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株式会社田中食品興業所 導入事例

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株式会社田中食品興業所 導入事例
成 功 事 例 集 2009
食品
株式会社田中食品興業 所
HACCP対応の新工場を建設し
食品会社として徹底した管理を実現
従業員の衛生への意識と生産効率も向上
導入の狙い
食品の安心・安全を第一に考えた
新工場の建設
導入システム
ゾーニングによる徹底した衛生管理、
原料自動倉庫による賞味期限管理、
においが移らない気流管理、
ヘパフィルタ式空気清浄化装置、
ICカードによる入退出管理、
包装箱詰用ロボットの導入、
出荷用製品搬送ライン∼パレタイズ
ロボット∼製品自動倉庫にいたる
出荷システムの導入など
導入効果
徹底した衛生管理と、
入出荷業務の自動化による
業務の大幅な省力化を実現
USER
PROFILE
株式会社田中食品興業所
●
業種:食品製造
●
事業内容:製菓・製パン用フラワーペース
ト、製菓用カスタード、油脂製品、あん
製品、ジャム製品、製菓材料、惣菜製品
等の製造販売
●
従業員数:530名
床の色を清潔区域(青色)
、準清潔区域(緑色)
、汚染区域(グレー)等に分け、徹底した衛生管理を行っている
株式会社田中食品興業 所 は、製菓や製パンに使用されるペースト状のクリ
ームなどを製造している食品メーカーだ。同社では、食品の安心・安全を
第一に考えたつくば工場を新設し、ゾーニングによる徹底した衛生管理や、
においが他の食品に移らないようにするための気流管理、ICカードによる
入退出管理など、最先端の環境を整え、業界内で大きな注目を浴びている。
また、入出荷業務を自動化するロボットなどを導入し、業務の大幅な省力
化も実現している。その設計・施工を担当したのが、食品業界の環境整備を
支援する「Team O-st」のメンバーである竹中工務店だ。
現在は、製パンや製菓の生地に注
関東市場の製造拠点として
HACCP対応の新工場を建設
株式会社田中食品興業 所 は、戦後
HACCP対応の新工場を建設し、従業員の意識向上
と業務省力化に成功した株式会社田中食品興業所
2008年11月取材
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入するフラワーペーストや、生地の中
に折り込んで焼き上げるとマーブル状
のパンが簡単にでき上がるフラワーシ
間もない1949年に創業された。それ
ートをはじめ、油脂製品、あん製品、
まで米軍から配給されていたジャムを
ジャム製品、製菓材料、惣菜製品など
自転車に乗って量り売りしたのが始ま
の製造・販売を幅広く手掛けている。
りだった。以来、新たな食文化の創造
とりわけ、見た目もきれいなマーブル
を目指し、製パン・製菓用クリームの食
状のパンが仕上がるフラワーシート
品メーカーとして発展を遂げる。
は、同社が20年以上前に開発したオ
●株式会社田中食品興業 所
リジナル商品で、その後の製パン業界
4時間に及ぶこともあったという。
の発展に大きく寄与している。取引先
「まず、安全・安心を大前提に考えて
も大手・中小の製パン・製菓メーカーを
ほしいと伝えました。原料などの殺
はじめ、ベーカリーショップやファスト
菌・洗浄はもとより、外から雑菌を持
フード店など多岐にわたる。
ち込んでくるのは人ですから、手洗い
これまで同社の製造拠点は、大阪
所の設置などを含め、衛生環境をどう
府・堺市の本社工場、埼玉工場、千葉工
維持していくかが重要なポイントでし
場の3カ所だったが、埼玉工場と千葉
た」
と北野氏は語る。
工場が設備面で老朽化してきたことか
その一環として、新工場では、虫よ
ら、2工場を統合することになった。そ
け対策にも神経を注いでいる。食品
の際、関東市場の業務を拡大し、食品
工場は一般的にベージュ系の見栄えの
の安全性に対する危害を最小限に抑え
よい外観が多いが、つくば工場の外観
るHACCP対応の新たな製造拠点を
は、虫が寄りつかないようにするため
建設することにも大きな狙いがあった。
に、あえて黒系の色が採用されている。
「関東地方は菓子パンの消費量が多
その効果は絶大で、実際に虫が寄りつ
いので、当社の事業戦略として関東の
かなくなり、通常の食品工場よりも防
製造拠点を充実させようと考えたの
御ネットの数も少なくて済んだ。
です。その際、会長からは、食品の安
ゾーニングによる衛生管理も徹底
心・安全を一番に考え、徹底した衛生
して行っている。作業区域を清潔区域、
管理が行き届く環境を整備すること
準清潔区域、衛生管理区域、汚染区域
と、埼玉工場と千葉工場の従業員が1
の4つのエリアに分け、床の色で識別
時間以内で通える場所に建設するこ
できるようにしている。また、交差汚
とが絶対条件だと言われました」
と生
染防止のため生産ラインをワンウェイ
産部部長 本社工場 工場長
(前つくば
化し、入口と出口を分離。入口には手
工場長)の北野 保清氏は語る。
洗い所やエアシャワーを設置し、そこ
新工場を建設するにあたっては、社
内にプロジェクトチームを発足し、生産
貴田 良明氏
「お客様からは、清潔感にあふれたきれ
いな工場で、きちんと挨拶ができて社員
教育も行き届いていると一定の評価を
いただいています。今後は、現在の清潔
な工場を維持・管理していくことが重要
な課題となりますね」
を必ず通らないと中に入れない仕組
みになっている。
部門や間接部門から10名のメンバー
さらに、新工場では同時に複数の食
を選出。その設計・施工を、大塚商会や
品が製造されるので、それぞれのにお
サラヤと共に
「Team O-st」
のメンバー
いが他の食品に移らないようにするた
として食品業界の環境整備に尽力して
めに、気流管理も行っている。
いる竹中工務店に依頼した。
取締役
生産本部長
工場内への入口にはエアシャワーが設置さ
れ、必ず風でホコリなどを飛ばしてから入る
「カレーや香辛料を使っている商品
もあるので、そのにおいが移らないよ
うに、竹中工務店さんが得意とする気
徹底した衛生管理を実現するため
細かな部分にも最新設備を投入
新工場プロジェクトは、約1年半かけ
流管理も実施してもらいました。ドー
ム球場などで豊富な実績があったの
で、そのノウハウを新工場にも取り入
て綿密な検討が重ねられた。同社と竹
れたいと考えたのです。具体的には、
中工務店との定例会は延べ120回ほ
工場中心部の衛生を保つために、室
ど行われ、1回の打ち合わせ時間が3、
内の気流が外側へ流れていくようにし
細菌検査室では、常に製品の検査を行っている
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成 功 事 例 集 2009
食品
てもらいました」
と北野氏は語る。
しかし、すべてが順調だったわけでは
清潔区域には、ヘパフィルタ式空気
ない。新工場への移転時には苦労もあ
清浄化装置も導入。1立方フィート当
った。最も苦労した点は、生産業務を
たり、0.5μm以上の微粒子数が平均
止めるわけにはいかないので、埼玉工
3,000程度に維持されている。病院の
場と千葉工場の生産施設をライン単位
一般的な手術室の管理基準はクラス
で新工場へ順次移設しなければならな
10,000が普通で、これと比べても、い
いことだった。そのため、当初は3工場
かに清潔が保たれているかがわかる。
が同時並行で稼働している状態で、新
「清潔区域で働いている人が、風邪
工場へ先に移設した生産ラインの衛生
生産部部長
本社工場 工場長(前つくば工場長)
をひきやすくなったというエピソードが
管理を徹底しながら、後から移設する
北野 保清氏
あります。というのも、あまりにも清潔
生産ラインの工事を行わなければなら
な環境なので鼻毛がまったく生えず、そ
なかったが、竹中工務店との細かい協
の状態で街に出ると、風邪をひきやす
働作業により、これを実現できたという。
くなるというわけですね」
と北野氏は
また、新工場ではゾーニングによって
「食品業界では、食品の安全・安心に対
して意識レベルが高いところと、まだ低
いところがあります。Team O-stの方々
には、そうした格差がなくなるような形で、
これからも業界全体の発展に尽力してい
ただきたいと期待しています」
冗談交じりに言う。
天井裏を高くして空調ダクトや配管
類をすべて収納し、ホコリだまりをなく
林 伸明氏
「今後は、衛生面をより一層向上させな
がら、生産効率を高めていかなければな
りません。そのためにも、従業員一人ひ
とりが自発的にいろいろな改善提案が
できるような、活気のある工場にしてい
きたいと考えています」
あると、そこにホコリがたまりやくなる
ープンな環境で作業をしていたので、
ので、あえて縦配管を増やし、天井裏を
仕込みをしている人や包装作業をして
効果的に活用することにしたのだ。
いる人、商品を積んでいる人などがす
べて見渡せ、お互いに声をかけながら
用トイレは、生産エリア外に1カ所だけ
一連の作業をスムーズに行えました。
設置し、衛生面では万全な配慮をして
ところが新工場は、各エリアが遮断さ
いる。当初は、従業員からトイレが遠く
れているので相手に声をかけても聞
なると苦情が出ると危惧したが、特に
こえず、次の工程にバトンタッチしにく
問題が生じることはなかったという。
くなったのです。しかし、各工程の従業
員同士がマイクやPHSを使ってコミュ
ニケーションを取るなどの工夫をし、
従業員の教育研修を実施し
新システムに柔軟に対応
し、同年8月から本格稼働の運びとな
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りづらくなり、
その対応にも苦慮した。
「旧工場は、従業員が1フロアのオ
つくば工場は2007年3月に竣工
見学者通路から、作業区域ごとに別れた工場内の様子
を見ることができる
程の従業員がコミュニケーションを取
す工夫も行っている。室内に横配管が
また、一番の汚染区域となる従業員
つくば工場 工場長
各エリアが仕切られているため、各工
その問題も解消できました。ただ、慣
れるまでに半年くらいかかりました
ね」
と取締役 生産本部長の貴田 良明
氏は当時の苦労を振り返る。
ったが、事前に従業員に新工場に慣れ
その一方で、従業員が休憩時にリラ
てもらうための教育研修を行ってい
ックスできるよう、ガラス張りの開放
る。そのポイントは、衛生管理の必要
的な食堂を設置したりするなど、厚生
性を認識してもらうことだった。これ
エリアを充実させている。そのため、
により、新工場の徹底した衛生管理体
従業員からは以前よりも働きやすい
制にも比較的スムーズに対応できる
環境になったと好評だという。
ようになったのである。
「千葉工場は仕出し弁当だったので、
●株式会社田中食品興業 所
食事をするときには冷めてしまっていた
監視カメラを設置し、1週間分の録画
のですが、今はできたての暖かい食事
が取れるようになっている。さらに、社
をとることができます。従業員からは
員証を兼ねたIDカードを従業員に支
大変好評です」
と、つくば工場 工場管理
給し、そのカードを正面玄関の読み取
課 課長の井上 隆浩氏は語る。
り機にかざすとドアが自動的に開き、
誰が、いつ、何時に入退出したのかロ
グで確認できるようになっている。
工場の自動化とIT化により
業務省力化や環境保全を実現
環境にやさしい工場を実現するた
めに燃料を重油から液化天然ガスへ
新工場では、資材の入庫業務を効
切り替え、CO2削減にも大きく貢献し
率化するために自動ラックを導入し、
ている。また、従業員が利用する食堂
資材の品質劣化を防ぐために先入れ
の残さを少なくするために、定食を予
先出しを自動的に行い、コンピュータ
約制にすることで、余分に作りすぎな
による賞味期限管理も厳重に行って
い工夫も行っている。
いる。さらに各エリアで箱詰めされた
「今回、新設したつくば工場はハード
製品は天井裏を通ってコンベアで搬送
面が整備されたすばらしい工場です。
され、パレタイズロボットが自動的に
電気使用量も当初の予定よりも3割く
パレットに積み上げ自動ラックに保管
らい低減されています。しかし、ハード
する流れになっている。
面だけでは安全・安心は実現できない
「旧工場では、人手で商品をパレット
ので、ソフト面も充実させながら、より
に積み上げていたので、倉庫だけで10
安心して利用していただける商品を供
数名が作業をしていたのですが、それ
給できる工場にしたいと考えていま
が今はわずか2名で対応できるように
す。また、私はもともと開発出身なの
なりました。これにより、人員の最適配
で、開発的見地からも工場のより一層
置が可能になり、業務の大幅な省力化
の改善に努めたいと思います」
と現在
が実現されたのです」
と北野氏は語る。
のつくば工場 工場長である林 伸明氏
また、包装箱詰用のロボットが5台
つくば工場は、すでにISO9001を
読み取って、それぞれの商品をどのラ
取得しており、ISO14001について
インに流すか自動的に判別できる仕
も2008年12月の取得に向けた取り
組みになっている。
組みを行っている最中だ。同社の衛生
「商品の箱は小さなものから大きな
面や環境面に配慮した模範的な取り
ものまでまちまちなので、それを1台
組みは、業界内で大きな注目を集めて
のロボットでつかみ上げるのは非常に
おり、毎月、取引先などの多くの関係
難しいのですが、竹中工務店さんに無
者が工場見学に来ているという。ガラ
理を言って、旭川のロボットを製造して
ス張りの見学通路を設けるなど受け
いる工場まで行き、なんとか実現して
入れ体制も万全に整えており、
「見せる
もらったのです」
と北野氏は語る。
工場」
として、徹底した安全管理が求め
強化されている。工場内外に複数の
井上 隆浩氏
「つくば工場には3つの課があるので、どこ
かの課で何か気づいた点があれば、それ
を他の課にも即座に伝え、課長同士が連
携を密に取り合いながらチームワークを強
化していきたいですね。より一層の業務改
善に努めていきたいと考えています」
明るく、開放的な雰囲気の食堂。個人負担は、
定食350円、うどん180円、カレー250円
は今後の抱負を力強く語る。
あり、商品に記載されたバーコードを
新工場では、セキュリティ面も大幅に
つくば工場 工場管理課 課長
られる食品業界全体の発展に陰なが
ら寄与している。
株式会社田中食品興業所のホームページ
http://www.tanakafoods.co.jp/
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