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Page 1 名古屋芸術大学研究紀要第34巻 269〜277頁 (2013) 音楽と

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Page 1 名古屋芸術大学研究紀要第34巻 269〜277頁 (2013) 音楽と
名古屋芸術大学研究紀要第 34巻
269∼ 277頁
(2013)
音 楽 と環 境 (3)
∼子どもの音遊 びから楽器表現 へ∼
〕力石力′η″】ηク
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(人 間発達学部)
は じめに
子 どもは音 に出会 い、響 く音 に興味 を持 つ ことを原点 として歌 った り自ら音 を出 した り
して音楽 を楽 しむ基礎 を作 ってい く。そのためにどの よ うな音環境 を子 ども達 に提供 して
い くのかについて考察 した。音 を敏感に感 じ取 り、音 に対す る興味、探究心 を持 つ ことが
音楽表現 につ なが ってい く。学校教育 での音楽表現活動 は、歌 う、弾 く、創 る、動 く、鑑
賞 としての聞 くとに分けて考 えるが、幼児の音 楽活動 は、一 つ の行動が単独 でなされるの
でな く、歌 い なが ら弾 く、動 きなが ら歌 う、 とい うよ うに常 に他 との 関連‖
生を県 ちなが ら
行われるものである。その 中で弾 く活動 について と りあげる。音遊 びか ら楽器演奏 につ な
がる弾 く活動 について、子 どもの心理 的発達や運動機能 の発達 にあわせて どの よ うな音楽
環境 が必要か、 また、音楽的成長 に添 った楽器演奏 の指導 について述べ る。
子どもの音楽的な成長
子 どもの音楽的な成長は心身の成長発達に伴 っている。成長発達について保育所保育指
針 では発達辿程を 8つ に区分 している。
① おおむね 6か 月未満では、身体 :手 足 の動 きが活発になる。腹ばいなど全 身の動 きが
活発になる。視覚、聴覚などの感覚の発達は目覚 ましく、泣 く、笑 うな どの感情表現
の変化や体 の動 き、なん語などで自分 の欲求を表現する。
②おおむね 6か 月か ら 1歳 3か 月未満では、運動機能が発達 し、腕や手先 を意 図的に動
かせるようになることによ り、周囲の人や物に興味を示 し、探索活動が活発になる。
③おお むね 1歳 3か 月から2歳 未満では、歩 く、押す、つ まむ、め くるな ど様 々な運動
機能の発達や新 しい行動 の獲得により、環境に働 きかける意欲 を一層高める。玩具等
を実物に見立てるなどの象徴機能が発達 し、人や物 との関わ りが強まる。
①おおむね 2歳 では、基本的な運動機能や、指先 の機能が発達する。発声が明瞭にな り、
語彙 も著 しく増加 し、自分の意思や欲求を言葉で表出で きるようになる。盛んに模倣
し、物事の間の共通性 を見出す ことだで きるようになるとともに、象徴機能の発達に
よ り、大人 と一緒に簡単な ごっこ遊びを楽 しむようになる。
⑤おおむね3歳 では、基本的な運動機能が伸びる。話し言葉の基礎ができて、盛んに質
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名古屋芸術大学研究紀要第 34巻 (2013)
問す るなど知的興味や関心が高 まる。友達 との 関 わ りが 多 くなるが、実際には、同 じ
場所 で 同 じような遊びをそれぞれが楽 しんで い る平行遊 びであることが 多 い。予想や
意図、期待 を持 って行動 で きるようになる。
⑥ おおむね 4歳 では、全 身のバ ラ ンス を取 る能力が発達 し、体 の動 きが巧みになる。 自
然 など身近な環境 に積極的に関 わ り、様 々な物の特性 を知 り、それ らとの 関 わ り方や
遊 び方 を体得 してい く。想像力が豊かにな り、 目的を持 って行動 し、 つ くった り、か
い た り、試 した りす るよ うになる。感情が豊かにな り、身近 な人の気持 ちを察 し、少
しずつ 自分 の気持ちを抑 えられた り、我慢が で きるようにな って くる。
⑦おお むね 5歳 では、言葉 によ り共通 のイメー ジを持 って遊んだ り、 目的に向か って集
団で行動す ることが増 える遊びを発 展 させ、楽 しむために、 自分 たちで決 ま りを作 っ
た りす る。異 なる思 いや考 えを認めて社会生 活に必要な基本的な力 を身につ け てい く。
他人の役 に立 つ ことを嬉 しく感 じた りして、仲間の一 人 としての 自覚が生 まれる。
① おおむね 6歳 では、全身運動が滑 らかで巧みになる。 これ までの体験 か ら、 自信や、
予想や見通 しを立てる力が育 ち,意 欲が旺盛 になる。仲 間の意思 を大切 に しようとし、
役割 の分担が生 まれるよ うな協 同遊び ごっこを行 う。様 々 な知識や経験 を生か し、創
意 工 夫 を重 ね、遊 びを発展 させ る。思考力や認識力 を高 ま り、 自然事象や社会事象、
文字な どへ の興味や関心 も深 まってい く。
この よ うな発達過程 を音楽的成長の視点か ら結 び付 けて考 えてみる。
音 を認識す る聴覚 の発達は新生児期か ら 1歳 にかけて発達す る。聴覚 は胎児期 か ら発
達 し、胎内で母親 の声や心音が聞 こえてい る。新生児期は聴覚が機能 し始め、音 を認識 し
大 きな音や強 い音 に身体 を ビクッとして反応 す る。
2∼ 4ヶ 月 では人の声 に反応す るよ うにな り、家族か他人 の声かや、 ことばの音色 を聞
き分け よ うとする。首がすわるようになると音のする方向 を目で追った り顔 を向けた りす
る。あやす声 で笑 う よ うになる。
5∼ 6ヶ 月になると聴覚の判別力がつ き、母親や身近な人の声 に喜 び、手足 をばたつ か
せた りして笑 い声 をあげる。音 の 出るお もちゃを持 った り触 った りして遊ぶ。
7∼ 8ヶ 月にな ると音 の判断力が つ く。音 を理解 して模倣す るよ うにな る。音声 とこと
ばの結 びつ きを理解する準備期間 となる。
9∼ 12ヶ 月になる と音 へ の興味 を示 し、音楽 に合 わせて手 をたた い た り、体 を動か し
て リズム をとった りす る。 また、 自分か ら音 にかかわろうとし、好 きな曲を何度 も聴 いた
り、生活環境 の 中の様 々 な音 を楽 しむようになる。
子 どもが誕生 してか ら、楽器表現 に必要 な手足の操作が出来るよ うにな るまでの約 1年
間に音や音楽 を楽 しむ基礎 となる聴覚や視覚 などの感覚は 日覚 ま しい発達 をす る。
次に、 1年 を過 ぎてか らの心 身や運動能力 の発達 に合わせた、音 楽的成長 を考 える。
1歳 児 になると、 これ までの主 と して聴 くことを中心 と した音 ・音楽経験か ら、歌 う、
270
音楽 と環境 (3)
動 く、弾 くといった表現活動を外部か らの働 きかけに意欲的に応 じて行 うようになる。言
語 も急速に発達 し、「一語文」か ら「二語文」 のことばが特徴 で、何回もくり返 して声 を
出す ことが多 くなる。気に入 った音楽の リズ ミカルな部分や言葉を真似 した り、節 をつ け
た歌のようなものを歌 った りする姿が現れて くる。
2歳 児になる と、ことばも多 く理解できるようにな り、音楽をくり返 しきいて喜 び、 自
分 の好 きなメロディーや歌詞の部を抑揚を付けて、不安定な音程なが らも楽 しんでうた う
ことができるようになる。歩行が確立 し更に走 った り飛 ぶなどの動 きができるようにな り、
手の操作性 も育 って くるので、保育者や大人の真似 をしてリズムを打つことがで き、音楽
に合わせて動 いた り、リズム打ちや自由打ちを喜んで行 うようになる。 自分 のまわ りの音
に興味を持ち、楽器でもないものを楽器代わ りに打 って音を発見 し創造性 を芽生えさせて
い く。
3歳 児になる と、自己中心性が強 くでて くるのが特徴 で、 自分 の物に固執 した り、自分
の好 きな楽器、
好 きな色の楽器を楽器遊びの時に持ちたがる。
歌遊びも手遊 びや全身を使 っ
た歌や曲を楽 しむようになる。集 団で歌 った り、再 いた りす ることはで きるようになるが、
ひとりひと りの活動であ り、皆で一緒に とい う意識 は うすい。 リズムはかな り正 しく打 て
るようになる。歌の音程 は少 しずつ安定 して歌えるようになってい く。自分の好 きな曲を
選んで聴 いた り、即興的にうたって音楽に親 しむようになる。
4歳 児になる と、音楽的成長が著 しくなる。音楽的感覚や歌唱力がついて くる。歌の内
容や歌詞を理解 し、 リズムや音程 を正確 にし、曲の雰囲気 を表現 して歌えるようになる。
身体 の運動機能が増 し、楽器を正 しく持ちリズ ミカルに打 った り、音を止めた り、強弱の
変化をつけて打つことがで きるようになる。楽器 の音色を感 じ取 り、集団で合奏をして楽
しむ ことができるようになる。
5∼ 6歳 児になる と、心 身の発達や手、腕の運動能力の発達により手拍子、足拍子 もリ
ズ ミカルに正確 に打てるようになる。音楽の基本的なリズムを身につけ楽器演奏ができる
ようになり、旋律楽器 も演奏で きるようになる。音程の正確 さや声域の広が りができ、い
ままでより複雑な曲を歌えるようになる。社会性 も育って くるのでみなで一緒に歌 うこと
や、楽器遊びを通 して部分奏や フレーズ奏 を経験 してから、集団での器楽合奏の演奏 をし
て、音楽を楽 しむ ことができるようになる。
このような音楽的成長過程を子 どもの生活環境 ・教育的環境 となる保育所、幼稚園、小
学校ではどのように姑処 しているかについて次に述べ る。
保育園・幼稚園・小学校での音楽環境
(子
どもへ の音楽の指導)
幼児期 での生活 で培 う音楽的内容 として、幼稚園教育要領や保育所保育指針の領域「表
現」 では次のように述べ てい る。「教育のね らいJで は、① い ろいろなものの美 しさなど
に姑する豊な感性 を持つ。 ②感 じたことや考えたことを自分なりに表現 して楽 しむ。③
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生活の中でイメー ジを豊かに し、様 々な表現 を楽 しむ。「内容 Jで は、(1)生 活 の 中の様 々
な音、色、形、動 きなどに気付 いた り、楽 しんだ りする。 (2)生 活 の 中で美 しい ものや心
を動かす出来事 に触れ、イメー ジを豊かにす る。 (3)様 々な出来事の中で、感動 した こと
を伝 え合 う楽 しさを味わう。 (4)感 じたこと、考えたことな どを音や動 きな どで表現 した
り、自由にか いた り、つ くった りする。 (5)い ろい ろな素材 に親 しみ、工 夫 して遊ぶ。 (6)
音楽に親 しみ、歌 を歌 った り、簡単 なリズム楽器 を使 った りする楽 しさを味わ う。 となっ
ている。
そ して、 これに基 づい たさまざまな表現活動 の 内容 の取 り扱 い の留意事項 と して次の よ
うに述べ てい る。生 活経験や発達 に応 じ、 自ら様 々な表現 を楽 しみ、表現す る意欲 を十分
に発揮 させ ることがで きるような遊具や用具 などを整 え、 自己表現 を楽 しめるように工 夫
す るとし、表現 に必 要な感性 は、子 どもを取 り巻 く環境、生活 の 中での様 々な音 へ の気付
ヽ
きや、美 しい ものや′
と
を動かす出来事 に触れ ることをとうして培 われて い くとしている。
領域「環境」での音 ・音楽 に結 び付 く項 目は、
「ね らい」 では、① 身近 な環境 に自分か
らかかわ り、発見 を楽 しんだ り、考 えた りし、それを生活 に取 り入れるようとす る。② 身
近な事象 を見た り、考 えた り、扱 った りす る中で、物 の性質や数量、文字 などに姑 す る感
覚 を豊 にす る⑤
「 内容 Jで は、生 活 の 中で、様 々な物 に触 れ、その性 質や仕組み に興 味や
ヽ
と
をもつ。「取 り扱 い留意事項」 としては、幼妃が、遊 びの 中で周 囲の環境 とかかわ り、
関′
、
ヽ
次第に周囲 の世界 に好奇′
と
を抱 き、その意味や操作の仕方 に関′
と
をもち、物事 の法則性 に
気付 き、 自分 な りに考える ことがで きるようになる過程 を大切 にす ることとなっている。
保育所 ・幼稚 園に引 き続 く小学校低学年 (第 1学 年及 び第 2学 年 )の 音楽指導 を楽器演
奏 の視点か ら考 えてみる。小 学校 では音楽教育がなされる ことにな り、学習指導要領の孝
史
科 「音楽」 と して指導内容が示 される。 [目 標 ]は
(1)楽
しく音楽 にかかわ り、音楽 に
対す る興 味 ・関心 をもち、音楽経験 をか して生活 を明る く潤 いの あるものにす る態度 と習
慣 を育 てる。 (2)基 礎 的な表現の能力 を育て、
音楽表現 の楽 しさに気付 くよ うにす る。 [内
容]は 表現 と鑑賞 の 2つ の項 目で、表現は 1)歌 唱活動、 2)器 楽 の活動、 3)音 楽づ く
りの活動 を示 し、 4)と して取 り扱 う表現教材 を示 してい る。
器楽 の活動 の指導内容 は、ア)範 奏 を聴 いた り、 リズム譜 な どを見て演奏す ること。
イ)楽 曲の気分 を感 じ取 り、思 い をもって演 奏す ること。 ウ)身 近 な楽器 に親 しみ、音
色 に気 を付 けて簡単 な リズムや旋律 を演奏す ること。 工)互 い の楽器 の音や伴奏 を聴 い
て、音 を合 わせ て演奏す ることとしている。取 り扱 う表現教材 は、主 となる器楽教材 につ
いて は、既 習 の 唱歌教材 を含 めて、主旋律 に簡単 なリズム伴奏や低音部 などを加 えた楽曲
としている。 これ らの 内容 で音楽 を形づ くっている要素 (音 色 ・ リズム ・速度 ・旋律 ・強
拍 ・拍 の流れや フレーズ)や 反復 。問 い と答 えなどの音楽 の しくみ を聴 きとり、音楽の面
白さや美 しさを感 じ取 る。 また、身近な音符 ・休符 ・記号や音楽 にかかわる用語 について、
音楽活動 を通 して理解 す るよ う指導する ことと して い る。
272
音楽 と環境 (3)
子 どもの音楽的成長過程 と保育指針 ・幼稚園教育要領 ・小学校学習指導要領が示す音楽
内容 の中で、子 どもたちにどのように音 ・音楽の環境 を提供 してい くのかを考察す る。
音遊 びから楽器指導 へ の過程 と環境
子 どもの音楽活動 は、 聞 く・歌 う 。弾 く・創 る とい う活動が関連1生 をもって行 われる。
新生児期か ら首が座 る、寝 がえ りをす る、座 ることがで きる とい う身体的発達や聴覚、祝
覚 の感覚発達 に合わせた環境設定が必要 になる。静かな所で音や声 を感 じ取れ る環境 を用
意 し、子 どもが母親 の声や音 を認識 しやす くす る。人の声 に反応 し、首がす わ り顔 を向け
た り、 日で追 うことがで きる よ うになった ら、あや した りして、子 どもが心地 よい と感 じ
る音色や音質のお もちゃを用意 し働 きかける。吊 り下 げて回転す るオル ゴー ルや振 って音
ヽ
を持たせ ることがで きる。物 を握 ぎる ことがで きるようになる
を出すお もちゃは音 へ 関′
と
と音 のでるお もちゃを持 たせ 自らが音 をだ して楽 しむ経験 をさせ る。 音色 の 異 なるお も
ちゃを用意す ることで、音の違 い を感 じさせ ることがで きる。座 ることがで きるようにな
ヽ
ると、振 る活動 に加 えて叩 く活動が で きる よ うになる。 自分 の周 囲へ の 関′
と
が広が ってい
「周 囲」 には
くので、音楽 を聞かせ た り歌 い かけた りしなが ら音 をだす働 きかけをす る。
音 の環境 も含 まれ、 自然界 の音 (動 物 の 鳴 き声、風 に揺れる木 々の音等 )、
日常生活か ら
生 まれる音、意識 して設定す る音があ り、子 どもはそれ らの音 の響 きを聴 き音 へ の興味 。
関心 を持 ってい く。音 をだす遊びは、音がでる物がある環境 にい ることで成 り立 ち、音の
でるお もちゃだけではな く、物 を入れる容器やテー ブル、紙、皿や茶碗 な ど日常 生活の色 々
な物が音 をだす姑象物 となる。音 へ の判断力 が付 い て くる と、音や音楽へ の興味が増 して
くる。音 楽 に合わせて体 を動か した り、打 った りす るよ うにな る。子 どもの これ らの行動
は、その状況で大人たちが動 い た り、叩 い た りす る行動 を見せ、それを模倣す ることか ら
始 まる。そのため、物的 ・状況的環境 と子 どもに音 ・音楽 で働 きかける人的環境が必要 に
なる。 この よ うな、音 をだ した り、音楽 を聴 い た りして楽 しく遊 ぶ 1歳 6カ 月頃までの音
楽的経験が、その後 の 身体能力成長や言語能力 が成長 し、音遊びか ら音 楽表現活動 (弾 く
活動)に 進 んで い く過程 に とって重 要 となる。
l∼ 2歳 になると身体的、言語的 に も保育者 の真似が で きるようになる。子 どもは真似
をしなが ら、鈴や太鼓 などの リズム楽器 を使 って、音楽 に合 わせた リズム打 ちがで きるよ
うになる。子 どもの周囲の人や保育者 と一緒 にす る環境が必要 で、 この経験が個性的な自
由打ちや楽器遊 びにな り、楽器 の操作 に憤 れて い く。子 どもは 自分 の生 活す る環境 の様 々
な音 に興味 を抱 き、物 と音 の 関係 に も気付 い てい き、身近 にある ものを叩 い た り、振 った
りして音 を出 して遊 ぶ。 この経験 は子 どもにとっては楽器あそ び とな り、物 によって違 う
音が出 るとい う発見や色 々 な打方 をす ることで、音 ・音楽に対す る創造性 を養 うことに繋
がる。 この 自由打 ちの経験 は合 奏 へ の導入 となるため、 この ような音遊 びがで きる環境 を
子 どもに提供す る必要があ る。
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名古屋芸術大学研究紀要第 34巻 (2013)
3∼ 4歳 になるとリズム楽器 を音楽 を聴 きなが ら流れに合わせ て打 つ ことがで き、集 団
で合奏がで きるようになる。色 々な曲を歌 って 曲に親 しんでか ら、楽器 を鳴 らす とい う音
楽表現方法 となるので、音楽に親 しみ、楽器が 身近にあ る環境が必要 になる。 3歳 では 自
分 の好 きな楽器や好 きな色の楽器 を持 ちたがるような自己主張がでて くるが、子 どもの要
求 を満たす ことと、皆で順番 にといった方法 を示 す ことが必 要 となる。皆 で一 緒 に打 つた
り、旋律の リズム に合わせて 同 じリズム を順 呑 に打 つ ような楽器遊 びの視点に立 ち、楽 し
い音楽環境 にす る。 4歳 児 では友達 と一緒 に歌 った り、楽器 を打 った りする楽 しさがわか
るようにな り、楽器が本来持 っている美 しい音色 な どを認識する ことがで きるようになる。
短 い時間ではあるが、幼児集団の場 にお いて独立 した音楽活動の時 間が持 てるよ うにな る。
以前 は リズム楽器 の独 り遊 び、デ タラメ打 ち程度だったのが、 この時期 になる とご く初歩
的な ものであるが、斉奏 または二種類以上の楽器 による分奏 の形 での合奏が可能 となる。
色 々 な音楽 を聴 き、音楽の雰囲気 ・ リズムの面 白さ・音色 の違 い を感 じ取 れる よ うに し、
音楽に積極的に関われる環境 にす る。
5∼ 6歳 になると社 会性が育ち、 目的に向か って集団で行動 し、役割分担 をする遊 びが
で きるようになる。 この ため、遊びを前提 とした器楽合奏が可能なになる。音 楽 を楽 しく
体験 させ ることは最 も大切であるが、単 なる遊びではな く、音楽的な表現活動 にす ること
で、子 ど もへ の環境 つ くりが重要 となる。創意工夫や反復練習に よって楽器操作 を正 しく
行 い、演奏する気持 ちになれるような働 きかけが重要 になる。 リズム楽器だけでな く旋律
楽器 も加 えて、音 楽活動経験 の度合 い を深め音 楽 の基礎 づ くりを行 なう。 この時期 の子 ど
もの音楽活動が、小学校での音楽教育 につ ながってい く。
幼児期 の楽譜 を用 い ない音楽活動 は、音楽 を聴 い た り音 をだ してみる (探 索 をす る)こ
ヽ
とで音 へ の興味 ・関′
と
を持 ち、音遊 びを基 とした音楽表現活動 を通 して音楽の構造 を理解
した り、弾 くことの楽 しさや ・美 しさを感 じるよ うになる。子 どもが この よ うな活動がで
きる環境 には、音の出る ものや楽器 など物的な面 と、子 どもへ の適切 な働 きかけを行 う人
的な面が必要 となる。子 どもへ の働 きかけについ て、音遊 びか ら楽器遊 びへ と変わ ってい
く時期 につい て考 えてみる。
楽器遊 びの段階 と方法
音遊 びか ら楽器遊 びを発 達段階に対応 して行 う方法 を「 こぶたぬ きつ ね こ」 の 曲を使 っ
て考 えてい く。
『こぶ たぬ きつ ね こ』 の 曲は
〕
〕
〕
〕
こぶ た
○
○
│)〕
たぬ き
J 〕 │〕 J 〕 〕 │〕
o o
きつ ね O O
ね
〕
)〕
こ ○
○
の歌 とリズムに な っている。歌 を歌 い なが ら働 きかけた り、歌 を歌 えるようになった ら
次の ように活動 を進める
274
音楽 と環境 (3)
①大人が歌 いかけなが ら、○ ○ の部分を
(以 下同 じ)手 で打つ。
この活動 は子 どもが座ることができるようになった段階から可能 となる。叩 くものは太
鼓だけでな く、机 ・箱 ・缶 ・紙な ど身近にあるもので もでき、素材によって音が異なる
ことを感 じ取れる。また、音楽のリズム・旋律 を感 じ取 ることや、腕の操作性 を養 う環
境 を作 ることがで きる。手 で打 つ動作 は片手の手 のひらで打 つ、両手をあわせて打 つ、
マ レットのように叩 くものを持 って打つ、左右の手を交互に打つ と、子 どもの手 の操作
の発達段階に応 じた打ち方をするようにする。
②歌 いなが ら太鼓を打つ
ことばの発達によって行 うことがで きる。打つ ところを動物 の鳴 き声な どに変えて歌 う
ことでことば遊び と音楽遊 びが一体 となって遊ぶことがで きる。歌 いなが ら打つ ことで
音楽の流れを認識する活動 となる。また、曲の速度を変えて行 うと子 どもは楽 しさや面
白さを感 じることが多い。
③太鼓 をカスタネット、鈴、タンブ リン等 のリズム楽器にして鳴 らす
楽器あそびとして、楽器によって音色がちが う楽 しさを感 じることを目的に 2歳 頃か ら
行 うことができる。楽器の持ち方や奏法は正確 さを求めないで、音楽活動 の楽 しさを感
じ取 れる環境 とす る。打ち方 を 4分 音行二つから、
歌 のリズムを反復す る付点人分音符・
十六分音符 の組合せ と四分音符 のリズムに変化 させることで、リズムの面白さや楽 しさ
を感 じ取 る活動 となるようにす る。 リズム変化は人分音符 2つ と四分音符 よ り、三連符
と四分音行の方が打ちやすい。 どのようなリズムに変えるかは、子 どもが音楽の流れに
沿 って打てることを考える必要がある。いろいろなリズムパ ターンを打つ ことは合奏を
楽 しく行 うための準備段階 として必要である。
④ l小 節 ごとに、楽器 を変えて鳴 らす
音楽の流れの中で 自分の役割 を認識 し、みんなで一緒に演奏す る。楽器に よる音色の違
い を感 じ取 る活動 で、動物に よつてどの楽器 にするかを考え音の響 きを意識できる。 3
歳頃の 自分 の好 きな楽器にこだわる頃であれば、順番に交代す る (が まんする・ゆずる)
とい う集団での動 きかたを知る機会 となる。元気に、静かにな どの表現で音 の強弱や音
楽の雰囲気 を表現す る活動になる。
① ∼④ の活動 は、一つの 曲を、子 どもの成長に合 わせて音遊 びから楽器遊 びをへて合奏
へ と進めてい く段階 と方法である。子 どもが 8カ 月頃か ら3歳 頃までの活動 となる。 どの
ような時期に、 どのような音を、 どのように使 うのかとい う音環境 を考えて子 どもに提供
してい くことで、子 どもが楽 しさを感 じて、音遊び ・楽器遊 びか ら器楽合奏へ と音楽表現
を進める活動にで きる と考え られる。
集団遊 びが意識的にできるようになる 4歳 ごろか らは、子 どもが 自由に音遊 びで きる音
楽環境 と、器楽合奏を行なうことを意図とした音楽環境の二つ を関連性 を持って用意す る。
身体的能力の成長を生か し、 リ トミックやボデイー パーカッション等 を取 り入れたリズム
275
名古屋芸術大学研究紀要第 34巻 (2013)
遊びを しなが ら、基本的 リズムや組み合 わせた リズムに慣 れてか ら、楽器の活動 に移行 さ
せ る。 3歳 頃まで の集団で一斉 の リズム を打 つ 活動か ら、バ ッテ リー リズム と言 われる合
いの手 の リズムがで きるようになる。扱 う楽器 は 3歳 頃までの大太鼓 ・鈴 。タンブ リ ン・
カス タネッ トに加 えて、大小の太鼓、 ウッ ドブ ロ ック、 トライア ングル、シ ンバル などの
楽器 を使 うことがで きるようになる。違 う楽器 を使 ってす ることで音 の組合せの楽 しさを
感 じる ことがで きるようになるので、音環境の豊かさが重要 になる。 5歳 頃になる と音程
を正確 に歌 えるよ うにな り、音 の高低 を表現す る旋律楽器 を使 うことがで きるようになる。
この活動 では、旋律楽器 を弾 く前 に、弾 こ う とす る曲の歌 う活動 を充分 に行 い 、その曲に
慣 れ親 しんでか ら行 わなければな らない。音遊びの段階では、卓 に置 くカラーベル を用 い
ると子 どもが親 しみやす く、音 の高低 と旋律 のつ なが りを理解 しなが ら弾 く楽 しさを感 じ
ることが容易 となる。筆者が行 った事例 では、「ひげ じい さん」の曲を用 いて、`ト ン トン
トンひげ じさん 'の フレーズ を、子 どもが
`ト
ン トン トン 'の 部分 をカラーベルで、1ひ
げ じい さん 'を 筆者 が キー ボー ドで弾 く、応答形式 で進める方法である。`ト ン トン トン
の部分 は ドか らソヘ順 久進行 し、最後のフレーズ は
`ソ
ファミレ ド
(と
'
順 久進行 で繋が っ
て い る。音、楽器、視覚、が認識やす く、子 どもを惹 き付 ける音の響 きを持 ち、打楽器の
よ うに弾 くことがで きるので、旋律 を弾 く楽器 へ の導入 として有用 な音遊 びだ と考 える。
この よ うな順次進行 の旋律表現 の音遊 びを したのち、音程が飛 ぶ旋律 の表現 に うつ る と、
子 どもた ちが旋律楽器 を表現す ることへ の興味関心 を持ち、合奏 で用 い る旋 律楽器 を弾 く
ことを容易 にす ることになる。音楽環境 と して どの よ うな楽器 を用意で きるかは合奏 をす
るための大 きな要素 となる。既成 の合奏 曲の楽譜 をその用 い て合奏す るためには、楽譜 に
書かれ た楽器があ り、弾 くことがで きる演奏能力 を持 っていることが必要 となる。多 くの
場合 は音楽環境や子 どもの状況 ににあ うよ うに編 曲する ことが必要 にな り、その場合 は子
どもが演奏 しやす く、音楽的で、子 どもが興味 を持 って楽 しんで弾け る曲にす る。 どの よ
うな曲を用意す るかは音楽環境 の一 つ といえる。 この よ うな音楽環境 を整 え、子 どもたち
が音 楽 に合 わせて 自己表現 しなが ら、 自分の演奏 (役 割)の 意味 を理解 し、協力 して音楽
を完成 させ てい く面 白さや喜びを感 じ取れ る活動 を体験す ることがで きるようにする。
おわりに
子 どもの音楽表現 の 中の弾 く活動 は昔遊 びか ら始 ま り、成長 に従 って音楽表現 としての
楽器演奏や合奏 へ と変化 してい く。音 を出す とい う活動 は、乳幼児期 の子 どもにとって 自
己表現 を しやす い活動 と考 える。筆者 は、障碍児 の通園施設で子 どもたちを紺象に音楽療
育活動 を行 っている。 2歳 か ら 6歳 と年齢差があ り、障碍 の状況 も一 人ひ と り違 い成長発
達が ことなる集 団での活動 である。音楽療育活動 の内容では、活動 の始 ま りに「楽器遊 び」
を行 っている。通園施設 には無 い楽器 を筆者が用意 して持 ってい き、子 どもたちは 自由に
どの楽器 で も触 って音 を出す ことで きる環境設定 としている。世界各地の民族楽器、 日本
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音楽 と環境 (3)
の伝統楽器 (鳴 子 ・小 さいサ イズの ささら 。でんでん太鼓等 )、 障碍児や幼児 のために考
え られた新 しい楽器や様 々な笛 を用意 して い る。 この よ うな楽器 (音 環境 )を 用意す る 目
的 は、 い ろい ろな手 の操作 を行 って音 を出す ことがで きる。音色 の面 白さを感 じ取 る。母
親が子 どもとの コ ミュニ ケ ー シ ョンを取 りなが ら音楽 を楽 しむ機会 とす る。音楽活動 の楽
しさを感 じる ことで ある。子 どもや母親 の楽 しんで い る様子か ら、活動の 目的は達成で き
て い ると思われる。そ して、音遊びの様子 を観察 して い くと、一人ひ と りの子 どもの遊 び
方 の変化か ら、興味関心 の持 ち方、手 の操作性、音楽表現力な どの成長発達 を見ることが
で きる。音楽療育汚動 を一緒 に行 っている保育者か ら、音 楽療育活動があ る 日を親子が楽
しみ に して い る と聞 いているが、音楽 をす る楽 しみ を子 どもが 持 つ こ とがで きる活動 に
な っていると思 っている。今後 は、音遊 びを十分 に経験 してか らの、楽器遊 びや合奏 へ と
音楽的活動 を進める音環境のあ り方 について考 えてい きたい。
参考文献】
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