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香料の世界でトップランナー - 中国経済産業局
テクノえっせい 333 香料の世界でトップランナー 広島工業大学名誉教授 中山勝矢 戦後の映画界で、セックスアピールによって世界の若者 を引きつけたマリリン・モンローをご存知でしょうか。ケネ ディー大統領と流した浮名の方が有名かもしれません。 この人がインタビューで「何を身につけて眠るのですか」 と訊かれ、「シャネル5番5滴」と答えた話が世界を駆け巡り ました。誰しも、「あれ、裸!」と思ったのです。(写真1) それまでの花を主体とした自然の優しい香りに対し、これ を劇的に変えたのは化学合成で作られたアルデヒド系の 香料で、シャネル5番にも配合されているといいます。 (写真1)これが有名な「シャネルの5番」 (当時の感覚からすればこのデザ インは革新的で、1924年以来、栓 の形は変わったが、瓶の形は引 き継がれているという) ●石鹸の香り ところで石鹸の始まりは、獣肉を焼くとき滴り落ちた油と 灰が反応してできた土が汚れ落としに役立つことに気がつ いたことだといいます。それは1万年も前のことでした。 そして紀元前4000年頃にメソポタミアで書かれた粘土板 には、何と楔形文字で初期の石鹸の製造法が記載されて いるというのですから、驚かざるを得ません。 モノのない時代に、獣や魚の油で作った洗濯石鹸を貰っ たことがあります。これはかなり臭い。今日では原料は精 製され、臭いを消すために適度に香料が加えられています。 50年も前のこと、海外で初めて泊まったホテルに置かれ た化粧石鹸の香りは魅惑的でした。仲間の留学生の中に は、紙に包んで衣類の間に挟んでおく人もいたほどでした。 従来、石鹸やシャンプーで広く使われた香料MMPは、ブ ラジルやベトナム、カンボジアで採れるサッサフラスという 木の根から採れる油を原料とするマリン系のものでした。 (写真2)世界で初めて工業原料からマリン系 の香料(MMP)の製造法を確立した 説明図。 (宇部興産㈱提供の資料による) 旬レポ中国地域 2014年7月号 一概にマリン系の香料といっても分かりにくいかもしれま せん。説明が難しいのですが、ほのかに西瓜の香りがする という人がいるように強烈ではなく、さわやかなのです。 でも乱獲によって絶滅危惧種に指定され、伐採禁止と なってしまってはお手上げです。これに対し宇部興産の技 術者たちは、工業用原料から作ることを考え、挑戦したの です。(写真2) 1 世界市場は年間600から700トン程度です。決して大きい 市場とは言えませんが、極微量、ppmオーダーの添加で使 うものですから、最終製品としては大変な量になります。 通常の製造法なら溶媒を使い、できたものを取り出して精 製し、これを何回も繰り返します。しかしこれでは収率が悪く なり、当然のことですがコストが下がりません。 新しく開発した手法は、一連の反応過程で有機溶媒の類 を使わず、取り扱いの厄介な原料であるメタクロレインは自 社で製法を確立し、量産するという内容でした。 ●苦労の先は世界トップシェア 純度99.7%でもプロの調香師に「酸臭、オゾン臭が混じっ ている」と指摘されました。追究の結果、原因はごく微量の 不純物だったなど、乗り越える問題が少なからずありました。 いまでは不純物の許容量を設定し、香りを数値管理して いるといいます。また開発段階からコストと開発期間を念頭 に置き、製造法を吟味して進めました。 (写真3) 実験室段階から直接、製造に移行するのはこの分野では 異例です。でも2年半で安価な製品の開発と事業化に成功 し、6年で世界シェア100%まで行ったのですから立派です。 (写真3)新しい製法で使用される反応槽 (宇部興産㈱提供の資料による) 天然物を原料とする従来プロセスは処理に時間がかかり、 収率も30%程度でした。新手法では、新しい触媒を開発す ることで収率が70%以上に向上し、廃棄物も数十分の一に なったのです。 MMPを入手容易な工業原料から製造する新しい道は、い まやグローバルスタンダードとなり、環境にやさしい香料を 提供するものとして評価され、世界を牽引しています。 想像を超えた大きな役割を担うことになった宇部興産㈱の 杉瀬良二さんをリーダーとする7名のグループは、平成25 年度の第5回ものづくり日本大賞特別賞に輝いたのでした。 HP http://www.ube-ind.co.jp <お知らせ> このたび中国新聞社から、このエッセイの最近の分を まとめた「技術とロマン Pt Ⅸ」が刊行されました。 経済産業省 中国経済産業局 広報誌 旬レポ中国地域 2014年7月号 Copyright 2014 Chugoku Bureau of Economy , Trade and Industry. 2