...

英語軽動詞構文に関する考察

by user

on
Category: Documents
155

views

Report

Comments

Transcript

英語軽動詞構文に関する考察
2008 年度
卒業論文
英語軽動詞構文に関する考察
東京外国語大学 外国語学部
欧米第一課程 英語専攻
意味論研究・日英対照ゼミ
6105734
辻 文宏
目次
第1章
序論..................................................................................................... 1
第2章
先行研究紹介....................................................................................... 3
2.1
Jespersen (1942)................................................................................................ 4
2.2
Huddleston (1984)............................................................................................. 8
2.3
Wierzbicka (1988).............................................................................................. 9
2.4
Dixon (1991)..................................................................................................... 11
2.5
Halliday (1994)................................................................................................ 13
2.6
影山 (1996)...................................................................................................... 15
2.7
各研究に対する考察......................................................................................... 17
第3章
軽動詞構文の意味論的特性............................................................... 21
3.1
文型と軽動詞構文............................................................................................. 22
3.1.1
SV 文型と SVO 文型.............................................................................. 22
3.1.2
SVO 文型と SVOO 文型........................................................................ 27
3.2
言語的距離と軽動詞構文.................................................................................. 29
3.3
メタファーと軽動詞構文.................................................................................. 32
3.4
3.3.1
have/ take を用いた文........................................................................... 33
3.3.2
give を用いた文..................................................................................... 36
名詞化と軽動詞構文......................................................................................... 37
i
第4章
他の「動詞+動詞派生名詞」との比較................................................. 39
4.1
have+動詞派生名詞....................................................................................... 40
4.2
take+動詞派生名詞........................................................................................ 42
4.3
give+動詞派生名詞......................................................................................... 43
4.4
その他の動詞+動詞派生名詞.......................................................................... 45
4.5
同族目的語構文............................................................................................... 47
第5章
まとめ............................................................................................... 49
参考文献.......................................................................................................... 51
ii
第1章
序論
「軽動詞(light verb)
」という概念は Jespersen(1942/2007)によって導入され、現
代でも、英語という言語の中で大きな役割を果たしているとして、言語学の入門書や英文
法の記述に登場する。
次の(1b)と(2b)では、軽動詞が用いられている。
(1)
a. He walked in the park.
b. He had a walk in the park.
(2)
a. He decided to go out.
b. He made a decision to go out.
(1a)および(1b)の文と(2a)および(2b)の文を比較すると、(1a)および(2a)では一語の動詞を
用いており、(1b)および(2b)では別の動詞と動詞から派生した名詞を用いて SVO の文で表
しているのがわかる。Jespersen によれば、この構文はその意味内容を目的語に位置する
語(a walk, a decision)に託し、それに先行する動詞(have, make)は格変化、時制など
の文法上の機能を果たす以外はほぼ意味を持たないため、これらを「意味の軽い動詞」
、つ
まり「軽動詞(light verb)」と呼んでいる(Jespersen 1942/2007:117)
。英語が使用され
ている場面を見ると、このように一語の動詞が使用できそうな文脈で、わざわざ「動詞+
動詞派生の名詞」の形を使うことが大変多い。この文構造は近代に入って急激な発展を見
せ、その結果英語はより豊かな表現が可能になったとされている。
それにしても、文法的機能以外に意味を持たないとされたこれらの動詞だが、実際にそ
うだろうか。研究者の間では、この構文の果たす役割を巡って様々な論が提唱されてきた
が、「動詞+動詞派生の名詞」構文に関する研究は現在複雑な状況にあり、Jespersen
(1942/2007)を含む伝統文法学者のように、この構文の統語的・文法的側面ばかりを重視し、
-1-
形は違えどもとの一語動詞とほとんど意味上の差異を持たないとする見解もあれば、
Wierzbicka (1988)のように、一語動詞とこの構文の間に何らかの意味の違いを見出そうと
する意味論的側面を強調する研究もある。その中では構文に用いられる動詞の種類、意味
的特徴を体系的にまとめようとする試みがいくつもなされてきたが、完全な説明がついた
とはまだ言えないのが現状である。なお、研究者によってこの構文の呼称が異なるが、本
論では今現在最も普及していると思われる「軽動詞(light verb)構文」の名称を用いる。
今回軽動詞構文を取り上げたのは、
「言語的距離と概念的距離の対応」について調査を始
めたのがきっかけだった(第 2 章に詳細記述)。軽動詞構文が一語動詞とは意味的に異な
るとしたとき、そこに生まれる新たな文の意味には言語的距離が関連していると思い研究
を進めたが、それ以外の複雑な要素が絡み合っているのが感じられた。また研究者の間で
も軽動詞構文の扱いについて様々な見解が錯綜しているように思われる。
これまで考察を進める中で、軽動詞構文に対する以下の疑問を持つようになった。
1. 軽動詞構文は一語動詞とほぼ同じ意味なのか。同じとしたらなぜこの構文は存在す
るのか。異なるとしたらその差異を生み出す要素とは何か。
2. 軽動詞構文をイディオムの一種と同一視する見解があるが、実際にそうなのか。同
じなら他のイディオムとの相違点は何か。違うなら他のイディオムとの類似点は何
か。
3. 軽動詞と呼ばれる動詞は have, take, give, make, do など数種類あるが、全て同じ使
われ方をするのか。軽動詞の種類によって意味の差異も生まれるのか。
4. 軽動詞の後に来られる可能性のある名詞には様々な形式のもの(一般名詞、接辞付
き動詞派生の名詞、動詞原形)があるが、全てを軽動詞構文に当てはめて論じても
良いのか。そうでないとすれば、最も典型的(プロトタイプ)な軽動詞構文はどの
形の文なのか。プロトタイプと周縁的軽動詞構文の区別を如何にすれば良いのか。
-2-
本論の構成上まず 4 について立場を明確にしたい。この論文で扱うのは様々な軽動詞を含
む文のうち、
「軽動詞+不定冠詞(a/ an)+動詞原形」(今後便宜上「LV a VERB」と記
述する)を中心に扱う。
上に挙げた例文から分かるように、軽動詞といっても、(1b)の have a walk のように全
く接辞のない、原型のままで名詞化した文と、(2b)の make a decision のように派生接辞
を用いた文の 2 種類に大まかに分類することが出来る。従来これら 2 種類の文をあくまで
接辞の有無のみの違いとして、同等に扱う傾向があった。しかしながらこの二つを比べる
と、形式上だけでなく意味機能の面でも両者は異なると思われる。なぜなら接辞なし名詞
(walk (n.))は動詞の原型と全く同じ形であり、そこから基本動詞(walk (v.))の意味を
ほぼそのまま引き継ぐのに対し、接辞を伴う名詞(decision)は形態上の違いにより基本
動詞(decide)とは意味上の違いを持つと考えられるからである。よって、これら 2 種類
の文はどちらも「軽動詞+基本動詞から派生した名詞」の構文であると言えるが、その中
でもはっきりとした区別をされるべきであると思う。
その中で「LV a VERB」を見ていこうとするのは、研究者によって扱いに差がある軽動
詞構文の中で、この形の文は多くの先行研究において軽動詞構文に含められると認められ
ているためである。また上述の言語的距離について論じるならば、元の一語動詞とあまり
形式上及び意味上の変化を伴わない文が望ましいと考えたことも理由の一つである。
これから「LV a VERB」の役割や意味の特殊性を見ていくために、まず現在までの先行
研究を取り上げ、そこから軽動詞構文の持つ問題点を浮き彫りにしたい。その後「LV a
VERB」の持つ意味をいくつかの視点から検証した後、「LV a VERB」以外の軽動詞を使
った文など様々な「動詞+動詞派生名詞」との比較を通じてこの構文と他の構文との差異
的特徴をまとめたいと思う。
第2章
先行研究紹介
前述の通り先行研究におけるこの構文の扱い方は様々だが、大まかに分けて二つの見解
-3-
に分けることが出来る。なお、完全にこの二つの分類にあらゆる研究が当てはまるわけで
はない。文法書によっては、軽動詞を使った文を構文の一種とすら見ず、軽動詞に関する
記述を割愛しているものもある(Greenbaum and Nelson 2002; Hewings 2005)。
さて、軽動詞については大まかに分けて次の二つの見解がある。
1.
軽動詞は(ほとんど)意味を持たない
2.
軽動詞は(微妙ながら)意味を持つ
1 は Jespersen(1942/2007)などの伝統文法学者を始めとする研究者による、軽動詞の統
語的機能面を重視する主張であり、この構文と一語動詞は意味的にあまり差異を持たない
という立場を取っている。2 は Wierzbicka(1988)のように意味論的側面を重視し、一語
動詞と軽動詞構文の意味や働きに微妙ながら違いがあるというものである。
これから取り上げる 6 つの先行研究は、上のどちらかの立場を取りつつ、それぞれ興味
深い視点を提供している。
2.1. Jespersen (1942)
軽動詞(light verb)という名称を使い出した Jespersen は、
「LV a VERB」のうち目的
語に来る「a VERB」が意味内容の大半を担い、それに先行する動詞は意味が軽い(”light”)
と、著作の中で述べている。彼は軽動詞の役割については”an insignificant verb, to which
the marks of person and tense are attached”(Jespersen 1942/2007:117)とのように、人
称や時制など統語的側面にのみ触れている。
Jespersen は著作の中で軽動詞よりも目的語の「a VERB」に焦点を向けており、派生
語の項目の中で接辞が全くない名詞(“sbs derived from and identical in form with a
vb”(Jespersen 1942/2007:117))として、”The Naked Word”という章を当てて論じている。
このタイプの名詞は”the action or an isolated action”(Jespersen 1942/2007:117)の意
-4-
味をもつのが一般的だとしており、さらに軽動詞構文の特徴として、この名詞への変化に
より「修飾が容易になった(”an easy means of adding some descriptive trait”(Jespersen
1942/2007:117))」点が述べられている。
a. We had a delightful bathe.
(3)
b. We had a quiet smoke.
[Jespersen 1942/2007:117]
上の例文は両者とも have a VERB だが、bathe, smoke 直前の形容詞を別のものに変え
たり前置詞句を加えたりすることで、一語動詞を用いるよりも多彩な修飾を加えることが
できる。
彼の研究で注目すべき点として、以下の 3 点が挙げられる。
i. 「a VERB」の拡張された使用例に触れている。
ii. 接辞つきの派生語との比較を試みている。
iii.「修飾が容易」という点について、同族目的語文との類似点に言及している。
i について、軽動詞の例文を挙げる際に、直接その理由を明記してはいないが have を使
った文、give を使った文、その他の動詞の文をそれぞれ別のセクションごとにまとめてい
る(Jespersen 1942/2007:117-118)
。
(have を用いた例)
(4)
I do like to have a good cry.
(5)
He was having ‘a good think.’
(その他の動詞を用いた例)
-5-
(6)
How about taking a sneak?
(7)
She thought she must make one more try.
(8)
‘We must do a creep,’ she said.
(give を用いた例)
(9)
(10)
She gave a little shiver.
She had given him a bad scare.
彼は have と give をその他の動詞から区別したのは、この二つが特に軽動詞として使われ
る頻度が高いためだと記述しており、特に have、give の動詞そのものが持つ特徴などに
注目したとは書かれていない。また例文の中でも(7)のように不定冠詞を使わない例を混ぜ
ており、軽動詞と「a VERB」との関係をあまり重視していないのが伺える。
ii については「LV a VERB」以外の形で”Naked Words”が使われている例を取り上げて
いる。
(11)
to give each other the cut
(12)
to receive their final acclaim
(13)
explaining away that shake of the head
(14)
It was a near guess, a close shave.
(15)
There was a quiver about the month.
(16)
“Did you enjoy the bathe?”
(11)から(13)は不定冠詞ではなく定冠詞、代名詞所有格、指示形容詞が付加されている例で
ある。また(14)と(15)に至っては目的語ですらなく、補語や主語としてこの名詞が使われ
ている例を取り上げている。
-6-
Jespersen はさらに同じ動詞から派生した接辞(主に接尾辞)のある名詞と比較をし、
多くの場合で意味に違いがあると指摘している(Jespersen 1942/2007:119)。
a. invite: 口語的な意味合いを持つ。
invitation: 一般的に使われる。
b. laugh: 一回の動作として扱われる(”a single burst of laughter”)
。
laughter: 集合名詞として扱われる。
c. exhibit: 「展示されるもの」の意。
exhibition: 「展示する場」の意。
a のように微妙なコンテクストの違いがあるもの、b のように統語面にまで影響を及ぼす
違いがあるもの、c のように全く別の意味を持つものなどいくつかの場合がある。
iii について、
「a VERB」の形によって修飾がより多彩になったということはすでに上述
したが、Jespersen は同じ形の文として同族目的語構文に触れている。
(17)
a. I had a good fight.
b. I fought a good fight.
[Jespersen 1942/2007:118]
同族目的語構文は本来自動詞であるはずの動詞が同じ動詞から派生した名詞を目的語に取
る文であり、通常、(17)の例や dream a horrible dream など、動詞と同形の目的語の前に
修飾語を置いて限定し、特殊性を表す。また、修飾語が付かなくても、run a race、run a
marathon など、動詞が表す活動の特殊な事例であれば単独で目的語になることができる
(Berk 1999:33)
。
しかし、一方では、動詞 run と同形の同族目的語 run は許容されない。同様に live など
も動詞と同形の名詞が許容されず、live a wonderful life などとする。
-7-
このような違いが存在することから完全に軽動詞構文と同族目的語構文を同じ形として
分類できるかは疑問が残る。しかしどちらも SV 文型で表せる文を SVO 文型で表現してい
るという点で共通しているため、その意味、機能を比較・検証してみる価値はあると思わ
れる。なお、同族目的語については本論文 4.5 で取り上げる。
2.2. Huddleston (1984)
Huddleston(1984)は軽動詞構文という概念については触れておらず、その代わり他
動詞と目的語の意味役割を扱う中で、目的語の意味役割は常に patient であるわけではな
いという主張を行うために、以下の 4 つの文を挙げている。
(18)
a. She painted a picture.
b. I heard an explosion.
c. It jumped the fence.
d. He gave a shout.
[Huddleston 1984:191]
それぞれの文の目的語の意味役割として、a は動作の結果(“a result of the action”)、b は
感覚の刺激(“stimulus for some sensory perception”)、c は動作の範囲(“the ’range’ of the
action”)という表現を当てている。そして d の文の目的語は、a と同様動作の結果生まれた
ものとしているが、この文は He shouted のように一語動詞でも表せるということで a と
は区別している。
彼は動詞と名詞句の組み合わせが一語動詞に置き換えられる例として、take a rest
(rest)、make a reply (reply)、take place (occur)を挙げている。take place は本稿で扱う
「LV a VERB」には当てはまらず、Huddleston 自身も明記しているように、むしろイデ
ィオムの一種ととらえられるべきである。このことから彼は「LV a VERB」と他のイディ
オム表現の間にはっきりとした区別を設けていないことがわかる。
-8-
2.3. Wierzbicka (1988)
Wierzbicka はこの構文を扱う研究者の中でも特殊な立場にいるだろう。彼女は have を
使った軽動詞構文(彼女は「軽動詞」という用語を一切用いていない)のみを取り上げ、
目的語に来る動詞の意味タイプに応じて 10 種類のグループに分類している。そこからそ
れぞれの意味要素を細かく抽出することによって、この形式の文が共通して持つ意味を理
論的に探ろうとしている。Wierzbicka(1988)によれば、この形の文が持つ意味論的規則
は曖昧ながらも、無意識の域において話者がこの構文を使うよう導いている(guiding
speakers in their usage)という。以下の例文のように、文法的には全く問題がない文で
も英語母語話者が違和感を持つのは、この無意識レベルの規則によるものである。
(22)
John had a lick of Mary’s ice cream.
(23)
?Fido had a lick of his master’s hand.
[Wierzbicka 1988:294]
Wierzbicka の研究で特徴的なのは以下の点であろう。
i. この構文は動詞と目的語別々に検証すべきではなく、文全体で持つ意味が重要である
ととらえている。そこから「NP have a V-INF」をひとつの意味単位としている。
ii. have を用いた他の形式の「迂言(periphrastic)
」構文と、
「have a V-INF」ははっ
きり別のものと区別している。以下の形式は前者のカテゴリーに属するとし、彼女の
研究の中では扱っていない。
(ア) 派生名詞を目的語に持つ(smile、cough など動詞と名詞が同形の場合も含む)
(イ) 目的語が形容詞によって修飾されている
(ウ) 文の主語と V-INF の主語が一致しない(have a visit from John, etc.)
-9-
(エ) イディオム的表現(have a go, etc.)
一方、後者の「NP have a VERB」の構文については、大まかに以下の意味が表される
としている。
1. 短時間かつ反復可能な動作である
2. 外部への働きかけを含意せず、動作主自身に「快さ」をもたらす行為である
上に挙げた Fido had a lick of his master’s hand が適切でないのは、特徴 2 と合致しない
ためであろう。
Wierzbicka はこの構文を「NP have NP」にまで抽象化し、その本質的意味について論
を展開している。
(24)
a. John has blue eyes.
b. John’s eyes are blue.
[Wierzbicka 1988:346]
(24a)と(24b)は「ジョンの目は青い」という同じ事実を指示している。しかし両者を比較
すると、a の文は主語と目的語によって項(argument)を 2 つ表示しているのに対し、b
の文の項は主語のみであり、a の主語である John は b の文では所有格として eyes にかか
っている形となっている。彼女はここから have を使うことによって b のように SVO 文型
以外の文の主語を目的語へと降格させ、a のように別の主語に焦点を当てる効果をもたら
すことが出来ると述べている。
「NP have a VERB」でも同様のことが言える。
(25)
a. John kicked the ball.
- 10 -
b. John had a kick of the ball.
[Wierzbicka 1988:346]
a は「ボールを蹴るジョン」と「ジョンによって蹴られるボール」の両者に対して話者の
視点が向けられているが、b は have を使うことによって、元来の目的語である the ball
の焦点は薄れ(de-emphasized)
、結果として主語により焦点が向くようになる。このよう
に、この構文での have は、動作の他動性を弱まらせる働き(detransitivize)を持つとい
うことを彼女は論じている。
2.4. Dixon (1991)
Dixon(1991)はこの構文を「迂言構文(the periphrastic construction)」と表現し、
扱う軽動詞を have, take, give の 3 種類に限定している。Wierzbicka と同様に、目的語と
動詞を切り離すのではなく、それぞれ「have a VERB」「take a VERB」「give a VERB」
とひとかたまりの述部とみなしているが、彼はこの構文に当てはまる文の統語的条件を以
下のように提示している。例を参照しながら要約する。
(26)
John climbed easily up the rocks.
(27)
John had an easy climb up the rocks.
[Dixon 1991:341]
1. 一語動詞の文と主語を同じくする。
2. 一語動詞の文で動詞を修飾していた副詞はそれに対応する形の形容詞となり目的語
を修飾する。
3. その他の修飾語句は形も位置も変えない。
2 について Dixon は全く形が一致しない場合も一語動詞との対応関係があれば許容できる
としている。
- 11 -
(28)
a. She looked again at the ring.
b. She had another look at the ring.
(29)
a. I walked for a long distance.
b I walked for a long while.
c. I had a long walk.
[Dixon 1991:341]
この構文の意味について、彼は一語動詞の文と根本的には同じ(essentially the same
meaning)としていながら、Wierzbicka のようにこの形式の文によって生まれる意味を、
「have a VERB」
「take a VERB」
「give a VERB」それぞれ別々にまとめている。
Have a VERB
1.
主語が意志を持って行う
2.
楽しみ、または安らぎを求めてその活動に耽る
3.
主語の気まぐれによって短時間の間に行われる(特定の目的達成を意図しない)
Take a VERB
ほぼ Have a VERB と同じ使われ方をする。さらに場合によっては、
1.
しばしば前もって主語によって意図される
2.
身体的な運動を伴う
3.
しばしば継続的動作の一区切り分を伴う
Give a VERB
1.
主語が意志を持って行う
2.
間接目的語を伴うときはその対象に何らかの影響を与えている
- 12 -
3.
主語の気まぐれによって短時間の間に行われる、または継続的動作の一区切り分を
伴う
Dixon(1991)はこの形式の文の中で a VERB に来られる動詞の判別について、Sapir
(1949)が恣意的(arbitrary)と評したことに対して異論を述べている(Dixon 1991:337)
。
彼は約 700 の動詞について検証し、そのうち 4 分の 1 がこの構文での使用が可能であると
発見した。このようにこの軽動詞構文(または迂言構文)で使える動詞と使えない動詞が
存在するということは、この構文の中に一定の規則が存在し、動詞の意味が構文の意味と
調和するときにこの構文で使うことができる、と述べている。
2.5. Halliday (1994)
Halliday はこの構文における目的語の意味役割について論じている。彼は以下の文の目
的語は全て、動作を受ける対象としての”Goal”ではなく、”Range”としての意味役割を持
つとしている。
(30)
Mary climbed the mountain.
(31)
John played the game.
(32)
They gave a smile.
[Halliday 1994:146-47]
Halliday は意味役割”Range”を次の2種類に分類している。
1. 動作の起こる範囲(domain)
2. 行われる動作そのもの(process)
(30)の the mountain はこの定義によれば 1 に当たり、(31)および(32)は 2 にあたる。
- 13 -
目的語が“Range”の役割を持つ文は、”Goal”の文と異なり、動作による直接的な影響を
持たないため、参与者(participant)は主語のみとしており、その結果文法的に do to や
do with による書き換えが不可能だとしている。
(30)
Mary climbed the mountain.
(33)
*What Mary did to the mountain was to climb it.
[Halliday 1994:146-47]
また、Halliday は特に 2 の process の Range を意味役割とする目的語に注目し、game
が act of playing、smile が act of smiling のように目的語自体が動作の意味を含む以上、
これらの文は John played や They smiled のように一語動詞で置き換えることもできると
している。それにもかかわらずこの形の文が存在するのは、play five good games of tennis
や give her a welcoming smile のように、名詞を使うことによって多彩な修飾が可能にな
るためだと主張している。
このように一語動詞で表現できる文をわざわざ語数を費やした文にすることから、彼は
このタイプの表現を「ひねった(incongruent)
」文と称している。彼はいくつかの「ひね
った文」と「率直な(congruent)文」を対比し、前者がいかに現在の英語において有用
性を持っているかについて述べている。下に挙げる文は a が incongruent、b が congruent
な表現である(Halliday 1994:346-348)
。
(34)
a. They did a Hungarian dance.
b. They danced in Hungarian style.
(35)
a. She has brown eyes.
b.
(36)
Her eyes are brown.
a. The fifth day saw them at the summit.
b. They arrived at the summit on the fifth day.
- 14 -
このように、名詞化によって元々参与者がひとつしかない文をあたかも二つの参与者をも
つ文のように表現する形を、彼は一種の「文法的メタファー」としている(Halliday
1994:342)
。
2.6. 影山 (1996)
影山(1996)の研究は日英対照に焦点が置かれており、軽動詞構文と日本語における「ひ
と∼する」の関連についてまとめているが、その中でも英語の軽動詞構文について様々な
考察を述べている。
影山はまず動詞の概念構造を「状態(BE タイプ)
」
「瞬時的位置・状態変化(BECOME
タイプ)」「継続的移動・変化(MOVE タイプ)」「継続的活動(ACT タイプ)」「使役
(CONTROL タイプ)
」に分類し、前述の Wierzbicka (1988)と Dixon (1991)からのデー
タを元に、軽動詞とそのあとに続く a VERB の関連性について研究している。
彼はまず have a VERB の文についてまとめている。
(37)
a. have a laugh/ walk/ think/ talk
b. have a bite (of the cake)/ ride of your bike/ kick of his football
c. *have an arrive at the gate, *have a know of the solution, *have a build of
a new house
[影山 1996:78-79]
a のグループは ACT タイプを表す動詞のうち一項動詞、b のグループは二項動詞の集まり
である(影山は特に後者を ACT ON タイプと名づけている)
。よって、have a VERB には
ACT タイプであれば一項動詞(自動詞)
、二項動詞(他動詞)の両方が使用可能であると
述べている。さらに c のグループは BECOME, BE タイプの動詞であり、これらは have a
VERB と共起しないとしている。
- 15 -
しかし、次に彼は Dixon の例文を引用して、have a VERB に当てはまるか否かを判断
するには単純な動詞の分類だけでは不十分としている。
(38)
a. That child had a roll down the grassy bank.
b. *That stone had a roll down the grassy bank.
(38)’
a. 子どもが(床の上を)ひと転がりする。
b. *石が(坂の上を)ひと転がりする。
[影山 1996:80]
Wierzbicka(1988)や Dixon(1991)が指摘するように、have a VERB は意志によって
コントロールされた行為を示唆するため、b のように主語が無生物を取ることは難しい。
影山はこの点を上記の動詞の概念構造タイプに当てはめて論じている。have a VERB は本
来 ACT タイプと共起するが、ここでは MOVE タイプの動詞と連結している。これは主語
が意志を持って動作を行う存在であるため、継続的移動を持続させる継続的活動としての
側面を含意するためであるという。そのため主語が無生物では ACT タイプの動詞とはい
えないため不自然な文となってしまう。(38)’を見てもわかるように、このことは日本語で
も類似しているという。
彼は同様に give を使った軽動詞構文について考察を続けている。
(39)
give NP a kick/ a push/ a lick
(40)
give NP a smile/ a frown/ a look
[影山 1996:80-81]
間接目的語を取る場合、a VERB に来られるのは(39)における kick など他動詞に限定され
るわけではなく、(40)の smile のように自動詞を使うこともありうる。自動詞でも、smile/
frown/ look at NP のように、意味的に他者に対して何らかの合図を送ることを想定する場
- 16 -
合は give NP a VERB に当てはまるのである。どちらの場合でも、この形の文で使われる
動詞は ACT タイプである。
(41)
give a cry/ laugh/ shout/ sigh
[影山 1996:82]
have a cry がある程度の時間幅を持つ継続的動作であるのに対し、give a cry は反射的
な生理的動作であるという。従って影山はこの形の文で使われる動詞は ACT タイプのカ
テゴリーではなく「EXPERIENCE(生理的変化を体験する)
」タイプに当てはまるとして
いる。このように give NP a VERB と give a VERB に異なる意味を当てているのが彼の
研究の特徴といえるだろう。
2.7. 各研究に対する考察
ここまで見てきた 6 つの研究を第 2 章の冒頭の分類に当てはめると、Jespersen,
Huddleston, Halliday の 3 者が 軽動詞に 対して 意味の差 異を求 めておら ず、一 方
Wierzbicka, Dixon, 影山の 3 者が逆に軽動詞には意味があるとし、軽動詞構文は一語動詞
の意味に新たな意味が加わった別の構文としている。
特に前者のように軽動詞に意味はないとしているグループは、
「LV a VERB」と他の形
式の文をまとめて論じている傾向にある。
Jespersen は、あくまで派生名詞に注目しているため、第 2 章 2.1 でも述べたとおり、
一語動詞と同じ形の名詞を用いつつ、「LV a VERB」とはまた異なる形の文を例の中に混
ぜている。細かく述べるとすれば、
1. 不定冠詞以外の修飾語句を用いる:
She thought she must make one more try.
to give each other the cut
- 17 -
2. (動詞に続く)目的語以外として「a VERB」を用いる
It was a near guess, a close shave.
There was a quiver about the month.
の 2 種類に分けられると思われる。さらに興味深い点として、軽動詞構文と同族目的語構
文の平行性についても言及しているということを述べた。
しかし、このように「LV a VERB」文を上の1及び2、さらに同族目的語の文とひとま
とめに論じてしまって良いのか。動詞と同形の名詞が生起することから単純に目的語の修
飾が容易になるという点ではどれも類似した機能を持ちうるが、一方では相違点も多い。
「LV a VERB」について論じるには、上の 1 及び 2 の形式の文、及び同族目的語の文と比
較して検証する必要がある。本論文第 4 章でこれらの文との比較を取り上げたいと思う。
次に Huddleston について言うと、軽動詞構文は一語動詞と書き換え可能だとして、イ
ディオムに近い文と見ている。しかしこの観点から軽動詞構文とイディオムをまとめて論
じると不具合が出てくる。
(42)
a. He shouted at the children.
b. He gave a shout at the children.
(43)
a. The explosion occurred at 11:00 p.m.
b. ? The explosion took place at 11:00 p.m.
(42a)と(42b)は軽動詞構文と一語動詞の比較であり、一方(43a)と(43b)は一語動詞とそれ
に意味の近い連語の比較である。この二つを同様に一語動詞へと置き換え可能なイディオ
ムととらえることは、以下の理由によって適切ではないといえる。
1. 軽動詞構文は目的語に動詞派生の名詞を置いているのに対し、連語は一語動
- 18 -
詞 occur の派生語 occurrence ではなく place という語を利用している。
2. 軽動詞構文と比べて、連語 take place と一語動詞 occur がそれぞれ使われる
コンテクストの差異は大きい。
1 の特徴について、連語は take 一語でも place 一語でも occur という意味は引き出すこ
とが出来ず、二つが合わさって新しい意味が生まれることから、ここにおける take はあ
る程度意味を持つとするのが正しいだろう。それゆえ意味的負荷の少ない軽動詞 take と
はまた別だといえる。 また 2 の特徴について、take place は事前に計画された出来事に
ついて述べることが多く、(43a)のように事件・事故が「起きる」という場合には望ましく
ない。これらの特徴を鑑みると、軽動詞構文とその他のイディオムは明確な区別をすべき
だろう。
Halliday は、この構文を名詞化という広い視点で捉えている。その点では Jespersen の
研究と共通しているが、彼はさらに a VERB に”Range”という意味役割を与えた。軽動詞
構文の目的語が動詞のプロセスを表すというのは、影山が述べるように目的語に継続的活
動を表す動詞を取りやすいという点と整合するように見える。また、この構文に名詞化と
いう文法的メタファーという視点を取り入れたのは大変興味深いが、それによって修飾が
容易になったということしか述べておらず、名詞化とメタファーの関連が曖昧になってい
るように思う。それよりもここで注目すべきなのは名詞化による文型の変化ではないだろ
うか。
(44)
a. They had a Hungarian dance.
b. They danced in Hungarian style.
この例は SV 文型と SVO 文型の対比だが、この二つの文が全く同じ事実を指し示すのかど
うかは検証の余地があると思われる。次の章でより詳しく取り上げたいと思う。
- 19 -
これらのように統語面を重視する研究では、以下のように説明が不足する部分がある。
(45)
a. They took a nap in the room.
b. *They took a nap in the room for an hour.
(46)
a. That child had a roll down the grassy bank.
b. *That stone had a roll down the grassy bank.
前述の先行研究のみの視点では(45b)や(46b)が非文となる理由はわからない。for an hour
のような修飾語句や child と stone など主語にくる語句が文全体の整合性にどう影響を及
ぼすかについて示唆がほとんどなされていないためである。だが Wierzbicka などの意味
論重視傾向の研究ではそれぞれ軽動詞の「短時間の動作:ほんのちょっとした行為」
「意図
的な動作:意志をもった主語」という特徴に反するという理由で、上の文は成立しないと
いえる。
ここからは、軽動詞構文の持つ意味について注目している Wierzbicka、Dixon、影山に
ついて論じる。まず、Wierzbicka と Dixon の両者に共通して、研究対象とする文の形を
厳密に規定しているという特徴が見える。軽動詞の種類だけでなく、修飾語句についてか
なりの限定を加えているが、これは類似した形の文を排除することで文の形式と意味の対
応を明確にしようとしているのだろう。Wierzbicka に至っては have a VERB の形式に強
くこだわり、形容詞による修飾も認めないなどかなり厳しい制限を加えているが、それだ
けこの構文は特殊なものと考えているように見える。
彼らは多くの例文を元に全体的な構文の傾向を求めているため、理論的根拠に乏しいの
が難点である。軽動詞構文を用いることによって新たな意味が生まれることが事実だとし
ても、その意味を引き出す要素がなにであるのかを深く追求しきれていないように思われ
る。たとえば影山(1996)は、have a VERB の a VERB は継続的活動を意味する動詞を
- 20 -
取りやすいと述べているが、その理由はなぜかもう少し詳しく検証を加えたほうが良いの
かもしれない。
形式を厳密に規定していると述べたが、注目したいのは、彼らはターゲットとする構文
を一切「軽動詞構文」と表現していない点である。彼らが研究対象としたのは「軽動詞構
文」の中でも非常に限定された範囲であると認識しているためなのかもしれないが、形が
類似した他の文との関連についてももう少し言及が必要なように思われる。たとえば不定
冠詞以外が使われていると、「LV a VERB」の持つ意味が全く失われてしまうか、それと
もコアの部分で共通する意味を残しているのか、この点について考察を加えることは有意
義だと考えられる。
次の章ではまず「LV a VERB」の特徴について、本論文独自にいくつかの視点から探り
たいと思う。
第3章
軽動詞構文の意味論的特性
ここまでで先行研究における軽動詞構文の扱いに差があることをまとめた。本論文では
Wierzbicka や Dixon の研究に基づいて、軽動詞の意味論的機能を重視した立場を取りた
いと思う。しかしながら彼らは軽動詞構文の例文をコーパス的に検討しつつ、英語母語話
者としての直観を元にこの構文が表しうる意味を見出そうとしており、いささか理論的論
拠が不足しているように見えるのも事実である。池上(1975)も著書の中で、Wierzbicka
の研究に対する批判を以下のように述べている。
ただ漠然と直感というだけでは、極めて主観的な規定になってしまう危険がある。
Wierzbicka(1972)にはそのような傾向が強い。
(池上 1975:143)
よって本論文は軽動詞構文の持つ付加的意味を以下のように複数の視点から分析したい
と思う。
- 21 -
1. 文型の転換に伴う意味の変化
2. 言語的距離の変化に伴う概念的距離の変化
3. メタファーによる意味拡張
4. 動詞の名詞化による意味の変化
軽動詞には様々な種類が存在するが、本論文では Dixon を参考に、have, take, give を
用いた文を中心に検証を進める。
3.1. 文型と軽動詞構文
軽動詞を用いることで起こる文型の変化が軽動詞構文の意味に関係する可能性があると
いうのは度々述べてきたことである。文型について考える際にまず注意したいのは、文の
参与者とその参与者の持つ意味役割である。ここでは文の要素が軽動詞構文の中ではどう
機能しているのか検証したい。具体的には She walked から She took a walk へといった
SV(A)文型から SVO(A)文型への転換、そして She kissed him から She gave him a
kiss といった SVO 文型から SVOO 文型への転換について見ていきたいと思う。
3.1.1. SV 文型と SVO 文型
まず SVO 文型とはどのような特徴を有するか、Lakoff & Johnson(1980)を元にまと
める。典型的な SVO 文型は、
(1) 主語の意味役割は Agent、目的語の意味役割は Patient
(2) Agent の動作によって Patient は何らかの影響を被る
(3) Agent は意図を持ってその動作を行う
- 22 -
といった特徴を持つ。これらの特徴は、SVO 文型が持つ「因果関係」という構文全体の意
味と密接に関連している。Agent の動作が要因となって何らかの結果が生み出されるとい
うことである。このように SVO 文型が因果関係を表すという考えは現代の英語学研究に
おいて広く受け入れられており、本論文でも作業仮説として採用するものである。
ここでいくつか SVO 文型の例を挙げる。
(47)
a. She killed her ex-boyfriend.
b. My aunt made a pie.
c. This book costs $50.
(47a)は(1)から(3)の特徴全てに当てはまるため、典型的な SVO 文型といえる。(47b)も同
じように典型的な文のように見えるが、目的語の a pie は主語 My aunt の動作によって新
しく生み出されたものであり、Patient としての意味役割は当てはまらないとして、Berk
(1999)は Created という別の意味役割を当てている。この文は get 受動態にならないな
ど統語的な制約がある点でも典型的な SVO 文型とは異なる。(47c)の文は SVO 文型であり
ながら受動態、命令文、進行相と生産的に用いることができず、周縁的な SVO 文とされ
る。意味の上でもこの文は「因果関係」を示す要素に欠けている。
それでは軽動詞構文は SVO 文型の中でどのような位置づけをされるだろうか。まず他
の SVO 文型と比較を容易にするために、軽動詞構文における文の参与者と意味役割を明
確にしておきたいと思う。以下の例文を見てみる。
(48)
a. Asher walked.
b. Asher had/took a walk.
Berk(1999)を参考にすると、(48a)の文は SV 文型であり、そこでの参与者は主語であ
- 23 -
る Asher のみであり、その意味役割は walk という動作を行う Agent であることは比較的
明白であると思う。続いて軽動詞によって SVO 文型となった(48b)の文について考えてみ
ると、もしこの二つの文が特に大きな意味的差異を持たないとするなら、(48a)と(48b)の
文は文の参与者もその意味役割もほとんど変わらないことになる。つまり(48b)の文におい
ても参与者は Asher のみで、その意味役割は Agent である。しかし、Wierzbicka や Dixon
の研究によれば、(48b)のような文は、主語すなわち動作主が動作を通じて「快さ」を経験
することを含意するという。これに基づけば(48b)の文の主語 Asher は Agent かつ
Experiencer の意味役割を持つことになるだろう。
続いて目的語 a walk の意味役割について検証を進める。前述の Huddleston(1984)や
Halliday(1994)は軽動詞構文の目的語に位置する a VERB にも何らかの意味役割を与え
ようと試みており、それぞれ give a VERB を例文にとって、
「動作の結果("a result of the
action”)」や”Range”という異なる意味役割を提示している。一方 Berk(1999)は目的語
に位置する a walk について特定の意味役割を見出しておらず、軽動詞構文をその他の
SVO 文型と分けて論じている。
軽動詞構文の目的語の意味役割について明確な規定がない理由について、本来動詞とし
て機能する語を目的語として用いているため、その意味役割を求めようとすることが困難
だということが考えられる。しかし SVO 文型の中での軽動詞構文の位置づけを考えるた
めに、a VERB が持つ意味役割を求めることは決して無益なことではないと思われる。な
お、Huddleston や Halliday の提示した意味役割では軽動詞構文全体をカバーできない可
能性がある。その点を考慮して、両者とは別の視点で改めて検討したいと思う。
ここで改めて 2 種類の文を挙げる。(49a)は(48b)と同じ文である。
(49)
a. Asher had/ took a walk.
b. Asher gave a shout.
- 24 -
まず主語について確認すると、a の文については上述の通り Asher は Agent かつ
Experiencer の意味役割を持つ。b の文については、Dixon の研究を参考にすると have a
VERB や take a VERB とは異なり、主語が「快さ」を経験することを含意しておらず、
よって b の文の主語の意味役割は Agent のみである。
続いて目的語 a walk と a shout の意味役割を検証する。どちらも Agent である主語か
ら何らかの影響を受けていないことは明らかであり、Patient として機能していないこと
は明白だろう。しかし a の文では、主語が Experiencer であるため、その経験を喚起する
Stimulus としての意味役割を持つといえる。a walk という行動が要因となって、主語の
中に「快さ」という感覚を引き起こすのである。
一方の a shout は、主語が Experiencer ではないため Stimulus の意味役割は当てはま
らない。ここで一度 The Oxford English Dictionary を参照すると、give の意味の一つに、
(Without indirect object.) To make, esp. suddenly (some bodily movement or gesture);
to put forth, emit (a cry, a sound, a sigh, etc.)
[OED]
と述べられている。つまり間接目的語を伴わない give a VERB は、何らかの身体的動作を
「生み出す」という意味になる。これは前述の My aunt made a pie の文と同様、目的語
が Result の意味を持つ文の一種だといえるだろう。この点で Huddleston の考えは整合性
を持つといえる。
ここで SVO 文型となる軽動詞構文についてまとめると、以下のようになる。
have/ take a VERB: 主語は Agent かつ Experiencer、目的語は Stimulus
give a VERB: 主語は Agent、目的語は Result
ここで改めて一語動詞を用いた SV 文型が軽動詞を用いる SVO 文型となることで、どの
- 25 -
ような意味的差異が生まれるか検討してみる。軽動詞構文は主語の意味役割が Agent であ
ることが確認済みであるため、The book costs $50 のような文よりも典型に近いといえる。
上述の通り典型的な SVO 文型は「因果関係」を表現し、Agent である主語の動作が何ら
かの結果を引き起こすことを含意するため、Asher walked ではなく Asher had a walk と
表したとき、
そこでより重要となるのは Asher という Agent が引き起こす結果であるので
はないか。細かく述べるとすれば、have/ take a VERB が引き出す結果は Agent が経験す
る「快さ」であり、give a VERB が引き出す結果は主語の動作によって作り出された shout
や cry などといった生産物であるといえる。
また SVO 文型となったために主語の Agent 性がより強調されているように思われる。
つまり、SVO 文型の「Agent は意図を持ってその動作を行う」という特徴が部分的に影響
して、一語動詞の文と異なり軽動詞構文、特に have/ take a VERB は有情のもの以外を主
語に取れないということも考えられる。既出の例を再度ここで引用する。
(38)
a. That child had a roll down the grassy bank.
b. *That stone had a roll down the grassy bank.
しかし、次の(50b)のような典型的 SVO 文型も無生物主語を取れることを考慮すると、文
型の意味のみで軽動詞構文が有情のものを主語にする必要があるという特徴を説明できる
ものではない。
(50)
a. She killed her ex-boyfriend.
b. The car accident killed her ex-boyfriend.
むしろ軽動詞構文は SVO 文型の中でも主語の有情性に特化した、有標な構文であると言
える。よって「LV a VERB」の主語が無生物を許容しない点については、文型以外のアプ
- 26 -
ローチも必要だと思われる(3.3 で引き続き検証を進める)。
3.1.2. SVO 文型と SVOO 文型
SVO 文型に引き続いて SVOO 文型の意味について検証を進める。Berk(1999)によれ
ばこの文型は”a transference of possession”を基本の意味とするという。
I gave Marian my dictionary.
[Berk 1999:34]
ここでの間接目的語 Marian は直接目的語 my dictionary を受け取る Recipient の意味
役割を持つ。主語から間接目的語への直接目的語の授受関係が SVOO 文型の意味であるこ
とはこの文からもわかると思う。
Goldberg(1995/2001)によれば、SVOO 文型はその意味上の制約により、主語は Agent
として意志を持ってその動作を行えるもの、間接目的語は Recipient として自発的に直接
目的語を受容するものである文が典型的だとされている。しかし Berk(1999)が取り上
げた以下の例文のように、周縁的な SVOO 文型も英語ではよく見受けられる。
Opera gives me a headache.
[Berk 1999:35]
この文は主語の特性が明らかに典型的な SVOO 文型の特徴にそぐわない。Goldberg はこ
こでは「因果関係は移送である」というメタファーが働いていると述べている(Goldberg
1995/2001:193)
。
主語 Opera は間接目的語 me に対して a headache を引き起こしており、
そこでは抽象的ではあるが因果関係が成立している。
ここで SVOO 文型の意味が軽動詞構文の中でどのように働いているか検証する。
(51)
a. I kicked the furniture.
- 27 -
b. I gave the furniture a kick.
[Berk 1999:36]
(51a)と(51b)は Berk(1999)によればほとんど同じ意味の文であるという。Goldberg の
述べたメタファーによって、どちらの文にも I から the furniture へと因果関係が成立して
いる。I の行為によって the furniture が影響を受けているという点で二文は共通している
が、SVO 文型である(51a)は状態変化を含意しているとも考えられ、この場合 the furniture
はかなり強い力で蹴りを加えられ、変形してしまった可能性がある。(51b)は SVOO 文型
であり、動作による影響の受容のみを含意しているため、この場合 the furniture はさほ
ど力の入っていない一蹴りを入れられたのみ、という印象を与えているように思う。
なお、
「因果関係は移行」というメタファーによって成立している SVOO 文型は、前置
詞句を用いた SVO 文型への書き換えはできない。この点について検証するために二組の
例文を Dixon(1991)より抜粋する。
(52)
a. I gave Mary a push.
b. *I gave a push to Mary.
(53)
a. Mary gave John a look.
b. Mary had a look at John.
(52b)の文が非文である理由について、Dixon は give を用いた文の直接目的語の位置には、
本来”a specific, individuated reference”を持つ語が来るべきだと述べている(Dixon
1991:345)
。仮に gave a book to Mary とするなら、a book は Mary から独立した物体、
つまり”a specific, individuated reference”を備える語であるため問題ない。しかし”a
specific, individuated reference”のない a push は、それを受容する Mary から独立して存
在できないことがらである。つまり、Mary の存在があってはじめて a push が存在し得る
- 28 -
という二者の関係が成立しているために、gave Mary a push のように SVOO の語順がア
イコンとなって、それを崩すことを許容しないと考えられる。また、後に 3.2 で取り上げ
る言語的距離との関連で、a push to Mary の形を取ってしまうと、言語表現上 a push と
Mary の二者間に距離が出来てしまい、それが概念的な距離を生み出してしまう。そのた
め先に述べた「Mary あっての a push」のような二者間の密接な関係が成立しないと考え
られる。このように、SVOO の語順がもたらすアイコン性と、言語的距離のもたらす効果
によって、(52b)は非文と判断されると思われる。
また(53a)と(53b)の文は軽動詞構文 have a VERB と give O a VERB の対比だが、Dixon
によれば(53b)の文は Wierzbicka などが主張しているように「ちょっと目をやる」程度の
行為を表しているのに対し、(53a)は Mary の視線に John が気づいていることを含意して
いるという。ここでもまた Recipient が Agent の行為を受けとめていることがわかる。
ここまで見てきたように、通常の SVO 文型を SVOO 文型の give O a VERB で表したと
き、そこでは SVO 文型と同様に因果関係の意味を表しつつも、SVO 文型よりもその影響
の程度はより軽度であることがさらに含意されていると考えられる。
また、Dixon が述べるように give O a VERB は他の軽動詞構文と同様有情のものを主語
とする。この点から give O a VERB も SVOO 文型の中で主語の有情性に特化した有標構
文と言える。なぜこの有情性が生まれるかは、別の視点から検証したいと思う。
3.2. 言語的距離と軽動詞構文
Haiman(1983)が述べた言語的距離と概念的距離の関連はその後様々な研究者に影響
を与えている(二枝 2007 など)。いくつか具体例を挙げてこの事象についてみていきた
い。
(54)
a. Sam killed Harry.
b. Sam caused Harry to die.
- 29 -
使役表現に関して、 (54a)は Sam が直接意志を持って Harry を殺したことが伺える。
一方(54b)は Harry を殺す意図を Sam が持っていたかは明確でなく、あくまで間接的な形
で Harry を死に追いやったように感じられる。
(55)
a. John sprayed the wall.
b. John sprayed on the wall.
(55a)と(55b)は他動性に差をもたらす例である。(55a)の文は壁全体がスプレーで染めら
れていることが感じ取れるが、(55b)の文は壁の一部のみにスプレーがかけられたという場
面が想定されていると思われる。
(56)
a. Will you open the window?
b. Would you mind opening the window?
(56b)のような敬意表現においては表現の長さにより丁寧度の度合い、つまり人間関係の
距離感が異なる。(56a)よりも(56b)がより丁寧かつ婉曲的な表現をしていると考えられる。
軽動詞構文も一語動詞の文と比べて言語的距離がより大きくなっているため、概念的に
も変化をもたらしていると考えられる。
(57)
a. Judy had a walk.
b. Judy walked.
軽動詞構文である(57a)は一語動詞の(57b)と比較して主語と動作を表す walk の間の距離
が広くなっている。敬意表現の例でも述べたように、言語的距離が大きくなるとより婉曲
- 30 -
さが増すため、(57a)の文は(57b)の文よりも曖昧で断言しない印象を与えるように思われ
る。
また、Wierzbicka や Dixon は軽動詞構文によって「外的な目的達成を意図しない」
「ほ
んのちょっとその動作を楽しむ」という意味が生まれるとしているが、この特徴は言語間
距離が大きくなったことが一因となって生まれているのではないだろうか。
(58)
a. *Judy had a walk to the station.
b. Judy walked to the station.
(58a)の文が不適切であるのは、to the station が walk の到達地点を示しており、軽動詞
構文では特定の目的達成(この場合は歩いて駅にたどり着くこと)を意味しないためであ
る。
このように主語と主語が行う動作の間に距離を置くことで、主語がその動作を行う
意志の強さが弱まり、その動作に対する責任がより少なくなると思われる。統語的にも、
動 詞 は 主 語の 人 称 と数 、 ま た主 語 が 代名 詞 であ る 場 合 は格 を も 表す と い う「 一 致
agreement」の現象を示すことからも伺える。動詞は主語に依存し、主語の動作を表すの
である。それに対して目的語は、主語とは独立して存在するものである。
また、Wierzbicka は have a VERB や take a VERB が「繰り返し行うことの出来る行
為」であるとしている。
(59)
a. John licked Mary’s ice cream.
b. John had a lick of Mary’s ice cream.
軽動詞構文はひとつの動作を完全に完了させるまで行うわけではないことを示唆してい
る。この場合(59b)はあくまでアイスクリームをひとなめした程度である。もちろん John
が望めば(Mary の意志はともかく)同じ行為を繰り返すことができるが、それというの
- 31 -
も、(59a)がアイスクリームへの働きかけが完結したことを伝えるのに対して、(59b)には
その含意がないからである。(59b)においては、Mary’s ice cream は目的語よりさらに周辺
的な前置詞句の中の要素であり、主語からの言語的距離が大きく、主語の影響が部分的あ
るいは断片的であると言える。このように軽動詞構文は言語的距離が増したことによって
他動性、つまり目的語を支配する力が弱まったと考えられ、結果 Wierzbicka や Dixon が
提示する軽動詞構文の意味が生まれると思われる。
3.3. メタファーと軽動詞構文
一部の研究者(Jespersen など)からは意味機能をほとんど持たないとされている軽動
詞だが、一般動詞としての意味を持つものに関しては、軽動詞構文の中でもある程度元の
意味を保っている可能性がある。別の見方をすれば一般動詞としての意味からメタファー
の助けを借りて意味拡張を進めた先に軽動詞構文としての用法があるのではないだろうか。
ここで「メタファーの助け」と述べたが、先に軽動詞構文全体に関わるメタファーにつ
いて触れておく。Lakoff & Johnson(1980)を参考にすると、軽動詞構文には ACTIVITY
IS A SUBSTANCE のメタファーが働いているように思われる。
ACTIVITY IS A SUBSTANCE
a. There was a lot of good running in the race.
b. How much window-washing did you do?
上の例のように動作を量的に測ることの出来る物質ととらえることで、文の中でより扱い
やすくし、理解しやすくするのがこのメタファーである。軽動詞構文も目的語に来る a
VERB がこのメタファーの存在を表していると思われる。このことは影山(1996)など複
数の研究者が「LV a VERB は継続的活動と共起しやすい」と述べていることと整合する。
これより have a VERB と take a VERB、そして give a VERB それぞれについて検証を
- 32 -
進めたいと思う。
3.3.1. have/ take を用いた文
have a VERB と take a VERB は、Dixon(1991)のようにオーバーラップする部分が
大きいとする研究者が多いため、ここでは両者を比較しつつその共通点と違いを見ていき
たい。
have a VERB については Wierzbicka が詳しい研究を進めていることは 2.3 で述べてい
る。彼女は have を用いることで目的語を主語に従属させ、主語をより際立たせることが
出来ると主張している。
(60)
a. John walked.
b. John had a walk.
c. John took a walk.
Wierzbicka が主張することには、(60a)は主語についてのみ記述をしている(”a single
predication about John”(Wierzbicka 1988:346))が、have を用いることで意味が複合さ
れた(composite)ものになるという。軽動詞構文である(60b)の文についていえば、a walk
を通じて John が「快さ」を経験することが含意されているということになる。
しかし軽動詞構文では(60c)のように take を用いた文が多いことも事実であり、(60c)の
文も(60b)の文と同様に a walk という動作を通じて「快さ」を経験するという意味を含ん
でいる。よって have を用いること自体がこの構文の意味の複合性の要因となるとは言い
がたいように思われる。英語が話される国によっても have と take の使用頻度が異なると
も Wierzbicka は言っている。
では have a VERB と take a VERB が持つ特有の意味はどこから生まれるのだろうか。
一つは 3.1 で挙げた SVO 文型への変化ではないか。
因果関係の意味を備えるようになり、
- 33 -
a VERB から何らかの結果が引き出されることを含意するようになったと考えられる。し
かしながら文型の意味だけでは Wierzbicka や Dixon の述べるような動作主の経験する
「快
さ」が引き出されるとはいえないように思われる。ここで have や take の元来の意味が重
要になってくるのではないだろうか。つまり文型と語彙的意味から相乗的に軽動詞構文の
意味が生まれると思う。
OED によると、have の元来の意味は”to hold (in hand)”であり、take は”to lay hands
upon”から”to lay hold of”へと意味が派生している。どちらの動詞も本来具体的な物を「手
に取る」という動作を起点として、自分へと「取り込む」というイメージを元により抽象
的な意味へと派生していると思われる。軽動詞構文についていえば、have a VERB や take
a VERB は動作を通じて動作主の中に「快い」という感覚を「取り込む」ことが含意され
ているように見える。このように本来の動詞が共通した意味を持つために、have a VERB
も take a VERB もその意味に共通性を持つと考えられる。
ここまでで 3.1.1 の「有情のもののみを主語に取る」という特徴についてもある程度の
見解が出来たと思われる。have a VERB と take a VERB は動作そのものに注目しつつも、
そこからさらに主語の中に生まれる内的な感情を含意しうるため、主語に来られるのは感
情を持ちうるものに限定されてしまうのだろう。
一方で異なる動詞が使われている以上、
異なる意味も持ちうると考えるのは自然だろう。
事実 Huddleston & Pullum(2002)を始めとして、take と have の意味の違いが take a
VERB と have a VERB の意味の違いにある程度反映されているとする研究者は多い。彼
らによれば、take は一般動詞でも積極的な動作を意味するためより dynamic な意味とな
り、have は状態を表すことが多いため比較的 static な意味を持ちつつ、take よりもより
広い表現に対応するという。Dixon は以下の例文を持って have a VERB と take a VERB
の違いを示している。
(61)
a. He took a walk around the lake.
- 34 -
b. He had a walk in the park.
(62)
[Dixon 1991:352]
a. Have a look at Maggie!
b. Could you go and take a look at Maggie?
[Dixon 1991:352]
同じ a walk を目的語に取る(61a)と(61b)の文だが、(61a)はより動的なイメージを喚起す
るように見え、(61b)は同じ動作でもより静的な感覚を受ける。have a VERB を用いると
take a VERB と比較して、動作そのものよりもそれによって引き出される全体的な様態や
結果を重視しているように感じられる。そのため後に続く修飾部も違いが出てくると考え
られる。
(62a)と(62b)の比較は take a VERB の特性をより強く示しているだろう。(62a)はただ
その場で目を向ける場面を想定しているが、(62b)では実際に動作主が自分の体を動かす必
要に迫られている。take a VERB が身体的動作を意図することが読み取れるだろう。ここ
からさらに Dixon は Have a look at this と Take a look at that がそれぞれ自然な表現だ
としている。これもまた have a VERB の静的さと take a VERB の動的さを示しているの
ではないだろうか。
もう一つ例文を挙げる。
“Take a drink.” - “I will have a drink.”
[映画 The Devil Wears Prada より]
酒場で友人から酒を飲むよう勧められ、それに応える会話だが、前者の酒を勧める友人は
take a VERB を使用し、後者は have a VERB を使っている。ここでそれぞれの持つ意味
を考慮して日本語にすると、
「(とりあえず)飲もうよ。
」「じゃあ飲もう(そして楽しもう)
。
」
- 35 -
のように、()内の含意が生まれるように思われる。この例によって動作重視の take a
VERB と結果重視の have a VERB の対比がある程度浮き彫りになるように見える。
3.3.2. give を用いた文
OED によると、give の元来の意味は”To make another the recipient of something”で
ある。このことからもわかるように、give の基本は SVOO 文型であり、軽動詞構文とな
っても SVO 文型と SVOO 文型の両方を取れる give は、have や take と比べて元来の動詞
の意味をより色濃く残しているように思われる。また、行為によって結果を Agent の内部
へと取り込む have/ take a VERB とは違って、give a VERB は 3.1 で検証したように行為
による結果を外部へ「生み出す」意味を持つといえるだろう。このことから give を使う軽
動詞構文は比較的外部志向の強いものであり、have a VERB や take a VERB よりもさら
に動作的であると考えられる。Dixon(1991)が give a VERB について「快さをもとめて
その活動に耽る」という意味を与えなかったのも、
この点が関連しているように思われる。
また、影山(1996)に見られるように、同じ give を使う軽動詞構文でも文型によって a
VERB にくる動詞の種類に違いがあるように思われる。文型に分けて例文を見てみる。
(62)
a. She gave a sudden laugh.
b. Elvira gave a little gasp.
c. The girl gave a sharp cry.
(63)
[Christie 1965]
a. She gave me a punch.
b. You give the rope a pull.
[Dixon 1991]
c. She gave him a sudden smile.
[Christie 1965]
- 36 -
give a VERB は、take a VERB 同様、元来積極的な動作を意味するために、SVO 文型
でも SVOO 文型でも身体的動作を表す動詞と共起することが多い。
しかし傾向として、SVO 文型は比較的音を発生させる生理的な動作が多い。これは give
a VERB の意味として結果を外部へと表出させることと整合すると思われる。gave a
laugh と have a laugh を比較すると、ふっと笑いを漏らしてしまうのが前者であり、動作
主の気が済むまで笑うのが後者である。give a VERB は動作主から外側へ向けられる動作
を意味するため、どことなく動作主自身が客観的にその動作を見ているような印象を与え
ているとも思われる。
一方 SVOO 文型の give O a VERB は(52c)のように具体的動作を表さない動詞とも共起
する。3.1.2 で取り上げたように SVOO 文型には「因果関係は移行」というメタファーが
働いているため、より抽象的な意味へと拡張ができるのだろう。しかし Agent から
Recipient へと行為による影響が及ぼされていることから、SVO 文型の give a VERB と同
様に、動作主から外側へと向けられる動作を含意すると思われる。
このように同じ軽動詞構文でも、have/ take a VERB と give (O) a VERB では、動作の
結果を Agent の内側に求めるか外側に求めるかで意味上の違いが生まれていると思われ
る。
3.4. 名詞化と軽動詞構文
軽動詞構文について検証を進める前に、まず品詞の意味について見ていく必要がある。
一般的な定義として、名詞は「もの・こと」を表し、動詞は「行為そのもの」を表す。し
かしこれはあくまで学校文法の域にとどまるものであり、不十分な場合が多々あるため、
また別の観点から品詞の意味を考えたいと思う。Radden & Dirven(2007)は文法上の範
疇である品詞を概念上の単位と関連させている。名詞という形を取って言語上に表現され
る概念単位を Thing と表し、動詞や形容詞などによって表現される概念を Relation とし
ている。それぞれの特徴を以下にまとめる。
- 37 -
Thing:名詞によって表現される;autonomous, independent, stable in space and time
Relation:動詞、形容詞などによって表現される;dependent, short-lived, less stable
軽動詞構文の目的語である a VERB は動詞から名詞への品詞転換を行っている。
つまり、
元来自律性の低い概念を自律性および独立性が高い概念として扱うということである。こ
れは 3.3 で述べた ACTIVITY IS A SUBSTANCE のメタファーとも密接に関連していると
思われる。ここでいう自律性とは、概念として完全であり他の要素による補足を必要とし
ない状態を指す。一方動詞は自律性が低く、名詞を前提に存在するということになる。
名詞の自律性が軽動詞構文の中でどのように機能しているか検証したい。Langacker
(1987)は以下の例文を挙げて、動詞の名詞化について述べている。
(64)
a. He fell.
b. He took a fall.
[Langacker 1987 vol.Ⅰ:146]
(64a) の 文は 時間 の流 れに沿 って 動作 の進 行を認 識さ せる 働き を持 つ( この 作用 を
sequential scanning と呼ぶ)
。動詞の fall は時空間の中で固定化されていない Relation の
概念を示すため、時間に沿った変化を喚起しうる。一方(64b)の文にある名詞の fall は、動
詞の開始時点から終了時点までのあらゆる局面を累積的に一塊の出来事として認識させる
作用がある(これを summary scanning と呼ぶ)
。名詞によって表現される Thing の概念
は独立性が高いため、特定の時間や空間から切り離された固有のものとして捉えられる。
複数の研究者が have a VERB、take a VERB、give a VERB それぞれについて、「長時間
行われる動作ではない」
「時間的な区切りが明確である」といった意味を持つとするのもこ
の「時間軸からの独立性」があってのことだろう。Berk(1999)が挙げた例文に触れてお
く。
- 38 -
(65)
a. Pete and Lynn chatted for hours.
b. ??Pete and Lynn had a chat for hours.
[Berk 1999:31]
(65b)の文が適切でない印象を与えるのは、for hours という時間を限定する表現があるた
めである。名詞化によって時間軸から切り離されているため、時間の限定を受けることは
適切ではないと考えられる。
もう一点、名詞化によって「動作主からの独立性」を獲得する。以下の例文を見てみた
い。
(66)
a. He left.
b. He took a leave.
(66a)は単純に部屋を出て行くという個人的な行為であるのに対し、(66b)は「暇を述べる」
といったようにより社会的な行為を意味している。これは名詞化によって leave という行
為が動作主から切り離され、社会的に共有されるものとなるからであり、軽動詞構文はそ
の行為を「ほんのちょっとやる」という含意を持つのである。
また、不定冠詞 a も時間や特定空間の限定を避けるためのアイコンとして表示されてい
るように思われる。元来は可算名詞につくべき不定冠詞だが、名詞化によって一つの固有
の物質として扱えるようになったために a VERB の形が成立した。これによって時間的な
区切りがより明確となり、短時間の動作であることがさらに強調されるようになったと思
われる。
第4章
他の「動詞+動詞派生名詞」との比較
第3章では「LV a VERB」の形に限定して、どのような要素からこの構文の意味が生ま
- 39 -
れるのか検証した。しかし序章で述べたように、
「LV a VERB」を含めた「動詞+動詞派
生名詞」は英語の文の表現の幅を大きく広げ、
「LV a VERB」にとらわれない形式を持つ
ようになっている。そのため先行研究では軽動詞構文はどこまでの範疇を指すのか、そも
そも軽動詞構文という限定された枠組みで論じるべきかで大きなズレが生じるようになっ
てしまったのも事実である。ここではこれまで検証してきた軽動詞 have, take, give とそ
の他の動詞を分類して、
「LV a VERB」とそれ以外の形式の文の比較を試みたいと思う。
なお Huddleston(1984)の研究のようにイディオムと混同しないために、以下の基準を
元に例文を集めた。
① 動詞句が一語動詞で置き換え可能
② その一語動詞から派生した名詞を目的語に持つ
4.1. have+動詞派生名詞
これまでの検証に基づくと、have a VERB は「主語に焦点を置く」「動作により動作主
の中に感情(快さ)が生まれる」
「
(take a VERB と比較して)静的・結果重視」という特
徴を持つ。例文を見ていく。以下は(67a)と(67c)を除いて、複数の人の会話の断片を抜粋
している。
(67)
a. You could take a special friend and have a cozy little gossip in a quiet
corner.
b. “We’ll have a talk about all that sometime.”
c. He had had a pleasant acrimonious discussion.
d. “But I’d like to have a look at the place…”
e. “I have the great admiration for your superb police force.”
f. “It could be that you had had a disagreement.”
- 40 -
g. “I’ve just been having a visit from someone you know.”
[Christie 1965]
(67a) - (67c)のような複数名の間での会話を表す語は have と相性が良いらしく、例文が多
く見受けられた。特に gossip は a little という修飾語を伴って典型的軽動詞構文の特徴で
ある「ほんのちょっとする」という意味を強調している。
しかし例文の中には(67c)のように接辞付き名詞をとる場合も多々ある。gossip や talk
と discussion を比較すると、Jespersen(2.1 参照)が述べたように、前者が接辞無しで
動詞と同じ形のためか、動作そのものを意味する一方で、後者は接辞によって動作そのも
のではなく、一つの複雑化した体系を備える語であるように見える。3.4 でも述べたよう
に、名詞は自律的で独立した存在だが、a gossip や a talk はそれでも動詞としての特性を
色濃く残し、時空間から切り離されていてもその中で均質に動作が行われ続けているよう
に感じられる。しかし a discussion は議論の開始、展開、結論に至るまでの一連の流れを
その中に内包した、複雑な名詞であるため、
「ほんのちょっと」
「ただ楽しむためだけに」
できる動作ではないように思われる。もし have a discuss という表現が許容されるなら、
have a discussion と比べて、より些細な出来事について結論を求めようとせず話し合う格
好だけ付けることを含意するのではないだろうか。
(67e), (67f)はそれぞれ admire と disagree のような、これまでのような具体的な動作と
いうよりも内的な感情を表す動詞から派生した接尾辞付きの名詞を使った文となっている。
継続的活動を表す動詞ではないため have a VERB ではないが、内的な動詞ということで
have との相性が良いとも考えられる。
残った(67g)について検証する。visit は動詞と名詞が同形という点で have a look の look
と同じであり、この表現が a VERB の一種なのか純粋な名詞なのか区別しなければならな
い。ここでは from someone you know という修飾句から、主語が visit という動作を行う
Agent ではないことがわかる。そのため have a VERB に当てはまらず、この a visit は純
粋な「訪問」という意味の名詞であることがわかる。
- 41 -
4.2. take+動詞派生名詞
take a VERB は have a VERB と意味的特徴を共有する部分が多いが、have a VERB と
比べてより dynamic であり、身体的動作と共起することが大変多い。
(68)
a. She was going to combine the double pleasure of taking a sentimental look
at Princess Terrace Mansions…
b. Miss Marple took a sip of tea.
c. Bess Sedgwick …lifted a doughnut and took an immense bite.
d. Campbell took a step back towards the desk.
[Christie 1965]
e. He took a step farther out into the field.
f. …while he waits for it to be fixed, he decides to take a walk around.
g. Mother waited with me, but would leave to…take walks because her back
was hurting…
[Wallace 1998]
h. He took his departure, shaking his head sadly.
[Christie 1965]
3.3.1 で述べたように、take a VERB は have a VERB よりも対応する表現の幅が比較的
狭く、ほとんどが身体的動作である(look, bite, walk, sip, step)
。
ここで(68g)の文に注目したい。複数形が取られているが、walk は単純な動作を表すの
で、4.1 で度々述べた複雑な体系を持つ名詞にはならない。ここで複数形となっているの
は、walk という動作が繰り返し行われたことを含意するように思われる。take a walk と
同じように動作によって主語の内部に快さ(この場合は痛みを和らげること)をもたらす
が、それが「ほんのちょっと」の動作ではなく、何度も座ったり歩き回ったりを繰り返し
たのだろう。
(68h)の文について検証するに当たって、3.4 の(66)の例文を再提示する。
- 42 -
(66)
a. He left.
b. He took a leave.
前者は個人的行為、後者は社会的行為だということはすでに述べたが、(68h)もこれと同様
に、He departed と比較してより社会的な行為を表していると思われる。これは弁護士と
依頼人のやり取りの後、依頼人が部屋から辞去する場面の一文であるため、コンテクスト
から見ても「暇を告げる」という意味が相応しいと思われる。
ここでもう一点、(68h)の文では不定冠詞 a ではなく代名詞所有格 his が付加されている
ことにも注目したい。Berk(1999)によれば、ここでの his は departure の動作主を表す。
take a departure ではなく take his departure とすることによって動作主が限定され、
take a VERB と比較してより動作主の意志が強く現れるように思われる。ここでは、自分
の思い通りに弁護士が動いてくれないことに腹を立てながらも、どうすることもできない
依頼人が、shaking his head sadly と渋々重い腰を上げてその場を辞去するイメージが生
み出されるように感じられる。
4.3. give+動詞派生名詞
give a VERB は SVO 文型、SVOO 文型共に、動作の結果が外部に表出されていること
が重要とされる。
(69)
a. The girl gave a sharp cry.
b. Mrs. Macrae gave a long, exasperated sigh..
c. She gave a sudden laugh.
d. …he was aware …of a quick gasp she gave.
e. Miss Marple gave an exclamation.
- 43 -
f. At intervals the engine gave its weird banshee warning cry.
g. “That I should know?” inquired Mr. Robinson, giving one of his larger
smiles.
h. She came to him …gave him a gentle little propelling shove out of it.
i. She gave him a sudden smile.
[Christie 1965]
j. …my mother returns, wipes a tear from her cheek, and gives Dr. Bennett a
hug.
k. She turned and gave my father an adoring glance.
l. I wheeled him…past nurses holding charts giving me sidelong glances and
finally staring.
[Wallace 1998]
3.3.2 で述べたように give a VERB は身体的動作を伴うことが大変多い
(cry, sigh, gasp,
laugh)
。また、give a VERB は have a VERB や take a VERB よりも行為が主語から切り
離されたものとして扱われるので、(69d)のように関係詞節による修飾が可能なのだろう。
(69e)は度々出てきている接尾辞付きの派生名詞を使った文である。目的語について考え
ると、exclamation は単純な発声そのものだけでなく、それを引き起こす「感嘆」という
内的要素も含めた意味を持つので、接尾辞付き名詞に関して言及した、より「複雑な構造」
を持つという特徴に当てはまるといえるだろう。
(69f)は主語が無生物であり、さらに不定冠詞ではなく its という代名詞所有格が使われ
ている。4.2 の take his departure の検証の際に、代名詞所有格によって動作主の「意図
性の弱さ」がなくなるとしたが、この例文では合致しないのか。
ここで興味深いのは banshee という形容詞である。banshee という幽霊の一種が出すよ
うな音だということだが、この形容詞からここでの the engine は擬人化の効果が生まれて
いるととらえられないだろうか。これによって the engine にもメタファー的な「意志性」
が生まれ、its がその「意志性」をさらに協調しているように思われる。
- 44 -
(69g)は代名詞 one を使った文である。give a VERB の形式からは一見外れているよう
に見える。しかしここで of larger smiles に着目すると、いくつもある smiles と比較した
のち、larger smiles の一つとするといった、非常に客観的な判断が含意されているようで
あり、3.3.2 で give a VERB について述べた「客観的に動作を見ているよう」という特徴
が見えるように思われる。one = a smile と考えると、give a VERB の意味を残しつつそこ
から派生した用法であるとも考えられないだろうか。
SVOO 文型の give a VERB は Recipient が動作を受けとめることを含意する。例文の中
で挙がったのは shove や hug といった直接的接触を伴う動詞や、glance や smile のよう
に接触を伴わなくとも他者とコンタクトを図ることのできる動詞である。
特に glance は動作そのものであると同時に、主語から切り離された固有の名詞として扱
われることが多いようである。(69l)の文は glance が複数形となっている。3.3.2 で take
walks の例に触れた際、
「動詞の繰り返し」として複数形が使われているとしたが、ここは
glance の動作主が複数名(nurses)いるために、視線が複数の方向から投げかけられてい
ると考えるべきかもしれない。
4.4. その他の動詞+動詞派生名詞
例文をまとめるうちに、明らかに軽動詞以外の動詞と共起する a VERB がいくつか見つ
かったので、ここで取り上げたい。
(70)
a. Bess Sedgwick threw a swift glance round.
b. Miss Marple, though throwing a kindly and indulgent smile at the past,
did not object to the amenities of the present.
c.
Casting a brief glance at Cicely’s hair, Miss Marple relapsed into a
pleasant remembrance of how kind Joan had been.
d.
Lady Selina cast a glance around her and pounced upon an elderly
- 45 -
gentleman..
e. Elvira shot a quick, uneasy look at her mother.
[Christie 1965]
f. Willie cut him a glance
[Wallace 1998]
ここでみるとほとんどが look と関連する動詞であることがわかる(look, glance, gaze)
。
4.3 でも取り上げたように、a glance などは主語から切り離された視線そのものを指すこ
とが多いので、メタファー的作用が手伝って非常に多彩な表現が可能となる。
これらの表現は通常の軽動詞構文と比べて動作の様態をより鮮やかに伝える。次の例文
を(70a)の例文と比較して検証する。
(71)
a. Bess Sedgwick glanced round swiftly
b. Bess Sedgwick took a swift glance round.
(70a)
Bess Sedgwick threw a swift glance round.
(71a)は一語動詞のみを使用しているため、動作主が見回したこと以外は伝わらない。(71b)
は take a VERB の意味により、主語が周りに目をやることで一定の内的感情を得ている
ように思える。どことなく機嫌がよさそうな様子であたりをサッと見回した、という印象
を受ける。しかし(70a)は、take a VERB のように主語の内的な感情まで含意することは
ないが、throw という動詞を使うことで動きがよりダイナミックさを増し、(71a)や(71b)
よりも躍動感が出る文となる。(71a)や(71b)と比べて身体的動作が大きく、より遠くまで
視線を投げかけるといった感覚だろう。
上の(70)で glance がある例文がいくつかある中でも、(59g)は特殊な文である。これは
SVOO 文型の「因果関係は移行」のメタファーによって成立している文だが、cut という
動詞が選ばれたことで、切るように鋭く視線を走らせたことが伝わってくる。さらに抽象
的な因果関係が成立しているため him もその鋭い視線を受けたことに気づいていること
- 46 -
が分かる。この文もまた動詞 cut によって動作の様態が鮮やかに表現される例だと思われ
る。
これら throw, cast, shot, cut といった一般動詞は、単純な glance という行為に動作の
様態という点で幅広い表現を与えた。この「一般動詞+a VERB」は位置づけとして、有
標性の高い軽動詞構文と、典型的 SVO 文型の中間と考えられるが、このタイプの文によ
って英語は豊かな動作表現を得ていると思われる。
4.5. 同族目的語構文
Jespersen(1942/2007)は軽動詞構文と同族目的語構文を、目的語の修飾が容易という
点で平行性があるとしてまとめて論じている。例文の中でも実際に smile と laugh を使っ
た同族目的語構文が見つかったので、ここで軽動詞構文との比較を試みたい。
(72)
a. Mr. Hoffman smiled a wooden smile.
b. She laughed a sudden high, excited laugh.
[Christie 1965]
ここですでに上で挙げたものから軽動詞構文の例を挙げる。
(69c)
She gave a sudden laugh.
(69g)
“That I should know?” inquired Mr. Robinson, giving one of his larger smiles.
(69i)
She gave him a sudden smile.
同族目的語文(72a), (72b)と軽動詞構文を並べると、前者の方が目的語に付加される形容
詞が多彩であることに気づく。(72a)の wooden は一語動詞の文で表そうとしても、Mr.
Hoffman smiled woodenly となってしまい違和感を持たせてしまうと思われる。このよう
に一語動詞では副詞として共起できない語も、形容詞として許容できることから、
- 47 -
Jespersen が同族目的語構文について「修飾が容易」としたのは間違いのないことだろう。
次に(72b)の文を見ると、sudden, high, excited といった 3 つの形容詞によっても目的語
が修飾されている。しかしこの 3 つは細かく見ると修飾する方向が異なるように見える。
ここで一度検証を行う。
(73)
a. She laughed suddenly.
b. She laughed excitedly.
c. *She laughed highly.
上の例文を見て分かるように、sudden と excited は動作の様態を表すが、high は動作そ
のものではなく動作の結果生まれた a laugh の様態を表している。また、(73a)と(73b)は
形式上同じだが、(73a)は laugh という動作そのものについての様態であり、(73b)は動作
を行う主語の様態を表しているという点でまた異なっていると思われる。このように一語
動詞では一緒に並べることの出来ない修飾語句を同族目的語文では一緒にすることができ
る。つまり一語動詞よりも同族目的語構文によって動作の様態をより細かく表現できる。
では軽動詞構文についてはどうだろうか。注意したいのは、同族目的語構文は目的語を
取っていても、あくまで動詞自体は自動詞(intransitive)であり、全体として SV 文型の
派生に過ぎないということである(Berk 1999:33)。一方これまでの検証から、軽動詞構
文は SVO 文型(または SVOO 文型)としての特性を備えており、この構文が使われたと
き、そこには何らかの「結果」が発生していることを含意している。例文(69c), (69g), (69i)
の give a VERB は、
動作の結果が外部に表出されるということが重視される。よって(69c)、
(69i)で使われている形容詞は sudden のみと、あくまで動作 laugh や smile の表出が突発
的に行われたことを述べるに留まっており、その動作の細かい様態を描写するには至って
いない。このことから、確かに軽動詞構文は統語的視点から見れば形容詞による豊かな修
飾を許容できる形式だが、実際の意味機能はそこを重点としていないことが考えられる。
- 48 -
しかしながら(69g)のように、軽動詞構文の派生形が of larger smiles などのような修飾
句と共起する例が見受けられるのも事実である。修飾を多彩にすることそのものが軽動詞
構文の役割ではないが、典型的軽動詞構文から派生して少しずつ様々な修飾を許容するよ
うになっているのかもしれない。
5. まとめ
本論文では軽動詞構文、特に「LV a VERB」に注目して、その意味機能を検証してきた。
第 1 章および第 2 章では、軽動詞構文を巡る研究が持つ問題点について検証した。この
構文の意味機能は研究者の間で共通の認識が定められておらず、研究者によって扱われ方
がまちまちだが、その中でも傾向として「統語的観点」を重視する研究者と、
「意味論的観
点」を重視する研究者に分けることができるとした。そこで本論文を、後者の「意味論的
観点」を支持しつつ、その理論的根拠を求める方向に固めた。
第 3 章では、典型的「LV a VERB」の意味として考えられてきた、「意思を持って活動
する動作主が」
、
「特定の目的達成を含意せず」
、
「ほんのちょっとその行為を行う」という
特性がどこから発生するか、その理論的根拠を求めるため複数の視点から検証した。そこ
で判明したのは、「LV a VERB」は、文型、語彙、品詞転換やメタファーなど、複数の要
素が絡み合って意味を成す、とても有標性の高い構文だということである。
3.1 では SV から SVO 文型、または SVOO 文型への転換によって、
「因果関係」の意味
が「LV a VERB」の中に生まれるとした。さらに 3.3 では ACTIVITY IS A SUBTANCE
のメタファーに触れつつ、have, take, give それぞれの元来の意味が「LV a VERB」の中
でも生きていると考えた。この文型の意味と動詞の意味の絡み合いにより、have a VERB,
take a VERB, give a VERB それぞれ以下のような意味が生まれると考えられる。
have a VERB: 内部志向(動作の結果を動作主内部に求める)、静的
take a VERB: 内部志向、動的
- 49 -
give a VERB: 外部志向(動作の結果を動作主外部に求める)、動的
さらに 3.2 で取り上げた言語的距離の関連によって、動作主の動作に対する責任の弱さ
が生まれ、3.4 で取り上げた名詞化によって特定の時間軸から独立したものとして動作を
扱うことから、
「短時間で行う」動作という意味が付加されたと考えられる。
このように有標性の高い「LV a VERB」だが、第 2 章で触れた「統語的観点」重視の研
究者の中には、他の構文と同じものとして扱うものもあった。そこで第 4 章では「LV a
VERB」の特殊性を検証するため他の形式の文との比較を試みた。具体的には、接尾辞付
き名詞の文、目的語が複数形の文、代名詞所有格を使う文、軽動詞ではなく一般動詞を使
う文、同族目的語構文との比較を行った。
接辞付き派生名詞が使われている場合、目的語が内部に複雑な構造を持つ名詞であるた
め「LV a VERB」のような「ほんのちょっと」といったイメージが薄れる可能性がある。
また動詞と名詞が同じ形である場合、a VERB として機能しているのか純粋な名詞なのか
区別が必要であるだろう。
目的語が複数形の場合、通常の「LV a VERB」の意味をある程度備えつつも、動作の繰
り返しを表したり、動作主が複数いることを表していたりしたように思われる。
代名詞所有格は動作主を明示することによって「LV a VERB」の「意志性の弱さ」とい
う意味から外れると考えられる。より意志性の高い行為を表すため、ただ「楽しむために
行為に耽る」
「ほんのちょっと行う」といった意味が薄まることが考えられる。
「一般動詞+a VERB」は、軽動詞構文とは一線を画すものの、軽動詞構文と典型的 SVO
文型の中間に位置する文として、英語の動作表現に豊かさを与えているように思われる。
最後に同族目的語構文との比較だが、軽動詞構文はあくまで SVO 文型の有標な形と言
えるのに対し、同族目的語構文は目的語をとっても SV 文型からの派生に過ぎず、形容詞
によるより豊かな修飾を許容するための構文であると結論付けられる。
「LV a VERB」は、ここまで見てきたように様々な要素が働いて有標性を高めた文であ
- 50 -
る。しかしその複数の要素が複合された「LV a VERB」はさまざまな構文と形式上でも意
味上でも連続しているため、研究者の中で扱いに差が出てしまったと考えられる。それで
もなお「LV a VERB」の特殊性が論じられるということは、それだけこの複数の要素が揃
ったときのこの構文の有標性が高いためだとここに結論付ける。
参考文献
【学術書】
相沢佳子 1999. 『英語基本動詞の豊かな世界―名詞との結合に見る意味の拡大』開拓社.
Berk, L. M. 1999. English Syntax. Oxford University Press.
Dixon, R. M. W. 1991. A New Approach to English Grammar, on Semantic Principles.
Oxford University Press.
Goldberg, A. E. 1995. A Construction Grammar Approach to Argument Structure. The
University of Chicago Press.
(河口誓作ほか(訳) 2001. 『構文文法論
英語構文への認知的アプローチ』研究者
出版.)
Greenbaum, S. and G. Nelson. 2002. An Introduction to English Grammar. Pearson
Education.
Halliday, M. A. K. 1994. An Introduction to Functional Grammar. Edward Arnold.
Hewings, M. 2005. Advanced Grammar in Use. Cambridge University Press.
Huddleston, R. 1984. Introduction to the Grammar of English. Cambridge University
Press
池上嘉彦 1975. 『意味論』大修館書店.
Jespersen, O. 1954/2007. A Modern English Grammar on Historical Principles Ⅵ
-Morphology. Routledge Library Editions.
- 51 -
影山太郎. 1996. 『動詞意味論』
(日英語対照研究シリーズ 5).くろしお出版.
Lakoff, G. and M. Johnson. 1980. Metaphors We Live By. The University of Chicago
Press.
Langacker, R. W. 1987. Foundations of Cognitive Grammar. Vols. 1-2. Stanford
University Press.
二枝美津子 2007. 『格と態の認知言語学』世界思想社.
Radden, G. and R. Dirven. 2007. Cognitive English Grammar. John Benjamins
Publishing.
Wierzbicka, A. 1988. The Semantics of Grammar. John Benjamins Publishing.
【辞書】
Longman Dictionary of Contemporary English, Forth Edition. 2003. Pearson
Education Limited.
(『ロングマン現代英英辞典[4 訂新版]』2003. 桐原書店.)
The Oxford English Dictionary, Second Edition. 1989. Oxford University Press.
【文学作品】
Christie, A. 1965. At Bertram’s Hotel. Pocket Books.
Wallace, D. 1998. Big Fish. Pocket Books.
【映画資料】
The Devil Wears Prada. 2006. Twentieth Century Fox Film Corporation.
- 52 -
Fly UP