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8.ゼロベースで考えてみよう
6章 問題解決 TFU リエゾンゼミ・ナビ 『学びとの出会い』 8.ゼロベースで考えてみよう 1 問題発見と問題解決 〔1〕問題を解決ための方法 何かの問題を解決するためには、まず問題が何かを把握することから 始まらないと何も始まらないと思います。それを問題発見と言いましょ う。またわれわれの周りにはたくさんの問題が存在していて、われわれ を悩ませています。その悩みから解放されることこそ問題解決と言える でしょう。ところで「答え」のない問題はないというお話があります。 でもどのように解決策を導き出すかという問題がまた登場します。 簡単に言いますと、問題を発見し解決しようとした場合、どのような 方法があるかという問題なのです。それにはいろいろな方法があり、問 題を解決するに適合する良い方法を探し出し、その方法に従ってやって いくと解決に繋がるのです。でもここで注意してほしいのは、問題を解 決するための方法は一つしかないのではなく、問題の性質によって多様 に存在しているということです。 〔2〕ロジカルシンキング(Logical Thinking)としてのゼロベー ス(zero-base)思考 ところで、問題に直面したとき、われわれはか弱い人間であるのだか ら、前後左右考えず目の前にあることに夢中になったり問題そのものを 怖がってしまい回避したりすることも度々あると思いますが、大概の場 合には最善の方法を探そうと努力します。 では、何が最善の方法なのかを探す作業に取り掛かるようになります が、そこでわれわれは実行可能で可及的論理的な方法を探そうとします。 でも決して難しい理論や他人の経験などにとらわれてしまうことには 及びません。われわれが住む世界には不可解なことなどが多いからであ ります。 そのように解決に向けていろいろ論理的に思案することを英語でロ ジカルシンキングと言います。つまり、問題を解決するために必要なも のがロジカルシンキングであります。では、ロジカルシンキングをする ためにどのような思考が必要でしょう。いろいろありますが、この章で *ロジカルシンキングをす るためのいくつかの方法 ①ゼロベース思考 ②仮説思考:ある時点で考 えられる仮の結論(仮説) をもとに行動するという 考え方で、その仮説を検証 し課題を解決する。もし仮 説が間違っていたら、新た な仮説を立てて検証して いく。 ③ポジティブ思考:今より 良い解決策が存在すると いう考え方。次に良い結果 が出るという思考とは異 なる。 ④フレームワーク思考:物 事を考えるときに暗雲に 考えると、大事なことが漏 れたり重複して考えてし まったりしまう恐れがあ る。そこで、考えるための 枠組みを使って考えるこ とにより、漏れや重複を避 けることができる。 はゼロベース思考について考えてみましょう。 2 ゼロベース思考とは ゼロベース思考とは、 「既成概念や固定観念にとらわれなく何もない 状況から最善の答え(解決策)を見つけ出す」という考え方です。 既成概念にとらわれて考えることは、すでに自分の中で構築されてき た考え方を用いて考えることにより、ある種のフィルターをかけて物事 をみることとなり、あるがままに観察し考えることが難しくなります。 ・既成事実とは、すでに起 こったことで今さら戻し たり反対したりすること ができないことをさす。 ・既成概念とは、長い間経 験などを通じて身につけ てきた特定のものの考え 方や態度をさす。 固定観念もそうであるから、問題が起こったとき固定観念にとらわれ てしまうと何の解決にもつながらなくなる可能性が高いです。 例えば、甲子園の高校野球で、9 回裏リードされている場面で、監督 から選手へのよくある注文は「思い切って振ってこい!!」という言葉で す。それは「9 回裏」 「リードされている」という既成事実の上で、「こ のチャンスをいかせないと機会はない」 「初球は必ずストレートがくる」 「相手のピッチャーは強い」「自分はこういった場面に弱い」などの既 成概念や固定観念にとらわれて本来持っている実力を出せずに終わる ことを恐れた監督からのもう一つのサインかもしれません。 このとき監督が言った「思い切って振ってこい!!」というのは、既成 事実や既成観念、固定概念などの過去に積まれた考え方にとらわれずに 自分を白紙状態に戻して力を出してこい、ということなのです。しかし、 実はゼロベース思考を進めるには大変なエネルギーが必要です。なぜな らば、これまでより思考の領域を広げ、今まででは考えもつかなかった 解決法を見出すことがあるかもしれないからです。そして人間は経験に より物事を考えたり行動したりする動物であるから、過去の経験と比較 して考えてしまう傾向があるからです。 つまり「ゼロベース思考」とは先入観にとらわれることなく、問題を 考えるための姿勢だと言えるでしょう。 3 ゼロベース思考の必要性 高校を卒業して大学に入ると、今までとは全く異なる環境での学習に なります。これまでの小・中・高の学校生活では学校側から提示された カリキュラムや教科書に従いながら、受動的な生活をしてきたかもしれ ませんが、大学ではそうとは限りません。受動的というのは既成概念に とらわれてしまい自ら計画し行動することではないということを意味 しますが、大学では自分で科目を選んだり時間割を決めたりしなければ ・固定観念とは、あるもの がこうあるべきだと考え、 他の考え方は排除する思 考傾向をさす。先入観とい う言葉に近い。 ならなくなり、ある意味大きな問題状況に直面することになります。 高校までの環境ではそれほど問題ではなかったことが、大学に入るこ とによりこれまでに経験したこともない新しい問題に直面し、その問題 を自ら解決しなければならなくなるのです。 このような環境変化の中で、少しだけ自分の考え方や行動パターンを 変えれば良いと思いがちですが、高校時代まで馴染んできた既成概念を 捨てて大学生として最善の生活を送るためのチャレンジをすることに よって、つまりゼロベースの思考で対策を練ることによってより充実な 大学生活を送ることができるでしょう。 そしてゼロベース思考を実行することで、より思考の枠が広がること につながり、結果、既成概念などにとらわれて考えもつかなかった対応 策にたどり着く可能性が高くなるのです。それは、今までとは違う外部 の見え方、とらえ方ができるようになることを意味します。考え方を変 えることで違った世界が見えるようになり、大学生活においても、これ からの人生においても、問題解決により速くたどり着くかもしれません。 4 まずやってみよう、ゼロベース思考!! 人間は弱い存在だからすべてを捨てて、つまり既成概念や固定観念、 経験が教えてくれる情報を放棄して、問題解決に挑もうとする場合、か なりの勇気が必要になるでしょう。それはゼロベースの思考を進めよう としたら、大きなエネルギーが必要になることを意味します。従って、 問題に直面した時、自分が持っている情報などに依存する、つまり現在 の延長線上で物事を考えるのが楽なため、ゼロベース思考に拒否反応を 示すこともあるでしょう。 甲子園という大舞台、9 回裏リードされている状況、逆転ランナーが 塁に出ている、しかもその前の打席で三振、では今打席に立っている自 分に相手のピッチャーは何を投げてくるか? 前の打席で三振になったのは、スライダーだったとしましょう。なの で、相手ピッチャーは自分が弱い変化球、その中でもスライダーを使っ て勝負に出るだろうと予測しスライダーを待つこととしたとしましょ う。でも、前回からカウントを有利にするためか初球はストライクを投 げる頻度が高いということに気が付きました。そう迷っている間、チャ ンスを逃がしてしまう(問題解決できない)可能性が高くなります。 状況に対して分析しすぎたり、経験を重んじたりすることにより、 「思 い切って振ってこい」という監督の注文を聞き流し、結局勝負に負けて しまいますと、問題解決にならないのです。 なので、まず「ゼロベース思考」を行使してみるのも勝負に勝つ手段 になるかもしれません。 *この場面で「ゼロベース で考える」ということを想 定し、どのようなことがで きるか周りのお友達と話 し合ってみましょう。 5 単に既成概念や固定観念を捨てることが「ゼロベー ス思考」ではない どころで、すべての問題に対し、既成概念や固定観念を捨てて挑むと 解決できるでしょうか?そうとは言えません。それは問題解決のための 一つの手段なのです。実はゼロベース思考は、前提との対決です。 例えば、甲子園の舞台で、相手ピッチャーの癖がわかったとしても状 況により投げる球も変わってくる、という状況の中、既成概念を捨てて ゼロベースで考えようとしたとしましょう。 この時の前提として考えられるのは、まず「相手のピッチャーを攻略」 することです。そこで既成概念としてその試合で相手のピッチャーが投 げている球の構成や得意とする球質などがあります。しかし、前提とな っている相手ピッチャーを攻略するという考えをなくさない限り、現時 点でのデータや自分の目で見てきた経験値を外すことは難しくなりま す。 「ゼロベースで考えろ(思い切って振る)」というのではなくその前 提となっている「ピッチャー攻略」というものを改めることも重要なわ けです。つまり、「試合結果とは関係なく甲子園を楽しんでこい」とい うメッセージ、もっといいますと「負けてもいい」というような、基本 前提を変えたり反転させたりしない限りでは、状況を乗り越える力にな らない可能性があるからであります。そうすることによって、ヒットを 打てないかもしれないが、その後の人生において「あの時には悔いのな いプレイができた」 、 「あのことがあったからこそ今の人生が楽しい」と いうことにつながるかもしれません。相手ピッチャーを攻略して甲子園 で勝つことだけが問題解決ではないからであります。 単に既成概念や固定観念を捨てることではなく、前提を把握し、前提 を変えることが、問題解決に対してのより幅広いアイディアを提供して くれるのです。 ゼロベース思考のコツ:①これまでの習慣や常識を疑ってみよう。②「できな い」「無理」と決めつけずに新たな方法を考えてみよう。③どうなったらいい のか(目標)を見直そう。④別の視点(利用者など)から考えてみよう。