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生涯教育と生涯学習

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生涯教育と生涯学習
07/05/23 15:55 2006ミネ『よくわか生学』生教と生学 by 佐英(再提出)!!!!.jtd
生涯教育と生涯学習
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「教育されること」と「教育を受けること」
言 葉 と し て「 生 涯 教 育 」を 使 用 す る と 、「 一 生 涯 に わ た っ て 教 育 さ れ る の か 、
け し か ら ん 」 と 、 一 方 的 に 非 難 さ れ る こ と が あ り ま す 。「 教 育 」 と い う 言 葉 を
出すと、条件反射的に「教育する主体-教育される客体」関係を念頭に置く人
がいます。ここには、一方が能動的で、他方が受動的であるという暗黙の前提
があります。しかし、この思いこみをいったん壊して考える必要があります。
○
「教育される義務」と「教育を受ける権利」との区別
生 涯 教 育 の 理 念 は 、 日 本 国 憲 法 第 26条 に い う 「 す べ て 国 民 は 、 法 律 の 定 め る
ところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」とい
う考え方を、人間が生まれてから死ぬまでの生涯にわたっての全生涯を視野に
入 れ て 実 現 し よ う と す る も の で す 。「 す べ て 国 民 」 と 表 現 さ れ て い る の は 、 子
ど も だ け で な く 大 人 も 含 め て「 教 育 を 受 け る 権 利 」を 有 す る こ と の 確 認 で す 1 )。
このように、生涯教育は、国民に「教育される義務」を課す考え方では決し
てなく、国民の「教育を受ける権利」を生涯にわたり保障しようとする考え方
で す 。 こ こ で 大 切 な の は 、「 教 育 さ れ る こ と 」 と 「 教 育 を 受 け る こ と 」 と を 混
同しないことです。前者では「教育する主体-教育される客体」という関係が
前 提 で す が 、後 者 で は「 教 育 す る 主 体 - 教 育 を 受 け る か ど う か を 選 択 す る 主 体 」
という関係が前提となります。よって、国民には「教育を受ける義務」も課さ
れておらず、自らの主体性に基づいて「教育を受けない自由」も認められるこ
とになります。あくまでも、国民に対して「受け身の客体」たることを強いる
も の で は 決 し て な く 、国 民 が「 能 動 的 な 主 体 」た る こ と を 期 待 す る 考 え 方 で す 。
○
「教育を受けさせる義務」と「教育される義務」との区別
他方で、日本国憲法は、国民に対して「教育を受けさせる義務」を定めてい
ま す 。 第 26 条 第 2 項 で は 、「 す べ て 国 民 は 、 法 律 の 定 め る と こ ろ に よ り 、 そ の
保 護 す る 子 女 に 普 通 教 育 を 受 け さ せ る 義 務 を 負 ふ 」と 規 定 し て い ま す 。こ の「 義
務 教 育 」に つ い て の 規 定 は 、義 務 教 育 年 齢 の 子 ど も に 対 し て 、成 人 の 中 で も「 保
護者」に当たる人が「普通教育を受けさせる義務」を負っていることを意味し
ます。よって、該当年齢の子どもに直に義務を課したものではない反面、日本
国民の子どもには「教育を受けない自由」が実質的には認めがたいことになり
ます。しかし、ここでもやはり、成人自身が「教育を受ける義務」を課されて
いるわけではなく、まして「教育される義務」に縛られる必要はありません。
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「生涯学習の条件整備」としての生涯教育
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生涯教育と生涯学習との関係
生 涯 教 育 と 生 涯 学 習 と の 違 い が わ か り に く い と 頻 繁 に 言 わ れ ま す 。こ こ で は 、
生涯教育が教育者を基点にして述べられた考え方であるのに対して、生涯学習
が個々の学習者を基点にして述べられた考え方であることを押さえましょう。
生 涯 学 習 と 生 涯 教 育 と の 関 係 に つ い て 、 1981( 昭 和 56) 年 に 出 さ れ た 中 央 教
育 審 議 会 答 申 「 生 涯 教 育 に つ い て 」 で は 、「 生 涯 教 育 と は 、 国 民 の 一 人 一 人 が
充実した人生を送ることを目指して生涯にわたって行う学習を助けるために、
教育制度全体がその上に打ち立てられるべき基本的な理念である」と言われて
い ま す 。 こ の よ う に 、 生 涯 教 育 と い っ た 場 合 、「 生 涯 に わ た っ て 教 育 さ れ る 」
と い う 意 味 合 い で な く 、「 生 涯 学 習 に と っ て の 条 件 整 備 を 行 う 」 と い う 考 え 方
で捉えることが基本となり、学習支援システムを意味することになります。
た だ し 、「 シ ス テ ム と し て の 生 涯 教 育 」 が 、 個 々 人 の 生 涯 学 習 の 全 部 に 関 わ
ることは原理的に不可能です。生涯教育を大きなお盆にたとえてみれば、その
上に収まる生涯学習もあれば、収まりきらない生涯学習もあります。学校・地
域・家庭・企業などの様々な場所で実行可能性のある学習機会を体系的に整備
する「生涯学習の体系化」は、完全という意味では原理的に不可能です。
○
改正教育基本法第3条に明記された「生涯学習の理念」
2006( 平 成 18) 年 12月 に 改 正 さ れ た 教 育 基 本 法 で 「 生 涯 学 習 の 理 念 」 と 題 さ
れた第3条では、以下のように述べられています。
国民一人一人が、自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができる
よう、その生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学
習することができ、その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が
図られなければならない。
この条文において、もっとも根本的に押さえておかなければならないポイン
トは、生涯学習に関わる条件整備について、個人のあり方よりも社会のあり方
に焦点が当たっていることです。つまり、この条文は、国民一人一人に対して
「生涯学習しなければならない」と強制したものでは決してなく、国民一人一
人が「生涯学習できる」社会的環境を生み出すことを、社会に対して強く求め
ているものです。こうした社会の創造に当たって、国や地方自治体といった行
政が重要な責務を担っていますが、個々人、民間企業、非営利団体などの協力
を自ずと得られるような魅力的な社会をめざすことが求められます。
また、この条文で提案されている社会も特徴的です。個々人が学習できるの
みならず、学習によって得られた成果を生かすことができる状況も求められて
います。つまり、学習して成果を得て、得た成果を生かし、さらに学習を継続
す る と い う よ う な 循 環 的 イ メ ー ジ で 社 会 が 構 想 さ れ て い る と い う わ け で す 2 )。
(佐々木英和)
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【注】
1 ) 一 般 に 、「 教 育 権 」 と い う 言 い 方 を し た 場 合 に は 、「 教 育 を 受 け る 権 利 」
と い う 意 味 合 い で な く 、「 教 育 す る 権 利 」 と い う 意 味 合 い で 用 い ら れ る 。
2)学習だけでなく、学習成果の活用を重視する方針は、文教政策として継続
している。これに関して、文部科学省生涯学習審議会答申「学習の成果を幅
広 く 生 か す - 生 涯 学 習 の 成 果 を 生 か す た め の 方 策 に つ い て - 」( 199 9年 ) な
どを参照のこと。
【参考文献】
波 多 野 完 治 『 生 涯 教 育 論 』、 小 学 館 、 1972年
生 涯 学 習 ・ 社 会 教 育 行 政 研 究 会 編 集 『 生 涯 学 習 ・ 社 会 教 育 行 政 必 携 』、 第 一
法 規 、 2007年
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