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皮膚中和能に 関する研究

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皮膚中和能に 関する研究
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関する研究
皮膚中和能に
れます。Adobe® Reader®で閲覧するようにしてください。
斎 藤 昌
一
一゛會
猪 俣 雅 子*
study on the Dermal Neutralizing Ability
Masaii Saito and Masako
Inomata
I まえがき
についても考察を行った.
酸或はアルカリの稀憚溶液を皮膚表面に接触せしめ
II 実験方法並びに予備実験
ると,皮膚表面はこれに対し一定の緩衝作用を現わし,皮
I. 皮膚pH測定機
膚特有の声を維持せんとする能力を有する.この現象は
Heuss (1892)", Golodetz (1910), Memmesheimer
Heuss
(1924)'≪,
S harlit-Sheer (1923)"等の初期の頃は種々
C1892)"がフェノールフタレンに浸けた濾紙を
皮膚に貼布した場合,これか脱色することを報じて以来
の指示薬を用いたが,次yヽで各種のelectrodeを使用す
一般に知られるようになった.その後この皮膚中和能に
る方法がShade
(1921)^'等により考案せられた.更に
関する研究はSharlit-Scheer
(1928)'≒Shade-Marclii-
Clausen-Shade
(1926), Kocha939)=>等はchinhydron.
onini (1928)",
(1938)", Koch
electrodeを使用したか,B!ank
Burckhardt
Schmidt (19 41)",Robert-Jaddon(1942)",
Schuppli (1949)",
BSumle
Wohnlich
(1951)"', Vermeer
(1939)=>,
Piper(1943)",
(1949)'°',Burckhardt(19B1)'", Klauder-Gross
(1961)"', Jacobi・Heinlich (1954)"'等の主として独乙
(1939)'"に至って誤を
の最も少い硝子電極が用いられている.
われわれは現在この硝子電極回測定機の中最も優れて:
いると考えられるBeckman
電極としては40498
G型pH測定機を使用した.
glass electrode, 39170 reference
系学者により研究せられて来た.
electrodeを選び.調整用のbuffer
この中でもBurckhardt
manのものを使用した.
(1938)"∩よ酸及びアルカリ
solution もBeck-
の量,濃度等を中和するのに要した時間を測定する方法
2. 測定液
で,アルカリ,酸に対する皮膚の耐性とその中和能との
a. 皮膚pH測定液:Draize(1942)"'ttO.l%
間には相関関係があり,しかも酸,アルカリ雨中和能は
溶液, Blank(1939)"',畑(1958)19)等は更にこれをHCL
平行するものであると述べている.したがって,たとえ
でPH5.0に補正したものを用いているが,われわれは専
ぱアルカリ中和能が低いものはアルカリ性の物質に障害
らイオソ交換水を使用した.そのpHは6.08∼6.25であ・
を受け易く,接触皮膚炎などを起すものであるとした.
る.念のためこれらの経時的変化を調べてみると次のよ.
このことはVermeer
(1951)'"その他によって支持さ
れている.
最近Klauder-Gross
5,であった(Fig.
1 ,2,3,4).
Draize(1942)'≫'は実験の結果0.1%
(1951)"'は石鹸及び洗剤使用
NaCl
NaCl溶液をHCl
で補正する必要はないと述べている.われわれはイオソ
後の中和能を調べ,職業性皮膚炎の発生を予知し得ると
交換水と0.1%
した.
意味で,この両者のN/100乳酸溶液に対する態度を観察
以上のことから,最近しばしば遭遇する化粧品による
した.その結果はFig.
皮膚障害と皮膚中和能との間に何等かの関連性が存在す
同様な曲線を示し両者の間に差のないことを知った.
るならば,中和能を測定することにより化粧品等による
b. 皮膚中和能測定液ご皮膚中和能に関してはわれわ
皮膚障害を予防し得ると考え本実験を行った.なお叉皮
れの研究目標を主としてアルカリ中和能においた.アルカ
膚声,或は皮脂腺の分泌状態と皮膚中和能との関連性等
リ中和能測定液としてはKoch(1939)='はN/2,000NaOH
NaCl液を補正したものとを比較検討の
5に示す通りで,両者いずれも
*資生堂化学研究所(所長福原信和)
From the Sbiseido Chemical Research Institute(Director: Nobukazu Fukuhara), Tokyo.
―
364 ―
昭和36年4月20日
365
Fig. 1.イオソ交換水0.15ccの経時的pH変化
(10例平均値),
Fig. 5.イオン交換水と 0.1%
NaCl液をHCIで
PH 5,0に補正したもめとの乳酸(100/N)に対j
する挙動
だら
印
5,∂
引 M
Fig. 2.イオン交換水0.15
ccの東洋濾紙, No. 5, 1.5
×aoccに浸漬したものの経時的PH変化(10例平
均値)
の利点から選ぱれたものである.これに対しNaOH
i#s
液を使用する場合には,放置した場合理論上第二燐酸y’
−ダ程の安定性は期待出来ない.しかし実際上NaOH溶ヨ
液について種々の条件下の安定性を調べて見るとFig.
6, 7,8,
Fig. 3. 0.1%
NaCl液をHCIでPH
5.at-こ補正し
たもの0.15CCの経時的pH変化(10例平均値)
9に示す通り,われわれの測定法の上では別J
に取り上げる程の欠点のないことが知られた.一般に測│
定液と`しては皮膚上に塗布した場合,皮膚の中和能力を・
経時的に充分表現すべき性質を存することが最も望まし.
い.今かりに皮膚中和能に関与する因子として挙げられ,
ている乳酸を取り上げて,第二燐酸ソーダ液と NaOH二
液の両者に対するpH変化を調べてみるとFig.
10 に示す
通りで, NaOH液の方が遥かに敏感に岡変化を示す.第丿
二燐酸ソーダはその性質上buffer作用が強いから,そ’
Fig, 4. 0.1%
NaCl液をHCIでPH
5.0に補正し
たものの経日的変化
れ自身のpHが安定であると同時に,亦皮膚に塗布された.
場合,皮膚表面に存在するpH変化因子の影響にも左右ぎ
れることが斟い.そのため中和能測定液としては不適き
と考えられる. `
Fig. 6. 1,000/N液の保存瓶(
的pH変化(10例平均値)
液を,
Burckhardt
(1947)'°りiN/80
ノールフタレソ液を加えたものを,
はN/lOO
NaOH
液を,
500cc)中での経日
NaOH液にフェ
Wohnlich
(1949)""
Jacobi-Heinlich (1954)'"は
同じくN/80のものをそれそれ使用しているが,津田
3.測定時間
(1949)"',大森(1955)22),畑(1958)19)等はN/60第二燐酸
a.皮膚PH値は皮膚上にイオソ交換水を置いてから・
ソーダ液を使用している.これは測定液を一定時間放置
1分後に測定した。づ
してもpH変化のないこと,皮膚に障害を与えないこと等
b.皮膚中和能測定は可及的短時間内に結果を得るプガ
日本皮膚科学会雑誌 第71巷 第4号
366
Fig. 7. 1,000/N
NaOH
Fig. 10. N/60第二燐酸ソーダ液とN/1,000
NaOH液のN/lOO乳酸液に対するPH挙動
mの20ccビーカー中に於け
る経時的PH変化(10例平均)
Fig. 8. 1,000/N
NaOH液O.loccの硝子板上に於け
る経時的pH変化(10例平均値)
H
Pa
限 r
iひ
Sa
騨隋
4. 電極と皮膚との接触度による測定値の変動
皮膚上に電極を接触せ.しめてpH値を測定する場合,そ
の接触度によって測定値に大きな誤差が生ずること聚知
った.
Fig.
9. 1,0〔〕0/N
NaOH
液0.15ccを東洋濾紙No.
5
最初Beckman測定装置に附属してしるスタンドを
の1,5χ3.0cinに浸したものの経時的pH変化
使用し電極を固定懸垂して測定を行っていたのである
(10例平均値)
が,被検者ヽの動揺により測定値が大きく変動することか
ら,次のような実験を行ってこの誤差を除去することに
努めた.
実験1:
直径約3cmの円形硝子枠をゴムバソドで皮膚上に固定
し,この中へ3ccのN/1,000
NaOH
液を入れ(後述硝
子枠法),最初この中で電極を皮膚に比較的強く圧接して
Fig. 11. 電極圧接度による測定値の変動
(硝子枠法)
H 刀
Ci_ 'J )
針から,10分間の継続測定を行い,1分毎にpH変化を記
録した.この種の研究報告によると,相当長時間に亘っ
て測定を行ったものもあるが,その殆んどのものは継続
釦
伯でなく,間歌的測定である.しかしこのような方法
では後述するように中和能を正確比測定することは不可
7.0
能と考えられる,継続的測定を行ったものとしてはKoch
(1939)5)の実験報告がある.氏は30分間継続,5分毎の
pH変化を記載している.しかしこの場合には電極が使用
されていない.
6.0
昭和36年4月20日
367
Fig. 12. 電極圧接度による測定値の変動
Fig. 13. 電極止接度を一定化するための装置(滑車
(セロファン法)
上を移動する紐の一端に電極を懸垂し,他端には
明助
電極より若干軽い錘を懸肪する.)
8.Q
7。ひ
6.0
滴液のpH変化を測定した.次に静かに電極圧接程度を
に用いて,その脱色,変色時を記録する力法を行った・
弱め,更には電極を皮膚表面から殆んど離れんとする程
われわれも一応これらの方法を追試してみたが,脱色,
度にして,それぞれpH値の変動を調ぺてみるとFig.
11
変色の終点を見極めることが頗る㈲難であった.
に示すように,接触度を弱めるに従いpH値が著明に上昇
Koch(1939)5),Schmidt(1941)6≒Robert-Jaddon
することが知られた.
(1942)", Wohnlich
実験2:
electrodeを用トているが,このものは酸化及び還元物
電極を皮膚に接触せしめ,
0.2ccのN/1,000 NaOH溶
(1949)'°'等は Chinhydron
質,程々の塩類により少からず誤差の生ずることをDole
液を両電極先端部に滴下,あらかじめエーテル中に浸漬
(1931戸几指摘してトる.
しておいた1×25iiiin大のセロファソ紙片で電極先端部の
以!:の方法はトずれも今日の精密な硝子電極による方
測定液を誘導連結して中和能を測定した(後述セロファ
法には遠く及ばなト.
ン法).この際前述の実験と同様に電極の圧接度を強,
Blank
中,弱の三通りにして,それぞれの値を記録してみると
る詳細な研究を発表しているが,その方法は測定液を皮
Fig.12に示すように圧接度によって著しくPH値の変動
膚面に塗布,これに電極を当て,測定している.その後
することが知られた.
の研究者は人体これに倣って皮膚pH,並びに中和能の研
以上の2つの実験から皮膚中和能を測定する場合には
究を行ってトる.われわれも前記した如くBeckman
電極と皮膚とは終始同一接触度を保持していなければ測
型pH測定磯を専ら使用したが,測定方法にっいては次に
定値に大きな誤差が生ずることを知った.したがって中
示す二,三の方法を考案検討した.
和能測定実験に於いては,一定の間隔をおいて測定時毎
a.硝子枠法:直径3cmの円形硝子枠をゴムバソドに
(1939)'"は硝子電極を使用して皮膚pHに関す
に電極を改めて接触せしめては,その度毎に電極の圧接
より皮膚面上に設置し,この中に測定液を入れてPH変化
度が異なり,正確な測定値が得られなレことになる.
を測定する.この方法によれば皮膚面積と測定液量を恒
以上の観点からわれわれは電極が常に一定の圧接度を
に一定にすることが出来るが,測定液が比較的多量に(3
保ちうる装置を考案し,圧接度による測定誤差を可及的
∼5
i避けるよう努力した(Fig.
13参照).しかしこの方法では
長時間に亘り測定することは被術者に苦痛を与えること
Koch
(!939)5)はchinhydron
electrodeを用いての測定であるが,空気中のC02の
影響を少くするためにアルカリ液量を多くして,しかも
が多く実施困難であった.
同じように小シャーレを用いて測定してトる.しかし測
5.測定方法
Heuss
cc)必要である.
定液が多量になれば皮膚による小和作用を敏感に把握す
(1892)",
Burckhardt
(1935)",
(1949)"等は指示薬を使用,濾紙或は硝子小片を補助的
Schuppli
ることが当然困難となる.この意味で,しかも測定時間
を可及的短かくするためには測定液はたるべく少量にし
G
日本皮膚科学会雑誌 第71巷 第4号
368
た方が望ましいことになる.したがってわれわれは順次
改良案を考案するに及んで結局この方法は殆んど実施し
Fig. 14. 電極圧接度による測定値の変動(濾紙法と
セロフアソ法との比較)
なかった.
b.セロファン法:測定液を可及的少量にするために
次のような方法を試みた.即ち電極を皮膚に接触せしめ
0.2ccの測定液を両電極先端部に滴下し,あらかじめエ
ーテル中に浸漬しておいた1×25皿のセロファソ紙片で
電極先端部の測定液を誘導連結して測定する.このセロ
フアソ法でわれわれは相当数の測定を実施したが,その
後更に次に述べる濾紙法を案出し,その優れていること
を認めて,その後はこの方法によって実験を進めた.
c.濾紙法:少量の測定液ですみ,皮膚面積も一定と
することが出来,且つ電極の圧接度を固定し得て安定性
のある測定方法として次の方法を考案した.即ち東洋濾
紙No.
5の1.5×3cmの大のものを皮膚面上に置き,
これにOン15ccの測定液を注加,電極をこの上に設定して
更に最近10年間に於けるものについて述べるとKlau-
測定する.この場合Fig.
der-Gross (1951)"'は平均4.5∼3.0,
13に示す装置を使用して恒に
Thurmons-Ott-
一定の圧接度を保つよう注意した.この際測定時間中被
enstein (1952)'町よBeckmanの硝子電極を使用して男
術者は出来るだけ腕を動揺せしめなしよう努力せしめ
子4.7±o.r.女子6.0土0.9,
た.本実験における被術者の動揺,圧接度の変化によっ
平均4.9∼5.5,
て生ずる測定値の変動を濾紙法とセロフアソ法にっして
(1952)は5.5士0.5,
比較検討してみた.その結果をFig.
14 に示したが,濾
紙法に於しては電極圧接度に多少の変動かあっでも測定
値には左程大きト誤差の生じなしことが知られた.
Ill 測定結果
Schmid
Anderson
(1951)''>は
(1952)は4.8∼5.8,
Peck
Arbenz
(1953)は 4.2∼5.6,
Jacobi-Heinlich (1954) "'は5.5∼6.5,更に畑(1958)'"
はBeckmanのN型PH
meter
を使用して測定した
結果男子5.40,女子5.83の平均値を得た.
しかしながら皮膚函は部位により叉個人により,年令,
季節,性別,人種等によって一定しないことを上記の報
1.皮膚pHの連日的測定
告はいずれも指摘している.
皮膚表面の声に関してはこれまで多数の研究報告か見
われわれはまず男女各20名につき1ヵ月余連日的に皮
られる.古くは指示薬による比色法から今日の硝子電極
膚声を測定し,これと同時に毎日の温度潔度を記録し相
による法に至るまでその測定値にも各人により少からぬ
互の関連性について楡討を行った.その結果をFig.
差が見られる.今1950年以前のこの種の報告について表
に示した.本実験の被嶮者年令並びに部位は次の如くで
示すると次のようである(表1).
ある.
表1
報 告 者
1950年以前に於ける皮膚PHに関する報告
年 代
測 定 方 法
pH 値
Sharlit-Sheer幻
1923
比 色 法
5.4∼5.6
BrilP"!
1928
比 色 法
6.0・ヽ-7.0
Shade-Marchionini''
1928
electrometric method (gas chain)
Lustig-Peruts"'
1930
Levin-Silvers'"'
1932
Blank"'
1939
Beckman pH meter
Koch='
1939
electrode
Schmidf"
1941
Draize"'
1942
Wohnlich'≪'
1949
Wulf ind cator foil
michrochinhydrone
electrode
chin hydrone electrode
glasselectrode
chinhydrone electrode
3.0∼5.0
5,3∼6.5
5.0∼5.3
$4.45 ♀5.15
5.0∼6.0
き4.5∼6.0♀5.0∼6.0
$4.85 ♀5.50
5.6∼7.0
15
昭和36年4月20貝
369
Fig。15.皮膚pHの連日的測定
S月 7a月‘
/∂2び27 24 万万27
28 50
I
2
3
4
5
78
9 10 n
12 14 15 15口掲19
男子23才∼3y才,女子16才∼27才
21 22 23 24 25 26日j
表2 女子年令別皮膚PH
測定部位 前腕屈側部(エーテル脱脂)
年 令
測定方法 硝子枠法
16∼19 20∼24 25∼29 30∼39 40∼54
本実験から男子の声平均値は常に女子のそれよりも酸
人 員
97
96
101
31
10
性側にあり,しかも雨者は大体平行関係を保っている・
PH平均値
5.38
5.37
5.34
5.41
5.67
興味のあることは皮膚pHは気温とは反比例の傾向を示
し,気温が上昇すると皮膚声は下降する.このことは
Fig. 16.女子335名皮膚pH分布図
は認められない.男女の平均値の差にっいてはBlank
-^
(1939)"'は0.5程度であるとし,畑(1968)
2Q ひ り∂ a
U-i
(1939)"'も指摘している.しかし潟度との関係
^2
Blank
%同様な
C-)
成績を出しているが未実験結果では約0.8を示した.
=N│
なお本測定での男子皮膚函値は4.8∼5.8,女子にお
-f︱
っては5.1∼5.9であった.
2. 女子の皮膚PH
16才∼54才の女子335名について測定して総平均値
して6.3r ( 4.7∼6,5)を得た.但しこの場合の測定法
は,汗の中に含まれる乳酸及びその塩類,
としては濾紙法を用いエーテル脱脂は行わなかった.測
amino
定部位は前腕屈側部である.
の皮脂についてはBlank
Blank
(1938)"∩よ同じ前
dicarboxylic
acid.角質のケラチン,それに皮脂等がある.こ
(1939)'",
Lincke (1949)'°'
腕屈側部で測定した女子呻平均値を5.15としているので
等は汗中の脂肪酸を溶剤で除去しても函には影響はない
われわれの測定値はこれとよく一致する.尚仝測定人員
と述べており, Fishberg-Bierman
335名のpH分布圖を作るとFig.
(1951)'", Diinner^^' C19B6), Rothman
16のようになり6.0∼
(1932)"', Vermeer・
(1954)"'等も
5.5を示すものが最も多いことを示している.更にこの
皮脂は皮膚声に関係のだいことを主張している.
測定値を年令別に集計すると表2に示す如くなり40才∼
われわれは皮膚表面脱脂が皮膚声にどのように影響ず
54才に於いて岬値が上昇する傾向がみられる.
るかを嶮討してみた.その結果を示すと次のようである,
3.皮膚pH測定に際して皮膚表面を脱脂する操作
(Fig.lr).
の影響
測定方法 硝子枠法
皮膚画を測定する直前にエーテル,時にはエーテルア
測定部位 前腕屈側部
ルコールで皮膚を拭去する方法か報告せられている.一
測定人員 男子28才∼87才,20名,女子16才∼27才.
般に皮膚俐に関員する因子として皐げられているものに
20名
日本皮膚科学会雑誌 第71巻 第4号
370
Fig. 17. 皮膚PHに対する脱脂操作の影響
Fig. 18, 性週期と皮膚pH
生理同暗日←
副0 卵昂
... lK
4 9乙 ひ
ij7>
us
54321
2 34
56
7∂引川印訓り引6
171819 202□Z
約1ヵ月間男女各20名について脱脂した場合と,脱脂
がら上昇してゆく.
tない場合の皮膚画を毎日測定し,各平均値をグラフで
Draize (1942)""もこの種の報告を二,三の例を挙げ
y示したものかFig.
て,月経第1週から第3週に亘りβの上昇かおり,第4
17であるが,これから理解されるよ
うに,脱脂操作は皮膚rilに極めて僅少の影響を呉えるに
週になると下降すると述べている.津田(1956)川は月
レ過ぎない.強いて云えば脱脂操作によって男女いずれの
経期間のpH変化を認めたが,畑(1958)19)は皮膚pHの変
1-場合にも僅かに酸性側に傾く.しかしこの場合単に脱脂
動は左程著しくないとしている.
鼎用のみの影響と考えるより物理的な清拭作用によって
5, 皮膚状態(所謂脂性,中性,乾性)と皮膚PH
.波脂以外の他の因子も取り除かれる可能性も大いに考慮
16才∼54才の女子580名について皮膚状態をアンケー
しなければならない.
トにより調査集計した.先ず年令別に脂性,中性,乾性
畑C1958)'"もこれと同様な実験を行い,エーテル拭
を分けてみると次のようである(表3).全員580名中,
去した場合と,しない場合を女子20名につき測定,別に
脂性の者は222名(37.9%).乾性は161名(27.4%)
磋異のかいことを報告している.
で,従来云われているように乾性が過半数を占めるとい
4.性週期と皮膚pH
うことなく,むしろ脂性,中性に較べて梢々少ない結果
女子の皮膚函に影響する因子として月経も数えられて
を示している.
やる.
次にこの全員の中から835名の皮膚函を測定し皮膚状
Blank
(1989)"'は5名の婦人について1ヵ月に
:亘る皿変化を記載している.われわれも16才∼賢才の女
態との関係を調べて見た.その結果を表4に示した.測
-子匍名につき約40日間連日皮膚岬を測定した.即ち各人
定方法としては濾紙法を用い脱脂は行わなかったがこの
の月経開始日を基点として,それぞれ前後に皿値を配列
三者の間には殆んど有意の差を認めなかった.
して平均値を算出した.その結果をFig.
安田(195T)""は皮膚状態即ち脂性,乾性等により皮
18に圖示した.
これによると皮膚俐は月経開始2日前から急降下を示
膚溺に差が生じ,脂性の者では酸性に傾くとしている
し,月経期間は下降状態を続け,終期には急上昇を示す
が,われわれの測定では皮膚状態と皮膚pHとの間には特
が一且叉下降し,それ以後は次の月経開始迄順次緩慢な
別の関連性は認められなかった.但しわれわれの測定は
昭和36年4月20日
371
表3 皮膚状態の年令別
と反対に皮膚障害の経験のある者は126名で,その皮膚
肖平均値は8.40であった.つまり皮膚障害を起し易い者
と健康者の皮膚μとの間には差異が認められなかった.
Anderson(1951)29)は子供の脂漏性皮膚炎の場合に
は全身において111が上昇するとし,
Rothman
(1954)"'
はこのpH上昇か脂漏の原因であるか否かは興味のあると
ころであり,今後研究すべき点であるとしている.
7.皮膚中和能の連日的測定
皮膚中和能に関する現在までの報告は陛述の如く多く
は間賦的測定法によったものである.しかし間歌的方法
では誤差を生じ易い欠点のあることは既に指摘した如く
である.これにかんがみわれわれは措続的な測定方法を
案出して中和能を測定嶮討した.
Fig.
19.男 25才
HCi
Poo
C3
i-<
表4 皮膚状態と皮膚PH
人員
pH平均値
脂性
中性
乾性
90
162
83
5.37
5,39
5.'38
右腕屈側部に於いて行?たものであり,乾性或は脂性と
Fig、20.男 24才
弱
いうのは通常顔面部の皮膚状態をいうのであるから,前
腕力11{値と顔面の状態とをそのまゝ比較することに多少
無理があるかも知れない.しかしAnderson(1951)29)等
,は乾性の皮膚は全身的にI)Hが上昇しており,・その理由と
7.0
して皮脂腺,或は汗腺の分泌が低減しているからである
.と述べている.
6. 皮膚障害を起し易い者の皮膚PH
6.Q
16才∼54才迄の女子について巫疹,尊麻疹,喘息等に
肩患経験の有無,漆類,機械油,ペンキ,化粧品等によ
る皮膚障害経験の有無等に関しアンケートを取って調査
’ ̄’ 7
2 3 45618
91a分
した.
先ず同一人の同一部位を連日的に測定しその結果を検
全員885名中全くこれ等の皮膚障害を認めない者は合
討した.その中から7例(男子2名,女子5名)を挙げ
計149名で,その皮膚声の平均値は5.35であった.これ
て示すとFig.
19, 20, 21, 22, 23, 24, 25である.但
日本皮膚科学会雑誌 第71巻 第4号
372
Fig. 24.女 20才
Fig. 21. 女H24才
A
7V
/ χ
/, ’χ
づ//
伺
12
/.りりjljj’
印
3 4!;δ7
2・34
5 67 8
Fig. 22.女 20才
削弱
a- oi
Fig. 25.女 24才
a.0
司
7。ひ
/
/
&)
(234
56・7
∂
I J・v −
│・2 34
567∂S
IQ分
Fig. 23.女 20才
し測定液はN/1,000
NaOH,
測定法としては濾紙法(脱
脂行わず),測定部位は前腕屈側部である.
rヽ、
PH
以上7例にっいての実験結果から皮膚中和能は同一
1ゝ
1 ゝ
収 X
人,同一場所に於いても連日少からぬ変動のあることが
知られた.更に皮膚声は男子よりも女子に於いて個人
M
差,日差が著しくRothman
(1954)"'も指摘している
ように環境,月経週期等により変動することが知られて
いるが,皮膚中和能も皮膚i)Hと同様に,或はそれ以上の
7ひ
個人差,日差があることを知った.われわれのこのよう
な測定報告は今迄の文献には見当らないが,末実験法に
よって皮膚中和能は常に一定しているものでぱないこと
を証明し得た.
9
8. 女子の皮膚中和能
5
16才∼54才迄の女子385名叱ついて測定した結果を総
昭和36年4月20日
373
Fig. 26. 女子335名皮膚中和能平均値
Fig. 27, 女子年令別皮膚中和能
詣
97名
96々
7旧ヶ
31ヶ
μ〕ク
拓∼
2卜
-
7。∂
印
`"`' 12J45&7∂S
7a分
た.
平均して圖示すると次のFig.26ヽどある.
測定方法 濾紙法
測定方法 濾紙法
測定液 N/1,000
測定部位 前腕屈側部
測定部位 前腕屈側部
測定液 N/1,000
NaOH
NaOH
女子7名についての測定結果はFig.
圖に示す如く実験結果はVermeer
hardt (1953)*', Schmidt
(1951)'^', Burck-
(1941)"等が述べている・よ
うに酸,アルカリいずれにせよこれ等のものか皮膚に接
28に示した.μ
測定の場合と同様に脱脂した場合の方が酸性側に傾く
か,その後のpH変化は脱脂した場合と,しない場合とぽ
中和経過か平行した.
した場合最初の5分間に最も中和能が強く現われること
を示している.更にわれわれの実験結果は酸,アルカ
Fig. 28.皮膚中和能測定前の脱脂操作の影響
は大体声11近くであるか,これか皮膚
に接した直後では平均7.5前後にまで急降下している.
試みに今N/lOO
NaOH
という濃い測定液を用いてセロ
8.0
ファン法で測定すると,最初俐約12を示すものか皮膚に
接した直後には平均8.7程度に降下し,
N/lOO HCl
の場合では平均3.2,
N/1,000 HCl,
2.1のものがそれぞれ
後前
N/1,000 NaOH
ヘドド
であることを示している.つまり測定液として使用した
・I/11−1
即効
リか皮膚に接した最初の時期が中和度合の最も大きい時
一凡先脂
−−一脱脂
7.0
j11111
4.6, 4.0になることを知った.
以上のように測定液が皮膚に接してから,4∼5分の
間に皮膚中和能は最も顕著にあらわれるが,それ以後は
6.0
極めて緩慢なものとなり測定液自身の経時的変化と区別
し難くなる.
勁
なおこの835名にっいての測定結果を年令別に集計し
てみるとFig.
12
3 4 5 6
2rとなり,中和能が最も高い20∼24才群
と最も低い40∼54才群との間には僅か0.5程度の差しか
Neuhavs
認められなかった.
されるとC0,の浸出か促進され,これか中和能を増大
9.皮膚中和能測定に際して皮膚表面を脱脂する操作
の影響
(1950)'",
Szakall
(1943)"'は皮膚が脱脂
するとし,vermeer(1950y)屯同様の見解を述べていヽ
る.又Fishberg-Bierman
8項で皮膚俐測定時に脱脂する場合の影響を嶮討した
Piper
(1943)"',
のと同様に,中和能測定の場合の脱脂の影響を轍討し
(1951)'^',
Szakall
(1932)"≒Jacobi
Burckhardt
(1951)">,
(1942)'≒,
Vermeer・
(1955)""等は中和能を司るものは主
日本皮膚科学会雑誌 第71巻 第4号
3?4
として汗の成分中の乳酸,若しくはそ:の塩類,雨性アミ
圃と殆んど同じ結果であり,この場合も健康者との間に
ノ酸等の水溶性物質と考えている.
差異を認めることか出来なかったL結局われわれが最初
エーテル脱脂操作の際にこれ等のものも或る程度拭去
予期したところの,皮膚障害を起しやすい者の中和能は
せられ,そのために中和能示減弱するということも考え
健康者に較べ低下しているのではないかとの推論は一路
られるがこれ等の機構にっいては結論するに尚詳細な実
否定される結果を得たことになった・
験を必要とする.
Fig. 30.貼布試験陽性者と健康者との皮膚
中和能
10.皮膚障害を起し易い者の中和能
皮膚疾患を有している者の中和能に関してはこれ迄種
あ
(1951)'町よ職業性
者者
性康
陽健
・々の報告かおる,例えばVermeer
-
潟疹の場合は健康なものよりも中和能が一定し底いと述
べ, Burckhardt
-一一
76名
詞9名
(1935)*'はアルカリ中和能の低い人は
接触皮膚炎に罹り易いと述べ,
Schmidt
(1941丿は渦
II!I・j
も減退していると述べている.
われわれは過去に於いて屡々皮膚障害を経瞼している
j11111J
7.0
疹,脂漏性皮膚炎では皮膚ガがアルカリ側にあり中和能
6。∂
者,つまり皮膚障害を起し易いと考えられる者の中和能
にっいて統計的に調査を行った.即ち6項(皮膚障害を
起し易い者の皮膚匪)で述べたと全く同様に全員335名
伺
にっいてのアンケート中,皮膚疾患の経験のない者を集
12
3 4 5、67
町
計すると149名であり,反対に化粧品等にかぶれた経蔵
n.石灰乳貼布試験陽性者の皮膚中和能測定
のある者唸126名であったか,この2つの群の中和能平
Burckhardt
均値を算出して較べて見るとFig.
ルカリ中和能が弱いことを石灰乳貼布試験から実証を拳
29のようになった.
(1935)'言よアルカリ感受性の強い者はア
Fig. 29.皮膚障害を起し易い者と健康者と
げている.
の皮膚中和能
われわれもこれに倣い80%石灰乳貼布試験を女子166
名の前腕屈側部に施行したところ,24時間後陽性と認め
あ
た者10名(6.4%)-一一その後524名に施行して陽性者
一皮膚陣害を起し
やすい者 725名
21名(4.0%)-であった.この陽性者10名について
--一健康t
陽性と判定直後濾紙法により皮膚中和能を測定した(表
H9名
5).この平均値を出して健康者の中和能と比較すると
7。∂
Fig. 81となる.
これで見ると貼布試験陽性者は健康者に較べて明ら
かに中和能か滅弱レCおり,叉皮膚溺も僅かなから上
昇している. これ等の成績はBurckhardt
Vermeer
(1935)"',
(1951)"'等の説とよく一致し,アルカリ感受
性の強い者はアルカリ中和能が減弱しているということ
`’ ̄`’ 1 2345G789
10分
即ち皮膚疾患の饒往のないものと,皮膚障害を起し易
を証明している.ところがこの10名の陽性者について以
前測定した中和能の値を調べると表6に示した如くな
いものとの閲には中和能力に特別の差は認められなかっ
り,この平均値を健康者の中和能と比較して圖示すると
た.その後この335名について種々の化粧品原料,或は
Fig. 82の如くなって健康者との間に差異か認められな
試作品の貼布試験を施行したが,これに対し陽性を示し
い. Fig. 31の場合には健康者との間に差が著明に現わ
た者ぱ76名あった.この76名について先に測定した中和
れ.Fig. 82の場合には差が現われていないということは
能値を集計して平均値を出しFig.
29 の場合と同様健康
同一人にっいての測定値は時期によって著しく動揺する
者の中和能と比較してみるとFig.
80となる.つまり前
ことを示している.前述の連日的中和能の測定結果に於
昭和36年4月20日
375
表5
石灰乳パッチテスト陽性者の皮膚中和胞
氏 名
皮膚PH
直後
1分
2
3
6
7
8
9
10分
酒○き○
5.69
7.60
6. a6
6.76
6.61
6.54
6.43
5
6.38
6.31
6.29
6.29
6.23
石○弘○
5.73
9.83
9.19
8.48
8.03
7.70
7.50
7.24
7.10
6.91
6.91
6.肘
猪○照○
5.81
9.39
9.10
8.49
7.80
6.93
6.70
6.72
6.63
6.60
6、60
6.60
犬○静○
6.30
9.91
8.89
8.30
7.90
7.61
7.31
7.19
7.01
6.89
6.80
6.78
日○富○
5.94
9.40
8.59
8.13
7.69
7.32
7.13
7.00
6.98
6.91
6.91
6.99
島○玲○
5.90
8.23
7.80
7.13
6.70
6.6S
6.56
6.56
6.54
6.52
6.50
6.50
篠○多○
6.16
9.00
8.12
7.52
7.10
6.91
6.78
6.70
6.70
6.67
6.60
6.60
4
篠○春○
6.69
9.78
9.53
9.16
8.69
8.33
7.98
7.63
7.43
7.26
7.06
7.08
村○保O
5.49
8.91
8.21
7-.69
7.24
6.96
6.80
6.67
6.60
6.60
6.60
6.61
宇○ミ○
5.56
9.19
8.70
8.21
7.78
7.46
7.21
7.06
6.96
6.95
6.90
6.83
Fig. 31.貼布試験陽性直後の皮膚中和能と
Fig. 32.貼布試験陽性者の過去に於いて測定し
健康者の皮膚中和能
た皮膚中和能と健康者の皮膚中和能
II∼
ハ
ー
Iーーー
き
fpH
仰
PH
助
一一健康着
--一筒性看
一健康者
--一陽性者
X
ノー
χ
7.0
χ
\
\
ゝ
]L
&り
///
J・り ’ 1 2
3 4 5 6 7
8 9
10^
が示された.したがって皮膚中和能と皮膚疾患の因果関
5,0
12
3 4 5^7∂9旧分
係を論ずる場合にはその都度測定した数値で半U断されな
町ヽて屯同一個人について皮膚中和能は一定値か得られた
ければ意味かないといい得る. しかし中和能か減弱した
かことを示したが,本実験に於いても明らかにこのこと
から皮膚障害を起したのか,皮膚障害か起きたから中和
表6 石灰乳貼布試験陽性者の過去に於いて測定した皮膚中和能
4
5
7
9
10分
5.64
5.63
5.63
5.62
5.62
5.62
直後
1分
2
酒○きO
5.48
B. 70
6.02
5.78
5.78
5.73
5.73
5.73
5.64
石○弘○ ヽ
5.57
6.62・
5.93
5.88
5.74
5.70
5.69
5.66
5.62
猪○照○
大○静O
5.79
6.71
6.52
6.21
6.19
6.13
6.13
6.10
6.00
6.00
6.00
6.00
6.00
6.79
6.60
6.47
6.41
5.50
5.49
5.33
5.33
5.21
5.25
5.25
目○富○
5.09
8.00
7.31
6.82
6.51
6.37
6.37
6.19
6.19
6.19
6.10
6.10
島○玲○
篠○多O
篠○春○
村○保○
5.40
6.70
6.10
5.80
5.61
5.60
5.60
5.57
5.57
5.57
5.56
5.50
5.80
5.80
宇○ミO
3
6
皮膚PH
氏 名
8
5.30
6.50
5.98
5.82
5.82
5.80
5.80
5.80
5.80
5.80
5.79
7.39
6.40
5,肘
5.78
5.70
5.66
5.61
5.60
5.60
5.53
5.53
5.62
5.60
5.50
5.50
5.50
5.50
7.09
6.97
6.97
6.89
6.89
5.21
5.42
6.90
9.50
6.22
8.79
5.80
8.11
5.70
7.70
5.67
7.40
7.12
日本皮膚科学会雑誌 第71巻 第4号
376
Fig. 34.皮膚中和能に対する季節の影響
能が低くなつたのか,その因果関係を決定することは非
常に困難であると思われる.
12.皮膚状態と皮膚中和能
5項で述べたと同様に16才∼54才の女子335名につい
てその皮膚状態をアンケートにより調査し,これを脂
性y中性,乾性の8種に分類した.次に各人の中和能を
測定(濾紙法)してそれぞれの平均値を算出し,皮膚状
態と皮膚中和能との間に何等かの関連性かおるか否かを
嶮討した.その結果をFig.
83
に示したにれから判るように皮膚状態の途いにより皮膚中和能
に差が生ずるということは認められない.但しここで取
Fig.
33.皮膚状態と皮膚中和能
PH
∂
0
行った測定値とを比較してみた.モの結果をFig.
.
34に
示した.この圖が示すように夏季に行った測定値はいず
れも男女とも増大していた.因みに皮膚俐の方は殆んど
7.0
差異が認められなかった.
14.皮膚中和能の簡易測定法
われわれがこれ迄皮膚中和能を測定した結果をグラフ
6.0
の上で観察してみると,測定開始直後からの経時的変化
は常に拠物線状の下降型を示している.そして測定開姶
直後の値が高い場合には測定終了時迄比較的高いま斗こ
7
45
り
分
経過し,逆に開始直後の値が低けれぱ測定終了時まで比
較的低いま肩こ経過している.
り上げた脂性,中性等の区別は自覚的な感覚から一般に
即ち測定開始直後の値を起点として中和能曲線は殆ん・
いわれている区別であって,別に科学的測定法によった
ど平行関係を呈していることを知った.したがって皮膚
ものではなく,叉前記皮膚状態と皮膚ガの項で述べた様
中和能の強弱は,われわれの行った測定方法によれば,
にわれわれこの測定は顔面部の皮膚状態と前腕部の中和
測定直後の値を知るだけで仝況を窺い知ることか可能で
能との比較であることも考慮に入れておかなければなら
あると考えられる.
ない.
この想定を裏付ける意味で次のような蛾討を行ってみ.
13.皮膚中和能測定に際しての季節の影響
た.つまり中和能を測定した335名の女子につき,各々・
皮膚中和能の主体となる令のにっいては種々論議され
の中和能値を測定開始直後の数値によってほぼ6等分
ているが,汗か大きい役割を演じていることには異論は
し,各群の平均値を算出すると表7となった.
ないようである. Wohnlich(1949)'°', VermeerC1951門,
更にこの表を圖で示すとFig.
畑(1958)サ等は発汗を阻止すると中和能は減退す
6本の曲線は殆んど平行関係を保って下降するから中和
ることを報じ,
能の強弱を知るには,測定直後の値を知ればその大略が
Robert-Jaddon
(1942)", Burckhardt
(1947)2o)等は汗の分泌か多くなれば中和能も増大する
と述べている.したがってわれわれの測定はすべて発汗
の多い夏季を避けて行った.しかしながら夏季の測定が
果してどの程度測定値に影響するかを調べてみた.
35の如くになる.即ち・
想像出来ると思われる.われわれと同じよ引こ楷続的測
定法で中和能測定を行ったKoch(1939)"の実験では冊
名について5分毎に測定,30分間の嶮査を行って,その
結果中和能の強弱を8本の経過曲線によって区別してい
乱この場合の経過曲線を見ても最も中和能の強いも○
即ち男子8名,女子10名について8月末から4月にか
は測定開始直後でも函値が一番酸性側にあり,中和能の
けて行った中和能測定値と,同一人について同年7月に
弱いもの程測定開始直後のliH値がアルカリ側にある.だ
昭和36年4月20日
377
表7
1
測定開始
皮膚田
直後PH値
5.29∼6.29 5.19
2
6.30∼6.79
群
3
6. so∼7.29
4
7.30∼7.匿
5
8.00∼9.K
9.20∼9.90
'1 6
5.43
女子335名6群の皮膚中和能平均値
人員
直後
1分
3
4
5
6
7
8
54
5.89
5.56
5.40
5.35
5.33
5.33
5.32
5.肌
5.31
5.30
5.30
55
6.52
6.00
5.76
5.67
5.61
5.58
5.57
5.55
5.54
5.53
5.33
2
9
10分後
56
7.01
6.29
5.98
5.85
5.82
5.78
5.76
5.75
5.73
5.72
5.72
61
7.61
6ゴ4
6.29
6.08
6.01
5.98
5.93
5.91
5.89
5.87
5.85
5.41
56
8.61
7.72
7.08
6.74
6.54
6.40
6.31
6.26
6.21
6,18
6.16
5.33
53
9.54
8.87
8.19
7、69
7、?0
7.07
6.89
6.77
6.刀
6.64
6、51
5.47
一一
5.36
Fig. 35. 女子335名6群の皮膚中和能
15.化粧品類と皮膚中和能
化粧品,石鹸及び洗剤類を使用した場合の皮膚の中和
能度を調べてみた.試料としてはW/○型クリーム7
種,
0/W型クリーム10種,乳液4種,ローション13
種,水白粉1種,石鹸9種,シャンプー2種,洗剤8
種,合計49種について測定した.
励
測定方法としては前腕屈側部をエーテルで拭去した後
試料(石鹸,洗剤は1%液)をガラス棒で塗布し,更に
70
0.05CCのイオン交換水を添加しTセロファン法で測定し
陽
尚水測定には今迄行って来た織続的測定法とは違っ
行三1
励
た.
て80分後,60分後の測定値を間賦的に記録嶮討した.測
定結果を表8,9,10に示した.因みに各測定値は8例の
平均値で示した.
以上の表から判ることは,化粧品類はたとえ製品自身
のpHが比較的高いものでも,1時間以内には殆んど皆正
4.0
譜
剽
常声近くまで中和されてしまうことである.た2例外と
して水白粉類は比較的長時間に亘りアルカリ性を保って
ぶBurckhardt
(1947)'°'の報告によると757名の健康
人の中19%か中和能の減退を認めたという.一方われわ
,れの実験結果即ちFig.
,表8 石鹸,洗剤類と皮膚中和能
製品PH
類別
81 に示した石灰乳貼布試験陽性
皮膚
直後
㈲
30分
60分
後
後
7.10
6.28
1
10.52 5.56 8.03
2
10.57 5.43 7.98 7.12 6.34
の曲線とは,測定開始直後及び終了時の数値は共によく
3
10.58 5.63 7.92 6.38 6.44
瀕似し,雨者は同じ範喘に莫する群であると考えてよい
4
10. 60 5.74 7.82 6.97 7.18
5
10.60 5.86 8.40
]対する比率は16%を示した.
6
10.60
Burckhardt
7
10.61 5.98 7.76 7.30
6.88
8
10.25 5.99 7.86 7.08
6.80
者の中和能曲線と,
Fig. 85に示した最も中和能の弱い群
ことになる.この群に属するものの数の被嶮者全体数に
石鹸類
C194T戸トも同様の数値を発表しており
オ)れわれの突験結果とよく符合する.したがってFig.
'9
,35の最上段に示すような中和能を示す者は一庖アルカリ
仁対して障害を惹起する可能性のあるものと考えてよい
ことになる.
シヤンプ
一類
以上の実験から皮膚中和能は測定開始直後の数値を知
れば充分その皮膚部位に於ける中和能を知り得ることを
証し得た.
洗剤類
1
2
7.89 6.59
5.78 8.25 7.67 7.38
10.30 5.87 8.15 7.16 6.35
8.8] 5.84 6.23 6. 12 6. OS
5.35 5.78 6.11 5.98 6.44
1
10. 35 6.10
8.99 8.53 7.U
2
10.74 6.07
9.30
3
8.21 r.77
8.05 5.95 6.14 5.97 6.14
378
日本皮膚科学会雑誌 第71巻 第4号
時間がかかっている.このことは例外なく明らかに示さ
表9 クリーム類と皮膚中和能
類別
1
W/o型
クリーム
類
5、46 4.71 4.75
2
5.04
3
5.69 5、70
4
5.05
5
5.41 5.94 5.72 5.84
6.09
5.83
5、86 4.96 5.09
5.36 5.43 5,69
れている.皮膚障害を惹起する頻度から考えてもこのこ
とはよく肯けることである.尚叉全測定中ただ1例洗剤
N0.2 が測定開始直後の値が9.3という高い値を示し
た.この場合には被嶮者がアルカリ製品に対して皮膚障
害を惹起する可能性のあるものと考えてよいであろう.
IV 結 論.
石
5.80
7
5.51 6.41 5.59 5.88
極と皮膚との接触度によって測定値か著しく変動するこ
8
5.04
7.ユ3 5.43 5.54
とを知った. したがって長時間に亘る間歌的測定法で
9
1
O/W型
クリーム
類
30分
60分
製品 皮膚
直後 後
後
PH
PH
5.42 5.56 5.45 5.26
4.61 6.23 5バ8 4.80
6.93 5.25 6.13 5.33 5.25
1.電極使用による皮膚中和能の測定に於いては,電
は,測定値に大きな誤差が生ずる恐れのあることを指摘
した.われわれはこの誤差を極力避けるために簡便な装
2
6.63 5.04 5.96 5.52
3
7.55 5.05
4
7.79 5.77 7.09
5
6.99 5.72 6.32 5.81 5.97
6
5.80
7
7.48 5.72 6.16 5.75 5.64
係であった.女子は男子よりも皮膚pH値か高く平均5.37
8
5.29 5.85 5.96 5.80
(4.7∼6.5)であった.
5.80
5.02
6.87 5.73 6.n
6.46 5.79
5.69 5.51 5.60
5.82
置を考案して楷続的測定を行った.
2.中和能測定法としては濾紙法(傲語)か最も安定
したものであることを示した.
8.皮膚声は気温と反比例して上下し,温度とは無関
4.測定前に皮膚を脱脂すると皮膚声値は酸性に便
表10 乳液・ローショソ類と皮膚中和能
類別
1
乳液類
2
3
30分 60分
製品 皮膚
直後 後
後
PH
PH
8,36 4.54 7.03 6.07 5.40
8.38 4.54 7.15 6.06 5.90
一一
8.26 4.61 7.31 5.67 5.24
4 3.66 5.83 4.69 4.98 4.95
ローショ
ン類
水白粉類
1
3.40
2
5.10
3
4
3.55 5.91 5.75 5.77 5.68
4.29 5.25 5.工4 −
5.28 4.83
5
5.04
5.04
6
11.92
5.33 8.16 5.88 5.59
7
2.14 5.33 2.44 4.26 4.24
8
6.41 5.65 5.93 5.70
9
2.45 5.58 4.25 4.73 5.05
4.96 4.97 4.96 5.11
4.96 5.45 5.65 5.44
4.95 4.85 4.71
5.59
10
4.04
11
7.55 5.61 6.68 6.28 6.29
12
3.20
13
8.45 5.88 7.86 7.02
6.87
5.83 8.65 8.40
7.45
1
9.08
5.30
5.19 5.22 5.23
5.61 4.97 5.31 5.23
き,中和能も強くなる傾向か見られた.
5.月経前後に於いて皮膚声は降下することを示し
た.
6.顔面皮膚状態と前腕部の皮膚岬及び中和能との阻
には全く関聯性のだいことを示した.
7. 皮膚巾和能は最初の5分間に最も強く現われ,そ
れ以後は極めて徐々に行われることを知った.
8. 皮膚中和能は環境,生理状態等により変動する.
接触皮膚炎を起し易い者必ずしもアルカリ中和能が波
弱してはいないか,接触皮膚炎を起した直後にあっては
アルカリ中和能が減弱していたしかし皮膚炎との因果
関係にっいては今後の嶮討に侯たねぼならない.
9,夏季には皮膚中和能は増強す乱
10,皮膚中和能を短時間内に窺い知る法として簡易測
定法を案出した.
11.化粧品類を皮膚に使用した場合殆んどのものは一
時間以内に正常皮膚溺近くまで中和される.化粧品類の
中では石鹸,洗剤類は中和に比較的長時間を要した.
いる.これはも粉類が塩基性の無機粉末を多量に含有す
稿を終るに臨み御指導,御校閲を添うした資生堂化学
るためであり,実際上他の化粧品に較べて皮膚障害を起
研究所福原イ言和所長,同顧問池出鉄作博士並びに東京逓
し易い性質のものである.
信病院小堀仮治博士,東京警察病院大森清一博士に満腔
石鹸,洗剤類は化粧品に較べると製品自身の幽値も高
の謝意を表する.
いか,中和されて正常皮膚111近くまでになるには相当の
昭和36年4月20日
379
ABSTRACT
By the use of Beckman
G-type pH meter we
izing ability on the flexor surface of the forearm
and
obtained
made a study of the dermal
chiefly with a N/1,000 NaOH
neutralsolution
the following results.
1) We knew that depending upon the degree of contact between the electrode and
skin the value by measurement
is subject to marked
fluctuations. Aecordingly,
we
pointed
out
that in
the intermittent
a great error being made
best of our power,
ment.
measurement
in the measured
we devised a simple
value.
apparatus
hours
there is fear of
In order to evade
for many
the error to the
and conducted a continuous
measure-
2) It was
shown that
in the measurement
of the dermal PH and neutralizingability a method to instilla solution to be measured
on a piece of filterpaper on the
skin with
an electrode placed on it is the most
3) The
dermal PH went
stable one.
up and down in inverse proportion
temperature
and had no bearing on humidity.
The dermal
females than in males, being 5.37 (4.7∼6.5) on an average.
4) Removal
the
dermal
of fat from
pH
value
PH value was
the skin prior to measurement
toward
acidity, and there
to atmospheric
higher
in
led to the inclination of’
was a tender!cy of the neutralizing:
ability to be intensified.
5) Fall 0f the dermal
6) It was
also made
est appearance within
pH
value was
known
the
exhibited before and
that the dermal
first 5 minutes,
neutralizing
and the subsequent
extremely gradually・ 1
7) The dermal neutralizing ability fluctuates according
ical conditions and so
in persons
The
ones take place・
to environment,
alkali-neutralizing ability was
8)‘It
was
that there was no
facial skin conditions
dryness and neutrality)
PH
Dermal neutralizing abilityi!1 persons who
showed positive reaction with lime milk
patch test as well as in healthy persons
(N/1,000 NaOH
solution was used).
削弱
dermal
immediately・
of contact dermatitis.
shown
correlation between
(greasiness,
physiolog-
not necessarily abated
susceptible to contact dermatitis, but the ability was weakened
after appearance
and
on.
after menstruation.
ability n!akes its strong-
as well as neutralizing
ぺ ―
ability on the forearms。
Healthttp://www..’一一Person
who
y posltire
j 9) As a method to measure
the
’ x it□ime
showed
Reaction
niiik
X patch・test.
time,
was
ability in a short
11
dermal neutralizing
χ
&0
χ
\
a simple measurement method
\
devised.
∇ 10) Almost
all of cosmetics
to the skin are neutralized
applied
within one
hour close to the normal skin pH.
However,
soaps and cleansers
comparatively
zation.
long
hours
カ
伺
required
for neutrali邱
23456789
10
380
日本皮膚科学会雑誌 第71巷 第4号
文
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Fly UP