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災害時における金融市場の機能維持 ~「市場BCP」の発展と課題

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災害時における金融市場の機能維持 ~「市場BCP」の発展と課題
第152回NRIメディアフォーラム
災害時における金融市場の機能維持
~ 「市場BCP」の発展と課題~
2011年6月16日
株式会社野村総合研究所
金融ITイノベーション研究部
主席研究員
井上哲也
〒100-0005
東京都千代田区丸の内1-6-5 丸の内北口ビル
目次
0 イントロダクション
0.
イント ダクシ ン
1. 市場BCPとは
2. 市場BCPの発展と日本における市場BCP
3. 金融機関の視点から
Copyright(C) 2011 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved.
1
出所:日本銀行資料より作成
0. イントロダクション
„ 市場BCPとの関わり
・職務を通じて接した議論をご紹介するとともに、その後の動きを踏まえて「市場BCP」をご説明したい。
「
BCPフォーラムの開催
Operation Managers
Managers’
Conferenceに対する
関与と運営
¾ 2003年に日銀が開催したBCPフォーラムに事務局として関与
-「市場BCP」を我が国に導入するためのサポート
市場BCP」を我が国に導入するためのサポ ト
¾ 2003年にNY連銀が開催したOperation Managers’ Conference
(第1回)に出席、日本の取り組み状況を説明
-その後、第2回および第3回(BOEとECBが開催)にも出席
¾ 2008年に日銀が主催した第4回会合を、事務局として企画・運営
¾ 2006年に東京外国為替市場委員会が日銀と共同で開催した
東京外為市場に
対する市場BCPの導入
「外為BCPセミナー」を事務局として企画・運営
外為BCPセミナ 」を事務局として企画 運営
¾ 同年に当委員会が設置したBCP小委員会に副議長として参加、
2008年の「市場BCP」の導入(マニュアルやウエブサイトの導入)に関与
したほか、初の共同訓練を企画・運営
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2
1. 市場BCPとは
„ 「市場BCP」の位置づけ
・「市場BCP」は、民間の市場参加者、金融インフラ、金融当局のネットワークによって成り立つ金融市場
自体の機能を維持しようとするもの。
-個々の関係者によるBCPが前提となるだけでなく、市場BCPに固有の要素が存在する。
市場横断的なBCP
広義の市場BCP
(Market wide)
特定の市場でのBCP
全社レベルでのBCP
狭義の市場BCP
(Market level)
社内の関連部署でのBCP
社内の個別部署でのBCP
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3
出所:SEC, OCC, FRB資料より作成
1. 市場BCPとは
„ はじまりは”9.11”
・米国の同時多発テロ(2001年)の経験と反省が、金融関係者のBCPに根本的な再考を迫った。
→”9.11”の経験は、以下のような点で当時の当局にとって「想定外」な面を含んでいた。
現象面
・物理的被害は局所的であったのに、主要ブローカーや通信インフラが被害を受けたために、
物 的被害は局所的 あ
、 要
カ
通信
ラが被害 受け
、
金融市場の機能が大きく損なわれた
金融市場のリスク
・主要な市場参加者の機能が低下したため、決済関係を通じた古典的なシステミックリスク
の顕在化が懸念された
金融取引のニーズ
・被災時にむしろ増大する金融取引へのニーズに応えることが必要となった
-約定済の取引を確実に終了するだけでなく、金融機関や顧客におけるリスク管理や早期
復興のために新たな取引を行う必要性も高いとの認識が生まれた
-「テロとの闘い」に勝利するという政治的な意味合いも大きかった
米国のSEC, OCC
米国のSEC
OCC, FRBが9
FRBが9.11の際に生じた問題と対策を共同でレビューし、望ましい対応策を
11の際に生じた問題と対策を共同でレビ
し 望ましい対応策を
示したいわゆる”White Paper”が「市場BCP」の実質的な出発点となった
(”Interagency Paper on Sound Practices to Strengthen the Resilience of the US Financial
System: 2003年”)
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1. 市場BCPとは
„ 「市場BCP」の基本的な考え方(1):コミュニケーション
・「市場BCP」の目標は、 被災時にも金融市場の機能の維持や早期回復を目指すこと。
→金融市場は、民間の市場参加者、金融インフラ、金融当局が各々役割を果たすことで成り立っているので、
これらのネットワークを維持したり、早期に回復したりすることが必要となる。
・「市場BCP」も、必要な情報を収集し、それを基に対応を採る点では、各社内や各当局内でのBCPと同じ。
→ただ、多くの主体が関係するのでコミュニケーションを確実に行うことが重要になる。そのためには、ハード
ウ アとソフトウ アを ランスよく整えることが大切。
ウエアとソフトウエアをバランスよく整えることが大切。
ハードウエア
ソフトウエア
9 被災時にコミュニケーションを維持するため
9 被災時に情報収集や発信、判断や周知を行う
の設備対応
-被災時にも頑健であること
-障害に応じて複数の手段を利用しうること
-情報のセキュリティーが維持されること
ためのルール作り
-必要な組織が整備されていること
-組織間の役割分担が明確であること
-主要な関係者との連携が整理されていること
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5
1. 市場BCPとは
„ 「市場BCP」の基本的な考え方(2):各々のBCPとの連携
・ 「市場BCP」では、各々のBCPが「市場BCP」と整合的に運営されることが求められる。
個々の市場参加者によるBCP
「市場BCP」
金融当局(または行政当局)によるBCP
金融インフラによるBCP
・ BCPが整合的に運営されているというのは、以下のような状態である。
1) 各社内や各当局内のBCPにおいて、「市場BCP」による対応をきちんと考慮している。
2) 「市場BCP」による対応が、各社内や各当局内のBCPを考慮して決められている。
→従って、「市場BCP」に関する情報の受信と発信を各々の組織内できちんと行うことが求められる。
→また、「市場BCP」は金融取引の維持を目ざす以上、関連する部署はオペレーション部門に止まらず、
フロントやミドルも含む広範囲な部門となる
フロントやミドルも含む広範囲な部門となる。
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6
出所:SEC, OCC, FRB資料より作成
1. 市場BCPとは
„ 市場の優先度
・ 金融市場を維持するといっても、被災時には物的・人的資源の制約があるので、どの市場を優先するか
決めておくことが大切である。これは、個々の市場参加者によるBCPでも同じである。
-例えば、”White Paper”は米国にとっての”Critical Financial Markets”を以下のように指摘しているが、
もちろん 国によ て違いが生じうる
もちろん、国によって違いが生じうる。
Federal Funds, Foreign Exchange
and Commercial Paper
・経済活動に必要な資金の支払のため
-FFは金融機関同士の資金の融通、外為は金融機関や事業法人による対外的な
FFは金融機関同士の資金の融通、外為は金融機関や事業法人による対外的な
資金の受払、CPは金融機関や事業法人による資金調達、にとって各々重要
-また、FFは金融政策の場としての重要
US Government and Agency
Securities
・投資家による資金調達のため
-投資家が必要な資金を確保する手段として重要
-当時はあまり意識されていなかったが、政府による資金調達のためにも当然重要
Corporate Debt and Equity
Securities
・投資家や事業法人による資金調達のため
-株式市場は米国資本主義の象徴としての政治的な意味でも重要
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1. 市場BCPとは
„ 「市場BCP」の具体的な機能と組織
・ 「市場BCP」を実施する上では、平時と被災時の各々において、具体的に以下のような機能が必要となる。
主な機能
平時
9 被災時の対応方針の策定や各関係者(民間の市場参加者、金融インフラ、金融当局)との調整
9 被災時に関係者が利用するコミュニケーション手段の整備と運営
9 市場横断的な共同訓練の企画や実施
被災時
災
9
9
9
9
各 係者 状
各関係者の状況や対応方針に関する情報の収集と還元
針
情
集
他の金融市場との連携(情報の交換や措置の実施に関する協議など)
市場機能の維持や早期回復のための措置の検討と判断
こうした措置の実行と終了に関する連絡
¾ 「片手間」ではできないので、常設事務局がとりまとめを行うのが普通である。
→各関係者は「本業 を抱えているだけに 適切な分業が必要不可欠
→各関係者は「本業」を抱えているだけに、適切な分業が必要不可欠
¾ 迅速な対応ができるように、事務局での意思決定を平時と被災時で別にするケースが多い。
→平時の意思決定組織(「BCP委員会」等の名称)は多くの関係者の代表で構成する
→被災時の意思決定組織(「コマンドセンタ 」等の名称)は少数の代表者で構成する
→被災時の意思決定組織(「コマンドセンター」等の名称)は少数の代表者で構成する
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1. 市場BCPとは
„ 「市場BCP」の具体的な内容
・ 「市場BCP」の内容は、具体的には以下のようなものとなる。
内容
具体例
被災時における対応
方針の策定や各関係
者との調整
・誰がどのような手段や内容で情報収集と還元を行うかの
誰がどのような手段や内容で情報収集と還元を行うかの
検討と各関係者との調整
・ルールやマニュアルの整備
ル ルやマ
アルの整備
被災時のコミュニケー
ション手段の整備と
運営
・コミュニケーション手段の選択と構築
・専用ウエブサイト等の構築と運営
・想定される内容の整理と策定
・メッセージフォーマットの標準化
・誰がどのような権限でどの機能を使用しうるかの検討
・ユーザーリストやID/PWの管理
・誰がどのような基準や手順で措置を決定し、どのような手
段で周知するかの検討と各関係者との調整
・利用者のアップデイトやセキュリティの管理
市場機能の維持や
早期の回復に向けた
措置
・想定される措置の整理と策定
・(次頁参照)
(誰がどのような基準や手順で措置を決定し どのような手
・(誰がどのような基準や手順で措置を決定し、どのような手
段で周知するかの検討と各関係者との調整)
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1. 市場BCPとは
„ 市場慣行の変更
・ 市場慣行の変更の例としては、以下のようなものがある。
内容
意味
取引時間の延長や
短縮(市場の閉鎖と
再開を含む)
・取引所取引や店頭取引の取引時
取引所取引や店頭取引の取引時
間を延長したり、短縮したりする
・市場インフラや個社のシステム等の機能復旧を促進する
市場インフラや個社のシステム等の機能復旧を促進する
・市場の過度な不安心理を落ち着かせる
・各関係者における要員確保の制約に対応する
決済時間帯の延長
決済時間帯
延長
・決済システムにおける資金や証券
決済シ テ
おける資金や証券
の受け渡し時間を後倒しする
・決済のための市場参加者の対応時間を確保する
決済 た
市場参加者 対応時間を確保する
・決済量の拡大と集中に伴うシステムトラブルを回避する
・各関係者における要員確保の制約に対応する
決済日の延期
・決済システムにおける資金や証券
の受け渡し日を後倒しする
(上と同じ)
・市場インフラや個社のシステム等の機能復旧を促進する
値幅制限の実施
・取引所取引の取引価格を、終値や
初値からみて一定範囲に制限する
・市場の過度な不安心理を落ち着かせる
-取引を先送りすることで情報の消化を促進する意味もある
¾ これらによって金融取引が標準化されることは、各金融機関が対顧客取引を円滑に遂行する上で
も大きな意味をもつ
¾ もっとも、市場の閉鎖や取引時間の制限は、市場機能の早期回復という「市場BCP」の本来の目的
に反する場合もあるため、副作用とメリットのバランスに基づく判断が必要となる
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2. 市場BCPの発展と日本における市場BCP
„ 「市場BCP」 v1.0:災害対応
・ 当初の「市場BCP」は”9.11”に強い影響を受けていたので、想定する被災の特性や達成すべき目標、対応策
などの面で以下のような特徴を有していた。
9 テロや自然災害を主として念頭に置く
自
主
念
く
被災の特性
市場BCPによって
達成すべき目標
主な対応策の
内容
→金融市場に必要な設備が物理的に毀損する事態を想定
→ただし、影響を受けるのはある程度限定された地域
9 市場機能の維持や早期の回復が目標
→インフラの復旧に伴って、最小限必要な機能の確保から、市場機能の
インフラの復旧に伴 て 最小限必要な機能の確保から 市場機能の
完全回復に向けた流れを考える
9 物的および人的なバックアップのシステムの企画・構築
-限定された地域の機能を、比較的短期間(数日程度)代替すること
を目指す
Copyright(C) 2011 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved.
11
2. 市場BCPの発展と日本における市場BCP
„ 「市場BCP」 v2.0:パンデミック対応
・ その後アジアで猛威をふるったSAASや近年における新型インフルエンザの脅威に対する「市場BCP」は、
v1.0とは様々な点で異なる特徴を有する。
9 強力な疾病の流行を主として念頭に置く
強力 疾
主
念
く
被災の特性
市場BCPによって
達成すべき目標
主な対応策の
内容
→金融市場の関係者(社会インフラを含む)の健康被害を想定
→最終的に広範な地域への影響を想定
9 市場機能の維持や早期の回復が目標
→疾病の流行が進行していく際には、完全な機能から徐々に「不要不
疾病の流行が進行していく際には 完全な機能から徐々に「不要不
急」の機能を削減していく方向での対応を考える
9 物的および人的に代替しうるシステムの企画・構築
-広範な地域を念頭に最小限必要な機能を比較的長期間(数ヶ月程
度)代替することを目指す
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12
2. 市場BCPの発展と日本における市場BCP
出所:日本銀行、FSA, SIFMA, MAS資料より作成
„ 「市場BCP」の訓練の実施
・ 海外の主要な国際金融センターでは、市場横断的なBCP(Market wide BCP)の訓練が実施されてきた。
英国
米国
シンガポール
実施時期
想定
実施期間
参加先数
実施主体
2003年
テロ
テ
半日
16社
民間金融機関、FSA
2004年
テロ
半日
32社
HM Treasury, FSA, BOE
2005年
テロ
半日
約70社
(同上)
2006年
新型インフルエンザ
6週間
約70社
(同上)
2009年
洪水
半日
76社
(同上)
2007年
新型インフルエンザ
3週間
2775社
2009年
サイバ テ
サイバーテロ
5日
48社
(同上)
2011年(予定)
(未公開)
1日?
(未定)
(同上)
2005年
テロ
半日
12社
2006年
テロ
半日
約100社
2008年
新型インフルエンザ
2週間
約140社
SIFMA, SEC, OCC, FRB, Treasury等
ABS, MAS
→このほか 業界団体や当局が実施しているアンケートも 訓練を補完する意味合いを有している
→このほか、業界団体や当局が実施しているアンケートも、訓練を補完する意味合いを有している
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13
出所:日本銀行資料より作成
2. 市場BCPの発展と日本における市場BCP
„ 日本における「市場BCP」の展開
・ 日本は
日本は、地震を含む自然災害が多いだけに、BCPに関してはむしろ先進的な面があった。
地震を含む自然災害が多いだけに BCPに関してはむしろ先進的な面があ た
→例えば、主要な金融機関は、政府が東南海地震や首都直下地震について示した被害想定や政府による
危機対策を前提として、バックアップや要員に関するBCP体制を構築してきた。
・ ただ、地震のような大災害を念頭に置くだけに、当局やインフラの対応に委ねる傾向もあった。
-また、2000年代の初めは、金融機関の経営環境が引続き厳しく、経費や人材の制約が強い面もあった。
短期
しかし、2005年頃からは、金融機関
の体力が回復、東京市場の国際競争
体力が 復 東京市場
際競争
力が意識される中で、東京市場でも
市場BCPの組織化が発展しつつある
(次頁も参照)
(次頁も参照)。
→2010年には初の市場横断的
(Market wide BCP)の訓練が実施さ
れている(新型インフルエンザを想定)
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2005年
・全銀協説明会開催
2006年
・BCPウエブサイト構築
BCPウエブサイト構築
・第1回訓練
2007年
・第2回訓練
2008年
・第3回訓練
第3回訓練
・第4回訓練
2009年
・第5回訓練
2010年
(3市場合同訓練)
・第6回訓練
外為
公社債
・日証協ワーキング発足
・日銀・外為市場委共
日銀 外為市場委共
催セミナー開催
・BCP小委設置
・BCPフォーラム設置
BCPフォ ラム設置
・BCPウエブサイト構築
BCPウエブサイト構築
・第1回訓練
・OMC開催
・BCPウエブサイト構築
BCPウエブサイト構築
(←)
(←)
14
出所:日本銀行資料より作成
2. 市場BCPの発展と日本における市場BCP
(参考) 日本の「市場BCP」体制
短期
外為
公社債
事務局
・全国銀行協会
(・短期金融市場取引活性化研究
会)
・東京外国為替市場委員会
・日本証券業協会
参加者等
・188先
・33先
・394先
・銀行、信用金庫、証券会社、短資
会社 生命保険会社 損害保険会
会社、生命保険会社、損害保険会
社、投資信託委託会社、証券金融
会社等
・銀行、外為ブローカー等
・証券会社、銀行等
体制発足
・内国為替運営機構、東京銀行協会、 ・東京銀行協会、CLS, 東京金融
CLS, 短資協会、証券保管振替機構、 取引所
日本国債精算機関、日本証券クリア
リング機構、東京証券取引所、東京
金融取引所
・取引所(東京証券取引所等)、証
券保管振替機構、ほふりクリアリン
グ、日本国債精算機関、日本証券
クリアリング機構
・金融庁、日本銀行
・財務省、金融庁、日本銀行
・金融庁、日本銀行
・2006年4月
・2008年1月
・2008年4月
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15
2. 市場BCPの発展と日本における市場BCP
„ 日本における「市場BCP」の課題
・ 日本の「市場BCP」は海外とほぼ同じ内容を備えているが、いくつか残された課題もある。
9 コミュニケーション手段の整備が区々となっている。
ハードウエアの面
-手段が別々であるだけでなく、情報量や頑健性の違いも大きい。
-機能維持や回復の優先度合いを反映した面もあるが、全体を通じた
対応をとる際 支障となり得る
対応をとる際の支障となり得る。
-また、手段の活用に関する習熟度にも違いがみられる。
9 被災時の事務局運営に課題が残る。
ソフトウエアの面
-人員の確保や事務局の場所といった点など
9 個別の金融機関による関与度合いが区々となっている。
-上と同じく優先度合いを反映した面もあるが、全体を通じた対応を
とる際の支障となり得る。
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16
2. 市場BCPの発展と日本における市場BCP
„ グローバルな環境の変化と新たな「市場BCP」
・ 「市場BCP」の内容面でこれまでのバージョンを総合するニーズが生じている。
・ また、金融危機対応の中で「市場BCP」にも応用しうる措置が実施された。
総合バージョンへのニーズ
金融危機対応の市場BCPへの応用
9 広範な地域が物理的に影響を受ける事態
9 各国中央銀行の危機対応には「市場BCP」に
を考える必要がでてきた
応用しうるものがある
-自然災害だけでなくサイバーテロ等を含む
自然災害だけでなくサイバ テロ等を含む
-「最後の貸し手」は代表的手段である
「最後の貸し手 は代表的手段である
-副次的な人的被害(要員確保困難など)も
伴いうる
-”MMOL: Market Maker of the Last Resort”
も、市場機能の維持に活用しうる
新たな「市場BCP」:
1) これまでの蓄積を総合するアプローチ
-被災想定を多様化するだけでなく、被災時の対応も、過去の経験や実践という貴重な財産を
被災想定を多様化するだけでなく 被災時の対応も 過去の経験や実践という貴重な財産を
モジュールのように組み合わせることが有用
2) 金融当局による関与を増大させるアプローチ
-市場慣行の見直しにおいては、金融当局(中央銀行)による対応と連携し、それを活かすこと
市場慣行の見直しにおいては 金融当局(中央銀行)による対応と連携し それを活かすこと
が有用
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17
3. 金融機関の視点から
„ 「市場BCP」に関する悩みの共有(1)
・ 「市場BCP」に関して、金融機関の皆様からこれまでに頂戴したご意見とこれらの考え方を整理したい。
「市場 C に
金融機
皆様
に 戴
ご意
考 方 整
ご意見1):いったん大災害が発生したら個別の金融機関ではどうしようもないので、「市場BCP」は
金融当局と金融インフラのところでがんばって欲しい。
金融当局と金融インフラのところでがんばって欲しい
9 金融当局や金融インフラは当然にがんばる
-被災時における自分自身のBCPに止まらず、平時における被害想定の検討・策定や
-被災時における自分自身のBCPに止まらず
平時における被害想定の検討・策定や
共同訓練の運営なども含めて努力する
9 金融市場を襲う災害は多様であり、常に「大災害」という訳ではない
-また、「大災害」に襲われたとしても、市場機能の維持や早期回復は経済復興を支える
また 「大災害 に襲われたとしても 市場機能の維持や早期回復は経済復興を支える
9 「市場BCP」にとっては個々の金融機関の参加が不可欠である
1) 金融市場の機能を保つには、民間金融機関の存在を欠くことはできない
2) 「市場BCP」は市場慣行の変更等、民間金融機関のビジネスに直結する問題を扱う
3) 「市場BCP」に沿って協調することで、金融ビジネスをより早期に回復できる
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3. 金融機関の視点から
„ 「市場BCP」に関する悩みの共有(2)
ご意見2):「市場BCP」に関与すべきといわれても、経費面や人的な面で負担が大きすぎる。
9 コストがかかることは否定できないが、それを理由づけるロジックもある
-主要なプレーヤーにとっては、ビジネスを行う「場」の維持費用でもある
-災害に頑健であることは、ビジネスのアピールとなる
災害に頑健であることは、ビジネスのアピ ルとなる
-被災時に対顧客取引を円滑に運営することに繋がる
9 全く新たに追加的な負担が生じる訳ではない
各社内でのBCPを「市場BCP」と連携しやすいよう再構築することが中心となる
-各社内でのBCPを「市場BCP」と連携しやすいよう再構築することが中心となる
9 各社のビジネス戦略によっても、具体的な負担の程度は変わる
- 例えば、レポ市場ではドミナントであるが国債市場のシェアは小さいのであれば、前者
の「市場BCP では主体的な役割を果たし 後者は他社に任せることができる
の「市場BCP」では主体的な役割を果たし、後者は他社に任せることができる
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3. 金融機関の視点から
„ 「市場BCP」に関する悩みの共有(3)
ご意見3):「市場BCP」に関与したくても、社内の関係部署の理解が得られない。
9 「市場BCP」への関与を契機に、社内の関連部署同士の連携が改善する
-「市場BCP」は、オペレーション部門に限らずフロントやミドルを含む広範な部門の協力
が必要となる
-こうした幅広い協力は、各社内のBCPに関する問題点を浮き彫りにする意味もある
9 金融当局や市場インフラは、金融機関のビジネスを極力阻害しないよう努力する
-平時と被災時の双方において中心的な役割を果たす常設の事務局をサポートする
-市場慣行の変更を伴う場合は、主要なプレーヤーの意見をきちんと反映させる
-平時や被災時に開示する情報が、金融機関のビジネスを阻害しないよう、平時から
平時や被災時に開示する情報が 金融機関のビジネスを阻害しないよう 平時から
慎重な検討を重ね、ルールを定めておく
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20
出所:日本銀行資料より作成
3. 金融機関の視点から
„ 流れは変わりつつある…
・ 日銀が実施している調査(「業務継続体制の整備状況」に関するアンケート)の直近(2010年11月)の結果
は、各社内でのBCPが整備されてきた中で、「市場BCP」へのニーズが高まっていることを示している。
今後充実すべき訓練
業務継続の実効性確保
9 確保できている
:30%
9 一部不十分なところが
残っている
:67%
具体的に不十分な部分
9 重要な関係先の業務
継続計画との整合性
:49%(トップ)
0
体制整備推進上のネック
9 他社・他業態の業務
継続計画との相互依存
関係を踏まえた実効性
検証の困難
:67%(トップ)
20
40
60
80
ストリ ートワイド訓練
社内横断的 な全行訓練
新型イ フ ルエンザ想定訓練
新型イン
ザ想定訓練
リ アルタイム 型シナリオ・ブライン ド訓練
グループ内企業共同訓練
市場毎 行われ
市場毎に行われている訓練の同時実施
る訓練
時実施
多数の金融機関が取引データを送受信する
形での共同訓練
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21
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