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EUの経済統合の進展と拡大が与える日系企業へのインパクト

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EUの経済統合の進展と拡大が与える日系企業へのインパクト
「 EU の 経 済 統 合 の 進 展 と 拡 大 が 与 え る 日 系 企 業 へ の イ ン パ ク ト 」
2007 年 2 月 14 日 ジ ェ ト ロ
堀口
英男
はじめに
フラ ン ス な ど 欧 州 6 カ 国 は 、 1 95 2 年 発 効 し た 「 欧 州 石 炭 、 鉄 鋼 共 同 体 条 約 : 50 年
条 約 で、2002年 7月 失 効 」により、当 時 の戦 略 物 資 である石 炭 の共 同 管 理 と同 産
業 の発 展 を意 図 づけた。また米 国 は、この時 点 で同 共 同 体 への「オブザーバー」とし
ての地 位 を確 立 し、その後 米 国 とEUとは、1995 年 の「大 西 洋 アジェンダ」などにより
さらなる経 済 関 係 強 化 を構 築 することになる。さらにブラッセルの米 国 商 工 会 議 所 は、
米 国 企 業 の円 滑 な活 動 支 援 を目 的 に、欧 州 委 員 会 への活 発 な意 見 具 申 や政 策 へ
の反 映 を果 たしている。このように欧 州 共 同 体 にとって米 国 の存 在 は、今 後 とも時 の
政 権 の枠 組 みを超 えた特 別 な関 係 にあると見 るべきである。一 方 1957年 には、舞
台 をローマに移 し、欧 州 経 済 共 同 体 が発 足 した。ライン河 流 域 の5カ国 にイタリアを
加 えた原 加 盟 6カ国 による発 足 から約 半 世 紀 に25カ国 体 制 に拡 大 が予 定 される同
共 同 体 は、関 税 同 盟 、域 内 市 場 統 合 の深 化 と拡 大 や社 会 政 策 の調 和 に加 えて、
政 治 統 合 への第 一 歩 となる「EUの将 来 像 」に向 け検 討 が始 まった。一 方 戦 後 の欧
州 企 業 の動 向 は、共 同 体 の政 策 に大 きく依 存 しており、域 内 に活 路 を求 める企 業 に
は加 盟 国 の拡 大 市 場 を、また域 外 志 向 の企 業 には、通 商 政 策 を確 立 するなど企 業
活 動 の環 境 整 備 をその政 策 の中 核 に置 いた。またグローバル時 代 にあって巨 大 化
した等 質 な域 内 市 場 と確 保 された域 外 市 場 という選 択 肢 の設 定 は、企 業 にとって安
定 経 営 に資 すると同 時 に競 争 力 強 化 の面 からも歓 迎 すべき側 面 支 援 であることは
言 うまでもない。
1.経 済 統 合 の進 展
1) 企 業 活 動 の 円 滑 化 に 腐 心
貿 易 、産 業 面 における共 同 体 の50年 の歩 みは、当 初 6カ国 体 制 から今 後 27カ
国 体 制 へと加 盟 国 の数 の増 大 と同 様 変 貌 を遂 げてきた。貿 易 面 では共 同 体 発
足 当 初 に比 べ、主 要 パートナーの変 化 を特 記 することができる。とりわけ欧 州 にと
ってアフリカの比 重 が減 少 し、アジアや中 東 欧 諸 国 との取 引 の拡 大 が目 立 つ。産
1
業 面 でもサービス産 業 へのシフトが促 進 し、農 業 、軽 工 業 から重 化 学 工 業 を経 て、
90年 代 の重 工 長 大 型 産 業 の再 編 に加 え、IT、バイオ、中 小 企 業 振 興 など分 野
の進 展 が図 られた。さらに社 会 政 策 、環 境 問 題 といった加 盟 国 自 身 の課 題 は、
現 在 EUの案 件 として取 り上 げられ、モノの自 由 移 動 から就 業 者 の自 由 移 動 へと、
さらに環 境 保 全 と持 続 的 成 長 というテーマの議 論 に発 展 し、企 業 を取 り巻 く環 境
も より 一 層 E U の 諸 策 と の 連 携 に 左 右 さ れ る こ と に な る 。
企 業 政 策 の観 点 では、域 内 でのグローバル化 を第 一 ステップとし、競 争 の舞 台 を
提 供 し、体 力 を蓄 えさせ、次 いで本 格 的 に国 際 的 なグローバル市 場 での競 争 関
係 に打 ち勝 つ企 業 育 成 を目 指 してきた。市 場 拡 大 は、2004年 5月 の10カ国 加
盟 が示 すとおり、企 業 にとっては、昨 日 までの外 国 市 場 が、今 日 からは国 内 並 市
場 へと企 業 活 動 がやり易 くなり、他 方 生 産 活 動 の分 業 化 においても一 層 選 択 肢
の拡 張 につながっている。一 方 ユーロの出 現 ならびに欧 州 間 での証 券 取 引 所 の
連 携 による資 金 調 達 のやり易 さも企 業 活 動 、とりわけ中 小 企 業 の活 動 には、追 い
風 となっていることは言 うまでもない。
EUは、このように欧 州 の貿 易 、産 業 の発 展 のための枠 組 み作 りが、その本 質 で
あり、当 該 の企 業 にとっては、この環 境 をいかに最 大 限 、効 率 的 に活 用 するか、
企 業 自 身 の 取 り 組 み に 関 わ っ て い る と 考 え る べき で あ ろう 。
1) 共 通 農 業 政 策 か ら ス タ ー ト
1958年 ド・ゴール仏 大 統 領 は、石 炭 、鉄 鋼 のみならず、欧 州 経 済 共 同 体 設 立
の動 きに対 しては、農 業 分 野 の共 通 政 策 の確 立 が同 国 の共 同 体 への参 加 の条
件 とし、仏 農 業 の欧 州 レベルでの発 展 を強 行 に主 張 したことは有 名 であり、当 時
農 業 分 野 をめぐる加 盟 国 間 の経 済 紛 争 は激 しく、この調 整 が欧 州 経 済 共 同 体 の
ス タ ー ト 台 にな っ た と い っ て も 過 言 で は な い 。
2) 関 税 同 盟 の 果 た す 役 割
一 方 欧 州 共 同 体 は 、 1 9 5 7 年 の ロ ー マ 条 約 か ら1 0 年 間 の 移 行 期 間 を 経 て 、 関 税
同 盟 を 19 6 8 年 に 成 立 さ せ た 。 関 税 同 盟 へ の 道 の り は 、 平 坦 で は な く 、 一 部 加 盟
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国 ( 当 時 フ ラン ス 、 イ タ リ ア 、ド イ ツ 、 ベ ネ ル ク ス 3 国 ) の 4 関 税 地 域 に お け る 加 盟 国
間 の 関 税 の 撤 廃 ( う ち イ タリ ア は 特 例 措 置 ) を 漸 次 行 い 、 他 方 上 記 6 カ 国 以 外 の
第 3 国 に対 する「共 通 関 税 の設 定 」を過 渡 期 間 内 に実 施 することが定 められた。
また関 税 同 盟 と共 に加 盟 国 間 の数 量 制 限 の撤 廃 も併 せ、実 施 に移 された。
3)競争原理を基本とする企業政策
企 業 政 策 の 基 本 は 、市 場 へ の 競 争 原 理 を 基 本 に カ ル テ ル の 禁 止 、ダ ン ピ ン
グ 行 為 の 対 応 、加 え て 国 家 補 助 金 の 禁 止 規 定 を 盛 り 込 み 、共 同 体 市 場 内 で
の 自 由 競 争 の 枠 組 み を 重 点 化 し た 。ま た 国 家 補 助 金 禁 止 規 定 に は 、経 済 発
展の異なる加盟国間での調整を行うべく各国の地域発展を欧州共同体に
委 ね た わ け だ が 、例 外 規 定 も 多 く 、当 時 東 西 分 裂 し た ド イ ツ の 復 興 問 題( 西
ド イ ツ )、急 激 な 経 済 危 機 に 見 舞 わ れ た 場 合 に 加 え 、域 内 市 場 に お い て 著
しく発展が遅れている地域への取り組みなどがそれに相当する。
4)経済格差是正を牽引する地域政策
欧 州 共 同 体 で は 、農 業 所 得 者 向 け 、失 業 率 の 高 い 地 域 、開 発 が 遅 延 し て い
る 地 域 向 け の 基 金 を 発 足 当 初 よ り 設 け 、こ れ を 構 造 基 金 、結 束 基 金 と 呼 び 、
域内加盟国間の経済格差是正に寄与してきたものとして評価されている
が 、新 た な 東 方 拡 大 に よ り 、地 域 政 策 の 財 政 的 破 綻 と 加 盟 国 間 の 衝 突 の 激
化( 構 造 基 金 受 益 国 と 新 規 加 盟 国 と の 基 金 の 配 分 問 題 )を 予 想 す る 向 き も
あ る 。し か し 、一 方 で 、同 拡 大 が 、巨 大 市 場 で の 経 済 的 効 果 へ の 期 待 と 共
に均質化した市場の形成を目指すことによって対外的な評価と同時に域
内 の 調 達 品 目“ メ ニ ュ ー ”の 広 が り な ど 競 争 力 強 化 の 点 で も 大 き な 意 味 を
持っている点も留意すべきだろう。
E U で は 、域 内 経 済 の 活 性 化 を 目 的 に 対 内 直 接 投 資 受 け 入 れ を 促 進 し て い
る が 、原 則 的 に 税 制 上 の 法 的 な 接 近 が 確 保 さ れ て い な い た め 、投 資 受 け 入
れの諸制度は、加盟国の法規に委ねられている。他方競争法の観点から、
域内の格差是正を推進するために加盟国の国家補助金による地域や企業
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へ の 援 助 は 原 則 的 に 禁 止 さ れ て い る が 、低 開 発 地 域 へ の 援 助 な ど は 例 外 と
して認められおり、地域開発に関する基準が定められている。
最 近 の 議 論 と し て は 、欧 州 共 同 体 の 直 接 の 権 益 で あ る 国 家 補 助 金 の 禁 止 規
定 の 一 部 見 直 し で あ り 、さ ら に 中 小 企 業 、職 業 訓 練 と と も に 研 究 、開 発 に
つ い て は 、例 外 の 扱 い と し て 検 討 を 加 え て い る 。1 99 7 年 チ ェ コ に お け る
研 究 、開 発 を 手 が け る 投 資 に つ い て は 、全 国 を 対 象 と し て 特 別 の イ ン セ ン
テ イ ブ が 適 用 さ れ て い る 。な お 地 域 政 策 自 身 が 、直 接 企 業 活 動 へ の イ ン パ
ク ト を 与 え る も の で は な い も の の 、最 適 地 生 産 、生 産 コ ス ト の 効 率 化 の 観
点 か ら 、イ ン フ ラ 整 備 は 物 流 面 で 大 き な 意 味 を 持 ち 、他 方 工 業 団 地 、周 辺
産 業 の 活 性 化 な ど 投 資 環 境 整 備 は 、間 接 的 な 企 業 へ の イ ン セ ン テ イ ブ と し
て、地域振興の観点とは別に産業振興にも大きな意味を持っている。
2.経済通貨同盟、対外通商政策の進展と新たなる課題
1)経済収斂の意義
ド ロ ー ル 元 欧 州 委 員 会 委 員 長 は 、1 9 8 8 年 に 共 通 市 場 に か わ る 単 一 市 場
の 構 築 を 掲 げ 、市 場 統 合 に 加 え 、経 済 ・ 通 貨 統 合 を 再 提 案 し た 。同 元 委 員
長 は 、E U を 取 り 巻 く 環 境 の 変 化 を 見 据 え 、① 単 一 市 場 の 導 入 で 、貿 易 の
域 内 依 存 度 の 高 ま り や 資 本 取 引 の 自 由 化 が 推 進 さ れ 、為 替 リ ス ク の 撤 廃 が
必 要 と な る こ と 、② ド ル に 対 抗 す る 国 際 通 貨 の 出 現 を 希 求 す る 動 き 、③ 財
政 主 権 へ の 固 執 よ り 、経 済 パ フ ォ ー マ ン ス の 健 全 化 の 重 要 性 に 単 一 通 貨 導
入の必要性を説いた。事実通貨統合における単一通貨導入への参加基準
( 経 済 収 斂 )は 、マ ル ク 経 済 圏 の 効 力 を 如 何 な く 発 揮 し 、ド イ ツ 型 経 済 運
営 を そ の 他 の 加 盟 国 に 促 し 、財 政 赤 字 、高 金 利 の 是 正 、イ ン フ レ の 抑 制 な
ど 効 果 を 上 げ た 。“ 脅 し ”と も 取 れ る 参 加 基 準 は 、バ ラ バ ラ な 経 済 運 営 の
収 斂 を 果 た し 、経 済 運 営 の ハ ー モ ナ イ ゼ イ シ ョ ン を 確 立 し た 。ま た ユ ー ロ
導 入 以 後 も 各 国 の 財 政 の 安 定 を 監 視 す る た め の「 安 定 と 成 長 の 協 定 」を 課
し 、引 き 続 き 財 政 規 律 の 安 定 化 に 努 め て い る 。価 格 の 安 定 に 一 層 の プ ラ イ
オ リ テ イ ー を お く E C B( 欧 州 中 央 銀 行 )の 姿 勢 と 財 政 政 策 か ら は 、景 気
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の 循 環 調 整 に 組 み せ ず 、E U 各 国 の 財 政 状 況 の 安 定 化 、公 的 債 務 残 高 の 縮
減 に 邁 進 す る こ と 、高 齢 化 対 策 予 算 の 計 上( 年 金 問 題 等 へ の 対 応 )な ど を
基 軸 に お き 、優 先 課 題 分 野 に 絞 っ た 公 共 投 資 政 策 を 実 行 に 移 す な ど 共 通 化
が 徐 々 に 図 ら れ て い る 。し か し 、世 界 的 な 不 況 や デ フ レ 懸 念 を 前 に E U 全
体 の 経 済 も 下 降 線 を た ど り 、主 要 国 単 年 度 の 財 政 赤 字 の 増 大 に よ り 同 安 定
協 定 へ の 遵 守 の 姿 勢 に 各 国 と も 温 度 差 が あ り 、経 済 政 策 の 調 和 の 難 し さ を
物語るものとして、今後動向が注目されている。
2)モノ、人、資本、サービスの域内自由移動
加 盟 国 企 業 に と っ て は 、新 た な 市 場 獲 得 の 観 点 か ら 、関 税 同 盟 を 歓 迎 し た
も の の 、 国 境 の 存 在 は 、 手 続 き 面 で も 大 き な 障 害 と な っ て お り 、 1992 年
12 月 3 1 日 の 市 場 統 合 に よ る 「 モ ノ 、 人 、 資 本 、 サ ー ビ ス 」 の 自 由 移 動 を
経 て 、撤 廃 さ れ た 。一 方 製 品 の 安 全 性 、食 品 の 安 全 性 な ど に つ い て も 共 通
の ガ イ ド ラ イ ン が 設 定 さ れ 、問 題 が 発 生 し た 場 合 の 緊 急 輸 入 禁 止 措 置( ベ
ル ギ ー の ダ イ オ キ シ ン 問 題 な ど )が と ら れ る な ど 域 内 流 通 の 障 壁 の 除 去 と
同 時 に 公 衆 衛 生 、安 全 へ の 対 応 も 強 化 さ れ て い る 。さ ら に 企 業 の 生 産 性 の
効 率 化 な ど を 目 的 に 基 準 認 証 、標 準 化 の 統 一 性 が 図 ら れ 、同 時 に 安 全 基 準
の「 C E マ ー ク 」に お よ り 市 場 流 通 の 製 品 基 準 の ガ イ ド ラ イ ン を 確 立 し た 。
一 方 製 品 の 安 全 性 に つ い て は 、モ ノ か ら サ ー ビ ス へ と そ の 範 囲 を 拡 大 し て
い る が 、加 盟 国 の 中 に は 、自 国 の 消 費 者 保 護 法 と E U の 法 的 な 枠 組 み の 違
い か ら 、E U の 製 品 の 安 全 に 関 す る 指 令 そ の も の を 受 け 入 れ な い 国 も あ る 。
3)ユーロという統一通貨の流通
E U で は 、 1999 年 に は 、 統 一 通 貨 の 「 ユ ー ロ 」 を 立 ち 上 げ 、 2002 年 1 月
の紙幣、硬貨流通を開始したことは記憶に新しい。
導 入 直 前「 ユ ー ロ 」は 、英 国 の 参 加 問 題 が 大 き く ク ロ ー ズ ア ッ プ さ れ 、“ ド
ル ”と 並 ぶ 基 軸 通 貨 と の 評 価 が 域 外 か ら な さ れ て い た が 、ユ ー ロ の 当 事 者
の 間 で は 、国 際 通 貨 と の 見 方 が 支 配 的 で あ っ た 。一 方 E U は 、域 内 企 業 向
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けのユーロキャンペーンとして為替変動の撤廃が企業への貿易の増大を
促 す と し て 、そ の ビ ジ ネ ス チ ャ ン ス を ア ピ ー ル し 、と り わ け が 海 外 へ の ネ
ッ ト ワ ー ク を も た な い 中 小 企 業 へ の 利 益 を 強 調 し た 。し か し 、貿 易 関 係 者
の 間 で は 、E U 加 盟 国 の 市 場 開 拓 に は 、為 替 変 動 の 撤 廃 の み に て 成 就 さ れ
る も の で は な く 、蓄 積 さ れ た 市 場 マ ー ケ テ イ ン グ の ノ ウ ハ ウ な ど 取 引 慣 行
の厚さなど総合的な市場戦略の構築がやはり必要と見ている。
4)対外通商外交の促進
企業活動支援の枠組み
欧 州 共 同 体 で は 、関 税 同 盟 、域 内 市 場 統 合 、統 一 通 貨 の 設 定 に よ り 、域 内
の 企 業 経 営 の 円 滑 化 を 図 り 、市 場 獲 得 競 争 の た め の 下 地 を 築 い た 。次 い で
共 通 外 交 政 策 の う ち 、通 商 協 力 協 定 、包 括 的 パ ー ト ナ ー シ ッ プ 協 定 、連 合
協 定 な ど の フ レ ー ム ワ ー ク を 着 々 と 締 結 し 、欧 州 企 業 に よ る 国 際 戦 略 を 支
援 し て い る 。と り わ け 、E U 産 業 の 競 争 力 強 化( 通 信 な ら び に 電 力 市 場 の
自 由 化 な ど )の 観 点 か ら 、勢 い 国 力 の 大 き い 国 の 企 業 が 域 内 市 場 で の 生 き
残 る 宿 命 に あ る 。問 題 は 、小 国 の 関 連 企 業 の 動 き で あ る が 、域 内 で は な く 、
域 外 で の 活 路 を 見 出 す と い う 選 択 が 残 さ れ て お り 、歴 史 的 に 関 係 の 深 い 地
域や新規市場における取り組みなどさまざまな対応がなされている。
3.21世 紀 の産 業 政 策
1)米国と格差を意識―E-EUROPE構想
2 000 年 リ ス ボ ン で の E U 特 別 首 脳 会 議 は 、今 後 の 1 0 年 間 に 情 報 社 会 形 成
に 必 要 な 政 策( 人 材 育 成 、中 小 企 業 、地 域 対 策 な ど )の 推 進 へ の 議 論 が な
さ れ 、「 e ― E U R O P E 」 の 取 り 組 み が 始 動 し た 。 し か し 、 こ の 取 り 組
み の 根 底 に は 米 国 と の 格 差 の 是 正 が あ り 、 事 実 1999 年 時 点 の 調 査 で は 、
欧 州 市 場 の 上 位 1 0 0 社 に 占 め る 情 報 、通 信 企 業 の 資 本 割 合 は 3 5 % と な
っ て い る も の の 、米 国 市 場 で は 米 企 業 1 0 0 社 の 場 合 5 0 % を 占 め る 。さ
ら に 欧 州 で は 3 5 % の う ち 大 半 が 通 信 関 係 企 業 で 、情 報 技 術 、イ ン タ ー ネ
6
ッ ト 企 業 の 役 割 は 、総 じ て 低 い と 報 告 さ れ て い る 。ま た E U 1 5 カ 国 の 家
庭 の イ ン タ ー ネ ッ ト 普 及 率( 2 0 0 2 年 調 べ )は 、E U 平 均 で よ う や く 4
0 % に 達 す る ま で と な っ た 。地 域 別 で み る と 北 欧 が 総 じ て 高 い 普 及 率( ス
ウ エ ー デ ン 、デ ン マ ー ク で 6 0 % 強 )を 示 し 、フ ラ ン ス を は じ め 、イ タ リ
ア 、ス ペ イ ン 、ポ ル ト ガ ル は 、平 均 を 大 き く 下 回 る 。と り わ け フ ラ ン ス で
は 、8 0 年 代 に ビ デ オ テ ッ ク ス が 爆 発 的 に 普 及 し た た め か イ ン タ ー ネ ッ ト
の 普 及 率 が 低 い と い わ れ て い る 。ベ ン チ ャ ー・キ ャ ピ タ ル に お い て も 米 国
が 既 に 1 95 0 年 代 に 始 動 し た の に 比 べ 、 E U で は 、 9 0 年 代 に よ う や く 定 着
す る な ど そ の 脆 弱 性 を 指 摘 し て い る 。今 後 イ ン タ ー ネ ッ ト な ど 情 報 機 器 の
地 域 間 格 差 の 縮 小 に 加 え 、人 材 育 成 、中 小 企 業 の 情 報 化 振 興 や 電 子 政 府 の
徹 底 な ど が E U の 知 識 蓄 積 型 経 済 へ の 移 行 の カ ギ と な り そ う で あ る 。な お
E-EUROPAの一環としてインターネットを通じた企業コンサルの
強 化 が 2000 年 4 月 か ら 本 格 始 動 し て お り 、 域 内 レ ベ ル で の 市 場 統 合 情 報
(例政府調達など)の共有化が進展している(http://europa.
eu.int/business)
2)社会政策と環境政策重視の方向
社会政策の調和への第一歩―雇用政策の重要性
E U の 産 業 政 策 は 、北 欧 諸 国 の 加 盟 に 加 え 、9 0 年 代 の 後 半 の 社 会 政 策 や
環 境 問 題 へ の 関 心 が 高 ま り 、E U の 企 業 を 取 り 巻 く 環 境 は 、新 た な 段 階 を
迎えている。
ま ず 雇 用 関 係 で は 、 欧 州 委 員 会 は 、 2001 年 7 月 末 雇 用 市 場 政 策 の 分 析 、
研 究 、フ ォ ロ ー ア ッ プ に 関 す る 加 盟 国 間 協 力 の 資 金 調 達 に 道 を 開 く 提 案 を
行 い 、今 後 の E U の 雇 用 政 策 の“ カ ギ ”を 握 る と い わ れ る「 ニ ュ ー ・ エ コ
ノ ミ ー 」 や 「 技 術 革 新 」 、「 情 報 」 の 分 野 推 進 を 加 盟 国 間 で 協 力 体 制 を 構
築 す る こ と に 焦 点 を あ て た 。元 来「 雇 用 政 策 」は 、E U に と っ て“ 国 内 問
題 ”と し て 捉 え て い た が 、9 7 年 の ル ク セ ン ブ ル ク 雇 用 サ ミ ッ ト を 契 機 に
同 機 運 が 進 展 し 、以 後「 ル ク セ ン ブ ル ク ・ プ ロ セ ス 」と し て 、毎 年 定 め ら
7
れ る ガ イ ド ラ イ ン に 従 い 、加 盟 国 は 雇 用 政 策 や マ ク ロ 経 済 政 策 を 連 携 す る
ことが定められている。
ま た 19 8 0 年 代 後 半 の 社 会 政 策 の 調 和 を 目 指 し た 「 社 会 憲 章 」 に よ り 、 最
低 賃 金 、労 働 時 間 の 短 縮 、有 期 雇 用 の 促 進 な ど 、E U 労 働 環 境 の 一 定 の 方
向 性 が 定 め ら れ つ つ あ る が 、基 本 的 に 労 働 慣 行 は 、各 国 と も 格 差 が 存 在 し
る こ と は 否 め な い 。ま た 各 国 の 賃 金 水 準 に も 大 き な 開 き が あ る こ と も 事 実
で 、 さ ら に 拡 大 に よ り 既 存 15 カ 国 と 新 規 加 盟 国 と の 賃 金 格 差 は 一 層 の 開
きを見せている。
なお人の自由移動の阻害要因といわれているEUの年金制度をめぐる議
論 も 活 発 と な っ て お り 、企 業 の 域 内 グ ロ ー バ ル 化 を 背 景 に 新 た な 共 通 の 枠
組 み の 必 要 性 に 迫 ら れ て い る 。年 金 制 度 の 根 拠 法 と し て は 、理 事 会 規 則「 就
業 者 及 び 同 家 族 の 域 内 移 動 に 伴 う 社 会 保 障 制 度 適 用 に つ い て 」N O 1 4 0
8 / 7 1 及 び 理 事 会 指 令「 従 業 員 及 び 自 営 業 の 域 内 移 動 に 伴 い 追 加 年 金 に
関 す る 保 護 規 定 」9 8 / 4 9 が あ る 。し か し 問 題 は 、域 内 で の 労 働 者 の 自
由 移 動 に 関 し 、年 金 の 継 続 適 用 が 保 証 さ れ な い 点 で 、出 身 国 の 制 度 の 継 続
適 用 も し く は 、域 内 全 体 の 調 和 が カ ギ と い わ れ て い る 。他 方 税 制 上 の 控 除
策 の 不 統 一 も 大 き な 原 因 で 、企 業 の グ ロ ー バ ル 化 に 伴 い 、域 内 異 動 が 頻 繁
になり規程を超える 2 年以上滞在者への取り組みが直近の課題となって
お り 、現 在 よ う や く こ の 問 題 へ の 検 討( 任 意 年 金 に つ き 欧 州 域 内 を カ バ ー
する保険会社の扱いなど)が加えられようとしている。
3)環境政策を重視
E U で は 、 環 境 政 策 が 、 2 0 0 1 年 6 月 15, 16 日 の ヨ テ ボ リ E U サ ミ ッ
トに象徴されるように重点課題に取り上げられている。企業にとっては、
対 策 費 へ の 負 担 問 題 か ら 、積 極 的 な 対 策 導 入 へ の 転 換( 企 業 イ メ ー ジ や 効
率 的 な 経 営 な ど )へ シ フ ト し て い る 。業 界 団 体 で は 、欧 州 委 員 会 へ の 業 界
利 益 の た め の ロ ビ ー 活 動 に 加 え 、環 境 関 連 政 党 の 台 頭 が 著 し い 欧 州 議 会 議
員 へ の 対 応 な ど 広 範 囲 で の ロ ビ ー 活 動 も 活 発 化 し て い る 。他 方 第 6 次 環 境
8
行 動 計 画( 2 0 1 0 年 ま で )を 策 定 し 、気 候 温 暖 化 対 策 、運 輸 政 策( 排 ガ
ス 規 制 、複 合 運 輸 体 系: 鉄 道 、運 河 の 見 直 し )、健 康 に 与 え る 影 響( 有 害
物 質 の 人 体 へ の 影 響 )及 び 自 然 並 び に 資 源 の 保 全( エ ネ ル ギ ー 資 源 の 効 率
的 利 用 、公 害 な ど へ の 予 防 的 措 置 )の 推 進 を 優 先 課 題 に 掲 げ て い る 。廃 棄
物 処 理 については、予 防 ,管 理 そしてリサイクルの順 番 にそのプライオリテイーを
置 いている。
さ ら に E U で は 、新 規 加 盟 予 定 国 も 加 盟 ま で に E U 環 境 法 規 の 国 内 法 導 入
が 前 提 で あ る が 、現 実 は か な り の 新 規 加 盟 国 な ど で 長 期 間 に お よ ぶ 移 行 期
間 の 設 定 を 要 請 し て お り 、環 境 保 全 意 識 が 強 い 欧 州 議 会 な ど か ら の 対 策 強
化 の 加 速 化 が 指 摘 さ れ て い る 。ま た 国 際 協 力 部 門 で は 、地 中 海 諸 国 、ロ シ
アや中央アジア諸国などを中心に環境対策の支援を強化する方向を打ち
出している。
4.拡大による経済的影響
1)欧州の安全保障に不可欠な拡大の意味
バ ル カ ン な ど 欧 州 の 地 域 紛 争 を 教 訓 と す る 安 全 保 障 の 重 要 性 に 鑑 み 、E U
域 内 に 当 事 国 を 取 り 込 む 必 要 が あ り 、産 業 振 興 の 観 点 か ら は 、欧 州 の 産 業
競 争 力 を 維 持 す る 上 で 、生 産 コ ス ト の 大 幅 見 直 し 、生 産 の 分 業 体 制 の 構 築
を 可 能 と す る 体 制 が 必 要 と な っ て い る 。1 5 の 加 盟 国 体 制 か ら 経 済 格 差 の
現 存 す る 2 7 ヶ 国 体 制 は 、企 業 活 動 の 選 択 肢 に 一 層 の 幅 を も た せ る こ と に
な る 。但 し 石 油 、天 然 ガ ス に つ い て は 、北 海 油 田 の 埋 蔵 量 の 制 約 な ど 、今
後 新 た な 供 給 元 の 多 様 性 が 急 務 で 、E U 側 で は 、同 資 源 確 保 の た め 、ロ シ
アではEUが重要な経済のパートナーであるとの認識から双方ニーズが
合致する形で急速な接近が図られている。
2)拡大のインパクト
一 般 的 な 拡 大 を 取 り 巻 く 考 え 方 と し て は 、国 境 を 接 し て い る と の 観 点 か ら
ド イ ツ 、オ ー ス ト リ ア 企 業 に と っ て 利 益 増 大 が な さ れ る も の の 移 民 流 入 の
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懸 念 が 存 在 す る 。他 方 構 造 基 金 の 受 益 関 係 の 変 化 に よ る イ ン パ ク ト を 受 け
る ポ ル ト ガ ル 、ス ペ イ ン 、ギ リ シ ャ に と っ て は 、構 造 基 金 の 受 益 額 の 減 少
に加え、域内企業の生産再編の動きにつながるなど影響は大きい。
在 欧 州 日 系 企 業 に と っ て は 、大 方 の 企 業 が 生 産 拡 大 、調 達 先 、販 売 先 と も
進 出 国 及 び 中 東 欧 諸 国 を 重 視 の 傾 向 を も っ て お り 、さ ら に 将 来 的 に は 、よ
り 一 層 東 方 の ウ ク ラ イ ナ 、ロ シ ア 、南 東 の ル ー マ ニ ア 、ブ ル ガ リ ア な ど よ
りコストの低減な地域への取り組みを検討する動きも顕在化している。
ま た 8 0 年 代 の 南 方 拡 大 と 今 回 の 東 方 拡 大 の 相 違 点 は 、南 欧 諸 国 の 経 済 が
す で に 市 場 経 済 だ っ た の に 対 し 、中 東 欧 諸 国 の 市 場 経 済 へ の 移 行 は 1 9 9
0年代初頭に始まったばかりであることやEC9ケ国と南欧諸国の所得
格 差 に 比 べ 、E U 1 5 ケ 国 と 中 東 欧 諸 国 と の 所 得 格 差 の 方 が 大 き い こ と な
ど が 挙 げ ら れ る 。加 盟 候 補 国 の 賃 金 上 昇 に つ い て は 、専 門 家 の 間 で は 、既
に 外 資 系 企 業 で 優 秀 な 人 材 確 保( 会 計 担 当 、語 学 の 堪 能 な 人 材 な ど )に 余
念がなく、ある程度の賃金上昇が起こっているとしている。
今 後 新 規 加 盟 国 で最 も改 善 が急 がれるものに、市 場 メカニズムの確 立 、金 融 制
度 、資 本 市 場 、競 争 法 などを取 り上 げているが、とりわけ企 業 統 治 (財 務 、会 計 な
ど制 度 の透 明 性 )についての行 政 側 の取 り組 みを含 めた対 応 が急 務 といわれて
いる。また競 争 法 では、反 トラスト法 の導 入 成 果 はあるものの国 家 補 助 金 規 制 に
関 する行 政 制 度 の欠 如 が課 題 である。一 方 でEU加 盟 国 との貿 易 が急 激 に増 加
していることや、EU加 盟 国 からの直 接 投 資 が増 えていることなどが中 東 欧 諸 国 の
経 済 改 革 に 大 き く 寄 与 し て い る 点 も 留 意 す べき で あろ う 。
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既 存 15 カ 国 及 び 新 規 加 盟 国 G D P 比 較
人 口 (人 )
G D P :億 ユ ー ロ
(per capita ユ ー ロ )
新 規 加 盟 予 定 国 10 カ 国
7,420 万
4,376(7,360)
ブルガリア
780 万
ルーマニア
2,190 万
484(2200)
トルコ
6,482 万
2,174
既 存 15 カ 国
3 億 7,720 万
91,670(26,920)
25 カ 国
4 億 5140 万
96,046(19,096)
新 規 加 盟 予 定 10/ 既 存 15
166(210)
4.8%
出 所 : 欧 州 委 員 会 資 料 2003 年 統 計
3)新欧州産業地図に向けて
中 東 欧 諸 国 は 、当 面 既 存 E U 1 5 カ 国 企 業 等 の 生 産 基 地 と し て 考 え 方 が 主 流
で あ る が 、既 に ハ ン ガ リ ー 、チ ェ コ へ 進 出 し た 企 業 で は 、賃 金 格 差 は 、中 東
欧 で は な く 、既 存 加 盟 国 と の 比 較 を 求 め る 動 き が あ り 、コ ス ト 全 体 も 上 昇 傾
向 に あ る 。但 し 、中 東 欧 諸 国 全 体 の 動 き と し て は 、E U 、米 国 、日 本 か ら の
外 国 企 業 の 直 接 投 資 を 推 進 し て い る が 、自 動 車 産 業 、同 部 品 、エ レ ク ト ロ ニ
ク ス と い っ た 業 種 に 特 化 し た 動 き が 顕 著 で あ る 。し か し 、投 資 元 の 考 え 方 と
し て は 、投 資 先 の 人 材 、周 辺 産 業 の 有 無 、原 材 料 の 確 保 、投 資 イ ン セ ン テ イ
ブ の 状 況 な ど が 、そ の 基 準 と な っ て お り 、す べ て の 新 規 加 盟 1 0 ヶ 国 が そ の
条 件 を 満 た し 得 る と は 言 い 難 い 。し た が っ て 投 資 元 の 効 率 的 な 経 営 資 源 の 投
下 先 を 定 め る 際 に 、各 国 と も 産 業 構 造 に そ の 特 徴 が あ り 、旧 ソ 連 時 代 の 供 給
力 の 棲 み 分 け な ど 、現 在 ま で の 当 該 国 の 産 業 史 を 概 観 す る 必 要 が あ る と と も
に 、今 後 の E U の 構 造 基 金 に よ る 支 援 や 当 該 国 の 人 材 、周 辺 産 業 の 賦 存 状 況
など産業政策の方向性を十分吟味する必要があろう。
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