...

第1室 - 日本機械学会

by user

on
Category: Documents
13

views

Report

Comments

Transcript

第1室 - 日本機械学会
101 ポリ乳酸合成を目的としたバチルスコアグランスによる乳酸発酵
Batch fermentation of L-lactic acid by Bacillus coagulans for poly-L-lactic acid synthesis
学 ○佐辺 良樹(琉球大) 正 柴田 信一
Yoshiki Sanabe, University of the Ryukyus, Senbaru 1, Nishihara, Okinawa
Shinnichi Shibata, University of the Ryukyus
Key Words : 乳酸,発酵,バチルスコアグランス,ポリ乳酸,酵母エキス,砂糖
1.緒言
.緒言
乳酸(2-ヒドロキシプロパン酸)およびその誘導体は,
食品では保存剤,酸味料に,工業用として環境負荷の低い
乳酸エチル洗浄剤,溶媒などに利用されている.植物由来
ポリマであるポリ乳酸は,医薬品として外科手術縫合糸,
ドラッグデリバリ用カプセルとして使用されている.近年
ではポリ乳酸の加工技術の向上や環境への関心の高まりな
どにより,汎用プラスチックとしての利用が増加している.
しかしポリ乳酸生成には乳酸とポリ乳酸の中間体である
ラクチドを生成する必要がある.高収率かつ高純度のラク
チドを得るには高い乳酸純度を必要とする.そのためエス
テル化や膜分離、蒸留などにより不純物を分離し精製する.
これらの方法は設備費さらに時間,エネルギなどランニン
グコストがかかり,石油由来のポリマに比べ生産コストが
高くなっている.
昨年度より,本研究では乳酸発酵の際に設備の簡便化の
ために無滅菌培地による 50℃以上,pH6.0 前後(酸性条件)
での発酵を行い雑菌の増殖を防ぐことを目標とした.その
ため 50℃の高温に耐える新規株菌のスクリーニングを試
み,目標とする株菌(Bacillus coagulans)を見付けることがで
きた.さらに発酵に適した培地の組成,発酵条件(温度,
pH 設定)などを調べ,乳酸生成速度,乳酸発酵率を高め発
酵および精製コストを下げることを目指している.
2.実験方法
.実験方法
2-1 バッチ式乳酸発酵装置
乳酸発酵装置は図 1 に示すように攪拌棒,アンモニア水
溶液注入口,pH 電極を備えた容量 1L の 4 口丸フラスコを
54.0℃に保った恒温槽内に静置した.
培地組成はスクロース 100g,水 890ml,接種用発酵液
10ml(接種量は発酵液の 1%)で 1L とし,栄養源として酵母
エキス,大豆オカラ,無機物(リン酸水素二カリウム,クエ
ン酸水素二アンモニウム,酢酸ナトリウム,硫酸マグネシ
ウム,硫酸マンガン)を加えた.攪拌は 60rpm,培地は温度
が設定値に上がったところで菌体を接種した.pH 電極は
pH コントローラに接続され,発酵液の pH が設定値を下回
るとアンモニア水溶液が滴下される仕組みとなっている.
このため,発酵液の段階では乳酸ではなく乳酸アンモニウ
ムとして存在する.
2-2 基準となる培地組成および
基準となる 培地組成および発酵条件
培地組成および 発酵条件
培地組成および発酵条件は昨年度に行った実験により
砂糖 100g,温度 54℃ ,pH6.20,酵母エキス 5g,大豆 5g
からのオカラエキスの使用を基準として条件を決定した.
株菌は数回基準条件により発酵をおこない,発酵が終了し
た時点で 10ml ずつ小分けし,接種に使用した.
2-3 最適な培地組成および
最適な培地組成および発酵条件の調査
な培地組成および発酵条件の調査
スクロース,温度,pH,酵母エキスの各パラメータの値
を変化させ発酵速度に及ぼす影響を調べた.各パラメータ
を調査する際,他のパラメータは 2-2 で示した基準値に固
定し発酵をおこなった.発酵は 20 分以上 pH の変化がない
場合に終了とし,最大 48 時間までとした.
(1) pH と発酵時間
pH は 5.5,5.8,6.0,6.2,6.4,6.6,および 7.0 の 7 種類
実験を行った.
(2) 温度と発酵時間
温度は 44,49,52,54,56,59 および 61℃の 7 種類の
実験を行った.
(3) 砂糖量と発酵時間
スクロースは 75,90,100,110,125,および 150g の 6
種類の実験をおこなった。培地条件として砂糖と水の合計
が 990g となるように水の量も調整を行った.
(4) 酵母エキスと発酵時間
酵母エキスは 2.5,5.0,7.5 および 10g とし,それぞれ大
豆オカラエキスの有無の計 8 種類を行った.
PC
USB logger
Metering pump
Motor
pH controller
pH electrode
Water bath
29% ammonia
Fig. 1 Appearance of batch fermentation ph control by
ammonia
3.結果および考察
.結果および考察
発酵液は,保存日から 1 週間後,3 週間後,5 週間後に基
準条件により発酵をおこなった結果,それぞれ発酵終了時
間が 20 時間 1 分,20 時間 12 分,19 時間 58 分で誤差は 1%
未満であった.これにより菌体の保存状態が良好であると
確認された.そのため毎回アクチベーションを行う必要が
なく安定的に発酵を行う事ができた.
発酵終了後に各サンプルは HPLC 定量分析を用い,残留糖
分量により発酵率を求めた.
3-1 pH と発酵時間
図 2 に pH と発酵終了時間の関係および各プロットに発酵
率を示す.pH6.2~pH6.4 の間での発酵終了時間が 20 時間
前後と最も早かった。この条件が菌体にとって最も良い活
動環境であることがわかった。この pH の範囲から外れるに
つれ発酵時間が長くなり,PH5.0 と PH7.0 は 48 時間以内
に発酵が終了しなかった.
30
90.4%
85.6%
99.0%
99.1% 99.1%
20
99.0%
99.1%
99.0%
10
0
5.4 5.6 5.8
6 6.2 6.4 6.6 6.8
pH
7
Fig. 2 Relationship between pH and fermentation time
3-2 温度と発酵時間
図 3 に温度と発酵時間の関係および各プロットに発酵率
を示す.52℃~56℃の間での発酵終了時間が 20 時間前後と
最も早かった。この条件が菌体にとって最も良い環境であ
ることが分かった。温度が 59℃から 61℃に 2℃上昇すると
発酵速度が半減し発酵が終了しなくなった.
Fermentation time [h]
50
85.6%
99.2%
40
30
99.1%
99.1% 99.6%
100
99.1%
10
0
42 44 46 48 50 52 54 56 58 60 62
Temperature [℃]
Fig. 3
Relationship between temperature and fermentation
time
Fermentation time [h]
50
Table 1
90
80
70
60
50
40
10g
30
7.5g
20
5g
10
2.5g
0
99.5%
40
30
0
99.3%
20
99.1%
99.1%
98.9%
98.6%
10
5
10
15
Yeast extract [g]
20
Fig. 5 Relationship between fermentation time and rate
Table 2 Relationship between yeast extract, soy extract
and fermentation
Soy extract
No use
use
0
70 80 90 100 110 120 130 140 150
Sucrose [g]
Fig. 4
3-4 酵母エキスと発酵時間
図 5 に大豆オカラエキス使用しない場合の発酵時間と発
酵率の関係を示す.表 2 に酵母エキスと発酵時間,発酵率
の関係を示す.酵母エキス 2.5g から 2 倍の 5g に増やすと
発酵時間が 18 時間,47.8%短縮された.5g から 7.5g に増
やすと 5 時間短縮され,7.5g から 10g に増えると 2 時間短
縮されているが効果は小さくなっている.図 5 の 5hでの
発酵率を確認すると 5,7.5,10g ともに発酵率が約 20%と
大きな差がでていない.これは菌体の増殖速度の限界に対
して,栄養の濃度が高いため相対的に効果が小さくなり発
酵時間(速度)にも限界があると思われる.
大豆エキスの効果についてみると酵母エキスを同量使
用した場合を比較すると発酵終了まで 5 分から 10 分程度の
差しかなく,酵母エキスが少ない場合でも効果的な影響は
見られなかった.
rate [%]
99.1%
20
3-3 スクロース量と発酵時間
スクロース量と発酵時間
図 4 にスクロースと発酵時間の関係および各プロットに
発酵率を示す.表 1 にスクロースと発酵時間,発酵率,発
酵速度および乳酸 100g 発酵に必要な発酵時間,水使用量を
示す.1 時間当たりの発酵量はスクロース 75gが約 5.5g
/ℓと最も早く,スクロースの割合が増すにつれ、1 時間当
たりの発酵速度は低下した.しかしスクロース 75g と 110g
を比較すると 100g 発酵するのに必要な時間が 75g の方が
10%程度短いのに対し,水の使用量が 50%程度増加すること
になる.
Fermentation
[h]
40
Fermentation time
50
Relationship between sucrose and fermentation time
Relationship between sucrose and fermentation time
Sucrose [g]
75
90
100
110
125
150
Fermentation time [h]
13.8
17.1
20
22.8
31.5
47.9
Fermentation rate [%]
98.6
98.9
99.1
99.1
99.3
99.5
Average conversion
rate [g/ℓ・h]
Fermentation time
[h/100g]
5.44
5.27
4.99
4.82
3.97
3.13
18.4
19
20
20.7
25.2
31.9
1.23
1.01
0.9
0.81
0.7
0.57
Water [ℓ/100g]
Fermentation
Fermentation
extract [g]
yeast
Time [h]
Ratio [%]
2.5
38.7
5
Time [h]
Ratio [%]
99.1
38.5
99.2
20.2
99.1
20.0
99.1
7.5
15.2
99.0
15.1
99.1
10
12.9
98.9
12.8
99.0
参考文献
Tina Michelson, Karin Kask, Ene Talksep, Indrek Suitso, Allan
Nurk, L(+)-Lactic acid producer Bacillus coagulans SIM7 DSM
14043 and its comparison with Lactobacillus delbrueckii ssp.
Lactis DSM 20073, Enzyme Microb Technol, 39 (2006) pp.
861-867.
全人工膝関節置換術後における膝蓋大腿関節面の接触圧力評価
Estimation of Contact Pressure on Patellofemoral Joint after Total Knee Arthroplasty
○学 齊藤 太亮(九産大) 正 日垣 秀彦(九産大) 正 下戸 健 (九産大)
非 松田 秀一(九州大) 非 三浦 裕正(愛媛大)
Daisuke SAITO, Kyushu Sangyo University, 2-3-1 Matsukadai, Higashi-ku, Fukuoka
Hidehiko HIGAKI and Takeshi SHIMOTO, Kyushu Sangyo University
Shuichi Matsuda, Kyushu University
Hiromasa MIURA, Ehime University
Key Words : Total knee arthroplasty, Paterllofemoral joint, Contact pressure
1. 緒 言
高齢社会の進行に伴い,慢性関節リウマチや変形性関節
症など重度の機能障害を有する患者が急増している.これ
に対し,保存療法および手術療法が用いられている.重度
の機能障害や保存療法を用いることが困難な場合は,手術
療法が用いられている.手術療法には,除痛可動性や支持
性のある関節機能を再建する手術療法として,人工関節全
置換術(Total Knee arthroplasty, TKA)が多用されており,
生活の質(Quality of life, QOL)の改善に貢献している.
整形外科領域において,手術手技の進歩やインプラント
デザインの改良などにより,正座など深屈曲を可能とする
人工膝関節が多く用いられるようになってきた.大腿骨コ
ンポーネントの形状に合わせて膝蓋骨コンポーネントも置
換されるが,深屈曲時には,大腿四頭筋の緊張により膝蓋
大腿関節(patellofemoral joint, PFJ)に大きな負荷が掛かる
ため,PFJ における合併症の増加や屈曲角度の低下が懸念
される.PFJ では,歩行時には体重の約 0.5 倍の荷重が荷
かり,階段昇降時には約 3.3 倍もの負荷が荷かるとされて
いる.さらに,人工関節のサイズと形状も PFJ に荷かる荷
重に大きく影響している 1, 2).そのため,人工膝関節の評
価には大腿骨コンポーネントと脛骨コンポーネント間の機
能評価だけではなく,大腿骨コンポーネントと膝蓋骨コン
ポーネント間の評価を行うことが重要だと考えられる.そ
こで本研究では,人工関節置換膝における大腿骨コンポー
ネント,脛骨コンポーネントおよび膝蓋骨コンポーネント
の相対関係を再現し,各屈曲位において,PFJ 面間の接触
圧力を計測することを目的とした.得られた結果から PFJ
の接触状態について考察した.
Femoral component
Polyethylene insert
Patella component
Tibia component
Fig.1 Artificial knee joints of CR type
Load
Patella tendon model
Actuator device
2. 対象および考察
対象には,臨床で応用されている後十字靱帯温存型
(Cruciate-Retaining, CR)人工膝関節を用いた(図 1).CR
型人工関節は骨量が十分にあり,靭帯が関節の安定性を保
っていると医師が判断した場合に適用される.アルミ合金
で作成した大腿骨および脛骨のモデルに対し置換を行った
人工関節置換膝モデルを作製した.大腿骨は生体と同様に
骨軸に対し骨体を約 7deg 傾かせている(図 2)
.膝蓋腱モ
デルは,脛骨粗面から膝蓋骨を介し大腿四頭筋に至る解剖
学的な位置を再現した.脛骨側のスライダによって,膝蓋
腱を調整することができ,膝蓋骨コンポーネントの位置を
微調節することができる.人工関節置換膝モデルは屈曲角
度を 90deg から 155deg までを 5deg 刻み,内旋/外旋を 0deg
から 20deg まで 5deg 刻みで設定することができ,大腿骨コ
Femoral component
Tibia component
Polyethylene insert
Patella tendon model
Patella component
Fig.2 Schematic of total knee arthroplasty model
Universal testing machine
INSTRON
120
100
Contact area, mm2
ンポーネントと脛骨コンポーネント相対関係も調節するこ
とができる.人工関節置換膝モデルと万能試験機(Instron
5867)を組合せ,大腿四頭筋に荷かる荷重を再現し,高引
張荷重にも耐えられるようにした(図 3)
.
80
60
40
20
n=5
0
110 11 5 120 12 5 130 135 140 145 150 155
Flexion angle, deg
Fig.4 Contact area between femoral component and patella component at
each flexion angle.
85
Total Knee Arthroplasty model
90
95
90
95
100
1 05
100
105
900
800
人工関節置換膝モデルの屈曲角度を 90deg から 150deg
の 10deg 刻みに変化させ,膝蓋腱モデルに万能試験機で
1000N の引張荷重を与え,その時の膝蓋骨コンポーネント
が大腿骨コンポーネントに与える接触面圧を測定した.面
圧測定にはタクタイルセンサ(ニッタ K‐SCAN 1.27mm
間隔の 26×22)を用い,膝蓋骨コンポーネントにおける接
触面積,接触圧力および接触位置を求めた.
3. 結果および考察
屈曲角度を 90deg から 150deg の 10deg 刻みで変化させた
ときの,大腿骨コンポーネントと膝蓋骨コンポーネント間
の接触面積,接触荷重,最大接触圧力をそれぞれ図 4 から
図 5 に示す.屈曲角度の増加に伴い接触荷重は増加すると
考 え ら れ た が , そ の よ う な 傾 向は 得 ら れ ず , 屈 曲 角 度
120deg で最も高い 754.7±42.1N を示し,屈曲角度 100deg
で最も低い 324.9±8.6N を示した.これは,装置の大腿四頭
筋と膝蓋腱に剛性の高い部材を使用したため,荷重が荷か
った際に膝蓋骨コンポーネントの自由度を制限してしまい,
荷重ベクトルと接触面の法線ベクトルが一致せず,正確な
値を得られなかったと考えられる.最大接触圧力において,
全ての屈曲角度で 20MPa 以上の高い値を示し,屈曲角度
110deg で最も高い 28.8±0.2N を示した.荷重ベクトルと接
触面の法線ベクトルが一致した場合,値はさらに高くなる
と考えられる.生体の大腿骨は骨軸に対し骨体が約 7deg
傾いているため,大腿骨コンポーネントと脛骨コンポーネ
ントの両顆を接触させたまま,内旋/外旋させずに屈曲させ
た場合,膝蓋骨コンポーネントは外側に引っ張られる.PFJ
面間の接触荷重が高く,接触面積が狭く,最大接触荷重が
高い場合,PFJ 合併症が懸念される.
4. 結 言
作製した人工関節置換膝モデルと万能試験機を用いて,
PFJ 面間の力学試験を行い,接触状態について考察した.
装置の大腿四頭筋と膝蓋腱を高引張荷重に耐えられ,生体
に近い部材にすることで,PFJ に荷かる力や,大腿四頭筋
と膝蓋腱に荷かる張力を測定することができると考えられ
る.人工膝関節のサイズや形状によって PFJ の接触圧力は
600
500
400
300
200
100
n=5
0
110 115 120 125 130 135 140 14 5 150 15 5
Flexion angle, deg
Fig.5 Contact load between femoral component and patella component at
each flexion angle.
85
35
Maximum contact pressure, MPa
Fig.3 Appearance of test apparatus
Contact load, N
700
30
25
20
15
10
5
0
n=5
90
100
120 12 5 130 135 140 1 45 150 1 55
85
95
1 05 110
1 15
Flexion angle, deg
Fig.6 Maximum contact pressure between femoral component and patella
component at each flexion angle.
異なるため,本システムのような力学試験を行うことは,
TKA の術式や人工関節の選定,PFJ 合併症の低減に有用な
情報を与えると考えられる.
文 献
1)
2)
Sierra RJ, Berry DJ, “Surgical technique differences between
posterior-substituting and cruciate-retaining total knee
arthroplasty”, the journal of arthroplasty, Vol.23, (2008), pp.20-23.
Matsuda S, Ishinishi T, White SE, Whiteside LA, “Patellofemoral
joint after total knee arthroplasty. Effect on contact area and contact
stress”, the journal of arthroplasty, Vol.12, No.7, (1997), pp.790-7.
生体関節における 6 自由度動態解析手法を用いたスクワット動作時の機能評価
Functional Assessment of the Natural Knee Joints during Squat Activity
using the 6-DOF Motion Analysis Method
○学 池部 怜(九産大) 正 白石 善孝(九産大) 正 下戸 健(九産大) 正 日垣 秀彦(九産大)
正 中西 義孝(熊本大) 非 三浦 裕正(愛媛大)
Satoru IKEBE, Kyushu Sangyo University, 2-3-1 Matsukadai, Higashi-ku, Fukuoka
Yoshitaka SHIRAISHI ,Takeshi SHIMOTO and Hidehiko HIGAKI, Kyushu Sangyo University
Yoshitaka NAKANISHI, Kumamoto University
Hiromasa MIURA, Ehime University
Key Words : Natural knee joint, 6-DOF motion analysis, Helical axis, Cruciate ligament, Squat activity
1. 緒言
膝に関するバイオメカニクスにおいて,生体関節の動態
パターンを解明することが重要視され,生体関節を対象と
した様々な動態解析手法が研究されている.生体膝の動態
を明らかにすることができれば,靭帯付着部位間における
変位量の解析や,種々の関節疾患に対する診断など,様々
な分野での大きな発展も期待できる.しかし,生体関節を
対象とした解析を行う場合の問題点として,骨の輪郭を利
用した解析手法では,X 線画像を 2 値化処理する際に正確
な骨の輪郭を抽出する技術について議論されており,精度
検定においては,整形外科領域で有効とされている平均誤
差 1.0mm,1.0deg 以内を満たしていない変位も散見できる
1, 2)
.さらに,特殊な植込み機器を用いた解析では,侵襲の
問題があり生体での検証は憚れている 3).そこで本研究で
は,CT 画像から作成した投影シミュレーション像と FPD
から得られる 1 方向 X 線動画像の各ピクセルにおける画素
値の画像相関を利用した 6 自由度動態解析手法を用いるこ
とで,生態膝関節の動態解析を行った.本報では,日常生
活に欠かすことができない,しゃがみ込んだり立ち上がっ
たりする動作であるスクワット動作に着目した.従来解析
困難であった in vivo での健常膝高屈曲位のキネマティクス
について,ヘリカル軸を用いて評価を行った.さらに,日
本人特有の動作である正座等の高屈曲動作などにおいて,
十字靭帯に相当の負荷がかかっていることが知られている.
そこで,大腿骨と脛骨の十字靭帯付着部位間を算出し,十
字靭帯の機能評価についての考察を行った.
2. 対象と手法
成人男性 5 名の健常な 5 膝を対象とした
(被験者 A~E)
.
撮影時の平均年齢 30.0±1.1 歳,平均体重 68.0±8.8kg であ
った.被験者の撮影には CT(画素数 512×512pixel,画素
サイズ 0.351×0.351mm,スライス幅 1.0mm)と FPD(画素
数 1536×2046pixel,画素サイズ 0.353×0.353mm)を用い
た.CT 撮影では,膝関節を中心に約 200mm を撮影した.
FPD 撮影では,平面センサー中央付近に片膝関節が収まる
ように立脚し,最伸展位から被験者自身が曲げることがで
きる最大屈曲位まで屈曲し,再び最伸展位に達するまでの
過程を側面より連続撮影した(図 1)
.
被験者から得られた CT 画像データより,骨情報を含ん
だグレースケール 3 次元モデルの構築した.このグレース
ケール 3 次元モデルをコンピュータ上で任意の空間に配置
し,光源および投影面を FPD 撮影時と同様の条件とするこ
とで,6 自由度に変化できる投影シミュレーション像を作
成した.FPD 撮影より得られた X 線動画像に対し,画像相
関を用いたイメージマッチングを行うことにより,生態膝
関節の動態解析を行った.本手法の精度は,整形外科領域
X-ray source
Flat panel
Flexion
Extension
Fig.1 View of natural knee during squat activity
で有効とされる平均誤差 1.0mm,1.0deg 以内に収まってい
ることを確認している 4).脛骨と大腿骨の相対座標系の定
義は,Andriacchi, et al. の文献と同様となるように定義した
5)
.ヘリカル軸を用いた動態の評価方法は,脛骨と大腿骨
の 6 自由度運動の結果を基に,脛骨に対する大腿骨の動態
を 1 つの回転軸(ヘリカル軸)として算出し,ヘリカル軸
の変位を軌跡として評価した.十字靱帯付着部位間の変位
量解析では,前十字靱帯(Anterior cruciate ligament, ACL)
と後十字靱帯(Posterior cruciate ligament, PCL)の付着部位
付近を Zantop T, et al. の文献 7)を参考に,解剖学的に同様
となるようにそれぞれ定義した. ACL に関しては,機能
束ごとに前内側部束(Anteromedial bundle, AM bundle)と後
外側部束(Posterolateral bundle, PL bundle)に分類し,付着
部位中央間の距離をそれぞれ計測することにより,スクワ
ット動作時の変位量解析を行った.
3. 結果・考察
最大屈曲角度が最も小さかった被験者 Aと最大屈曲角度
が最も大きかった被験者 D について,スクワット動作を最
伸展位からの屈曲および最大屈曲位からの伸展として評価
した.屈曲/伸展におけるヘリカル軸の軌跡をそれぞれ図 2
と図 3 に示す.最伸展位からの屈曲では,全被験者ともヘ
リカル軸のメディアルピボットでの外旋運動の傾向が確認
できた.しかし,被験者 A の屈曲角度約 110deg から最大
屈曲位において,ヘリカル軸の前後および上下方向の変位
が確認できた.被験者 D においては,屈曲に伴うヘリカル
軸の後方変位,および最大屈曲位におけるヘリカル軸の下
方変位を確認することができた.これは,ロールバックの
動態を示していると考えられる.最大屈曲位から伸展にお
ける結果では,全被験者とも内旋運動の傾向が確認できた
Extension
Medial
Subject
Flexion
Extension
Flexion
Lateral
Displacement [mm]
110deg
Medial
Inferior
Posterior
Subject A
Lateral
B
C
D
E
ACL (AM and PL bundle)
AM bundle
45
Superior
Anterior
50
A
40
35
30
25
20
PL bundle
15
10
-30 0 30 60 90 120 150 180
Extension
Flexion
Rotation [deg]
PCL
60
Subject D
Superior view
Posterior view
Fig.2 Motion of femur with respect to the tibia using
helical axis in flexion
Lateral
が,被験者 A においては,外旋運動を示す位相の存在が確
認できた.他の被験者とは異なった動態を示しており,不
安定な動態となっていることが考えられ,最大屈曲角度が
小さくなったと推察できる.最大屈曲角度が大きかった被
験者 D においては,伸展に伴うヘリカル軸の前方変位およ
び上方変位が確認できた.
屈曲/伸展に伴う各十字靭帯付着部位間の変位量結果を
図 4 に示す.実線は最伸展位からの屈曲を示し,破線は最
大屈曲位からの伸展を示している.ACL 付着部位間距離の
結果では,AM bundle および PL bundle の両束において,全
被験者とも靱帯付着部位間距離は屈曲に伴い接近し,伸展
に伴う伸張が確認できた.さらに,全被験者とも,PL bundle
は AM bundle に比べ絶対的変位量が大きな傾向が確認でき
た.最大屈曲角度が大きかった被験者 D では,最大屈曲位
において,AM bundle および PL bundle 付着部位間距離が,
それぞれ約 4mm と約 6mm の急激な伸びを示していること
が確認できた.PCL 付着部位間距離の結果では,全被験者
とも屈曲に伴い靱帯付着部位間距離は伸張が確認できた.
さらに,被験者 D では,最大屈曲位において,ACL 付着部
位間距離の結果で見られたような大きな変位は見られなか
Displacement [mm]
45
40
35
30
20
-30 0 30 60 90 120 150 180
Extension
Flexion
Rotation [deg]
Fig.4 Displacement of cruciate ligaments adhesion
areas during squat activity (Right knee)
Medial
Subject D
Superior view
Posterior view
Fig.3 Motion of femur with respect to the tibia using
helical axis in extension
50
25
Inferior
Posterior
Subject A
Superior
Extension
Anterior
Flexion
Medial
Lateral
55
った.これは,最大屈曲角度が大きかった被験者 D は,屈
曲に伴うヘリカル軸の後方変位および下方変位が示してい
たことからも,PCL が緊張しロールバックを引き起こして
いると考えられる.さらに,ロールバックによる過剰な後
方変位を抑制するため,ACL が急激な伸びを起こしている
と推察できる.
4. 結言
生態膝関節を対象としたスクワット動作時の動態と十字
靭帯の機能評価を行った.高屈曲を含むスクワット動作に
おいて,ACL および PCL の緊張により起こるとされてい
るロールバックの動態を評価することができた.ACL 付着
部位間の測定においては,AM bundle および PL bundle の 2
束の機能束として評価することで,靭帯再建術において 2
束 ACL 再建術の重要性を示したことができたと推察され
る.本手法を用いることで,サポータの機能評価および開
発支援,さらに膝関節疾患にかかわる術式や診断の支援技
術として臨床応用が期待できる.
1)
2)
3)
4)
5)
6)
参考文献
西村生哉,他,生体医工学,44(1), 77-84, (2006).
Moro-oka T, et al., J Orthop Res, 25(7), 867-872, (2007).
Lafortune MA, et al., J Biomech Eng, 25(4), 347-357, (1992).
日垣秀彦,
他,
日本機械学会論文集
(C 編)
,
75(755), 148-154, (2009).
Andriacchi TP, et al., J Biomech Eng, 120(6), 743-749, (1998).
Zantop T, et al., Oper Tech Orthop, 15(1), 20-28, (2005).
104
制御系設計ツールによる船舶操縦運動モデルの構築
A Model of Ship Maneuvering Motion by Control System Design Tools
○学 中村 彰(鹿児島高専) 宝地 優輔(鹿児島高専) 正 岩本 才次(鹿児島高専)
Akira NAKAMURA, Kagoshima National College of Technology, shinko 1460-1, hayato-cho, kirishima-shi,
Kagoshima
Yusuke HOCHI, Kagoshima National College of Technology,
Seiji IWAMOTO, Kagoshima National College of Technology,
Ke y Wor ds : Control System, Maneuvering Motion, Design
1. 緒言
船舶の運行支援システムが様々な角度から検討されてい
るが,航空機に搭載されている ILS(Instrument Landing
System)のような完成度の高い自動着桟システムはいまだ
に実用化されていない .
船舶の制御系を設計するためには, 船舶の操縦性能を正
確に知ることが重要である.制御系設計 のためにコンピュ
ータ言語で記述された数学モデルは,できれば制御系設計
ツールと同じ言語体系で構成されていることが 望ましく,
そうすることによって 設計作業の効率が向上する.
本研究では,自動制御システム設計の基礎となる,外乱
を考慮にいれた船舶の操縦運動数学モデルを導出し,その
基礎式に基づいて,制御系設計ツールである MATLAB/
Simulink 言語を用いて,計算機上に船舶操縦運動モデルを
構築した.その結果,制御系設計に便利な船舶操縦運動 モ
デルによる計算機シミュレーション が実行可能になったの
で,その概要を報告する.
2. 制御対象の非線形モデル
船舶の非線形操縦運動方程式 と回頭角 ψ および空間固定
座標系における船体重心位置( x 0¢ , y 0¢)は潮流を考慮すると
Fig. 1 の座標系を用いて, (1)式のように定式化される.
ü
ö
L ö æ U&
&
÷ç cos b - b sin b ÷+ ( m ¢ + m ¢y ) r ¢ sin b ï
èU øèU
ø
ï
ï
æ VC ö
- ( m x¢ - m ¢y ) ç ÷r ¢ sin ( QC -y ) = X ¢ ï
èU ø
ï
ï
&
æ
ö
L
U
æ ö
- ( m ¢ + m ¢y ) ç ÷ç sin b + b& cos b ÷+ ( m ¢ + m ¢x ) r ¢ cos b ï
ï
èU øèU
ø
ï
æV ö
- ( m ¢x - m ¢y ) ç C ÷r ¢ cos ( QC -y ) = Y ¢ ïï
èU ø
ý (1)
2
ï
L ö æ U&
U ö
æ
ï
( I ZZ¢ + i ZZ¢ ) ç ÷ ç r ¢ + r&¢ ÷ = N ¢
L ø
ï
èU ø è L
ï
U
ï
y& = r ¢
ï
L
ï
U
ï
x&0¢ = cos (y - b )
L
ï
ï
U
y& 0¢ = sin (y - b )
ï
L
þ
( m ¢ + m ¢x ) çæ
ただし, m , I zz は船の質量及び z 軸回りの慣性モーメント,
m x , m y , i zz は船 x 軸方向と y 軸方向の付加質量及び z 軸回
りの付加慣性モーメントである .L ,U は船長及び船速,r, β
(社)日本機械学会 九州学生会
第 42 回卒業研究発表講演会(No.118-2)論文集 2011/3/11
Fig. 1 Coordinate systems
は回頭角速度及 び横流れ角である.X , Y , N は船体に働く外
力の x ,y 軸方向成分及び z 軸回りのモーメントであり ,
MMG モデル 1)の考えに従って定式化されている.添え字
の“ ' ”は無次元量,“・”は変数の時間に関する一回微分
を表わす.また x 0¢ = x 0 / L , y 0¢ = y 0 / L である.
(1)式は潮流(流速:V C , 流向:QC )を考慮しており, この
とき,潮流に対する船の速度(対水速度)と地面に対する船
の速度(対地速度)は区別しなければならず, 対水速度お
よび対水横流れ角を U% , b%とする.これらから(1)式右辺の船
に働く流体力 X , Y , N が計算される.
3. MATLAB/Simulink による操縦運動方程式 の表現
Fig. 2 に MATLAB/Simulink によって記述された船の操縦
運動システムを示す.図中央の Subsystem ブロックが船を
表しており,その中は U , b , r について解くための常微分
方程式がブロック線図で記述されている.外乱は潮流,風,
波,操作部は舵,サイドスラスター,プロペラである .
4. 計算機シミュレーション と考察
潮流がない場合の,旋回中の船体重心の軌跡と 50 秒毎
の船体位置を Fig. 3 に示す.図の縦軸および横軸は航走距
離を船長で割った無次元値である.計算条件は,初期船速
12 ノット,時刻 0 秒から操舵を開始し,最終舵角は 20 度
である.旋回径は約 7 船長,360 度回頭に要する時間は約
800 秒である.定常旋回時には船速は 20%程度低下する.
Fig. 2 Block diagram of ship maneuvering motion by MATLAB/Simulink
潮流がある場合の船の旋回軌跡を Fig. 4 に示す.Fig. 3
と同様に船体重心の軌跡と 50 秒毎の船体位置を示してい
る.計算条件は,流速 2 ノット,流向 135 度の潮流が時刻 0
秒においてステップ 状に生じるものとし ,潮流以外の計算
条件は Fig. 3 と同じである.旋回軌跡は潮流の流向 135 度
方向に流されることが 分かる.潮流に逆らう時と従う時の
船速は対地速度では減速と増速を繰り返す.
5. 模型船製作
硬質ウレタンを用いて製作した縮率 1/125 の模型船を
Fig. 5 に示す.
今後この模型船を用いた実験によって,構築されたシミ
ュレータの流体力微係数に修正を施し,より正確な船の操
縦運動モデルを作成する予定である.また,船体運動に及
ぼす外乱の影響についても調査する予定である.
Fig. 3 Trajectory of turning motion without current
(U 0=12knot, δ=20deg)
Fig. 5 Model ship of SR108 container ship
6. 結言
Current
本研究の結果,次の結論を得た.
(1)通常船速における SR108 コンテナ船の操縦運動モデル
を,制御系設計ツールである MATLAB/Simulink によっ
て構築した.
(2)計算機シミュレーションの 結果,外乱の方向に沿った自
然な船の運動を表現することができた .
(3)定速直進中の船舶は,操舵開始と同時に船速低下を生じ,
定常回頭時には船速は静定する.
文 献
1)
Fig. 4 Trajectory of turning motion with current
(U 0=12knot, δ=20deg, Vc =2knot, Θc =135deg)
小川陽弘,小山健夫,貴島勝郎:MMG 報告-Ⅰ操縦
運動の数学モデルについて,日本造船学会誌,
575(1977),pp.22-28.
105
踵痛の軽減を目的としたスプリング式シューズクッションの開発
Development of Spring-Type Shoes Cushion for Relieving A Heel Pain
○学 後藤 大智(長崎大) 学 近藤 豪仁(長崎大)
【指導教員】 正 才本 明秀(長崎大) 正 本村 文孝(長崎大)
Daichi Goto, Nagasaki University, 1-14 Bunkyo-machi, Nagasaki 8528521, Japan
Takehito Kondo, Nagasaki University
Akihide Saimoto, Nagasaki University
Fumitaka Motomura, Nagasaki University
Key Words : Shoes Cushion, Heel Pain, Muscle Activity, Strain Gage, Biomechanics
1.緒 言
スポーツ障害などによる踵や膝の痛みは,運動性能の低
下を招くだけでなく,長期にわたって運動が継続できない
場合には廃用症候群と呼ばれる運動機能の危機的障害を引
き起こすことがある.スポーツ障害による痛みを少しでも
軽減できれば早期のリハビリが可能となり,結果として怪
我の発生から復帰までの期間を大幅に短縮できる可能性が
ある (1).そこで本研究では、普段履き慣れたシューズの外
側から装着でき,歩行または走行時の踵の痛みを軽減する
ことで,運動の継続をはかることを目的とした機械式シュ
ーズクッションの開発を行った.
まず,足が地面に接地する際の衝撃を吸収し,足への負
担を軽くできるようなスプリング式のクッション機構を考
案し,クッションを試作した.さらに,クッション装着時
と非装着時における被験者の筋活動量をひずみゲージを用
いて計測し,製作したシューズクッションの有効性を確認
した.
2.シューズクッション装置の概要
本研究で開発したスプリング式シューズクッション装置
を図 1 に示す.本装置は,ピン結合された三角形状の突起
を接地面に押し当てると,内蔵されているスプリングを伸
ばしながら衝撃を吸収するような機構となっている.用い
たスプリングはバネ定数 1.6N/mm の引きばねであり,ばね
を 3 本並列に使用することで 1000N までの踏み込み荷重に
耐えられるよう設計した.
(a) side view
(b) back view
Fig.1 Developed shoes cushion
(社)日本機械学会 九州学生会
第 42 回卒業研究発表講演会(No.118-2)論文集 2011/3/11
Fig.2 Simplified model of developed cushion
Fig.3 Load-displacement diagram
図 2 に製作したシューズクッションのモデル図を示す.
クッションの接地部が地面より受ける力を P で,また,荷
重に応じたスプリングの伸びを x で表わしている.本装置
の場合,線形スプリングを用いても荷重 P とスプリングの
伸び x の間には非線形関係が成り立つことが分かった.図
3 にオートグラフで荷重 P を負荷した際の押し込み荷重と
荷重点変位の関係を示す.図 2 で角 ACB が 180 度に近付く
と押し込み荷重がほぼ一定となったまま変位のみが増加す
るようになる.また,図 3 から明らかなように負荷時と徐
荷時の荷重―変位履歴が異なっており,これはクッション
内の連接棒やピンなどにおける摩擦によるものと考えられ
る.
3.シューズクッションの効用の計測
3.1 筋活動量の計測 ひずみゲージを取り付けたアルミ
薄板製のバンドを被験者の太腿と脹脛に巻きつけて歩行時
の動ひずみを計測した(図 4).なお本報告では,バンド取
付け部の筋肉の太さの変化量を筋活動量と呼ぶことにする.
図 5 に筋活動量の計測結果を示す.図 5 で筋活動量の絶対
値には意味が無いが,太腿の筋活動量を表わす実線と,脹
脛の筋活動量を表わす点線の経時変化を読み取ることがで
きる.なお,図 5 では,被験者の歩行が 6 歩でサンプリング
タイム 10Hz に対して得られた太腿の筋活動量の最小値と
脹脛の筋活動量の最大値がそれぞれ縦軸でゼロの値となる
ように図示されている.また図 5 中の(ⅰ)~(ⅳ)に相当す
る歩行体勢を図 6 に示す.図 5,6 から,シューズクッショ
ン装着時と非装着時共に踵が地面に接地した瞬間の状態
(ⅰ)では,太腿と脹脛の双方とも筋活動量が小さいことが
分かる.その後,足裏が完全に地面に接地している状態(ⅱ)
から太腿の筋活動量は徐々に増加し,逆に脹脛の筋活動量
は減少し始める.そして,つま先のみが地面に接地してい
る状態(ⅲ)で脹脛の筋活動量は最小となり,つま先で地面
を蹴ることで足が地面を離れる瞬間の状態(ⅳ)で最大の筋
活動量に達する.なお,筋活動量の変化幅に注目すると,
クッション装着時は非装着時に比べ太腿では大きく,逆に
脹脛では小さくなっていることが分かる.このことは,本
装置の装着により脹脛筋の運動が補助されていることを示
唆している.また,状態(ⅰ)から状態(ⅱ)に移行するまで
の経過時間に注目すると,クッション装着時のほうが長く
なっており,足裏が接地して体重が乗るまでの時間を遅延
させることが分かった.
Enlargement
(ⅰ)
(ⅳ )
(ⅱ)
Fig.6 Characteristic point during walking
3.2 歩行時における足首角度 被験者の足首の角変化を
計測できるようマーキングを施し,クッション装着時と非
装着時における足首の角度変化を調査した.クッション装
着により足首の変化角度が小さくなれば,例えばアキレス
腱等に痛みを感じる際の歩行運動を補助する効果が期待で
きる.図7に足首角度の計測結果を示す.図に示されるよ
うに,クッション装着時は非装着時に比べ歩行時の足首の
角度変化(足底を結ぶ線と踝と膝を結ぶ線のなす角度)が
若干小さくなるという結果が得られた.この結果より装置
を装着することで歩行時のアキレス腱等の痛みの軽減に効
果があることが期待される.
((a)Without cushion(⊿θ=21.4°)
Fig.4 Measurement of muscle activity
(a) Without cushion
(ⅲ)
(b)With cushion(⊿θ=6.8°)
Fig.7 Change of ankle angle during
walking
4.結言
本研究で試作したシューズクッションを装着して歩行す
ることで,脹脛は非装着時に比べ少しの筋活動量で歩行で
きるが,逆に太腿には多くの筋活動量が必要になることが
分かった.また,足が着地する際の時間を引き延ばす効果
によるクッション性やアキレス腱等の痛みの軽減が期待で
きることが分った.
今後は筋活動量と足の痛みの軽減の相関を詳細に調査す
る必要がある.また,クッションを軽量化するとともに,
装着時の歩きにくさを解消することも急務と考えている.
参考文献
(b) With cushion
Fig.5 Measured muscle activity
1.
http://bio-m.jp/index.html, エスエスエル ヘルスケア ジャパ
ン株式会社, ウォーキングサポートインソール
カニクス
HP
バイオメ
106 バガス/ポリプロピレン複合材料の成形温度に及ぼす脱糖処理の影響
バガス/ポリプロピレン複合材料の成形温度に及ぼす脱糖処理の影響
Mechanical Behavior of Bagasse Fiber
Biodegradable Resign / Polypropylene Composites at Different Processing Conditions
○ 学 上原 出(琉球大学)
正 柴田 信一(琉球大学)
Uehara Izuru,Shibata Shinichi, University of the Ryukyu
Key words : bagasse fiber , polypropylene , composite
1.緒言
燃費向上やコスト低減を目的とした軽量化や容易な曲面部
品の製造の追求等から,プラスチックの使用割合が増加して
いる.その範囲は,内装部品に限らず,外装部品にまで及ん
でおり,特に高剛性・強度などが要求される場所には繊維強
化複合材料が多用されている.
カーボン繊維の強化材は高価で,ガラス繊維の強化材は比
重が大きい.そこでカーボン・ガラス繊維等に変えてバガス
繊維を利用することにより,環境に良く,低廉,軽量な高剛
性材料を提供することが考えられている.
当研究室ではこれまでバガス強化ポリプロピレンに関する
研究を行ってきた.しかしながら,バガス繊維強化ポリプロ
ピレンを 190℃以上で成形する際,成形体の“カラメル臭”
や金型表面に“ヤニ成分”が付着するという問題が判明した.
本研究はこれらの問題を改善し,射出成形して得る高性能で
安価な成形品を提供することが目的である.
2.実験方法
バガスを篩いにかけ,
それを 1kg/20L~1kg/320L
(5条件),
20℃~80℃(5条件)の温水で 1~3 回,洗浄し脱糖処理を
行った.温水洗浄したバガスを乾燥させ,さらに 24 時間,真
空下で充分乾燥させた.乾燥させたバガスを 0.94g,ポリプ
ロピレン 0.94gを秤量し,試料埋込プレス機に円形に切り取
ったアルミ箔,バガス 0.47g,ポリプロピレン 0.94g,バガ
ス 0.47gの順に入れ,250℃,150kgf/cm2 の条件で熱プレス
成形し,コンポジットを作製した(図1).アルミ箔を用い,
加工前と加工後で重量を比較し,ヤニの付着重量を測定した.
また,バガスを温水洗浄した際の溶媒を濾過後,HPLCで
糖分定量分析を行い,残留糖分を調べた.また,洗浄する際
の洗浄水に次亜塩素酸,塩化ナトリウム,硫酸,界面活性剤
をそれぞれ加え,コンッポジットを製作した.
Fig. 2 Relationship between elution time and intensity in
bagasse washed water and sucrose solution
Fig 3 は温水処理回数と残留糖分の関係である.HPLC
での残留糖分の定量分析を行ったところ,Fig3より未処理の
バガスに約4%~4.5%の残留糖分が存在することが判明し
た.温水処理は 1 回目で約 90%,2 回目で約 99%除去され,
3 回目ではスクロースは検出されなかった.
Fig. 3 Relationship between residual sugar and washing
frequency
Fig. 4 は1回目の温水処理における温水洗浄水量と残留糖
分の関係である.これより1kg あたり 40ℓ以上の温水で洗浄
すれば良いことが判明した.
Fig1. Press forming with the cylindrical mould
3.結果・考察
Fig2は洗浄水をHPLCで分析したもので,下側のクロマ
トグラムはスクロースである.Fig2で同じ溶出時間に同様
のピークが見られることから溶出したのはスクロースである
ことが判明した.
Fig. 4 Relationship between water and residual sucrose
in bagasse fiber
Fig 5 は温水洗浄水量とバガス繊維の重量減少率の関係で
ある.除去糖分は1kg あたり 40ℓ以上で変化はないが,重量
変化は水量が多いほど増加し,6.5%程度重量が減少した.よ
って,バガス繊維には残留糖分以外に水可溶成分が含まれて
いることが判明した.
Fig 8 は,実際作製したコンポジットである.80℃で 90 分
温水洗浄し乾燥させたバガス,20℃で 10 分水洗浄し乾燥さ
せたバガス,未洗浄で乾燥させたバガス,未洗浄・未乾燥の
バガスを用いた.高温で洗浄したバガスの方がより焦げが少
ないことが判明した.また乾燥させたバガスの方がより焦げ
が少ない事も判明した.
Fig 8 Appearance of bagasse /pp composites at
(a) 80C, 90min. boils dry BF, (b) 20C, 10min. boiling dry BF,
(c) Dry BF, no boiling, (d) Wet BF, no boiling.
Fig. 5 Relationship between water and weight loss
Fig 6 は温水洗浄時間,温度とバガス残留糖分の関係である.
20℃では洗浄時間を変化させても残留糖分量の変化は認めら
れなかった.40℃,60℃では洗浄時間が長くなると残留糖分
が減少した.80℃では 10 分と短い時間でも 90%の糖分が除
去されることが判明した.
Fig 9 は,コンポジット製作の際アルミ箔の比較である.未
洗浄のバガスのコンポジットはヤニが付着している様子が明
確にわかるが,洗浄したバガスのコンポジットはヤニ成分が
ほとんど見られない事から洗浄によってヤニ成分が減少する
事が判明した.これは Fig7 からも同様の結果が得られた.
Fig 9 Appearance of aluminum foils after press forming at
(a) 80C, 90min. boiling dry BF, (b) 20C, 10min. boiling dry BF,
(c) Dry BF, no boiling, (d) Wet BF, no boiling.
Fig. 6 Relationship between treatment time and residual
sucrose
この結果より,温水洗浄は 60℃以上,20 分の一定条件で
行うこととした.
Fig 7 は未洗浄・未乾燥,未洗浄・乾燥,20℃10 分洗浄・
乾燥,80℃90 分洗浄・乾燥の 4 つの条件のバガス繊維でコン
ポジットを製作した際,アルミ箔に付着したヤニ成分の重量
である.脱糖処理した方がヤニ成分の付着重量は小さいこと
がわかる.
Fig. 7 Relationship between weight of adhesion on
mold surface and bagasse treatment
脱糖処理したバガス繊維で製作したコンポジットは未洗浄
バガス繊維で製作したコンポジットより改善されたが,金型
温度 200℃以上では焦げが見られ,温度上昇に伴い,焦げは
広範囲に及んでおり,カラメル臭も残留したままであった.
イオン交換水に次亜塩素酸,塩化ナトリウム,硫酸,界面活
性剤をそれぞれ加え洗浄したバガスを用いコンポジットを製
作したが,明確な改善は認められなかった.
これは繊維自体がリグニンやヘミセルロースの糖で構成さ
れており,高温でそれらが溶出し,メイラード反応やカラメ
ル反応をしているためだと考えられる.
4.結言
バガス繊維を洗浄に残留糖分除去を行い,ポリプロピレン
とのコンポジットを作製して評価した.得られた結果は以下
の通りである.
1) 製糖工場から排出されたバガスは製糖処理の際に洗浄
されているものの残留糖分が 4%程度含有されていることが
判明した.
2)バガス繊維は 3 回の洗浄で残留糖分がほぼ除去すること
が出来た.
3)バガス繊維を洗浄する際にバガス重量の 20 倍,60℃以上
で洗浄すれば良いことが判明した.
4)バガス繊維中の残留糖分を除去すると金型へのヤニ成分
付着およびカラメル臭を除去することができた.
5)バガス繊維の水洗浄以外も試みたが明確な改善は認めら
れなかった.
人工膝関節用 6 軸トライボシミュレータを用いた PS 型人工膝関節の形状評価
Estimation of the Shape of PS Type Artificial Knee Joint using the Artificial Knee Joint 6-DOF Simulator
○ 学 伊藤 禎将(九産大) 正 日垣 秀彦(九産大) 正 下戸 健(九産大)
正 白石 善孝(九産大) 非 三浦 裕正(愛媛大)
Yoshiyuki ITOU, Kyushu Sangyo University, 2-3-1 Matsukadai, Higashi-ku, Fkuoka
Hidehiko HIGAKI, Takeshi SHIMOTO and Yoshitaka SHIRAISHI, Kyushu Sangyo University
Hiromasa MIURA, Ehime University
Key Words : Posterior-Stabilized type artificial knee joint, Contact Pressure, 6-DOF knee Simulator
1.緒言
全人工膝関節置換術(Total knee arthroplasty)において,十
字靱帯を切除する場合は後方安定(Posterior Stabilized, PS)
型人工膝関節が置換される.PS 型人工膝関節にはポストと
カムが設けられており,十字靱帯を失った膝の安定性に寄与
している.しかし,膝は複雑な 6 自由度運動を行うため,様々
な形状の PS 型人工膝関節が臨床で応用されている.本研究
グループでは,人工関節置換術の膝の動態解析を行っており
1,2)
,設計のコンセプトにはないと考えられる肢位を確認し
ている.そこで本研究では,臨床で使用されている PS 型人
工膝関節の 3 機種を対象に,人工膝関節用 6 軸トライボシミ
ュレータを用いて,コンポーネント同士の接触を再現し,人
工膝関節の形状について考察した.
Type A
Y
Type B
Y
X
Type C
Y
X
Lateral
Medial
Lateral
X
Medial
Lateral
Medial
Cross - section view of X
Anterior
Posterior Anterior
Posterior Anterior
Posterior
Cross - section view of Y
2.対象および方法
臨床で応用されている PS 型人工膝関節 3 機種を対象とし,
それぞれ Type A,Type B および Type C とした(図 1)
.ポリ
エチレンインサートの摺動面において,最深部を通る前額断
面と矢状断面の形状を図 2 に示す.人工膝関節摺動面の接触
圧力測定には,人工膝関節用 6 軸トライボシミュレータを使
用した.屈曲角度は 0,45,90,135 deg とし,外旋角度 0,
5,10,15,20 deg に変化させ実験を行った.外旋の基準軸
は,屈曲角度 0 deg において,ポリエチレンインサートの中
心を通る前後の軸と大腿骨コンポーネントとポリエチレン
インサート両顆の接触点を横断する軸との外積ベクトルと
Cam
Post
Fig.2 Design of polyethylene insert
した.荷重はポリエチレンインサート摺動面に対し垂直に上
方から 1200 N とし,内外転できる機構によって荷重を両顆
に均等に分担させた(図 3)
.ポストとカムまたはポストとボ
ックスが干渉する場合は,ポリエチレンインサートを後方ま
たは内外側へ変位させ測定を行った.測定にはタクタイルセ
ンサ(NITTA K-SCAN,センサピッチ 1.27mm,分解能 26×
22)を用い,各条件で接触面積,最大接触圧力および平均接
触圧力を測定した.
1200N
NITTA K-SCAN
Femoral component
Type A
Polyethylene insert
Tibial component
Type B
Rotational of Adduction/ Abduction is free
Fig.3 Schematic of the Artificial knee joint 6-DOF simulator
Side view of
polyethylene insert
Type C
Posterior view of
femoral component
Fig.1 Artificial knee implants of PS type
3.結果および考察
Type A において,
屈曲角度 135 deg の外旋角度 20 deg では,
大腿骨コンポーネントのカム部が内顆摺動面に点接触した
ことにより偏荷重が発生し,ポリエチレンインサート後方辺
縁部が破損したため測定不能となった.Type E において,外
4.結言
人工膝関節用 6 軸トライボシミュレータを用いて,コンポ
ーネント同士の接触を再現し,PS 型人工膝関節の形状につ
いて考察した.本実験で用いた Type A の人工膝関節は,摺
動面の曲率が大きく,旋回に伴い最大接触圧力と平均接触圧
力とも上昇する傾向が確認できた.そのため,回旋に対する
安定性は高いと考えられた.しかし,接触面積が減少するた
め,偏荷重や脱臼が生じる危険性が懸念された.Type B の人
工膝関節では,旋回に伴い最大接触圧力と平均接触圧力は減
少する傾向を認めた.旋回により摺動面前方や後方の辺縁部
に接触しているが,ポリエチレンインサートの摺動面の曲率
は小さくなっているため,回旋の影響を受けず,偏荷重を防
ぐ傾向が確認された.Type C では,回旋に対して許容がなか
った.PS 型人工膝関節のほとんどは,過度な旋回に適応し
External rotation 0 deg
External rotation 5 deg
External rotation 10 deg
*** ****
*** ***
External rotation 15 deg
External rotation 20 deg
n=5 * : P<0.05
* * ** **** ** *
*
*
*
Contact area, mm2
300
250
200
150
100
50
0
0
45
90 135
Flexion angle, deg
0
45
90 135
Flexion angle, deg
Type A
0
45
90 135
Flexion angle, deg
Type B
Type C
Fig.4 Contact area on femoral component and polyethylene insert
Maximum contact pressure, MPa
External rotation 0 deg
External rotation 5 deg
External rotation 10 deg
***
**
0
45
**** ***
External rotation 15 deg
External rotation 20 deg
n=5 * : P<0.05
**
*
* * ****
*
25
20
15
10
5
0
90 135
Flexion angle, deg
0
45
90 135
0
Flexion angle, deg
Type A
45
90 135
Flexion angle, deg
Type B
Type C
Fig.5 Maximum contact pressure on femoral component and
polyethylene insert
External rotation 0 deg
External rotation 5 deg
External rotation 10 deg
Average contact pressure, MPa
旋角度 10 deg 以上ではポリエチレンインサートのポスト部
が大腿骨コンポーネントのボックス部に接触し,外旋させる
ことができなかったため,測定不能となった.さらに,屈曲
角度 135 deg では,ポリエチレンインサート摺動面後方部で
両顆ともに点接触し,偏荷重によりポリエチレンインサート
が変形したため測定不能となった.これらの肢位は,人工膝
関節の設計コンセプトにないと考えられる.
Type A,Type B および Type C の屈曲角度 0,45,90,135 deg
における外旋角度 0,5,10,15,20 deg の接触面積,最大接
触圧力,
平均接触圧力の結果をそれぞれ図 4 から図 6 に示す.
Type A の屈曲角度 135 deg,Type B の屈曲角度 90 deg と 135
deg および Type C の屈曲角度 45 deg と 90deg においては,ポ
スト,カムの接触が確認されたため,ポリエチレンインサー
ト摺動面の接触位置を後方へ移動させた.Type A では,屈曲
角度 0 deg,外旋角度 10 deg において, 4 点接触により接触
領域が確保できたため,他の屈曲角度より接触面積が高い値
を示した.これに伴い,最大接触圧力と平均接触圧力が低い
値を示した.これは,ポリエチレンインサート矢状断面方向
の曲率が他の機種より大きくなっており,中央部が凹んでい
るため接触位置から中央部に移動する力が荷かる.そのため,
接触位置が増え接触面積が上昇したと考えられる.屈曲角度
45 deg,外旋角度 5 deg から 20 deg,屈曲角度 90 deg,外旋
角度 5 deg から 10 deg,15 deg から 20 deg,屈曲角度 135 deg
においては,外旋に伴い接触面積は有意に減少した.さらに,
最大接触圧力と平均接触圧力では有意に増加した.これらの
ことから Type A は,外旋に伴い接触面積が減少し,最大接
触圧力と平均接触圧力ともに増加する傾向があるため,外旋
に対する安定性が高いと推察される.Type B では,屈曲角度
45 deg および屈曲角度 90 deg,外旋角度 15 deg まで外旋に伴
い接触面積が増大する傾向が見られた.さらに,屈曲角度 45
deg の最大接触圧力と平均接触圧力ともに外旋に伴い減少す
る傾向が見られた.これは,摺動面後方部の曲率が小さくな
っていることから,接触領域が確保できたため,荷重が分散
したと考えられる.屈曲角度 90 deg,外旋角度 20 deg では,
他の外旋角度と比較し最大接触圧力が高い値を示した.これ
らのことから,Type B は,外旋の影響を受けにくい形状をし
ており,他の 2 機種と比較し安定した値を示したと考えられ
る.しかし,外旋に対する安定性は低いと考えられる.Type
C では,屈曲角度 0 deg,外旋角度 0 deg と 5 deg においては,
接触面積の有意な減少が確認できた.それに伴い,平均接触
圧力の有意な上昇が確認できた.これは,屈曲角度 0 deg に
おいて外旋に対する安定性が高いと推察される.しかし,
Type C は,Type A と Type B と比較し,可動域が狭いことが
問題点として挙げられる.
*** * ***
*** ***
0
90 135
External rotation 15 deg
External rotation 20 deg
n=5 * : P<0.05
* ** * ** **** ****
*
*
15
10
5
0
45
Flexion angle, deg
Type A
0
45
90 135
Flexion angle, deg
Type B
0
45
90 135
Flexion angle, deg
Type C
Fig.6 Average contact pressure on femoral component and
polyethylene insert
ていない.そのため,旋回の際,接触面積が安定的に得られ,
回旋に対する安定性の高いデザインが必要であると考えら
れる.
1)
2)
参考文献
Higaki H et al., 5thWorld Congress of Biomechanics, 157-162, (2006).
Hamai S et al., Journal of orthopaedic research, 26(4), 435-442, (2008).
高分子量ヒアルロン酸溶液における架橋型 HA と天然型 HA の物性評価
Material Property Evaluation of Cross-Linked HA and Natural HA
in High-Molecular Weight Hyaluronic Acid Solution
○学 寺田 卓也(九産大) 正 日垣 秀彦(九産大) 正 下戸 健(九産大)
非 石川 篤(九産大) 非 三浦 裕正(愛媛大)
Takuya TERADA, Kyushu Sangyo University, 2-3-1 Matsukadai, Higashi-ku, Fukuoka
Hidehiko HIGAKI and Takeshi SHIMOTO and Atsushi ISHIKAWA, Kyushu Sangyo University
Hiromasa MIURA, Ehime University
Key Words: hyaluronic acid, cross-linked HA, natural HA, dynamic viscosity, static viscosity, first normal stress differrence
1. 緒言
荷重が負荷される関節表面は硝子軟骨で覆われており,衝撃の
緩和や関節の動きを滑らかにしている.関節内部はヒアルロン酸
(hyaluronic acid, HA)等を成分とした粘り気のある関節液で満た
されており,その役割の 1 つとして関節潤滑に寄与していること
が挙げられる 1).さらに,HA の特徴として極めて高い保水能力や
粘弾性を示すことが知られており,軟骨表層被覆保護や軟骨変性
抑制にも作用している.したがって,膝の関節軟骨の変性を主体
とする疾患に対する保存的治療法の1つとして,高分子の HA を
関節内に注入する方法が普及している 2).
生体関節の潤滑機能に関し,
流体動圧効果を考慮した流体潤滑,
軟骨表面に吸着膜を考慮した境界潤滑 3),その間の混合潤滑があ
ると考えられている.さらに,軟骨内流体の滲出効果を重視した
滲出潤滑,関節液の濃縮効果を考慮した押上げ潤滑 4),軟骨表面
の弾性変形を考慮した弾性流体潤滑といったものも考えられてい
る.これらの諸説に対し,関節の荷重や速度が多様に変化するこ
とを考慮し,関節の潤滑モードは単一ではなく,作動条件に応じ
て多種の潤滑モードが機能すると提案された文献も散見される 5).
このように,様々な潤滑機能が提案されている背景には,生体膝
関節内には荷重や摩擦などのメカニカルストレスや,関節液の流
動といった要因があるためであり,生体関節の作動条件の過酷さ
に応じて,様々な潤滑が機能しているといえる.
潤滑液粘度に関しては,粘弾性が高いほど流体潤滑の方向,す
なわち作動条件を和らげることができる.したがって,正常関節
液の優れた潤滑機能を代替するような物質特性を持つ HA は,同
様の作動条件下で測定した粘弾性を比較することにより,有効性
を示せると考えられる.
そこで本研究では,臨床応用が検討されている架橋型 HA と臨
床応用されている天然型 HA を対象に動的粘弾性測定を行い,得
られた物性特性について比較検討した.
2. 対象および手法
架橋型 HA(cross-linked HA)
,天然型 HA(natural HA)におけ
る高分子量 HA 溶液と低分子量 HA 溶液を対象に用いた.対象の
物性値を表 1 に示す.実験装置には粘度・粘弾性測定装置(Rheo
Stress 6000 and MARS, HAAKE)を使用した(図 1)
.
静的粘性率は,コーンとプレートの間に試料を充填し,コーン
を一定方向に回転させ,せん断速度を変化させながら測定を行っ
た.
動的粘性率は,
コーンを正弦波で一定振幅の往復振動をさせ,
角周波数を変化させながら測定を行った.静的粘弾性測定は試料
に与える応力が一定であり,動的粘弾性測定は試料に与える応力
が時間によって変化する.したがって,動的粘弾性測定は往復動
を行っている生体関節に近い条件で評価することができる.
Table 1 Hyaluronic acid solution data used in the experiment
Materials
Molecular-Weight
Concentration
Cross-linked HA
6.0×106
1.0%
Natural HA
High-molecular weight
hyaluronic acid solution
2.7×106
1.0%
Natural HA
Low-molecular weight
hyaluronic acid solution
8.0×105
1.0%
(a)
Conical rotor
(b)
(c)
(d)
Plate
Sample fluid
ω
Fn
γ
γ:Shear velocity, s-1
ω:Angular frequency, rad/s
Fn:Normal stress, N
Fig.1 Experimental apparatus and mechanism of measurement
(a) Viscosity/Viscoelasticity measuring instrument (Rheo Stress
6000 and MARS , HAAKE) (b) Measurements of static
viscosity coefficient (c) Measurements of dynamic viscosity
coefficient (d) Measurements of first normal stress difference
渦度軸方向に作用する応力である第1法線応力差は,コーンを
回転させたときにコーンとプレートを引き離そうとする力を検出
することで測定を行う.生体内の環境を模擬するため,試料温度
を 37℃に保ち実験を行った.
3. 結果および考察
せん断速度の変化に対する静的粘性率を図 2 に示す.高分子で
ある HA は非ニュートン性であるため,せん断速度の上昇に伴い
粘度の低下を示した.せん断速度の増加に伴い,架橋型 HA 溶液
と天然型高分子量 HA 溶液の差は小さくなっていくが,測定条件
4. 結言
動的粘弾性測定により,高分子量ヒアルロン酸溶液における架
橋型 HA と天然型 HA の物質特性の比較を行った.生体関節は必
ず往復動を行っているため,評価には静的粘性率よりも動的粘性
率を考慮する必要があると考えられる.生体内という環境を考慮
した場合,膝を例にとっても最大せん断速度はかなり高い位相を
含むことが予想され,架橋型 HA 溶液よりも分子量が小さい天然
型 HA の高分子量 HA 溶液の方が粘弾性についての優位性を有す
ることが確認された.架橋型 HA 溶液と天然型低分子量 HA 溶液
の比較においても,天然型低分子量 HA 溶液の方が粘弾性につい
て優位性を有する位相があることが確認された.
参考文献
1) Balazs EA: The physical property of synovial fluid and the special role
of hyaluronic acid. Disorders of the knee, 2nd ed: 61-74, 1982
2) Iwata H: Pharmacologic and clinical aspects of intraarticular injection
of hyaluronate. Clin Orthop Relat Res. 289: 285-281, 1993
3) Higaki H, Murakami T, Nakanishi Y, et al: The lubricating ability of
Static viscosity coefficient η*, Pa・s
103
γ
Cross-linked HA
102
101
High-molecular weight HA
solution
100
Low-molecular weight HA
solution
10-1
10-2
10 -1
100
Shear velocity, s-1
101
102
Dynamic viscosity coefficient, η, Pa・s
Fig.2 Static viscosity coefficient of HA solution at 37 degrees celsius
103
ω
Cross-linked HA
102
2.92×100 s-1
101
High-molecular weight HA
solution
100
10-1
10-2
Low-molecular weight HA
solution
10-3
4.28×101 s-1
10-1
100
101
Angular frequency, rad/s
102
10-2
10-1
100
The maximum shear velocity, s-1
101
Fig.3 Dynamic viscosity coefficient of HA solution at 37 degrees celsius
First normal stress difference, Pa
範囲では,架橋型 HA 溶液が最も高い粘性を示した.天然型低分
子量 HA 溶液はせん断速度を変化させても粘性はあまり変化せず,
低い値を示した.
角周波数の変化に対する動的粘性率を図 3 に示す.正弦波に変
化しているコーンの最大速度を試料の厚みで除した値を最大せん
断速度とし,図 3 の横軸に表記する.角周波数の上昇に伴い粘度
の低下を示した.架橋型 HA 溶液と天然型高分子量 HA 溶液は最
大せん断速度が約 2.92×100 s-1 で逆転し,架橋型 HA 溶液と天然型
低分子量 HA 溶液は最大せん断速度が約 4.28×101 s-1 で逆転した.
生体関節は必ず往復動を行っているため,評価には静的粘性率よ
りも動的粘性率を考慮する必要がある.動的粘性率は最大せん断
速度の上昇に伴い,架橋型 HA と天然型 HA は逆転しており,歩
行を考慮した場合,膝を例にとっても今回測定した最大せん断速
度よりも,高い速度での位相を含んでおり,天然型高分子量 HA
溶液に優位性があると考えられる.
せん断速度の変化に対する第1法線応力差を図 4 に示す.高分
子流体では流動により顕著な粘弾性特性を示すが,弾性力の効果
によりニュートン流体では発生しない法線応力が生じる.架橋型
HA 溶液では,第1法線応力差が負になる位相があった.天然型
低分子量 HA 溶液では約 0 Pa を維持し,天然型高分子量 HA 溶液
では,測定範囲内で常に正で高い値を示した.天然型高分子量 HA
溶液と天然型低分子量 HA 溶液とでは,分子量の大きい天然型高
分子量 HA 溶液が高い値を示した.架橋型 HA 溶液と天然型低分
子量 HA溶液とでは,
せん断速度が約4.14×102 s-1 で逆転するが,
それ以下のせん断速度では,分子量が大きい架橋型 HA 溶液が低
い値を示した.
日常生活動作を考慮した場合,歩行時における膝のせん断速度
は大腿骨と脛骨の二面間相対速度を潤滑膜厚で割ることで導出す
ることができる.Dowson et al.6)は歩行時における膝関節軟骨表面
の弾性変形を考慮した弾性流体潤滑について考察しており,潤滑
膜厚が最薄で約 0.7μm になるということを報告している.高荷重
時では膜厚は薄く,関節面相対速度は速い.潤滑膜厚は履歴を伴
いながら変化すると考えられるが,瞬間的に考えると,粘性は低
下するが,分子量が小さい天然型 HA でも Weissenberg 効果を得
ることができる.第1法線応力差の結果において,日常生活動作
における歩行や走行の厳しい位相を考慮すると,天然型高分子量
HA 溶液は天然型低分子量 HA 溶液や架橋型 HA 溶液よりも
Weissenberg 効果による潤滑膜形成が期待される.潤滑膜はそれ自
体が荷重分担能を有しており,天然型高分子量 HA 溶液の関節内
注入が最も効果が得られると考えられる.
1000
800
600
400
200
0
-200
-400
-600
Fn
γ
High-molecular weight HA
solution
Low-molecular
weight HA solution
-800
101
4.14×102 s-1
Cross-linked HA
102
Shear velocity, s-1
103
Fig.4 First normal stress difference of HA solution at 37 degrees celsius
biomembrane models with dipalmitoyl phosphatidylcholine and
gamma-globulin. Proc Inst Mech Eng H. 212: 337-46, 1998
4) Batchelor A, Stachowiak GW: Arthritis and the interacting
mechanisms of synovial joint lubrication. part II: joint lubrication and its
relation to arthritis. J Orthop Rheumatol. 9: 11-21, 1996
5) Dowson D: Modes of lubrication in human joints. Proc IME, Pt 3J,
181: 45-54, 1966-1967
6) Dowson D, Jin ZM: Micro-elastohydrodynamic lubrication of synovial
joints. Eng Med. 15: 63-65, 1986
109
潜水艇モデルの潜水装置の開発
Development of a Diving Device in Submarine Model
○学
松元
遼太(鹿児島高専) 学 福元 秀(鹿児島高専)
正 岩本 才次(鹿児島高専)
Ryota MATSUMOTO, Kagoshima National College of Technology, shinko 1460-1, hayato-cho, kirishima-shi,
Kagoshima
Shu FUKUMOTO, Kagoshima National College of Technology,
Seiji IWAMOTO, Kagoshima National College of Technology,
Key Words : Water Tight Cylinder, Diving Device, Submarine
1. 緒言
潜水艇が他の移動体(車や船,飛行機)と異なる点は,流
体中で大きな水圧を受けることである. そのため,潜水深度
が大きくなるにつれて,耐圧性と水密性が要求される.本研
究で製作を試みている潜水艇モデルは,大別すると船体部と
駆動部からなる.駆動部は更に動力部,受信部,注排水部か
ら構成され, サーボモータや受信機構,電池を搭載してい
るので確実な水密性が要求される.
本研究では, WTC(Water Tight Cylinder)型の駆動部を製
作する.WTC はその形状から耐圧性に優れ水密性の確保も
比較的容易である. また, 潜水艇の浮上・潜水の際に用いる
ガスは, 通常よく用いられているフロン系ガスではなく,圧
縮空気を用いることでコストと環境に配慮している.
潜水艇モデルの浮上・潜水運動を目的とした圧縮空気を用
いた WTC 型の駆動部を開発したので, その概要と浮沈運動
の観察結果を報告する.
気を用いることでコスト及び環境に配慮している.
3. 注排水部の動作機構
Fig. 2 にアルキメデスの原理による浮上・潜水機構の仕組
みを示す.
注排水部の浮上・潜水機構はエアバラストタンク方式を
用いる.エアバラストタンク方式では圧縮空気を蓄えるエ
アタンクを備え,弁解放による注排水を一つのサーボモー
タで行う.
WTC の重量と WTC の体積による浮力が釣り合っている
Fig. 2 (a)の平衡状態から,Fig. 2 (b)のように,サーボモー
タ S によりピストン P を矢印の向きにスライドさせると,
2. WTC 型駆動部の構成
Fig. 1 に示すように,WTC(Water Tight Cylinder)型駆動
部は受信・制御装置,バッテリーを密封した受信部,バラス
ト水の出し入れにより浮上・潜水運動を司る注排水部,プロ
ペラやラダー用のアクチュエータを密封した動力部から構
成されている.
WTC は円筒形状であるため,水密性を高めるための旋盤
を用いた工作が比較的容易である.連結部や蓋部には水密性
を高めるため O リングを使用し,水圧が高くなるほど水密性
が高くなる構造とした.また浮沈操作の際に用いるガスは,
ガス注入量の多いフロン系ガスではなく,身近にある圧縮空
(a) The state of equilibrium
(b) The state of diving
Fig. 1 Arrangement of Water Tight Cylinder
(社)日本機械学会 九州学生会
第 42 回卒業研究発表講演会(No.118-2)論文集 2011/3/11
(c) The state of floating
Fig. 2 Diving and floating mechanism
5. 浮上・潜水運動実験
実験はガスタンク内に 11 気圧の圧縮空気を充填し計算
した浮沈回数と製作した WTC の浮沈回数を比較する.
Fig. 5, 6 に実験による浮上・潜水運動の様子を示す.
Fig. 3 3D overview of diving-floating device
E と I が導通し E から空気が放出されると同時に,I から注
排水部に注水される。その結果 WTC の重量が見掛け上増
加し,WTC の重量がその浮力を超えると WTC は沈降する.
また, 平衡状態 Fig. 2 (a)の状態から Fig. 2 (c)のサーボモー
タ S よりピストン P を矢印の向きにスライドさせると,ロ
ックアーム R が左回転し弁 B が開放する.弁 B からエアタ
ンク内の圧縮空気が注排水部内に放出され,水を I から注
排水部外に強制的に押し出し,見かけ上の WTC の重量を
軽くすることで,WTC が水面に浮上する.
浮上・潜水機構の CAD による外観図を Fig. 3 に示す.
B:WTC の浮力,W:WTC 排水時の重量,Δw:注水量,
とすると浮沈の条件は次式になる.
浮上: B-W>Δw
平衡: B-W=Δw
沈降: B-W<Δw
Fig. 5 Diving
4. WTC の設計及び製作
以下に WTC の設計仕様諸元を示す.
・WTC の全長
・WTC パイプ外径
・WTC パイプ内径
・WTC の浮力
・WTC 排水時重量
・最大注水量
・浮沈方式
・通信方式
・動力装置
430mm
60mm
56mm
11.45N
9.65N
1.82N
エアバラストタンク方式
ラジオコントロールシステム
(42MHz 帯 PCM 方式)
12V DC モータ 1 個
デジタルマイクロサーボモータ 3 個
本研究の WTC の作動流体は水であり,WTC は浮沈用の
エアタンクに 11 気圧の圧縮空気を貯蓄することで,それぞ
れ 2 回の浮上・潜水動作が可能である. また限界深度は設
計上 4.36mである.
WTC を設計製図するにあたり, Solid Works および Auto
CAD を用いた. Fig. 4 に製作した WTC を示す.
Fig. 6 Floating
6. 実験結果及び考察
実際に浮沈できた回数は 2 回であった. 潜水艇は注排水
部に水を満水にしたときに沈み始めた. しかし前後の重量
バランスに片寄りがあり,水平に沈まなかった. また一旦
WTC が前後方向に傾斜すると注排水部の水が一方に片寄
り,斜めの姿勢を保ち続けてしまうことが分かった. これ
を防ぐためには注排水部にいくつか横隔壁を設け水の移動
を制限する必要がある.
7. 結言
潜水艇モデルの浮上・潜水運動を司る WTC 型駆動部を
制作した.WTC 型駆動部の耐圧性と水密性を確認し,その
操作性と浮沈動作が確実に行われることを確認した.
WTC の浮力と WTC 排水時の重量との差は 1.8N,最大注
水量が 1.82N であることから,今後ボディ部を製作するに
あたりその重量は次の条件式を満足する必要がある.
X + 1 .8
< 1 .8 2
ただし,ボディ浮力とボディ重量の差を X とする.
今後は,ボディ部を製作し潜水艇モデルの運動を検証す
る予定である.
文 献
1)
Fig. 4 Photographs of Water Tight Cylinder
2)
寺澤 一雄, 井田 晃, 精解 材料力学演習, 海文堂,
(1975), pp. 243-246
南日 実, 材料力学, 現代工学社, (1972), p. 441
講演番号
110
水平軸プロペラ形風車の風洞試験に関する研究
Study of Wind Tunnel Experiment on a Wind Turbine of Horizontal Axis Propeller Type
○学
今林
悠治(長崎大)
,正
佐々木
壮一(長崎大)
,正
林
秀千人
Yuji IMABAYASHI, Faculty of Engineering, Nagasaki University, 1-14 Bunkyo-machi, Nagasaki
Soichi SASAKI, Faculty of Engineering, Nagasaki University, 1-14 Bunkyo-machi, Nagasaki
Hidechito HAYASHI, Faculty of Engineering, Nagasaki University, 1-14 Bunkyo-machi, Nagasaki
Key words: Wind Turbine, Wake, Shear Flow, Wind Energy, Aerodynamics Noise
l=
2P
Rw
, Cp =
V
rAV 3
(1)
Table 1 Specification of wind turbine
0.675 m
1.17 m
Specific Power
Output Voltage
Initial Velocity
(for rotation)
Initial Velocity
(for power generation)
Diameter of Impeller
400 W
12 V
1.51 m/s
3.58 m/s
1.17 m
Fig. 1 Wind turbine
1000 1230
1500
1800
5000
2200
Axial
Fan
2600
Partition
φ1000
2,実験装置および測定方法
図 1 は性能試験の対象となる水平軸プロペラ形風車の概
略図を示したものである.風車の仕様が表1に整理されて
いる.供試風車は 3 枚羽根の水平軸プロペラ形風車である.
羽根車の直径は 1170mm,その全長は 675mm,発電機の定
格出力は 400W ( 12V )である.図 2 には,風洞装置の概略
図が示されている.この装置は吸い込み式の開放型風洞で
ある.風洞装置全体は集合胴,測定胴,縮流胴,異形胴お
よび軸流送風機によって構成されている.測定胴の断面は
一辺 1800mm の正方形であり,その全長は 5000mm である.
集合胴と測定胴の間に,風速制御のための絞り機構を取り
付けることができる.後述の風洞実験では,直径 800mm,
1000mm および 1200mm の絞り機構が採用されている.
図 3 には,羽根車後流の計測方法が示されている.風洞
内の速度とその速度変動の分布は熱線流速計とピトー管に
よって測定されている.風洞の内部流れの予備実験によっ
て,絞り機構から流出する噴流が 1.0m 下流で最も発達す
ることが確認されている.風車はこの位置に設置され,そ
の性能が試験されている.羽根車の後流は X 型熱線プロー
ブによってその速度成分が計測される.熱線プローブのサ
ポートは羽根車のハブ側から先端側までトラバース装置に
よって移動させた.風車の出力特性は 0.7Ω(600W)のリ
ボン抵抗の電圧と電流を計測することによって算出した.
羽根車の回転数は光電式回転計によって計測されている.
風車の空力騒音は羽根車の回転軸上,羽根車取り付け位置
から 1.0m 上流側の位置に設置した 1/2 マイクロホンで計測
されている.この出力信号を FFT アナライザで周波数分析
することで騒音のスペクトル分布を求めた.風車の周速比
λおよび出力係数 Cp は式(1)によって与えられる.
φ1200
1,序論
近年,新エネルギーとして再生可能エネルギーが注目さ
れている.小型の水平軸プロペラ形風車は汎用の再生可能
エネルギーとして既に公共施設などの電源で利用されてお
り,離島や山岳地帯など電源供給が困難な場所での需要も
ある.清水 (1)らは非定常風速下に置かれた水平軸風車の出
力特性を風洞実験により解析している.前田 (2)らは,風洞
実験とフィールド実験における風車の後流構造を解明する
ために,運転条件を対応させて両者の後流を測定している.
このように風車の基本性能が風洞実験によって解析された
研究は多数報告されている.特に,小型の風車はその羽根
車直径が小さいため,風洞実験によって基本性能を試験す
るには適している.しかし,これに対応した中小規模の風
洞装置では風車の羽根車を回転させると同時に発電させる
ための十分な一様流速を得ることが困難なこともある.こ
の研究では,小型風車の風洞試験に関する研究の第一歩と
して,風車の上流側にオリフィスのような絞り機構を設け,
その開口部の口径を適切に設計することによる風車の性能
試験法が提案されている.しかし,この場合,被試験風車
にはせん断流れが流入することになり,実際の使用状況下
における風車性能とは異なる結果になることが懸念される.
そこで,この研究では,風速制御のための絞り機構によっ
て形成されるせん断流れが風車性能に与える影響を実機の
性能試験によって明らかにする.
□1800×1800
Variation Nozzle
System
Measurement Part
Collector
Fig.2 Schematic view of wind tunnel
Wind Turbine
Orifice
Rotation Meter
Travers Machine
Fig. 3 Measurement method of the wake of wind turbine
0.2
100
φ=800
φ=1000
φ=1200
LA , dB(A)
Cp
D = 1.17 m
0.1
λ =8
80
φ = 1200
60
40
λ = 8 (LA = 92.6 dB(A) )
λ = 6 (LA = 82.0 dB(A) )
λ =6
0
0
5
10
20
15
102
λ
103
f , Hz
104
Fig. 4 Relation between tip speed ratio and power coefficient
Fig.6 Spectra of the noise generated from wind turbine
100
φ=800
φ=1000
φ=1200
80
60
0
20
V , m/s
LA , dB(A)
120
Background Noise
(refer to φ=1200 )
λ=6
λ=8
5
10
10
Tip
λ
ここで,R は羽根車半径,ωは羽根車の回転角速度,V は
上流側の速度,P は風車の出力,A は受風面積である.
3,結果および考察
図 4 は周速比と出力係数の関係を示したものである.絞
り機構の直径がφ=800mm のとき,その出力係数はλ=7.5
で 最 大 にな る. 絞 り機 構 の直 径 が φ =1000mm お よ び φ
=1200mm のときには,その特性に大きな変化はなく,λ=8
のとき出力係数が最大になった.以上のことから,絞り機
構の直径が羽根車の直径以上に設計されると,一定の風車
性能を試験することができることがわかった.一方,絞り
機構の直径がφ=1400mm よりも大きくなると風車を回転
させるための十分な一様風速が得られないことも実際の風
洞実験で確認している.
図 5 には,周速比と騒音レベルの関係が示されている.
φ=1200 の騒音特性に注目すると,風車の空力騒音は風洞
の暗騒音よりも大きく,周速比が 6 から 8 にかけて騒音レ
ベルが大きくなっている.一方,周速比が 8 を超えると,
いずれの絞り機構による騒音試験においても,その周速比
が再び小さくなり,その騒音レベルが大きくなる.これは
強風時に対応した風車の安全上の機構に依存したこの機械
装置固有の特性と考えられる.図 6 は風車から発生する騒
音のスペクトル分布を示したものである.このとき,絞り
機構の直径にはφ=1200mm が採用されている.空力音のス
ペクトル分布から,風車から発生する騒音の支配的因子が
広帯域騒音であることがわかる.
図7は,風車に流入する流れの速度分布と後流の速度分
布を比較したものである.丸印がφ=800mm の速度分布で
あり,四角印がφ=1200mm の速度分布である.φ=1200mm
upsteram (φ=800)
wake (φ=800)
upstream (φ=1200)
wake (φ=1200)
15
Fig. 5 Relation between tip speed ratio and noise level
D = 1.17 m
λ=7
0
-1
Hub
Hub
Tip
0
y,m
1
Fig.7 Velocity distributions of the upstream and wake
の羽根車の後流は,羽根先端側までスパン方向にほぼ一様
な分布を形成する.一方,φ=800mm の場合,風車には絞
り機構によって形成された速度せん断層がスパン中央付近
に流入する.これに応じて,後流の速度分布も羽根のスパ
ン中央付近で大きくなる.この速度分布に応じて,φ
=800mm の羽根車には弱い回転トルクが誘起され,風車の
出力特性が劣化することが明らかになった.
3,結論
絞り機構の直径を羽根車直径よりも大きくすると,水平
軸プロペラ形風車の性能を試験することができる.風車の
騒音特性を試験した結果,風車から発生する騒音の支配的
因子は広帯域騒音であることがわかった.絞り機構の直径
が風車直径よりも小さい場合,上流側のせん断流れは風車
に弱い軸トルクを誘起し,風車の出力特性を劣化させるこ
とが明らかになった.
参考文献
(1) 清水,他 5 名,風洞実験による風車相互不干渉の基礎
的研究(乱れ強度の異なる二つの流れ模型を用いた場合),
日本機械学会論文集(B 編), 70 巻 689 号(2004-1) ,
pp.140-146.
(2) 前田,他 2 名,水平軸風車後流の風洞実験とフィール
ド実験,日本機械学会論文集(B 編)71 巻 701 号(2005-1),
pp.162-170.
生体関節における 6 自由度動態解析手法を用いた
stair-climbing 動作時の機能評価
Functional Assessment of the Natural Knee Joints during Stair-climbing Activity
using the 6-DOF Motion Analysis Method
○ 学 西松 和穂(九産大) 正 白石 善孝(九産大) 正 下戸 健 (九産大)正 日垣 秀彦(九産大)
正 中西 義孝(熊本大) 非 三浦 裕正(愛媛大)
Kazuho NISHIMATSU, Kyushu Sangyo University, 2-3-1 Matsukadai, Higashi-ku, Fukuoka
Yoshitaka SHIRAISHI, Takeshi SHIMOTO and Hidehiko HIGAKI, Kyushu Sangyo University
Yoshitaka NAKANISHI, Kumamoto University
Hiromasa MIURA, Ehime University
Key Words : Natural knee joint, 6-DOF motion analysis, Helical axis, Cruciate ligament, Stair-climbing
1. 緒言
整形外科領域において,過度な運動や疲労,交通事故などによ
る膝関節靭帯損傷に対し靭帯再建術が頻繁に行われている.これ
に対し,再建術における靭帯付着部位の位置定義に関し議論され
ている 1, 2).そのため,健常生体膝の 6 自由度動態を明らかにする
ことができれば,十字靱帯付着部位間の測定や変位量の解析,再
建術前術後の靱帯の機能評価などを行うことができ,靱帯再建術
に対し有用な情報をフィードバックすることが可能だと考えられ
る.しかし,生体関節を対象とした解析を行う場合の問題点とし
て,骨輪郭を利用した解析手法では,X 線画像から骨形状を抽出
する 2 値化処理が議論されており,精度検定においては,整形外
科領域で有効とされている平均誤差 1.0mm,1.0deg 以内を満たし
ていない変位も散見できる 3, 4).さらに,解析精度を向上させるた
め,2 方向 X 線画像を用いた解析技術も散見されるが,特殊な機
器を必要とすることが問題となる 5,6).そこで本研究では,CT 画
像から作成した投影シミュレーション像とFPDから得られる1 方
向 X 線動画像間の画像相関を利用した 6 自由度動態解析手法の開
発を行った.
本報では,
日常生活において回避することが難しく,
特に膝に負担がかかるとされているStair-climbing動作に着目した.
健常生体膝を対象に動態解析を行い,ヘリカル軸を用いた
Stair-climbing 動作時の生体膝の動態と膝十字靱帯の機能的役割に
ついて評価を行った.
2. 対象と手法
成人男性 4 名 4 膝(被験者 A~D)の健常な膝を対象とし,撮
影時の平均年齢は29.8±1.2歳,
平均体重は65.0±7.3kgであった.
対象の撮影には CT(画素数 512×512pixel,画素サイズ 0.351×
0.351mm,スライス厚さ 1.0mm)と FPD(画素数 1536×2046pixel,
画素サイズ 0.353×0.353mm)を用いた.CT 撮影は,膝関節を中
心に約200mmの範囲を撮影した.
FPDによる対象の撮影方法は,
X 線源と平面センサーの間に階段を設置し,Stair-climbing 動作時
の膝関節を側面より連続撮影した.得られた X 線動画像は,最大
屈曲位から最大伸展位までを経時的に 0~100%とした(図 1)
.
生体膝関節の動態解析はイメージマッチング技術を応用した.
FPD 撮影により得られた X 線動画像に対し,コンピュータ上で作
成した投影シミュレーション像を重ね合わせ,画像相関が高くな
るよう投影シミュレーション像を変換させることにより,対象の
空間位置および姿勢を推定する.投影シミュレーション像は,CT
画像から骨密度等の情報を含んだグレースケール 3 次元モデルを
構築し,FPD 撮影時の光源と投影面の相対関係を条件として与え
て作成した.本手法の精度は,精度検定において整形外科領域で
有効とされる平均誤差 1.0mm,1.0deg 以内に収まっていることを
確認している 7).脛骨と大腿骨の相対座標系の定義は,Andriacchi
et al. の文献と同様となるよう定義した 8).ヘリカル軸を用いた動
態の評価方法は,脛骨と大腿骨の 6 自由度運動の結果を基に,脛
骨に対する大腿骨の動態を1つの回転軸(ヘリカル軸)として算
出し,ヘリカル軸の変位を軌跡として評価した.十字靭帯付着部
位間の変位量解析では,前十字靭帯(Anterior cruciate ligament,
ACL)と後十字靭帯(Posterior cruciate ligament, PCL)の付着部位
付近を Zantop T et al. の文献を参考に,
解剖学的に同様となるよう
にそれぞれ定義した 2).ACL に関しては,機能束ごとに前内側部
束(Anteromedial bundle, AM bundle)と後外側部束(Posterolateral
bundle, PL bundle)に分類し,付着部位中央間の距離をそれぞれ計
測することにより,Stair-climbing 動作時における変位量解析を行
った.
0%
100%
Fig.1 View of natural knee during stair-climbing activity
3. 結果・考察
Stair-climbing 動作におけるヘリカル軸の軌跡を図 2 に示す.被
験者 A では,動作初期のヘリカル軸が上下方向に対して斜めであ
ることから,伸展と外旋の回転運動をほぼ同じ割合で行っている
ことが確認された.動作約 30%の伸展時では,ヘリカル軸の後方
変位が確認された.被験者 B では,伸展に伴い,ヘリカル軸のメ
ディアルピボットでの回旋運動が確認された.さらに,伸展に伴
い,ヘリカル軸の外転運動が確認された.被験者 C では,動作初
期のヘリカル軸が大きく後方に位置している.そこから伸展に伴
い,
メディアルピボットでのヘリカル軸の内旋運動が確認された.
0%
Subject
100%
Superior
45
Displacement [mm]
Posterior
Lateral
Medial
Lateral
Medial
C
D
AM bundle
40
35
30
25
20
PL bundle
15
Superior
Anterior
Subject B
B
50
Inferior
Anterior
Subject A
A
10
0
20
40
60
80
100
Inferior
Posterior
Stair-climbing activity [%]
ACL (AM and PL bundle)
Displacement [mm]
Medial
55
Lateral
Superior
Lateral
Anterior
Medial
60
Subject C
50
45
40
35
30
Inferior
Posterior
25
Lateral
Posterior
Lateral
Medial
Superior view
Fig.2
Lateral
20
40
60
80
100
PCL
Inferior
Subject D
0
Stair-climbing activity [%]
Medial
Superior
Medial
Anterior
Lateral
20
Medial
Posterior view
Motion of the femur with respect to the tibia
using helical axis during stair-climbing
被験者 D では,動作初期のヘリカル軸が上下方向に対して斜めで
あることから,伸展と外旋の回転運動をほぼ同じ割合で行ってい
ることが確認された.全被験者において,伸展に伴い,ヘリカル
軸の前方変位が確認できた.これは,屈曲位から伸展位にかけて
のロールバックからの戻りの動態を示していると推察できる.
Stair-climbing 動作に伴う十字靭帯付着部位間の変位量解析結果
を図 3 に示す.ACL 付着部位間距離の変位の結果では,AM bundle
および PL bundle の両束において,全被験者とも伸展に伴い,靭
帯付着部位間の伸長が確認できた.さらに,AM bundle と比較し,
PL bundle の方が全被験者とも絶対的変位量が大きな傾向が確認
された.このことから,PL bundle の方が,脱臼を起こす可能性の
ある姿勢等の危険肢位での機能束としての役割が大きいと推察で
きる.PCL 付着部位間距離の変位の結果では,全被験者とも伸展
Fug.3 Displacement of cruciate ligaments adhesion areas
during stair-climbing
に伴い,靭帯付着部位間距離の接近が確認された.これは,ヘリ
カル軸の結果と同様に,ロールバックからの戻りの動態を示して
いると考えられ,伸展に伴い PCL が弛緩することが推察できる.
これらの結果から,本動態解析手法を用いることで,生体膝の運
動メカニズムの解明や十字靭帯の機能的評価を行うことが可能で
あると考えられる.
4. 結言
健常生体膝を対象とし,ヘリカル軸を用いた Stair-climbing 動作
時の動態と膝十字靭帯の機能的役割について評価を行った.結果
より,生体膝の運動メカニズムや膝十字靭帯の機能的役割を定量
化することが実現できていると考えられる.症例数の蓄積や様々
な動態を解析することにより,種々の関節疾患に対する診断や靭
帯再建術における付着部位の位置決めなどの支援技術として期待
できる.
1)
2)
3)
4)
5)
6)
7)
8)
参考文献
関矢仁,他,日本臨床バイオメカニクス学会誌,27, 169-173, (2006).
Zantop T, et al., Oper Tech Orthop, 15(1), 20-28, (2005).
西村生哉,他,生体医工学,44(1), 77-84, (2006).
Moro-oka T, et al., J Orthop Res, 25(7), 867-872, (2007).
Kozanek M, et al, J Biomech, 42(12), 1877-1884, 2009.
Bingham JT, et al, Rheumatology (Oxford), 47(11), 1622-1627, 2008.
日垣秀彦,他,日本機械学会論文集(C 編)
,75(755), 148-154, (2009).
Andriacchi TP, et al., J Biomech Eng, 120(6), 743-749, (1998).
112 植物原料からポリマ合成までの省エネルギプロセスの開発(乳酸精製)
Development of low energy process in the poly-L-lactide synthesis
(Purification of lactic acid)
学 徳本 健太(琉球大学)
○学 徳丸 大佑(琉球大学) 正 柴田 信一(琉球大学)
Kenta Tokumoto, Daisuke Tokumaru, Shinichi Shibata,University of the Ryukyus
Key words: Lactic acid, Lactide, Hydrolysis, Purification
1.緒言
乳酸は脱水縮合でエステル反応が起きオリゴマとなる.オ
リゴマの分子量が十分に上昇すると乳酸 2 量体である L-ラク
チドを留去することができるようになる.このラクチドを開
環重合することでポリ L 乳酸(PLLA)を合成することができる.
ポリ乳酸は乳酸精製時に多大なエネルギを要するため,安価
な乳酸精製プロセスの開発が必要となる.精製コスト削減の
ためにエネルギ消費の少ない精製プロセスの開発を目的とし
本研究を進めている.醗酵後に乳酸を抽出する方法には,溶
媒抽出,電気透析,エステル化,など様々な方法がある.昨
年はエステル化による乳酸の精製を試みたが,発酵液から乳
酸を精製するまでに 127 時間以上を要し,乳酸精製に用いる
アルコールの精製コストや長時間の加熱による大量の熱エネ
ルギを消費することから,他の方法での乳酸精製を模索する
ことにした.そこで,乳酸醗酵液を脱水した濃縮液から直接
乳酸の蒸留を試みた.この乳酸を用いて留去を行うことで得
た粗ラクチドを GC 分析により測定したところ,L-ラクチドの
光学純度が 50%以下と低い値を示したため,この方法で精製
を行うことはできなかった.そこで,硫酸を加えることで硫
酸アンモニウムを塩析し,乳酸を有機溶側に抽出させ,遠心
分離を行うことで,乳酸の精製を試みた.この精製法により
約 14 時間と極めて短時間での乳酸精製を実現したが,精製乳
酸の乳酸収率が約 60%程度と低い値を示した.本研究では乳
酸蒸留時に加水分解を加えることで乳酸収率の向上を試み,
硫酸を投入した際の pH を調整し,精製歩留りが最大となる
pH を調査した.次に,pH を最適な条件に固定し,各加水分解
時間における乳酸収率も調べた.
さらに,乳酸収率 90%を達成したが,本工程では塩析に使
用する硫酸量が 100g,得られる硫安は 130g となる.このた
め,副産物として得られる硫安の削減を試みた.
塩析後の硫安から乳酸を抽出するために用いるアセトン量
の最適な値の調査も行った.
2.実験方法
醗酵液の菌体および醗酵に用いた大豆やその他固形分を回
転数 3000rpm で遠心分離した.分離後,乳酸醗酵液をロータ
リーエバポレータにて加熱温度(110℃),真空(80torr)で 50%
まで濃縮した.次にこの醗酵液を二口セパラブルフラスコに
投入し,温度(110℃),真空度(150~25torr)にて,乳酸濃度約
85%まで
濃縮した.この乳酸濃縮液に硫酸を加えて pH を測定しなが
ら,アンモニアを遊離し,さらにアセトンを加え,硫酸アン
モニウムの塩析を行い,遠心分離により硫安を取り除いた.
分離後の固形分中に残留している乳酸分を抽出するためにア
セトンを用いて硫安を洗浄した.分離後のアセトン,乳酸混
合液にこの洗浄液を混合し,再度遠心分離にて固形分を取り
除いた.Fig 1 に示すように乳酸,アセトン混合液をセパラ
ブルフラスコに投入し,温度(100℃)真空度(400~50torr)に設
定し,アセトンの蒸留を行った.アセトン蒸留後 Fig 2 に示
すようにセパラブルフラスコにリービッヒ冷却機を取りつけ,
冷却しながらオイルバス温度(150℃)とし,加水分解を行った.
セパラブルフラスコを回収容器として,高真空(1toll)にて乳
酸の蒸留を行った.加水分解と乳酸蒸留を交互に各 4 回ずつ
行った.蒸留した乳酸については HPLC 分析により乳酸濃度,
純度測定を行った.[実験 1.]最適な pH を調査するため,
pH(0.3,0.35,0.97,1.5,1.55,1.72,2.06,3.04)と変化
させ,乳酸収率を調査した.また,蒸留条件を乳酸蒸留{1 回
目(20min),2 回目(15min),3 回目(10min),4 回目(60min)},
加水分解(60min×4)とし,固定した.[実験 2.]乳酸の蒸留時
間を固定せず,乳酸をとりきってから加水分解を行いこのサ
イクルを 4 回行った.[実験 3.]加水分解時間と蒸留乳酸の収
率の関係を調査するため,加水分解時間を 1 回目は 60min で
統一し,以降(30min×3,45min×3,60min×3)と変化させ,
各条件での乳酸回収率の調査を行った.また,加水分解なし
での収率を調査した. [実験4.]ロータリーエバポレータに
て加熱温度(110℃,120℃,130℃),真空(80torr)にて脱アン
モニアを行った.[実験 5.]ポンプで水を加えながら脱アンモ
ニアを行った. [実験 6.]硫安中の乳酸を抽出する際の使用
アセトン量を(0~300g),洗浄アセトン量を(0~300g)とし乳酸
収率との関係も調査した.
Fig. 1 Distilling apparatus
Fig. 2 Hydrolysis apparatus
3.結果・考察
結果・考察
100
90
80
100
70
Rate of collect [%]
80
70
60
80
Rate o f c olle ct [%]
Rate of collect [%]
90
60
50
40
30
20
10
50
0
40
40
0
1
2
3
105
4
110
115
120
Lactic acid
Fig. 3 pH of concentrated broth and rate of lactic acid
硫酸投入時の pH と乳酸収率との関係を Fig 3 に示した.
pH3 の時の乳酸収率は最も悪く約 54%となり,pH が低くな
るにつれ乳酸収率は増加した.しかし,pH 0.3 では減少した.
この調査により,乳酸蒸留に適した pH は乳酸収率の最も高
かった 1.0 と判断した.
90
100
Rate of collect [%]
90
80
70
125
130
0
135
1
2
80
70
3
4
5
Time [h]
Temperature of [℃]
PH of Concentrated broth
Rate of collect [%]
60
Lactic acid
Ammonia
Fig. 6 Relationship between temperature
Of remove of ammonia and rate
Ammonia
Fig. 7 Relationship between time of
remove of ammonia and rate
Fig 6, 7 は脱アンモニアの時の時間と温度に対する乳酸と
アンモニアの回収率を比較した図である.高温で長時間,脱
アンモニアを行うとアンモニアの回収率が増加しているが乳
酸収率は減少している.高温で長時間濃縮すると縮合反応が
促進される.そのため,オリゴマ化が進み分子量が高くなり
加水分解が不十分であったためだと考えられる.また,濃縮
液の縮合反応だけでなく,分子間縮合が起きたためだと考え
られる.この結果,結合力の強いアミド結合が起き水を加え
ても分解されず,乳酸収率が減少したと考えられる.
60
120
100
10
100
80
8
60
6
40
4
20
2
60
4
6
0
Frequency of hydrolysis [times]
Fig. 4 Relationship between frequency of
hydrolysis and rate of L-lactic acid
20
40
60
80
Time of hydorlysis×3 [min]
Fig. 5 Relationship between time of
hydrolysis and rate of L-lactic acid
Fig 4 は加水分解の回数と乳酸収率の関係である.3 サイク
ルまでは順調に乳酸収率は増加しているが,4 サイクル目で
は蒸留を開始しても乳酸は蒸留されなかった.この結果から,
この条件下では加水分解の回数を増やしても乳酸収率の向上
には限界があることがわかる.また,4 サイクル目で乳酸収
率が減少したのは一度回収した乳酸がトラップへ回収された
ためだと考えられる.Fig 5 は加水分解時間と乳酸収率の関
係である。加水分解を行わないで蒸留すると乳酸収率約 50%
なのに対し,加水分解を行うと最大約 80%まで上げることが
できた.このグラフより加水分解の時間が長くなれば,乳酸
収率が高くなる傾向が見られたため,さらに長時間加水分解
を行うことでどこまで乳酸収率を上げることができるかが今
後の課題となっている.
Table 1 Acetone inquiry
No
Survey contendt
Rate of L-lactic asid [%]
1
Acetone[0g]
50.57
2
Acetone[100g],Washing acetone[0g]
59.21
3
Acetone[180g],Washing for acetone[0g]
71.03
4
Acetone[300g],Washing for acetone[0g]
72.16
5
Acetone[180g],Washing for acetone[50g]
6
Detection rate [%]
2
Detection rate [%]
40
0
80
60
40
20
0
0
2
4
6
Time of remove of ammonia [h]
L-lactide
0
100
110
Fig. 8 Gas chromatogram of analysis 1
130
0
140
Tenperature of remove of ammonia [℃]
L-lactic asid
Lactic acid amid
120
Detection rate [%]
50
Lactic acide amid
Fig. 9 Gas cheromatogram of analysis 2
Fig 8, 9 は脱アンモニアを行った乳酸を留去し得られたラ
クチドを GC に掛け分析した結果である.Fig 8 は 100℃で脱
アンモニアを行ったものであり、L-ラクチドの検出量も約
95%と高く乳酸アミドも約 0.2%と低いことから低温で長時
間脱アンモニアを行ってもアミド化は進みにくいことがわか
った.Fig 9 は脱アンモニア温度を高温で行った場合の L-ラ
クチドと乳酸アミドの検出量を示したものである.温度が高
くなると L-ラクチドの検出量は約 45%まで減少し,乳酸アミ
ドは約 8%まで増加していることがわかる.
Table 2 Result of remove of ammonia
Condition
Rate of ammonia[%] lactic asid [%] Lactic asid amid [%]lactic asid [%]
110℃,4h
14.78
95.50
0.04
72.54
130℃,4h
60.78
97.02
2.77
65.28
75.81
130℃,2h
35.88
96.92
2.52
79.83
Acetone[180g],Washing for acetone[100g]
76.61
150℃,2h
68.12
97.57
2.32
67.75
7
Acetone[180g],Washing for acetone[200g]
79.26
150℃,1h
47.41
96.71
2.39
77.44
8
Acetone[180g],Washing for acetone[300g]
78.17
160℃,1.5h
53.22
96.16
2.78
82.25
170℃,1h
52.94
97.73
1.87
83.30
Table 1 は[実験 6.]の結果である.条件 1 の時に乳酸収率
は 50.57%で最低値をとり,条件 7 の時に乳酸収率 79.26%とな
っていることがわかる.また,条件 1~3 まではアセトン使用
量に対して乳酸収率が約 10%ずつ増加している.しかし,条
件 4 では 1.13%の増加に留まっている.よって,抽出の際に
使用するアセトン量は条件 3 が最も適していると判断した.
また,硫安の洗浄の際,条件 7~8 の間で大きな差は現れなか
った.このため,硫安を抽出,洗浄する際に最も適した条件
は 7 とした.
上述のように最適な脱アンモニアの条件を調査したところ,
170℃,1h ポンプで水を加えながら脱アンモニアを行った時
に乳酸回収率,L-ラクチド純度も高い値を示した.
参考文献
Boroda T. A., Polovko V. N., Chistayakova E. A.,
Pishch. Prom., 1966, pp. 35-38
113
等幅カム機構設計における機構パラメータの影響に関する考察
A Case Study of Structural Parameter Effects
on Constant-Breadth Cam Mechanism Design
○学
長田
京介(九産大)
岩本
憲和(九産大院)
正
丘
華(九産大)
Kyosuke NAGATA, Kyushu Sangyo University, Matsukadai 2-3-1, Higashi-ku, Fukuoka City
Norikazu IWAMOTO, Graduate School, Kyushu Sangyo University
Hua QIU, Kyushu Sangyo University
Key Words : Mechanism Synthesis, Positive-Drive, Constant-Breadth Cam Mechanism, Oscillating Follower,
Cam Contour, Radius of Curvature, Sliding Speed
1. 緒
Table 1 Definition of parameters
言
カム機構は,高速性,高剛性,高精度,構造のコンパクト
性などの特徴を持ち,非線形運動変換機構として種々の機械
に広く使用されている.従動節の出力特性を保証するには,
動作中にカムと従動節の接触を常に保持させ,いわゆる拘束
する必要がある.その方法として,ばねなどを使用する力拘
束と,カムの輪郭によって接触状態を維持させる形状拘束が
ある.力拘束の場合は,カムと従動節との間の接触応力が大
幅に増加し,カムの駆動トルクが大きくなる.そのため,エ
ネルギー消費の増大だけでなく,カムと従動節の摩耗も激し
くなる.一方,形状拘束カム機構の中で,等幅カム機構は構
造が簡単で部品が少なく,かつ平端従動節を使用するので高
速性が期待できる.ただし,従来では,設計上に自由度が低
く,要求する従動節運動の達成が困難であるとされるので 1),
等幅カム機構の応用は制限されている.最近,Ye と Smith
は従動節の出力運動をかなり自由に設定できる輪郭設計法
を提案し,等幅カムの応用に新しい可能性を持たせた 2).し
かし,この方法では,基礎円径やオフセットなどの機構パラ
メータの値について既定値を使用してカムの輪郭設計を行
い,出来上がったカム輪郭の形状および使用性能に及ぼす機
構パラメータの影響に関してはまったく検討をしていない.
そこで,本研究では,揺動従動節を有する等幅カム機構の
設計結果に及ぼす機構パラメータの影響について考察し,そ
の結果を報告する.
Central distance
a
Cam angle
Angle stroke of the follower
δ
δ0
δS
δ 0*
δS *
φ
φ0
φ max
Offset of the follower
e
Structural parameter
Radius of the prime circle
rP
Structural parameter
Breadth of the follower
b
= e + a sin(φ 0 + φ max ) + rP
Angular velocity of the cam
ω1
Rise angle
Outer dwell angle
Return angle
Inner dwell angle
Swing angle of the follower
Initial angle of the follower
Structural parameter
* Structural parameter
* Structural parameter
=δ 0−2 φ max
= δS
= sin−1{(rP − e) / a}
* Structural parameter
* δS =π+ φ max−δ 0
Y
Follower
Y
e
φ0+φ
φ0
a
δS*
rp
O
2. カム輪郭等の解析方法
b
δ
X
δS
O
T
ω1
T1
ω1
図1に示すように,カムの回転中心を原点とし,カムの回
転角δ = 0 のときに Y 軸が従動節の回転中心を通るような座
標系 O-XY をカムに固定する.カムの回転角δ に対してカム
駆動側輪郭上の点 T が従動節に接触し,表1に示す記号を使
用すると点 T の座標は次式で表れる 2).
X
Cam
(b)
(a) δ = 0
Fig.1 Coordinate frame and cam contour
⎧ X T = − a sin δ − e cos(δ − φ0 − φ ) +
⎪
a cos(φ0 + φ ) sin(δ − φ0 − φ ) /(1 − φ ′)
⎪
(1)
⎨
⎪YT = a cos δ − e sin(δ − φ0 − φ ) −
⎪
a cos(φ0 + φ ) cos(δ − φ0 − φ ) /(1 − φ ′)
⎩
ここで,′ はδ に対する微分を意味する.また,点 T に対応
節に対するカムのすべり速度を求めることができる.まず,
式(3)に輪郭座標の微分を代入すると,対応する輪郭点の曲率
半径が得られる.
して,カム従動側輪郭上の接触点 T1 の座標は次式による 2).
⎧ X T 1 = X T + b cos(δ − φ 0 − φ )
⎨
⎩YT 1 = YT + b sin(δ − φ0 − φ )
(2)
式(1)と(2)に基づいて,カム機構の運動特性と潤滑・摩耗
特性に関連するカム輪郭の曲率半径,従動節の圧力角,従動
(社)日本機械学会 九州学生会
第 42 回卒業研究発表講演会(No.118-2)論文集 2011/3/11
ρ = ( X ′ 2 + Y ′ 2 ) 3 / 2 /( X ′ Y ′′ − X ′′ Y ′)
(3)
一方,図2に示すように,カムの上り行程における従動節
の接触点に対応する寸法 l は次式による.
l = a cos(φ0 + φ ) /(1 − φ ′ )
(4)
また,従動節両側における接触点の圧力角は次式となる.
⎧tan α = e(1 − φ ′ ) /{a cos(φ0 + φ )}
⎨
⎩tan α 1 = (b − e)(1 − φ ′ ){a cos(φ0 + φ )}
(5)
Table 2 Values of structural parameter used in the examples
Y
Modified trapezoidal1),
The motion curve of the follower in
vc
vs
l
vf
α
O
α1
T
vs= vc –vf
vs1= vc1 –vf1
Cycloidal1)
the rise
ω1
a (mm)
110, 120, 130, 140
e (mm)
15, 20, 25, 28
rP (°)
30, 40, 50, 60
φ max (°)
δ 0 (°)
15, 20, 25, 30
T1
vf1
ρ [mm]
vc1 X
vs1
155, 160, 165, 170
φ max =15°
φ max =20°
φ max =25°
φ max =30°
150
Fig.2 Calculation for contact parameters
100
さらに,カム駆動側輪郭上の点 T のすべり速度と従動側上の
点 T1 のすべり速度はそれぞれ式(6)と(7)から求められる.
{
}
50
⎧v = X 2 + Y 2 sin( β + α ) − eφ ′ ω
(6)
T
T
1
⎪ s
⎨
2
2
2
2
2
2
⎪cos β = X T + YT + (l / cos α ) − a / ⎛⎜ 2l X T + YT / cos α ⎞⎟
⎝
⎠
⎩
{
{
}
0
}
}
φ max =15°
φ max =20°
φ max =25°
φ max =30°
同様な手法を用いると,下り行程における従動節の接触点
位置と圧力角,カム輪郭接触点のすべり速度は求められる.
100 Y [mm]
50
3. 設計結果に及ぼす機構パラメータ影響に関する考察
本節では,設計例を通して,実用上重要なカム輪郭の曲率
半径,従動節接触点の位置と圧力角,接触点におけるカムの
すべり速度に及ぼす機構パラメータの影響について検討を
加える.計算中に使用した各機構パラメータの値を表2に示
す.あるパラメータの影響の計算には,ほかのパラメータの
値を表2にアンダーラインで示した値を用いる.
詳細な検討に関する説明は発表当日に譲るが,得られた結
果のまとめとして以下の通りである.
(1) カム輪郭の曲率半径に関して,e ,δ 0 ,a , rP , φ max
の順で各機構パラメータの影響が増加している.例えば,図
3と図4に示すように,φ max の増加につれて,カム輪郭にわ
たって曲率半径が増大する部分と減少する部分があり,過大
なφ max によってカム輪郭が完全に生成できない部分も発生
する.
(2) 従動節に対するカム輪郭のすべり速度に関しては,rP
の増加によって全輪郭にわたってすべり速度が増えるが,φ
max の増加によってはアウトドウェルとその両側にすべり速
度の増加が顕著になり,他の輪郭部分にあまり影響が見られ
ない.その以外,a,e,δ 0 の順で機構パラメータの影響が小
さくなっている.
(3) 従動節の圧力角については,φ max の影響が最も顕著に
なる.e の増加によって全輪郭にわたって圧力角が大きくな
るが,a の増加によっては圧力角が小さくなる.他の機構パ
ラメータの影響は比較的小さい.
(4) 従動節における接触点の位置 l に関しては,a と e の増
加に対して l の値が増加するが,rP の増加に対して l の値が
減少する.一方,φ max の増加によって l の値が大きくなるだ
けでなく,その変更幅も大きくなる.δ 0 の影響はφ max と逆
の傾向が見られるが,影響の程度がかなり小さくなる.
以上の結果から,設計結果に及ぼす個別の機構パラメータ
の影響が傾向的にわかるが,それだけでは,機構の総合的性
360
δ [° ]
Fig.3 Radius of curvature of cam profile with φ max change
(Modified trapezoidal cam curve)
⎧v = X 2 + Y 2 sin( β + α ) − (b − e)φ ′ ω
(7)
1
1
1
T1
T1
⎪ s1
⎨
2
2
2
2
2
2
⎪cos β1 = X T 1 + YT 1 + (l / cos α 1 ) − a / ⎛⎜ 2l X T 1 + YT 1 / cos α 1 ⎞⎟
⎝
⎠
⎩
{
180
X [mm]
−100
−50
0
50
100
−50
0
1
2 [mm]
−100
Fig.4 Cam profiles with φ max change (M.T. cam curve)
能の向上を図り,すべての機構パラメータの値を適切に組み
合わせて定めることができない.特に,表1に示したように,
機構パラメータの中で,最も重要となるφ max,δ 0 とδS が互い
に関連するので,それらの値をバランスよく選定するのは実
用上困難になることが多い.現状では,等幅カム機構の設計
において,設計者は各自の経験に基づいて結果を見ながら試
行錯誤的に機構パラメータの値を調整して決めていくしか
方法がない.したがって,機構の総合的使用性能の達成を目
標とし,各機構パラメータの値を最適に決定できる設計手法
の開発は等幅カム機構の応用のための重要課題である.
4. 結
言
等幅カム機構の性能評価に重要であるカム輪郭のすべり
速度などのパラメータを定式化にした上で,設計結果に及
ぼす機構パラメータの影響について検討した.その結果,
各機構パラメータの影響を傾向的に明らかにしたとともに,
機構の総合的性能向上を図るために機構パラメータの値を
最適的に決定できる設計手法の開発は重要の課題であるこ
とも確認した.
文
1)
2)
献
西岡雅夫,機械技術者のための実用カム機構学,日刊工業新
聞社 , 2003.
Z. Ye and M. S. Smith, Synthesis of constant-breadth cam
mechanisms, Mechanism and Machine Theory, 37(2002), 941-953.
114
ジャイロ効果による船体横揺低減装置の試作
Trial production of a Model Ship Gyrostabilizer
○学 瀬戸口 進太(鹿児島高専) 正 岩本 才次(鹿児島高専)
Shinta SETOGUCHI, Kagoshima National College of Technology, shinko 1460-1, hayato-cho, kirishima-shi,
Kagoshima
Seiji IWAMOTO, Kagoshima National College of Technology,
Key Words : Gyrostabilizer, Precession, Rolling Motion
1. 緒言
船に必要な三要素は 3S(Stability, Speed, Strength)といわれ
ている.特に,十分な復原性は船の最も重要な要件であり,
積載貨物の保全や乗船者の乗り心地向上の観点から船体動
揺の低減は重要な課題である.
本研究では,こまのジャイロ効果を利用した船体横揺低減
に関して取り上げる.こまの歳差運動にヒントを得た,この
装置の原理が考え出されたのは新しいことではないが,力学
的に非常に興味深い要素を含んでいるので,改めてこの原理
を利用した横揺減揺装置を製作し,その応用の可能性を模索
する.
Fig. 2 Precession
2. 船体座標系
通常用いられる船の座標系を Fig.1 に示す.船体は座標
軸に対して並進運動と回転運動の 6 自由度の運動をする.
船体固定座標系 の原点は船体中央,x 軸は船体前方方向 ,y
軸は船体右舷方向 ,z 軸は船体下方向 を正とする.回転運
動は座標軸の正方向に対して右ねじ方向を正とする.本研
究では,x 軸周りの回転運動,すなわち横揺運動について
考える.
r
dL r
r
= h ´ Mg
dt
r
uuur
ただし, h :支点Pから重心Gへのベクトル PG , M :こ
r
まの質量, g :重力加速度, ´ :ベクトル積
時間 Dt の間に角 Dy だけ水平方向に向きを変え円軌跡
を描く.また,鉛直線とこまの主軸のなす角を q とし, ®
のないものはスカラーとすると ,
r
r
AB
DL
| h ´ Mg | Dt hMg sin qDt
Dy =
=
=
=
OA L ×sin q
L ×sin q
L ×sin q
となる.主軸に関する慣性モーメントを I とすると L = I w
であり,従って、歳差運動の角速度,および周期 T は,
dy hMg
=
dt
Iw
Fig.1 Coordinate systems fixed on a ship
T=
2p 2p I w
=
y&
hMg
となる.
3. ジャイロ効果と歳差運動
4. 横揺低減装置への応用
ジャイロは 回転軸とその周りに軸対称に分布する質量か
ら構成される回転体であり,こまと同じものである.
ジャイロ効果とは,回転するこまに転倒モーメントが加わ
った時,その外力とは 90 度向きを異にした方向に生じるモ
ーメントによって こまを転倒から引き起こそうとする 作用
のことである.その結果生じるのが歳差運動である.
歳差運動はこまの場合,軸の一方の端点を支点として他端
点が水平に円軌跡を描く.その概念図を Fig. 2 に示す.角速
r
度ベクトル wr と角運動量ベクトル L もこまの軸方向と一致
するものとして 考える.
uuur
r
Fig.2 においてそれぞれ ,AB = DL は微小時間 Dt の間の角運
uur r
uuur r
r
動量の増加, PA = L は時刻 t における角運動量, PB = L + DL は
時刻 t + Dt の角運動量 である.従って,支点 P 周りの運動
方程式は次式で表される.
横揺低減装置は,ジャイロ本体とそれを支持するジャイ
ロ支持枠,ジャイロ支持枠を船側に連結する枠支持軸,及
びモータから構成される.
高速回転するジャイロ軸を保持するベアリングホルダ
ーはオフセット 調整が容易かつ,自動調芯が可能な靭性の
高いナイロンを 用いた.ジャイロは切削性に富むアルミ合
金 A7075 で製作し,質量は 140 グラムである.これは質量
の大きい物体を模型船の上に搭載することによる 重頭化を
防ぐためである .ジャイロ支持枠も A7075 の 15mm の板を
用いて軽量化を図った.モータはマブチ 製 RS-380PH で,
12 ボルトまで許容している.
設計,製図を行うにあたり Solidworks 及び AutoCAD を
使用し,また Solidworks は横揺低減装置 の重心解析を容易
にした.
(社)日本機械学会 九州学生会
第 42 回卒業研究発表講演会(No.118-2)論文集 2011/3/11
a,A
c
C
Fig. 3 Gyrostabilizer
Fig. 3 に横揺低減装置の構成を示す.
波浪中の船には,横揺を発生させるモーメントと それに
反する復原モーメントが働く.最初,船に搭載されたジャ
イロは船の横揺傾斜に伴って船側に連結された枠支持軸回
りに転倒モーメントが 働き横揺低減装置 が船長方向にうな
ずくように傾斜する.ジャイロのうなずくような回転が今
度はジャイロに復原モーメントと 同じ方向のモーメントを
発生させ,それが枠支持軸を通して船体に伝達される.そ
の結果,横揺振幅が小さくなる.
このように横揺低減装置の原理は,ジャイロ効果,すな
わちこまの歳差運動の原理によって説明できる.
5. 実験装置と実験方法
横揺角の測定にはポテンショメータを 使用した.模型船
に搭載したポテンショメータに ,直流安定化電源にて 5 ボ
ルトを印加し,出力電圧をデータロガーで 読み取り,Excel
にて角度を算出した.
模型船は冶具によって固定した.模型船の横揺による排
水量変動荷重が治具に直接かからないように ,模型船の縦
揺はリニアスライダーによって 治具から自由になっており,
横揺角のみを正確に測定できる構造とした.その他の運動
は拘束した.
Fig. 4 に横揺低減装置を搭載した小型模型船を示す.
模型船は全長 270mm,全幅 160mm,全高 160mm の木製
で X 軸方向に断面が一様な二次元模型船 である.
模型船を 25 度右舷傾斜させ,横揺低減装置 を作動させた
場合と,作動させなかった 場合のそれぞれについて 横揺角
の変化を測定した.ジャイロ駆動用のモータには直流安定
化電源によって 12 ボルトを印加し,ジャイロを 26000rpm
で回転させた.
B
b
Fig. 5 Rolling angles with and without gyrostabilizer
6. 実験結果及び考察
初期傾斜角 25 度としたときの 横揺減衰振動実験結果 を
Fig. 5 に示す.縦軸は横揺角,横軸は時間を表している.
正の角度は右舷傾斜,0 度が中立,負の角度が左舷傾斜で
ある.実線がジャイロを駆動させた場合,破線が駆動させ
なかった場合の横揺減衰振動である.
ピーク A,B,C は装置を作動させた場合,ピーク a,b,
c はさせない 場合である.最大振幅減衰比 は装置を作動さ
せた場合 0.45,させなかった場合 0.82 である.従って,横
揺低減装置を作動させると最大で振幅を約 54%低減させた
ことになる.ジャイロ効果を利用した横揺低減装置 は,横
揺低減効果が顕著であるといえる .ただし,振幅減衰比は
次式で定義される.
振幅減衰比=
c
a
又は
=
C
A
実験測定の結果,装置を作動させた場合の歳差運動の周
期は 2 秒前後であり,装置を作動させない場合の周期の約
2 倍となった.従って,横揺低減装置 を駆動させると,船
の横揺れ角速度,角加速度は半減することになり ,搭載貨
物の保全や船の乗り心地の観点から,横揺低減装置 は非常
に有効である考えられる.
7. 結言
本研究から,船の横揺低減にはジャイロ効果の利用が非
常に有効であることが 検証された.
横揺振幅を 54%低減させ,横揺周期は約 2 倍になった.
しかし,横揺低減装置の船内での振れ回り運動のため,
かなり大きな空間を必要とする欠点があり,また,ジャイ
ロの高速回転時の騒音や,大きな消費電力も課題である.
現状では単胴商船の横揺低減装置として直ちに実用的
であるとはいえないが ,航走中停泊中 を問わず船の横揺低
減に有効に作動すること,また荒海中の航行任務をになう
救助船などの特殊船の安定化装置としての可能性が考えら
れる.
文 献
1)
Fig. 4 Model ship with gyrostabilizer
戸田盛和,コマの科学,岩波新書,1980
115
沖縄におけるシックビルディングの調査と対策
Measurement of air quality in sick buildings and measures against them in Okinawa
正 野底 武浩(琉球大) 准 儀間 悟(琉球大)
助 水口 尚(琉球大) ○学 當眞 優貴(琉球大)
Takehiro NOSOKO, University of the Ryukyu, senbaru 1, nisiharacyou, nakagamigun, Okinawa
Satoru GIMA, University of the Ryukyu
Minakuchi HISASI, University of the Ryukyu
Yuki TOMA, University of the Ryukyu
Key Words : Sick Building, Sick House, VOC(Volatile Organic Compounds), TVOC(Total Volatile Organic Compounds),
1. 緒言
近年、シックビルディングによる健康被害は深刻であり、
その対策が求められている。その原因は、建材や家具等か
ら放散される揮発性有機化合物(VOC)である。
シックビルディングの症状は多岐にわたるが、代表的な
症状として、頭痛やめまい、集中力の低下、じんましんや
鼻づまり、神経機能障害などがある。本人は不調を感じて
もその原因に気がつかない場合が多く、問題を深刻にして
いる。
本研究では、大学構内、住居、小学校などにおいて、ガ
スクロマト型簡易モニターを用いて空気中の VOC 濃度を計
測し、クロマトパターンを比較することで、成分の推定や
発生源の特定が可能かどうか検討する。状況に応じた適切
な改善策を個別に提案出来ないか検討する。
2.測定方法
ガスクロマトグラフ法とは、吸引した空気をキャリアガ
スと共に、分離カラムの中に流して VOC 成分を分離し、検
出するものである。短くて単純な構造の分子ほど検出器に
早く到達し、長くて複雑な構造の分子ほど到達が遅くなる。
このようにして、分離カラムを通る分子の速さの違いによ
って VOC 成分が分離される。
今回使用する VOC モニターは、トルエン、エチルベンゼ
ン、キシレン、スチレン、TVOC(揮発性有機化合物の総量)
の濃度の測定が可能である。このモニターには、低分子か
ら高分子まで広く分子を検出するD1(分離カラムの途中
に設置)、低分子をより詳細に分離し検出するD2(分離カ
ラムの末端に設置)の2つの検出器がある。また、この装置
では上記の4物質以外の特定はできないが、クロマトパタ
ーンから成分の大まかな傾向が分かる。モニターは小型で
あり、測定したい場所に持ち込んで数分~数時間おきに測
定できる。
・測定場所
➀R大学A教員室(1 日中窓を開けた状態で、パソコンや書
籍からの放散抑制対策を行っている)
②B教員室(書籍が多く、換気も行わずに1日中部屋を閉め
切る)
③C教員室(パソコンが多く、日中は人の出入りが多いが、
換気はほとんど行わない)
④Sさん住宅(和室で畳があり、木製の家具が混在。日中は
換気を行い、夜間は閉め切る)
(社)日本機械学会 九州学生会
第 42 回卒業研究発表講演会(No.118-2)論文集 2011/3/11
⑤小学校の校長室(休日の閉め切った状態。絨毯や家具など
が混在)
上記の部屋において、2時間おきに12回測定を行った。
3.測定結果
図1にR大学の各教員室でのクロマトパターン(D1 で
検出)の比較を示す。横軸のリテンションタイム(以下 RT)
は化合物が検出器に到達するまでに掛かる時間のことであ
る。縦軸の Intensity は、VOC の成分の量に比例する値で
ある。3部屋とも異なるクロマトパターンを示している。
・B教員室のクロマトパターンは、RT 約 120 秒と早い時間
で高いピークが出ており、小さい分子の放散が多いことを
示す。また RT 約 520 秒でのピークより、高分子も多く検出
されたことが分かる。
・C教員室も RT 約 150 秒でピークが出ており、低分子が多
いことが分かる。しかし、RT 約 300 秒、RT 約 520 秒でのピ
ークより、中から高程度の分子も多く放散されていること
が分かる。これは、C教員室に多くあるパソコンからの放
散のためだと考えられる。
・A教員室は、RT 約 520 秒の時にピークが見られる程度で、
他の部屋に比べて低い値となっている。これは、A教員室
では、パソコンからの排気を直接室外に誘導したり、本棚
にガラスの扉を付けて閉めておくなどの放散抑制対策を行
っており、その効果が出ているためである。
図2は、B教員室、Sさんの住宅、校長室のD1 検出に
よるクロマトパターンの比較を示す。
・Sさん宅は、RT 約 180 秒、RT 約 300 秒で大きなピークが
出ており、低分子から中程度の分子が多く検出されている。
他の部屋と比較すると、特に RT 約 300 秒の中程度の分子が
多く放散されている。
・校長室は、RT 約 120 秒でピークが出ているが、特に顕著
なのが RT 約 520 秒でのピークである。他の2部屋と比較す
ると、高分子の放散が非常に多いことが分かる。これは校
長室だけにあった絨毯からの放散が影響していると考えら
れる。
また、これらについて検出器D2 によるクロマトパター
ンを比較したのが図3である。D2は図2の RT 約 300 秒ま
でを、より詳細に検出したものである。なお、D2ではD
1で検出されたピークより遅い RT で対応するピークが検
出される。
・書籍の多いB教員室は、RT 約 110 秒から RT 約 220 秒の
間の低分子が多く放散されている。印刷で使用されるイン
ク中には低分子が多く含まれており、放散しやすいので低
分子が多く検出されたと考えられる。
・校長室は、低分子の放散は尐ないが、RT200 秒以降には
いくつかのピークを検出している。
・図2で低分子と中程度の分子が多く検出されていたSさ
ん宅は、図3でも RT 約 460 秒、RT 約 1000 秒で高いピーク
が出ている。中でも RT 約 460 秒の大きなピークは特徴的で
ある。これは木製の建材からの放散によるものなのか、教
員室や校長室には無い生活関連製品からの放散によるもの
なのか検討が必要である。
濃度が下がっている。これより、換気は、VOC 抑制対策と
して有効であることが分かる。
4.まとめ
・家具が多い部屋や書籍が多い部屋など、放散源の違いで
特徴のあるクロマトパターンが検出された。
・絨毯を敷いた部屋では、RT 約 520 秒でのピークが著しく
大きい。木製の建材が多い部屋では、検出立ち上がり後の
短い時間に多くの VOC が検出される。
・部屋を閉め切った場合、放散された VOC が蓄積されて TVOC
濃度が上昇し、窓開放時の約6倍以上に増加することがあ
る。
・建材に加え、家具や絨毯などからの VOC 放散も多い。
・換気等の放散抑制対策を行うと VOC が大幅に抑えられる。
5.今後の予定
次に、最大値の TVOC 濃度の比較を図4に示す。大学の教
員室よりも、家具などが多いSさん宅と、絨毯がある校長
室の方が、TVOC 濃度が高いことが分かる。また、Sさん宅
と校長室は厚生労働省の定めた目標値 400μg/㎥を超えて
いる。一方、A教員室は 39μg/㎥と他の部屋と比べて非常
に低く、放散抑制対策が有効であることが分かる。
また、図5にSさん宅の TVOC 濃度の時間変化を示す。VOC
は温度が高いほど放散するが、気温が高い日中よりも夜間
の TVOC 濃度が高い。この部屋は日中換気を行っているが、
20 時から翌朝の 6 時までは部屋を閉め切っている。部屋を
閉め切っていた時間帯に濃度が上昇し、換気を行った後、
以下のような場所で測定を行い、クロマトパターンのデ
ータを蓄積する。
➀住宅内の様々な部屋、②近くに産業施設がある住居、③
体調不良を訴えている方の住居、④交通量の多い道路、⑤
異なる気象条件下、⑥放散抑制対策の有効性など。
これらのクロマトロパターンを比較することで、発生源
によるパターンの特徴を明らかにし、その特徴を利用して
新たな測定において発生源の推定や目星をつけることが可
能か検討する。
文 献
1)
2)
吉田弥明,井上雅雄,藤田清臣,「シックハウス対策の最新
動向」,株式会社エヌ・ティー・エス,2005,pp. 2-17, 60-89.
シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会中間報告書
その4-第8回及び第9回のまとめ, 厚生労働省医薬局審査
管理課化学物質安全対策室, 2010 年 8 月 13 日
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/02/h0208-3.html,
116
カイトフォトによる水環境測定装置の開発
Development of Kite Aerial Photographic Equipment for Water Environment Research
○学 木村 大樹 (大分高専)
清水 遼太 (大分高専)
正 軽部 周 (大分高専)
Daiki KIMURA, Oita National College of Technology, Maki1666, Oita-shi, Oita
Ryouta SIMIZU, Oita National College of Technology
Shu KARUBE, Oita National College of Technology
Key Words: Environmental Engineering, Monitoring, Kite Aerial Photography
1. 緒言
現在,わが国は環境保全を施策とし,河川および海岸環
境の保全・再生(復元)事業を行っており,これに関連し
た研究が多く行われている.例えば,大分県には田ノ浦ビ
ーチと呼ばれる人工海浜があり,海水浴などに利用されて
いるが,近年は砂の侵食と流動や水質の悪化が問題となっ
ている(1).
河川や海岸などの大域的な調査を行うには,航空写真を
用いるのが効果的である.しかし,一般に航空写真の撮影
は高コストであり,専門的な知識も必要である.一方,誰
もが楽しめる簡便な航空写真の撮影法として,凧にカメラ
を吊して撮影を行うカイトフォトがある.
本研究は,カイトフォトの技術を基盤として,水環境の
調査に利用しやすい低コストな航空写真の撮影装置を制作
するものである.これにより広範囲かつ継続的な水環境の
データ収集が行われると期待できる.
2. カイトフォト装置の製作
2.1 カイトフォトの概要
カイトフォト装置は,①カイ
ト(凧)
,②カメラ,③リグの 3 つで構成される(2).
リグとは,カメラをカイトラインに吊るすための装置で
あり,シャッターを押す装置,タイマ回路,ピカベット懸
架器で構成される.ピカベット懸架器とは,シャッター装
置とカイトラインをつなぐ装置であり,凧の高度が変化し
ても平行を保つ機能を有する.
一眼レフカメラを用いた本格的なカイトフォトは,カメ
ラとリグを合わせて 2kg 程度となるため,幅 4~5m の大型
の凧を用いる.
2.2 カイトフォト装置の製作
本研究では,研究目的で
ある低コストで扱いやすいカイトフォト装置の開発を目指
し,比較的小さいカイトでも揚げることのできる軽量な装
置を開発する.
本研究で用いるカイトとカメラを図 1 に示す.(a)のカイ
トはソフトカイトと呼ばれる種類の骨組みの無い凧であり,
初心者でも取り扱いの容易なカイトといわれている(2).(b)
のカメラには,軽量かつ安価な 30 万画素のトイカメラを用
いている.
図 2 に製作したリグを示す.リグは上部のピカベット懸
架器と,下部のシャッター装置から構成されており,シャ
ッター装置は架台の取付け角度を調整することで下向きに
角度をつけることができる.シャッター装置の部品は田宮
模型製のプラスチック板(ユニバーサルプレート)
,金属板
(ユニバーサル金具)
,ハイパワーギヤーボックスを使用し
ている.また,タイマ回路にはイーケイジャパン製の時限
タイマ KPS-3226 を使用している.
シャッター装置の高さは 111mm,幅は 233mm,重量は
Fig.1
Kite and camera
Fig2.
Overview of a kite photo device
Fig3.
Automatic shutter mechanism
Fig4. Picavet suspension
カメラと電池を含めて 281g であり,小型かつ軽量であるこ
とを実現している.シャッター装置正面には,ピカベット
懸架器に固定するための架台,シャッターボタンを押すた
めの板ばね,シャッター動作用のタイマ回路がある.タイ
マは,
配線により 1~1000 秒までの時間設定が可能である.
装置背面には,高度計,板ばねを押すためのカム,カム回
転用のモータとハイパワーギヤーボックスがある.
図 3 は,カム機構を用いた自動シャッター機構の説明で
ある.A がハイパワーギヤーボックスの回転軸である.回
転軸が図の時計方向に回転することによりカム B が動き,
板ばね C を押して下降させることで,シャッターボタンを
押す仕組みである.自動シャッター機構はタイマを入れて
から 4 分 30 秒後に動作し,0.5 秒間隔で 20 枚の連続撮影が
可能である.
図 4 は,シャッター装置を吊るすためのピカベット懸架
器(2)である.中央の木製のブロックに金属パイプを 4 本配
置し,パイプの端を 1 本の糸で写真のようにつなぎ,凧糸
(カイトライン)に点 A,B の二点で吊るす.本懸架方法は,
凧の高度によりカイトラインの角度が変化しても水平を保
つため,安定した写真撮影が可能となる.
3. 実験結果
図 5 に撮影した写真の例を示す.図の左側の写真は地上
から,右側の写真は高度 75m の上空から撮影したもので,
左右の写真は同じ場所を撮影している.撮影場所は大分県
別府市上人ヶ浜公園,撮影日時は 2010 年 11 月 23 日 10 時
30 分頃である.撮影時の天候は曇りで,風速は 2.8m/s であ
る.
撮影手順を以下に示す.まず凧を揚げ,凧が一定の高度
で安定した後に懸架器の糸をカイトラインに取り付ける.
その後,更に凧を上昇させ,装置を上空に持ち上げる.写
真撮影後,凧を下降させ,カメラを回収する.
図 5 の A2,C2 中に示した距離から,上空からの写真は
約 100×100m の範囲を捉えていることがわかる.
また,上空から撮影した写真を合成すると,図 6 に示す
ように一枚の大きな写真になる.このように撮影した写真
を合成することで,より広範囲の画像を取得することが可
能である.
撮影上の問題点としては,狙った場所を撮影するのが難
しい,風の状態により撮影困難な場合があるなど,今後解
決すべき点も多い.
4. まとめ
本研究では,水環境の調査に使用するための軽量かつ安
価なカイトフォト装置を試作した.本装置は材料費 5,000
円程度で製作可能である(ただし,カイトおよび高度計を
除く).また,試作したカイトフォト装置を用いて航空写真
Left : Grand view
Right : Aerial view
Fig5. Experimental results
Fig6. Composite photograph
を撮影し,高度 75m からの海岸線の写真を撮影することに
成功した.さらに,撮影した写真を一つの画像に合成する
ことが可能であることを示した.最終的には,小・中学生
でも製作できるテキストつきの組立キットを開発し,講習
会を開くなどして,水環境の調査に協力してくれる人の裾
野を広げる予定である.
参考文献
(1) 青田ら,アサリを指標生物とした人工海浜における生
態系の復元に関する基礎調査,大分工業高等専門学校
水環境研究発表会 概要集,Vol.2,No.4(2009),pp.7-8.
(2) Make: Technology on Your Time Volume 01, オライリ
ー・ジャパン (2006),pp.74-105.
軟骨再生用細胞構造体形成ロボットの研究開発
Development of scaffold free cell structure building robot for cartilage regeneration
○学 宮﨑 雄大(九産大) 正 下戸 健(九産大) 非 中山 功一(佐賀大) 非 松田 秀一(九州大)
非 三浦 裕正(愛媛大) 非 岩本 幸英(九州大)
Yudai Miyazaki, Kyushu Sangyo University, 2-3-1 Matsukadai, Higashi-ku, Fukuoka
Takeshi SHIMOTO, Kyushu Sangyo University
Koichi NAKAYAMA, Saga University
Hidekazu MATSUDA, Hiromasa MIURA and Yukihide IWAMOTO, Kyushu University
Hiromasa MIURA, Ehime University
Key Words :cartilage regeneration, Scaffold free, Cell structure building robot
1. 緒言
現在再生医療の分野においてさまざまな技術が開発されてお
り,特に病気や事故などで失った組織や臓器の再生を目指した 3
次元組織工学が注目を集めている.その中で,細胞・成長因子/
遺伝子・Scaffold を組み合わせることにより体外で立体構造体を
形成する試みがすでになされている.その例として,細胞シート
を積層することで細胞構造体を作成する技術や任意の位置に細
1, 2)
胞を播種しながら積層する技術 が報告されている.しかし,
これらの技術はいずれも生分解性ポリマーやハイドロゲルとい
った Scaffold を使用しており,コスト面や生体内に移植した際の
副作用等が懸念される.これに対し,本研究では,これまでに細
胞だけで立体構造体を作製する技術を確立しており,日本白色
を自動で供給するためのモジュールとプレートを定位置まで運
ぶためのスライダーユニットを用いてプレートを自動供給でき
るようにした.
スタッカーのプレートタワーは細胞混濁液分注後
そのままインキュベータに入れることができ,
容易に管理するこ
とができる(図 2).
Plate tower
Scalar robot
Electric cylinder
Stacker
家兎を対象に行った移植実験において良好な結果を得て
いる.しかしながら,この技術は熟練したオペレータの手技に
よって行われており,長時間単調な作業を強いることになる.し
たがって,集中力の低下や,それに伴う細胞構造体の品質の低下
および細胞への影響が懸念される.そこで本研究では,比較的単
調で長時間の集中力を要する作業からの人間の解放,
クリーン環
境下で作業することによるコンタミネーションの低減,
精度の高
い細胞構造体の作製を目指し,
ロボットを用いて細胞構造体を作
製する工程を自動化させることを目的とし,
軟骨再生用細胞構造
体形成ロボットの開発および本システムの有効性を検討した.
2.対象および手法
2・1 軟骨再生用細胞構造体形成ロボットの開発
作製し
た軟骨再生用細胞構造体形成ロボットの概略を図 1 に示す.
基本
動作と細胞の吸引・排出は,クリーン対応のスカラーロボット
(E2C, EPSON)
と電動シリンダ
(CPL28T2B-06KD, Orientalmotor)
を使用し,
装置に用いた部材はオートクレーブまたはエタノール
消毒可能な素材とした.装置全体はクリーンベンチ内に設置し,
非稼働時は紫外線滅菌を行えるようにした.
スカラーロボットの
第 4 関節の先端に 2×2 チャンネルのチップ着脱可能なピペット
を取り付け,
滅菌済みのチップを装着して細胞を扱うようにした.
制御用ソフトウェアはクリーン環境下を考慮してタッチパネル
式にし,簡単に操作できるようなプログラム画面にした.細胞構
造体はモールドチャンバー(以下モールド)にスフェロイドを集
めることで作製する.モールドの底には,Φ0.3mm の穴の開い
た土台もしくはα-TCP を入れ,
培養液が循環できるようにした.
細胞構造体完成後は,土台もしくは TCP を下から押し上げるこ
とで細胞構造体に直接触れることなく移植に備えることができ
る.現在使用しているスフェロイド形成プレートは,1 枚あたり
96 個のスフェロイドを作成することができる.モールドを使用
して細胞構造体を作製するには,
家兎の膝関節を対象にした場合
でも,プレート 7~10 枚程度が必要になる.そのため,プレート
Slider unit
1
2×2 cannel pipette
Case of used tips
Medium & Reservoir
1
Fig.1 Scaffold free cell structure building robot
Plate tower
Stacker
Incubator
Fig.2 Plate tower of stacker can be incubated
2・2 細胞構造体の作製
細胞は日本白色家兎から採
取した MSC(Mesenchymal Stem Cell)を用い,継代はカル
チャーディッシュ(Φ150mm, H25mm, CORNING)上で行
った.継代するための培養液には,10%FBS(fetal bovine
serum, HyClone),4.4mM sodium hydrogen carbonate(WaKo),
9.9mM HEPES ( 2-[4- ( 2-hydroxyethyl ) -1-piperazinyl]
ethanesulfonic acid, DOjinDO)
,1.2%antibiotics(penicillin and
streptomycin, Meiji)を添加した DMEM(dulbecco’s modified
eagle medium, Nissui)を使用した.必要な細胞数に達した
時点でウェルプレート(multi well plate, SUMILON)に分注
し,2 日間のスフェロイド培養後,生成されたスフェロイ
ドをモールドに収集した.分注および収集作業には,本研
究で開発した軟骨再生用細胞構造体形成ロボットを使用
した.2 週間の培養後,作製した細胞構造体の肉眼的評価
および膝関節の軟骨下骨層まで穴を開けた日本白色家兎
の膝軟骨欠モデルに自家移植を行った.
3. 結果および考察
コンタミネーションの有無を調査するために落下細菌試
験を行った.
本研究で使用した培養液を入れたシャーレを,
装置を設置しているクリーンベンチ内の四隅に静置し,シ
ステムが稼働している間,シャーレの蓋を解放した.その
後 1 週間の静置培養を行ったが,コンタミネーションの発
生は確認されず,システム内はクリーンであることが確認
された.さらに,細胞混濁液の拡散,ピペッティングおよ
び廃液の処理といった熟練したオペレータと同様のモーシ
ョンを加えたが,手技と比較し同程度の時間で安定して作
業を行うことができた.人を対象とする場合,作製する細
胞構造体が大きくなり長い作業時間を有するため,本装置
のようなシステムは有効であると考えられる.
本研究で開発した細胞構造体形成ロボットを用いて作製
した細胞構造体を図 3 に示す.コンタミネーションを起こ
さずに直径約 4.6mm 高さ約 7.0mm の細胞構造体を作製す
ることができた.手技での経験上,作製に失敗した際は構
造体が液状化もしくは崩壊するが,本研究で作製した細胞
構造体は培養液中でも形状を維持しており,ピンセットで
保持することも可能であった.
.
Cartilage defect model
Cell structure
Implantation
Fig.4 Autologous cell structure implantation in rabbit osteochondral defect
Implantation
(a)
7mm
Boundary
(b)
Φ4.6mm
Fig.3 The robot made cell structure
軟骨の治癒効果を検証するため,日本白色家兎の軟骨欠
損モデルに,本システムで作製した細胞構造体の自家移植
した様子を図 4 に示す.
移植後 24 週の関節軟骨表面および
骨の中央部を縦方向切断し,ヘマトキシリン・エオジン染
色した断面を図 5 に示す.関節軟骨表面は肉眼的ではある
が,欠損部の再生が確認できた.断面において,関節軟骨
表面と再生軟骨表面の境界部に不連続性が確認され,隙間
が存在していた.本手法は未分化細胞を移植し,接してい
る周辺組織の影響で再生を促す.すなわち自己治癒力を応
用するが,周辺組織と接していなかったため分化誘導され
ず,
軟骨はあまり再生されなかったと考えられる.
しかし,
軟骨下骨部で接している箇所は周辺組織と接合していたた
め,再生が確認できた.完全な再生には至らなかったが,
骨と軟骨の再生を確認することができ,本システムで作製
した細胞構造体は軟骨再生に有効であると考えられる.過
去の手技で細胞構造体を作製した実験において,細胞構造
体が周辺組織と接していた場合は良好な結果が得られてお
り,これは移植する際の医師の手によるものが大きい.し
たがって,
移植までを考慮したシステムに拡張することで,
再現性のある良好な結果を得られると考えられる.
Fig.5 Postoperative course of implantation (a) surface of
joint (b) hematoxylin-eosin stained cross-section surface
4. 結言
細胞構造体を作製するための軟骨再生用細胞構造体形成
ロボットの開発を行った.日本白色家兎の膝軟骨欠損モデ
ルに細胞構造体を自家移植した実験では,完全な再生には
ならなかったが,本システムはクリーン性,安全性,操作
性 , メ ン テ ナ ン ス 性 な ど , GMP ( Good Manufacturing
Practice)を考慮した仕様になっており,臨床に応用できる
と考えられる.本研究では複数種の細胞を任意の空間位置
に配置させる手法も確立しており,マニュピーレータを応
用した装置の開発を行っている.本機と組み合わせ,複雑
な形状や構造を有する臓器や組織の構造体の作製を目指す.
参考文献
1) Nakamura M, et al., Biocompatible inkjet printing technique
for designed seeding of individual living cells, Tissue Eng,
Vol.11(11-12), pp.1658-66, 2005
2) Liu Tsang V, et al., Fabrication of 3D hepatic tissues by
additive photopatterning of cellular hydrogels , FASEB J,
vol.21-3, pp.790-801, 2006
118
三次元造形ツールを活用した形状設計と評価
Feature Design and Evaluation using Three Dimensional Digital Tool
[指導教員]
正
○学 江藤利宏(熊本大学)
大渕慶史(熊本大学)
正 坂本英俊(熊本大学)
Toshihiro ETO, 2-39-1 Kurokami, Kumamoto-shi, Kumamoto
Yoshifumi OHBUCHI, Kumamoto University
Hidetoshi SAKAMOTO, Kumamoto University
Key words : Digital tool, Feature design, Surface modeling, Product design
------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
1.緒言
CAD や CAM,CAE といったデジタルツールは製品設計の現場
において近年益々重要視されるようになってきた.試作モデ
ルの製作数の減少,設計時間の減少による人件費の減少など,
生産コストの節約に加えて,データ上での部品の干渉チェッ
クや形状修正,強度解析など,製品の事前評価の充実による
品質向上にも大きく貢献している.
また,3D-CAD の登場により意匠性に富んだ複雑なモデリ
ングが可能となり,企業においては効率的な製品設計の為に
デザイナーと技術者両者間の意思の疎通が重要になっている.
しかし,デジタルツールを設計に用いるにはデータの互換性
の問題や,モデルの製作に相応の知識や経験,技術が要求さ
れるといった問題がある.
本研究では,複雑な曲面を有し意匠性への要求も高い人の
前腕から指先までのモデルを対象として外観を重視した義手
の設計をデジタルツールを用いて行う.このプロセスにおい
てデジタルツールを使う上で生じる課題と解決策を検討し,
効果的な活用のガイドラインとすることを目的とする.
2.設計の流れ・使用ツール
本研究におけるモデルの設計の流れを以下に示す.
Fig.1 Design flow
本研究では,指の屈曲の動作を実現する為の試作モデルと
屈曲の機構を有し,かつ人の手と同等のサイズの外装に収ま
るモデルを作成する.以下,前者を動作モデル,後者を実用
モデルと呼ぶ.
まず,動作モデルの設計・試作を行い,次に実用モデルを
設計する.実用モデルの設計の際には実際の手の形状を CAD
に取り込み,寸法や干渉の状態を確認しながら設計を行う.
実際の手をデジタルモデル化するためには 3 次元デジタイ
ザを用いる.取り込んだデジタルモデルを元に,Solid 系 CAD
とサーフェースモデラの2つの3次元ツールを使用して設計
を行う.CAD ソフトは SolidWorks,サーフェースモデラは
Rinoceros を使用した.これらはミドルレンジモデルと呼ば
れる比較的安価で扱いやすいツールとして広く普及している.
サーフェースモデラはサーフェースの情報を NURBS を用いて
表現するため曲面の作製や面の自由変形,曲線の作製機能に
優れ,意匠性に富んだモデルを作製するのに向いている.一
方,Solid 系 CAD は中実な体積をもつモデルを作製し,工業
系のモデルを作製する機能が充実している.次に RP マシンに
よりこれらで作成したデジタルモデルを立体化する.最後に
人の手から型を取ったシリコン樹脂のグローブを装着する.
3.動作モデルの試作
まず,Solid 系 CAD で手の骨格モデルを作成し,RP マシンで
再現性を確認し,次に,立体化したモデルに指を屈曲させる
為の機構を組込み,動作の確認を行った.
3.1 設計
このモデルに要求する仕様は以下である.
・人と同等のサイズの骨格モデルである
・それぞれに関節を持った三本の指で物を把握できる
モデルの設計には主に Solid 系 CAD を用いたが指先の複雑な
曲面形状はサーフェースモデラで作製し,Solid 系 CAD にイ
ンポートした後に編集を加えた.Fig.2 のように,人差し指,
中指はそれぞれ一自由度,親指は二自由度を有している.な
お,親指の第一関節は把握に関して問題ないと判断し,固定
している.それぞれの部品間の干渉や,屈曲,回転などの動
作を Solid 系 CAD 上で確認する.
Fig.2 Solid CAD model
Fig.4 MDF model
Fig.3 Parts arrangement
Fig.5 Processed parts
3.2
製作
製作には Roland 社製の MDX-40 を用いた.エンドミルによ
る一方向からの切削加工であるため,材料となる板を両面加
工する事により部品を作成する.
サーフェースモデラ上で部品の配置を行い(Fig.3)
,これ
を STL 形式に変換し CAM ソフトでツールパスを作成した.モ
デルをまず MDF で試作を行ったところ,加工抵抗により加工
した材料の上下面にずれを生じた.ジグの強化や切削条件の
見直しを行い,もう一度 MDF により加工の状態を確認後
(Fig.4)
,ポリアセタールで製作を行った.
Fig.5 は加工後の状態である.
部品をガイドから切り離し,
複合加工機とボール盤で,端面出しや穴あけなどの加工を行
い組み立てたものが Fig.6,人差し指,中指の屈曲の機構を
組み込んだものが Fig.7 である.動作の仕組みは Fig.8 の様
に指先にワイヤを固定し引っ張ることで屈曲の運動を行った.
この駆動にはラジコン用のサーボモータを用いた.また,バ
ネの強さにより3つの関節の動きの自然さを調整した.なお,
人差し指,中指のワイヤは繋がっており,プーリを介したリ
ンク機構となっている.これにより,1つのサーボモータで
二本の指を屈曲できる.また,一本の指が物体と接触し動き
が止まっても,もう一方が物体に接触するまで動き続ける為,
物を掴む際,指が物体によりなじむことができる.
Fig.6 Assembled model
4.1 手の形状のデータ化
本研究で使用した3D デジタイザはコニカミノルタ製の
VIVID910 である.回転テーブルにスキャンする対象を乗せ設
定した角度ごとに 360°分の画像をスキャンし,対応する編
集ソフトで 1 つのポリゴンメッシュモデルに合成,編集する.
今回,石膏で複製した手を回転テーブルに乗せ 30°ごとに
計 12 回のスキャンを行った.しかしここで扱っているポリゴ
ンメッシュモデルをそのまま Solid 系 CAD にインポートした
ところ,不具合が生じ設計に使用できなかった為,サーフェ
ースモデラ上でモデルにサーフェースを作成した.これによ
り Fig.10 のように Solid 系 CAD にインポート可能となった.
Fig.10 Imported data on solid CAD
4.2 内部構造の設計
ワイヤやプーリは,シリコン樹脂との干渉を防ぐため,ま
た限られた空間を有効利用する為, Fig.11 に示す様に手の
ひらの内部に収めた[2].また,取り込んだ手のデータを使い,
設計した骨格モデルのサイズが適当であるかの検討を行った.
(Fig.12)
Fig.7 Moving model
Fig.11 New model
Fig.8 Mechanism of flexion
Fig.9 New mechanism
3.3 問題点と改善
動作の確認を行ったところ,使用したサーボモータのトル
クでは両指を屈曲出来なかった.バネにより自然な指の動き
を行わせていた屈曲の機構を変更した.Fig.9 のワイヤのス
トロークの差を利用した機構[1]の採用により,バネからゴム
に変更が可能となり,必要な力が 1/3 となった.
4.実用モデル
実用モデルでは,実際に人の手から型を取ったシリコン樹
脂カバーに収まるモデルの製作を行った.実際の手をスキャ
ンしたデータを CAD 上で活用しながら新たに変更したワイヤ
機構のワイヤやプーリの取り回しを考慮したモデルの設計を
行った.
Fig.12 New model with exterior
5.考察
デジタルモデルによって外装を CAD 上に表示させ内部構造
を設計する統合型設計は,効率がよく設計の手段としては有
効であるが,デジタイザで取り込んだ STL データが Solid 系
CAD 上で編集できないという不具合が生した.したがってデ
ータを一旦サーフェースモデラに移し STL データから外形線
を引きサーフェースを貼るという作業を行い対応した.この
方法でも Solid 系 CAD にインポート出来るが,作業に時間を
要してしまう.より効率的にモデルの干渉を検討する為,取
り込んだ STL データから主となる外形線のみを抽出し,Solid
系 CAD 上でそれぞれの主要部分のサイズ検討を行った後,サ
ーフェースモデラ上に内部構造を移し全体のサイズの検討を
行うという手法が有効であると考えられる.
参考文献
[1] 見城尚志 佐渡友茂 木村玄:イラスト・図解 最新 小
型モーターのすべてがわかる,技術評論社 PP.364-367
[2]Kiyoshi HOSHNO,Ichiro KAWABUCHI:Robotic Hand System
for Non-verbal Communication = IEICE TRANS.INF.&SYST.
VOL.E87-D 1347-1353 JUNE 2004
119 指先微小血管の内部流動と変形現象の粒子法による 3 次元数値解析
Three-dimensional numerical analysis with particle method of internal blood flow
and deformation of blood vessel at finger tip
学 ○辻 裕介(九州工大)
[指導教員]正 永山 勝也(九州工大)
Yusuke Tsuji,Kyushu Institute of Technology,680-4 Kawatsu. Iizuka City, Fukuoka
Katsuya Nagayama,Kyushu Institute of Technology,680-4 Kawatsu. Iizuka City, Fukuoka
1.緒論
近年,
食文化の欧米化に伴い血管収縮や血栓症に増加の傾
向が見られる.そこで,それらの原因を探るため血液の流動
特性の研究が注目を集め,また体内の血管,特に指先の微小
血管では,
健康状態の変化に伴う微小血管の変形が観察でき
るため(図 1)
,病状の検知手段としてこちらも注目されて
いるが,詳しい変形メカニズムについては未解明である.
血流の解析では,
微小血管などの低レイノルズ数領域にお
いて,赤血球が血流に与える影響が非常に顕著になる.そう
した領域では,
血液は単純なニュートン流体としてではなく,
非ニュートン流体としての振舞いを見せる.そのため,血漿
内に赤血球を含んだ二相流として解析を行う必要が出てく
る.
この場合,
ラグランジアン的な解析手法である粒子法は,
移流項を粒子に見立てた計算点の移動として解くため,
界面
の大変形を伴う問題に対応できる.そのため,ミクロな領域
の血流においては,粒子法を用いた解析(1)が盛んである.
そこで本研究では,粒子法による血流解析手法を考案し(2),
それを元に微小血管などの微細領域での解析プログラムを
作成し,その妥当性を検証する.さらに作成した解析プログ
ラムを用いて血液の流動に変化を与え,微小血管の変形量・
変形形状を比較し,
微小血管変形のメカニズムを究明するこ
とを目的とする.
curved tube
twist tube
Fig.1 Capillary of the tip of a finger
2.計算手法
本解析では,計算点を移動する粒子として,その粒子の動
きを追跡することで解析を行う.
解析は血漿の流動解析と微
小血管の変形解析を同時に行い,
血漿の流動と血管の変形が
互いに影響を及ぼしあうとして計算を行った.
粒子法は粒子
間の相互作用に着目したものである.
血漿の流動解析は N-S 方程式を粒子モデルで表現し,
Eq.(1)のように,粒子間力項,粘性による速度拡散項,外力
項から,運動方程式はなる.T は粒子間力であり,Eq.(2)の
ような形式を仮定し,
右辺 1 項は膨張収縮により均一化しよ
うとする力で重み関数 w(3)と近傍の粒子との重み関数の和 n
と定数 a を用いた.右辺 2 項は赤血球の弾性膜に用いるバネ
力で引っ張りと曲げの効果を考慮している.
[
(
)]
r
N
r
r
∂u i
2d
(ur j − uri )w r j − ri + Fi
= ∑ Tij +
∑
0
∂t
Re⋅ n λ j ≠i
j ≠i
( )
(1)
r
r
r
rij
ni
r
r
Tij = awij ( − 1) r − k (
− 1)rij
n0
r0 ij
rij
(2)
F = −k ⋅ ( x − x0 )
(3)
τ =µ
d
0
n
 u'
j

∑
j ≠i  r − r
 j i
2

y 'j ω r j − ri 


(
)
(4)
微小血管の変形解析は血管壁面の粒子をバネ接続しており,
バネ力による力 Eq.(3)と流動する血漿粒子から受ける力,
Eq.(4)によって変形が起こる.F はバネ力による力を表し,k
はバネ定数, x は基準距離を表している.τ は壁面粒子 i が
0
流路上の粒子 j から受ける応力を MPS 法(4)の勾配モデルで離
散化したものであり,垂直方向の距離を y’,水平方向の速度
を u’で表している.
3.解析モデル・解析手法
解析条件は,
直管の長さを多数赤血球モデルでは 74.1[µm],
収縮、付着物モデルでは 111.3µm]菅外径を 8.65[µm],管路
内径を 0.74[µm],菅の中心間距離を 18.6[µm]とし,管路内
の平均速度を 2.0[mm/s]~3.0[mm/s]の間とし,血漿密度 1000
[kg/m3]となる.流動解析の総解析時間は 100.0 [ms],変形解
析は血管の変形が定常状態になるまでの解析とする.
粒子間
距離は 0.62[µm]ごとに配置し,総粒子数は多数赤血球モデ
ル 71742 個、収縮モデルが 77177 個、付着物モデル 88229
個である。壁面同士のバネ接続は 0.1[N/m]とした.多数赤血
球モデルの赤血球体積比率(ヘマトクリット)は 40%、血
栓モデルの赤血球体積比率は 20%とする.血栓モデルの圧
力勾配を 0.3×106 [Pa/m]加えて,管路内に流れを生じさせる.
また,管の両端には,流出口から流出した粒子は流入口より
再び流入する周期境界条件を設ける.
3 次元における微小血管の多数赤血球解析モデルの初期
形状の断面図を図 2、収縮モデルの初期形状を図 3、付着物
モデルの初期形状を図 4 に示す.血漿の流動が健全な血管
流れと同じ解析を基本モデルとし,多数赤血球のみを含
む多数赤血球モデル動脈の一部が収縮する収縮モデル,
血栓が生じ血流の流動を妨げる付着物モデル.多数赤血
球、収縮、血栓が血管変形にどのような影響を及ぼすか
を検証する.
4.解析結果・考察
図 5~図 7 は微小血管の変形解析結果であり,中心軸上の
断面で示したものである.多数赤血球モデルの結果を図 5
に,収縮モデルの結果を図 6 に,付着物モデルの結果を図7
に示す.
図 5 の多数赤血球モデルの流れでは,
血管変形は見られず
異常は無いといえる.
このことから赤血球体積比率が実現象
と同じ 40%であっても、正常な場合、赤血球が血管変形を
引き起こさないことが分かる.
図 6 の収縮モデルの流れでは,収縮箇所に沿って血管
に曲がりが生じていることが分かる.収縮により血管が
収縮部と反対側に変形し、さらに血漿粒子が変形に沿っ
て流れることにより、圧力の差によって血管変形が起き
ている。流動なしの場合、収縮部のみが変形して行くが、
流動がある場合、収縮部の前部が収縮部のある方向へ変
形し、収縮部後部では収縮部の反対側へ変形して行くこ
とが分かった.図 7 は収縮部の収縮を徐々に取り除いて
いき 60.0 [ms]経ったときのモデルの様子である。収縮によ
る局所的な変形が緩やかな変形へと移行していることが分
かる。
解析時間を長くすることによってこの変形がどのよう
に収束していくか検証したいと思う。
図 8 の途中血栓モデルでは、血栓付着ポイントを二つ
設けていて、その箇所から血栓が付着して行くようにな
っている.図 8 の付着物モデルの流れでは、血栓が付着
しその血栓を血漿粒子と赤血球がよけるように流動して
るのがわかる.血栓後部付近で血漿粒子が血栓を回り込
むことにより速度を増し、内部圧力が減少するため血栓
後部が盛り上がるように血管が血栓とは反対側へ変形し
ていることがわかる.
5.結論
今回、
指先微小血管の内部流動と変形現象の粒子法による
3 次元数値解析を実施しました.
1) 赤血球を多数配置することにより実際の赤血球体
積比率である 40%にしたが、正常な場合、赤血球が血管変
形を引き起こさないことが分かる.
2) 収縮モデルでは収縮に沿って収縮部とは反対側に
血管が変形することが分かった.
3) 付着物モデルでは、血栓の生成過程を観察すること
ができた.血栓が途中で生成されても血栓が盛り上がる
ように血管が血栓とは反対側へ変形していくことがわか
った.
74.1[µm]
RBC
Fig.2 Initial setting of curved blood vessel
111.3[µm]
Fig.3 Initial setting of curved blood vessel
111.3[µm]
RBC
Fig.4 Shape of the blood clot model with RBCs
Fig.5 Shape of the basic model with RBCs
position of arteriosclerosis
Fig.6 Shape of the arteriosclerosis model(time,40[ms])
謝辞
本研究を行うにあたり,三浦一郎医師(TCPL)に医学的意
見をいただきました.厚くお礼申し上げます.
.
参考文献
(1) 田中伸厚,高野龍雄,増澤徹,SPH 法による血流の三
次元マイクロ・シミュレーション,日本機械学会流体
工学部門講演会講演論文集,No712(2004)
(2) 永山勝也,本田啓介,多数の赤血球を含む毛細血管内
流れの粒子法による解析,日本機械学会流体工学部門
講演会講演論文集,No.1503(2006)
(3) 越塚誠一,数値流体力学,培風館
(4) 越塚誠一,粒子法,丸善
Fig.7 Shape of the arteriosclerosis model(time,100[ms])
blood clot
Fig.8 Shape of the blood clot model
らせん状曲線形手すりの開発
120
Development of Spiral Handrail
○学 野田 功太(佐世保高専)
正 福田 孝之(佐世保高専)
正 西口 廣志(佐世保 高専)
Kota NODA, Sasebo college of Technology, 1-1 Okishin,Sasebo,Nagasaki,857-1193
Takayuki FUKUDA, Sasebo college of Technology,
Hiroshi NISHIGUTI, Sasebo college of Technology,
Key Words : Human Engineering, Biomechanics, Handrail for Stairs, Spiral
1. 諸言
一般的に,階段に設置されている手すりは,直線形であ
るが,最近では波形の曲線形手すりも設置されるようにな
った.波形手すりには,大きな握力を要せずに体を支えや
すい水平部と,昇段時に引きやすい鉛直部があり,直線形
手すりよりも有効であると思われる.しかし,現有の直線
形や波形の手すりは,階段側面に平行な面内の角度変化の
ため,手すりを握った時の手首の角度は制限を受け,必ず
しも自然に握りやすい状態とはいえない.そこで著者らは,
三次元的に手すりの握り角度が変化するらせん状の曲線形
手すりを考案した.らせん状曲線形手すりは,三次元の握
り角度が実現でき,自然な状態で手すりを握り,また,水
平部と鉛直部もあって,より快適に階段を昇降することが
可能である.本研究は,らせん状曲線形手すりを開発し,
実用化に向けて有用性を明らかにすることを目的とする.
2. らせん状曲線形手すり
図 3 に実験装置の概略図を示す.階段昇段時の引く動作
および,階段降段時の押す動作の際の手首の握り角度によ
る腕の負担を筋電位にて評価を行う.筋電位は脳から引く
動作などの指令がない限り発生しない.そこで,手すりを
引くおよび押す動作は行わないが,錘による一定の負荷を
筋肉に加えることで,手首の角度と筋電位の関係を求める.
筋電位測定時間は 5 秒間で行い,これを同じ条件で 5 回ず
つ測定する.図 4 は表面電極の貼り付け位置を示しており,
引く動作においては上腕二頭筋,押す動作においては腕橈
骨筋の筋電位を測定する.被験者は表 1 に示す 5 名である.
図 5 に引く動作および押す動作の際の手首の角度を示す.
錘を 49N 一定として,手すりを引く場合の手首の角度γ 1
は鉛直から反時計回りに,手すりを押す場合の手首の角度
γ 2 は水平から下向きに,角度を 0°から 90°まで,15°間
隔で変化させ,筋電位を測定した.なお,両方とも右手で
実験を行った.
1. Biceps brachii
2. Brachioradialis
pull
push
2
1
750
850
図 1 にらせん状曲線形手すりを階段に設置した例を示す.
らせんピッチは,階段の斜長方向ピッチと同じとし,図 2(a)
に示すらせん径φs の大きさにより,図 2(b)のようにらせ
ん形状は変化する.本手すりは,図 1 の正面図で分かるよ
うに波形手すりと同様に水平部と鉛直部があり,また側面
図に示すように,手すりは壁とある角度γ 1 傾く形状とな
る.
3. 実験方法
3.1 手首の握り角度の影響
γ1
(a) pull
Weight
pitch
Fig.3
γ1
pitch
Equipment 1
0
(b) push
Fig.4 Putting position of
surface electrode.
γ1
wall
0
γ2
90°
γ2
Fig.1 Spiral handrail at step.
90°
(a)pull
φ s=30
φ s=70
(b)push
Fig.5
Table.1
φ s=50
φs
(a)
Fig.2
(b)
Spiral handrail.
φ s=90
Angle of wrist.
Data of subject.
height [cm]
weight[N]
grip(R)[N]
mark
A
171.0
585
512
●
B
174.0
617
422
▲
C
167.0
559
383
■
D
168.5
588
392
○
E
167.8
578
402
△
3.2
手すりを用いた階段昇降実験
図 6 に階段昇降用実験装置の概略図を示す.床反力を計
測できる階段と,角度を任意に設定でき,三次元方向に作
用する荷重を計測できる手すりを用意し,階段昇段時の各
荷重をデータロガーに自動入力する.床反力はロードセル
を用い,2 段に作用する荷重を測定する.手すりに作用す
る荷重は,手すり固定部に取付けたひずみゲージにより測
定する.手すりの直径は 34mm で,階段の寸法は病院や市
役所,駅などの公共施設の階段を参考に,蹴上高さ 160mm,
踏み面長さ 320mm,階段勾配 26.6°,手すり高さ 850mm
とした.図 7 に手すりに作用する力を示す.ひずみゲージ
により Fx,Fy,Fz を求め,その合力により手すりに作用す
る力 F を求める.図 8 に手すりの角度を示す.γ 2 は階段
勾配の 26.7°一定として,γ 1 を 0~40°の 10°間隔で角度
を変え,三次元の握り角度で実験を行った.被験者は実験
1 と同じである.
(a) pull
Fig.9
4. 実験結果
4.1 手首の角度と筋電位の関係
図 9(a)は,図 5(a)の手首の角度γ 1 と上腕二頭筋の筋電位
の関係を示す.γ 1=30°付近で,筋電位はやや低くなって
いる.これは手すりを引く場合に,γ 1=30°付近が筋肉の
負担が少ないということを示しており,らせん形手すりで
はγ 1=25°付近となることから,現有の手すり位置γ 1=0°
よりも有効な角度と思われる.
図 9(b)は,図 5(b)の手首の角度γ 2 と腕橈骨筋の筋電位の
関係を示す.γ 2=30°付近より大きくなると,筋電位は高
くなっており,手首に無理な状態の握り角度になることを
示している.波形手すりの場合γ 2=60°程度で,これが波
形手すり使用時の問題となっている.らせん状手すりの場
合はφs=50 に設定すると,γ 2=50°程度であるが,らせん
のため実際の使用時には手首が回転し,実質的にはγ
2=20°程度となり,この問題は解決される.
Strain gage
Z
Handrail
X
Y
Load cell
Fig.6
Data logger
Equipment 2
γ 1 : 0~40[deg]
γ 2 : 26.5[deg]
γ1
γ2
Fy
X Z
F
Y
850
Z
X
Y
Fig.7 Force acting
on handrail.
Fig8.
(a) F
(b) Fx
(c) F y
(d) Fz
Fig.10
4.2
EMG
Force of handrail.
三次元の握り角度と F の関係
図 10 は,階段昇段時の手すりに作用する力 F および分
力 Fx,F y,Fz とγ 1 との関係を示している.図 10(a)より,
γ 1 が大きくなると,F が増加しているのがわかる.また,
個人差はあるが,γ 1 が 20~30°において F が最大になる傾
向がある.
一方,図 10(b),(c),(d)を見ると,Fy,Fz は F x に比べて
小さく,Fx は図 10(a)の F とほとんど同じ大きさとなって
いる.従って,この場合手すりは水平方向に引いて使用し
ていることがわかる.これより,手すりを引いて使用する
場合に,γ 1 を 20~30°に設定することで,大きな力を入れ
て手すりを引くことができるといえる.4.1 の結果からも,
らせん手すりは引いて使用する形状としては有効であり,
実際に大きな力で引くことができる.
5. 結言
Fx
Fz
(b) push
Angle of handrail.
Y
本研究では,らせん状曲線形手すりの形状の効果を筋電
位,および手すりに作用する力 F,およびその分力 Fx,F y,
Fz により評価し,次の結論を得た.
(1) 手すりを引いて使用する際には,手首の角度が鉛直か
ら反時計回りにγ 1=30°付近が無理のない自然な握り角度
となる.
(2) 階段を下りる動作においては,手首の角度が水平から
下向きにγ 2=30°以上では,角度が大きくなる程,手首に
無理がかかる状態となる.
(3) らせん形手すりは(1)と(2)の結論から,これまでの直
線形や波形手すりよりも使いやすい形状といえる.
Fly UP