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水蒸気と水の混合噴流による 表面洗浄技術

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水蒸気と水の混合噴流による 表面洗浄技術
0917-1819/10/¥500/論文/JCLS
L1004-14
水蒸気と水の混合噴流による
表面洗浄技術
物理力による表面薄膜剥離
静岡大学 益子 岳史・真田 俊之
北海道大学 渡部 正夫 アクアサイエンス㈱ 林田 充司・関 映子
はじめに
として、太陽電池やLEDの製造工程での
15~30 µm程度であり、速度は150~300
近年、環境汚染に関する関心の高まり
適用例を示す。
m/sである(4)(5)。液滴速度は使用するスプ
レーノズルにより大幅(数分の一程度)
や回路パターンの微細化に伴い、半導体
洗浄手法に大きな変化が現れている 。例
洗浄装置の構成
えば、多くの半導体メーカーではRCA洗
本手法は、二流体ジェット洗浄
(1)
に減少し、その結果洗浄効果も低下する
(2)(3)
に
ことがわかっている。そのため、ノズル
の選定は大変重要である。
浄を基盤としたバッチ式多層浸漬洗浄(数
分類される洗浄手法であり、噴流の担い
十枚のウェーハを一括して洗浄)が長年
手として使用される窒素ガス等の高圧ガ
使われてきたが、枚葉スピン洗浄(ウェ
スを蒸気に変更したことに最大の特色が
ーハを1枚ずつ洗浄)に急速に移行しつ
ある。そのシステムは図1に示すように
(1) レジスト除去の可視化
つある。これは、バッチ浸漬洗浄では、十
簡素なものであり、水を電気加熱するこ
最初に、本手法によりレジストがウェ
分程度の洗浄剤浸漬(すなわち汚れの希
とで蒸気を発生させ、これと水とをノズ
ーハから除去される様子を高速度観察し
釈)と純水による濯ぎを交互に繰り返す
ルで混合して洗浄対象物に噴射するとい
た結果(6)を図2に示す。スプレーが噴射
ので、洗浄剤を大量に利用する、原理的
うものである。ここで、蒸気の圧力はノ
された範囲内でレジストがまず数箇所除
に洗浄効率が悪い、クロスコンタミネー
ズル上流部で0.1~0.2 MPa程度と低圧で
去され、その後それぞれの除去領域が広
ションへの対応が困難である、微細構造
あるのが特徴である。また、水の流量は
がっていく様子が観察された。図2の画
内の洗浄力が低下する、等の問題がある
100~300 ml/min程度、ノズル先端と洗
像は0.1秒間隔で示したものであるが、レ
ためである。また、化学的洗浄手法を補
浄対象物との距離は10 mm程度である。
ジストの除去が極めて短時間で起こって
うために、物理的洗浄手法を併用する試
なお、ノズルから噴射される水滴の径は
いることがわかる。これは、プラズマアッ
対象物上の薄膜除去
みもなされてきた。周波数1 MHz前後
の超音波を照射するメガソニック洗浄や、
純水を高圧ガスで微粒子化して噴霧する
二流体ジェット洗浄 (2)(3)等がその例であ
る。
我々は、水蒸気と水を混合して噴射す
る洗浄を行う手法を開発している。この
手法は、洗浄剤を使用せずに微細なパー
ティクルを洗浄でき、また表面に付着し
ているレジスト膜等も同時に除去可能な
点に特長がある。本稿では、まず洗浄装
置の構成を述べた後、膜の洗浄例として
ウェーハ上に塗布されたレジストの除去
を取り上げ、ウェーハ・レジスト間の密
着力がレジスト除去に及ぼす影響に着目
した実験例を紹介しながら説明する。そ
の後、商業利用間近となっている洗浄例
クリーンテクノロジー 2010. 7.
1
シングや複素環系有機溶剤、アミン系有
機物等、従来一般的に用いられてきた手
法が化学反応により徐々にレジストを分
解していくのとは対照的である。また、
除去領域は時間とともに一定の割合で広
がっていくのではなく、その先端が停止
と急速な前進を繰り返しながら断続的に
広がっていく様子が観察された。このこ
とは、本手法によるレジストの除去が、膜
の厚さ単位で「剥離」に近い形で起こっ
ていることを強く示唆する。すなわち、
レジスト膜は、蒸気・水の混合スプレー
の噴射によって、膜の分裂やウェーハと
の密着を絶つのに必要なエネルギーを与
うに、水平方向に極めて低速(0.5 µm/s
層がある場合(a)とない場合(b)について測
えられ、ある程度の大きさの固まりごと
程度の一定速度)で移動する切刃にかか
定を行った。それぞれd、Fh、Fv が時間
に剥がされていくものと考えられる。そ
る力の水平成分Fh および垂直成分Fv が測
t(∝切刃の水平移動距離)に対してプ
こで以下では、レジスト・ウェーハ間の
定される。第一段階では切刃は膜表面か
ロットされている。HMDSの有無でd お
密着力に注目し、それがレジストの剥離
らの深さ d を増しながら膜に切り込んで
よびFv のプロファイルはほとんど変わら
にどのような影響を及ぼすのかを検討す
いく(切削モード)。切刃が膜・基板界
ないことがわかる。一方、分離モードに
面に到達してFh およびFv が大きく変化す
おけるFhの値は、HMDSありの場合が約
(2) レジスト・ウェーハ間
ると、d を一定に保ったまま界面を進む
0.005Nであるのに対し、HMDSなしの
第二段階に移行する(分離モード)。分
場合が約0.002Nと大きく異なっている。
ウェーハとの密着力のレジスト剥離に
離モードにおいてはFh およびFv も一定と
これより、確かにHMDSの導入によって
対する影響を議論するためには、まず密
なるが、このときの水平方向成分 Fh を膜
レジスト膜のウェーハへの密着力が2.5
着力を定量的に測定する必要がある。我
と基板の間の密着力とみなすのである。
倍程度に強くなっていることが確認され
る。
密着力の測定
という手法を用いて測定
図4にノボラック系レジストを塗布
を行った。SAICASはSurface And In-
(膜厚1.4 µm)した直径3インチのシリコ
terfacial Cutting Analysis Systemの略
ンウェーハについてレジスト・ウェーハ
上で見たように、HMDSによりレジス
語であり、膜・基板間の界面を切削する
間の密着力を測定した結果を示す。レジ
トのウェーハへの密着力が増進すること
際に切刃にかかる力から、膜・基板間の
スト接着促進剤として使用されるHMDS
が確認された。それでは、密着力の大小
剪断強度および剥離強度を測定するシス
(ヘキサメチルジシラザン)の効果を調べ
は蒸気・水の混合スプレーによるレジス
テムである。具体的には、図3に示すよ
るため、レジスト・ウェーハ間にHMDS
ト除去にどのような影響を与えるのであ
々はSAICAS
(7)(8)
2
クリーンテクノロジー 2010. 7.
る。
(3) 接着促進剤HMDSの効果
ろうか。図5に、ノズルを水平方向に20
mm/sの速度で移動させながらサンプル
にスプレーを噴射した結果を示す。HMDS
ありの場合(左)、なしの場合(右)を比
較すると、両者とも噴射領域のレジスト
が完全に除去されている点では同じであ
る。しかし、HMDSありの場合には、レ
ジスト除去領域はスプレー噴射領域とほ
ぼ一致しており、その周辺(非除去領
域との境界)が直線的であるのに対し、
HMDSなしの場合には、レジスト除去領
域はスプレー噴射領域より広がっており、
周辺はぎざぎざに乱れているのが特徴で
ある。スプレーの噴射時間が1秒程度と
短時間であること、レジスト膜の下側に
あるHMDS層の有無によってレジスト除
去効果に違いが見られたことから、本手
法による除去プロセスは、表面から徐々
に進む化学反応のようなプロセスではな
く、膜の厚さ単位で一気にレジスト膜を
除去するプロセスであることが再確認さ
れる。さらに、HMDSなしの場合にスプ
レーが直接噴射していない領域にまでレ
ジスト除去領域が広がっていることから、
レジスト除去が本質的に剥離過程であろ
うことも改めて示される。すなわち、ス
プレー噴射領域のレジストが剥がされる
際に、HMDSがなくレジスト・ウェーハ
間の密着性が低い場合には、領域外のレ
ジストも一部引きずられて剥がれてしま
うのである。
(4) LED、太陽電池製造工程への応用
最後に、近年盛んに導入されてきてい
るLEDや太陽電池の製造工程での本洗浄
手法適用例を紹介する。省電力素子であ
るLEDやクリーンな電力源である太陽電
池は低環境負荷であることが特長の一つ
であるが、それらの製造工程において大
量の電力や洗浄剤を消費することで高環
境負荷となってしまっては本末転倒であ
る。本小節では、これらの製造工程にお
いて本洗浄手法の適用により環境への負
荷が低減されている例を紹介する。
まず、LED製造工程における本洗浄手
法の適用について、図6にその可能性を
クリーンテクノロジー 2010. 7.
3
一般に、ワイヤーカットによって平坦な
シリコンウェーハが切り出される。しか
し平坦な表面では入射光の1/3程度が反
射されるため、大きな損失となってしま
う。そのためミクロスケールでの凹凸(テ
クスチャ)を形成するテクスチャリング
を行うが、処理前の指紋等の付着により、
予期せぬ凹凸が形成されることがある。
図8では、テクスチャリング前に本洗浄
手法を適用することで、テクスチャリン
グ後に発生するこの問題を防いだ例であ
る。このように、多くの工程において洗
浄剤を全く使わないかわずかに使うだけ
で洗浄を実施できることは、環境対策と
しても有効である。
おわりに
以上に述べたように、蒸気・水の混合
噴流による我々の手法は、従来の手法に
比べて容易にかつ短時間で、ウェーハ上
の薄膜を除去することが可能である。本
稿ではレジスト等の膜の除去についての
み紹介したが、我々の手法は表面のパー
ティクルやドライエッチングの副生成物
であるポリマーの除去にも有効であり(他
の解説記事(9)参照)、多くの産業に貢献す
る可能性を秘めている。一方で、本手法
によりレジストが剥離されるメカニズム
の解明には至っていない。例えば、我々
は、レジスト膜の厚さ、レジスト膜作成
の際のプリベーク温度、ノズルの水平移
動速度や蒸気圧力、水流量等によって剥
離効果が変化することを示すデータも得
ているが、その理由を完全には説明でき
ていない。本手法が表面洗浄に有効であ
概念的に示した図を、図7に実際の洗浄
を用いれば、実際のプロセスにおいても
る理由を主に蒸気の凝縮効果に求める仮
例を示す。LED製造工程においてもレジ
不要な膜を簡単に剥離することが可能で
説[4、5、9]を提案するにとどまって
スト膜等を利用する工程が多くあり、そ
ある。さらに本手法においては、本質的
いる。今後これらのパラメーターが本手
の除去が必要とされる。図中①~③は
に物理力のみでは除去不能で洗浄剤を併
法によるレジスト剥離に与える影響を定
AuやITO、GaN等の凹凸パターンの作
用する場合を除き、基本的には蒸気と水
量的に評価するとともに、本手法による
製後にレジスト(PPRまたはNPRで表
のみを使用しているので、廃液は水とな
洗浄プロセスの詳細なメカニズムを解明
示)を除去する必要がある箇所を示して
る。そのため廃液の中から金等の貴重な
し、与えられた被洗浄物に応じて高い洗
いる。また、高価な金等も利用されるた
材料の回収することも容易である。
浄能力を示すような最適条件を決定する
め、必要な箇所以外の金は回収すること
次に、図8に太陽電池製造工程におけ
が望まれる。図7に示すように、本手法
る適用例を示す。太陽電池製造工程では
4
クリーンテクノロジー 2010. 7.
手法を提案することを目指し、研究を進
めていきたいと考えている。
〔謝辞〕
筆者紹介
レジストの密着力と剥離性については、
金沢工業大学の堀邊英夫先生およびダイ
プラ・ウィンテス社の西山逸雄氏との共
同研究である。ここに記し謝意を示す。ま
た本研究の一部は、NEDO産業技術研究
助成事業により行われた。
参考文献
(1) 服部毅:クリーンテクノロジー、20(4)、pp.1-10
(2010)
(2) I. Kanno, N. Yokoi, and K. Sato:ECS Proc. 9735, pp.54-61 (1998)
(3) 菅野至:クリーンテクノロジー、16(12)、pp.4-7
(2006)
(4) 真田俊之・齋藤隆之・林田充司・斉藤輝夫・山瀬
雅男・渡部正夫:噴流工学、24(3)、pp.4-10(2007)
(5) T. Sanada, M. Watanabe, M. Shirota, M. Yamase, and T. Saito:Fluid Dyn. Res. 40, pp.627-636,
(2008)
(6) T. Sanada, M. Shirota, M. Watanabe, Y. Morita,
M. Yamase:Proc. 5th Joint ASME/JSME Fluids
Eng. Conf., FEDSM2007-37129 (2007)
(7) 西山逸雄:表面技術、58(5)、pp.300-303(2007)
(8) F. Saito, I. Nishiyama, and T. Hyodo:Mater.
Lett. 63, pp.2257-2259 (2009)
(9) 真田俊之・渡部正夫・益子岳史・林田充司・駒
野秀男:空気清浄、47(5)、pp.31-36(2010)
益子岳史
静岡大学 工学部機械工学科 助教
〒432-8561
浜松市中区城北3-5-1
TEL/FAX:053-478-1608
E-mail:[email protected]
真田俊之
静岡大学 工学部機械工学科 助教
〒432-8561
浜松市中区城北3-5-1
TEL/FAX:053-478-1605
E-mail:[email protected]
渡部正夫
北海道大学 大学院
工学研究科 機械宇宙工学専攻
准教授
〒060-8628
札幌市北区北13 条西8 丁目
TEL:011-706-6430
FAX:011-706-7889
E-mail:masao.watanabe
@eng.hokudai.ac.jp
林田充司
アクアサイエンス㈱
開発技術部 部長
〒226-0006
横浜市緑区白山1-18-2
ジャーマンセンター
TEL:045-937-1239
FAX:045-937-1304
E-mail:atsushi_hayashida
@aqua-sc.com
関映子
アクアサイエンス㈱
開発技術部
〒226-0006
横浜市緑区白山1-18-2
ジャーマンセンター
TEL:045-937-1239
FAX:045-937-1304
E-mail:[email protected]
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