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米国企業のクレジット状況の改善

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米国企業のクレジット状況の改善
ア ナ リ ス ト の 眼
米国企業のクレジット状況の改善
【ポイント】
1. 米国企業はITバブル後の低収益環境から立ち直っている。
2. 2003 年第 2 四半期からの景気拡大局面で、米国企業は設備投資を拡大させているが、
その投資額は内部留保内に抑制されている。
3. 米国の低金利政策と米国企業のクレジット状況の改善を背景に、社債のスプレッドは
縮小している。
4. 改善度合いは業種によって大きく異なり、詳細な財務分析を行った上での業種・銘柄
選択が求められる。
1.米 国 企 業 の 収 益 力 回 復
米 国 の IT バ ブ ル は 1990 年 代 半 ば 頃 よ り 2000 年 ま で 拡 大 を 続 け た が 、2001 年 に は 崩
壊 し た と 認 識 さ れ て い る 。 米 国 企 業 も IT バ ブ ル 時 に は 、 高 収 益 率 ( 株 主 資 本 利 益 率 、
売 上 高 利 益 率 )を 誇 っ て い た も の の 、
2000 年 第 4 四 半 期 よ り 急 激 な 収 益
悪化に見舞われた。その後、イラク
での大規模戦闘が早期に終結し、
FRB に よ る 超 低 金 利 政 策 や 政 府 に
よる大規模減税によって個人消費が
株主資本利益率
売上高利益率
25
GDP
20
15
10
5
刺 激 さ れ た 2003 年 に は 、 企 業 は 生
0
産性の向上を背景に、その収益力を
急 速 に 改 善 さ せ て い る ( 図 表 1)。
図 表 1.米 国 企 業 収 益
(%)
30
-5
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
(暦年四半期)
(資料)米国商務省「Survey of Current Business」
2000
2001
2002
2003
2 .米 国 企 業 の ク レ ジ ッ ト 状 況 の 改 善 ( 図 表 2∼ 4 参 照 )
バブル期に着手された強気の設備投資計画の影響により、バブル崩壊後もしばらくの
間、米国企業は内部留保を大幅に超
える額の設備投資を続けていた。こ
(10億ドル)
1,000
の 時 期 の GDP 成 長 率 ( 図 表 1) は 、
2000 年 第 3 四 半 期 及 び 2001 年 第 1
図 表 2.内 部 資 金 と設 備 投 資 額 の推 移
設備投資
内部留保
800
四半期から第 3 四半期までがマイナ
ス成長であり景気後退局面に入って
600
いた。つまり、米国企業は収益力が
400
急落している時に、内部留保で賄い
きれない設備投資資金を調達してい
200
1993
(資料)FRB
1994
1995
1996
1997
1998
(暦年)
1999
2000
2001
2002
2003
アナリストの眼
たため、金利支払額などが増加するなど、財務状況が悪化することとなった。その結果
として、デフォルト率(債務不履行率)が大幅に上昇したと同時に、リスクプレミアム
を示す社債スプレッド(社債利回りと米国債利回りの差)も拡大した。社債の信用力は
国債よりも低いと考えられており、その分の上乗せが求められるのである。つまり、社
債利回り=国債利回り+リスクプレミアムとなっているのである。
し か し 、2002 年 以 降 の 脆 弱 な 景 気 回 復 局 面 及 び 2003 年 第 2 四 半 期 以 降 の 急 速 な 回 復
局面において、米国企業は生産性を上昇させることによって成長を続け、収益率は劇的
に 回 復 す る こ と と な っ た 。2002 年 以 降 も 比 較 的 高 水 準 の 設 備 投 資 が 続 い て は い る も の の 、
内部留保内に留まっており、企業
の財務状況は急速な改善を見せつ
つある。収益力の回復や財務の健
全化、好調な経済成長を受けて、
図 表 3.デフォルト率 の推 移
(%)
12
投資適格
10
投機的格付
デ フ ォ ル ト 率 は 2003 年 に か け て
全社債
8
大幅に低下することとなった。同
時 に 、 政 策 金 利 が 1.0% と い う 超
6
低金利環境において、相対的に有
4
利な投資対象先として社債が評価
2
され、社債スプレッドの縮小が
0
2002 年 後 半 か ら 続 い て い る 。ト リ
プル A 格付債券のスプレッド幅の
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
(暦年)
(資料)Moody's
(備考)米国のみのデータが入手困難なためグローバルデータを使用。
発行体ベースで米国の占率は約60%。
2001
2002
2003
縮 小 は 99bp( 1bp= 0.01% )、 ト
図 表 4.社 債 スプレッドの推 移
リ プ ル B 格 付 債 券 で は 150bp と な
っており、高い利回りが見込める
(%)
10
AAA格付スプレッド
格付の低い債券に対する需要が旺
盛であった。高格付債券と比較し
てそのスプレッドは大幅に縮小す
ることとなった。
Baa格付スプレッド
8
米国10年債利回り
6
4
高収益体質となった米国企業は、
高水準の設備投資を内部留保でフ
ァイナンスすることが可能となっ
ており、今後もクレジット状況の
2
0
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004
(月次)
(資料)FRB、Moody's
改善が見込まれている
3 .業 種 間 格 差
これまで見てきたように、全体として米国企業の財務体質は強固なものとなり、クレ
ジット状況の改善も続くことが予想されている。しかし、業種別に財務状況を見てみる
と厳然たる業種間格差が存在している。
図 表 5、 6 は 、“ コ ン ピ ュ ー タ ー ・電 子 部 品 ” 業 界 と “ 自 動 車 ・ 自 動 車 部 品 ” 業 界 ( そ
れ ぞ れ 総 資 産 額 2,500 万 ド ル 以 上 の 企 業 ) の 財 務 状 況 で あ る 。“ コ ン ピ ュ ー タ ー ・電 子 部
アナリストの眼
品 ” 業 界 を 見 る と 、 IT バ ブ ル の 崩 壊 を 受 け て 2001 年 第 1 四 半 期 か ら 2002 年 第 3 四 半
期まで営業利益はマイナスを記録している。しかし、その間に財務体質の強化が進めら
れたことでインタレスト・カバレ
ッジ・レシオ(営業損益+その他
損 益 / 金 利 費 用 )は 改 善 し て い る 。
2003 年 第 3 四 半 期 以 降 は 、営 業 利
益も増加しており、金利負担が一
段と軽くなっていることが分かる。
一 方 、“ 自 動 車・自 動 車 部 品 ”を 見
る と 、2001 年 末 に 行 っ た 自 動 車 購
入 金 利 を 0% に す る キ ャ ン ペ ー ン
の 影 響 に よ り 2001 年 第 4 四 半 期
にはインタレスト・カバレッジ・
図 表 5.コンピューター・電 子 部 品
(%)
15
(百万ドル)
160,000
売上高
140,000
営業利益
120,000
インタレスト・カバレッジ・レシオ(右軸)
10
5
100,000
0
80,000
-5
60,000
-10
40,000
-15
20,000
0
-20
-20,000
-25
4Q
1Q
2Q
3Q
4Q
1Q
2Q
3Q
4Q
1Q
2Q
3Q
4Q
2000 2001 2001 2001 2001 2002 2002 2002 2002 2003 2003 2003 2003
(暦年四半期)
(資料)米国商務省「Quarterly Financial Statistics」
レシオは急落したが、その後はキ
ャンペーンの影響の剥落や耐久消
費財需要が堅調であったことなど
から同レシオは急速に回復するこ
ととなった。しかし、需要喚起の
た め 、 再 度 の 金 利 0% キ ャ ン ペ ー
図 表 6.自 動 車 ・同 部 品
(百万ドル)
160,000
140,000
5
4
3
2
1
80,000
0
促進費用の上昇などによって、営
40,000
傾向をたどっている。
インタレスト・カバレッジ・レシオ
100,000
60,000
スト・カバレッジ・レシオは低下
営業利益
120,000
ンや業界内の競争激化による販売
業利益はマイナスとなりインタレ
(%)
売上高
-1
-2
20,000
-3
0
-4
-20,000
-5
4Q
2000
1Q
2001
2Q
2001
3Q
2001
4Q
2001
1Q
2Q
3Q
2002 2002 2002
(暦年四半期)
(資料)米国商務省「Quarterly Financial Statistics」
4Q
2002
1Q
2003
2Q
2003
3Q
2003
4Q
2003
4 .ま と め
このように、米国企業のクレジット状況は好転を見せている。スプレッドは急激に縮
小 し た が 、 好 景 気 で あ っ た 90 年 代 よ り も 高 い 水 準 に あ り 、 企 業 財 務 状 況 が 悪 化 し な け
れば今後も縮小または安定的に推移するであろう。ただし、業種間及び企業間には財務
の 健 全 性 に 格 差 が あ る た め 、 投 資 先 を 選 定 す る 際 に は イ ン タ レ ス ト ・カ バ レ ッ ジ ・レ シ オ
のような財務指標を用いて、企業財務の安全性を詳細に分析することが求められる。
(国際金融課
藤ノ木 健一)
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