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マスコミは何を伝えたか~
マスコミは何を伝えたか 追跡・和歌山カレー事件報道~
第 3 章 逮捕
報告者
大塚
エスカレートする弁護士批判
弁護士批判は朝日だけにとどまらない。
『林容疑者夫婦に 7 人の“盾”』
(毎日)11 月 2 日夕刊
冒頭に弁護士 7 名の氏名と略歴、傍らに東署前で報道陣が弁護士をとりか囲む写真を
挙げている。
(前略)裁判までほとんど外に出ることのなかった取調室の攻防の一端が、茶の間に
届けられている。二日には改めて長期拘置の不当性を訴えた。司法関係者が過去に
例の見ないという展開で捜査当局も戸惑いを隠せない。
→弁護士団は取り調べ状況を報道陣に積極的に説明しているかのようである
→マスコミは警察の情報を垂れ流ししているばかりであり、警察にとって好ましくない
情報は裁判までは外に出ることはなかった。(弁護士サイドから積極的に取材をして
いなかった)
10 月 13 日(毎日)に弁護士の一員の木村哲也さんは語った。p227
→朝日(捜査側のけん制)は、このコメントに端を発しており、他紙を読まなければわ
からない報道とは一体何なんだろうか。
→〈捜査当局から「捜査妨害だ」という苛立ちとともに、「二人の話がお互いに抜けて
調べがやりにくい」という警察サイドの声
“孤立無援”の取り調べが当たり前になっているからこそである。
毎日のコメンテイターp228
→『毎日』は信憑性を持たせるために検察出身の学者や弁護士(永野)のコメントを使
った。
10 月 30 日(産経)コラム(産経抄) 全文p229
弁護士団の活動は被疑者の人権ばかりを重視して、クロをシロにねじ曲げているかの
ように見える。つまり加害者の人権ばかりが尊重され、被害者側の人権や感情はない
がしろにされるようになっている。弁護活動も否認や黙認をするよう“入れ知恵”を
してポイントを上げることを見上とするようになった。日本の戦後はここでも大きな
“曲がり角”にさしかかっている。
1
『産経』の当番弁護士制度批判
当番弁護士制度…警察に逮捕された被疑者の家族や友人からの依頼連絡を受けた
場合、各弁護士会は予め定めておいた当番弁護士を一定時間内に被疑者のもとに無
償で派遣する制度。90 年代初めに発足
→被告人を弁護する制度はあるが被疑者を弁護するシステムはない
人権先進国(アメリカがもっとも徹底している)では被疑者にも国選弁護士がつく。
警察も弁護士依頼の権利を被疑者に伝える義務があり、怠った場合それだけで無罪
になる。¹
参照「知っていますか?捜査と報道一問一答」
『産経』は当番弁護士制度に批判的(同紙論説委員会・飯田浩史の署名記事)
…代表格「自白は証拠の王さま」
コメントはp232
↓
前出の『産経抄』の文の倫理構成の酷似
弁護士は被疑者の私的利益の代弁者ではないはずだ。社会正義を実現させ、真実の究明
のためにも弁護人も協力しなければならない。それが弁護人の使命や職務であり、そこ
にこそ職業倫理も在している
弁護士法の制定(1949 年 9 月 1 日)
→「社会正義を実現する」をどのように解するかが当初からの長年の問題
→この法律が制定される 4 年前まで「国体」の護持こそが「社会正義」だった
→戦前は不敬罪という「皇室に対する罪」があり、弁護人と検事はそろって被疑者・
被告人を改心させようとした。
→人権教育の遅れている国では飯田浩史が言うような弁護士法第一条を 2 つに割
っても説得力を持ちうる。
¹今の日本は人権先進国なのかそれとも後進国なのか?
2
弁護士の社会正義は人権擁護である
弁護士法第一条「弁護士は基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とす」
→『産経抄』や飯田氏の意見を推し進めれば「極悪非道な犯罪者は弁護するな」という
ことになる。
↓
憲法で保障している意味がなくなる
98 年夏から秋にかけてオウム真理教弁護団批判はピークに達する
→被害者遺族コメント「裁判の進行が鈍いのは弁護団のせいだ。判決が確定する前に教
祖は死んでしまう。
」²
30 年あまり前、主として公安事件において弁護士の出廷拒否が続き審理が遅れに遅れ
たことがあり「弁護士抜き法案」が浮上したことがある。
↓
反対論が多く廃案に持ち込まれた。
弁護士法第 1 条を 2 つに割るのは解釈の誤りである。弁護士にとって人権擁護こ
そが正義である。弁護することによってしか社会正義を実現することは出来ない。
人権先進国で当たり前のことを条文化して、第一条に掲げたのは戦前の弁護士は必
ずしも被疑者・容疑者の味方でなかったからであった。
週刊誌・スポーツ紙・夕刊紙・大手新聞社はこうした動きを見逃さず、弁護団非難
→彼らは林真須美をカレー事件の犯人を半ば決めつけていた。
→林真須美を犯人と結び付けるものがない(強力な弁護団が付いているから)ので
彼らは自白に期待した
↓
捜査が 1 ヶ月経っても期待する自白は得られなかった³
↓
捜査側のいら立ちと報道する側のいら立ちを捜査官を託して語った『産経抄』p236
↓
『産経抄』犯人をかけないので「クロをシロにねじ曲げている」は抽象的に表現
(一般紙は犯人呼ばわりはしなかった)
マスコミが自白捜査を煽り警察を増長させた“負の働き”をわれわれは心に留めておき
たい。
²今回の裁判は他の裁判よりも極度に遅かったのか?
³確たる証拠がなくても自白だけで有罪となりうるのか?
3
自白捜査の破たんを物語る現場検証
11 月 7 日和歌山県警は園部地区空地を大がかりに現場検証。
11 月 7 日(読売)夕刊
全文p238
(前略)今回は殺人と殺人未遂容疑の令状に基づく現場検証。当日の状況をありのまま
に再現することで改めて住民の記憶を呼び戻し、証言の食い違いを正すのが狙いだ
※検証…人間の五感によって、場所・物・人の身体の形状・性質・作用・などを認識す
るために裁判所の命令で行われる
↓
「証言」とは法廷における承認の供述であるが、まだ裁判は開かれておらず証言の食い違
いはない
↓
警察のタテマエ捜査に過ぎない
弁護士批判は捜査批判の裏返しでもある
→カレー事件で逮捕・起訴できなければ、マスコミは何を言い出すかわからない。
→現場検証の本来の目的は明らかに“証拠つくりだった”
『読売』の言うような「住民の記憶を呼び戻し、証言の食い違いを正す」ならば事
件直後の早い時期現場検証をするべきである。
↑
“自白のワナ”に陥っていたらこれほど大きな現場検証はなかっただろう
↓
この時期の現場検証は自白捜査の破たんを物語っていた。
類似事件は本当に関係があるのか
11 月 18 日、和歌山県警は林夫妻を再々逮捕。林真須美の容疑は 3 つ
①97 年 2 月保険金目的で、夫にヒ素入りくず湯を飲ませた容疑
②87 年 2 月白アリ駆除会社の社員にヒ素入りお好み焼きを食べさせたという容疑
③93 年 5 月林健二のバイク事故による後遺傷害保険金だまし取り詐欺容疑
(林健二はこのことで再々逮捕)
11 月 18 日(朝日)夕刊
「十数余年前から多数の身近なものに対して、ヒ素が使われており、この状況からカレー事
件との接点・関連性が出てくるであろう。着実に捜査を進めており、かなり具体的な部分ま
で詰めている」
→捜査本部トップが別件逮捕を認めた(今回の逮捕は警察の二つの“作戦”をかいま見せた)
4
①夫婦の分断…林健二の精神的動揺を狙ったのではないか。パニック状態になってある
ことないことを口にするのを期待したのだろう
②類似事件の積み重ね…ヒ素を使った殺人未遂事件は、カレー事件の状況証拠に役立つ
ということである。
11 月 26 日 (読売)朝刊社会面
11 月 28 日 (朝日)朝刊
「来月九日に逮捕へ」「カレー事件で真須美被告」
「林真須美容疑者」
「毒カレー事件 再逮捕へ」
…記事内容省略
この時期新聞は“予告記事”を連発し、連日のように紙面を賑わした。
12 月 9 日夕刊は三紙ともに夕刊トップで扱う。
大阪版と東京版の比較→p242⁴
⁴同紙でも大阪と東京版に違いが出るのか。またこのとき他の地方でも記事に違いがあ
ったのか。
5
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