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青木繁の再発見作品紹介―《かるた》《漢詩かるた》―
植 野 健 造( 福 岡 大 学 )
明 治 の 洋 画 家 ・ 青 木 繁 ( 1882- 1911) の 芸 術 の 中 心 を な す の は 、 油 彩 画 や 水 彩 画 な
どの絵画作品である。しかし一方で、詩や俳句、短歌、文章など文学的方面にも豊か
な才能を示す作品の断片を残し、さらには余技的に制作した扇面の書画や絵入りの羽
子板、かるたやしおりなどの作品群にも、近代日本の芸術家中傑出した装飾家、能筆
家としてのみごとな才能を見てとることができる。
友人たちの証言によれば、青木はかるた取りを得意とし、学生時代には友人を多く
集めてかるた取りに興じ、そのかるたは青木手製のものであったという。青木制作の
現 存 す る「 か る た 」と し て は 、こ れ ま で 百 人 一 首《 絵 か る た 》12点 が 知 ら れ て き た 。3
1文 字 と 読 み 人 を 描 い た も の が 6枚 ( 読 み 札 ) 、 下 の 句 と 下 か ら 三 分 の 一 ほ ど の 区 画 に
絵 を 描 い た も の が 3枚 、 絵 は あ る が 文 字 の な い も の が 3枚 で あ る 。 細 密 装 飾 画 の 才 能 と
とともに、その書の達筆ぶりにも瞠目すべきものがある。青木の文学的才能と書画の
才能がのびのびと発揮された作品群である。
本 発 表 で 紹 介 す る の は 、1972年 に ブ リ ヂ ス ト ン 美 術 館 と 石 橋 美 術 館 で 開 催 さ れ た「 生
誕 90年 記 念
青木繁展」においておそらく初めて展示され、河北倫明『青木繁』日本
経 済 新 聞 社 、1972年 10月 に 図 版 掲 載 さ れ て 以 降 、長 ら く そ の 存 在 が 忘 れ ら れ て い た が 、
近年再発見された《絵かるた》《漢詩かるた》である。《絵かるた》《漢詩かるた》
は 、 読 札 と 取 札 が そ れ ぞ れ 各 100枚 、 総 計 で 400枚 が 揃 っ て 現 存 す る 貴 重 な 作 品 で 、 こ
れ ま で は 《 絵 か る た 》 《 漢 詩 か る た 》 の 読 札 と 取 札 の 各 1枚 、 計 4枚 の モ ノ ク ロ 図 版 が
掲載されてきただけで、ごく少数の関係者のみが知る作品であった。作品解説などで
もとりあげられたことはなく、現時点での青木繁研究においては、新出作品と同様の
価値を有するものと言える。
本 発 表 で は 、ま ず は 、《 絵 か る た 》《 漢 詩 か る た 》の 制 作 状 況 、来 歴 、作 品 の 現 状 、
書 か れ た 短 歌 や 漢 詩 の テ キ ス ト 情 報 、書 跡 と し て の 特 色 な ど を 整 理 報 告 す る 。つ ぎ に 、
これらの作品の再発見によって、青木繁芸術の重要な鍵が文学性、装飾性、遊戯性と
いった諸要素をあわせもつことにあることを再確認するが、その際に、琳派など日本
の伝統的な装飾芸術の系譜と、西洋同時代のモダンスタイルやアール・ヌーヴォーな
どの応用芸術の系譜をともに視野にいれ、それらとの連続性と独自性の視点から考察
する。
結論として、《絵かるた》《漢詩かるた》を、青木繁の重要作品として位置づける
だけでなく、近代日本を代表する「手製かるた」の作例として位置づけることができ
ると考える。また、青木繁の唯美主義的傾向が、たんに芸術制作の内にとどまるもの
でなく、その生き方の本質にまで及んでいたことをも指摘し、琳派や文人画にも通じ
る青木繁の画家イメージを提示してみたい。
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