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3144 ノイズサーチテスタ
3144 ノイズサーチテスタ 1 3144 ノイズサーチテスタ 飯島 淳司 *1 要 旨 3144 ノイズサーチテスタは容量結合型の非接触電圧センサを用いて,通信線や電源線を 侵入経路とする伝導性妨害波の周波数帯や侵入経路を探索する測定器である.ここに製品 の特長,構成について解説する. 1. はじめに 近年のインバータ機器をはじめとするノイズ源 の増加にともない,電子機器のノイズトラブルに よる被害が多くなっている.各種通信ネットワー クの発達により複数の通信機器間をケーブルで接 続し,その接続形態も複雑化しているため,一度 の障害が与える影響も大きくなる. また,半導体デバイスの高速・高密度化や,低 電圧駆動化により故障や通信障害などのトラブル が発生しやすくなっている. ノイズ対策を行うのに,機器に影響を与えるノ イズがどのような周波数帯でどの程度のレベルか 3144,9741 の外観 を把握することが重要なひとつであるが,広い周 波数帯にわたるノイズを同時に検出,表示するた めにはスペクトルアナライザのような高価な測定 器が必要であった. このような背景により今回,NTT 東日本技術協 力センター様の技術に基づき,簡易的に広帯域に わたりノイズレベルを連続的に表示することがで き,安価で携帯性に優れたノイズ探索装置を開発, 商品化した. による通信トラブルの危険があったり,一度ネッ トワークを遮断して測定する必要があった. 3144 では,9741 を用いることで非接触でコモン モードノイズ電圧が検出できるため,ネットワー クの運用状態のまま,通信へ影響を与えることな くコモンモード電圧の検出ができる. また,電源ラインでも安全性に優れている. 3144 本体では,9741 で検出したノイズ電圧を広 帯域 (500 Hz ~ 30 MHz) にわたりレベルメータに連 2. 概要 続的に表示する.レベルメータへの表示方法は,周 通信機器など電子機器に障害を引き起こすノイ 波数 500 Hz ~ 30 MHz において 7 帯域の周波数帯 ズの侵入経路のひとつに,機器に接続されている 通信線や電源線と,大地間のコモンモードノイズ に分離して表示している.アナログ出力端子をも つため,オシロスコープなどに接続して検出した としてケーブルを伝わり機器に侵入する伝導性妨 ノ イ ズ 電 圧 波 形 を モ ニ タ す る こ と が で き る. 害波がある. 3144 ノイズサーチテスタは容量結合型の非接触 また,ロギング機能により設定した記録間隔 (1 秒 電圧センサ (9741 クランプオン電圧センサ ) を用い ベルと現在の時刻を記録することができ,長期の て,非接触で通信線や電源線に発生するコモン データ収集が可能である. 電源は電池およびACアダプタに対応しているた モードノイズ電圧を検出する. 従来からの電圧検出方法では測定ラインに直接 電圧プローブを接触して測定する必要があったた め,通信ラインでは通信への影響や,人為的ミス ~ 60 分 ) で,内部メモリに各周波数帯のノイズレ め携帯性を生かした現場での測定と,長期測定の 双方に対応する. *1 技術部 第 6 研究室 日 置 技 報 VOL.25 2004 NO.1 2 3144 ノイズサーチテスタ 3. 機能・特長 構成は内外の円筒型の電極で構成されている. (1) 非接触型電圧センサ 容量結合型の非接触電圧センサ(9741クランプオ アース電極 ( 外側の電極 ) は電位基準点に接続する ために接地端子を設けている.アース電極を電位 基準点に接続することにより静電シールドを施し ン電圧センサ)を用いることにより運用中のネット ている.信号電極 ( 内側の電極 ) にはアース電極と ワークへの影響やケーブルに損傷を与えることな の電位差を検出するための高入力インピーダンス くノイズ電圧の検出が可能である. の電圧検出部が設けられている. (2) 測定周波数帯域 500 Hz ~ 30 MHz ケーブルを伝搬して機器に侵入するノイズには 以下のようなものがある. 信号電極の内側に測定ケーブルをクランプする と,測定ケーブルと信号電極間の結合容量 C1,信 号電極とアース電極間の結合容量 C2,により電圧 (a) 送電線,電気鉄道などからの誘導ノイズ ( 商用 周波数~ 1 kHz) (b) スイッチング電源,インバータ付機器からの誘 導ノイズ ( 数 kHz ~数 100 kHz) (c) 中波 (AM) 波などからの誘導ノイズ ( 数百 kHz ~数 MHz) (d) CB 無線,アマチュア無線などからの誘導ノイ ズ ( 数 10 MHz ~数 100 MHz) 3144 では電気鉄道などからの比較的低い周波数 帯のノイズからCB無線帯域までの広帯域をカバー 検出部からはアース電極を電位基準点とし,結合 容量 C1,C2 により分圧された電位が検出される. 図 2 に等価回路を示す. 図 2 の等価回路において,測定ケーブルに発生 するコモンモード電圧を VCM で表す. C1 は測定ケーブルと信号電極間の結合容量,C2 は信号電極とアース電極間の結合容量である. CIN および RIN は,電圧検出部の入力容量および 入力抵抗である. している. 9741 の周波数特性は,600 Hz ~ 30 MHz(-3dB 帯 電圧 検出部 域 ) である. (3) ロギング機能による長期監視 測定データは内部メモリに最大 64,000 データの C2 C1 記録が可能である.記録間隔を 1 秒から 60 分の間 で設定することで,一定間隔で現在の時刻と各周 波数帯のノイズレベルの最大値を記録することが V CM 信号電極 できる.時々しか発生しないノイズに対しては アース電極 3144 を設置したまま長期にデータ取りを行い,ト ラブル発生時にどこで,どのような周波数帯のノ イズが発生したかを確認することで,故障時の早 図 1 非接触電圧センサの基本原理図 期の原因究明や,対策の手助けとなる. また,USB インタフェースを装備し,付属の PC ソフトにより記録したデータのパソコンへの転 送,時系列データの表示,画像保存,プリンタへ の出力が可能である. C1 4. 構成 V CM R IN C2 C IN 4.1 非接触電圧センサ部 (9741) (1) 非接触電圧センサの原理 容量結合型の非接触電圧センサの基本原理図を 図 2 等価回路 図 1 に示す. 日 置 技 報 VOL.25 2004 NO.1 3144 ノイズサーチテスタ 3 電圧検出部からの出力電圧VOUTは以下の式で表 アース電極 される. VOUT jωC1 RINVCM ............... (1) = 1 + jω (C1 + C2 + C IN ) RIN バッファ アンプ 信号 電極 HPF 増幅部 出力抵抗 CIN RIN 上式において,ω(C1+C2+CIN)RIN >> 1 が成り 立つ周波数範囲において,電圧検出部からの出力 図 3 9741 回路構成 電圧 VOUT は, VOUT = C1 VCM ........................... (2) C1 + C2 + C IN となり,周波数に無関係に一定の感度を得ること ができる. C1,C2,CIN および RIN によりハイパスフィル タが構成されるためカットオフ周波数 fC は, fC = 1 ........................ (3) 2π (C1 + C2 + C IN ) RIN 図 4 9741 周波数特性 ( 被測定ケーブルへの入力電圧 1 V) で表される. 9741 では,CIN,RIN を調整することにより,周 波数帯域 600 Hz ~ 30 MHz(-3dB 帯域 ) を実現して Y 方向 いる. (2) 9741 回路構成 図 3 に 9741 の回路構成を示す.入力のバッファ・ X 方向 アンプは,FET 入力により高入力インピーダンス +広帯域のバッファ・アンプを構成している.後 段には,商用周波数をカットする目的の HPF およ び信号増幅回路で構成されている. 9741 の周波数特性を図 4 に示す.9741 は 600 Hz ~ 30 MHz の帯域をもつ.通過帯域においては平坦 な周波数特性をもち一定の感度を得ることができ 図 5 導体位置による影響 ( 被測定ケーブルへの入力電圧 1 V) る.また図 4 では,線材は裸銅線を使用,クラン プする位置は信号電極の中心にて測定している が,ケーブル径は感度変化に影響する.これはケー ブル径により信号電極とケーブル間の結合容量が 変化するためである.φ10 mm と φ0.4 mm 導体径 においては約 10dB の感度変化がある. 図 5 に測定ケーブルの位置による影響を示す. 最大で約 5dB の感度変動があるが,これも信号 電極とケーブル間の結合容量が変化するためであ る. 4.2 3144 回路構成 図 6 に 3144 のブロック図を示す. 回路全体の制御には 16 ビットの CPU を使用し ている.測定回路の制御,LCD 表示,キー入力の 制御,外部インタフェースの制御などを行ってい る. ブル径,ケーブル位置の影響があるため,使い方 (1) アナログ部 入力部は,9741 専用入力端子と BNC 入力端子を としては通過帯域のノイズ電圧に対して,どの周 もち,いずれかからの入力が可能であり 1 Vf.s,500 波数帯のノイズレベルが大きいかを相対的に観測 Hz ~ 30 MHz の入力範囲をもつ.入力された信号 する使い方となる. はレンジアンプを通り,7 帯域の BPF により弁別 以上より,9741 の感度変化の要因として,ケー 日 置 技 報 VOL.25 2004 NO.1 4 3144 ノイズサーチテスタ Analog Output INPUT Range Amp Flash Memory Earphone BPF USB controller CPU (16bit) MPX RMS-DC BPF 内蔵A/D 内蔵D/A RTC KEY LCD 図 6 3144 ブロック図 される.各周波数レンジの周波数帯域は以下のと おりである.(-3dB 帯域幅 ) (2) ディジタル部 (a) メモリ データ保存用として2 MBのフラッシュメモリを 1kHz レンジ 500Hz ~ 3kHz 使用している.記録間隔 1 分と設定した場合,1 か 15kHz レンジ 7.5kHz ~ 22.5kHz 月以上のデータが保存可能となっている. 70kHz レンジ 35kHz ~ 105kHz 250kHz レンジ 125kHz ~ 375kHz 間にわたる機器動作の安定性とデータ保持の確実 1MHz レンジ 0.5MHz ~ 1.5MHz 性を確保するため,保存前にデータを保存する領 3MHz レンジ 1.5MHz ~ 4.5MHz 20MHz レンジ 10MHz ~ 30MHz また,フラッシュメモリの特性を考慮し,長期 域が未書き込みであることを確認し (RV),その後 データの書き込み,確認 (WV) を行うようにしてい る. BPF で弁別された信号は MPX で周波数レンジを 選択し,RMS-DC 変換部により直流電圧に変換す る. RMS-DC 変換部で変換された信号電圧は CPU 内 蔵の A/D を使用し,LCD の各周波数レンジのレベ ルメータに表示される. (b) 時間管理 (RTC,クロック ) 長期の測定を行うためには,時間の正確性が重 要なファクターとなる. 本器では,高精度のクロックを CPU に供給して いる.これにより1 s/日の時間確度を確保している. RTC は電源 OFF 時の日付,時間のバックアップ また,ロギング機能を設定することにより設定 を行い,動作中は CPU が時計管理を行っている. した記録間隔で,現在の時刻と各周波数帯のノイ ズレベルの最大値をフラッシュメモリに記録す (3) アプリケーションソフト 付属品として,3144 本体の内部メモリに保存さ る.サンプリング速度は,記録間隔の設定によら れたデータをパソコン上でグラフ表示できるアプ ず 100 msec である. リケーションソフトを用意している. 3144 は波形モニタおよび可聴帯モニタの出力機 以下に機能を示す. 能をもつ.波形モニタでは,入力信号波形を出力 (a) データのダウンロード し,オシロスコープに接続することで波形をモニ タすることが可能である. (b) データリストの表示 可聴帯モニタ機能では,入力信号を包絡線検波 (c) 時系列データの波形表示 ( 図 7) (d) ピーク値とピーク検出時刻の表示 ( 図 7) して出力する.イヤホン出力によりノイズ源固有 (e) データ保存,BMP 保存 の繰り返しがある場合,使用者の経験に基づいた (f) 印刷 ノイズ音によるノイズ源の切り分けが可能であ る. 日 置 技 報 VOL.25 2004 NO.1 3144 ノイズサーチテスタ 5. おわりに 発売後,要望などが多く挙げられ,ノイズでト ラブルを抱えているユーザは多い.3144 は,非接 触電圧プローブ (9741) により簡易にコモンモード ノイズの測定ができ,視覚的にわかりやすい製品 となっている.一方,ノイズを測定しても良い悪 いを判断しづらい面があり,今挙がっている要望 や意見も参考に,アプリケーションの充実を図っ ていくことが今後の課題である. 森 和弘 *2,小林 敬幸 *2,宮沢 健明 *2, 塩野入 健一 *3 参考文献 1) 小林,田島,広島,桑原,服部:容量性電圧プ ローブの開発とその特性,環境電磁工学研究 会,EMCJ98-25,9 / 16 2) 小林,服部,井出口:伝導性妨害波の無接触測 定方法の検討,電子情報通信学会,B294(1995) 3) 伊藤,佐尾,岡安,服部:小型・高性能ノイズ 探 索 テ ス タ の 開 発,電 子 情 報 通 信 学 会, B454(2004) 図 7 時系列データ表示画面 *2 技術部 第 6 研究室 *3 技術部 第 10 研究室 日 置 技 報 VOL.25 2004 NO.1 5 6 3144 ノイズサーチテスタ 日 置 技 報 VOL.25 2004 NO.1