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講演録[PDF版]

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講演録[PDF版]
第22期 情報化推進懇話会
第1回例会:平成18年10月12日(木)
『IT文明時代のハイパー多極分権国家
∼カギを握る団塊世代∼」』
講
西垣
通
師
氏(東京大学大学院情報学環
教授)
財団法人 社会経済生産性本部
情報化推進国民会議
『IT文明時代のハイパー多極分権国家
∼カギを握る団塊世代∼』
西垣
通
― プロフィール
氏(東京大学大学院情報学環
教授)
―
1948年 東京都生まれ。東京大学工学部卒業。工学博士。
日立製作所、米国スタンフォード大学にてコンピュータ・ソフトウェアの研究
開発に従事
1986年
明治大学助教授
1991年
明治大学教授
1996年
東京大学
社会科学研究所教授
2000年より現職。
専門は情報学、メディア論。
技術・文化・社会をふくむ広い観点から情報化社会を考察している。
著書として、『情報学的転回』(春秋社)、
『基礎情報学』(NTT出版)、
『IT革命』(岩波新書)ほか多数。
小説家でもあり、『アメリカの階梯』(講談社)などの作品がある。
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1.中央集権国家は 20 世紀まで
私は今、昨日の新聞の中日優勝の記事に喜んでいます。私は団塊世代で、小さいころか
ら巨人が好きでしたが、江川の問題があったころから読売の経営戦略が少しずつ世の中の
動きとずれてフェアでなくなってきたので、巨人が嫌になってきていたのです。これをレ
ジュメでは「マスコミが支えてきた想像の共同体」という表現で表していますが、これは
政治学者のベネディクト・アンダーソンが「国家とは想像の共同体」と言ったことに由来
します。共同体は普通、face to face のもので、
「共同体の規模は人間の脳の容量によって
規定される」とロビン・ダンバーという人類学者は述べました。
つまり、彼はコミュニケートできる群れの範囲のことを言っていて、人間の場合はそれ
が 150 名なのだそうです。考えてみると、私が年賀状を書くときに仕事以外で個人として
頭に浮かぶのは大体 150 名ぐらいです。また、軍隊の実質的な行動単位である中隊も、初
期農耕民の部落のサイズも大体それぐらいです。そして、このようなリアルな共同体の対
極にあるのが国家や会社などのイマージンの共同体で、それを支えているのがメディアな
のです。ベネディクト・アンダーソンは、アメリカという国家共同体ができた当時の 1776
年には、開拓民はばらばらに住んでいて、馬しか交通手段がなかった。彼らはどうやって
連帯したのか。それは新聞である。新聞でイギリス本国に対抗することを呼びかけた結果、
それを見た人たちに一種の共同体意識がはぐくまれたのだとしました。
日本では敗戦後、国家やナショナリズムというものの評判が悪くなりましたが、軍隊的
な国家はつぶれても日本の国自体がなくなったわけではなく、その統一体をラジオや新聞
が支えていたわけです。当時三大新聞の中ではいちばん部数が少なかった読売新聞は、ス
ポーツ欄を充実させ、読売ジャイアンツを一つのシンボルとしてみんなの気持ちをまとめ
ていくという操作により、テレビのコマーシャルに影響を受けた消費の共同体の形成とと
もに部数を伸ばし、三大新聞のトップに躍り出てきました。しかし今、グローバリゼーシ
ョンのなか、中心選手がメジャーに行くことで、巨人が球界の盟主であるという読売の戦
略の限界が見えてきたということです。
美空ひばりや大鵬、長嶋などの国民的スターをシンボルとした消費共同体の欲望を満た
すために、メーカーが商品を提供するというビジネスモデルにおいては、日本の国全体が
一つのまとまりという感じでした。それが 90 年代にバブルが崩壊したころから怪しくなっ
てきたわけです。バブル崩壊後、政府は公共事業をやって経済的に体力が落ちてきた地方
を支えようとしたのですが、小泉政権になってからは規制緩和と交付金や補助金の減額と
いうダブルパンチを受け、地方は完全に疲弊してしまいました。規制緩和をやると、大き
いメーカーは地方にあった工場を中国などの外国に移転してコストを下げようとしますの
で、ますます地方は打撃を受けるわけです。規制緩和によって潤ったのは情報と力を持っ
ている首都圏でした。つまり小泉政権は、バブルがはじけて少し弱った日本を、東京中心
に立て直そうとしたのです。
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2.一極集中国家・日本
実は、日本は世界でも希なほどの一極集中国家なのです。デベロッピング・カントリー
は別にして、日本ぐらい人口がいる国で、権力が集中する単一性国家を形成している国は
ありません。割に集中しているのはイギリス、フランス、イタリア、韓国ですが、そのい
ずれも人口は 5000∼6000 万人程度です。また、インドやアメリカなど、日本より人口が多
い国のほとんどは、州による分権国家になっています。連邦国家として行動するときは別
として、法律を決め税金を取ってそこのガバナンスをやっているのは地方、あるいは州な
のです。さらに今、イタリアやフランスは分権化を図っているところです。
要するに、今日私が申し上げたい結論は、IT文明の時代には分権化していったほうが
いいということです。その理由の一つは、今、それが技術的に可能だということです。昔、
なぜ集中がよかったかというと、物と情報がかなり一体だったからです。情報がほとんど
文章の形をとっていて、テレビやラジオはあっても、ビデオなどはありませんでした。そ
ういう状況では、基本的な企業活動は全部文章で媒介され、それは紙と一体となっていま
した。コピーを取ることはできても、物を運ばなければならなかったのです。そして、組
織の下の者が文章を作成して、それを上の者が順に決済するという形をとっていたのです。
それに対し、情報と物が完全に分離できるのがデジタル技術なのです。ファックスを考
えると分かりやすいと思います。メールも同様です。今や光ファイバーがくまなく敷かれつ
つありますので、画像でも何でも瞬時に送れるのです。それが物となると、宅配便がある
にしても、光ファイバーで情報を送るときの道の幅との違いは歴然としています。しかし
現状、日本では国土の 3.5%にすぎない1都3県に全人口の4分の1が集中しています。さ
らに、国税のうち都民が負担している部分が三十数パーセントで、その大部分が交付税と
して地方に還元されています。都民は1人当たり平均 130 万円ぐらい国税を払っているの
に、戻ってくるのは 11 万円程度で、払った分の 10%にもならないのです。一方、島根県で
はそれが 439%です。しかし、その一方で、都民は水やエネルギー、食料等を地方に頼って
いるわけです。
さらに、日本の大企業本社の3分の2以上が都心に集中しています。大西隆先生による
と、パリ、ロンドン、ニューヨークなどでも、そのパーセンテージは2割程度だそうです。
つまり、マンチェスター、リヨン、ロサンジェルス等に分散しているわけです。また、堺
屋太一さんによると、日本の情報発信の8割以上が東京からなされているそうです。例え
ば雑誌等の出版物はその8∼9割が東京で発行されていますし、テレビ番組は東京のキー
局が作ったものを地方局に渡し、地方局がそれを流しているという形です。それに対し、
アメリカのテレビ局は地元のフットボールの試合結果など、けっこうローカルな番組を作
っています。要するに、巨人の試合を全部の人が見るという状況ではないわけです。
また、東京が8∼9割の情報を発信しても、それを消費している割合は 10%ぐらいです。
つまり、本を書いたり、プロデュースしたり、その他ジャーナリスティックな活動をする、
あるいは製品の企画をするという場合は、東京にいなければ仕事にならないので、ますま
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す日本の頭脳が東京に集中するという感じになっているわけです。
3.ハイパー多極分散
一方、東京の物価は世界でトップクラスです。先日の調査でモスクワが1位となったそ
うですが、東京はそれまでの 50 年ほどの間、ずっと1位だったのです。外国人にとっては
住みにくい町です。また、私は東京生まれ・東京育ちの人間ですが、昔に比べて非常に住
みにくくなってきたという感じがします。100 年の間に都市の温度は1度ぐらい上がるのだ
そうですが、東京はこの 100 年で3度上がったといわれます。ヒートアイランド現象がも
のすごいわけです。インドネシアのジャングルでも夜は涼しいといいますが、東京の特殊
な現象として、今、熱帯夜が続くようになりました。昔は涼しかったのです。また、通勤
時間はものすごく長くなってきています。
こういう状況ではもたないのではないかということで、私は「ハイパー多極分散」とい
うことを提案したいと思っているのです。今、日本を 13 ぐらいに分けようという道州制の
議論がかなり進んでいるようですが、いきなり県単位にしてしまうと、地方は自立できな
いと思います。ですから、いったんもう少し大きな単位にするというのは割にいいアイデア
ではないでしょうか。
1980 年にアルビン・トフラーが『第三の波』で、これからの時代は大都会でなく、山や
湖畔にあるエレクトリック・コテージで仕事をすればいいと提案しましたが、これはある
意味で、大変先見的な提案だったと思います。当時はパソコンもそんなになかった時代です。
しかし、どれほどブロードバンドが発達したからといって、今、皆さんはエレクトリック・
コテージに住めますか。例えば私が山奥に一人で住んでいるとして、近くにコンビニ、ス
ーパーマーケット、病院、学校はありません。パソコンで仕事はできるかもしれませんが、
レストランもありません。我々は生物ですから体を持っており、それなりに物質を消費し
ながら生きています。ゆえに、それだけのマーケットを必要とするわけです。つまり、あ
る一定量の人が固まっていないと、今の都市型の生活を維持できないのです。そうなると、
結局は数十万の地方都市を大事にしなければいけないということになっていくわけです。
それで、私は中小の都市を極にして、道州制の州都という大きな極を作ったらどうかと提
案しているわけです。
そのときに、その極同士の動的な交流がなされなければならないというのが、この「ハ
イパー」とつけた理由なのです。つまり、ただ地方に分散するだけであれば、昔の藩に逆
戻りです。私はそんなことを言っているのではなく、人間はそういう極にある程度ばらば
らに住んでも、バーチャルな意味ではもっとダイナミックに情報交換をして、経済活動や
文化的な活動に関しては、光ファイバーをベースとした Web を使って、いろいろな活動を
するのがいいのではないかと考えているのです。
例えば今、新幹線が速くなって、東京から1時間ちょっとで行ける静岡は、ある意味で
は東京の通勤圏になっています。しかし、現実にそうなっていないのは、新幹線ではたく
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さんの人を運べないからです。しかし、1∼2週間に1回ならどうでしょう。飛行機もあ
ります。東京に時々来るということなら、十分なインフラが整いつつあるのです。
4.地域の伝統文化ポテンシャルを生かす
実は、私はしばらく前までラジオ教養番組の審査員をずっとやっていました。地方局が
作った1時間のドキュメンタリーなどのコンクールです。そこで東京の局が作ったものが
優勝したことは1回もありません。東京にはもう文化的なポテンシャルがないのです。東
京の作品はやはりあか抜けていますが、単に編集しているだけでもうネタがないのです。
それに対して、例えば東北では、ねぶた、潮来、津軽三味線、宮沢賢治など、幾らでも文
化的な財産があります。そういう財産をベースにして作品を作ってくると、東京は負けて
しまうわけです。同様に、九州や四国にも伝統的な文化のポテンシャルがあります。我々
はそれをこの 100∼150 年の間ないがしろにして、西洋文化を取り入れた東京を中心にやっ
てきたのです。つまり、日本の頭のいい人がみんな東京に集まって、そこで設計したもの
をキー局からばらまくというモデルが、ついしばらく前まで大成功してきたわけです。し
かし、もうそれではだめだということが、巨人の凋落にシンボリックに現れていると私は
思うのです。
また、国内と国際の交流ということでいうと、福岡などはなかなか面白い都市です。釜
山や広州、アトランタとも姉妹都市になって、東京を経由しないでダイレクトにやり取り
をしています。しばらく前まではこういうことは物理的にできなかったのですが、今やイ
ンターネットを通じてダイレクトにつながり、自由に情報交換ができるようになっている
のです。これからのグローバリゼーションの時代に人々を引きつけていくのは、ディズニ
ー映画やマクドナルドのハンバーガー、コカコーラではありません。こういう定番化した
ものは別として、画一化されたものはすぐ飽きられると思います。独自のポテンシャルを持
っていないと、文化的にもたないでしょう。そういう意味では、首都圏はそれをもう使い
果たしていると思います。
さらに、首都圏の子供は全部画一化された状態で競争させられているので、すぐ疲労し
てしまいます。今、うつ病がどうのこうのと言っていますが、動物は皆同じで、ある程度
のフィジカルな余裕がないとだめになっていくのです。ですから、地方が持っているさま
ざまなポテンシャルを集めて編集して、ある形にしていくという戦略を持てるところが勝
ち残るでしょう。今のように、日本を東京中心に全部ベタにしていくやり方では、もはや
世界で魅力的なものを創り出していくのは難しいのではないかと私は思います。
5.Web2.0 のインパクト
今、Web2.0 がやたらにはやってきています。Web1.0 との大きな違いは、参加型だという
ことです。今まででも html という言語を使って Web 上に自分のホームページを作ることは
できましたが、実に面倒くさいものでした。それに対して、ブログは普通の人でも簡単に
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作れます。ブログのいいところは、リンクが双方向だということです。トラックバックと
いう機能を使えば、だれかのブログが面白いと思って私が何か書き込んだコメントを見て、
私のページに戻ってこられるのです。これによって対話が可能となりました。
また、Web がプラットホームになりました。皆さんがお使いになっているパソコンはマイ
クロソフト Office 等をインストールして、その中のソフトウエアを使って情報処理をして
いるので、お金がかかっています。つまり、今までのやり方は、私が送ったメールをパソ
コンに読み込んで、Outlook Express で読み取っていました。しかし、新しく登場した Web
メールは、Internet Explorer 等のブラウザを使って契約しているプロバイダのサイトを読
みにいけば、そこで読み書きができるようになっているのです。つまり、ホームページを
見て、その上でエクセルの操作などができるようになっているのです。これが Web ベース・
プロセッシングで、今までのものはPCベース・プロセッシングなのです。
例えば帝国ホテルまでの行き方を調べたいとします。今までなら、帝国ホテルのホーム
ページを見て、そこのアクセスマップを、その周辺も含め1ページごとにダウンロードし
てくる必要がありましたが、今度の Web2.0 では、ブラウザの上で地図がちゃんと出てくる
ため、マウスを動かすだけでいいのです。つまり、データが実際にはサーバーのところに
あるのに、それを全部自分のパソコンにあるような感じで操作できるのです。これを Web
がプラットホームになっているといいます。
これはAjax(エイジャックス)という技術で、新橋の地図を見ていて霞ヶ関の地図を見
たいというときに、通信回線経由でユーザーに見えないように上手な処理をして送ってき
ているわけです。PCのメモリ空間というのは、リアルメモリはわずかでも、この部屋の
大きさぐらいの仮想メモリがあるという感じでプログラムを使っていますが、それはハー
ドウエアがディスクとの間でこっそり情報交換をやっているからです。それと同じような
ことを、通信回線を経由して Web の世界との間でやり取りするのが Web2.0 なのです。そし
て、そのことにより、我々は Web そのものを自分が情報処理できているような気がしてい
るわけです。
6.プロシューマーの時代がついに来る!?
これで面白いのは、Google という会社が今、Google Map や Google Mail を無料で提供し
ているということです。今まで、マイクロソフトは Windows や Office を有料で売りつけて
いました。では、Google はどこでビジネスをしているのか。検索したときに、ちょろっと
広告が出ているのを皆さんもお気づきかと思います。一つは AdWords(アドワーズ)と彼ら
が呼ぶもので、例えば「イシダイ釣り」で私たちが検索すると、それに関連したサイトが
ばっと出てきますが、そこに釣り船や釣り具の広告がさりげなく入っているというもので
す。今までの中央集権型のシステムの中で、フジテレビのゴールデンタイムの3分間を使
って広告するのは途方もなく高いはずですが、Google のアドワーズだと、釣り船の小さい
会社でも広告を出せるのです。つまり、ユーザーがクリックしてくれれば、それに応じて
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お金が入るような仕組みになっているわけです。また、今までのテレビのコマーシャルだ
と、幾ら見ていても買わないことが多いですが、その点、クリックすれば買う確率が比較
的高いということで、ごくわずかのお金でも数が多いことから、Google もけっこう潤うと
いうことです。
アドワーズはキーワード連動型というものですが、もう一つコンテンツ連動型というも
のがあります。例えば私が釣りに関するブログを書いたとします。そうすると、そこに釣
り船や釣り具などの小さい広告が自動的に載っていたりするのです。そして、そこをクリ
ックすると、そのページに飛んで、今度、そういう釣りのツアーがありますよ、今、釣り
竿の特別セールをやっていますよということが分かるようになっているわけです。
例えば Web メールでも Google のメールというものがあって、そこでは4ギガという途方
もなく大容量のメモリをただで提供してくれます。そのかわり、私が友達に「この間、イ
シダイを釣りに行ったところ、すごくよかったよ」とメールを書くと、友達がそれを受け
取ったときに、小さい釣りの広告が入っているというわけです。これを AdSense(アドセン
ス)といいます。つまり、Google はメールをただで提供している代わりに、その内容に関
連した広告をいつの間にか載せているということです。これにより Google は今大変な成長
をしていて、マイクロソフトを追い落とす勢いなのだそうです。
ちなみに、このように、ピンポイント広告がテレビのマス広告を追い抜くような現象を
「ロングテール現象」といいます。どう猛な恐竜であるティラノザウルスが立ち上がった
姿に似ているということですが、これはヘッドが高くテールが低いカーブを意味します。
例えば、売れる本を順番に並べてできるカーブを描いたとして、従来のビジネスではテー
ルの部分は切り捨てるのが原則でした。しかし、あまり売れない私の小説を、本屋は置い
てくれなくなったとしてもオンラインで買う人もいるわけです。生物と人間ということに
対して興味のある人が、半分勉強のつもりで買うのでしょう。そういう人たちはやはり Web
で注文するわけです。すなわち、テールの中にも面白いものがけっこうあるわけです。今
までのように物と情報が一体となっていたときは、在庫の問題があるので売れるものだけ
を本屋に積んでおこうということになっていたのですが、テールの本を田舎の倉庫に積ん
でおいて、メールで注文が来たらぱっと送ってもかなりもうかるとアマゾンが言いました。
最初は半分と言っていて、
どうも3分の1ぐらいらしいのですが、そういうテールの部分がこれからビジネスになる
と言ったわけです。
つまり、少量多品種ということです。これはマス・プロダクション、マス・コンサンプ
ションという今までの中央集権的なビジネスモデルとは対照的です。ですから、ついにプ
ロシューマー時代が来るのかと。プロシューマーというのもトフラーが言った言葉で、プ
ロデューサーとコンシューマーの合成語であり、消費者が生産者と協力して物を作ってい
くということを意味します。
これに関して、有名な話があります。ある会社で作ったプリンタが大成功して、ヒット
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商品になりました。きれいで音が静かだったのです。なぜそういうニーズがあったのか。
アンケートを普通に取っていてはそういうニーズはなかったのですが、オンラインで本音
の話を聞いていると、外で仕事をしているまじめなサラリーマンが帰宅して、色っぽい画
像を女房、子供に隠れて夜中に印刷したいという要求があったのだそうです。
また、アレルギーの病気を持っている子供を持つ親同士が、お医者さんによって話が違
ったり、田舎で専門医がいないということから、オンライン・コミュニティで情報交換を
始め、薬草のお風呂に入るのがいいから薬草を送りましょうということから始まったビジ
ネスが実際にあるそうです。このような話は大量生産・大量消費のビジネスモデルではで
きません。きめ細かい対話的なビジネスがそこに誕生するということで、これがプロシュ
ーマーの時代なのかなということです。
また、今までは Web はだれでもアクセスできることになっていたのですが、そうすると
出会い系など変なメールがいっぱい来ます。一度、東大の先生たちのメーリングリストが
ハッキングされたこともありました。それで、今はSNS(ソーシャル・ネットワーク・
サービス)といって、囲い込んでガードを張った中で情報交換をしようという話が出てき
ているわけです。
7.団塊世代の地方回帰
そういう中で、私は Web2.0 を使った分権化がけっこう進むのではないかという気がして
いるのですが、そうは言っても、地方へ移り住むということになると、なかなか大変です。
特にお子さんの教育問題などもあって、地方へ行くことをためらう人が多いのが現実です。
ただ、私のような団塊の世代は、子育ても終わって、子供たちは親の顔など見たくもなさ
そうだというので、東京の住居は子供に渡して、自分は慣れ親しんだ田舎に帰ろうかとい
う人もけっこう多いと思います。今、ふるさと回帰支援センターというNPO法人があっ
て、地方を活性化しようとしているようですが、病院の施設等がきちんとしていれば、地
方のほうが物価も安いし暮らしやすいわけです。
その場合、もちろん中央に出てきてコミュニケーションを図るということもできますが、
それはバーチャル空間でやってもいいわけです。また、場合によっては新幹線や飛行機で
動けばいいのではないかと思います。今、新幹線や高速道路への公共投資が無駄だという話
がありますが、使えばいいと私は思うのです。結局、みんなが東京に集中しているから、
使わないのです。地方の極にみんながまとまって住むようにして、その間で行き来すれば、
それは生きることになると思います。
今や日本の半分が過疎地域と認定される時代です。50 年前の日本はそれこそ労働人口の
半分以上が第1次産業に従事していましたが、今や5%以下だそうです。地方を本格的に
テコ入れしていかないと、日本はもう限界に来ているのではないでしょうか。今のモデル
は、東京で満員電車に揺られながら暮らしていて、東京で富が生まれ、その富を国が吸い
上げて地方にばらまくというものです。そうしないと地方は食べられないわけです。
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最高裁が最近、1票の格差が 5.13 倍になっていても、2004 年の参議院議員選挙は合憲だ
という判決を出したそうです。そのあとで少し直して 4.8 倍になっている、努力している
からいいのではないかということですが、これは地方の人は都会の人の5倍の票を持って
自民党に投票しているということですから、私のような素人から見てもおかしな判決です。
民主主義の根幹が揺れ動いていると言えましょう。アメリカでは、こういう格差は非常に
厳しくチェックされるそうです。
私はそういう1票の格差を解消すべきだと思いますし、東京を再び人間が住める所にし
てほしいと思っています。東京は、やはり非常に住みにくくなったと思います。ビルの中に
いればそれなりに快適ですが、一歩外に出ると、夏などはとんでもない話になっています。
私の意見に対する異論もあります。日本が食っていけているのは首都圏が消費センターに
なっているからではないか、それをつぶしたら日本は壊れるぞというものです。しかし、
これはカンフル剤に頼りすぎで、長期的に見ると、絶対に弱っていくと私は思います。実は、
今も首都圏の人口は年間1%ぐらいずつ増えているのです。7∼8万人ぐらいです。それ
で、都心の埋め立て地を居住地にして、そこに高層ビルを建てて住もうとしていますが、
それはバブルで土地の値段が下がった所を元に戻すことによって、何とか経済を復興しよ
うということです。カンフルとしてはいいと思いますが、そればかりに頼っていてはだめ
だと思います。なぜなら、商品経済の世界の中ではよくても、我々は空気や日光を必要とす
る動物であるからです。
そういう経済学者が無料だと思っているものが今後じわじわと効いてきて、騒音などで、
非常に生きてくるのがつらくなってくるでしょう。今は亜熱帯に近い状況になってきてい
るといいますが、これがずっと続いていってもいいのだというのは、あまりにも近視眼的
だと思います。私は、ITを使って、地方をうまく多極に分散していくことが、マクロに見
ると絶対に有利だと思うのです。私はそのことをけっこう自民党や高級官僚などに言うの
ですが、なかなか彼らは分かってくれません。分かったとしても、次の選挙など、目先の
ことにとらわれて長期的な国家戦略を見ていないような気がしてしかたがないのです。そ
ういうことをやっていると、じわじわと日本が地盤沈下していきます。日本が非常に成功し
たのは、中央集権国家でマス・プロダクション、マス・コンサンプションでやってきた結
果ですが、それは一昔前のパラダイムで、21 世紀のパラダイムではないのです。そのこと
を考えて、これからの方向づけをしていくことが大事ではないかと思っているところです。
(事務局文責)
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