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将来や真実の「推測」ということへの考察 - MIUSE

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将来や真実の「推測」ということへの考察 - MIUSE
Departmental Bulletin Paper / 紀要論文
将来や真実の「推測」ということへの考察
Consideration on how to infer the future and/or the true
mechanism.
関根, 義彦
Sekine, Yoshihiko
三重大学大学院生物資源学研究科紀要. 2011, 37, p. 57-60.
http://hdl.handle.net/10076/11537
三重大学大学院生物資源学研究科紀要
第 37号:57~ 60
平成 23年 2月
将来や真実の『推測』ということへの考察
関
根
義
彦
三重大学大学院生物資源学研究科共生環境学専攻自然環境システム学講座
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1.はじめに
我々の社会では将来の『推測』は極めて重要な
2.推測の前提
研究ではまず調べる現象について今までに出版
問題です。推測が上手にできる人が能力の高い人
されている論文や研究報告などをすべて読みます。
と言っても過言ではありません。真実のメカニズ
これらの論文の読書に関しては,注目している現
ムを追求する『推測』については,研究と警察の
象の原因は何か,ということを念頭にいろいろと
犯人捜査においてそれらの進行過程などを考える
想像しながら読書することが必要です。しかし,
と,両者はかなりよく似ています。つまり,研究
一般に論文の内容は難しいことが多く,論文の内
では調べる現象のメカニズムというか基本力学な
容の詳細な理解は大変です。この面ではその分野
どの解明であり,警察では犯罪の犯人捜査ですが,
の基礎知識や基礎理論を理解しておくことが必須
共に『たぶんこれが原因〈犯人〉だろう』と考え
であり,それらを理解していても論文結果の理解
る『推測』から始まることが両者で共通していま
には困難を伴うことがあります。
す。この『推測』を誤ったら大変なことになりま
学生諸君は読むべき論文について指導教官に相
す。そして,次の段階では,現象の原因や犯人が
談するのが一番です。しかし,現実では大学の卒
誰であるかについて,そうである証拠を手段を選
論や修士論文などで指導教官にこのような相談が
んではっきりと示すことが重要になります。これ
持ち込まれることは極めて稀です。学生は指導教
らの研究や捜査過程では『たぶんこれだろう』と
官の方から読むべき論文をすべて与えられ,論文
いう初期の『推測』が特に重要で,ここではこの
の解読に必死になっているというのが大半です。
『推測』についていろいろと考えてみることにし
これでは考えている現象について『推測』もする
ます。
ことができず,困った問題です。以下では自ら積
極的に考えて思考する場合を考えることにします。
研究の初心者の場合には研究しようとする分野
2010年 11月 1日受理
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関
根
義
彦
について適切な論文を見つけることができるかど
うことです。3次元座標は考える物体の空間分布
うか,それが大きな問題となります。最近書かれ
そのものであり,そこでは時間の経過を考慮する
た調べたい現象に関連する論文を一つ見つければ
ことはできません。勿論,時間の経過はもう一つ
しめたもので,その論文の引用文献をすべてサー
別の次元で,各時間毎に 3次元座標の空間分布が
チし,引用文献の引用文献をすべてサーチすれば
変化して存在することになります。その様子を頭
ある程度読むべき参考論文のリストアップはでき
に浮かべたり想像することは少し難しい,という
ます。このように,読むべき論文が明確に論文に
人も多いかと思いますが,現実の世界は 4次元座
引用されているということは実にありがたいもの
標で流れます。
です。しかし,当然引用されるべき論文が引用さ
これに関してはおもしろい話があり,社会科で
れていない場合もあり,幅広いチェックと注意深
は 3次元座標の空間分布が得意な人は地理学が得
さが必要です。
意で,反対に 4次元座標というか時間変化の方が
警察の犯罪捜査でも論文と同じような犯罪の経
得意な人は歴史学が得意という可能性があるので
過や証拠の問題があります。犯罪捜査では今まで
す。私は時間変化よりも現在に時間を固定して 3
の事件の経過を調べ,現場の証拠などを集めるだ
次元座標の空間変化の考察の方が得意で,地理学
け集めます。集められた一連の事件経過におかし
が大好きでした。どうも空間変化に加えて時間変
い所はないか,普通の人間の心理状態と矛盾する
化をじっくりと考慮する世界史は苦手でした。空
所はないか,などの点を確認します。また危うい
間変化が比較的小さい日本史の方がまだ理解しや
証拠や証言と,真実で頼りになる証拠があり,提
すく,一般に日本史では空間分布が世界史と比べ
示された証拠がどのような過程で出てきたものか,
てあまり大きくありません。しかし,織田信長,
などの面を調べます。これには警察官の今までの
豊臣秀吉,徳川家康と続く戦国時代から江戸時代
知識や経験による面もあり,それらに基礎を置く
については,小さい頃からいろいろと戦記を読書
警察官の『カン』が関与します。この『カン』が
しましたが,年代を明確に記憶しておくことがで
まさに『予測』に含まれます。研究でも論文に書
きず,川中島の決戦や桶狭間の戦いの発生の前後
かれていることがすべて今日までの真実かどうか
問題などについてはよく記憶しておりません。武
は一考の余地があります。すべての論文や研究報
田信玄,上杉謙信そして織田信長などの一生につ
告などを読み終わって,いよいよ『推測』を行う
いてもよく本を読んだのですが,時空間の変化ま
ことになります。
で,整理して考察することができませんでした。
もう一つ時空間に関するものにアインシュタイ
3.推測の実態
ン先生の特殊相対論があります。光は動いてる系
から発光しても,止まっている系から発光しても
一般に『推測』といっても推測するものについ
同じ速さである,という観測事実から発見されま
てどれ位の『知識』があるか,ということで大き
した。これは地球上で緯度による自転速度の違い
く別れます。『知識』と簡略化して言ったのは前
を使って実験した結果,光速が緯度によらず一定
節で述べた論文内容や犯罪の経過や証拠などの質
になることが明白になったもので,マイケルソン・
と量のことで,それらが十分にあるか否か,それ
モレーの実験といわれています。光速が一定とな
が大きな問題となります。『知識』が十分あれば,
るように 4次元座標を回転すると,空間が縮んで
『推測』は比較的容易にできて,ほとんどの人は
時間が伸びる,という結果が得られます。これが
同じ結論を推定します。問題となるのは『知識』
特殊相対論です。時空間を回転するもので,光の
が少ない場合で,そこでの『推測』が本論の主題
速度を一定にするためには,空間を小さくして時
です。
間を長くすることになります。これを用いれば銀
私は『推測』とは時空間を明確に把握し,その
河系内の旅行は 5年程度で実行可能となります。
中で慎重にいろいろと解析すればそれが『推測』
ただし,5年間旅行して地球に帰ると地球の時間
であると考えます。時空間とは 4次元の座標で,
の伸びは無いので 5年後の地球ではなく 10万年
時間を止めれば単に空間の 3次元座標であるとい
程度後の地球に帰ることに注意が必要です。
将来や真実の『推測』ということへの考察
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『推測』の話で特殊相対論のような時空間をミッ
年以降 1975年春まではほとんど直進流路でした
クスした回転はあまり関連がないようですが,時
が,1975年夏から 1989年の間は大蛇行流路が卓
間変化の考察に関連して空間変化をどの程度広げ
越して生じ,それ以降は直進流路が卓越する傾向
て考えるか,という点が一番問題となります。極
があります。
端な例として空間を 3次元摩擦のある点,或いは
親潮は通常北海道南沖から仙台湾沖あたりまで
二三の点に回定して,そこでの時間変化のみを考
南下し,その下流で向きを東に変えて流れます。
察する方法です。ある世界史の先生は各国ごとに
しかし,時折親潮は茨城県から房総半島の東沖ま
その歴史というか時間変化を考察し,空間変化で
で顕著に南下することがあり,親潮の異常南下と
ある国と国との戦争はそのつど考慮すればよい,
呼ばれています。1975年から 1989年の間は親潮
と言っておられます。ある国の権力者と反対勢力
の異常南下が冬から春にかけて比較的頻繁に発生
の 2点を設定するということでしょう。また,織
し,それに関連して日本は厳冬になる傾向があり
田信長の人生といった場合には,彼の居た場所で
ました。1989年以降親潮の異常南下はあまり発
空間的にやや変化がありますが,すこし空間変化
生しておりません。 注目すべきは, 1975年や
を考慮すれば彼の人生を論じることはできそうで
1989年を境とする期間を無視して黒潮流路や親
す。
潮の南限緯度などを時間平均すれば,結果に主な
いずれにしても『推測』では本来 4次元の時空
変動特性が現れないことになります。『推測』に
間変化について考慮するべき時間変化と空間変化
そのようなデータ解析を行うことはふさわしくあ
をしっかりと解析すれば良い,ということになり
りません。例えば,1978年頃には 10年変動の予
ます。人間関係やいろいろな社会問題もそれで解
知はできません。少し長い目で現象を考えること
決できるか,という批判も出そうです。一人の人
が必要です。
間や一つの社会情勢の変化も 4次元の時空間変化
地球の温暖化による大気と海洋の将来変化は
で解釈できると思われます。人には遺伝的なもの
『推測』が最も難しいものの一つです。それは過
があるわけですが,これも親や祖父母を時空間で
去の変動特性が将来に当てはまらず,未来が過去
たどればなんとかなりそうです。
とは異なる新しい形で変動する可能性があるため
です。勿論,基礎力学は同じ特性を持ちます。し
4.現代の難しい推測
かし,グローバルに諸現象を総計すると変わった
特性が生じる可能性があります。大気と海洋はそ
時空間変化で注意すべき現象として波動問題が
れぞれ気体と液体ですが,流体としてまとめて考
あります。波動は時間的にみても空間的にみても
えることができます。その力学は地球流体力学と
波動として進む現象として押さえることができま
してまとめて考察することができます。流体力学
す。この波動が重要ならばその振動特性を明確に
の大きな特徴として基礎方程式が非線形であると
調べますが,もし重要でないならば除去する方法
いうことがあります。簡単にいうと線形とは足し
を考えます。自然現象では日変化や季節変動が顕
算の演算であるのに対し,非線形は掛け算のそれ
著な振動現象のひとつですが,振動現象とは異な
ということができます。このため非線形では小さ
る経年変動も注目すべき現象です。その例を紹介
いスケールの現象が大きくなって大きいスケール
します。
の現象になることができます。小さい渦が大きな
最近気象現象や海洋現象では,大気中の温室効
果ガスの増加で大気現象やそれに関連する海洋現
竜巻や台風になるのがその証拠です。
天気予報も『推測』の一つですが,完璧に予知
象に著しい経年変化が生じています。 特に 1975
できないのはこの非線形のためです。非線形のた
年と 1989年あたりを境として急激な変化があり,
め解析的な手法で解くことはできず,格子点を時
10年変動(de
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hange
)と呼ばれています。
空間に設定しコンピュータを駆使する数値解にな
日本南岸の黒潮にはほぼ日本沿岸に沿って流れる
ります。格子点間隔よりも小さい現象が無視でき
直進流路と紀伊半島の南で大きく離岸して伊豆海
なくなることも多く,格子点間隔を 100m 位に
嶺の東で北上する大蛇行流路があります。1970
すればどうにかなりそうですが,観測点(アメダ
60
関
根
義
彦
ス)なども 100m 間隔程度には設定する必要が
しても理解できません。難しいかもしれませんが,
あり,その予算は大変なものになります。観測点
このような犯罪を未然に防ぐ『推測』とそれによ
は予報値を補正するために必要です。現在の気温
る対策が必要です。
や湿度などの分布などについてはスーパーコンピュー
タは無知です。
警察でも現在予知できない犯罪が発生すること
人間の行動は気象学と比べて非常に非線形が強
いようですが,大半の現象は理屈で理解できます。
前に述べた無差別殺人のようなことは例外であり,
があり,困っています。例えば町の中で無差別に
大半は線形かもしれません。最後に『推測』の難
鉄砲や刃物で襲いかかる犯罪です。知らない人を
しいことを述べましたが,それらも 4次元の時空
大勢殺したところでどのような利益があるか誰に
間変化であることには変わりが無いことを述べて
も理解できません。人は利益のみのために行動せ
ぺンを置きます。
ず,であるとしても人を無差別に殺すことがどう
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