Comments
Description
Transcript
PARP阻害剤の 臨床応用に向けて
NEXT STRATEGY 乳がん・卵巣がん医療の新戦略 3 2010. NOV. ハイリスク層へのサーベイランスに期待されるMRI ー 画像診断を駆使した乳がん医療の展望 ー 聖マリアンナ医科大学 放射線医科学 教授 中島 康雄 先生 PARP 阻害剤の臨床応用に向けて 国立病院機構 四国がんセンター 乳腺科 青儀 健二郎 先生 婦人科の遺伝性腫瘍−遺伝性乳がん・卵巣がんを中心に ∼第16 回日本家族性腫瘍学会学術集会より∼ 慶應義塾大学医学部 産婦人科 教授 青木 大輔 先生 【遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の情報サイトのご案内】 BRCA1/2 遺伝子検査の提供施設が、全国に広がりつつあります ハイリスク層への サーベイランスに期待されるMRI −画像診断を駆使した乳がん医療の展望− 聖マリアンナ医科大学 放射線医科学 教授 中島 康雄 先生 遺伝性乳がん・卵巣がん(Hereditary Breast and Ovarian Cancer:HBOC)は早期発症、両側発症が特徴であり、 そのサーベイランスにはより精度の高い画像診断が欠かせない。今回は、近年のめざましい画像診断技術の進 展が今後の乳がん医療をどのように変えうるか、乳がん医療の Next Strategy を担う最新の画像診断機器の研 究動向を、中島康雄先生にお話しいただいた。 【ABVS】次世代の検診を担う 超音波検査装置 超音波検査は、被 曝もなく、被 験者に 痛みもない、非常に優れた検査方法です。 しかしながら超音波検査には、画像が 残らないため診断が読影者に依存する ことや、がん検診での使用に関してまだ 十分なエビデンスがないという問題点を はらんでいます。 片や、マンモグラフィ検査(MMG)は、 日本人でのデータは少ないものの、諸外 国では十分なエビデンスの蓄積があるた め、それらを根拠に検診での推奨度が定 められています。しかし、若年女性、特 に日本人の女性は MMG 画像が Dense Breastとなり判読しづらい例が多く、MMG 検査のアドバンテージが少ないとの指摘 もあります。そこで現在、東北大学の大 内憲明教授を中心とした研究班で、40 代 女性における超音波検査の対策型検診へ の有効性を評価する、大規模前向き試験 ( 厚生労働科学研究費補助金(第 3 次対 がん総合戦略研究事業) 「乳がん検診に おける超音波検査の有効性を検証する 図 1 ABVS の本体 2 NEXT STRATEGY 2010. NOV. 図 2 ABVS の検査画像 左:冠状断像、右上:横断像、右下:矢状断像 されるのは、 MMGや超音波検査では描出 できないMRI病変(MRI-detected lesion) の所見が得られることです( 図 3) 。乳が んの術前検査の MRI では、 対側の病変や、 想定を超えた病巣部の広がり等がとらえ られることにより、手術法が変わること があります。 一方、針生検についても MRI の活用 により確実性の向上が期待できます。 MRI でみながら針を入れる「MRI ガイ ド下生検」の標準化を目指し、現在本 学のブレスト&イメージングセンターで 臨床試験を実施中です。 このように、MRI は乳がん治療におい ても極めて重要な役割を果たしていま ための比較試験」 ( J- START) )が行な のはMRIです。MRIの検出能力はX線に す。乳がん診断の中で MRI という切り われています。 よるMMGをはるかに超えるものですが、 口をどう使っていくか、今後 2 ∼ 3 年で さて、当大学で開発している自動超音 乳がん検診に適した機器の開発や読影の 明らかな方向性が打ち出されていくと 波検査装置にABVS(Automated Breast 標準化が必要なため、現在、 日本乳癌検 考えています。 Volume Scanner )があります(図 1) 。こ 診学会では、MRIを用いた乳がん検診の れは、患者さんの乳房を自動的にスキャ ガイドラインを作成しています。欧米のガ ンし、読み込んだ画像をコンピュータに イドラインに準じれば、MRI 検診の適用は、 よって解析し、 データとして残せるため、 遺伝性およびハイリスク層の方が対象と CTや MRI と同様に撮影後、医師が評価 なるものと考えられます。 いま、乳がんの治療は術前化学療法が をすることができます(図 2) 。すでに国 当大学ブレスト&イメージングセンター 主流になりつつあります。そこで、画像診 内数カ所の医療機関に導入され臨床で使 では、乳がん専門施設として、乳がんに 断の役割としても、化学療法や放射線療 用されていますが、現在、本学をはじめ 特化して利用できるMRIを導入しました。 法による治療効果のモニタリングが極め 世界約 8カ所で前向き臨床試 験が行な 実際に私自身が相談を受けた患者さん て大きくなると考えられます。PETは、 が われています。前述の「J - START」で超 に、乳がんの濃厚な家族歴があった方 ん細胞の活動性を見る機能画像で、治療 音波検査の有効性が評価されれば、従 がおられました。若い方だったのでハイ 効果判定に役立ちますが、最近、乳房領 来の超音波検査の問題点を解消した リスクとして MRIを受けていただきまし 域に特化したものとして、PEM (Positron 【PEM】化学療法・放射線療法の モニタリング用途に ABVS が対策型乳がん検診に使われる可 た。乳がんの拾い上げと MRI によるフォ Emission Mammography:PETの核種を 能性があるといえます。 ローアップが大切だと思います。 利用した MMG)があります。 これは特に さらに、近年の超音波検査機器の画 一方、遺伝子診断を組み入れるにあ 乳房領域の空間分解能を高めた PETで、 質のレベル向上はめざましいのですが、 たっては、検査を受けた患者さんの精 乳がんの活動性をより正確に評価できる プローブやディテクターの構造も各社 神的ケアや心の支えが不可欠です。そ ものと期待されています。 改良に向けて開発が進んでいます。乳 のため、遺伝カウンセリングの仕組みな このように、新しい画像診断機器は乳 腺領域の画像診断においては、超音波 どのインフラ整備とMRI 検診のガイド がん診療に非常に有用なものですが、問 検査は少なくともC Tよりは、 はるかに優 ライン作成作業は、連動して動いてい 題は、日本は欧米に比べてこれら画像診 れた画像診断ツールになりうることが ます。技術だけを先行させるのは簡単 断に責任をもつべき放射線科医が非常に 期待されます。 ですが、それでは国民の幸せにつなが 少ないことです。 【MRI】新ガイドラインで遺伝性・ 家族性乳がんへの適用を検討 BRCA1/2 遺伝子に病的変異のある方 りません。やはり、環境整備と技術とが 今後、診断医の重要性に対する社会的 歩調を合わせることが大事です。 理解が進み、放射線科を目指す若い医師 HBOC 対策に限らず MRI により期待 が増えることを期待しています。 図 3 右乳がん(矢印 白) の患者さん、MRI によって対側乳がん(矢印 赤)発見 はもちろん、乳がんの家族歴があるな どのハイリスク層は、若年期からの乳 がん検診が必要です。MMG は若年検診 への有効性は低く、超音波検査も遺伝 性乳がん・卵巣がん対策へのエビデンス がない中で、現在欧米で推奨されている 3 PARP阻害剤の 臨床応用に向けて 国立病院機構 四国がんセンター 乳腺科 青儀 健二郎 先生 PARP 阻害剤は、 BRCA変異陽性がんへの奏効率が高く、かつ有害 事象が少ない分子標的薬として期待されている。その研究状況 と今後の動向について青儀健二郎先生に解説していただいた。 PARP阻害剤の機序 プとほぼ 同意義とみなされるものです。一般に、BRCA1/2 遺伝子 の病的変異がある患者さんの中では、TNBCが高頻度でみられ ます (表 1) 。 PARP阻害剤は、 遺伝子が傷害を受けたときの修復機能を標的と PARP阻害剤は、従来の抗がん剤に比べ、BRCA変異陽性がんや する薬剤の代表的なものです。 TNBC に特異的に効果を現し、有害事象も少ない薬剤として注目 傷害 DNAの塩基除去による修復機能(base-excision repair) に重 されています。TNBC は臨床現場において薬剤選択に苦慮するこ 要な働きを示す酵素が poly(ADP-ribose)polymerase:PARP です。 とが多く、今後の個別化治療を推進する意味でもPARP 阻害剤は PARPには同様の働きをするファミリーが存在し、 すべてが解明されてい 重要な薬剤として期待されます。しかし、 BRCA変異陽性乳がんと るわけではありませんが、現在、特にPARP-1 が注目されています。 TNBCは全く同意義ではありませんので、効果の発現には差がある DNAの組み換え、 修復に関与しているタンパクには BRCA1/2 が と考えられます。 ありますが、こちらは DNAの2本鎖が傷害された場合に相同組み BRCA1/2 遺伝子に異常があっても、まだ解明されていない他の 換えを行なう機能があり、欠損すれば遺伝子の修復機能が不完全 責任遺伝子が相補的に関わる可能性もありえます。その意味で、 となり、細胞は死に至ります。BRCA1/2 変異陽性がんでは PARP-1 PARP 阻害剤がどのような条件下で十分に効果を発現するのかは、 発現が顕著に増加することも報告されており、分子標的薬のター 研究途上にあります。 ゲットとして PARP-1 が注目されています。 プラチナ製剤等により DNAの損傷を引き起こした上、 さらに PARP-1活性を阻害する薬剤 を併用すれば、がんに対する細胞傷害性が高まります。2005年には、 至適投与法の検証も焦点に BRCAの機能が欠如している細胞がPARPの機能を阻害されれば、 その細胞はアポトーシスを起こすということが発表され、新規の 現在の PARP 阻害剤の研究におけるもう1 つの焦点は、至適投 抗がん剤への臨床応用が期待されました。 与法に関するものです。つまり、既存の抗がん剤との併用か、単剤 で投与すべきかということです。遺伝子に損傷を与えやすい抗が 遺伝性乳がん・卵巣がんに奏効 ん剤との併用では、PARP 阻害剤の効果は増強されます。2009年の 米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology : ASCO) では、BSI - 201のランダム化第2相試験において、ジェム BRCA1 変異陽性乳がんは、 エストロゲン発現陰性かつHER2タン シタビン (gemcitabine) 、 カルボプラチン (carboplatin:国内未承認) パク発現陰性のbasalタイプであり、 予後不良であることが知られて との併用例で、無増悪生存期間、全生存期間、奏効率においてす います。一方、全乳がんの10∼15%を占めるトリプルネガティブ乳が べて有意差をもって効果が得られました。この結果は大変大きな ん(Triple Negative Breast Cancer:以下 TNBC)は、 basal タイ インパクトを与えましたが、実際の臨床的な評価については、現 4 NEXT STRATEGY 2010. NOV. 表 2 現在行われているPARP阻害剤の臨床研究 ※赤字はBRCA 変異陽性がん、 TNBC に関する臨床研究 ( ASCO 2010 ) 在行なわれている第3相臨床試験の結果が待たれます。 ので、 日本人に対してのプロファイルの検証も今後の課題です。 また、TNBCを対象とした臨床研究の1つとして、経口のシクロ ホスファミド (cyclophosphamide : CPA) と PARP 阻害剤の組み合わ せが効果・安全性において優れているとの結果が出ました。臨床 BRCA変異陽性乳がん、TNBC治療に福音 現場で比較的使い慣れた薬剤との併用が検討されていることは、非 常に興味深いと思われます。 ASCO 2010で発表された薬剤の多くは、臨床試験が PhaseⅠ∼ このように、PARP 阻害剤の投与法には併用/単剤、点滴/経口 Ⅱの段階なので、PARP 阻害剤の有用性が明らかになるまであと などさまざまな組み合わせが考えられ、 多くの combination trial が行 数年かかると思われます。日本においては OlaparibとBSI - 201の なわれています (表2) 。 2 剤が先行して、国内で治験が開始されています。がんの臨床にお 一方、経口薬のPARP-1 阻害剤であるAZD2281 (Olaparib) は、単 いて、TNBCは薬剤感受性が低く、薬剤の選択が困難です。現在、 剤での臨床試験が行なわれました。ASCO 2010 において、 Olaparib は カルボプラチンとジェムシタビンが比較的効くとされていますが、 BRCA1/2 変異陽性卵巣がんにおいては奏効率 41%との結果が報告 PARP 阻害剤によりこれらの薬剤を上回る有用性が得られ、治療 されました(表3) 。副作用の軽微なことが注目されたOlaparibです に苦慮するTNBC への新たな薬物療法のスタンダードとなれば、乳 が、投与量に比例して倦怠感、下痢などの副作用が現れることも がん診療への大きな福音になるものと思われます。 報告されています。分子標的薬のプロファイルは人種差が大きい 表 1 BRCA1/2 遺伝子変異の有無とTNBC トリプルネガティブ トリプルネガティブ以外 表 3 BRCA変異陽性がんに対するOlaparibの奏効率 遺伝子 変異なし n=391 BRCA1 遺伝子 変異あり n=56 BRCA2 遺伝子 変異 n=30 症例数 % 症例数 % 症例数 % 54 13.8 32 57.1 7 23.3 337 86.2 24 42.9 23 76.7 (Atchley DP et al ., Journal of Clinical Oncology, , 26 (26) : 4282 - 4288, 2008) BRCA Non - BRCA ORR%(x/n) 95% confidence interval( %) ORR%(x/n) Ovarian 41.2(7/17) 21.6 64.0 23.9(11/46) 13.9 Breast 0 (0/8) 0 32.4 0 (0/15) 95% confidence interval( %) 0 37.9 20.4 ( ASCO 2010 ) 5 婦人科の遺伝性腫瘍− 遺伝性乳がん・ 卵巣がんを中心に 第16回日本家族性腫瘍学会学術集会より 遺伝性乳がん・卵巣がん(HBOC)は、乳腺 科と婦人科、遺伝診療科等の診療科を越 えた連携が求められる。本講演では HBOC を中心に、遺伝性がんについて婦人科臨 床医がもつべき知識が紹介された(2010 年7 月10 日開催)。 慶應義塾大学医学部 産婦人科 教授 青木 大輔 先生 婦人科領域の主な遺伝性腫瘍 遺伝性腫瘍の中で婦人科が担当する疾患としては、BRCA1/2 の MLH1 変異が関与している遺伝性乳がん・卵巣がん(以下HBOC) 、 などの DNA 修復遺伝子が関与している Lynch 症候群(遺伝性 非腺腫症性大腸がん:HNPCC、婦人科のがんとしては子宮体がん) 、 LKB1/STK11 が関与し ているPeutz-Jeghers 症候群があります (表1) 。 表 1 婦人科領域における遺伝性腫瘍 疾患名 Lynch 症候群 (遺伝性非腺腫症性 大腸がん:HNPCC) 婦人科がん 関連遺伝子 MSH2 子宮体がん MLH1 PMS2 MSH6 卵巣がんには、主に漿液性腺がん、類内膜腺がん、明細胞腺がん、粘 液性腺がんの4つの組織型があり、腹膜播種を起こしやすく、病巣が一 気に広がります。全年代で少しずつ増加傾向にあり、 30代後半以降の女 性にも多くみられます。 進行期別にみるとⅠ期 (=卵巣だけにとどまっ ている症例)∼Ⅱ期が半数を占めるのに対して、 Ⅲ∼Ⅳ期の進行がん もほぼ半数の 45%であり、5 年生存率も大変低い。子宮頸がんや子宮 体がんに比べ、極めて予後の悪い疾患といえましょう。 HBOCにおける卵巣がん発症リスク Peutz - Jeghers 症候群 遺伝性乳がん・ 卵巣がん (HBOC) 子宮頸がん 悪性腫瘍 分葉状頸管腺過形成 (LEGH) 卵巣がん LKB1/STK11 BRCA1 BRCA2 あります。 BRCA1/2 変異陽性者の卵巣がんの生涯リスクは、 では約 BRCA1 30%、同じく では 10%となっています。また、家族歴の有 BRCA2 BRCA1/2 先述のように、HBOCは原因遺伝子として が関与して 無によりリスクは異なり、乳がんの家族歴がない方での卵巣がんの います。新潟大学・関根正幸先生らのデータによれば、日本人の 年間罹患率は人口 10 万人対 45人ですが、第 1 度近親者に 2 人以上 乳がん・卵巣がん家系のBRCA1 遺伝子変異陽性率は 67%、同じく の乳がん患者がいる場合は人口 10万人対 9 9人と、発症頻度が倍増 BRCA2 は 11%です。一方、卵巣がん家系では BRCA1 変異陽性は することがわかっています。 BRCA2 3.6%であり、約半数に BRCA1/2 遺伝子の異常が 40%、 は 卵巣は発生学的に腹膜の表面から出てくるため、腹膜がんは卵 みられます(表2) 。カナダのデータでは、卵巣がん患者 416人中 巣がんに近いものと考えられます。臨床でもしばしば卵巣がんと 41人が BRCA1/2 遺伝子変異陽性と報告されており、卵巣がんの患 同様の治療方針を立てますし、同じ薬剤も使いますので、HBOCの 者さんの約 10%に遺伝子異常をもつ方が含まれているとの知見が 関連がんととらえるべきものです。 6 NEXT STRATEGY 2010. NOV. 表 2 日本人がん家系を対象にした BRCA1/2 遺伝子解析 BRCA1 遺伝子 家系数 BRCA2 遺伝子 変異検出例 合計 乳がん・卵巣がん家系 27 18 3 21 (66.7%)(11.1%) (77.8%) 卵巣がん家系 55 22 2 24 (40.0%)(3.6%) (43.6%) 合 計 82 40 5 45 (48.8%)(6.1%) (54.9%) al.,Clin.Cancer Res 7(10): 3,144 - 3150, 2001) (Sekine M. et ., ハイリスク者への対策と NCCN ガイドライン BRCA1/2遺伝子変異をもつ女性への対策としては、以下の2つ が挙げられます。 ◆ 頻回のスクリーニング検査:頻回(定まっていないが、6カ月ご とが適切といわれている)のスクリーニング検査として経膣超音波 検診を行ないます。腫瘍マーカー CA125 は、感度は良好でも特異度 はかなり低いので、検診用途においては確立されたものではあり ◆予防的乳房・卵巣卵管切除術 ( Risk-reducing salpingooophorectomy;RRSO) :NCCN のガイドライン「 Genetic/Familial High-Risk Assessment:Breast and Ovarian」によれば、予防的 乳房切除については「ケースバイケースで判断し、ディスカッショ ンするように」と記されていますが、卵巣卵管摘出に関しては一歩 踏み込んで推奨されています。このガイドラインには日本語訳が あり、一般の人もアクセスすることができます。 エビデンスとしては、RRSO によって約 1/5 までがん発症リスク を減らすことができると報告されています(図 1 ) 。他のメタ・ア ナリシスでもリスクが 80%低減するという結果で共通していま す。また、RRSOを施行したところ、摘出部位にがんが発見され た症例も2 ∼17%の頻度でみられます(※) 。 一方で、卵巣卵管を切除しても、腹膜がんを発症したという報 告もあります。頻度的には多いものではありませんが、累積のリ スクで 2.5 ∼ 3.5%と報告されています。RRSO をしても、数%の 頻度でまたがんが発症してしまう可能性があることを事前に患者 さんに理解していただく必要があるかと思います。 ※2010 年 9月2 日に発表された JAMA掲載論文において、RRSO は発症リスクを 低減するだけでなく、死亡率を減少させることが 報告された。 (Susan M. et al., JAMA ,304(9) , 967‐975, 2010) ません。 図 1 BRCA1/2 遺伝子変異がある女性を対象にした予防的卵巣卵管摘出の効果の比較研究 対10万人年間発症率(卵巣がん、卵管がん、腹膜がん) (/10万人 / 年) がん発症率 1,200 1,000 800 観察症例数(平均観察期間3.5年) 予防的卵巣卵管摘出 なし あり 総観察症例数 1,262 1,034 BRCA1 変異症例数 911 825 BRCA2 変異症例数 344 205 600 400 200 0 予防摘出なし 予防摘出あり 遺伝子変異による治療法の選択 et al., JAMA, (Finch A. 296 ( 2) , 185 - 192, 2006) から新アムステルダム基準を満たす子宮体がん症例を抽出しまし た。その結果、2,457症例の中から HNPCC が 34 症例、1.38%の 頻度でみられました。参加施設が 10 施設にとどまったのは、家族 最近、PARP inhibitorという分子標的薬が開発されました。 BRCA 歴聴取が行なわれている施設が少ないためで、医療者の関心の低 変異のある細胞に直接作用する機序から、 臨床においてはBRCA1/2 さがここにも現れています。 遺伝子検査による異常の有無の確認後に投与する、 という方向性が 一般の婦人科医は、まずは「婦人科においても遺伝性腫瘍は 考えられます。腹膜播腫の縮小、BRCA1/2 遺伝子変異陽性の卵巣 存在する」ということを認識していただきたい。その診断には がん15 例中の半分に奏効というデータが出ています。実は、婦人 家族歴の聴取が重要ですので、地道にインタビューを行なうのが 科領域では良い分子標的薬が皆無に近い状況であり、再発卵巣が 望ましいと思います。いずれ婦人科においても、遺伝子変異に んに効果的な薬はありませんので、 これは大変インパクトのあるデー 応じて治療法が選択される可能性を秘めていると考えていま タだと思います。BRCAの変異という視点が、このような新薬の開 す。また HBOC においては、婦人科、乳腺科といった診療科の 発にもつながっているわけです。 横断的なサポート体制が必要です。各領域の医師が同じ知識を 共有することが何よりも大切であり、患者さんのみならず、そ 診断には家族歴聴取が重要 のご家族のサポートにもつながります。 日本産科婦人科学会の「本邦における遺伝性子宮内膜癌の頻度 と、その病態に関する小委員会」 (2006 - 2008)では、国内 10 施設 7 【遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の情報サイトのご案内】 BRCA1/2 遺伝子検査の提供施設が 全国に広がりつつあります ∼ 一般・患者さま向け Webサイトで医療施設をご紹介しています∼ 一般の方々・患者さまへの遺伝性乳がん・卵巣 HBOC の遺伝カウンセリングと BRCA1/2 遺伝子検査を 提供できる医療施設のある都道府県(40 施設) がん (HBOC)の認知度向上を目的とした Web サイ ト「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の情報サイト」 (2010 年11月時点) (http://www.familial-brca.jp/index.html)では、 BRCA1/2 遺伝子検査および遺伝カウンセリング を受診できる施設をご案内しています。同 Webサ イト内に、この秋より、 一般の方々に遺伝子検査 や遺伝カウンセリングの実際を、わかりやすく具 体的にお伝えするコンテンツが加わりました。 現在、国のがん対策の急務として、地域格差 なく、どこでも質の高い医療を提供するための 体制作りが進められています。株式会社ファル コバイオシステムズは、HBOC の患者さまの医療 へのアクセス向上を目指し、 これからも全国的 な遺伝子検査体制の充実や、患者さまへの情報 提供に努めて参ります。 ※現在、Web サイトに掲載しているのは一部の施設です。 施設紹介コンテンツの内容 ● 施設概要 遺伝 カウンセリング日、 予約方法、費 用、施設へのアクセス等。 ● 遺伝カウンセリング体験レポート 外来受付から遺伝カウンセリング受 診までを、患者さまの視点でレポート しています。 ● 医療スタッフからのメッセージ 遺伝カウンセリングを担当する医師 や遺伝カウンセラーのメッセージを 動画で見ることができます。 NEXT STRATEGY vol.3 2010. NOV. 2010 年11月19日発行 バイオ事業推進部 京都府久世郡久御山町田井西荒見17 番地 1 TEL 0774-46-2639 FAX 0774 - 46 -2655 URL http://www.falco-genetics.com/ 【星総合病院 外科 野水 整 先生】