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看護教育におけるデス ・エデュケーション - 学生の死者儀礼に関する調査 -

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看護教育におけるデス ・エデュケーション - 学生の死者儀礼に関する調査 -
岡大医短紀要,2:
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看護教育におけ るデス ・エデュケー ション
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学生の死者儀礼に関す る調査 伊
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1.は じ め に
認識がたか ま り, さらには, デス ・エデュケー シ
社会構造の変化,医療機関の発達 と普及,経済
ョンの必要性が強 くさけばれてい る。
的余裕 な どによ り,人間の生病老死 の大部分 が病
一方,核 家族 の増加 に よ り,かつ ての ように家
院で起 きてい る状況,即 ち,病院化社会 1)の出現が
庭 で老人の死 を看取 る とい う,人の死 を身近 に体
手
旨摘 されてい る。
験す る機会 が, ほ とん どな くなって しまった。
1
9
8
1
年の病院死 は5
9.
8
%であったが,現在 は7
0
この ような,死が隠 されてい く過程 の中で,死
%以上 になっている。 この ような変化 の中で, 医
者 に対す る儀礼 は内容 の乏 しい ものになって行 き,
療 の場 ではター ミナル ・ケアの重要性 と必要性 の
その結果,悲 しみ,喪失の経験 あるいは悲嘆 を処
岡山大学医療技術短期大学部看護学科
- 73-
伊東
久恵他
ほ とん どの学生が, 1回のみの経験であったが,
理す る能力が,欠如 して きてい る2)といわれてい
2回の経験 1名 (
叔父,友人),3回の経験 2名 (
祖
る。
医療の場 は,救命,延命,病気の治療のみな ら
父,親,高校教諭) (
祖母,兄,親戚の人)あ り,
ず,死の看取 りの場 としての機能 をもとめ られて
わずか 3名 とはいえ,年令 に しては多い経験 をし
いる。終末期 医療において看護者は,患者の臨終
ている。
7%,家庭が3
3%で
臨終 を迎 えた場所は,病院6
に立ち会 い,死後の処置 を行 いなが ら,家族の悲
全国的平均 よ り多い といえる。家庭 で臨終 を迎 え
嘆への援助 も行 う必要がある。
臨終及び死後の処置の場は,儀礼的意味 を強 く
ているのは,祖父母, 曽祖父母 であった。病院死,
/3が家
あるいは施設死が増加 しているなかで,
約1
含んでいる。
一般に,遺 された者は,儀礼 (
死者儀礼) をつ
庭 で看取 られていることは,地方の特色 とみ るこ
み重ね ることで,肉親の死 を受け容 れてい くとい
とがで き,住 み慣れたわが家で,親 しい人々に見
われてお り,近 い将来,医療従事者 となる学生に
守 られて最後の時 を迎 えられた老人や,家族の存
とって,儀礼に関す る知識 を持つ ことは,必要 な
在 を知 ることがで きる。
2)葬儀 に参列 した経験
ことと考 える。
3%,経験のな
葬儀 に参列 した経験のある人は9
そこで,看護教育におけ るデス ・エデュケー シ
ョンを考察す るための基礎 資料 を得 る目的で,死
い人は 7%で各学年 に 5- 6名 いた。ほ とん どの
者儀礼 に関す る調査 を行 った。
人が葬儀 に参列 した経験 を持 っていた。
2%,一般会葬
遺族の一月 として参列 した人が4
(
死者儀礼 と儀礼は同 じ意味 とした)
1
%,遺族 と一般 の両方 を経験 している
者 として1
2.方
法
人は4
0%で,遺族の一月 としての葬儀経験者は8
2
0短大看護学生2
3
5
名 (1年 7
7
名, 2年 8
2
名, 3
%に もなる。 これは,東京周辺の出身者の多い女
年7
6
名) を対象に,教室内で調査用紙 を配付 した。
子大生 を対象に した調査 4)の7
7
%よ り高 い率 で,
調査 内容 は, 1)身近 な人の臨終 の場 にいた経
地方である特徴 を示 しているといえる。
験の有無 とその臨終 を迎 えた人 と場所 , 2) 葬儀
一般会葬者 として参列 した葬儀 は,友人の家族
に参列 した経験の有無 とその年代 と誰の葬儀か,
41
%,友人2
5%,近所の人1
7%,学校 の先生 9%,
その他 父の友人,先生 の親 ,PTA の役貞 な どで,
友人の家族への会葬が 多いこ とが 目立っている。
3)将来親 になった時,子供 を臨終 の場 に連れて
い くか,その理 由, 4)死者儀礼につ いてである。
調査 は,1
9
91
年 9月に行 い,回収率 は1
0
0%であ
っ た。
これ も,社会的連帯が希薄になっていて も,儀礼
-の参加意識は強い とい う地方の特徴 とうけ とめ
られ る。
3.結果 と考察
8-21
歳 で,0市 を中心 とした
学生の年令 は,1
9% を占め,全体 の7
6%
中国地方 5県の出身者が7
は核家族であった。
大学入学 までに葬儀 に参列 した経験は,小学校
6%,小学校高学年 1
8
入学前 9%,小学校低学年 1
%, 中学校 2
9%,高等学校 2
8%で, これは,祖父
母, 曽祖父母の死が中学,高校時代 に多い もの と
考 える。
1)身近 な人の臨終の場にいた経験
大学入学後は, 3年生 8%, 2年生 7%, 1年
1%で, その内の80%が祖父母,
経験のある人は2
曽祖父母の臨終 であった。 これは,他 の調査 とほ
生 2% と,年令 による差が明確 に表れている。
3)将来親になった時,子供 を臨終の場に連れ
ぼ同 じ率 を示 してお り, この年代 の平均的な経験
て行 くか
度 とい うことがで きる。
死の準備教育 として,臨終の場の経験 をどの よ
父母,兄姉 (
弟妹),叔父叔母,その他友人な ど
の臨終は,各 4- 6%であった。
うに とらえようとしているか をみ るため,将来親
- 7
4-
学生の死者儀礼に関する調査
表 2 将来親になった時,子供 を臨終の場に
になった時,子供 を臨終 の場 に連 れ て行 くか を設
連れて行 くか
問 した。全学年 でみ る と,連 れて行 く6
6%,連 れ
身近 な人の臨終の場にいた経験のない人
て行 か ない 2%, わか らない3
2%であった。連 れ
て行 くを学年別 でみ る と 1年 , 2年 , 3年 は それ
ぞれ6
6%,6
5%,6
8%であ り, わか らないは3
3%,
学年 回答
数
臨終の場に連れて行 く理由
(
まとめ)
3
2%,3
0%であ り,連 れて行 か ないは, 1%, 3
% , 1%であ り, あ ま り大差 はなか った。次 いで
身近 な人の臨終 の場 にいた経験 の あ る人 ・ない人
感 じ,みつめさせ,理解させる機会であり
1 1
3 A 臨終に立ち会うことは 「
死」について知 り,
1
3 B 臨終に立ち会ったことを貴重な
たい
体験とさせ
お よび臨終 の場 に連 れて行 く ・行 か ない を理 由別
3 C 臨終に立ち
たい
会うことは必要だと思うから
に して概観 す る。理 由別 とは, 自由記載 した もの
を, 同質 の意味 をま とめて回答数 とした。
や 「
死」について知 り,感じ,理解させ,
教え,「
死」をのりこえさせるための機会で
ある
2 2
1
6
4 A
くことは 「
命の尊さ
B 臨終の場に連れて行
臨終の場を経験することにより
「
死」を」
現
実のこととしてとらえ,受入ができるよう
表 1 将来親になった時,子供 を臨終の場に
連れて行 くか
身近な人の臨終の場にいた人
学年 数
回答
1
2
3
1
0 C 避けられない別離を
になってほしいため体験さすこと.
は必要な
ことだ
臨終の場に連れて行
(
まとめ) く理由
感じ,考え,教える機会である
2
7 A
臨終に立ち会うことは
死」について知 り,
B 体験からそう
思った 「
「
死」について感じ,考 え,教える機会で
9 A 臨終に立ち会 うことで人命の尊さを知 り,
3 B 別離とし
ある
て必要なことである
2 C 臨終に立ち会い儀礼を教え体験を伝える
いて感じ,考え,教える機会である
3 A 臨終に立ち会うことで 「
4
生」や 「
死」につ
に「
死」について感 じ,考え,理解させて
3 1
4 A 命の尊さを知 り 「
生」を考えさせるととも
1
0 B 人間には避けら
身近な人の 「
死」を
受容さ
せるため
れない
「
死」の現実があり
会 であ りたい。 B 臨終 の場 に立 ち会 った こ とを
貴重 な体 験 としたい。C 臨終 に立 ち会 うこ とは
必要 だ と思 うか ら。 2年生 は,A 臨終 の場 に連
れて行 くこ とは 「
命 の尊 さ」や 「
死」 につ いて知
り,感 じ,考 え,理解 させ ,教 え, 「
死」をの りこ
えさせ るため の機会 であ る。 B 臨終 の場 を経験
表 1の ご と く身近 な人の臨終 の場 にいた人の連
す るこ とに よ り 「
死」 を現実 の こ ととして とらえ,
臨終 に立 ち会
受 入が で きるよ うにな ってほ しいため 。C 避 け
うこ とは 「
死」 につ いて知 り,感 じ,考 え,教 え
られ ない別 離 を体 験 させ るこ とは必要 なこ とだ。
る機会 であ る。B 体 験か らそ う思 った。 2年生
3年生 は,A 命 の尊 さを知 り 「生」 を考 えさせ
れて行 く理 由 として 1年生 は,A
は,A 臨終 に立 ち会 うこ とで人命 の尊 さ を知 り
る とともに 「
死」 につ いて感 じ,考 え,理解 させ
「
死」 につ いて感 じ,考 え,教 え る機会 であ る。
て身近 な人の 「
死」 を受容 させ るため,B 人間
B 別離 として必要 な こ とであ る。C 臨終 に立
会 い儀礼 を教 え体 験 を伝 える。 3年生 は,A 臨
には避 け られ ない 「
死」 の現実 が あ り最期 の別 れ
終 に立 ち会 うこ とで 「
生」や 「
死」 につ いて感 じ,
場 にいた経験 のあ る人 ・ない人の臨終 の場 に連 れ
考 え,教 える機会 であ る。 B 臨終 に立 ち会 う体
て行 く理 由 を比較 す る と, これ もまた大差 の ない
験 を伝 える, であ った。
こ とが分 か る。
をさせ るため, であ った。 以上 身近 な人の臨終 の
次 に経験 のない人では,表 2の ご と く, 1年生
さ らに, 臨終 の場 に連 れて行 く理 由 をよ り具体
は,A 臨終 に立 ち会 うこ とは 「
死」 につ いて知
的 に学年別 でみ る と, 1年生 の, 身近 な人の臨終
り,感 じ,見つめ させ,分 か らせ ,理解 させ る機
の場 にいた人 では, 『人が 「
死」ぬ とい うこ とを教
- 7
5-
伊東 久恵他
え,「
死」が どんな ものなのか を感 じさせ る場 であ
表 3 将来親になった時,子供 を臨終の場に
るか ら』 とか 『
臨終に立ち会 うことで人の 「
死」
連れて行 くか
に対す る感情が少 しで も分かれば良いか ら』であ
身近な人の臨終の場にいた経験のある人 ・ない人
り,臨終の場の経験のない人は, 『
ペ ッ トの 「
死」
だけでな く身近 な人の 「
死」 を知 って もらいたい
学年 数
回答
連れて(
行かない
まとめ)理由
「
死」 とい うものが どうい うものか分か ら
か ら』『
せ るため』などとし,「
死」についてのみに注 目し
2
1 経験のある人 :子供が小さい時には無理に人の
「
死」にめにあわす必要はない
と思うから
2
1 経験のない人 :子供にショックを与えないため
て知 り,感 じ,考 え,教 える機会 であるととらえ,
全体 に 「
死」について考 える視野が狭 いように う
かがえる。 2年生の臨終の場の経験のある人では,
『
人命の尊 さを知 って もらいたいため』『
人間の生
るか, また死の準備教育 をどの ように解釈 してい
命 とい うものが, どんなに尊い ものか感 じとって
るか,検討す る余地 を残 していると考 えられ る。
考 えてほ しいか ら』などがあ り,臨終の場の経験
社会構造の急激 な変化や高度医療は延命治療 を
のない人では, 『
命の尊 さを教 える』 『
子供が人の
優先 して病院死 を増加 させ ている。 このことは家
「
死」 を見 ることによって 「
生」 とか 「
死」 とか
族に看守 られなが ら,畳の上 で大往生す るとい う
分・
かって くれるか もしれない』であ り,人の 「
命
古来か らある死の考 え方 を大 き く変貌 させ た。な
の尊 さ」が 「
死」 と関連 して感 じ,考 え,教 える
かで も都市化 は地域共同体 を崩壊 させ, その うえ
機会 として受け取 っていることが多い。 これは 1
核家族化が加 わって,古 くか ら伝 わっている伝統
年生 よ りも,「
死」について考 える幅が少 し広 くな
的な臨終や葬儀 のあ り方 を変 えている。臨終時の
っているといえよう。 3年生の臨終 の場の経験の
儀礼や葬儀 の意味は,残 された者がそれ を行 う過
ある人では, 『
人の 「
死」を見 ることで 「
生」きる
程 で次第に死 を受容 し,悲嘆や喪失感 を軽 くす る
ことを大切 に考 えると思 うか ら』とか 『
「
死」ぬ と
ことにある。
い うことを実際に見 ることで 「
生」 をみつめ るこ
現代 のように核家族化が進み,病院死が 多 くな
とができると思われるか ら』があ り,臨終の場の
ると家族や知人の死 を直接経験す る機会が少 な く
経験のない人では,『
「
死」 を看取 ることで 「
死」
なった。 また もし,経験 した として も,例 えば,
について考 える機会になるだろうし,子供が「
死」
家族や知人の死 を告別式の 日に初七 日をす るよう
に対 して恐怖 を抱かぬように話せ また, その人の
に葬儀 を短縮化 させ,平常の生活に早 く戻 ろうと
「
死」 を受容す ることがで き同時に生 について も
している。 このように時代が移 り,生活様式が大
考 える機会 になると思 うか ら』 とあ り 1年生, 2
きく変化す ると,死の受容 を困難に しているので
年生 よ り,「
生」や 「
死」をよ り幅広 く感 じとって
はなか ろうか。 そこで臨終や葬儀 の場の経験は極
お り,看護学生 としての死生観に関す る意識が高
めて重要 であ り,死の準備教育 として とらえるこ
まっているとうかがえる。
とが大切 である。
臨終の場に連れて行かないは表 3のように, 2
臨終 の場や葬儀 に子供 を連れて行 き,体験 させ
年生の臨終の場の経験のあるが 1人 ・ないが 1人
ることは,人生 を豊かに締め くくる死者-の配慮,
で理由は,無理 に人の 「
死にめ」にあわす必要が
死の恐怖-の対応 を現実 に見て経験す るこ とにな
ない と思 うか ら, またショックを与 えるか らとあ
る。 しか し,臨終の場や葬儀 を経験 させず また,
り,人情 として良 く分か る意見である。臨終の場
連れて行 った として も,子供 を邪魔扱い し,無視
に連れて行 くか どうかについて, わか らないは理
す ると教育的配慮 を欠 くことになる。臨終や葬儀
由の仝例 について記載がなかったが, この結果か
の場の経験は悲嘆 をの りこえ,死の準備教育の機
ら何 も考察す ることが出来ない。 しか し,今後臨
会 として とらえ,子供 を意図的,計画的に教育す
終の場の意義や葬送儀礼 をどのように認識 してい
ることが肝要 であるとうかが えた。
-7
6-
学生の死者儀礼に関する調査
A)知 っていて見 たこ とが あ ると回答 した儀礼
4.死者儀礼 に関す る知識
儀礼 は,遺 された者の悲嘆や喪失感 を解決 し,
の うち主 な ものは,(
》清めの塩
②着物 を左前 に
社会復帰す るためのプ ロセス としての重要 な意味
着せ る (
訓 ヒ枕
を持 っているo
は縦結 びにす るで, これ らは,半数以上 の人が見
Lか し,社会 的連帯が希薄化 してい る現在,倭
④葬儀 は友 引 きをさけ る G)
級
たこ とが ある と回答 した儀礼 である。
B)見 たこ とはないが知 っていると回答 した儀
礼 も簡略化 し,忘 れ去 られつつ ある。若 い世代 の
学生 は どうか を,臨終か ら葬儀 までに行 われ る儀
礼 の主 な ものは,(
訂末期 の水
礼の中か ら1
3
項 目を とりあげて調査 した。結果 は
る ③ 北枕
図 1の通 りであるo
きをさけ るであった。
知られ ⊂ =コ
に
二
二コ
見たことはか ,
かれ ている
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2 末期 の水
6 北托
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:
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去:
:
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l
.
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i
:
栄:
:
:
揖肯 ;
;
;
≡
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ド
.
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.
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:
.
'
瀧宝室長:
9 枚飯 枕団子
99%)北
人が 『
知 ってい る』儀礼 は,清めの塩 (
枕 (
9
8%)着物 は左前に着せ る (
97%)紐 は縦結
びにす る (
94%)葬儀 の 日は友引 きをさけ る (
88
3 湯潅
4 着物 を左前 に着せ る
④魔除に刃物 をお く ⑤葬儀 は友引
C)見 た経験 の有無 にかかわ らず,半数以上 の
知-ていて見たことがある匠 ;ヨ
1 魂 よぴ
②紐 は縦結 びにす
%)末期 の水 (
67%)魔 除に刃物 をお く (
54%)
枕飯・
枕団子 (50%) であった。
1
3の儀礼 に関す る知識 につ いて, 身近 な人の臨
終 の場 にいた経験 の有無 では, 『
知 っている』で ま
とめ る と, ほ とん ど両者 の差 はなか った。
F
:
:
:
.
'
:
二
:
:
.
:
:
:
:
挺㌫亭主三宝
去…
;
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:
l
三
:
.
;
:
;
:
i
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.
A
;
:
:
:
陪;
:
;
;
;
;
学年別 では, 図 2に示す よ うに, "
魂 よび"のみ
2年 , 1年 , 3年生 の順 であったが, その他 はす
べ て学年 の高い方が,儀礼 に関す る知識 を持 って
い る人が 多か った。 1年 の生活歴 の差 で も,習俗
図 1 死者儀礼1
3
項 目に関する知識
に対す る知識や経験 の差 として現れているこ とが
2 末期 の水
1 魂 よび
●●■●●●●●
4 着物 を左前に着せ る
●■■●ヽ●●■●■
●
●
●
●
●
●
●
5 紐は縦結びにする
8 魔 除に刃物 をお く
7 着物 を逆 さまにかけ る
●
●
●
●
●
●
●
●
●●●●●●●
■●●■●●
- 77-
伊東
久恵他
1
0葬儀 の 日取 りは友引 を避 け る
9 枕飯 枕 団子
●
●
■
■
●
■
●
●
●
●
■
●
●
●
11棺 を左 に 3回まわす
1
2出棺後戸 口で茶碗 を割 る
●
■
●
●
●
●
●
●
●
●
■
●
●
●
●
●
.
∫
●
●
_
∫
●
●
●
1
3清めの塩
図 2 学年別死者儀礼の知識
め られ る。
うかがえる。
着物 を左前に着せ る儀礼 につ いて,橘 8)の調査
清めの塩 は,葬送儀礼の参列者が帰宅す ると塩
を撒 く習俗 として広 く知 られている。会葬御礼 に
では,知 っている人が7
5
%に対 し,本調査 では9
7
塩の小袋 を添 えるのは,今や わが国一般の慣習 と
%であったこ とか らも,学習効果の現れ といえる。
なってい る。塩 によって,死 にまつわるけがれ を
日常生活の中か ら,着物 を着 る機会がな くなっ
清め,死者 と生者 との間のけ じめ をつけ る5
)
,とい
て,着物の着方のわか らない人がふえている。医
う本来の意味の理解 よ り,一般的慣習 として定着
療の場では,生 を求めている患者に,病衣が左前,
しているので,ほ とん どの人が知 っていた といえ
紐が縦結びになるこ とは,死 を意味す るため,縁
るO
起 で もない と家族の怒 りをか うこ ともあ り,注意
北枕 は,釈 迦 の埋葬 (
入滅)の姿 に な ぞ らえ
しなければな らない。従 って,死亡時に,着物 を
て6
)
,死者 を安置す る時の位置であ り,日常生活で
左前にす るこ とや縦結 びにす ることを,手順 とし
は不吉 とされている。従 って,毎 日のべ る雇具 の
てではな く,死者儀礼 として理解 させ るほ うが,
位置は,頭 を北にす ることをさけ るように,習慣
よ り意識化 され ると考 える。
づ け られている。橘7
)
の調査 で も,9
9%が知 ってい
1
%
末期 の水 については,見たことのある人は2
ると回答 していることか らもうかがえるように,
であるが,知識 として知 っている人は多い。 これ
生活の中に強 く定着 して,意識化 されている儀礼
は,家族の誰かに教 えられた ものか,文学や映像
とい うことがで きる。
か らかは明 らかではないが,おそら く,後者の影
着物 を左前に着せ る,紐 は縦結びにす るは,死
響が強い と考 えられ る。 この儀礼は,死 にゆ く人
亡時の看護の中で,死後の処置 として 2年生, 3
に対す る最後のはなむけの意味 を持つ,仏教 の儀
年生はすでに学習 をしてお り, その結果 とうけ と
式である。 このような,臨終の場 におけ るわかれ
- 7
8-
学生の死者儀礼に関す る調査
の儀礼 を知 っていることも,看護者 として必要 な
葬儀 などにおけ る儀礼 は, 日常性のない もので
ことといえる。病院死がほ とん どを占め るように
あ り,時には奇異に感 じられ ることもある。 これ
なった現在,器械 に取 り囲 まれ監視 されなが ら生
は,儀礼の もつ意味 を知 らないためである。遺族
を終 えるのではな く,家族に手 を握 られ見守 られ
は,一つ一つの儀礼 を重ね ることで,死者 との別
なが ら生 を終 えたい,人間的な死にかたをしたい
離 を心に きざんでいるこ とを,銘記 しておかなけ
と,人々は望んでいる。
ればな らない。
看護者が, このようなわかれの儀礼 に関す る知
看護教育 において,儀礼 な ど死の文化 に関す る
識 をもっていれば,家族が望む最期の時 を過 ごせ
学習 をもっと取 り入れ,死別後の家族の悲嘆への
るような援助 を行 うことも,可能 となると考 える。
援助 として,悲嘆の緩和 と儀礼の もつ機能 を理解
D)知 らない と回答 した儀礼の うち主 な ものは,
①湯潅
してお くことも重要 であると考 える。
②魂 よび (
卦棺 を左 に 3回まわす ④着
5.看護教育 におけるデス ・エデュケーシ ョン
物 を逆 さにかけ る 6)
出棺 後戸 口で茶碗 を割 る
医療の場において,看護者は,患者の健康 の回
であった。 これ らは,半数以上が知 らない と答 え
ている。
復,社会復帰-の援助 をす る。 また一方では,死
湯潅は,死後,遺体 を清め るために体 をふ くこ
を免れない患者に対 して,人生の大切 な最期の時
とであるが, 2年生, 3年生は,終末時の看護 に
を, その人 らしく希望 をもって生 きて行け るよう
つづ く死亡時の看護の 『
死後の処置』 と理解 して
に援助 し, さらに,遺 された家族の悲嘆-の援助
いるため,儀礼 としての認識が乏 しい と考 えられ
も必要 である。
現在の 日本の医療 では,脳死や臓器移植の問題,
る。橘 9)の調査 では,知 らない と回答 した人は2
2%
であるが,本調査 では8
4%であった。家庭 での死
ター ミナルケアなど医療の中におけ る死のあ り方
が多か った過去においては,湯港は死後の重要 な
が問われている。
古来 よ り人間は,死 をどの ように とらえて きた
儀礼であったが,病院死がほ とん どを占め るよう
になって,家族の中に も儀礼 としてのかかわ りの
かO佐藤 11)は死の観念 を解 明す るための一つの重
意識が うすれている。 しか し,身内 として心 をこ
要 な鍵 として死者儀礼 をあげている。現代 の生活
め,語 りかけなが ら,体 を清め る機会 を持つ こと
様式,生活感情,思想 内容 は,古い時代のそれ ら
は,死 を受け容れ,別離 を覚悟す るために も意味
と比較すれば,著 しく変化 しているに も拘わ らず,
があ り,看護者は処置 として よ りも儀礼 として う
死者儀礼は,元の意味が忘 れ られて も,形式はあ
け とめて,家族にかかわることも必要 である。
ま り変化 していない。本調査 において も,由来が
魂 よび,棺 を左 に 3回まわす,着物 を逆 さにか
わか らず見た経験がな くて も,知識 として知 って
け る, 出棺後戸 口で茶碗 を割 るなどは,死者-の
いる儀礼 は多か った。 しか し,人間の死 を考察す
愛情の情の反面,恐怖 し忌避す る生者の死の うけ
るためには,儀礼の本源的意味 を知 ることが重要
とめ方が儀礼 となって伝 わっているものであるが,
である。
現在,人間の死が, あま りに も医学的見地のみ
儀礼の簡略化が進む中では,ほ とん どみ られな く
なっている。
で,論 じられ過 ぎている傾 向がある。波平 12)は,医
宇都 宮 1
0
)
は,儀礼 は,悲哀 を共同で表明す るとい
学は人体 を研究の対象 とし,高い普遍性 を持つ研
う社会的意味表出行為 であ り, そこには遺 された
究領域 であるが,普遍性の高い知識 を基本に行 わ
者 と他 の人々 との間の連帯が確認 され強化 され る。
れ る医療実践は,実践 され る社会 の状況, その社
儀礼 を通 して作用す る人々の共感が死別後の悲哀
会の人々が支 える文化,医療者や患者個 人の持つ
を癒 し,逆に,儀礼の欠如は悲 しみ を克服 で きな
属性 によってその内容 はこ となる。医学における
い という死別後の不適応状態 をきたす ことを指摘
思考的枠組みがその まま医療 に持 ち込 まれること
している。
や,医療者の多 くが医学 と医療 を分 けて考 えない
- 7
9-
伊東
久恵他
ために,様 々 な混乱 をお こ してい る と指摘 す る。
や北枕,死亡 時の看護 で も学 習 してい る着物
一人の人間の死 には,生物体 としての死 のみ な
の左 前や縦結 びにつ いては よ く知 っていた。
らず,戸籍 の抹消 な どにみ られ る法的,社会 的死,
反対 に湯濯 は,死亡 時 の看護 を学習 してい る
通夜や葬式 な どの死者儀 礼 の遂行 にみ られ る,故
に もかか わ らず,儀礼 としての意識が ないた
人の家族,血縁著, 同僚 ,知 人の人間関係 のネ ッ
め, ほ とん どが知 らない と回答 した。
トワー クの 中での社会 的死 13)を認め るこ とが で き
儀礼 は残 され た家族 の悲嘆 を緩和 す るため に重
る。 医学的死 と社会 的死 にはずれが あ り,死 を社
要 であ り, 民俗 学,社会 学 な ど死 に関す る学際的
会 的角度か らうけ とめ る視 点 を持つ こ とは, 医療
教科 (
タナ トロジー) を取 り入れて看護教 育 にお
従事 者 として重要 なこ とであ る。
け るデス ・エデ ュケー シ ョン を行 う必要 が あ る。
ター ミナルケアの質が 問われ るなか, 医学,香
引用 ・参考文献
護 の基礎教 育 におけ るデス ・エデュケー シ ョンの
必要性 と重要性が提 言 されつづ けてい る。
看護教 育 におけ るデス ・エデュケー シ ョン ・プ
ログラムには, いろい ろな工 夫や試 みが な されて
い るが, 医学や看護学 の立場 のみ な らず,広 く民
俗 学や社会学,その他死 に関す る学際的 な教科 (
タ
ナ トロジー) を取 り入れて,系統 的 に教育す るこ
とが必要 であ る と考 え る。
ま
と
め
看護教育 におけ るデス ・エデュケー シ ョン を考
察 す る基礎 資料 とす る 目的 で,看護学生 を対象 に
死者儀礼 に関す る調査 を行 った。
0短大生 2
3
5
名で
8
オ ー2
1
才,回収率 は1
0
0%あ る。調査 項 目
年令 は1
は学生 の身近 な人の臨終 に立 ち会 った経験,葬儀
参列 の有無,将来 自分 の子供 を臨終 の場 に連 れて
い くか, お よび死者儀礼 に関す る知 識 であ る。
0
%で, そ
1)臨終 に立 ち会 った経験が あ るのは2
のほ とん どは祖 父母, 曽祖 父母 の臨終 であっ
た。
2)葬儀参列 はほぼ全員が経験 してお り,遺族 の
立場 としての会葬が ほ とん どであ った。
3)将来 自分 の子供 を臨終 の場 に連 れて行 くは約
2
/
3
であ り,理 由は死 を学 ばせ る機会 として と
らえ,死や生 を学 ばせ る姿勢が うかが えたが,
1)菊川忠夫 :生 と死の哲学,p.1
6
7
,世界書院,1
9
91
.
2)斎藤友紀雄 :グリーフ ・ワークをめぐって,現代のエ
20
,1
9
8
8.
スプリ,248,p.
3)橘 雅子 :女子大生の死者儀礼に関する知識について,
1
)
,p.
5
,1
9
87
.
死の臨床,10(
4) 3) に同じ
5) 日野原重明,山本俊一 :死生学 死から生の意味を考
61
.技術出版,1988.
える,p.
8
0
,東栄堂,1
98
5
.
6)黒瀬豊彦 :お葬式の基礎知識,p.
7) 3) に同じ
8) 3) に同じ
9) 3) に同じ
1
0
)宇都宮輝夫 :悲嘆の社会学,現代のエスプリ,24
8
,
p.
61
,1
9
88
.
54
,技術出版,
ll
) 日野原重明,山本俊一 :死生学,p.
1
9
88
.
病 と死の文化 現代医療の人類学,
1
2
)披平恵美子 :
p.
44
,朝日新聞社,1
9
9
0
.
3
4
,朝 日新 聞社,
1
3)汲平恵美子 :病 と死 の文化,p.
1
9
90
.
1
4
) アルフオンス tデーケン :
死への準備教育 第 1巻
死を教える, メジカルフレンド社,1986.
1
5)アルフオンス ・デーケン :死-の準備教育 第 2巻
死を看取る,メジカルフレンド社,1986.
1
6
) アル7オンス ・デーケン :死への準備教育 第 3巻
死を考える,メジカルフレンド社,1
98
6
.
1
7
)樋口和彦,平山正美 :生と死の教育 デス ・エデュケ
-ションのすすめ,創元社,1
98
5
.
井口章二 :日本の葬式,筑摩書房,1
9
77
.
∫
.ヒントン :死 とのであい,三共出版株式会社,1979.
立川昭二 :歴史紀行 死の風景,朝日新聞社,1
9
82
.
約1
/
3は連 れて行 か ない・
分 か らない としてお
り,今後検討 の余地 を残 してい る0
ロバー ト・フル トン :デス ・エデュケーション 死生
9
84
.
鶴-の挑戟,現代出版,1
4)死者儀礼 は生活 の中に定着 してい る清めの塩
年1
1月 6日受理)
(
1
99
1
- 8
0-
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