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若者の宗教意識と精神的安定に関する調査研究
人間科学研究 Vol. 19, Supplement (2006) 修士論文要旨 若者の宗教意識と精神的安定に関する調査研究 A Study for religious Consciousness and mental stability of youth 田辺 朋美(TomomiTanabe) 指導:青柳 肇教授 目的 宗教意識そのものについての直接的な調査は様々 的な人間の感情や知識、その対処方法など往々にして身に されているが、宗教を持つことで得られる精神的なメリッ ついていることが影響している可能性がある。「私は両親か ト(抑うつの低減、ソーシャルスキル向上、向社会性など) と宗教観を関連させた研究は末だされていない。これを調 ら礼儀作法が大事だといつも教えられてきました。 p(.05」 が宗教を持つ女性と持たない女性と比較して正の有意差が べることを目的とする。 生じたことから女性は特に、宗教と家庭環境に何らかの関 方法 私立大学2校、専門学校、フリーターなどその他 連性があることが示唆される。 の青年期を中心とした人々と、宗教関係者、宗教に関する 実験ト3 宗教観の有無および性差と向社会性の関連性 学科に在学中の学生など、 348名の男女に質問紙を用いた。 (研究1)実験1- 1 宗教の有無および性差と不安感の関 向社会的行動尺度(菊地)から向社会的行動の類度を回 答してもらい、宗教の有無でt検定、宗教が有る・無い、お 連性 よび性別の2カテゴリずつに分けて分散分析で比較を行っ 特性不安を測るSTAトTRAIT20項目を回答してもらい、 宗教の有無でt検定、宗教が有る・無い、および性別の2カ た。総じて宗教を持つ男女は宗教を持たない男女と比較し て得点が高く、向社会的行動が明確に表わされた。 テゴリずっに分けて分散分析で比較を行った。不安の程度 有意差が表れた項目6つは偶然に起こった出来事に対す と宗教の有無および性差による下位検定の結果から、宗教 る向社会的行動の積極性に関する項目である。これは宗教 は心のバランスのとり方に対しての安定性がある(精神が を持つ男女の突発的な出来事における精神的安定が一因で ゆり動かされにくい)ことが示された。 あると考える。有意差はないものの宗教を持たない男女が 普段の落ち着きは宗教を持っていない男女の方が高いと 宗教を持つ男女より得点が上回った項目はすべて「友人」 感じている(平静・沈着で落ち着いているp<05)。しかし 宗教を持っている男女は総じて、何かのイベントを行うと という単語が出ており、宗教を持たない男女の「友人」と「見 知らぬ他者」に対する向社会的行動の差が、宗教を持つ男 き、また突発的な出来事が生じたときに、判断に迷いがあ 女より大きく分かれているところが特徴として捉えられる。 まりなく(すぐに決心がつき迷いにくいp<.05)、困難なこ 「友人」にはより親身に接するということが考えられる。 とがあっても心の安定が保たれる(困難なことが重なって (研究2)宗教観の高低と不安感、ソーシャルスキル、向 も圧倒されにくいp<.05)と考えている様子が見られる。 実験1-2 宗教の有無および性差と、ソーシャルスキル 社会性、の関連性 の関連性 違いがあるのか。これを調べることを目的とする。 目的 宗教に肯定的、否定的な男女は精神的にどのような ソーシャルスキルを測る日本版SSI内の30項目を回答し 方法 実験1と同じ手順で、宗教に肯定的な群と否定的な てもらい、宗教の有無でt検定、宗教が有る・無い、および 群の2群に分け、不安感、ソーシャルスキル、向社会性を 性別の2カテゴリずつに分けて分散分析で比較を行った。 t検定で比較した。 有意差がでた質問項目にパーティや初対面の人たちと会う 結果 有意差が出た項目、数値、ともに実験1より減少し 状況のものが3つ見つかった。パーティなど初対面の人や たが、宗教に対する肯定群、否定群の比較結果は宗教の有 関係性の薄い人たちと話す突発的な状況、社交的な場にお 無の結果、考察とほぼ同じ傾向であることが確認された。 いてスキルが高いということは、困難な場面や突発的な出 来事に対して精神がゆり動かされにくいという実験1- 1 の結果と一致している。感情や緊張感が安定していること が、社会的スキルともつながることが示唆される。 宗教を持つ男女は「人の本当の感情が分かるので、人が 私に感情を隠すことはできませんp(.05」と考えている点は、 それぞれの宗教の聖書・経典に関する部分が影響し、普遍 -29-