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2.甲10777 佐藤 秀吉 主論文の要旨

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2.甲10777 佐藤 秀吉 主論文の要旨
主論文の要旨
Skin-Derived Precursor Cells Promote Wound
Healing in Diabetic Mice
皮膚由来前駆細胞は糖尿病マウスの創傷治癒を促進させる
名古屋大学大学院医学系研究科
運動・形態外科学講座
機能構築医学専攻
形成外科学分野
(指導:亀井 讓
佐藤 秀吉
教授)
【緒言】
糖尿病合併症の1つである糖尿病性足潰瘍は、わが国では 7 万人超の患者がいると
されている。その治療には難渋することが多く、医療経済的にも大きな負担となって
いる。
創傷治癒遅延の原因は、血流不全、神経障害、免疫不全など多岐にわたるが、そこ
には組織増殖因子やサイトカインの活性低下の関連性が指摘されてきた。それら創傷
治癒に関するカスケードを正常化させる目的で、近年、様々な体性由来幹細胞を用い
た細胞治療が報告されている。
糖尿病性足潰瘍の発症には、神経障害が強く関与していると考えられていることか
ら、われわれは、多分化能を有し、特に神経系への優れた分化傾向を示す皮膚由来前
駆細胞(Skin-derived precursor cells: SKPs)を細胞源として着目した。SKPs を用い
た糖尿病の創傷治癒に関する報告はこれまでになく、新たな治療法の開発につながる
可能性がある。今回われわれは、糖尿病マウスの創傷治癒モデルを用いて、SKPs の創
傷治癒に与える影響を検討した。
【方法】
過去の報告に従い、糖尿病マウス(C57BLKS/J Iar- + Lepr db/ + Lepr db )皮膚より SKPs
を単離・培養した。
糖尿病マウス背部に皮膚全層欠損を 2 ヵ所作成し、ドーナツ型のシリコンシートを
縫着し、皮膚潰瘍モデルとした(Fig.1)。皮膚欠損創を無作為に2群に分け、実験群で
は SKPs 懸濁液を、対照群では生理食塩水をそれぞれ局所投与した(Fig.2)。
局注後、0,3,5,7,10,14,18,21,28 日での創の写真を一定条件下で撮影し、創面積の
経時的変化および創閉鎖までの日数について比較した。
また、局所投与後 10 日および 28 日に創部組織切片を作成し、一次抗体として抗
Neurofilament-H 抗体、抗 CD31 抗体、抗 alpha-SMA 抗体を用いて免疫染色を行った。
単位面積(mm 2 )あたりの神経線維数、血管数を算定し、神経密度(Nerve Density)、
血管密度(Capillary Score)として評価した(Fig.3)。
【結果】
創治癒までに要した日数は、実験群で 18.6±0.7 日(mean±SEM)、対照群で 21.7±
0.7 日であり、SKPs 投与により創治癒が優意に促進された。
局注後 7、10、14、18、21 日目における創閉鎖面積は、細胞投与群で、40.81±4.12%、
69.93±4.83%、90.69±3.28%、97.56±1.12%、99.82±0.83%、対照群では、29.06±2.98%、
48.44±5.14%、73.20±5.50%、86.27±2.02%、96.54±2.53%であった。7、10、14、18
日 目 に お い て 、 細 胞 投 与 群 で 有 意 に 創 閉 鎖 面 積 の 増 大 が 認 め ら れ た ( p < 0.01 )
(Fig.4,5)。
神経密度については、10 日目に、細胞投与群で 6.8±0.5/mm 2 、対照群で 5.0±1.2/mm 2
であり、両群間に有意差を認めなかった( p =0.291)。28 日目には、細胞投与群で 19.16
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±1.96/mm 2 、対照群で 9.04±0.73/mm 2 であり、細胞投与群で神経密度が優位に増加し
ていた( p <0.01)(Fig.6)。さらに、移植した SKPs が神経へ分化している事が確認さ
れた(Fig.7)。
血管密度については、10 日目に、細胞投与群で 17.4±2.2 /mm 2 、対照群で 9.5±0.64
/mm 2 であり、SKPs 投与が血管密度を優位に増加させていた( p <0.01)。28 日目には、
細胞投与群で 24.19±6.80/mm 2 、対照群で 17.70±4.83/mm 2 であり、両群間に有意差は
認めなかった( p =0.385)(Fig.8)。
【考察】
本研究では、SKPs の局所投与が糖尿病マウスの創傷治癒を促進することを確認した。
マウスの創傷治癒モデルを用いた細胞治療の研究は、間葉系幹細胞(Mesenchymal
Stem Cells: MSCs)、血管内皮前駆細胞(Endothelial Progenitor Cells: EPCs)、脂
肪由来幹細胞(Adipose-Derived Stromal Cells: ADSCs)などを細胞源としたものが、
これまでに報告されている。そうした報告における創閉鎖までの日数は、およそ 14-28
日であった。われわれの実験においては 18 日であり、比較的良好な結果と考えられる。
本研究においては、SKPs が神経再生を促進させる結果が得られた。糖尿病性足潰瘍
の発症には末梢神経障害が強く関与しているとされている。感覚神経および自律神経
を障害させた創傷モデルにおいて、創傷治癒遅延がおこることが過去に報告されてお
り、神経障害の創傷治癒における直接的な関連性が示されている。
本研究では細胞投与群で 28 日目に有意な神経密度の増加を認めているが、10 日目
と早期には有意差を認めていない。創傷治癒は細胞投与後 10 日目にはすでに促進され
ていることから、神経再生と創傷治癒の関連性は、今回の結果からは明らかでない。
しかし、神経密度の有意な増加は末梢感覚の改善をもたらすとの報告もあり、臨床的
には慢性潰瘍である糖尿病性足潰瘍の治療および再発の予防に寄与しうると、われわ
れは推測する。
免疫染色においては、SKPs が神経細胞に直接分化したと考えられる結果が確認され
た。SKPs は神経に直接分化すると過去に報告されているが、本研究の結果からもそう
した傾向を持つことが示唆された。
また、一般的に創傷治癒の促進のためには血流の良好な創床形成が肝要とされる。
本研究では、10 日目における血管密度の有意な増加が細胞投与群で確認された。28
日目においては有意差を認めず、このことは SKPs が、比較的早い段階で、血管新生を
通じて創傷治癒を促進させていることが示唆される。
SKPs は血管平滑筋細胞に直接分化することが過去に報告されているが、本研究にお
いては、直接分化を示唆する結果は得られなかった。われわれは、SKPs 局所投与が何
らかの傍分泌作用をもたらし、血管密度の増加が得られたのではないかと考えている
が、その詳細なメカニズムについては今後明らかにしていく必要がある。
SKPs が糖尿病性足潰瘍治療に有用であることを示すためには、慢性潰瘍の創傷モデ
ルを用いるなど、さらに臨床に近づけた病態での実験を行うことが今後の課題である。
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【結論】
本研究では、糖尿病マウス皮膚潰瘍モデルにおいて、SKPs は局所血管密度を介して
創治癒を促進させる事が示され、SKPs の局所投与が糖尿病性足潰瘍治療に有効である
事が示唆された。また、移植された SKPs が局所で神経に分化しており、この点からも
SKPs が糖尿病性足潰瘍の創傷治癒に影響を与える可能性があると考えた。
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