...

サステイナブル都市報告書(1996年) 『サステイナ ブル都市最終 報告書

by user

on
Category: Documents
6

views

Report

Comments

Transcript

サステイナブル都市報告書(1996年) 『サステイナ ブル都市最終 報告書
サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 報 告 書(1996年)
『サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 最 終 報 告 書 』(Expert Group on the Urban Environment,1996)は
市 環 境 専 門 家 グ ル ー プ が これ まで に 出 した 最 大 の 成 果 で あ る[図4-4]。1994年
、都
に集約 さ
れ た 優 れ た 実 践 事 例 ガ イ ド と中 間 報 告 書 を 経 て 、1996年 に 最 終 報 告 書 が 公 表 さ れ た 。 欧 州
委 員 会 の 名 前 で 発 表 され た 文 書 で は な く 、 外 部 の 独 立 した 専 門 家 グ ル ー プ が 作 成 して い る
た め 、 直 ち にEUの
政 策 を 動 か す 力 に は 欠 け る 。 だ が 、 こ こ に示 さ れ たEUに
お け るサ ス
テ イ ナ ブ ル 都 市 の 基 本 理 念 は 、 そ れ ま で 個 々 の 都 市 が バ ラバ ラ に 取 り組 ん で き た 試 み に共
通 の 理 念 的 な 裏 づ け を 与 え 、 地 域 政 策 な ど複 数 分 野 の 政 策 に 多 大 な 影 響 を 及 ぼ す こ と にな
った。
本 論 で は 、 同 報 告 書 の 示 す 理 念 か ら 日米 の 考 え方 と 比 較 して 最 も違 い が 顕 著 な 視 点 と し
て 、① 市 場 の 限 界 を知 っ て 市 場 を活 用 す る、② 環 境 ・経 済 ・社 会 文化 を 統 合 的 に と ら え る 、
の2点
図4-4『
に 注 目 して 考 察 す る 。
サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 報 告 書 』(Expert
Group
on
the Urban
Environment,1996)表
紙
① 市場 の 限界 を知 って市 場 を活 用す る
先 述 した よ う に 、1992年 の 環 境 政 策 の 転 機 は 、環 境 政 策 の 目標 よ り手 段 が 問 わ れ る 方 向
に 向 か っ た 。 よ り高 い 基 準 を 設 定 して 監 視 して い く手 法 が 行 き詰 ま り、 市 場 メ カ ニ ズ ム を
活 用 す る 手 法 が 低 コ ス トと効 率 の よ さ で 注 目 され る よ う に な った 。 本 報 告 書 で も、 都 市 の
サ ス テ イ ナ ビ リ テ ィ を 高 め る た め に 市 場 メ カ ニ ズ ム を活 用 す る こ と の 有 用 性 を 強 調 して い
る15。 た だ し、 市 場 を活 用 す る に あ た っ て 、 市 場 を疑 い 市 場 の 限 界 を 直 視 す る こ と を 忘 れ
て い な い 。 ク リ ン トン大 統 領 の 下 で ま と め られ た 報 告 書 「サ ス テ イ ナ ブル 米 国 の 実 現 の た
め に 」(Sitarz,1998)は
、 市 場 に 対 す る 全 幅 の 信 頼 に 基 づ き 、サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ 実 現 の た
め に 市 場 メ カ ニ ズ ム を 積 極 的 に 活 用 す る こ と を提 言 して い る。 市 場 メ カ ニ ズ ム に 着 目 し て
い る 点 で は共 通 して い る が 、 サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ へ 向 け た 取 組 み の ど こ に市 場 を 位 置 づ け
る か に つ い て 、 欧 州 と米 国 の 温 度 差 が 見 られ る。
1996年 欧 州 サ ス テ イ ナ ブ ル シテ ィ報 告 書 は 、環 境 容 量 を 大 前 提 と した サ ス テ イ ナ ビ リテ
ィへ の取組み の枠 内で 、市場 活 用の 可能 性 を位置 づけて い る。
都 市 マ ネ ジ メ ン トの 原 則 を 考 え る に あ た っ て 、 ア ジ ェ ン ダ21を
振 り返 っ て 、 「
サ ステ イ
ナ ブ ル な 開 発 は 、そ れ が は っ き り した 形 で 計 画 さ れ た と き の み 、実 現 さ れ る 。市 場 の 力や 、
無 自覚 的 で 定 か な 方 向 性 を 持 た な い よ うな 事 象 は 、 サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ を危 う くす る 深 刻
な 問 題 を解 決 す る こ と は で き な い」 と述 べ て い る 。 な ぜ 市 場 まか せ で は サ ス テ イ ナ ブル な
発 展 が 望 め な い の か に つ い て 、「
市 場 と 都 市 の サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ は そ れ ぞ れ 構 造 とダ イ ナ
ミズ ム との 間 に必 然 的 な 関 係 が な い か ら で あ る 。 最 も簡 単 な 理 由 は 、 外 部 不 経 済 と位 置 づ
け られ る 環 境 が しば しば 価 格 に 反 映 さ れ て い な い か らで あ る 。 よ り根 本 的 な 理 由 は 、 経 済
が 『公 共 財 』 を管 理 で き な い か ら で あ る 。 公 共 財 は 、 取 引 不 可 能 で 、 排 他 的 に 一 個 人 に よ
って 消 費 され る も の で は な く 、 価 値 が 減 衰 す る こ とな く 同 時 に複 数 の 人 が 享 受 で き る もの
で あ る 」 と指 摘 して い る 。
本 報 告 書 に 示 され た サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 マ ネ ジ メ ン トの た め の ツ ー ル は 、 サ ス テ イ ナ ビ
リテ ィ を 目標 に 掲 げ て 「
事 業 活 動 や 市 場 の 動 き を変 更 ・制 限 す る も の で あ る 」と して い る。
自 由 を 制 限 す る 可 能 性 の あ る 困 難 な 合 意 形 成 を達 成 す る た め に 、 本 報 告 書 は 、 民 主 的 な 政
治 プ ロ セ ス に 期 待 を寄 せ て い る 。EUは
、サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 マ ネ ジ メ ン ト16の道 筋 を 『社
会 契 約 』 の 可 能 性 に 見 出 そ う と して い る 。 本 報 告 書 に は 「も っ と福 利 厚 生 を 高 め る た め に
は ひ と りひ と りが 自分 た ち の 行 動 に集 団 的 制 約 を 課 す こ と を 自主 的 に受 け 入 れ る 、 そ の こ
と を通 して 市 民 社 会 が 形 成 され る ・ ・と考 え る 政 治 学 の 『社 会 契 約 』 モ デ ル に は 、 サ ス テ
イ ナ ブ ル 都 市 マ ネ ジ メ ン トの 解 法 が 含 ま れ て い る か も しれ な い 」 と い う記 述 が 見 られ る 。
さ ら に 、「開 発 利 益 と環 境 負 荷 」の バ ラ ン ス シ ー トで 計 画 を 決 定 す る こ と の 誤 り を指 摘 し、
企 業 経 営 を 応 用 して 都 市 を マ ネ ジ メ ン トす る こ と に警 笛 を鳴 ら して い る 。「
計画 を立て る者
は 、環 境 容 量 を確 認 し、そ の 限 界 を 超 え な い よ う にす べ き」 で あ り、 「計 画 策 定 は 『需 要 先
導 』 で あ る よ り は 、 『供 給 制 約 的 』 で あ る べ き で あ る」 と戒 め て い る 。
② 環境 、 経済 、社 会 文化 を統合 的 に と らえ る
1996年 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 報 告 書 は 、い わ ゆ る 自然 環 境 保 全 よ りは る か に広 い サ ス テ イ
ナ ブルな 発展 の概 念 に基づ いて いる。「
サ ス テ イ ナ ブル な 発 展 とは 、経 済 、社 会 そ して 文 化
的 な 次 元 を持 ち 合 わ せ 、 現 在 に お け る 様 々 な 人 間 相 互 の 公 平 性 や 世 代 相 互 の 公 平 性 を含 む
15 P.ホー ル とU .フェ イ フ ァー は 、 「
市 場 経 済 あ る い は 市場 を取 り入 れ た 経済 下 にお いて 、 計 画 規 制 は 、 市
場 の 動 向 を 考 慮 した ほ うが 効 果 的 で あ る こ とが 多 い 。(中 略)市 場 の動 向 を無 視 した 土 地 利 用 規制 は成 功
し に くい 。 とは い え 、計 画 は 、市 場 の動 きが 自滅 的 に 陥 りよ り広 い社 会 の 要請 に 目を つ む る よ う にな った
場 合 、 市 場 の 傾 向 に 抗 して な され な けれ ば な らな い 」 と述 べて いる(Hall and Pfeiffer,2000)。
16 わ が 国 で は
、 〈ufbanmanagement>に
都 市 経 営 と い う訳 語 が 当 て られて い る。 都 市 行 政 に企 業 の 経 営 感
覚 を導 入 し、 マ ー ケ ッ トの 力 を借 りて 問題 解 決 を 図 ろ う とす る傾 向 が 強 ま っ て い る。
概 念 で あ る 」 と して い る 。 先 述 の 世 代 間 公 平 性 を重 視 した ブ ル ン トラ ン ト報 告 に よ る定 義
と、 サ ッ ク ス の 提 示 した 環 境 重 視 の 開 発 の5つ の 次 元 を 統 合 した 定 義 と な っ て い る 。
本 報 告 書 で は 、社 会 的 な サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ を左 右 す る 要 因 と し て 、「
基 本 的なサ ー ビス、
教 育 、職 業 訓 練 、保 健 衛 生 、 住 宅 、雇 用 」 に加 え て 「
都 市 空 間 の 質 の よ うな 物 理 的 な 側 面 」
を上 げ て い る。 これ は1990年
の 都 市 環 境 緑 書 で 、都 市 環 境 の 物 理 的 な 側 面 が 盛 り込 まれ た
こ と を 踏 襲 して い る 。 南 側 都 市 の 歴 史 中 心 地 区 の 再 生 も、 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 の 取 組 み の
文 脈 に絡 め 取 られ て い っ た 。 都 市 環 境 に お け る 物 理 的 な 側 面 を 強 調 して 歴 史 中 心 地 区 を 都
市 環 境 の 文 化 的 資 産 と して 評 価 し 、 そ の 空 洞 化 が 都 市 の サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ を 脅 か し て い
る と い う 見 方 を して い る 。
イ ンナ ー シ テ ィ に お け る 失 業 や マ イ ノ リテ ィ の 問 題 を、 社 会 的 サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ17の
文 脈 で 論 じて い る。 これ まで の 都 市 成 長 が 「
物 質 的 な 豊 か さ を集 積 す る こ と に専 念 し、 環
境 的 、 社 会 的 負 荷 を あ ま り省 み よ う と して こな か っ た 」 こ と を 自省 し 、 負 荷 に さ ら され る
リス クが 豊 か な 市 民 よ り貧 しい 市 民 の ほ う に 集 中 しや す い こ とが 社 会 的 サ ス テ イ ナ ビ リテ
ィ を危 う く して い る 、 と い う見 解 を示 して い る 。「リス ク の 違 い に よ る社 会 が 、社 会 階 級 構
造 に 取 っ て 代 わ る の か 、 あ る い は リス ク 社 会 が 現 在 の 階 級 社 会 を統 合 し同 化 す る方 向 に 働
く か が 問 わ れ る 」。
欧 州 に お い て サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ は 、 環 境 保 全 を 中 心 と した 従 来 の 環 境 政 策 の枠 内 で 新
た な 方 向 性 を 示 す 概 念 で は な い 。 サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ は 、 縦 割 り政 策 を横 断 す る 軸 と して
戦 略 的 に 位 置 づ け られ 、 既 存 の 都 市 政 策 領 域 をす っ ぽ り包 み 込 む 傘 の よ うな も の で あ る 。
した が っ て 、 サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ 目標 に照 ら して 既 存 の 政 策 を 組 み 替 え る 必 要 性 が で て く
る。 サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ へ 向 け て 都 市 政 策 の 大 転 換 を促 す た め に 、 本 報 告 書 は エ コ シ ス テ
ム 思 想 の 導 入 を提 案 して い る 。 環 境 、 経 済 、 社 会 文 化 を 統 合 した サ ス テ イ ナ ブル な 都 市 の
あ り方 を 、 自 然 生 態 系 に み られ る 循 環 モ デ ル に見 出 そ う と して い る 。
サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ の 統 合 的 ア プ ロ ー チ に は 、 上 述 の 水 平 方 向 の 統 合 に加 え て 、 垂 直 方
向 の 統 合 も欠 か せ な い。 垂 直 方 向 と は 、 地 球 規 模 に は じ ま り、EU、
各国 、地域 、地方 政
府 間の統 合 であ る。都 市 に 「
環 境 問 題 を解 決 す る 可 能 性 の 高 い 糸 口が 多 く あ る」 と い う認
識 に 立 ち 、 本 報 告 書 は 、 都 市 マ ネ ジ メ ン トに 当た る者 が 「
都 市 に住 む 人 た ち の 社 会 的 、 経
済 的 、 文 化 的 な 要 請 に適 う よ う に 配 慮 す る 一 方 で 、 地 方 、 地 域 、 地 球 規模 の 自然 の 体 系 を
尊 重 し 、 可 能 な 場 合 は 地 方 規 模 で 問 題 解 決 を 心 が け 、 問 題 を外 部 に 転 嫁 した り、将 来 の 世
代 に 先 延 ば し に して は な らな い」 と述 べ て い る。 都 市 に フ ォ ー カ ス して サ ス テ イ ナ ビ リテ
ィへ 向 け て 取 り組 む こ とは 、 「
都 市 に 内在 す る 問 題 」 だ け で な く、 「
都 市 に起 因 す る 問 題 」
も解 決 しよ う とす る も の で あ る(佐 無 田 、2001)。
サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 報 告 書 は 、4-7章
で 個 別 分 野 の 政 策 目標 を 例 示 して い る 。 自然 資
源 の管 理 運 営 、温 室 効 果 ガ ス の排 出 規 制 、エ ネ ル ギ ー 問 題 、生 物 多 様 性 の 維 持 、失 業 問 題 、
経 済 活 性 化 、 文 化 的 多 様 性 の維 持 、 利 便 性 、 都 市 再 生 、 観 光 な ど 、 多 岐 にわ た る 政 策 に つ
いて 実 例 を あ げ て 述 べ て い る 。 しか し、 自 明 な 個 別 政 策 目標 の達 成 の 集 積 で は サ ス テ イ ナ
ビ リテ ィ は 実 現 しな い と考 え られ て い る 点 を 見 落 と して は な らな い 。本 報 告 書 は 、「これ ら
17 わ が 国 に お いて サ ス テイ ナ ビ リテ ィは 、一 般 的 に 環境 問題 の用 語 と して 理解 され て お り、この よ う にサ
ス テイ ナ ビ リテ ィ を社 会 文 化 的 な 側 面 に まで 広 げ た 考 え方 が 希 薄 で あ る 。
の 個 別 政 策 目標 は は じ め か ら与 え られ て い る もの で は な く 、『市 民 の 生 活 の 質 を 構 成 して い
る 要 素 とは 何 か 』を 多 くの 人 々 が 集 ま っ て 検 討 して い く中 で 具 体 化 さ れ て く る も の で あ る」
(植 田 、2001)と
強 調 し、 水 平 ・垂 直 双 方 に統 合 され た サ ス テ イ ナ ブ ル シ テ ィ 政 策 の 全 体
像 を 描 き 出 して い る。
欧州 サス テイ ナ ブル都 市キ ャンペ ー ン
「
欧 州 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 キ ャ ン ペ ー ン」 は 、 先 の 報 告 書 と並 ぶ サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 プ
ロ ジ ェ ク トの も う ひ と つ の 柱 で あ る 。EUレ
ベ ル で 、 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 を 目指 す 都 市 の
ネ ッ トワ ー ク づ く りを 支 援 す る も の で あ る 。
1994年 、サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 プ ロ ジ ェ ク トを遂 行 す る 欧 州 委 員 会(主
門 家 グ ル ー プ お よ び 国 際 環 境 自治 体 協 議 会ICLEIの
ど計600団
に環 境 総 局)と 専
協 力 を 得 て 、地 方 自 治 体 、NPO組
織な
体 の 代 表 が デ ン マ ー ク の オ ー ル ボ ー に集 ま り、 第1回 欧 州 サ ス テ イ ナ ブル 都 市
会 議 が 開 催 され た 。4日 間 に 及 ん だ 会 議 は 『オ ー ル ボ ー 憲 章 』(Sustainable Citiesand Towns
Campaign,1994)を
採 択 し、380自 治 体 と5NPOが
憲 章 に調 印 、 サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ へ 向
け て 取 り組 む 意 思 を表 明 した 。 オ ー ル ボ ー 憲 章 は3部 よ り成 る 。 第1部
はサス テイ ナ ビ リ
テ ィへ 向 け て 都 市 の 共 通 の 了 解 を 明 ら か に して い る。 オ ー ル ボ ー 憲 章 と前 後 して 、 専 門 家
グ ル ー プ が 欧 州 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 中 間 報 告 書 を 示 して お り、 オ ー ル ボ ー 憲 章 第1部
告 書 の エ ッセ ン ス を抽 出 した 内 容 とな っ て いた 。第2部
ンペ ー ン」 の 始 動 へ の 同 意 で あ る 。第3部
は報
は 、「
欧州サ ステ イナ ブル都 市 キ ャ
は、 「
地 方 版 ア ジ ェ ンダ21」 策 定 を1996年
の次
回 会 議 を 目標 に 推 進 す る こ と に 同 意 す る 内 容 だ っ た 。
オ ー ル ボ ー 憲 章 が 欧 州 諸 都 市 の 幅 広 い賛 同 を 得 た の を受 け て 、 キ ャ ン ペ ー ン事 務 局 は 憲
章 に 合 意 した 都 市 相 互 の 情 報 交 換 の プ ラ ッ トフ ォ ー ム をイ ン タ ー ネ ッ ト上 に 立 ち 上 げ た18。
単 に 個 々 の 都 市 が 情 報 を共 有 す る だ け で は な く、 既 存 の 都 市 や 地 方 関 連 ネ ッ トワ ー ク組 織
と の 連 携 を強 化 す る こ と に な っ た 。
ま た 、ICLEI欧
州 支 部 は 、 欧 州 委 環 境 総 局 か ら資金 支 援 を受 け て 、 地 方 サ ス テ イ ナ ビ リ
テ ィ の 優 れ た 実 例 を 紹 介 す る ホ ー ム ペ ー ジ19を 立 ち 上 げ た 。 こ こで 紹 介 さ れ て い る事 例 は
100に の ぼ り、 中 身 は 多 彩 で あ る 。 中 世 都 市 の ボ ロー ニ ャ は 、 半 径4.5kmの
中心 地区 で車
の 一 方 通 行 、 速 度 制 限 規 制 を導 入 した 。 フ ラ ン ク フ ル トは 、 排 熱 利 用 コ ・ジ ェネ レ ー シ ョ
ン ・シ ス テ ム の 導 入 な どに よ っ て2010年
まで に二 酸 化 炭 素 排 出 量 の50%削
減 を 目 指 して
い た 。 ベ ル リ ン も 欧州 地 域 開 発 基 金 の 支 援 を 得 て 二 酸 化 炭 素 、 窒 素 酸 化 物 対 策 に 取 組 ん で
い た 。 大 都 市 だ け で は な い 。 オ ー ス ト リア の 歴 史 都 市 グ ラー ツ は 、 中 心 街 区 で の 地 域 暖 房
シ ス テ ム の 普 及 、太 陽 熱 の 利 用 、新 築 建 物 で の 固 形燃 料 の 使 用 禁 止 な どに よ っ て2010年
ま
で に 二 酸 化 炭 素 排 出 量 を 半 減 す る 努 力 を して い た 。 そ の ほ か の 排 気 ガ ス に つ いて も 、60%
削 減 す る 目標 を 掲 げ た 。 独 仏 国 境 に 近 い ドイ ツ の 産 業 都 市 カ ー ル ス ル ー 工 は 、 国 鉄 の 軌 道
に 連 結 して 市 営 の 軽 量 車 両 を 運 転 す る シ ス テ ム を 開 発 し、 郊 外 居 住 者 の 公 共 交 通 機 関 の 利
用 を促 進 して い た 。
北 イ タ リア の トリ ノ は 欧 州 で 最 大 規 模 の 市 場 を 市 中 心 部 に 抱 え て い る が 、 周 辺 丘 陵 地 の
18 http://www
19 Local
.sustainable-cities.
org/
Sustainability
http://www3
.iclei.org/egpis
農 家 が 生 産 す る 果 物 や 野 菜 に品 質 管 理 制 度 を 導 入 す る こ と に よ っ て 新 た な 市 場 を 開 拓 して
い た 。 そ れ と 同 時 に 、 生 ごみ を有 機 肥 料 と して 農 家 に循 環 させ る し くみ を 開 発 して いた 。
ト リ ノ の試 み は 、EUが
資 金 面 で バ ッ ク ア ッ プ し て い るECOS地
域 間 協 力 提 案 制 度 を通 じ
て ほ か の 都 市 に も紹 介 され た 。 ト リ ノ は 、 ベ ル ギ ー 、 ポ ル トガ ル 、 トル コな ど同 じよ うな
課 題 を抱 え て い る都 市 と の 間 で 、 技 術 開 発 や 情 報 交 換 の 面 で パ ー トナ ー シ ッ プ の 関 係 に あ
る。
ま た 、欧 州 都 市 環 境 ア カ デ ミ ーEAUE20も
、サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 プ ロ ジ ェ ク トの 受 託 事 業
と して 、 欧 州 サ ス テ イ ナ ブル 都 市 発 展 デ ー タ ベ ー スSURBAN21を
イ ン タ ー ネ ッ ト上 に立 ち
上 げた 。
キ ャ ンペ ー ン は 、 都 市 や 都 市 ネ ッ トワー ク組 織 に イ ン タ ー ネ ッ ト上 で 自己 紹 介 で き る 場
を 与 え 、 各 都 市 の 取 組 み を共 有 す る し くみ を 整 え た 。 これ を 下 地 に 、 イ ン タ ー ネ ッ トの 双
方 向 性 を利 用 し、 サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ へ 向 け た 取 組 み で 協 働 で き る相 手 を探 す お 見 合 い シ
ス テ ム を つ く りあ げた 。 イ ン タ ー ネ ッ トと い う新 し い ツ ー ル の 利 点 を 巧 み に 活 か し 、 都 市
相 互 、 ネ ッ トワ ー ク相 互 の 交 流 を 促 進 し、 相 乗 効 果 を 生 む こ とに 成 功 した 。
オ ー ル ボ ー に 次 ぐ第2回
欧 州 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 会 議 は 、 ポ ル トガ ル の リ ス ボ ン で 開 か
れ た 。 こ れ に 先 立 ち 発 表 さ れ た1996年
の専 門家 グ ル ー プ報 告 書 を受 けて 、 行 動 計画
(SustainableCitiesand Towns Campaign,1996)が
提 示 され た 。
サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 プ ロ ジ ェ ク トの 終 了す る2000年
れ た(Sustainable Citiesand Towns Campaign,2000)。
に 、第3回 ハ ノー バ ー 会 議 が 開 催 さ
報 告 書 で も明示 されて い るよ うに、欧
州 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 の 取 組 み で は 、「
イ デ オ ロ ギ ー に根 ざ した 尺 度 で 手 法 を 取 捨 選 択 せ ず 、
… 多 様 な ア プ ロー チ を実 験 的 に 導 入 す る 姿 勢 」 が 重 ん じ られ て い る 。 専 門 家 グ ル ー プ が 報
告 書 で 理 念 的 な 構 築 を先 鋭 化 させ て き た 一 方 で 、 オ ー ル ボ ー 憲 章 以 後 、 キ ャ ンペ ー ン は イ
ン タ ー ネ ッ ト上 で 収 集 した 諸 都 市 に お け る 実 験 の 成 果 を集 積 させ 、 ハ ノー バ ー 会 議 で は よ
り現 実 的 な サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 像 に一 歩 近 づ い た 。 オ ー ル ボ ー 憲 章 に 調 印 した 自 治 体 な ど
の 総 数 も670に ふ く らみ 、 地 方 レベ ル で サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ へ 向 け た 取 組 み が 確 実 に 広 が
って いった 。
欧 州 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 キ ャ ン ペ ー ン が 目 的 とす る 地 方 版 ア ジ ェ ン ダ21の
す る た め に 、 キ ャ ンペ ー ン と協 働 で 欧 州 地 方 地 域 評 議 会CEMRは
イ ナ ブ ル 都 市 賞 を 創 設 した 。 こ の 賞 に はEU域
、1996年
普及 を加速
に欧州サ ステ
内 に 限 らず 欧 州 全 域 の 都 市 が 応 募 で き る 。
1996年 には 、 グ ラー ツ(オ ー ス トリ ア)、 デ ン ・ハ ー グ(オ
ラ ンダ)、 レス タ ー(英)ほ
か
5都 市 、1997年 の 第2回 に は100に の ぼ る応 募 の 中か らハ イ デ ル ベ ル グ(独)、カ ル ビ ア(西)、
ス ト ッ ク ホ ル ム(ス ウ ェー デ ン)の3都
市 が 選 ばれ た 。1999年 の 第3回
うち 、 次 期 加 盟 を 目指 す 東 欧 諸 国 の 都 市 が1/3を
20 E urop〓ische Akademie
占 め 、 受 賞 し た4都
f〓rst〓dtischeUmwelt.http://www.eaue.de
と 連 動 し 、 ベ ル リ ン 地 域(L〓nd)政
府 の 発 案 で 、1991年
_都
で は 応 募 自 治体 の
市 に加 え て 、 東 欧 都
市 環 境 緑 書(1990年)
に 創 設 さ れ た 。 第XI総
局 か ら資
金 支 援 を 受 け 、 セ ミ ナ ー な ど を 通 し て 、 都 市 が 相 互 に 交 流 し 、 都 市 環 境 問 題 と 取 り組 む こ
と を 目的 と して い る。
21 http://www
.eaue.de/winuwd
市 特 別 賞 が グ ダ ニ ス ク に 与 え られ た 。 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 キ ャ ンペ ー ン は 、EU加
盟 に先
立 っ て 東 欧都 市 が サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ に 取 り組 む こ と を促 そ う と して き た 。
欧 州 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 キ ャ ン ペ ー ンは 、 多 様 な 主 体 が 環 境 都 市 情 報 を 交 換 し合 う場 を
強 化 す る こ と で 、 取 組 み の 輪 を 広 げ 、 環 境 政 策 を推 進 して い く新 た な 手 法 の 可 能 性 を 示 し
た と い え る 。 サ ス テ イ ナ ブ ル シ テ ィ を 目指 す ネ ッ トワー ク が 急 速 に広 が っ た 背 景 に は 、 イ
ン タ ー ネ ッ トの 普 及 な ど情 報 技 術 の 進 歩 もあ っ た が 、 目 的 や 利 害 を共 に す る 多 様 なNPO
団体 の活 動 によ る社 会 の情報 化が あ った。
そ れ ぞ れ 主 体 の 個 性 を 生 か した 貢 献 が あ っ た と い え る が 、 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 プ ロ ジ ェ
ク トの2本 柱 で あ る 報 告 書 とキ ャ ンペ ー ン の 双 方 に効 果 的 な 働 き か け を した ロ ビー 活 動 主
体 と して 先 述 した ユ ー ロ シ テ ィが 際 立 っ て い る 。 ユ ー ロ シ テ ィ の 環 境 小 委 員 会 は 、EUの
サ ス テ イ ナ ブ ル シ テ ィ 政 策 に積 極 的 に 関 わ っ て き た 。1991年 に 発 足 した 都 市 環 境 専 門 家 グ
ル ー プ の 一 員 に 、 ユ ー ロ シ テ ィ の 環 境 小 委 員 会 コ ー デ ィ ネ ー タ ー のA.フ
参 画 し、1996年
ァ ン デ フ ェ ンが
『欧 州 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 報 告 書 』作 成 に 携 わ っ た 。 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市
キ ャ ンペ ー ン の 運 営 に も 参 加 して い る。 近 年 で は 、 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 キ ャ ン ペ ー ン と協
働 で 、 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 指 標 づ く りとそ の 普 及 に 力 を 入 れ て い る 。
1990年 代 、EUは
環 境 面 か らサ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 へ 強 い 関 心 を 示 した 。 しか し 、サ ス テ
イ ナ ブ ル シ テ ィ 政 策 の 主 題 は あ く ま で も 各 都 市 に あ り、 そ の実 践 が 各 都 市 の 自 主 性 に 委 ね
られ て い る こ と に な ん ら変 わ りは な い。 環 境 総 局 は サ ス テ イ ナ ブ ル シ テ ィ に 関 す る 研 究 成
果 を 公 開す る一 方 、 都 市 ネ ッ トワ ー ク の 形 成 を支 援 し、 報 告 書 と キ ャ ンペ ー ン の二 人 三 脚
で 各 都 市 が サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ へ 向 け て 行 動 しや す い土 壌 を醸 成 して き た 。EUの
策 に は 、 トッ プ ダ ウ ン の 強 権 は 与 え られ て い な い 。EUは
環境政
、 地 方 レベ ル に お け る サ ス テ イ
ナ ビ リテ ィへ の 関 心 が ボ トム ア ッ プ の か た ち で 高 ま り、 各 都 市 の 取 組 み が 堅 固 に 育 っ て く
る ことを、距 離 を置 いて見 守って きた 。
2000年
第5次
以降
環 境 行 動 計 画 が2000年
に終 了 し、EUレ
ベル での サ ステイナ ブル都 市へ の 取組 み
は 、 再 び 節 目 を 迎 え た 。 プ ロデ ィ委 員 長 の 下 で 、 ス ウ ェー デ ン 人M・
し く欧 州 委 環 境 担 当 委 員 に 就 任 し、EU環
ウ ォル ス トロ ム が 新
境 政策 自体 が 大 き く転 換 し た 。 彼 女 は 、2001年
2月 に 第6次 環 境 行 動 計 画(EC-Environment,2000b)を
の サ ク セ ス ス トー リー の ひ とつ で あ る 。EU法
公 表 す る に あ た り、 「
環 境 政 策 はEU
の お か げ で 、 私 た ち は 以 前 よ りき れ い な 空
気 と安 全 な 飲 み 水 を享 受 で き る よ う にな っ た 。 しか し、 ま だ 現 実 に は 問 題 が 残 っ て い る 」
「EU環 境 政 策 を 一 本 の 果 樹 に た とえ るな ら ば 、私 た ち は 今 、30年 前 に 植 え た 木 の 果 実 に
よ うや く あ りつ い た と こ ろ で あ る。 しか し、 ま だ 下 枝 の 果 実 しか 手 に届 か な い 。 よ り高 い
と こ ろ 、 よ り離 れ た 枝 の 果 実 を 手 に 入 れ る た め に は 、 新 し い 発 想 が 求 め られ る 」 と述 べ 、
環 境 政 策 に 新 し い道 筋 を つ け る 決 意 を示 した 。
「
環 境2010:私
た ち の 未 来 、私 た ち の 選 択 」 と 題 した 第6次 環 境 行 動 計 画(2001-10年)
は 、 ① 市 民 や 営 利 団 体 へ の 情 報 交 換 を促 進 し、 意 識 を高 め 、 彼 らの 関 与 を促 す 、 ② 市 場 に
対 し て 環 境 改 善 の 適 切 な 動 機 付 け を与 え る 、③ 他 領 域 の 政 策 に 環 境 政 策 を確 実 に統 合 す る 、
の3つ の 優 先 目 的 の た め に新 し い 手 法 を 開 発 し、 そ の 導 入 を 提 唱 して い る 。 欧 州 が 全 体 的
に 新 自 由主 義 に 傾 斜 しつ つ あ る の を受 け て 、 市 場 メ カ ニ ズ ム を活 用 しな が ら環 境 目標 達 成
の 政 策 展 開 を 加 速 す る 考 え 方 を 示 した 点 が 特 徴 で あ る 。1990年 代 、欧 州 で社 会 民 主 主 義 が
伸 張 して い た こ ろ に ま と め られ た サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 報 告 書 が 、 市 場 の 暴 走 を 警 戒 し、 市
場 メ カ ニ ズ ム の活 用 に 対 して 慎 重 で 、 市 場 の 力 よ り民 主 的 な 社 会 契 約 に よ りサ ス テ イ ナ ビ
リテ ィ の実 現 を 目指 そ う と した こ と とは 距 離 が あ る。
第6次
計 画 を 作 成 す る に あ た り、 環 境 総 局 は 第5次
ら着 手 した 。 そ して 、2000年
計 画 の 成 果 と問 題 を 分 析 す る こ と か
「
グ ロ ー バ ル ア セ ス メ ン ト-欧 州 の 環 境 、 将 来 に 向 け て ど う
進 め ば よ い の か?」(EC-Environment,2000a)が
ま とめ られ た 。 地 球 温 暖 化 、 大 気 、 自 然 生
態 系 保 全 、 水 、 都 市 環 境、 沿 岸 地 域 、 廃 棄 物 、 お よ び 核 開 発 ほか3種
の 危 機 管 理 の7優 先
課 題 に つ いて 、 第5次 環 境 行 動 計 画 の 達 成 度 を 分 析 して い る 。 ま た 、 エ ネ ル ギ ー 問 題 、 環
境 法 整 備 、 展 開 され た 政 策 手 法 の 効 果 な ど に検 討 が 加 え られ て い る 。 第5次 環 境 計 画 を 一
定 程 度 肯 定 的 に評 価 した 上 で 、 加 盟 各 国 の 法 整 備 や 取 組 み が 不 十 分 だ っ た た め に 必 ず し も
十 分 な 成 果 を 上 げ て い な い と指 摘 して い る 。EUレ
ベル の環境 政策 に は強制 力が な いた め
に 、 環 境 目標 の 実 現 は 結 局 の と こ ろ 加 盟 各 国 頼 み で しか な か った 。EUは
ス ブル グ 国連 環 境 開 発 会 議 を 、 地 球 環 境 問 題 でEUの
て いた 。2002年
会 議 を 目標 に 、EUの
、2002年
ヨハ ネ
存 在 感 を ア ピ ー ル す る 好 機 と と らえ
環 境 目標 達 成 に 向 け て 即効 性 の あ る対 策 が 求 め られ
た。
市 場 が ク ロー ズ ア ッ プ され る 影 で 、 サ ス テ イ ナ ビ リテ ィへ 向 け て 都 市 や 地 方 の 役 割 が 重
視 され た1990年
代 環 境 政 策 の 特 徴 は 、2000年
以 降 薄 ら い で いっ た 。 環 境 総 局 が 第5次
画 を評 価 分 析 した グ ロ ー バ ル ア セ ス メ ン トに対 して 、EUレ
組 織 な どか ら意 見 が 寄 せ られ 、第6次
計
ベ ル の 異 な る利 害 を 代 表 す る
環 境 計 画 作 成 に 向 けて オ ー プ ンな 議 論 が 展 開 され た 。
EU地 域 諮 問 委 員 会 は 、 「グ ロ ー バ ル ア セ ス メ ン トで は 、 地 域 や 地 方 自治 体 が そ の 努 力 に値
す る 評 価 を 受 け て い な い 。 都 市 環 境 問 題 に 相 応 の 力 点 が 置 か れ て い な い」 と不 満 を 示 して
いる。 また、 「
ア ジ ェ ンダ21地
方 版 の 普 及 や 欧 州 サ ス テ イ ナ ブル 都 市 キ ャ ン ペ ー ン は 、 将
来 展 開 の 期 待 で き る 成 果 を い くつ か 上 げ た が 、あ ま りに も 限 定 的 だ っ た 」と の見 解 に 立 ち 、
「自然 環 境 だ け で は な く、 サ ス テ イ ナ ビ リ テ ィ の 経 済 、 社 会 的 側 面 を考 慮 し、 都 市 部 に対
して 統 合 的 な 発 展 政 策 が 緊 急 に求 め られ て い る」 と訴 え て い る(CoR,2000)。
結 局 、 第5
次 環 境 行 動 計 画 の 下 で 展 開 され た サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 プ ロ ジ ェ ク トは 適 切 な 評 価 を得 られ
ず 、 第6次 環 境 行 動 計 画 で は 地 方 の 役 割 が 軽 く見 られ る傾 向 に あ る22。
サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 プ ロ ジ ェ ク トの 中 心 的 な 役 割 を 担 っ て きた 都 市 環 境 専 門 家 グ ル ー プ
は 、サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 へ の 取 組 み が 実 践 段 階 に 入 った の に と もな い 、1999年 以 降 、複 数
の 分 科 会 に姿 を変 え 、 環 境 総 局 と欧 州 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 キ ャ ン ペ ー ン をつ な い で い る 。
1999年 、欧 州 共 通 指 標 づ く りの た め の 分 科 会 が 立 ち 上 げ られ 、2000年 の セ ビ リ ア 会 合 の 成
果 を ま とめ て10の
欧 州 共 通 指 標 を提 示 し た 。現 在 、100に の ぼ る 地 域 ・地 方 自 治 体 が この
サ ス テ イ ナ ビ リ テ ィ指 標 を 試 験 運 用 して い る 。ま た2001年
22 2004年
ま で に 、サ ス テ イ ナ ブ ル な 土 地
、 環 境 総 局 は 、 『都 市 環 境 に 関 す る 課 題 別 戦 略 に 向 け て 』(EC Environment,2004)と
備 中 で あ る 。2005年
最 終 案 を ま と め る 前 に 、2003年6月
い う文 書 を準
に、 都 市環 境 につ いて の ス テ イ ク ホ ル ダ ー らの
意 見 を 聞 き 、 議 論 す る 場 を 設 け て い る 。 欧 州 地 方 地 域 評 議 会CEMRと
ユ ー ロシテ ィが コー デ ィネ ー ター
と な り 、欧 州 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 キ ャ ン ペ ー ン の ネ ッ ト ワ ー ク を 活 用 し 、地 方 自 治 体 や 他 の ネ ッ トワ ー ク
組 織 の 意 見 を 集 約 し て 意 見 書(Sustainable
団 体 組 織 、 学 識 経 験 者 グ ル ー プ 、 関 連NPOが
Cities and Towns
Campaign,2003)を
、意 見 書 を 提 出 して い る。
ま とめ て い る 。 他 に、 営 利
利 用 、環 境 法 の 定 着 に 向 け た統 合 的 ア プ ロ ー チ につ い て 検 討 す る2つ
の分 科会 が加 わ った 。
近 々 、 サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ へ 向 け た 都 市 デ ザ イ ン の グ ル ー プ も新 設 さ れ る 。
サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 の 取 組 み は 、 環 境 容 量 を 大 前 提 と して サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ の 目標 を
定 め 、 市 場 を 牽 制 す る 姿 勢 を貫 い て い る 。 し か し、 地 方 で 実 践 に 移 す 段 階 で は 、 頼 み の 指
標 が ど の 程 度 の 普 遍 性 を 持 つ も の にな る か は 未 知 数 で あ る 。 ま た 、EUレ
ベル の 環境 政策
が 方 向 転 換 を した た め に、 欧 州 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 キ ャ ンペ ー ンは 環 境 総 局 と以 前 ほ ど緊
密 な 関 係 に は な い23。サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ を 目 指 す 都 市 ネ ッ トワ ー ク の 盛 り上 が りは 、1994
年 オ ー ル ボ ー 憲 章 か ら1996年
5-1:環
リス ボ ン行 動 計 画 の ころ が 頂 点 だ っ た と思 わ れ る[表3,4,
境 政 策]。
欧 州 地 方 地 域 評 議 会 と の 協 働 で ス タ ー ト した 欧 州 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 賞 は 、1999年 以 来
一 時途 絶 えた
。2000年 のハ ノー バ ー 会 議 以 後 、類 似 の 会 議 開 催 が 遠 の い た 。 都 市 相 互 の 情
報 交 換 の 中 身 は 、EUレ
ベ ル の補 助 金 情 報 が 主 な 関 心 事 に な っ て い る と も言 わ れ て い る 。
官 製 ボ トム ア ッ プ ネ ッ トワー ク の 脆 さ を 露 呈 す る こ と に な っ た 。
EU環
境 総 局 が 都 市 へ の 関心 を 弱 め た2000年
以 降 、サ ス テ イ ナ ブ ル シ テ ィ へ の 取 組 み を
持 続 させ る べ く新 た な 展 開 を模 索 す る胎 動 が ボ トム ア ッ プ で 始 ま っ て い る 。2002年 に、 キ
ャ ン ペ ー ンが 中 心 とな っ て 欧 州 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 賞 の 再 開 を 決 定 し、2003年 に は 、応 募
65都 市 か ら、 フ ェ ラ ー ラ(伊)、
ハ イ デ ル ベ ル グ(独)、
オ ス ロ(ノ ル ウ ェー)の 三 都 市 が
受 賞 した 。 い ず れ も、 社 会 ・経 済 ・環 境 を統 合 した サ ス テ イ ナ ブ ル な 発 展 を 目 指 す 取 組 み
や 市 民 組 織 との 協 働 の し く み が 高 く評 価 さ れ た 。 今 後 は 隔 年 で 開催 が 予 定 され て い る。 ま
た 、2004年6月
に、初 回 と 同 じデ ンマ ー ク の オ ー ル ボ ー で サ ス テ イ ナ ブル 都 市 会 議 が 開 催
さ れ る こ とに な っ た 。
II.4-4.小 括
EUレ
ベ ル 環 境 政 策 は 、1990年
に都 市 環 境 緑 書 を 提 示 し、 環 境 問 題 を 都 市 の 文 脈 で と ら
え る 必 要 性 に 初 め て 着 目 した 。 緑 書 は 、 都 市 環 境 問題 が い わ ゆ る 「自然 環 境 を 守 ろ う 」 的
発 想 で は 対 処 しき れ な い 広 範 囲 の 問 題 を は らん で い る こ と を 示 唆 し た 。 地 域 開 発 向 け 予 算
枠 の 獲 得 とい う 野 望 に 後 押 し さ れ て い た とは い え 、環 境 の 視 点 か ら都 市 環 境 の 社 会 的 、 物
理 的 、 空 間 的 な 側 面 に光 を 当 て て い る 点 が 見 逃 せ な い。
こ の よ う に環 境 政 策 面 か ら都 市 へ の 関 心 が 高 ま っ て い た と こ ろ に 、 環 境 政 策 が サ ス テ イ
ナ ブ ル シ テ ィへ の 取組 み を 強 め て い く き っ か け と な った の は 、1992年 リオ 地 球 環 境 サ ミ ッ
トだ っ た 。ア ジ ェ ン ダ21採 択 に よ り、「サ ス テ イ ナ ブル な 発 展 」が 地 球 規 模 の 合 意 と な り、
翌 年 発 効 した マ ー ス ト リ ヒ ト条 約 に も 「サ ス テ イ ナ ブル 」 の 語 が 盛 り込 まれ てEUの
の 方 向 を示 す 言 葉 とな っ た 。これ を 受 け て 、環 境 政 策 総 局 は1993年
発展
第5次 環 境 行 動 計 画 に
着 手 し、 サ ス テ イ ナ ブル 都 市 プ ロ ジ ェ ク トを 展 開 して い っ た 。 そ の 成 果 が 、 欧 州 の サ ス テ
23 2004年
現在
ンA21L、
ハ ノ ー バ ー 市 、バ ル セ ロ ナ 市 、マ ル メ 市 の 協 賛 金 を 得 て い る 。欧 州 委 都 市 環 境 専 門 家 グ ル ー プ 、
、 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 キ ャ ン ペ ー ン は 、イ タ リ ア ロ ー カ ル ア ジ ェ ン ダ21コ
都 市 地 域 リサ イ ク ル 協 会ACRR、
気 候 連 盟 、 欧 州 地 方 地 域 評 議 会CEMR、
ィ 、 地 方 環 境 イ ニ シ ア テ ィ ブ 評 議 会ICLEI、Medシ
ト、 世 界 都 市 連 合FMCU-UTOと
エ ネ ル ギ ー シテ ィ、ユ ー ロ シテ
テ ィ 、 バ ル ト海 都 市 連 合 、WHO健
のパ ー トナー シ ッ プで 運 営 され て い る。
ー デ ィネ ー シ ョ
康 都 市 プ ロジ ェ ク
イ ナ ブ ル シテ ィ 思 想 を ま と め た1996年
サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 報 告 書 とサ ス テ イ ナ ブ ル シ テ
ィ を 目指 す 自治 体 ネ ッ トワ ー ク 活 動 のサ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 キ ャ ンペ ー ンで あ る[表3,4,
5-1:環
境 政 策]。
1990年 代 、EU環
境 政 策 が 深 く 関 わ り、 この よ う に大 き な 盛 り上 が りを み せ た 環 境 面 か
ら のサ ス テ イ ナ ブル シ テ ィ の 取 組 み で あ った が 、2000年
以 降 、EU環
境 総局 は都 市へ の関
心 を薄 め て い る 。 各 都 市 に 浸 透 した サ ス テ イ ナ ビ リテ ィへ の 取組 み が 、 これ か ら本 格 的 に
自立 軌 道 に 乗 っ て 展 開 され て い く の か ど う か 。1990年 代 、EUが
た サ ス テ イ ナ ブ ル シテ ィ 政 策 の 真 価 が 問 わ れ る の は 、EUの
る。
リー ダ ー シ ッ プ を 発 揮 し
手 を 離 れ た これ か らだ と い え
〈
付録〉欧州サステイナブル都市最終報告書
概要版
European Sustainable Cities Final Report
(Expert Group on the Urban Environment, 1996)
Executive Summary
〈都市環境専門家グループ〉
都 市 環 境 専 門 家 グ ル ー プ は1991年
、都 市 環 境 緑 書 の 公 表 を 受 け て 欧 州 委 員 会 に よ り設 置
され た 。 本 グ ル ー プ は 独 立 した 組 織 で 、 加 盟 国 代 表 と、 ど の 組 織 に も 属 さな い 専 門 家 に よ
っ て 構 成 さ れ て い る 。 専 門 家 グ ル ー プ に 付 託 され た事 項 は 、 緑 書 に 示 さ れ た 閣 僚 理 事 会 の
決 定 に よ り下 記 の 通 りで あ る 。
・将 来 の 都 市 計 画 お よ び 土 地 利 用 計 画 の 戦 略 に 、 環 境 に 関 す る 課 題 を どの よ う に織 り込
む こ と が で き る か につ い て 考 察 す る
・欧 州 委 員 会 がEUの
環 境 政 策 の 枠 組 み の 中 で ど の よ う に都 市 環 境 の 領 域 を 展 開 す る こ
と が で き る か に つ いて 提 言 す る
・EUが 都 市 環 境 の 改 善 に一 層 貢 献 す る た め の 方 策 を検 討 す る
い ま 、 主 要 な 環 境 政 策 を め ぐ る 議 論 は 、 サ ス テ イ ナ ブ ル 開 発 、 と りわ け サ ス テ イ ナ ブル
都 市 開 発 に焦 点 が あ る。 専 門 家 グ ル ー プ は 、 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 プ ロ ジ ェ ク トを 通 じて こ
れ らの 議 論 に 貢 献 す る 。
〈 サ ス テ イ ナ ブル 都 市 プ ロ ジ ェ ク ト〉
環 境 ア ジ ェ ン ダ(協 議 事 項)の 領 域 が 広 が っ て い る と い う 認 識 を踏 ま え 、1993年
グ ル ー プ は 、1993-96年
を期 間 と す る サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 プ ロ ジ ェ ク トの 第1期
、 専門家
を立 ち上
げ た 。 プ ロジ ェ ク トの 主 要 目標 は 以 下 の 通 りで あ る 。
・欧 州 諸 都 市 が 置 か れ た 状 況 の 中 で 、 サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ に つ い て の 考 え 方 を 発 展 させ
る こ とに貢献す る
・こ れ ま で の 経 験 を 幅 広 く交 換 し合 う土 壌 を育 て る
・地 方 レベ ル で サ ス テ イ ナ ビ リ テ ィ の優 れ た 実 践 事 例 を 普 及 させ 、 し っ か り腰 を据 え た
取 組 み とす る
・1991年 の 評 議 会 決 定 で 求 め られ た よ う に 、EU、 加 盟 国 、 地 域 そ して 地 方 の そ れ ぞ れ
の レベ ル の 政 策 に 影 響 を 及 ぼ す 提 言 を作 成 す る
本 報 告 書 は 、 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 プ ロ ジ ェ ク トの 主 要 な 成 果 で あ り、1996年10月
にリ
ス ボ ン(ポ ル トガ ル)で 開 催 さ れ る 第2回 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 欧 州 会 議 に 向 け て の 重 要 な
予 備 文 書 とな る 。 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 プ ロ ジ ェ ク トの ほ か の 成 果 と して は 、 以 下 の もの が
あ る。 「
優 れ た 実 践 事 例 ガ イ ド(Good
Practice Guide)」 、EGPIS(European
Good
Practice
Information System)、 特 定 の 目標 グ ル ー プ を 対 象 に した 「タ ー ゲ ッ ト別 報 告 概 要 」、 そ して
個 々 の 加 盟 国 の ニ ー ズ に 応 じた プ ロ ジ ェ ク ト普 及 会 議 の 開 催 な ど で あ る。1994年5月
、第
1回 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 欧 州 会 議 が オ ー ル ボ ー(デ ン マ ー ク)で 開 催 中 に 欧 州 サ ス テ イ ナ ブ
ル 都 市 キ ャ ン ペ ー ンが ス タ ー ト し、情 報 と経 験 の 交 換 が 一 層 促 進 さ れ る よ う に な って い る 。
加 え て ネ ッ トワ ー ク 型 パ ー トナ ー(CEMR、Eurocities、ICLEI、UTO、WHO)が
情 報 お よ び 経 験 の 共 有 に 、 あ る い は 地 方 レ ベ ル で の 実 験 的/模
都 市 間の
範 的 プ ロ ジ ェ ク トに 基 づ い
た 助 言 活 動 な どに 、 積 極 的 に か か わ っ て い る 。
〈 欧州 サ ステイ ナ ブル都 市報 告 書〉
欧 州 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 報 告 書 は 、 サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ の 概 念 を都 市 地 域 に 適 用 す る こ
と に焦 点 を 合 わ せ て い る 。報 告 書 の 表 題 は 欧 州 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 報 告 書 とな っ て い る が 、
都 市 だ け で は な く、 都 市 中 心 部 か ら郊 外 、 小 さ な 町 ま で の 、 い ろ い ろ な 階 位 の 都 市 化 社 会
につ い て も取 り扱 っ て い る 。 本 報 告 書 は また 、 都 市 地 域 と都 市 シス テ ム 全体 の サ ス テ イ ナ
ビ リテ ィ の 問 題 を扱 っ て い る 。 専 門 家 グ ル ー プ の 見 解 に よ れ ば 、 そ れ らの こ と を 追 求 す る
の に必 要 な サ ス テ イ ナ ブ ル 開 発 の 原 則 とそ の メ カ ニ ズ ム は 、 あ ら ゆ る 階位 の 都 市 化 社 会 に
適 用 可 能 で あ る 。 しか し 、 こ こで の 焦 点 は 、 都 市 レベ ル に あ る 。
本 報 告 書 は 、 環 境 面 と 同 時 に制 度 的 側 面 に も焦 点 を合 わ せ て い る 。 地 方 政 府 が サ ス テ イ
ナ ビ リ テ ィ に 取 り組 む 能 力 に も 関 心 を寄 せ て い る 。(サス テ イ ナ ビ リテ ィ に 関 わ る)優 れ た
普 遍 的 な マ ネ ジ メ ン ト事 例 が ます ます 欧 州 の 地 方 政 府 ら し さ を 示 す 特 徴 にな っ て き て い る 。
本 報 告 書 は 、 そ の こ と を 活 用 す る こ との 重 要 性 に つ いて も認 識 し て い る 。 サ ス テ イ ナ ビ リ
テ ィ へ の 取 組 み は 、 既 存 の 政 策 や 組 織 機 構 に 対 す る 新 鮮 な モ ノの 見 方 や 、 環 境 に 配 慮 した
行 動 をす る と き に 依 拠 で き る しっ か り した 一 連 の 行 動 原 則 を必 要 と して い る 。
本 報 告 書 は 、 幅 広 い読 者 層 を想 定 して い る 。 首 長 や 議 員 、 自 治体 の 幹 部 ・職 員 、 都 市 環
境 の 専 門 家 な ど は 、 サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ都 市 マ ネ ジ メ ン トで 重 要 な 役 割 を担 っ て い る 。 し
か し ま た 、 取 組 み が 成 功 す る か は 、 地 域 コ ミ ュ ニ テ ィ の 積 極 的 な 関 与 と、 あ らゆ る レ ベ ル
に お い て 強 力 で頼 りに な る 政 府 組 織 の そ の 枠 組 み の 範 囲 で 民 間 お よ び ボ ラ ン テ ィ ア 部 門 と
パ ー トナ ー シ ッ プ を 形 成 で き る か に か か っ て い る 。 政 治 的 な リー ダ ー シ ッ プ とそ の 関 与 な
く し て 前 進 は あ り得 な い 。
〈 ロ ー カ ル ・ア ク シ ョ ン の 領 域 〉
部 分 的 に は 、 加 盟 国 に よ っ て そ れ ぞ れ の 階 位 の 地 方 政 府 に付 与 され た 責 任 が 違 っ て い る
ことを反 映 し、都市 環境 の取組 み に対す る法 的、組織 的な拠 りどころ も、加 盟国 の 間で 明
らか に 違 っ て い る 。 さ ら に 都 市 は 地 理 的 条 件 も異 な っ て い る 。 本 報 告 書 は 、 あ らゆ る 都 市
に 適 用 可 能 な 一 般 的 な 解 決 法 を 提 示 す る もの で は な い 。 そ うで は な くて 、 本 報 告 書 が 提 唱
して い る の は 、 都 市 が 地 方 民主 主 義 の伝 統 や 優 れ た マ ネ ジ メ ン ト、 そ して 専 門 知 識 を 生 か
しつ つ 、 そ れ ぞ れ の 地 方 の 状 況 に適 した 革 新 的 な ア プ ロ ー チ(問 題 解 決 法)を
が で き る--そ
見 出す こ と
の 支 え と な る枠 組 み を 用 意 す る こ とで あ る 。
責 任 と権 限 が い か な る も の で あ れ 、 全 欧 の 地 方 政 府 は 既 に、 そ の 多 岐 にわ た る 役 割 を 遂
行 す る こ と に よ っ て サ ス テ イ ナ ビ リ テ ィ の 目標 を前 進 させ う る 有 利 な 立 場 に あ る 。
地 方 自 治 体 は 直 接 、 間 接 の サ ー ビ ス 供 給 者 で あ り、 規 制 当 局 で あ り、 た と え ば リー ダ ー
で あ り、 あ る い は コ ミ ュ ニ テ ィ 情 報 の提 供 者 、 呼 び か け 人 、 ア ドバ イ ザ ー 、 パ ー トナ ー 、
地域 資源 の動員 者 、討 論や 議論 の先導者 の立 場 にいる。そ れ ゆえ に、そ の地 方 の環境 をサ
ス テ イ ナ ブ ル ・マ ネ ジ メ ン トす る 際 に 、 い ろ い ろな レベ ル に ま た が る共 同 戦 略 を構 築 す る
の に最 も ふ さ わ し い 立 場 に い る 。 そ う した 地 方 政 府 の 行 動 は 、 地 球 規 模 で の サ ス テ イ ナ ビ
リテ ィ へ の 取 組 み を 力 強 い も の と し 、 よ り完 全 な もの とす る。
サ ス テ イ ナ ブ ル 開 発 の 目標 に は 、 衝 突 し合 う課 題 を め ぐ っ て 重 大 な 選 択 を す る こ とや 、
コ ミ ュ ニ テ ィで の 暮 ら し に 大 き な 変 化 を 引 き 起 こす こ とな どが含 ま れ て い る が 、 そ れ を上
か ら一 方 的 に 押 し付 け る こ と は で き な い 。 地 方 コ ミ ュ ニ テ ィ の 参 加 と 関 与 に よ っ て 成 就 さ
れ な け れ ば な らな い 。 サ ス テ イ ナ ブ ル 開 発 に 至 る そ れ ぞ れ の 道 筋 は 、 地 方 レベ ル で 考 え 出
され な けれ ば な らな い 。
天 然 資 源 か ら廃 棄 物 や 汚 染 物 質 へ の 直 線 的 な 流 れ を 、 エ コ シ ス テ ム の 循 環 系 の 、 自己 調
整 型 の 流 れ に転 換 させ る こ と--地
方 自治 体 の 役 割 は 、 そ れ を確 実 に遂 行 す る ロー カ ル ・
エ コ シス テ ム の マ ネ ジ ャ ー 役 で な け れ ば な ら な い 。
〈サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 に好 ま し い条 件 〉
本 報 告 書 の 第2章 で は 、 国 際 的 な レベ ル 、 欧 州 お よ び 加 盟 国 、 そ して 地 方 レ ベ ル で の 政
策 展 開 の 進 捗 状 況 に つ い て 考 察 して い る 。 い ま は 欧 州 都 市 に とっ て 、 国 際 的 な 取 組 み で 重
要 な 役 割 を担 い な が ら行 動 を お こす 好 機 で あ る 。
1991年 以 来 、EUは
、 環 境 保 護 の 取 組 み を 強 化 す る た め に尽 力 して き た 。 環 境 政 策 は 、
サ ス テ イ ナ ブ ル 開 発 の 課 題 を前 進 させ る方 向 に 政 策 転 換 さ れ て き た 。 都 市 レ ベ ル で の 環 境
政 策 の 形 成 お よ び 取 組 み に対 して は 、EU法
が 確 固た る裏づ け を与 えて きた。 マー ス トリ
ヒ ト条約 は 、主 要 な 政策 目標 の ひ とつ と して サ ス テ イ ナ ブ ル な 成 長 の 促 進 を う た っ て い る。
ま た 、 ほ か の 政 策 に 環 境 保 護 を織 り込 む こ と を 明 白 に 求 め て い る 。1993-2000年
の環境 ア
ジ ェ ン ダ を 決 め た 第5次 環 境 行 動 計 画 は 、 対 症 療 法 に と ど ま らず 、 む しろ 環 境 問 題 の 根 本
的 な 原 因 を 探 ろ う と して い る。 同 計 画 は 、 トッ プ ダ ウ ン方 式 によ る ア プ ロー チ よ り は 、 連
帯 し、 責 任 を分 担 す る 考 え 方 を 重 視 して い る 。
都 市 マ ネ ジ メ ン トの ア プ ロ ー チ 法 を考 え る と き に 、 欧 州 都 市 は ま た 、 豊 富 に 集 積 さ れ て
き た 国 際 的 経 験 や 取 組 み に 学 ぶ こ とが で き る 。1992年6月
の 地 球 環 境 サ ミ ッ トでECと
加 盟 国 は 、気 候 変 動 と生 物 多 様 性 に 関 す る 議 定 書 に 調 印 し 、ア ジ ェ ンダ21--地
全
方 政府が
極 め て 重 要 な 役 割 を演 じる こ と に な るサ ス テ イ ナ ブ ル 開 発 の た め の 地 球 規 模 の ア ク シ ョ ン
プ ラ ン--に
も深 く関 わ る こ と に な っ た 。 都 市 で サ ス テ イ ナ ブル 開 発 に 取 り組 む と き に必
要 とな る適 切 な メ カ ニ ズ ム や 手 段 に つ い て は 、国 際 的 な プ ロジ ェ ク トや ア ジ ェ ンダ21な
ど
の 経 験 を 通 じて 一 定 の コ ンセ ンサ ス が 形 成 され つ つ あ る 。
さ らに 加 盟 国 内 の 政 策 体 系 も 、 地 方 政 府 レ ベ ル で の サ ス テ イ ナ ビ リテ ィへ の 取 組 み を 一
段 と支 援 す る方 向 に あ る 。 しか し、 国 の サ ス テ イ ナ ビ リ テ ィ に 向 け て の 戦 略 は 、 必 ず し も
は っ き り都 市 を意 識 した も の と は な っ て い な い。 サ ス テ イ ナ ブ ル 開 発 戦 略 に取 り組 ん で い
る 国 々 に お い て も 、 都 市 政 策 が サ ス テ イ ナ ビ リ テ ィ の 目標 を 明確 に は も っ て は いな い 。 そ
れ ゆ え に 目標 を 設 定 し、 都 市 地 域 に お け る サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ の 達 成 度 を評 価 し、 モ ニ タ
リ ン グす る と き に 使 用 で き る よ うな 、 ワ ンセ ッ トの 明 瞭 な 原 則 を 定 め て お く こ とが 必 要 と
な る 。 そ れ らの 諸 原 則 は 、 以 下 に 記 述 す る 通 りで あ る 。
〈 都 市 マ ネ ジ メ ン トの 原 則 〉
サ ス テ イ ナ ブ ル 開 発 は 、 そ れ が は っ き り した 形 で 計 画 され た と き の み 、 実 現 され る 。 市
場 の 力 や 、 無 自覚 的 で 定 か な 方 向 性 を持 た な い よ う な 事 象 は 、 サ ス テ イ ナ ビ リ テ イ を危 う
くす る 深 刻 な 問 題 を解 決 す る こ と は で き な い 。
広 範 囲 の 問 題 を 一 括 して 検 討 す る 、 問 題 の 優 先 順 位 に つ い て は っ き り した 決 定 を下 す 、
同 時 に既 定 の 課 題 を達 成 す るた め に個 々 の 政 策 対 象 と結 び 付 け て 管 理 とイ ンセ ン テ ィ ブ 、
そ して 動 機 づ け の 長 期 的 な 枠 組 み を構 築 す る--ア
ジ ェ ン ダ21は
、そ う した 取 組 み に つ い
て 総 合 的 な 手 法 を定 め て い る。
サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 マ ネ ジ メ ン トの 手 法 は 、 政 策 統 合 に 必 要 な 土 台 を 整 え る た め に 、 環
境 、 社 会 、 そ して 経 済 的 問 題 を 取 り扱 う 一 連 の 政 策 手 段 を必 要 と して い る 。 多 様 な 政 策 手
段 が あ る--環
境 、 社 会 、 経 済 に 関 す る都 市 マ ネ ジ メ ン トの課 題 を 別 々 に 扱 う政 策 手 段 が
あ る 一 方 、 これ らの 課 題 を結 び 付 け よ う とす る 政 策 手 段 が あ る。 本 章 で は 、 都 市 マ ネ ジ メ
ン ト手 法 に 利 用 で き る環 境 政策 手 段 に焦 点 を 合 わ せ て い る 。
5つ の 主 な 環 境 政 策 手 段 群 が 提 唱 され て い る 。協 力 と連 携 、政 策 統 合 、市 場 メ カ ニ ズ ム 、
情 報 マ ネ ジ メ ン ト、 そ して 評 価 と モ ニ タ リ ング で あ る 。 そ れ ぞ れ の 政 策 手 段 は 、 サ ス テ イ
ナ ブ ル 都 市 マ ネ ジ メ ン トの統 合 シ ス テ ム に とっ て 基 本 的 な 構 成 要 件 と考 え られ て い る 。 こ
れ ら の 政 策 手 段 を ど う使 い 、組 み 合 わ せ る か に定 石 は な い 。 す な わ ち 、 サ ス テ イ ナ ビ リテ
ィ に 歩 を 進 め る の に は い く通 り もの 道 筋 が あ る 。加 盟 各 国 、各 都 市 に よ っ て よ っ て 制 度 面 、
環 境 面 の 文 脈 が 違 って お り、 そ れ ぞ れ に独 自の ア プ ロー チ が 必 要 と な る 。 最 終 的 な 目標 は
統 合 され た 都 市 マ ネ ジ メ ン ト手 法 を確 立 す る こ と に あ るが 、 都 市 マ ネ ジ メ ン ト手 法 を構 成
す る 要 件 は 、 い ろ い ろ な 利 害 関 係 者 の 相 互 の や り取 り を通 じて よ り良 い も の に 改 善 され て
い く もので あ る。
これ ら の 政 策 手 段 の 取 り扱 い と利 用 を通 じて 、 現 在 欧 州 域 内 で 行 わ れ て い る の に 比 べ て
も っ と 広 く、 積 極 的 な 政 府 の 、特 に 地 方 政 府 の 役 割 評 価 を行 う こ とが 必 要 と な る。 サ ス テ
イ ナ ビ リ テ ィ ・マ ネ ジ メ ン トは 、 本 質 的 に は 都 市 の ガ バ ナ ン ス(統 治)に
影 響 を及 ぼ す 政
治 的 な 取 組 み で あ る 。 この 報 告 書 で 提 唱 さ れ て い る 政 策 手 段 は 、 思 惑 に基 づ く 同 業 者 仲 間
の 取 引 や マ ー ケ ッ トの 動 き を修 正 し、 市 場 外 か ら設 定 した サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ 目標 の 範 囲
にそ れ ら の 動 を 制 限 し よ う とす る もの で あ る 。 これ ら の 政 策 手 段 を 取 り入 れ る こ と に よ っ
て 、 サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ の た め の 都 市 政 策 形 成 は 、 恐 ら く これ ま で 一 般 的 に 認 識 さ れ て い
た も の よ り も は る か に広 い範 囲 を対 象 と し、 強 力 か つ 野 心 的 な も の と な る だ ろ う 。
も しひ とび とが 啓 発 され 、 自分 た ち の 選 択 の 結 果 に つ い て 正 確 な 情 報 提 供 が な され るな
らば 、 民 主 的 選 択 の 政 治 プ ロセ ス を 踏 む こ と に よ っ て 、 サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ 目標 とそ れ を
達 成 す る た め の 手 段 を 合 法 化 す る こ と が で き る。 サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ を危 う くす る 多 く の
問 題 は 、 ひ と び と が 自 分 た ち の 自 由 を 制 約 す る こ と を 受 容 す る と き に の み 、 唯 一解 決 可 能
で あ る 。 これ らの 制 約 は 、影 響 を 受 け る ひ とび とが そ の 選 択 をす る か 、 少 な く て も容 認 す
る と き の み 受 け 入 れ られ る 。 も っ と福 利 厚 生 を 高 め る た め には ひ と りひ と りが 自分 た ち の
行 動 に 集 団 的 制 約 を課 す こ と を 自 主 的 に 受 け 入 れ る 、 そ の こ と を 通 して 市 民 社 会 が 形 成 さ
る--と
考 える政 治学 の 「
社 会 契 約 」 モ デ ル に は 、 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 マ ネ ジ メ ン トの 解
法 が 含 ま れ て い る か も しれ な い。
〈 政策 統 合 の原則 〉
第5次
環 境 行 動 計 画 で 中 心 的 な 要 件 とな っ て い る 連 携 と統 合 は 、 責 任 の シ ェ ア(分 か ち
合 い)と
い う 寛 容 な 考 え 方 と補 完 性 の 原 則 を 結 び つ け る こ と に よ っ て 達 成 さ れ る 。 専 門 家
グ ル ー プ は 、 欧 州 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 報 告 書 で 提 起 さ れ た 提 言 に つ い て 詳 述 し、 政 治 的 、
組 織 的 な 取 組 み で 水 平/垂
直 的 統 合 を促 進 す る よ う に 求 め て い る 。
水 平 的 統 合 は 、 サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ の 社 会 的 、 環 境 的 、 あ る い は 経 済 的 な 統 合 を 通 じて
シナ ジ ー(そ れ ぞ れ の 働 き が 全 体 に よ い 効 果 を 生 む)を 実 現 す る た め に 、 す な わ ち サ ス テ
イ ナ ビ リテ ィへ の 取 組 み を刺 激 す る た め に必 要 で あ る。 水 平 的 統 合 で は 、 都 市 間 、 地 域 と
国 の 機 関 、 そ してEU内--そ
れ ぞ れ の 政 策 分 野 間 で の 統 合 が 必 要 で あ る 。 政策 分 野 間 、
あ る い は セ ク タ ー 間 で 統 合 に 向 か う動 き は既 に始 ま っ て い る 。 しか し、 専 門 領 域 を 超 え て
働 く専 門 家 の 能 力 と経 験 を さ ら に 開 発 し、 自分 の 専 門 以 外 の 政 策 分 野 や セ ク タ ー に つ い て
理 解 を深 め る こ とが 必 要 で あ る 。 そ れ ゆ え に 、 専 門 教 育 と トレー ニ ン グ ・プ ロ グ ラ ム は 、
分 野 を超 え て 働 く仕 事 が 求 め る 、 も っ と広 義 の 内 容 を提 供 で き る よ う に手 直 し され な け れ
ば な らな い。
EUと
加 盟 国 、 そ して 地 域 、 地 方 政 府 の あ ら ゆ る レベ ル を縦 断 して 垂 直 統 合 す る こ とが
同 じよ う に 大 事 で あ る 。 垂 直 統 合 に よ っ て 政 策 と行 動 を しっ か り結 び 付 け る こ と が で き れ
ば 、 地 方 レベ ル で のサ ス テ イ ナ ビ リテ ィ の 展 開 が 加 盟 国 政府 やEUに
よ る決 定や 行動 によ
っ て 弱 体 化 さ れ る よ うな こ と が な くな る 。
〈エ コ システム 思想 の原則 〉
エ コ シ ス テ ム 思 想 は 、 都 市 と い う も の は 絶 え ざ る 変 化 と発 展 の さ な か に あ る 複 雑 系 で あ
る 、 と い う考 え 方 を 力説 して い る 。 エ コ シ ス テ ム 思 想 は 、 ひ とび とが 能 力 を 発 揮 す る 余 地
や 多 様 性 を ど う展 開 す る か な ど の ソ フ ト面 と同 じよ う に 、 エ ネ ル ギ ー 、 自然 資 源 、 廃棄 物
の 発 生 な どの 物 質 面 も流 れ の あ る もの(フ ロ ー)と し て 、 あ る い は 連 鎖 した もの と して 捉 え
て い る 。 そ う した 流 れ や 連 鎖 を維 持 し、 再 生 し、 刺 激 し、 そ して 閉 鎖 す る こ と が サ ス テ イ
ナ ブ ル 開 発 に つ な が る 。 交 通 や 輸 送 規 制 な ど は そ の ひ とつ の事 例 で あ り、 エ コ シス テ ム 思
想 の 大 切 な 要 件 とな っ て い る 。 エ コ シ ス テ ム 思 想 の 物 質 的 な側 面 を 分 析 す る と 、 都 市 サ ス
テ イ ナ ビ リテ ィ の 基 本 原 則 で あ る2元
的 ネ ッ トワー ク 対 応 に 帰 着 す る 。
2元 的 ネ ッ トワ ー ク対 応 は 、 水 系 の 循 環 的 ネ ッ トワ ー ク と社 会 基 盤 系 ネ ッ トワー ク の ふ
た 通 り の ネ ッ トワ ー ク か ら成 り立 っ て お り、 エ コ シ ス テ ム 思 想 の 諸 原 則 に 立 脚 し、 地 域 及
び 地 方 で の 都 市 開 発 の枠 組 み を備 え て い る 。 これ は 生 態 学 的 に触 発 さ れ た 計 画 策 定 法 で あ
り、 社 会 基 盤 系 ネ ッ トワー ク に つ い て は 、 ビ ジ ネ スや オ フ ィ ス 仕 事 、 大 衆 レ ジ ャー 、 農 業
な ど高 度 に ダ イ ナ ミ ッ クな 用 途 に 対 して 政 策 誘 導 効 果 を発 揮 す る と考 え られ て い る 。一 方 、
水 系 ネ ッ トワ ー ク の 場 合 は 、 水 の 回 収 や 自 然 の の ん び り した レ ク レー シ ョ ン な ど低 度 の ダ
イ ナ ミ ッ クな 用 途 に影 響 を 及 ぼ す 。 水 系 ネ ッ トワー ク は 生 態 学 的 な 枠 組 み に発 展 す る 余 地
が あ る の に対 し 、社 会 基 盤 系 ネ ッ トワー ク は 交 通 を 中心 と して 都 市 の ノー ド(接 続 中 継 点)
を決 め 、 居 住 区 の 境 界 を定 め る こ と が で き る 。2系 の ネ ッ トワ ー ク を 結 び 付 け る こ と に よ
っ て 都 市 開発 を誘 導 し、 い ろ い ろ な 都 市 的 用 途 の 立 地 を確 定 す る た め の 枠 組 み を 得 る こ と
が でき る。
〈 協 力 と連 携 の 原 則 〉
い ろ い ろ な 階 層 と組 織
そ して 利 害 関 係 者 間 の 協 力 と連 携 は 、 サ ス テ イ ナ ブル へ の 取 組
み に と っ て 重 要 な 要 件 と な っ て い る 。 協 力 と 連 携 によ っ て 、 そ れ ぞ れ の 組 織 や 機 関 が 広 範
囲 の 市 民 の 利 益 か らか け離 れ た と ころ で 自分 た ち だ け の ア ジ ェ ン ダ を追 求 しが ち にな る の
を 抑 え る こ と に な る 。 第5次 環 境 行 動 計 画 が 提 起 した よ う に 、 責 任 の シ ェ ア の 原 則 に 沿 っ
て 幅 広 い活 動 主 体 と機 関 が 共 同 行 動 を起 こす と き の み 、大 方 の 問 題 は 解 決 し う る の で あ る 。
サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 プ ロ ジ ェ ク トは 、 「
実 践 に学 ぶ 」 こ と の 大 切 さ を強 調 して い る 。意 思
決 定 や マ ネ ジ メ ン トに参 加 す る こ と は 、 組 織 や 個 々 人 が お 互 い に 向 上 し合 う プ ロセ ス に 携
わ る と い う こ と を 意 味 して い る 。 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 マ ネ ジ メ ン トを学 び の プ ロ セ ス と考
え れ ば 、 サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ に向 け て 最 初 の 一 歩 を踏 み 出 した と き の 主 張 の 正 しさ を 補 強
し、 実 験 の 大 事 さ を際 立 た せ る こ と に もな る 。 都 市 同 士 が 経 験 を シ ェ ア す る こ とを 通 して
多 く の こ とを 学 ぶ こ と が で き る。
この 報 告 書 で は 特 に 、2つ
の領 域 の 連 携 を奨 励 して い る 。 第1は 地 方 自 治体 の 運 営 に焦
点 が あ る 。 そ れ に は 専 門 教 育 や トレ ー ニ ン グ、 専 門 領 域 を超 え て 働 く こ と 、 パ ー トナ ー シ
ッ プ や ネ ッ トワ ー クな どが 含 まれ て い る 。 パ ー トナ ー シ ッ プ と ネ ッ トワー ク に は 、 都 市 と
そ の ほ か の ネ ッ トワー ク だ け で は な く、 官 民 の パ ー トナ ー シ ッ プ や 非 政 府 組 織 の 参 画 が 含
まれ て い る 。 第2の 分 野 は 、 地 方 自 治 体 と コ ミュ ニ テ ィ の 関 係 に 焦 点 が あ る 。 コ ミ ュ ニ テ
ィ協 議 と 参 加 、 コ ミ ュ ニ テ ィ啓 発 の た め の 革 新 的 な メ カ ニ ズ ム 、 そ して 問 題 の 認 知 度 を 向
上 さ せ る こ とな どが 含 まれ て い る 。 連 携 の 形 が い か な る も の で あ れ 、 従 来 か らの 働 き 方 に
変 革 が 求 め られ る し、 そ れ まで の や り方 を 改 め る 革 新 的 な ア プ ロー チ を しな けれ ば な らな
くな る 、 と い う こ と を 意 味 して い る 。
カ ギ とな る 目標 は 、 連 携 とパ ー トナ ー シ ッ プ が は じ ま る 条 件 を創 り 出す こ と で あ る 。 こ
の こ と は 、 連 携 が 活 動 主 体 の 間 の 理 解 と責 任 感 を 増 進 し 、 活 動 主 体 間 の 階 層 化 よ り も ヨ コ
並 び の 関 係 を強 化 す る こ と につ な が る と い う事 実 に 加 え 、 上 記 の 理 由 の た め に も大 切 な の
で あ る。
〈 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 マ ネ ジ メ ン ト〉
これ ま で に述 べ て き た 諸 原 則 に 示 した が 、 都 市 マ ネ ジ メ ン トの 総 体 的 な 取 組 み に つ い て
は 本 報 告 書 の第3章
で 検 討 して い る 。 そ こ で は サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ と の 関 係 の 中で 都 市 の
役割 を 問 題 に し、 ワ ンセ ッ トの 政 策 選 択 の 原 則 を 示 して い る 。 そ れ ぞ れ の 地 方 の 状 況 の 中
で サ ス テ イ ナ ビ リテ ィへ の 取 組 み をす る と き に、 都 市 が そ れ ぞ れ の 好 み に 応 じて 使 え る 政
策 メ カ ニ ズ ム と手 段 を提 案 して い る 。 同 時 に これ らの 原 則 と 取 組 み は 、 都 市 環 境 マ ネ ジ メ
ン トに 対 して これ ま で や られ て き た よ り も も っ と戦 略 的 で 統 合 され た 参 加 型 問 題 解 決 法 を
提 言 して い る 。
第3章 が 問 題 に して い る よ う に 、 サ ス テ イ ナ ブ ル 開 発 は 環 境 保 護 よ り もは る か に 広 い 概
念 で あ る 。 サ ス テ イ ナ ブ ル 開 発 は 、 経 済 、 社 会 、 文 化 の 領 域 を含 み 、 現 在 生 き て い る ひ と
び と と同 時 に 、 世 代 間 で の 公 平 の 概 念 を 包 摂 して い る 。 都 市 の サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ へ の 挑
戦 は 、 都 市 そ れ 自体 が 多 く の潜 在 的 な 問 題 解 決 法 を も っ て い る こ と を 認識 しな が ら、 都 市
が 直 面 して い る 問 題 、都 市 が 引 き起 こ す 問 題 の 双 方 を 解 決 す る こ とで あ る 。市 当 局 幹 部 は 、
地 方 、 地 域 、 そ して 地 球 規 模 の 自 然 シ ス テ ム に配 慮 し、 問 題 をほ か の 地 域 や 次 世 代 に転 化
して し ま う よ うな こ と は せ ず に 、 ど こか 可 能 な ロ ー カ ル レベ ル で 問 題 を解 決 しな が ら 、 都
市 住 民 の 社 会 的 、 経 済 的 、 文 化 的 必 要 に応 え る よ う に しな け れ ば な らな い 。
都 市 の サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ に エ コ シ ス テ ム の 考 え 方 で ア プ ロー チ す る と き 、 組 織 マ ネ ジ
メ ン トの あ り方 と か か わ りが 生 ず る。 そ の こ と は ま た 、 問 題 を総 体 的 に 取 り扱 う こ と の で
き る 組 織 形 態 や 行 政 シス テ ム へ の 見 直 し を 意 味 して い る 。 そ れ ゆ え に必 要 な こ と は 、 サ ス
テ イ ナ ブ ル 開 発 を 追 求 す る 際 に 最 も適 した 問 題 解 決 法 を 誘 導 す る助 け とな る 、 核 心 的 な 組
織 原 理 の 定 義 で あ る 。 エ コ シ ス テ ム の 比 喩 的 表 現 、 サ ス テ イ ナ ブ ル 開 発 の 目標 値 な ど を 引
き 合 い に 出 しな が ら、 統 合 や 連 携 につ いて の 、 あ る い は 物 事 の バ ラ ン ス が 取 れ て い る こ と
や 補 完 性 、 そ して シナ ジ ー な ど に つ い て の 諸 原 則 を提 唱 して い る 。
第3章
で は 、 地 方 の 環 境 政 策 を 形 成 し、 統 合 し、 実 施 す る た め の 一連 の 政 策 手 段 に つ い
て 熟 考 して い る 。 市 全 域 を 対 象 と す る 政 策 の フ レー ム ワ ー ク と行 動 計 画 の 枠 内 で こ れ ら の
政 策 手 段 を採 用 し、 そ れ を 通 じ て サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 マ ネ ジ メ ン トの 円滑 な 取 組 み を す る
こ と に な る 。 そ の 際 、 政 策 目標 や 責 務 、 行 動 日程 を明 記 して い る 環 境 憲 章 や 戦 略 に し た が
っ て 政 策 を 遂 行 す る こ と にな る 。 政 策 手 段 の 第2群 は 、 連 携 とパ ー トナ ー シ ッ プ に か か わ
っ て い る。 政 策 手 段 の 第3群
は 、 サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ の 要 請 に沿 う よ う に 市 場 メ カ ニ ズ ム
や 価 格 指 標 を 制 御 す る こ と に 関 係 して い る。 環 境 問題 の 取 組 み に 関 連 して 考 え 出 さ れ た 既
存 の 政 策 手 段 を 再 評 価 し、 経 済 、 文 化 、社 会 の サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ 領 域 も取 り扱 え る よ う
に 拡 充 す る こ とが 必 要 とな る 。
サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ の 達 成 度 は 、 指 標 や 目標 値 を 使 い な が ら評 価 す る こ とが で き る 。 指
標 は 多 く の こ と を提 供 して くれ る が 、 そ の 使 い方 は 簡 単 で は な い。 た とえ ば 、 測 定 の 容 易
さ と 政 策 の 重 要 性 の 間 に は 緊 張 関 係 が あ る 。 これ まで の と ころ 職 場 で サ ス テ イ ナ ビ リ テ ィ
を示 す 指 標 が 重 要 視 され て きた が 、 物 理 的 な サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ と社 会 福 祉 を 調 和 さ せ る
た め に は 、 も っ と サ ス テ イ ナ ブ ル な ライ フ ス タ イ ル の 選 択 、 そ れ へ の 順 応 性 を 示 す 指 標 が
大 切 と な って く る 。
都 市 は 政 治 的 な 取 組 み を 通 じて 政 治 及 び 市 民 の 支 持 を 取 り付 け 、 既 に 紹 介 した 手 法 を 取
り入 れ る こ と にな る。 民 主 主 義 と新 し い 形 の 市 民 参 加 の 重 要 性 、 パ ー トナ ー シ ッ プ と 多 様
性 、 そ して 実 験 の 必 要 性 に つ いて 特 に留 意 す べ き で あ る 。
本 報 告 書 は 、 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 マ ネ ジ メ ン トを 、 市 全 域 を対 象 に 戦 略 展 開 す る こ と を
強 く提 唱 して い る 。 しか し 、 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 プ ロ ジ ェ ク トで は 、 一 連 の 重 要 政 策 分 野
で も この や り方 を踏 襲 す る こ と を検 討 して い る 。 最 終 的 に は 、 政 策 分 野 自体 の 横 断 的 統 合
を 円 滑 に進 め る こ とが 目標 に な らな け れ ば な らな い 。 本 報 告 書 で 優 先 順 位 の 高 い も の と し
て 選 ば れ た 政 策 分 野 は 、 自 然 資 源 の マ ネ ジ メ ン ト、社 会 経 済 問題 、 ア ク セ シ ビ リテ ィ(利
用 可 能 な こ と)、 そ して 空 間 計 画 で あ り、 そ れぞ れ 第4、5、6、7章
で扱 って い る。
〈 自然 資 源 の サ ス テ イ ナ ブ ル ・マ ネ ジ メ ン ト〉
第4章
で 扱 っ て い る よ う に 、 自然 シ ス テ ム は 資源 と 廃棄 物 を 内 部 的 に 循 環 させ る こ と に
よ っ て 均 衡 が 維 持 され て い る と考 え られ て い る。 都 市 シ ス テ ム もそ れ に な ぞ られ る 。 自然
シ ス テ ム と都 市 シ ス テ ム の 機 能 の 違 い は 、 都 市 シ ス テ ム が 自 然 資 源 や エ ネ ル ギ ー を都 市 に
取 り入 れ 、 廃 棄 物 や 汚 染 物 質 を 都 市 周 辺 地 域 に持 ち 出 す と い うや り方 に依 存 して い る こ と
で ある。 都市 は、 エネ ル ギー 供給 で 自然資 源が経 済的 に使わ れ、使 わ れな くなった 資源 が
再 利 用 さ れ 、 リサ イ ク ル され 、 循 環 過 程 に 再 投 入 され る よ う に加 工 さ れ る--そ
う した 閉
鎖 型 シス テ ム と い うよ りは 、 む し ろ 高 度 に 、 他 に 依 存 型 の 開 放 型 シ ス テ ム と な っ て い る 。
都 市 は 、 自然 資 源 や エ ネ ル ギ ー の 確 保 、 あ る い は 廃 棄 物 の処 分 で 周 辺 地 域 に依 存 し、 問 題
を 押 し付 け て い る 。 い ず れ 社 会 的 、 経 済 的 、 環 境 的 に 重 大 な 問題 に つ な が る 自然 資 源 の 浪
費 、 そ して 公 害 と環 境 の 劣 化 は 、 都 市 シ ス テ ム の み な らず 農 村 部 の ひ と び と に も影 響 を 及
して い る 。 も っ とサ ス テ イ ナ ブ ル に 都 市 シス テ ム を機 能 さ せ る た め に は 、 自然 シ ス テ ム が
循 環 型 マ ネ ジ メ ン トに つ いて 教 え る と こ ろ に 学 び 、 そ れ を 活 用 す る 都 市 マ ネ ジ メ ン トへ の
取 組 み が 必 要 とな る 。
自然 資 源 、 エ ネ ル ギ ー 、 廃 棄 物 の 流 れ を 閉 鎖 型 に す る た め の 一 連 の 取 組 み は 、 都 市 内 部
で 行 わ れ な け れ ば な ら な い 。 そ う し た 取 組 み に は 、 以 下 の 課 題 が あ る。 す な わ ち 、 自 然 資
源 、 特 に再 生 不 可 能 な 、 あ る い は 再 生 に時 間 の か か る 自 然 資 源 の 消 費 を 最 小 限 にす る こ と
の ほ か 、 ど こか で き る と こ ろ で 再 利 用 か リサ イ ク ル を して 廃 棄 物 の 排 出 を で き る 限 り少 な
くす る こ と 、 大 気 や 土 壌 、 水 も汚 染 を最 小 限 にす る こ と 、 都 市 で 自然 地 域 の 占 め る 割 合 や
生 物 多 様 性 な ど を 増 大 さ せ る こ と--な
どで あ る 。 これ ら の 課 題 は 小 規 模 レベ ル で 達 成 す
る こ との ほ うが お うお う に して 簡 単 で あ る 。 よ り強 化 さ れ た サ ス テ イ ナ ブ ル 政 策 を 都 市 シ
ス テ ム に導 入 す る う え で 、 地 方 の 生 態 学 的 循 環 シ ス テ ム が 理 想 的 な もの と な る の もそ の た
め で あ る 。 しか し、 ど こ で 循 環 シス テ ム を 閉 鎖 させ る の が 理 想 か 、 そ の 適 正 レ ベ ル に つ い
て は 決 ま っ た も の はな く 、 状 況 に応 じて 近 隣 レベ ル 、 都 市 あ る い は 地 域 レベ ル で 考 え る こ
と に な る。
自 然 資 源 、 エ ネ ル ギ ー 、 そ して 廃 棄 物 の 問 題 は 、 密接 に 関 係 し あ っ て い る 。 都 市 は エ ネ
ル ギ ー が 高 度 に集 中 して い る と こ ろ で あ り、 エ ネ ル ギ ー が 都 市 シ ス テ ム を機 能 させ る の に
ます ます 重 要 な 役 割 を 果 た す よ う に な っ て い る 。消 費 さ れ る エ ネ ル ギ ー が 大 き くな る ほ ど、
エ ネ ル ギ ー 生 産 を 支 え る の に必 要 な 自然 資 源 に 対 す る ニ ー ズ が 大 き くな る 。 同 様 に 、 自 然
資 源 や エ ネ ル ギ ー の 消 費 量 が 高 まれ ば 、 そ の 分 、 廃 棄 物 の 蓄 積 も多 くな る 。 こ う した 相 互
関 係 の ゆ え に、 幾 つ か の 関 連 した 政 策 を組 み 合 わ せ る こ と に よ っ て 効 力増 強 効 果 が 発 揮 さ
れ る 、 と い う考 え 方 に は 説 得 力 が あ る 。 した が っ て 政 策 の 組 み 合 わ せ に よ っ て 、 あ る 特 定
の 問 題 を解 決 す る の み な らず 、ほか の もっ と多 く の 問 題 を 同 時 に 解 決 で き る か も しれ な い 。
大 気 に つ い て の サ ス テ イ ナ ブル ・マ ネ ジ メ ン の 最 終 目標 は 、 きれ いで 十 分 な 量 の 空 気 を
確 保 す る こ と で あ る 。 土 壌 や 動 植 物 群 に 関 して は 、 一 般 的 に は 、 自然 域 の 、 あ る い は 人 工
の エ コ シ ス テ ム 域 の 割 合 を都 市 域 内 で 増 や す こ とが 目標 とな る。 水 につ い て の サ ス テ イ ナ
ブ ル ・マ ネ ジ メ ン トの 原 則 は 、 水 保 全 と、 水 に 関 連 した 自然 シス テ ム の働 き へ の 影 響 を 最
小 限 にす る こ と--な
ど に 関 係 して い る 。 サ ス テ イ ナ ブ ル な エ ネ ル ギ ー ・マ ネ ジ メ ン トの
基 本 的 な 目標 は 、 エ ネ ル ギ ー の 保 全 に あ る 。 エ ネ ル ギ ー 保 全 の カ ギ は 、 ひ と りひ と りが 、
あ る い は 組 織 が ど う い う行 動 を と る か にか か って い る 。 し か し同 時 に 、 エ ネ ル ギ ー の 生 産
や 配 給 に も か か わ っ て い る 。 廃 棄 物 を エ ネ ル ギ ー 生 産 に活 用 す る い ろ い ろ な タ イ プ の 問 題
解 決 法 が あ る が 、 そ れ ら は 自然 資 源 を 保 全 し、 廃 棄 物 を 有 効 に使 う と い う2重 の 目的 に 寄
与 す る 。 しか し、 サ ス テ イ ナ ブル な 廃 棄 物 マ ネ ジ メ ン トの 究 極 の 目標 は 、 廃 棄 物 の排 出 量
を最 小 限 にす る こ とで あ る 。
教 育 や 情 報 提 供 、 そ して 実 践 の 提 示 な どを 通 じて ひ と び との 行 動 に影 響 力 を発 揮 す る こ
とが さ ら にサ ス テ イ ナ ブ ル な 都 市 シ ス テ ム を 達 成 す る 際 に 重 要 な 要 件 とな る 。EU、
加盟
国 、 地 域 、 地 方 政 府 は 、 そ の こ と を 心 に留 め て お くべ き で あ る。 ひ と び と の 行 動 に 影 響 力
を 発 揮 す る こ と と、 自 然 資 源 の サ ス テ イ ナ ブ ル ・マ ネ ジ メ ン トとの 関 係 は 、 と りわ け 明 瞭
で あ る 。 ひ とび とが ど う行 動 す る か が サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ の 水 準 に直 接 影 響 し、 ひ と び と
が 行 動 を 変 え た と き の 結 果 を明 快 か つ 簡 単 に 理 解 で き る と こ ろで も あ る 。
〈サ ス テ イ ナ ビ リ テ ィ の社 会 ・経 済 的 課 題 〉
第5章
で は 、 欧 州 で 、 あ る い は グ ロー バ ル 経 済 で 都 市 が 担 う 役 割 の 重 要 性 を 強 調 し、 社
会 経 済 的 問 題 を サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ と結 び つ け な が ら国 際 的 な 文 脈 の 中 に 欧 州 都 市 を位 置
付 けて いる。
欧 州 の 都 市 シ ス テ ム に お け る 人 口移 動 と経 済 の リス トラ ク チ ャ リ ン グ の 動 き は 、 都 市 に
い ろ い ろ な 影 響 を 及 ぼ して き た 。欧 州 単 一 市 場 政 策 を 通 じて の 経 済 統 合 の 大 き な 動 き 、中 ・
東 欧 の 発 展 、 そ して 新 加 盟 国 の 増 加 に よ るEUの
拡 大は 、経済活 動 、社 会 構造 、都 市環 境
に 計 り知 れ な い 影 響 を 与 え て き た 。
第5次
環 境 都 市 計 画 は 、 サ ス テ イ ナ ブ ル 開 発 を達 成 す る た め の経 済 施 策 の 活 用 に つ い て
言 及 し、5つ の 施 策 対 象 部 門 の う ち の ひ とつ と して 産 業 を 取 り上 げ て い る 。5.1節
で は、
こ の領 域 で 地 方 政 府 が ど う い う取 組 み が で き る か に つ い て の潜 在 的 可 能 性 を検 討 し て い る 。
地 方 経 済 を環 境 指 向 に 向 か わ せ る と い う こ と(greening)は
、新 し い形 の 取 組 み を 考 え 出す
だ け で は な く、 従 来 か らの 政 策 ア プ ロー チ に もサ ス テ イ ナ ビ リテ ィ の 目標 を 組 み 込 む こ と
を意 味 して い る 。
地 方 企 業 が も っ と環 境 指 向 にな るの を 都 市 が どの 程 度 ま で 支 援 で き る か は 、 市 場 経 済 の
動 き に大 き く制 約 さ れ る。 した が ってEUや
加 盟 国 は 、 企 業 が も っ と環 境 に や さ しい や り
方 で 操 業 して も利 益 を稼 げ る 条 件 を創 り出 さ な け れ ば い け な い 。 こ う した こ と は 、 積 極 的
な 経 済 運 営 に よ っ て 促 進 され る こ とが 大 切 で あ る 。 サ ス テ イ ナ ブ ル な 企 業 成 長 の た め の 取
組 み は 、 規 制 政 策 、 関 税 制 度 、 誘 導 策 、 製 品 規 格 、 そ して 長 期 の 投 資 制 度 な ど に よ っ て 前
進 させ る こ と が で き る だ ろ う。
地 域 や 地 方 自治 体 に 対 して は 、 環 境 施 策 を通 じて 雇 用 創 出す る方 法 を 考 案 し、 既 存 の ビ
ジ ネ ス が もっ と環 境 指 向 の や り方 をす る の を推 奨 し、 エ コ シ ス テ ム ・ア プ ロー チ の 産 業 に
よ っ て 取 っ て 代 わ られ る よ う に 支 援 す る こ と が 求 め られ て い る 。
第5次 環 境 行 動 計 画 に沿 っ て 地 方 労 働 市 場 に つ い て検 討 し、 コ ミ ュ ニ テ ィ依 拠 型 政 策 誘
導 の 対 象 域 を 吟 味 す る こ とな ど を通 じて 環 境 指 向 の 経 済 開 発 を社 会 の サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ
問 題 に 結 び つ け る--そ
5.2節
う した 取 組 み が 求 め られ て い る 。
で は 、 サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ の社 会 的 側 面 につ い て 扱 っ て い る 。 環 境 上 の 、 あ る
いは 社 会 的 な リ ス ク を 無 視 し、 物 質 的 な 富 の 蓄 積 に 専 心 す る こ と が 最 近 の 傾 向 に な っ て き
て い る 。 社 会 的 な 側 面 か ら は 、 貧 困 層 と裕 福 な 市 民 が 同 じ 程 度 に リス ク を 担 っ て い る か ど
うか が 大 切 な 問 題 とな る 。 基 本 的 な 問 題 は 、 リス ク 社 会(リ
ス ク の 被 り方 に格 差 が あ る社
会)が 階 級 社 会 に取 っ て 代 わ る の か 、 あ る い は リス ク社 会 が 現 在 の 階 級 社 会 に統 合 さ れ る
の か に あ る。 富 と リス ク の あ り様 は 、 加 盟 国 間 で 、 加 盟 国 の 地 域 ご と に 、 ま た 地 域 の 都 市
間 で 、 そ して 都 市 内 で も違 っ て い る 。
これ らの 傾 向 に対 峙 す る た め に は 、 経 済 シ ス テ ム の基 盤 と 同 時 に社 会 の 基 本 的 な 価 値 観
に変 化 を 起 こ さ な け れ ば な らな い 。 政 治 家 や 市 民 の 行 動 と ライ フス タ イ ル に 転 換 が 求 め ら
れ る よ う に な る 。将 来 世 代 の福 祉 も考 え な け れ ば な らな く な る 。す な わ ち 、コ ミ ュ ニ テ ィ、
所 有 権 、 責 任 と 市 民 参 加 な ど と の 関 係 に お い て 、 個 人 の 価 値 観 が 変 化 す る こ と が 必 要 とな
るだ ろ う 。
基 本 的 な サ ー ビ ス とア メ ニ テ ィ 、 教 育 と 訓 練 、 健 康 管 理 、 住 宅 と雇 用 に 関 す る権 利 を享
受 で き る こ と--そ
れ らが ひ と び と の福 祉 の 基 礎 と 、 平 等 と社 会 的統 合 を 向 上 させ る た め
の基盤 を形成 す る。
最 後 に 、 この 章 で は 、 経 済 的 か つ 社 会 的 サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ を 空 間 計 画 や 交 通 シ ス テ ム
に 関 連 した 問 題 か ら切 り離 して は 考 え る こ とが で き な い こ と を指 摘 して い る 。
〈 サ ス テ イ ナ ブ ル ・ア ク セ シ ビ リ テ ィ(利 用 可 能 な こ と)〉
都 市 の サ ス テ イ ナ ブ ル ・ア ク セ シ ビ リテ ィ を 達 成 す る こ と は 、 都 市 環 境 の 全 体 的 な 改 善
や 都 市 の 経 済 的 成 長 力 の維 持 に と っ て 大 事 な
一
歩 とな る 。
都 市 が ど う機 能 す る か 、 そ こ に お け る ア クセ シ ビ リテ ィ 一 般 の 重 要 性 と、 今 後 も交 通 量
の 突 出 した 増 大 が 続 く こ と に 関 連 し た 問 題 と が 第6章 で 検 討 さ れ て い る。 最 近 の 利 用 可 能
な 研 究 成 果 を 引 用 しな が ら 、 交 通 特 有 の 諸 問 題--交
通 渋 滞 や 安 全 性 、 そ して 交 通 関連 の
活 動 に よ っ て 占領 さ れ て い る 空 間 と 都 市 全 体 の 公 共 空 間 と の バ ラ ンス 問題--な
どとい っ
し ょ に、 そ れ に 関 連 した 環 境 問 題 、 健 康 関 連 問 題 、 そ して 社 会 問 題 な どが 再 検 討 され て い
る。
環 境 と交 通 の 課 題 を達 成 す るた め に は 、 交 通 と環 境 と空 間 計 画 を 結 ぶ 一 貫 した 取 組 み が
必 要 で あ る。 しか し どち らか と い え ば 、 十 分 に統 合 され た シ ス テ ム を もっ て い る都 市 は ほ
とん ど な い。 主 に この 分 野 で のサ ス テ イ ナ ビ リテ ィへ の 取 組 み は 、 当 面 、 特 に 自家 用 車 か
ら公 共 交 通 へ の 、 また そ れ ほ ど多 くは な い が 自転 車 や 徒 歩 へ の 、 モ ー ダ ル ・シ フ ト(交 通
手 段 の 変 更)を 促 す こ と で あ る 。 そ れ に よ っ て 道 路 交 通 量 とそ の 混 雑 を削 減 す る 。 これ ら
の 取 組 み は 大 切 で は あ る が 、 そ れ だ け で は サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ の 手 段 とは な らな い 。
サ ス テ イ ナ ブ ル な 都 市 ア クセ シ ビ リテ ィ を 達 成 す る た め には 、 単 に移 動 で は な くて ア ク
セ シ ビ リテ ィ の 改 善 に 狙 い を定 め た 政 策 に 沿 っ て サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ の 達 成 値 と指 標 を 開
発 す る こ と が 必 要 とな る 。 さ ら に は 目標 を 設 定 して モ ニ タ リ ング す る 。 ア ク セ シ ビ リテ ィ
と経 済 開 発 、 環 境 課 題 は 、 都 市 の 交 通 政 策 の 最 重 要 課 題 で あ る 。
白書 の 「
共 通 交 通 政 策 」、そ れ を受 け た 緑 書 「
公 正 に して 効 率 的 な 交 通 価 格 制 政 策 にむ け
て 」、そ して 緑 書 「
市 民 の交 通 網--欧
州 に お い て 公 共 交 通 の 可 能 性 を達 成 す る こ と 」な ど
の 発 行 に よ っ て 、 欧 州 レベ ル で は モ ビ リ テ ィ と交 通 手 段 の た め の 優 れ た 政 策 の枠 組 み が 確
立 され て き た 。EU、
加 盟 国 、 地 域 や 地 方 政 府 は い まや 、 エ ネ ル ギ ー 消 費 、 お よ び ク ル マ
移 動 に よ っ て 引 き 起 こ さ れ る環 境 面 や 社 会 的 な 影 響 を 最 小 限 に押 さ え 込 む 交 通 政 策 を展 開
しな け れ ば な らな い 。
交 通 政 策 を立 案 す る に あ た っ て は 、 あ らゆ る 環 境 課 題--た
と え ば 土 地 占有 、 騒 音 、 眺
望 妨 害 、 そ して 長 い 目 で は サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ の あ ら ゆ る 課 題 を 包 括 す る 目標 値 を 設 定 し
な け れ ば な らな い。 これ ら の 目標 値 は 、 評 価 と資 金 配 分 の メ カ ニ ズ ム に織 り込 む こ とが で
き る。
い ろ い ろ な 交 通 手 段 を 評 価 す る た め に は 、 環 境 へ の 影 響 を含 め て あ ら ゆ る利 益 対 費 用 を
効 果 的 に勘 定 す る 公 正 な シ ス テ ム が 必 要 で あ る 。 移 動 時 間 を最 小 にす る こ と を ね ら い とす
る 政 策 を 強 調 し続 け る よ りは 、む し ろ移 動 ニ ー ズ を減 らす た め の 政 策 の 展 開 が 肝 要 とな る。
自家 用 車 に対 し て 公 共 交 通 を優 先 す る 施 策 と の組 み 合 わ せ が な い 限 り、 公 共 交 通 に 投 資
して も問 題 解 決 に は つ な が らな い だ ろ う 。 交 通 手 段 の 間 で 競 争 す る よ りは 、 補 い 合 う よ う
に 仕 組 まれ た 統 川 型 マ ル チ モ ー ダ ル(多 様 な 交 通 手 段 を 利 用 で き る)都 市 交 通 シ ス テ ム が
必 要 であ る。
都 市 の 一 部 地 域 へ の ク ル マ の ア ク セ ス 規 制 を 含 むTDM(交
通 需 要 管 理 シ ス テ ム)や 規 制
色 の 強 い 駐 車 場 施 策 は 、 ク ル マ の 代 替 交 通 手 段 を 確 保 す る 施 策 と い っ し ょ に実 施 され な け
れ ば な らな い 。 さ もな け れ ば 、 これ らの 規 制 は ク ル マ で し か ア ク セ ス で き な い 地 域 に ビ ジ
ネ ス や 小 売 業 を 移 動 させ る だ け か も しれ な い 。
〈 空 間計画〉
空 間 計 画 、都 市 再 生 と都 市 文 化 遺 産 、レ ジ ャ ー と観 光 に つ て は 第7章
で 問 題 に して い る 。
空 間 計 画 制 度 は 、 都 市 全 域 対 象 の サ ス テ イ ナ ブ ル 開 発 政 策 を実 施 す る う え で 重 要 で あ る 。
都 市 の 土 地 利 用 政 策 とそ の 実 施 提 言 を 考 え る に あ た っ て 専 門 家 グ ル ー プ は 、 地 方 が 抱 え る
問 題 とそ の解 決 法 の多 様 を 理 解 して い る 。 特 に生 態 学 に 依 拠 した ア プ ロ ー チ と、 狭 い範 囲
で の 土 地 利 用 に こだ わ る こ とが な い よ う に す る こ と--そ
う した こ と に よ っ て 既 存 の 空 間
計 画 制 度 を 強 化 す る こ と を 求 め て い る 。 提 言 され た 問 題 解 決 法 は 、 あ らゆ る 都 市 の 置 か れ
た 状 況 下 で 採 用 で き る と考 え られ て い る 。た と え ば 歴 史 の あ る都 市 中 心 部 で も、郊 外 で も、
あ る い は 新 興 住 宅 地 で も よ い、
前 の 章 で 概 説 し た サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ の 幾 つ か の 原 則 と メ カ ニ ズ ム は 、 空 間 計 画 に既 に
含 ま れ て い る。 しか し政 策 や 実 践 面 で 、 サ ス テ イ ナ ビ リ テ ィ課 題 の 認 知 度 と優 先 度 の さ ら
な る 向 上 を達 成 す る た め に は 、(原則 と メ カ ニ ズ ム の)一 段 と 有 効 な 活 用 法 を 探 す 取 組 み が
必 要 で あ る 。 第7章
は 特 に 、 環 境 と空 間 計 画 の統 合 、 そ して 計 画 立 案 の 早 い 段 階 で 環 境 課
題 を 見 極 め られ る 方 法 、 そ して 都 市 マ ネ ジ メ ン ト分 野 で の 目標 値 と指 標 の活 用 、 改 良 され
た 形 で の 計 画 へ の 市 民 参 加 、さ ら に は 空 間 計 画 と ロー カ ル ア ジ ェ ン ダ21の
け る こ と--な
取 組 み を結 び 付
ど につ い て 検 討 して い る 。
都 市 レベ ル で 準 備 され た 空 間 計 画 が 地 域 や 国 の 環 境 政 策 の 枠 組 み に 収 ま る よ う に 、 加 盟
国 は 空 間 計画 の 首 尾 一 貫 し た フ レー ム ワ ー ク を 用 意 す る よ う に しな け れ ば な らな い 。 そ の
よ うな 全 体 を 覆 うよ う な 枠 組 み が な い と こ ろ で は 、 加 盟 国 は 、 市 当 局 が ロー カ ル な 解 決 策
を 考 え 出 す 機 会 を 増 や す こ と を 認 め る べ き で あ る。
計画 策定 は 、
必 ず し も環 境 負 荷 に 対 し て 開 発 利 益 を釣 り合 わ せ よ う とす る も の で は な い 。
む し ろ プ ラ ンナ ー は環 境 許 容 量 を 確 定 し 、そ れ が 侵 害 させ な い よ う に しな け れ ば な らな い 。
そ の こ と は 、 現 状 、 利 益 が いか な る もの で あ れ 、 あ る種 の 開 発 を 禁 止 す る こ と を意 味 す る
か も しれ な い 。 計 画 策 定 は 「
需 要 先 導 」 で あ る よ りは 、 「
供 給 制約 的」 で あるべ きで ある。
環 境 許 容 量 に基 づ くア プ ロ ー チ は 、 既 に幾 つ か の 加 盟 国 で 採 用 され て い る し、 さ ら に 取 組
み が 強 化 され る べ き で あ る 。
計 画 策 定 は 、 課 題 主 導 型 で あ る べ き で あ る 。 課 題 に従 っ て 戦 略 の 方 向 性 と、 環 境 の 質 、
経 済 成 長 、 社 会 進 歩 の 具 体 的 水 準 が 定 め られ な け れ ば な らな い 。 空 間 計 画 は 、 そ れ ら を通
して 所 期 の 環 境 の 状 態 を描 き 出 す べ き で あ る 。 計 画 に は 、 国 と地 方 発 の サ ス テ イ ナ ビ リテ
ィ に 関 す る 目標 値 が含 まれ るべ き で あ る 。 さ らに は 計 画 に 従 事 しな が ら問 題 が どの 程 度 の
も の か 、 また どの 程 度 解 決 した か 、 そ れ を測 定 す るた め の 指 標 を 考 え 出 す こ と が 重 要 で あ
る。
土 地 利 用 計 画 は 、 融 通 性 を 欠 く ゾ ー ニ ン グ 制 によ る 用 途 分 割 よ りは 、 用 途 混 合 を提 唱 す
べ き で あ る。 現 行 、 ゾー ニ ング 制 に 依 拠 す る 空 間 計 画 制 度 は 、 用 途 混 合 を で き る よ う に も
っ と柔 軟 性 の あ る もの に な る必 要 が あ る だ ろ う。 「
緑 の 建 築 」の 概 念 は 、あ らゆ る建 設 資 材
を 資 源 配 慮 型 用 途 にす る の み な らず 、 耐 久 性 、 転 用 可 能 性 、 用 途 の 多 様 性 を考 え た 建 物 設
計 をす る よ う に提 起 され 、 敷衍 され る べ き で あ る 。
移 動 の ニ ー ズ を削 減 す る た め に 空 間 計 画 は 、短 期 的 に成 果 を 得 られ る よ うな 財 政 措 置 や 、
ロ ー ド ・プ ラ イ シ ン グ 、 交 通 騒 音 対 策 な ど の 規 制 手 段 に よ っ て 補 完 され る こ と が必 要 で あ
る 。 新 し く行 わ れ る 開 発 は 都 市 全 体 の ス ト ック に 比 べ れ ば 相 対 的 に 小 さ な 部 分 の 話 な の に
対 し、 都 市 の 形 態 を 左 右 す る よ う な 計 画 制 度 は 長 期 的 な メ カ ニ ズ ム の 話 で あ る 。 し か し将
来 的 に は 、 もっ と ラ ジ カ ル な 手 法 の 展 開 が 必 要 と な る 。
重 工 業 及 び 公 益 産 業 の リス トラ ク チ ャ リ ン グ は 、 都 市 内 に 大 き な 空 き 地 、 し ば しば 汚 染
した 土 地 を残 し、 都 市 の 空 き 地 や 田 園 地 帯 で の 開 発 圧 力 を増 す こ と に つ な が っ て い る。 都
市 産 業 史 の どの 時 代 に 比 べ て も大 規 模 に余 っ て い る荒 廃 し汚 染 した 土 地 を、 確 実 に 再 利 用
す る た め に緊 急 な 対 応 が 必 要 で あ る 。 以 前 に 開 発 され た 土 地 や 、 あ る 場 合 に は 建 物 を リサ
イ ク リ ン グす る こ とそ れ 自体 が 、 資 源 再 利 用 のサ ス テ イ ナ ビ リテ ィ課 題 に合 致 す る と考 え
る こ と が で き る。 加 え て 土 地 の リサ イ ク リ ン グ は また 、 緑 地 帯 の 保 全 、 そ して 田 園 地 帯 や
空 き 地 、野 生 動 植 物 の 保 護 に 役 立 つ 可 能 性 が あ る 。
都 市 再 生 は 、 以 下 の 取 組 み に よ っ て サ ス テ イ ナ ブ ル 開 発 の 目標 を満 た す よ う に活 用 さ れ
な けれ ば な らな い 。 す な わ ち 、 住 民 参 加 を 通 じて 社 会 的 結 束 を強 化 す る、 一 貫 した エ コ シ
ス テ ム の 一 部 分 と して の 生 態 学 的 な 循 環 を 回 復 す る 、 生 態 学 的 な 価 値 を強 化 しそ れ を 保 存
す る 取 組 み をす る 、 そ して も っ とサ ス テ イ ナ ブ ル な 交 通 形 態 の実 施 を 通 じて 既 存 地 域 へ の
ア ク セ シ ビ リテ ィ を 改 善 す る--な
どであ る。
汚 染 土 壌 の浄 化 は 、 多 く の 都 市 再 生 プ ロ ジ ェ ク トで 重 要 な 課 題 と な っ て い る 。 浄 化 技 術
は 、 し ば し ば 費 用 の か さ む 作 業 で あ る。 汚 染 浄 化 を 、 補 助 金 を必 要 とす る 単 独 事 業 と 考 え
るべ き で は な い 。 む しろ 一 連 の 財 政 的 に 有 利 な 条 件 に恵 ま れ た 政 策 の 、そ の 一 部 分 と考 え
るべ き で あ る 。 一 連 の 対 応 策 と い うの は 、2つ の 要 件 に依 拠 して い る 。
・再 生 用 地 は 、都 市 再 生 事 業 が 予 定 さ れ て い る も っ と広 い 地 域 の 、そ の 文 脈 に 関 係 さ せ
て 検 討 しな け れ ば な らな い
・そ の 用 地 の 将 来 的 な 開 発 可 能 性 に つ いて は 、 現 状 の 否 定 的 な イ メー ジ に 引 き ず られ る
こ とな く 、都 市 全 体 の 文 脈 の 中 で 現 実 の 潜 在 的 可 能 性 を 反 映 させ て 検 討 され る べ き で あ
る。
上 記 の2つ の 要 件 は 、 よ り広 い 地 域 を対 象 と しつ つ 、 個 々 の 場 所 が もつ 潜 在 的 な 土 地 の
力 に 配 慮 す る よ う な 、 そ う した 開 発 ビ ジ ョ ン を必 要 と して い る 。 財 政 的 に 健 全 な 開 発 か ら
生 じ る 利 益 は 、 汚 染 浄 化 費 用 を 調 達 す る た め に生 か され る べ き で あ る 。 開 発 ビ ジ ョ ン に よ
り広 い地 域 が 含 まれ れ ば 、 用 地 間 で ク ロス 補 填(不 採 算 分 部 門 を利 益 の 出 て い る 部 門 が 補
填 す る)を 実 現 す る 可 能 性 が 拓 け る 。 これ らの 諸 原 則 は 、 サ ス テ イ ナ ブ ル 開 発 の よ り優 れ
た 枠 組 み を作 り上 げ る 際 に い ろ い ろ な 計 画 制 度 に織 り込 まれ る べ き で あ る 。
観 光 、 レジャー 、そ して 文化遺産 のため の計画策 定 は、経 済、社 会 、環境 、 文化 問題 を
扱 う 国 の ガ イ ドラ イ ン と 地 域 の 政 策 に統 合 さ れ る べ き で あ る 。 加 え て 、 観 光 、 レジ ャー 、
そ して 文 化 遺 産 の 問 題 は 、 空 間 計 画 の 取 組 み で 欠 く こ との で き な い も の で あ る 。
知 識 と価 値 と信 条 の 表 現 で あ る 文 化 遺 産 は 、 都 市 とそ の 住 民 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ を形 成
して い る 。 都 市 そ れ 自体 が 文 化 的 存 在 で あ り、 文 化 的 価 値 と い ろ い ろ な ライ フ ス タ イ ル を
伴 っ た い ろ い ろ な 場 所 の 集 合 体 で あ る 。 文 化 遺 産 は 、 歴 史 的 中 心 街 や 新 し い 中心 地 、 そ し
て 後 背 地 な どで--し
た が っ て 結 果 的 に は い ろ い ろ な 姿 で 、 多 く の 違 っ た 場 所 に 表 出 して
い る 。 均 衡 の 取 れ た 都 市 構 造 は 、 歴 史 的 中 心 街 や 新 しい 中 心 地 が そ れ ぞ れ の 中 心 地 の 役 割
を補 完 し合 い 、 建 築 的 、 伝 統 的価 値 を備 え た 既 存 の ま ち を 守 り、 維 持 す る よ うな 、 そ う し
た 混 合 用 途 制 を 支 援 す る よ う に 創 られ る べ き で あ る 。
文 化 、 環 境 政 策 で は 、 長 期 の 計 画 策 定 を 求 め られ る 。 プ ラ ン ナ ー と政 策 決 定 者 は 、 短 期
の 利 益 に と らわ れ て長 期 の 課 題 達 成 の 機 会 を減 らす よ う な 、 そ う した 計 画 手 続 き を 避 け る
べ きで ある。
レ ジ ャ ー と観 光 活 動 は 、 都 市 の 文 化 遺 産 の 質 に 大 き な 影 響 を 及 ぼ す こ と に な る 。 歴 史 の
あ る 都 市 や 特 別 な 建 築 物 を も つ 都 市 は 旅 行 者 に と っ て 魅 力 的 で 経 済 的 、 社 会 的 に望 ま し い
効 果 を もた らす 一 方 、 特 に社 会 や 環 境 面 で は(観 光 化 な ど が)都 市 の サ ス テ イ ナ ブ ル 開 発
に と っ て 脅 威 と も な る こ と もあ る 。
〈 サ ス テ イ ナ ブル 都 市 マ ネ ジ メ ン トへ の 手 が か り〉
欧 州 サ ス テ イ ナ ブル 都 市 報 告 書 は 、 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 を 経 過 途 上 の もの と して 捉 え て
い る。 本 報 告 書 は 政 策 内 容 と い っ し ょ に 政 策 メ カ ニ ズ ム も 重 視 して い る。 い ず れ も 、 地 方
か ら ほ か の 地 方 に 優 れ た 実 践 を移 転 す る と き に大 切 と な る 。
専 門 家 グ ル ー プ 内 部 で は 、 都 市 は 一連 の 状 況 に適 用 で き る ワ ンセ ッ トの 政 策 手 段 を 必 要
と して い る 複 雑 系 で あ る--と
い う 視 点 に立 ち 返 っ て そ の 再 評 価 を して き た 。 都 市 シス テ
ム は複 雑 で は あ る が 、 簡 潔 な 解 決 法 、 特 に 同 時 に ひ と つ 以 上 の 問 題 を解 決 す る 解 決 法 、 あ
る い は 幾 つ か を 結 びつ け て 使 え る 解 決 法 を必 要 と して い る 。
提 案 され た 解 決 法 に は 、 た とえ ば 、
・新 旧 の ア イ デ ア を総 合 す る こ と
・領 域 を超 え て 働 く こ と、 チ ー ム ワ ー ク 、 責 任 の 分 か ち 合 い、 そ して ネ ッ トワ ー ク-な ど を促 す こ と
・心 構 え や ライ フ ス タ イ ル を変 え る こ と の 重 要 性 に つ いて 認 識 す る こ と
・イ デ オ ロギ ー に よ る 規 準 に 基 づ い て な にか 特 別 な 手 法 を 取 り入 れ た り、 排 除 した りす
る の で は な く、 目標 を シ ェ ア す る と い う枠 組 み の 中 で む し ろ 、 と らわ れ の な い気 持 ち で
多 様 な 問 題 解 決 法 を備 え 、 実 験 に臨 む こ と
・欧 州 都 市 に望 まれ る 社 会 的 、 環 境 的 、 文 化 的 、 そ して 経 済 的 な 質 を達 成 す る た め に、
意 識 的 に 計 画 策 定 とマ ネ ジ メ ン トに 参 画 す る こ と
〈 次の段 階〉
リス ボ ン 会 議 の 後 、 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 プ ロ ジ ェ ク トの 次 の 段 階 で は 取組 み の 優 先 事 項
に つ い て 考 え る こ と にな る 。 そ れ に は 下 記 の もの が 含 ま れ る 。
・一 連 の メカ ニ ズ ム を 通 して 本 報 告 書 に示 され た 考 え 方 を総 合 し実 行 す る こ と
・ほ か の 成 果 や ネ ッ トワ ー ク プ ロ ジ ェ ク トを 継 続 す る こ と
・欧 州 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 キ ャ ン ペ ー ン を さ らに 展 開 す る こ と
・もっ とバ ラ ンス の取 れ た 評 価 リサ ー チ プ ロ グ ラム の 中 で 取 組 み を評 価 す る こ と
・南 、 お よ び 中 東 欧 に 焦 点 を 合 わ せ る こ と
・
欧 州 都 市 が ア ジ ェ ンダ21に
沿 っ て 途 上 国 の 都 市 との 連 携 を強 化 す る 方 法 を考 え る た め
に国 際 機 関 と対 話 す る こ と
サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 の 取 組 み は 、 創 造 性 と変 革 にか か わ っ て い る 。 政 策 手 法 と 同 時 に 政
策 の 中 身 が 問 わ れ て い る 。従 来 の 政 府 の 問 題 対 応 法 に対 す る 挑 戦 で あ り、新 し い 制 度 的 な 、
組 織 化 す る能 力 と連 携 が 求 め られ て い る。 サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ の 概 念 は ダ イ ナ ミ ッ ク で 進
化 し て い る もの で あ る 。 地 方 お よ び 地 球 規 模 で 環 境 に 対 す る 理 解 が もっ と洗 練 され 、 ひ と
び と に 共 有 され る よ う に な る の と あ わ せ て 、 時 を 超 え て 変 化 す る も の で あ る 。 この ダ イ ナ
ミ ッ ク な 取 組 み が サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 プ ロ ジ ェ ク トと して 洗 練 さ れ 、 強 化 さ れ る た め に 、
本 報 告 書 とそ の提 言 が 寄 与 す る こ とを 望 む 。
第5章
地域政策面か らの都市 アジ ェンダへ向けた提起1
II.5-1.1997年
『都 市 ア ジ ェ ン ダ へ 向 け て 』
『都 市 ア ジ ェ ン ダ へ 向 け て 』 の 背 景
「
欧 州 人 口の 約80%が
4-1](EC-Regional
都 市 や 町 に居 住 して い る 。欧 州 は最 も都 市 化 した 大 陸 で あ る」[図
Policy,1997b)。 しか し 、 予 算 配 分 で も欧 州 委 員 会 の体 制 の 面 で も、
都 市 は 軽 視 され て き た 。 予 算 配 分 で は 、EUレ
る 農 村 部2に 投 入 され て き た 。2000年
め る 動 き が1990年
ベ ル の 予 算 の 半 分 以 上 が 残 り2割
の居住 す
以 降 の予 算 を照準 に、都 市部 に相応 の予算 配 分 を求
代 後 半 に 盛 り上 が っ た3。 他 方 、 欧 州 委 員 会 の機 構 をみ て も、 都 市 政 策
を 専 門 に 担 当 す る 部 局 は ど こに も見 当 た らな い 。 都 市 と直 接 関 係 の 深 い は ず の 地 域 総 局 に
も都 市 を担 当 す る 部 局 は 設 け られ て な い4。都 市 対 策 は 、 地 域 、 雇 用 、 文 化 、環 境 な どの 各
総 局 が そ の 政 策 と の 関 連 で 都 市 部 を 取 り扱 っ て い る にす ぎ な い 。 地 域 総 局 を は じ め 、 複 数
の 政 策 総 局 が 連 携 して 、 都 市 に 対 して 統 合 的 に 介 入 す る こ と の必 要 性 と有 効 性 が 以 前 か ら
指 摘 され て い た 。
欧 州 委 員 会 は 地 域 総 局 を 中 核 に 、これ らの 動 き や 声 に呼 応 して1997年
へ 向 け て 』 を ま と め た 。 現 時 点 で 、EUレ
『
都 市 ア ジェ ンダ
ベ ル で 都 市 重 視 の 方 向 性 に 多 方 面 の 強 い支 持 を
取 り付 けた 最 も 重 み の あ る 公 式 報 告 書 で あ る 。
1997年
『都 市 ア ジ ェ ンダ へ 向 け て 』 は 本 文20頁
弱(付 録 を 入 れ て30頁
強)の
コ ンパ ク
トな 文 書 で 、 都 市 を 切 り 口 に欧 州 を 再 考 す る 視 点 を示 して い る。4章 構 成 で 、 第1章
題 を 明 確 に し 、 第2章
され 、 第3章
で 現 在EUレ
で課
ベ ル で 行 わ れ て い る諸 対 策 が 都 市 を 切 り 口 に 整 理 し直
で 将 来 の 方 向 性 を提 言 して い る[表5-1]。
第4章
で は 、1998年 の 都 市 フ ォ
ー ラム 開 催 を 予 告 し、 都 市 的 な 課 題 に 持 続 的 に 取 り組 む 姿 勢 を 示 し て い る 。 予 告 どお り
1998年 に ウ ィ ー ン で 都 市 フ ォー ラ ム が 開 か れ 、『EUに お け る サ ス テ イ ナ ブ ル な 都 市 発 展:
行 動 計 画 骨 子 』 が 採 択 され た 。 農 村 偏 重 を 正 して 都 市 に相 応 に配 慮 した 政 策 へ の 軌 道 修 正
の 動 き が 頂 点 に 達 した の が 、1997年
『都 市 ア ジ ェ ンダ へ 向 け て 』と1998年
行動 計画 骨子 、
ウ ィ ー ン 都 市 フ ォー ラ ム の 開催 だ っ た(Atkinson,2001,385)。
本 章 で は 、 都 市 を 照 準 と した統 合 的 政 策 ア プ ロー チ の 重 要 性 が 異 な る 政策 分 野 で ど の よ
う に 合 意 され た か を 、 『都 市 ア ジ ェ ン ダへ 向 け て 』 『
都 市 の 欧 州(一 般 向 け)』 『行 動 計 画 骨
子 』 の3つ の 政 策 文 書 を 中 心 に 、 課 題 抽 出 、 都 市 に 関 わ るEUレ
展 開 の3段
階 を追 っ て 考 察 し て い く[表3,4,5-1]。
ベ ル政策 の現 状 、今後 の
第1の 課 題 抽 出 に つ い て は 問 題 提 起
1 本 章 は 、文 献 、 ウ ェ ブサ イ トに よ る資 料 収 集 を 基 礎 と し、 地 域 政 策総 局R.ニ ー ス ラ ー 、ユ ー ロ シテ ィ
A.フ ァ ンデ フ ェ ンへ の ヒア リ ング 調査 で補 い 、考 察 した もの で あ る(岡 部 、1999b,115-118;2003b,148-175)。
2 フ ラン スが 中心 とな り、EUに 対 して農 業 対 策 を強 く求 め て きた。 市場 統 合 で 農 産 物 の 域 内 流 通 が 自由
化 され 、 そ の あ お りで 伝 統 的 農 業 が 打 撃 を 受 け る事 態 を 緩和 す るた め だ った 。
3 佐 無 田 は、 都 市 政 策 がEUレ ベ ル で 関心 を 集 め る よ う に な っ た背 景 と して 、 「ECの 政策 ・財 政補 助 が共
通 農 業 政 策 や 条 件 不 利 地 域 対 策 に偏 って い る こ とに 対す る都 市 側 の不 満 」が あ った こ と を あげ て い る(佐
無 田、2001,37)。
4 共 同体 主 導URBAN担
当官 は い る が 、他 の 政 策 分 野 と協 調 して都 市政 策 を展 開 して い くセ ク シ ョ ンは な
い。
と し て の 性 格 が 最 も強 い 『都 市 ア ジ ェ ン ダ へ 向 け て 』 の 第1章
を 中 心 に 、 第2のEUレ
ベ
ル 政 策 の 現 状 に つ い て は 、広 範 な 具 体 例 が 市 民 生 活 に即 して 記 述 され て い る 『
都 市 の欧州 』
を 中心 に 、 第3の
今 後 の 展 開 に つ い て は 、 『行 動 計 画 骨 子 』 を 中 心 に 、 以 下 検 討 して い く。
合 わ せ て 、 『都 市 ア ジ ェ ンダ へ 向 け て 』 か ら1年 後 の 『行 動 計 画 骨 子 』 ま で の プ ロ セ ス で 、
ユ ー ロ シテ ィ や 地 域 委 員 会 の ロ ビー 活 動 主 体 が 介 在 した た め に 、 ど の よ う な 展 開 が み られ
た か を 明 らか に す る 。
表5-1『
都 市 ア ジ ェ ン ダ へ 向 け て 』(EC-Regional
『都 市 ア ジ ェ ンダ へ 向 け て 』 第1章
『都 市 ア ジ ェ ン ダへ 向 け て 』第1章
Policy,1997b)よ
り筆 者 作 成 。
「都 市 を 取 り巻 く課 題 」
は 、 第1節
で 人 口動 態 と 経 済 動 向 の 基 本 的 デ ー タ を
押 さ え た 上 で 、 失 業 と社 会 的 排 除 、 都 市 シ ス テ ム の 不 均 衡 、 都 市 環 境 、 都 市 行 政 の4つ
の
項 目 を あ げ て 、 課 題 を 整 理 して い る 。
① 人 口動 態 と 経 済 動 向
欧 州 の都 市 部 は 多 様 な な か に も 、 共 通 の 問 題 を 抱 え て い る 。EU域
部 に居 住 して い る が 、そ の 内 訳 は25万
人 口1万 ∼5万 の 町 に40%で
内 人 口 の8割
人 以 上 の 都 市 圏 に 約20%、 次 の20%が
あ る[図5-1]。
欧 州 で1000万
は都 市
中規 模 都 市 、
人 規 模 の 人 口集 積 を持 つ の は 、
ロ ン ドン とパ リ の み で あ る 。 都 市 化 は鈍 化 傾 向 に あ る が 、 依 然 と して 進 行 中 で あ る 。 都 市
部 の 人 口が 増 加 して い る 主 な 理 由 は 、① 自 然 増 、② 農 村 部 か らの 流 入 、 ③ 移 民(と
くに第
三 国 か ら)の 流 入 、 で あ る 。1990年
外 か らの 流 入 が210万
人だっ
人 に と ど ま り、圧 倒 的 に 流 入 超 過 だ っ た 。1987∼91年
にお け
た の に対 して 、流 出 は100万
の 移 民 の 収 支 は 、EU域
る移 民 の 定 住 先 調 査 に よ る と、 総 移 民 の2/3が
産 業集積 度 の高 い都 市や各 国首 都 に向 か っ
て い た 。これ ら一 部 の大 都 市 で 人 口が 増 加 して いた の に対 して 、他 の 都 市 で は1980年
代に
人 口の 減 少 を 経 験 した 。 これ ら の 都 市 に お け る 人 口減 少 に は 、 伝 統 的 な 職 業 が 消 滅 して こ
れ に 代 わ る雇 用 が 創 出 さ れ な か っ た こ と に 加 え て 、 郊 外 化 が 関係 して い る 。 郊 外 に 対 し て
中 心 が 人 口 を失 っ て い る 都 市 例 と して 、ブ リュ ッセ ル 、ロ ン ド ン、パ リ 、リー ル 、ポ ル ト、
ハ ノー バ ー 、 トリ ノ 、 バ ル セ ロ ナ 、 オ ラ ン ダ ・ラ ン ドス タ ッ トの 諸 都 市 が あ げ られ る 。 住
ま い、 職 場 、 娯 楽 な ど が 互 い に 離 れ て し ま う こ と で 、 移 動 の 増 加 を 招 い て い る 。
経 済 動 向 につ いて は 、大 都 市 が 地 域 や 国 の 経 済 発 展 の 牽 引 役 とな っ て い る 。GDPが
成長
して い な が ら、雇 用 の 増 加 の な い 状 態 が 恒 常 化 して い る 点 が見 逃 せ な い。例 え ば 、 「ブ リュ
ッセ ル 、 ライ ン-ル ー ル 、 ロ ン ドンで は5-6%GDPが
成 長 して い る が 、 雇 用 創 出 は ±0.2%
で あ る 」。 雇 用 全 体 で み る と、サ ー ビス 分 野 で 、雇 用機 会 が 増 加 して い る 。 た だ し、サ ー ビ
ス 分 野 の う ち で も行 政 サ ー ビス 部 門 で の 増 加 が 目 立 つ 。 ブ リュ ッセ ル 、 ロ ー マ 、 ヘ ル シ ン
キ 、ス トッ ク ホ ル ム 、コ ペ ンハ ー ゲ ン で は 、そ の 傾 向 が顕 著 で あ る 。行 政 サ ー ビス 雇 用 は 、
サ ー ビス 分 野 の 雇 用 機 会 の1/3を
占め て い る 。 これ ら は 市 場 の 力 に よ っ て 創 出 され た 雇 用
機 会 で は な い 。 む し ろ 今 後 、 行 政 経 費 が 削 減 され る こ とを 考 慮 す れ ば 、 継 続 的 な 伸 び は 見
込 め な い 。 産 業 構 造 の 転 換 を 余 儀 な くさ れ て い る 重 工 業 都 市 や 、 後 背 地 の 農 業 を 経 済 基 盤
と して き た 都 市 が 困 難 な 問 題 に 直 面 して い る こ と も指 摘 して い る 。
人 口動 態 と 経 済 動 向 に 関 して 『都 市 ア ジ ェ ン ダ へ 向 け て 』 は 、 人 口の 量 的 な 増 加 や 成 長
よ り も 、人 口やGDPな
ど の 数 値 に 隠 さ れ た 質 的 な課 題 を 掘 り起 こそ う とす る 姿 勢 を 明 確 に
示 して い る 。 例 え ば 、 移 民 比 率 の 上 昇 や 偏 っ た 移 民 分 布 に注 目 しな が ら、 都 心 の 空 洞 化 な
ど都 市 部 にお け る 空 間 的 な 人 口分 布 に 言 及 して い る。 経 済 成 長 が 必 ず し も雇 用 を 生 み 出 さ
ず 、 市 民 生 活 を直 ち に は 豊 か に しな い現 実 や 、 サ ー ビ ス 分 野 の 雇 用 増 が 実 際 に は 公 的 分 野
に大 き く依 存 して い る こ と の 限 界 も指 摘 して い る 。
図5-1
EU域
内 にお ける都 市 の規模 別 分布
出 典:EC-Regional
Policy,1997c
② 失 業 と社 会 的排 除
第1節
で 明 らか に され た よ う に 、 人 口や 経 済 を め ぐ る 大 き な 変 化 は 、 都 市 部 に社 会 的 な
歪 み を も た ら して い る 。第2節
は、「
都 市 の 失 業 と 社 会 的 排 除 」 を 分 析 して い る。都 市 部 の
失 業 にみ られ る 全 般 的 傾 向 と して は 、 農 村 部 よ り都 市 部 の 失 業 率 が 高 く、 都 市 郊 外 の 失 業
率 が 低 い 。 また 、 都 市 に よ っ て 失 業 率 の ば ら つ き が 大 き い 。 失 業 率 に つ いて も、 う わ べ の
数 値 に惑 わ され ず 、 中 身 に踏 み 込 ん だ 考 察 を 重 視 して い る 。「
労 働 市 場 の 広 域 化 て 、競 争 力
の あ る 層 の 労 働 条 件 は 向 上 して い る 半 面 、 下 層 の 人 々 が 社 会 的 に排 除 され た 状 態 が 慢 性 化
して い る」 と指 摘 して い る 。 失 業 者 の56.1%は
長 期 失 業 者 で 、 貧 困 を極 め 、 ホ ー ム レ ス 化
しや す い 状 態 に い る 。 社 会 的 に孤 立 し、 居 住 環 境 は 劣 悪 で あ る。 麻 薬 常 習 、 犯 罪 な ど に 陥
りや す い。失 業 と社 会 的 排 除 は 、 「
都 市 経 済 の 足 枷 と な り、都 市 全 体 の 競 争 力 低 下 に つ な が
っ て い る 」 と述 べ 、 社 会 問 題 の 範 囲 を 超 え た 課 題 に な っ て き て い る と い う見 方 を 示 して い
る。
③ 都 市 システ ムの不 均衡
第3節
で は 、 欧 州 都 市 シ ス テ ム の 不 均 衡 に つ いて 述 べ て い る。 パ リ と ロ ン ド ン を結 ぶ 空
路 が 他 の 航 空 路 線 に 比 べ て2倍
を 超 え る頻 度 で 運 行 され て い る(1993年
現 在)。 群 を 抜 い
て 重 用 され て い る 空 路 の 存 在 は 、 欧 州 都 市 シ ス テ ム が 空 間 的 にバ ラ ン ス を 欠 い て い る こ と
の 証 で あ る 。 欧 州 の 中 核 に 位 置 す る ア ン トワ ー プ 、 ブ レー メ ン、 ロ ッ テ ル ダ ム は 有 利 で 、
ア テ ネ 、 バ レ ン シ ア 、 パ レル モ 、 ベ ル フ ァ ス ト、 リス ボ ン 、 セ ビ リア な ど周 縁 部 に 位 置 す
る 都 市 は 不 利 な 条 件 下 に あ る 。 また 、 トリ ノ 、 グ ラス ゴ ー 、 ビル バ オ の よ う に 特 定 工 業 に
依 存 して き た 都 市 よ り 、 ハ ノー バ ー 、 リ ヨ ン 、 ウ ィ ー ンの よ う に 多 様 な 経 済 基 盤 を 持 って
い る都 市 が 成 長 しや す い。
④ 都 市環境
第4節
で は 都 市 環 境 を取 り上 げ て い る 。都 市 部 に住 む 人 た ち が 、自 然 環 境 と建 造 環 境 の 、
双 方 の 質 を気 に す る よ う に な っ た に も か か わ らず 、 未 だ に 十 分 な 質 を確 保 で き て い な い こ
と を課 題 と し て あ げ て い る 。1995年 の 調 査 に よ る と、人 口50万 人 以 上 の 欧 州 都 市 の う ち 、
70化80%がWHOの
大 気 基 準 を満 た して い な い 。『冬 季 ス モ ッ グ 』が 欧 州 の 都 市 部 に住 む7000
万 人 を 脅 か して い る 。 大 気 汚 染 の 主 犯 は 都 市 交 通 で あ る 。 他 の 都 市 内 交 通 手 段 よ り 自家 用
車 の 増 加 が 著 し い 。 都 市 交 通 が 引 き 起 こす 大 気 汚 染 の 進 行 に 、 環 境 対 策 技 術 の 向 上 に よ る
汚染 低減 が追 い付 かな い。大気 汚 染 と合わせ て 、廃棄物 処理 や排水 処 理の 問題 もある 。
都 市 内 交 通 急 増 に と も な う渋 滞 は 、 大 気 汚 染 や 騒 音 な ど の 環 境 悪 化 を 招 いて い る に と ど
ま らず 、都 市 の 利 便 性 を低 下 させ 、都 市 経 済 の 生産 コス トを押 し上 げ る 要 因 とな っ て い る 。
ロ ン ド ンや パ リで は 、交 通 渋 滞 の せ い で 人 の 移 動 速 度 が20世
紀 初 め の レベ ル に ま で 落 ち 込
ん で しま った 。
都 市 部 に住 む 人 た ち の 生 活 の 質 に と っ て 、 自 然 環 境 と負 け ず 劣 らず 重 要 な の が 建 造 環 境
で あ る 。 建 造 物 な ど の 物 理 的 、 文 化 的 資 産 や 公 共 空 間 、 都 市 デ ザ イ ンが 、 生 活 の 質 を 大 き
く左 右 す る 。物 的 な 環 境 は 都 市 に よ っ て 大 き く 異 な る。緑 地 を例 に あ げ る と 、ハ ノ ー バ ー 、
エ ボ ラ 、 ブ リュ ッ セ ル で は 緑 地 率 が20%を
で は5%に
超 え る の に対 して 、 ロ ッ テ ル ダ ム や マ ド リ ッ ド
満 た な い。
『都 市 ア ジ ェ ン ダ へ 向 け て 』 は 、 自然 ・建 造 の 二 面 か ら と らえ た 環 境 の 延 長 上 で 、 都 市
計 画 を 広 義 の 都 市 環 境 と と ら え て い る 。「
従 来 の都 市 計 画 で は 、同 時 に複 数 の 機 能 を満 た す
都 市 や 地 区 の 醸 成 に 必 ず し も貢 献 して こな か っ た 。都 市 計 画 は 、 単 機 能 の エ リ ア をつ く り
出 し、 各 々 の エ リ ア は 人 間 生 活 の 特 定 の側 面(仕 事 、 買 い 物 、娯 楽 、 居 住 な ど)に の み 対
応 す る か た ち と な っ た 。 こ う して で き た エ リア は 、 人 々 が 生 活 を全 般 的 に 繰 り広 げ られ る
空 間 と して の 都 市 の 可 能 性 を 制 約 す る よ う に な っ た」 と分 析 し、 近 代 都 市 計 画 で 一 般 化 し
た 機 能 別 ゾ ー ニ ン グ を 批 判 して い る5。
⑤ 都市 行 政
最 後 に 第5節
で は 、 都 市 行 政 の 問 題 点 が 指 摘 され て い る 。EU域
内 の都市 の 間で 、都 市
政 策 権 限 や 財 源 な ど を め ぐ っ て 、 自治 権 の 程 度 に 大 き な 開 き が あ る 。 ま た 、 実 態 と し て の
都 市 圏 が 行 政 区 域 を越 え て い る と こ ろ が 多 く、 権 限 が 断 片 化 して い る こ と が 都 市 政 策 の 障
害 と な っ て い る と して い る 。
EUレ
ベルの都 市 政策 の 必要 性
『都 市 ア ジ ェ ン ダ へ 向 け て 』に よ る 都 市 課 題 分 析 は 、統 一 市 場EUが
か え っ てEUレ
実 働 し始 め た 結 果 、
ベ ル で 介 入 しな け れ ば な らな い 都 市 問 題 が 深 刻 化 して い る 、 と い う 認 識 を
示 して い る。
都 市 は 、 経 済 的 な 国 境 が 取 り払 わ れ れ ば 、 よ り広 域 な 市 場 を相 手 に で き る よ う に な る 。
形 骸 化 した 国 家 の タ ガ が 外 れ れ ば 、 国 に縛 られ ず 自 由 な 発 展 を謳 歌 で き る よ う にな る。 し
5 1990年 環 境 面 か ら提 言 され た 都 市 環 境 緑 書 と同 様 に 、機 能 主 義 に 立 脚 した都 市 計画 思 想 へ の批 判 が 見 ら
れ る。
か し、 自 由 市 場 の 広 域 化 が もた らす ダ イ ナ ミ ズ ム は 、 い い こ とづ く め で は な い 。 伝 統 的 な
農 業 分 野 に打 撃 を 与 え る だ け で な く、 経 済 活 動 の 主 要 舞 台 で あ る 都 市 に市 場 統 合 の 弊 害 が
端 的 に 現 れ る 。 市 場 統 合 の 利 益 と 同 時 に 、 マ イ ナ ス 面 をEUレ
ベ ル で 直 視 し、 対 策 を 考 え
よ う と した の が 『都 市 ア ジ ェ ン ダへ 向 け て 』 の 発 端 だ っ た 。
『都 市 ア ジ ェ ン ダへ 向 け て 』 は 、 格 差 が 許 容 範 囲 内 で あ れ ば 、 あ とは 市 場 ま か せ に して
も広 域 自 由 市 場 が 自ず と 健 全 に 機 能 す る--と
い う楽 観 論 を 退 けて い る。
市 場 が 広 域 化 した と ころ で 市 場 まか せ に す る と 、 域 内 の 都 市 間 格 差 ・都 市 内格 差 と も に
広 が る 傾 向 が 強 ま る 。 協 調 的 発 展 を 目指 して 形 成 され たEU統
一 市場だ が、都 市 が国境 を
越 え た 経 済 競 争 に放 り出 さ れ る こ と に よ っ て 様 々 な 格 差 が か え っ て 拡 大 す る 。EU政
策の
役割 は 、 市 場 統 合 以 前 に あ っ た 経 済 格 差 を 是 正 す る一 時 的 な も の に と ど ま らな い。EU市
場 で 健 全 な 競 争 を 担 保 す る た め に は 、 常 に 変 動 し続 け る都 市 内 お よ び都 市 間 の格 差 をEU
レベ ル で 継 続 的 に見 張 り、 適 切 に 政 策 介 入 す る こ とが 不 可 欠 とな る 。
グ ロ ー バ ル 化 や 情 報 化 、 そ れ に と もな う工 業 か らサ ー ビ ス 産 業 へ の 転 換 に よ り、 地 政 学
的 な 条 件 不 利 を 乗 り越 え られ る の で は な い か と い う期 待 が る
一部 に あ っ た 。 高 度 情 報 化 社 会
で は 、 都 市 的集 積 の メ リ ッ トが 薄 れ る と の 見 方 も あ っ た 。 しか し、 グ ロー バ ル 化 、 情 報 化
が か な り進 展 した 今 、 現 実 に は 経 済 発 展 に と っ て 地 政 学 的 、 空 間 的 条 件 が 重 要 性 を失 う ど
こ ろ か 、 以 前 に も増 して 重 要 に な っ て い る 。 欧 州 内 で も 、 ロ ン ドン-パ リ の 欧 州 主 軸 に程
近 い都 市 が 、EU自
由 市 場 の 恩 恵 を よ り多 く受 け て い る 。 他 方 、 周 縁 部 に 立 地 す る過 疎 地
域 は 、 一 段 と過 疎 化 傾 向 を 強 め て い る6。EU統
に甘 ん じて いた 中 規 模 都 市 も、EU市
合 市 場 の 誕 生 に よ っ て 、 これ ま で 国 内 市 場
場 で 新 た な 発 展 の 方 向 性 を見 出 す こ とが で き る よ う
に な っ た 。 しか し、 同 規 模 の 中 都 市 で あ っ て も 、 空 間 的 条 件 の 有 利 不 利 に よ り、 発 展 の 可
能 性 に大 き な 開 き が 出 る 。
都 市 内 で も、 社 会 階 層 間 の 不 均 衡 が 強 ま り、 二 極 分 化 す る 傾 向 が 顕 著 で あ る 。 市 場 が 広
域 化 す る こ とで 雇 用 機 会 は 一 見 増 大 す る が 、 そ の 恩 恵 に あ ず か る の は 一 部 の エ リー ト層 に
限 定 され る 。 他 方 、 社 会 的 に排 除 され た 長 期 失 業 者 は 、 逆 に孤 立 を 深 め て い く。 都 市 内 の
社 会 的 亀 裂 は 深 ま る 一 方 で あ る 。 現 在 の 欧 州 都 市 人 口 を 実 質 的 に押 し上 げ て い る の は 移 民
で あ る。 経 済 の牽 引 役 で あ る都 市 は 移 民 を 吸 い 寄 せ る 一 方 で 、 都 市 内 で は社 会 的 に移 民 を
排 斥 す る 力 が 働 き 、 移 民 の 集 住 す る 孤 立 した 問 題 地 区 を つ く りだ して い る 。 経 済 力 の 強 い
北 部 都 市 に始 ま っ た こ の 動 き は 、 南 欧 都 市 に ま で 波 及 して き た 。 グ ロー バ ル 化 は 強 い 都 市
や 強 い社 会 階 層 を偏 愛 し、 グ ロー バ ル化 に見 放 さ れ た 移 民 や 失 業 者 の 問 題 を深 刻 化 させ る
な どの 暗 部 を必 ず 伴 う。
『都 市 ア ジ ェ ン ダ へ 向 け て 』第1章
で あ ぶ りだ され た 諸 課 題 を俯瞰 す る と 、 失 業 問 題 に
最 も 力 点 が 置 か れ て い る こ と に気 付 く。 あ た か も 、 欧 州 都 市 問 題 は 雇 用 問 題 に 収斂 し て い
6 北 イ タ リア で活 躍 す る地 理 学 者Gデ マ テ イ ス は 、都 市 シ ス テ ム の 空間 形 態 の 違 い に着 目 して 、知 識 社 会
にお い て 中心-周 縁 の 分 極 化 が か え って 加 速 す る メ カニ ズ ム を 明 らか に しよ う と した。彼 は 、前 工 業 化 社
会 に対 応す るバ ラ ン スの とれ た ス ター ・ツ リー 型 で あ るA型 、 工 業 化社 会 に よ りA型 に 中心-周 縁 の偏
在 が 加 わ っ たB型 、都 市 が 垂 直・ 水 平 の 双 方 向 に 相 互 に関 係 を結 び ネ ッ トワ ー ク を形 成 す るC型 の3つ
に類 型 化 した上 で 、欧 州 全体 を覆 う都 市 シス テ ム の 空 間 形 態 につ いて 考 察 して い る。そ もそ も経 済 的 に潤
って い て都 市が 密 に分 布 して い る地 域 で はC型 の 形 成 が 見 られ 、都 市 が疎 らに しか 分布 して い な い地 域 で
はC型 の形 成 が観 察 さ れ な い 。した が っ て 、ネ ッ トワー ク が 力 を 発 揮す る知 識 社 会 に あ って は ネ ッ トワ ー
クの 相 乗効 果 に よ り、 格 差 拡 大 に拍 車 が か か る と結 論 付 けて い る(Dematteis,1996)。
る か の よ うで あ る 。 そ の 背 景 に は 、 東 西 ドイ ツ 統 合 が 引 き 金 とな っ て 、 予 想 を 上 回 っ て 急
激 に 悪 化 した 雇 用 情 勢 が あ る 。 東 欧 諸 国 の 加 盟 を 控 え て 、EUは
、雇 用 問題 に神経 質 にな
っ て い る 。 市 場 の 自 由化 で 、 東 側 の 産 業 は 競 争 力 を失 い 、 大 量 の 失 業 者 が 見 込 まれ る。 第
一 義 的 に は 東 側 の産 業 都 市 の 問 題 で は あ るが 、 人 の 移 動 が 自 由 に な る の で 、 西 側 の 都 市 に
とって は 大量 の移 民予備 軍 の発 生で ある。
『
都 市 の 欧 州 』(市 民 向 け 都 市 ア ジ ェ ン ダ へ 向 け て)
欧 州 委 員 会 は 、「
市 民 生 活 に 影 響 す る 重 要 な 決 定 を して い る の に 、欧 州 市 民 か ら見 え な い 、
遠 い」 と 常 に 批 判 され て き た 。1国 に 匹 敵 す る 財 源 と1国
ら、 一 般 市 民 に は 直 接 関 係 の な い 存 在 で あ る 。1990年
を 凌 ぐ巨 大 官 僚 組 織 を持 ちな が
代 、EUが
都 市 に フ ォーカ スす るよ
う に な っ た 背 景 に は 、「欧 州 委 員 会 は 市 民 の 日常 に これ だ け 役 に 立 っ て い ます 」と ア ピー ル
し、 欧 州 市 民 とEUの
民 に 、EUが
距 離 を縮 め な け れ ば な らな い と い う危 機 感 が あ っ た 。 多 く の 欧 州 市
市 民 生 活 に ど の よ う に貢 献 して い る か を知 っ て も ら うた め に は 、 人 口の 集 積
す る都 市 を重 視 す る の が 最 も効 果 的 で あ る 。
地 域 政 策 総 局 を 要 と して 欧 州 委 員 会 は 、『都 市 ア ジ ェ ン ダへ 向 け て 』(1997年)の
一 般 市 民 向 け に 書 き 改 め て 、 同 年 『都 市 の 欧 州 、 都 市 部 に お け るEU施
Policy,1997c)と
題 して35頁
ほ どの 小 冊 子 を発 行 した[図5-2]7。
主 旨を
策 』(EC-Regional
表 紙 に は 、 ドイ ツ の
ケ ル ン 、 南 仏 プ ロ バ ン ス 、 イ ギ リス の オ ッ ク ス フ ォー ドの 写 真 が 並 び 、 多 様 な 魅 力 に あ ふ
れ る 欧 州 都 市 の イ メ ー ジ を表 象 して い る 。冒頭 に 、『都 市 の 欧 州 』の 肖像 が 描 き 出 され て い
る 。 大 都 市 は ビ ジ ネ ス 中 心 で あ り、 先 端 技 術 に も長 け 、 十 分 な 国 際 競 争 力 を 備 え て い る反
面 、貧 困 、犯 罪 、交 通 渋 滞 、環 境 汚 染 な ど の 深 刻 な 問 題 を 抱 え て い る 。 中都 市 は 、経 済 的 、
社 会 的 、 環 境 的 に も ほ どよ く集 積 し、 新 旧 が 調 和 して 快 適 な 生 活 を提 供 で き る が 、 グ ロ ー
バ ル 化 に取 り残 さ れ る危 険 が あ る8。そ れ で も総 体 と して み れ ば 「大 中 小様 々 な 都 市 が 散 り
ば め られ て い る こ とが 欧 州 の 魅 力 で あ る 」 と小 冊 子 は述 べ て い る 。
都 市 の 多 様 性 を 欧 州 の 共 有 資 産 と した 上 で 、 欧 州 都 市 が 共 通 して 抱 え る課 題 を、 ① 都 市
の 社 会 的 分 極 化 、 ② 都 市 経 済 、③ 交 通 と都 市 構 造 、④ 都 市 環 境 、⑤ 都 市 と 文 化 、 の5点
集 約 し、 これ らの 課 題 に対 して 現 在 進 行 中 のEU施
に
策 を 例 示 して い る 。総 じ て 「EUは これ
ほ ど都 市 の た め に 働 い て い ます 」と い う メ ッセ ー ジ が 伝 わ っ て く る 。全 部 で30ほ
どの 事 例
が 紹 介 され て い る 。 構 造 基 金 を 財 源 とす る 地 域 政 策 関 連 の事 例 が 最 も多 い が 、 紹 介 事 例 に
は10ほ
ど の 政 策 総 局 が絡 ん で い る 。 『
都 市 ア ジ ェ ンダ へ 向 け て 』 第2章
で も 、EUレ
ベル
で 都 市 の た め に実 施 さ れ て い る諸 政 策 が 整 理 され て い る が 、 こち らは 構 造 基 金 と結 束 基 金
に 関 す る事 例 を 中 心 に 紹 介 して い る。 地 域 政 策 関 連 の 主 だ っ た 補 助 事 業 は 第1章
で紹介 し
た の で 、 こ こ で は 市 民 向 け 『都 市 の 欧 州 』 を主 に参 照 しな が ら、 他 の 政 策 総 局 も 関 係 して
い る 都 市 関 連 プ ロ ジ ェ ク トを概 観 す る 。
7 ル ・ガ レ は 、 欧 州 委 員 会 小 冊 子
『都 市 の 欧 州 』 が 、 「ド ロ ー ル が 野 心 的 に 取 り組 ん だ 地 方 ・地 域 政 体 を
取 り 込 ん だ 欧 州 ガ バ ナ ン ス の ダ イ ナ ミ ッ ク な 構 築 へ 向 け て 貢 献 し た 」 と 述 べ て い る 。 ( L e
G a l e s , 2 0 0 1 , 1 0 1 ) 。
8 欧 州 化 の 文 脈 で 、 国 境 を 越 え て 中 小 都 市 の 課 題 と 可 能 性 を 論 じ る シ ン ポ ジ ウ ム が 、複 数 開 催 さ れ て い る
生 活 労 働 条 件改 善 を 目指 す 欧州 財 団 主催 「
都 市 の サ ス テ イ ナ ブ ル な 発 展 の 理 想 と 現 実-中
の 経 済 ・環 境 ・民 主 政 治 の 新 た な 関 係 」が1996年9月
for the Improvement
-都
of Living and Working
市 化 と 持 続 可 能 性 」 が1998年
小 都 市 に と って
イ タ リ ア の ト リ ノ で 開 催 さ れ た(European
Conditions,1997)。
Foundation
都 市 計 画 ・政 策 の 専 門 家 を 中 心 に 「中 間 の 都 市
ス ペ イ ン の リ ェ リ ダ で 開 か れ た(Bellet and
Llop ,2000)。
図5-2『
都 市 の 欧 州 』(EC-Regional
Policy,1997c)表
紙
① 都市の社会的分極化
「
多 くの 都 市 に お いて 、か つ て 享 受 で き た 市 民 と して の 連 帯 感 が ほ ころ び 、豊 か な 人(仕
事 を 持 ち 、休 暇 に 出 か け 、 車 に 乗 る 人)と 貧 し い 人 の 間 に 深 い溝 が で き て しま った 」。市 場
の 自 由 化 、 広 域 化 が 都 市 に もた ら した 最 大 の 害 悪 は社 会 的 分 極 化 だ っ た と い う認 識 は 、 欧
州 市 民 全 般 に 共 有 され て い る 。 政 策 文 書 で あ れ 、 市 民 向 け の 情 報 で あ れ 、 都 市 問 題 の 筆 頭
に必 ず あ げ られ る の が 社 会 的 分 極 化 で あ る 。
社 会 的 に排 除 され た グ ル ー プ を社 会 復 帰 させ る こ とが 求 め られ る が 、 そ の た め にEUで
は 雇 用 対 策 に 力 を 入 れ て き た 。 雇 用 政 策 は 主 に 雇 用社 会 問 題 総 局 の 管 轄 で あ る。 構 造 基 金
の 目的3(長
期 失 業 者 と若 年 失 業 者 に 主 眼 を 置 い た 雇 用 対 策)と
とも な う雇 用 対 策)を 合 計 して 、1994-1999年
は社 会 基 金ESFを
に151.8億ECUが
財 源 とす る 共 同 体 主 導 プ ロ グ ラム(1994-1999年
目的49(産
業 構 造 転換 に
支 出 され た 。Employment10
、18.35億ECU)だ
が、
そ の 先 行 事 例 と して 、 タ イ ン&ウ エ ア(イ ギ リス)の ウ ォー ター ビ ル 事 業(1992-1993年)
が あ る 。 現 場 の ソ ー シ ャ ル ワ ー カ ー チ ー ム は 、 ア ウ トリー チ 手 法 を 取 り人 れ て 若 年 失 業 者
の 多 い 地 区 に進 ん で 入 り込 み 、 対 策 を最 も必 要 と して い る 人 た ち を 取 り込 む こ と に 尽 力 し
た 。 ま た 、 ダ ブ リ ン(ア イ ル ラ ン ド)の ア ミ ア ン通 りに 接 す る 地 区 で は 、 造 船 所 が 閉 鎖 さ
れ て 以 来 、 世 代 交 代 を 経 て も失 業 率 は改 善 しな か った が 、 教 育 に 重 点 を置 い た 施 策 が 取 り
入 れ られ て か ら は 、 状 況 が 改 善 した 。 統 合 的 ア プ ロー チ で 政 策 効 果 を 高 め る た め に 、 共 同
体 主 導INTEGRAプ
社 会 基 金ESFは
導URBANや
10 2000年
、 雇 用 社 会 総 局 単 独 の プ ロ グ ラ ム ば か りで な く、第1章
先 進 的 取 組 みUPPの
の 比 率 は3:1)と
9 旧 目 的3と
ロ グ ラ ム が 新 設 され た 。
目 的4が
財 源 の 一 部(通 常 、地 域 開 発 基 金ERDFと
社 会 基 金ESF
な り、 疲 弊 地 区 対 策 の 雇 用 対 策 費 に 充 て られ て き た11。加 盟 国 に 再 配 分 さ
統 合 され
、2000-2006年
以 降、 共 同 体 主 導Emplo
ymentが
力 点 を 置 い た 共 同 体 主 導Equalが
11 第2章
で み た 共 同体 主
予 算 で は 、 目 的3に
一本 化 され た 。
消 滅 し 、代 わ って 、 労働 市場 にお け る 不公 平 と差 別 の克 服 に
加わ った。
で み た よ 、2000年
うに
以 降 、先 進 的 取 組 みUPPは
な く な り 、共 同 体 主 導URBANの
み と な っ た。
れ る構 造 基 金 主 要 部 分 の うち 、都 市部 の 雇 用 対 策 に 充 て られ る 割 合 も 大 き い 。1997年 以 降 、
雇 用 対 策 は 一 段 と強 化 され た 。地 域 雇 用 協 定(Territorial Employment
Pact)と い う フ レ ー ム
が 新 設 され 、 都 市 相 互 の 雇 用 政 策 に 関 す る 情 報 交 換 が 活 発 化 した 。
雇 用 対 策 以 外 で も、社 会 的 分 極 化 を 緩 和 す る 施 策 を 展 開 して き た 。例 え ば 、1997年 を 『欧
州 人 種 差 別 をな くす 年 』 と定 め て 、 ドル トム ン ド、 グ ラナ ダ 、 ロ ン ド ンな ど で 地 方 自 治 体
やNGOを
支 援 し、移 民 問 題 と取 り組 ん で き た 。都 市 に お け る女 性 差 別 の 問 題 に 対 して は 、
『都 市 の 女 性 に つ い て の 欧 州 憲 章 』 を ま とめ て い る 。
注 目す べ き こ と は 、EUが
社 会的 に排 除 された 人 た ちの 問題 は都 市全体 、市 民 一人 一人
の 問 題 で あ る と い う認 識 を持 っ て い る こ とで あ る 。『都 市 の 欧 州 』は 「
社 会 的分極化 が解 消
す れ ば成 長 が 期 待 で き る 。 社 会 全 体 の 将 来 可 能 性 が 広 が り、 全 員 の 利 益 につ な が る 」 と述
べ て いる。
② 都市経済
EUは
、世 界 市 場 にお け る競 争 力 を 維 持 す る た め に つ く られ た 。 これ はEU最
的 で あ り、 競 争 政 策 の 成 功 な し に は 他 のEU政
大 の経 済 目
策 は 成 り立 た な い 。 こ う した グ ロー バ ル な
文 脈 に お いて 、 都 市 が カ ギ を握 っ て い る 。 グ ロ ー バ ル 経 済 の 下 で 、 都 市 は 相 互 に 協 力 し合
う と い う よ りは 、 企 業 誘 致 な ど を め ぐっ て む しろ 競 争 す る 関 係 に あ る 。 大 企 業 は 、 そ れ ぞ
れ の 都 市 的 コ ン テ クス トと は 無 関 係 に 、 経 営 トッ プ の 判 断 で ど の 都 市 に投 資 す る か を 決 め
る 。 企 業 の 一 方 的 な 都 合 で 投 資 が 決 め られ る。 地 元 の 都 市 生 活 の 豊 か さ を 高 め る こ と に つ
な が る か ど うか とは 別 の 判 断 で あ る 。 雇 用 増 に 貢 献 す る こ とが あ っ て も 、 そ の 雇 用 が 維 持
され る保証 はな い。
し か し、 都 市 は 一 様 に企 業 誘 致 を 目標 に して 、 ビ ジ ネ ス サ ー ビス を 充 実 させ 、 優 秀 な 人
材 を揃 え 、 情 報 イ ン フ ラ を 整 え 、 ビ ジ ネ ス 地 区 を整 備 して き た 。 企 業 誘 致 争 い に必 死 に な
る あ ま り、 か え っ て 都 市 の 個 性 を 喪 失 し 、 同 質 化 に陥 って しま う 。EUは
、 もっ ぱ ら自己
の 都 合 だ け で 動 く グ ロー バ ル 企 業 に 都 市 が 振 り回 わ され る こ とが な い よ う に 、 そ の 施 策 を
打 っ て い る 。 都 市 に住 む 人 た ち に豊 か さ を 持 続 的 に も た らす こ とが で き る 多 様 な 競 争 力 を
醸 成 し よ う と、 都 市 の 手 助 け を して い る 。 「革 新 」 と 「
富 の創造 」 の対策 で ある。
研 究 総 局 は 、EUプ
子 は 、EU総
ロ グ ラム で 先 端 技 術 開 発 支 援RTDを
予 算 の4%に
相 当 す る130億ECU(1994-1998年)を
行 っ て き た 。第4次RTD計
画骨
計 上 した 。RTD予
算 の多
くが 都 市 部 に投 入 され て い る。 ま た 、 条 件 不 利 地 域 の 情 報 イ ン フ ラ 整 備 に 力 を 入 れ 、 教 育
や 職 業 訓 練 プ ロ グ ラ ム と抱 き合 わ せ て 持 続 的 に技 術 更 新 が 行 わ れ る し くみ を 育 て て き た 。
社 会 経 済 研 究 プ ロ グ ラ ム に、1.12億ECUが
当 て られ て い る。1/2が 科 学 技 術 政 策 、1/4が
社 会 的 排 除 ・統 合 に 関 す る研 究 、残 りが 教 育 職 業 訓 練 に割 り当 て られ て い る 。「
革 新 」と は 、
必 ず し も 先 端 技 術 開 発 に 限 定 さ れ る も の で は な く、 社 会 的 、 政 治 的 、 文 化 的 革 新 も あ り う
る。
「富 の 創 造 」 に 貢 献 して い る の が 、 地 域 イ ン フ ラ 整 備 な ど を補 助 して い る 構 造 基 金 と結
束 基 金 全 般 で あ る 。 主 要 な もの に 、 構 造 基 金 の 目的1と2が
あ る 。 第I部
でみ たよ うに、
これ ら の 基 金 は 都 市 部 の み を 対 象 と して い る わ け で は な い が 、 少 な く と も半 分 が 都 市 部 の
URBANの
手 続 き を簡 素 化 す るた め に、ESFか らの 支 出 をな く しERDFに
一 本 化 され た 。単 に手 続 き上 の
問 題 とい わ れて い るが 、制 度 上 、エ リア ター ゲ ッ トの統 合 的 ア プ ロー チ にお け る 雇用 対 策 は薄 れ るか た ち
とな っ て い る。
「
富 の 創 造 」 に寄 与 して い る と考 え られ る 。
市 民 向 け 『都 市 の 欧 州 』 は 、 食 料 品 な ど 日常 品 を 扱 う 小 規 模 商 店 を都 市 経 済 の 観 点 か ら
極 め て 重 視 して い る 。 市 場 まか せ に して お く と、 大 手 ス ー パ ー マ ー ケ ッ トに 押 され て 伝 統
的 な 商 店 街 は 先 細 りに な る 。 グ ロ ー バ ル 化 に 翻 弄 さ れ ず 、 安 定 した 生 活 を守 る た め に は 、
生 活 必 需 品 の 供 給 を グ ロー バ ル 市 場 に左 右 さ れ や す い大 手 資 本 に 過 度 に 依 存 せ ず 、 小 規 模
商 店 が 維 持 され る こ と が 大 切 だ と して い る。
リ ヨ ン の 東 側 郊 外 で は 、 地 区 の 抱 え る 複 合 的 な 社 会 問 題 を 、 商 店 街 の 活 性 化 を 通 して 解
決 す る 道 が 模 索 され た 。 第I部
で 述 べ た 共 同 体 主 導URBAN支
援 事業 の一例 で ある。
③ 都 市 構 造 と交 通 シス テ ム
1997年
『都 市 ア ジ ェ ン ダ へ 向 け て 』は 、機 能 別 ゾー ニ ン グ に よ る都 市 計 画 を 痛 烈 に 批 判
して い た 。 同 年 発 行 の 市 民 向 け 『都 市 の 欧 州 』 は 、 よ り具 体 的 に ゾ ー ニ ン グ 批 判 を 展 開 し
て いる。
「
今 日の 都 市 の 多 くが 商 業 地 区 と住 居 地 区 、 歴 史 中 心 地 区 と郊 外 ベ ッ ドタ ウ ン に分 断 さ
れ て い る 。 夜 間 に は ひ と 気 の な くな る オ フ ィス エ リア 、 シ ョ ッ ピ ン グ セ ン タ ー 、 大 学 キ ャ
ンパ ス な ど に 切 り刻 ま れ て い る 。 自動 車 道 が 縦 横 無 尽 に張 り巡 ら さ れ 、 ラ ッ シ ュ ア ワー に
は 交 通 渋 滞 と な る 。 広 場 な どの オ ー プ ン ス ペ ー ス は 、 都 市 の オ ア シ ス で あ り周 辺 の ア イ デ
ン テ ィ テ ィ と な る も の だ っ た が 、 今 日で は 車 の往 来 が 激 し く看 板 広 告 で 溢 れ る 場 に な り下
が っ て い る。都 市 の あ ち こち に 暴 力 と 犯 罪 が は び こ って い る 。『都 市 の 一 元 的 分 化 』が 都 市
の 空 間 を 孤 立 させ 、 雇 用 機 会 を与 え ず 、 都 市 の 空 間 にお け る 社 会 文 化 的 生 活 を疎 外 して い
る」。
「これ ら都 市 の 崩 壊 の 源 は 、 現 実 と は も はや 対 応 しな くな っ た 都 市 の姿 に あ る 。 過 去 に
工 業 に依 存 して い た 都 市 で は 、 工 場 を 中 心 に した 過 去 の 経 済 が 都 市 構 造 を 規 定 す る 場 合 が
あ る が 、都 市 は 工 場 を 失 っ て 久 しい 。1930年 代 に 流 行 した 機 能 主 義 的 建 築 家 の お か げ で 都
市 が 急 成 長 した 時 代 の 遺 物 を継 承 し続 け て い る 場 合 も あ る。 機 能 主 義 を 信 奉 す る建 築 家 た
ち は 、 都 市 を オ フ ィ ス 、 住 居 、 商 業 な どの 用 途 別 ゾ ー ン に分 割 した 。 そ の 結 果 、 人 々 は よ
り移 動 し、 交 通 量 が 増 え た 」。
用 途 別 ゾ ー ニ ン グ に よ り 計 画 さ れ た 都 市 を 克 服 す る 一 助 と して 、EUは
自家 用車 利 用 を
低 減 す る政 策 を 誘 導 して き た(EC-Research,2002)。 構 造 基 金 や 結 束 基 金 を活 用 し て 、ア テ ネ
の 地 下 鉄 、 ダ ブ リ ンの 都 市 内 鉄 道 、 リス ボ ンの タ ホ 川 に か か る橋 な どを 整 備 して き た 。 研
究 分 野 で も都 市 公 共 事 業COSTプ
ロ グ ラム で 、幅 広 い専 門 家 を集 め て 交 通 を 含 め て 都 市 問
題 に統 合 的 な ア プ ロー チ を 試 み て い る 。 環 境 総 局 の 補 助 金 で 、 ドイ ツ250都
市 、 スイ ス 、
フ ラ ン ス 、イ タ リ ア 、オ ー ス ト リア の 諸 都 市 は 、カ ー シ ェ ア リ ン グ(自 家 用 車 の 共 同利 用)
を始 めた。
④ 都 市環境
第4章 で み て き た よ う に 、EUは 環 境 政 策 面 か ら都 市 環 境 向 上 に 多 大 な 貢 献 を して き た 。
1990年 緑 書 に は じ ま り、1994年
オ ー ル ボ ー 憲 章 、1996年
報 告 書 な ど、 都 市 自治 体 行 政 に
大 き な 影 響 を 与 え た 。 また 、 都 市 環 境 改 善 に 当て られ たEU予
た よ う に地 域 開 発 基 金ERDFな
の 欧 州 』 は 、『ERDFの
で述 べ
ど構 造 基 金 の 各 種 補 助 事 業 が 金 額 的 に最 も大 き い 。 『都 市
う ち お よ そ12億ECU(1994-1999年)が
再 生 事 業 に 充 て られ 、7.4億ECUが
算 と して は 、 第I部
都 市 環 境 改 善 と産 業 跡 地
廃 棄 物 処 理 、 資 源 管 理 に活 用 され るな ど 、 実 態 と して
は都 市 部 に 大 き な 利 益 を もた ら した 」 と述 べ 、EUが
指 摘 され る ほ ど都 市 部 を 軽 ん じて い
な い と弁 明 して い る 。
都 市 環 境 改 善 に 充 て られ る 基 金 と して は 、構 造 基 金 に 加 え て 結 束 基 金 の環 境 分 野 が あ る 。
結 束 基 金 は 、域 内 で 経 済 レ ベ ル の 低 い ス ペ イ ン、 ポ ル トガ ル 、 ギ リ シ ア 、 ア イ ル ラ ン ドの
4カ 国 を対 象 と し、 環 境 分 野 と 交 通 分 野 の 基 盤 整 備 を支 援 し て い る 。 結 束 基 金 は 都 市 部 を
必 ず し も対 象 と して は い な い が 、 ル ー ト ラキ オ ン(ギ
リ シ ア)の 水 質 浄 化 、 イ ビサ 島 や ム
ル シ ア(ス ペ イ ン)の 淡 水 化 事 業 な ど都 市 部 に 当 て られ て い る も の が 少 な くな い。
思 想 的 に はEUが
率 先 して 欧 州 都 市 環 境 政 策 を リー ド して き た 面 が あ る が 、 直 接EU予
算 を活 用 した 補 助 事 業 とな る と 、 問 題 が 深 刻 で 緊 急 性 を要 す る と こ ろ に 重 点 支 援 す る こ と
に な り、 必 ず し も先 駆 的 事 例 が 多 い とは い い が た い。 そ う した 中 で 、EUレ
ベ ルの 都市 環
境 に対 す る新 しい 姿 勢 を反 映 した 興 味 深 い 補 助 事 例 と し て 、 バ ル セ ロナ(ス ペ イ ン)の
ラ
バ ル 地 区 再 生 事 業 が あ る 。こ の 事 業 は 、結 束 基 金 の 環 境 分 野 と して2.05億ECU(1993-1999
年)、 事 業 総 額 の75%に
当た る補助 を受 けた。
結 束 基 金 は 、 一般 的 にEU全
体 の 足 を 引 っ 張 る イ ン フ ラ整 備 の 遅 れ を 短 期 で 集 中 的 に 取
り戻 す こ とを 目 的 と して い る。 そ の た め補 助 率 が 高 い 。 結 束 基 金 の 環 境 分 野 は 、 経 済 的 に
弱 い と ころ に環 境 負 荷 が 集 中 しや す い と い う 問 題 意 識 に 立 ち 、 環 境 問 題 が 引 き 起 こす 格 差
を緩 和 しよ う と す る も の で あ る 。 した が って 、 大 気 や 水 の 汚 染 な ど公 害 問 題 を対 象 とす る
場 合 が 多 いが 、 バ ル セ ロ ナ の補 助 事 例 は 異 色 で あ る 。 大 気 汚 染 や 廃 棄 物 処 理 な ど 自然 環 境
に負 荷 を 与 え る 問 題 だ け で な く、 都 市 の 建 造 環 境 も ま た 環 境 問 題 の 重 要 な 要 素 で あ る と い
う 思 想 に 基 づ き 、 疲 弊 した 歴 史 中 心 地 区 の 建 造 ・自 然 の 両 環 境 を 環 境 分 野 と して と らえ て
問 題 を解 決 しよ う と した12。
地 域 開 発 基 金 や 結 束 基 金 と比 べ る と金 額 的 に は 小 さ い が 、LIFEプ ロ グ ラ ム な ど環 境 政 策
面 か らの 補 助 金 も あ る 。
⑤ 都 市 と文 化
1993年 に 発 効 した マ ー ス トリ ヒ ト条 約 の 第128条
は 、EUの
責 務 と して 、 「
ナ シ ョナ ル な
(国 民 国 家 単 位 で は 必 ず し もな く地 域 的)多 様 性 を 尊 重 しな が ら、 文 化 資 産 を保 全 発 展 さ
せ て い く こ と」 を謳 っ て い る 。 文 化 は し ば し ば 都 市 で 育 ま れ て き た 。 貧 富 を問 わ ず 、 ロ ー
マ 市 民 は トレ ビ の 泉 を 愛 して き た し、 パ リ市 民 は エ ッ フ ェ ル 塔 を 、 コ ペ ンハ ー ゲ ン 市 民 は
人 魚 を 都 市 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ の よ り ど こ ろ と して き た 。 これ ら は 、 都 市 観 光 資 源 で も あ
る 。これ らが 保 全 す べ き 文 化 資 産 で あ る こ と は い う ま で も な い 。保 全 す べ き 文 化 資 産 とは 、
歴 史 的 建 造 物 ・伝 統 芸 能 ・伝 統 工 芸 の み で は な い 。 ラ ッ プ ミ ュ ー ジ ッ クや グ ラ フ ィ テ ィ の
よ うな 現 代 都 市 の 生 ん だ 文 化 も含 む 。 『
都 市 の 欧 州 』は 、 「
『文化 』 とは 、そ れ ぞ れ の 地 域 に
よ っ て 異 な る 人 々 と社 会 の 関 わ り方 で あ る 」と 述 べ て い る 。新 し い経 済 活 動 や 商 業 活 動 に 、
文 化 が 体 現 さ れ て い る 場 合 も少 な くな い 。 モ ンペ リエ 、 ボ ー プ ー ル 、 バ ル セ ロ ナ 旧 港 、 ベ
ル リ ンの タ シ ェ ル 界 隈 、 ア ム ス テ ル ダ ム の オ ペ ラ 座 界 隈 、 リバ プー ル の ドッ ク ラ ン ド、 ウ
ィ ー ンの アバ ン ギ ャル ドセ ン タ ー な ど、 新 し い 生 活 ス タ イ ル を発 信 す る 場 に 文 化 が 息 づ い
て いる。
こ の よ う に広 義 に 文 化 資 産 を と らえ た 上 で 、EUは
12 第8章
文 化 資 産 の 保 全 発 展 を 手 助 け して き
バル セ ロナ で 取 り上 げ る ラバ ル 地 区 再 生 事 業 に結 束 基 金 は 当て られ た。
た 。 主 な 政 策 ツ ー ル が 構 造 基 金 と 文 化 行 動 計 画 で あ る 。 都 市 文 化 の 保 全 育 成 の 面 で も、 最
も金 額 的 に 大 き な 貢 献 を して い る の は構 造 基 金(主
で み た よ う に 、都 市 パ イ ロ ッ ト事 業UPPの
に 地 域 政 策 総 局 管 轄)で
あ る 。 第I部
多 くが 歴 史 中心 地 区 を対 象 と して い る 。歴 史 中
心 地 区 は 、 そ れ 自 体 が 保 全 活 用 す べ き都 市 文 化 資 産 で あ る 。 他 方 、 支 援 規 模 は 構 造 基 金 と
比 べ る と 小 さ い が 、 文 化 政 策 面 か ら文 化 行 動 計 画(旧
情 報 通 信 文 化 総 局 担 当)が 実 施 され
た 。1990年 代 前 半 に は 、毎 年 にテ ー マ を 設 定 して 文化 資 産 保 全 を支 援 して き た 。1990年 は
都 市 景 観 の 要 とな る建 物 、1992年 は都 市 の 記 念 碑 的 建 造 物 とそ の 周 辺 、1994年 は 行 事 や 催
事 の 場 と な っ て き た 歴 史 的 な 場 所 。 建 造 物 単 体 を文 化 資 産 と して 保 全 す る 発 想 よ り、 む し
ろ都 市 的 文 脈 の な か で な に を保 全 す る か を 考 え て い る 。 研 究 総 局 で は 、 都 市 文 化 に 関 す る
リサ ー チ プ ロ ジ ェ ク トを 立 ち 上 げ て い る 。
1985年 か らス タ ー ト した 『欧 州 文 化 首 都 』 は 、欧 州 市 民 に 認 知 度 が 高 く成 功 した 試 み で
あ る 。 これ は 、 旧 情 報 通 信 文 化 総 局 の 担 当 で 、 毎 年 欧 州 の 文化 首 都 を定 め 、 そ の 都 市 固 有
の 文 化 を 広 く欧 州 市 民 に 知 っ て も ら う機 会 と す る と同 時 に、 そ の 都 市 で 内 外 の 多 様 な 文 化
的 イ ベ ン トを 催 し、都 市 の 文 化 度 を高 め る こ と を 目 的 と して い る 。グ ラ ス ゴ ー は1990年
に
欧 州 文 化 首 都 に 選 ば れ た こ とが 、 文 化 の み な らず 経 済 的 に も都 市 を 再 生 し雇 用 を増 や す 呼
び水 とな った。
EUは
、 経 済 至 上 主 義 的 な 価 値 観 に偏 っ て 豊 か な 都 市 づ く りに 手 を 貸 そ う と し て い る の
で は な い 。 「高 齢 者 、若 者 、 女 性 、 ビ ジ ネ ス の トップ 、 移 民 、 商 店 主 、 障 害 者 、 労 働 者 、 芸
術 家 な ど あ ら ゆ る 欧 州 市 民 が 、 明 日の 都 市 に 居 場 所 を 見 出せ る」 都 市 づ く りを 目指 して い
る こ とを 、 広 く欧 州 市 民 に 知 っ て も らお う と努 力 して い る 。
II.5-2.『
都 市 ア ジ ェンダ へ向 けて』 以降
『都 市 ア ジ ェ ンダ へ 向 け て 』 に 対 す る 他 主 体 の 見 解
『
都 市 ア ジ ェ ン ダ へ 向 け て 』 は 、EUレ
あ る 。 第1の
ベル で独 自の都市 政策 を持つ た め の準備 文書 で
ス テ ッ プ で 課 題 を 明 らか に し、 第2の
ス テ ッ プ で現 在 実 行 さ れ て い る対 策 を
整 理 す る と こ ろ ま で を 追 っ て き た 。 次 の ス テ ップ が 、 将 来 に 向 け てEU都
す こ とで あ る 。1997年
『都 市 ア ジ ェ ン ダ へ 向 け て 』第3章
市 政策 を描 き出
で は 、将 来 へ 向 け た 都 市 政 策 の
おお よそ の方 向性 が 示 され た。
『都 市 ア ジ ェ ン ダ へ 向 け て 』が 公 表 さ れ る 前 後 、2000年 以 降 の 次 期 予 算 編 成 を に ら ん で 、
第XVI総
局 内 の 少 数 派 グ ル ー プ が 都 市 に フ ォ ー カ ス して 構 造 基 金 の 配 分 を 見 直 す 案 を 模 索
して いた 。 「1997-99年 は 、 大 枠 を め ぐっ て 競 い合 う時 期 と な っ た 。 単 に都 市 問 題 を ど う位
置 づ け る か に 収 ま らず 、 公 共 政 策 の 優 先 課 題 に議 論 が 及 び 、 構 造 基 金 を 支 出 す る優 先 課 題
に 関 す る 根 本 的 な 問 題 とな っ た 。 例 え ば 、 ドィ ッ や ス カ ン ジ ナ ビ ア 諸 国 は 、 これ を 機 に 、
環 境 問 題 に対 す る 取 組 み を 前 進 させ た い と考 え て い た 。 他 方 、 第XI環
ナ ブ ル な 発 展 や ア ジ ェ ン ダ21を
境 総 局 もサ ス テ イ
重 点 課 題 と位 置 づ け て いた 。イ ギ リス は 、当 時 、保 守 系 政
府 の 政 策 路 線 の延 長 で 、 経 済 競 争 力 、 効 率 化 、 民 主 主 義 の 強 化 、 市 民 の 選 択 、 サ ー ビ ス マ
ネ ジ メ ン トな ど の 課 題 を 前 面 に押 し 出そ う と した 。 フ ラ ン ス は 、 自国 の 都 市 政 策 路 線 寄 り
で 、 社 会 的 テ ー マ を 優 先 的 に 進 め た い意 向 を 示 した 」(Le Gal〓s,2002,102)。
都 市 政 策 の 多 様 な ス テ イ ク ホ ル ダ ー ら も、 欧 州 委 員 会 へ の ロ ビー 活 動 や 議 会 を 通 じて 都
市 を次 期 予 算 配 分 の 論 点 に押 し上 げ る の に 貢 献 した 。EUレ
ベ ル の 都 市 政 策 の あ り方 につ
い て 、 加 盟 各 国 や 地 域 政 策 担 当 以 外 の 総 局 の 思 惑 に 加 え 、 そ の他 の ス テ イ ク ホ ル ダ ー らの
影 響 力 も無 視 で き な い も の だ っ た 。都 市 政 策 の 多 様 な ス テ イ ク ホ ル ダ ー ら は 、『都 市 ア ジ ェ
ンダ へ 向 け て 』 に 対 して 見 解 を 示 し て い る 。 欧 州 議 会 、 各 国 、 地 方 自治 体 、NPOは
、 『都
市 ア ジ ェ ンダ へ 向 け て 』を 概 ね 歓 迎 した 。1996年 欧 州 サ ス テ イ ナ ブ ル 都 市 報 告 書 を ま とめ
た 都 市 環 境 専 門 家 グ ル ー プ 、 地 域 委 員 会 、 ユ ー ロ シテ ィ は 、 意 見 書 を提 出 し、 皆 『都 市 ア
ジ ェ ン ダへ 向 け て 』 を評 価 す る 基 本 姿 勢 を示 した 。 た だ し、 前2者 は 、 見 解 の 異 な る 点 を
意 見 書 に 盛 り込 ん で い る[表3,4,5-1]。
〈
都市環境専門家グループの意見書〉
『都 市 ア ジ ェ ン ダ へ 向 け て 』 第1章
で は 、 都 市 にお け る課 題 群 が 、 社 会 、 経 済 、 環 境 の
3相 で 整 理 さ れ て い る 。 都 市 環 境 専 門 家 グ ル ー プ に よ る 『
サ ス テイ ナ ブル 都 市 報 告 書 』
(Expert Group on the Urban Environment,1996)の
サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ の3側 面 と重 な る。
前 章 で 見 た よ う に 、 後 者 は サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ の 三 側 面 が 像 を結 ぶ 場 と して 都 市 に 注 目 し
て いた 。 そ れ に対 して 前 者 の 『
都 市 ア ジ ェ ン ダ へ 向 け て 』 で は 、 通 り一 遍 の 雇 用 対 策 で は
改 善 の 兆 しが 見 え な い 長 期 失 業 者 問 題 に対 して 、 都 市 の 三 相 を総 動 員 して 解 決 の 突 破 口 を
見 出 そ う とす る意 図 が う か が え る 。 環 境 、 経 済 、 社 会 文 化 の 三 側 面 か ら対 象 課 題 に ア プ ロ
ー チ しよ う とす る 思 想 は双 方 に 共 通 して い る が 、 問 題 意 識 と優 先 目標 が 異 な る た め に、 微
妙 な ず れ が 顕 在 化 して い る 。
サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ と い う用 語 に 着 目す る と、そ の 違 い は 歴 然 とす る 。1996年 報 告 書 は
サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ と い う大 き な 傘 の 下 で 、 環 境 の み な らず 経 済 と社 会 ま で を 幅 広 く論 じ
て いた 。 環 境 学 的 エ コ シ ス テ ム の 思 想 を社 会 や 経 済 に も応 用 し、 サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ と い
う 環 境 発 の概 念 が 都 市 問 題 をす っ ぽ り包 み 込 んで い る。 他 方 、1997年
『都 市 ア ジ ェ ン ダ へ
向 け て 』 で は 、 サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ と い う言 葉 は ほ と ん ど使 われ て い な い 。 環 境 政 策 的 側
面 は 第4節
の 都 市 環 境 に 限 定 され 、 そ れ 以 前 に論 じ られ て い る 経 済 社 会 問 題 に サ ス テ イ ナ
ビ リテ ィ の概 念 は 間 接 的 に しか 反 映 さ れ て い な い 。 た だ し、 都 市 環 境 の項 に の み 着 目す れ
ば 、 自然 環 境 と 建 造 環 境 の 両 面 で 都 市 環 境 を と らえ る 発 想 な ど、 環 境 政策 面 の これ ま で の
成 果 が 生 か され て い る 。 都 市 環 境 問 題 を 、 大 気 汚 染 、排 水 、 廃棄 物 、 エ ネ ル ギ ー 問 題 な ど
狭 義 に と らえ る こ とな く、 歴 史 的 な ま ち 並 み な どの 文 化 資 産 や 公 共 空 間 の 質 を建 造 環 境 と
と らえ 、都 市 環 境 問 題 に統 合 して い る 。1990年 都 市 環 境 緑 書 以 来 、 環 境 政 策 面 で 積 み 上 げ
られ て き た 発 想 で あ る 。
1996年 の報 告 書 の編 纂 に あた っ た 都 市 環 境 専 門 家 グ ル ー プ は 、1997年
『
都 市 ア ジェ ンダ
へ 向 け て 』に 対 して 意 見 書(Expert Group on the Urban Environment ,1998)を 提 出 して い る 。
同 意 見 書 は 、全 般 的 に は1997年
欧 州 委 文 書 を 歓 迎 す る と した 上 で 、① 経 済 的 側 面 が 強 調 さ
れ て い る 一 方 で 、 環 境 的 側 面 が 手 薄 に な っ て い る、 ② 都 市 部 を対 象 と す る既 存 のEU施
を、経 済 ・社 会 ・環 境 の3側 面 か ら評 価 す べ き だ 、③ 縦 方 向(EU、
策
国 、地 方)と 横 方 向(縦
割 り政 策 横 断 型)の 政 策 統 合 を 目標 に 掲 げ る べ き だ 、④ 都 市部(urban)と
後 背 地 との 依 存
関 係 を考 慮 す べ き だ 、 ⑤ 次 期 加 盟 東 欧 諸 国 の 都 市 問 題 が 重 要 で あ る、 の5つ
の点 を指摘 し
て い る 。① に つ い て は 、1996年 報 告 書 に示 され た 諸 政 策 を 包 み 込 む 概 念 と して サ ス テ イ ナ
ビ リテ ィ の 重 要 性 を再 度 強 調 して い る 。
1996年
『
都 市 ア ジ ェ ン ダへ 向 け て 』が 、 経 済 の 将 来 性 や 雇 用 の安 定 を都 市 政 策 の最 優 先
課 題 に 掲 げ て い る 点 を 批 判 し、「
欧 州 お よ び 地 球 規 模 で よ りサ ス テ イ ナ ブ ル な 将 来 を実 現 す
る こ と を最 大 の 目標 とす る の で あ れ ば 、 環 境 負 荷 低 減 に も っ と重 点 を お く べ き だ 」 と主 張
して い る。 前 章 で 見 た よ う に、 同 専 門 家 グ ル ー プ は 、 環 境 容 量 に 制 約 され る 自 然 環 境 系 の
エ コ シ ス テ ム に 習 い、 都 市 で も社 会 系 の エ コ シ ス テ ム を構 築 す る こ と を提 唱 して き た 。 こ
の 観 点 か ら雇 用 問 題 に 対 す る 考 察 を深 め て い る 。 彼 らは 、 循 環 系 の シ ス テ ム と して 都 市 を
と ら え 、 「自然 資 源 の 過 大 利 用 と人 的 資 源 の 過 小 利 用 」が 失 業 を 生 ん で い る と分 析 し、人 的
資 源 を よ り活 用 し 、 自然 資 源 の 浪 費 を 抑 え る こ とで 、 失 業 問 題 解 消 の 糸 口 を見 出 そ う と し
て い る 。 環 境 学 的 な 観 点 か ら、 省 力化 を善 と して き た 技 術 開 発 に 疑 問 を投 げ か けて い る 。
④ の 都 市 と農 村 の相 互 依 存 関 係 に 対 す る 意 見 書 指 摘 に お い て も、 有 限 な 容 量 を前 提 に循
環 系 の エ コ シ ス テ ム構 築 に こそ 、 サ ス テ イ ナ ブ ル な将 来 が 可 能 に な る と い う 一 貫 した 思 想
が う か が え る 。「
都 市 は 閉 鎖 系 を形 成 して い な い 」か ら、後 背 地 の 農 村 と 対 で 都 市 を 広 義 に
と らえ 、 政 策 の 対 象 とす べ き で は な い か と進 言 して い る 。 農 村 ま で 抱 え込 ん だ 都 市 の 概 念
を 取 り入 れ 、1997年
『都 市 ア ジ ェ ンダ へ 向 け て 』の 都 市 計 画 ゾ ー ニ ン グ批 判 の 主 張 を発 展
させ る こ と で 、 コ ンパ ク トシ テ ィ を 支 持 す る 姿 勢 を 示 して い る 。 環 境 に 配 慮 した 主 要 な 都
市 モ デ ル と して 、 グ リー ン シ テ ィ と コ ンパ ク トシ テ ィ を あ げ て い る 。 そ して 「
極 度 に都 市
化 した 欧 州 の現 状 で は 、 ス プ ロー ル を最 大 限 抑 制 し、 コ ン パ ク トシ テ ィ を 目指 す しか 選 択
肢 は な い 」 と結 論 づ け て い る 。
〈
地域 委員 会〉
よ り厳 しい 姿 勢 で 、『都 市 ア ジ ェ ン ダ へ 向 け て 』を批 判 した の が 地 域 委 員 会 だ っ た 。地 域
委員 会 は、 大筋で は 『
都 市 ア ジ ェ ン ダ へ 向 け て 』 を歓 迎 して い る 。 そ の 上 で 、 同委 員 が 提
出 した 意 見 書(CoR,1998)は
、 「都 市 が 存 在 す る 限 り、 都 市 は 都 市 を 取 り巻 く地 域 に依 存
し て い る 。 水 や 食 糧 生 産 、 製 造 業 の 原 料 だ け で な く、 労 働 の 面 で も、 都 市 は 地 域 に 依 存 し
て い る 。… 他 方 、地 域 は 遠 い 昔 か ら地 域 の 中 核 都 市 に依 存 し て き た 。都 市 は 様 々 な 利 便(商
業 や 通 商 、娯 楽 、 教 育 、 保 健 な ど)を 地 域 に 供 給 して き た だ け で な く、 都 市 を 取 り巻 く地
域 に 住 む ひ とた ち に仕 事 を 与 え 、 彼 らの 収 入 源 とな っ て き た 」 と述 べ 、 都 市 と 農村 の相 互
依 存 関 係 を 力 説 して い る 。
『EUに お け る サ ス テ イ ナ ブ ル な 都 市 発 展:行
動 計 画 骨 子 』(1998年)
これ ら都 市 政 策 の ス テ イ ク ホ ル ダ ー た ち か ら出 され た 意 見 を考 慮 した 上 で 、 再 び 欧 州 委
員 会 は 地 域 政 策 総 局 を 中心 に、 一 年 後 、 『EUに お け る サ ス テ イ ナ ブ ル な 都 市 発 展:行 動 計
画 骨 子 』(EC-Regional
Policy,1998a)を
催 され 、 同 骨 子 に 示 さ れ た24の
ま と め た 。1998年
ウ ィー ンで 都 市 フ ォー ラ ム が 開
行 動 計 画 が 採 択 され た 。24の 行 動 計 画 は 、 経 済 、 社 会 、
環 境 の3分 類 に都 市 統 治 の し く み を加 え 、4つ に分 類 さ れ て い る[表5-2]。
1998年 ウ ィ ー ン 都 市 フ ォ ー ラム は 、欧 州 を都 市 と い う側 面 か らみ れ ば 大 き な 躍 進 とな っ
た 。 都 市 の 関 係 す る あ ら ゆ る 問 題 が 討 議 さ れ た 。 そ の テ ー マ は 、 環 境 、 生活 の 質 とサ ス テ
イ ナ ブ ル な 発 展 、 社 会 的 排 除 、 経 済 競 争 力 、 交 通 と欧 州 ネ ッ トワ ー ク 、 住 宅 、 パ ー トナ ー
シ ッ プ の あ り方 、 建 造 環 境 を更 新 す る の に新 技 術 を適 用 す る こ と、 健 康 の 問 題 、 文 化 、 ガ
バ ナ ン ス 、 国 境 を 越 え た 協 力 な ど、 広 範 に 及 ん だ 。 ワ ー ク シ ョ ッ プ で は 、 都 市 総 局 の 創 設
が 提 案 され た 。 縦 割 り政 策 を も う1本 付 加 す る た め の 新 局 案 で は な く、 従 来 の 個 別 政 策 総
局 と は 性 格 の 異 な っ た よ り横 断 的 な 政策 総 局 と して イ メー ジ され て い た 。 あ る い は 、 独 立
した 総 局 とす る の で は な く 、 都 市 担 当 委 員(EU大
臣)を 置 く と い う提 案 もあ っ た 。EUレ
ベ ル に 都 市 政 策 と い う新 た な 枠 組 み を つ くろ う と い う 方 向 で 議 論 が 盛 り上 が っ た13。
欧 州 委 員 会 の 提 示 した 『ア ジ ェ ンダ2000』 を め ぐ り、2000年 以 降 の 予 算 折 衝 が 大 詰 め だ
っ た こ ろ で も あ っ た 。 トロ ー ヤ ン欧 州 委 事 務 総 長 は 、1998年
地 域 政 策 の 主 幹 を な す 目的1地
ユー ロシテ ィのセ ミナー で 、
域 に対 す る 基 金 支 出 の あ り方 に つ い て 、都 市 の 戦 略 的 役 割
を重視 す る発言 を して いる。 「
第1に
、 都 市 や 町 の 成 長 の 動 力(growth
engines)と
して の
役 割 を 探 求 し政 策 の 質 を高 め る こ と が で き る 。 第2に 、 社 会 経 済 開 発 政策 に 地 方 の 政 策 決
定 者 を 巻 き 込 む こ と に よ りEU政
策 の 法 的 根 拠 が 固 ま り地 方 で の 認 知 理 解 度 が 高 ま る 。 第
3に 、 パ ー トナ ー シ ッ プ の 構 図 が 広 が り、 地 方 の エ ネ ル ギ ー を活 性 化 す る」 と3つ の 理 由
を あ げ 、都 市 の 役 割 を 戦 略 的 に活 用 す る こ と に よ っ て 、EU地
域 政 策 の効 果 を 高 め る 方 向
に 期 待 を 示 した 。 『ア ジ ェ ン ダ2000』 に 示 さ れ た 予 算 案 が 成 立 す れ ば 、21世 紀 の 早 い 時 期
に 、 都 市 総 局 、 あ る い は そ れ に 類 似 した し く み が で き る の で は な い か と思 わ れ た 。
1998年 行 動 計 画 骨 子 は 、 環 境 面 で も1997年
近 づ け る 内 容 とな っ て い た 。1998年
う表 題 に み られ る よ う に 、1997年
『
都 市 ア ジ ェ ンダ へ 向 け て 』 を 一 歩 実 践 に
行 動 計 画 骨 子 は 、 「サ ス テ イ ナ ブ ル な 都 市 発 展 」 と い
『都 市 ア ジ ェ ン ダへ 向 け て 』 よ り、 サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ
に配 慮 を 示 して い た 。 こ れ は 、 先 述 した 都 市 環 境 専 門 家 グ ル ー プ の 意 見 書 を 勘 案 した も の
と考 え られ る 。 ユ ー ロ シ テ ィ は 、 フ ォ ー ラ ム に参 加 し、 独 自の 提 案 を 公 表 した 。 行 動 計 画
骨 子 は 、 実 践 へ 向 け て 踏 み 出 した だ け に 、 抽 象 的 な 概 念 を 具 体 化 す る 難 し さ も浮 彫 り に な
っ た 。 行 動 計 画 に は 、 エ コ ラベ ル 、 環 境 規 制 、 汚 染 予 防 、 汚 染 者 負 担 の 原 則 な ど、 わ が 国
で も よ く聞 か れ る 都 市 環 境 対 策 の メ ニ ュ ー が 充 実 して い た 。 しか し、 先 の 意 見 書 が 有 限 な
環 境 容 量 か ら発 想 して 価 値 観 の 大 転 換 を 要 望 した の に対 して 、 加 算 的 に環 境 面 を よ り重 視
した 内 容 に と ど ま っ て い た 。 「1998年 の ウ ィー ン都 市 フ ォ ー ラ ム は 、 サ ス テ イ ナ ブ ル シ テ
ィ 政 策 の 新 境 地 を 拓 く の で は な い か 」 と い う期 待 が ふ く らん で い た だ け に 、 失 望 の 声 も少
な くな か っ た 。
1998年 の ウ ィ ー ン都 市 フ ォー ラ ム 以 降 、地 域 政 策 総 局 が リー ダ ー シ ッ プ を と っ た サ ス テ
イ ナ ブ ル シ テ ィへ の 取 組 み は 足 踏 み 状 態 に あ る 。 厳 し い予 算 制約 の現 実 が 重 く の しか か っ
て いる。
ル ・ガ レは 、 「こ の(都 市)政 策 分 野 を め ぐっ て は 不 確 か な 点 が 多 く 、制 度 化 へ と直 結 す
る シ ナ リオ が あ る と考 え る の は 間 違 い で あ ろ う」(Le Gal〓s,2002,103)。EU都
市 政策 には
法 的 根 拠 が な い う え 、 先 述 した よ う な 厳 し い 政 治 状 況 を受 け て 、 予 算 が 事 実 上 減 額 され る
事 態 とな り、 欧 州 委 員 会 は 都 市 政 策 を 構 築 して い く 力 量 に 欠 け 、 政 治 力 も物 足 りな い状 態
で 、EU都
市 政 策 が 醸 成 され る環 境 に あ る と は いえ な い(Atkinson,2001,400)。
都 市 政策 を
13 EU都
市 政 策 創 設 に向 けた 動 き は 、マー ス トリヒ ト条 約 に向 け た 交 渉 過 程 で 一 度 浮 上 して い る。1991年 、
ユ ー ロ シテ ィは じめ 社 会 経済 諸 団 体 の 声 を バ ッ ク に 、欧 州 委 員 会 は マー ス トリ ヒ ト条約 にEUレ ベ ル の 都
市政 策 権 限 を盛 り込 も う と試 み た が 、 加 盟 各 国 の反 対 に合 い一 度 は 矛 先 を納 め た(Tofarides,2003,252)。
1993年 、 当時 地 域 政 策 担 当 委 員B.ミ
ラ ンは 、 ユー ロシ テ ィの 会 議 で 、 「
わ れわ れ は 、国 ・地 域 ・地 方 レ
ベ ル で 構 想 され た 都 市 政 策 を 実 行 して い く手助 け と はな りう るが 、わ れ わ れ 独 自 の都 市 政 策 を構 想 しよ う
と は して いな い」 と慎 重 な ス タ ンス を とっ て い る 。(Tofarides,2003,63)1993年
マ ー ス トリ ヒ ト条 約 で 一
気 に地 域 政 策 が 拡 充 され て い っ た 勢 い に 乗 って 、2000年 以 降 の 予算 折衝 の過 程で にわ か に 再 浮 上 した 。
核 にEUレ
ベ ル の 政 策 を 強 化 し、 政 策 統 合 を 進 め よ う と い う欧 州 委 員 会 の 思 惑 は 狂 っ て し
ま っ た 。緊 縮 予 算 と な っ た た め 、2000年 以 降 、 都 市 重 視 の 方 針 は遵 守 され つ つ も、都 市 向
け 予 算 は 加 盟 国 に 再 配 分 され 、EUレ
さ さや か な 共 同 体 主 導URBANす
1990年 代 、 一 度 はEU都
ベ ル の 政 策 手 段 は む しろ 切 り詰 め られ て し ま っ た 。
ら廃 止 の 崖 っぷ ち に 立 た され て い る 。
市 政 策 創 設 に 向 け て 得 た 勢 い が 座 礁 して い る現 実 に 対 して 、 今
後 の 展 望 は様 々 で あ る 。 パ ー キ ン ソ ン は 、EUレ
ベル の都市 政策 の役割 はす で に終 わ った
と い う見 解 に 立 ち 、 各 国 の 都 市 政 策 の 充 実 を 主 張 して い る(パ ー キ ンソ ン 、2001)。 彼 は 、
1992年
「
都 市 化 と欧 州 共 同 体 にお け る都 市 の 機 能 」 と題 す る レポ ー トを地 域 政 策 総 局 の 依
頼 で ま と め 、1997年 都 市 ア ジ ェ ン ダへ 向 け て 、1998年 行 動 計画 骨 子 な ど一 連 のEU都
市政
策 へ の 気 運 の 高 揚 を後 に 生 む 政 策 の 種 を 蒔 い た 人 物 で あ る 。 そ の 彼 は 現 在 、 イ ギ リス 副 首
相 プ レス コ ッ ト官 房 都 市 再 生特 別 室 の ブ レ ー ン と して 、 イ ギ リス の都 市 政 策 に 尽 力 して い
る。先 述 した よ う にEU都
市 政 策 の 最 後 の 砦 とな っ て い るURBAN不
要 論 を い ち は や く2000
年 の 予 算 折 衝 時 点 か ら主 張 して い る 。 他 方 、 同 じイ ギ リス の 都 市 問 題 専 門 家 な が ら、 ア ト
キ ン ソ ン は 、EU都
市 政 策 の 行 く先 が 不 透 明 な 今 、 「
社 会 的次元 での取組 みが 緩慢 で、 経済
成 長 を 阻 害 し競 争 力 を 削 ぐ要 因 と して 都 市 問 題 が 重 くの しか か っ て い る 今 日 、EUが
都市
政 策 実 験 を支 援 し続 け 、優 れ た 実 例 を 広 め て い く こ とが 短 期 的 には 期 待 され て い る」
(Atkinson,2001,400)と
い 目でEU都
、EU都
市 政 策 に し か 担 え な い 役 割 が あ る こ とを 主 張 し続 け 、 長
市 政策 の 土 壌 が 熟 す の を 待 つ ス タ ンス を 取 っ て い る 。
い ず れ にせ よ 、 都 市 を 中 核 にEU政
策 全 般 を 再 編 す る 気 運 は 、1990年 代 後 半 に 比 べ て 大
き く落 ち 込 ん で い る 。「
都 市 と地 域 が 手 を携 え て 欧 州 を つ くっ て い く と い う ドロ ー ル の 描 い
た ダ イ ナ ミズ ム は 、 欧 州 委 員 会 委 員 長 が サ ン テ ー ル か ら プ ロデ ィ へ と継 承 さ れ て い く時 期
に 、 薄 れ て い っ た 。 こ こ数 年 、 加 盟 各 国 は 欧 州 委 員 会 を よ り間近 で 監 視 し、 欧 州 統 合 の 深
化 へ 向 け た 明 らか な 動 き を 未 然 に 防 こ う と して い る。 農 業 お よ び 地 域 政策 な ど を含 む 複 数
の 政 策 分 野 で 、加 盟 各 国(特 に ドイ ツ)は 国 レ ベ ル に 権 限 を 取 り戻 す こ とを 主 張 して い る 。...
ドイ ツ の 新 しい 諸 州 、 ベ ル ギ ー 、 ス ペ イ ンの 自治 州 は 、 彼 らの 自治 権 が侵 害 され る こ と を
恐 れ て 欧 州 統 合 深 化 の 動 き を 警 戒 して い る 。 特 に ドイ ツ の 諸 州 は 、EUレ
ベ ル で 都 市 の貧
困に対する政策が開発されることに強行に反対した。」((Le Gales,2002,103)。
予 算 制 約 に 阻 ま れ てEUレ
ベ ル のサ ス テ イ ナ ブ ル シテ ィ 政 策 が 失 速 気 味 な こ と に 、 ユ ー
ロ シ テ ィ のA・ フ ァ ン デ フ ェ ン は 「1998年 の ウ ィ ー ン都 市 フ ォー ラ ム で 採 択 さ れ た 行 動 計
画 の う ち 、EUは
何 を 実 践 して き た だ ろ うか 。 サ ス テ イ ナ ブ ル な 発 展 に 向 け た 行 動 計 画 骨
子 は 絵 に描 い た 餅 に終 わ っ て い な い だ ろ うか 」14と 抗 議 して い る。
現 在 、EUの
サ ス テ イ ナ ブ ル シ テ ィ 政 策 は 、 新 た な 課 題 に 直 面 し次 の 展 開 が 見 え に く い
状 態 に あ る 。 サ ス テ イ ナ ビ リテ ィ は 環 境 の み な らず 社 会 や 経 済 を包 摂 した 概 念 で あ り、 対
象 が 広 す ぎ て 具 体 的 な 政 策 課 題 に のせ る の が む ず か し い 。 「
サ ス テ イ ナ ブ ル な 発 展 」 は 、抽
象 レ ベ ル の 政 治 的 合 意 で あ っ て 、 直 訳 して 個 別 政 策 に ブ レイ ク ダ ウ ンす る と 間 違 っ た 方 向
に 進 み か ね な い。
14 1999年9月
ユ ー ロ シテ イ 、 ブ リュ ッセ ル 事 務 所 にて ヒア リ ング。
表5-2『EUに
1998b)よ
II.5-3.小
お け る サ ス テ イ ナ ブ ル な 都 市 発 展:行
動 計 画 骨 子 』(EC-Regional
Policy,
り筆 者 作 成 。
括
1997年
『都 市 ア ジ ェ ン ダ へ 向 け て 』 お よ び1998年
性 格 が 強 いEUレ
与 え た 。EUレ
『行 動 計 画 骨 子 』 は 、 個 別 縦 割 りの
ベ ル 政 策 に 対 して 、 地 域 政 策 の リー ダ ー シ ッ プ で 、 都 市 と い う横 断 軸 を
ベ ル 政 策 が 拡 充 して い っ た1990年
代 に、多 数の 政策 分野 で都 市が重み を増
して い る 実 態 を明 らか に し、 そ の 事 実 に 立 脚 して そ の 後 の 都 市 政 策 を 展 望 した 。 これ は 、
EUレ
ベ ル 政 策 が 農 村 部 に 比 して 都 市 部 を 軽 視 して い る と の 批 判 を か わ す と 同 時 に 、 欧 州
委 員 会 が 随 所 で 行 わ れ て い る 都 市 関 連 施 策 を 統 合 的 に把 握 す る こ と で 協 調 を 可 能 に し、 よ
り政 策 効 果 を 高 め よ う と す る も の だ っ た 。 そ の 陰 に は 、 欧 州 委 員 会 の 長 期 的 な 戦 略 が 見 え
隠 れ して い る 。 す な わ ち,欧 州 委 員 会 は 、EUレ
ベ ル で 取 り組 む べ き 都 市 問 題 を 明 ら か に
す る こ と で 、 地 域 間 格 差 是 正 に と ど ま らず 、EUレ
る。EU統
ベル政策 の持 続的 な役割 を主張 して い
合 市 場 の 落 と し子 で あ る 都 市 問 題 に 対 し て は 、 個 別 都 市 の行 政 や 各 国 の 都 市 政
策 だ け で は 力 不 足 で 、EUレ
ベ ル の 都 市 政 策 が 不 可 欠 で あ る--欧
ェ ンダ へ 向 け て 』 に 託 して 、EUレ
州委 員 会 は 『
都市アジ
ベ ル 政 策 の 展 望 を示 して い る 。
『都 市 ア ジ ェ ン ダ へ 向 け て 』 か ら 『行 動 計 画 骨 子 』 ま で の プ ロセ ス は 、 欧 州 委 員 会 内 の
様 々 な 政 策 分 野 の 共 通 項 と して 都 市 が 有 力 で あ る こ と を 明 らか に した のみ な らず 、 欧 州 委
員 会 外 か らEUレ
ベ ル 政 策 に働 き か け を 強 め て き た 活 動 主 体 との イ ン タ ー フ ェ イ ス がEU
レ ベ ル 政 策 に 建 設 的 な 展 開 を与 え う る こ と を 示 した とい え る 。 都 市 環 境 専 門 家 グ ル ー プが
介 在 して 環 境 政 策 と地 域 政 策 の イ ン タ ー フ ェ イ ス が 充 実 した 。 同 グ ル ー プ が 『都 市 ア ジ ェ
ン ダ へ 向 けて 』 に 対 して 提 出 した 意 見 書 は 、 失 業 問 題 に翻 弄 され て 加 速 度 的 な 都 市 開 発 政
策 容 認 に 傾 き か け た 都 市 政 策 を牽 制 し、EU都
市 アジ ェ ンダをサス テイナ ブルな 発展 の方
向 に 引 き 寄 せ よ う とす る もの だ っ た 。 両 者 を 隔 て る溝 の 深 さが 明 らか に な っ た 半 面 、 そ れ
を 互 い に 認 識 しつ つ 雇 用 開 拓 と環 境 保 全 の 課 題 が 都 市 問 題 と して 統 合 的 に取 り組 まれ る道
が見 え て きた 。1年 後 の 行 動 計 画 骨 子 は 「
サ ス テ イ ナ ブル な 都 市 発 展 」 と い う言 葉 が 前 面
に 打 ち 出 され た 。
都 市 以 外 は 闇 な の か--1997年
『都 市 ア ジ ェ ン ダ へ 向 け て 』が 公 表 され た の ち オ ー プ ン
な 議 論 で 最 も問 わ れ た 点 の ひ とつ だ っ た 。『都 市 ア ジ ェ ン ダへ 向 けて 』は 多 方 面 か ら高 く 評
価 され た が 、 都 市 を一 方 的 に持 ち 上 げ す ぎ て い た の で は な い か と い う 反 論 が 出 た 。 前 出 の
都 市 環 境 専 門 家 グ ル ー プ は 、 環 境 的 ア プ ロ ー チ か ら都 市 と農 村 を 統 合 的 に と らえ る視 点 が
欠 如 して い る と指 摘 した(Expert Group on the Urban Environment,1998)。
ま た 、地 域 委 員 会
は 、 「都 市 問 題 を 検 討 し都 市 政 策 を 編 み 出 す と き に は 、 機 能 的 都 市 地 域(functional urban
region)の レベ ル で 考 え る こ と 」 を 欧 州 委 員 会 に 求 め た15。 機 能 的 都 市 地 域 と は 、 単 一 あ る
い は 複 数 都 市 と 周 辺 エ リア を含 み 、 地 方 ・地 域 経 済 と対 応 し、 市 民 の 日常 行 動 圏 と ほ ぼ 合
致 す る エ リア を意 味 して い る 。 彼 らは 、 都 市 が 注 目 され た の を好 機 と と ら え て 、 都 市 の は
らむ 地 域 の 重 要 性 を 主 張 し、EUに
お い て 国 民 国 家 に対 す る 地 域 の 相 対 的 比 重 を 高 め る 戦
略 に 出 て い る 。 国 民 国 家 を ブ レイ ク ダ ウ ン した 伝 統 的 地 域 と は 一 線 を 画 し、 都 市 を 窓 口 に
した 地 域 とい う新 た な 地 域 概 念 が 浮 彫 り に な っ た 。
本 章 で 考 察 し た 『都 市 ア ジ ェ ン ダ へ 向 け て 』 を 中 心 と した 動 き は 、価 値 や 立 場 を 異 に す
る 主 体 が 共 有 で き る 政 策 を探 っ て い く ひ と っ の プ ロ セ ス を示 して い る 。 よ り多 く の 主 体 が
そ れ ぞ れ に イ ンセ ン テ ィ ブ を持 っ て 取 り組 む こ と の で き る 方 向へ と裾 野 を広 げ 、 実 効 性 の
高 いサ ス テ イ ナ ブ ル シ テ ィ 政 策 へ と 収 斂 して い く プ ロセ ス に お い て 、EUレ
ベ ル の都市 政
策 は 多 様 な 主 体 の イ ン タ ー フ ェ イ ス の 場 と して 機 能 した と い え る 。
15 「
都 市 に関 す る欧 州 委 文 書(都 市 ア ジ ェ ン ダへ 向 けて
、行 動計 画 骨 子)もESDPを
展 開 させ て い く こ と
の重 要 性 につ い て 触 れ て い る が 、 地 域 委員 会 と経 済 社 会 委 員 会 の 両EU諮 問 機 関 は 、 『都 市 ア ジェ ン ダへ
向 けて 』 に対 す る 意 見 書 で 、ESDPを 、都 市 地 域 に対 す る個 別 政 策 を評価 分 析 し、 個 別 の 取 組 み を コー デ
ィ ネー トす る 共 通 の 枠組 み と して 、発 展 させ て い く こ と の大 切 さ を強 調 した 。 また 、欧 州 レベ ル で の 都 市
問題 を議 論 す る 共 通 の 枠 組 み を提 供 す る もの と してESDPに
期 待 した」(Atkinson,2001,390)。 両 委 員 会 の
意 見 書 の 意 図 は 、都 市 政 策 を 空 間 政策 に位 置 づ け る こと で 、都 市 が 地 域 の牽 引役 とな り社 会 的 な 結 束 を高
め る方 向 へ と誘 お う とす る もの で ある 。
Fly UP