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2014年度P3のレポート

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2014年度P3のレポート
LEPS における γ 線による生成粒子の測定実験
小沢 史明
木村 燎平
小早川 亮
白井 佑治
土田 裕次郎
渡辺 海
平成 27 年 3 月 31 日
目次
1
第 1 章 導入
原子核や素粒子という極微小世界の物理的理解を深めるための実証的手段として,加速器衝突
実験に依る断面積の測定は主要なものである.我々は高エネルギー γ 線を扱う Spring-8 実験施設
において,LEPS グループと共同で各種粒子の断面積情報を含む測定実験を行った.具体的には
C,Al,Ti,Ag,Au,Pb の各種標的をおいて,対生成イベントの断面積を測定した.またポリエチレン
標的を持ちいて,各種ハドロンの生成を確認する実験も同時に行った.
2
第 2 章 理論
2.1
電子陽電子対生成の断面積
ℏ = c = 1 の単位系を用いる. 高エネルギー光子を原子核に照射させた時に生じる電子陽電子の
対生成断面積を Born 近似の元でまず求める. まず制動放射について考え,Feynman ダイアグラムの
交叉によって求めたい対生成の散乱振幅を計算する. 考えたいダイアグラムは以下の2つである.
γ
γ
k
e−
p0
q
k
e−
e−
p
p0
p
2
q
図 2.1: 制動放射 1
2.1.1
e−
2
図 2.2: 制動放射 2
制動放射の不変振幅
入射電子, 放射電子, 光子の運動量を p0 , p, k とし, 運動量移行を q = p0 − p − k とする. この時,
制動放射の不変振幅は
i(p
i(p
/0 + k/ + m)
/ + k/ + m)
Aν (q)ieγ ν u(p0 )+ū(p)ieγ µ A∗µ (q)
ϵν (k)ieγ ν u(p0 )
2
2
(p + k) − m
(p0 + k)2 − m2
(2.1)
となる. ここで,Aµ は電磁場で, 今は Coulomb ポテンシャルのみを考えているので
iM = ū(p)ieγ µ ϵ∗µ (k)
Aµ =
2.1.2
( 4πZe
q2
)
, 0, 0, 0 .
(2.2)
対生成の反応断面積
入射光, 放射電子, 陽電子の運動量を k, p− , p+ とすると, 対生成は制動放射において
E0 = E− , E = −E+ , p0 = p− , p = −p+
(2.3)
としたときの逆過程である. 逆過程については不変振幅の複素共役をとればよい. 振幅の自乗を
とる際には, 入射光子の偏極について平均をとり, 放射電子, 陽電子のスピンについて和をとる. こ
3
の振幅を用いると, 微分断面積は
1
d3 p+
d3 p−
|M̄|2
(2π)4 δ 4 (k − q − p− − p+ )
2k
(2π)3 2E+ (2π)3 2E−
Z 2 e4 p+ p− dE+ sin θ+ sin θ− dθ+ dθ− dϕ+
=−
×
137 2π
k3
q4
[
p2+ sin2 θ+
p2− sin2 θ−
2
2
2
(4E
−
q
)
+
(4E+
− q 2 )+
−
(E+ − p+ cos θ+ )2
(E− − p− cos θ− )2
dσ =
]
p2+ sin2 θ+ + p2− sin2 θ−
2p+ p− sin θ+ sin θ− cos ϕ+
(4E+ E− + q 2 − 2k 2 ) − 2k 2
(E− − p− cos θ− )(E+ − p+ cos θ+ )
(E− − p− cos θ− )(E+ − p+ cos θ+ )
(2.4)
と求まる.θ+ , θ− はそれぞれ p+ と k, p− と k のなす角度,ϕ+ は p+ と k,p− と k がつくる平面のな
す角である (図 2.3). 超相対論的な近似 (E ≫ m,m は電子質量) の下, 角度による積分を行うと,
2 + 2E E (
E 2 + E−
dσ
2E+ E− 1 )
3 + −
= 4αZ 2 r02 +
log
−
dE+
k3
km
2
(2.5)
となる. ここで,r0 = e2 /m は古典電子半径である.
図 2.3: 対生成で定義する角度
2.1.3
遮蔽の効果
光子を原子核に照射する際, 原子核周りの電子による遮蔽の効果を考える必要がある. 振幅の計
算の際 Coulomb ポテンシャルは
∫
e
(2.6)
Z eiq·r d3 r
r
の形で表れるが, この積分に最も寄与するのは r ∼ 1/q の部分である.|q| が小さいところでは微分
断面積が非常に大きくなることがわかる. 入射超相対論的近似で |q| の最小値は
qmin = k − p+ − p− ∼
m2 k
2E+ E−
(2.7)
であるから, 断面積に大きい寄与を与えるのは
rmax =
1
qmin
∼
2E+ E−
m2 k
(2.8)
の範囲で,rmax が原子半径より大きい場合遮蔽は完全になると言える. 原子半径としては Thomas1
Fermi 模型による値 Z − 3 /mα を用いる. これより, 完全遮蔽の条件は
1
mk
≪ Z3α
2E+ E−
4
(2.9)
である. 遮蔽の効果を入れた場合, ポテンシャルは
∫
Z(1 − F (q))e iq·r 3
e d r
r
∫
F (q) = ρ(r)eiq·r d3 r (ρ は原子電子の密度)
(2.10)
(2.11)
と書き換えられる. すなわち, 式 (2.4) において Z 2 を [Z(1 − F )]2 に換えればよい. 原子に ThomasFermi-Moliére の模型 (付録 A 参照)
1 − F (q) ∑ ai
=
q2
Λ2i + q 2
3
(2.12)
i=1
Λi = (mZ 1/3 /121)bi , a1 = 0.10, a2 = 0.55, a3 = 0.35, b1 = 6.0, b2 = 1.20, b3 = 0.30
(2.13)
を用いて, 完全遮蔽の場合の微分断面積は超相対論的近似で
( E2 + E2 + 2 E E
dσ
1 E+ E− )
−
− 13
3 + −
= 4αZ 2 r02 +
log
183Z
−
dE+
k3
9 k3
(2.14)
となる. これより, 全断面積は
σ = αZ 2 r02
[ 28
9
log 183Z − 3 −
1
2]
27
(2.15)
と求まる.
2.1.4
Born 近似からのずれと小角度散乱
これまでの計算はすべて Born 近似
αZ/β ≪ 1
(2.16)
の下で行ってきた (β は電子の速度). しかし, 低エネルギー, または重い原子核に対してこの近似は
効かなくなってくる. その場合,Coulomb 場での電子の波動関数を求めて(付録 B 参照)不変振幅
を計算する必要がある. 完全遮蔽の条件では
2
( 2
2
dσ
1 E+ E− )
2 2 E+ + E− + 3 E+ E−
− 13
= 4αZ r0
[log 183Z − f (Z)] −
dE+
k3
9 k3
σ = αZ 2 r02
[ 28
9
log 183Z − 3 −
1
2
f (Z) = α Z
2
∞
∑
n=1
n(n2
(2.17)
28
2]
f (Z) −
9
27
(2.18)
1
+ α2 Z 2 )
(2.19)
と補正される.Z が大きくなるとこの補正がより効くようになる.
小角度の電子陽電子散乱を考える. 超相対論的近似では式 (2.4) から
θ∼
m
E
(2.20)
の範囲による微分断面積への寄与が大きくなることがわかる. このような範囲の小角度散乱では原
子核への運動量移行が小さくなり,Born 近似からのずれが小さくなる.
5
2.2
π 中間子生成の断面積
2.2.1
Effective Field Theory
核子や中間子はクォークの複合体であり, 電磁相互作用のみならず強い相互作用をしうる. した
がって必要とされる最も基本的な理論として QCD(Quantum Chromo Dynamics) を考慮にいれな
くてはいけない. しかし QCD は例えば断面積のような物理量を求める際,QED では可能だった摂
動展開による漸近的な近似が不可能である. それは QED の結合定数 α に比して,QCD の結合定数
のオーダーが(一般的には実験でのエネルギー領域などにも依存するものの)大凡 1 のオーダー
かそれ以上であることが本質的である. また QCD のゲージ場であるグルーオン同士の結合なども
問題をより一層困難にしている一因であり, 今日まで一部のシミュレーションによる近似的な計算
等を除き,QCD を直接的に用いることによる物理量を計算するための確立された方法は皆無であ
る. それ故強結合を含む反応を記述するためにはその都度, 現象論的・近似的な方法に頼る他ない.
そのための方法が EFT(Effective Field Theory) である.
EFT の本質的なアイデアは, 注目する物理量のなんらかのスケールを最初に設定してしまうこと
である. 例えば運動量スケールをそのようなものさしのリミットとして採用し, それを λ とする. 実
際の実験での運動量スケールを p としたとき, λp によって, 物理量をこのべき乗で展開していく. そ
うして低次項にのみ注目し, 高次項による委細は捨て去り, 問題の簡単化を計るとする戦略である.
EFT の最初のステップは, 記述する系の対称性を備えた effective Lagrangian(Leff ) を構成するこ
とである. この際の各項の係数などは元の基礎理論, この場合であれば QCD から原理的には計算さ
れるべきものであるが,QCD の扱いが困難であるために通常は実験との整合性を合わせるべくフィッ
ティングさせて決定する. 設定したスケールリミットに応じてどの程度の精度を持った理論である
か評価することも可能である. 我々はこの EFT の一形態である QCD 由来の Chiral Perturbation
Theory(以下,ChPT) によって核子と中間子, 及び電磁場との相互作用を記述する Lagrangian を
導く.
2.2.2
QCD の対称性
先述のように ChPT の Leff は基礎理論である QCD の持つ対称性を満たしていないといけない.
従ってまず QCD の持つ Chiral symmetry について簡単にまとめておく. ゲージ原理とクォーク場
のフレーバー SU(3) 対称性の要請から,QCD Lagrangian は次のように書ける.
LQCD =
∑
f =u∼t
)
(
1
/ − mf qf − Gµν,a Gaµν
q f iD
4
(2.21)
ここで第一項はフェルミ粒子であるクォークの運動項と質量項.q はカラー三重項のクォークを表
している. フレーバー SU(3) 対称性は次のような変換として書ける.
[
]
8
∑
λ
a
qf 7−→ qf′ = exp −i
Θa (x)
qf = U [g(x)] qf
(2.22)
2
a=1
この変換に対応する共変微分の形は以下のようになる.Aµ,a は量子化されたグールオン場のポテン
シャルである.
8
∑
λa
Aµ,a
(2.23)
Dµ = ∂µ − ig
2
a=1
上記の Aµ,a によって Gµν,a は次のように書ける.
Gµν,a = ∂µ Aν,a − ∂ν Aµ,a + gfabc Aµ,b Aµ,c
(2.24)
fabc は su(3) 代数の構造定数で, この第三項目からグルーオン場同士が結合しうることがわかる.
(QED で光子が互いに相互作用しなかったのと対照的である.)このような各定義の下, 式 (2.22)
の変換で Lagrangian が不変であることが確かめられる.
6
次に格子場の理論などから計算された各クォークのフレーバー毎の(いわゆる裸の)質量に注
目してみる. すると 1GeV というエネルギーオーダーを基準に階層的な構造が見えてくる.




mu = 0.005GeV
mc = (1.15 − 1.35)GeV




(2.25)
md = 0.009GeV ≪ 1GeV ≤  mb = (4.0 − 4.4)GeV 
ms = 0.175GeV
mt = 174GeV
我々の実験のエネルギースケールは 1GeV オーダーであるから, スタート地点として左の3つの軽
いクォークのみが登場する Lagrangian を議論するのは妥当である. またその裸の質量の明らかな
小ささから, この質量を 0 とする極限を考える.(Chiral limit)つまり,
L0QCD =
∑
l=u,d,s
1
/ l − Gµν,a Gaµν
q l iDq
4
(2.26)
という Chiral limit の Lagrangian を考えることができる. この Lagrangian はカイラリティの左と右
の固有値を持つクォーク場の成分毎に SU(3) の対称性を持っている.Chilality 演算子 PR = 21 (1+γ5 )
と PL = 12 (1 − γ5 ) の固有状態のクォーク場の成分をそれぞれ qR と qL と書くことにする. すると
この Lagrangian は次のような形に書きなおすことができる.
L0QCD =
∑
1
/ R,l + q L,l iDq
/ L,l ) − Gµν,a Gaµν
l = u, d, s(q R,l iDq
4
(2.27)
このように書き直すと次の様な SU (3)L,R × U (1)L,R の変換に対しての対称性がより明らかであろ
う.(L,R の足は変換群が作用する Hilbert 空間の Chilality 固有空間を指定するものである)






)
(
u
uL,R
uL,R
8
L,R
∑
λa
L,R 





e−iΘ  dL,R 
(2.28)
ΘL,R
 dL,R  7−→ UL,R  dL,R  = exp −i
a
2
a=1
sL,R
sL,R
sL,R
Lie 群の独立な生成子ないし, その結合度を表すパラメータは 2 × (8 + 1) 個あるから,Noether の定理
の予言する所によって, 時間について保存する 18 個のカレント密度流が存在することになる.U(1)
対称性は量子アノマリー効果によって変更を受けることがあるが, 以下の議論においては本質的で
はないので, ここでは注意だけに留めておく. このような Chirality 固有空間毎の対称性の本質は,
3つの軽量クォークの mass term を 0 としたことが本質的である.
2.2.3
Nambu-Goldstone ボソン
Lagrangian が大局的な対称性を有していたとしても, 安定な系の状態に遷移する過程でそのよう
な対称性は一般に, 局所的には破れていることがある. これを自発的対称性の破れという.NambuGoldstone 定理は, このような大局的な対称性を表す群の生成子と, 系が選んだ安定点近傍の局所
的な対称性を表す群の生成子(この群は先の群の部分群になる)の差分だけ,massless のスカラー
ボソンが出現することを主張するものである. まずはこの事実を数学的に定式化してみてみる.
まずは系を表す Lagrangian として次の形のものを仮定しよう.
⃗ · ∂µΦ
⃗ − V(Φ)
⃗
⃗ ∂µ Φ)
⃗ = 1 ∂µ Φ
L(Φ,
2
(2.29)
⃗ はスカラーないし擬スカラーの場を表しており, この Lagrangian は大域的な対称性を
ここで Φ
表す Lie 群 G による場の変換の下, 対称であることを仮定する. すなわち
g ∈ G : Φi → Φi + δΦi , δΦi = −iϵa taij Φj
(2.30)
という変換で Lagrangian は不変であることを仮定する. ここで T a = (taij ) は Lie 群 G に付随する
Lie 代数の生成元であり, 反対称かつ純虚数である. そしてポテンシャル V は適当な形をしており,
⃗ min = ⟨Φ⟩
⃗ を持っているとする. そしてこの状態は G の部分群である H によっ
真空期待値として Φ
7
⃗ をΦ
⃗ min の近傍で展開する.|Φ
⃗ min | = v とし,Φ
⃗ =Φ
⃗ min + χ
て不変であることを仮定する. 次に V(Φ)
⃗
とすると,
2
⃗
⃗
⃗ = V(Φ
⃗ min ) + ∂V(Φmin ) χi + 1 ∂ V(Φmin ) χi χj + · · ·
V(Φ)
(2.31)
∂Φi
2 ∂Φi ∂Φj
⃗ min は V を最小にするのだから,χ についての 1 次の係数は 0 であることが必要である. この 2 次
Φ
の係数を m2ij と定義する. このとき M 2 = (m2ij ) は対称行列であり, 先の条件に加えて第 3 項が任
意の χi |χj に対して正であれば十分である. すなわち
m2ij xi xj ≥ 0, for ∀⃗x
(2.32)
という M 2 行列の正定値性は担保されており, 従ってその固有値は常に非負でなければならない.
もう一度大局的な群 G によるポテンシャルの不変性を用いて,
⃗ min ) = V(D(g)Φ
⃗ min ) = V(Φ
⃗ min + δΦmin ) = V(Φ
⃗ min ) + 1 m2 δΦmin,i δΦmin,j + · · ·
V(Φ
2 ij
(2.33)
これを単純に Taylor 展開した式と比較することによって,
m2ij δΦmin,i δΦmin,j = 0
(2.34)
⃗ min,k で微分し,δ Φ
⃗ min = −iϵa T a Φ
⃗ min を代入することによって, 次の結論を得る.
さらにこの式を δ Φ
⃗ min = ⃗0
M 2T aΦ
(2.35)
この行列方程式の解は次のように2つのクラスに分類することができる.
1. T a , (a = 1, · · · nH ) というように,T a が真空を不変にする G の部分群 H の生成子になってい
⃗ min に対する T による作用の不変性から式 2.35 は M 2 の形に関わら
るとき. このとき真空 Φ
ず成り立つ.
⃗ min ̸= ⃗0 であり, このベクトルは M 2
2. それ以外の時.T a は H の Lie 代数とならず, 従って T a Φ
の固有値0の状態を意味する. 実はこれがいわゆる massless の Nambu-Goldstone ボソンで
⃗ min 状態は独立である. それは次のようにし
ある. 実は各 a = nH + 1, · · · , nG に対して T a Φ
てわかる.
( n
)
G
∑
a
⃗ min
⃗0 =
ca T
Φ
(2.36)
a=nH +1
上の式に対して ca の中に 0 でないものがあるとすると, 真空状態を不変に保つことになり,T a
が H の Lie 代数でないという仮定に反する.
上の 2. の事実から, 一般に自発的な対称性の破れから nG − nH 個の massless ボソンが生じること
がわかる. 上の線形結合を上手く取れば M 2 を対角化することもできる.
最後に対称性が近似的に破れるような場合にもボソンが見えてくることを1つの例によって見
ていくことにする. 大事なのはこのようなケースでは生じるボソンは massive なことである. 次の
ような仮想的なポテンシャルを見ていこう.
V(Φ1 , Φ2 , Φ3 , ) =
λ
m2
Φi Φi + (Φi Φi )2 + aΦ3
2
4
(2.37)
ここで m2 < 0, λ > 0, a > 0 である.a = 0 のとき有している O(3) の回転対称性は最後の項によっ
て破れてしまっている. 有しているのは Φ1 , Φ2 周りの O(2) 対称性のみである. ここでこのポテン
シャルの最小値(真空期待値)は ∇Φ V = 0 より,
Φ1 = Φ2 = 0, λΦ23 + m2 Φ3 + a = 0
8
(2.38)
図 2.4: 自発的対称性の破れの概念図. 当初赤の状態が有していた大局的な z 軸周りの回転対称性
は基底状態である青の状態では局所的に破れている.
(0)
(1)
この代数方程式の解を摂動的に求めることを考えよう. すなわち ⟨Φ3 ⟩ = Φ3 + aΦ3 + O(a2 ) の形
を想定して, 次の形の解を得る.
√
1
m2 (1)
(0)
, Φ3 =
Φ3 = ± −
(2.39)
λ
2m2
である.+ 符号の解はポテンシャルの最小性から落とせる.Φ3 = ⟨Φ3 ⟩ + η を元のポテンシャルに代
入して, 二次の項の係数を抜き出していく. すると,
√
√
λ
λ
2
2
2
2
mΦ1 = mΦ2 = a
, m = −2m + 3a
(2.40)
−m2 η
−m2
これは対称性の明らかな(しかし微小な)破れが起因となって, 安定点周りで生じるボソンが質量
を持つことを表している.
上記で議論したことを整理しておく.QCD の低エネルギー有効理論として Chiral Lagrangian を作
ることができる. これはクォーク場の chirality 毎に3つのフレーバーを混ぜる SU (3)L,R × U (1)L,R
の対称性を有していることを述べた.Lagrangian のこのような対称性に対して, 基底状態への遷移
などで系の対称性が破れ, 破れた対称度に応じて massless ボソンが生じる. また近似的には有して
いる対称性が壊れると massive なボソンが出てくることも見た. 実はこれが実際に生じるパイオン
を始めとする中間子に対応している. こうして中間子が系の中に現れる機構を見ることができたの
で, つぎにこの中間子と核子の相互作用を記述するための2つのモデルを順に見ていく.
2.2.4
線形シグマモデル
核子とパイオンの結合を与えるモデルとして線形シグマモデルを最初に見ていくことにする. 歴
史的には Gell-mann と Lévy がそれまでに存在していた Lagrangian を改良しながら, このモデル
を提案した.
2つのクォーク q から成る中間子 B は Pauli 行列を用いて次のように表せる:
Ba = q̄L(R) τa qR(L) (a = 0, 1, 2, 3)
(2.41)
ここで τ0 は 2 次元単位行列である. このように表された場が固有のパリティを持つべく, 次のよう
な線形結合を考える:
Sa ≡ q̄R τa qL + q̄L τa qR = q̄τa q(正のパリティ)
(2.42)
9
Pa ≡ −i(q̄R τa qL − q̄L τa qR ) = iq̄τa γ5 q(負のパリティ)
(2.43)
これらは SU (2)L × SU (2)R 微小変換:
qR → (1 − i⃗r · ⃗τ )qR , qL → (1 − i⃗l · ⃗τ )qL
(2.44)
によって次のように変換される:
⃗
S0 → S0 − ⃗a · P⃗ , P0 → P0 + ⃗a · S
(2.45)
⃗→S
⃗ − P0⃗a + ⃗v × S,
⃗ P⃗ → P⃗ − S0⃗a + ⃗v × P⃗
S
(2.46)
⃗ 2 と S 2 + P⃗ 2 がカイラル不変であることがわ
ただし,⃗v ≡ ⃗r + ⃗l,⃗a ≡ ⃗r − ⃗l である. 以上から P02 + S
0
2
⃗ 2 の組み合わせをとり,ϕ = (S0 , P⃗ ) = (σ, ⃗π )
かる.π 中間子が擬スカラー粒子であることから,S0 + P
と表そう.σ はシグマ中間子と呼ばれている.
中間子と核子に対する Lagrangian を書き下そう. 中間子と核子の相互作用は ϕ とその同じ形の
ベクトル (Ψ̄Ψ, iΨ̄⃗τ γ5 Ψ) との内積をとれば良く,
1
1
/ − g Ψ̄(σ + i⃗π · ⃗τ γ5 )Ψ + ∂µ σ∂ µ σ + ∂µ⃗π ∂ µ⃗π − V(ϕ)
L = Ψ̄i∂Ψ
(2.47)
2
2
となる. ここで g は実験により定められるパラメタ. この Lagrangian から, 核子が質量 g⟨σ⟩ を持つ
ことがわかる. また,πN N 結合は
LPπNS N = −ig Ψ̄⃗π · ⃗τ γ5 Ψ
(2.48)
と表される. このような結合を擬スカラー (Pseudo Scalar) 結合と呼ぶ.
2.2.5
非線形シグマモデル
線形なモデルで導入された σ 中間子の存在はまだ議論の途中であり, その存在を仮定せずに理
論を構築したものが非線形シグマモデルである. 前節で見たように σ 2 + ⃗π 2 はカイラル不変である
ことから, 4つの変数 ϕ = (σ, π1 , π2 , π3 ) を半径 F の4次元球面上の極座標 (自由度は 3) で表せば
十分となりカイラル変換は半径 F の 4 次元球面上の点を同じ球面の別の点に移す変換, すなわち
O(4) 変換となる. 実際,SU (2) × SU (2) ∼
= O(4) である. この 3 つの角度に π 中間子を対応させる.F
は中間子の崩壊定数と呼ばれる.
⃗ )
σ + i⃗τ · ⃗π = F U = F exp(i⃗τ · ϕ/F
(2.49)
とすると, メトリックが
gmn (ϕ) =
ϕm ϕn ( δmn ϕm ϕn ) 2
+
−
sin |ϕ|
|ϕ|2
|ϕ|2
|ϕ|4
(2.50)
となり, 運動項は
1
1
1 [ ∂ϕm ( ∂σ
∂πi )]2
∂µ σ∂ µ σ + ∂µ⃗π ∂ µ⃗π =
+
2
2
2 ∂xµ ∂ϕm ∂ϕm
1
∂ϕm ∂ϕn
= gmn (ϕ)
2
∂xµ ∂xµ
2
F
=
tr[∂µ U ∂ µ U † ]
4
(2.51)
⃗ 5 /F ) を定義すると, 核子と中間子の相互作用項は
と書き換えられる. 新たに U5 = exp(i⃗τ · ϕγ
√ √
Ψ̄(σ + i⃗π · ⃗τ γ5 )Ψ = F Ψ̄ U5 U5 Ψ ≡ F N̄ N
10
(2.52)
と書ける. ここで,u5 Ψ = N, u5 ≡
り, 核子の運動項は
√
U5 とする.N は中間子による衣を着た場と呼ばれる. これよ
/ † N ) = iN̄ ∂N
/ + iN̄ u†5 (∂u
/ †5 )N
iN̄ u†5 ∂(u
(2.53)
と分けられる. 特に第 2 項について,γ5 の偶奇のべきで分解する. この時,γ5 を奇数次の部分でく
くりだせば u5 を u で置き換えられる:
1
/ †5 )N = iN̄ (u†5 (∂µ u5 ) + u5 (∂µ u†5 ))γ µ N
iN̄ u†5 (∂u
2
1 †
+ iN̄ (u5 (∂µ u5 ) − u5 (∂µ u†5 ))γ µ N
2
1 †
1
= (u (∂µ u) + u(∂µ u† )) + (u† (∂µ u) − u(∂µ u† ))γ5 .
2
2
(2.54)
(s)
外場のあるときの核子, 中間子の有効 Lagrangian は,gA , B を未定のパラメタ.rµ , lµ , vµ , s, p を
それぞれ右巻きベクトルカレント, 左巻きベクトルカレント,1 重項ベクトルカレント, スカラー密
度, 擬スカラー密度に結合する場として,
(
)
g
F2
F2
/ − M N + A γ5 γ µ u µ Ψ +
L = Ψ̄ iD
Tr[Dµ U (Dµ U )† ] +
Tr(χU † + U χ† )
2
4
4
( ϕ)
⃗=
U = exp i
, ϕ ≡ ⃗τ · ϕ
F
(
ϕ3
ϕ1 − iϕ2
ϕ1 + iϕ2
−ϕ3
)
(
=
π0
√ −
2π
Dµ = ∂µ + Γµ − ivµ(s)
Γµ =
]
1[ †
u (∂µ − irµ )u + u(∂µ − ilµ )u†
2
uµ = i[u† (∂µ − irµ )u − u(∂µ − ilµ )u† ]
( )
p
Ψ=
n
χ = 2B(s + ip)
と書ける. 電磁場 Aµ との相互作用, 中間子の質量項を入れるため,
τ3
e
rµ = lµ = −e Aµ , vµ(s) = − Aµ , s = diag(m, m)
2
2
√ +)
2π
−π 0
(2.55)
(2.56)
(2.57)
(2.58)
(2.59)
(2.60)
(2.61)
(2.62)
とする. ここで m はクォークの質量で u, d で同じであると仮定している.U, u については 2 次の項
までとり Lagrangian を展開する.
U ≃1+i
ϕ
ϕ2
ϕ
ϕ2
−
,
u
≃
1
+
i
−
F
2F 2
2F
8F 2
これより,πN N ,γN N ,γππ,γπN N 結合は以下のようになる:
gA
LPπNV N = −
Ψ̄γ5 γ µ ∂µ ϕΨ
2F
1 + τ3
/
AΨ
LγN N = −eΨ̄
2
e
⃗ × ϕ)
⃗ 3 Aµ
Lγππ = (∂µ ϕ
2
gA e
⃗ 3Ψ
/ 5 (⃗τ × ϕ)
Ψ̄Aγ
LγπN N = −
2F
LPπNV N のような結合を擬ベクトル (Pseudo Vector) 結合と呼ぶ.
11
(2.63)
(2.64)
(2.65)
(2.66)
(2.67)
2.2.6
低エネルギー定理
カイラル対称性の要請から N G ボソンの相互作用はモデルによらず同一になる. このことを低
エネルギー定理を言う. これより最低次の不変振幅はモデルによらず一致し, 係数を比較すると
gA /F = g/MN となる.
2.2.7
断面積の計算
今回の実験では π 0 の光生成:γ + p → π 0 + p について反応数を見積もる. 実験室系 (標的陽子が
静止している系) をとり, 入射光子 k, 標的陽子 p, 放出 π 中間子 k ′ , 放出核子 p′ の運動量はそれぞれ
k = (k, 0, 0, k), p = (M, 0, 0, 0), k ′ = (E, k′ ), p′ = (E, p′ )
(2.68)
とする (図 2.5).M は核子の質量である.
図 2.5: 光生成反応で定義する角度
前節で見た Lagrangian から, 最低次の Feynman 図と不変振幅は以下のようになる (Aµ = εµ ):
γ
π0
γ
π0
k′
k
k
p′
p
p′
p
k′
P
P
P
P
図 2.7: u チャンネル
図 2.6: s チャンネル
iMPV = −eū(p′ )/ε
i(p
i(p/′ − k/ + M ) ( g )
g
/ + k/ + M )
iγ5 k/′ u(p) −
ū(p′ )iγ5 k/′
(−e)/εu(p)
−
′
2
2
(p − k) − M
2M
2M
(p + k)2 − M 2
(2.69)
iMPS = −eū(p′ )/ε
i(p
i(p/′ − k/ + M )
/ + k/ + M )
(−ig)γ5 u(p) − igū(p′ )iγ5
(−e)/εu(p)
′
2
2
(p − k) − M
(p + k)2 − M 2
12
(2.70)
尚, 前節の低エネルギー定理からこの2つの振幅は一致する. 実際,Dirac 方程式を用いて証明す
ることができる.
入射光子の偏極と標的陽子のスピンの平均, 放出陽子のスピンの和をとり, 放出陽子の散乱角 θ
の関数として微分断面積は以下のようになる:
dσ
2π 2 αg 2
p′2
=
I
d cos θ
M k |p′ (k + M ) − E ′ k cos θ|
(2.71)
M 2 (p · k ′ ) − M 2 (p′ · k) + (p′ · k)(p · k)
(p′ · k)2
(p · p′ )2 − (p · p′ )(k · k ′ ) − (p · k)(p′ · k) − M 2 (p · p′ )
+2
(p′ · k)(p · k)
M 2 (p · k ′ ) − M 2 (p · k) + M 2 (k · k ′ ) + (p′ · k)(p · k)
+
(p · k)2
(2.72)
I=
ここで,p′ , E ′ は cos θ の関数で, 運動量保存から以下のような関係にある:
E′ =
√
p′2 + M 2 , M + k = E ′ +
13
√
k 2 + p′2 + m2 − 2kp′ cos θ
(2.73)
第 3 章 実験装置
今回我々が実験を行った LEPS Group のビームラインの俯瞰図が図??である. まず Laser hutch か
らレーザーをリング内を 8GeV で周回する電子に衝突させ, 後方への Compton 散乱 (Back Compton
Scattering. 以下 BCS) を起こさせる. こうして我々の欲しい数 GeV 程度までエネルギーが高めら
れた γ 線を図の BL33LEP で表されている実験 Hutch へと誘導する. 実験 hutch にはターゲットと
共に散乱粒子の各種検出器などが収められている. リング内,Laser hutch 内, 実験 hutch 内にわけ
て我々の実験に関連する装置についての説明をしていく.
図 3.1: LEPS 実験俯瞰図 (出典:LEPS HP[?])
3.1
リング内
• bending magnet
Spring-8 内加速器の中での電子軌道を曲げ,BCS 後の散乱電子を次で記述する Tagging Counter
に導く. 大きな双極子磁石であり, 内部で磁場は鉛直方向に均一にかけられている.
• Tagging Counter(TAG)
リング内で BCS により散乱された電子の数とエネルギーを測定する. この測定データと相対
論的 Kinematics によってターゲットに入射する光子数とエネルギーのデータを得ることが
できる. 図??は実際に用いた Tagging Counter の構成図である.
14
図 3.2: Tagging Counter(出典:RCNP HP[?])
3.2
Laser hutch 内
• laser
レーザーをリング内に照射し,BCS で偏光した光子を得るために使った. 型番は,[coherent
製,Paladin Advanced 355 Modelocked, high-power UV lasers from 8W to 24W.]
• Pb block(1)
高エネルギー光子に混じっている X 線を除去する. この際 50% の高エネルギー光子も除去さ
れる (target のない状態での測定から求められているが,5% の誤差がある).
• sweep magnet
光子の Pb block への衝突で生じた電子陽電子対の軌道を曲げる.
• Praffin block
sweep magnet で曲げられた電子陽電子対を吸収する.
3.3
実験 hutch 内
• colimator
入射光子をしぼり, 入射軸を中心に集中させる.鉛ブロックを積み重ねて, すきま穴を作り,
コリメーターとして機能させるなどした.
• up stream e− e+ veto counter(u-veto)
colimate 時の電子陽電子対に反応し,trigger をかけないようにする.
15
• target
対生成実験では Au,Pb,Ag,Ti,Al,C(寸法は表??参照) を, 光生成実験ではポリエチレンを用
いた. ポリエチレンの大きさと重さは,(縦, 横, 厚さ, 重さ)=(15.0cm,15.0cm,5.0cm,1.09kg) で
ある.
• start counter(STC)
プラスチックシンチレータ-TOF counter 間の飛行時間を測定する.
• aerogel Cerenkov counter(AC)(光生成反応のみ)
電子を判別し, 電子を取り除くために用いる. 屈折率は 1.03 であった. 電子は π 中間子と比べ
て圧倒的に軽いため電子のみを排除することができる.
• silicon-strip vertex detector(SSD)
半導体検出器.target との反応後最初の位置測定をする.
• drift chember(DC1-3)
dipole magnet で曲げられた粒子の飛跡を測定する.DC1 では 6 層,DC2 と DC3 では各々5 層
のワイヤー層から位置座標の情報を引き出すことができる. 今回は DC2 と DC3 のみ用いた.
各層のワイヤーの角度はそれぞれの面に対して,0 度,30 度,-30 度である.
• dipole magnet
反応後の荷電粒子の軌道を曲げる. この曲率半径から粒子の運動量を求める (横 135cm, 高さ
55cm, 双極子の長さ 60cm). 磁場は図??の様に分布している.
図 3.3: dipole magnet の磁場分布 [?]
• Pb block(2)(光生成反応のみ)
dipole magnet 中にある. 対生成による電子陽電子対を吸収する. 対生成実験の際には target
側へ動かすことで電子陽電子対を観測できるようにした.
• down stream e− e+ veto counter(d-veto)(光生成反応のみ)
実験精度を上げるため Pb block に加え detector 下流でも veto を用いる.
• time of flight wall(TOF)
start counter からの飛行時間を測定する. 縦長のプラスチックシンチレータを少しずつ重ね
ながら横に並べて置き, 荷電粒子の位置も測定する.
16
• DAQ(Data Acquisition Quantity)
データを集めて解析するためのコンピュータ. 処理できる情報量に制限があるので, 状況に応
じて prescalor で調整をする.
17
第 4 章 実験手順
4.1
4.1.1
対生成反応
用いた γ 線
普段 LEPS で行われている γ 線衝突実験では対生成反応は不要な反応として Pb block で吸収さ
せている. 今回の実験では電子陽電子対を吸収させないためにまず Pb block を target 側に動かし
た. この状態で γ 線を照射すると吸収されない電子陽電子対が過剰になり危険であると判断して,
照準を合わせるために用いる強度の弱いレーザーを用いた.
4.1.2
試料
対生成の断面積の原子番号依存を調べるため, ある程度離れた番号のものを予算に合わせて選ん
だ. 厚さについては, 以下のような計算をした.
原点から位置 x までに反応する確率を P (x) とする. 単位長さ当りの反応確率を p とすると,P (x)
の満たす微分方程式は
dP = p(1 − P (x))dx
(4.1)
P (x) = 1 − e−px
(4.2)
である. これを解くと
平均自由行程 λ(P (x) = 1/2 となる長さ) は放射長 X0 と次のような関係にある [?]:
9
λ = X0 .
7
(4.3)
値を表??にまとめた.
これらから p を各原子核について求め, 試料の厚さに対する反応率が DAQ の上限 250events/sec(バ
ックグラウンド補正) に近くなるものを選んだ.
実際には放射長の 3% に近い厚さのものを選んだ.
試料
C
Al
Ti
Ag
Pb
Au
表 4.1: 各試料の放射長, 平均自由行程, 単位長さ当りの反応確率
放射長 X0 [?] 平均自由行程 λ 単位長さ当りの反応確率 厚さ・面積 (mm*mm2 )
19.32
8.90
3.56
0.86
0.56
0.33
24.84
11.44
4.58
1.10
0.72
0.43
0.028
0.061
0.15
0.64
0.97
1.63
18
8.0*50*50
3.0*100*100
1.5*50*50
0.3*50*50
0.20*100*100
0.1*50*50
4.1.3
回路
trigger 条件は以下のようである.
TAG ∧ ¬uveto ∧ STC ∧ TOF
4.1.4
(4.4)
手順
以下の手順を各試料, 偏光について繰り返す.
1. 試料の取り付け
detector 内に入り,start counter に試料を貼り付ける. 試料はアルミテープで固定する.(start
counter の膜を傷つけないため穴を空けたダンボール板を挟んだ).
2. γ 線の偏光の決定
地表に対し horizontal,vertical の 2 種類をとる. 実際には,horizontal も vertical も完全に 0
度,90 度ではない. 実際の角度は解析の章参照.
3. γ 線照射
start couter が 100,000count 程度を示すまで照射する.
4. trigger rate と tagger rate の記録
照射中の適当な 10 秒間の trigger count,tagger count を記録する. その比を各試料で比較し,
おおよその実験の整合性を確かめる. 原子番号が大きくなると trigger/tagger が大きくなる
が, それに当てはまらないものについてはビームの調整をし, データを録りなおした.
原子番号の高いものでは反応数が多過ぎて DAQ のデータ処理が追いつかなくなることがある.
その場合は prescaler を用いて trigger 数を 1/2,1/3 に調整した.
4.2
4.2.1
光生成反応
用いた γ 線
laser hutch から照射した 3.5eV レーザーを加速電子に当てて BCS を利用した高エネルギー
(1.5∼2.4GeV) で強く偏光した γ 線を用いる.
4.2.2
試料
今回の実験ではポリエチレンを用いた. ポリエチレン内の陽子と γ 線との反応を見たいので, 対
生成実験の際に用いた炭素にも γ 線を当てて, 後で炭素による反応を差し引く.
4.2.3
回路
trigger 条件は以下のようである.
TAG ∧ ¬uveto ∧ STC ∧ ¬d − veto ∧ TOF ∧ ¬AC
4.2.4
(4.5)
手順
対生成実験の時に動かしていた Pb block を元に戻す作業をしたあと, ポリエチレン, 炭素に vertical
の偏極の γ 線を時間の許す限り (各試料 80 分程度) 当てる. データ量が過剰になりプログラムをま
わして解析の速度が下がるために 4,5 回に分けて記録した.
19
第 5 章 解析
5.1
5.1.1
対生成反応
解析手法
それぞれのターゲットについて,horizontal 偏極の γ 線を用いたデータをもとに, 以下の 1∼6 の
手順で解析を行った.
1.DC2,DC3 における各層の鳴ったワイヤーの実験データから三次元での最小 2 乗法 ([?] の付
録参照) を用いたトラッキングにより荷電粒子の飛跡を再現した. ここで確率の分散はワイヤー間
隔が 20mm なので, 等確率として 100/3mm2 とした. また, 直線の傾きが正のものと負のものそれ
ぞれ χ2 が最もよいものを選び抜き, さらに 2 本とも χ2 が 10 以下のものを選んだ (図??, 図??). 傾
きが正の飛跡は陽電子, 負のものは電子とし, それぞれの χ2 を χ21 ,χ22 とした.
図 5.1: χ2 分布.χ2 が 10,000 以上のものは 10,000 として表示されるようにした.
]
図 5.2: χ2 が小さいところでの χ2 分布
20
2.再現した飛跡の x-z 平面での傾きと dipole magnet の長さ (0.6m), 磁場の強さから荷電粒子
の運動量を見積もった. 運動量 P (GeV) は磁場の強さ B(T) と曲率半径 R(m) を用いて
P = 0.3BR
(5.1)
と表せるので, 曲率半径 R(m) が dipole magnet の長さ L(m) と荷電粒子の x-z 平面でのz軸に対
する開き角 θ を用いて
R = L/ sin θ
(5.2)
となる. この時, 対生成の粒子はビームと平行に放出されたとした. よって
P = 0.3BL/ sin θ
(5.3)
ここで BL(T・m) として,dipole magnet 領域内で, 不均一な磁場の強度を積分した値 0.654(T・m)
を使用した (??参照).
3.原子への反跳はないとして, 正負の荷電粒子の運動量の和の値を入射 γ 線のエネルギーで
割った値が 1 近くのものを対生成のイベントとした. 対生成のイベントの数え上げの方法は, ま
ずターゲットありの正負の荷電粒子の運動量の和の値を入射 γ 線のエネルギーで割った値のヒス
トグラムをターゲットなしのヒストグラムで引いたものを用いて,1 付近のピークを Gauss 関数で
Fitting して σ を求め,2σ の範囲でヒストグラムを足しあげ,2σ が 95.4 %であることの補正を加え
た. さらに DAQ より, 取りこぼしているデータ分を補正した. この足しあげて補正した値が対生成
のイベント数である. ここで, 単純に Gauss 積分を行わなかった理由は Gaussian Fitting があまり
良い精度ではなかったからである.
4.求めた対生成のイベント数と tagging counter から得られた入射光子数に,tagging counter
からターゲットまでの光子数の減少率 0.52 を掛けた入射光子数を用いて, 各ターゲットごとの断面
積を求めた. この時, 対生成のイベントの電子陽電子はすべて検出器の立体角で観測出来たとした.
5.それぞれのターゲットのデータから得た断面積を用いて Z 依存性を見た. この時, すべての
ターゲットに対して同様の解析手順 1∼4 で解析を行ったので, 対生成のイベントの数え落としが
あっても Z 依存性を見る上では問題ないとし, 理論との比較は炭素ターゲットの断面積が理論と同
じ値になるようにスケール倍して Z 依存性を比較した.
6.次に数え落としの補正を加えた. 今回考慮したのは,DC の効率についての補正である. 今回
数え上げたのは,DC が全層がしっかり鳴って,2 本の直線が再現できた時のみなので,1 層でも鳴ら
ない場合対生成のイベントではないとしたので, 荷電粒子が通ったにも関わらずワイヤーが鳴らな
かったイベントは数え落としになっている.1 本の直線を正しく再現できた確率を p とする.2 本と
も再現できたイベント数(χ2 がともに 10 未満)と 1 本しか再現できていないイベント数(χ2 の
片方のみ 10 未満)の比が p2 と p(1 − p) となることから p を求め, 数え落としの数を評価した(表
??). この時,1 本しか再現出来なかったイベント数は, 片方の運動量がかなり低く磁場で曲げら
れすぎて DC の範囲を出た対生成のイベントが含まれないように, 再現できた荷電粒子の運動量が
1(GeV) 以下という制限をかけて, 数え上げた.
(χ21 < 10 ∧ χ22 < 10)
4987±65
表 5.1: DC の効率の評価
(χ21 < 10 ∧ χ22 > 10) (χ21 > 10 ∧ χ22 < 10)
9578±98
10665±103
p2
8.6±1.0 % 尚,Au 標的のデータを用い,p2 は χ21 のみの場合と χ22 のみの場合よりそれぞれ求めた p2 を平均
したものである.
21
5.1.2
解析結果
解析で得た運動量の和を入射 γ 線のエネルギーで割ったもののヒストグラムを以下に並べる.
図 5.3: ターゲットなし
図 5.4: C ターゲット
図 5.5: Al ターゲット
図 5.6: Ti ターゲット
22
図 5.7: Ag ターゲット
図 5.8: Au ターゲット
図 5.9: Pb ターゲット
23
5.1.3
断面積
計測した時間での総入射光子数と各標的の面積辺り標的数, および計測した時間内での対生成の
散乱イベント数から断面積は次のように計算することができる.
σtot =
対生成反応数
総入射光子数 × 面積辺り標的数
(5.4)
断面積に必要となるデータとそれぞれの断面積の値を表として以下にまとめておく (密度と原子量
は [?] 参照).
表 5.2: 使用した各試料のデータと断面積
ターゲット
面積 [cm2 ]
C
Al
Ti
Ag
Au
Pb
5.1.4
密度 [g/cm3 ]
25
100
25
25
25
100
1.74
2.69
4.54
10.50
19.3
11.34
原子量
個/面積 [個/m2 ]
入射光子数
反応数
断面積 (mb)
12.011
26.981539
47.867
107.8682
196.96654
207.2
7.0 ×
1.8 × 1026
8.6 × 1025
1.8 × 1025
5.9 × 1024
6.6 × 1024
186×104
1940
2340
3250
2370
2120
2670
15±0.34
73±1.4
2.4×102 ±4.1
7.4×102 ±15
1.9×103 ±39
2.3×103 ±64
1026
179×104
159×104
183×104
191×104
173×104
Z 依存性について
Sigma(barn)
Sigma_Z
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
0
10
20
30
40
50
60
70
80
Z
図 5.10: 断面積の Z 依存性. 太い点線は式 (2.15), 細い点線は式 (2.18), 実線は炭素標的の実験値を
その理論値と一致する様にスケール倍したもの.
5.1.5
数え落としを考慮した断面積
DC の効率によって起こる数え落としを考慮した断面積を以下の表に示す:
24
表 5.3: 各ターゲットごとの補正後の対生成の断面積 (mb)
C
1.7×102 ±19
5.2
5.2.1
Al
8.4×102 ±93
Ti
2.7×10 ±3.1×102
3
Ag
8.6×10 ±9.5×102
3
Au
2.2×10 ±2.4×103
4
Pb
2.7×10 ±3.0×103
4
光生成反応
解析手法
LEPS ビームラインを用い,2GeV 程度の γ 線をポリエチレン標的, 炭素標的に照射し, それぞれ
について 4,5run を実行した.
各 run の run no, 測定時間, 入射光子数などを以下にまとめる.
標的
CH2
C
run no
55833
55834
55835
55836
55837
55838
55841
55842
55843
表 5.4: 各 run のビーム情報
光子数
trigger request trigger accept
測定時間
5’46”
4’49”
8’37”
10’56”
12’56”
10’28”
10’48”
11’24”
11’23”
433,760,281
324,570,761
498,625,979
483,232,173
482,805,434
843,925,252
848,387,786
851,836,509
852,117,404
46024
33500
52259
51563
51075
51540
51491
51379
51380
41513
30576
48393
48543
48567
48351
48339
48435
48408
解析は各 run のトラッキングデータを用いて行った.
5.2.2
トラッキングデータ
セットアップ内で測定された情報を, 検出器を通過した荷電粒子の物理量に計算したもの. デー
タは
Float_t
Int_t
Int_t
Int_t
Int_t
Int_t
Int_t
Int_t
Float_t
Float_t
Float_t
Float_t
Float_t
Float_t
Float_t
Float_t
Int_t
Float_t
Float_t
Float_t
...
version ;
runnum ;
eventnum ;
laserpol ;
scaler [128];
scaler_sum [128];
eventtag ;
ntrk ;
qq [30];
//[ ntrk ]
pp [30];
//[ ntrk ]
px [30];
//[ ntrk ]
py [30];
//[ ntrk ]
pz [30];
//[ ntrk ]
sleng [30];
//[ ntrk ]
chi2trk [30];
//[ ntrk ]
prbchi2 [30];
//[ ntrk ]
nhits [30];
//[ ntrk ]
x0 [30];
//[ ntrk ]
y0 [30];
//[ ntrk ]
z0 [30];
//[ ntrk ] 25
などあり, 各変数に値が格納されている.
このなかで, 今回の解析に用いた物理量は以下である:
• vtz :バーテックスポイント z 成分
• qq:電荷
• pp:運動量の大きさ
• pz:運動量 z 成分
• fegam:入射 γ 線のエネルギー
• ntof:start counter から TOF までの飛行時間
• sleng:start counter から TOF までの飛行距離. 5.2.3
バーテックスポイント
バーテックスポイントはビーム軸上の光生成反応点の空間座標をあらわしている.
これについて, 例えば run no.55833 について 1 次元ヒストグラムでプロットすると (図??),2 つの
ピークが見え, それぞれターゲットと start counter での反応点を示している. このことから, 上流
側にある左ピークを target 由来のものとみなし, 以後の解析ではこのピークに含まれるデータのみ
を抽出して用いた.
5.2.4
トラッキングデータによる質量分布
トラッキングデータから, 検出された荷電粒子の質量 M を求める.
β=
M=
sleng[mm]
v
=
c
ntof[ns] × c
p
γβc
(5.5)
√
(γ = 1/ 1 − β 2 )
(5.6)
より計算し, 横軸:質量×電荷 [GeV], 縦軸:カウントとしてヒストグラムにする.
ポリエチレンにおける 5 つの run を合計したものが以下となる (図??).
図 5.11: r55833 における vtz : 横軸は z 座標
図 5.12: 質量分布 : 横軸 (電荷) × (質量) [GeV]
これらの図から,±0.14GeV 付近に π ± ,0.5GeV 付近に K + ,1GeV 付近に p,2GeV 付近に d(重水
素) のピークが見られる.
26
5.2.5
Missing Mass 分光法
以下の仮定のもとで γ + p → A+X の反応について終状態に現れる粒子を探る:
・終状態が 2 体となる弾性散乱
・終状態の粒子ひとつが検出され 4 元運動量が測定できる.
始状態 : k = (Eγ , Eγ ẑ), pin = (Mp , 0)
終状態 : A = (EA , p
⃗A ), X = (EX , p⃗X )
とし,4 元運動量保存から
2
MA = EA
− p⃗2A
(5.7)
k + pin = A + X
(5.8)
(5.9)
これより粒子 X の質量は
(
)1
MX = Mp2 + MA2 + 2(Eγ Mp + Eγ (⃗
pA )z − Eγ EA − EA Mp ) 2
5.2.6
(5.10)
γ(p, p)X における Missing Mass 分光法
ポリエチレンにおける質量分布において陽子のピークに含まれるトラッキングデータから,(??)
を用いて MX を計算し, 横軸 MX の一次元ヒストグラムにする (図??).
図 5.13: CH2 にける MissingMass 分光
バックグラウンド
ポリエチレンは組成が CH2 であるため, 純粋な γ 線と陽子の反応を調べるためにはポリエチレ
ン標的の測定結果から炭素標的の結果を適当に規格化して引く必要がある.
各 run のデータについて,DAQ の値が
DAQ =
(trigger accept)
(trigger request)
(5.11)
run ごとの γ(p, p)X の Missing Mass 分光による MX のヒストグラムを [CH2 :target],[C:target] と
する.
run 55833∼55837 のポリエチレン標的における入射光子数の合計を NPE
run 55838,55841∼55843 の炭素標的の光子数の合計を NC
27
ポリエチレン, 炭素標的内の炭素原子核数を ρPE , ρC [個/cm2 ]
γ 線と陽子の純粋な反応によるヒストグラムを [p:pure] とすると
∑ [CH2 : target]r
1
1 ∑ [C : target]r
−
NPE ρPE
(DAQ)r
N C ρC
(DAQ)r
PE
C
∑ [CH2 : target]r NPE ρPE ∑ [C : target]r
∝
−
(DAQ)r
NC ρC
(DAQ)r
[p : pure] ∝
PE
(5.12)
(5.13)
C
γ(p, p)X 反応
バックグラウンドを差し引いた γp 反応における Missing Mass 分光のヒストグラムは
図 5.14: γ(p, p)X の Missing Mass : 横軸 質量 [GeV]
となる.
γ(p, π)X 反応
同様に粒子 A を π ± としてそれぞれについて同様な分光法を行い炭素標的からのバックグラウ
ンドを差し引くと以下の図のようになり, 結果として優位なピークは見られなかった.
図 5.16: π − Missing Mass
図 5.15: π + Missing Mass
28
第 6 章 考察
6.1
6.1.1
対生成反応
ほかの γ 線による対生成反応との誤認
γ 線による荷電粒子の生成反応との比較をして, 電子陽電子に混じってくるほかの粒子を考えた場
合, まずレプトンセクターでの対生成は,µ 粒子の対生成でも電子陽電子の対生成の断面積の 40000
分の 1 ほどの大きさになるので解析にはおおきく寄与しない. π 中間子対についても, ポリエチレ
ンと炭素での実験からおよそ 10000 分の 1 程度の断面積であり, これの寄与も小さいと結論付ける
ことができる.
6.1.2
実験セットアップによる測定の限界
実験のセットアップでは原理的に, 全立体角を観測器で埋めることは難しく, 測定の限界があっ
た.dipole magnet による曲がり角を θ としたとき, 観測できる粒子の角度には限界がある.幾何
学的にこれを求めると,sin θ = 0.715 となる.これと曲率半径の式から, 観測できる運動量の最小
値は Pmin = 0.274[GeV] となる.これに対応するエネルギーとから, 観測にかからない断面積は
]
∫ Emin [
∫ Emin
2
( 2
2
1 E+ E− )
dσ
2 2 E+ + E− + 3 E+ E−
− 13
dE+ = 4
αZ r0
log 183Z −
dE+ (6.1)
dE+
k3
9 k3
me
me
となる. ここから得られる結果として, 観測できない断面積の, 全断面積に対する比は以下の表のよ
うになる:
表 6.1: 測定できる角度の限界により測定できなかった反応の割合
ターゲット 測定できない割合
C
Al
Ti
Ag
Au
Pb
32.9
33.0
33.1
34.0
35.9
35.9
29
この補正を理論値に加えて, 実験の結果と比較すると以下の図のようになる:
Sigma(barn)
Sigma_Z
30
25
20
15
10
5
0
0
10
20
30
40
50
60
70
80
Z
図 6.1: 測定範囲の補正による断面積. 太い点線は式 (2.15) に, 細い点線は式 (2.18) にそれぞれ測定
範囲の限界による補正を加えたもの, 実線は実験値に数え落としの補正を加えたもの.
6.1.3
γ 線エネルギーの損失について
今回用いた γ 線のエネルギーの平均は 1.98GeV であった. しかし, 下流で測定された粒子のエネ
ルギーはそれより低い値であった. そのエネルギー損失の原因についてはいくつかの可能性が考え
られる.
原子核の反跳
原子核への運動量移行を q, 電子の質量を m0 , 標的原子の質量を mr とした場合,q の上限は kinematics により評価でき,
2kmr /m0 + 2k 2 /m0
qmax =
.
(6.2)
2km0 + mr
ここで, 反跳が無視できるには
q 2 ≫ kmr
(6.3)
であることが必要だが,m0 /mr = 5.5/A × 10−4 なので上限と比較すると反跳が無視できることが
わかる.
空気やその他の物質との相互作用
空気との損失については,[?] のグラフより 3m ほどの飛翔距離では 1 %程度の損失であることが
わかる. したがって,STC や AC との相互作用による損失のほうが寄与は大きいと言える.
6.1.4
結論
• 電子陽電子対生成反応を観測することができた
• 反応断面積の Z 依存性について実験からその傾向を知ることができた
• 断面積の計算については, 実験値をセットアップや解析での限界を考慮して, 補正することで
理論と矛盾しない結果が得られた
30
6.2
6.2.1
光生成反応
γ(p, p)π 0 反応数の理論計算
γ(p,p)X において X = π 0 , ρ0 , η, ω, ϕ などが期待される.
X = π 0 における反応数を式 (2.71) から見積もる. 定数 g について文献 [?] より g 2 /4π = 14.28 と
する.
この実験で測定された荷電粒子のビーム軸に対する角度 θ の分布を cos θ = pp/pz で求める (図
??)
図 6.2: 実験室系での角度分布
これより dσ/dΩ を cos θ = 0.96∼1 で積分すればこの実験のアクセプタンスにおける断面積
(∆σ)thm を求めることができる.
ポリエチレン標的での上流での入射光子数の合計:Ntot = 1.09 × 109
上流から下流のターゲットまでの光子数の減衰率:52%
ポリエチレン標的中の水素原子数:ρH
PE
ρH
PE = 2 ×
1086[g]
× NA
150.3 × 150.5[cm2 ] × 14[g/mol]
(6.4)
(NA = 6.02 × 1023 アボガドロ数)
π0
これらより期待される π 0 の生成数は Nthm
0
π
Nthm
= (∆σ)thm × (Ntot × 0.52) × ρH
PE
= 5.69 × 10
2
31
(6.5)
(6.6)
6.2.2
π 0 生成数の先行文献による見積り
文献 [?] による γ + p → p + π 0 反応断面積は
入射 γ 線の平均エネルギーを 1.98GeV として図より,
( )
dσ
≃ 0.1[µb]
(6.7)
dΩ CM
また重心系でのビーム軸に対する陽子の散乱角 Θ のとり
うる値は kinematics より 0.76 < cos Θ < 1 よって重心系
での断面積は
(∆σ)CM = 0.1[µb] × 2π(1 − 0.76)
= 0.2[µb]
(6.8)
図 6.3: [?] による微分断面積
0
π を見積もると
これより同様に π 0 の生成数 Npre
0
π
Npre
≃ 6.7 × 101
(6.9)
となり, 理論計算値より一桁小さい値となる.
6.2.3
理論値と文献値のずれの考察
理論値の計算では最低次のダイアグラムを考え散乱振幅を計算した.
このエネルギースケールでの運動量移行は
√
√
s = (pfinal
− pfinal
)2 ≃ 0.5 GeV であり, 高次のダイアグラムを考慮したほうがより正確な議論
p
π0
ができる。
さらに, 核子を点状とみなして計算したが形状因子を考慮する必要もあるといえる.
0
π を用いて考察を進める.
以降, 文献による値を Npre
6.2.4
γ(p, p)η 生成数の理論計算
前節と同様に,[?] を参照し断面積を見積りそれを下に反応数を計算する.
32
図 6.4: η 散乱の角度分布と断面積 [?]
(
dσ
dΩ
)
≃ 0.05[µb]
(6.10)
CM
また Mη = 0.548[GeV] より重心系での立体角は ∆ΩCM = 1.95[st]
これより同様に計算される η の生成数は
η
Npre
= 5.2 × 101
6.2.5
(6.11)
γ(p, p)X 反応数の考察
前節より π 0 , η の生成数の概算値をもとに想定されるピークを重ねて表すと (図??) のようにな
る. LEPS の先行文献における同様のセットアップを用いた陽子固定の Missing Mass 分光の結果
を図??にあげる.
図 6.5: 結果と想定される π 0 , η ピーク
図 6.6: [?] における γ(p, p)XMissing Mass 分光
これらから, 期待されるピークがほとんどみえていないことがわかる.
33
6.2.6
結果の妥当性の検証
6.2.7
炭素と水素原子核の反応率の比
ポリエチレンに γ 線を照射した際, 光生成は水素原子核ないしは炭素原子核から起こりうる.
仮に γ 線と陽子, 中性子の反応断面積が等しく, 炭素の原子核が独立な 12 個の核子からなるとす
ると
σ(γ 12 C → pX) = 12σ(γp → pX)
(6.12)
実際には核子は互いに束縛されているため, 原子核内で γ と反応した陽子が同じ原子核内の平均自
由行程により再び散乱される場合がある.
これを考慮すると
σ(γ 12 C → pX)
< 12
(6.13)
σ(γp → pX)
となる.
γ(p, p)X においてこの反応数の比を解析して算出する.
p
p
ポリエチレン標的, 炭素標的の質量分布においてそれぞれ陽子のピークを積分した値 NPE , NC は
p
NPE
= 1.5 × 104
NCp
= 0.7 × 10
4
(6.14)
(6.15)
Missing Mass 分光法のバックグラウンドで用いたものと同じ処方により, ポリエチレン内の炭素
C , 水素原子核との反応数 N H は
原子核との反応数 Neve
eve
H
Neve
=
C
Neve
=
で,
(
)
1
NPE ρPE
p
p
NPE −
· NC
2
NC ρC
NPE ρPE
· NCp
N C ρC
σ(γ 12 C → pX)
NC
= eve
= 28.3 ± 6.6
H
σ(γp → pX)
Neve
(6.16)
(6.17)
(6.18)
となり, 予想される値より大きい.
これよりこの測定は妥当性のある結果ではなかったことがわかる.
6.2.8
結論
• Missing Mass 分光法による水素の原子核起因の光生成反応は観測されなかった
• 炭素の原子核と水素との反応数の比が定性的に予測される値から大きく異なり, 測定結果自
体が疑わしかった
• 炭素原子核起因のハドロン生成は確認することができた
• 反応数の計算において, 複数の π 中間子が生成される過程を考慮しなかったが,[?] によると
の斜線部の寄与があり, エネルギー領域によっては考慮の対象とすべきであった
• 反省として, 純粋な水素のみをもつ液体水素を用いるなどして行えばよりバックグラウンド
の少ない結果が得られたであろう
34
謝辞
1 年間の理論ゼミ, 実験ゼミ, 本実験で大変多くの方にご協力をいただきました.P3 一同深く感
謝申し上げます.
理論ゼミでは一年を通して原子核理論研究室の国広悌二教授, 菅沼秀夫准教授,TA の土居孝寛さ
んのご指導のもと, 教科書の輪読を通して原子核・素粒子の基本的知識や考え方をはじめ, 本実験
の解析で用いる理論や他のさまざまな分野につながる話まで教わることができました.
実験ゼミでは, 原子核ハドロン研究室の成木恵准教授, 藤岡宏之助教授,TA の門田隆太郎さん, 金
子雅紀さんにご指導していただき, 原子核実験における教科書の輪読, コロキウム, 本実験の計画と
実験中のサポートをいただきました.
今回 P3 の実験では特別に SPring-8 内の LEPS のビームラインを利用して実験することができ,
新山雅之さん, 時安敦史さん, 野沢勇樹さんに協力していただきました. 実験装置の説明から, 本実
験中の装置の操作, 実験終了後もトラッキングデータの解析まで大変親切にお手伝いいただきまし
た.
最後に, あらためて本年度の P3 に携わって下さった皆様にに深くお礼申し上げます. ありがとう
ございました.
35
付 録A
Thomas-Fermi-Moliére 模型
ここでは前節の断面積の計算において考慮した原子核の電子に依る遮蔽の効果をモデル化した
Thomas-Fermi-Moliére 模型について簡単に紹介する. まず原子のクーロンポテンシャルを原子核
に依るものと, 電子に依るものに分けよう.
∫
∫ ∞
∫ ∞
Z
Z
ρ(r′ )
Z
4π r
′
′2
′
3
′
{
}d r = +
U (r) = +
ρ(r )r dr + 4π
ρ(r′ )dr′ = ϕ(r) (A.1)
′
r
r
r 0
r
max r, r
r
0
ここで ℏ = m = e = 1 の単位系を採用している. 第1式右辺において2項目の ρ(r) は半径のみに
依存すると仮定した電子の電荷密度を表している. その電荷密度が作るポテンシャルが2項目のよ
うな形に書けるのは, 参照点より内側の球対称分布する電荷は, 中心における1点に全ての電荷を
集中させてできるポテンシャルに等しいという事実による. 2式目の2項目がそのような内側の電
荷で, 3項目が参照点より外側の電荷分布が作るポテンシャルで, これも Descartes 座標系から球
座標系に移ることで, 確かめることができる. 第3式目で定義される ϕ(r) が遮蔽関数と呼ばれるも
ので,Poisson 方程式によって, 以下のように ρ(r) と関連付けられる.
∇2 U (r) = −4πρ(r),
(
)
d2 ϕ(r)
d2
−4πr
d
2
ρ(r) ∵ ∇ → 2 + 2
=
dr2
Z
dr
dr
(A.2)
(A.3)
ρ(r) と形状因子とは互いに Fourier 変換によって結ばれているから, 次にこの電子の分布の情報も
取り入れられている ϕ(r) について, 妥当と思われる形を導入する. この ϕ(r) の解析的な形は様々
なものが提案されているが, それらは殆ど Thomas-Fermi 模型に基づいて改良されたものであり,
それ以外の例外は自己無撞着な Hartree-Fock 法や Hartree-Fock-Slater 法を応用したものである
[?].Moliére は Thomas-Fermi 模型を改良し, 次のような Yukawa ポテンシャルの線形結合によって
表されるものを導いた [?].
ϕ(r) =
3
∑
Ai e−αi r
(A.4)
i=1
これを式??に代入することによって,
ρ(r) = −
3
Z ∑
Ai αi2 e−αi r
4πr
(A.5)
i=1
を得る. 球座標系での Fourier 変換から F (q) = 4π
積分計算によって,
F (q) = −Z
∫∞
0
2
ρ(r) sin(qr)
qr r dr と書けることを用い, 簡単な
3
∑
Ai αi2
q 2 + αi2
i=1
(A.6)
となることがわかる. ここでは6つの実験的に決められるパラメータが現れているが, 全電荷の規
格化によって, 独立なものは5つに限られる. すなわち,
∫ ∞
4π
ρ(r)r2 dr = Z
(A.7)
0
36
上式を眺めると, 左辺は F (q = 0) に等しいから, 結局 F (q = 0) = Z によって,
3
∑
Ai = 1
(A.8)
i=1
を得る. こうして式 2.12 を得る. 尚, パラメーターの定義は文献毎に若干表式は異なるが, ここでは
参照元である [?] の流儀に従った.
37
付 録B
Coulomb 場中の Dirac スピノール解
ここでは相対論的電子の Coulomb 場中の解を計算する.ここで得られる解は厳密解ではないも
のの, 目的である非 Born 近似の元での散乱振幅に対する補正を計算するためには十分な精度を与
えるものである [?].
Coulomb ポテンシャルを導入した Dirac 方程式を書く.
(
)
E + Ze2 /ρ ψ = βmc2 ψ − iℏcα · ∇ψ
(B.1)
ここで式の簡単のため ℏ/mc,mc2 を 1 とする単位系を採用することにする.さらに a = Ze2 /ℏc と
ϵ = (p2 + 1)2 などを用いると,この式は
(ϵ + a/r − β + iα · ∇r ) ψ = 0
(B.2)
と書きなおすことができる.なお ρ = ℏ/mcr である.3項目と4項目は通常の Dirac ハミルトニ
アンであり,αi = γ 0 γ i および β = γ 0 である.四元スピノール方程式のままこの方程式を解くの
は困難であるが,我々は水素原子の時の Shrödinger 波動方程式の厳密解を知っている.そこで次
のような微分作用素 [(ϵ + a/r) + β − iα · ∇r ] を一度左から作用させ,二階の Shrödinger 方程式
を登場させる.特に a ≪ 1 と v ≪ c という非相対論的極限をとればこの時の ψ は1成分の波動関
数に帰着することがすぐ後で肝要となる.
[ 2
]
[
]
∇r + p2 + 2ϵa/r ψ = iα · ∇r (a/r) − a2 /r2 ψ
(B.3)
この計算ではガンマ行列の反交換関係のみを使った.我々は相対論的領域のスピノール解に興味
があるのだが,非相対論的極限の漸近解を見ることは,最終的な解を得る上で形式上のヒントを
与えてくれる.つまりよく知られた非相対論的極限での解(スピノールは混じる)ψ = N eip·r uF
を考える.ここで N は適当な規格化定数で,F は合流型超幾何級数であり,
F = F (iaϵ/p; 1; ipr − ip · r)
(B.4)
という形を持つ.また上で u = u(p) がまさに規格化された Dirac スピノールである.実は次の形
ψ = N eip·r (1 + Ω)uF
(B.5)
が式??の解となることが Bess などによって知られている.次にこの Ω を決めたいので,予定調和
的ではあるが,この解を代入してこれを決める.仮定として Ω が ∇2r + 2ip · ∇r と交換するとす
ると,
(2ϵa/r)ΩuF − Ω(2ϵauF/r) = [iaα · ∇r (1/r) − a2 /r2 ](1 + Ω)uF
(B.6)
この交換条件は ∇2 + 2ip · ∇r が一階と二階の全ての直交方向微分を含むために,次の形を仮定す
るのが妥当であろう.
Ω =
∑
σn
(B.7)
n
σ0 = a01
(B.8)
σ1 = a11 ∂x + a12 ∂y + a13 ∂z
(B.9)
σ2 = a21 ∂xx + a22 ∂yy + · · · + a24 ∂xy + · · ·
38
(B.10)
ここで anm は定数か Dirac 行列である.Coulomb 場の源から離れた極限では F の効果は小さくなっ
てくるはずだから, このような漸近解で効いてくる項は σ0 である. 規格化はすでに決めてあるから,
これを 0 としてよい. この Ω を元の方程式に代入して O(1/r2 ) の項を比較してみる.
[
]
−2ϵa [σ1 (1/r)] uF = iaα · ∇r − a2 /r2 uF + O(1/r3 )
(B.11)
この方程式で右辺の括弧中2つめの項を無視する限り,σ1 = −iα·∇r /2ϵ という形で1項目を相殺す
ることができる. しかしこれ以上係数行列をいじっても, 元の式??を満たすようなものを(O(1/r2 )
の精度で)見つけることはできないことがわかる. ところが, このようにして決めた Ω は目的であ
る非 Born 近似の元での散乱断面積の精度向上という目的を果たすには十分な補正となっているこ
とは, 実際に散乱振幅を計算してみるとわかる. ここではその計算までは進まないが, 相対論領域と
非相対論領域を往来することで, 上手く厳密解に近しい物を得ることができた点を強調したい.
39
関連図書
[1] ハイトラー (著) 沢田克郎 (訳) 輻射の量子論 吉岡書店
[2] 保坂淳 Chiral Symmetry in Hadron Physics Methods and ideas of choral symmetry
[3] J.W.Motz,Haakon A.Olsen,H.W.Koch ”Pair Production by Photons” Reviews of Modern
Physics Vol.41,4,1
[4] H.A. Bethe & L.C. Maximon, ”Theory of Bremsstahlung and Pair Production. I. Differential
Cross Section”, Phys. Rev. 93, 768 (1954)
[5] F.Salvet, J.D. Martı́nez, R.Mayol, & J.Parellada, ”Analytical Dirac-Hartree-Fock-Slater
screening function for atoms (Z = 1-92)”, Phys. Rev. 36, 467 (1987)
[6] Mikhail Zhabitsky, ”How uncertainties in the atomic poteintial affect DIRAC results”,
DIRAC NOTE 2014-06
[7] G. Moliére, Z.NaturForsch., Teil A 2, 133 (1947)
[8] Mibe. ”SPring-8 レーザー電子光ビームラインでのタギング検出器の性能評価”. RCNP. 200004-02. http://www.rcnp.osaka-u.ac.jp/~mibe/leps/thesis/2000April_JPSmeeting/
sld004.htm, (2015-01-22 retrieved)
[9] LEPS Group. ”Overview of the beamline”. LEPS. http://www.rcnp.osaka-u.ac.jp/
Divisions/np1-b/?LEPS_\%28BL33LEP\%29. (2015-01-22 retrieved)
[10] 国立天文台編, ”理科年表 1997”, 丸善 (1997)
[11] グレン・F・ノル (著), 木村 逸郎 , 阪井 英次 (訳) ”放射線計測ハンドブック” 日刊工
業新聞社
[12] Particle Data Group, http://pdg.lbl.gov.
[13] ”A Chiral Perturbation Theory Primer” http://arxiv.org/abs/hep-ph/0505265
[14] M. Sumihama et al. Phys. Lett. B 657 (2007) 3237
[15] M. Ghanaatian, N. Ghahramany J. Phys. 3-4, 45-51 (2010)
[16] 橋本敏和 LEPS2 におけるハドロン光生成反応実験のための Drift Chamber の開発
[17] Takatsugu Isihikawa ϕ photo-production from Li,C,Al, and Cu nuclei at Eγ =1.5-2.4GeV
[18] W.R.Leo Techniques for Nuclear and Particle Physics Experiments Springer-Verlag
40
Fly UP