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まちづくりがコミュニティ意識に与える影響
愛知学院大学政策科学研究所所報「政策科学j 第 5 号( 2014) まちづくりがコミュニティ意識に与える影響 I n f l u e n c e so fCommunityandTownDevelopmentonCommunityConsciousness 村田尚生 TakaoMurata 1 はじめに 戸建・持家率の違いを影響要因として検証する。 これまでの日本の社会では個人の自由や経済的豊かさ 尚、自治会や町内 会の活動 については地区によって多 を追い求めるあまり、結果として社会の無縁化といわれ 数の組織にわかれている場合があること、どの地区も自 る状況を招いている。都市の片隅で高齢者が誰にも看取 治会や町内会が十分に機能していることから、要因とし られずに亡くなってし、く孤独死だけでなく、若者たちで て比較検討の対象から外した。 さえ少子高齢化を助長するかのように結婚せず、単身世 帯が増え続け、孤独に対する不安を抱 えて いる。こうし 3 . 研究の方法 た中、 2011 年 3 月に起こった東日本大震災では、人と人 (1)調査対象地の概要 の粋が互いの命を支え、改めてつながりの大切さが認識 されることとなった。 調査対象地とした愛知県日進市は、全国的に人口減少 基調にあるなか名古屋市のベッドタウンとして現在も人 これまで高度成長期を経て現在に至るまで、市街地を 口が社会増 しているだけでなく出生率も高い。こうした 開発し地域を形成する中で、計画的にコミュニティの形 状況を支えてきたのは高度成長期より継続的に行われて 成を考慮した開発が行われた場合もあるものの、多くの きた住宅開発であり、時代や環境の 変化と ともに様々な 場合は、開発後の 自 治会等のコミュニティ活動に委ねら 開発手法がとられている 。 れてきた。こうした計画的開発はまだしも、開発圧力か らスプロール的に一体性なく形成された市街地も多い。 元来 、日進市は東部丘陵か ら流れる天白川の流域に広 がる農村地域として、市の中心にある平野部にいくつか そこで、本稿では、まちづくりがどのように行われる の農村集落が形成されていた。集落周辺の農地は昭和 40 と人々のコミュニティ意識が醸成されるのかを検証する 年代後半に農振農地に指定され、市街化調整区域という こととす る。 こともあり、旧来の街割をそのまま残している。 昭和 40 ~ 50 年代にかけて開発圧力が高まる中、名古 2. 既往研究との関連 これまで心理学分野において 、 コミュニティ意識や地 屋市に近いE 陵部の市街化区域では公団をはじめ様々な 主体による土地区画整理事業が行われている。一方で、 域意識をどのように分類評価し測定するかの研究がな さ 市の周辺丘陵部の市街化調整区域内で旧住宅地造成事業 れてきた(田中ほか 1978,石盛 2004,笹尾 2007)。また、 に関する法律(以下、旧住造法)により住宅団地の開発 建築、都市計画、農村計画領域では、 一人ひとりの地域 が行われた。こうした開発の中には無認可の住宅団地も での活動や暮らし方から、コミュニティ意識やまちづく ある。丘陵部の市街化区域で名古屋市からの交通の便の り意識の違いがどのように生まれるかの研究がなされて 比較的悪い地域ではミニ開発が繰り返されスプロール的 いる(栗原ほか 1967,杉岡 1982,小池 1993 ,渡遷勉ほ な市街地となっている。いずれにせよこれらの開発の中 か編著 2008)。これらの研究ではいずれも個人に焦点、が 心は戸建て 住宅地であり、指導要綱により土地の細分化 当てられている。個々人がどのように開発された地域に が防止され比較的広い区画となっている。 居住しているのかということに着目したものは菱山 さらに、日進市を東西に横断する名古屋市営地下鉄鶴 (1980 )による開発地区か旧来の地区の住民でコミュニ 舞線(昭和田年)、名鉄豊田線(昭和 54 年)の開通に ティ意識がどう変化するかというものにとどまる。 伴い、名古屋市および自動車関連産業が集 まる豊田市へ そこで、本稿ではコミュニティ意識の違いが、開発の のアクセスが向上し、駅周辺での土地区画整理事業が行 計画性や、都市基盤の状況、地域コミュニティに関連す われた。その際、駅前の用途地域は容積率 300% の近隣 る都市施設といったハード面の開発状況によりどのよう 商業地域に設定されたため、中高層のマンション建設が に影響を受けるのか、また、地域福祉事業としてつなが 進行する結果となった。 りや居場所を作り 出 すサロン等のソフト面での事業の影 (2 )アンケート調査の概要 響、さらには行政指導のあり方として地区の世帯規模や 本稿のデータとした「日進市福祉コミュニティ意識調 3 5 POLICYSCIENCEREVIEWNumber5( 2 0 1 4 ) 査J は、愛知学院大学政策科学研究所が日進市役所福祉 表 1 部福祉課および社会福祉法人日進市社会福祉協議会の協 力のもと実施 し た。 日 進市内の町域を基準に 24 の調査地 区に分け、各地区 100 世帯ずつ系統抽出法による無作為 調査項目およびアンケート設問 調査項 目 設 問 地域の広がり 「あなたがお住まいの地域」といったとき、次のどの範囲 (狭い l 点伸広い 9 点で をイメージしますか 得点化) l 自宅周辺の2~ 30戸程度(班・組の範囲) 2 . 自宅周辺の 50 ~ 100 戸程度 (旧 小字・丁目・大規 抽出を行った。調査期間を平成 24 年 2 月 10 日から 20 模マンションの範囲) 3 自宅周辺の 500~ 1000戸程度(自治会の範囲) 日 とし、郵送法によるアンケート調査を行った。転居等 4 自宅周辺の 2000 ~ 5000戸程度(旧大字の範囲) で配送されなかったものもあり、有効発送数 2382 票、 5 小学校区の範囲 6 中学校区の範閤 有効回収数 820 票、回収率 34.4% で、あった。 7 日進市全域 B 隣接市町村を含む範囲 (3 )分析の枠組み 9. それ以上の範囲 アンケー ト 調査により得られたデータを調査地区ごと に集計し、各地区のコミュニティ意識の実態を把握した。 コミュニティ意識を測定するために採用した調査項目を 表 1 に示す。 また、コミュニティ意識の醸成に影響すると考えられ るまちづくりの現状を把握するために、地区ごとに開発 の経緯や都市基盤の整備状況、都市施設の整備状況とい ったハード面、地域福祉事業の実施状況や行政施策の結 果としてみた世帯規模および戸建・持家率の状況を整理 自治組織への加入率 あなたの世帯は自治会など地域自治組織に参加して いますか 地域活動への参加率 あなたは地域活動や行事に参加 して い ますか 新旧の交流 あなたのお住まいの地域では、先祖代々住んでいる (交流ありーなし%) 人と、日進に引っ越してきた人との関係は良好です 台、 相互扶助 あなたが困ったときに近隣の方から手助けされ助か ボランティア活動への あなたは現在どんなボランティア活動をしています ったことはありますか 参加率 七、 自助・共助意識 地域で安心して暮らしていくための福祉を充実させ (自助共助+ 2 点特 公助 一 2 点) ていくうえで、市民と行政との関係はどうあるべき だと思いますか l 家庭内や、地域内で互いに助け合い、手の届かな した。具体的な調査指標については、表 2 に示す。 い部分は行政が援助するの2) 2 福祉の充実のため、市民も行政も協力し、ともに取り これらをもとに、各地区のまちづくりの現状について 組む(+ l) 分類し、分類ごとのコミュニティ意識の平均値を比較す 3 福祉の充実は行政に責任があるが、行政の手が届 ることで、まちづくりのあり方がコミュニティ意識にど 4 福祉の充実は行政に責任があり、市民は協力する かない部分は市民が協力する( 必要がない(ー2) のように影響しているのかを分析する。 表2 4. 開発経緯がコミュニティ意識に与える影響 日進市における昭和 33 年の町制施行時の人口は約 1 万人であり、その後の住宅地開発により人 口 が増加し、 平成 25 年時点で 8 万 5,000 人を超えている。この 55 年 の聞に旧集落をベースとした人口の 7.5 倍の人口が流入 旧集落の有無 戦前から続く農村集落の有無 緯 経 発 土地区画整理事業の有無 土地区画整理事業が行われたか 旧住造法団地の有無 旧住宅地造成事業による住宅団地の有無 基 都 市 幹線道の整備状況 国道または県道が市街地を貫通または隣接 鉄道駅までの距離 鉄道駅まで lkm圏内か 盤 市街地境界の状況 市街地周辺が里山・田畑か市街地が連坦か 福祉会館 都 施 市 画整理事業であるが、その他にも無認可の団地開発の他、 設 スプロール的なミニ開発も多く、約 7 万 5,000 人はこれ 小学校 公園・緑地 神社 ぷらっとホーム事業 計画的に開発がすすめられた 土地区画整理事業での計画 福 域 地 業 事 祉 ふれあい・いきし、き サロン事業 旧 集落の有無によりコミュニティ意識各項目の平均値 3 6 旧来のコミュニティの核となる神社の有無 気軽にぶらつと集まって趣味を楽しんだり、談 話したりできる場所。運営費を日進市が負担 者等と、地域住民が、自宅から歩いていける 場所に気軽に集い、ふれあいを通して、生き がし、づくり・仲間づくりの輪を広げる活動。地 域のボランティアが中 心 に管理運営。 地域の人たちが地域で楽しく生活するため ほっとカフェ事業 ているのかを検証する。 (1)旧集落の有無 地1か所の有無 し、地域住民や団体等が管理運営。 団 地の有無がコミュニティ意識にどのような影響を与え の差の検定を行っている。 市内 9校の小学校まで l km圏内か 近隣公園4か所、街区公園 47 か所、都市緑 ひとり暮らしゃ、家の中で過ごしがちな高齢 る旧集落の有無と、土地区画整理事業の有無、旧住造法 尚、検証にあたっては t 検定を用い、分類聞の平均値 児童館および老人福祉センター機能をもっ 施設。市内にある 6か所まて、 l km圏内か 市内の空き家、 集会所等を利用し、いつでも らの造成宅地に居住していると考えられる。その中でも そこで、開発以前のコミュニティがあったと考えられ 評価のポイント・解説 開 主な開発手法は旧住造法による住宅団地開発と土地区 約 5,500 戸となっている。 まちづくり 調査指標 調査指標 したことになる。 戸数は約 11,700 戸であり、 旧 住造法団地での計画戸数は 1 ) に、気軽に集まってお茶を飲みながら話をす る場。集会所等を利用し、地域住民が毎月 2 回程度開催。 他 そ の 世帯規模 戸建持家率 行政単位としての地区の規模。 1000 世帯未 満/以上。 戸建および持家世帯の比率。 70% 未満/以 上。アンケートデータより集計。 愛知学院大学政策科学研究所所報「政策科学j 第 5 号( 2014) に差異がみられるかを概観すると有意な差はみられない。 差はみられないものの項目によっては団地がある方がコ 有意とは言えないものの数値的には「新旧の交流」で旧 ミュニティ意識の高い項目もある。 集落の有る方がやや高い値となり当然の結果となってい 唯一有意差のあった項目は「自助・共助意識」である る。逆に有意な差ではないことが注目に値する。 が、団地が無い方が高い。その他の項目で有意差はみら ここから考察できることとしては、旧集落の存在が新 れないものの、「自治組織加入率j や「地域活動の参加率」 しい開発地区を含めた地域へのコミュニティ形成にほと では団地がある方が高い傾向がみられる。逆に「新旧の んど機能しなかったことが考えられる。そこで、もう少 交流」は団地のある方が低い傾向がみられる。 し詳細に、旧集落をベースにほとんど開発の行われなか 旧住造法団地はよほど大規模な団地以外は分譲期間も った地区だけを取り出してみると「自治組織への加入率」 短く、価格帯も近いことから年代や家族構成が似かよっ が高く、「地域活動への参加率j も高く、「相互扶助」も ており、子育てなどを通したコミュニティが形成されや 盛んである傾向がみられる。すなわち、旧来の農村型コ すい。その結果団地内に比較的閉鎖性の強いコミュニテ ミュニティは健在であるが、新規住民をコミュニティに イが形成されてきた結果ではなし、かと推察される。 取り込むことはできていないことがわかる。 逆に先ほどみた土地区画整理事業では、保留地処分が (2 )土地区画整理事業 何次にも分けて行われたり、地権者が処分する宅地につ 土地区画整理事業の有無によりコミュニティ意識各項 いては長い期間空き地のままであったりすることからコ 目の平均値に差異がみられるかを概観すると多数の項目 ミュニティ形成に時間がかかる傾向があると推察される。 で土地区画整理事業を行わない方が、コミュニティ意識 5. 都市基盤整備がコミュニティ意識に与える影響 が高し、傾;向にある。 まず、「地域の広がり J については、開発されていない 日進市の旧来の農村集落の多くは市を東西に走る飯田 方が地域意識としては狭く自治会の範囲程度(ポイント 街道(中馬街道、旧国道 153 号線・現県道 58 号線)沿 3 )を自地域とイメージしている。これは「自治組織へ いに点在する形で開けてきた経緯をもっ。現在、市の南 の加入率」にも表れ、開発されていない方が有意に高い。 西部に国道 153 号線ノ〈イパスが完成したものの、この県 同様に「地域活動への参加率」「相互扶助J についても開 道 58 号線は、依然市内を東西に走る幹線道として幅員が 発されていない地域の方が高くなっている。「新旧の交流」 狭いにもかかわらず交通量が多く、通過地区を分断して については統計的に有意とは言えないものの開発されて いる。他にも南北方向には県道 57 号線が高規格で建設さ いない方が交流している傾向にある。 れ、これらが主要地方道として位置づけられる。 この結果を考察すると、土地区画整理事業はどの地区 鉄道駅は名古屋市営地下鉄鶴舞線の終点である赤池駅 も比較的大規模に行われており、全くゼ、ロからコミュニ と、そのまま乗り入れしている名鉄豊田線の 日 進駅、米 ティ形成を行っていくことを考えると住民のコミュニテ 野木駅の 3 駅が整備されている。これらの駅周辺は時期 ィ意識が高まりにくいと言える。 を追って土地区画整理事業により開発され、周辺地域へ (3 )旧住造法 団 地 影響を及ぼしていると考えられる。 旧住造法団地の有無によりコミュニテ ィ意識各項目の また、市街地の連坦性という点で、各地区の市街地が 平均値に差異がみられるかを概観すると、あまり有意な 隣接地区の市街地に連坦しているのか、田畑や里 山 に囲 表3 開発経緯によるコミュニティ意識への影響 全地区 平均値 地域の広がり(狭し、 1 点伸広い 9 点) 3 . 4 2 旧集落有無 有(13) 無( 11) 3 . 2 9 3. 5 8 土地区画整理事業 有( 10) 有(9) 無( 14) 3 . 9 4 旧住造法団地 3 . 0 5 ** 3 . 5 0 無 ( 1 5 ) 3 . 3 7 自治組織への加入率 8 1 . 4 % 81.3帖 8 1 . 6 % 74.2帖 8 6 . 6 % キキ 8 5 . 0 % 79.3弛 地域活動への参加率 7 0 . 0 % 67.6帖 72 .9弘 6 4 . 4 % 74.0弘 * 7 3 . 8 % 67.8也 新旧の交流(交流あり%ーなし%) 1 9. 7% 25.4弛 1 3 . 1 % 8 . 5 % 27.8情 t 1 5. 3 % 2 2 . 4 % 相互扶助(困ったときに手助けされたこ左がある) 53.8明 53.5国 54.1首 4 7 . 1 % 58.6也 ** 55.5弛 52.8弘 ボランティア活動への参加率 16 . 0 唱 17.5拍 1 4 . 3 % 14.6首 17.0首 1 4 . 2 % 1 7 . 1 % 自助・共助意識(自助・共助(+ 2 点)悼公助(- 2 点) 0. 58 ()内地区数 0 . 5 6 tp<0.10 0 . 6 1 *p<0.05 0 . 5 6 0 . 5 9 0. 50 0 . 6 3 * 料 p<0.01 3 7 POLICYSCIENCEREVIEWNumber5( 2 0 1 4 ) まれているのかを考えたい。これは、都市基盤整備の効 ンティア活動への参加率」も有意に自然要素に固まれて 率性という点からは市街地を連坦して開発した方が良い いる地域が高くなっている。 半面、物理的にどこからが白地域かを意識できるものが ない。逆に周辺が田畑や里 山と いう形で開発すると都市 6. 基盤整備の面で非効率的で、現にこうした地域では公共 都市施設整備がコミュニティ 意識に与える 影響 老人福祉センターと児童館の機能をあわせもつ福祉会 下水道の整備が遅れている。一方で地域の囲続性が高く 館は、高齢者および子どもたちの居場所としてだけでな 地域がどこからどこまでなのかはわかりやすい。 く、様々な世代が活用できる趣味やサークル活動など社 (1)幹線道の有無 会教育の場として公民館的な役割も担って い る。 幹線道の有無によりコミュニティ 意識各項目の平均値 また、小学校は地域住民に体育施設等の開放を行って に差異がみられるかを概観すると、あまり有意差はみら いるだけでなく、梨の木小学校で、は体育施設の他に、会 れないものの幹線道が無い地域の方がややコミュニティ 議室、ランチルーム、多目的教室をコミュニティ育成の 意識が高い傾向にある。 ための地域活動や多世代交流活動などに開放 し ている。 有意差のあった項目としては、「地域活動への参加 率J さらに、コミュニティの憩いの場としての公園は地域 は幹線道の無い地域が高く、「ボランティア活動への参加 住 民 から愛護の対象となるため、日進市では公園愛護会 率J は幹線道の有る地域が高いという正反対の結果とな 制度を設け、登録団体に対 し 1 団体年間 5 万円を上限と った。その他の項 目では有意差が無いものの幹線道の無 した報奨金を提供している。公闘が地域住民の憩いの場 い地域のコミュニティ意識が高い傾向にある。 であるとともに、地域活動の対象としてコミュニティ育 逆に、ボランティア活動は地縁的なつながりよりも志 成に影響していると考えられる。 縁的なつながりにより成立しており、幹線道の存在によ 一方で、神社は都市施設と明確に位置づけられないも り少し離れた地域ともアクティブにつながりあえる可能 のの旧来のコミュニティの精神的核であるとともに、現 性を示唆している。 在でも祭りを中止としコミュニティ内の結束を強める役 (2 )鉄道駅までの距離 割を担っていると考えられる。 鉄道駅までの距離によりコミュニティ意識各項目の平 (1)福祉会館までの距離 均値に差異がみられるかを概観すると、有意に鉄道駅か 福祉会館までの距離によりコミュニティ意識各項目の 平均値に差異がみられるかを概観すると、有意な差がま ら離れている方が、コミュニティ意識が高いと言える。 ったくみられない。 鉄道駅周辺に居住する住民の多くは名古屋市や豊田市 への通勤を し ており、住民意識としては地域から離れて 福祉会館は全市に 6 館の整備となっており、本稿で扱 いると考えられる。 っている調査地区より広範囲をカバーせざるをえずコミ (3 )市街地境界の状況 ュニティ意識を高めることが難しいと考えられる。 市街地境界の状況によりコミュニティ意識各項目の平 また、近年整備された福祉会館 3 館は設計段階で地域 均値に差異がみられるかを概観すると、有意に市街地が 住民参加のワークショップが行 われコミュニティ拠点と 田畑や里山といった自然要素に固まれている方が、コミ しての位置づけが明確である半面、旧来型の 3 館は老人 ュニティ意識が高い。また、志縁性が強いとした「ボラ 福祉センターと児童館の機能が中心であり、コミュニテ 表4 都市基盤整備によるコミュニティ意識への影響 幹線道 全地区 平均値 地域の広がり(狭し、 1 点、特広い 9点) 3 . 4 2 有( 16) 3 . 4 8 鉄道駅 81.4枯 79 . 3目 85.6叩 地域活動への参加率 7 0 . 0 % 67.3叩 75 . 6帖 新旧の交流(交流あり%なし%) 19.7弛 2 0 . 0 % 19.3叩 相互扶助(困ったときに手助けされたことがある) 5 3 . 8 % 52.0 帖 ボランティア活動への参加率 16.0弘 17.7弛 0 . 5 8 ()内地区数 3 8 0 . 5 7 tpく 0.10 圏外 自然 市街 ( 1 3 ) ( 1 3 ) ( 1 1) 3 . 2 9 3. 57 ( 11 ) 3 . 3 1 自治組織への加入率 自助・共助意識(自助・共助(+ 2 点)悼公助( 2 点) 徒歩圏 無(8) 市街地境界 3 . 6 6 3 . 2 2 ネ 77 . 9帖 84 . 4叩 85 . 3出 76. 9弛 * 59.3帖 7 9 . 1 % ** 73.8略 65.6也 t 4.9弛 32.3弘 27.4% 10. 7帖 t 57.4弘 50 . 3唱 56 .7目 55.9唱 5 1 . 3 % 1 2 . 6 % * 1 4 . 9 % 16.9出 19.2首 1 2 . 2 % ** * 0 . 6 0 *p く 0.05 0 . 5 5 料 p < 0.01 0 . 6 1 ** 0 . 5 9 0. 57 愛知学院大学政策科学研究所所報「政策科学」 第 5 号(2014) ィ形成に十分な役割を担えていないと考えられる。 画や社会福祉協議会の地域福祉活動計画に位置付けられ (2 )小学校までの距離 ている。 小学校までの距離によりコミュニテ ィ意識各項目の平 これらの地域福祉事業の有無によりコミュニティ意識 均値に差異がみられるかを概観すると、すべての項目で 各項目の平均値に差異がみられるかを概観すると、ほと 有意な差がみられない。 んど有意な差がみられない。やや有意差が みられる項目 日進市の小学校は一部の小学校を除いて児童数が多い においても事業が無い方が、コミュニティ意識が高い結 マンモス校となっており、小学校を通じた関係性が形成 果となっている。逆に 考える と地域コミュニティの再生 されにくく、コミュニティ意識を醸成する役割を担えて をめざしている地域であるからこそこれらの事業が実施 いないと 考えられる。 されているとも考えられる 。 また、梨の木小学校のような地域コミュニティへの開 放が全小学校で展開されると小学校の位置づけが変化す 8. 地区の世帯数がコミュニティ意識に与える影響 地区の世帯数の多少によりコミュニティ意識各項目の る可能性もある。 平均値に差異がみられるか概観すると、ほぼすべての項 (3 )公園の有無 公園の有無によりコミュニティ意識各項目の平均値に 目で世帯規模が小さい地区の方が 、コミュ ニティ意識が 差異がみ られるかを 概観すると、いくつかの項目で公園 高い結果となっている 。各地区のデータを詳細にみると が無い方が、コミュニティ意識が高まる傾向がみられた。 世帯数の少ない地区で必ずしもコミュニティ意識が高い これは、主に市街化区域で特に土地区画整理事業によ わけではなく、世帯数の多い地区でもコミュニティ意識 り開発された地区に公園が整備されているためと考えら が高い地区もある。世帯数の多い地区でも自治組織を 丁 れる。先述したように土地区画整理事業はコミ ュニティ 目ごとに細分化している地域などでは比較的コミュニテ 意識の醸成にマイナスの効果があり、公園ではそのマイ ィ意識が高まる傾向にあり、組織運営上の意思決定構造 ナスを補てんできないと考えられる。 などが影響すると考えられるが、今後の課題としたい。 (4 )神社の有無 神社の有無によりコミュニティ意識各項目の平均値に 9 戸建持家率がコミュニティ意識に与える影響 差異がみられるかを概観すると、ほとんど差がみられな 日進市は住宅地開発を中心に人口が増加し、全般に戸 いが、一部の項目で神社がある方が、コミュニティ意識 建持家率が高い。しかし近年の駅前開発で、は中高層マン が高い傾向がみられた。 ション建設による集合住宅居住が増加しており、地区ご との戸建持家率は異なる 。 特に「地域の広がり」は有意に神社の有る方が、白地 域は狭いと認識されている。その他にも神社により「新 戸建持家率 の大小によりコミュニティ意識各項目の平 均値に差異がみられるか概観すると、ほぼすべての項目 旧の交流」を高め ている傾向がみられた。 で戸建持家率が高い地区の方が、コミュニティ意識が高 い結果となった。コミュニティ意識としづ側面でみる限 7 地域福祉事業がコミュニティ意識に与える影響 り戸建持家率を 高める開発手法が有効であるといえる。 日進市で実施されている地域福祉事業はいずれもコミ ュニティで互いを支えあうものであり、市の地域福祉計 表5 都市施設整備によるコミュニティ意識への影響 全地区 平均値 地域の広がり(狭い 1 点特広い 9 点) 福祉会館 小学校 徒歩圏 圏外 徒歩圏 圏外 有 ( 1 6 ) ( 8 ) ( 1 7 ) ( 7 ) ( 1 1 ) ( 1 3 ) 3 . 4 4 3. 37 3 . 7 9 3 . 1 1 3 . 4 2 3 . 4 8 自治組織への加入率 81.4% 82.8% 78 . 7唱 82. 2% 79. 6% 80.0% 地域活動への参加率 70.0% 70.5% 69.2弛 69.4帖 7 1 . 4 % 新旧の交流(交流あり%なし%) 19.7拍 1 9 . 7 % 1 9 . 9% 1 6 . 8 % 相互扶助(困ったときに手助けされたことがある) 53. 8% 52.6弛 56.2叩 ボランティア活動への参加率 1 6 . 0 % 1 6 . 0 % 1 6. 1 唱 0 . 5 8 0 . 6 0 自助・ 共助意識( 自助・共助(+ 2 点) 悼公助( 2 点) ()内地区数 3 . 3 0 査E 有 ** 無 ( 1 1 ) ( 1 3 ) 3 . 2 0 3 . 6 1 81 .0% 81.8出 69.3% 70.6% 68.1% 71.7弛 26.8% 1 2 . 1 % 26.2弛 27.8唱 1 2 . 9 % 52.5明 56.9弛 49.7弛 57.2叩 56.1弛 51.8% 15.6枯 1 6 . 9 % 1 4 . 5 % 17.3首 17.7弛 1 4 . 6 % 0 . 5 7 0. 57 0 . 5 5 tp<0.10 神社 公園 0 . 5 9 *p く 0.05 82.7略 0 . 5 9 0 . 5 4 * 0 . 6 1 料 pく0.0 1 3 9 POLICYSCIENCEREVIEWNumber5( 2 0 1 4 ) 「小国寡民」こそが、われわれの進むべき道を指し示し 10. まとめ 本研究を通して、ハード・ソフト両面のまちづくりが ていると言えないだろうか。 [補注] 与えるコミュニティ意識への影響を検証し、以下の 6 点 既往研究として以下の文献を参照した。 に整理することができた。 田中国夫・藤本忠明・植村勝彦( 1978)「地域社会への態度 ①土地区画整理事業により開発された地区はコミュニ の類型化について ティ意識が低い その尺度構成と背景要因」心理学研究 4 9 , pp.3643 石盛真徳(2004)「コミュニティ意識とまちづくりへの市民 ②道路・鉄道といった交通アクセスが良い地区ではコミ 参加コミュニティ意識尺度の開発を通じて」コミュニティ ュニティ意識が低い 心理学研究 7' p p.87-98 笹尾敏明(2007)「コミュニティ感覚」日本コミュニティ心 @市街地が連坦する地区より、自然要素に固まれた地区 理学会編『コミュニティ心理学ハンドブック』 pp.115-129, の方が、コミュニティ意識が高い 東京大学出版会 ④都市施設の整備および地域福祉事業の実施によりコ 栗原嘉一 郎・多胡進・岩永秀夫( 1967)「団地居住者におけ る人間関係の展開・生活時間・生活圏・コミュニティ意識(総 ミュニティの核をっくりだすことは難しく、コミュニ 括)一集団住宅地の機能に関する研究 6-J 日本建築学会論 ティ意識を高めることができない 文報告集第 139 号, pp.7176 杉岡直人( 1982)「コミュニティと生活の質( I) ーコミュ ⑤ 世帯数の少ない地区の方がコミュニティ意識は高い ニティ意識の要因分析 @戸建持家率が高い地区の方がコミュニティ意識は高い 」北星論集 20, pp.31-202,北星学 園大学 こうしてみると高度成長期以降のわが国の都市計画は 小池聡( 1993)「混住地域におけるコミュニティ形成に関す る研究J 農村計画学会誌 12(1), p p.7-17 コミュニティ意識を低下 させることを助長してきたよう 渡漫勉(2008)「第 2 部安曇里子市民の地域意識と活動」村山 に感じられる。逆にこの結論から想像した理想的なまち 研一 ・渡漫勉・祐成保志編『田園地域におけるコミュニティ づくりは、陶淵明が 「桃花源記」 で描いた桃源郷の姿と 形成一安曇野市の農業、近隣関係、とコミュニティ意識』信州 大学人文学部社会・情報論講座 重ね合わせることができるだろう。まさに老子が唱える 菱山謙二( 1980)「新旧住民のコミュニティ意識」建築雑誌 9 5 ( 1 1 6 5 ) ,pp.61 ・64,日本建築学会 表6 地域福祉事業によるコミュニティ意識への影響 ふれあい・いきいき ぶらつとホーム事業 全地区 ほっとカフ工事業 サロン事業 平均値 有(5) 3 . 4 2 地域の広がり(狭い 1 点伸広い9点) 無(19) 3. 3 8 3 . 4 3 無( 17) 3 . 5 8 鏑正 有(5) 3 . 3 6 ( 1 9 ) 3. 8 0 3. 3 2 自治組織への加入率 81.4唱 86.2弛 80.2弛 8 1 .7明 81.4唱 83.4略 8 0 . 9 % 地域活動への参加率 70.0弛 7 3 . 1 % 6 9 . 2 % 7 1 .1弛 69.6弛 6 6 . 2 % 71.0拍 新旧の交流(交流あり%ーなし%) 19.7弛 21.0叩 19.4弘 9.6帖 23.9首 15 . 6百 20.8唱 相互扶助(困ったときに手助けされたことがある) 5 3 . 8 % 5 6 . 9 % 53.0弛 56.l略 52.8 叩 52.7帖 54.1弛 ボ、ランティア活動への参加率 1 6.0弘 1 4.5帖 16.4拍 1 2.8弛 1 7 . 3 % 17.5叩 1 5.6略 自助・共助意識(自助・共助(+ 2 点)悼公助(ー2点) 0 . 5 8 ()内地区数 表7 0 . 51 0 . 6 0 t *pくO 伯 T Pく 0.10 0 . 4 8 0 . 6 2 t 0 . 5 6 * 0 . 5 9 仲 pく 0.01 その他の行政施策によるコミュニティ意識への影響 世帯規模 全地区 平均値 地域の広がり(狭い 1 点伸広い9点) 3 . 4 2 戸建持家率 1000 未満 1000 以上 70% 未満 70% 以上 ( 1 1 ) ( 1 3 ) ( 9 ) ( 1 5 ) 3 . 0 9 3 . 7 0 *ネ 3 . 7 6 3. 2 2 * 自治組織への加入率 8 1 . 4 % 88.1 目 7 5.8叩 ** 75.5弛 8 5. 0% * 地域活動への参加率 70 . 0拍 75 . 4首 6 5 . 5 % * 60.9弛 7 5 . 5 % ** 新旧の交流(交流あり%ーなし%) 19.7帖 25.1首 1 5.2弛 31.5弛 ネ* 相互扶助(困ったときに手助けされたことがある) 53.8唱 57.9弛 50.3目 t 47.0弛 57. 9 % * ボランティア活動への参加率 1 6 . 0 % 18.0帖 14.3唱 t 1 4 . 0 % 1 7 . 2 % 0 . 5 7 0 . 5 9 自助・共助意識(自助・共助(+ 2 点)悼公助(←2点) 0 . 5 8 ()内地区数 4 0 有( 7) 0 . 6 0 0 . 5 6 tpく0.10 *p く 0.05 0 . 2 % 林 pく0.01 t