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藻類 (1)調査概要 (2)
2.藻類 (1)調査概要 藻 1)調査方法 類 海藻類については、初版 RDB (1998)発行後、大規模な調査は行うことができず、RL (2004) の踏襲にとどまった。顕微鏡的な微小藻類を除き、肉眼的な大きさの植物を調査対象とし、 「 日本海藻誌」 「 新日本海藻誌」 に記載されていて本県が分布域に入っている種、および 2、3の 研究報告で県内産として取り上げられた種について、まず海藻の一覧表を作成した。それら のうち、産出が稀、きわめて稀と記載された種や、水産資源保護協会の「 日本の希少な野生水 生生物に関する基礎資料」および環境省のレッドデータブック(2007年改訂追加版)で希少 な種として記載されている種を参考にして、調査候補種を選定した。 淡水藻類については、県内の産地が国の天然記念物に指定されている 3種と、分布が全国 的に局限された 5種を調査対象とした。 なお、産地情報については、現地調査のみを採用した。 2)調査結果の概要 県内に産する海藻は、緑藻植物 43種、褐藻植物 66種、紅藻植物 153種の、計 262種が確 認されている。これらのうち、紅藻アサクサノリを絶滅危惧Ⅰ A類(CR)とし、緑藻ホソエ ガサ、紅藻イチマツノリ、アマクサキリンサイなど 5種を情報不足種と判断した。 県下の淡水藻については、初版 RDB発行後調査が進められており、今回の調査では、藍藻 スイゼンジノリ、紅藻オキチモズクを絶滅危惧Ⅰ A類(CR)に、紅藻チスジノリを絶滅危惧 Ⅰ B類(EN)、紅藻オオイシソウを絶滅危惧Ⅱ類(VU)、紅藻チャイロカワモズクと紅藻ア オカワモズクを準絶滅危惧(NT) 、藍藻カワタケ(アシツキ)と緑藻カワノリを情報不足(DD) に該当するとみなした。 3)今後の課題 検討委員が県外在住のために、海藻については生育の現地確認が十分できないままであ り、情報収集不足は否めない。さらなる情報を収集する必要がある。一方、淡水藻について は、県内在住の調査員の加入もあって生育情報も収集できて、より生育状況に則した報告が できたと思われる。 (2)種の解説 絶滅危惧Ⅰ A類から情報不足までのランクに位置づけた 14種について、以下で解説する。 232 絶滅危惧Ⅰ A類(CR) 淡水藻クロオコックス科 スイゼンジノリ Ap ha no t he c es a c r um ( Sur i ng a r )Oka da カテゴ リー 環境省 絶滅危惧Ⅰ類 水産庁 絶滅危惧種 IUCN 関 係 法 令 文化財保護法(天然記念物) (上江津湖) 選 定 理 由 県特産、全国局限、県内局限、近年減少、 地域的孤立・希少 生 育 環 境 清澄な湧水の池、流失を防ぐ水草が適当に生えている場 所 生 育 状 況 自生地は熊本市上江津湖、養殖場は上益城郡嘉島町およ び福岡県朝倉市(旧甘木市)にある。上江津湖では、金 網で囲まれた一角で、流失防止と水量確保のためのブ ロック仕切りの保護のもとに細々と生き延びている。 減少の要因 水質汚濁、その他(渇水、増水) 特 記 事 項 藍藻。外形は円形または円形に近い不定形の平たい群体 をなし、その寒天質の内部には繭状の小細胞が密に散在 する。色は暗緑色~緑褐色。近年、この藻から吸水高分 子「サクラン」が発見されている。 藻 類 絶滅危惧Ⅰ A類(CR) 淡水藻チスジノリ科 選 定 理 由 全国局限、県内局限、近年減少、地域的孤立・希少 オキチモズク 生 育 環 境 湧水の流れ、あるいは河川上流の清澄な場所で、日陰の 石やコンクリート側壁など 生 育 状 況 阿蘇郡南小国町、菊池市の産地とも生育株数は 100株程 度で、熊本市加勢川では 500株以上、人吉市、球磨郡錦 町の生育地では 1000株以上がみられる。生育株数や株 の大きさは、年により異なる。 減少の要因 河川改修、水質汚濁、その他(渇水) 特 記 事 項 紅藻。体はひも状の分枝体で、長さは 30~ 40c m、長い ものは 1m。太さは径 0. 5~ 0. 8mm、枝の先は徐々に細く なる。長く伸びた 1本の主軸から互生、偏生した側枝を 出す。色は暗紅色で乾燥すると黒くなる。県内数カ所に 移植されている。 Ne ma l i o no p s i st o r t uo s a Ya ne dae tYa g i カテゴ リー 環境省 絶滅危惧Ⅰ類 水産庁 絶滅危惧種 IUCN 関 係 法 令 文化財保護法(天然記念物) (南小国町志津川) 絶滅危惧Ⅰ A類(CR) 海藻ウシケノリ科 選 定 理 由 全国局限、県内局限、特殊生息生育環境、近年減少、 地域的孤立・希少 アサクサノリ 生 育 環 境 内湾の潮間帯、木や流木上 生 育 状 況 天草下島(羊角湾)の干潟で、半ば埋もれた木片や竹な どに主に着生しており、株数は少ないながら毎年発生が 見られる。 減少の要因 海辺の改変等、埋め立て、水質汚濁 特 記 事 項 紅藻アマノリ属の 1種。体は 1層の細胞からなる膜状で、 形は笹葉状をなし、長さ 20~ 25c m、幅 2~ 3c m。色は 紅紫色~黒紫色である。昔から広く養殖されていたが、 現在は他種が養殖品種にされており、本種は全国的に希 少。 Po r p hy r at e ne r aKj e l l ma n カテゴ リー 環境省 絶滅危惧Ⅰ類 水産庁 絶滅危惧種 IUCN 関 係 法 令 233 絶滅危惧Ⅰ B類(EN) 藻 淡水藻チスジノリ科 選 定 理 由 県特産、全国局限、県内局限、近年減少、 地域的孤立・希少 チスジノリ 生 育 環 境 河川の中流域にあり、水量が安定し、かなりの流速があ る場所。冬期水温が極度に低下しない所 生 育 状 況 山鹿市菊池川の産地で 100~ 300株、球磨郡錦町球磨川 で 1000株前後が生育する。生育株数や株の大きさは、年 により異なる。上益城郡嘉島町矢形川、熊本市秋津川に も生育。 減少の要因 河川改修、水質汚濁 特 記 事 項 紅藻。体はひも状で、基部から伸び、数本の主軸から多 数の羽状枝が出る。主軸長は 20~ 100c mで、太さは、 0. 8~ 1. 5mm。体構造は皮層の同化糸と内部の髄糸より なり、色は暗紅紫色~黒褐色。 Tho r e ao k a d a eYa ma da 類 カテゴ リー 環境省 絶滅危惧Ⅰ類 水産庁 危急種 IUCN 関 係 法 令 文化財保護法(天然記念物) 絶滅危惧Ⅱ類(VU) 淡水藻オオイシソウ科 選 定 理 由 全国局限、県内局限、地域的孤立・希少 オオイシソウ 生 育 環 境 河川の中流域や河口付近に生育。よく日光のあたる河底 の石や水草に着生 生 育 状 況 阿蘇郡南小国町志津川、上益城郡嘉島町矢形川で、小範 囲の場所の水草上に 1000個体以上が生育。 減少の要因 河川改修、農薬使用、水質汚濁 特 記 事 項 紅藻。体はひも状の分枝体で、高さ 20~ 30c m、もろく 切れやすい。色は緑色~灰緑色。枝は偏生で互生する。 単胞子による無性生殖しか知られていない。 Co mp s o p o g o nc o e r ul e us ( Ba l bi s )Mo nt a g ne カテゴ リー 環境省 絶滅危惧Ⅱ類 水産庁 危急種 IUCN 関 係 法 令 準絶滅危惧(NT) 淡水藻カワモズク科 選 定 理 由 近年減少 チャイロカワモズク 生 育 環 境 平野の河岸湧水、湧水からの灌漑用水路など、周囲の水 温より高温の清冽な流水(例えば 14℃) 生 育 状 況 平野の湧水灌漑用水路など、汚染されていない清浄な流 水の浅い場所に生育する。生育の最盛期は 11月から 4月 で、水路の壁や川底の砂礫や石、水草などに付着してい る。 減少の要因 河川改修、農薬使用、水質汚濁 特 記 事 項 紅藻。色は茶色で、長さ 2~ 10c m。果胞子体は輪生枝叢 の縁に散在する。北海道から 九州までの各地に分布す る。体は極めて粘質に富み、海産のモズク類のようにぬ るぬるしている。 Ba t r a c ho s p e r mum a r c ua t umKy l i n カテゴ リー 環境省 準絶滅危惧 水産庁 IUCN 関 係 法 令 234 準絶滅危惧(NT) 淡水藻カワモズク科 選 定 理 由 近年減少 アオカワモズク 生 育 環 境 きれいな水の流れる小川 生 育 状 況 平野の湧水灌漑用水路など、汚染されていない清浄な流 水の浅い場所に生育する。生育の最盛期は 11月から 4月 で、水路の壁や川底の砂礫や石に付着している。 減少の要因 河川改修、農薬使用、水質汚濁 特 記 事 項 紅藻。色は緑色~青緑色。よく分枝し、長さ6~ 11c mに なる。果胞子体は中軸に接して形成される。北海道から 沖縄までの各地に分布する。体は極めて粘質に富み、海 産のモズク類のようにぬるぬるしている。 Ba t r a c ho s p e r mum he l mi nt ho s umBo r y カテゴ リー 環境省 準絶滅危惧 水産庁 IUCN 関 係 法 令 藻 類 情報不足(DD) 淡水藻ネンジュモ科 選 定 理 由 全国局限、県内局限、近年減少 カワタケ 生 育 環 境 渓流の石やコンクリート上。着生面に土砂が沈着しない ことが必要 生 育 状 況 菊池郡大津町矢護川、阿蘇市一の宮町宮川や阿蘇郡南小 国町馬場川で、岩やコンクリート堰の側壁に付着して生 育。各産地での生育数はご く少数である。 減少の要因 河川改修、水質汚濁、その他(渇水) 特 記 事 項 藍藻。細胞は寒天質の粘塊中で、数珠状に連なり、水中 で粘塊をなす。体は初め球形または半球型で、後に不定 形に広がり、瘤状のふくらみの集団となる。大きさは径 5~ 7c mで、色は暗褐色~緑褐色で、堅い外皮に包まれ る。 No s t o cv e r r uc o s umVa uc he r カテゴ リー 環境省 水産庁 IUCN 関 係 法 令 情報不足(DD) 淡水藻カワノリ科 選 定 理 由 県内局限、近年減少、地域的孤立・希少 カワノリ 生 育 環 境 河川最上流の清流で、急流の岩盤や石の斜面上 生 育 状 況 南小国町馬場川、一の宮町宮川や緑川、球磨川の支流数 河川の上流に少量が産する 減少の要因 森林伐採、水質汚濁 特 記 事 項 緑藻。鮮緑色のきれいな葉状藻類。葉体長は 3~ 20c m、 幅は 1~ 4c m。外形は卵形、笹葉状をなし、急流に生育 するので、葉が裂けた個体が多い。細胞は 4個ずつ群を なし、細胞内の葉緑体は星状をなす。春~夏に繁茂し、 冬は消失する。 Pr a s i o l aj a p o ni c aYa t a be カテゴ リー 環境省 絶滅危惧Ⅱ類 水産庁 希少種 IUCN 関 係 法 令 235 情報不足(DD) 藻 海藻カサノリ科 選 定 理 由 全国局限、県内局限、近年減少、地域的孤立・希少 ホソエガサ 生 育 環 境 潮下帯の貝殻上 生 育 状 況 天草下島北西部の沿岸にみられる。国内では、九州北 部、能登半島で稀に見られる程度に減少。 減少の要因 海辺の改変等、水質汚濁 特 記 事 項 緑藻。体は傘を開いた形に似ており、体全体に石灰質が うす く沈 着し て いる。高 さ 4~ 6c m、傘 の 直 径 0. 4~ 0. 6c m。同属のカサノリに似るが、傘の直径がカサノリ の約 1c mに比べて小さい。 Ac e t a b ur a r i ac a l i c ul us La mo ur o ux 類 カテゴ リー 環境省 絶滅危惧Ⅰ類 水産庁 絶滅危惧種 IUCN 関 係 法 令 情報不足(DD) 海藻ウシケノリ科 選 定 理 由 全国局限、県内局限、近年減少、地域的孤立・希少 イチマツノリ 生 育 環 境 外洋、潮間帯中下部の岩上 生 育 状 況 大矢野島宮津湾では、約 100mの範囲に自生しており、群 落の個体数は 50~ 100株程度である。県外では島原半島 南東部に生育する。 減少の要因 土地造成、海辺の改変等、その他(土砂の流入) 特 記 事 項 紅藻。体は 1層の細胞の葉状体で、外形は円形、腎臓型 をなし、大きさは直径 10~ 15c mで、色は緑紫色を呈す る。雌雄の生殖細胞群の模様が市松かすり状をなす。本 種は外形が丸葉形や葉体が厚く緑色を帯びることなど で、他のアマノリ類と比較的容易に識別できる。 Po r p hy r as e r i a t aKj e l l ma n カテゴ リー 環境省 水産庁 絶滅危惧種 IUCN 関 係 法 令 情報不足(DD) 海藻ミリン科 選 定 理 由 全国局限、県内局限 アマクサキリンサイ 生 育 環 境 外洋、潮下帯の岩上 生 育 状 況 天草下島南部。九州西岸の熊本県、鹿児島県のご く限ら れた場所に生育。昔は天草で食用として採藻、販売され ていたが、現在では採取する程の産出はない。 減少の要因 海辺の改変等、水質汚濁、その他(磯やけ) 特 記 事 項 紅藻。藻体は円柱状またはやや平たく、幅は 0. 3~ 0. 7c m で高さは 10~ 20c m。体の両側に対生した羽状の尖った 枝を出す。質は多肉で軟骨質。同属のキリンサイは、幅 が 0. 2~ 0. 3c mで細く、トゲキリンサイは硬く小型であ る。 Euc he umaa ma k us a e ns e Oka mur a カテゴ リー 環境省 準絶滅危惧 水産庁 IUCN 関 係 法 令 236 情報不足(DD) 海藻ムチモ科 選 定 理 由 全国局限、県内局限 ケベリグサ 生 育 環 境 外洋、潮下帯、岩上 生 育 状 況 不明 減少の要因 海辺の改変等、水質汚濁、その他(磯やけ) 特 記 事 項 褐藻。体は扇形か腎臓形で、10~ 15c m。体の下面から 生ずる仮根糸によって付着し、横に拡がり、縁辺部は斜 上する。 藻 Cut l e r i aa d s p e r s aDeNo t a r i s 類 カテゴ リー 環境省 水産庁 IUCN 関 係 法 令 情報不足(DD) 海藻ミリン科 選 定 理 由 全国局限、県内局限 ヒラミリン 生 育 環 境 外洋、潮下帯、岩上 生 育 状 況 不明 減少の要因 海辺の改変等、水質汚濁、その他(磯やけ) 特 記 事 項 紅藻。体は肉質で、高さ 20~ 30c m。小さい盤状部から 数本直立し、短い円柱状の茎はすぐに楔状に拡がり、幅 1. 5~ 2. 5c m、厚さ 0. 3c mの扁圧した体となる。数回不規 則な叉状に分岐して漸次細くなる。 So l i e r i ad i c ho t o maYo s hi da カテゴ リー 環境省 水産庁 IUCN 関 係 法 令 237 (3)文献 海藻の種リスト作成では、県内産海藻目録に関するすべてを採用した。淡水藻については、 希少藻類に関する最近の主な報文を取り上げた。 藻 1. 千原光雄(1983)海藻(学研生物図鑑).学習研究社.東京. 類 2. 廣瀬弘幸・山岸高旺(1977)日本淡水藻図鑑 . 内田老鶴圃新社.東京. 3. 兼田廣(1991)田浦町近海の海藻.兼田廣. 4. 熊野茂(2000)世界の淡水紅藻.内田老鶴圃.東京. 5.Mi gi t aSe i j ia ndKa mba r aShi ge mi (1961)Al i s toft hema r i nea l ga ef r omHi r a doI s l a nda nd i t svi c i ni t y.Bul l .Fa c .Fi s h.Na ga s a kiUni v. , 10:174- 185. 6. 日本水産資源保護協会(1994)日本の希少な野生水生生物に関する基礎資料(Ⅰ) .日本 水産資源保護協会 . 7. 日本水産資源保護協会(1994)日本の希少な野生水生生物に関する基礎資料(Ⅱ) .日本 水産資源保護協会 . 8. 日本水産資源保護協会(1994)日本の希少な野生水生生物に関する基礎資料(Ⅲ) .日本 水産資源保護協会 . 9. 日本水産資源保護協会(1994)日本の希少な野生水生生物に関する基礎資料(Ⅳ) .日本 水産資源保護協会 . 10. 新村巌(1990)鹿児島県産海藻目録.鹿児島水試紀要 13集:1- 112. 11. 岡村金太郎(1936)日本海藻誌.内田老鶴圃.東京. 12. 西海区水産研究所編(1981)九州西岸海域藻場・干潟分布調査報告.西海区水産研究所 . 13. 瀬川宗吉(1977)原色日本海藻図鑑(増補版).保育社.大阪. 14.Se ga waSouki c hia ndI c hi kiMe i ko(1959)A l i s tofs e a we e dsi nt hevi c i ni t yoft heAi z u ma r i nebi ol ogi c a ls t a t i onofKuma mot oUni ve r s i t y .Kuma mot oJ our .Sc i .Se r .B.s e c .2, 4 (2 ) :103- 112. 15. 瀬川宗吉・吉田忠生(1961)天草臨海実験所近海の生物相 第 3集 海藻類.九州大学 理学部附属天草臨海実験所. 16. 山岸高旺(1999)淡水藻類入門.内田老鶴圃.東京. 17. 吉田忠生(1998)新日本海藻誌~日本産海藻類総覧.内田老鶴圃.東京. 18. 吉田忠生・嶌田 智・吉永一男・中島 泰(2005)日本産海藻目録(2005年改訂版) .藻類. 53.179- 228. 238