄝ‫ ( ޟ‬R − I ) + ( R
f
− I f ) ‫⺖ߦޠ‬⒢ߔࠆ
߽ߩߢ޽ࠆ‫ޕ‬ห⺖⒢ࡌ࡯ࠬߪ‫ޔ‬VAT ߩ⺖⒢ࡌ࡯ࠬ㧔 C 㧕߆ࠄ⾓㊄㧔 W 㧕ࠍ㒰޿ߚ߽ߩߦ╬ߒ
޿‫ޕ‬
(資料)みずほ総合研究所作成
106
みずほ総研論集 2009年Ⅲ号
から、中間財が本当に輸入ではなく国内から調
達されたものかを監視する必要がある。第2に、
6.おわりに
国内で超過収益が発生した場合に、それが外国
日本の国外所得免除方式導入の背景には、海
人消費者に帰属する場合は課税されないことで
外に滞留している資金を国内に還流させて国内
ある。このため、立地の特殊性から超過収益が
投資を活発化させるとの大きな期待がある。国
発生し、その製品の多くが輸出される場合、税
外所得免除方式導入による国内資金還流の大き
務当局は大きな税収源を失う可能性がある。第
さ、日本企業の競争力や立地選択・税収への影
3に、輸出に対して税制上の優遇措置を与える
響等については不確実性が高いものの、今回の
課税方法が、GATT/WTO 協定において輸出
税制改正によって国外所得免除方式下の企業行
補助金と認定される可能性が高いことである。
動や税収への影響が明らかになれば、その後の
こうした問題は、国際的な枠組みのなかで解決
国際課税改革にとっても大きな収穫となろう。
する必要がある。
一方で、国外所得免除方式は源泉地主義を徹
仕向地主義の法人税は、多くの問題を抱えて
底させる改革であるため、激しい資本移動には
いるものの、経済のグローバル化に対応する改
対応できないという欠点は避けられない。この
革案として概念的な魅力は大きい。将来、資本
ため、今後国際的な租税競争の影響が大きくな
移動が今よりも激しくなれば、国外所得免除方
れば、源泉地主義に基づく国外所得免除方式の
式のような源泉地主義への動きではなく、居住
欠点が顕わになるであろう。幸い、現状の国際
地主義や仕向地主義の国際課税が求められるよ
資本移動は開放経済モデルが想定するほど激し
うになるかもしれない。このため、長期の国際
い動きを示しておらず、それゆえ海外資金の還
課税改革を考える際には国外所得控除方式をよ
流など国外所得免除方式の利点を生かすことが
り幅広い国際課税改革オプションのなかで捉
できる余地がある。その意味で、今回の国外所
え、その利点と欠点を十分に認識しておくこと
得免除方式の導入は若干の制度上の課題が残さ
が大切であろう。
れているものの、当面考えられる現実的な措置
としては望ましいものと考えられる。国外所得
免除方式の導入は、国際課税改革の第一歩が踏
み出されたものとして肯定的に評価できよう。
107
国外所得免除方式をどう考えるか
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