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Lilly Diabetes

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Lilly Diabetes
特集
糖尿病と運動療法
くするためには、ウォーキングのような有酸素運動が
運動する楽しさを
実感して
もらえる指導を
良いでしょう。しかし、必ずしも有酸素運動にこだわ
財団法人 太田綜合病院附属
太田西ノ内病院
運動指導室長
安全で効果的に運動をしていただくために、患者さん
らなくてもいいと思います。レジスタンス運動(筋ト
レ)でも、4 種類の運動を軽い負荷で 12 回、3セッ
ト続けて行ったところ、心拍数は有酸素運動と同じよ
うな変化を示し、運動後には血糖値もきちんと下がっ
ていました。
ただ、糖尿病の患者さんが運動するときには、健康
な人よりも安全性を慎重に考えなければなりません。
の血糖コントロールや合併症の状態をチェックしてお
くことが重要です。また、糖尿病は冠動脈疾患の大き
藤 沼 宏 彰 先生
な危険因子であり、たとえ未発症でも潜在的な危険性
を持っていると考えられます。運動負荷試験ができる
施設は限られているかもしれませんが、運動した時の
心機能を評価しておくことも必要です。さらに、肥満
の患者さんの場合は膝関節など整形外科的なチェック
も必要になるでしょう。運動することが患者さんにと
ってマイナスにならないよう、主治医にメディカルチ
ェックを行っていただいた上で運動することが基本と
なります。
当院では、主治医のメディカルチェックにより運動
の可否が判定され、運動指導室で体型や体力を評価し
て、患者さん個々に応じた運動の仕方を決めています。
糖尿病患者さんにとって、運動療法は食事療法と
その人に合った運動の強度の
見分け方は?
同じように重要ですが、専門の指導者がいる施設
は少なく、療養指導のスタッフも「どう指導すれ
運動強度の指標としてよく使われるのが心拍数です
ばいいのかわからない」
、
「継続してもらう方法が
が、運動している最中に測定するのは難しいうえ、個
わからない」など、運動療法の指導に苦慮するこ
人差が大きいのが難点です。そこで、より簡単な方法
とが多いのが現状です。
として、
「主観的な運動強度」を目安にすることをお
そこで今回は、多くの糖尿病患者さんの運動指導
奨めします。これは、運動している人がどう感じるか
にあたってこられた藤沼宏彰先生に、具体的な運
を運動の強さの指標としたものです。
動指導の方法と、運動嫌いの患者さんをやる気に
当院の糖尿病患者さん 252 人に、糖尿病の運動療
させるコツ、継続してもらうコツなどを教えてい
法として最適と考えられる強さ(AT *強度)で 30分
ただきました。
間運動してもらったところ、85%の方が「楽である」
(レベル 11)~「ややきつい」
(レベル 13)の範囲に
糖尿病患者さんに適した運動
を教えてください
入りました( 図 1)
。ですから、
「楽である」~「やや
きつい」と感じるレベルが、糖尿病の患者さんに適し
た運動強度だと考えられます。
「糖尿病にはこれが一番」というような糖尿病患者
「楽である」~「ややきつい」と感じる範囲内であ
さんに特化したものはありません。糖尿病の運動療法
れば、運動の種目はウォーキングでも、ジョギングで
といっても、健康増進のための運動と基本的には同じ
も、サイクリングでもよいわけです。
「主観的運動強
です。運動不足が様々な生活習慣病の基になっていま
度」は相対的なものですから、速足歩きのウォーキン
すので、まずは身体活動量を高めることが必要です。
グでも「きつい」と感じる人は、ゆっくり歩くことか
できるだけたくさんの筋肉でインスリンの働きを良
2
ら始めたほうがいいということになります。
*AT:無酸素閾値。運動の強度を上げていったとき、通常の有
酸素運動に無酸素運動が加わる境界を表す。
図1 AT・30分運動実施時の主観的運動強度
有酸素運動的に行うことができます。
当院で筋トレの指導をするときに
かなりきつい 17
16
きつい 15
14
ややきつい 13
12
楽である 11
10
かなり楽である 9
8
非常に楽である 7
は、①脚筋、②腹筋、③背筋・大臀筋、
20 例(7.9%)
④大胸筋・上腕筋の 4 種目を中心に、
3 段階のレベルを設定しています。軽
214 例
(85.0%)
いレベルから始めて、楽に 15 回繰り
返せるようであれば上のレベルに進み
18 例(7.1%)
0
20
40
60
ます(図 2)。その人に合ったレベル
80
100
を見つけて、10 ~ 12 回くらい繰り
120
(例)
返していただくと効果的です。
しかし、家の中で行う運動はあまり
面白いものではないので、それだけで運動療法を続け
運動がストレスにならないよう、
まずは運動強度を設定する
るのは難しいと思います。あくまで天気が悪い日や、
寒くて外に出られない時期のつなぎに行うものと考え
たほうがいいでしょう。
運動の効果は運動の量に依存します。1 回の運動で
家の中での運動にはトレーニング用のDVDや家庭用
80 ~ 100kcal くらい消費すれば、筋肉のなかにブ
ゲーム機の Wii Fit TMなどを活用するのも一案だと思い
ドウ糖を取り込む仕組みが十分に働くので、それを繰
ます。
り返せば運動の効果が出てきます。
「運動量=運動強度×時間」ですから、最初に運動
●短時間で手軽にできる運動
強度を設定し、次に100kcal を消費するには何分間
短時間でできる運動としては、ストレッチ(背伸び
続ける必要があるかを考えます。100kcal の運動量
など)
、筋トレ(椅子からの立ち上がりなど)
、階段昇
とは、ウォーキングなら 30 分程度、ジョギングなら
降などが考えられます。
10分程度に相当します。ですから、体力がある人は
「日常生活の中で、できるだけこまめに動き回る時
ジョギングを 10 分やればいいですし、それがきつい
間を増やし、座っている時間を短くすればエネルギー
と感じる人はウォーキングを 30分やればいいのです。
消費量が 300kcal 以上多くなる」という研究結果も
運動強度が高いといろいろな弊害が起こってきます。強
報告されています。短時間の身体活動も積み重なると
すぎる運動はストレスとなり、アドレナリンなどのイ
大きな効果を生みます。
ンスリン拮抗ホルモンを分泌させます。これらのスト
レスホルモンは血圧を上昇させるため心臓に大きな負
●ひざや腰が痛くてもできる運動
荷をかけるとともに、血糖値も上昇させてしまう危険
腰痛やひざの痛みがある患者さんは、運動をしたほ
性を持っています。ですから運動が過度のストレスに
うがよいのか、安静が必要かを整形外科で確認しても
ならないように、まずは運動強度を設定することが大
らう必要があります。ストレッチや筋トレで腰痛が改
事です。
善することもありますが、痛みが出る運動は行わない
1 回の運動にまとまった時間がとれない人は何回か
のが基本です。
に分けて行うのが良いでしょう。その場合の運動によ
例えば、膝の痛みのある方が筋トレを行う場合はス
るエネルギー消費量は 1 日 200 ~ 300kcal が目安
クワットなどはやらず、腰痛のある方は背筋をやらず
となります。
に、ほかの部位のトレーニングを行います。あるい
は、膝が痛くても膝を伸ばしたまま行うレベル 1 の運
具体的な運動の指導方法を教
えてください
動ならできるかもしれません(図 2)。
●合併症のある患者さんの運動療法
●家の中で簡単にできる運動
家の中でできる運動としては、ストレッチ、筋トレ、
糖尿病の合併症がある場合は、運動することがかえ
って病状を悪化させてしまう危険性があるので、慎重
踏み台昇降、その場足踏み、タオルを使った体操など
に行わなければなりません。運動の可否や限度は合併
が考えられます。有酸素運動とレジスタンス運動を分
症の程度によって異なるため、主治医に判断していた
けて考えなくても、家の中で筋トレを繰り返すことで
だくことが大事です。
3
図2 具体的な運動方法の一例
ストレングス① 〜脚筋〜
レベル 1
長座の姿勢から右足を90°
くらいに
曲げ、両手を腰の後ろについてから
だを支えます。
左脚を伸ばしたままゆっくりと膝の
高さまであげ、ゆっくり下ろします。
左足の踵を床につけないよう、ゆっ
くりと10〜12回繰り返します。
反対側も行います。
レベル 2
椅子に座り両足を肩幅くらいに開きま
す。
身体を前に傾けないように注意し、両
足でゆっくりと立ち上がります。
ゆっくりと椅子に腰を下ろします。
この動作をゆっくりと10〜12回繰り
返します。
椅子が動いたり倒れたりして、座り損
ねないよう注意して行いましょう。
レベル 3
椅子に座り両足を肩幅くらいに開き、
左足は床から離します。
右足で体重を支え、ゆっくりと立ち上
がります。
右足で体重を支えたまま、ゆっくりと
椅子に腰を下ろします。
この動作をゆっくりと10〜12回繰り
返します。
反対側も行います。
椅子が動いたり倒れたりして、座り損
ねないよう注意して行いましょう。
太田綜合病院附属太田西ノ内病院 運動指導室作成
「筋力と健康づくりのために レッツ・ストレングス!」より
合併症があっても運動療法の基本は同じですが、強
決めています(表)。網膜症の場合、単純性であれば
度を落とさなければならないので、合併症の程度が重
普通の運動療法を実施できますが、前増殖性安定期は
くなるほど運動の選択肢は狭まります。合併症がある
状況を観察しながら行い、前増殖性活動期以降はスト
程度まで進行した場合、運動強度はレベル 11(楽で
レッチのみとしています。同様に、腎症、末梢神経障
ある)までにとどめます。「ややきつい」と感じたら強
害、自律神経障害も 3 段階に分けて運動の強度を設定
すぎます。
しています。
当院では、合併症の程度によって運動療法の適応を
表 合併症と運動の適応
「運動が嫌い」
という人に
やる気を起こさせる
コツは?
網膜症
単純性
前増殖性
安定期
前増殖性
活動期∼
運動が嫌いだという人は、昔やった部
腎症
第 1・2 期
第 3 期 A
第 3 期 B∼
活や体育の授業などの経験から、
「きつい、
末梢神経障害
無症候性
症候性
運動で不変
症候性
運動で増悪
苦しい」という印象があるのだと思いま
自律神経障害
(立ちくらみなど)
CV R-R≧2.0
無症候性
CV R-R<2.0
無症候性
CV R-R<2.0
症候性
はつらいのを我慢してやるものではない」
実施可
状況を観察し
ながら実施可
実施不可
ストレッチング
運動療法
4
す。そこで、最初に「糖尿病の運動療法
ということを説明することが大事です。
運動を頑張りすぎても、いいことはあ
りません。きつく感じない範囲でやれ
ば、運動嫌いの患者さんもそれほど負担には感じない
に気づいてもらうなど、方法はいろいろあります。当
はずです。
院では、筋力、敏捷性、柔軟性などさまざまな体力の
運動指導室で集団指導をしていると、医師から言わ
項目を測定して、数字でお見せしています。
「最初に
れてしぶしぶ参加した患者さんも、ほかの人たちが楽
比べて楽に歩けるようになったでしょう」
、
「階段を上
しそうに運動しているのを見て印象が変わるようで
がったときの感覚はどうでしたか」などと、体力がつ
す。また、実際にやっている患者さんから、「運動す
いたことを気づかせるような話しかけをすることも効
ると気持ちがいいよ」とか、「血糖値がすごく下がっ
果的です。何か効果があがっているところを見つけて
た」といった体験談を聞くほうが、スタッフが運動の
あげて、実感してもらうことが大事なので、いろいろ
効果を説明するよりも説得力があります。それが集団
な言葉のひきだしを持っていると役立ちます。
指導のいいところです。成果を上げた人はほかの人に
体力の伸びが頭打ちになったときも、
「年齢ととも
話したいものなので、そういう話には事欠きません。
に下がるのが当たり前なのに、維持できているのはい
逆に、体力が落ちていることを実感していただき、
いことですよ」とか、体重が減らないでがっかりして
動機づけをする方法もあります。例えば、片足で 1 分
いる人には、
「冬場なら体重が増えないことが運動の
間立っていられるか。眼を閉じたらどうか。簡単そう
効果ですよ」などと、ポジティブな捉え方ができるよ
に見えても、なかなかできないものです。1 分間立っ
うなコメントをします。
ていられないのは、バランス能力が低下していると同
時に、自分の体重を支えきれていないということです。
運動指導をする人の条件は?
また、階段一段分の高さに座り、片足を上げた状態
で立ち上がってもらうと、ほとんどの人ができません。
「こんなはずじゃなかった」、「このままでは、思うよ
運動指導の専門家がいても、患者さんに運動療法を
うに動けなくなってしまうのでは」と危機感を持つこ
継続していただくのは簡単ではありません。当院の場
とが大事なのです。
合でも半年後の継続率は 65%程度ですから、他職種
のスタッフが本業と掛け持ちで行うのであれば、なお
運動療法を継続させるための
ポイントは?
さら難しいと思います。そうしたことからも、今後は
多くの病院で運動指導の専門家が増えてくれることを
願っています。必ずしも専任でなくていいと思います
継続していただくためには、「運動は楽しくて、気
し、フィットネスクラブのトレーナーと提携して、医
持ちがいい」と感じてもらえるような指導が必要で
療スタッフと一緒に指導をするというような方法も考
す。そのためには、患者さんの病態、体力、置かれた
えられます。
環境などを考えて、その人に合った運動を見つけてあ
げる必要があります。
また、専門家でないスタッフが運動指導をする場
合、指導にあたる人は少なくとも運動が好きで、説得
また、一人ではなかなか続かないので、家族や仲間
力のある体型と体力を備えていることが求められま
の存在が重要になってきます。当院の運動指導室に
す。指導している人が運動嫌いで、10 分も歩けない
20年近く通ってきている方々がいますが、その方た
ような体力では説得力がなく、絶対にうまくいきませ
ちは運動そのものが楽しいだけでなく、仲間と会える
ん。指導する人自身が運動のよさを実感し、楽しんで
ことも楽しみなのです。
いる姿が患者さんを動かすのです。運動の指導者は、
どうしても一人で運動しなければいけない方には、
知識を口で伝えるだけではダメなのです。患者さんに
運動に付加的な楽しみを見つけてあげることが有用で
運動の楽しさを伝え、無理なく継続できるように指導
す。例えばウォーキングでも、運動のためにひたすら
していただければ
歩くのではなく、「景色を見て、季節の変化を感じな
と思います。
がら歩いてください」とか、「地図に線を引きながら、
普段歩かないいろんな道を歩いてみてください」、「歩
数を記録しながら歩いてください」などと、楽しさを
見つけるヒントを出してあげるのです。
また、運動の効果を実感していただくことも重要で
す。例えば、運動したときとしなかったときの血糖値
や HbA1c の差を見てもらうとか、体力がついたこと
5
施設訪問
お知恵を拝借
はなかったのか」と、さまざまな思いがめぐります。
同時に、栄養士として何とかしなくては、という責任
感がわいてきます。
勝山(薬剤師)
:回診を通して痛感しているのは、精
神的な面を含め、服薬に至る以前にさまざまな問題が
あり、それらを解決することが先決だということで
す。経済的事情から家族関係、薬への不安、仕事と治
No.1
療の両立まで問題は実に多岐にわたります。薬剤師と
して、処方箋を通した関係を超えて、患者さんの声に
静岡市立静岡病院
耳を傾けて心を交わすことの大切さを感じています。
病棟には、糖尿病指導に優先的に使用できる部屋が設
(静岡県静岡市)
置されており(写真 1)
、必要に応じて面談や個別指
導を行うことができます。病室では他の患者さんの目
を気にしてなかなか言い出せないことも、プライバシ
ーに配慮された個室で話を聞くことができますし、イ
ンスリン注射の手技についても一人ひとりの状況に応
じてじっくり指導できる環境が整っています。
メンバー全員の情報を集約し、 「共通の患者像」を描く
脇:チームで回診した日の午後には、メンバー全員が
内分泌・代謝内科 医師
脇 昌子 先生 薬剤師
勝山 徹 さん 集合してカンファレンスを行います。各専門の立場か
栄養士
久保田 美保子さん ら収集・評価した情報を集約することで、より正確に
患者さんの像を描くことができ、共通の認識のもと質
の高い医療の提供へとつながります。多忙な日常業務
チーム全体で回診:同じ場所・時間で
一緒に患者さんを診ることの大切さ
の中で顔を合わせて情報共有することの最大の利点
は、カルテの行間に隠れている微妙なニュアンスを感
じ取れるということです。例えば、患者さんの不安な
脇(医師):当院は総合病院であること、そして高齢
気持ち、生活上の苦悩など、医師には言い出せないこ
の患者さんが増えていることもあり、循環器疾患をは
とをコメディカルに伝えているケースも多く、これら
じめさまざまな基礎疾患を持つ糖尿病患者さんが多く
の情報から対処法のヒントが得られることもしばしば
みられます。さらに、それぞれの生活環境が加わりま
です。
すので、患者さんの病態は非常に多様です。糖尿病治
勝山:患者さんからさまざまな質問を受けますが、あ
療においては、いかに自己管理を継続してもらうかが
くまでも職域を踏まえた情報提供を心がけています。
大切な要素になりますので、これを実現するため、
“ま
概要をお話しした後、例えば「詳しい食事の摂り方に
ず最初に患者さんをよく知る”ことをモットーに療養
ついては栄養指導を受けてください」というかたちで
支援を行っています。当科では、病棟回診を週に 2 回
バトンタッチします。これにより、患者さんは、それ
行っていますが、そのうち 1 回は、薬剤師、栄養士、
ぞれの専門分野において常に一定の情報を受け取るこ
看護師らも同行します。診療の臨場感を味わうこと
とができ、安心と信頼の医療につながります。カンフ
で、コメディカルの責任感はいっそう強くなります
ァレンスは、スタッフと患者さんとのこうしたやり取
し、現実に即した指導の方向性を探る良いヒントを得
りを再確認し合う時間にもなっています。
ることができます。チーム全体で同じ場所・時間に患
久保田:カンファレンスでの情報交換はもちろんです
者さんを診る機会を設けていることが、チーム医療の
が、日常から脇先生を含め、メンバー同士が PHS で
充実に大きく寄与しています。
何でも相談し合える土壌があり、コミュニケーション
久保田(栄養士):回診に同行して足の潰瘍や壊疽な
が非常にうまくいっていることも情報共有の充実、さ
どを目の当たりにすると、「こんなになるまで一体ど
らに迅速かつ的確な対応につながっていると思いま
んな生活を送ってこられたのだろうか。食生活に問題
す。
6
身近な工夫で
「気付くチャンス」を与える
ていたな、バランスが悪かったな」など、これまでの
食生活の間違いに気付く良いきっかけになっています。
脇:意識変容は、患者さんが“気付く”ということか
脇:教育入院や糖尿病教室を通して、冒頭でも述べた
ら始まります。当科では、外来診療待合室にスペース
ように、“継続的な自己管理の実現”をめざし、患者
を設け(写真 2)
、診察の順番を待っている時間を活用
さんの意識変容に大きな力を注いでいます。その際、
し、血糖値などの検査結果を糖尿病手帳に患者さん自
知識の押しつけにならないよう、心理的なプロセスを
身で記入してもらっています。自分で数値を確認し、
踏まえた指導を心がけています。このような意味で、
記入するという行為により、自分の状態を評価し、生
CDE の資格が非常に役立っているようです。
活習慣を振り返る機会になります。身近な工夫ですが、
勝山:インスリン注射に関して言えば、「インスリン
患者さんに自身の状況に気付いてもらうチャンスにな
を打つようになったらおしまい」など、治療そのもの
っています。病棟にはエアロバイクを置いており、膝
への誤解、恐怖感、不安感を抱いている患者さんがか
への負担が少なく体を動かせる手段の一つとして活用
なり多くいらっしゃいます。「あなたにはインスリン
されています。これも、
「足が悪いので運動は無理」と
治療が必要ということですから、手技について説明し
あきらめるのではなく、無理なく行える手段に気付い
ます」という杓子定規な対応ではなく、現在の糖尿病
てもらう工夫の一つと言えるかもしれません。
治療におけるインスリンの位置づけ、意義について正
久保田:エアロバイクには運動時間や消費カロリーも
確な情報を伝えることから始めます。一方、経口薬に
表示されますので、「この運動では、これくらいのカ
関しては、もともと糖尿病が自覚症状に乏しい病気と
ロリーが消費できるんだ」と気付き、食事の摂り方を
いうこともあり、意識付けが難しい側面があります。
考え直すきっかけにもなります。
糖尿病を放置するとどうなるのか、これを十分に理解
脇:当科では地域との連携活動も活発に行っており、
してもらうことが先決で、そこから服薬の必要性を自
栄養指導外来では地域診療所からの依頼に応じて当院
覚できるように導いていきます。
の専門的な機能を提供しています。また、勝山さんを
久保田:現在の状態をよく知ってもらい、食生活では
中心に県内のコメディカルとの交流、薬薬連携にも大
何が悪かったのかを自分自身の言葉で言ってもらえる
きな力を注いでおり、地域診療支援病院としての役割
ようになれば、大きな進歩だと思っています。当院に
も果たしています。今後も、地域全体の糖尿病診療の
は 3 泊 4日の食事体験入院というプログラムがありま
向上をめざし、引き続き精力的に活動を進めていきた
すが、量や味付けを体験することで、
「今まで食べ過ぎ
いと考えています。
写真 1 ● 病棟に設置されている面談室
写真 2 ● 外来待合室の糖尿病手帳記入スペース
●糖尿病療養指導のために優先的に使用できるスペース。
●糖 尿病外来待合室の片隅に机といすが置いてあ
り、血糖値などの検査結果を糖尿病手帳に記入す
るためのスペースが確保されている。
●机の上には、
各検査値が指し示す内容、および意
●相談内容にプライバシーを保ちたい際にも有意義なスペースとして汎用されている。
味をわかりやすく説明した下敷きを設置。
●自身での記入が難しい患者さんには、看護師がサ
ポートして記入してもらっている。
ビ デ オ の ほ か 、人 工 皮
膚 、インスリン注 射 器 、
各種教材が常備されてお
り、必要時に迅速な指導
が可能。
7
施設訪問
お知恵を拝借
ら誤解している部分を探り、改めて個別に入念な指導
を行っています。
後藤:退院後も患者さんを継続してフォローアップし
ていきたいところですが、急性期病院という当院の実
情を考え、地域の診療所とうまく連携する方向でシス
テムづくりに現在取り組んでいます。
No.2
継続的なフォローアップをめざし、
循環型の病診連携システムを構築中
秋田赤十字病院
後藤:循環型の病診連携を実現する第一歩として、ま
ず、信頼のおける顔見知りの地域の先生方との間で、
(秋田県秋田市)
少数の患者さんを対象に連携を試行し始めました。こ
れがうまく軌道に乗ったところで、連携の輪を広げて
いきたいと思っています。病診連携クリニカルパスも
ほぼ完成し、いっそうスムーズな連携につながればと
大きく期待しています。また、この連携パスの中で
は、CDE 外来という新しい試みも予定しています。
菅原(看護師)
:現在、外来ではフットケア、インス
リン導入、血糖自己測定指導を定期的に行っています
が、平成 20 年より院内の CDE 約 10 名が集まって毎
月 1 回の勉強会を開催しているほか、交代で外部の研
修にも積極的に参加しています。スタッフのスキルア
下段左から、久米万寿子さん(栄養課長)
、後藤 尚先生(第四内科
部長 医師)
、佐々木いづみ先生(内科 医師)
、菅原まゆみさん(看
護師)
、上段、和田芙美子さん(栄養士)
、久保山武成さん(臨床心
理士)
、重川敬三さん(看護学部講師)
、斎藤 晃さん(薬剤師)
診療の成果を常に意識し、 責任を持った療養指導をめざす
ップに努めており、CDE 外来でもその力を存分に発
揮し、病診連携で重要な機能の一つとして貢献できれ
ばと思っています。
スタッフによるスタッフ教育で実現
“患者さん同士の有意義なフリートーキング”
後藤:糖尿病教室は、患者教育の大きな柱の一つで
後藤(医師):当院では、最適な療養指導を実現する
す。現在、入院患者さんを中心に、2 週間・合計 10
ため、常に問題意識を持って糖尿病患者さんと接する
回を 1 クールとして、合併症や治療に関する説明のほ
ことを心がけています。糖尿病は、背景に潜む原因や
か、栄養指導、インスリン導入、運動療法などの指導
問題が見えにくい病気ですから、個々の患者さんが抱
を行っています。医療者からの一方通行にならないよ
える問題を正しく把握することから始め、それを解決
う参加型の糖尿病教室をめざし、患者さん同士のフリ
するためにはどのようなアプローチをすべきか、きち
ートーキングの時間を設けていることが大きな特徴で
んと整理するステップを大切にしています。
す。「 同じ病気を持つ者同士なので辛さが分かち合え
また、糖尿病は指導の成果の評価が難しいという側
ました 」、「 他の方の食事制限の工夫が参考になり、
面もありますが、例えば、栄養指導で患者さんの意識
自分もやってみようと思いました 」 といった患者さん
が本当に変わったのか、さらに血糖値の改善につなが
の声に、フリートーキングが治療の励みとなり、モチ
ったのかなどを追跡し、指導の結果を振り返ることも
ベーションの維持に役立っている状況が実感されま
私たちの重要な責務と考えています。
す。
久米(栄養士):教育入院では、入院時と退院時の配
実は、このフリートーキングが有意義な時間となる
膳された常食を食べ残してもらって、食事の摂り方を
までには、専任の臨床心理士によるわれわれスタッフ
比較調査し、入院中に指導した内容が確実に身につい
への熱い指導がありました。当初、私たちは患者さん
ているかどうかを評価しています。もし、自分に合っ
が質問してそれに対して回答するというパターンから
た食事の内容、量が十分に理解できていなかった場合
なかなか抜け出せず、患者さん主導のフリートーキン
には、患者さんの話に耳を傾け、理解度を見極めなが
グを上手に演出できないという状況がありました。そ
8
こで、患者さんの心理状態を踏まえてスタッフはどう
ています。もちろん、理論を覚えてもらうことも必要
立ち回るべきか、ロールプレイを交えながら指導を受
ですが、最も大切にしているのは“継続”です。一つ
けました。
でも達成できたことがあれば心から努力を認め、
“ほ
久保山(臨床心理士):例えば、「 どうしてもケーキが
める”ことを忘れません。患者さんと心の通い合う、
食べたくて 」 という患者さんの発言に対し、「 ケーキ
あたたかい信頼関係を結び、モチベーションを保って
は禁物でしたね。ですから我慢しましょう 」 と答える
もらえるような指導を心がけています。
のではなく、「 こんなとき、どうしていますか ?」 と、
重川(運動療法士)
:運動指導も“継続は力なり”をモ
他の患者さんの発言を促します。このような機会を提
ットーにしています。継続に大切なのは運動のイメー
供することで患者さん同士が共通の思いを語り出し、
ジを“心地よい”
、
“快適”といったものにしていくこ
話が盛り上がっていきます。そこから、「私はこんな
とです。目標が先行するとどうしても頑張り過ぎて、
ふうにして乗り切っています」という、説得力のある
いつの間にか辛い運動を耐えて行うようになり、やが
有意義な工夫が浮き彫りになってくれば大成功です。
て続かなくなってしまいます。1 年後、2 年後、5 年
スタッフは、患者さん同士の会話がうまく進むよう、
後も生活の一部に自然に運動が取り込まれていて、生
あくまでもサポート役に徹するというわけです。
活が良い方向に改善されているのが理想です。冬の間
後藤:フリートーキングの成果を評価する試みも進ん
は雪が降ることも多い土地柄ですから、義務のように
でおり、フリートーキングを実施した日と実施しなか
散歩をすることはありません。運動の種類や時間、強
った日では教室に対する患者さんの満足度に違いがみ
度は一切言わないことにしています。
「家の中で時間
られます。確実に成果につながっているようで、今後
をみつけ、簡単にできる柔軟体操をしてみましょう。
も継続していきたいと思います。
バランスボールを使うのも一つの方法です」という具
合にお話ししています。
キーワードは“継続”
後藤:食事や運動でどうしても血糖値が改善しない場
合には服薬も必要になります。服薬指導についても、
久米:糖尿病教室では栄養指導が約 3 割を占めてお
専用の指導室で個別にていねいな指導が行われていま
り、その責任を強く実感しています。嗜好品の摂り方
す。糖尿病治療において、生活改善のキーワードは
や外食時の工夫のほか、最近ではお弁当やお惣菜を買
“継続”です。今後は、各スタッフの努力の結晶を集
って食べる機会も増えていますので、その際のポイン
約して情報共有を図り、いっそう充実した療養指導に
トを、実例を中心にわかりやすく指導するよう心がけ
つなげていきたいと考えています。
図 ● 服薬指導室および栄養指導室
●服薬指導室
パソコンには、各薬剤の製品写真をはじめ、用法・用量、作用メカニズムなどがひと目でわかるよう整理されたデータが保存されて
いる。個別に服薬指導が必要な際には患者さんに同室まで足を運んでもらい、一緒に画面を見ながら服薬する薬剤について説明を
行い、作用や服薬のタイミングを十分に理解してもらう。
パソコンやW E Bの資料で
指導が必要な場合には、患
者さんとともに画面を見な
がら服薬指導を行う。
ここで栄養指導を行う
フードモデル
9
三咲内科クリニック
(千葉県船橋市) 院長
栗林 伸一先生
栗林先生の
栗林先生の
2型糖尿病患者において、夕食時の血糖改善のためには
食前より食後のウォーキングのほうがより有効である
Postprandial walking is better for lowering the glycemic effect of dinner
than pre-dinner exercise in type 2 diabetic individuals.
Colberg SR, et al.
J Am Med Dir Assoc 2009; 10: 394-397.
夕食直後の運動は夕食後の血糖上昇を抑制する?
2 型糖尿病患者における運動のタイミングとして、朝や
昼の場合、食前より食後の方が食後血糖を低下させやすい
ことが既に報告されている。そこで本研究では、食前後の
運動が夕食後の血糖上昇に及ぼす効果について確かめるこ
ととした。
バージニア州在住で、食事療法単独または経口薬治療中
の 2 型糖尿病患者 12 名
(男女各 6 名、
年齢 61.4 ± 2.7 歳、
罹病年数11.3± 2.1年、HbA1c 値 7.0 ± 0.3%、 BMI34.5
± 2.4)を対象にした。試験当日は夕食前 3 時間は食事を
摂らず激しい運動は控えた。夕食は中等度に血糖を上昇さ
せる標準的な 4 種類のメニュー(400 ~ 450kcal)から
患者が 1 つを選択し、3 日間同一とした。その上で、①夕
食を食べただけで運動を行わない(NOEX)
、②自己ペー
スでウォーキングかトレッドミルを使った中等度の有酸素
運動を 20 分間夕食直前に行う(PRE)、③同様の運動を
夕食終了から 15 ~ 20 分後に行う(POST)、の 3 つの
試験を無作為な順序で行った。運動以外は座位とした。運
動強度は運動中の最後の 5 分間の脈拍を測定し、個々の
安静時脈拍数と推定最大脈拍数から計算して求めた。前腕
または手の静脈にカテーテルを留置し、30 分毎に採血し、
血糖測定した。これらのデータから、4 時間までの血糖曲
線下面積(AUC)だけでなく、血糖値の絶対値および相
対値の変化を調べた。なお、最初のサンプルから HbA1c
C omment
運動を食後血糖改善にも利用しよう!
糖尿病で運動に求められる効果は、糖・脂質代謝の改善、
血圧改善、動脈硬化防止です。これは主にインスリン抵抗性
を改善することで達成できるので、この目的に限れば、時間帯
は関係なく定期的に週3~4回行えば達成できます。また、肥
満是正を期待する場合には、運動の量(強度×時間)
を増やし
ます。筋萎縮や寝たきりの防止には、不足しがちな筋力の強化
や柔軟性に重点を置いたメニューにします。心肺機能維持、骨
粗鬆症防止、免疫力向上、ストレス解消、QOL向上には無理
のない運動を好きな時間帯に行うことで得られます。
一方でこの論文でもそうですが、運動の急性糖代謝改善効
果を利用して、下げたい時間帯の血糖を下げることもできます。
食後高血糖は心血管系疾患の危険因子であり、酸化ストレス
により細胞機能障害も起こします。食後早期に運動すると、食
後高血糖を是正できます。このことは昔から知られていますが、
私が過去に報告したデータでも、朝食終了から30分後(食前
から45分~1時間後)に30分間速歩を行うと朝食後の血糖曲
線下面積を最小にすることができました。この論文は夕食という
時間帯で、しかも食後早期に20分程度の比較的弱い運動で
も同様に血糖上昇を抑えることができたことを報告しています。
1回の食後の運動効果は次の食後までは影響しないので、
各食後に運動することが必要です。また、超速効型インスリン
注射例やグリニド薬処方例では必ずしも食直後にこだわらず、
低血糖の起こりにくい時間帯を選びましょう。
値と脂質を測定した。
夕食は平均 420.9 ± 4.8kcal 摂取、運動強度は 40.3
± 2.7(24.8 ~ 53.3)% HRreserve、歩行速度は 2.2 ±
0.3(0.7 ~ 3.5)マイル / 時であった。図 1 に示すように、
血糖値は POST のみ 90 分値(食事開始から 60 分後)が
有意に低かった。平均血糖値では、POST(6.1± 0.4mmol/L)
は PRE(8.8 ± 1.0mmol/L) よ り 有 意 に 低 か っ た が
図1:夕食前後の運動と血糖値の変化
10.0
(p=0.048)
、NOEX(7.8 ± 0.7mmol/L)に比較して有
意差はなかった。試験開始時と 90 分後の血糖変化、すな
0.34mmol/L)は PRE(1.83 ± 0.66mmol/L)
や NOEX
(0.73 ± 0.56mmol/L)
より有意に低かった
(p=0.003)
。
AUC は 3 群間で有意差はなかった。
以上より、2 型糖尿病患者においては、低~中等度であ
9.0
血糖値(mmol/L)
わ ち 夕 食 後 早 期 の 血 糖 変 化 で は、POST(- 0.41 ±
8.0
7.5
7.0
6.5
6.0
態に比べ、夕食時の血糖上昇を抑える(和らげる)上で効
5.5
果的であった。食事摂取後に分泌される内因性インスリン
5.0
相加的に働いている可能性が考えられる。
* p <0.05、ANOVA
8.5
っても、夕食後早期の歩行は食前の歩行や運動をしない状
作用とともに、運動による筋肉への糖取り込み促進作用が
PRE
POST
NOEX
9.5
食前
0
夕食
30
食後 60
90
120
150
180
210
240
時間(分)
Reprinted from J Am Med Dir Assoc, Vol. 10, Colberg SR, et al., pp.394-397,
©2009, with permission from Elsevier
10
今回紹介した海外雑誌
J Am Med Dir Assoc:Journal of the American Medical
Directors’Association誌は、米国医療ディレクター協会(AMDA)の公
式ジャーナル。長期ケアに携わる医療スタッフのための最新情報を掲載。
Nutr Metab Cardiovasc Dis:Nutrition, Metabolism and
Cardiovascular Diseasesは、the Italian Society of Diabetology、
the Italian Society for the Study of Atherosclerosis、the Italian
Society of Human Nutritionの公式ジャーナル。
栗林先生の
メタボリックシンドロームを伴う2型糖尿病患者の運動トレーニングの
抗炎症効果は体重減少効果とは別で、運動様式に依存している
Anti-inflammatory effect of exercise training in subjects with type 2 diabetes and the
metabolic syndrome is dependent on exercise modalities and independent of weight loss.
Balducci S, et al.
Nutr Metab Cardiovasc Dis 2009; 18-Aug[Epub ahead of print]
メタボタイプの2型糖尿病患者にはどんなタイプの運
動がより効果的か?
2 型糖尿病患者は心血管疾患(CVD)の危険因子であり、
炎症性マーカーである高感度 CRP(hs-CRP)も CVD の
独立した予測因子である。運動は肥満を改善し、体重減少
はhs - CRPを改善するが、本研究では運動のタイプや強
度などの運動様式の違いが hs - CRP や他の炎症マーカー
に及ぼす影響を調べることを目的とした。
CVDがないメタボタイプの 2 型糖尿病患者 82名(40 ~
75歳、糖尿病罹病期間 1 年以上、BMI27~ 40kg/m2)
を対象に、特別な運動をしない対照群:A 群、低強度の身
体活動を行う群:B 群、高強度(最大酸素摂取量の70 ~
80%)の有酸素運動(トレッドミルやエルゴメーター)
だけを 60 分週 2 回行う群:C 群、高強度の有酸素運動
40 分と種々のレジスタンス運動 20 分を週 2 回行う群:
D 群の 4 群に無作為に割り付けた。期間は 12 ヵ月間で、
日常生活における身体活動評価、体力、心血管系の危険因
子、炎症性バイオマーカーの評価は初回および 3 ヵ月毎
に行った。体力評価により強度を調節したが、C 群と D
群の運動消費量は同等とした。
結果、運動群(B 群、C 群、D 群)では日常での身体
活動量も増加し、HbA1c 値は低下した。最大酸素摂取量、
HOMA-IR、HDL コレステロール、腹囲、尿中アルブミ
ン /Cr は C 群と D 群で改善した。一方で D 群のみ筋力
と柔軟性が改善した。hs - CRPは B 群、C 群、D 群で各
C omment
高強度の有酸素運動やレジスタント運動は
肥満 2 型糖尿病患者にも有効?
肥満2型糖尿病患者の治療の基本は食事療法と運動療法
です。食事で摂取エネルギーを減少させ、運動で消費エネルギ
ーを増加させて、エネルギーバランスを負に保ち、肥満解消を目
指します。内臓脂肪の減少でアディポカインの分泌を改善さ
せ、インスリン抵抗性や炎症といった生体に悪影響を与える要
因を取り除くわけです。
しかし、肥満患者はもともと運動習慣がない上に、足や膝に
障害があるとか、メタボリックシンドロームやIGTの時代から引き
継ぐ負の遺産としての心血管障害を既に合併しているとかで運
動制限せざるを得ない場合も少なくありません。したがって、メ
ディカルチェックを慎重にした上で、軽い運動を短時間から、状
況を確認しながら強度や時間を次第に調節するように指示する
ことが一般的です。
この論文では合併症、特に心血管障害のない患者さんだけ
を選び、中等度強度以下の運動ではなく、十分な管理のもとで
すが、高強度の運動を60分ずつ週2回1年間続けた結果を評
価しています。その結果、4群とも前後でBMI変化がみられなか
ったにもかかわらず、C群(有酸素運動単独群)以上にD群
(有酸素運動+レジスタンス運動群)でインスリン抵抗性が改善
しただけでなく、高感度CRPをはじめとする炎症性サイトカイン
が減少し、抗炎症性サイトカインが増えたことを伝えています。
この論文は、運動自体が持つ抗炎症作用の実証と、運動が
筋肉の細胞・組織に直接与える影響に改めて注目させるもの
と言えましょう。
12%、28%、54%減少したが、有意な減少は C群と D
群で、特に D 群で顕著だった
(図 2)。多変量解析でみると、
最 大 酸 素 摂 取 量、 運動量、運動のタイプ、腹囲変化は
hs- CRP 変化の独立した予測因子であった。C 群とD 群で
図2:運動様式とhs-CRP値の変化
はレプチン、
レジスチン、
インターロイキン
(IL)
-6 が減少し、
5
アディポネクチンが増加した。特に D 群では、炎症性サイ
トカインである IL-1β、IL-6、TNF-α、インターフェロン トカインである IL-4、IL-10 は各 47%、84%増加した。
以上、メタボタイプの 2 型糖尿病患者に対する運動は
運 動 様 式( 量、 強 度、 タ イ プ を 含 む ) に も よ る が、
hs- CRPをはじめとする炎症性およびインスリン抵抗性
のバイオマーカーを有意に低下させ、抗炎症性バイオマー
カーを増加させる。それらは内臓脂肪の減少とは独立した
効果であり、骨格筋のサイトカイン(ミオカイン)産生に
対する影響も関与しているかもしれない。有意な抗炎症効
hs-CRP(mg/L)
γは各 41%、59%、44%、18%減少し、抗炎症性サイ
ト運動を混合した運動が要求される。
C群
3
2
D群
ベースラインからの変化
C 群 =0.05
D 群 =0.0001
Wilcoxon matched-pairs signed-ranks test
1
0
0
果を得るためには、日常の身体活動に加え、長期間にわた
る高強度の運動、しかもできれば有酸素運動とレジスタン
B群
A群
4
3
6
9
12
追跡期間(月)
Reprinted from Nutr Metab Cardiovasc Dis, 18-Aug, Balducci S, et al., in press,
©2009, with permission from Elsevier
11
健康運動指導士には JCDE の受験資格がありませんが、日本中には
地域のLCDEとして活躍されているスタッフも多くいらっしゃいます。
今回の「CDE ルーム」では、そうした LCDE のお一人である中澤
摩有子さん(南昌江内科クリニック)と、その仲間のスタッフにお話
を伺いました。
第 9 回
このコーナー「CDEルーム」では、
糖尿病療養指導士(C D E)として
活躍しているメディカルスタッフの
みなさんを紹介しています。
右から中間貴子さん、高巣京子さん、中澤摩有子さんと南昌江内科クリニックの
スタッフの皆さん
その人に合った運動をみつける お手伝い
知りなので、仲良く楽しく続けていら
のかどうか確認したかったのと、足り
っしゃいます。少し難しいくらいのほ
ない知識を補充したかったので CDE
うが、やり甲斐を感じるようです。患
の資格をとりました。CDE は常に新
中澤(健康運動指導士)
:運動は、その
者さんが楽しく運動されているので、 しい知識を取り入れる機会を提供して
人にとって無理なく楽しい運動ならば
指導する方も楽しいですし、達成感が
くれているので、それを積極的に習得
続けることができるので、まずは患者
あります。
し、患者さんの指導にうまく生かした
さんのお話をよく聞いて、「この方に
とって面白い運動って何だろう」、「続
いと思っています。最近は、個々の患
日常生活の中で動くことも運動
者さんに合わせたカウンセリングがで
けられる運動って何だろう」と考え、 中澤:特別な運動をしなくても、日常
きるようになりました。
色々な方法を提案します。その人に合
生活の中で動くことが運動になりま
った運動をみつけるお手伝いをするの
す。
「 家事や仕事の中でいつ体を動かし
が健康運動指導士の仕事のひとつだと
ているか」を意識してもらい、
「あまり
思っています。
動いていないな」と気づくことが第一
高巣(看護師):専門知識があると、患
クリニックでは併設のスタジオで週
歩です。なるべく階段を使う、すぐに
者さんに聞かれたことに対して自信を
4 回、運動教室を開いていますが、そ
車に乗らず近くなら歩くなど、少し考
持って答えることができます。最新の
れが無理な方には、月 1 回の「お散歩
え方を変えるだけで日常の中でいくら
情報をわかりやすく伝え、患者さんの
会」をお奨めしています。重い腰を上
でも運動はできます。ある時、「忙し
安心や療養意欲の向上につながればい
げて一度でも参加してもらえると、運
くて運動は無理」と言われるサラリー
いなと思っています。中澤さんたち健
動する楽しさがわかるはずです。
マンの方に、ビジネスタイプのウォー
康運動指導士は、糖尿病の患者さんに
運動教室は飽きさせない工夫が必要
中澤:運動教室では、エアロビクスと
チェア体操(椅子に座って行うエアロ
ビクス)を中心に、筋トレやストレッ
チ、ゲームなどを組み合わせて、60 ~
90 分間体を動かします。皆さん顔見
専 門 知 識 が あ る と 自 信 が つ い て、
モチベーションも上がる
キングシューズをお奨めしたところ、 楽しく運動してもらうためのスキルを
それがきっかけで通勤時のウォーキン
持っているので、今後、彼女たちの活
グを実践していただけました。
躍が広がって、JCDE の認定が受けら
常に新しい知識を取り入れ、 日々の指導に生かしたい
中間(看護師)
:自分の指導法が正しい
12
れるようになればいいと思います。
回答者
CDE
東京都済生会中央病院
看護部
ドクター
三咲内科クリニック(千葉県船橋市)
院長
佐藤 和子さん
栗林 伸一先生
インスリン導入時に、注射に対する患者さんの恐怖心を和らげるのに、
どのような工夫をしていますか?
患者さんが何に恐怖や不安を感じているのか具体的に把握し、一緒に解決する。
インスリン注射についていざ説明しようとすると、
階を評価します。会話の中から恐怖心や不安がうか
抵抗を示す患者さんは少なくありません。
“インスリ
がえる患者さんであれば、何に恐怖や不安を感じて
ン注射”と聞くと、
「一生の終わり」や「糖尿病が重
いるのか具体的に把握します。
症なのか」など、複雑な思いを抱くことでしょう。
最近ではどのメーカーもインスリン使用方法が簡
単になっているため、使用方法の説明よりインスリ
ン注射の必要性や患者さんの病態説明、またどのよ
そのことにより、例えば、
①シリンジ型注射器で打つと思っている場合
→ 実際にペン型のインスリンを見せる
②針の痛みがあるのではないかと思っている場合
うな思いがあるかを聞き取ることなどに時間をかけ
→ 針を見せ、細さ・長さを実感してもらう
るようにしています。いきなりインスリン注射の説
など、患者さんが問題としていることを初めに一緒
明を行わず、患者さんが「どのように受け止めてい
に解決することで、その後スムーズに導入できるよ
るか」など考えや気持ちを聴き、心理的受け入れ段
うに思います。
血糖コントロールが悪い場合、医療者も不用意に
期に導入すれば離脱も可能である点を強調しておき
インスリン注射を『おどし文句』に使ってしまうこ
ましょう。心理的負担感は患者さん個々で違いま
とがあります。ふだんの診療で、インスリンの意義
す。よく傾聴して十分把握した上で、少しずつその
や利点も伝えておく必要性を感じます。特にインス
負担感を取り除くことが必要です。
リンは成れの果てで使用するものではないこと、早
フットケア外来を他の病院ではどのように行っているのか、
立ち上げ方、良い方法、注意点などを教えてください。
道具はすべて揃えなくても、やれる範囲で行うことがコツ
糖尿病足病変ハイリスク患者さんに対し、重点的
フットケア外来を維持することが目的化しないよ
に予防教育、処置を行うことで足病変悪化予防の効
うにすべきです。最も大切なことは、
“糖尿病患者”
果へつながることは明らかであり、平成 20 年 4 月
さんへフットケアを実施する目的を十分に理解した
には糖尿病合併症管理料として診療報酬が新設され
上で行うことではないでしょうか。患者さんの足の
ました。しかし、認定された看護師が 30 分以上か
みでなく糖尿病全体を把握し、アセスメントするこ
けて行う必要があります。技術が優れ、必要なケア
とで、必要なケアの計画を立案することが重要と考
だけ効率良く行うと算定できなくなる場合もありま
えます。また、自己判断せずに必ず主治医の指示を
す。糖尿病外来の様々な指導やケアの一環として行
受けることが必要です。足病変悪化の予防のために
う場合もあれば、皮膚科や形成外科が行う場合もあ
も、繰り返し患者さんに関わることが必要であると
ります。
考えます。
合併症患者の多い施設では、フットケア外来は必
も、やれる範囲で行うことがコツです。また、ハイ
須と言えます。診療報酬を算定する場合、その基準
リスク患者でなくてもフットケアは必要です。足チ
を満たす必要があります。既に算定している施設に
ェックシート等を用い、外来で神経障害や皮膚病変
たずねるか、講習会などで資格、準備、注意点など
を定期的にチェックすることも必要です。
を確認しておきましょう。道具はすべて揃えなくて
13
2
DM Trend Journal
009年8~9月に本誌第10号で実施しました読者アンケートに対し、全国から790件
と多くのご回答をいただきました。
編集スタッフ一同、心より感謝いたしております。有難うございました。
読者
アンケート
今後の誌面づくりの参考にさせていただきます。
なお、今回、皆様よりいただきましたご意見の一部を、ここでご紹介させていただきます。
結果のご報告
▶ 読者背景
あなたの職種は?
CDE 資格は持っていますか?
3.1%
3.4%
看護師
CDE
栄養士
20.8%
64.2%
8.5%
CDE ではない
41%
薬剤師
(n=790)
59%
検査技師
読者の6割がCDEである
ことがわかりました。
そのおもな内訳は、6割強
が看護師、栄養士が約1割、
薬剤師の方も2割いらっし
ゃいました。
その他
(n=790)
[人数]
▶ 各コーナーに
ついての印象
450
400
350
300
250
200
150
100
50
0
411
251
212
146
lk
a
lT
ca
ni
Cli
訪問
施設
な
Aあ
180
137
?
する
どう
ら
たな
207 202 189
療
病治
糖尿
の
こう
向
海の
379
374
236
148
Q&
▶ 特に良いと
思った記事
396
369
179 195
n
o
ーム
ati
rm
nfo
I
E
CD
Eル
CD
387
「Clinical Talk」
「施
設訪問」
「 Q&Aあな
たならどうする?」は
良かった
8割以上の読者より
普通
あまり良くない
好印象を得ました。
全く良くない
特に、具体例を挙げ
た記事は有用として、
(n=790)
高い評価をいただき
ました。
とても良かった
●記事のタイトル / 回答件数
第10 号「Clinical Talk」
:
「できる範囲」の目標を立て、ストレスのない減量を!……15 件
第 7 号「Clinical Talk」
:患者様は常にさまざまな制約やストレスにさらされている……7 件
第10 号「海の向こうの糖尿病治療」
:肥満外科手術など……7 件
第 9 号「Clinical Talk」
:糖尿病性腎症と慢性腎臓病(CKD)……5 件
第 8 号「Clinical Talk」
:チームと患者様が CDE の資格を生かしてくれている……5 件
「Clinical Talk」の特集記事の評判が良いようでした。
また、海外記事に対しても興味をお持ちであることがうかがえました。
▶ その他ご意見
●取り上げてほしいテーマ
食事療法(カーボカウンティング)……14 件
CDE 情報(単位取得可能な勉強会の紹介、試験対策、役割)……10 件
最新情報(インクレチン、CGMS)、フットケア、シックデイ、運動療法、地域連携、
CDE 以外の情報、糖尿病教室、地方情報、スタッフ教育・連携、患者会…等
●具体的な記事のご要望として・・・
◦施 設訪問のコーナーで紹介のあった施設は大きすぎてマネできないので、小さいところ(ク
リニック)も紹介して欲しい。
◦一 般病棟に入院している糖尿病患者さんを、専門的な教育を受けていない看護師と CDE が
どうやって教育していくか。
読者の皆様より頂戴しまし
た糖尿病療養指導上の「お
悩み」は、今後「Q&A あな
たならどうする?」でご紹
介し、解決させていただき
たいと思っております。
ご期待ください!
◦患者会の運営や活動内容について知りたい。患者主体の活動はないものか。
●その他ご意見
◦海外雑誌(「海の向こうの糖尿病治療」)は、なかなか読む機会がないので良かった。
◦他の施設の取り組みを知ることができ、患者さんへの接し方、指導の参考になった。
14
L illy Diabetes
患者さんと糖尿病との闘いは、ひとりひとりが異なる
治療を必要とする困難かつ孤独な旅路に例えられます。
日本イーライリリーは、糖尿病を克服するためには治療
薬とともに必要かつ大切なものがあると考えています。
今回より始まる新コーナー「Lilly Diabetes」では、
患者さんのサポートをめざして行っている弊社の取り組
みを紹介いたします。少しでもメディカルスタッフの
方々のご参考になればと思っております。
第1回
運動療法プログラム
誰でもできるエアロビック
〜糖尿病の運動療法を楽しく〜
おじいちゃんになるまで
エアロビックを続ける!!
運動は短時間でも
続けることが大切
大村詠一 さん
佐藤祐造先生
大村さんは、小学校 2 年生のとき、1 型糖尿病
今回は、糖尿病患者さんの運動療法をご専門にさ
を発症。現在は、短期大学で非常勤講師として体操
れている佐藤祐造先生
(愛知学院大学心身科学部長、
を教えたりするかたわら、競技エアロビックの日本
健康科学科 教授)もご出席。今回のエアロビック
チャンピオンとして世界で活躍中。
イベントについてコメントを頂戴しました。
エアロビックを続けながらの血糖コントロールの
「私も運動は得意なほうではありませんが、今日、
コツについて、「自分自身をよく知ること。つまり、
皆様と一緒に参加し、久しぶりの運動で達成感を味
運動や食事をどれだけすれば、どういうふうに血糖
わいました。このプログラムはいつでもどこでも一
が変動するかを把握することが大切。競技前の練習
人でもできます。運動はたとえ短時間であっても長
量との兼ね合いで、過去には失敗もしてきましたが、
く続ければ必ず効果がありますので、空いた時間を
今は、1 日最低 5 回のインスリン注射をしながら
利用するなどして、続けていただきたいです。これ
血糖を調整しています」と話されました。
から運動療法を始めようという方は、主治医の先生
今後の目標については、
「トップアスリートでいる
ための努力を続けながらも、1 型糖尿病とエアロビッ
に相談した上で、くれぐれも低血糖に注意し、自分
の体力に合わせて取り組んでください。
」
クの啓発活動を両立して続けていきたい」とのこと。
2009 年 12 月 20 日、愛知学院大学にて開催された運動療法プログラムでは、1 型糖尿病
でありながらエアロビック選手として世界で活躍している大村詠一さんをインストラクター
に迎え、多くの糖尿病患者さんやご家族の皆様が体を動かされました。
リズムに合わせて簡単なステップから始める。大村さ
んのようにはうまくできなくても、なぜか楽しい。
二人一組でダンス。初対面でも、顔を見合わす
と思わず笑みがこぼれ、テンションが上がる!
最後はタオルを使って、皆でブルーサークルを
作りました。
参加された患者さんのご感想
● 2 型糖尿病歴 15 年の A さん(女性)
「毎日夜に 1 時間のウォーキングをし、血糖コントロールをしてい
ます。こうしたイベントに参加するのは初めてですが、とっても
良い催しですね。規模がもっと小さくてもいいので、頻繁に開催
して欲しいです。
」
●昨年仕事を退職してから運動不足だったという B さん(女性)
「エアロビックなんて、初めての体験でした。最初は手足がついて
いかなくてどうなることかと思いましたが、最後はついていける
ようになりました。今日は娘も参加したので、明日からは自宅で
一緒にやっていきたいと思います。
」
●月に 20 日、水中ウォーキングをされている C さん(男性)
「普段から運動しているので、今回の運動量なら、苦もなく毎日で
も続けられますね。
」
地元のエアロビックチームのエキシビショ
ンで会場は盛り上がる!
躍動感あふれる大村さんによる
競技エアロビックの演技
共催 社団法人日本糖尿病協会/日本イーライリリー
協力 社団法人日本エアロビック連盟
この運動療法プログラムは、2009年に全国6会場で行われました。
このプログラムにご興味のある施設様は、日本イーライリリー担当者までひとことお声掛けくださいませ。DVDもご用意しております。
15
「第44 回 糖尿病学の進歩」レポート
3月5~6日の二日間、「第44回 糖尿病学の進歩」が、大阪国際会議場で開催されました。糖尿
病診療に関する基礎知識習得から最新の治療研究まで会場ごとにテーマが組まれ、初心者からベテ
ランまで様々なステージにある医療スタッフそれぞれが満足できる演題が企画されていました。両
日ともあいにくの雨にもかかわらず、会場内では連日多数の参加者が行き来し、なかには、会場の
外まで立ち見の聴講者で溢れたセッションも出るほどの盛況ぶりでした。
今回は本号の特集テーマである「運動療法」についての演題をピックアップしています。両演者とも
に、ユーモラスな話術で具体的な指導方法を提示され、参加者の興味を引いていました。
pick up lecture ①
演題「やる気にさせる運動療法指導
者の膝痛」があることを挙げ、「高齢でも安全で気軽にできる簡単
のコツ」
(夕陽ヶ丘佐藤クリニック
な筋力アップ運動」を紹介されました。
佐藤利彦先生)では、まず、医療者は運動療法の目的として、「運
次に、運動の効果説明については、①転倒予防、②膝痛の改善効
動の効果や合併症の予防」を中心に説明しがちであるが、患者さん
果、③脂肪減少、④骨密度上昇などの“運動したくなる理由”を挙
はそのような“難しい”目標でなく、もっと“目に見えやすいこと”、
げるほうが患者さんの運動意欲を高める効果があることを強調され
“実感できること”に興味がある、と注意喚起されました。
そのためには、例えば糖尿病歴が長く、運動療法についても長
ました。特に高齢患者さんの多くは、将来の「糖尿病合併症予防」
よりも「介護・転倒予防」に関心が高いことから、運動療法が血糖コ
年同様の説明を受けている高齢の患者さんの場合には、「歩くと認
ントロールだけではなく、将来の転倒・骨折防止といった
「介護予防」
知症の危険性が低くなる」といった、その患者さんが興味を抱きそ
にも役立つことを伝え、簡単で続けやすい運動 で実施体験を積み重
うな具体的な目標から設定すべきであると述べられました。
ねていただくなど、患者さんが理解しやすいように「正しい情報を
一方、運動を続けているにもかかわらず HbA1c 値がそれほど低
下しない場合には、①運動の種類と強度、②運動時間、③実施時刻、
④運動方法の遵守度、を確認する必要があるとともに、運動療法の
効果にも限界があることを知っておく必要があると述べられました。
※
楽しく伝える工夫」が、運動支援には必要だと結論されました。
※簡単な筋力アップ運動の例:片足立ち(片足を床上数センチ上げる)
を左
右各 1 分、1 日 3 回行う。毎食後の歯磨きの際に、上の歯で片足 1 分、
下の歯で片足 1 分行うと、わざわざ運動の時間をとる必要もない。
最後に、運動の継続・中断防止には、患者さんの目に見えやす
い目的・目標を設定し、患者さんが運動を継続できない理由や障害
要因を正しく評価・理解することも、運動療法指導には欠かせない
技術であると結論されました。
pick up lecture ②
演題「運動支援のコツ」
(有限会社
ヒューマンモア 松井浩さん)では、
患者さんが運動を開始・継続できない主たる要因の1つに「高齢患
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■ 編 集・発行 (株)ファーマインターナショナル ■ 提 供 日本イーライリリー 株 式 会 社
INS-P338(R0)
2010. 5
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