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卒業研究論文 微生物の発酵特性に対する コーヒー豆の作用
卒業研究論文 微生物の発酵特性に対する コーヒー豆の作用 Action of coffee bean on fermentation performance of microbe 高知工科大学 環境理工学群 科学・生命科学専攻 松元研究室 1130232 佐藤 優樹 3 月 18 日 2013年 1 目次 第1節 緒言 第2節 実験材料及び方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P3 ・・・・・・・・・・・・・・・P3~6 2-1 実験材料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P3 2-2 実験方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P5 2-2-1 基本的発酵試験方法 2-2-2 分析法 第3節 実験結果及び考察 ・・・・・・・・・・・・・・・P6~10 3-1 コーヒー豆粉砕物添加量と酵母の発酵特性の関係・・・・・・・・P6~8 3-2 コーヒー豆抽出物添加量と酵母の発酵特性の関係・・・・・・・・P8~9 3-3 コーヒー豆抽出残渣添加量と酵母の発酵特性の関係・・・・・・・P10 第4節 総括 謝辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P10 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P11 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P11 2 第1節 緒言 松元研究室は多様な生理活性成分を含有している種子類や球根類の微生物に 対する作用特性とその応用に関する研究を展開している。そして、これまでに ユズ種子やショウガ根茎をはじめとする種子類や球根類が酵母などの微生物の 発酵を促進することを明らかにしてきている 1~6)。 著者はその研究の一環として、コーヒー豆について検討を行った。コーヒー は嗜好飲料として世界中で古くから愛飲され、日本においても大量のコーヒー が生産されているのは周知のとおりである。当然のことながら、それに伴って 大量のコーヒー抽出残渣が排出されている。 コーヒー豆にはストレス軽減、利尿作用などの諸々の機能があると言われて いるが、醸造産業などで活躍している酵母などの微生物に対してどのような作 用をするのかについての報告は見当たらない。 そこで、筆者は前述したように大量に排出されている抽出残渣の新しい利用 方法、例えば発酵の効率化や酒質の多様化などへの応用展開の可能性を探るた めに、原料であるコーヒー豆(生豆、焙煎豆)とその抽出残渣の酵母の発酵特性 に対する作用を明らかにすることを意図した。 第2節 実験材料及び方法 2-1 実験材料 ⅰ)コーヒー豆粉砕物 コーヒー豆は、Fig.1 に示されているように、グアテマラ産のアラビカ種の生 豆(水分含量:14.1%)及び焙煎豆(焙煎条件:200℃、約 10 分、水分含量:4.3%) を、ミキサーで粉砕したものをそのまま使用した。 3 Fig.1 コーヒー豆の試料特性 ⅱ)水 ADVANTEC GSP-500 で逆浸透、脱イオン水にしたものを用いた。 ⅲ)コーヒー豆抽出液 生豆もしくは焙煎豆 10g に水を加えて 100ml とし、時々攪拌しながら 60℃で 24 時間保持した後、遠心分離し、上澄み液を 0.45μm のフィルターでろ過した ものを抽出液試料とした。 ⅳ)コーヒー抽出残渣 焙煎コーヒー豆を粉砕後、開口径 250μm のふるいに薄く充填し、熱湯を注ぎ エキスを抽出した。その抽出操作を抽出液の色が薄くなるまで繰り返した後、 水洗し、自然乾燥させたものを抽出残渣試料とした。 ⅴ)酵母スターター YPD 寒天斜面培地(Glucose:20g, Yeast extract:10g, Peptone:20g, Agar:15g, 水:1L)にて培養の酵母 1 白金耳を 10ml の YPD 培地に植菌し、28℃にて 24 時間 静置培養、次いで所定量の YPD 培地に全量移し、さらに 28℃にて 24 時間静置培 養したものをスターターとして使用した。なお、酵母菌株は OC2 株を用いた。 ⅷ)発酵試験用 YPD 培地 酵母の発酵試験には YPD 培地を用いたが、その調製方法は下記の通りであっ た。すなわち、水 1L に、グルコース 150g、Yeast extract10g、Peptone20g を 混合攪拌し、120℃にて 20 分間滅菌処理したものを用いた。 4 2-2 実験方法 2-2-1 基本的発酵試験方法 基本的発酵試験方法は Fig.2 に示した。すなわち 500ml 三角フラスコに所定 の培地 250ml、所定量のコーヒー試料、酵母スターター10ml を加え、混合・攪 拌し、28℃で所定時間、静置発酵させた。なお、コーヒー試料の内、粉砕物と 抽出残渣の添加量は初発モロミ容量当りの乾物換算重量濃度(w/v%)として、 抽出液の場合は抽出液収量から原料粉砕物に換算した重量を初発モロミ容量当 たりの乾物重量濃度(w/v%)として表示した。発酵期間中は経時的に重量を測 定し炭酸ガス発生量を算出した。発酵終了後はアルコール、菌数などを分析し た。 YPD培地:250ml コーヒー試料:X g 酵母スターター:10ml 混合・撹拌後 28℃で静置発酵 経時的に炭酸ガス発生量を測定、 発酵終了後、アルコール、菌数などを分析 Fig.2 基本的発酵試験方法 2-2-2 分析法 ⅰ)pH HORIBA 製 pH METER D-51 にて測定した。 ⅱ)総酸 発酵終了モロミのろ液 10ml を 0.1N( Factor1.000)水酸化ナトリウム水溶液で 中和滴定し、BTB 試験紙が中和色(pH6.2~7.8)になるに要する滴定 ml 数を総酸 として表示した。 5 ⅲ)アルコール 発酵終了モロミのろ液をウッドソン社製簡易アルコール分析器 AL-2 型 IN ST.NO.1Y010007 DATE 9111 RIKEN KEIKI CO.LTD アルコメイトで測定し、(v/v)% で表示した。 ⅳ)菌数 スターターまたは発酵終了モロミを適宜希釈したもの 1ml に 0.1%メチレンブ ルー溶液1滴を加え、標準血球計算盤にて計数した。なお、確認のために、必 要に応じて、平板希釈培養法でも計数した。 第3節 実験結果及び考察 3-1 コーヒー豆粉砕物添加量の影響 Fig.3 及び Fig.4 は生豆及び焙煎豆の粉砕物添加量と酵母の炭酸ガス発生経過 の関係を示したものである。添加量は生豆、焙煎豆共に 0.04%から 0.4%まで変 化させた。Fig.3 及び Fig.4 から明らかなように、生豆、焙煎豆のいずれの場合 も、添加量依存的に発酵は促進される傾向にあった。Fig.3 と Fig.4 で添加量の 最も少ない 0.04%に注目して、発酵 24 時間時点の炭酸ガス発生量を比較してみ ると、生豆の場合約 12g、焙煎豆の場合約 10g と焙煎豆の方が生豆に比べて炭酸 ガス発生量が少ないこと、すなわち発酵促進作用が低い傾向にあること判った。 この原因としては、生豆に含まれる発酵促進に関与する成分が焙煎によって変 16 炭酸ガス発生量(g) 14 12 10 8 コントロール 0.04% 0.2% 0.4% 6 4 2 0 0 12 24 36 48 60 72 84 発酵時間(hr) Fig.3 コーヒー生豆粉砕物添加量と炭酸ガス発生経過の関係 6 96 化してしまったことなどが考えられる。 16 炭酸ガス発生量(g) 14 12 10 8 コントロール 0.04% 0.2% 0.4% 6 4 2 0 0 12 24 36 48 60 72 84 96 発酵時間(hr) Fig.4 コーヒー焙煎豆粉砕物添加量と炭酸ガス発生経過の関係 Table-1 は 96 時間後のモロミの分析結果をまとめて示したものである。ここ で、発酵速度に直接関係する総菌数に注目すると、いずれのコーヒー豆を添加 した場合も、コントロールより顕著に多い。この要因としては i)これまでの研 究7)で明らかにされているように、粉砕物中の微粒子の示す溶存炭酸ガス放出 促進作用 7)、または ii)コーヒー豆中の何らかのフィトケミカルによる細胞の代 謝活性の亢進作用の結果であると考えている。 7 Table.1 コーヒー豆粉砕物添加量と発酵成績の関係 発酵96時間後のモロミ分析値 コーヒー豆粉末 pH - 4.6 3.3 5.5 4.3×107 生豆0.04% 4.6 2.9 7.1 1.5×108 生豆0.2% 4.7 2.9 7.1 1.6×108 生豆0.4% 4.7 2.5 7.1 1.9×108 焙煎豆0.04% 4.6 3.0 7.1 1.2×108 焙煎豆0.2% 4.7 2.7 7.1 1.7×108 焙煎豆0.4% 4.7 3.0 7.1 1.9×108 ※T.A.(ml) Alc.(v/v)% 総菌数(cells/ml) ※T.A.(総酸):モロミ10mlを中和するのに要する0.1NのNaOHのml数 3-2 コーヒー豆抽出液添加量と酵母の発酵特性の関係 Fig.5 および Fig.6 は生及び焙煎豆について抽出液添加量と酵母の炭酸ガス発 生経過の関係を示したものである。なお、添加量は粉砕物添加の場合と同様、 粉砕物乾物換算で 0.04%、0.2%、0.4%の 3 水準とした。まず生豆についてみると、 添加量で差はあるが、いずれの場合も促進作用が認められた。また焙煎豆の場 合は、生豆よりは低いものの添加量の少ない 0.04%と 0.2%では促進作用を示し たが、0.4%添加の場合は逆に抑制作用を示した。ただ、いずれの場合も抽出液 を適量添加すると促進作用を示したという事実は、少なくともコーヒーの生及 び焙煎豆中には酵母の増殖発酵を促進する作用のある何らかのフィトケミカル が存在していることを意味している。ただ、抽出液を大量に添加すると、抑制 傾向を示したという事実は、促進作用を期待してコーヒー抽出液を使用する場 合は、添加量に留意する必要性のあることを意味している。 8 16 コントロール 0.04% 炭酸ガス発生量(g) 14 12 0.2% 10 0.4% 8 6 4 2 0 0 12 24 36 48 60 発酵時間(hr) 72 84 96 Fig.5 コーヒー生豆抽出液添加量と炭酸ガス発生経過の関係 16 コントロール 0.04% 0.2% 0.4% 炭酸ガス発生量(g) 14 12 10 8 6 4 2 0 0 Fig.6 12 24 36 48 60 発酵時間(hr) 72 84 96 コーヒー焙煎豆抽出液添加量と炭酸ガス発生経過の関係 9 3-3 コーヒー焙煎豆抽出残渣添加量と酵母の炭酸ガス発生経過の関係 Fig.7 はコーヒー焙煎豆抽出残渣を乾物換算で 0.04%添加した場合の酵母の炭 酸ガス発生経過を、原料である焙煎豆粉砕物とともに示したものである。Fig.7 から分かるように、抽出残渣の場合も原料の粉砕物添加の場合には若干劣るが、 強い発酵促進作用を示した。なお、発酵液を官能試験したところ、発酵液はほ のかなコーヒーの香りを呈していた。これらの事実は、工場から大量に排出さ れるコーヒーの抽出残渣は、発酵の高効率化策として、また酒質の多様化対応 策として有用であることを示唆している。 16 炭酸ガス発生量(g) 14 12 10 8 6 コントロール 4 粉砕0.04% 2 残渣0.04% 0 0 12 24 36 48 60 72 84 96 発酵時間(hr) Fig.7 コーヒー焙煎豆抽出残渣添加量と炭酸ガス発生経過の関係 第4節 総括 ①コーヒーの生豆もしくは焙煎豆の粉砕物を添加すると、酵母の発酵は用量依 存的に顕著に促進された。 ②抽出液を添加した場合は、少ない添加量では発酵は促進されたが、多くなる と抑制傾向を示し、しかもその傾向は生豆より焙煎豆の方が顕著であった。 ③抽出残渣を添加しても、酵母の発酵は顕著に促進された。 ④抽出残渣を添加した発酵液の香りはほのかなコーヒーの香りを呈する好まし いものであった。 ⑤以上の結果から、清涼飲料業界で大量に排出されるコーヒー残渣はアルコー ル発酵の効率化や酒質の多様化策として応用展開しうる可能性があると考え られた。 10 謝辞 本研究を行うにあたり、終始ご指導ご鞭撻いただきました松元教授に感謝い たします。 また、共同研究者である西澤和展氏に感謝いたします。 また、実験の手助けやご指導をしていただいた同研究室の先輩方や同期の友 人に感謝いたします。 参考文献 1)池内慧士郎、合田智晶、大房 明、松元信也、微生物に対するショウガの 作用とその応用(1)酵母の増殖醗酵特性に及ぼすショウガの作用、日本農芸 化学会中四国支部第 16 回講演会 講演要旨集、p37(2006) 2)合田智晶、単醗酵系における酵母の醗酵特性に及ぼすショウガの作用に関 する研究、高知工科大学修士論文(2008 年 3 月 21 日) 3)上田明代、細菌の醗酵特性に対するショウガ及びユズ種子の作用とその応 用に関する研究、高知工科大学修士論文(2009 年 3 月 19 日) 4)木下絢賀、坂東裕也、山本達也、高橋 永、上田明代、松元信也、酵母の 発酵特性に対するユズ種子の作用、日本農芸化学会中四国支部第 26 回講演 会、講演要旨集、p25(2010) 5)水間 寛、喜田和亨、高橋 永、松元信也、酵母の発酵特性に対するショ ウガ及びニンニクの作用、日本農芸化学会中四国支部第 26 回講演会、講演 要旨集、p25(2010) 6)喜田和亨、小林和馬、梶原秀一、高橋 永、松元信也、酵母の発酵特性に 対するビワ及びブドウ種子の作用、日本農芸化学会中四国支部第 26 回講演 会、講演要旨集、p26(2010) 7)木下絢賀、松元信也、ユズ種子の発酵促進機構に関する基礎的検討、日本 農芸化学会中四国支部第 29 回講演会、講演要旨集、p30(2011) 以上 11