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平成 24 年 11 月 8 日
新たな宇宙基本計画に向けた SJAC 提言(全文)
~宇宙利用の拡大と自律性の確保(=産業振興)に向けて~
当工業会では、平成 14 年(2002 年)からスペースポリシー委員会を設置し、わ
が国の宇宙政策のあり方、諸問題の解決策について調査検討を行い、提言等を
発信している。
現行の宇宙基本計画(平成 21 年:2009 年)が策定される前の平成 18 年度(2006
年度)には、SJAC スペースポリシー委員会として「宇宙基本計画への要望」を
纏めた。
今回も「新たな宇宙基本計画に対する SJAC 提言:宇宙利用の拡大と自律性の確
保(=産業振興)に向けて」を取りまとめ、内閣府宇宙戦略室に提出した。以下
その概要、及び本文である。
<概要>
1.宇宙産業の現状と環境変化
(1)現状
日本の宇宙機器産業が世界のロケット・衛星産業界の中におけるトップ
ランナーの一つに成長したことは疑いがないが、現在の国内の宇宙産業
の売上は約 2,600 億円で 1990 年代後半のピーク時の 30%減である。また、
人員は 30%~40%減の約 6,000~7,000 名となっており、宇宙産業基盤は
弱体化・空洞化の道を辿っている。
(2)環境変化
世界経済危機に端を発する厳しい経済状況が続き、政府の宇宙関係予算
は横ばいで推移しているため、宇宙事業の運営の困難さが顕著となって
きている。
2.宇宙産業基盤の意義と欧米諸国の基盤強化策
(1)宇宙産業基盤の意義
自律的に宇宙利用を行うためには、ロケット、衛星等の開発を自前で行
い、かつその製造基盤を維持することが日本の宇宙産業発展の基本であ
る。
(2)欧米諸国の基盤強化策
欧米では、国内衛星、ロケットの優先使用政策をとり、国内産業を保護・
育成した後に国内外の民需市場を獲得している。また、防衛分野での宇
宙利用を積極的に行っている。
-1-
3.官民挙げての取り組みの必要性
(1) 官民挙げての取り組みの必要性
我が国が自律的に宇宙利用を行うためのロケット・衛星等の開発・製造
基盤を維持・強化していくためには、民間需要及び海外需要を積極的に
獲得すべく、官民一体となって取り組むことが必要と考える。
(2) 官民の役割分担
産業界としては、政府・国民からの支援に応えるため、国際競争力強化
に向け不断の改革に努め、内外の需要を確実に確保するべく取り組み、
まずは、年・衛星 1 機以上のパッケージインフラ輸出案件の受注を目指
したい。政府には、平等な競争条件の確保の観点から、欧米諸国をはじ
め競争相手となる他国と同等の産業競争力強化・基盤維持に対する支援
(国内衛星・ロケットの優先使用等、詳細は下記。)を御願いしたい。
4.我が国の宇宙産業政策への期待
(1) 宇宙ビジョン等
短期・中期的視野の宇宙基本計画に加え、企業による安定的・継続的投
資を促進するため、長期的視野に立った宇宙ビジョンの策定や政府によ
る開発利用計画の高頻度での更新を期待する。
また、産業振興の為にも、宇宙活動法、リモセン法の論議を進めること
を期待する。
(2) 国際競争力強化
低コスト化のための研究開発支援に加え、信頼性向上のための軌道上実
証機会の提供、国内部品の優先調達、インフラ輸出促進に向けたオール
ジャパン体制の確立等により、産業界の国際競争力強化の取組みを支援
することを期待する。
(3) 政府衛星調達
宇宙分野においては、各国ともに国内の宇宙産業保護・育成が行われて
いる。WTO 国際調達ルール及び 1990 年の日米衛星調達合意の運用に関し
ては、国内技術発展・自律性確保・産業基盤の維持発展に配慮し、広義
の安全保障衛星の調達を行う場合には、適切な運用を期待する。
(4) 技術者の維持・育成
政府(JAXA)による技術開発を継続することで技術の陳腐化を防ぎ、産
業界による技術力、技術者の維持・育成の取り組みを支援することを期
待する。
(5) 各種プログラムの推進
-2-
下記各分野において「利用促進」と「機器開発」を一体となって進め、
国際競争力の強化、産業基盤の維持・発展に繋がる形でのプログラム推
進に期待する。
1)衛星測位(準天頂)に関しては 4 機体制の整備に引き続き、早期に 7 機体
制構築、ソフトウエア技術者育成等を期待する。
2)リモートセンシング衛星やデータセンターの整備に加え、データの継続性、
安全保障目的の衛星の整備、小型衛星の活用の検討を期待する。
3)通信の分野では、国際競争力強化・商用衛星の受注に繋がる高度情報通信
衛星の整備等を通じた技術開発の推進に期待する。災害時の対応強化のた
めに、地上システム、高高度飛行船との連携等のシステム構築が重要と考
える。
4)自律的に宇宙にアクセスする能力の根幹となる輸送系(打上げロケット)
を保有する国は限られている。このような我が国の優秀な技術力、産業力
を維持発展させるために、輸送系の研究開発・整備を期待する。政府系衛
星打上げ時の情報流出の恐れを抑えるためには国産ロケットの優先使用が
必要である。またパッケージ輸出時の国産ロケット優先使用により、打上
げ機数が増加し産業基盤維持に繋がると考える。
5)液体ロケットにおいては、次期基幹ロケットの開発、ロケット搭載品の海
外との共同開発の推進を期待する。
6)固体ロケットは貯蔵性・即応性・機動性に優れており、その技術・製造基
盤維持の為に、基幹ロケットの固体補助ロケット(SRB)での使用に加えて、
イプシロンロケット開発・改善計画の着実な実行を期待する。
7)将来の輸送系として有望な LNG 推進系、空中発射システムに関しても着実
な研究開発推進を期待する。
8)有人宇宙活動として、アジアの中で国際宇宙ステーション(ISS)に参加し
ているのは我が国だけある。この有人宇宙活動の継続参加に加え、将来の
有翼宇宙往還機、直ぐに手が届きそうな弾道型スペースプレーンの研究開
発推進を期待する。
9)日本の国力の一つである科学・技術の進歩に貢献し、産業への波及もある
だけでなく、宇宙開発利用に対する国民の目を惹きつける「はやぶさ 2」等
の宇宙科学ミッションの推進を期待する。
10) 長期の視野に立ち、宇宙太陽光発電、その他の基礎研究の推進を期待す
る。着実な研究開発が国際競争力強化に繋がり、産業基盤の維持・発展に
繋がると考える。
11) 横断的施策として、政官学産の連携がパッケージ型インフラ輸出・相手
国のキャパシティ・ビルディングに有効であるので、総力結集の推進を期
-3-
待する。
(6) 環境への配慮
宇宙の長期継続利用のためのデブリ対策、及び宇宙活動の行動規範を実
効的にするための監視活動として、国際協力に配慮した我が国全体とし
ての SSA 活動態勢の整備を期待する。
また、積極的な対策として、デブリ除去衛星の研究開発推進も期待する。
-4-
平成 24 年(2012 年)11 月 8 日
新たな宇宙基本計画に向けた SJAC 提言
宇宙利用の拡大と自律性の確保(=産業振興)に向けて
現行の宇宙基本計画は、平成 21 年(2009 年)6 月に宇宙開発戦略本部決定さ
れ、その計画の中には、9 つの主なニーズに対応した 5 年間の人工衛星等の開発
利用計画として、大型/中型/小型の衛星数として 34 機の衛星打上げと、必要な
資金約 2 兆 5 千億円の試算結果(現行の政府の宇宙関係予算が倍増が念頭)が
提示された。しかしながら、現実的には厳しい財政状況の中で、その後の政府
の宇宙関係予算は、約 3,000 億円/年の横ばいで推移している。
内閣府・宇宙戦略室の資料によれば、
「我が国の財政事情が近い将来において
大幅に改善することが困難な中で、宇宙の利用による経済社会の高度化や効率
化を引き続き目指すとともに、これを実現する技術と産業基盤を保持していく
ための政策が必要である。」とされており、
① 宇宙の利用拡大
② 自律性の確保=産業基盤の維持
が大きな 2 本柱であることは間違いない。
宇宙開発利用を進めてゆく上で、宇宙産業は日本の宇宙活動を支える重要な
基盤である。この宇宙産業基盤に関する当工業会の調査によれば、日本の宇宙
機器産業規模は、1990 年代後半には売上高が 3,500 億円を超え、従業員数も
10,000 人を超えていた。しかし、現在の売上高は約 2,600 億円、従業員数も 6,000
人~7,000 人で推移している。また、宇宙関連企業の新卒採用者数をみても、現
在の人員規模を維持することにも不十分な数であり、従業員の高齢化も進んで
きている。
この様な産業基盤を維持・強化してゆくためには、民間需要及び海外需要を
取り込みつつ、技術の高度化が不可欠であり、それを誘引する施策の検討を中
長期的視点で行うことが必要である。
-5-
本提案書では、産業基盤を維持・強化していくための施策として、多くの提
案事項を盛り込んだ。
今般、内閣府・宇宙政策委員会の資料では「現下の厳しい財政事業を踏まえ、
予算の重点化を図らなければならない」とされており、その趣旨は理解してい
るが、衛星、ロケット等の個別の事業計画の優先度については、財政、安全保
障、科学技術、産業振興等の幅広い政策的な検討にゆだねることが適切である
ことから順位付けはせず、この提言書には企業からの提案をそのまま記載した。
ただし、新たな宇宙基本計画で対象とする今後の 5 年間において、下記の A-1)、
A-2)、B-1)、B-2)の 4 種類にカテゴライズした。
:
A-1)
:企業各社が宇宙事業を実施する上で、「緊急の課題(企業存続=産業
基盤の維持)」として基本計画に記載して頂きたい提案。
A-2)
:特定の企業としてではなく、産業界全体として日本の宇宙開発に
必要であり、緊急性のある提案。
B-1)
B-2)
:企業各社にとって、上記の A-1)程ではないが、今後の事業展開に
有用であると考えられる提案。
:特定の企業としてではなく、日本の宇宙開発に必要な事項であり、
将来に向けての施策提案。
-6-
以下、自律的、持続的に宇宙空間を利用するため、新たな宇宙基本計画策定
時に配慮いただきたい提言を具体的に示す。
項目の 1 番、2 番は全般事項である。
その後の 3 番~16 番は、
「宇宙政策委員会第 3 回 資料 2(別紙 1)の新たな宇宙基本計画に盛り込むべ
き事項の概要(案)」の順番に沿って記載している。
項目
1.全般:宇宙ビジョン、宇宙活動法、リモセン法
2.全般:開発利用計画の更新・確定
3.産業の振興:国際競争力強化等
4.産業の振興:政府衛星の調達方式
5.産業の振興:ロケット技術者の確保
6.国際協力等の推進
7.環境への配慮(SSA:宇宙状況認識)
8.環境への配慮(デブリ除去システム)
9.衛星測位の推進
10.リモートセンシングの推進
11.通信・放送衛星の推進
12.輸送システム(ロケット)の整備推進
13.有人宇宙活動
14.宇宙科学の推進
15.技術研究
16.横断的施策の推進
-7-
1.
全般:宇宙ビジョン、宇宙活動法、リモセン法
要旨:
短期・中期的視野の宇宙基本計画に加え、長期的な視野に立った基本ビジョ
ン<宇宙ビジョン(Space Strategy)>の設定に期待する。また、産業振興を
進める上でも、宇宙活動法、リモセン法の論議を進めていただきたい。
(1)宇宙ビジョン(Space Strategy)の明確化:
5年ごとの宇宙基本計画の見直しに左右されない、長期的な基本ビジョン~
宇宙ビジョン(Space Strategy)~の設定が肝要と考える。
(1)宇宙ビジョンの骨格となる基本事項
1)安全保障、防衛利用視点の充実
宇宙開発は安全保障上重要であり、民生と組み合わせた取り組みが必
要なことは、諸外国の共通な認識であると考える。我が国においては、
長年の法整備の遅れにより、安全保障・防衛利用を含めた全体ビジョン
や戦略は著しく遅れている。平成20年の宇宙基本法の制定と、これを
受けたこの度の法改正により、安全保障を含めた宇宙利用/開発を見据
えた長期的なビジョンの構築は最優先で取り組むべき課題である。
なお「安全保障」とは宇宙基本法第一章総則第三条(国民生活の向上
等)、第二章基本的施策第十四条(国際社会の平和及び安全の確保並び
に我が国の安全保障)に規定されている通りである。この安全保障の概
念には、下記事項の2)、3)に示す概念のすべてを含む。
2)トータル・システムとしての宇宙システムへの拡充
多くの場合、<衛星、ロケット>というハード思考に陥りがちであるが、
トータルとしてのシステム思考が重要である。即ち、ミッション(セン
サ)~衛星~打上ロケット(射場システムを含む)~運用・データ取得・
解析~利用システムの構築というトータル・システムとしての充実が真
の宇宙利用の根幹と考える。
3)ナショナル・システム宇宙・海洋の連携、国家・外交戦略視点、SSA
体制、サイバー等がナショナル・システムとしての宇宙システムに組み
込まれる必要があると考える。
-8-
宇宙ビジョンは、各分野からの意見も取り入れ、しっかりとした議論の
後に設定することを希望する。
(3)宇宙活動法
昨今、スペースデブリの削減等が宇宙活動を巡る国際間での大きな課題とな
ってきている。特にデブリの発生に伴う損害については、ロケット、衛星に係
る民間企業、政府の責任範囲の明確化が必要とされてきており、各国間で新た
な法整備が検討されている。
産業振興を行う上で重要な宇宙活動法の議論はある程度なされたが、その最
終議論が停滞していると思われるので、その論議を進めていただきたい。
(4)リモセン法
宇宙利用の推進、ならびに産業の育成を推進するには、上述の宇宙活動法と
ともにリモセン法(US Commercial Remote Sensing Policy, Land Remote Sensing
Act 等のいわゆる米国のリモセン法を想定)に関する議論を進めるべきと考え
る。
-9-
2.
全般:開発利用計画の更新・確定
要旨:
宇宙基本計画に記載される開発利用計画の作成/フォロー/更新/確定を頻
度高く、適時に実施することに期待する。このことは、共通部品のまとめ買い
によるコストダウン、及び産業界としての将来への投資を容易とし、ひいては
産業基盤の維持に繋がるものである。
(1)5 年ごとの全体見直し
現在の宇宙基本計画の「第 1 章 宇宙基本計画の位置付け」に、以下の記載
がある。
「本計画は、策定から5年後を目途に全体の見直しを行うこととするが、フ
ォローアップの結果等を踏まえ、必要に応じて随時見直しを行う。」
今年は策定から 4 年目ながら、必要が生じたとして、宇宙基本計画全体が見
直されている。
(2)開発利用計画の更新・確定
宇宙基本計画に示される人工衛星等の開発利用計画の更新及び更新頻度
(年度毎の予算に合わせた更新等)を高めることで、タイムリーに開発計
画が得られることを要望する。
また、この現在の開発利用計画は人工衛星の打上げから運用計画が示さ
れているが、研究開発段階が示されていない。従って研究開発段階に関す
る記載も可能な限りお願いしたい。
更に、現在は年度ごとの予算要求により、計画が後ろ倒しに変更となり
がちである。重要プロジェクトにおいては、何らかの形で計画の一部でも
確定して頂ければ、部品のまとめ買いを実施してコストを低減することが
可能となり、また、企業にとって将来への投資が行いやすくなると考える。
具体的には、宇宙基本計画の「別紙2」では10年程度を視野に入れた
開発計画が示されているが、この開発計画のレビュー及び更新を定期的に
(頻度高く)実施し、また、一部でも確定分を明らかにして頂きたい。
- 10 -
3. 産業の振興:国際協力強化等
宇宙政策委員会第 3 回 資料 2 (別紙 1)
新たな宇宙基本計画に盛り込むべき事項の概要(案)
<2 章 4.(3)産業の振興>
要旨:
現状の予算規模である 3,000 億円/年に当初から制約されることのない宇宙関連
予算確保に期待する。
低コスト化のための研究開発支援に加え、信頼性向上のための軌道上実証機会
の提供、国内部品の優先調達、インフラ輸出促進に向けたオールジャパン体制
の確立等により産業界の国際競争力強化の取組みを支援することを期待する。
年 1 機以上のパッケージインフラ輸出案件の受注を目指し、さらなる官民協力
推進に期待する。
(1)予算確保: A-2)
宇宙関係予算の規模は、厳しい財政状況により 3,000 億円程度/年からの拡大
は難しい状況とされている。
従って、いかに国内の宇宙関係予算の増額を行うかの方策を検討して行く必
要があり、その方策として、現在では宇宙関係以外とされている予算の範囲か
ら、宇宙関係の予算を獲得して行く為の活動を進めて行くことを希望する。
より具体的には、各省庁で重複するプロジェクトを無くして、より効率的な
予算配置にすることや、利用省庁にも予算の負担を御願いして「クロスファン
クション」で宇宙開発利用を推進する(宇宙機器開発担当省庁と利用関係省庁
とが一体となった宇宙開発利用)ことが重要であると考える。
予算の統合により、各省庁における研究開発費の負担が軽減され、これを利
用の促進に振り向けることができ、これは新しいユーザーを増大させることが
できることから、市場の拡大につながると考えられる。
もちろん、産業基盤の維持の為に、国内民需や海外需要を取り込み、
「自律的」
に市場を増やすことが必要であることは宇宙産業界も認識しているが、そのた
めにも現状の 3,000 億円/年規模に当初から限定・制約されることない国の予算
確保も御願いしたい。
(2)国際競争力強化・実証機会の提供: A-2)
- 11 -
国際競争力強化に向けた施策として、低コスト、信頼性向上の技術開発のみ
ならず、
・軌道上実証実績の蓄積による顧客への信頼感醸成
・国内調達による生産基盤、調達性の安定化
を図るため、国産部品を優先的に国産衛星、ロケットへの適用を行って行くこ
とは有効と考える。このための実証機会を提供する指針を具体的に示す施策が
必要と考える。
このような活動により、使用する部品、技術、ソフトウエア等が諸外国から
信頼を得られ、国際競争力強化につながると考えられる。
また、宇宙用リチウム電池等の国際標準化活動も重要と考える。
(3)国際競争力強化・海外展開: A-2)
現在、我が国の宇宙産業の国際競争力は十分でなく、競争力向上の為に、先
ずは宇宙システムのパッケージ型インフラ海外展開を行うことが重要な施策と
考えている。
さらに、インフラ海外展開を行うことは、外交関係構築に寄与できる点や資
源外交等の点でも重要と考えており、国が推進するインフラ輸出の主力として
宇宙パッケージを強力に展開する為の施策をお願いしたい。
パッケージ型インフラ輸出には、受注にいたる過程において(外交を含めた)
国としてのアクションが重要であり、また、1企業ではなく、かつ宇宙機器産
業以外の産業界や関連機関を巻き込んだオールジャパンとして活動することが
国際競争力強化のために有用である。この観点から、国として今まで以上に積
極的な支援を御願いしたい。
この成功例としてのベトナム事例では、国のアクションが極めて効果的であ
り、新しい市場開拓には国の役割が重要であることが認識されたと思われる。
また、宇宙機器産業に直接かかわる施策としては、低コスト化、軌道上実証
機会の増大による信頼性向上など多くの項目が関係する。これらの国際競争力
強化の施策に関しては本提言書の別項目にも記載している。
我が国政府としても、このパッケージ型インフラ輸出を積極的に推進してい
く考えと推察するが、官民協力で年1機を目標にして、更に協力して推進して
行きたい。
- 12 -
さらに、対象国には財政的に不安な国も含まれ、かつ現在の歴史的円高の状
況から、財政面での支援も御願いしたい。
(4)産業基盤を維持可能な戦略的計画の策定: A-1)
日本の宇宙産業は、現状極めて限定的な数量需要に留まっているが、下記事
項に関する考慮が必要と考える。
・ 開発(設備保有・維持、人員育成・維持)
・ 打上げに至る期間および(衛星)運用期間において必要となるデータ
取得・考察、トラブル分析その他の関連活動に必要な設備・人員等の確
保
・ 原材料等の入手経路の確保に必要となる経費
・ その他の必要な活動
上記事項を維持していく上では、継続的な開発・製造プロジェクトの設定お
よび必要経費の手当てが無いと対応が困難であることをしっかり認識していた
だいた上で、予算制約と国家として維持すべき技術のスレッショルドおよびプ
ライオリティを鑑みて、将来を見据えた戦略的な計画策定をお願いしたい。
計画策定が不充分な場合、我が国にとって戦略的に保有すべき技術開発に対
して、企業の事業継続的リスク大がゆえに参画できない、または、参画した企
業が、その後のプロジェクトの減少の中で維持のための補填も無く、関連企業
の維持に多額の費用を費やし、一方で過去のプロジェクトの保守の中で生ずる
トラブル・シューティング等で膨大な工数を必要とするような苦境に喘ぐ、と
いった不合理を生じる可能性がある。
特に、国防に関わる宇宙利用に関しては、防衛においても同様の技術基盤維
持に苦慮していることもあり、困難の相乗効果(負のスパイラル)にならない
よう、上手く補完して厳しい予算の中から、余裕を持って技術開発に当たるこ
とができる素地の醸成に努めていただきたい。
- 13 -
4. 産業の振興(政府衛星の調達方式)
<2 章 4.(3)産業の振興>
要旨:
宇宙産業は、各国ともに国内の産業保護・育成がなされている。WTO 国際
調達ルール及び 1990 年の日米衛星調達合意の運用に関しては、国内技術発
展・自律性確保・産業基盤の維持発展に配慮し、広義の安全保障衛星の調
達を行う場合、適切な運用を期待する。
(1)背景
1)1980 年代の衛星開発
当時、我が国の衛星技術は米国に大きく遅れており、研究開発衛星か
ら実用衛星に向けて、国の予算にて、放送衛星、通信衛星、気象衛星の
開発を行っていた。
1980 年代後半、日本から米国に向けての半導体輸出が急増しており、
米国では保護主義の機運が高まり、「包括通商・競争力強化法」の対外
制裁に関する条項として、1988 年にスーパー301 条(不公正な貿易慣行
を続ける国に対して制裁措置を定める条項。)が施行された。
2)日米衛星調達合意(1990 年)と自主的措置
スーパー301 条の適用範囲に政府関連の実用衛星を含めるよう、米国
が主張したことにより、当時の村田駐米大使とヒルズ通商代表の間で往
復書簡が交わされた。この書簡と付属書は、『日本の非研究開発衛星に
関しては、国際調達とする。』を内容とする、いわゆる 1990 年の日米衛
星調達合意である。
我が国独自の自主的措置として、GATT アクション・プログラム実行委
員会(第 14 回:1990 年 6 月 14 日)は、委員会決定として、上記3)の
日米衛星調達合意を受け、
「非研究開発衛星の調達手続等について」
(以
下:AP14 非研究開発衛星)を設定した。
3)死の谷
1990 年当時は、日本の衛星メーカにとって技術試験衛星は開発できて
も、実用衛星に関しては米国に比べて大きく遅れていた。
非研究開発衛星=実用衛星との解釈で、放送・通信・気象の実用衛星が
- 14 -
国際競争入札となったため、軌道上運用実績が無く、かつコスト競争力
の弱かった日本の衛星メーカは受注できず、米国衛星メーカが受注を続
けた。
その後、日本の衛星メーカは技術試験衛星などで技術力を向上させて
来ているが、特に商用衛星ではコストと信頼性(過去の実績)が重視さ
れる。実用衛星を受注する機会が少なかった日本の衛星メーカは、コス
ト競争力、過去の実績が少なく、日本国内の商用衛星受注も極めて少な
い。
下図に研究開発衛星、実用衛星、商用衛星の関係を示す。実用衛星受
注が少ない場合は、研究開発衛星分野から商用衛星分野に移ってゆくこ
とが非常に困難である。この実用衛星の少なさを、いわゆる【死の谷】
と呼んでいる。
信頼性、コストパフォーマ
ンス向上が求められる。
実用衛星の受注が少な
いと、死の谷となる。
研究開発衛星
実用衛星
商用衛星
4)WTO 政府調達協定(WTO ルール)と我が国独自の自主的措置
GATT 時代から政府調達協定は存在していた。1995 年 1 月に GATT から
WTO へ移行が行われ、WTO 政府調達協定が 1996 年 1 月発効した。
この WTO 政府調達協定の手続きを上回る自主的措置(上記2))に関し
て、フォローアップは毎年行われている。
毎年行われる日本の政府調達実績集計の中に、個別分野ごとの自主的
措置が記載されており、スーパーコンピュータ、非研究開発衛星、公共
部門のコンピュータ、電子通信機器、医療技術製品がフォローアップさ
- 15 -
れている。
(2)WTO ルールに関する諸外国の状況
世界の中で、衛星を保有する国は多いが、独自に衛星を開発製造でき
る国は米国、欧州、イスラエル、日本、ロシア、中国、等に限られる。
これら自国で衛星調達が可能な国において、日本を除くどの国も WTO
ルールを第一に考えて衛星調達を行っているわけではない。おそらく
WTO ルールを念頭に置いて衛星調達を行っているのは日本のみと思われ
る。
WTO の衛星調達ルールは、一般原則(基本ルール)としてはあるが、
その運用は厳密に決まっていない。違反しているかどうかは、お互いに
提訴するかどうかで決まる。要するに、ある国家の行為が違反だ、違反
でないということを誰か第三者が自動的に裁くのではなく、自国のライ
バルの国が「あの国は違反している」と WTO の裁判所である紛争処理パ
ネルに提訴しない限り、違反と認定される手続きが始まらない。
1)形式的な国際調達と実質的な国内調達
各国とも形式的には国際調達の体裁を整えているが、実質的には国内
で調達しているパターンが非常に多い。その理由として、宇宙分野は自
国の産業を保護するのが当たり前だと思われているからである。
2)国内で調達することが大前提
諸外国は、どの国も WTO ルールに関して曖昧な運用をしている。国際
調達と銘打って、自国の産業を保護するために、他国の企業が入札して
も、結局自国の企業を採用するという国は多い。そういった国々の運用
は、逆に自国が提訴するとブーメランのように返ってくる。
従って、相互に提訴しにくい状況にあると言える。今は WTO のルール
が存在しても政府調達の問題に関しては、ある種お互いに抑止が働く状
況にある。
A-2)
(3)政府衛星調達に関する提言:
宇宙基本法(産業の振興)、現在の宇宙基本計画(宇宙産業育成の推進)
、
- 16 -
及び宇宙政策委員会の第 3 回・資料 2・別紙 1(新たな宇宙基本計画に盛
り込むべき事項の概要(案))に記載している、産業の振興:に関して、
下記事項に配慮願いたい。
1)WTO ルール、1990 年の日米衛星調達合意の適正運用
WTO ルールも、1990 年の日米衛星調達合意も、政治的な配慮・国際関
係の中で提訴するかどうかが決まってくる。WTO ルールや 1990 年の日米
衛星調達合意に関して、日本は非常に強く縛られ、配慮しすぎている。
これは、一方的な自虐的な選択と言える。
以前より、当工業会(SJAC)は、1990 年の日米衛星調達合意の見直し
(廃止)を要請してきた。しかし 20 年経過した現在でも見直しは行わ
れていない。
1990 年の日米衛星調達合意は、往復書簡により合意が行われており、
見直し期限などが設定されていないため、見直しに関して持ち出しにく
い状況があると思われる。
WTO ルールに関しては、世界全体が関わり、品目も多く、明確な見直
しは現実的ではない。
従って、今回の提言としては見直しを行うのではなく、WTO ルール、
及び 1990 年の日米衛星調達合意の運用の適正化をお願したい。
(注記:1990 年の日米衛星調達合意が廃止されるに越したことはな
い。)
この運用の適正化により、技術試験衛星と実用衛星のシリーズ化が行
われ、衛星利用者を増やし、産業力強化に繋がると考えられる。
また、ESA は国際共同体であり、1 国の機関ではないので、WTO 適用機
関ではない。
これと同様に、日本政府が日本以外の他国と共同機関を設立して、共
同で地域向け衛星調達をする場合には、WTO 適用機関とはならないため、
外交努力でパートナーと交渉することが有効と考える。
特に、気象衛星など、地域に直結するサービスは、韓国、台湾、フィ
リピン、インドネシアなどとの連携が有効なため、政府に宇宙分野での
友好関係を構築頂くことが重要と認識している。
- 17 -
つまり、世界の状況を見て、従来の解釈により柔軟性を持たせ、自国
の産業を振興しながら政府調達を進めていくことを配慮いただきたい。
下図にその一案を示す。
②安全保障衛星
・測位衛星
・気象衛星
・リモセン衛星
研究開発衛星
・偵察衛星
① 商用衛星=コマ
ーシャル衛星
・通信衛星
・放送衛星
今までの非研究開発衛星の解釈
運用上:これからの非研
究開発衛星の解釈
今までの解釈による、非研究開発衛星は、大きく 2 つに大別できる。
①
商用衛星=コマーシャル衛星 (通信衛星、放送衛星、商用リモー
②
トセンシング衛星(IKONOS,RAPIDEYE 等))
安全保障衛星(測位衛星、気象衛星、リモセン衛星、偵察衛星等)
気象データの取り扱いは GPS と同じく、デュアルユースで、安全保障
に関係ない場合は民間も利用し、安全保障上必要な場合は利用制約(機
密扱い)とすることを考えれば、安全保障衛星とする区分も十分可能と
考える。
上記の①コマーシャル衛星に関しては、諸外国共にコストパフォーマン
ス重視の国際調達が定着してきており、この部分までを自国内調達に限
- 18 -
定すると、国内外からの反発が予想される。
上記の②安全保障衛星(いわゆる防衛分野に利用される衛星だけでは無
く、国のインフラとして保有すべき衛星を含む。)に関しては、諸外国の
例でも実質的に自国内調達を進めている。
従って、非研究開発衛星の解釈として、今後の運用としては、安全保障
衛星を除外することは当然のことである。
(商用衛星は政府調達でないので、もともと WTO ルール外である。)
2)自主的措置(AP14 非研究開発衛星)の廃止
AP14 非研究開発衛星の自主的措置を続けることは、上記にも記した通
り、自虐的措置である。本フォローアップは、
「今年度の政府調達何億円
で、そのうち海外調達が何億円であった」と結果を示すものである。こ
れは、海外調達を暗に進めることに繋がってしまうと考えられる。
安全保障衛星については、もともと AP14 の範囲外であるはずで、フォ
ローアップの対象外として今後扱っていただきたい。
これは、自主的措置であり、WTO ルールを上回る措置と自ら報告書に
記載している、この自主処置「AP14 非研究開発衛星」廃止に関しては、
他国との調整なしに実行できるので、是非廃止をお願いしたい。
広義の安全保障衛星の継続的な受注が見込まれれば、衛星関係技術者の維持、
育成に大いに貢献すると考えられる。
- 19 -
5. 産業の振興:技術者の育成
<2 章 4.(3)産業の振興>
要旨:
我が国の自律性を確保するためにも、自国で宇宙に到達できる輸送手段
である打上げロケットの技術者の維持・育成が必要である。継続的な開発
で、若手ロケット技術者の育成に期待する。
また、衛星に関しても同様に、継続的な開発経験により技術者の維持・
育成が行える。
このような継続した技術開発は、技術の陳腐化を防ぎ、将来の事故・失
敗を予防することにも繋がると考える。
(1)ロシアの打上げ失敗の背景
ロシアは、数多くの政府系打上げ(民事、軍事)、及び商用打上げを行っ
ている。これは、確立した技術・製品で、低コストで打上げを行っている
ものである。しかし、この 2 年間に、
(部分的な失敗を含め)、6 回の打上げ
失敗を起こしている。この原因として、ロケット技術者の高齢化があげら
れる。確立した技術・製品を使用し、新たな研究開発が限定されてきた。
研究開発が少なければ、若いロケット技術者の育成機会が失われ、高齢化
が進んだものとみられている。
技術者の高齢化により、確立した技術といえども、どこかに不具合、ミス
が発生したことが根本原因となって打上げ失敗に繋がったと考えられる。
(2)米国 NASA 技術者の高齢化
米国においても、NASA 技術者が高齢化し、50 代、60 代が多くなってきて
いる。地球低軌道往復用のスペースシャトルが退役し、その後継機は NASA
自身が打上げロケットを開発するのではなく、コスト低減の為、民間企業
にロケット開発の一部を任せているのが現状である。地球低軌道より先の
輸送手段に関しては NASA が着実な開発を行っているが、NASA での開発が少
なくなり、若い技術者が育っていない。
(3)我が国における打上げロケット開発技術者の維持・育成: A-1)
我が国におけるロケット開発はしばらく中断の期間が続いてしまった。
このため、技術者の維持、育成に障害が生じ、ロシア、米国と同じく技術
- 20 -
者の高齢化が課題となっている。
この対策の為、基幹ロケットに使用されている液体ロケット、及び安全
保障上重要で、小型衛星打上げに適している固体ロケット、並びに空中発
射システム等に関してロケットの新規開発、部分改良事業などを継続し、
ロケット開発技術者の育成をお願いしたい。
また、継続した若手技術者の育成が重要なことの認識をお願いしたい。
(4)衛星開発技術者の維持・育成:
A-1)
衛星技術に関しても同様であり、衛星の新規開発、部分改良事業により
技術者の維持・育成が行われることに配慮願いたい。
このような継続した技術開発は、技術の陳腐化を防ぎ、将来の事故・失
敗を予防することにもつながる。
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6. 国際協力等の推進
<2 章 4.(5)国際協力等の推進>
要旨:
国際協力の推進として、多国間ビジネス支援に期待する。
B-2)
我が国の宇宙インフラによって得られる情報で、他国が使用したくなる情報
のサービスや通信サービスを提供できるサービスプロバイダの多国間ビジネス
をサポートする国の仕組み作りが必要と考える。
- 22 -
7. 環境への配慮(SSA:宇宙状況認識)
<2 章 4.(6)環境への配慮>
要旨:
宇宙の長期持続性のためのデブリ対策、及び宇宙活動の行動規範を実効的に
するための監視活動として、国際協力に配慮した我が国全体としての SSA 活動
態勢の整備に期待する。
また、デブリ観測施設の老朽化対策は緊急課題である。
宇宙状況認識への取り組みは、宇宙環境保全と宇宙安全保障の両面で宇宙活
動行動規範(CoC: Code of Conduct)の実効性を担保するために、その重要性が
増している。
宇宙の長期持続的利用のためのスペースデブリ観測と監視に加え、宇宙利用
における干渉・妨害・破壊や宇宙の武装化(Weaponization)活動の監視を含めて、
国際的連携により宇宙の安全保障のための宇宙状況認識への取り組みを具体的
に推進していくことが求められている。
宇宙状況認識(SSA)に関しては、主要項目として、宇宙基本計画の第 2 章だけ
でなく、第 3 章 1.項の中で取り上げていただきたい。
(注記:第 3 章 宇宙開発利用に関し政府が総合的計画的に実施すべき施策、
1.項 宇宙の利用を推進するための社会インフラとしての重点分野の在り方)
(1)宇宙状況認識(SSA)の活動態勢の整備:
A-2)
スペースデブリ等の軌道上物体の状況把握や、衛星への衝突・地上落下等の
脅威への対応は、宇宙開発利用における大きな課題であり、
「新たな宇宙基本計
画に盛り込むべき事項の概要」第2章(宇宙基本法基本理念の具体化)の1つ
として記述されている。
スペースデブリ(ロケット、非運用衛星、及びそれらの派生デブリ)を追跡・
監視することは、打上げ国の責務として軌道上にある限り数十年の長期間に亘
って実施する必要がある。デブリに対する接近監視・衝突回避等を含めたこれ
らの活動を、各衛星保有者・運用者が個別に実施することは不可能であり、国
による共通的なサービスが必要である。
- 23 -
また一方、宇宙における干渉・妨害・破壊や宇宙の武装化活動の監視を含め
て、国際的連携により宇宙の安全保障のための宇宙状況認識への取り組みを具
体的に推進していくことも同時に求められている。
そこで、
関連省庁の役割を明確にして我が国全体としての SSA 体制を整備し、
SSA 活動態勢を構築するために、その推進体制と老朽化設備の更新整備に関する
指針を宇宙基本計画に盛り込み、具体的な施策を推進していただきたい。
このような共通サービスを日本が持つことは宇宙活動の自律性確保のために
必要なだけではなく、宇宙利用のすそ野を拡げるためにも重要である。
A-2)
(2)スペースデブリ観測施設の老朽化対策の緊急性:
現在使用中のデブリ観測施設の老朽化が進んでおり、早急に施設更新に着手
する必要がある。レーダ施設については、スプリアス規制の変更に伴い、H31 年
3 月までしか無線局として電波発射できないため、改修が遅れた場合には我が国
唯一の低層デブリ観測活動に空白期間が生じ、宇宙利用国家としての責務を果
せない状況に陥る懸念もある。
また近年、研究開発用に超小型衛星を使用する場合も増え、これら 10 ㎝角の
Cube-Sat 等も追跡・監視することが求められている。しかし現在、我が国の既
設デブリ観測レーダは、実験システムとして整備された経緯もあり、距離(ス
ラントレンジ)600 ㎞で、直径 1m の物体を捉える能力しかない。レーダ施設の
スプリアス規制対策の改修に合わせ、デブリ探知・追跡能力の向上が必須とな
っている。
また、静止軌道(約 36,000 ㎞)付近の衛星、デブリを観測するためには、岡
山県美星町の光学望遠鏡(口径 1m)が使用されているが、反射鏡(光学ミラー)
の老朽化が進み、この対策が必要である。光学望遠鏡は、低軌道衛星(物体)
の形状観測/姿勢観測にも使用でき、その物体の特定が可能となる。このため、
大口径化も求められている。光学望遠鏡は、物体の形状まで捉えることができ
る一方で、レーダと異なり、晴天でないと観測できないデメリットがある。こ
のため、観測地点を増やすことも求められている。
このように、SSA 活動の基本となるセンサ施設(レーダ、光学望遠鏡)の老朽
化対策と能力向上が緊急課題となっている。
A-2)
(3)SSA 情報の一元化と日米 SSA 共同の具体化
スペースデブリ観測・監視施設の近代化と並行して、取得した宇宙飛翔物体
の軌道情報等の SSA 情報を我が国の安全保障系 SSA として防衛省等が利用でき
るデュアルユース化も推進する必要がある。宇宙における干渉・妨害・破壊や
宇宙の武装化活動の監視は、国際的連携によって実現できるものであり、この
- 24 -
宇宙安全保障に貢献していくためには、我が国における安全保障系 SSA 機能の
体制整備とその日米連接による SSA 協力がひとつの有効な施策である。
このような米軍 SSA 情報を扱う日米連携の推進、及び国内での SSA 協力のた
めに、文科省、総務省及び防衛省を中心とした SSA 関連組織の活動と情報を国
として一元化し統制するためのガバナンス(統制の仕組み)とデータポリシー
(情報保全方針)の構築が必要であり内閣府のリーダ・シップに期待する。
(4)デブリを増やさないための方策
B-2)
多くのところで地球観測に便利な主要な軌道におけるスペースデブリの増加
問題やデブリ自己増殖の兆候について報告されている。宇宙の長期持続的な利
用のために、まずはデブリを増やさない方策が必要である。国連におけるデブ
リガイドライン採択や宇宙活動の行動規範策定等の取り組みに対しては、我が
国として引き続き、関係省庁が連携して支援していくことが必要である。
- 25 -
8. 環境への配慮(デブリ除去システム)
<2 章 4.(6)環境への配慮>
要旨:
2020 年以降に、デブリ除去作業の産業化が可能となるようにデブリ除去シス
テム実証&デブリ除去機の早急な開発に期待する。このため、小型衛星を用い
たデブリ除去実証衛星を 2018 年頃に打上げて、宇宙空間で技術実証を行う研究
開発の推進をお願いしたい。
(1)デブリ除去システム開発後の産業化の考え方(案): A-2)
1)事実の認識
今後、打上げを完全に中止したとしても、現在の軌道上衛星/物体(ロケッ
ト上段を含む)のみで、デブリは増殖する状況にある。即ち、未来永劫、宇
宙空間を利用するのであれば、現有の軌道上デブリを除去しなければならな
い。年間 5~10 個の大型デブリの除去が必要との解析結果がでている。
デブリ除去技術は、軌道上作業機を実現することから、宇宙技術を飛躍的
に発展させる。燃料補給、軌道上作業、廃棄衛星対処等の将来の軌道上サー
ビス産業に供することができる。
2)費用調達
宇宙環境を使う「権利」とそこを利用する「義務」(未来永劫利用出来る
様にする)とをペアとして捉えるべき内容であり、少なくとも今後の利用
者としての利用税(環境税)的な発想での徴収を図るという考え方は、理
に適っている。利用税的な徴収は、例えば、打上げ費を含む物体経費の1
0%を徴収するというようなイメージで展開可能である。
過去を含めて徴収できれば、それに越したことは無いが、過去に遡っての法
制度化等は、ハードルが高い。
3)これらを実施する機関として、世界的な公共事業会社をイメージする。
4)上記の2)で徴収した資金を元に、デブリ除去を行う。
尚、3)、4)については、デブリ除去を実施したい国家または企業が実行
したという事実結果をもって、そのコストを支払うという形でも良い。
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要するに、除去実施に関しては 誰でも参加出来る形を取り(勿論、可能な
業者であるという認証等は必要)、実際にデブリ除去した結果を持って支払
うという方式を提言する。
(2)スケジュール(案)
提言するスケジュール(案)を以下に示す。
EDT の技術実証と非協力ターゲット接近&デブリ除去システムの軌道上実証
(技術実証&利用実証)に関して、小型衛星を用いて行うデブリ除去システム
実証衛星プロジェクトを 2013 年度から立ち上げ、2018 年度頃に打上げる。
国際協力・国際的枠組み造りを併行して実施する。
実証後、2020 年初めに実用システムへと移行する。
宇宙環境保全・改善
自己増殖の防止
25年ルール適合
新規打上機ミッション終了後
のデオービット手段
大型宇宙機用
実用EDT
小型衛星用
実用EDT
JAXA既存デブリ
の除去手段
既存デブリ
の除去手段
(国際協力)
デブリ複数
除去機
デブリ一機除去機
非協力接近
技術
軌道上サービス
不具合調査等
国際協力・国際的枠組み
デブリ複数機除去
←国際ミッションとし
て、複数一括除去
近傍作業
デブリ除去
システム実証
デオービット(EDT)大型化
非協力接近
←非協力接近、推進系取付、デオービットの
一連の技術を実証し、デブリ除去技術を確立
←km級テザー、A級電流等大型化技術確立
←非協力対象への接近技術を確立(フォーメー
非協力接近実証
ションフライト等と連携)
デオービット(EDT)要素技術
EDT技術実証
←小型EDTにより原理、要素を実証
1
2013
2018
デブリ除去システム開発スケジュール(案)
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2020~
(JAXA 資料より)
9. 衛星測位の推進
<3 章 1.(1)衛星測位>
要旨:
準天頂衛星システム整備推進に期待する。また、ソフトウエア技術者育成、及
びメリットの明確化も重要と考える。
(1)衛星測位システムの推進: A-1)
「衛星測位システム」に関しては、昨年(2011 年)9 月、実用準天頂衛星の
整備に関する閣議決定が為され、2010 年代後半までに 4 機体制で整備すること
が確定するとともに、将来的に 7 機体制を目指すことが確認された。
実用準天頂衛星システムは、産業の国際競争力強化、産業・生活・行政の高
度化・効率化、アジア太平洋地域への貢献と我が国プレゼンスの向上、日米協
力の強化及び災害対応能力の向上等広義の安全保障に資するものである。
中国は 2012 年にアジア太平洋地域で運用開始を目標とし、2020 年までに静止、
周回、準天頂の各軌道を組み合わせた総計 35 機からなる衛星測位システムを完
成させることを公表している。
4 機体制による衛星測位は、あくまでも GPS の補完と補強の位置付けであり、
いかなる時も他国の影響を受けない継続可能なシステムを国として保証するた
めに、早期に 7 機体制の自律衛星測位システムの整備が望まれる。
(衛星寿命を
15 年とすれば、15 年間で 7 機の衛星調達が行われることになる )
(2)衛星測位ソフトウエア技術者の養成: B-2)
準天頂システム 4 機体制は閣議決定されているが、しかし、それはあくま
でも上流の衛星周りであり、下流の地上の解析分野にも配慮が必要である。
人民日報(2010 年 11 月 29 日)によると、中国では「衛星ナビゲーション産
業は、年間 34%に近い速度で成長しており、同産業の生産額は 2010 年、500 億
元(約 6300 億円)に達するとみられる。・・・中国全土 200 校近くに上る教育機
関から年間 1 万人以上の専門的人材が輩出されており、就職率は 98.7%に達し
ている。第 12 次五カ年計画(2011-2015 年)の末ごろには、地理情報産業の生産
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額は 2 千億元(約 2 兆 5 千億円)を超える見通しという。」とあり、衛星開発と一
体で下流が整備されている。
もちろん、専門的人材は中国内で活躍するのだろうが、一部は国外で「北斗」
のセールスマンになると思われる。
国の人口比を考慮すれば、日本では毎年 1000 人の卒業者を出さなければなら
ない。まず、講師を早急に養成すべきだろうし、職業訓練学校の課目に測位部
門を加えるべきと考える。
(3)準天頂衛星システムのメリット明確化の必要性: A-2)
我が国は、準天頂衛星システムの推進を始めたが、認知度は十分とは言えな
い。
米国GPSで構成される測位サービスおよび時間標準が世界標準となってい
る中で、我が国の準天頂衛星測位システムの利用により我が国及び周辺諸外国
にもたらされるメリットの明確化が必要と考える。
また、国民サービスを提供するうえで維持・運用に必要な費用の確保手段の
構築が必要と考える。
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10. リモートセンシングの推進
<3 章 1.(2)リモートセンシング>
要旨:
リモートセンシング衛星やデータセンターの整備に加え、データの継続性、デ
ータポリシー、画像利用の強化を期待する。
また、安全保障目的の衛星の整備、小型衛星の活用も検討願いたい。
(1)リモートセンシング衛星の整備: A-1)
「アジア等に貢献する陸域・海域観測衛星システム」に関して推進をお願い
したい。
2015 年度頃から「だいち」シリーズとして光学衛星、L バンドレーダ衛星で
継続的に 2~4 機運用、小型衛星(ASNARO)として光学衛星、レーダ衛星で継続
的に 2~4 機運用、と現行の宇宙基本計画の別紙 2 開発利用計画に示された。
広く周知の通り、昨年 5 月に運用停止した「だいち」は、東日本大震災を始
めとする災害緊急観測活動における国内外への情報提供、国土地理院での地形
図作成へのデータ提供など、様々な分野で貢献した。
残念ながら、現状、我が国として独自の陸域・海域観測衛星は軌道上に無く、
災害観測利用等の空白を埋めるべく 2013 年度打上げの「だいち後継機(ALOS-2:
L バンドレーダ衛星)」、並びにこれと対をなす ALOS-3(広域観測光学衛星)の
実現に期待するところ大である。
陸域・海域観測は国や地方自治体による公共利用として、災害対応、島嶼部・
排他的経済水域監視、海洋資源観測、地図/地形情報収集等、クローズ系(秘匿
系)の情報収集衛星のみではカバーできない多様な利用ニーズに応えるため、
政府としてオープン系(公開系)の情報インフラを保有することが不可欠であ
り、これに加えて、国際災害チャータや、センチネルアジアを通じて海外への
貢献としても大きな意義があり、我が国として継続的な観測環境をインフラと
して構築することは優先度を上げて取り組む課題であると考える。そのため、
早期に「だいち」シリーズと小型観測衛星シリーズの整備化を図り、ASEAN 防災
ネットワークといったアジア地域への国家戦略としての政策的取組みの具体化
を期待する。
(衛星寿命を 5~7 年とすれば、5~7 年間で 4~8 機の衛星調達が行
われることになる。)
- 30 -
政府により継続的なオープン系インフラが整備、利用され、そしてそのデー
タ配信サービスに民間を活用することにより、国際競争力強化が図られ、民間
利用の拡大、海外輸出展開に繋がる結果、宇宙機器メーカ、利用産業に亘って
産業の活性化となる効果が得られるものと考える。
A-1)
(2)環境観測衛星
財政状況悪化に伴い、リモートセンシング分野の衛星についても経済合理性
の観点で優先度をつける傾向が強くなっているが、環境観測等を目的とする一
部の衛星(GOSAT シリーズ、GCOM シリーズ等)は取得データを商用目的で扱う
ことが事実上困難であり、地球規模の環境保全や国際貢献など国策的意義のも
とに整備・運用が進められるべきものである。
従来は主として JAXA が開発を進めてきた分野であるが、研究開発を主たる役割
とする JAXA では、常に新規開発衛星を模索するため、この体制ではデータ継続
性の観点でデメリットも存在した。
かかる状況を踏まえて、衛星インフラの実利用推進を進めるに当たり、上記の
環境観測衛星の継続性確保と政府利用(省庁横断的な利用)の促進に積極的に
取り組んで頂くことを要望する。
A-2)
(3)データポリシー
以前より、衛星輸出を推進するに当たり、データポリシーが不可欠である旨
提言しているが、未だに制定作業が進んでいないように見受けられる。今後、
高分解能 SAR 衛星や光学衛星を輸出する場合に、許容される分解能等合否判断
クライテリアがないと、事業計画立案にも支障を来すため、制定を加速頂くよ
うお願したい。
A-2)
(4)リモートセンシング画像利用の強化
衛星を使ったリモートセンシングは 1972 年 EART(現在の LANDSAT)が最初で
あり、鮮烈なデビューを飾った。以後、太陽同期軌道を利用した地球観測衛星
は各国において数多く打上げられていて、観測衛星は通信放送衛星、測位衛星
の利用に続いて第三の宇宙利用分野として期待されている。
日本でも MOS、JERS-1、ADEOS-1/2、ALOS、GOSAT、GCOM-W1 と続き、他にも政
府の情報収集衛星(IGS)もあり、ラインアップ的には問題ない。
- 31 -
しかし、充実しているのは軌道上部分であり、日本国内の画像利用規模は 100
億円/年程度であり、しかもその大半が防衛省の購入による。国が保有する地球
観測衛星がありながら、衛星で観測したデータを国自体の利用額が少ないこと
が問題である。
国の他、県や市の地方自治体/公共団体でも衛星画像の有効性は理解していて
も、施策に積極的に使おうとはしていないと思われる。災害が起こって始めて
画像が評価されるようなことが繰り返されているだけで、これではリモートセ
ンシング利用の今後に危機を覚える。
経済産業省を中心として、地球観測衛星システムをパッケージ輸出する動き
は、相手途上国のニーズも高いことを認識してとのことと考えられるが、解析
ソフトウエアが日本国内でも十分使いこなされたものでなければ、それらの国
に根付くことはない。従って、まずは我が国のデータセンターや解析ツールを
国のインフラとして整備し、それを利用する、すなわちデータ利用を各省庁お
よび地方自治体に促進していただく施策が必要と考える。
例えば米国においては、1992 年に制定された Land Remote Sensing Policy で
NASA 長官、国防長官、国務省および農務省など連邦政府機関を名指しして、リ
モートセンシング研究計画の推進を求めている。20 年前に成立した法律である
が、データ利用の推進役は国の機関であると定義しているところが興味深い。
実は現在においても日本でのデータの最大利用者は政府および地方公共機関の
はずである。米国法を一歩進めて、日本政府も、農業・国土管理・海洋監視等
の分野でリモートセンシングデータの利用を強く求める法制の整備、必要な予
算の確保を求めたい。
(5)安全保障目的の衛星:
A-1)
「安全保障を目的とした衛星システム」は、国家安全保障の基礎となる情報
収集を確実に行い、国民生活の安心・安全に資するために必要とされるインフラ
整備を図り、継続されるべきものである。
撮像の自在性、関心地域の秘匿性、情報入手の即時性に優れた自国の衛星に
よる情報収集能力を更に強化すべきと考える。
現行の宇宙基本計画にも「撮影頻度の向上」と記されているとおり、緊迫度
を増す我が国周辺状況の把握や、世界第六位となる排他的経済水域の集中的な
監視のため衛星の機数増が不可欠である。このためには多数の小型並びに超小
- 32 -
型衛星を加えた衛星群としての対応が経済的と考える。また、安全保障衛星を
デュアルユースにした運用も経済的に有効と考えられる。
安全保障目的の情報収集に於いては、滞空型 UAV、成層圏飛行船も候補に挙が
るが、利害得失を考え、適材適所の採用を検討していただきたい。
また更に、静止衛星による常時偵察や、災害時においても通信を確実に確保
する衛星の整備が必要であると考える。
A-2)
(6)小型衛星によるリモートセンシング
従来は巨額の費用を必要とする大型・中型衛星が多く検討されているが、宇
宙産業界への敷居を下げるためにも、費用を削減するためにも、小型衛星の開
発、運用が望まれる。
これは、リモートセンシング衛星に限定するものではない。
大学、中小企業でも小型衛星により十分利用に値する性能が得られ始めてい
る。日本の得意なダウンサイジング、箱庭的なセンスが発揮でき、国際的競争
力を持てると考えられている。
また、小型衛星は、短期間での製作が可能で、機能の単純化で数多く製造し、
単価を安くすることが可能となる。小型で安価であれば、1990 年の日米衛星調
達合意に基づく米国の横やりを受けにくくなると思われる。
これらの小型衛星を多数打上げることにより、データの更新頻度が上がるな
ど利用者の利便性も上がり、宇宙の利用が促進する相乗効果が得られると考え
られる。
- 33 -
11. 通信・放送衛星の推進
<3 章 1.(3)通信・放送衛星>
要旨:
通信の分野では、国際競争力強化・商用衛星の受注に繋がる高度情報通信衛星
の整備等を通じた技術開発の推進に期待する。災害時の対応強化のためには、
地上システム、高高度飛行船との連携などのシステム構築が必要と考えられる。
(1)高度情報通信衛星システムの整備: A-1)
「高度情報通信衛星システム」では、東日本震災時に有用性が改めて見直さ
れた衛星通信インフラとして、
「きく 8 号」や「きずな」に置き換わる衛星シス
テムの整備が望まれる。また、同衛星には、国として産業の国際競争力強化に
直結する技術開発と軌道上実証を盛り込むべきであると考える。
衛星通信に関しては、かつては国のプロジェクトとして先進的な研究開発が
継続的に行われ、Ka 帯通信技術などは世界のトップレベルにあった。日本の衛
星メーカが国際市場で受注した商用通信衛星は 4 機あるが、いずれも「きく 8
号」等の開発を通じて得られた静止衛星バス技術がいかされている。(DS-2000
バスが ST-2、トルコ SAT に使用されている。)
また、「きずな」で開発した Ka-Band トランスポンダ機器は、商用の Ka-Band
衛星に多く搭載されている。
しかしながら、我が国における通信衛星の研究開発プロジェクトは、「きく 8
号」「きずな」以降、中断している。
一方、その間、欧米では国の衛星プロジェクトにより継続的に先進技術を開
発、軌道上で実証し、その成果を民需通信衛星に展開している。
フレキシブルペイロード技術や大型静止衛星バス技術などで欧米との差は拡
大している。したがって、基本計画に提示された「次世代情報通信技術試験衛
星」により技術開発と軌道上での実証を行い、その成果をもって国際競争力の
強化や、我が国インフラの能力向上に適用していくことが望まれる。衛星開発
には長い時間がかかり、今直ぐにプロジェクトを立ち上げても、その成果を具
体的案件に活かせるのは早くて 5 年後である。速やかに次期技術試験衛星プロ
- 34 -
ジェクトを立ち上げることを期待する。
また、静止衛星(通信衛星)については、
「高度情報通信衛星システム」のよ
うな国のインフラとしての衛星を継続的に計画・保有することが必要であると
考える。
(2)商用通信衛星
A-2)
商用通信衛星市場は 20 機/年の安定した規模で推移しているが、大半は欧米
の衛星メーカが受注している。
我が国の国際競争力を高めて、この市場で外需を獲得することが、宇宙機器
産業の成長に大きく寄与するものと考える。
現状では、ETS-Ⅷの開発成果を活用し、国際市場において漸く国産衛星を受
注できるようになったが、既に現在~近未来にかけての国際市場ニーズでは、
長寿命化、通信大容量化のためマルチミッション、大容量通信のための大電力
大型バス化、Ku バンドによるフレキシブルペイロードのニーズが増加している。
その中で、欧米企業は政府衛星(軍事安全保障衛星)や国による開発政策によ
り軌道上実績を獲得しており、それらに対抗して国際競争力を強化していくた
めには、大電力バス、フレキシブルペイロードに関する技術開発と軌道上実証
を国の開発衛星により実施していただく必要がある。
B-2)
(3)安全保障上必要な通信衛星
安全保障、特に防衛装備品の通信システムへの依存が高まっており、周波数
帯域およびデータ容量の確保を考慮したシステム構築が今後必要と考える。静
止軌道アセットとの共存を配慮する上で、小型衛星によるイリジウム衛星と同
様のシステム構築などの具体的な検討が必要と考える。
(4)宇宙と地上インフラの連携(安全保障の強化) B-2)
アメリカ等では宇宙開発は軍事と深く結びついており、偵察だけではなく、
アメリカ本国から衛星回線で無人機をコントロールしたりするなど、地上設備
に絡めた軍事利用が進んでいる。宇宙基本計画では「安全保障の強化」も記載
されているが、日本でも偵察衛星レベルだけに限るのではなく、より有効に防
衛分野への活用を図るべきであると考える。
安全保障や、災害時の衛星活用の一貫として、衛星の観測の穴を埋めるため
の滞空型無人機との連携や、防災・救難ヘリコプターの航法・誘導など、地上
- 35 -
インフラと連携して、運用及びデータ収集についての補完実施を目指すべきで
あると考える。
B-2)
(5)災害時の対応強化
JAXA の災害時・航空機統合運用システムの研究では、災害時の情報伝達とし
てインターネット回線を想定しているが、大規模停電の場合などでは、地上回
線自体が機能しなくなる可能性が高いものと考えられる。
その場合に対応するため、衛星を活用したインターネット回線による災害
時・航空機統合運用システムの研究を進めるべきであると考える。
A-2)
(6)成層圏飛行船システム
成層圏飛行船システムは通信分野のみならず観測分野でも有効な手段となる
可能性がある。各ユーザーから横断的に需要を調査し、衛星とは異なる利用の
必要性/有用性をまとめる必要があると考える。
- 36 -
12. 輸送システム(ロケット)の整備推進
<3 章 1.(4)輸送システム>
要旨:
自律的に宇宙を利用できる能力の根幹となる輸送系(打上げロケット)を保有
する国は限られており、我が国を含め、世界で 9 か国/地域である。この優秀な
技術力、産業力を維持発展させていくために、基幹ロケット、固体ロケットの
継続的研究・開発・整備に期待する。
政府系衛星打上げ時の情報流出の可能性を抑える為にも国産ロケットの優先使
用、パッケージ輸出時の国産ロケット優先使用の配慮により打上げ機数が増大
して産業基盤維持に繋がる。
また、将来有望な LNG 推進系、空中発射システムも着実な研究開発が望まれる。
(1)輸送システムの整備推進
1)輸送システムの将来像検討
A-2)
輸送システムに関しては、宇宙に自在に到達できる能力(自律性)を維持し
てゆく上で、必須のシステムと認識されている。この能力を保有するのは、我
が国を含めて世界で 9 か国/地域である。
今後、我が国の基幹ロケット、固体ロケットの輸送システムの在り方を検討
する上で、打上げ能力やコスト競争力向上を考慮することは勿論のこと、信頼
性の確保、生産基盤の維持、発展性を考慮することも必要であると考えている。
基幹ロケット、固体ロケットは、相互に関係を持って技術基盤・生産基盤を
維持できている事実があり、将来像を検討する上で、この事実を考慮した上で
総合的な検討が必要である。
これらの点を総合的に考慮した方針決定をお願いしたい。
A-1)
2)継続的な研究開発
第 5 項に、産業基盤維持、ロケット技術者の育成としても記載したが、継続
的な研究開発が必要である。システム全体の開発と、部分的な改良・改善を組
み合わせて、継続的に進めることが適切と考える。
3)国内産業基盤維持方策: A-1)
ロケットの産業基盤の維持には毎年一定数の打上げ機会を確保する必要があ
- 37 -
る。これまでは政府衛星の打上げを基本に、この機会の確保を目指していただ
いてきたが現下の財政制約を考えるとこのような方策は現実的でなくなりつつ
ある。従って宇宙空間の利用の自律性確保の観点から商業打上げ受注を通じて、
宇宙輸送産業基盤を維持するための支援措置の検討・実施をお願いしたい。
4)国産ロケットの優先使用: A-1)
前項で記述した通り、ロケットの産業基盤の維持のためには毎年一定数の打
上げ機会を確保する必要がある。宇宙空間の利用の自律性確保の観点から、日
本の政府衛星の打上げ時に、国産ロケットの確実な活用をお願いしたい。
仮に日本の政府衛星の打上げ時に、他国のロケットを使用し、他国の領土か
ら打上げることは、技術情報流出に繋がる可能性があるので十分な考慮をお願
いしたい。
政府衛星の打上げ時に国産ロケットを優先使用することとすれば、上記の懸
念もなく、打上げ機数が増大し、産業振興=自律性の確保に繋がる。
国産ロケットの優先使用により、打上げ機数の見通しが得られことに繋がり、
長期的な計画が立てられることは、生産計画の平準化の観点でも有効であり、
このことは効率化の観点でも有効と考える。
5)商業受注、インフラパッケージ輸出、等: A-2)
現下の財政制約を考えると民需(海外輸出)で国内産業基盤を維持していく
ことが望ましい。政府に商業受注、インフラパッケージ輸出、及び外国政府衛
星の受注支援を頂くことで、産業基盤維持、産業振興に繋げることが可能とな
る。
インフラパッケージ輸出においては、衛星のみならず、ロケットを含めたフレ
ームワークを作ることこそ、本来のパッケージになると考える。
A-2)
6)射場設備の維持、更新:
射場や試験設備等我が国のインフラは整備されてから何十年も経過しており、
老朽化が激しい。政府の保有する設備のみならず、民間が保有する設備につい
ても同様である。 作業効率や競争力の面で支障をきたしつつある。 これら
のインフラ設備の、維持、更新、最新化は諸外国でも政府が担っている。 機
器の利用、開発のみならずインフラ設備の維持、更新、最新化についても計画
的に取り組むべきである。
(2)液体燃料ロケット: A-1)
1)液体燃料ロケットでは、次期基幹ロケット(H-III)開発の早急な立ち上げ
- 38 -
をお願いしたい。このことにより、基幹ロケット技術の開発能力基盤の維持、
及び国際競争力を確保することにつながる。
2)また、ロケット技術の開発能力基盤の維持、及び国際競争力を持った輸送
システムの開発の観点からロケット搭載品(第 2 段システム、ロケットエンジ
ン等)の海外との共同開発に関し政府の支援を頂くことが必要である。
(3)固体燃料ロケット: A-1)
小型ロケットについては、運用に向けて着実な開発を図ると共に将来の小型
衛星のニーズを睨み引き続き計画されているイプシロンロケットの低コスト化、
高性能化の計画の着実な実行をお願いしたい。また、貯蔵性、即応性、機動性
に優れた固体燃料の重要性を考慮して固体燃料技術の維持/向上を御願いした
い。
M-V ロケットの運用停止からイプシロンロケットの開発スタートまで、数年の
ブランクが生じ、ロケット技術者の維持、育成に多大な苦労が生じた。イプシ
ロンロケットのシステム開発に引き続き、計画的に開発を継続することで、産
業基盤の維持、ロケット技術者の確保が期待できる。
宇宙分野で固体ロケットの技術・生産基盤を維持する為には、基幹ロケット
における固体補助ロケット(SRB)の使用に加えて、イプシロンロケットの
定期的な打上げが必要であり、国内衛星の確保はもとより、ODA等による海
外衛星取り込みの為の施策の実施が必要である。固体燃料ロケットは、現在イ
プシロンロケットの開発が行われているが、この開発の着実な実行をお願いし
たい。
また、引き続き計画されているイプシロンロケットの低コスト化、高性能化
の改善計画の着実な実行をお願いしたい。
(4)LNG 推進系: A-1)
LNG推進系は、将来の探査計画で必要となる軌道間輸送や高い安全性による有
人輸送機などへの適用が期待されている。
本技術開発を推進する理由は、中長期的な視点で我が国の輸送システム戦略
を検討する上で、実用性と低コスト化を図る意味でも重要である。また世界的
にも関心が高く、従ってこの面で我が国が先行することは機器の輸出戦略とし
ても有効だと考えられる。
- 39 -
(5)安全保障上、利用可能な射場の整備: B-2)
現在の射場は、安全保障用のロケット、衛星に利用するにはセキュリティが
弱く、また、射場安全や打上げ回数などに難点がある。安全保障面での自律性
の確保は国の根幹をなすものとして第一義に考えるべきである。
射場の整備は、土地利用計画の策定や地元地域との調整などを含めて、長期
間の準備が必要なため、将来の宇宙利用を想定して、今から検討および着実な
整備を行っていく必要があると考える。
これにより将来の宇宙利用機会を増加させることが可能となり、宇宙産業の
振興に役立つ。
また、次の 13 項に示す有翼宇宙往還機や弾道型スペースプレーンの研究開発
のためのスペースポートの必要性と合わせた検討が必要と考える。
B-2)
(6)空中発射システム:
小型衛星、超小型衛星の打上げ手段として、空中発射システムが注目されて
いる。空中発射システムでは高高度からロケットを発射することにより、空気
抵抗が少なく、ロケットの打上げ効率が向上する。また、安全な海上上空から
発射することにより、射場制約が大幅に緩和される。
本システムは航空機に打上げロケットを搭載するため、大きさ制約があり、
中型・大型の衛星を打上げることはできないが、小型、超小型衛星の打上げ手
段として適している。小型、超小型衛星の性能が向上し、研究開発用だけでな
く、実用衛星としても利用が多くなってきていることが本システム注目の理由
である。
本システムは特定の射場が不要のことから、安全保障用途・即応打上げにも
適している。
是非、この空中発射システムの研究開発の推進をお願いしたい。
- 40 -
13. 有人宇宙活動
<3 章2.(1)有人宇宙活動・惑星探査>
要旨:
有人宇宙活動として、アジアの中で国際宇宙ステーション(ISS)に参加してい
るのは我が国だけである。この有人宇宙活動への継続参加に加え、将来の有翼
宇宙往還機、直ぐに手が届きそうな弾道型スペースプレーンの研究開発推進に
期待する。
A-1)~B-1)
(1)有人宇宙活動への継続参加:
1)ISSへ2016年度以降の参加や協力の在り方を検討する上で、外交上
の効果、国際的なプロジェクトにアジアで唯一参加していることの意義や宇宙
飛行士が活動することにより宇宙に対する国民的関心が高まっている事実を十
分考慮する必要があると考える。
また、今後の探査計画を睨んで、ISSや宇宙ステーション補給機 HTV を用
いた技術開発の実施により、次期国際共同プログラムで中核的なポジションが
取れる様な戦略を持つ必要があると考える。
有人宇宙探査については、国際宇宙探査協働グループ:ISECG(International
Space Exploration Coordination Group)での議論や、ISS の有効利用とその後
について話し合われる、ISS 参加国から構成される IEWG(International Expert
Working Group)での議論とも歩調を合わせるべきと考える。
2016年から2020年までのISSへの継続参加は勿論のこと、202
0年以降についてもISSに参加することによる諸外国への発言力の確保や国
際貢献を考慮した上での継続参加を模索していくことは必要と考える。
また、低軌道有人施設による実験場は、宇宙飛行士が活躍する場を確保できる
ことや実験機会の継続的な確保の観点でも有効であると考えており、ISSの
将来検討と併せて、有人活動拠点を保持・維持して行く為の検討も必要と考え
る。
2)次期有人プログラムへの参画にあたっては、ISSでの反省を活かしつつ
より効率的で主体的なポジション取りを考慮して検討を進めて行くべきと考え
- 41 -
る。
一方で、我が国として参画の方向性を出して行くことは、プロジェクトの中核
を確保する上で重要と考えており、検討の促進をお願いしたい。
有人宇宙活動分野では、2020 年までの宇宙ステーションの運用延長に伴い、
現行宇宙ステーション補給機HTVによる物資輸送による貢献に加え、回収機
能付与等のHTVの継続的な機能向上をすべきである。それらの方針を早期に
決定してもらいたい。宇宙ステーションのプログラムは、少なからず、宇宙産
業の基盤維持、我が国の国際社会でのプレゼンス向上、宇宙へのアクセス(往
路と復路)の自律性確保、に寄与している。
また、省庁の壁を越えて宇宙ステーションの利用促進に注力するとともに、
アジア唯一の参加国である地位を生かした国際協力、外交を積極的に展開して
いくことが国民の理解を得る為には重要である。
3)国際的な気運が高まりつつある国際有人宇宙探査への参加については、目
先の経済性だけでなく、産業界への波及効果、外国とのパートナーシップ強化
などの外交面含め、総合的に判断し早期に明確化する必要がある。
(2)有翼宇宙往還機: B-2)
有翼宇宙往還機の研究開発期間は長期間になると考えられるが、宇宙開発の
活性化のために、宇宙輸送機の究極的目標として完全再使用の有翼宇宙往還機
(本格的スペースプレーン)を目指すべきと考える。それに当たっては航空と
宇宙の垣根を無くして先ずは再使用型観測ロケット等の再使用型宇宙システム
に係る研究開発の促進を図るとともに高速航空機の研究に着手し、最終的には
有翼宇宙往還機の開発を行うべきものと考える。
将来を見据え、人類の究極のターゲット向け、1 国で難しい場合は国際協力を
視野に入れて進めてゆくべきと考える。
(3)弾道型スペースプレーン及びスペースポートの検討: B-2)
高度 100km 以上に到達する宇宙往還機(弾道型スペースプレーン:サブオー
ビタル機)は観光のみならず、将来は長距離間を短時間で結ぶ輸送系への架け
橋となる可能性を秘めている。
欧米諸国では、これらの開発が進んでいる。米国ニューメキシコ州の
Spaceport America を建設するときの試算では、2019 年には毎日 6 人を観光旅
- 42 -
行に送り込み、年 300 億円以上の売り上げを見込んでいる。観光旅行をターゲ
ットとした場合の日本の富裕層は米国の半分の約 170 万人と言われており、日
本でも同程度の宇宙観光客が見込まれるはずであり、検討を進めるべきと考え
る。また、このためにはスペースポートも必要であり、合わせて検討を実施す
べきと考える。
- 43 -
14. 宇宙科学の推進
<3 章2.(2)宇宙科学>
要旨:
2010 年の「はやぶさ」帰還は多くの人の感動を呼んだ。日本の国力の一つであ
る科学・技術の進歩に貢献し、産業への波及もあるだけでなく、宇宙開発利用
に対する国民の目を惹きつける宇宙科学ミッションの推進に期待する。
(1)宇宙科学ミッションの位置づけ: A-2)
宇宙科学ミッションは、科学の進歩に貢献するだけでなく、国民的な関心の
獲得や宇宙開発を広く知らしめる上で有効であると考えられる。さらには最先
端技術の開発の機会を提供するものであり、産業への波及も期待できる。
2010 年 6 月に「はやぶさ」が地球に帰還し、多くの感動を呼んだ。この「は
やぶさ」で採用されたイオンエンジンは、その性能が評価され米国・NASA プロ
グラム(探査衛星)への適用が検討されており、産業への波及に繋がりつつあ
る。
また、科学技術ミッションは科学者だけでなくエンジニアの育成の上でも有
効であると考えられる。
一方で、これらのミッションはチャレンジブルな面があり、100%の成功を課
すことは、ミッションの位置づけから好ましくないと考えられる。
ミッションの数を増やして、失敗を恐れることなくチャレンジブルなミッショ
ンに取り組める仕組み作りを希望する。
(2)宇宙環境利用及び産業化のための研究の推進: B-2)
・ISS「きぼう」や観測ロケットによる宇宙環境利用の推進をお願いしたい。
・基礎科学の成果を踏まえ、創薬等の応用科学やその産業化のための科学研究
の推進をお願いする。これにより宇宙を活用した安心・安全で豊かな国民生活
の向上に寄与できる。
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15. 技術研究
<3 章2.(3)技術研究>
要旨:
長期の視野に立ち、宇宙太陽光発電、その他の基礎研究の推進に期待する。
着実な研究開発が国際競争力強化に繋がり、産業基盤の維持・発展に繋がる。
(1)宇宙太陽光発電の取り組み方針: B-2)
・国の再生可能エネルギー政策の主要オプションとして位置づけ、今後の取り
組み方針を明確化願いたい。
その場合、通常の宇宙関係予算でなく、代替エネルギー政策予算(仮)など
による予算化の検討が重要と考える。
・将来の実用宇宙太陽光発電を睨んだ場合、高出力送受信機器等に関する継続
的な開発と地上検証が必要であることから、軌道上実証の推進と並行して実施
することの検討をお願いしたい。
・個々の要素技術開発も必要だが、システム成立性の検討も並行で進めること
を希望する。
・将来の宇宙太陽光エネルギーの本格的な利用に資するため、まず低軌道に宇
宙太陽光発電システム試験衛星を打上げるかもしくは宇宙ステーション『きぼ
う』を活用し、宇宙から地上へのエネルギー伝送技術など宇宙太陽光発電の研
究開発や実証実験を推進すべきである。
・本件、長期の視野に立った技術基礎研究の推進をお願いしたい。
(2)基礎研究: B-2)
その他多方面での基礎研究に関する研究支援に関しても、積極的な取り組み
をお願いしたい。
- 45 -
16. 横断的施策の推進
<3 章 3.横断的施策>
要旨:
横断的施策として、政官学産連携がパッケージ型インフラ輸出、相手国のキャ
パシティ・ビルディングに重要であり、推進に期待する。
また、ロケット、衛星などの上に目が行きがちだが、地上設備(アンテナなど)
の整備もお願いしたい。
(1)政官学産連携: A-1)
海外需要獲得に当たって欠かせないのが、政官学産の総力結集である。産業
競争力は国力そのものであり、仏、露、韓筆頭に諸外国は大統領がトップセー
ルスマンとなって一人称でインフラ輸出のため海外売込みを実施しているのが
国際競争環境の実態である。
かかる環境下で国力(=国際競争力)を増強するためには政官学産による総
力結集が必須となることは疑いの余地がない。
既に海外貿易会議等においてアジア、南米、アフリカの宇宙機関に対する日
本の宇宙産業の PR 機会を設定いただいている他、ベトナムのホアラック宇宙セ
ンター案件においてはトップセールスを含めた政府主導の活動をいただいてお
り、宇宙機器の輸出拡大に向けた政府の取り組みには産業界としても一体感を
強く感じている。
トルコ向け通信衛星 2 機の商談においても、トルコにおける宇宙機関設立等
キャパシティ・ビルディング関連の政策的活動が高く評価され、トップセールス
も相まって受注につながった。
このキャパシティ・ビルディングに関しては、相手国のニーズに応じたキャ
パシティ・ビルディングが重要である。相手国として、宇宙インフラや衛星デ
ータを初めて使うエントリー国もあれば、衛星データ利用には長年の経験を持
ちつつ、自国衛星を初めて導入する国もあり、衛星を「使いたい」「持ちたい」
「作りたい」と様々な目的に応じてキャパシティ・ビルディングのニーズが異
なってくる。
産業界としては、
「衛星を作りたい」国に向けて、製造スキルのトレーニング
等を実施することは得意とする一方で、開発管理手法など、JAXA 殿が得意とす
- 46 -
る領域や、学位取得などを求める国への大学の対応が必要なケースもあり、効
果的なキャパシティ・ビルディングができるよう、官民連携をお願いしたい。
海外を見ると、欧州や中国は資源外交も絡ませながら従来以上に積極的なト
ップセールスを行っていくことが予想される。一方で円高の進行、定着により、
価格競争力は相対的に低下しており、受注環境は益々厳しくなっている。価格
競争力の劣勢をカバーする政策的パッケージ提案として、資源等とのバータ、
トップセールス、政府系金融機関によるファイナンス提案、人材育成/技術支援
等のキャパシティ・ビルディング、省庁横断/異業種連携によるソリューション
提供などを官民挙げて推進していく具体的な取組みの更なる強化を期待する。
(2)地上アンテナ設備の整備: A-2)
近年、大学・民間等における小型衛星の打上げの機運が高まり、今後も数多
くの衛星が打上げられることが見込まれる。その一方で、衛星運用時に利用可
能な地上アンテナ設備は十分とは言い難く、海外の事業者のサービスを受ける
ことも多い状況にある。
従って、大学・民間等が容易に利用可能な地上アンテナのインフラ整備とサ
ービス提供に関する事項を基本計画に盛り込み、海外輸出も含めた今後の衛星
増加を下支えすることが、宇宙活動の自律性確保と宇宙産業振興に寄与する。
以上
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