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ものづくり基盤技術の 現状と課題

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ものづくり基盤技術の 現状と課題
1
第
部
ものづくり基盤技術の
現状と課題
は じ め に
我が国経済は、安倍内閣の経済政策(
「アベノミクス」
)の効果が現れるなかで、着実に
上向いてきた。ものづくり産業を中心に企業収益の改善が見られ、さらには賃金引上げの
動きが広がるなど「経済の好循環」に向け、前進を続けている。一方、我が国の経常収支
は4年連続で黒字が縮小し、過去最小の黒字を計上した。内訳をみると、貿易収支が過去
最大となる赤字を計上する一方で、直接投資収益等の第一次所得収支が過去最大の黒字を
計上するなど、我が国ものづくり産業の稼ぎ方は着実に変化している。
こうした現状にある我が国ものづくり産業について、第1部では、その直面している課題、
さらには必要な対応の方向性を以下のとおり取り上げている。
第1章では、
「我が国ものづくり産業が直面する課題と展望」を取り扱う。アベノミクスを
背景とした企業業績の改善が進み、国内の設備投資も増加しつつあるものの、生産拠点の海
外展開は今後も続いていくものと思われる。各国でも製造業の重要性を見直しているが、我
が国経済を牽引する製造業は引き続き重要である。国内拠点の役割を見極め、国内・海外で
それぞれ稼ぐ分野を明確化しつつ、国内の製造業の基盤として様々な担い手を育成していく
ことが課題である。また、デジタル化の進展により、ものづくり産業も大きな変革を遂げて
いる中、我が国ものづくり産業の今後の課題と方向性について記述している。
第2章では、
「良質な雇用を支えるものづくり人材の確保と育成」として、労働力人口が
減少する中で、良質な雇用の場であるものづくり産業を支えるものづくり人材の果たして
きた役割やものづくり人材の確保・育成の現状と課題、今後求められる施策について記述
している。
第3章では、
「ものづくりの基盤を支える教育・研究開発」として、ものづくりにおいて
重要な鍵となる科学技術イノベーションを推進する人材育成の方向性や女性研究者への支
援の取組、また、ものづくりを支える基盤技術の研究開発の状況等について記述している。
また、第2部では、政府が平成26年度においてものづくり基盤技術の振興に関して講じ
た施策について、網羅的に記述している。
2
1
第1章|我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
第 章
1
節
我が国製造業の足下の状況認識
我が国製造業の足下の状況認識
1節
第
第
我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
我が国製造業の企業業績は改善の動きがみられ、設備投資も2013年、2014年と2年連続で増加した。しかしながら、いま
だリーマンショック前の水準には及んでいない。賃上げを始めとする経済の好循環の流れを加速させ、全国に行き渡らせ、ま
た、投資をさらに活発化させることが重要である。
また、直近2014年の貿易収支は過去最大の赤字を計上した。円安下で輸出金額が伸びるなど足下では改善の兆しも見られ
るが、企業の海外展開が進む中で、直接投資収益が増加するなど、我が国製造業の稼ぎ方の変化は継続している。
1.
(1)企業業績と金融市場の動向
我が国製造業の業績改善
国内外の景気回復などを受けて、我が国企業の業績は回復し
我が国経済は、安倍内閣の経済政策(「アベノミクス」
)の効
つつある。法人企業統計によれば2012年第4四半期(10-12
果が現れるなかで、着実に上向いてきた。製造業企業を中心に
月期)以降、製造業の営業利益の伸び率(前年同期比)は大幅
収益の改善が見られ、さらには賃金引上げの動きが広がるなど
なプラスへと転じ、消費増税による反動減による落ち込みが
確実に「経済の好循環」が生まれ始めている。
2014年第1-2四半期にあったものの、足下では改善の動きが
アベノミクスでは、「大胆な金融政策」
「機動的な財政政策」
「民間投資を喚起する成長戦略」という相互に補強し合う関係
にある「三本の矢」を一体として推進しており、ここでは、ア
みられており、製造業は全産業及び非製造業を上回る伸び率を
示している(図111-1)。業種別では、特に自動車を中心とす
る「輸送用機械」の回復が著しい(図111-2)
。
ベノミクスが我が国製造業に及ぼした効果を分析する。
図111‒1 企業業績の推移(営業利益)
図111‒2 企業業績の推移(製造業業種別・営業利益)
(%、前年同期比)
80
(兆円)
12
10
60
8
40
6
20
4
0
2
-20
(兆円)
1.2
一般機械
電気機械
輸送用機械
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
0
Ⅰ
Ⅱ Ⅲ
2011
全産業
Ⅳ
Ⅰ
Ⅱ Ⅲ
2012
製造業
製造業(伸び率・右軸)
Ⅳ
Ⅰ
Ⅱ Ⅲ
2013
非製造業
Ⅳ
Ⅰ
Ⅱ Ⅲ
2014
Ⅳ
-40
全産業(伸び率・右軸)
非製造業
(伸び率・右軸)
備考:金融業、
保険業以外の業種(原数値)
。資本金1億円以上。
資料:財務省
「法人企業統計」
-0.2
-0.4
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
2011
Ⅳ
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
2012
Ⅳ
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
2013
Ⅳ
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
2014
Ⅳ (期)
(年)
備考:1.資本金1億円以上の企業の営業利益の合計。
「一般機械」
は、
「はん用機械器具製造業」
「生産用機械器具製造業」
2.
「業務用機械器具製造業」
の合計。
資料:財務省「法人企業統計」
アベノミクスを通じた企業業績の回復に対する期待感な
19,206円に達し、約85% 上昇した(図111-3)
。業種別の株
どを背景に、株価も大幅に上昇しており、2012年12月末時
価指数を見ると、「電機・精密」、「自動車・輸送機」が他業種
点で10,395円であった日経平均株価は2015年3月末時点で
を上回るパフォーマンスで推移している(図111-4)
。
3
図111‒3 株価の推移(日経平均株価)
(円)
3月末
19,206円
22,000
20,000
18,000
16,000
12月末
10,395円
14,000
12,000
約85%の株高
10,000
8,000
12 月
12 年
2月
13 年
4月
6月
8月
10 月
12 月
2月
14 年
4月
6月
8月
10 月
12 月
2月
15 年
(月)
(年)
資料:日本経済新聞社
図111‒4 株価の騰落率の推移(東証株価指数、業種別株価指数)
(%)
130
110
90
70
50
30
10
-10
12/12
13/03
13/06
東証株価指数(TOPIX)
13/09
13/12
14/03
自動車・輸送機
機械
14/06
14/09
14/12
15/03
(年 / 月)
電機・精密
備考:2012年12月28日を基準とする騰落率の推移。
資料:東京証券取引所
堅調な株価を背景に、企業の株式による資金調達も活発化
しており、企業の資金調達額は2012年を底として増加へ転じ
金額・件数ともに増加している。株価の上昇に伴って投資家が
ている(図111-5)。金額ベースでは、足下では着実に増加し
積極的にリスクを取っていると考えられ、ベンチャー企業を始
ており、企業が良好な資金調達環境を活かして、設備投資や
めとする新規公開企業へも資金が供給され始めている。
M&A などを目的とするリスクマネーを積極的に調達している
4
と見られる。また、株式の新規公開(IPO)も活発化しており、
第1章|我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
第
図111‒5 株式市場からの資金調達の推移
1
節
(兆円)
3.0
(件数)
100
0.03
77
75
2.0
0.21
1.5
我が国製造業の足下の状況認識
90
2.5
80
70
60
50
2.7
40
1.0
0.22
1.8
0.19
0.0
20
0.13
0.5
0.04
0.5
0.04
0.2
2008
2009
調達額・新規公開
2010
調達額・新規公開以外
30
0.7
0.4
2011
2012
0.8
2013
調達件数・新規公開以外(右軸)
2014
10
0
調達件数・新規公開(右軸)
備考:
「国内」
における
「株券」
による資金調達額。
資料:日本証券業協会
(2)実体経済への波及と「好循環」へ向けた動き
る(図111-6)。企業の全般的な業況を示す日本銀行の全国企
企業業績の改善が進みつつあるが、これを設備投資の拡大や
業短期経済観測調査(日銀短観)の業況判断 DI も上向いてお
雇用・所得の増加へと結びつけることが「経済の好循環」を実
り、大企業・中小企業の製造業はプラスへと転じている(図
現する上で重要となる。以下では、設備投資と雇用・所得の動
111-7)。また、鉱工業生産活動の全体的な水準の推移を示す
向について確認する。
鉱工業生産指数も、2012年11月を底として増加へと転じてお
り、2014年前半に消費増税の反動減により一旦は減少したも
①設備投資の動向
のの、足下では持ち直している(図111-8)。更に、製造業に
我が国の経済は、2014年4月の消費税率引上げ後、弱さが
みられたものの、2012年末以降、景気は回復基調が続いてい
おける設備の稼働率も生産の持ち直しに合わせて足下では持ち
直している(図111-9)
。
図111‒6 実質GDPの推移
図111‒7 日銀短観・業況判断DIの推移(企業規模別)
(%ポイント)
40
(前期比:%)
4
3
30
2
20
1
10
0
0
-10
-1
-20
-2
業況が悪い
-30
-3
-40
-4
-5
業況が良い
Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ(四半期)
08
09
10
11
12
13
14
15 (年)
住宅
在庫
純輸出
設備投資
個人消費
GDP
政府支出
資料:内閣府「四半期別GDP速報2015年1月-3月期(1次速報値)
」
Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ
10
11
12
13
14
15
大企業 製造業
大企業 非製造業
中小 製造業
中小 非製造業
(年、四半期)
備考:
「業況判断DI」
は、回答企業の収益を中心とした業況についての全般的な
判断を示すものであり、
「良い」
という回答比率から
「悪い」
という回答比率を
引いて算出する。
資料:日本銀行「全国企業短期経済観測調査」
5
図111‒9 稼働率指数の推移
図111‒8 鉱工業生産指数の推移
(2010 年=100、季節調整値)
130
(2010 年=100、季節調整値)
135
130
125
125
120
120
115
115
110
110
105
105
100
100
95
95
90
90
1 2 3 4 5 6 7 8 910 1112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3(月)
12
13
14
15 (年)
85
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3(月)
12
13
14
15 (年)
鉱工業生産指数
輸送機械工業
製造工業
輸送機械工業
電気機械工業
はん用・生産用・業務用機械工業
電気機械工業
はん用・生産用・業務用機械工業
資料:経済産業省「製造工業生産能力指数・稼働率指数」
資料:経済産業省「鉱工業指数」
このような環境下において、民間企業設備投資は、2013年
ク前の水準には及んでおらず(図111-11)、賃上げを始めと
は前年比 +1.2%、2014年は同 +5.2%と2年連続で増加して
する経済の好循環の流れを加速させ、投資をさらに活発化させ
おり、先行きも企業収益の改善等を背景に、増加していくこと
ることが重要である。
が見込まれる(図111-10)。ただし、いまだリーマンショッ
図111‒10 設備投資の推移
図111‒11 名目設備投資の推移
(兆円)
72
(兆円)
2.7
2.5
70
2.3
68
2.1
66
1.9
64
1.7
62
1.5
60
1 2 3 4 5 6 7 8 91 11 1 2 3 4 5 6 7 8 91 11 1 2 3 4 5 6 7 8 91 11 1 2 3 4 5 6 7 8 91 11 1 2 3
月月 月月 月月 月月 月 0 1 2 月月 月月 月月 月月 月 0 1 2 月月 月月 月月 月月 月 0 1 2 月月 月月 月月 月月 月 0 1 2 月月 月
月 月月
月 月月
月 月月
月 月月
Ⅰ
Ⅱ Ⅲ
2011
Ⅳ
Ⅰ
Ⅱ Ⅲ
2012
Ⅳ
Ⅰ
Ⅱ Ⅲ
2013
Ⅳ
Ⅰ
機械受注(四半期、
船舶・電力除く民需、
左軸)
名目民間企業設備投資
(四半期、
右軸)
備考:季節調整値
資料:内閣府「国民経済計算」、
「機械受注統計調査」
6
Ⅱ Ⅲ
2014
Ⅳ
Ⅰ
2015
(兆円)
80
78.4
75
69.0
70
65
60
55
59.9
Ⅰ Ⅱ ⅢⅣ Ⅰ Ⅱ ⅢⅣ Ⅰ Ⅱ ⅢⅣ Ⅰ Ⅱ ⅢⅣ Ⅰ Ⅱ ⅢⅣ Ⅰ Ⅱ ⅢⅣ Ⅰ Ⅱ ⅢⅣ Ⅰ Ⅱ ⅢⅣ Ⅰ Ⅱ ⅢⅣ Ⅰ Ⅱ ⅢⅣ Ⅰ Ⅱ ⅢⅣ Ⅰ Ⅱ ⅢⅣ Ⅰ Ⅱ ⅢⅣ Ⅰ Ⅱ ⅢⅣ Ⅰ Ⅱ ⅢⅣ Ⅰ
00
01
02
03
04
05
備考:季節調整値
資料:内閣府「国民経済計算」
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15
第1章|我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
第
コラム
節
1
生産性向上設備投資促進税制
我が国製造業の足下の状況認識
「日本再興戦略(2013年6月14日閣議決定)」において、「生産設備の新陳代謝(老朽化した生産設備から生産性・エネ
ルギー効率の高い最先端設備への入れ替え等)を促進する取組を強力に推進」することが明記された。これを実行するため、
2014年1月20日に「生産性向上設備投資促進税制」が実施された。
「生産性向上設備投資促進税制」は、質の高い設備投資の促進によって事業者の生産性向上を図り、もって我が国経済の
発展を図るため、「先端設備(A 類型)」や「生産ラインやオペレーションの改善に資する設備(B 類型)」を導入する際の
税制措置である。具体的には、一定の要件を満たす場合には、本税制を利用すれば、即時償却または税額控除5%(2014
年1月20日から2016年3月末日まで)の措置が施される。
幅広い業種で利用されており、2015年3月時点で、既に33万件超の申請を受け付けている。
具体的な活用事例として、竹本油脂(株)
(愛知県蒲郡市)、こと京都(株)
(京都府伏見区)の2社を紹介する。
レーヨン繊維用油剤等の化学品製造業を営む、竹本油脂(株)は、従来海外に生産拠点を設けていたが、円安効果や本
税制の活用により採算性が確保できることから、新興国市場向けの生産ラインを、国内(愛知県)に増設することを決定
している(投資総額は約7億円)。
また、九条ねぎの生産に特化して農業ビジネスを展開している、こと京都(株)は、新工場建設に伴い、短時間でねぎ
を洗浄できる最新鋭の設備を導入し、大幅な生産性向上を実現している(投資総額は約3億円)。本投資に伴って20名を新
規雇用しており、地元の雇用創出にも貢献した事例といえる。
なお、2016年度は「特別償却50% 又は税額控除4%」とメリットが小さくなるため、2015年度内に設備投資が完了す
るタイミングでの、早期の設備投資決断が一つのポイントである。
油剤の製造設備
資料:竹本油脂(株)
ねぎの洗浄設備
資料:こと京都(株)
なお、今後3年間の設備投資増加率の見通しは、2008年の
備投資の今後3年間の増加率は全業種で昨年度より下回るもの
リーマンショック時に大幅に下落したものの、足下ではプラス
の、一昨年度と比較すると全業種で増加をしており、引き続き
で推移(図111-12)。また、経済産業省の調べによると、設
企業の投資意欲は高水準に保たれている(図111-13)
。
7
図111-12 産業別今後3年間の設備投資増減率見通しの推移
(%)
8
6
4
2
0
-2
-4
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
資料:内閣府
「企業行動に関するアンケート調査」
2009
2010
2011
2012
2013
全産業 製造業 非製造業
2014
(年度)
図111-13 設備投資の今後3年間の増加率
(%)
100
9.0
29.3
17.0
9.6
19.4
38.2
80
21.2
25.9
43.7
10.8
38.5
47.2
46.7
18.0
10.3
41.7
42.3
48.2
60
16.2
減少
14.7
50.7
45.9
横ばい
45.1
44.0
38.2
44.0
47.5
40
44.1
23.2
43.8
43.2
35.5
32.9
50.8
45.7
33.1
30.1
17.9
17.7
16.7
今年度
昨年度
一昨年度
今年度
昨年度
一昨年度
今年度
昨年度
一昨年度
今年度
昨年度
一昨年度
今年度
昨年度
一昨年度
0
39.3
38.6
41.7
増加
42.8
20
39.7
(n=478) (n=556) (n=565) (n=503) (n=524) (n=581) (n=390) (n=444) (n=432) (n=108) (n=125) (n=136) (n=178) (n=195) (n=184)
一般機械
電気機械
輸送用機械
鉄鋼業
化学工業
備考:本調査の概要は次の通り。
・調査期間2014年11月15日~12月19日。
・調査対象:大手データベース会社のデータより、
従業員100人超の製造業は全て対象とし、
従業員100人以下の企業は機械系製造業を中心として、25,000社を抽出。
・回収率 17.8%
(有効票4,446件)
資料:経済産業省調べ
(2014年12月)
②雇用・所得の動向
8
すると、2013年の中頃から対前年同月比でプラスへと転じ、
雇用環境は改善傾向にある。直近2015年3月の完全失業率
2014年は通年を通してプラスを維持した。特に、7月の「特
は3.4%、有効求人倍率も1.15倍と着実に好転している(図
別に支払われた給与」は一時金の大幅増加を表しており、企業
111-14)。雇用環境の引き締まりを受けて、改善の動きは徐々
業績の向上による従業員への利益還元が進んでいることがわか
に賃金へ波及しつつあり、月々の賃金動向(製造業)を分析
る(図111-15)
。
第1章|我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
(倍)
1.4
1.2
5.5
1.0
5.0
0.8
4.5
0.6
4.0
0.4
3.5
0.2
3.0
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
1
(前年同月比:%)
0.0
2015
備考:いずれも季節調整値。
資料:総務省
「労働力調査」、厚生労働省「職業安定業務統計」
8.0
特別に支払われた給与
所定外給与
所定内給与
給与変化
6.0
4.0
2.0
0.0
-2.0
-4.0
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1112(月)
(年)
2012
2013
2014
備考:
1.事業所規模5人以上。
2.一般労働者(パートタイム労働者は除く)。
資料:厚生労働省「毎月勤労統計調査」
から作成。
経済産業省の調べによると、2013年度に引き続き業績改善
降、従業員への利益還元を「既に実施した」または「予定して
が鮮明となった2014年度以降における、従業員への利益還元
いる」と回答した企業に対して、従業員への利益還元方針を尋
の有無を尋ねると、
「すでに実施した」50.6%、
「予定している」
ねると、81.7%が「賞与」と回答しており大半を占めている
15.3%と、65.9%の企業が従業員への利益還元を実施するこ
が、「ベースアップ」との回答も51.7%と半数近くを占めてお
ととしている(図111-16)。また、企業規模別に見ると、「す
り、月額給与でも還元する意向が確認できる(図111-18)。
でに実施した」では大企業55.8%、中小企業50.3%と若干大
また、2015年度の賃上げ率の見通しを尋ねたところ、
「増
企業が多いものの、
「予定している」を含めた合計値では大企
加」2.9%、
「若干の増加」53.7%と増加させる見通しの企業が
業64.5%、中小企業66%と中小企業の方が大企業を上回る結
56.6%を占めており、引き続き更なる好循環が進んでいくこ
果となった(図111-17)。経済の好循環が大企業だけではな
とが予想される(図111-19)
。さらには、春闘において、軒
く、中小企業にも及ぶことが期待される。また、2013年度以
並み昨年のベア実績を上回る回答がされた(図111-20)。
図111‒16 従業員への利益還元の実施有無(2014年度)
我が国製造業の足下の状況認識
(%)
6.0
有効求人倍率(右軸)
図111-15 製造業の所得環境の動向(現金給与総額)
節
完全失業率(左軸)
第
図111‒14 雇用環境の動向(完全失業率、有効求人倍率)
図111‒17 従業員への利益還元の実施有無(企業規模別)
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
分からない
10.7%
予定していない
23.3%
(n=4,154)
中小企業
すでに実施した
50.6%
予定している
15.3%
(n=206)
大企業
50.3%
55.8%
15.7%
23.2%
10.8%
8.7%
25.7%
9.7%
すでに実施した 予定している 予定していない
(n=4,382)
分からない
資料:経済産業省調べ
(2014年12月) 資料:経済産業省調べ
(2014年12月)
9
図111-18 従業員への利益還元方針
図111‒19 2015年度の賃上げ率の見通し
減少 1.4% 増加 2.9%
若干の減少 2.4%
(n=2,887)
0%
10%
20%
30%
40%
ベースアップ
50%
60%
70%
80%
51.7%
賞与
81.7%
基本給・賞与
以外の手当
10.2%
給与以外の
福利厚生
その他
90%
(n=4,380)
据え置き
39.6%
9.9%
若干の増加
53.7%
2.1%
資料:経済産業省調べ
(2014年12月)
資料:経済産業省調べ
(2014年12月)
図111–20 春闘の主な企業の回答状況
トヨタ自動車
日産自動車
本田技研
日立製作所
三菱電機
ベア
6,000円
6,000円
6,000円
6,000円
6,000円
ジーエス・ユアサ
東レ
旭化成
カルビー
住友ゴム
TOTO
ニトリ
NTT
9,000円
5,785円
6,737円
6,000円
2,884円
4,000円
8,101円
6,000円
要求
一時金
6.8か月
5.7か月
5.9か月
5.9か月
6.14か月
ベア
4,000円
5,000円
3,400円
3,000円
3,000円
5.4か月
-
-
-
-
-
-
-
2,000円
2,600円
3,540円
6,000円
3,121円
4,000円
5,222円
2,400円
回答
一時金
6.8か月
5.7か月
5.9か月
5.72か月
6.03か月
ベア
2,700円
3,500円
2,200円
2,000円
2,000円
5.2か月
-
-
-
-
-
-
-
1,000円
1,800円
2,520円
0円
2,864円
3,000円
2,173円
1,600円
昨年実績
一時金
6.8か月
5.6か月
5.9か月
5.62か月
5.74か月
※その他、パナソニック、東芝、富士通、NEC も、6000円のベア要求に対して、3000円の回答。( 昨年度のベア実績は2000円 )
5.12か月
-
-
-
-
-
-
-
資料:2015年3月18日時点の連合及び金属労協等の公表資料を基に作成
最後に、東証一部上場企業(製造業)の2014年度通期の
収益実績について見ると、56.6%の企業が増収増益であった
図111-21 東証一部上場企業(製造業)の2014年度通期収益実績
(図111-21)。日銀短観(図111-7)によれば、中小企業につ
いても業況改善に兆しが見えてきたものの、全国津々浦々の中
小企業にまでその兆しが見られるわけではない。大企業の増益
減収減益
17.9%
が全国の中小企業の利益増加に結び付くことが期待される。
減収増益
6.4%
増収増益
56.6%
増収減益
19.0%
備考:2015年5月18日時点。
資料:日経NEEDS(
(株)
日本経済新聞デジタルメディア)
の企業財務データを
基に集計。
10
第1章|我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
第
図112-1 経常収支の推移
経常収支の黒字縮小と稼ぎ方の変化
1
節
2.
(兆円)
我が国の経常収支注1黒字は2011年以降4年連続で縮小して
30
おり、直近2014年では2.6兆円と、比較可能な1985年以降過
我が国製造業の足下の状況認識
去最小の黒字となった(図112-1)。長らく我が国の経常収支
25
黒字は、製造業が輸出により稼ぐ貿易収支黒字が中心であった
11.9
20
が、グローバル化に伴う我が国企業の海外進出や海外の株式・
債券などへの投資が活発化したことにより、それらの収益であ
15
る第一次所得収支の拡大が続いており、これが経常収支の黒字
10
を支える構造となっている。
5
一方で、貿易収支は2011年に赤字転落したのち、その赤字
幅を拡大している。貿易収支赤字の要因には、原子力発電所
12.7
11.8
る輸出の伸び悩みなどが挙げられる。
製造業による経常収支への貢献という観点では、輸出による
-1.1
-0.3
-2.8
-1.1
-2.7
-1.1
-0.8
17.2
4.8
-1.1
3.9
-8.8
-3.5
-1.0
-15
大に伴う海外子会社からの配当(第一次所得収支)や特許権使
2000
05
10
11
18.1
2.6
-4.3
-3.8
-10
貿易収支への貢献が注目されがちであるが、海外現地生産の拡
14.0
14.6
9.5
-4.1
-5.3
-5
13.6
10.4
0
の稼働停止に伴う化石燃料の輸入拡大や海外景気の低迷によ
19.4
18.7
7.7
14.1
12
13
-10.4
-3.1
-2.0
14
(暦年)
用料・ロイヤリティ収入(サービス収支)といった貢献もあ
第二次所得収支 第一次所得収支 サービス収支
貿易収支 経常収支
る。このように我が国製造業の事業展開の変化が経常収支の構
造に影響を与えていることから、ここでは製造業の観点から我
資料:財務省・日本銀行「国際収支統計」
が国経常収支の構造変化を分析する。
(1)長らく貿易収支を支えて来た我が国製造業
12.8兆円の貿易赤字を計上した(図112-2)
。4年連続の貿易
経常収支の黒字縮小の最大の要因は貿易収支の赤字拡大にあ
赤字となり、また現行の貿易統計システムにおいて比較可能な
る。直近2014年、我が国の貿易収支(「貿易統計」ベース)は、
1979年以降では最大となる赤字額を記録した。
図112‒2 貿易収支の推移
貿易黒字
(兆円)
40
輸送用機器
30
20
9.4
7.8
10
13.1
13.6
7.1
4.5
10.7
6.6
7.7
8.7
12.3
8.5
6.6
12.7
13.5
13.9
3.6
3.0
1.7
8.8
1.1
7.8
7.4
7.5
0
-10
電気機器
一般機械
原料別製品
-2.6
-8.2
化学製品
-6.9
-14.1
-20
-11.5
-16.3
-20.6
-23.1
-25.9
鉱物性燃料
-12.8
原料品
-26.2
貿易赤字
-30
-40
-50
その他
2000
05
10
11
12
13
食料品
収支総額
14 (暦年)
備考:品目の分類は、
「貿易統計」
の概況品ベース。
資料: 財務省「貿易統計」
注1 我が国の国際収支統計は2014年1月の公表分から、IMF 国際収支マニュアル第6版に準拠した統計に移行しており、主要項目の組み替えや表記方法、
計上基準などの変更が行われている。従来の「所得収支」は「第一次所得収支」、
「経常移転収支」は「第二次所得収支」へと項目名が変更されている。
本白書では原則、移行後の統計を用いる。
11
主要な品目別(「貿易統計」の概況品ベース)に貿易収支
去最大の赤字となった。一方で、原油価格が年後半に下落し、
を見ると、赤字に寄与した要因は「鉱物性燃料」
「食料品」
「原
輸入数量も減少に転じたため、赤字拡大幅は0.3兆円に留まっ
料品」などであるが、特に「鉱物性燃料」の寄与が大きい。
た(図112-3・4)
。
2014年の「鉱物性燃料」の貿易赤字額は26.2兆円となり、過
図112‒3 エネルギー価格の推移 (ドル/百万 Btu)
25
図112‒4 エネルギー輸入量の推移
(ドル/ 1 バレル)
160
140
20
120
100
15
80
10
(万トン)
10,000
(億キロリットル)
2.5
2.4
9,000
2.3
8,000
2.2
7,000
2.1
60
40
5
20
0
0
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 (年)
液化天然ガス
(左軸)
原油
(右軸)
備考:1.液化天然ガスはインドネシア産液化天然ガスの
1百万Btu(英国熱量単位)
あたりドル価格。
2.原油は米国産WTI原油の1バレルあたりドル価格。
資料:IMF
「Primary Commodity Prices」
一方、黒字に寄与した要因を見ると、
「輸送用機器」
「電気機器」
「一般機械」
「原料別製品」
「化学製品」であり、製造業に関連する
分野が占めている。この5品目のうち、特に「輸送用機器」
「一般
2.0
6,000
1.9
5,000
1.8
4,000
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
液体天然ガス
(左軸)
原油(右軸)
備考:1.液化天然ガスはHSコード「271111000」
。
2.原油は HSコード
「270900900」。
資料:財務省「貿易統計」
を稼ぎ出してきたことから、
「輸出の三本柱」とも言える。以下
では、我が国の輸出に占めるウェイトの高い「輸送用機器」
「一般
機械」
「電気機器」について詳細を分析していく。
機械」
「電気機器」の主要3品目は長年にわたり我が国の貿易黒字
コラム
原粗油輸入額等の減少により、貿易収支は49か月ぶりの黒字計上
2011年に赤字となり、以後年々赤字幅を拡大している貿易収支について、足下では改善の動きが見られる。速報値で
はあるが、2015年3月の貿易統計は原粗油輸入額の大幅減少等により、49か月ぶりの貿易黒字を計上した(原数値では
2,293億円の黒字かつ33か月ぶりの黒字)
(図1)。貿易収支前期差の要因分解をすると、2015年第1四半期には、輸出価格
はマイナス寄与であるものの、他の要素はプラス寄与、特に輸入価格の下落が黒字計上に大きく寄与している(図2)
。
また、国・地域別輸出数量指数の推移を見ると、米国向けを筆頭に、軒並み好調に推移している(図3)
。さらに、今回
の黒字計上の最大の要因となった原粗油であるが、輸入価格は2014年10月に前年同月比マイナスとなって以降、下落傾向
で推移している(図4)。ただし、原粗油輸入価格は足下では下げ止まりつつあることから、4月以降の貿易収支に与える影
響は小さくなる可能性がある。
12
1.7
第1章|我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
第
図2 貿易収支の要因分解(前期差)
備考:季節調整値
資料:財務省
「貿易統計」
(前期差、兆円)
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
-0.5
-1.0
-1.5
輸入価格要因
-2.0
輸出数量要因
-2.5
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
2013
(2010=100)
100
90
80
70
総合
アメリカ
EU
Q2
Q3
2014
Q4
Q1
2015
(年 期)
図4 原粗油輸入の推移
110
60
輸入数量要因
輸出価格要因
貿易収支(前期差)
備考:季節調整値
資料:財務省
「貿易統計」
、
内閣府資料より作成
図3 国・地域別輸出数量指数の推移
我が国製造業の足下の状況認識
(兆円)
(兆円)
9
5
8
4
7
3
6
2
5
1
33億円の黒字
4
0
3
-1
2
-2
1
-3
貿易収支(右軸) 輸出額
輸入額
0
-4
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1112 1 2 3
2013
2014
2015
120
1
節
図1 貿易額の推移
アジア
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1112 1 2 3
13
14
15
備考:季節調整値
資料:財務省
「貿易統計」
(前年同月比)
(10億円)
輸入金額
40%
2,000
数量(伸び率)
30%
価格(伸び率) 1,800
20%
1,600
10%
1,400
0%
1,200
-10%
1,000
-20%
800
-30%
600
-40%
400
-50%
200
-60%
0
1 2 3 4 5 6 7 8 910 1112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3
2013
2014
2015
備考:原数値
資料:財務省
「貿易統計」
①高水準の黒字を維持するもののグローバル最適地生産のもと
図112‒5 「輸送用機器」
の貿易収支の推移
に輸出数量は横ばいで推移する「輸送用機器」
その他
貿易赤字が拡大する一方で、「輸送用機器」は引き続き高水
航空機類
準の貿易黒字を維持している(図112-5)。「輸送用機器」の
貿易収支を主要地域別に分けると、2014年では米国向け黒字
が4.5兆円と最大の比率を占めている。2010年と2014年を比
較すると、
「輸送用機器」の貿易黒字額はほぼ横ばいであるが
(2010年:13.6兆円→2014年:13.9兆円)、地域別では財政
危機等に伴う景気低迷から対欧州黒字が大きく減少している一
方(1.1兆円→0.4兆円)、対米国黒字(3.4兆円→4.5兆円)及
び対中東黒字(1.3兆円→1.8兆円)が拡大することでカバー
していることがわかる。このように「輸送用機器」においては、
船舶
(兆円)
20
15
自動車の部分品
0.9
1.3
10
5
自動車
0.7
17.8
2.0
13.1
2.4
輸送用機器
0.3
2.2
2.4
13.6
2.6
0.3
1.4
13.5
8.6
1.3
2.8
2.7
9.3
9.8
13.0
9.0
0.3
13.9
米国市場への依存度が高まっている(図112-6)。
0
-5
-0.4
-0.3
-0.1
-0.3
-0.2
2005
2008
2010
2013
2014(暦年)
備考:概況品コード
「705」
(輸送用機器)
と主な構成品の推移。
資料: 財務省「貿易統計」
13
図112‒6 「輸送用機器」
の主要地域別推移
(兆円)
20
その他
18
16
ロシア
5.2
中東
14
12
1.3
10
2.0
8
1.0
0.8
0.7
6
2.0
4
2
0
4.8
2008
4.5
4.1
4.2
0.5
1.3
1.1
0.7
1.1
1.1
0.6
0.9
1.1
0.6
1.0
0.9
0.7
1.3
2.6
3.4
3.1
3.6
2009
2010
2011
2012
3.5
0.2
0.9
0.9
0.6
0.7
1.0
1.2
0.5
0.8
0.4
4.1
4.0
ASEAN
0.7
1.5
0.6
ASIA NIES
1.8
1.2
0.5
0.8
0.2
1.0
0.6
0.9
0.4
4.5
4.5
2013
2014
中国
EU
米国
(暦年)
備考:概況品コード
「705」
(輸送用機器)。
資料: 財務省「貿易統計」
なお、為替が円安方向へ推移する一方で、輸出物価指数(契
約通貨ベース)は横ばいで推移している(図112-7)。また、
(図112-8)
。為替に左右されず、円安下でも価格を維持しなが
ら輸出を支えていることがうかがえる。
鉱工業出荷(輸出)についても、ほぼ横ばいで推移している
図112-8 輸送用機器の鉱工業出荷(輸出)
の推移
図112‒7 輸送用機器の輸出物価指数の推移(契約通貨ベース)
110
(2010=100)
140
(2010=100)
130
105
120
110
100
100
90
95
80
90
85
70
総平均
輸送用機械
60
50
鉱工業
輸送用機器
40
20
12
20 01
12
20 02
12
20 03
12
20 04
12
20 05
12
20 06
12
20 07
12
20 08
12
20 09
12
20 10
12
20 11
12
20 12
13
20 01
13
20 02
13
20 03
13
20 04
13
20 05
13
20 06
13
20 07
13
20 08
13
20 09
13
20 10
13
20 11
13
20 12
14
20 01
14
20 02
14
20 03
14
20 04
14
20 05
14
20 06
14
20 07
14
20 08
14
20 09
14
20 10
14
20 11
14
20 12
15
20 01
15
20 02
15
03
80
資料:日 本 銀 行 「 企 業 物 価 指 数 」
一方で、グローバル最適地生産(いわゆる地産地消)の動き
状においては、海外市場向けの国内生産設備の投資拡大は見
に変化はなく、今後も輸出数量は横ばいが続くものと見込まれ
られず、今後も当面はこの流れが続くことが予想される(図
る。2013年の日本メーカーの国内生産台数は963万台に対し
112-9)
。
て、国内市場は508万台である。地産地消の考え方に即し、現
14
備考:1.季節調整値。 2.
「輸送用機器」
は、
「輸送機械工業」。
資料:経済産業省「鉱工業出荷内訳表」
第1章|我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
第
図112–9 世界の自動車市場における我が国自動車産業の位置づけ
節
1
঩মও‫ش‬ढ़‫ش‬
਼ੀ৘ৃ
୿ਲ਼‫ڭڵڳ؜ڳ‬ਐ઎‫كگڭڬڮق‬
ୟল
েਓ‫ڮڴڮ؜ڴ‬ਐ઎‫كڮڭڬڮق‬
‫ڳڲڰ‬ਐ઎
ব৔েਓ
我が国製造業の足下の状況認識
঩মও‫ش‬ढ़‫ ش‬
়ੑ
‫ڮ‬,‫ڵگڲ‬ਐ઎
‫گڲڵ‬ਐ઎
ব৔৘ৃ਱ऐ
अठਲਗ৘ৃ
‫ڲڵڰ‬ਐ઎
ਲਗেਓ
‫ڮ‬,‫ڲگڭ‬ਐ઎
‫ڭ‬,‫ڲڳڲ‬ਐ઎
अठব৔৘ৃ
঩মও‫ش‬ढ़‫ش‬पेॊୟো
‫ڳ‬ਐ઎
‫ڴڬڱ‬ਐ઎
資料:日本自動車工業会、Fourin 世界自動車調査月報、マークラインズ ( 株 ) 自動車ポータルの2013年データを元に経済産業省作成
②国内基盤を維持しつつ輸出で稼ぐ「一般機械」
(パソコンなど)は貿易赤字が拡大している。2010年に8.5兆
「一般機械」は機械系を中心とする幅広い製品を含んでおり、
製品分野によっては貿易黒字を維持しているものの、電算機類
円であった「一般機械」の貿易黒字は、直近の2014年には7.5
兆円へと減少した(図112-10)
。
図112‒10 「一般機械」
の貿易収支の推移
(兆円)
12
10
その他
9.9
8.5
8
半導体等製造装置
3.1
3.7
6
1.2
4
0.8
0
0.8
1.1
1.1
0.8
0.8
建設用・鉱山用機械
ポンプ・遠心分離機
0.7
0.7
0.8
1.0
1.2
1.1
0.7
0.7
0.7
電算機類の部分品
1.6
1.7
1.7
1.6
電算機類(含周辺機器)
-1.1
-1.1
-1.6
-1.8
1.1
2
3.2
1.2
1.5
加熱用・冷却用機器
7.5
7.4
3.2
0.8
金属加工機械
原動機
一般機械
-2
-4
2008
2010
2013
2014
(暦年)
備考:概況品コード
「701」
(一般機械)
と主な構成品の推移。一部の構成品について2005年まで遡れないため、2008年分から掲載。
資料: 財務省「貿易統計」
主な構成品について2010年から2014年の変化を見ると、
最も貿易収支黒字の縮小に影響を与えているのは「電算機類
(含周辺機器)
」である。貿易赤字額が約0.7兆円拡大(2010
は海外の生産拠点からの逆輸入や海外製品の輸入拡大等が寄与
しているものと考えられる。なお、このうち約0.4兆円程度を
ノートパソコンが占めている(図112-12)
。
年:-1.1兆円→-1.8兆円)しているが(図112-11)
、これ
15
図112‒11 「電算機類(含周辺機器)」
の貿易収支の推移
図112‒12 ノートパソコンの貿易収支の推移
(兆円)
(兆円)
1.0
輸入
輸出
0.5
0.2
0.0
0.0
-0.5
-0.2
-1.0
-0.9
-1.1
-0.31
-1.1
-1.2
-1.3
-1.8
-0.54
-0.57
-0.71
-0.8
-2.0
収支
-0.44
-0.6
-1.6
輸出
-0.30
-0.4
-1.5
-2.5
輸入
0.4
収支
-0.85
-1.0
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2008
2014 (暦年)
2009
2010
2011
2012
2013
2014(暦年)
備考:HS コード「847130000」をノートパソコンと見なして集計。
資料:財務省「貿易統計」
備考:概況品コード
「7010505」。
資料:財務省
「貿易統計」
その次に、貿易黒字縮小への影響が大きいのは「半導体等製
には「シリコンサイクル」と呼ばれる景気循環が存在すると
造装置」であり、貿易黒字が約0.4兆円縮小(2010年:1.5兆
されており、2010年から2011年にかけて設備投資が盛り上
円→2014年:1.1兆円)している(図112-13)。半導体産業
がった反動減の影響が出ている。
図112‒13 「半導体等製造装置」
の貿易収支の推移
(兆円)
2.0
輸入 輸出 収支
1.5
1.0
1.5
1.4
1.2
1.0
1.1
1.1
0.7
0.5
0.0
-0.5
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014(暦年)
備考:概況品コード
「70131」。
資料:財務省
「貿易統計」
その他の構成品について、その動向を見ると、「原動機」は
引き続き高水準の貿易黒字を安定的に維持している(図11214)。
「金属加工機械」はリーマンショックに伴って大きく落ち込
んだ後、順調に回復を続けており、2013年に一旦落ち込んだ
16
ものの、2014年は反転している(図112-15)。特に、マシニ
ングセンターが好調で、東南アジア向けの輸出が増加している
(図112-16)
。「建設用・鉱山用機械」についても伸び悩んで
いたものの、2014年は反転した(図112-17)
。
第1章|我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
図112‒15 「金属加工機械」
の貿易収支の推移
輸入 輸出 収支
(兆円)
1.6
1.7
1.6
1.5
1.7
1.7
1.6
0.2
-0.5
0.0
-1.0
-0.2
-1.5
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014(暦年)
備考:概況品コード
「70101」。
資料:財務省
「貿易統計」
-0.4
(兆円)
0.6
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014(暦年)
備考:概況品コード
「70107」。
資料:財務省
「貿易統計」
図112‒16 「マシニングセンター」
の貿易収支の推移
図112‒17 「建設用・鉱山用機械」
の貿易収支の推移
(兆円)
1.4
輸入 輸出 収支総額
1.2
0.5
0.4
0.4
0.3
1.2
0.3
0.2
0.8
0.9
0.9
0.8
0.8
0.6
0.5
0.4
0.1
0.1
輸入 輸出 収支
1.0
0.8
0.4
0.2
0.2
0.0
-0.1
1.2
1.0
0.5
0.4
0.0
1.2
0.8
0.6
0.5
0.3
1.1
0.8
1.2
1.0
1.1
1.0
1.6
我が国製造業の足下の状況認識
1.2
2.0
0.5
輸入 輸出 収支
1.4
2.5
1
節
(兆円)
3.0
第
図112‒14 「原動機」
の貿易収支の推移
0.0
2008
09
10
11
12
13
14(暦年)
備考: HSコード
「845710」。
資料:財務省
「貿易統計」
-0.2
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014(暦年)
備考:概況品コード
「(輸出)
70119、
(輸入)
70117」
。
資料:財務省「貿易統計」
「一般機械」における貿易収支の黒字縮小は、主に「電算機
価は横ばいで推移しているものの(図112-18)、米国向け工
類(含周辺機器)」や「半導体等製造装置」といったエレクト
作機械などが堅調ということもあり、鉱工業出荷(輸出)は増
ロニクス産業に関連する製品分野が要因である。
加傾向にある(図112-19)。円安下でも価格を維持しながら
一方で、工作機械・産業機械といった一般機械では、輸出物
輸出を拡大する構造となっている。
図112‒19 一般機械の鉱工業出荷( 輸出)
の推移
図112‒18 一般機械の輸出物価指数の推移
(契約通貨ベース)
110
(2010=100)
140
(2010=100)
130
105
120
110
100
100
90
95
80
90
70
総平均
85
一般機械
60
鉱工業
50
一般機械
40
20
12
20 01
12
20 02
12
20 03
12
20 04
12
20 05
12
20 06
12
20 07
12
20 08
12
20 09
12
20 10
12
20 11
12
20 12
13
20 01
13
20 02
13
20 03
13
20 04
13
20 05
13
20 06
13
20 07
13
20 08
13
20 09
13
20 10
13
20 11
13
20 12
14
20 01
14
20 02
14
20 03
14
20 04
14
20 05
14
20 06
14
20 07
14
20 08
14
20 09
14
20 10
14
20 11
14
20 12
15
20 01
15
20 02
15
03
80
備考:
「一般機械」
は
「はん用・生産用・業務用機器」
。
資料:日本銀行「企業物価指数」
備考:1.季節調整値。
2.
「一般機械」
は、
「はん用・生産用・業務用機械工業」
。
資料:経済産業省「鉱工業出荷内訳表」
17
③通信機、音響映像機器で苦戦する「電気機器」
兆円)しており、また「半導体等電子部品」の黒字額が約1.2
エレクトロニクスを中心とする「電気機器」は、主要3品目
兆円縮小(2010年:+2.0兆円→+0.8兆円)している。
「通
の中で最も貿易黒字の縮小幅が大きい。直近2014年の貿易黒
信機」と「半導体等電子部品」で合わせて約2.8兆円程度、貿
字は約1.1兆円に留まっており、2010年に比べると約8割減少
易黒字の縮小に寄与しており、同期間における「電気機器」の
している(図112-20)。
黒字額の縮小額は約3.4兆円であることから、この2品目が大
2010年と2014年の主な構成品の変化を見ると、「通信機」
半を占めていることがわかる。
の貿易赤字額が約1.6兆円拡大(2010年:-0.6兆円→-2.2
図112‒20 「電気機器」
の貿易収支の推移
(兆円)
8.0
6.0
4.0
7.1
6.7
2.5
2.6
0.7
0.1
0.2
0.7
0.3
2.2
1.2
0.7
0.3
2.1
2.0
-0.2
-0.1
-0.6
1.6
4.5
2.0
2.1
0.0
1.8
0.8
1.7
0.3
1.1
-0.1
0.8
1.1
0.3
0.8
-0.2
-2.1
-2.2
-2.0
-4.0
2005
2008
2010
その他
電気計測機器
通信機
重電機器
音響映像機器
(含部品)
半導体等電子部品
電気機器
1.7
2013
2014(暦年)
備考:概況品コード
「703」
(電気機器)
と主な構成品の推移。
資料:財務省「貿易統計」
このうち、
「通信機」を更に分析すると、携帯電話の大幅な輸
入拡大が貿易収支の縮小に寄与していることが分かる(図112-
アを占める構造へと変化している。足下では赤字拡大幅は縮小
しているものの、この傾向は今後も続くことが想定される。
21)
。携帯電話は、2010年から2014年にかけて輸入額が1.3兆
次に、
「半導体等電子部品」を見てみると、
「半導体等電子部
円拡大する一方、輸出がほとんど無いため、輸入拡大が貿易収
品」に分類される「太陽電池・LED」において輸入が増加する
支の赤字拡大に直結している。近年の携帯電話市場では、スマー
ことにより、貿易収支が0.8兆円赤字方向に変化している(図
トフォンと呼ばれる高機能の携帯電話が急速に普及しており、
112-22)
。中国製太陽光パネルの輸入が増加したこと、欧州
世界的に高い人気を持つ海外企業のスマートフォンが我が国で
市場が縮小したことによる輸出減少が主な要因である。
も高いシェアを有している。また我が国の企業も、携帯電話の
このように、「電気機器」では、携帯電話や太陽電池など特
生産の海外移管や海外の EMS 企業(製造受託企業)への生産
定製品の輸入増加が貿易収支の黒字縮小の主な要因となって
委託を進めており、結果として携帯電話は輸入品が大きなシェ
いる。
図112‒21 携帯電話の貿易収支の推移
図112‒22 太陽電池・LEDの貿易収支の推移
(兆円)
0.2
(兆円)
0.8
0.0
-0.2
-0.4
0.6
-0.2
0.4
-0.3
-0.8
0.3
0.2
0.0
-1.2
-0.2
-0.4
-1.1
-0.4
-0.6
-1.4
-0.8
-1.6
輸入
-1.8
輸出
-1.6
収支
-1.7
-2.0
08
09
10
11
12
備考:HSコード
「851712000」
を携帯電話として集計。
資料:財務省
「貿易統計」
18
0.4
-0.2
-0.7
-1.0
0.3
0.2
-0.4
-0.6
0.5
13
14 (暦年)
輸入
-1.0
輸出
収支総額
-1.2
2008
09
10
11
12
備考:HSコード
「854140」
を太陽電池・LEDとして集計。
資料:財務省「貿易統計」
13
14 (暦年)
第1章|我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
なお、電気機器の輸出物価指数(契約通貨ベース)は減少傾
24)
。また、鉱工業出荷(輸出)は足下で持ち直しの兆しが見
群(デジカメ、ビデオカメラ、オーディオ類等)の市場規模は
受けられる(図112-25)
。さらに、電気機器の鉱工業出荷(輸
大幅に縮小しており、同時に黒字幅も縮小している(図112-
出)の内訳を見ると、電気機械工業、電子部品・デバイス工業
23)
。
の輸出が比較的好調であることがうかがえる(図112-26)
。
図112‒24 電気機器の輸出物価指数の推移
(契約通貨ベース)
図112‒23 デジタルカメラの貿易収支の推移
(兆円)
1.4
1.0
110
1.1
輸入
0.8
0.7
0.6
0.7
0.5
輸出
(2010=100)
105
収支
100
0.6
0.4
0.4
0.3
0.2
0.0
95
90
-0.2
-0.4
1
我が国製造業の足下の状況認識
向で推移してきたが、足下では横ばいで推移している(図112-
これらの新製品に機能を統合された日本の最も得意とする製品
節
な製品が現れ、短期間でグローバル市場規模を大幅に拡大し、
1.2
第
なお、スマートフォンとタブレットという革新的かつ多機能
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014(暦年)
85
総平均
電気機器
備考:HSコード
「852580000」
をデジタルカメラとして集計。
資料:財務省
「貿易統計」
Ja
n-1
Fe 2
b-1
Ma 2
r-1
Ap 2
r-1
Ma 2
y-1
Ju 2
n-1
Ju 2
l-1
Au 2
g-1
Se 2
p-1
Oc 2
t-1
No 2
v-1
De 2
c-1
Ja 2
n-1
Fe 3
b-1
Ma 3
r-1
Ap 3
r-1
Ma 3
y-1
Ju 3
n-1
Ju 3
l-1
Au 3
g-1
Se 3
p-1
Oc 3
t-1
No 3
v-1
De 3
c-1
Ja 3
n-1
Fe 4
b-1
Ma 4
r-1
Ap 4
r-1
Ma 4
y-1
Ju 4
n-1
Ju 4
l-1
Au 4
g-1
Se 4
p-1
Oc 4
t-1
No 4
v-1
De 4
c-1
Ja 4
n-1
Fe 5
b-1
Ma 5
r-1
5
80
備考:
「電気機器」
は
「電気・電子機器」。
資料:日本銀行
「企業物価指数」
図112-25 電気機器の鉱工業出荷(輸出)
の推移
140
(2010=100)
図112-26 電気機器の鉱工業出荷(輸出)
の推移(内訳)
140
130
130
120
120
110
110
100
100
90
90
80
80
70
70
60
50
鉱工業
60
電気機器
50
40
備考: 1.季節調整値。
2.
「電気機器」
は
「電子部品・デバイス工業」
、
「電気機械工業」
、
「情報通信機械工業」
の合計。
資料:経済産業省「鉱工業出荷内訳表」
(2010=100)
鉱工業
電子部品・デバイス工業
電気機械工業
情報通信機械工業
40
備考:季節調整値。
資料:経済産業省「鉱工業出荷内訳表」
19
コラム
グローバル市場の拡大を背景に着実に輸出を伸ばす航空機部品、好循環は中堅・中小企業にも
航空機のグローバル市場が伸びるのに比例して、着実に輸出を伸ばしているのが航空機部品。航空機関連各社は、航空機及び
航空機部品増産のために、中部地方を中心に設備増強を実施。また、中部以外においても、三菱重工業(株)は下関造船所・広
島製作所・神戸造船所、
(株)IHI は相馬工場でも、設備を増強する動きがある。この流れは今後も継続することが見込まれ、大
企業のみならず、部品・部材を供給する中堅・中小企業においても、設備投資や雇用増加を行う企業が出てくる等、好循環が生
まれつつある。
例えば、航空機のチタン部材の加工に強みを有する(株)ウ
ラノ(埼玉県児玉郡)では、2016年2月稼働を目途に長崎工場
航空機用タービンブリスク
に約13億円の追加投資を実施中。また、増産にむけて、2015
年からの3年間で100名程度の雇用増加を検討中。長崎は造船
が栄えた地域でもあり、技術的な素養の高い人材が多いという
ことである。
今後は MRJ の量産、新規取込のボーイング777X、エアバ
ス A320neo 搭載エンジン PW1100G などが徐々に量産化し、
航空機部品の売上比率も現在の40%から2018年には50% を
超える見込みである。
伸びゆく市場を着実に取り込み、我が国輸出を牽引する産業
に成長することが期待される。
資料:(株)ウラノ
コラム
トップセールスと円安を背景に受注を伸ばすインフラ輸出
新興国の成長を取り込み、我が国経済の活性化につなげるため、インフラシステムの海外展開を後押しすることは成長戦
略の重要な柱である。2013年におけるインフラ受注は、総理・閣僚によるトップセールス、円借款を中心とした新制度の
導入などにより、着実に増加している。また、足下の円安により、コスト競争力が高まり、受注獲得につながる事例が増え
ている。
例えば、2015年2月に三菱重工業(株)、三菱商事(株)
、
(株)日立製作所、近畿車輌(株)
、Thales(仏)の5社連合が、
都市交通システムとしては世界最大規模のプロジェクトで
あるドーハメトロの受注内示を獲得したが、トップセール
スに加え、最終局面で、欧州大手のアンサルド STS(伊)、
CAF(西)連合と価格競争を強いられたものの、円安でコ
スト競争力が高まった結果として、最終的な受注内示の獲
得につながった。
今後も、
「インフラシステム輸出戦略」に掲げた、トップ
セールスや公的ファイナンス・技術協力等の政策支援ツー
ルの有効活用等の各種施策の実行を通じ、「2020年に約30
兆円のインフラシステムの受注(事業投資による収入額等
を含む)」を目指していく。
日カタール首脳立ち会いによる日本コンソーシアムの受注確認文書の交換
資料:首相官邸 HP
20
第1章|我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
が国の第一次所得収支及びサービス収支の動向を分析する。
①直接投資収益を中心に増加する第一次所得収支
ら、市場に近いところで生産する、地産地消の流れは今後も継
いており、18.1兆円と過去最大の黒字を計上している(1996
続していくものと考えられる。輸出以外に海外事業展開を通じ
年以降)
。海外の株式や債券など有価証券投資に対する収益で
て国富を得る、つまりは貿易収支に依存して稼ぐだけでなく第
ある「証券投資収益」が直近の2014年では11兆円と全体の約
一次所得収支及びサービス収支でも稼ぐことが求められてい
6割強を占めているが、海外現地法人の収益である「直接投資
る。
収益」も6.5兆円と年々拡大が続いている(図112-27)
。第一
次所得収支に占める直接投資収益の割合は、2000年時点では
対外直接投資として認識され、その海外現地法人の収益は直接
23%であったが、2014年では36%へと上昇しており、直接
投資収益として第一次所得収支に計上される。また、海外現地
投資収益の位置づけの重要性は年々高まっていると言える。直
法人に対して特許権などの知的財産権の使用を認めると、その
接投資収益の業種別内訳を見ると、製造業全体では2014年第
対価として日本の本社が受け取るロイヤリティはサービス収支
3四半期で1.2兆円と第1四半期から0.6兆円増加している。特
に計上される。第一次所得収支及びサービス収支は経常収支の
に、輸送機械器具で0.2兆円増加しており、全体を引っ張って
主要な構成要素であるが、以下では製造業の観点を交えつつ我
いる(図112-28)
。
図112‒27 第一次所得収支の推移
図112‒28 対外直接投資収益(業種別)
(%)
40.0
(兆円)
20.0
(億円)
25,000
35.0
15.0
2,362
30.0
25.0
10.0
20,000
1,884
20.0
5.0
15.0
10.0
0.0
-5.0
1
我が国製造業の足下の状況認識
第一次所得収支は、海外資産の増加を背景に拡大基調が続
節
製造業の海外展開が進み、従来の「国内生産・海外輸出」か
企業が工場など海外現地法人を開設するために投資を行うと、
第
(2)‌海外展開に伴い所得・サービス収支でも稼ぐ
我が国製造業
4,137
15,000
5.0
2000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14
(暦年)
その他投資収益
証券投資収益
直接投資収益
雇用者報酬
第一次所得収支
第一次所得収支に占める直接投資収益の比率
(右軸)
10,000
2,622
1,307
565
1,909
1,687
資料: 財務省・日本銀行「国際収支統計」
なお、2014年の直接投資収益6.5兆円はネットの金額であ
0
4,084
1,032
1,724
884
782
1,451
806
541
478
1,390
1,153
Ⅰ
Ⅱ
り、我が国企業が海外で稼いだ収益8.2兆円から海外企業が我
が国で稼いだ利益1.7兆円を差し引いたものである(図11229)
。また、我が国企業が海外で稼いだ収益8.2兆円のうち、日
本国内へ還元されたのは5.6兆円である。一方、2.6兆円は海
外で再投資されているが、国内へ還元される金額は年々増加し
ている(図112-30)。
2,526
4,162
2,105
5,000
3,894
1,240
2,084
0.0
3,433
1,962
1,123
537
2,134
Ⅲ
2014 年
化学・医薬
電気機械器具
鉱業
その他非製造業
鉄・非鉄・金属
輸送機械器具
卸売・小売業
一般機械器具
その他製造業
金融・保険業
資料:財務省・日本銀行「国際収支統計」
図112‒29 海外での収益の使途( 直接投資収益の内数)
「直接投資収益」
+6.5 兆円
海外での再投資
(+2.6 兆円)
日本企業が海外で得た利益
(+8.2 兆円)
国内への利益還元
(+5.6 兆円)
海外企業が日本で得た利益
(+1.7 兆円)
備考:1.
「海外での再投資」
は、国際収支統計の直接投資収益の内訳である
「再投資収益」
の受取額。
2.
「国内への利益還元」
は、同「配当金・配分済支店収益」
の受取額。
「海外企業が日本で得た利益」
は、
同「再投資収益」及び
「配当金・配分済支店収益」
の支払額の合計。
3.
資料: 財務省・日本銀行「国際収支統計」
21
②サービス収支の赤字縮小に製造業が海外から得た知的財産権
図112‒30 国内への利益還元の推移
(兆円)
6.0
等使用料も貢献
5.6
国内への利益還元
5.0
サービス収支の赤字は2年連続で縮小している。直近2014年
の赤字額は3.1兆円であり、2000年以降では2.2兆円縮小して
いる(図112-31)
。この間旅行収支の赤字縮小額は3兆円であ
4.0
ることから、サービス収支の赤字幅縮小には旅行収支が大きく
3.0
寄与していることが分かる(図112-32)
。3兆円の旅行収支の
2.0
改善額のうち、支払の減少が1.4兆円、受取の増加が1.6兆円で
1.0
ある。ここ数年で支払は横ばいで推移する一方で、受取は3年
0
2000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14
(暦年)
備考:
「国内への利益還元」
は、国際収支統計の直接投資収益の
内訳である
「配当金・配分済支店収益」
の受取額。
資料:財務省・日本銀行「国際収支統計」
連続で増加している。訪日外国人旅行者数が前年比で29.4%増
加の約1,341万人と過去最高を記録したことが主な要因である
(図112-33)
。
図112‒31 サービス収支の推移
図112‒32 旅行収支の推移
(兆円)
0
-0.4 -0.6
-0.8 -0.9 -0.8 -0.6 -0.7 -0.5 -0.6 -0.8 -0.7 -0.8
-1.0
-1.0
-1.3
-1.3
-1.1
-2.1 -2.0 -1.8 -1.4
-2.3
-2.8
-2.0
-2.9
-2.9
-2.8
-3.1
-1.0 -0.9
-1.0
-3.0
-2.7 -2.8
-1.0 -1.5 -1.4
-1.8
-1.2
-3.3
-0.6 -0.8
-4.0
-3.7
-3.8
-3.9
-4.1
-1.4 -1.9 -2.0 -4.1 -4.2
-4.4
-5.0
-6.0
(兆円)
3.0
-0.7 -0.7
-0.7
-0.0
-2.4
-2.1
-3.5
-3.1
-5.3
-5.6 -5.7
2000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14
(暦年)
その他サービス収支
旅行収支
輸送収支
サービス収支
資料: 財務省・日本銀行「国際収支統計」
図 112‒33 訪日外客数(総数)
の推移
(万人)
1,400
1,200
2.0
1.0
0.0
-1.0
-2.0
-3.0
-4.0
-5.0
2000 01
支払
02
03
受取
04
05
06
07
収支
08
09
10
11
12
13 14
(暦年)
資料:財務省・日本銀行「国際収支統計」
以上のほか、製造業に係わる項目として、
「その他サービス
収支」に含まれる「知的財産権等使用料」があり、特許権や著
作権、ノウハウなどの使用料の受払が計上されている。これは
訪日外客数
(総数)
5年連続で増加を続け、2014年は過去最大の黒字を計上した
(1996年以降)
(図112-34)
。
「知的財産権等使用料」は、特許
1,000
権や意匠権などの産業財産権の使用料の他、ノウハウの使用料
800
や経営指導料が含まれる「産業財産権等使用料」と、ソフトウェ
600
アや音楽・映像などを複製・頒布するための使用権料、著作物
400
の使用料などが含まれる「著作権等使用料」から構成される。
200
我が国では「著作権等使用料」が赤字である一方、
「産業財
1964
1966
1968
1970
1972
1974
1976
1978
1980
1982
1984
1986
1988
1990
1992
1994
1996
1998
2000
2002
2004
2006
2008
2010
2012
2014
0
資料:日本政府観光局「訪日外客数の動向」
産権等使用料」が黒字であり、かつ「産業財産権等使用料」の
黒字が年々拡大することで、「知的財産権等使用料」の黒字拡
大に寄与している(図112-35)注2 。我が国製造業の海外展開
に伴う海外現地法人からの特許権等の使用料や経営指導料など
の受取が、
「産業財産権等使用料」の増加に寄与している。
注2 ただし、連結企業間での知的財産権等使用料も含まれる。
22
第1章|我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
図112‒35 「知的財産権等使用料」収支の推移
(兆円)
-2.0
-3.0
産業財産権等使用料
知的財産権等使用料
2.5
0.3
0.1 0.2
0.5 0.8 0.8
1.3
0.8 1.0
0.5 0.7
1.7
我が国製造業の足下の状況認識
-1.0
著作権等使用料
3.0
2.0
0
1
節
(兆円)
3.0
1.0
第
図112‒34 その他サービス収支の推移
2.0
1.5
-1.2 -0.6 -0.8
-0.1
-1.0
-1.0 -1.0 -0.9
-0.3 -0.8
-0.7 -0.1 -0.1
-0.6
-1.5 -1.4
-0.3
-1.4-0.9 -0.9
-0.5 -0.6
-0.8
-1.8
-2.1 -2.3
-1.1 -0.7
-1.9 -2.0
-1.6
-2.0
1.0
0.5
0
-2.3
-0.5
-4.0
-1.0
-5.0
2000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14
公的サービス
その他業務
通信・コンピュータ・情報
保険・年金
維持修理
その他サービス収支
2000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14
(暦年)
(暦年)
資料:財務省・日本銀行「国際収支統計」
個人・文化・娯楽
知的財産権等使用料
金融
建設
委託加工
資料:財務省・日本銀行「国際収支統計」
(3)地域に応じて稼ぎ方を変える我が国製造業
マンショック後は米国の景気後退に伴って北米が大きく減少し
我が国製造業を取り巻く事業環境が変化するに伴い、我が国
たため、アジアが最大となった。足下では経常収支の黒字幅が
製造業の稼ぎ方にも変化が見られ、その一端は経常収支の構
縮小する中、再び北米が最大の経常収支黒字の計上先となって
造にも現れている。我が国が世界のどこで稼いでいるのかと
いる。また、ピーク時からの縮小幅が大きいのは欧州であり、
いう観点から、経常収支を地域別に見てみると、長年にわた
2008年の9.4兆円から直近2013年には0.6兆円と大幅に縮小
り北米が最大の経常収支黒字を占めていた(図112-36)。一
している。以下では、アジア、北米、欧州の主要3地域につい
方、新興国の経済成長に伴いアジアの比率は年々拡大し、リー
て分析を行う。
図112‒36 経常収支の地域別推移
(兆円)
40
アフリカ
中東
欧州
大洋州
中南米
北米
アジア
地域別合計
9.3
30
20
9.4
7.4
4.7
3.9
24.9
5.4
3.5
19.9
3.9 7.3
0.6
3.7
18.6 18.3
1.3
17.9
2.3
16.7
15.8
2.5
13.5
14.1
13.7
11.4 13.5
5.9
12.9
11.3
9.9
8.8
10.7
7.1
9.6
9.6 7.3
9.8
10.6
13.2
10.1
11.7
10.1
4.8 6.9
9.0
8.9
8.5
10.1 8.4
6.7
3.2
6.8
4.4
3.8
1.9
3.5
10
0
-4.2
-3.9
-3.5
-4.2
-4.8
-7.4
-10.1 -10.2
-10
-6.7
-8.2
-13.8
-11.2 -11.6
-13.5
-20
2000
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13 (暦年)
備考:我が国の国際収支統計は 2014 年1月の公表分から、IMF 国際収支マニュアル第6版に準拠した統計に移行しているが、地域
別の経常収支は IMF 国際収支マニュアル第6版に準拠した統計が遡って公表されていないため、IMF 国際収支マニュアル第
5版に準拠した統計を使用。
以下、
同じ。
資料:財務省・日本銀行「国際収支統計」
23
①対アジア経常収支の特徴
ている(図112-38)
。対香港、台湾、韓国では貿易収支で、対
対アジア経常収支の特徴は、貿易収支黒字が年々縮小する一
中国、ASEAN では所得収支で稼いでいることがわかる。
方で(図112-37)、我が国製造業の進出拡大に伴い直接投資
収益と特許等使用料(後述)で稼いでいる点にある。
また、参考までに直近2014年の対アジア経常収支(第3四
半期まで)を見ても、上述の構造に変化はない(図112-39)。
2013年の対アジア経常収支を主な国・地域及び項目別に分析
後述する北米や欧州の所得収支黒字は、「証券投資収益」
(海
すると、対香港、台湾、韓国では貿易黒字を計上したが、対中国、
外の株式や債券など有価証券投資に対する収益)が高い比率を
ASEAN では貿易赤字を計上している。一方、対アジア所得収
占めているが、対アジアでは海外現地法人の収益である「直接
支黒字2.8兆円のうち、中国と ASEAN が2.2兆円と約8割を占め
投資収益」が全体に占める比率が高い。
図112-38 対アジア経常収支の内訳
図 112‒37 対アジア経常収支の推移
(兆円)
経常移転収支
サービス収支
経常収支
16
14
13.2
2.2
10.1
8
10.1
2.0
1.1
6
4
6.8
-2
-0.4
-0.2
2008
2009
2010
2011
サービス収支
1.8
0.3
0.2
0.4
-0.1
0.9
所得収支
2.8
0.7
0.2
0.1
0.2
1.5
経常移転収支
-0.2
-0.1
-0.0
-0.0
-0.0
-0.0
2012
2.5
(暦年)
2013
(単位:兆円)
アジア計
中国
香港
台湾
韓国
ASEAN
1.8
4.2
2
0
2.8
0.7
7.0
貿易収支
2.5
-4.5
3.5
1.9
2.1
-0.9
図112–39 対アジア経常収支の内訳(2014年第3四半期まで)
6.9
6.8
2.3
11.0
8.8
経常収支
6.9
-3.6
4.0
2.4
2.2
1.4
資料:財務省・日本銀行「国際収支統計」
2.6
8.4
(単位:兆円)
アジア計
中国
香港
台湾
韓国
ASEAN
2.1
0.5
12
10
所得収支
貿易収支
経常収支
2.9
-3.0
3.5
1.2
1.3
-0.6
貿易収支
-0.1
-3.9
3.3
0.9
1.2
-2.0
サービス収支 第1次所得収支 第2次所得収支
0.6
2.7
-0.3
0.3
0.7
-0.1
-0.0
0.2
0.0
0.2
0.1
-0.0
-0.1
0.2
-0.0
0.2
1.4
-0.2
資料:財務省・日本銀行「国際収支統計」
資料: 財務省・日本銀行
「国際収支統計」
なお、特許権などの使用料や経営指導料などが計上される、
ジア地域への進出拡大などを反映したものと考えられる(図
サービス収支の内訳である「特許等使用料」の収支を見ると、
112-40)
。国・地域別では中国と ASEAN がその多くを占め
2000年以降順調に黒字幅が拡大しており、我が国製造業のア
ている。
図112‒40 「特許等使用料」
(収支)
の地域別推移
(億円)
10,000
その他
9,000
ASEAN
韓国
台湾
香港
中国
985
8,000
7,000
6,000
423
5,000
498
973
356
277
756
254
911
261
987
218
2,100
2,296
2,280
2,476
2,472
2,829
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2,000
329
60
463
559
365
390
562
1,028
211
333
957
2006
590
995
304
2005
747
765
144
1,335
2000
1,877
786
3,000
1,330
1,661
563
1,639
0
1,638
426
248
1,000
698
380
1,648
343
859
657
1,997
302
4,000
406
992
2,992
481
894
174
3,629
2013 (暦年)
資料: 財務省・日本銀行「国際収支統計」
②対北米経常収支の特徴
対北米経常収支は、2008年には貿易収支黒字と所得収支黒
字がほぼ同額だったものが、足下では貿易収支黒字額が相対的
24
に大きくなってきており(図112-41)、リーマンショック後
に大幅に減少した貿易収支も戻りつつある。なお、対北米の
所得収支黒字4.6兆円のうち、直接投資収益は1.4兆円であり、
第1章|我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
幅に縮小し、2012年には貿易赤字に転じ、足下では赤字幅が
当する水準であり、自動車を中心とする北米における我が国の
拡大している(図112-42)
。2013年の対欧州の所得収支黒字
企業集積の厚さがうかがえる。
3.7兆円の内訳は、直接投資収益0.6兆円に対して、証券投資
③対欧州経常収支の特徴
収益3.0兆円であり、証券投資収益が対欧州経常収支黒字の柱
対欧州経常収支もリーマンショックまでは、貿易収支黒字と
1
我が国製造業の足下の状況認識
国の直接投資収益の総額約6.1兆円に対して2割半ば程度に相
節
州各国の財政危機に伴う景気の低迷により、貿易収支黒字が大
第
3.2兆円は証券投資収益が占めている。但し、2013年の我が
であることがわかる(0.1兆円はその他収支)
。
所得収支黒字がほぼ同額であったが、リーマンショック及び欧
図 112‒41 対北米経常収支の推移
(兆円)
14
12
経常移転収支
サービス収支
経常収支
図 112‒42 対欧州経常収支の推移
(兆円)
所得収支
貿易収支
10
11.3
10
8
6.0
6
4
2
0
7.3
7.1
4.5
6.1
3.3
-0.6
-0.5
3.5
4.5
-0.6
5.9
7.3
4.0
6
4
4.9
9.4
2
5.7
4.4
0.6
4.5
0
-1.2
-1.4
所得収支
貿易収支
8
8.8
4.6
3.5
3.8
経常移転収支
サービス収支
経常収支
12
-1.3
3.9
3.9
3.5
3.0
3.3
2.8
3.0
0.8
-0.1
1.2
-0.1
0.8
-0.2
-2
-2
1.3
-1.2
-0.5
3.7
0.6
-2.4
-0.6
-4
-4
2008 2009 2010 2011
資料: 財務省・日本銀行
「国際収支統計」
2012
2013
(暦年)
2008 2009 2010 2011
資料: 財務省・日本銀行
「国際収支統計」
2012
2013 (暦年)
(4)‌グローバル最適地生産の流れの中で求められ
る製造業の役割
(図112-43)。また、直近では輸出金額・数量ともに増加傾向
ここまで、経常収支の観点から我が国製造業の稼ぎ方を分析
で推移しているが(図112-44)、グローバルな地産地消とい
してきた。第一次所得収支が過去最大の黒字を計上したことに
う考え方に基本的には変化はないものと思われ、後述するよう
象徴されるように、円高とリーマンショック以降の新興国ブー
に、今後ともマザー機能やイノベーション拠点等としての更な
ムによって企業の海外展開が進み、我が国の貿易構造に大きな
る国内拠点の差別化、「海外で稼ぐ」分野と「国内に残す」分
変化が見られる。なお、為替の円安方向へのシフト等により、
野の棲み分けを明確化し、戦略的に国際分業をしていくことが
急拡大を続けていた海外設備投資比率は足下では頭打ちとなっ
重要である。
ているものの、今後も企業の海外展開は続くものと考えられる
図 112‒43 海外設備投資比率と為替の推移
(%)
35
円 ドル
海外設備投資比率
【原数値(点線)】
30
海外設備投資比率
【季節調整値(実線)】
25
20
為替相場
15
10
ⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣ
図 112‒44 輸出と為替レートの推移
140
(2010=100)
120
130
115
120
110
110
105
100
100
90
95
80
90
70
85
60
2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
備考:1.
海外設備投資比率=海外設備投資額/(国内設備投資額+海外設備
投資額)×100
資本金1億円以上の製造業の国内設備投資額、海外設備投資額を利用。
2.
3.
X12-ARIMAを用いた季節調整値。
資料:財務省
「法人企業統計季報」、
経済産業省「海外現地法人四半期調査」
(円/ドル)
120
輸出金額(円ベース)
増加傾向で推移。
110
100
為替レート(右軸)
輸出数量
90
輸出数量は持ち直しの
兆しが見られる。
80
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1112 1 2 3
2010
2011
2012
2013
2014
70
15
備考:輸出金額、輸出数量は季節調整値。
輸出数量の季節調整は内閣府。
ドル・
円レートは中心相場の月中平均。
資料:財務省
「貿易統計」
、
日本銀行「各種マーケット関連統計」
25
Fly UP