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位置決め点での懸垂物の行き過ぎを回避した クレーンの遠隔操作

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位置決め点での懸垂物の行き過ぎを回避した クレーンの遠隔操作
位置決め点での懸垂物の行き過ぎを回避した
クレーンの遠隔操作システムの開発
Development of Crane Tele-operation System
Without Overshoot of a Suspended Object at Target Position
精密工学専攻
17 号
久保雅裕
Masahiro Kubo
1. 緒言
まで対応することができる.これら4つのアクチュエータに
天井走行型クレーンを用いた搬送作業は3次元での搬送が
は DC サーボモータが利用され,それぞれ速度制御される.
可能であるため,重工業や造船を主とした工場などで頻繁に
いずれのモータもエンコーダを内蔵しており,回転角度から
使用されている.しかし,クレーンの特性上搬送には振子振
クレーンの位置を高精度に検出することできる.
動が伴うことから操縦には高度なスキルが必要となっている.
クレーンには,懸垂物とその周辺の映像を真上から捉える
本研究ではこれまで,カメラを用いたワイヤ振角センサの
ことのできるカメラが取り付けられており,オペレータはそ
開発を行い,開発されたセンサを用いて振動抑制が可能であ
の映像を見ながら位置決め点をクリックすることにより,ク
ることを確認してきた[1][2].しかしレギュレータにより振動
レーンを操縦する.オペレータはまずクレーンを目標点に向
を抑制するだけでは,テレオペレーションで懸垂物を目標位
けて経由点(位置決め点)を指定し,映像中に目標地点が現れた
置決め点で止めようとした際,不可避的に行き過ぎが生じる.
ら,目標地点を画面上でクリックする.すると,行き過ぎを
このため,壁際での位置決めの際など振動を抑制する以前に
発生することなく目標点で停止する.この一連の操作をスム
懸垂物が壁に激突してしまう.
ーズに実現するためには様々な技術要素を開発する必要があ
美多ら[3][4]は,最短時間制御をクレーンの搬送に応用し,
また山本ら[5]は懸垂物の Jerk と移動テーブルの関係に注目す
る.本報では,二段サーボ構造をもつ制御システム及び,オ
ペレータに提供する操縦インターフェースについて説明する.
ることで,目標位置決め点で振動なく懸垂物を静止させる指
令を生成している.しかしながら,オープンループ指令のみ
では風などに起因する外乱に対応することが出来ない.また,
最短時間を実現するために搬送中の振角自体は大きくなって
しまう問題がある.さらに武田らは最適レギュレータ理論を
応用した,最適追従系の一般設計法を提案している[6].しか
しフィードバック指令のみでは,前述したように目標位置決
め点での行き過ぎを回避することができない.
このようにクレーンは多岐にわたって研究なされているが,
Fig.1 Schematic view of tele-operation system
そのほとんどは完全な自動制御による,制振・位置決め制御
3. 二段サーボシステムの制御則
である.しかしクレーンが用いられる重工業や造船では受注
3.1 クレーンの簡易モデル
x
生産が多く,製品仕様が顧客によって異なるため,製造プロ
セスや部品の搬送位置などが製品ごとに変化する,したがっ
M
て現実にはオペレータが自由に操縦できるクレーンが求めら
l φ
れている.
xe
そこで,本研究ではオペレータが目標位置決め点で行き過
m
ぎなく懸垂物を静止させることのできる簡便なオペレーショ
ンシステムを実現することを目的としている.そのための基
礎技術としてフィードバック制御とフィードフォワード制御
を併用した制御系を構築,及びオペレータに提供する操縦イ
ンターフェースの開発を行なっている.
2. 遠隔操縦システムの概要
本研究で開発するシステムの概観を Fig.1に示す.クレーン
は x,y2次元平面内を移動することができ,それぞれの方向に
ボールネジを利用した微動系・粗動系2つの駆動系が直列に
導入されている.粗動系を懸垂物の搬送に利用し,微動系に
より振動の抑制を行うことで,より周波数成分の高い外乱に
Fig.2 Simplified dynamic model of crane
Fig.2 にクレーンの簡易モデルを示す. x , x e
, M , m はそ
れぞれ移動テーブル,懸垂物の位置と質量を示し,ワイヤ長 l ,
振角を φ とする.懸垂物の運動方程式は φ ≅ 0 として,
m&x&e = − mgφ
(1)
となる.また移動テーブルと懸垂物位置の関係は式(1)を用い
て φ を消去すると
x = xe + l
g
&x&e
(2)
となる.式(1)によれば,懸垂物には振角 φ に比例した力が加
わる.従って,懸垂物に直接力を加えることはできないもの
の,移動テーブルを駆動し,任意の振角 φ を達成することで
ただし, K v , K l は比例ゲインを,添え字 d は目標値を表して
擬似的に懸垂物に力を加えることが可能となっている.
いる.ここで,目標入力と出力の誤差 ( x cd
3.2 懸垂物の Jerk を連続とした目標軌道
てあらわすと,誤差の状態方程式は式(4),式(5)より
⎡e& ⎤ ⎡ 0
⎢e&&⎥ = ⎢− K
⎣ ⎦ ⎣
l
& = AE
E
前節の式(2)を一階微分すると,移動テーブルの速度は式
(3)に拘束されていることがわかる.
x& = x& e + l &x&&e
g
(3)
− x c ) を e を用い
1 ⎤ ⎡e ⎤
− K v ⎥⎦ ⎢⎣e&⎥⎦
(6)
移動テーブルに限らず,速度は現実的に連続な関数とならな
となる.式(6)に示された誤差システムのシステム行列 A の
ければならない.従って,式(3)から懸垂物の Jerk である &x&&e が
固有値の実部がすべて負であれば安定となることから比例ゲ
連続な関数となる.そこで,懸垂物の搬送軌道を Jerk が連続
イン K v , K l を決定する.なお,実際にシステムに与える入力
な関数として生成する.生成された目標速度波形を Fig.3 に示
は速度入力であるため式(7)となる.
t
u v = ∫ u a (τ )dτ
す.オペレータが指示した目標位置までの速度波形を,Jerk
を連続とした速度波形を用いて補間してやることで,位置決
め点における残留振動やオーバーシュートを防止することが
可能となる.
∫ x& dt = (V
e
V [m / s ]
2
(7)
0
3.5
微動系に与える制御則
微動系は風や地震などの外乱に起因する振子振動の抑制を
行うべく制御される.振子振動の抑制にはすべての状態変数
− V1 )T
を平衡点である
V2
0
に収束させるレギュレータを適応すれ
ばよいと考えられる.しかしながら,式(1)に示されるように
懸垂物が搬送されるには理論的に振角が必要となっている.
そこで,粗動系が駆動されることによって平衡点が移動する
レギュレータを提案する.まず式(1)より,目標振角 φ d ,及
V1
tt
Ts 2T
2T
び φ&d を計算し,平衡点を,
t[s ]
[
Fig.4 に本研究が提案している,二段サーボシステムの概要
を示す.本システムは懸垂物の搬送を目的としている粗動系
と,風などの外乱に起因する振子振動を抑制する微動系の二
段サーボ系を構成し,それぞれ独立に制御系が設計されてい
る.粗動系にはオペレータからの指令を,式(3)より与えられ
る,懸垂物の Jerk を連続とする入力に変換し与えている.ま
た微動系にはフィードバック制御系が組み込まれており,各
種センサ情報をもとに制御されている.
(8)
⎡ x& f ⎤ ⎡0
⎢ &x& ⎥ ⎢0
⎢ f⎥=⎢
⎢ φ& ⎥ ⎢0
⎢ && ⎥ ⎢0
⎣ φ ⎦ ⎣⎢
1
0
0
0
0
g
0 −
0⎤ ⎡ x f
0⎥⎥ ⎢ x& f
⎢
1⎥ ⎢ φ
⎥
0⎥ ⎢⎣ φ&
⎦
0
l
⎤ ⎡ 0
⎥ ⎢ 1
⎥+⎢
⎥ ⎢ 0
⎥ ⎢− 1
⎦ ⎣⎢ l
⎤
⎥
⎥u
⎥ a
⎥
⎦⎥
(9)
とあらわされる.ここで,入力 u a を,平衡点を移動させた状
態変数で与えると
[
ua = f x f
x& f
φ& − φ&d ]
φ − φd
(10)
となる.なお,このフィードバックゲイン f は通常のレギュ
粗動系
レータと同様に設計できる.提案されたシステムのブロック
Continuously jerk
線図を Fig.5 に示す.
クリック
ジョイスティック
ua
平衡点移動型レギュレータ
微動系
B
F 外乱
Ff + +
ur +
G b
∫
微動系
-
T
とする.また,微動系システムの状態方程式は
3.3 二段サーボシステムの概要
オープンループ指令
φ&d ]
x 0 = 0 0 φd
Fig.3 Speed pattern of suspended object
x&
+
+
∫
x
A
x
+
C y
F
A
x0
+
-
Fig.5 Block diagram of proposed regulator
Fig .4 Scheme of two step control system
3.4
粗動系に与える制御則
4. 操縦インターフェースの開発
粗動系には式(3)によって与えられる目標軌道に遅れや偏
差なく追従するという要求が課せられる.ここで,移動テー
4.1 速度入力の生成手順
PC 上に表示する画像の簡易図を Fig.6 に示す.図中の破線
ブルに速度サーボをかけ,その微分値である &x&c が自由に制御
で囲まれたエリアが投影範囲である.いま図中の点 L をクリ
できるとする.すなわち,
ックすることによって,現在位置から指定された位置までの
&x&c = u a
(4)
(11)となる.
ここで加速度入力 u a を
u a = &x&cd + K v ( x& cd − x& c ) + K l ( xcd − xc )
世界座標単位での距離を取得できるとする.この距離は式
(5)
L = L2x + L2y
(11)
一方,Fig.3 に示す速度波形の移動距離は加減速にかかる時
n
間を 2T ,等速区間を与える時間を t t とすると,
l = 2(V1 + V2 )T + V2tt
(12)
となる.式(11),式(12)を用いて粗動系各軸に与える目標軌道
を決定する.以下ではその手順を示す.
1)
道は式(18)となる.
t t = 0 ,V1 = 0 とし,式(12)から最大速度を計算
L = 2VT
(13)
vx (t ) = ∑ f xi
(18)
i =1
ただし,クレーンが減速区間に入る前に次の指示点をクリッ
クした場合は,入力の重ね合わせは減速区間に入るまで行わ
ないものとする.
Σf
P3
P2
2) もし,最大速度 V がアクチュエータの限界速度 Vmax
ΣC 3
= Vmax とし t t を式(14)より求める.
V ≤ Vmax の場合は t t = 0 とする.
t t = 2T + L V2
(14)
を超えた場合,V
ΣC 2
Σ C1
3) 求めた t t を用い て各移動テーブルの最大速度を式
(15)より計算する.
Ly
Lx
Vx =
, Vy =
2T + t t
2T + t t
(15)
P1
Fig.7 schematic for conversion of standard coordinates
V [m / s ]
f x1 (t )
f x 2 (t )
v x (t )
Projected image
Click
L
Yw
t[s ]
Lx
Fig.8 Superimposed speed input of suspended object
a
Suspended object
Ly
5.実験
Xw
5.1 実験のシステム構成
試作した実験機のシステム構成図を Fig.9 に,実験パラメー
タを Table 1 に示す.
Fig.6 schematic of graphical user interface
4.2 経由点と基準座標系
(pci)
PC 上に表示された画面をクリックすることによってクレー
DC
servomotor
ンは指示された点 P1 に向かって移動を開始する.ここで,ク
digital
camera
(from each
encoder)
レーンが指示された点に到達する以前に,次の目標位置 P2 を
指示したとする.オペレータが障害物を回避するようにクレ
FWB PCI02
(pci)
Ritech interface board
(To each DC motor)
controlled input
ーンを移動させたい場合は指示点 P1 を経由後に指示点 P2 に
encoder pulse
移動するほうが好都合である.しかしながら,オペレータに
提供する画像はクレーンに伴って移動するために,そのまま
の座標系を利用することができない.従って移動するカメラ
の座標系を基準となる座標系に変換してやる必要がある.
Fig.7 に座標変換の概念図を示す.図中の破線で示された
範囲がカメラの投影範囲であり, ∑ f
, ∑ ci がそれぞれ,基準
座標系,カメラの座標系をあらわしている.座標系表記を添
え字で表すとすると座標変換は同時変換行列を用いて,
P∑ f = H cf P∑c
(16)
となる.なお,基準座標系からの併進成分として,エンコー
ダの値をもちいている.
また,前節に示した手順によって各指示間の速度軌道が決
定される.ここで x 軸を例にとり,各指示間の速度軌道を添
え字 i を用いて
f xi = f xi (t − Tsi ,Vxi )
(17)
とする.さらに Fig.8 に示すように,速度波形は重ね合わせ
ても積分値が変わらないことから,システムに与える速度軌
Visual Information
Maxon motor driver
Fig.8 Configuration of crane control system
Table 1 Parameters of experimental system
Coarse motion table
X-axis
Y-axis
Resolution of pos. [μm]
Resolution of vel.[mm/s]
Max. vel.[m/s]
Min. wire angle [rad]
Min. mass pos.[m]
Wire length [m]
Suspended mass [kg]
Sampling time [ms]
12.5
0.416
1.66
Micromotion table
x-axis
y-axis
8.00
0.266
2.18
1.5
0.05
0.27
1.5
0.05
0.27
0.002
0.002
0.99
1.00
10
5.2 制御系検証実験
本稿で提案した二段サーボシステムの制御則の検証を行な
う.制御系の検証として,クレーンが停止している状態から
停止位置を指定し懸垂物を搬送した.ただし微動系レギュレ
ータの検証として懸垂物には初期振動を与えている.なお実
験結果として X 軸の実験データを用いている.実験結果を
Fig.10 に示す.図中赤線が目標位置入力を表し,青線が懸垂
0.6
物位置を表している.Fig.10 より,初期振動は約 3[s]で収束
X-Y軌跡
指示点
0.4
し,以降は目標軌道に追従している.また停止位置において
行き過ぎ量を発生することなく停止している.しかしながら,
Y[m]
0.2
停止位置において,約 5[mm]の定常偏差を残している.この
0
ときの振角センサの定常値は約 0.004[rad]となっており,ワ
イヤ長が約1[m]であることからこの定常偏差はほぼ振角セ
-0.2
ンサに起因する誤差であると考えられる.
-0.4
-1.4
0.6
0.5
-1
-0.8
-0.6
-0.4
-0.2
0
X[m]
Fig.12 Achieved trajectory of suspended object
0.4
6.結言
0.3
location[m]
-1.2
Xed
Xe
二段サーボ機構を有するクレーンの簡便なオペレーション
0.2
システムを開発し,制御系の検証及び,操縦実験を行った.
0.1
制御系においてはおおむね満足のいく結果が得られたものの,
0
0
2
4
振角センサに起因すると考えられる誤差が大きく,改善の余
-0.1
地があると考えられる.また,今回の操縦実験によって,障
-0.2
time[s]
害物との接触はなかったものの,本システムを用いた場合に
Fig.10 location pattern of suspended object
5.2 操縦実験
おいても多少のスキルが必要となっていることが明らかにな
った.しかしながら,本システムでは,搬送中の振子振動を
Fig.11 に,
障害物を含む搬送コースを示す.
このコースを,
懸垂物が障害物に接触しないように Start から Goal までクレ
ーンを操縦する.なお被験者として,一度も実験機を扱った
ことのない人を選び,簡単な操縦方法の説明を受けていただ
抑制し,位置決め点において行き過ぎ量を発生することなく
簡単に位置決めすることが可能である.このような点から本
システムはオペレーションシステムとして有効であると考え
られる.しかしながら,定量的に
使いやすさ
を評価する
いた後に実験した.本実験においては,懸垂物を障害物に接
指標を取り入れておらず,本システムが本当に有効であるか
触させることなく Goal まで搬送することに成功している.本
どうかは検証できていない.今後の展望としては, 使いやす
実験における被験者の指示点と懸垂物の搬送軌道(X-Y 軌道)
を Fig.12 に示す.Fig.12 では,懸垂物は指示点の近傍を通過
しながら,目標位置まで搬送されている.クレーンが停止す
る以前に,次の指示点をクリックした場合は入力の重ね合わ
さ
の評価指標を設定し,実際に有効なシステムであること
を証明していくこと等があげられる
なお,本研究の一部は,文部科学省の科学研究費補助金によ
る助成で行われた.
せが起こるために,指示点近傍を通過していることがみてと
れる.このように重ね合わせを行うことによって懸垂物が停
止することなく搬送できることから,搬送時間を短縮するこ
とは可能であるが,ショートカットによって懸垂物に接触し
てしまう可能性が出てくる.このような障害物に接触する可
能性がある場合は懸垂物の停止後に,次の指示点をクリック
する必要があり,操縦には多少のスキルが必要である.また
正確な位置決めを行うために,一度停止した後に目標位置決
め点をクリックしている.
参考文献
[1] Osumi,H.,Miura,A.,Eiraku,S., Positioning of wire suspension
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1665 – 1670,2005.
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測と懸垂 物の 振れ止め制御
ROBOMEC,1A-N-077
(2005)
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最適運 転法
,計測自 動制 御学会 論文 集 ,Vol.15,No.6,
pp125-130(1979).
obstacle
[4] 美多,金井,須藤,クレーンの最短時間制御,システム
と制御
Vol.26,No.6,pp31-34,1982
[5] 山本,本田,毛利: 走行クレーンのための安全な衝突回
obstacle
避制御 ,第9回ロボティクスシンポジア,pp64-69(2004)
[6] 武田,北森,線形多入出力最適追従系の一般設計法,計
測自動制御学会論文集,Vol.14,No.4,pp13-18,1978
start
Goal
Fig.11 Transportation area containing obstacle
Fly UP