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2010年7月号 - ITIL - itSMF Japanオフィシャルサイト

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2010年7月号 - ITIL - itSMF Japanオフィシャルサイト
IT サービスマネジメントフォーラムジャパン
第 7 回 it SMF Japan コンファレンス /EXPO 直前情報
it SMF Japan コンファレンス担当
3
第 26 回 it SMF Japan セミナ報告
it SMF Japan セミナ担当
7
【会員寄稿】 サービス・カルチャの浸透から始めよう
小渕 淳二
9
小島 章教
13
小澤 一友
17
最上 千佳子
22
月峯 美香子
27
・クラウド・コンピューティング:サービスマネジメントに関する疑問点
・成功するビジネス・サービス・カタログの作成
From service TALK
30
寄稿 ISO/IEC 20000 の導入状況と今後
~クラウド時代に欠かせない ITSMS ~ JIPDEC ITSMS 技術専門部会
JIPDEC ITSMS 技術専門部会
37
IT サービスマネジメント資格情報アップデート
EXIN Japan
41
新任理事のご挨拶
it SMF Japan 理事 佐久間 洋
it SMF Japan 理事 徳地 隆弘
43
関西支部報告
it SMF Japan 関西支部
44
第 7 回通常総会報告
it SMF Japan 事務局
45
~共通の価値観を持つことがサービスマネジメントのスタート地点~
【会員寄稿】 これからの IT サービスマネジメント
~運用から顧客ビジネスの成功のための戦略へ~
【会員寄稿】 ヒューマンエラーとサービスオペレーション
~ヒヤリハット活動と問題管理・インシデント管理~
【会員寄稿】 ITIL® 人材育成を考える
~ ITIL® 試験に合格したい/させたいですか?~
【会員寄稿】 サービスマネジメントの活用法
~家庭編~
3
4
5
6
it SMF Japan
セミナ報告
第 26 回 it SMF Japan セミナ
定例の it SMF Japan セミナを今年 5 月 31 日(月)に、日経カンファレンスルームで開催いたしました。
関連団体と連携したセミナの第 2 回目として、今回は財団法人 日本情報処理開発協会 (JIPDEC)
様の共催で実施いたしました。
今回のセミナでは、 ISO/IEC 20000 をテーマに、 直前の 5 月末に開催された ISO/IEC 20000 の
国際会議を受けてホットな情報も提供できました。
-概 要-
< ユーザ事例講演 >
●開催日時 :5 月 31 日(月)13 時 30 分~ 17 時 00 分 『ITSMS 運用へのチャレンジ !!』
KDDI 株式会社 運用統括本部 サービス運用本部
●場所:日経カンファレンスルーム
木村 正明氏
●講演テーマと講演者:
<JIPDEC 講演 >
< ご挨拶 >
『JIPDEC ITSMS 技術専門部会 活動報告』
it SMF Japan 理事長 富田 修二氏
( 財 ) 日本情報処理開発協会 ITSMS 技術専門部会主査
黒崎 寛之氏
●参加者 :208 名
JIPDEC 副センター長 高取 敏夫氏
海外講演のセションでは、ISO/IEC 20000 シリーズの制
< 海外特別講演 >
定や改版などの国際標準化を行っている ISO /IEC JTC1
『ISO/IEC 20000 シリーズの戦略と世界の状況』
SC7 WG25 の会議が先週新潟で行われ、そこに出席された
Shirley Lacy 氏
Shirley Lacy 様と Lynda Cooper 様に、本セミナのご講
演をお願いし、快諾いただきました。
『20000 パート1改版と今後の展望』
まず、Shirley Lacy 氏より『ISO/IEC 20000 シリーズの
Lynda Cooper 氏
戦略と世界の状況』と題して、講演いただきました。本
来は、WG25 議長の Jenny Dugmore 氏の予定でしたが、ご
家庭の事情のため英国に急遽帰国されたため、彼女から
バトンタッチしてご講演いただくことになりました。
7
Shirley Lacy 氏は、BS15000、ISO/IEC 20000 の開発に 「業務改善の PDCA スパイラルが継続しない」などの課題
貢献され、ITIL® V3 コア書籍のサービストランジション
解決のために ITIL® に着目し、経営層と一体で対応され
の著者でもあります。
たことなど、ISO/IEC 20000 認証取得に向けた活動につ
いてご発表いただきました。特に印象的なことは、ISO/
同氏からは、ISO/IEC 20000 シリーズの簡単な履歴と、 IEC 20000 を認証取得されるにあたり、IT サービスマネ
サービスマネジメントにおけるサービス改善、アセス
ジメントシステムを 6 ヵ月で構築・導入されたことは推
メント、専門家の認定に、サービスマネジメント 20000
進事務局及びメンバの方の努力の結果と思われます。
シリーズをどう利用できるかが説明されました。また、
ISO/IEC 20000 シリーズの全体計画として、すでに制定
参加された方からは、「課題や困った内容への対応が参
されているパート3の「適用範囲定義」、パート4及びパ
考になった」「聞きやすく、運用改善のポイント、ITIL®
ート8として制定準備中の「プロセスアセスメントモデ
の効果が分かりやすい。議題も共感できた」「構築後の課
ル」と「リファレンスモデル」、パート5として制定され
題と対策が非常に参考になった」などのコメントをいた
た「模範的実施計画」などにも言及されました。
だいております。
続いて、Lynda Cooper 様より、『20000 パート1改版と
JIPDEC 様から「ITSMS 技術専門部会 活動報告」と題
今後の展望』と題して現在改版中の ISO/IEC 20000 のパ
しまして、ITSMS 技術専門部会 主査 黒崎様よりご講
ート1の変更点を中心に説明されました。同氏は、ISO/
演いただきました。ご講演は、技術専門部会の活動経緯
IEC JTC 1SC7 WG25 20000-1 の改版プロジェクトの
や活動内容、ITSMS 認証取得に関する見解、ITSMS ユーザ
エディタという立場であり、ISO/IEC 20000 パート1が
ーズガイドなどのご発表がありました。
2005 年に発行されて以来、ISO/IEC の SC7 委員会で、約
*ご発表の詳しい内容につきましては、当月号の会報誌に掲
載しております。合わせてお読みください。
20 ヵ国からのインプットに基づきその改善に取り組んで
きました。その結果、次版は 2011 年の早い時期に発行
される予定であり、そこで何が変わり、なぜ変わったか、 セミナ担当より
そして組織が新しい版に向けてどのように準備できるか
を説明いただきました。
ユーザ事例講演で は、KDDI 株式会社 木村様より、
『ITSMS 運用へのチャレンジ!!』と題して、ご講演いた
だきました。ご講演では、「個人のスキル・経験に依存し
がち」「特定のプロセスについてドキュメントが不十分」
8
会員寄稿
サービス ・ カルチャの浸透から始めよう
~共通の価値観を持つことがサービスマネジメントのスタート地点~
1 はじめに
これは家族サービスに対する価値観が、サービスを提供
する側のお父さんと受け手側の家族の間で違っていたた
これから ITIL® サービスマネジメントを始めようと考
めに生じてしまったといえましょう。
えている企業の方、あるいは既に始めているが、なかな
か思ったように成果が出てこない企業の方に、ITIL® の
もしかしたら、家族のみんなは、どこか遠くに出掛け
提唱する「サービス・カルチャ」を社内に浸透させると
ることよりも、近くでも良いから一家で一緒の時間を過
いうアプローチをお勧めしたく、ITIL® V2 および V3 に
ごすことを望んでいるのかもしれません。
含まれるエッセンスを私なりに解釈し、自社での事例を
交えてなるべく分かり易くご紹介します。
サービスを提供する側とされる側が共通の価値観を持
つためには、まずサービスを提供する企業の中で共通の
2 サービス・カルチャとは?
価値観を持つ。それがサービスマネジメントのスタート
地点になります。
ITIL® V3 では、サービス・カルチャとは「顧客重視の
3 サービス・カルチャをどのように社内に広めるか?
カルチャであり、主な達成目標は、顧客満足と顧客がそ
の事業達成目標を実現するように支援すること」と定義
家族サービスを例に出しましたが、社内でサービス・
されています。
カルチャを広める時にも、いきなり ITIL® の説明をする
また、組織のカルチャについては、「IT 組織同士、お
のではなく、社員の身近なことからイメージを膨らませ
よび IT 組織と顧客とのやり取りをコントロールする一連
ることが有効です。
の共通の価値であり規準である」と述べられています。
これを簡潔に解釈すると、サービス・カルチャとは「IT
私は、新入社員にサービスマネジメントについて説明
サービスを提供する企業とお客様双方が、サービスに関
をする際に、いきなり ITIL® のプロセス体系や内容につ
する共通の価値観を持つこと」だと思います。
いて説明するのではなく、まずじっくりとサービスとは
何かを新入社員自身が考える時間を作っています。
よく、共通の価値観を持つことが夫婦円満・家庭円満
の秘訣といわれますが、これはまさにサービス・カルチ
具体的には、まず身近な題材を元にサービスについて
ャに通じるものではないでしょうか。
のイメージをし、そこから自社のサービスについてイメ
ージを膨らませ、さらにサービスと品質を紐づけ、品質
例えば、日頃家族と一緒に過ごす時間が少ないお父さ
を客観的に把握し、最後に品質保証の体系と ITIL® のフ
んが、家族に喜んでもらおうと家族に内緒で一泊の温泉
レームワークを理解する、という流れで研修を進めます。
旅行を企画。ところが、道中大渋滞に巻き込まれるは、
大雨でメインイベントのアウトドアでのバーベキューは
以下は、多くの人が日頃利用する宅配便サービスを題
できないは、散々な結果になってしまい、家族は喜ぶど
材にした自社でのワークショップのカリキュラムですの
ころか余計に父と家族との溝が深まってしまったという、 で、ご参考にしていただければと思います(表 1)。
そんな経験はありませんか?
9
時間
テーマ (目的)
10:00
サービスとは何かを理解する
~
10:30 (サービスをイメージする)
(30分)
内 容
新入社員を3名程度のグループに分け、テーマに対してグループ内でディスカッションを行
い、その後で各グループの代表者が全体発表を行うというワークショップスタイルで研修を行
う。
まず、サービスとは何なのかを、宅配便サービスを題材として、宅配便サービスでお客様が
受けるサービスには何があるかをディスカッションする。
ディスカッションが進まない場合は、A地点からB地点に物を運ぶことだけがサービスではな
く、お客様が荷物を送りたいと思った時から、配送方法や梱包方法、希望配送時間などを決
め、オーダフォームを記入し、荷物を預け、配送先に荷物が届くまでの間で、お客様が経験す
る全てのことがサービスの一部であることを説明しディスカッションをうながす。
続いて、自社においてはどんなサービスがあるかディスカッションする。
まず、各自で営業活動(提案・見積・受注)から、デリバリ活動(納期調整、工事手配、構
築、テスト、開通)を通じて、オペレーション活動(料金請求、サービス監視、障害対応、問い
合わせ対応、計画作業の連絡、顧客満足度調査など)というサービスのライフサイクルを提
示し、それらの活動の中でどんなサービスがあるか考える時間を与え、その後でグループ
10:30
自社におけるサービスとは何かを理解す ディスカッションに入る。
~
る
最終的に各グループで重要と考えるサービスを5つに絞って報告する。
11:15
(サービスのイメージを膨らませる)
以下は想定されるサービスの例。
(45分)
①商用サービス(データサービスであれば、A地点とB地点間をあらかじめ決められた納期・
接続形式・スピード・遅延・可用性でデータ交換を行うサービス)
②そのほかのサービス(広報活動、自社のウェブサイト、お客様への提案、見積り、受注、工
事手配、構築・テスト、請求書、サービス監視、障害対応、問い合わせ対応、顧客満足度調
査など)
10分
休憩
11:25
品質とは何かを理解する
~
11:55 (サービスと品質を紐づける)
(30分)
65分
サービスの品質とは何かを理解するために、上記であげられた5つのサービスそれぞれの品
質として何があるかをディスカッションする。どういう品質だとお客様は喜ぶのか、競合他社と
の差別化を図るためにはどのような品質にするべきかをディスカッションする。
ランチ
13:00
サービスレベルとは何かを理解する
~
13:30 (品質を客観的にとらえる)
(30分)
サービスの品質の良し悪しを判断するには、何らかの基準が必要であり、目標も必要であ
る。そして品質は際限なく良くすることが目標ではなく、営利を目的とした企業である以上は
競合会社より優れていてかつ採算が取れる範囲内にする必要があることを説明する。
そこで、サービスを提供する側と受ける側で、あらかじめ合意したサービス品質であり、サー
ビスレベルという概念が出てくることを説明する。
サービスレベルを満たしているか満たしていないかを判断するには、品質を客観的に定量的
または定性的に計測可能な基準を設け、計測した結果を当事者間で見解の相違なく確認で
きることが必要があることを説明する。
5つのサービスに対する品質に関して、お客様と合意するサービスレベルをどのように定義
すべきかをディスカッションし、理由を含めて発表をする。
全てのグループの発表が終わった後で、グループであげた5つのサービスとその品質、そし
てサービスレベルを、実際のお客様との契約書に盛り込むと、それがSLA(サービスレベルア
グリーメント)になること、そしてITサービスプロバイダとして、どんなSLAを契約書に盛り込む
かが経営戦略上の他社との差別化になることを説明する。時間があれば、ITIL V3のサービ
スストラテジの「サービス戦略」について紹介をする。
13:30
SLAが、自社とお客様間の合意事項であるのに対して、そのSLAを保証するために、社内の
オペレーショナルレベル(OLA)と請負契
~
各部門間で合意したサービスレベルをOLA(オペレーショナルレベルアグリーメント)と呼び、
約(UC)について理解する
13:45
また自社と保守ベンダなどと合意したサービスレベルをUC(請負契約)と呼ぶこと、そしてこ
(品質保証の体系を知る)
(15分)
の3つの整合性を取ることが重要であることを、3つの契約を可視化した図表で説明する。
ここまでのおさらいとして、自社が提供するサービスには、品質の基準があり、お客様とSLA
で品質を保証していること、またSLAを保証するためにOLAやUCがあることを説明する。
13:45
サービスマネジメントとは何か、何故必要
このサービスレベルを保証するための仕組みが「サービスマネジメント」であり、そのフレーム
~
なのかを理解する
ワークの世界的な標準がITILサービスマネジメントであり、ISO20000として標準化もされてい
14:30
(ITILフレームワークの目的を理解する)
ることを説明する。
(45分)
ITILの機能とプロセスの全体構成を見ながら各機能とプロセスの概要を説明する。
※
これ以降、ITILファンデーション資格の取得を目標にITILサービスマネジメント研修を行う
表 1 ITIL® サービスマネジメントに関するワークショップのカリキュラム例
そこで、もう一度サービスについて考えてみたいと思
4 サービスマネジメントを始めるためにまずすべきことは?
います。
サービス・カルチャを社内に広める方法として、新入
社員研修の例を紹介しましたが、ここではサービスマネ
サービスマネジメントを始める上で、「そもそもサー
ジメントの活動を全社的に広めるための具体的なアプロ
ビスとは何か?」ということから考える必要があります。
ーチを紹介します。
ITIL® では「サービスとは、顧客が特定のコストやリス
クを負わずに達成することを望む成果を促進することに
10
よって、顧客に価値を提供する手段である」と定義され
ないのです。
ています。
そこで、そういったことを生じさせないために、ITIL
これは少々堅苦しい定義ではありますが、お客様に IT
でいうサービスの定義の枠を広げて、関わる部門を増や
サービスを提供するサービスプロバイダであれば、ふむ
すというアプローチをお勧めします。
ふむなるほどと理解できるでしょう。
その際に大事なのは、経営層をスポンサーとする全社
この ITIL® の定義に当てはめて、自社のように通信サ
規模のプロジェクトにすることです。
ービスを提供する企業においてサービスを定義すると、
「データ通信サービス」「インターネット接続サービス」 各部門の現場の人は、マネージャーも含めて日々の業務
に追われていますので、そこで新たに ITIL® サービスマネ
などがまず頭に浮かぶでしょう。
ジメントという聞きなれないことのために仕事が増えるの
そして、サービスレベル管理プロセスとインシデント
ではないかという拒否反応を示すことがあります。
管理プロセスから始めるとしたら、そのサービスのサー
ビスレベルとして「パケット遅延 (Latency)」「可用性
それは、競合会社がひしめき、コストを切り詰めかつ
(Availability)」「平均復旧時間(MTTR)」などがあがり、 スピードを求められる IT サービス業界の現場では当然の
それをサービスの KPI(業績評価指標)としてインシデ
反応でしょう。
ント管理の活動を建て付けるでしょう。
いくら理路整然とサービスマネジメントの有効性を説
もちろん、そのアプローチは間違っていませんし、そ
いても、理屈や奇麗事だけでは、なかなか現場は動かな
のプロセス活動の結果からあぶり出される問題を分析し、 いものです。
その結果として問題管理プロセスや変更管理プロセスに
活動を広げていくというモチベーションが、プロセスの
そこで、サービスマネジメントが会社にとっていかに
活動に携わるスタッフから自ずと湧いてくるでしょう。 重要か、会社のビジョンとミッションにどのように関係
それが ITIL® で提唱する Small Start Quick Win(まず
するのか、各部門の経営層から現場にカスケードダウン
出来ることから始めてなるべく早く成果を出す)のアプ
し、もし目標管理制度による人事評価を導入している企
ローチなのです。
業であれば、マネージャレベルの社員にサービスマネジ
メントに関する目標を設定させることも効果的なアプロ
この場合にサービスマネジメントに関わる人は、主に
ーチです。
お客様のヘルプデスクやサービスの運用に従事する人、
それとプロダクトマネジメントの人です。
5 サービスの定義の枠をどのように広げるか?
そうした時に、それ以外の部門の人は直接サービスレ
ここでは、サービスの定義の枠の広げ方について、自
ベル管理やインシデント管理に関わらないことになりま
社の事例を元に説明します。
すが、プロセス活動の結果あぶり出された問題を解決す
るためには、営業部門やサービスデリバリ部門、財務経
ITIL® のインシデント管理プロセスでは、「サービス
理部門、人事部門など社内の様々な部門の人の協力が必
の品質を阻害、あるいは低下させる、もしくはさせるか
要になります。
もしれないあらゆるイベント」をインシデントと定義し
ていますが、自社ではお客様に提供する IT サービスに
しかし、それまでサービスマネジメントについて何も
関するインシデントを SA(Service Affected)インシデ
聞かされていない部門の人には、直ぐに協力をしようと
ントとし、IT サービスには直接影響は無いが、お客様
いうモチベーションが湧いてくるものではありません。 に何らかの迷惑をかけたインシデントを CSA(Customer
逆に自分たちの仕事が増えるという警戒心から、サービ
Satisfaction Affected)インシデントとして、それぞれ
スマネジメントを推進する上での抵抗勢力にもなりかね
のインパクトと緊急度により対処の優先度を決めて対応
11
しています(表 2)。
7 まとめ
このように、サービスの定義を IT サービス以外のお客
このように、自社でのサービスマネジメント活動を通
様対応上の様々なサービスに広げ、それぞれのサービス
じて、各部門においてサービス品質改善のための定量的
における CSA インシデントをインシデント管理プロセス
な指標をおくことが、各部門での自主的な継続的サービ
に組み込むことで、社内の多くの部門がサービスマネジ
ス改善(CSI)につながっていくことになり、それによっ
メントに関わることになります。
てサービス・カルチャとしての共通の価値観が社内に浸
透しつつあるという実感を持つことが出来ました。
インシデントの種類
管理対象となるサービス
SA (Service Affected)
サービス品質への影響
約款や契約に基づいて提供しているITサービス
CSA (Customer Satisfaction Affected)
顧客満足への影響
ITサービス以外のお客様対応上の全てのサービス
直接お客様と対峙することのない部門の社員は、日々
の業務とお客様へのサービスとの関わりについて、日頃
から考えることは少ないかもしれませんが、自分たちの
表 2 インシデントの種類と管理対象となるサービス
日々の業務の先には、自社のサービスにより事業を営ん
でいるお客様がいることを、社員の多くが意識するよう
6 サービスマネジメントの活動をどのように行うか?
になった時、それがまさにサービス・カルチャを持つ企
業になってきたということだと思います。
サービスの定義の枠を広げたことで、多くの部門がサ
ービスマネジメントに関わることになりますが、継続的
な活動にするためにはサービス品質の指標と目標が必要
です。
そこまできたら、ITIL® サービスマネジメントの様々
なプロセスを建て付けようとする場合も、社内の抵抗勢
力もなく、共通の価値観の元、社員の心をひとつにして
スムーズに進められることでしょう。
各部門の具体的なサービスと品質指標の例を以下の表
にまとめてみました(表 3)。
部門
サービスの内容
サービスの品質指標
営業部門
プリセール活動でのお客様からの要望や質問に対 要望や質問に対して回答までに要した日数、営業部門
する回答
で一次回答できた比率、営業へのクレーム件数
サービスデリ
バリー部門
お客様の希望納期への対応、お客様との工事日程 納期遵守率、平均納期、平均納期遅延日数、日程調
の調整
整までにかかった電話とメールの数
工事部門
サービス開通までの事前調査および開通工事
ヘルプデスク
サービス開始後のお客様からの要望や質問に対す 要望や質問に対して回答までに要した日数、ヘルプデ
る回答
スクでの一次回答率、ヘルプデスクへのクレーム件数
財務経理部門
請求書の発行、請求書に関するお客様からの問い 請求書の送付期限遵守率、お客様からの請求書に関
合わせ対応
する問い合わせ件数、請求書に関するクレーム件数
KVH 株式会社
事前調査での調査漏れ発生率、サービス引渡し後の
開通工事ミスによるインシデント発生率、工事に関する
クレーム件数
サービス品質本部 品質保証部
スペシャリスト
小渕 淳二
表 3 部門毎のサービスと品質指標の例
ITIL® Manager's Certificate
このように、各部門でサービスと品質指標を定義する
とともに、その部門の達成目標を目標管理制度における
マネージャの活動計画と達成目標に組み込みます。さら
にスタッフに関しても同様に、担当する業務における活
動と達成目標を目標管理制度に組み込むことで、実質的
な活動と成果を出せるサービスマネジメント活動にする
ことができるのです。
これにより、社内のお客様へのサービス提供に関わる全
ての部門の人が、自分もお客様に対するサービスの一部を
担っている、という意識を持つことになり、その結果とし
て全社的にサービス・カルチャが浸透するのです。
12
電気通信主任技術者
会員寄稿
これからの IT サービスマネジメント
~運用から顧客ビジネスの成功のための戦略へ~
化され、そこにフォーカスされたことにより、「ITIL® =
Ⅰ はじめに
IT サービス運用」としての捉え方がすっかり定着してし
IT サービスの運用品質の改善から、より戦略へのフェ
まったと思われる。しかしながら、V2 のサービスサポー
ーズへ運用部門がアプローチしなければ、日本の IT サー
ト、サービスデリバリーは運用の人間にとって非常に分
ビスの生き残りが難しくなるという危機感を ITIL® の教
かりやすい体系であり、実装しやすく ITIL® のコアの体
育現場から感じ取り、今後の IT サービスマネジメントの
系や考え方の普及させる大きな原動力となったのは間違
あり方について以下に提言したいと思う。
いない。
Ⅱ 研修受講者の意識
2 サービス提供の核となるストラテジ
ITIL® コア書籍のサービスストラテジは一部の職種で
わが社は 2008 年 5 月より ITIL® V3 のトレーニングを
読みにくいとの指摘もある。ITIL® V3 がいまいち盛り上
実施し、600 名を超える受講者を数えた。トレーニング
がりに欠けるというのを本寄稿では言述し難いが、現実
の講師を行っていての実感として、ITIL® コア書籍のサ
のものと受け止め、ストラテジがすべてのサービスのコ
ービスストラテジは自分の職掌から遠く、必要の無い知
アとなっていることを理解し、運用担当者こそ IT サービ
識という意識が受講者にあり、大半が ITIL® V3 ファンデ
スマネジメントを拡張する上で、今後、上流への働きか
ーション試験に出題されるという理由でサービスストラ
けがより重要となってくること認識しなければない。
テジを学習している。その背景としては受講者の多くが
運用・保守担当者で、マニュアル通りに IT 運用を行うこ
JAL の再建を担っている稲盛和夫氏は「人生・仕事の
とを責務とし、いかにトラブルを起こさず、いかに安定
結果 = 考え方 × 熱意 × 能力」と表現している。熱意
的にシステム運用しているかが自らの関心事で、サービ
と能力は 0 ~ 100 点までの点数があるのに対し、考え方
ス品質を向上させる意識は希薄であるように推察される。 は- 100 ~ 100 点までが存在すると述べている。この考
その状況は V2 でのトレーニングを開始した 2003 年と今
え方こそ、ITIL® V3 のストラテジに相当し、これがブレ
とも変わらないと思う。
てしまうと、IT サービスもマイナスに作用してしまう。
ここに改めてサービスストラテジの重要性を提起してお
Ⅲ サービスストラテジ
く。
1 ITIL® V3 の登場
Ⅳ 顧客の期待の変化とサービスマネジメントの役割
IT サービスをライフサイクルという広い視野で捉えよ
うと V3 がリリースされ、日本においても 2008 年 8 月の「継
1 製品・サービスを売る時代からビジネスの価値を売る時代へ
続的サービス改善」の日本語版の出版をもってすべて出
先日、機会があってプロジェクトマネジメントの権威
揃った。その中で、IT サービスの戦略を示すサービスス
であるハロルド・カーズナー博士の講演を聴講し、同氏
トラテジは V2 でも存在したエッセンスでもあり、V3 で
はプロジェクトマネージャ(以下、PM)の変化について
より詳細になったが考え方は目新しいものではない。V2
次のように捉えていた。
の 7 冊の本のうち「ビジネスの観点」にも戦略について
は触れられており、継続的改善についても緑本「サービ
『1990 年代の PM に求められていた知識はほとんどが技
スマネジメントの導入計画立案」に書かれている。むし
術的な要素であったが、今日の PM に要求される知識は、
ろ V2 では、サービスサポート及びサービスデリバリに特
ほとんどがビジネスに関する理解と、一部技術的な知識
13
が求められるようになった。顧客は PM に成果物を期待す
ているのだろうか?残念ながら、そのような意識で仕事
るのではなく、ビジネス上の課題解決に期待を寄せてい
に携わっている者は極めて少ない。
るのだ』と述べている。
IT サービスの運用者は、IT サービスを納入しリリース
確かに、その傾向は教育ソリューションにおいても強
してから遠隔監視、あるいは顧客先に常駐しながら、IT
く、特定の知識付与から、未知なる課題を克服できるス
サービス品質維持・向上のために従事している。IT サー
キルの柔軟性を求めるようになり、育成側の期待は生産
ビス提供を構成するチームメンバは社員だけではなく、
性向上から創造力向上へシフトしているのが感じ取れる。 業務委託先会社の社員、派遣社員などの混成チームを成
製品とサービスを売る時代からビジネスの価値を売る時
していることも多い。したがって、仕事に対する意識は
代に入ったと言えよう。
様々で、非常に意欲的で業務の生産性を上げようとする
者がいる一方、ただのルーチンワークのようにモニタリ
ングし、作業日報を記入する者もいるのが実情だ。
2 運用部門の可能性
サービスマネジメントではどうであろうか。顧客の期待
は単なる運用改善から、戦略的パートナとしての存在とし
仕事に対するモチベーションが高いとは言えない人に
て求めるようになってきた。サービスマネジメントにおい
とって、現状の仕事のやり方を変えていくのは非常に難
てはユーザと直接の接点を持つサービスデスクやサービス
しい。新たなしくみを取り入れようとしても、「それは契
の利用状況をモニタリングしている運用部門こそ顧客のビ
約にないことだから」「それは私の仕事ではないことだか
ジネスにおける IT サービスの役割や価値を深く把握する
ら」と拒否されることも多い。そのように必ずしもサー
ことができる最たる部門である。戦略的パートナになるた
ビスマインドの高くない従事者が存在するなか、サービ
めに、まさしく顧客のビジネス戦略に助言をできる部門で
ス提供の模範とも言われる ITIL® のプロセスを組織に導
あり、今後の役割としては非常に重要になってくる。つま
入しようとしても、なかなか納得して新たな業務を遂行
り、運用保守によるログ分析やコミュニケーションは、戦
してもらえず、衝突が起きてしまう。このような状況下
略を定めるトリガーとなり、ITIL® V3 でも用いられている
では、業務を“納得”して行うのではなく、トップダウ
DIKW モデルの出発点、いわゆるデータの高度化させるド
ン的な“説得”して ITIL® のしくみを導入し業務を進め
ライバとなり得る。したがって、運用のログの見方によっ
てしまっていると言えよう。魂の入らない箱モノに終わ
ては、活きた知恵を生み出す源泉が枯れてしまいもするし、 ってしまう。
その分析によっては新たな価値を生み出す大きな宝箱にも
ITIL® で い う 4P(People、Process、Products、Partner)
なり得るのである。
の中心には事業のビジョン、戦略、運営、(事業)統合が
あり、それに従い各部門でサービスを生み出すように表
背景
現されている。
知恵
なぜ?
ナレッジ
どのように?
人材、スキル、トレーニング
情報
誰が、何を、
いつ、どこで?
People
データ
ビジョン・戦略
運営・統合
理解
Process
マネジメント、経験、テンプレート
Product
ハード、ソフト、技術
Ⅴ 運用担当者のマインド
1 運用に係わるさまざまな担当者
では、IT サービスマネジメントに従事している者は顧
そして、ITIL® V3 コア書籍のサービストランジション
客のビジネス目標を達成すべく、戦略へのインプットを (日本語版 P170)の『変更の管理への助言』という項目
行うために貢献していくという共通認識のもと仕事をし
14
の『するべき事項』に「なぜ、この変更を行っているか
を説明し、伝えることができるようにする。」とはっきり
きちんとスタッフに伝えているであろうか?サービス品
書かれている。なお、この表では変更に伴い、人のケア
質を向上することによって起こる効用は運用する者にと
にフォーカスされた内容多く、いかに“人”が大切かを
って非常にわかりにくい。例えば、川に橋を掛ければ、
感じ取ることができるであろう。それだけ“人”のマイ
生活の利便性が向上し、双方が橋を渡って新たなコミュ
ンド形成は重要となっているのである。
ニケーションの場を形成したり、経済交流が活性化した
りする。橋を掛けたことによって生まれる地域の方々の
笑顔は創造しやすいイメージである。
2 システム導入の歴史的経緯
ITIL® に限らず新たにシステムを導入する際、抵抗勢力
によってしばしば衝突が起きる。人間にも慣性の法則が働
しかしながら、IT サービスは形としての成果物が見え
くのであろうか? 慣れた仕事環境に対する業務の再構築
にくい。サービス実態を示す報告書が該当するかもしれ
を余儀なくされることへの嫌気を感じてしまうのである。
ないが、それは試験を自己採点し提出しているようなも
のであり、製造物のように誰でも客観的に評価できる代
IT ユーザはこれまでビジネスの要請上、システムの機
物ではない。ここにサービス品質について顧客に理解し
能追加によるユーザインタフェースの複雑化に対応するた
てもらう難しさと自らもその価値を実感しにくい難しさ、
め、分厚いマニュアルを読み解き、機能拡張された IT を
いわゆるサービスマネジメントの難しさがある。
使いこなせるようにしてきた。業務に慣れるまで時間を費
やし、システム拡張後の投入量の増加に伴う負担を強いら
価値の認識・創造という点で面白い話がある。オースト
れてきた経験から、新システムに対して拒絶反応があるの
ラリアのオペラハウスの建築プロジェクトでは、当初の予
が、今の IT ユーザの状況である。そして、サポート部門
算は 700 万オーストラリアドル(1 オーストラリアドル=
である運用担当は、複雑化した IT の問合せ対応やユーザ
80 円前後)であったが、最終コストは 1 億オーストラリ
からの不満を受け、そのストレスと導入直後の人為的な投
アドルとなった。PM はクビになった。しかし、オペラハ
入ミスによるトラブル対応、さらにはアプリケーション間
ウス完成後、そのシンボル的な建造物を観光するため世界
の相性に起因するトラブル対応に追われ、苦痛を受けてき
中の人が訪れるようになった。美観に満ちたオペラハウス
た。会計的な制度変更に伴う理由によって拡張された新シ
の建築によって、施設使用料だけでなく、それ以外の大き
ステムでは投入するステップが多くなったり、直感では次
な経済効果をオーストラリアにもたらした。今ではこのプ
の遷移が分からないシステムをやむを得ず導入しなければ
ロジェクトを誰もが成功と見なしている。それは、オペラ
ならず、その対策として運用側で実施するユーザ向けの導
ハウスという目に見える成果物のもたらした価値を誰もが
入前の説明会開催も負担になっていた。
認めていることに他ならないからである。
このような経験から、ユーザにとって新システム=負
さて、サービスマネジメントではどうであろうか?
荷のかかるものとして、悪として捉えられるようになっ
サービスには次の4つの性質がある。
てしまった。結果、セキュリティや法規制という社会的
<サービスの性質>
な要請に伴うものであっても、導入する側はシステムの
①無形性
マニュアルの整備や使い方ばかりに目が行ってしまって、
何のために新システムを導入したのかの説明もないまま
にシステムの変更をかけてしまうようになった。また、
それがユーザにも負担をかけ、自らも苦しむ結果をもた
らした。そればかりではない。開発の遅れの影響を受け、
実装前に導入目的や機能説明をする時間すら取れなかっ
形が無く実際に触れることはできない。
②生産と消費の同時性
サービスの提供と消費が同時に進行する。
③不均質性
サービス品質がばらつく。
④消滅性
在庫として保有することができない。
たこともしばしば起きていた。
無形性および消滅性といった性質ゆえに、材としての
Ⅵ サービス価値の認識の難しさ
保存はできない。これがサービスの価値を伝える難しさ
さて話を戻すが、サービスマネージャやリーダは自ら
である。まして、提供しているサービスが今後何らかの
の運用によって提供されたサービスがもたらす効用まで
価値を生み出すであろう「サービスの潜在的価値」を立
15
証するのはさらに難しい。それを実現するには顧客との
こにはなんら予防医学的な見地が働いていないのである。
成熟したコミュニケーションと関係構築は必須である。
IT サービスマネージャは今後ますますサービスマネジ
Ⅶ まとめ ~サービスマネジメントを越えて~ メントの潜在的価値を顧客に認識させる力量が求められ
てくるであろう。サービスマネジメントの反復的な価値
顧客にサービスの価値を認識してもらい、運用スタッ
は、先に取り上げた日々の運用から十分得られるもので
フにサービス品質を向上させるマインドを醸成するため
ある。とりわけ、運用実態から見た傾向分析に留まらず、
には、さらに一歩踏み出し、提供したサービスによって
ユーザとのコミュニケーション、社会情勢や業界動向を
生み出される副次的効用まで共有することが望ましい。 加味し、なぜそのような傾向が見られるのか分析し、知
それが、顧客とともに創り出す将来のビジョンというこ
恵に変換し、顧客のビジネス戦略へのインプットとして
とになろう。
いかなければならない。いわば、株式の投資家のような
目線が必要ということになる。さもなければ、安価な労
しかしながら、前述したようにサービスの価値を伝え
働力を求め生産拠点を海外に移した製造業のように、ク
る難しさがある。IT 運用のサービス品質について何社か
ラウド化の進展により、安い電力と水そして規模の経済
ヒアリングをしたが、対前年度に対するサービス品質、 を求めて IT サービスマネジメントのオフショア化が進
あるいは SLA に基づいた基準を目標に掲げ、運用結果に
み、日本におけるサービスマネジメント事業が衰退して
よって提供先との継続的な取引や自社の売上が確保され
しまう恐れがある。
る利点は運用スタッフに伝えているが、サービスの提供
先に生み出される二次的な効用までは運用スタッフに伝
えきれていないのが現状である。
イスラエルの物理学者で TOC(Theory of Constraints;
制約条件の理論)の提唱者エリヤフ・M・ゴールドラッ
NTT ラーニングシステムズ(株)
ト博士(Dr. Eliyahu M. Goldratt)が発案した CCPM(ク
教育研修事業部 営業推進部 課長
リティカルチェーンプロジェクトマネジメント)の中に
小島 章教
ODSC という手法がある。この ODSC は Objectives(目的)
、
Deliverables(成果物)
、Success Criteria(成功基準)の
略で、これらはプロジェクト管理に用いられる。そこには
プロジェクトの成功のためにすべてのスタッフに落とし込
むための3つの質問が用意されている。1つめは「目的は
何か?」2つめは「成果物は何か?」最後に「成功基準は
何か?」である。この3つの軸を共有する。サービスマネ
ジメントの世界では、この3つの軸が自社に向いているか、
あるいは自社を越えて提供先に向いているかで大きく変わ
ってこよう。
顧客に提供しているサービスの潜在的価値を理解して
もらうためには、顧客のビジネス上の成功に IT サービス
が貢献していると認識してもらうことである。そのため
には、IT サービスの運用改善に留まらず、IT サービスマ
ネジメントから戦略的価値を見出さなければならないだ
ろう。「IT サービスは使える状態が常態であって感謝さ
れない。
」と運用担当者が感じているのは、運用管理の域
に留まっていることを意味しているのだ。人間は病気にな
って初めて健康のありがたさを知るようなものであり、そ
16
ITIL® Manager(V2)
ITIL® Expert
ITSMS 審査員補
ITSM Consultant/Manager
会員寄稿
ヒューマンエラーとサービスオペレーション
~ヒヤリハット活動と問題管理・インシデント管理~
システム障害の割合が相対的に高まっているとも言える
はじめに
だろう。
ITIL® 導入/ IT サービスマネジメントの目的の一つで
あるサービス品質の向上において、インシデントの抑制
I.1 ヒトに起因するインシデント
は最重要課題である。多くの報告においてインシデント
「システムダウンの 2 割がハードウェア障害によるもの
の原因の最も多くを占めるのがヒューマンエラーとされ
で、4 割がソフトウェア障害、そして残る 4 割がヒュー
ており、IT サービスマネジメントにおいてヒューマンエ
マンエラー」「データセンタで発生する障害の 40% ~ 60%
ラー対策は不可欠な活動と言えよう。
以上が人為的ミス」「企業のネットワークが停止する原因
の 3 分の 1 は人的ミス」「機密漏洩の 6 割以上は人為的ミ
本稿では、IT 業界に限らず日本の多くの業界で取組
ス」などインターネットで目にする多くのレポートは、
まれているヒヤリハット活動などのヒューマンエラー対
少なからぬ割合(3割から6割)のインシデントがヒト
策の技法を振り返り、サービスオペレーションにおける
に起因していることを示している。(図Ⅰ - 1に日経コン
ITIL® プロセスとの連携・統合について筆者の経験を踏
ピュータの調査事例を示す)
まえて考察を加える。特にインシデント管理そのものだ
けでなく、インシデント予防やエラー・コントロールを
ITIL® 導入の費用効果分析のキーとなるのはインシデ
担う問題管理、「未然」のインシデント検出を取扱うイベ
ントであり、インシデント解決にかかるコストだけでな
ント管理などとの共通性・連携性が多く挙げられる。
く、インシデントの解決までのビジネス機会損失や従
業員労働単価の損失、といった典型的な効果算出例が
これらの相互連携により、ITIL® プロセスにおいては
ITIL® 書籍(V2 の「サービスマネジメント導入計画立案」
ヒューマンエラー対応を補完する一方、ヒューマンエラ
添付資料 G)にも挙げられている。
ー対策としても IT サービスマネジメントの継続的なプ
ログラムに組み込まれ、より組織的に認知された活動
このように、ITIL® 導入のキーとなるインシデントに
基盤を得ることになる。より多くの現場の IT に関わる
ついてその多くがヒトに起因していることを考えると、
「People」にこれらの相乗効果がもたらされることを期待
ITIL®/IT サービスマネジメントの効果を得るためにヒュ
したい。
ーマンエラー対策は避けて通れない要素と言える。
I. ヒューマンエラーと ITIL® ヒューマンエラーすなわち人為的ミスは「意図しない
結果を生じる人間の行為」として一般に「ヒト」の活動
2005 年 7 月~ 2008 年 6 月に本誌
および Web サイト「IT pro」で取
り上げた主なシステム障害のう
ち、原因がわかる事例を上記 4 種
類に分類した。総件数は 125 件
全般に付随して発生する。IT が人手を省力する自動化
の道具である一方で、IT 自身の存在はユーザやオペレ
ータなどあくまで「ヒト」に依存し、ヒューマンエラー
はインシデントの主要原因となっている。また IT 自体
出典:日経コンピュータ 2008 年 7 月 15 日号/「うっかり」ミスは無くせる
の耐障害性が向上するにつれてヒューマンエラーによる
17
図 I-1 インシデント原因の割合の例
I.2 3つの P と ITIL
IT サービスマネジメントを支える重要な視点として
「1の重傷災害の下には、29 の軽傷事故があり、その
3つのP (People-Process-Product) が言われるようにな
下には 300 の無傷事故がある」という事例分析を基にし
って久しい。ITIL® は、この Process 指向のベストプラ
たハインリッヒの法則が有名だが、この「無傷事故」の
クティスとして世に受け入れられ、多くの支持ベンダー
部分を「ヒヤリハット」と呼称し、文字通り「思わぬミ
が対応 Product(ツール)を提供してきた。People の視
スや事象の発生にヒヤリとしたりハットしたりすること」
点からも Process 導入時の組織構造や役割 ・ 責務といっ
を表現したものである。
た組織面の良いプラクティスを示している。
ヒューマンエラー対策としては、統計的に多く遭遇す
しかしながら People の視点で更に「組織」「ヒト(そ
るはずの「ヒヤリハット」に対して原因を除去もしくは
のもの)」を考えると、ITIL® やそれを取り巻く議論にお
情報共有して意識付けしていくことで将来予測される軽
いて後者「ヒト」が語られることは少ないように感じら
度・重度の事故の発生を防ぐ活動に繋がっている。「ヒヤ
れる。ヒューマンエラーなど「ヒト」の品質については、 リハット」への遭遇を待たず更にプロアクティブに日常
情報システムといった「モノ」やその稼動によって提供
的な未経験事象である「キガカリ」を収集する活動まで
されるサービスの品質の影に隠れてしまっているようだ。 広げる場合もある。
インシデントのカテゴリ部類に関する記載(V2「サービ
要因
スサポート」添付資料 5A)を例にとってもソフトウェア
重大災害
1
軽傷事故
29
無傷事故
300
やハードウェアなど「モノ」を中心に記述されている。
上述の様にインシデントの多くが Process を実践し
ヒヤリハット=
根本
根本
原因
原因
要因
要因
Product を操作する「ヒト」の関与を通じて発生、もし
くは重大化していることは、多くの IT サービスマネジ
未経験事象
未経験事象
要因
・・・KYTなどによる予測
・・・KYTなどによる予測
メント実務者の頭を悩ませていることと思う。本稿では
ITIL® とは補完関係にある「ヒト」へのアプローチ、ヒ
図Ⅱ -1 ハインリッヒの法則とヒヤリハット、 KYT
ューマンエラー対策について ITIL® 特にサービスオペレ
また「KYT:危険予知訓練」をベースにした危険予知活
ーションとの相関関係を述べていきたい。
動が「ヒヤリハット」と並んで、もしくは「ヒヤリハット」
の一環で取組まれることも多い。
「KYT」とは、
「Kiken-Yochi
II. ヒューマンエラー対策
Training」の頭文字で「作業に従事する作業者が、事故
ヒューマンエラーへの対策活動は、IT に限らず様々な
業界で進められており特に医療や建設、交通業界など人
為的ミスが人命に関わる業務領域で重要視されている。
IT 業界でもユーザやオペレータに対する「フールプルー
フ」機能のシステム組込みの他、業界を跨いだ手法とし
て「ヒヤリハット」「KYT:危険予知訓練」など人の行動
そのものへのアプローチが取り入れられている。本稿で
や災害を未然に防ぐことを目的に、その作業に潜む危険
を予想し、指摘しあう訓練(Wikipedia)」を意味するが
そこから予想された危険の除去を含めた活動を示すこと
もある。ヒヤリハットが経験した事象を対象としている
のに対し、KYT は未経験の事象を対象としている点が特
徴的である。また訓練において作業場面や作業フローや
作業手順など共通の資料を題材に危険の指摘を行うこと
から、参加した作業員が本来の作業手順を再認識する機
も先ずはこれらのアプローチを簡単にまとめておく。
会となり、標準手順の逸脱防止にも効果がある。
II.1 ヒヤリハットと KYT
「ヒヤリハット」とは、「重大な災害や事故には至らな
いものの、直結してもおかしくない一歩手前の事例の発
見(Wikipedia)」を意味し、広義にはこの「ヒヤリハット」
に遭遇したことを記録し、その原因を全員で究明し再び
事故の要因とならないようにする活動までを含めて用い
られている。
18
II.2 ヒヤリハット活動のプロセス
業界を超えて様々なヒヤリハット活動が紹介されてい
るが、典型的な流れは下記のようにまとめられる。(図Ⅱ
-2 ヒヤリハット活動のプロセス)
ハット活動の対比を通じて各々の連携・補完の可能性を
体制化
考察したい。
計画
Ⅱ -1 で整理したようにヒヤリハットが「未然(無傷)
・
検出
気付き
点検
アンケート
未遭遇の事故・事象(=インシデント)」に位置付けられ
KYT
ることを考えると、インシデントを直接取扱うサービス
オペレーションとの連携は不可欠だと言える。インシデ
記録・収集
記録
収集
ント管理に限らず、特に「未然」=「プロアクティブ」
という共通の目標をもつ問題管理との連携が期待される。
評価・識別 課題① 課題② 課題③ 課題n
III.1 問題管理との対比
分析
原因①
ITIL® の問題管理は特に V2 でのモデルで明示されてい
原因②
原因② 原因③
原因③ 原因n
たように、問題コントロールとエラー・コントロールか
解決
対策①
ら成り、インシデント・データなどをインプットに問題
対策②
対策② 対策③
対策③ 対策n
を識別・分類し、さらにエラーの分析・除去を通じて問
題をクローズさせるプロセスである。
報告
ヒヤリハット活動に見るヒューマンエラー対策も「プ
図Ⅱ -2 ヒヤリハット活動のプロセスの例
ロアクティブな対策」、「エラー・コントロール」という
H-1 体制化:実施体制の構築
共通の目標を持つことから問題管理とは連携しやすい関
H-2 計画:活動目的やスケジュールに加え、課題の想定
係にあると考えられる。
や「検出」方法の計画・準備
H-3 検出:気付き/点検/アンケート/ KYT などの方法
問題管理のアクティビティはおおまかに下記のように
で実施
まとめられる。
H-4 記録・収集:検出された事象の記録・収集
H-5 評価・識別:検出状況の評価、収集された記録から
P-1 問題の検出・記録
の課題識別
P-2 カテゴリ化と優先度付け
H-6 分析:直接的な要因/根本原因の解析、対策の検討
P-3 分析と診断
H-7 解決:対策の実施
P-4 解決とクローズ
H-8 報告:管理職・関係者への報告や活動参加者へのフ
上記をⅡ .2 のヒヤリハット活動と比較すると下記のよ
ィードバック
うな関係が認められる。図Ⅲ -1 を参照されたい。
前述の KYT は広義でそれ自体上記全般のプロセスをカ
バーするものであるが、上記では「検出」における未経
•H-5「評価・識別」においては P-1「問題の検出・記録」と、
験の事象を予測する一手法として示している。
課題/問題を識別する点で共通している
•H-6「分析」においては P-3「分析と診断」と、ヒヤリ
ハットもしくはインシデントの根本原因を分析する
III. ヒヤリハット活動とサービスオペレーションの対比 点で共通している
いわゆるオペミスと呼ばれる IT 活動上の代表的なヒュ
•H-7「解決」においては P-4「解決とクローズ」と、課
ーマンエラーは、サービスライフサイクルで言えばサー
題/問題への対策を実施する点で共通している
ビスオペレーションにあたり、稼動中のサービスのダウ
ンに直結しやすい要因として多くの現場で重要視されて
以上のように、H-5 ~ H-7 のアクティビティは問題管
いる。本稿ではサービスオペレーションの中心的なプロ
理にマッピングが容易であり、H-4 の記録・収集データ
セスであるインシデント管理、問題管理と上述のヒヤリ
から P-1 の問題の検出を行うようなインタフェースを取
る事もできる。つまりインシデント管理のインシデント
19
記録から問題を検出するように、ヒヤリハット活動のヒ
上記をⅡ .2 のヒヤリハット活動と比較すると下記のよ
ヤリハットの記録から問題を検出しても大きな違いは無
うな関係が認められる。図Ⅲ -2 を参照されたい。
く、寧ろ同じ根本原因のインシデントやヒヤリハットを
一つの問題に関連付けることにより解決への活動が一本
•H-4「記録・収集」は I-1「インシデントの識別・記録」
化され、共通のリソースによって整合性のある対策がと
とヒヤリハットもしくはインシデントの記録を起こ
られるというメリットがある。例えば、問題管理におい
す点で共通している
てソフトウェアで自動化による解決策が実施されようと
•I-3「調査と診断」、I-4「解決・復旧・クローズ」につ
している際に、同じ根本原因に対してヒヤリハット活動
いては、ヒヤリハットが未然の事象であるため、復
側で、人手で多くの手順書やチェックシートを修正する
旧にかけての活動が不要なことから対応するアクテ
ような対策を始めてしまうといった多くのリソースが無
ィビティは無い
駄に費やされることはなくなるのである。
ヒヤリハット活動
体制化
尚、P-2「カテゴリ化と優先度付け」については、ヒヤ
計画
リハット用のカテゴリを用意することで一応このアクテ
検出
記録・収集
気付き
点検
アンケート
KYT
ヒヤリハット
記録
記録・収集
記録
点検
アンケート
サービス
デスク・コール
KYT
記録
収集
評価・識別 課題① 課題② 課題③ 課題n
ヒヤリハット活動
計画
検出
気付き
イベント
情報
インシデントの識別・記録
ィビティを実施することになる。
体制化
ヒヤリハット
情報
インシデント
記録
分析
原因①
原因②
原因② 原因③
原因③
原因n
解決
対策①
対策②
対策② 対策③
対策③
対策n
カテゴリ化と優先度付け
「未然」
「未然」
のため
のため
ASAPな
ASAPな
解決は
解決は
不要
不要
調査と診断
解決・復旧・クローズ
インシデント管理
サプライヤ
提供情報
報告
収集
問題の検出・記録
図Ⅲ -2 ヒヤリハット活動とインシデント管理
評価・識別 課題① 課題② 課題③ 課題n
カテゴリ化と優先度付け
分析
原因①
原因②
原因② 原因③
原因③
原因n
解決
対策①
対策②
対策② 対策③
対策③
対策n
報告
分析と診断
以上からヒヤリハット活動とインシデント管理とはあ
解決とクローズ
まりマッピングすべきアクティビティは多くないと言え
る。
問題管理
図Ⅲ -1 ヒヤリハット活動と問題管理
ただし、日常的に検出されたヒヤリハットすなわち
H-3「検出」で日常的な「気付き」を記録する場合は、
III.2 インシデント管理との対比
H-4「記録・収集」に代えて I-1「インシデントの識別・
ヒヤリハットは「未然のインシデント」と言い代える
記録」に連携させる方が有効であると考えられる。日常
こともできることからヒヤリハットもインシデントの 1
的な気付きは多くの場合、その場で記録を残さないと日
種として取扱う事例は少なくない。つまりインシデント
次作業にまぎれて記憶から抜け落ちてしまうため、イン
のカテゴリにヒヤリハットの分類を用意してやればツー
シデントと同様にリアルタイムに保存するツールが有効
ルの実装上は簡単にインシデント管理の対象となってし
になるからである。この場合、I-2「カテゴリ化と優先度
まうのである。
付け」については、ヒヤリハット用のカテゴリを用意す
ることで一応このアクティビティを実施することになる。
問題管理と同様にヒヤリハットとの比較のため、イン
これは ITIL® V3 のイベント管理において「警告」イベン
シデント管理のアクティビティを下記にまとめる。
トなど「未然」のインシデントをユーザへの報告が不要
な「特別な種類のインシデント」として割当てていくの
I-1 インシデントの識別・記録
と類似している。
I-2 カテゴリ化と優先度付け
I-3 調査と診断
一般的にはヒヤリハット活動の H-3「検出」には「気
I-4 解決・復旧・クローズ
付き」以外に一時的に実施される「点検」「アンケート」
「KYT」も行われるが、これらはインシデント管理に連携
20
するよりも、Ⅲ .1 で述べたように H-4「記録・収集」の
単純にプロセス連携のメリットだけではない。組織的な
結果を問題管理に連携する方が現実的である。
全体最適をもたらす ITIL®/IT サービスマネジメントへの
連携は、現場主体のヒヤリハット活動が、組織全体の公
III.3 プロセス連携のメリット
式化された活動として組み込まれるということである。
ヒヤリハット活動と問題管理、インシデント管理の対
またインシデントの多くの原因であるヒューマンエラー
比・連携について上記のように考察してきたが、連携の
への有効な対策として、継続的サービス改善の重要なプ
メリットを下記にまとめる。共通部分の統合や、情報の
ログラムとしてアクティビティに位置付けられるべきで
受渡しのためのインタフェース構築により少なからぬメ
ある。
リットが認められる。
1. 問題管理とヒヤリハット活動はインシデント/事故の
未然防止に向けた対策をとる点で共通なアクティビティ
が多い。そのため検出されたヒヤリハットは、問題管理
プロセスに入力することで以降のアクティビティを効率
IT コンサルタント
小澤 一友
的に実施できる。
2. インシデント管理とヒヤリハット活動を比較すると、
1992.4 機械翻訳への興味から IT 企業に入社、以来シス
ヒヤリハットが謂わば「未然」のインシデントであるため、
テム開発/保守、特に広域監視システムの研究・構築な
インシデント管理のような ASAP なインシデントコントロ
どシステム運用管理関連の経験を踏まえ、2004.4 ITIL®
マネージャ認定取得後、ITSM 導入、システム運用・開発
ールを必要としない点で共通なアクティビティが少ない。
に渡る品質改善活動に参画。IT 運用改善などの IT コン
しかしながら日常的な「気付き」であるヒヤリハットを
サルタントを経てアウトソーサ創業に際して品質マネジ
確実にかつ効率的に記録するためにはインシデント管理
メント構築を担当。ITIL® Manager's Certificate, PMP,
ツールなど同一の保存方法が有効である。
ISO/IEC 20000 Consultant Certificate。
3. イベント管理における「警告」などのイベントと同様、
ヒヤリハットは「未然」のインシデントの検出機会となる。
イベント管理と同様にインシデント管理、問題管理への
有効な情報を提供できる。
IV. まとめ
本稿では、インシデントがかなりの割合でヒューマン
エラーに起因していることからヒューマンエラー対策の
典型的な活動であるヒヤリハット活動をとりあげ、イン
シデント管理、問題管理など ITIL® サービスオペレーシ
ョンのプロセスとの連携について考察した。
特に問題管理との共通性が多い点、インシデント管理
ツールが有効である点、またイベント管理に並び「未然」
のインシデントの検出機会となる点など、ヒヤリハット
活動にはプロセス単位で連携のメリットを期待できるこ
とが分かる。
またヒヤリハット活動が特に危険やリスクを伴う現場
の視点で普及してきたことを考えると、期待されるのは
21
会員寄稿
ITIL® 人材育成を考える
~ ITIL® 試験に合格したい/させたいですか?~
私は、コンサルタント兼トレーナとして様々なお客様
一番多いのが、
とお話する機会を得てまいりました。ITIL® V2 および V3
◆上司からの命令で
の全コース・ラインナップを提供し、「合格番長」として
◆順番が回ってきたから
受験対策コースを企画するなど、様々な取り組みを通し
その次に多いのが、
て、
◆この資格(ITIL®)を取ると報奨金が出るから
◆ ITIL® のコンセプトを理解して身につける
◆(昇格/昇給のための)必須取得資格に入っていて、 ◆試験に合格する
比較的取りやすいと噂だから
という、一般的に両立が難しいとされる 2 つを網羅し
たコース提供ができるよう努めています。
もちろん、もっと積極的な「自己研鑽のため」「これま
での自分の経験を体系化して理解したいため」という理
実際、昨年の「第 6 回 it SMF Japan コンファレンス」 由もありますが、多くは「なぜ ITIL® を勉強すべきなの
の教育セッションでご提供した「マネージャ対策講座」 か」「なぜ会社を挙げて重要資格として取り組んでいるの
の参加者の皆様からは「勉強する気になりました!」「合
か」について意識されていない場合がほとんどです。言
格しました!」の声が届けられ、自分のこれまでしてき
い換えると、人事部/人材開発部/上司の皆さんの計画
たことが実を結んだと実感しました。
や意図が伝わっていない、とも言えるでしょう。
このような経験を通して得たノウハウを是非皆さんと 《企業が ITIL® 資格取得に力を入れる理由》
共有したいと思い、今回、筆を取りました。
理由は会社によって様々でしょうが、私達が掲げてい
る理由の主なものとして以下が挙げられます。
これから ITIL® V3 Foundation、Intermediate のコー
ス受講&受験に臨まれる皆様や、社内の ITIL® / ITSM 人
■組織力の向上& TCO 削減
材育成計画を企画予定の責任者の皆様にとって、少しで
IT サービス・マネジメントは、一人で実現できるもの
も参考になれば幸いです。
ではありません。
次のような、よくあるお客様からの疑問に 1 つずつ答
組織が一丸となり、所属する全員のレベルを上げるこ
えていきたいと思います。
とにより、組織力全体を上げることを目指します。その
ためには、一人一人が同じ言葉、同じコンセプトを理解
【1】ITIL® 資格を取得して、何になるの?
する必要があるのです。同じ方向に向いた組織を適切に
【2】ファンデーションは、コースを受ける必要はあるの?
マネジメントすることで、効果と効率が最大限に引き出
独学で試験だけ受ける方が安いし・・・。
され、顧客満足度向上および(IT 組織と顧客の両方の)
【3】何をどう勉強すれば合格するの?
TCO 削減が実現していきます。従って、会社を挙げて「組
織として」ITIL® を学ぶことが推奨されているのです。
【1】ITIL® 資格を取得して、何になるの?
■市場競争力の強化
私は、授業の最初に必ず、「受講目的」を受講生のみな
これは特に IT サービスを商品として販売している IT
さんに一言発表していただくようにしています。
サービス・プロバイダに言えることですが、ITIL® 資格
取得者の保有 = 自社 IT サービスの品質をブランド化
22
できるチャンスなのです。
には、長期的な人材育成が必要です。各社で立案されて
いる人材育成のマイルストーンの 1 つとして ITIL® 資格
1 つ目の説明にも記載したとおり、最適で高品質なサ
を採用することにより、自社の IT サービス・マネジメン
ービス提供は、組織力があってこと成り立ちます。つま
ト力向上を図ることができるでしょう。ITIL® 資格体系
り、商品(IT サービス)を実際に提供しているメンバ全
は、マネジメントの責任ごとにレベル分けされています
員が ITIL® の知識を持ち、その考え方の元で考え、行動 (後述)ので、マイルストーンに設定しやすいと言えます。
しているということは、彼らのアウトプットであるサー
ビス自体が最適化された高品質のものである、と言える
■社員の価値向上のため
わけです。意外と日本国内だけでなく、世界中を見ても、 近年、ISO9001 と ISMS と ITIL® を合体した、IT サービ
このような組織はまだまだ数少なく、たとえ実際はそう
ス・マネジメントの認証の仕組みである ISO/IEC 20000
であってもアピールしきれていないように感じます。
が世に出て、その認証を取得する組織も 120 を超えまし
た。ISO/IEC 20000 認証は、サービス(仕組み)に対す
◆市場での差別化要因 ~① RFP 対応~
る認証です。これを実施する社員ひとりひとりの能力を
実は、このことは、サービスを「売る」側の IT サービス・
認証する「ISO/IEC 20000 ファンデーション」をはじめ
プロバイダよりも、「買う」側のお客様の方が敏感に察知
とした個人の価値を認証する資格が続々と出てきていま
されているように感じます。お客様からすれば、IT サー
す。個人の資格は、どこに行っても、その個人が自分の
ビスは本業であるビジネス(事業)を成功させるための
資格として持ち続けることのできる資格です。
重要なツールです。その品質とコストに敏感にならない
わけがありません。
ITIL® 資格も「個人の価値」を認証する資格です。「ISO/
IEC 20000 認証に対応する人材」という範囲を超えて、
「広
以 下 の よ う な ITIL® を 意 識 し た RFP(Request For
く IT サービス・マネジメントを理解し、実践できる人材」
Proposal:提案依頼書)が増えてきているのが明確な証
として認証されます。そいう意味においては、ISO/IEC
拠だと言えます。
20000 認証を取得している組織以外でも活用できる資格
・運用担当者は ITIL® ファンデーション資格取得者また
であるといえます。
は相当する教育を受講していること。
・ITIL® マネージャ資格取得者が最低 1 人専任で参加して
そもそも、資格を持っているということは、相応する
いること。
知識と理解を持ち合わせている、ということの証明です。
・サービスレベルを ITIL® の SLA(サービスレベル合意文
ITIL® のコンセプトである「サービス指向」(=お客様の
書)の項目に則り提示すること。
視点でサービスを捉え、提供する)という考え方を持つ
社員の価値は、会社にとってかけがえのない資産となる
◆市場での差別化要因 ~②顧客環境への対応~
でしょう。
RFP への対応と似ているのですが、より切実な問題と
して「顧客の IT 部門や取引をしている IT サービス・プ 【2】ファンデーションは、コースを受ける必要はあるの?
ロバイダが全て ITIL® ベースで動いている」場合があり
独学で試験だけ受ける方が安いし・・・。
ます。つまり、ITIL® が常識になってしまっているわけ
です。何の予備知識も無くそこで仕事をしなくてはいけ 《ずばり、コースを受けた方が良いと思います》
なくなってしまった場合、本人だけでなく、会社の品質
これは、コースを売りたいから言っているわけではあ
も疑われてしまい、一気に信用を失墜してしまいかねま
りません。私も昔は独学で勉強して試験が受かりさえす
せん。特に(運用)人材の派遣を本業とされている企業
ればいい、と考えていましたから、みなさんの気持ちは
の皆様は、この課題に頭を悩まされているのではないで
よくわかります。
しょうか。
しかし、幾多のコースを提供してきた結果、「ITIL®」
■人材育成のマイルストーンとして
という代物は独学で資格を取りさえすれば良いものでは
以上のように、組織力向上により他社との差別化を図
ない、ということがわかってきました。それは、独学受
り、顧客に対してベストなサービスを提供していくため
験者の皆様、および、その人材育成担当者様からの以下
23
のような意見にも表れています。
■ ITIL® を説明できるようになりましたか?
《独学受験の典型的な結果》
Q:ITIL® を勉強された方に質問です。ITIL® とは何か、 ■なかなか合格できない
一言で言ってください。
→ ITIL® に対する嫌悪感の増大、結局のところ時間
A:IT サービス・マネジメントのベストプラクティス集
とコストがかかってしまう。
です。
■試験対策が目的となってしまう
Q : なるほど。
→ ITIL® のコンセプトが理解できないまま終わり、 では、IT サービス・マネジメントとは何ですか?ベス
その後業務で利用しない(受験勉強時間と教材費用&試
トプラクティス集とはどういうことですか?
験費用のムダ)。
5 分差し上げますので、例を挙げてプレゼンテーショ
ンしてもらえないですか?
なぜ、独学受験はうまくいかないのでしょう?
A :えええええ?!
そもそも、ITIL® の各試験にはシラバスという、試験
についての説明資料が公開されており、受験するにあた
独学をすると、どうしても「試験対策をしたい」とい
って「認定教育コースを受講することを推奨(上位試験
う気持ちがはやってしまい、「はじめに」や「第一章(概
については『必須』)」としています。従って、やはり独
要)」の部分を読み飛ばされる方が多いのではないでし
学受験はお勧めでは無いのです。そのお勧めでは無い理
ょうか?実はそこに、IT サービス・マネジメントや ITIL
由は、講師の立場で多くの受講生の皆様と対面すること
の根幹となるコンセプトが詰まっており、それ以降の各
により、より「実感」できるようになりました。以下は、 管理プロセスの説明を正しく理解する上で読み飛ばして
私が感じる独学受験がうまくいかない理由です。
はいけない部分なのです。実際、ファンデーション試験
の対象範囲も「全般的な問題+各管理プロセス」とされ
《独学の落とし穴》
ています。
独学の方法は大きく分けると次の 2 つです。
・市販本を購入して読み、サンプル問題を解く。
各教育会社のコースでも、この基本的な概念部分を丁
・e-Learning で学習し、サンプル問題を解く。
寧に説明しているはずです。
これらの教材は非常に質の高いものがどんどん開発さ
れ、世に送り出されていることは確かです。しかし、利
■プロジェクト・マネジメントと IT サービス・マネジメ
用する側の気持ちや利用方法 1 つで、その効能も半減し
ントは別物なのです
てしまうのが悩みどころです。
◆ ITIL® はマネジメントのフレームワークです。
意外とこのこと自体も意識せずに勉強されている方は
多いです。
■勉強のポイントがわからず迷走
大量の言葉やコンセプトがあり、(こんなことを言って
はなんですが)無味乾燥なフレームワークについての説
「僕は電話対応窓口だけど、インシデント管理のプロセ
明をじっと集中して読む、というのはかなりの忍耐を要
ス・フローに描かれているようなことは、普段からやっ
します。また、サンプル問題も数が限られていますし、 ていますよ。これくらい、電話対応の常識でしょう。」
本番で同じ問題が出ることは基本的に無いでしょうから、 と考えながら、ITIL® の勉強をしていると、たとえ試験
質問と解答を一対一で理由を深く考えずに覚え込む、と
に合格したとしても、間違った理解のまま職場に戻るこ
いう勉強方法をされている場合、かなりの確率で残念な
とになりますし、「既にできている」という考えから、職
結果になってしまいます。
場で ITIL® を活用する気にもならないでしょう。
従って、この方法は、「来月から現場に ITIL® を適用す
・上記の彼は、インシデント対応はしていますが、イン
る責任者になった」「次の商談で ITIL® をキーワードとし
シデント管理はしていません。
た提案書を書かなくてはいけない」「ITIL® という考え方
・同様に、イベント監視とイベント管理は異なります。
を是非勉強したい」というように、ITIL® 知識の習得に
・・・いかがでしょう?
意欲的な方にのみお勧めだと考える次第です。
24
「ITIL® はマネジメントのフレームワークである」とい
・リリース判定会議は、リリースすることは前提で、十
う意味が理解できた時、必ず何かしら、このノウハウを
分なテストを行ったか、リリースのタイミングや人員配
現場に適用できるという気持ちが湧いてくるはずです。 置に問題は無いかを最終的に確認する会議体です。
その開眼(と私は呼んでいるのですが)が、ITIL® の真
・CAB は、より以前の段階でそもそも、要望として上がっ
の理解の第一歩です。さらに言えば、上位資格取得のた
てきている内容を採用すべきかどうかを判断する会議体
めの入り口とも言えます。
です。
◆ ITIL® は IT サービスのマネジメントであって、プロジ
一般的な企業では、ビジネス部門が「実行したい」と
ェクトのマネジメントではない。
決めれば、IT 側はそれに従うのがあたりまえで、あとは
ITIL® を勉強されるうえで、この点も意識されると良
それを如何にスムーズに現行運用へ取りこむかに注力さ
いと思います。
れます。しかし、ITIL® では、その姿勢に一石を投じて
いるわけです。ビジネス部門が「実行したい」と考えた
プロジェクトとは、期限があり、唯一の成果物を生み
場合、IT 側は IT 技術の専門家としてビジネス部門と一
だす事柄です。これを如何にマネジメント(管理)して
体となって、真に必要か、真にメリットがあるのか、リ
いくかについては、「プロジェクト・マネジメント」とい
スクは低いのか、などを協議していくべきなのです。
う考え方が別に存在します。
他にも、様々な誤解が発生しやすいのが ITIL® だと思
ITIL® は IT サービス・マネジメントを成功裏に収める
います。なぜなら、その考え方のベースやキーワード
ための 1 つの参考書ですので、プロジェクト・マネジメ
が、普段の仕事内容に近いからなのです。しかし、実は
ントとは一線を画します。これを意識して勉強されると、 ITIL® の基本コンセプトは普段あまり意識しない事柄な
なぜ ITIL® は組織力の向上につながるかがわかるでしょ
ので、実は同じ言葉で表現していても、意味が違う場合
う。(これを私は「第 2 の開眼」と呼んでいます。)
が多々ある、というのが、ITIL® 独学の落とし穴なのです。
教育コースでは、その落とし穴にはまらないよう、講師
■誤解の多いコンセプト
陣が説明を進めて行きます。
◆「インシデント」と「問題」の違い
この 2 つのキーワードの違いを明確に説明できる方は 《できれば、組織でまとめてコース受講をお勧めします》
意外と少ないように思います。そして、この違いが理解
ここまで読んでいただいた方は、もう理解いただいて
できるようになった時、「顧客指向」を大きく掲げて展開
いると思いますが、ITIL® は組織力向上のためのフレー
される ITIL® の話の意味がようやく心に沁みてくるよう
ムワークとなるのです。従って、同じ IT サービスを提供
になります。
しているメンバのみなさんは、できるだけ同じタイミン
グで同じ講師の説明を受けて、同じ知識と理解を得るよ
例:ある日の午後、システム利用者から「ネットワー
うにされることをお勧めします。そうすることで、関係
クが遅い」という問合せの電話が数件寄せられました。 者全員が同じ考えと共通言語の元で、同じ方向に進み易
監視画面上はどのサーバやネットワーク機器にも障害や
くなり、効率的かつ効果的に組織力を上げることができ
閾値越えは検出されていません。しかし、1 時間後には、 るでしょう。
経営会議が開かれ、全国の支店をつなぐ TV 会議が予定さ
【3】何をどう勉強すれば合格するの?・・・。
れています。
⇒この状況と対処策を「インシデント」と「問題」および「イ
ンシデント管理」と「問題管理」のコンセプトを使って
確実に言えることは、「各資格試験が求める人物像とな
説明できるでしょうか。
るよう勉強すること」が合格への近道です。
◆「CAB(変更諮問委員会)
」はリリース判定会議ではない
CAB をリリース判定会議、つまり、リリースして良い
つまり、一問一問の試験を正解することを目標とする
かどうかを最終決定する会議体と同じだ、と勘違いされ
のではなく、ITIL® が伝えたいことは何か、に耳を傾け
る方が多いです。
ることをお勧めします。そして、各コースのトレーナが
その伝承者なのです。
25
資格名
求められる人物像
V2
ファンデーション
勉強内容
V3
ファンデーション
ITIL® の基本コンセプトを理解して
‚ IT サービスとは?
いる。
‚ IT サービス・マネジメントとは?
ITIL® 用語を使って説明された時
‚ ITIL®とは?
にその意味が理解でき、行動に
‚ なぜ ITIL®は必要か?
移せる。
‚ 各管理プロセスが目指すのは何か?
‚ 各キーワードの意味がわかるか?
等について勉強する。
プラクティショナ
インターミディエイト プロセス・マネージャとして、プロ
セスを設計し、現場のスタッフを
導くことができる。
‚ 管理プロセスの設計に必要な詳細事
項を理解し、身につける。
‚ マネジメントという観点で、 自分が
責任を持つ(対象資格の)管理プロ
セスについて、 スタッフや関係者、
他のプロセス・マネージャとコミュ
ニケーションをスムーズに取るため
の知識と管理能力を身につける。
マネージャ
エキスパート
サービス(群)を代表し、組織のト
ップや顧客と対等に会話ができ
‚ ITIL®に関する全ての知識を身につけ
る。
‚ 全てのプロセス・マネージャをとり
る。
ITIL® に関するあらゆる知識と理
まとめ、組織のトップや顧客とのコ
解を、組織を代表して把握し、ス
ミュニケーションをスムーズに取る
タッフに指導できる。
ための知識と管理能力を身につける。
(厳密には、ITIL® バージョンや資格の種類によって少しずつ差異があります。)
私達は、皆様おひとりおひとりの資格取得だけでなく、せっかく時間をかけて勉強した分を現場でも活かせるお
手伝いをしていきたいと日々努力しています。
日本クイント株式会社
最上 千佳子
システムエンジニアとしてオープン系システム
の提案、設計、構築、運用、利用者教育など幅
広く経験。同時に、社内技術者育成のための教
育コースも開催。顧客へのソリューション提供
の中で IT サービスマネジメントに目覚め、日本
クイントへ入社。現在、ITIL® の教育を中心に
コンサルタントとして活動中。
26
会員寄稿
サービスマネジメントの活用法
~家庭編~
はじめに
2002 年 12 月、プロジェクトが本番稼動前 4 ヶ月に差
常々、ITIL® フレームワークは IT のみならずさまざまな
し掛かったころ、イギリスから運用スペシャリストが私
サービスに役立つと考え、日常生活に取り入れる試みをし
たちのサービスレベル確認のため来日してきた。プロジ
ています。私の IT 分野でのキャリアは今年で 10 年目。プ
ェクト部長と私は丸 2 日間拘束され質問攻めに合い、そ
ロジェクトマネージャとして 3 年、IT サービスマネージ
の結果たるもの散々なスコアで、大手 IT ベンダとして当
ャとして 3 年、そして ITSM コンサルタントとしてさらに
然できていると自負していた自信は砕かれた。その後、
3 年を経て今年からソリューション企画の担当となりまし
彼ら主導によるトレーニングが始まり具体的な施策へと
た。その間、日本国内で 5 年、アメリカで 4 年半と活動の
つなげていくにつれ、押し付けから始まった導入もやが
場を変えたこともあり、異文化に触れる機会にも恵まれ、 て自らが考え工夫する姿勢へと変わって行った。パート
生活、考え方にも大きな変化がありました。このような変
ナそして ITIL® との出会い。お客様および弊社上層部の
化の中で、また、家庭においてどのように ITIL® フレーム
理解と支援。何よりも改善し続けたチームの努力が実り
ワークの活用ができるのか。文面はエッセイ風になってお
システムは稼動後一度も血を流すことのなくサービスを
り、また観点はかなり女性(主婦)目線でいささか恐縮で
提供し続けている。この経験を元に私のキャリアもプロ
すが、私自身の ITIL® との出会いから、ちょっと違うタイ
ジェクトマネージャからサービスマネージャへと移り、
プの活用術をご紹介したいと思います。
思考もいたるところでサービスを意識するようになって
いった。
I. 一期一会
Ⅱ . 出会い系サイトの運営者に
2002 年の冬、私は初めて ITIL® に出会った。こんな風
に書き始めると自宅でも ITIL®、ITIL® を連発する私に主
2005 年 9 月、私は希望が受け入れられ、アメリカの
人から「アイテルってどこの出会い系サイト?」と尋ね
グループ会社に赴任することになった。アメリカでの
られた事を思い出す。当時の日本における ITIL® 知名度
ITIL® 認知度はカナダや日本、ましてはヨーロッパに比
というのはその程度のレベルだったのだと思う。
べるとかなり低く、ITSM コンサルタントとしての私の仕
事はもっぱら「ITIL® ってなあに?」というところから
そのころ私たちが開発していたシステムの運用は「お
はじまった。言葉の壁を感じながら、それでも自分の経
客様の IT 部門がファーストレベルサポート、私たち IT
験を盛り込んだノウハウを伝えるという仕事にやりがい
ベンダのサービスデスクはセカンドレベルサポート、イ
を感じていた。それは、初期の怪訝な表情が少しずつ和
ギリスのパッケージプロバイダであるパートナはサード
らんで真剣に取り組むようになり、でもさまざまな困難
レベルサポート」という体制で合意していた(図1を参
にぶつかり・・と、モチベーションの上下を繰り返しな
照)。
がら成長していくプロセスオーナを目の当たりにするこ
とから得られるのだろう。大人になって自分も含め「人
がなかなか変われない」ということを身をもって知って
いる。しかしながら ITIL® フレームワークは、優先順位
付けの考え方、周囲との合意の必要性、それを見えるよ
うに掲げ、皆の目のつけ所をどこに誘導するかなど、意
識を変える手助けをする。
図1.運用・保守体制 緑はイギリスのパートナ
27
かつて ITIL® を押し付けられ困惑した私も、いつしか
ITIL® との出会いを提供する「出会い系サイト運営者」
のようになっていた。アメリカで私が気をつけたことは
各プロセスオーナのモチベーション管理で、月に一度の
進捗発表ではプロセスの状況説明はそれぞれのオーナに
行ってもらう。先月の目標と進捗、乖離とその理由、困
っていること、上司、周囲へのお願い、今月の目標とい
う内容だ。アメリカは褒めの教育が基本だし、幼いころ
から人前での発表は鍛えられているから CIO 含め IT 部
門 50 名全員の前で自分の成果をアピールするのはお手の
物である。自らの言葉には責任を持つようになるし、何
よりも埋もれがちな地味な作業が表に出る自分の成果を
図2.サービスカタログ ~家庭版~
見せる絶好のチャンスなのだ。「プロセス改善プロジェ
クト」進捗発表はいつも ITIL® クイズで締めくくる。フ
ァンデーションレベルの質問やその組織に特化した問い
ポイントは自分が受けているサービスに着目してみる
を出題し、正しいと思う答えに全員に挙手してもらった
ことで、意外と受けているサービスが多いことに気づく。
後正解を言うのだが、上司や CIO が間違うと会場はどっ
またいくつかの作業の関係を追っていくと今まで相手が
と笑いに包まれる。アメリカではユーモアは必須で、皆、 趣味でやっていると思っていたことも自分が受けている
面白いことにこそ興味がある。組織によっては COBIT® や
サービスに関連することが見えるようになってくる。我
ISO20000 を組み合わせ、セキュリティには ISO27000 を
が家の旦那様の趣味は車いじりで、週末ともなると愛車
活用するなど試行錯誤しながらお客様と ITSM の改善につ
磨きパーツの取替えとせっせと作業に勤しむ。近所に買
いて考えた。同時にプレゼンや教育には遊び心を忘れな
い物に出るとき、遠出するとき、また私を駅まで迎えに
いよう心がけた。基本的なアプローチは日本のそれとは
来るとき、主人は運転手であり私は送迎サービスを受け
変わらないが、国や会社の文化を踏まえて工夫すること
ているわけで、車のメンテナンスはサービス提供に必要
は私にとって良い経験となった。
な作業となる。そう考えると「いつも週末はガレージに
引きこもってばかり」という表現から「可用性維持のた
めに必要な作業だから」に置き換えることが可能になり、
Ⅲ . 家庭でのサービスマネジメントの活用
「お疲れ様!」と冷たい飲み物を差し入れする気にもなる。
家事は家庭における運用・保守だと思うのは私だけだ
趣味のカメラも「きれいな写真を撮る」という撮影サー
ろうか。一日一日を滞りなくまわして明日に繋げていく
ビスを受けているという目線で見てみると、新機種への
という作業。普通に過ごせて当たり前の毎日は、インシ
買い替えも「サービスレベル向上のための変更」と必要
デントあり、問題あり、変更、リリースありと、サービ
な投資に思えてくる。これにサービスの質を加えてレポ
スデスクでのプロセスに事欠かない。これらのプロセス
ートを作ると、相手が望んでない自分よがりの過剰なサ
を仕方なく、ただこなしているという人もいれば、工夫
ービスが多かったり、こなしている項目数は多いけれど
をしわずかな改善ができたことに喜びを見出せる人もい
品質が伴っていないなど、自分でも気づいていなかった
る。家族間で「提供する側、受ける側を細かく変えなが
発見があり、自ら改善の余地ありという判定が出るかも
ら互いにサービスを提供しあっている」ことに着目する
しれない。継続的な改善がここにも生きてくる。
と、今まで意識していなかった気づきがある。
最高裁判所事務総局「司法統計年報」によると離婚の
たとえば、我が家では食事を作るのは私の担当なので
申し立ての動機は男女ともに「性格の不一致」なのだそ
私がサービス提供者となるが、ごみ捨ては主人の担当な
うだ。家族関係が壊れる前に歯車のズレを修正するには
ので立場は逆転する。一日の流れに沿って作業一覧表を
イライラ分析が役立つのではないかと思う。インシデン
作ってみると、お互いの作業振りが良くわかる。サービ
ト管理みたく自分がイライラしてしまう事象を記録し整
スカタログの家庭版というところだろうか(図2を参照)。 理するとパターンや原因が見えてきてワークアラウンド
や根本的な解決法を見出すことに役立つ(図3を参照)。
28
図3.インシデント管理表 ~家庭編~
事象を並べてみると、主人の「時間にルーズ」なとこ
あらためて IT サービスマネジメントの魅力が見えてくる
ろが私のイライラの大きな原因になっていることがわか
効果も生まれるだろう。ご紹介した ITIL® 活用法がその
った。そこで他人との待ち合わせなどが関わる場合は、 ヒントとなれば幸いである。そしてどの場面においても
約束時間を 30 分~ 1 時間前倒しの方向に偽ることにした。 重要なのは、人が一番不確定でありながら、かつ、一番
立て続けにこの手を使うと手の内が知れてしまう可能性
可能性を秘めているということを理解し、お互いのパフ
があるし決して根本的な解決法ではないが、この施策の
ォーマンスを引き出すためにいかにモチベーションをあ
結果、夫婦で約束に遅れることはなくなり私のイライラ
げるかである。感謝の気持ちをこころから伝えることの
は減少した。もうひとつパターン化していた「食事がで
効果は覿面である。これはいかなる場面においても共通
きているのに他の事をやる癖」については、完成時間を
するのではないだろうか。
先方に選んでもらうことにした。「あと 20 分で食事にす
る? それとも 30 分?」と尋ねて相手が指定した時間に
合わせて作ると、さすがに自分で決めた時間は意識して
守るようになってきた。なお家庭版のインシデント管理
表を作成するときは、イライラだけでなく嬉しかったこ
とや感謝したことも同時に記録すると、普段見落として
富士通株式会社
いる相手からの愛情も拾っていくことができ、心温まる
月峯 美香子
作業となる。
パッケージソフトウェア、携帯サイト構築ベンダ及び外
資オンライン証券の IT 部門を経て、2002 年に富士通に
Ⅳ . 魅せる運用へ
入社。取引所システムの開発・運用・保守を担当したのち、
ITSM コンサルタントとなる。2005 年、フジツウアメリ
コミュニケーションに関しては、黙っているよりは伝
カに出向しビジネスアナリストとして SaaS アプリのカ
えたほうが良いし、感情的な口論よりは整理してドキュ
スタマイズを経験。2010 年に帰国後、金融ソリューショ
メント化するほうが望ましい。言い分の信頼性をあげる
ン企画部に着任。好きな言葉は「適材適所」で、「今更
ためにはある程度のデータ量が必要であるし、最初から
という文字は私の辞書には無い」が信条。サービスマネ
ひとつの結論を突きつけるのではなく選択肢をいくつか
用意して望んだほうがスムーズに行くだろう。ITIL® を
ベースに日頃お客様に提供しているプロセスのミニチュ
ア版を、場所を変えて実践してみると意外な効果が生ま
れてくるのではないだろうか。家庭でだけでなく、オフ
ィス内での日常業務や他の場面でも作業の内容を見える
化してみると、「見せる」だけでなく、「魅せる」運用が
実現できる。目線を変えてみると、サービスを提供する
先はお客様だけではなく内部の上司、部下、先輩、後輩、
同僚達・・と多様に広がる。そして違う領域での経験から、
29
ジメントはライフワークと信じる。2008 年に ITIL® V3
Expert を取得。
クラウド・コンピューティング:
サービスマネジメントに
関する疑問点
クラウド・コンピューティングは、世界中の IT 研究所のほの暗い片隅か
ら姿を現すソリューションの中で最善のものとなるかもしれませんが、
最高のレベルのサービス、セキュリティ、品質をユーザと組織に保証す
るために IT サービス・マネージャは何ができるでしょうか。この問いと、
クラウド・コンピューティングがもたらす他のさまざまな疑問に CyberArk 社の Adam Bosnian 氏がお答えします。
好むと好まざるとにかかわらず、 生産性の向上です。従業員やサード
体的なレベルが可用性とアクセス性
クラウド・コンピューティング(イ
パーティが、頻繁に必要になる企業
の面で向上するに違いありませんが、
ンターネットベースの柔軟な IT リソ
データに時間や場所をほぼ選ばずに
同時に、データのセキュリティと、
ースとアプリケーション・サービス
アクセスできるようになるからです。 情報の所有者の評判が危険にさらさ
を利用する技術。基礎となるインフ
このような利点を考えると、財務担
れることは明白です。そしてその所
ラストラクチャの詳細なナレッジや
当役員が IT 役員を捕まえてクラウ
有者とは、ほぼ確実に皆さんや皆さ
コントロールを必要としない)は多
ド・コンピューティングについて根
んの会社です。
くの役員会で最もよく議題に上るト
掘り葉掘り聞く理由がおわかりにな
ピックとなりました。理由は単純で、 ってきたでしょうか。
では、今まさに現れたばかりのこ
この技術を活用すると大幅なコスト
の新技術、クラウド・コンピューテ
削減を実現できるからです。
しかし、企業の IT ファイルや一部
ィングのコスト、生産性、サービス
のシステムを「クラウド」に置くと、 上の利点と、その利用に関するセキ
同じくらい明らかなメリットは、 ユーザと顧客に対するサービスの全
SERVICETALK JANUARY 2010
30
ュリティ、サービス、評判上のリス
クを照らし合わせると、利点とリス
は何らかのクラウド領域によるアプ
クのどちらが勝るのでしょうか?
リケーションの拡張を検討する際に、 あります。
グリーメントをベンダと結ぶ必要が
頼りにするべきサポートと安定性の
維持を懸念事項に挙げています。
リスクの細分化
は、アプリケーション開発サービス
(IDC 調査の)回答者の約 30 パー
クラウド・コンピューティングの運
およびテスト・サービスのより高い
セントが、クラウド環境の 24 時間
用に対するリスク・アセスメント・
コスト効率、より良いサービス、よ
365 日体制のサポートと、高い作業
プロセスでは、自組織が外部にもた
り短い市場投入までの時間を求めて
負荷に対して保証されたレベルのサ
らす可能性のあるリスクのレベルを
クラウドに食指を動かしています。
ービス、セキュリティ、および信頼
理解すると有効です。平均的な企業
性のあるパフォーマンスを求めてい
と比べて、自分の組織が犯罪グルー
ます」
プの標的になるリスクが高いか低い
IT 専門調査会社である IDC の 2009
年度春季レポートによると、大企業
IDC は、 米 国 と 欧 州 の IT 企 業 役
員 400 名の経験をまとめた「CloudBased Application Development
かをアセスメントしなければなりま
ではサービスレベルは?
and Test Services: Customers'
せん。組織が犯罪にあった場合に収
入を失ったり、企業の評判が損なわ
Leading Requirements and Provider
クラウド・コンピューティングは収
れたりするリスクに注目してくださ
Preferences( ク ラ ウ ド ベ ー ス の ア
益向上に威力を発揮するかもしれま
い。また、情報漏えいのインパクト
プリケーション開発サービスとテス
せんが、多くの組織にとって、この
も理解する必要があります。たとえ
ト・サービス:顧客の主要な要件と
技術にアクセスするためのアウトソ
それが悪意ではなく、クラウド・ベ
プロバイダの優先傾向)」というこの
ーシングにはサービスとセキュリテ
ンダの従業員の誤りによるものであ
レポートにおいて、PaaS(Platform-
ィに対する高いリスクも伴います。 ったとしてもです。
as-a-Service)や TaaS(Testing-as-
データが必要になったら、どこから
a-Service)などの新しいプラットフ
でも必要な速さでアクセスできるの
IT アウトソーシング契約の要件を、
ォームの利用により、ユーザは運用
でしょうか?保管や転送の方法は安
次のような部分に分解するべきです。
上や財務上の何らかのメリットを経
全なのでしょうか?
験し始めていることを発見しました。
・パッチ管理:頻度、有効性など
しかし、この新技術の限界や課題に
これらは目新しい質問ではありませ
・ID 管理:作業を許可されている人
関する懸念も表れています。
ん。サードパーティ企業へのアウト
は誰か?その作業内容、作業時期
ソーシングにまつわるリスクは変わ
は?作業しているのが実際に許可
IDC のアプリケーション・アウト
らず実在するということを理解する
されている人であることをどのよ
ソーシング・サービス担当のディレ
ことが重要です。一方で変わったの
うに確認するのか?
クターである Rina Shuchat 氏は次の
は、アウトソーシング先の企業、つ
・規制要件:この要件を満たす責任
ように語ります。
まりクラウド・プロバイダ内でのリ
を負う人は誰か?満たしているか
スクです。これは新たなパラダイム
どうかを問われたらどのように証
「クラウドベースのアプリケーショ
であり、サードパーティによる従来
ン・サービスにおいてプロバイダと
の「ホスティング」アプローチに対し、
して成功するには、信頼性、可用性、 このアプローチに当てはまるリスク
パフォーマンスの領域と、サービス
を理解する必要があります。
レベル・アグリーメントの管理に関
して能力を実証する必要があります」 当然のことながら、適切なレベルの
サービスを実現するには、しっかり
同氏は次のように続けます。「あ
とした戦略およびリスク・アセスメ
らゆる業界部門の大企業は、プライ
ント手順を整備するとともに、期待
ベートやパブリックのクラウドまた
とサービスレベル要件を明示したア
SERVICETALK JANUARY 2010
31
明するのか?
・データ取り扱いのプロセス:企業
が大企業の最高情報セキュリティ責
実に受け入れられていることの表れ
任者
でもあります。」しかし、同氏は次の
の デ ー タ の 場 所 と オ ー ナ シ ッ プ (CISO:Chief Information Security
ようにも警告しています。「どのよう
は?そのデータは確かに組織内に
Officer)20 名から成る委員会に対し
な新技術であれ、データを離れた(ベ
存在しているのか?
て今年行ったインタビューでは、ク
ンダが所有する)場所に保管する前
・スタッフ変更管理:スタッフが退
ラウドのソフトウェア・サービスの
に、リスク・アセスメントを実施し
職した場合、そのアクセス権、ア
可用性とセキュリティに関する懸念
なければなりません。結局、システ
カウント、責任や権限はどうなる
が依然として根強いことが明らかに
ム管理の負担は移すことができます
のか?退職直後にそれらに対応し
なりました。
が、何かがあったときの責任からは
たかどうかをどのように確認する
のか?
逃れることができません」
興味深いことに、CISO は、クラウ
ドでの作業、SaaS 全般、および安全
つまり、クラウド・コンピューテ
なインターネット・アクセスに対す
ィングがもたらす一連の新たなリス
る標準がないことを特に懸念してい
クとサービスの課題への対応は、ク
るのです。ほぼすべての CISO が、こ
ラウド・プロバイダと顧客が同様に
運用上のリスクに対するプロセス
れらの領域における指針の策定を歓
引き受けるべき共同責任です。最も
を整備したら、クラウド・コンピュ
迎すると述べています。
重要なアドバイスは、
「課題に対応し、
契約前の段階でのクラウド・リスク・
モデルの作成
ーティングの契約前の手順としてデ
選択肢を把握し、クラウド・プロバ
ュー・ディリジェンスの段階を、従
Information Systems Security
イダが提供すると表明したとおりの
来の監査とリスク分析のプロセスを
Association(ISSA) の コ ミ ュ ニ ケ
ものを、確実に提供させる強力なサ
行うマネジメントと伴に検討する必
ー シ ョ ン 担 当 の 副 社 長 で あ る Raj
ービスレベル・アグリーメントを作
要があります。
Samani 氏は次のようにコメントして
成すること。そして、あなたの組織
います。
のサービスレベル、セキュリティ、
多くの組織がクラウド技術
および運用業務に合致する方法でサ
の 利 用 を 拡 大 し て い る 一 方 で、 「クラウドに世界共通の標準が求め
ービスを提供させなさい」というこ
Infosecurity Europe 会 議 の 事 務 局
とでしょう。
SERVICETALK JANUARY 2010
られているということは、SaaS が確
32
成功するビジネス・
サービス・カタログの作成
提供している一連のサービスをエンド・ユーザに提示する手段としてのビジネス・サービス・カ
タログのメリットについてはさまざまなことが語られてきましたが、カタログの導入が成功する
かどうかは、ビジネス・サービスと支援サービスとの関係をどれだけ明確に把握できるかにかか
っています。Infosys 社の Kanchan Sood 氏が、あるフォーチュン 100 企業で行ったサービス・
カタログ・プロジェクトにまつわる複雑さにどのように対処したかを語ります。
問題
ビジネス・サービス・カタログ
(BSC)は企業が望む価値をもたらし
BSC を望んでいました。また、対象
と定義されています。Infosys 社は、
範囲内のすべてのサービスに関する
より広い意味でのビジネス・サービ
コスト、提供の詳細、サービスレベ
ス管理(BSM)におけるこのような
ルの条件項目などの情報を提供して、 ITIL® ベストプラクティスの概念を
利用して、企業の事業上の能力を示
ます。IT サービスの提供とリアルタ
顧客にとってサービスをよりわかり
イムの運用に焦点を当てることによ
やすくすることも狙っていました。 す共通的なサービス・プラットフォ
り、BSC は IT の 効 率 と 事 業 価 値 を
クライアントにとっての主な課題は、 ーム・フレームワークを設計し、そ
最大限に高めます。また BSC は、IT
事業上の能力およびサービスの再利
れを利用してクライアントの事業戦
を競争力として位置付けることを可
用と、サービスの重複を排除するこ
略を運用上の能力と戦略的な能力に
能にします。
とによる価値の最大化でした。
変換しました。
この事例では、米国に拠点を置
解決策
ビジネス・サービスと支援サービ
スサービスの特性と能力の周りに、
くグローバルな大手製造会社に
Infosys 社がサービス・カタログを
ITIL® V3 では、チャネル・パート
導入した経験を紹介します。このク
ナ/エンド・ユーザに「販売される」 設計したのです。
ライアントは、エンド・ユーザが IT
すべてのサービスをビジネス・サー
サービス提供を要求したり追跡した
ビスとし、ビジネス・サービスを「可
図 1 に示すようなサービス資産層
りするための単一窓口となるような
能にする」サービスは支援サービス
への分解は、範囲が広く複雑であっ
これらのサービスの間のつながりを
ビジネス ・ ルール
ビジネス ・
サービス
サービス製品管理
支援サービス
一般的なサービス展開
サービス資産/能力
図 1:共通的なサービス・プラットフォーム
SERVICETALK APRIL 2010
33
既存サービスのアセ
ス メ ン ト、優 先 度 付
け、妥当性確認により
サービスを定義
将来的な需要の予測
を計画
サービスの発見
サービスのモデル化
分類方法を定義
サービス要求実現ワ
ークフローを設計
複数の財務モデル方
法論を設計
測定基準を定義
サービス要件を設計
仕様に変換し、カタロ
グに記入
サービス・メタデー
タ・リポジトリ
サービスの発展
サービスの動作を測定
報告の詳細度とカタロ
グの拡張性を分析
コストの最適化のた
めにサービスを廃止
継続性計画を確保
サービスの展開
サービスの廃止
図 2:サービス・ライフサイクル・アプローチ
たため非常に困難でした。サービス
基礎を固める。これには次が含ま
カタログに確実に登録されるよう
資産はそもそも、戦略的なものか運
れる
にした。サービス・カタログに登
録されるサービスは最初のデー
用上のものかのいずれかです。
・もう整備されないが使用されてい
サービス資産層では、無形のリソ
る償却済みのサービス
タ・アップロードの一部として取
り込んだ。
ースである事業上の能力も定義しま
した。能力は、さまざまな要素の中
でもとりわけ事業ライン、事業要件、
・各サービスに付随するサービス価
値を計算する
(「将来的な需要」に分類)の計画
そして価値の面からもっともうまく
識別されます。
立案と需要予測を行った。これに
・収益 ― 予想されるサービス事業
のサイズ
アプローチ
・リスク ― 事業継続性とサービス
弊社は、クライアントが事業と組
・機密性 ― サービスに関する税
織の達成目標に沿った単純なサービ
金、人材、コストがこのカテゴリ
ス・カタログを作成できるよう、サ
に該当する
段階アプローチを選びました。
は統計と事業開発チームからのイ
ンプットを活用した。
レベル遵守を含む
ービス・ライフサイクルに沿った多
・まだ本番に入っていないサービス
2. サービスのモデル化
・サービスごとに付随するサービス
価値を計算した後、サービス要件
・完全性 ― 競争力、業界要因、規
を設計仕様に変換した。
制要因を含む
・可用性 ― インフラストラクチ
・課金のために、サービス要求実
このアプローチは、サービス、コ
ャ・コンポーネント、置換のコス
現ワークフローと複数の財務モデ
スト、サービス・オプションをわか
ト、停止のコスト、サービスの非
ル方法論を設計した。財務モデル
りやすくすると同時に、バックエン
可用性によるビジネス・インパク
には、地理的要素、パートナーの
ドにおける提供の複雑さを表に出さ
ト
プロフィール、交渉条件、契約期
ないようなものにしました。
主要な活動
・キャパシティ ― 事業/ IT 全体
間、および値引きを考慮した。金
にわたり価値は要素ごとに計算さ
額への合意を得るまでに、事業お
れる。
よび製品マネージャと広範囲にわ
たる議論を重ねなければならなか
各段階での主要な活動は次のよう
例えば、インフラストラクチャの
った。これは設計全体の中で最も
にまとめられます。
キャパシティ、一度に処理されるト
困難なステップだったかもしれな
ランザクションの最大数、応答時間
い。
1. サービスの発見と定義
など
・マルチチャネルのサポート(1 つ
・既存サービスの初期アセスメント、 ・サービス登録プロセスを作成し、
優先度付け、および妥当性確認の
SERVICETALK APRIL 2010
新 し い IT サ ー ビ ス が サ ー ビ ス・
34
のマスタ・カタログからさまざま
な基準に従って下位のカタログを
生成する機能)を用意したが、カ
にサービス・カタログ・インタフェ
的で生産的だった取り組みの 1 つ
タログ・ツールに技術的な問題が
ースを使用した。
に、ワークショップの開催がありま
す。重要なのは、ベストプラクティ
あったので導入はしなかった。
これは、ユーザが事業達成目標と
スと ITIL® が推奨することに議論を
運用達成目標に照らして業績評価指
集中させることです。そうしないと
要なステップである。これはサー
標をアセスメントする際に役立つ
議論が延々と続くことになります。
ビスの開発やアセンブル中に必要
・報告の詳細度とカタログの拡張性
できれば、この分類方法を企業のイ
とされる。サービスを検索して再
を分析することは重要である。デー
ントラネットに掲載して簡単に参照
利用したり、既存のサービスから
タ中心の必要最小限の報告にするの
できるようにします。
新しい複合アプリケーションを作
ではなく、報告の範囲を決め、適切
成できるようにするために検出コ
な洞察を加える能力を用いること
メタデータ・モデルに関して弊社
マンドを実装した。
で、カタログを適切に維持できる。
で最も効果的だったアプローチは、
・要求実現ではサービスの検出が重
製品チームからのインプットを利用
・サービスのメタデータの定義。こ
5. サービスの廃止
してコア・モデルを定義し、その後
IT チームにデータの価値を指定さ
こでは、ビジネス・サービス、支
援サービス、およびサービス資産
この段階で弊社が実施した主要な
のメタデータ構造を設計した。ビ
活動は次のとおりです。
せることでした。
サービスの合理化
ジネス・サービスについて考慮す
る必要がある主な要素は、技術グ
・コストの最適化のためにサービス
サービスの合理化は、定義された
ループ、市場セグメント、提案ス
を廃止する合意をリーダたちから
機能をベースとして支援サービスと
テータス、価値提案、請求の頻度、
得た。
サービス資産レベルで行います。例
えば弊社は、支援サービスの 1 つで
依存関係(例えば、実行に必要と
なる指定ソフトウェア)などであ
る。
・適切なコミュニケーションを行う
あるインベントリ管理を、報告機能
ことで、廃止されるサービスの継
が似通っている複数のビジネス・サ
続性計画を作成した。
ービスが利用する共通サービスとし
て識別しました。
3. サービスの展開
・カタログの内容を更新した。
このような項目分けは、ビジネス・
・サービスの展開では、インタフェ
ース、運用、パラメータなどサー
ビスの利用に関する情報を含むサ
・主要な運営/計画立案チームにイ
ンプットを提供した。
フォリオ管理チームと IT チームは
教訓
その主要な利害関係者です。IT チ
ン、ステータス、関係などの他の
パラメータを記録した。
4. サービスの発展
です。項目分けのレベルを適切に判
断することは困難な作業で、ポート
ービス登録簿を作成した。この登
録簿にサービス方針と、バージョ
サービス・カタログに不可欠な要素
このプロジェクトの経験から弊社
ームは非常に細部まで項目を突き詰
が得た数々の教訓は、主に次の 4 項
めようとしますが、そのような詳細
目に分類できます。
はビジネス・サービス・カタログに
は必要ありません。複雑さが増すだ
・サービスのやりとりの測定は、測
共通の分類方法とメタデータ・モデル
けで、物事が別の方向に行ってしま
定値データを取得するために重要
共通の分類方法を定義すると、特
います。そのような詳細な IT サー
である。
定の状況における用語とその意味に
ビス項目には、技術サービス・カタ
対する共通理解に役立ちます。早い
ログを作成するのが最も適切です。
ここでは、定義済みのサービス測
段階で利害関係者に分類方法を提案
技術サービス・カタログのエンド・
定値の取得だけでなく、サービスや
して合意することは、彼らの賛同を
ユーザは IT チームや内部の事業部
エンドポイントの情報へのアクセス
得るのに良い方法です。非常に効果
門です。
SERVICETALK APRIL 2010
35
ガバナンス・フレームワークの決定
利点
多くの組織は、製品投入のための
ガバナンス・モデルを整備していま
まとめると、ビジネス・サービス・
す。最適な方法は、既存のガバナン
カタログ作成に対する弊社のアプロ
ス・モデルを活用して、適切な開始
ーチにより、次のような利点が得ら
レベルにカタログのライフサイクル
れました。
段階を当てはめることです。事業と
ビジネス ・ サービス
IT の意思相通のために、技術側(IT
・ITIL® のベストプラクティスとビ
マネージャ)と事業側(製品マネー
ジネス・サービス管理に基づいて
ジャ)の両方がかかわる開始承認の
いる。
仕組みを整備することをお勧めしま
・導入のごく初期の段階で、事業上
の能力の再利用が 10% に達した
す。
ビジネス ・
サービス A
支援サービス ・ セット
サービス ・
セット AB
・再利用可能なフレームワークを作
運用に関する数値と期間の定義
成し、提供している全サービスと
これは、取り組み全体の中で最も
運用プログラムに適用した。
支援サービス
支援
サービス AB
複雑なステップでしょう。弊社の利
支援
サービス B
支援
サービス C
害関係者が合意し最も有効だった 2
つの重要な値は、製品投入までの時
サービス資産
間とサービスの再利用性でした。た
リソース
能力
だし、具体的なニーズや優先度は組
織に応じてさまざまでしょう。
各種募集のお知らせ
■広告の募集
回数
it SMF Japan 会報誌「ニュースレター」では、IT サービスマネ
1回
ジメントに関するビジネスに取り組む会員組織様からの itSMF
Japan 会報誌「ニュースレター」( 年 4 回発行 ) への広告掲載
を募集しています。会員様向け会報誌への掲載となります。
半年 (2 回 )
it SMF Japan 公式サイト会員ページのお知らせ欄に掲載の内容
をご確認のうえ、事務局までメールにてお申し込みください。
通年 (4 回 )
([email protected])
掲載場所
表紙の次のページ
上記以外 ( 通常のページ )
通常のページ
通常のページ
ページ
料金 ( 税込 )
1 ページ
105,000 円
半ページ
42,000 円
1 ページ
84,000 円
半ページ
68,250 円
1 ページ
136,500 円
半ページ
105,000 円
1 ページ
210,000 円
■投稿の募集
it SMF Japan 会報誌「ニュースレター」では、会員の皆様からの投稿を随時募集しております。ぜひ会員の皆様の貴重な
ご意見ご経験をお伝えさせていただきたいと考えております。なお投稿を採用させていただきました会員様には、it SMF
Japan Web ページで販売している書籍からご希望の書籍を 1 冊贈呈させていただきます。
■インタビューをお受けいただける企業会員様の募集
it SMF Japan 会報誌「ニュースレター」では、企業会員様及びコンファレンスでご講演いただきました企業様を対象として
1 時間ほどのインタビューを行わせていただき、IT 組織の概要、運用システムの概要とともに、自社における IT サービス
マネジメントの取り組みをご紹介させていただいております。こちらも随時募集しております。採用させていただいた会
員様・企業様には、投稿と同様ご希望の書籍を 1 冊贈呈させていただきます。
36
寄 稿
ISO/IEC 20000 の導入状況と今後
クラウド時代に欠かせない ITSMS
JIPDEC ITSMS 技術専門部会活動報告
1. JIPDEC ITSMS 技術専門部会とは
2. ISO/IEC 20000 認証取得の状況
「JIPDEC ITSMS 技術専門部会」についてご存知ない方が
国内における ISO/IEC 20000 の認証取得状況について
多数いらっしゃるかと思いますのでご紹介しておきます。
ご報告しておきましょう。2010 年 5 月 20 日現在で 122
の組織が認証を取得されています。(図 1)
「JIPDEC ITSMS 技術専門部会」とは、IT サー
ビス事業者はもちろんのこと、審査登録機関、
監査法人、コンサルティングファームなどの IT
サービスマネジメントに精通したメンバから構
成された、ITSMS に関する専門家チームです。主
に、
「ITSMS 適合性評価制度の普及への貢献」、
「規
格の正しい理解、要求事項の正しい解釈の促進」、
「ITSMS 適合性評価制度の改善への寄与」を目的
に JIPDEC(財団法人 日本情報開発協会)により
設置されました。
これまでの当部会の主な活動として、ITSMS ユ
出典:JIPDEC Web page(http://www.isms.jipdec.jp/itsms/lst/ind/index.html)
ーザーズガイドの作成(JIS Q 20000(ISO/IEC 20000) 対
図 1.国内における ISO/IEC 20000 認証取得の状況
応編、導入のための基礎編)や FAQ の公開、更に ITSMS
導入済み(ISO/IEC 20000 認証取得済み)の組織からの
しかしながら、この「認証取得組織数:122」という値
アンケート結果の公開など、今後、ITSMS 導入を目指す
に関して、正直申し上げれば、ISO 9001(QMS)や ISO/
組織に対する情報発信を行なってきました。
IEC 27001(ISMS)に比べ「伸びは鈍い」という見方をせ
ざるを得ません。
ITSMS ユーザーズガイドは以下 URL よりダウンロード
が可能です。
因みに世界の認証取得状況において、我が日本は 2010
http://www.isms.jipdec.jp/itsms/std/index.html
年 5 月 20 日現在で 2 位というポジションです。「2 位じ
また、FAQ に関しては以下 Web サイトにて公開中です。
ゃダメなんですか?」という声が何処からか聞こえてき
http://www.isms.jipdec.jp/faq/index.html
そうですが、やはり 1 位を目指したいところです。(図 2)
37
1位 中国
そしてこれらの分析結果を整理すると、これま
※2010年5月20日現在
2位 日本
での市場のニーズは“ISO/IEC 20000 ≦ ITIL®”
3位 イギリス
„ The Number of Certification
であったと言えるでしょう。
このような状況を、当部会もしっかりと受け止
7位 アメリカ
め、反省し、「ITSMS 適合性評価制度の普及への貢
5位 韓国
6位 ドイツ
4位 インド
献」、「規格の正しい理解、要求事項の正しい解釈
の促進」という役割を果たすことの重要性を再認
8位 台湾
識いたしました。
全世界で515の
組織が認証を取得
出典:itSMF Web page(http://www.isoiec20000certification.com/)
※世界の ISO/IEC 20000 認証取得状況に関して、この数値
はあくまでも it SMF への登録数です。実際には各国に
it SMF 以外にも認定機関が存在します。(日本における
JIPDEC など)従って、各国個別の認定機関への登録数も
含めると実際の認証取得数はもう少し多いことが予測さ
れ、日本の全世界における認証取得数の順位に関しても
1 位である可能性は十分にあります。
図 2.世界の ISO/IEC 20000 認証取得の状況
さて現在、認証取得組織数が伸び悩んでいる背景とし
て当部会では次のような分析しています。
3. ISO/IEC 20000 認証取得済み組織の声
・「業界特化型の規格」というイメージが強い
ISO/IEC 20000 という規格は、IT サービスの運用保守に
フォーカスした規格であるというイメージが強すぎるた
当部会では既に ITSMS を構築された各組織から ITSMS
めに、IT サービスが主たる事業組織以外、例えば一般企
構築における苦労話や実感されるメリットなど「生の声」
業の情報システム部門や情報子会社などへの導入が遅れ
をアンケートやインタビューを通じて収集してきました。
ている。
今回はその結果の一部をご紹介しましょう。
・社会環境の後押し(必要性)の不足
① ITSMS 構築の効果として最も重視したことは
2%
ISO/IEC27001(ISMS)が個人情報保護法の施行を受けて、
2%
急速に普及した時のように大きな社会環境の後押しがなか
ったため、
「ITSMS 導入の必要性」に関するアピール効果が
4%
ITサービスの品質向上
7%
競合他社との優位性
41%
13%
ITサービス提供組織の業務改善
認証取得
足りず、市場にはその必要性を認識して貰えていない。
顧客からの要望
IT全般統制への対策
・「ITSMS」という単語の認知度の低さ
その他
ITIL® や ISMS と い う 単 語 は IT 業 界 内 に と ど ま ら ず 広
く 知 ら れ て い る が、 残 念 な が ら ITSMS(IT Service
Management System)という単語の認知度は IT 業界内で
もそれほど高いわけではなく、一般企業、すなわち IT サ
31%
全体の4割の組織がITサービスの品質向上を期待
サンプル数=47
出典:JIPDEC ITSMS技術専門部会調査(2009年)より
図 3.アンケート結果①
ービスプロバイダにおける顧客にいたっては、殆ど認知
されていないというのが現状。
② ITSMS 構築によって得られた効果は
運用業務が可視化(見える
説明責任が果たせるように
70.2%
・対外的アピールよりも、実務レベルの品質改善を優先
38.3%
市場の認知度も低く、更に認証取得(~しなければなら
23.4%
ない)に対する“ためらい”も重なり、対外的な信頼性
確保の表明よりも、実務レベルで品質の改善に即効性の
2.1%
これらの背景が、少なからず「ITSMS の導入」あるい
は「ISO/IEC 20000 認証取得」という機運の盛り上がり
に影響を与えていることは否定できません。
競争力強化に繋がった
19.1%
10.6%
ある活動を優勢する傾向にあった。
ITサービスの継続性や可用性が
向上した
社員のモチベーションが上がった
顧客やサプライヤと規律ある良好な
関係が築けた
ITサービスの受託料金に良い影響
があった
全体の7割の組織が運用業務の可視化を実現
サンプル数=47
出典:JIPDEC ITSMS技術専門部会調査(2009年) より
図 4.アンケート結果②
38
③ ITSMS 構築に際しての ITIL® の関わりについて
導入することで、IT サービスの品質向上に繋がることを
期待していたことが判ります。
4%
6%
一部のITILプロセスは導入済みであったためITSMS構築時には
大変役立った
ITSMS構築の際に初めて構築の手引きとしてITILを採用し、
大変役に立った
特にITILは意識しなかった
2%
38%
そして ITSMS を導入の結果、全体の 7 割の組織が運用
28%
一部のITILプロセスは導入済であったが、ITSMS構築時には
あまり役に立たなかった
ITSMS構築の際に初めてITILを参考にしたが、あまり役に立た
なかった
その他
22%
業務の可視化を実現できたと実感していただいています
(アンケート結果②より)。この結果は、正に ITSMS 活動
の本質であり、業務が可視化(見える化)されたことで、
全体の6割の組織がITIL®が「役に立った」と回答
品質改善を進めていくために必要な情報の収集及び活用
サンプル数=47
が出来る仕組みが備わったことを意味します。
出典:JIPDEC ITSMS技術専門部会調査(2009年) より
図 5.アンケート結果③
また、アンケート結果③と④からは ITSMS の導入にお
ける、ITIL® の有用性や関係が読み取れます。全体の6
④ ITSMS 構築メンバの内、ITIL® 関連資格保有者の割合
割の組織が、「ITIL® は ITSMS の導入に役に立った」と回
11%
34%
16%
13%
80%以上
50%以上~80%未満
30%以上~50%未満
10%以上~30%未満
10%未満
0%
答されており(アンケート結果③)、更に ITSMS 導入時の
体制には、約 7 割の組織で ITIL® 関連の有資格者が関わ
っていたことが判りました(アンケート結果④)。これ
はある意味で当然の結果であり、いかに ITSMS(ISO/IEC
13%
20000)と ITIL® との整合性が取れているのかが覗えます。
13%
全体の7割近い組織がITIL®関連資格の保有者が構築に関与
しかし、注目すべき点がもう1つあります。約 3 割の組
出典:JIPDEC ITSMS技術専門部会調査(2009年) より
サンプル数=47
織が ITIL® を意識せずに ITSMS を導入し(アンケート結
図 6.アンケート結果④
果③)、そして ITSMS 導入時の体制に ITIL® 関連の有資格
者が関与しなかったケースも 3 割に近い値を示していま
⑤ ITSMS 構築に際して苦労した点
す(アンケート結果④)。
運用業務に関する意識
改革
53.2%
構築に関する要員数と
能力の確保
46.8%
38.3%
ITIL®(ベストプラクティス:どうやって・・・)は、整
ITSMS構築(認証取得)の取り組みに
関するモチベーションアップ
27.7%
合性は図られていますが、“~しなければならない”とい
ITSMS構築に関する情報量
の不足
19.1%
う要求の実現に際して、“どうやって”という方法論は
社内の他部門やサプライ
ヤからの協力
17%
2.1%
この結果は、ITSMS(仕様:~しなければならない)と
顧客とのSLAの締結
ITIL® に拘りすぎることなく自由であることを意味して
特になし
います。
全体の約4割の組織が顧客とのSLA 締結に苦慮
サンプル数=47 出典:JIPDEC ITSMS技術専門部会調査(2009年)より
アンケート結果⑤と⑥からは ITSMS 導入時及び運用時
図 7.アンケート結果⑤
の課題が示されています。ITSMS の導入時では、全体の
約 4 割の組織が顧客との SLA 締結に苦慮されたようであ
⑥ ITSMS を運用していく上での問題点
ITサービスマネジメント活動
の成熟度を向上させること
66%
42.6%
27.7%
25.5%
23.4%
既存のマネジメントサイクル
との整合性の確保
未だに顧客及びサービス提供側双方で抵抗感が根強いよ
うです(アンケート結果④)。SLA 締結を阻害する文化の
ITSMSの活動が現場スタッフ
まで浸透しない
排除が望まれます。また、ITSMS の運用面での課題ですが、
ITSMS適合評価制度の知名度が低く、
対外的なアピールに繋がっていない
約 4 割の組織が ITSMS 以外のマネジメントサイクル(ISO
9001 や ISO/IEC 27001 など)との効率的連携を課題にあ
運用工数が増加傾向である
げています(アンケート結果⑥)。現場の負荷軽減のため
ITSMS以外のマネジメントサイクルとの効率的連携に課題
サンプル数=47
り、サービスレベルを合意するという行為に対しては、
にも、複数のマネジメントサイクルの効率的連携による
出典:JIPDEC ITSMS技術専門部会調査(2009年) より
ダブルスタンダードの抑制は必要不可欠です。
図 8.アンケート結果⑥
アンケート結果①より、全体の4割の組織が ITSMS を
39
4. ISO/IEC 20000 の今後と
ITSMS 技術専門部会の活動予定
前 述 の 通 り、 国 内 で は 既 に 122 の 組 織 が ISO/IEC
20000 の認証を取得されています。当部会ではこの状況
に関して、大手サービスプロバイダと呼ばれる組織の認
証取得活動がある程度一巡した状態であると分析してい
ます。
今後、事業継続における IT の役割は更に重要要度を増
し、事業継続管理と IT サービス継続性管理の関係はより
密接になるでしょう。そして、クラウド・コンピューテ
ィングなどのサービスモデルの登場により、サービスプ
ロバイダへの品質要求は更に高まり、対外的な信頼性確
保の表明は必要不可欠となることが予想されています。
このような社会環境の変化を受け、既に大手サービスプ
ロバイダの適用範囲拡大の動きが本格化し、また中小規
模のサービスプロバイダや情報子会社の認証取得も活発
化しています。正に ITSMS 活動が重要視される時代が到
来するわけです。
当部会もこのような社会環境の変化に対応すべく、今
後の以下のような活動を推進していく予定です。
・普及活動推進、エンドユーザ企業へのアピール
-各業界団体、ベンダーユーザ会への積極的啓発
-各種雑誌、業界紙への定期的寄稿
・ITSMS に関する情報発信
- ITSMS 構築事例集の公開
JIPDEC の Web サイトにて順次公開いたします。
- ITSMS ハンドブックの配布
タイトル:as a Service 時代の処方箋
~ IT サービスマネジメントシステムとは~
7 月の it SMF Japan コンファレンスにて配布を開始
いたします。
-ユーザーズガイドの改訂
( 財 ) 日本情報処理開発協会 ITSMS 技術専門部会 主査
株式会社ヒルアビット 代表取締役 黒崎 寛之
・クラウド時代に欠かせない ITSMS の基礎知識
・規格改訂後の差分情報(ITIL® V3 との関連も考慮)
- FAQ の充実、利用促進
【プロフィール】
IT サービス事業者にてデータセンター運営責任者、IT アウ
・研究
トソーシング事業責任者を経て独立。「要点解説 ITIL® がわか
-事業継続計画と IT サービス継続計画との連携について
る !」(技術評論者)の著者であり、システム運用設計・ITIL®
実装・ISO/IEC 20000 認証取得に関するチーフコンサルタント
以上
として活動する共に、JIPDEC ITSMS 技術専門部会の主査として
ISO/IEC 20000 の利用促進のための活動を行っている。
40
IT サービスマネジメント資格情報
アップデート
EXIN Japan
2010 年 3 月末日付の資格者数ですが、日本国内で、
Foundation 資格をお持ちの方が 8 万人を突破しま
した。V2 Practitioner 550 名、V2 Manager 350 名、
V3 Expert80 名となりました。
V2 と V3 の比率では、2008 年、2009 と徐々に V3 に移行してきており、2010 年 4 月に 50%を超
えました。7 月 1 日より、新規の V2Foundation
受験ができないことから(再受験者は可能)今
後は V3 が浸透することとなります。
1. V3 Intermediate 日本語試験リリース予定
7 月にリリース予定の試験は:
V3 Intermediate の Capability に 関 し て の 日 本 語 試
1.Service Offerings and Agreement
験のスケジュールがようやく出てまいりました。V3 Capability は V2 の Practitioner とほぼ同じ内容となっ
9 月にリリース予定の試験は:
ております。
1.Release, Control and Validation
2.Operational Support and Analysis
V3 Expert をめざす方で、既に V2 Practitioner をお
3.Planning Protection and Optimization
持ちの方は、V3 Capability の取得の際、既に取得され
ている V2 Practitioner と重複するものでないか、事前
10 月にリリース予定の試験は:
にご確認ください。
1.Managing Across the LifeCycle
41
V3 Intermediate の半分の日本語試験のスケジュール
3. グローバルの状況
結局、ミレニアム・バグとは
Foundation
何だったのか
APMG よりのデータによりますと、2009 年1年間(1
が発表された事で、ようやく日本でも Intermediate を利
用した Expert 養成が可能となりました。
しかしながら、V3 の Intermediate の本来の意図は、 月~ 12 月)で約 22 万試験がワールドワイドで配信さ
V2 の Practitioner のような実務者育成は Capability,
れ ま し た。 そ の 内 訳 は V3 Foundation が 75 %、V3 マネジメント養成は Lifecycle としていたところと聞
Foundation Bridge が 5%、V2 Foundation が 20%です。
いておりましたので、日本ではマネジメント養成よりも、 合格率は 2009 年 10 月から 2010 年 1 月までの平均で、V3
益々実務者が養成されることとなるでしょう。今後の
Foundation が 86 %、V3 Foundation Bridge が 90 % と
Lifecycle の日本語化に期待したいと思います。
なっています。残念ながら、V2 Foundation の数字はご
ざいません。
2. V3 Manager Bridge 終了後の Expert への道
Intermediate、V2 Practitioner、V2 Manager
V3 Manager Bridge は 2011 年(来年)6 月 30 日に終了
2009 年 1 年間で、約 28,000 試験が配信されました。
しますが、その後に Expert を目指したい方は、
その内訳は、Intermediate の中でも比較的高い OSA の 8
・V3 Foundation 資 格(Foundation も し く は、 %から一番低い MALC の 2%まで分散されています。 V2
Foundation Bridge)
Practitioner,11 %、Manager 28 %、Manager Bridge
・SS もしくは CSI
13%となっています。
・MALC
合格率は、2009 年 10 月から 2010 年 1 月まで、毎月、
の 3 資格で可能となります。
各モジュール毎に出ていますが、V3 Intermediate は、
しかしながら、現時点では、Lifecycle の日本語化が
2010 年1月の CSI の 51%から同月の SOA 88%までバラ
決まっておらず、尚且つ教育時間トータルは長くなりま
エティに富んでいますが、平均は 72%となりました。
すので、Manager Bridge が存在するうちに、取得され
合格率に関しては、期間や計算された試験数など限定
ていた方が効率的です。
的であるため、あくまでも傾向としてご理解ください。
地域別
APMG より地域別のデータがでました。 2009 年 10 月
より 2010 年 1 月までの一部のデータですが、傾向が見
られると思いますので、掲載します。 約 65000 試験を
地域別にわけました。圧倒的にヨーロッパでの普及が多
く、次に北米、アジアと続きます。2007 年の EXIN のデ
ータでは、北米、アジアとも 30%を越えていましたので、
つまり、ヨーロッパでは V2 が早くから広まったために、
伸び悩んでいたところ、V3 の新しい視点により、一気に
教育の需要か喚起したといえましょう。
今後も、資格に関する情報をアップデートさせていた
だく所存ですが、何かご質問などございましたら、お気
軽に EXIN までお問合せください。
EXIN JAPAN 中川悦子
42
新理事挨拶
■ it SMF Japan 理事
佐久間 洋
IT サービスに科学的な方法論・マネジメント論を導入
した ITIL® は、
それだけでも十分な効果を発揮しますが、
さらに様々な業務・システムの改革を導き出すものにな
2010 年 4 月より新しく理事に就
らなければなりません。ITIL® V3 のライフサイクル概
任いたしました佐久間洋です。会
念は、そのための大きな武器となるはずです。
報誌グループと WEB グループを担
一方で、企業の情報システムをグローバル観点から見
当させていただいております。
ると、日本だけが特殊というケースも多々あります。日
約 30 年 に わ た り IT 業 界 で 仕 事 を し て お り、 特 に、 本の強さである現場力は、ライフサイクルマネジメント
1985 年に中小企業 VAN が開始されてから、IT や NW に関
にこそ生きてきます。V3 によって、ITIL® も新しい世代
するサービス事業に従事しております。
を迎えることになります。日本発のサービスマネジメン
最近の IT の潮流は、何と言ってもクラウドです。IT
トを生み出す非常にいい機会だと認識しています。
サービスとしての提供形態は進化しつつあるものの、ク
会報誌グループならびに WEB グループでは、ビジネス
ラウドの本質は企業や業務の「分業」ともいえます。そ
の成功に貢献できる IT サービスマネジメントに関する
の「分業」を成功させる重要な要素の一つにインターフ
情報発信力を強化すべく、適用現場からの生の声を発信
ェイスがあります。Asis の業務プロセスに対して、で
したいと考えております。そのためにも会員の皆様方の
きるだけシンプル化、標準化されたサービスの成熟度
ご協力をいただきながら it SMF Japan の活動推進に努め
が、インターフェイスを通じてプロセス改革の尺度を提
て参りますので、何卒ご指導とご鞭撻のほど、よろしく
供することになります。
お願い申し上げます。
■ it SMF Japan 理事
徳地 隆弘
る」と書いてあります。また、この女子マネージャは、
野球部にとって、「顧客は誰」、「事業は何」を最初に決
めています。
ドラッカー風に言うと、IT サービスマネジメントと
本年 4 月より新しく理事に就任
は、IT サービスを提供する組織のマネジメントであり、
いたしました徳地隆弘です。
その組織にとって、「顧客は誰」、「事業は何」を決める
最近「もしドラ」
(
「もし高校野
ことが重要であるということになります。そういう文脈
球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』 で捉えると、ITIL® V3 は、V2 に比べて事業戦略の考え
を読んだら」
)という本が 80 万部を超えるベストセラー
方を取り入れ、組織や IT サービスのマネジメント色が
となり、各種報道機関に取り上げられています。IT サー
より強いものになっています。単なる IT システムの運
ビスマネジメントを志す私にとって、
「マネジメントの父」 用管理の本というよりは、IT のみならず、あらゆるサ
ドラッカーの本は、大変示唆に富んでおり、これまでも
ービスを提供する組織のマネジメント本として読む価
少なからず手にしていました。この「もしドラ」もドラ
値のあるものになっています。今後、it SMF Japan の活
ッカー関連本でありベストセラーになっている、時代に
動を通して、この ITIL® V3 の普及に尽力する所存です。
乗り遅れてはならないと、早速部下の本を借りて読みま
「顧客は
最後に、it SMF Japan という組織にとって、
した。ストーリーは良くできていて、最後のヒットを打
誰」(= ITSMF 会員? IT 利用者? IS 部門? 経営者?
ったあたりで、涙を流したのは私だけではないはずです。
社会?)
、
「事業は何」(= ITIL® の普及促進? ビジネス
「もしドラ」で、この女子マネージャが参考にした、 からみた IT の地位向上? 日本の IT 競争力強化?)、と
ドラッカー著「マネジメント基本と原則」には、「マネ
いう本質的な問いに対しても明確な答えが出せるよう
ジメントとは、組織の機関である。組織とは、社会的な
頑張っていきたいと思っています。今後とも、よろしく
機能を果たし、社会に貢献するための社会の機関であ
お願いいたします。
43
関西支部活動報告
ひまわりが日に日に背を伸ばすこの頃、いかがお過ごし
でしょうか。
■ it SMF Japan 関西支部
を解決し、コストパフォーマンスを高める一助となりう
ると考えております。
展示会やコンファレンスでは、どうしても新商品や新技
この季節、首都圏では IT 関連の展示会やコンファレン
術に目を奪われてしまいますが、ITIL® 目線でも注目し
ス、セミナが花盛りです。少し前までは、関西圏でもこ
てみてはいかがでしょうか? 皆さまにとっての IT 投資
ういったイベントが数多く開催されていましたが、経済
の「グッドプラクティス」が見つかるかもしれません。
不況の影響からかめっきり少なくなりました。企業にお
けるコスト削減から出張費なども削減されていることも
今年は“ITIL® V3 実践元年”ですので、関西支部でも
あり、このような状況において最新の IT に関する情報を
昨年に引き続き V3 を推進します。セミナなどの開催情報
収集することが、関西では難しくなってきました。
は、it SMF Japan ホームページでご案内させていただき
ますのでご参照願います。
関西支部では、先日の it SMF Japan 第七回通常総会で
もご報告させていただいたとおり、今年度も 2 回のセミ
末筆ではございますが、今後とも it SMF Japan の会員
ナを開催し、皆さまに ITIL® を取り巻く最新情報をお届
の皆さまにとって喜ばれる活動、内容をめざしてまいり
けできるように計画しております。昨年度のアンケート
ますので、ご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願い申しあ
や会員の皆さまからのご要望を優先し、ユーザ事例や V3
げます。
に関する最新情報をお届けするようにいたしますので、
ご要望などがございましたらご連絡ください。
また、関西支部では特別会員としていくつかの地方自
治体が入会してくださっているのが特徴で、昨年度も新
たに 2 団体の加入をいただきました。地方自治体の命題
として、各種システム運用コストの削減があります。そ
の実現に向けて「IT アウトソーシング」や「クラウド・
コンピューティング」の利用などを検討されており、調
達仕様に ISO/IEC 20000 や ITIL® の適用などの明記の必
要性を検討されております。 昨年の政権交代で与党となった民主党政権の目玉とし
て、国の予算や制度、行政などのあり方を国民の目線に
立って刷新するための「事業仕分け」が話題となりました。
国レベルでも地方自治体レベルでも事業の必要性を精査
し、歳出の見直しなどの削減が必要となっています。
今年に入り、経済不況も落ち着きを取り戻したかに見
えましたが、ギリシャの財政危機が世界経済の新たな不
安要因となっています。こういった不透明な経済情勢下
において ITIL® は、IT システム運用における様々な問題
44
特定非営利活動法人
第七回 it SMF Japan 通常総会報告
2010 年 5 月 25 日(火)14:00 ~ 16:15
理事長挨拶
於 笹川記念会館 4 階 第 1・2 合同会議室
富田理事長より、総会開催にあたり以下の挨拶があり
ました。
当日は、正会員と傍聴者併せて 56 名の参加がありま
した。定刻どおり、司会の安岡氏より開会宣言と総会の
「設立 7 年目を迎え、団体会員 270 団体、個人会員 188
成立(議決権のある会員数 463 名のうち、出席 51 名、
名、グローバル会員 4 団体、特別会員 7 団体、学生会員
書面表決 186 名)が告げられ、以下の議題に沿って議事
5 名、賛助会員 5 口、会員数は 1,881 名 (2010/ 4現在 )
審議を行いました。
となりました。会員数は漸減傾向にあり、会員増の施策
が重要です。
1)開会宣言
2008 年の 8 月に販売を開始した ITIL® V3 には、サー
2)理事長挨拶
ビス戦略の立案とサービス計画の構築、移行、オペレー
3)議長選出
ション、ライフサイクルに基づく継続的な改善と新たな
4)定足数確認 議事録署名人選出
要求に対応した多くのプロセス、機能が盛り込まれてい
5)第 1 号議案 2009 年度事業報告案
ますが、我国のユーザ企業での ITIL® V3 の利用はこれ
6)第 2 号議案 2009 年度決算報告案
からという段階です。ITIL® V2 に関しては、本年に新
7)第 3 号議案 2010 年度理事選任報告
規の資格試験の開催を終了し、来年にコア書籍の販売を
8)第 4 号議案 2010 年度監事選出
終了(PDF は販売)する予定です。it SMF Japan では、
9)第 5 号議案 2010 年度事業計画
本年を“ITIL® V3 実践元年”と名づけ、この普及のた
10)第 6 号議案 2010 年度予算
めのさまざまな施策に取り組みます。
11)議長解任
it SMF Japan では、ITIL® V3 普及促進のため APMG に
12)新理事よりの挨拶
協力し、V3 インターミディエイト試験の日本語化作業
13)閉会宣言
の実施を始めました。ISO/IEC 20000 認証取得会社は、
日本国内で 122 社となり、ITIL® とそのフレームワーク
45
に関する標準が両輪となり順調に展開しています。
会報誌業務 2009 年度は、9 月末に期中決算と 11 月に期中外部監査
「ニュースレター」を年 4 回発行しました。会員や他団
を実施し予算の補正を行い、期末決算、期末外部監査を
体からの寄稿、it SMF USA オンラインコンファレンスの
実施。経理、税務対応、業務の強化を図りました。
翻訳記事をはじめ、it SMF UK 会報誌“serviceTALK”の
また、理事メンバを、1)事業化推進グループ、2) 翻訳記事などを掲載し、各分科会の活動紹介、セミナ・
会員サービス推進グループ、3)外部渉外グループに分け、 コンファレンスの開催報告、it SMF international 年次
組織運用の効率化及び、ステアリングコミッティの効率
総会参加報告、国内渉外講演報告を掲載しました。第
的な運用による理事会審議の充実を図りました。
6 回 it SMF Japan コ ン フ ァ レ ン ス で は、「 第 2 回 it SMF
新たに、事業化推進グループ下に事業化推進委員会を
Japan Newsletter Contribution Award」に対する表彰を
設け、ITIL® V3 の普及活動を通じての会員獲得と経営基
実施しました。
盤健全化のための検討を行いました。まずは、米国などで、
導入事例の収集及びホワイトペーパを作成し、これらを
WEB 業務
もととしたセミナ、コンファレンスでの紹介を行ってい
it SMF Japan 公式サイトを運営し、各種情報発信、情
きます。また、ユーザ会員を中心とした団体、他のサー
報交流に関するインフラを提供しました。
ビスマネジメントに関する団体との連携も行います。
•Web ページリニューアル
第 7 回 it SMF Japan コンファレンス /EXPO は、7 月 22 日、 •it SMF Japan からのアピールコーナの設置
23 日の 2 日間、日経ホール(東京大手町)にて日経コン
•it SMF Japan サイトの運用とメンテナンス
ピュータと共催にて開催します」
• イベント担当との連携
• 分科会担当との連携
議長は、
(定款第 27 条)に基づき、富田理事長を選出し、 • 出版担当との連携
議事録署名人は、成瀬理事、若山理事が選出されました。 • 会報誌担当との連携
第 1 号議案 2009 年度事業報告
広報業務 2009 年度事業報告が、各担当理事より提案され、承認さ
広報業務は、メディアなどに対する窓口として、活動・
れました。
成果を発信しました。
• 情報産業新聞社の記事に 2010 年に向けての活動方針、
会員業務 ITIL® 最新動向の掲載
会員数の増減状況・特別会員入会などの報告を行いま
• it SMF Japan 紹介パンフレット作成(更新)
した。
• ISACA 東京支部との連携
46
コンファレンス業務
ました。書籍販売に関して、クレジット決済機能を追加。
2009 年 7 月 30 日・31 日、 目 黒 雅 叙 園 に て、 第 6 回
販売数合計は、8275 冊でした。また、海外事例収集活動
it SMF Japan コンファレンスを企画・開催しました。来
として ITIL® 導入事例の調査を行いました。
場者総数は、コンファレンスは 1015 名、EXPO 358 名。
スポンサは 34 社で後援団体からは 11 団体が参加しま
事業化推進委員会活動
した。
it SMF Japan の活性化と経営基盤の安定化、IT サービス
マネジメントの普及促進のため、2009 年 12 月より、事業
セミナ業務 化推進委員会を月 1 回開催しました。
会員に向けたセミナを実施しました。ITIL® V3 関連研
1. 米国での ITIL® V3 事例集作成の検討
修および、ITIL® や ISO/IEC 20000 導入事例を中心に構
2.PMP と ITIL® V3 の相互の活用検討(PMI との協業チー
成しました。ITSM に関連する他団体との共同セミナを企
画・開催し、情報交流を深めました。さらに、福岡地区
ムの活動)
3.it SMF International の出版事業への貢献(書籍・ホ
ワイトペーパ)
で初めてのセミナを開催しました。
•it SMF Japan第21回会員向けセミナ 2009年10月28日(水)
•it SMF Japan第5回会員向けミニセミナ 2009年12月 3日(木)
試験業務
•it SMF Japan第23回会員向けセミナ(ISCA共催) 2010年 2月 5日(金)
V3 インターミディエイト試験の日本語化を APMG と連
•it SMF Japan第24回会員向けセミナ(福岡) 2010年 2月25日(木)
携して進めました。また、EXIN 社や、教育事業者との連
携に努めました。
•ITIL® V3 インターミディエイト試験の日本語化の枠組
分科会業務
分科会メンバ募集時に周知期間を設け、ユーザ企業の
会員や個人会員の方がより参加しやすいような改善を加
みの確立と日本語化を実施
•APMG、it SMF International、EXIN、 研 修 業 者 と の
ITIL® V3 普及を中心とした意見交換やフィードバック
えました。
•EXIN 社 V3 ファンデーション試験問題改訂の日本語化の
1. 新規分科会の設立
•『公共団体、教育機関における ITIL® を中心とした IT
レビュー作業
ガバナンス導入研究会』分科会(2009 年 6 月設立)
2. 継続活動分科会
認証業務
• ISO/IEC 20000 と IT サービスマネジメント研究分科会 ISO/IEC 20000 に関する動向を調査し、必要に応じて
(2009 年度活動終了)
各種問い合わせや、協力要請への対応、支援を主たる活
• 変更管理プロセス研究分科会(2009 年度活動終了)
動としています。
• ITSM トレンド分析分科会(2009 年度活動終了)
• サービス・オペレーション分科会(2009 年度活動終了) 関西支部業務
• Value Creation 分科会(2009 年度活動終了)
関西エリアでの it SMF Japan 普及活動を目的として下
• サービスデザイン研究分科会
記セミナを開催しました。
• 教育・研修分科会
•it SMF Japan第22回会員向けセミナ 2009年11月24日(火)
• SLM 分科会
•it SMF Japan第25回会員向けセミナ 2010年 3月15日(月)
3. 分科会座長会開催(第 35 回~第 43 回)
また、コンファレンス・福岡セミナの支援。会報誌へ
4. 第 6 回コンファレンス及び第 5 回ミニセミナでの活動
の投稿活動を行いました。
報告実施
国内渉外業務
出版業務
it SMF Japan への外部の各種団体及び企業からの後援、
2010 年 3 月までに IT サービスマネジメント関連翻訳
共催、協賛などの要請、問い合わせに対応し、IT サービ
書籍 2 冊の出版活動、PDF 書籍 7 冊の出版活動を実施し
スマネジメントの普及・促進に繋がる活動として関連す
47
豊田 智洋:国内プロモーション
る団体、企業との意見交換を実施しました。
松尾 直樹:WEB・ 事業化推進
若山 郁夫:事務局長(2009/6 新任)
国際渉外業務
海 外 の 外 部 組 織 に 対 す る 交 渉 窓 口 と し て、it SMF
International、it SMF 各支部などの関連団体との交渉 ・ 【質疑・応答】
交流を行いました。また、海外開催コンファレンスでの
• なし
講演、パネルディスカッションなどへの参加を通じ海外
の IT サービスマネジメント関連組織・団体との交流を図
第 2 号議案 2009 年度決算報告
りました。
2009 年度決算報告が以下のように若山理事から提案さ
れ、監査報告とともに承認されました。
事務局業務
it SMF Japan の活動を円滑に推進するため事務局業務
■収入:118,978,811 円
を改善しました。組織全体にわたる総会、理事会、ステ (内 会費収入:26,810,000 円 事業収入:91,639,690 円
アリングコミッティの運営、会員管理、経理業務及び
その他:529,121 円)
it SMF International/it SMF 各国支部を含む国内外の窓
■支出 103,938,250 円
口としての役割を担いました。また、書籍の販売、コン (内 事業費 :76,620,124 円 管理費 :27,318,126 円)
ファレンス・セミナの開催、会報誌の発行、ホームペー
■当期正味財産:101,595,140 円
ジの管理、分科会の開催などの活動を支援しました。
続いて、塩田理事より以下の内部監査報告がありました。
監査業務
事務局業務に関して、第 1 回内部監査を平成 22 年 4 月
外部監査を年 2 回実施しました。また、内部監査を実
27 日に実施しました。
施しました。
監査結果:
it SMF Japan 決裁規定に基づく運用が、事務局により適正に
【2009 年度理事】
運営及び実施されていることを監査しました。軽微な観察事
富田 修二:理事長
項 4 点以外は、重大な改善すべき指摘事項はありませんでし
西野 弘:副理事長・外部渉外・国際渉外 ・ 事務局
た。
山口 真人:副理事長・会員サービス推進 ・ 会報誌・WEB
水野 康彦:出版(2009/10 退任)
続いて、福島監事より以下の外部監査報告がありました。
渡部 芳邦:事業化推進・外部渉外・出版・国際渉外(2009/10 新任) 「特定非営利活動促進法第 18 条の規定に基づき、特定
塩田 貞夫:国内プロモーション
非営利活動法人 it SMF Japan の平成 21 年度全期分(2009
島田 洋之:認証関連(2009/6 退任)
年 4 月 1 日から 2010 年 3 月 31 日まで)の事業並びに計
小林 賢也:国内プロモーション・認証(2009/6 新任) 算書類等について監査を行いました。
足立 伸男:内部監査(2009/6 退任)
監査結果:
江口 昌幸:会報誌・コンファレンス(2009/10 退任) 法人の業務は法令及び定款、事業計画に基づき適正に執行さ
渡辺 悟:会報誌・出版・事業化推進(2009/10 新任) れ、会計処理は一般に公正妥当と認められる会計原則に則っ
長谷部 敏治:広報・WEB(2009/6 退任)
て適正に処理されたものと認められました。
古川 公一:コンファレンス・国内プロモーション・広報(2009/6 新任) 業務執行についてもこの 7 年間で問題はほぼ解決しています。
明路 伸夫:分科会 ・ 事業化推進
専任の事務局長の就任、内部監査の実施等が実現し、安定期
成瀬 泰生:試験 ・ セミナ・会員サービス推進
に入っています。ただし、会員減が気にかかるため、会員満
藤本 浩司:セミナ(2009/9 退任)
足の工夫、広報活動の工夫を要望します。
鳴坂 仁志:国内プロモーション(2009/9 新任)
荒本 和彦:関西支部・会員サービス推進
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が違っている。誤記であるか?
【質疑・応答】
質疑:現在、会員が減少している状況において、書籍の販売
応答:鳴坂 仁志が正しいです。2009 年度理事報告の記載
で補っている状況であると収支計算書から見てとれる。また、
は誤りです。修正します。(理事長:富田)
セミナの支出が大きく、書籍販売が 2009 年度以降も順調に推
移するとは思えない。今後は、何で補填していくのか改善計
第 4 号議案 2010 年度監事選出
画について明らかにされたい。
2010 年度監事選出については、西野副理事長から以下の
応答:会員サービスとしての無料セミナなので、セミナが赤
ように提案され、承認されました。
字となるのはやむを得ません。今後、事業化推進委員会で新
「本年度監査については、福島監事を再任する」
規事業については検討していきます。(事務局長:若山)
書籍については、2010 年度も強気の見通し。コアブックス以
第 5 号議案 2010 年度事業計画
外で海外事例を含めた身近な書籍を出版していく予定です。
2010 年度事業計画は、各担当理事より以下のように報告
コアブックスだけでどうにかなると思っていないので工夫し
されました。
ていきます。(渡辺)。
コンファレンスについても 2010 年度は、最終的にスポンサ収
事業化推進グループ
入増となる見込みです。また、参加者収入増、会場費のコス
既存事業の継続と見直し、新規事業の作成と立ち上げ
トダウンなどができる見込みです。さらに新規事業の検討な
を行い、以下の 2 つの組織により活動を実施します。
どでプラスに持って行きたいと考えています。会員の皆さま
• 事業化推進委員会
にも本日お配りさせていただいたコンファレンスのパンフレ
• 出版
ットにて、集客をお願いします。(理事長:富田)
事業化推進委員会
第 3 号議案 2010 年度理事選任報告
会員の皆様への新規サービスの提供と IT サービスマネ
【2010 年度理事】
ジメントの普及のための新事業を実施します。PMI との
富田 修二
協力や海外事例を紹介した書籍などの検討を行います。
西野 弘
山口 真人 (2010/4/23 退任)
出版業務
佐久間 洋
ITIL® 書籍の翻訳・出版活動を進めていきます。
渡部 芳邦
• 書籍の出版:日本語レビュー、印刷
鳴坂 仁志
• 書籍の販売:TSO 書籍、it SMF UK 書籍、VHP 書籍
塩田 貞夫
•ITIL® V3 事例の調査検討
小林 賢也
•it SMF International の出版事業への貢献:書籍、ホワ
渡辺 悟
イトペーパ
古川 公一
明路 伸夫
会員サービス推進グループ
荒本 和彦
it SMF Japan の会員に提供するサービスの維持及び向
成瀬 泰生
上を目的とし、以下の活動を推進します。
豊田 智洋
• 会報誌
松尾 直樹 (2010/5/14 退任)
• WEB
徳地 隆弘
• コンファレンス
若山 郁夫
• セミナ
• 試験・資格
• 分科会
【質疑・応答】
質問:2010 年度と 2009 年度の理事にて、鳴坂理事の名前
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• 関西支部
・ITIL® V3 インターミディエイト試験の日本語化を進め
コンファレンス業務
第 7 回 it SMF Japan コンファレンス& EXPO を 7 月 22 日、 ます。
23 日に日経ホール(大手町)で開催します。スポンサ収
• 上記機関・団体との密な連携を行います。
入は、昨年度を上回り会場費などをコストダウンし、黒
• 教育事業者との会話も継続し、ITIL® 普及に向けた施策
を検討・実施します。
字見込みです。
• 試験制度についての最新動向のキャッチと、会員への
セミナ業務
フィードバックとして、it SMF Japan 公式ホームペー
今年度は会場セミナを 3 回とし、Web セミナを試行し
ジでの情報提供を行います。
ます。内容は、会員の関心が高い、ITIL® V3 の内容や資
格関連、及び ISO/IEC 20000 を中心とした内容にて構成
関西支部業務
する予定です。昨年同様関東圏、関西圏以外でのセミナ
関西エリアでの it SMF Japan 普及活動を目的としてセ
を 1 回実施計画しています。
ミナの開催及び分科会活動における支援業務などの充実
を図っていきます。
分科会業務
• セミナ開催
分科会活動を促進し、円滑に進めて行くための基盤整
• 分科会活動支援
備を行います。
• 会報誌活動
• 新規・既存分科会活動の推進
• 各分科会の成果物の会員への公開と発表
外部渉外グループ
• 座長会の活動継続
外部渉外グループは、国内外の外部組織・団体に対す
る交渉・交流窓口として、他組織・団体との協力関係の
会報誌業務
もと活動を実施します。以下のサブグループにて活動を
年 4 回の会報誌発行を予定しています。
行います。
• ITIL® 関連最新情報の発信
• 国際渉外サブグループ
• it SMF Japan 及び他団体による IT サービスマネジメン
• 国内プロモーション・サブグループ
ト発展に寄与する記事掲載
• 寄稿募集などによる会員の会報誌への参加機会の増加
国際渉外業務
• it SMF Japan の活動の可視化
海外の外部組織・団体に対する交渉・交流の窓口とし
• 海外動向の迅速な展開
て、国際会議への出席、it SMF International/it SMF 他
支部との交流、ITSM 関係者との会議などを通し、it SMF
WEB 業務
Japan と海外の ITSM 関連組織・団体との良好な関係を形
it SMF Japan 公式サイトを運営し、各種情報発信、情
成していきます。
報交流に関するインフラを提供します。
・it SMF 国際役員会・支部会議への出席などを通じ、情
情報の発信と、見やすくわかりやすいページを作成し
報の収集、日本支部として利害関係機関への要望及び
会員の満足度向上を図るとともに、新規会員増にも貢献
支部活動の広報などに努めます。
• 韓国、台湾などアジア地域の支部との交流や合同の要
します。
• Web を利用した it SMF Japan 各種活動の情報掲載
望などの活動をしていきます。
• 海外 it SMF 支部のコンファレンスなどに出席し、交流
• 企業スポンサのための新規バナー広告領域の確保
を図ります。
• Web サーバレンタル、Web ページのメンテナンス作業
• 海外の IT サービスマネジメント関連情報を収集します。
試験業務
APMG、EXIN、it SMF International などと密な連携を行
国内プロモーション・サブグループ
い、ITIL® の普及と会員の利益に資する活動を行います。
広報、認証、ユーザ担当、国内渉外の事業を担当する
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理事が、ITIL® の普及活動に向けて担当事業の枠を超え、 に会員拡大につなげ、it SMF Japan 及び会員間の交流を
横断的に活動していきます。
より図っていきます。
国内渉外業務
事務局業務
外部組織との折衝を行い、有益な情報を供給あるいは
事務局では、事務局の活動基盤の人的、活動内容的、質
入手し、共有化することにより it SMF Japan の活動をサ
的な面をより充実させていきます。2010 年度は、よりい
ポートします。
っそうの事務作業の効率化と事務局職員が継続して業務を
・IT サービスマネジメントに関連する国内企業、関連団
行える環境整備をめざし、以下の業務を主に行います。
体などの外部組織と折衝、連携を図り、ITIL® の普及・
• 事務局業務体制の強化
啓蒙活動を推進していきます。
• 総会、理事会、ステアリングコミッティの準備と運営
・国内企業・関連団体との折衝・連携を通じ、ITIL® を普
• 事務所を活用し会員活動の活性化をサポート
• ステアリングコミッティの充実
及・啓蒙活動を支援します。
• 地方における ITIL® の普及・啓蒙活動を支援するため
理事会活動
の交渉窓口として活動します。
• 分科会からの外部組織・団体との交流依頼を受けて、 昨年同様、年 9 回開催します。2010 年度は、各担当理
it SMF Japan 渉外対応を行います。
事からの活動提案・提示された課題などについて議論を
深め、活動推進・組織運営と課題解決に向けてよりいっ
そう取り組みます。
広報業務
メ デ ィ ア な ど に 対 す る it SMF Japan の 窓 口 と し て、
it SMF Japan の活動・成果を発信し、IT サービスマネジ
監査業務
メントの普及促進、it SMF Japan の認知向上を目的に活
年 2 回外部監査を実施し、よりいっそうのアカウンタ
動します。
ビリティを果たしていきます。内部監査としては、外部
• 記事執筆活動、及び取材対応によるメディアなどを活
監査とは別の視点で事務局監査を行います。また、監事
からの監査報告書を受け、事業の健全な発展に寄与する
用した情報発信
• 他団体連携を通じた、IT サービスマネジメントの普及・
フォローを行います。
啓蒙活動
第 6 号議案 2010 年度予算
認証業務
西野副理事長より下記の留意事項とともに予算が報告さ
IT サービスを提供する情報システム部門での認証取得
れました。
も広がり ITSM の重要性の認識も増しており、以下の活動
•ITIL® V3 日本語書籍に加え、ITIL® V3 補完書籍 2 冊の
販売を予定しており、出版に伴う費用を計上しました。
を行います。
• コンファレンスは、参加者収入の増加をはかり、必要
• 国内外における ISO/IEC 20000 の普及動向把握
経費の削減により、2009 年度より更なる収支の改善を
• 各種問い合わせや協力要請への協力、支援
実施します。
• セミナは、WEB セミナの模索や関東圏・関西圏以外の地
会員業務
事業化推進委員会の会員拡大施策、国内プロモーショ
ンなどの会員拡大活動と並行して、会員へのサービス強
域での普及をめざします。
• ホームページをさらに向上させ、会員と一般の利便性
化および会員の増加を図っています。
を図り、情報提供に努力します。 会費収入の予算計画は、2009 年度実績より 5% 増とし、
会員数拡大に向けて活動を展開します。
2010 年度予算
具体的には、他団体との連携や交流を通じ、IT サービ
収入: 128,818,000 円
スマネジメントの裾野を広げるための活動を行うととも
支出: 130,680,560 円
51
赤字予想ですが、コンファレンスでのスポンサ増が見込
め、収支は改善する見込みです。
【質疑・応答】
質疑応答:なし
お忙しい中、it SMF Japan 第七回通常総会にご出席いた
だいた皆様には、この場をお借りしてお礼を申し上げます。
総会後の懇談会では、出席いただいた会員の方々から、貴重なご意見をいただきました。
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www.astea.com/jp
7月22日・23日に「第7回it SMF Japan コンファレンス/EXPO」が開催されるため、7月号の発行はいつもより早めになりました。今号は
会員の皆様からの寄稿が5編もあり、たいへん読み応えのあるものになっています。今回のコンファレンス/EXPOでは、ビジネスを成功さ
せるサービスマネジメントについての実施事例や提案の発表がたくさんありますので、より多くの会員の皆様に参加していただきたいと
思います。皆様の来場をお待ちしております。(岡田)
■ご意見: 本ニュースレターへのご意見・ご要望は、it SMF Japan会報誌担当宛てにメールにてお
送りください。
メールアドレス: [email protected]
■寄稿: ITサービスマネジメント導入、運営における経験を他の会員の皆様とシェアしていただ
ける方を募集しております。ご協力いただける方は、it SMF Japan会報誌担当宛てにメールにて
ご連絡ください。
メールアドレス: [email protected]
■広告: 本ニュースレターは皆様の広告料で制作されています。広告掲載に興味をお持ちの方は
it SMF Japan 事務局にご連絡ください。
メールアドレス: [email protected]
■it SMF Japan ニュースレター
2010年7月号 (1月、4月、7月、10月発行)
編集人: 佐久間 洋(特定非営利活動法人it SMF Japan 会報誌担当理事) 編集取りまとめ: 岡田 雄一郎(日本電気㈱) 編集委員(アイウエオ順): 井ノ口 泰彦(日本電気㈱)
、岡田 雄一郎(日本電気㈱)
、品田 京子 ( 日本アイ・ビー・エム㈱ )、
東郷 茂明(㈱プロシード)
、中井 秀有 ( 日本アイ・ビー・エム㈱ )、中川 悦子 (EXIN Japan)、
東出 守宏(㈱プロシード)
、藤井 宏子 ( ㈱アビリティ・インタービジネス・ソリューションズ )、
八木 隆 ( ㈱日立製作所 )
翻訳に協力いただいた方々(敬称略、アイウエオ順)
:
河口 進一 林 智之(日本電気㈱)
■発行所 : 特定非営利活動法人 it SMF Japan
東京都港区芝 5-16-7 芝ビル 6F-A
電話 : (03)5439-5591 Fax: (03)5439-5592
URL: www.itsmf-japan.org
■ ITIL® is a Registered Trade Mark of the Office of Government Commerce in the United Kingdom and other countries.
■その他記載の組織名 ( 会社 / 団体 / 機関 )、製品名は、それぞれの会社 / 団体の商標または登録
商標です。
注 . 記事において記載の組織や製品に対し it SMF Japan がなんらの推奨を行うものではありません。
■本誌掲載記事の無断転載を禁じます。
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