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file4_4. - 教育GP
教育 GP『高齢社会を担う地域育成型歯学教育』事業について
大学院ヘルスバイオサイエンス研究部長 歯学部長 林 良夫
徳島大学歯学部は昭和51年に全国で8番目の国立大学歯学部として設置され、今年度で35年目
を迎えています。教育・研究・臨床上の発展を通して、将来に渉って地域医療における口腔健康科
学の推進を最大限に図ることが重要な役割であり、質の高い医療を提供することで地域社会への貢
献を図り、世界で活躍できる国際的研究者や、高度な医療人を育成する教育・研究機関としての使
命を果たしていくことが必要とされています。徳島大学では、口腔保健および福祉の専門的立場か
ら健康長寿の推進に貢献できる人材の養成をめざして、平成19年度歯学部に口腔保健学科が設置
されました。健康長寿社会を実現するためには、糖尿病など生活習慣病の克服が重要であり、咀嚼・
嚥下障害の予防・治療・維持及び口腔ケアに加えて、正しい食習慣・咀嚼習慣の指導を担う歯科医
療従事者の役割は非常に大きく、また、医療人育成においてコミュニケーション能力や人間力を向
上させる教育改革の導入が求められています。このような背景から、本学歯学部(口腔保健学科・
歯学科)では、高齢社会を担う歯学教育をテーマとして掲げ、文部科学省教育 GP『高齢社会を担
う地域育成型歯学教育』の採択を受けて、平成20年から3年間、主として口腔保健学科を中心と
して本事業に取り組んできました。高齢化が深刻な徳島県にあって徳島大学歯学部では、国民の健
康長寿、地域医療に寄与することのできる口腔健康科学を確立するとともに、先進的な学部教育・
大学院教育が展開され、国際的研究者や高度な専門性を備えた医療人の育成をめざしています。高
齢者の健康長寿の確保や QOL の向上にとって口腔機能の改善は不可欠であることは言うまでもあ
りませんが、平成23年4月からは大学院口腔科学教育部に新たに「口腔保健学専攻(修士課程)」
の設置が認められ、教育研究ともに一層飛躍することが期待されています。蔵本地区には歯学部の
ほか医学部(医学科、栄養学科、保健学科)
薬学部と医療に関連するすべての学科が揃っており、
総合的なチーム医療システムの構築にとって格好の条件を備えています。徳島大学歯学部に口腔保
健学科が設置され、歯科医学・口腔保健学の発展に貢献しうる指導的人材を養成する高等教育・研
究機関として発展しつつあります。口腔保健および福祉を担う専門的立場から健康長寿の推進に貢
献し、専門分野の教育、研究および臨床における指導的役割を担う人材の養成をめざしています。
徳島県は生活習慣病の典型とされる糖尿病による死亡率が15年連続して国内ワーストワンという
地域性が指摘され、その克服へ向けて徳島大学・徳島県の密接な連携のもとで本格的な研究活動が
開始されています。研究大学を標榜する徳島大学では平成16年以降、医学、歯学、薬学、栄養学、
保健学の5つの系のすべての教員が一つの研究組織に所属し、大学院ヘルスバイオサイエンス研究
部として活動を行ってきました。即ち、少子高齢化が加速する現代の医療社会における多様なニー
ズに対応できる組織的医療教育と領域横断的な連携研究をさらに発展させ、飛躍することが必須の
課題とされています。
一方、国際交流を推進することを目的として、従来から社会福祉先進国フィンランドの学生との
国際交流を継続して実施し、日本国内にとどまらず海外の口腔保健・福祉分野にも見識のある歯科
医療従事者を養成するよう努力してきました。また、カナダから研究者を招き、歯科医学・歯科医
療のみならず,ライフサイエンスの中で活躍できる人材育成にも努めています。さらに、海外の社
会福祉先進国の教員・学生との教育研究両面での国際交流を推進するため、ヘルシンキメトロポリ
ア応用科学大学(フィンランド)との学術交流協定を締結しました(平成22年8月)
。これを期に、
学生交流に加えて両大学の国際連携教育研究プログラムを今後さらに推進していきます。地域との
交流を深めるために、「口腔保健・福祉県民フォーラム」を開催し、徳島県下での「口腔機能の向
上」に関する状況など歯科医学の分野における高齢者と福祉施策の現状を本取組関係者及び県民へ
還元する試みを実施し、
「地域育成型歯学教育シンポジウム」においては、歯学教育・高齢者福祉関
係者から助言を受け、本事業における取組の教育効果について外部からの評価者を迎えて検証を加
えてきました。
以上の成果を踏まえ、今後はさらに四国で唯一の歯学部としての役割を充実発展させ、健康生命
科学の推進に貢献していくことを目標として、地域医療への貢献を果たすと同時に、糖尿病などの
慢性疾患や高齢化に伴う口腔機能障害を有する患者に対する歯科医学的、治療科学的アプローチを
積極的に推進していきます。我が国は世界で最も高齢化が進んでいますが、寝たきり老人の唯一の
楽しみが「食べること」に尽きることは周知であり、超高齢化社会を見据えて歯科医学が果たすべ
き研究およびトランスレーショナルリサーチをさらに充実整備して、医学、栄養学、保健学、薬学
との密接な連携のもとで、社会のニーズに応え、徳島大学歯学部のメリットを最大限に活かしてい
く計画です。
平成23年2月 目 次
1.教育 GP プログラムの概要
1)教育 GP プログラムの背景 …………………………………………………………………… 1
2)「地域育成型歯学教育」とは ………………………………………………………………… 1
3)教育 GP に関する具体的なプログラム ……………………………………………………… 2
2.取り組み実績
1)平成20年度・21年度取り組み実績 ………………………………………………………… 3
2)平成22年度取り組み実績 …………………………………………………………………… 5
(1)1年次取り組み内容
①平成22年度「食と健康学習」
②平成22年度「相互歯磨き学習」
③平成22年度「気づきの体験学習」
④平成22年度「特別講義」
⑤平成22年度「高齢者交流学習」
(2)2年次取り組み内容
①平成22年度「地域福祉体験学習(お口の健康長寿教室)
」
②合宿研修(YMCA 阿南国際海洋センター)
3.海外教育・研究者招へい
1)Daniel Grenier 教授(カナダ・ラバル大学)
………………………………………………… 15
(1)特 別 講 義
(2)講 演 会
4.海外歯学系教育機関教員および学生との交流
1)フィンランド大学教員との交流 ……………………………………………………………… 25
(1)フィンランドでの大学訪問(オウル大学)
2)ヘルシンキ・メトロポリア応用科学大学留学生と口腔保健学科と学生の交流 ………… 27
(1)留学生との連携教育プログラム
5.県民公開フォーラム
1)平成22年度徳島大学歯学部教育 GP 口腔保健県民公開フォーラム …………………… 31
(1)概 要
(2)特 別 講 演
(3)パネルディスカッション
6.学会発表抄録等
1)近畿・中国・四国口腔衛生学会 …………………………………………………………… 49
2)日本歯科医学教育学会 ………………………………………………………………………… 51
3)日本口腔ケア学会 ……………………………………………………………………………… 53
4)徳島大学教育カンファレンス ………………………………………………………………… 55
7.外 部 評 価
1)足立 了平(神戸常盤大学)
………………………………………………………………… 57
2)白山 靖彦(静岡英和学院大学)
…………………………………………………………… 60
3)渡部 芳彦(東北福祉大学)
………………………………………………………………… 61
8.三年間(平成20年度∼22年度)の取り組みの総括
∼今後の地域育成型歯学教育に向けて∼ ………………………………………… 63
1.教育 GP プログラムの概要
1)教育 GP プログラムの背景
地域支援事業の介護予防施策の中に「口腔機能の向上」が謳われているにもかかわらず、咀嚼能
力が低下したり、欠如したまま放置されている在宅要介護高齢者が非常に多く存在する。その理由
の1つとして、歯科医療従事者の基盤は依然として診療所内にあり、在宅、高齢者施設、地域福祉
現場などでの活動を敬遠する歯科医師が少なくないことがあげられる。また、歯学教育課程におい
ても認知領域や技能領域の学習には相当時間を割り当てているが、ヒューマン・コミュニケーショ
ンなど情意領域の教育に十分対応出来ていない背景もあり、地域生活の中で異なる世代と対峙した
際のとまどいや不安などの要因も加わって、在宅高齢者の歯科治療などの積極的な介入を望まない
歯科医療従事者も多いと考えられる。
徳島大学では、口腔保健および福祉の専門的立場から健康長寿の推進に貢献できる人材の養成を
めざして、2007年度歯学部に口腔保健学科が設置された。健康長寿社会を実現するためには、生活
習慣病の克服が重要であり、咀嚼障害の予防・治療・維持及び口腔ケアに加えて、正しい食・咀嚼
習慣の指導を担う歯科医療従事者の役割は非常に大きく、また、医療人育成においてコミュニケー
ション能力や人間力を向上させる教育改革の導入が求められている。このような背景から、本学歯
学部(口腔保健学科・歯学科)では、高齢社会を担う歯学教育をテーマとして掲げ、1・2年次学
生を対象とした入学早期からの取り組みを行う。
2)
「地域育成型歯学教育」とは
本取り組みでは入学早期からの学内授業での気づきを、学外体験学習での高齢者との交流に繋げ
て、
「医療人としての自覚」と「人間力の向上」を目指す。すなわち、歯学教育に関連した地域貢献
活動により大学が地域を育て、逆に学生は地域から口腔保健・高齢者福祉の重要性を体得する機会
を与えられるが、これを「地域育成型歯学教育」として取り組む。
具体的には、学内授業および学外体験学習を含む本取り組みの導入により、専門基礎教育が充実
する。歯車のかみ合った連続性のあるカリキュラム構築による継続した学習意欲の保持や、口腔保
健学科と歯学科の両学科間の共通授業とすることによる将来のチーム歯科医療教育への効果も期待
される。その後の2つの学科の専門臨床教育内容は異なるものの、充実した臨床・臨地実習の展開
により、卒業時には、口腔保健・高齢者福祉の重要性が体得できると思われる。このような慈しみ
と思いやりの心で人々を支援する活動が出来る人材は、卒業後、高齢社会を担う歯科衛生士、歯科
医師として「明確な進路目標」を持ち、また、健康長寿社会実現のために必要とされる「新たな活
躍の場」への参画も期待される。
−1−
3)教育 GP に関する具体的なプログラム
取り組む5つの学習の概要と専門基礎教育としての効果を下記に示す。
①「食と健康学習」
:教員講話などから自己の健康管理能力を高める機会を与える。
②「相互歯磨き学習」
:相手の歯を磨くことで、他人を思いやる心を育む。
③「気づきの体験学習」
:ヒューマン・コミュニケーション演習より慈しみの心を持つ。
④「高齢者交流学習」
:1日3時間、計8回の1対1の交流から、相手の立場に立って行動するホス
ピタリティマインドを体得し、交流者相互の役立ち感を育む。
⑤地域福祉体験学習「お口の健康長寿教室」
:参加高齢者に対する健口体操やお口の観察プログラム
などで教員の補助を行い、口腔保健の重要性と介護予防へ果たす役割の意義を学ぶ。
①∼③は学内授業として、④、⑤は学外体験学習として実施する。また、海外の社会福祉先進国
(フィンランドなど)の教員・学生との国際交流から、日本国内にとどまらず海外の口腔保健・福
祉分野にも見識のある歯科医療従事者養成を目指す。更に、毎年開催する「地域育成型歯学教育シ
ンポジウム」において歯学教育・高齢者福祉関係者から助言を受け、更に取り組みの教育効果は外
部からの評価者を迎えて検証する。
−2−
2.取り組み実績
1)平成20年度・21年度取り組み実績
食と健康学習
教員と学生が一緒に昼食を取り、コミュニケー
ションの第一歩とした。
相互歯磨き実習
相手の歯を磨くという行為を通して、他人を思
いやる心を学ぶ機会とした。
気づきの体験学習
鳥取大学医学部の高塚人志先生の指導のもと、
ヒューマン・コミュニケーションに関するグ
ループ演習を実施した。このプログラムは、人
間関係における基本的なマナーを再確認し、学
生同士の繋がりを深め相手に対する思いやりの
心を育てることを目的とした。
特別講義「生と死」
「老い」について
白寿園施設長 大西智城先生
−3−
高齢者交流学習
毎週木曜日の午後3時間、計8回にわたり、徳
島市内の養護老人ホームを訪問し、高齢者との
1対1の交流を行った。
ふり返り授業(学内演習)の様子
交流で印象に残った場面や会話について話し合
いを行い、体験を共有しながら学習を深めた。
地域福祉体験学習(お口の健康長寿教室)
歯学科・口腔保健学科2年次50名が、介護老
人保健施設・デイサービスセンター・社会福祉
協議会関連施設等12ヶ所で、口腔機能向上の
ためのお口の健康体操やレクリエーションを
行った。
レクリエーションに吹き矢を取り入れ、楽しみ
ながら口腔機能向上プログラムを行った。
−4−
2)平成22年度取り組み実績
(1)1年次取り組み内容
①平成22年度「食と健康学習」
教員の講話などから自己の健康能力を高め、学生と教員が一緒に昼食をとることで、コミュニ
ケーションの第一歩とした。
②平成22年度「相互歯磨き学習」
「相互歯磨き」を通して相手を思いやる気持ちをはぐくむことを学んだ。また、歯科学生としての
キャリア意識を喚起した。
③平成22年度「気づきの体験学習」
−5−
「気づきの体験学習」では、鳥取大学の取り組みをモデルとして、いくつかのプログラムを演習し
ている。今回、徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部医療教育開発センターより長宗雅美
先生を講師としてお迎えし、相手の立場に立ったコミュニケーションについて理解することを目的
としたプログラムを行った。
④平成22年度「特別講義」
特別講師 大西 智城先生(仁和寺)白寿会本部長
「辛抱→幸」、
「地獄・極楽」
「ノーマライゼーション」などの講話をして頂いた。
特別講義の様子
名言『ひとつ辛抱したら幸せが来る』
白寿園施設説明会 住吉施設長 吉田先生
−6−
⑤平成22年度「高齢者交流学習」
「高齢者交流学習」は、今年度で、4回目となる。参加学生は毎週木曜日の午後三時間、徳島市内
の養護老人ホームを訪問し、高齢者との1対1の交流を計8回実施した。4回目の交流学習終了で
は「中間ふり返り」を行い、8回目の実習終了後には「最終ふり返り」を実施し、学生が自らの経
験を振り返ることで、何を学んだのか自ら理解し、次のステップへ進めるよう交流学習の経験を深
める機会としている。
交流の様子1
交流の様子2
ふり返り授業の様子
実習後のカンファレンスの様子
白寿園便り Vo.1
白寿園便り Vo.2
−7−
(2)2年次取り組み内容
①平成22年度「地域福祉体験学習(お口の健康長寿教室)
」
本年度も、下記に示すように複数の実習施設において、歯科衛生士教員が行う口腔保健指導に学
生を同行させ、高齢者を対象とした種々の口腔機能訓練を補助者として体験学習を行った。
(1)期 間 平成22年4月∼7月
(2)対象学生 徳島大学歯学部2年次 歯学科・口腔保健学科
(3)対象施設 デイサービスセンター(5ヶ所)
市町村の介護予防教室(3ヶ所)
グループホーム(2ヶ所)特別養護老人ホーム(1ヶ所)介護老人保健施設(1ヶ所)
地域活動支援センター(1ヶ所)
各施設の対象者は、15名∼40名
(4)実習タイムテーブル
9 :30 施設到着・学生による対象者のアセスメント
10:00 歯科医師による講話
10:30 口腔機能向上のための健口体操・レクリエーション
11:30 実習終了 帰学
実習の事前学習として、体験学習予定日の1週間前に放課後を利用し、教員と学生で実習打
ち合わせを行っている。
(5)実習終了後
学生は「口腔機能訓練の見学や補助に参加して、感じたこと、気づいたこと、学んだこと」
をテーマとしたレポートを提出する。
アセスメントの様子
レクリエーションの様子
−8−
②合同研修
平成22年度 徳島大学歯学部教育 GP(歯学科4年次口腔保健学科2年次合同合宿研修)
正課外授業の学校行事:信頼される歯科医療人の養成−コミュニケーション能力を育む−
【目 的】1泊2日の合宿研修を通して、歯科医師、歯科衛生士としての身だしなみや態度、
医療面接の意義やその基本、チーム医療、インフォームドコンセントなどについて、
FD やロールプレイを行い、医療人としての素養を築くための知識・技能・態度を
習得する。また、カヤック、大型カヌー、ボランティアなどの活動を通じてチーム
ワークや社会活動の意義を学び、キャリア形成に役立てる。
【日 時】平成22年9月24日(金)∼ 25日(土)1泊2日
【対 象】歯学部歯学科4年次44名、口腔保健学科2年次16名、薬学2名および教職員16
名 計78名
【場 所】YMCA 阿南国際海洋センター(阿南市椿町那波江 ☎0884-33-1221)
<プログラム>
【1日目 9/24(金)
】
9 :00 歯学部玄関前よりバスで出発
11:00 海洋センター到着
開所式
12:00 昼食
12:40 清掃ボランティア 13:00 海洋プログラム・ライフジャケット装着の説明
大型カヌー(12人乗り)5艇
16:30 海洋プログラム終了・入浴 ∼17:40
17:45∼18:45 夕 食
18:45∼20:00 ワークショップ(I)
(別館にて)
大石先生:コミュニケーション能力とは
・お絵描きゲーム15分 ・伝言ゲーム15分 ・自分を知る15分
20:30∼21:30 懇親会
22:00 就寝
【2日目 9/25(土)
】
6 :30 起床
7 :10 グラウンド集合 朝の集い(YMCA 担当)
8 :00 朝食
9 :00∼11:20 ワークショップ(II)
(別館 にて)
松尾先生 担当
11:30 修了式
12:00 昼食
13:00 海洋センター出発、帰学
−9−
1)海洋プログラム
本プログラムでは、当初12人乗り大型カヌー5隻に分乗して約600メートル離れた無人島の
野々島まで行く予定であったが、波風が荒いため大事をとり2隻で希望者22名が岸伝いに400
メートル離れた入り江に行った。即ち、海洋センター指導員の指示のもと救命胴衣を装着、バ
ディ(対の仲間)を確認し、重さ百数十キロのカヌーを浜辺に運び、乗船組は風で揺れる船を抑
え、波を被りながら乗船し、入り江までカヌー漕艇した。残りのものは陸路で入り江まで行き、
比較的波の静かな入り江で泳いだりした。
このような天候で、全員がカヌー漕艇を体験できなかったのは残念であるが、自然の力に何と
か立ち向かおうと協力し合うことで、一体感が生まれた。これらが、その後のプログラムに良い
影響を与えたことは見逃せない。
2)ワークショップ()コミュニケーション演習
歯学部学生委員 大石 美佳 【目 的】
医療従事者になるためには、医療コミュニケーション力を身につける以前に、一般的なコ
ミュニケーション力を身に付ける必要がある。
「コミュニケーション演習」では、学生がゲーム
を通じて一般的なコミュニケーション力の必要性を理解し、さらに学生が自らのコミュニケー
ション力の程度を知り、また社会生活をする上でのコミュニケーション力の必要性に気づく事
を目的とした。
【内 容】
①お絵描きゲーム
司会者は、学生に A4 の用紙を1枚配布し簡単
なストーリーをゆっくりと1度だけ読む。学生は、
用紙を横向きに使用し、聞かされるストーリーを
自分一人で解釈し、絵を描く。全員が、絵を描き
終わると絵を壁に貼り参加者全員で鑑賞する。鑑
賞後、翌日の朝までに教員の多数決で、インパク
トの1番強い絵を1等賞とし、修了式に表彰し副
賞の景品を渡した。
− 10 −
お絵描きゲームの目的
聞いた内容は同じであるが、各自がイメージ
して描いた絵はそれぞれ異なる。コミュニケー
ションは、話し手と聞き手の両方で構成される
のでその過程には、多様性が出てくる。話し手
が自分のイメージ通りに話を確実に伝えたい時
には、常に聞き手がどう解釈するかを考えなが
らコミュニケーションする事が大切であるとい
う事を気づかせる。
②伝言ゲーム その1の手順
・学生を2人一組にする。
・写真を2人組の一人の学生へ1枚ずつ配布する。
・写真を配布された学生は、パートナーの学生に写真が見えないようにして1分30秒でその
内容を覚える。写真は司会者が回収する。
・その間、パートナーの学生に、採点用紙を配布する。
・写真を見た学生は、パートナーの学生に写真の説明をする。その間、説明を受ける学生は質
問はできない。
・説明後、全員に写真を見せる。
・説明を受けた学生は、採点用紙に説明を5段階評価で採点し、さらに何故その評価をしたか
の理由を記載する。
③伝言ゲーム その2の手順
・学生の組み合わせは、ゲーム1の2人一組の組み合わせのままにしておく。
・ゲーム1で、説明をした学生に写真 B を渡す。
・写真 B を配布された学生は、パートナーの学生に写真が見えないようにする。
・2分間、パートナーの学生は、写真の内容についての質問をする。
・写真を持っている学生は、質問以外の内容は話さない。
・質問が終了後、全員に写真を見せる。
− 11 −
伝言ゲームの目的
人に何かを伝えるときの注意点である以下の事に気づいてもらう。
・語彙が豊富でないと、伝わりやすい言葉に置き換える事ができない。
・はじめに全体像を伝え、その後に部分的なところを伝えるとイメージしやすい。
・曖昧な表現を使うと、聞いた人がそれぞれ思い描くイメージが違ってくるので正確で具体的
な言葉を選ぶ。
・説明者自身が伝える内容を整理できていないと相手にも伝わらない。
・相手に伝わっていると思い込まずに、相手の反応を確認しながら言葉を選ぶ必要がある。
・同じ事を体験してもその評価には、ばらつきがある。
【ま と め】
今回は、学生だけでなく、教員にも参加を依頼し、教員に学生と同じ経験をして頂いた。参
加者は、真剣にワークショップに参加してくれた。短い時間ではあったが、
「コミュニケーショ
ンとはどのようなものか?」
「コミュニケーションをとる自分とはどのようなものか?」を参加
者が考えるきっかけになることを期待し、実施したワークショップであったが、その役割は果
たせたと感じる。
3)ワークショップ(II)KJ 法による課題解決
歯学部学生委員 松尾 敬志 ここでいうワークショップは、課題解決法および学習法の一つである KJ 法を用いて行った。 KJ 法は、本歯学部でもファカルティー・ディベロップメント(FD)の一環として行われてお
り、学生にもこの方法論を教えている。
今回、以下の課題でワークショップを催し各班でとりくんだ。
大学で身に付けること(1班、7班)
医療系学生(医療人)の品格(2班、8班)
隣接医学を学ぶ意義(3班、9班)
基礎医学を学ぶ意義(4班、10班)
QOL とは(5班、11班)
医療人に必要なコミュニケーション能力(コミュニケーションとは)
(6班、12班)
− 12 −
合宿研修の総括と今後の課題
歯学部学生委員会 平成22年度 徳島大学歯学部教育 GP(歯学科4年次および口腔保健学科2年次合同合宿研修)
「医療系学生の合宿研修によるコミュニケーション能力の開発とチーム医療の基盤形成」では、実
施後の事後評価分析において、単なる専門知識や技術の獲得といった学習では得られない「医療人
として、また、社会人としての人間力という全人的能力における成長」を作業課題の実践を通して
観察することができた。天候の都合で一部のプログラムに変更があったものの、当初の目標である
「医療系職業人に求められるコミュニケーション能力の開発とチーム医療の基盤形成」という課題
についてはワークショップや懇親会において腹蔵無く、十分議論ができ、成果を出すことができた
といえる。
今回の合宿研修前後のアンケート結果を分析すると、以下の点が明らかになった。
1.コミュニケーションとは何かを体験を通して、正確に理解できたこと、
2.学習によってコミュニケーション能力を向上させることができると実感したこと、
が挙げられる。
今回の合宿研修の成果として、
・合宿研修を通じて、学生が準備、研修、後片付けの一連の過程をすべて自主的・積極的に取り
組むことができた。
・声をかけながら海岸のボランティア清掃をスムーズに行うことができた。
・海洋プログラムでは、安全意識と救命支援法の指導のもと、けが人もなく、学生同士や教員と
でチームワークの実践ができた。
・コミュニケーションの基本理論と作業課題を通して、実際にコミュニケーション能力の向上を
体得することができた。
・教員が正課授業と異なる視点で学生支援に加わり、その意義に触れた。
・アンケート調査の結果や今回の合宿プログラム全体の成果から、学生のコミュニケーション能
力の開発、チームワーク作りといった Student Development (SD) のみならず、教員の意識改革の
Faculty Development (FD) にも多いに役立ったことが伺えた。
− 13 −
− 14 −
3.海外教育・研究者招へい
1)Daniel Grenier 教授(カナダ・ラバル大学)
(1)特 別 講 義
海外の口腔保健・福祉分野にも見識のある歯科医療従事者を養成することを目的として、平成22
年5月に、カナダ・ラバル大学歯学部より、Daniel Grenier 教授を招き、歯学科・口腔保健学科1年
次への特別講義 "The current status of dentistry in Quebec: from education to senior dental care"「カナダ・
ケベック州における歯科の現状(教育の現状から高齢者の口腔ケアまで)
」という題目での特別講義
を実施した。講演後の討議の後、歯学部から感謝状が授与された(写真参照)
。
特別講義の様子
感謝状授与
− 15 −
− 16 −
− 17 −
(2)講 演 会
海外の口腔保健の現状を学ぶとともに、歯科医学・医療のみならず、ライフサイエンスの分野で
活躍できる人材の育成を図ることができるよう、カナダ・ラバル大学歯学部の Daniel Grenier 教授
から学生・教員等への特別講義 "Potential of natural polyphenols from cranberry (Vaccinium macrocarpon)
for periodontal health"「クランベリー由来ポリフェノールによる健康な歯周組織維持の可能性につい
て」という題目での特別講義を実施した。講演後の活発な討議の後、歯学部から記念メダルの授与
と学生を交えた集合写真が撮影された(写真参照)
。
講演会の様子
学生を交えた集合写真
− 18 −
Daniel Grenier 教授
− 19 −
− 20 −
− 21 −
− 22 −
− 23 −
− 24 −
4.海外歯学系教育機関教員
および学生との交流
1)フィンランド大学教員との交流
(1)フィンランドでの大学訪問(オウル大学)
平成22年8月17日に本学部教員がフィンランド北部に位置するオウル市(写真1)を訪れ、同
市副市長 Sinikka Salo 氏(歯科医師)を表敬訪問し(写真2、3)
、さらに同市が運営する高齢者施
設を視察した(写真4)
。Sinikka Salo 氏は仙台フィンランド健康福祉センター長として宮城県に滞
在した経験があり、平成20年には本学部へ招聘し、特別講演をお願いした経緯があることから今回、
オウル市への教員招聘となった。翌日の18日にはオウル大学歯学部にも招聘され(写真5)
、Pertti
Pirttiniemi 歯学部長(写真6)による歯学部概要のレクチャーを受け、さらに同学部教員の案内で
主な施設を視察した(写真7∼10)。
写真1 オウル市役所の全景
写真2 オウル市副市長 Sinikka Salo 氏
写真3 中野口腔保健学科長(左)と Sinikka Salo 氏
写真4 オウル市が運営する高齢者施設
− 25 −
写真5 オウル大学歯学部
写真6 Pertti Pirttinie オウル大学歯学部長(左)と林歯学部長
写真7 オウル大学歯学部附属病院診療室
写真8 オウル大学歯学部実習施設
写真9 オウル大学歯学部教員の実習施設説明
写真10 オウル大学歯学部内にて記念撮影
− 26 −
2)ヘルシンキ・メトロポリア応用科学大学留学生と口腔保健学科と学生の交流
(1)留学生との連携教育プログラム(平成22年11月8日∼11月19日)
ヘルシンキメトロポリア応用科学大学はすでに宮城県仙台市に在する宮城高等歯科衛生士学院
(3年制歯科衛生士教育機関)との学生間交流協定を締結しており,毎年3年次学生を約3ヶ月間
留学させている(期間:9月∼11月)
。本学部でも平成20年より同学院への留学生を2週間受け
入れ、学生交流をはじめとする様々なプログラムに参画させており、本年度も2名の留学生 Elina
Nakamura(写真1左)と Ailikki Nurmine(写真1右)を2週間受け入れ,後述のプログラムに参加
させた。すなわち林歯学部長への表敬訪問(写真2)
、ヘルシンキメトロポリア応用科学大学とのイ
ンターネットを介した遠隔ビデオ会議(写真3)
、留学生2名を加えた英語による合同授業(解剖学、
生理学、口腔外科学)、
「The difference of Oral Health Promotion between in Finland and Japan」のテー
マによる Small Group Discussion(写真4、5)と全体討論(写真6)
、留学生によるフィンランド
の紹介(写真7)などである。さらに留学期間の後半には昨年とは異なった新しい試みとして本学
科で実施している歯型彫刻実習(写真8、9)
、解剖実習(写真10)
、生理学実習、チーム歯科医療
学基礎実習(写真11)への参加、徳島大学病院の診療室見学(写真12)
、3年次学生との茶道体験
(写真13)などを実施した。
写真1 ヘルシンキメトロポリア応用科学大学(フィンランド)からの留学生
Elina Nakamura(左)と Ailikki Nurmine(右)
− 27 −
写真2:林歯学部長への表敬訪問
写真3:ヘルシンキメトロポリア応用科学大学との遠隔ビデオ会議に参加
写真4:口腔保健学科2年次学生とのグループ討議(Elina Nakamura)
写真5:口腔保健学科2年次学生とのグループ討議(Ailikki Nurmine)
− 28 −
写真6:グループ発表と全体討議
写真7:留学生2名(ヘルシンキメトロポリア応用科学大学)
によるフィンランドの紹介
写真8:歯型彫刻実習(Elina Nakamura)
写真9:歯型彫刻実習(Ailikki Nurmine)
写真10:解剖学実習
写真11:チーム歯科医療基礎実習
− 29 −
写真12:徳島大学病院各診療科の見学
上段左:矯正歯科
上段右:歯科衛生室
下段 :食と健康増進センター
写真13:歯学部口腔保健学科3年次学生との茶道体験
「International Week 2010」への参加(平成22年3月15日∼3月19日)
(予定)
平成22年3月15日から19日にヘルシンキメトロポリア応用科学大学において「International
Week 2011」と題した国際的教育カンファレンスの開催が予定されている。本学科からも教員を派遣
し、
「Dental hygiene and health promotion」の中で今年度の交流経過と成果を発表するとともに今後の
展開等についても協議を行う予定である。
− 30 −
5.県民公開フォーラム
1)平成22年度徳島大学歯学部教育GP口腔保健県民公開フォーラム
(1)概 要
− 31 −
− 32 −
(2)特 別 講 演
プロフィール
加藤伸司(かとうしんじ)
【現職】
東北福祉大学総合福祉学福祉心理学科 教授
認知症介護研究・研修仙台センター センター長
【略歴】
昭和54年 日本大学文理学部心理学科卒業
昭和57年 聖マリアンナ医科大学病院神経精神科 臨床心理士
平成5年 北海道医療大学看護福祉学部 講師∼助教授
平成13年 東北福祉大学総合福祉学部福祉心理学科 教授
認知症介護研究・研修仙台センター 研究・研修部
平成18年 現職
【現在の公職】
日本老年社会科学会理事 , 日本老年精神医学会理事 , 日本認知症ケア学会理事
日本認知症ケア学会誌編集委員長 , 日本臨床心理士会高齢者支援専門委員
【主な著書】
・認知症になるとなぜ「不可解な行動」をとるのか(単著)河出書房新社
・認知症の人を介護する人のための本(単著)河出書房新社
・心理学「社会福祉士養成テキストブック」
(編著)ミネルヴァ書房
・発達と老化の理解「介護福祉士養成テキストブック」
(編著)ミネルヴァ書房
・高齢者のための知的機能検査の手引き(共著)ワールドプランニング
【主な論文】
・改訂長谷川式簡易知能評価スケールの作成 , 老年精神医学雑誌
− 33 −
− 34 −
− 35 −
(3)パネルディスカッション
『高齢者の口腔機能向上を推進するために』
パネリスト
− 36 −
− 37 −
− 38 −
− 39 −
− 40 −
− 41 −
− 42 −
− 43 −
− 44 −
− 45 −
− 46 −
− 47 −
「認知症高齢者の食行動を考える」
「要介護高齢者に対する徳島県歯科医師会の取り組み」
「健康長寿教室として展開する地域育成型歯学教育」に
ついてパネルディスカッションが行われた。
− 48 −
6.学会発表抄録等
1)近畿・中国・四国口腔衛生学会
− 49∼50 −
2)日本歯科医学教育学会
−51∼52 −
3)日本口腔ケア学会
− 53∼54 −
4)徳島大学教育カンファレンス
− 55∼56 −
7.外 部 評 価
1)外部評価 徳島大学歯学部教育 GP の取組について
神戸常盤大学 足立 了平
徳島大学歯学部教育 GP- 高齢者との交流学習について、当該大学にて行われた21年度(2年目)、
22年度(3年目)の GP シンポジウムおよびフォーラムに参加させていただく機会を得ました。ま
た、毎年年始に東京で開催される文部科学省の GP 合同フォーラムおよび歯科衛生学会などでの本
取組の成果についてのご発表を聞かせていただきました。さらに、20年度、21年度の教育 GP 報告
書にも目を通すことができました。これら本取組の一部に触れた感想を外部評価委員としての立場
から述べさせていただきます。
私は、歯科衛生士養成大学(私学3年制短大)で教育に携わる者として特に口腔保健学科での取
組に興味を持っておりました。医療現場と比較して歯科医療の現場ではややもすると技術的な面に
目が向き、倫理観や「いのち」を大切にするという医療の本質を学ぶことが困難ではないかと感じ
ていたからです。4年という長いようで、しかし医療の原点に近づくには実に短い期間に、どのよ
うにして「人間力を向上」させ「医療人としての自覚を持たせる」のかを知りたかったのです。
1.1年時から2年時にかけての取組の流れ
実によくできた流れになっていると思いました。
1年次の、口腔保健にいざなうためのプレ学習「食と健康学習」における教員との昼食会、食に
ついての講話に始まり、
「相互歯磨き学習」で口腔に初めて触れ、また他人に口腔清掃を安全に行う
ことの困難さを理解させ、
「気づきの体験学習」では協働とコミュニケーション能力を養うという段
階を追った構成になっています。そしてそれぞれの学習の後に振り返りレポートがあり、体験をな
ぞらせ確実に身につけていきます。その後、特別講義として高齢者施設関係者による死生観をもと
にした高齢者への慈しみを自覚させる授業があり、その後に続くメインの「高齢者交流学習」に備
えるプレ学習になっています。
「高齢者交流学習」では実際に高齢者との交流が行われますが、養護老人ホーム入居者からパート
ナーを決め、高齢者との1対1の交流をさせることにより、濃密な関係を強いる内容になっていま
す。学生のレポートからは最初は戸惑いが見られます。中には話がなくなり気まずい沈黙が流れる
などといった切実な声が聞こえてきます。核家族化が進み、高齢者とのコミュニケーションなど無
縁の若者にとって、この交流学習は驚きと発見の連続ではないかと思います。自然科学を志す者に
とってこの体験から得るものは大きいと考えます。まさしく高齢者は生きた教材(失礼!)良き教
育者になっていると思います。ただ、レポートの採点やコメントの記入など教員の負担はともかく
実習施設職員の負担は決して少なくないのではと危惧します。文科省が GP を、より多くの教育機
関で取り組むことが可能な汎用プログラムとして位置づけていることから、一考の余地があるかも
しれません。
一方、2年次の取組としては、地域の高齢者福祉施設における口腔保健・口腔機能向上について
− 57 −
の指導を行う「地域福祉体験学習」が実施されています。1年次の経験が活き、実習後のレポート
からも利用者の反応の観察や指導の効果を評価する内容が書かれており、余裕や自信にあふれた様
子がうかがわれます。1年次の基礎学習が早速に効果を生んでいるのでしょう。
「歯学部ワークショップ」は口腔保健学科と歯学科の学生によって実施されるワークショップで、
IPE を意識されたものと思われます。神戸常盤大学も平成21年度より幼児教育学科(2年制)との
コラボレーション授業を実施しフィールドワークを体験させています。口腔保健を理解できる保育
士、保育の知識を持った歯科衛生士が育ちつつあることから、今後4年制の看護学科、医療検査学
科との IPE も計画しなければならないと考えているところです。
2.評価システム
エデュネットの構築は、先にあげた実習施設職員の負担をかなり軽減するものと思われます。も
ちろんそれ以外の多くの効果も周知の通りであります。情報の共有化は学内だけでなく地域にも広
げられるものという認識は一般的になりつつありますが、Web 形式の新しいシステムを構築された
徳島大学の才覚には脱帽です。このシステムは無限に広がる可能性を秘めており、今後のさらなる
展開をおおいに期待するものです。
3.海外交流
ヘルシンキメトロポリア応用科学大学との交流協定を締結され、留学生の受け入れを実施されて
います。将来の合同 PBL を想定したグループディスカッションは、国際的な飛躍が期待される医療
分野において今後必須になっていくものと考えます。徳島大学からの留学も早急に実施され、国際
的に貢献できる歯科衛生士が数多く出現することを期待いたします。
4.まとめ
大学の使命は、教育・研究に加えて地域交流を通した地域貢献の3本柱であろうと考えます。研
究や教育で蓄積された大学の知的財産は結果として地域に還元されなければなりません。そして大
学は地域と密接に結びつき、地域を教材やフィールドにしたメガ学習が実施されるようになります。
徳島大学の本教育 GP はこれをいち早く取り入れ、近い将来確実に地域に優秀な人材に輩出するこ
とによって還元されると信じています。
神戸常盤大学が現在取り組んでいる、災害を教材にした GP 事業「危機対応実践力養成プログラ
ム」も同様に地域に学び地域に返すことが信条になっています。
医療者にとっては地域に貢献できることが最終的な喜びになるはずです。この「地域」はもっと
大きく国民であっても人類全体のレベルであってもいいのですが、口腔機能を維持することが健康
長寿を全うすることにつながるという多くの研究に支えられて、歯科衛生士がそのプロフェッショ
ナルとして社会に貢献することは私たちの喜びでもあります。そのような観点から高齢者に特化し
た本取組を考えるとき、誠に時勢を得たテーマであると言わざるをえません。しかし、その深部に
ある思いは単に高齢者の生活を歯科的な面から支えるということだけでなく、
「いのち」を大切にす
るという医療者にとって真髄である命題をさりげなく取り入れているところにあると考えます。世
界がいまだ経験したことのない超高齢化社会に突入する日本にあって、歯科医学教育にも「死の臨
− 58 −
床」や「看取り」といったカリキュラムが必要になります。医科における口腔ケアの普及を考える
と、歯科衛生士が必要とされる現場は歯科だけにとどまりません。歯科衛生士法が改正され、医療
の現場でも働くことが可能になる日が近い将来必ずやってくることを前提に、本取組のさらなるブ
ラッシュアップが重ねられることを期待します。そして、この取組を学んだ学生たちが巣立ち、看
護師やリハビリ療法士たちと肩を並べて病院内を颯爽と歩く姿を夢見て筆を置きたいと思います。
− 59 −
2)外部評価 徳島大学歯学部教育 GP の取り組みにふれて
静岡英和学院大学 白山 靖彦
高齢期における口腔機能の維持・管理は有用である、ということはすでに一般化されている。こ
のことは、介護保険制度などのサービス事業の内容に具体的に盛り込まれていることからも明らか
である。しかし、問題はこの一般化した概念が一部の歯科保健・医療・福祉領域にとどまったまま
の状態であり、一般住民により浸透していないことだと考えられる。
こうした問題を解決する方法として、徳島大学歯学部教育 GP に着目している。物事を一般化し
ていくプロセスとして、専門家から一般住民に伝播する情報は、わかりやすく身近かに感じられる
ことが求められる。たとえば、口腔機能の維持・管理のための目的、方法、そして効果である。ま
た、なによりも情報発信の主体が重要となる。GP では、学生がその役割を担いつつ、なおかつ専門
家集団と一般住民を繋ぐ媒介として教育され、中でもコミュニケーション能力の向上を図るべく人
間力の育成に重点が置かれている。コミュニケーション能力とは、単に「おしゃべりをする」とい
うことではなく、
「有意義な情報を伝える」という能力が必要となる。この場合、一方向というより
双方向的なコミュニケーションが形成されなければならない。徳島大学では、1 年次教育から福祉
施設などと連携し、一般にコミュニケーションのとりづらい要介護高齢者と接することで、その基
礎能力を習得させている。そして、エディネットを構築し、現場の福祉専門職側からリアリティあ
る意見のフィードバックを可能としている。また、多様な症状の理解を深化させるために、認知症
などの専門家を招聘し、シンポジウムを開催している。さらに、フィンランド・ヘルシンキ・メト
ロポリア応用科学大学と連携協定を締結し、国際交流の促進を図っている。このように多面的かつ
輻輳的な取組みは、国内では例が少なく、今後の歯学部教育における先行モデルとして注目される
であろう。
「高齢社会を担う地域育成型歯学教育」は、ひとつのプログラムである。昨今、多くのプログラム
評価法が考案され、特に行財政分野において採用されており、教育分野においてもプログラムの検
証は欠かすことのできないものである。プログラム評価とは、社会的介入プログラムの効果性をシ
スティマティックに検討するために、社会調査法を用いることであり、その目的は社会問題の緩和
と社会活動に有用な知識を提供することである、とされている。徳島大学では、参加学生の感情指
数 (EQ) などを調査し、統計的に介入前後の有意差を示しながら客観的にプログラム評価を実施して
いる。
今後は、こうした取り組みが持続的に発展し、高齢期の口腔機能の維持・管理の一般化にいっそ
う寄与していくことを期待したい。
− 60 −
3)外 部 評 価
東北福祉大学 渡部 芳彦
徳島大学歯学部教育 GP の外部評価者の一人として、平成22年9月5日に行われた県民公開
フォーラムと、フィンランド共和国メトロポリア応用科学大学との国際交流の経過について述べさ
せていただきます。
口腔保健県民公開フォーラムについて
一般市民、介護関係職種、歯科関係職種、歯学部学生らを対象とした徳島大学歯学部教育 GP 口
腔保健県民公開フォーラムは、
「認知症の理解とケアのあり方」をテーマとする加藤伸司先生の講演
と、平野浩彦先生、秋田豊仁先生、日野出大輔先生によるパネルディスカッション「高齢者の口腔
機能向上を推進するために」で構成された。認知症は、近年の研究により病態解明や薬剤開発に大
きな進展がみられているが、その様な近年の知見を学ぶとともに、具体的に認知症の人にどのよう
に接するか、ケアすべきかということを考える好機となった。
要介護高齢者の介護にあたって、口腔ケアの必要性・重要性は多くの介護関係者が知るところで
あるが、具体的に何をすべきかとなると、口腔ケア=歯磨きと捉えられていたり、その優先順位は
低く、口腔に起因する様々な問題が見過ごされている場合も少なくない。また、近年は歯科医師の
供給過剰であり、開業医が経営に苦慮する状況があるものの、要介護高齢者は、歯科受療が困難で
ありニーズを拾い上げることが十分にできていない。4年制教育を受けた歯科衛生士は、この介護
福祉と歯科医療の接点において活躍する人的資源として期待され、このような公開フォーラムを通
した課題の共有と情報提供、学生教育は非常に有意義であると考えられる。
また、パネルディスカッションの中で日野出先生が紹介された教育システム「エデュネット」は
先進的な取り組みであり、優れた教育効果をもたらすと思われるが、同時に、大学と実習機関の
ネットワーク上でのリンクは、口腔ケアの地域的な連携や情報共有を推進するための優れたツール
にもなり得る。徳島大学歯学部が目指す地域育成型歯学教育が、新しい発想の歯科医師・歯科衛生
士を生み出すとともに、エデュネットのようなシステムが卒後も活用できる地域連携のネットワー
クへと進化し、そこに住む人達の生活に密着した質の高いヒューマンサービスを創造する足掛かり
となることを期待したい。
メトロポリア応用科学大学との連携について
近年では多くの大学が国際交流を掲げ、他国教育機関との交流を実施しているが、単に大学の
ネームバリューを上げるための表面的な連携や、特定の教員や研究者の個人的なつながりから脱却
してない場合も少なからずあるようである。国際交流が継続的に実施され、双方にとって有益であ
るためには、国際交流のビジョンが教員間で共有され、その過程や成果が大学教育にどのように還
元され、生かされているかという検証的視点を常に持つ必要がある。
徳島大学歯学部では、教員が一丸となってフィンランド共和国メトロポリア応用科学大学保健看
護学部口腔衛生学科との関係構築を推進している。評価者は、その初期の段階で両校のコーディ
− 61 −
ネーター的役割を務めた立場上、双方の当事者から逐次報告を受けてきたが、これまでの両校の交
流は、当事者間の確固とした信頼構築を達成していると言えよう。
メトロポリア応用科学大学との関係は、中野雅徳学科長が2005年にフィンランドを訪問し、当
時、漠然としていた徳島大学歯学部口腔保健学科の教育構想の具体化を模索する中で、パートナー
となる教育機関を十分に吟味し、
2007年に先方にコンタクトしたことに始まる。その後、相手方の
担当者と時間をかけて信頼関係の構築と課題の共有を進めてきた。2009年8月には、伊賀教授、日
野出教授がメトロポリア応用科学大学を訪問し、協定締結に向けた実務的な協議を行いメモダンダ
ムの作成・合意に至った。2009年10月末にはメトロポリアから保健看護学部の国際交流担当者で
あるアイヤ・アホカス先生と口腔衛生学科のトゥーラ・トイバネン・ラビアッド先生を迎え、相互
の教育現場についての理解に努めている。さらに、2010年3月には伊賀教授がメトロポリアで開
催された保健看護学部のインターナショナルミーティングに出席して講演を行うとともに、連携教
育協定締結に向けた下準備の話し合いを、時間をかけて行った。その様な経過に基づき、
2010年8
月に林学部長が自らヘルシンキを訪れ、学術交流協定締結の調印に至った。
また、メトロポリアからの短期留学生として2008年度にはヨアンナ・オッリカイネンさん、
2009
年にヘイニ・アホラさん、ミンナ・アイモラさんを受け入れ、2010年11月には、エリナ・ナカム
ラさんとアイリッキ・ヌルミネンさんを迎えている。評価者はこれらの留学生に後日、率直な聞き
取りを行っているが、徳島大学口腔保健学科は少人数クラスで、一般的なフィンランドの教育機関
と比較しても、極めて質の高い教育を行っていて驚いたということや、今後の継続的な交流を推進
することが相互にメリットがある等といった、軒並み良好で前向きなコメントを得ている。また今
後、2011年3月には、徳島大学から数名の学生がメトロポリアを訪れるとのことであり、交流が双
方向で発展する道筋がつけられた。
以上のような経過と現状から、徳島大学歯学部教育 GP の中で推進されているメトロポリア応用
科学大学との国際交流は、その基盤形成を完了し、これから大きな成果を生み出すことが期待され、
今後とも継続的に検証しつつ推進すべきと思われる。今後は、その上で学生、教員、研究の様々な
レベルでの交流が図られ、高齢社会が到来した先進国の歯科衛生士・口腔衛生士がすべき課題を浮
き彫りとし、この課題に対して、世界的に先駆的、挑戦的な教育展開とその普及を目指してもらい
たい。具体的にその方向性を例として示すならば、次のようなことである。
高齢者における口腔ケアの潜在的ニーズは多く様々である。今後の医療人に求められるのは、単
に医療機関に来院する患者への配慮ではなく、健康障害のリスクの高い人の生活に積極的に関わる
中で、その人のモチベーションを導き出し、潜在的ニーズを拾い上げ、多職種連携で改善に結び付
けることであろう。フィンランドの歯科医療や介護の現場においてその様な取り組みが、全てにお
いて日本よりも優れているとは思われないが、その様な課題を両国の学生が共有して考えることで、
それぞれの地域にあったシステムを構築する人材が養成されることが望まれる。さらに、近い将来
高齢社会を迎える他国の保健福祉に示唆を与える情報発信を願いたい。
− 62 −
8.三年間 (平成20年度∼22年度)
の取り組みの総括
∼今後の地域育成型歯学教育に向けて∼
∼今後の地域育成型歯学教育に向けて∼
実行部会長 吉本 勝彦
実施責任者 日野出大輔
教育 GP「高齢社会を担う地域育成型歯学教育」は歯学部学生に対して入学早期からの学内授業
でのヒューマンコミュニケーションに関する気づきを、学外体験学習での高齢者との交流に繋げる
ものである。特に、地域貢献により大学が地域を育て、そして逆に学生が地域に育てられる「地域
育成型歯学教育」の展開から、歯学部学生の「人間力の向上」と「医療人としての自覚を持つ」を
2つの教育目標とし、これからの高齢社会が求める歯科保健医療・福祉に携わる人材の育成を目的
としている。
平成 20 年 11 月より採択・実施された本取り組みの総括として、下記の項目に沿って検証してみ
た。
1)実施体制の確立
徳島大学歯学部教育 GP の取り組み実施体制を確立するため、歯学部教務委員会内に教務委員長
を中心とする実行部会を立ち上げ、計画のスケジュール等に関する討議などを行った。実施体制の
確立により、歯学科・口腔保健学科の教員に本取り組みへの積極的な協力を促す環境や、取り組み
の一部を正規授業として全学共通教育へ組み入れるための体制を整えることができた。
また、歯科衛生士および社会福祉士の有資格者を教務補佐員として雇用し、事務補佐員の雇用と
併せて、現在の教員だけでは不足している取り組み準備・学生教育指導を補完することができた。
このうち、本取り組み協力施設との事前の十分な打ち合わせと実習中の双方向の緊密な連携構築は
非常に重要であり、教務補佐員の活動により円滑な学外体験学習が実施でき、また学生教育の質の
向上を図ることも出来た。
2)備品の購入
初年時購入の授業用リモコン、口腔内カメラ、口腔機能測定器“健口くん”などは、該当年度の「高
齢者交流学習」および次年度以降の「相互歯磨き学習」
・
「お口の健康長寿教室」の取り組みに必要
な備品として購入できたため、円滑な取り組み遂行が可能となった。また、大型プリンターは交流
施設における取り組み内容の掲示物の作成や学会発表ポスター作成に、デジタルビデオカメラは
「高齢者交流学習」のふり返り授業やシンポジウムのパネルディスカッション撮影などに必要な備
品として利用した。
3)「エデュネット」の構築
徳島大学歯学部教育管理ネットワークシステム「エデュネット」を構築・導入したことは、教育
内容の充実に大きく貢献した。まず、翌日までのレポート提出が可能となった。その結果、
「高齢者
交流学習」では、学生とパートナー間での交流を遅滞なく把握出来るため、教育効果の向上に加え、
トラブル回避へも繋がることとなった。また、地域福祉体験学習「お口の健康長寿教室」では、学
生が「エデュネット」から、高齢者施設の特徴や設立背景を事前に理解することにより、より効果
− 63 −
的な地域福祉体験学習の実施に繋げるとともに、実施施設担当者からのコメントを学生へ迅速に
フィードバックすることが可能となった。これらのことは、教育効果においても大きな成果を得る
要因となったと考える。
4)各授業
<食と健康学習、相互歯磨き学習>
上記授業においても、多くの学生が食の重要性や相手を思いやることの重要性を認識できたこと
がアンケートやレポートから読み取れた。
<気づきの体験学習>
毎年、ヒューマンコミュニケーション授業に精通している講師を招聘し、実施した。学生レポー
トには、
「自分を見つめ直す機会を得た」などの感想が多く認められ、内容の充実した学内演習を実
施することができた。
<特別講義>
毎年、
「高齢者交流学習」参加者に対して、住職である施設長から「生と死」
、
「老い」などの特別
講義を受けた。講演内容は高齢者との交流を控えた学生の心をつかみ、異なる世代の高齢者と向き
合う準備を支援することができたと考える。
平成20年度はフィンランド・オウル市副市長 Sinikka Salo 氏、平成22年度はカナダ・ラバル大
学歯学部の Daniel Grenier 教授より、それぞれの国・地域の口腔保健に関する特別講義を受けた。そ
の結果、海外の口腔保健・福祉分野にも見識を得ることができ、学生に加え、教員においても非常
に有意義であった。
<高齢者交流学習>
参加学生数 ・平成20年度 28名 口腔保健学科16名(必修:早期臨床実習)
歯学科12名(希望者)
・平成21年度 16名
口腔保健学科16名(必修:早期臨床実習)
・平成22年度 19名
口腔保健学科15名(必修:早期臨床実習)
歯学科4名(選択必修:
ヒューマンコミュニケーション・高齢者との交流から学ぶ)
(詳細は本報告書を参照)
<地域福祉体験学習(お口の健康長寿教室)>
参加学生数 ・平成21年度 50名
口腔保健学科16名(必修:早期臨床実習)歯学科34名(必修:早期体験実習)
・平成22年度 51名
口腔保健学科16名(必修:早期臨床実習)歯学科35名(必修:早期体験実習)
(詳細は本報告書を参照)
− 64 −
5)シンポジウム、県民公開フォーラム
<平成20年度>
シンポジウムを開催した。フィンランド・オウル市副市長 Sinikka Salo 氏より「Current Status of
Oral Health Care in Finland:フィンランドの口腔保健の現状」という特別講演を受けた。また、「高
齢者との交流を通した学生教育」のテーマで中村千賀子先生(東京医科歯科大学准教授)
、渡部芳彦
先生(東北福祉大学講師)
、日野出大輔(徳島大学教授)をシンポジストとし、また歯学部学生2名
も演者に加わり、各発表を行った。また、コメンテーターを含めた全体討論を実施した。本取り組
みに対する教育内容が討議され、また外部の3人の方から取り組み評価をあわせて受けたことによ
り、本年度の取り組みをふり返り、また次年度以降の取り組みに反映させて一層の教育内容の充実
を図ることができた。シンポジウム参加学生は、海外の口腔保健・福祉分野にも見識を得ることが
期待でき、自分の体験をふり返り意義づける上でも有意義なシンポジウムとなった。
<平成21年度>
本取り組みを一層活性化させるため、
「未来に羽ばたく歯科医療従事者養成のために」をテーマに、
「これからの歯科」と「チーム医療」をキーワードとしてシンポジウムを開催した。石井 拓男先生
(東京歯科大学千葉病院長)より、
「これからの歯科保健・医療・福祉分野に求められるもの」の特
別講演を、
「チーム医療を推進するための IPE/IPW」というテーマのパネルディスカッションでは福
島統先生(東京慈恵会医科大学教授)
、大内章嗣先生(新潟大学教授)
、大石美佳先生(徳島大学講
師)をパネリストとして迎え、各プレゼンテーションと参加者の方々との討議を行った。参加学生
は特別講演演者やパネリストから口腔保健・福祉に関する新たな見識を得ることができ、今後の歯
科医療従事者に求められる内容について深く考える機会を得るなど、非常に有意義なシンポジウム
となった。
<平成22年度>
口腔保健県民公開フォーラムとして「いま地域に求められる口腔保健と介護・福祉との連携」の
テーマで開催された。
(詳細は本報告書を参照)
。特に、地域福祉体験学習「お口の健康長寿教室」
の展開は、本取り組みが目指している「地域貢献により大学が地域を育て、そして逆に学生が地域
に育てられる」という「地域育成型歯学教育」を実践する報告として紹介し、またその成果につい
ても歯学教育関係だけでなく、広く県民に周知することができたと思われる。
6)成果発表(報告書の作成を含む)
下記のように、本取り組みに関する成果は学会等における発表として14件、学術論文として4件
(投稿中を含む)を数える。本取り組みの報告書の作成・送付と同様に、医育機関等への本取り組
みに関する教育効果などの情報発信から、本補助事業の公表・普及につなげることができたと考え
る。
<学会等発表(14件)>
・大学教育改革プログラム合同フォーラム(2009年1月、横浜市、2010年1月、東京)
− 65 −
・徳島大学歯学部教育 GP シンポジウム(2009年3月、徳島市)
・徳島大学歯学部口腔保健・福祉県民公開フォーラム(2010年9月、徳島市)
・徳島大学教育カンファレンス(2009年1月、徳島市、2010年3月、徳島市、2011年1月、 徳島市)
・日本歯科医学教育学会(2009年11月、広島市、2010年7月、盛岡市)
・日本社会福祉教育学会(2008年11月、平塚市、2009年11月、鹿児島市)
・日本歯科衛生学会学術大会(2009年9月、大阪市)
・近畿・中国・四国口腔衛生学会総会(2010年6月、松江市)
・日本口腔ケア学会学術大会(2010年11月、大阪市)
<学術論文(4件:投稿中を含む)>
・四国歯学会誌(報告),22: 129-131, 2009.
・大学教育研究ジャーナル(報告).6: 108-114, 2009.
・日本社会福祉教育学会雑誌(原著:投稿中)
・大学教育研究ジャーナル(原著:投稿中)
7)各取り組みの学生への教育効果と地域貢献活動としての評価
現在、投稿中の2論文において本取り組み内容を検証・考察した。それぞれの表題と要旨を下記
に示す。
<日本社会福祉教育学会雑誌投稿論文>
「初年次教育における人間力の向上をめざした高齢者交流学習」
本研究の目的は、将来の対人援助職(社会福祉士および歯科衛生士)を目指す学生への「高齢者
交流学習」による教育効果を評価することである。
本研究の調査対象は徳島大学歯学部口腔保健学科1年生(32名)である。養護老人ホームにおい
て、高齢者との1対1の交流から、コミュニケーション力を養うことなどを期待する体験学習を実
施した。教育効果を評価するため、毎回の学習記録とともに交流に関する自己評価を10点満点で
記載させた。また、交流学習終了後「自己の成長したことベスト3」を自由記載させ、高齢者交流
学習前後の参加学生の EQ(感情指数)の変化を調査した。交流後の学習記録に認められる「心に
深く感じた」内容に加え、自己評価点数は上昇した。また、4つの到達目標に沿った表現の記載も
確認された。交流学習終了前後の EQ においても4項目全てにおいて有意な差が認められた。
以上から、本取り組みは「人間力の向上」という一般目標に適した有効な教育カリキュラムであ
ると考えられた。
<大学教育研究ジャーナル投稿論文>
「地域高齢者との福祉体験学習の教育効果と地域貢献事業としての評価」
本研究の目的は、地域高齢者との福祉体験学習における学生への教育効果と、地域貢献事業とし
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ての評価をすることである。
徳島大学歯学部では、医療人を志すものとしての自覚を持つことを目的とした取り組みを県内16
カ所の施設で合計28回実施した。これは、学生が口腔保健指導「お口の健康長寿教室」において、
高齢者を対象とした口腔機能訓練の補助者として体験学習するものである。
学習後のレポートから、到達目標とした地域貢献の在り方や歯科専門職としての役割を認識した
学生が多くを占めた。一方、地域貢献事業として評価するため、参加職員への調査を行った結果、
利用者への役立ちに加え、多くの施設職員の理解も深まったとのアンケート結果が得られた。
以上から、本取り組みは学生への教育目標「医療人としての自覚を持つ」に沿った成果が得られ
ており、また、施設職員の口腔機能向上プログラムへの理解の深まりから、今後の継続が期待され
る。
8)本取り組みの正規授業への組み入れ
本取り組みの目的の1つとして教育効果が得られた授業の正規授業への組み入れがある。本年度
から学内演習の「食と健康学習」
、
「相互歯磨き学習」
、
「気づきの体験学習」は歯学部1年次の大学
入門講座(1単位、4月から7月にかけて実施)の一環に組み入れた。
学外体験学習のうち、
「高齢者交流学習」は平成19年度より、口腔保健学科1年次の早期臨床実
習(2単位)の一環として組み入れていた。本年度から歯学科1年次においても全学共通教育科目:
社会形成科目群の「ヒューマンコミュニケーション・高齢者との交流から学ぶ」において、選択科
目(2単位)として組み入れた。
地域福祉体験学習「お口の健康長寿教室」においては、平成20年度に口腔保健学科2年次の早
期臨床実習(2単位)の一環として、平成21年度からは歯学科2年次の早期体験実習(2単位)
の一環として組み入れた。
9)まとめ
以上、本取り組みにおいて、概ね目標とした成果の達成と取り組みの継続化に繋がる正規授業へ
の組み入れが達成できたことから、質の高い大学教育推進プログラムの主旨に沿った取り組みの遂
行ができたと考える。しかし、教育内容には更に充実させるべき点もあり、今後も地域育成型歯学
教育を継続していく中で PDCA (Plan/Do/Check/Action) サイクルを働かせて、絶えず検証していく必
要があると思われる。
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平成20∼22年度文部科学省 質の高い大学教育推進プログラム(教育 GP)
「高齢社会を担う地域育成型歯学教育」最終事業報告書
発 行 日 平成23年2月
編集・発行 徳島大学歯学部教育 GP 実行部会
〒770-8504 徳島市蔵本町3丁目18-15
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