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片頭痛 竹島 多賀夫 - 成和脳神経内科医院

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片頭痛 竹島 多賀夫 - 成和脳神経内科医院
片頭痛
竹島 多賀夫
罹患率は日本人の約1割
-1-
片頭痛は頻度の高い一次性頭痛で、とてもつらい頭痛で
す。病名から頭の片側だけが痛くなると思われがちですが、
両側や全体が痛くなることもあります。ギザギザの光が見
えるような前兆の有無により、前兆のある片頭痛と前兆の
ない片頭痛に大別されます。以前は、前兆のあるものを「古
典型片頭痛」ないものは「普通型片頭痛」と呼ばれていま
した。
現在、国際頭痛分類では表3のように細分化され
ています。
1995 年に行った鳥取県大山町の住民健康調査のなかの慢性頭痛に関して見てみると住民
の約6%が片頭痛にかかっており、22 % が緊張型頭痛を持っていることがわかりました。
(図4)
日本を代表する頭痛の統計は 1997 年に行われた北里大学の坂井文彦と五十嵐久佳の全
国調査報告があります。これによると、日本人の 8.4 % が片頭痛に罹患しており、女性の
30 歳代、40 歳代に多いことがわかります。(図5))
日本では 15 歳以上の 6 ~ 9 % 、アジア諸国では 5 ~ 15 % が片頭痛を持っていると考
えられます。
欧米では、1960 年代以降、片頭痛は対策が必要な病気として盛んに研究が行われるよう
になりました。そして、1980 年代には、セロトニンに作用するトリプタン製剤が片頭痛に
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よく効く治療薬として開発され、一躍注目をあびるようになりました。
1990 年代になると、画像検査の進歩によって片頭痛患者の脳機能の異常が視覚的にとら
えられるようになってきました。日本でも、片頭痛に対して次第に関心がもたれるように
なり、医療関係者でも認識が高まりつつあります。
片頭痛の2大特徴
片頭痛は、片側はるいは両方のこめかみから目のあたりにかけて、脈を打つようにズキ
ンズキンと痛むのが特徴です。
ひとたび頭痛発作が始まると、つらい頭痛が 4 ~ 72 時間続きます。心臓の鼓動にあわ
せてるように襲ってくる痛みを拍動性といい、歩いたり、しゃがんだり、階段の昇降など
の日常的な動作によって悪化します。悪心や吐き気、嘔吐を催すほか、光や音・臭いに過
敏になるなどの症状をともなうことが多いのも特徴です。日頃はなんでもない子供の騒ぎ
声や、テレビの音などがうるさくて耐え難いと感じたり、車のヘッドライトがまぶしくて
-3-
不快になったり、タバコや香水や炊きたてのご飯のにおいが不愉快に感じるようにもなる
ことがあります。
イギリスのブラウン博士はこれらの片頭痛の症状と経過をまとめて、図6のように予兆
期、前兆期、頭痛期、解決期、回復期におきる身体の症状を図に描いて表現しています。
頭痛診療は、これらの症状の特徴を組み合わせて片頭痛の診断が行われます。表4に片
頭痛のなかでも数の多い「前兆のない片頭痛」の診断基準を掲載しました。自分の頭痛が
片頭痛に該当するかどうか、主治医の先生と相談しながら確かめてみるとよいでしょう。
片頭痛の発作中はあまりにもつらいので、人と話をするのもおっくうになり、無口で人
付き合いが悪い、気難しい変人などと誤解される場合もあるかもしれません。片頭痛発作
のピーク期には、髪を触れられるのが不快になり、手の指がピリピリと感じるなど、頭部
や手足の皮膚が過敏になるアロデイニアという感覚異常がおこることもあります。片頭痛
発作中は暗くて静かな部屋でじっとしていることが、症状を悪化させない方法なのです。
それでもとてもつらいことは言うまでもありません。英国のメンケン博士らの研究によ
れば、重い片頭痛発作がおこっているときに感じる精神的・肉体的な負担は、認知症や四
肢麻痺と並んで最重度に位置づけられています。
頭痛発作の頻度が増してくると、毎月 15 日以上、なかにはほとんど毎日のように頭痛
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がおこるようになることもあります。片頭痛が慢性化する問題は、頭痛医療の重要なテー
マのひとつで、そのメカニズムや治療法の研究が進められています。
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片頭痛には遺伝的な要素もあることがわかっています。片頭痛もちの子供の、お母さん
は片頭痛もちということが多いのです。親子3代、片頭痛もちという患者さんもいます。
「前兆」のある頭痛とない頭痛
先ほど少し話しましたが、片頭痛には「前兆」と呼ばれる前ぶれの状態が現れるケース
と現れないケースがあります。
前兆の代表的なものとして有名なのは、頭痛がおこる前や、おこり始めたときに、目の
前にギザギザ模様などの光が現れ、右または左方向に徐々に拡大して視野の一部が見えな
くなったりする「閃輝暗点」という視覚性前兆です。閃輝暗点は5分以上かけてゆっくり
進展し、60 分以内に消失します。その光の見え方はミラーボール模様(切子模様)、ギザ
ギザ模様(ガラスの破片)、モザイク模様、対象が光って見える、光の点線が見えるなどさ
まざまです。(図7)
このほか、手足の皮膚がチクチクとしたり、感覚が鈍くなる感覚異常、言葉がしゃべり
にくくなる失語性言語障害が前兆として現れることもあります。そして、これらの複数の
前兆症状が連続して出没することもあります。片頭痛の前兆として運動麻痺がみられる場
合は、「片麻痺性片頭痛」、物が二重に見えるなどの脳幹に由来する神経症状がみられる場
-6-
合は「脳底型片頭痛」と分類されています。
これらの前兆は、すべての片頭痛の患者さんに現れるわけではありません。先程述べた
ように前兆のない片頭痛もあり、前兆のない患者さんのほうが多数派です。
前兆よりも前に現れる頭痛予告「予兆」
片頭痛の発作がおこる数時間前から、人によっては1日か2日前に、なんとなく気分や
集中力が落ち込む、食欲が落ちる、あるいは無性に食べたくなるなどの状態に見舞われる
ことがあります。このような漠然とした感覚も頭痛のきざしの一種で「前兆」とは区別し
て「予兆」と呼んでいます。
肩がこるようなこともしていないのに、急に肩が重くなり、頭が締め付けられるように
痛くなって、しばらくするとひどい頭痛と吐き気に襲われるというケースも多くみられま
す。肩こりのせいで頭痛がおこっているのではなく、片頭痛の予兆として、肩こり、頸部
痛がおこっているのです。
前兆も予兆もまったくなくて頭痛がおこる人、前兆はないけれど予兆はある人もいます。
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また、閃輝暗点などの前兆だけがあって、そのあとに頭痛がおこらない人もいます。それ
も片頭痛です。
片頭痛の誘因
病気を引き起こす事柄や物質を誘因といいますが、片頭痛の場合は睡眠不足や寝過ぎ、
疲労、月経などが誘因となります。おなかのすき過ぎ、過度の緊張、逆に、緊張から解放
されてホッとしたときなどにも頭痛がおこりやすくなります。人ごみ、強い光、揺れるよ
うな光、タバコや香水など特定のにおいで誘発される人もいます。
頭痛を誘発すると言われる食品もあります。よく知られているのが、赤ワインと熟成度
の高いチーズです。たまにピザを食べると頭痛がおこるという話も聞きますが、チーズが
誘発している可能性があります。このほか、ナッツ類や香辛料なども有名ですが、誘因と
なる食品には個人差がありすぎて万人に共通するものではありません。人によって気をつ
けたほうがいいものはそれぞれ違いますから、いつ、どんなときに片頭痛がおこりやすい
のか、自分で注意深く観察してみることが大事です。誘因物質を自分で知ることが、賢い
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片頭痛予防につながります。
片頭痛のメカニズム
片頭痛がおこるメカニズムについて現在最も有力な学説が、「三叉神経血管説」です。
米国のモスコウィッツ博士が提唱した学説で、片頭痛の痛みの発生メカニズムをうまく
説明できます。
これは、脳の硬膜の表面にある三叉神経と細い血管に炎症がおこると、そのために血管
が拡張して三叉神経を刺激します。血管の拡張が神経を介して脳に伝わるため、拍動にあ
わせて刺激が伝わりそれがズキンズキンとした痛み(片頭痛)として脳に知覚されるとい
う説です。
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もう少し詳しく説明すると、ストレスやさまざまな刺激によって三叉神経の一部が活性
化すると、三叉神経からCGRPやサブスタンスPという化学物質が放出されます。これ
らの物質が血管や周囲の組織に作用することで、血管から血漿蛋白が流出して、炎症反応
がおこります。ひとたび反応がおこると今度は、三叉神経が血管によって刺激されて活性
化し、CGRPやサブスタンスPが放出され、炎症が拡大していき、片頭痛発作がおこる
のです。
脳の血管が拡張するような刺激と、神経が興奮しやすくなるような状態、そして炎症を
促進するような状況などが片頭痛をおこしやすくするのですが、これら一連の流れは、頭
痛の症状を最もよく抑えることができる薬であるトリプタン製剤の作用を、うまく説明で
きることからも、最も有力視されている学説です。
片頭痛の代表的な前兆である閃輝暗点は、脳後頭葉にある視覚野で一時的な神経細胞の
興奮と活動の抑制が徐々に拡がっていく(皮質拡延抑制)ときにおこります。皮質拡延抑
制という現象はウサギを使った動物実験で 1960 年代から知られていましたが、最近、f
MRIという特別な脳MRI撮影により、片頭痛の前兆のときに皮質拡延抑制がおこって
いることが確かめられました。
片頭痛の前兆である皮質拡延抑制から三叉神経血管系の神経原性炎症をつなぐ物質とし
てMMP-9(マトリックス・メタプロテナーゼ9)という炎症性物質の役割が今、研究
者に注目されています。
遺伝子から、片頭痛の根本原因に迫る研究も現在進んでいます。片頭痛発作とともに手
足の麻痺がおこる「家族性片麻痺性片頭痛」という特殊な頭痛があります。この病気の原
因は、CACNA1Aというカルシウムチャンネルの遺伝子の異常が原因であることがわ
かってきました。このほか、ATP1A2、SCN1Aという遺伝子の異常も見つかって
います。通常の片頭痛でも、MTHF遺伝子などのあるタイプ(遺伝子多型)をもってい
ると片頭痛が発症しやすいことが分かってきました。
片頭痛の対処法
片頭痛を予防する一番のポイントは、片頭痛を誘発するような環境に身を置かないよう
にすることです。
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ただし、すべての誘因を避けることは不可能なので、片頭痛の引き金になる誘因をでき
るだけ避けるような行動プランを考えることが大事です。
片頭痛の発作中は、身体や頭を動かすと痛みが激しくなり、光や音に対して敏感になり
ます。なるべく暗くて静かな部屋で横になり、少しでも眠るとラクになります。椅子にか
けて安静にするだけでも、ずいぶん違います。額やこめかみ、後頭部など、痛む部分を冷
やすと、血管が収縮するので症状が軽くなるでしょう。
軽い頭痛発作には、お茶やコーヒーなどのカフェインが効く場合もあります。カフェイ
ンには血管を収縮する働きがあるからです。痛みがきそうなときに飲むのも有効ですが、
取りすぎはかえって頭痛を招くこともありますので適量が肝心です。
また、ビタミンB 2 とマグネシウムは、片頭痛を予防するといわれているので、それら
を含む食品を意識して摂りましょう。ハーブのなかにも、フィーバーフュー(ナツシロギ
ク)、バターバー(西洋フキ)など頭痛を和らげる作用をもつものがありますから、自分に
合った方法で生活に取り入れてはいかがでしょうか。「呉しゅゆとう」などの漢方薬も、片
頭痛に効くとされていますが、鎮痛薬のような即効性はありません。
頭痛がないときに頭痛体操をしてリラックスすると片頭痛発作がおこりにくくなります。
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しかし、片頭痛の発作中は安静にしているのがいちばんです。体操をすると頭痛がかえっ
て悪化するので、無理に身体をうごかしたりしないほうがいいでしょう。
片頭痛の治療法
片頭痛の治療の基本は薬物療法です。頭痛発作のときだけ服用する急性期治療(頓挫薬
療法)と発作をおこりにくくする予防的治療があります。普通は、急性期治療から始めま
すが、発作時の症状がひどい場合や、頭痛の回数が多い場合、また急性期治療だけでは不
十分な場合などに予防治療を行います。表6は、片頭痛薬を予防治療薬と急性期治療薬に
分けて、一般名、商品名、有効性について紹介しています。
急性期治療の目標は、速やかに痛みを抑えて吐き気などの随伴症状を取り去り、日常生
活が正常に営める身体的状態に回復させることにあります。現在の治療技術でいえば、薬
を飲んで、2時間以内に正常な状態、つまり仕事ができる、家事ができる、授業に出るこ
とができる、遊びに出かけることができるような状態になることがひとつの目安です。薬
を飲んで、1日くらいですっかり治ってしまったという話を聞きますが、それは一種の錯
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覚だと覚えておいてください。こういったケースは、実はその薬はあまり効いていなくて、
片頭痛が自然に終わって痛みや随伴症状が消えただけ、というのがほとんどです。
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なお、急性期治療の薬物療法には、トリプタン製剤、エルゴタミン製剤、鎮痛薬、非ス
テロイド性消炎鎮痛薬などが用いられます。
その詳細は、後に述べます。
次に、予防治療は急性期治療だけでは十分に改善しない場合や、急性期の治療薬が使え
ない人、また急性期治療薬の乱用がみられる場合などに用いられます。
具体的には、1カ月に3~4回以上の頭痛発作があって、生活に支障を生じている場合、
あるいは1カ月に 10 日以上鎮痛薬やトリプタン製剤、エルゴタミン製剤を使用している
場合は、予防薬を使用します。予防薬は痛みに作用する薬ではありません。片頭痛の原因、
誘因となる異常を改善する薬だと考えて下さい。
予防薬の効用によって片頭痛発作の強さや頻度が軽減するほか、「前兆」もおこりにくく
なります。予防薬を飲んでいても片頭痛がおこれば、頓挫薬(鎮痛薬やトリプタン製剤)
を併用してもかまいません。
片頭痛の予防効果が認められている薬には、ベータ遮断薬のプロプラノロール(インデ
ラル)や抗うつ薬のアミトリプチリン(トリプタノール)抗てんかん薬のバルプロ酸(デ
パケン)トピラマート(トピナ)などがあります。日本で開発されたカルシウム拮抗薬の
ロメリジン(ミグシス)は、頭痛の頻度と程度を軽減することが明らかにあり現在臨床の
場で広く使用されています。
その患者さんが持っている片頭痛以外の疾患(共存症)も考えて医師は治療を進めてい
きます。たとえば、喘息と片頭痛がある場合には、抗アレルギー剤、モンテルカスト(シ
ングラア)が、よい選択せづ。片頭痛の予防効果があります。喘息も治療できて、片頭痛
も治療できる薬なのです。同様に、高血圧があって片頭痛がある人は、片頭痛の予防作用
のある高圧薬がよいということになります。血圧の薬であるアンジオテンシン受容体拮抗
薬のあRBといわれるグループのうち、カンデサルタン(ブロプレス)やオルメサルタン
(オルメテイック)という薬も、片頭痛の予防効果が証明されています。
月経と片頭痛の関係
片頭痛は女性に多くみられますが、それは、女性ホルモンのエストロゲンが大きく関係
しています。女性片頭痛患者の 60 ~ 70 % が月経が関連した片頭痛を経験していると言わ
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れていますが、その原因は月経が始まるときに、エストロゲンの量が急激に下がるためで
す。そのため逆にエストロゲンの変動が少ない妊娠中は、片頭痛がおこりにくくなります。
月経痛は腹部だけでなく頭も痛いものだと思っている人がいるかも知れませんが「月経
関連片頭痛」と理解して対処したほうがいい場合がほとんどです。前兆のない片頭痛の診
断基準を満たす発作が、月経開始の2日前から3日目までにのみ生じ、そのほかの時期に
は頭痛が出ないものを、「純粋月経時片頭痛」といい、もともと片頭痛もちで月経期になる
といつも以上に頻発する状態を「月経関連片頭痛」といいます。正確に診断するには、患
者さんに頭痛ダイアリーを書いていただき、それを確認することが重要です。
月経に関連した片頭痛の大半は、前兆のない片頭痛で、閃輝暗点などを伴うことは少な
いとされています。また、重度の発作が多く、持続時間が長い傾向があり、72 時間を越え
るような発作を経験する人もいるようです。
女性の片頭痛は、初潮を迎える 10 歳代で発症し、40 歳代まで続きます。加齢による女
性ホルモンの変動により、更年期以降になると片頭痛特有の拍動性が目立たなくなって「緊
張型頭痛」のような重苦しい感じの痛みに変わってくることがあります。
月経時の片頭痛は、エストロゲンを補充すると、片頭痛の症状がラクになることがわか
っています。そのかわり、月経期以外の片頭痛が増えてしまいます。私は、頭痛治療の目
的で女性ホルモンを使用するのは賛成しませんが、婦人科的理由でホルモン投与の必要が
あれば使用していただいたうえで、片頭痛の治療を行うのがよいでしょう。
月経関連片頭痛は通常の鎮痛薬が効きにくくて、再発しやすいのでやっかいです。治療
にはトリプタン製剤の服用が有効ですが、通常の片頭痛発作より高用量が必要な場合もあ
ります。なかなか効かない場合には、NSAIDsとの併用を行うこともあります。
子供の片頭痛
子供にも頭痛はあります。子供の片頭痛は、発作時間が短いのが特徴です。頭が痛いと
言ってグッタリと元気がなくなっても、1~2時間もするとケロッとして走り回っている
ようなケースがあります。頭が痛くて朝起きられないのは、精神的な原因の不登校なので
はないかと誤解されていることもあるようですが、実際には血糖値の低下で片頭痛が誘発
されていることもあります。そんなときには、寝る前に、軽食かビスケットなどを食べさ
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せておくと早朝の血糖値低下を防ぐことができます。朝食抜きで登校すると、血糖が下が
って頭痛発作を引き起こすこともあります。夜遅くまで、テレビゲームや携帯電話に夢中
になっているために、頭痛がおこりやすくなることもあります。食生活を含めた生活習慣
の指導が必要でしよう。
頭痛の最新治療と市販薬
片頭痛の急性期治療薬には、鎮痛薬、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAID s)トリプタ
ン製剤、エルゴタミン製剤、制吐薬などがあります。
軽度から中等度の片頭痛には鎮痛薬や NSAID s、中等度から重度の片頭痛にはトリプ
タン製剤が第一選択の薬剤として推奨されいます。多くの急性期治療薬のうちどれを使う
かは、片頭痛発作の頻度や重症度のほか、身体的状況を考えて選択します。狭心症や脳梗
塞がある方はトリプタン製剤は使いにくく、胃潰瘍がある方は NSAID sが使いづらいと
いったこともあります。
また薬剤の選択方法で鎮痛薬など安価な薬剤を使用し、治療効果がみられなかった場合
にトリプタン製剤など特異的治療に進んでいくという段階的な方法と、片頭痛のために生
じている生活の支障度に応じて治療薬を選択し、重症度により階層化する方法をとる場合
があります。階層化する方法では、中等度以上の片頭痛であれば最初からトリプタン製剤
など特異的治療薬を選択します。階層化した治療のほうが、適正な治療法に早く到達でき
るとされています。片頭痛による生活の支障度を最小限にするため、自分に最も適した薬
を選ぶことがポイントです。それぞれの薬剤について説明しますので、主治医と相談して、
賢く薬を選んでください。
1.鎮痛薬、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)
鎮痛薬、NSAIDs、は市販の頭痛薬や処方薬として頭痛治療に広く使用されていま
す。頭痛発作のごく早期に服用すると高い有効率が得られます。予兆期(なんとなく頭痛
がおこりそうなとき)前兆期(閃輝暗点が出ているとき)の使用も効果が期待できます。
ただし、薬物乱用頭痛をおこす可能性があるので、使用日数には注意が必要です。おお
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むね1カ月に 10 日以内であれば問題ありません。オクロプラミドやドンペリドンなどの
吐き気を抑える制吐薬との併用も有効性があります。
・アスピリン(バファリン)
軽度から中等度の片頭痛に対しては治療効果が高く、安価なので第一選択薬のひとつに
なっています。日本では、海外に比べると少ない量で使用されており、1回 300 ~ 600 mg
を服用します。高用量を用いる場合は医師と相談してください。
・アセトアミノフェン(カロナール)
安全性が高く、薬価も安いので、広く使用されており、軽度から中等度の片頭痛発作に
は一定の効果が見られます。しかし、頭痛の程度がやや重い人には、効果が不十分かもし
れません。妊娠中に使用する場合の第一選択薬で、高用量をカフェイン、制吐薬と併用す
ると有効率が高くなります。小児にも使いやすい薬剤です。
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・イブプロフェン(ブルフェン)
アセトアミノフェンと並んで、安全性が高い薬剤と考えられています。小児にも広く使
用されています。
・ロキソプロフェン(ロキソニン)
中等度の片頭痛、緊張型頭痛に有効で、広く用いられでいます。最近、市販薬としても
登場しました。
・ジクロフェナク(ボルタレン)
中等度の片頭痛に有効です。
・ナプロキセン(ナイキサン)
海外で使用例や研究報告が多くなされています。薬が身体に作用している時間の目安で
ある血中半減期が 14 時間と比較的長いことが特徴です。
・インドメタシン(インテバン、インダシン、インフリー)
NSAIDsのひとつで、頭痛治療上は特殊な位置づけをされている重要な薬剤です。
鎮痛作用は強力ですが、胃腸障害がおこりやすいので片頭痛治療の第一選択薬とはいえ
ません。しかし、難治症例における選択肢として使われることも多くあります。
インドメタシンのプロデラックのインドメタシンファルネシル(インフリー)は、効き
始めるのがやや襲いものの、効力を発している時間が長いというメリットがあります。三
叉神経痛・自律神経性頭痛の発作性片側頭痛や、その他の1次性頭痛に含まれる持続性片
側頭痛には、インドメタシンが非常によく効くので、インドメタシン反応性頭痛とも呼ば
れています。
・セレコキシブ(セレコックス)
選択的COX2阻害薬といわれるNSAIDsで、胃腸障害の少ないのが特徴です。
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・AAC処方(アスピリン、アセトアミノフェン、カフェイン配合処方)
軽度から中等度の頭痛に有効な配合処方で、市販薬として広く用いられています。市販
されている頭痛薬の大部分は、この3つの成分を含んだAAC処方のバリエーシヨンで複
数の鎮痛薬やNSAIDsとカフェインを配合したものです。
2.トリプタン製剤
トリプタン製剤は、片頭痛の発生メカニズムをピンポイントで抑える片頭痛の特異的治
療薬で、上手に使用すれば片頭痛を劇的に改善することができます。鎮痛薬は炎症を抑え
る働きが主頭痛がひどくなってからでは効きませんが、トリプタン製剤は炎症を抑えるだ
けではなく片頭痛の痛みの発生、伝達物質をブロックし、血管の拡張も抑えるところが鎮
痛薬とは違います。現在、7種類以上のトリプタン製剤があり、国内ではスマトリプタン
のほか、ゾルミチリプタン、エレトリプタン、リザトリプタン、ナラトリプタンの5種類
が使用可能です。
トリプタン製剤の副作用には、一過性の喉や頸部の締め付け感、めまい、身体各部の痛
み、悪心、嘔吐、動悸、倦怠感、眠気などが報告されています。
トリプタン製剤は血管収縮作用があるので、心筋梗塞や虚血性心疾患、脳血管障害、一
過性脳虚血発作のある人、薬をきちんと飲んでいない高血圧症の患者さんには使用できま
せん。しかし、このような病気の合併、既往がなければ安全に使用できる薬剤といえます。
これまで片頭痛患者の 10 ~ 30 % は、トリプタン製剤が効かないと言われていましたが、
服薬のタイミングや使用量を工夫すれば、さらに多くの方の片頭痛に有効であることがわ
かってきました。
トリプタン製剤は、頭痛が中等度以上になってから使うのが普通でした。しかし、中等
度以上になることが予測される片頭痛発作なら、頭痛がひどくなるまで待たずになるべく
早期に使用した方が、より有効率を向上させることがわかってきました。とはいうものの、
前兆期や予兆期にトリプタン製剤を使用しても効果が乏しいことも示されています。
痛みが始まったら、なるべく早く服薬するのがベストです。
人によっては1回の服用量を増やせば、十分な効果が得られる可能性があります。24
時間以内に再発した片頭痛にもトリプタン製剤は有効で、2時間以上(アマージだけは4
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時間)あけて追加服薬することにより功を奏します。
トリプタン製剤は現在7種類あります。日本で使えるのは5種類ですが、いずれも有効
で、それぞれに特徴があります。
すぐに効いてほしい場合には、スマトリプタン(イミグラン)の皮下注射や点鼻薬が有
用です。皮下注射は群発頭痛では 10 分以内、片頭痛では 30 分以内に効果が発現します。
異なるトリプタン製剤の併用は、念のため 24 時間以上間隔をあけることになっています
が、同種のトリプタン製剤は2時間間隔(アマージは4時間)で使えます。たとえばイミ
グランの錠剤を内服後、2時間以上経てばいつでもイミグランの点鼻液や皮下注射を使う
ことができます。
リザトリプタン(マクサルト)は、ストロング型といわれており強力で即効性が期待で
きます。エレトリプタン(レルパックス)ナラトリプタン(アマージ)は副作用が少なく
穏やかに効くのでマイルド型といわれています。同時に長時間作用するのでロングアクテ
イング型ともいえます。スマトリプタン(イミグラン)ゾルミトリプタン(ゾーミク)は
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バランス型です。ただし、リザトリプタン(マクサルト)の 0.5 錠はマイルドトリプタン
として使えますし、高用量のエレトリプタン(レルパックス)は強い効果を発揮します。
それぞれのトリプタンは、少なくとも3回の頭痛発作を治療して効果や相性を判断し、
効かない場合には、ほかのトリプタンの使用を試みることが大切です。
スマトリプタン(イミグラン経口錠、点鼻液、皮下注射、在宅自己注射キット)
トリプタン製剤のパイオニア的存在で、日本で最初に認可されたトリプタン製剤です。
片頭痛治療の標準薬で、特に皮下注射、点鼻薬は、吐き気が強くて内服できない場合や、
即効性を要する場合に有用です。切れ味が良く有効性が高いのですが、喉や頸部の締め付
け感が強く出ることがあります。
2008 年にスマトリプタン(イミグラン)の在宅自己注射が保険適用になりました。片頭
痛の発作がおきたときに、患者さん自身の判断で、ペン型の注射器でスマトリプタン(イ
ミグラン)の皮下注射ができるようになりました。これまでは、病院に駆け込んでスマト
リプタン(イミグラン)の注射をしてもらう必要があったのが、自宅や外出先で、自分自
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身で治療できるようになったのです。安全に使用して頂くために、初めて処方するときに
は、病院で注射の打ち方を丁寧に指導します。自己注射の練習をして、医師がこの患者さ
んは自分自身で安全に使用できると判断してから注射薬が処方されます。スマトリプタン
(イミグラン)の在宅自己注射キットの発売により重度の片頭痛発作、群発頭痛の治療成
績が飛躍的に改善しました。正しい使い方を習って、慣れてしまえば自己注射は決して難
しくはありません。日本頭痛学会のホームページに、在宅自己注射による治療のガイドラ
インが掲載されていますので参考にして下さい。
ゾルミトリプタン(ゾーミック経口錠、口腔内速溶錠)
第2世代(副作用を軽くするなど改良した薬のこと)の薬剤。めまいや眠気、脱力とい
った中枢性副作用がおこることがあります。経口錠のほか、水なしですぐに服用できる口
腔内速溶錠もあり、発作が始まったとき、どこでもすぐに飲めるのが便利です。口腔内速
溶錠は、口腔粘膜からは吸収されず、唾液とともに飲み込んだ後消化管から吸収されます。
長く口のなかに入れているとかえって効果の発現が遅くなるので、早く飲み込んでくださ
- 22 -
い。
エレトリプタン(レルパックス)
効き目めは比較的穏やかですが、効いている時間が長いのが特徴です。眠気や悪心など
が出る率が低いので使いやすい薬剤です。高用量を用いると有効率が高くなります。トリ
プタン製剤を初めて飲む方にも副作用が少なく安心できることから初心者向けのトリプタ
ンといわれることもあります。
リザトリプタン(マクサルト経口錠、口腔内崩壊錠)
即効性があり、2時間以内に頭痛が消失する割合が高い薬で、随伴症状も抑えます。
ほかのトリプタン製剤では1回2錠必要な患者に、リザトリプタンなら1錠で治療できま
す。プロプラノロール(インデラル)との併用により血中濃度が上昇するため、海外では、
リザトリプタンを半分に減らして使われていますが、日本ではインデラルとは併用できま
せん。小児・思春期の片頭痛患者における有効性や有用性のデータが海外から報告されて
います。また、口腔内崩壊錠は水なしで飲めるので便利です。
ナラトリプタン(アマージ)
薬が効いている時間が 12 ~ 24 時間と長いため、24 時間以内の頭痛発作再発率を低く抑
えることができます。痛みが長く続くような、月経関連片頭痛の治療には、特に有用です。
副作用も少ないので、初めて使うトリプタンとしても適しています。1回 0.5 錠でも効く
方もあり、効果発現がやや遅いと感じられる患者さんには、ロキソプロフェン(ロキソニ
ン)などの NSAIDs と併用すると治療効果がさらによくなります。
3.エルゴタミン製剤
古くから片頭痛の特異的治療薬として使用されてきましたが、トリプタン製剤の登場で
- 23 -
特異的治療としての役割は限定的なものとなってきています。現在はトリプタンで頻回に
頭痛再燃がみられる場合に、使用されています。子宮収縮作用、血管収縮作用があるので、
妊娠中は使用してはいけません。
国内で使用可能なのは、クリアミンA(酒石酸エルゴタミン 1 mg 、無水カフェイン 50
mg、イソプロピルアンチピリン 300 mg )、クリアミンS(A錠の半量)の2タイプです。
なお、ジヒドロエルゴタミンの経口錠は、急性期治療薬としては無効で、通常使用しま
せん。ジヒドロエルゴタミンには注射製剤もあり、急性期治療に有用ですが、わが国では
認可されていません。
4,カフェイン
単独で投与してもあまり効果はみられませんが、片頭痛発作時に鎮痛薬などの併用薬と
して有用です。
カフェイン、無水カフェイン、安息香酸ナトリウムカフェインが片頭痛治療薬として認
可されています。眠気や、疲労感、集中力低下などの片頭痛の随伴症状の改善や、鎮痛薬、
エルゴタミン製剤などの片頭痛治療薬の副作用の軽減や、薬効の増強の目的で配合剤とし
て併用されています。
5.制吐薬(吐き気止め)
片頭痛の随伴症状である吐き気、嘔吐に効果があります。経口・静注・筋注・座薬などい
ろいろなタイプがあり、副作用も少ないので、トリプタン製剤、エルゴタミン製剤、NS
AIDsなどと一緒に積極的に併用することが推奨されます。
・メトクロプラミド(プリンペラン:錠剤、細粒、座薬、注射)
鎮痛薬やトリプタン製剤と併用します。重度の頭痛発作で、吐き気が強いときには静脈
注射を行います。
- 24 -
・ドンペリドン(ナウゼリン:錠剤、細粒、坐薬)
制吐薬としての効果はもちろん片頭痛の前兆期や予兆(閃輝暗点)が出ているときに使
用すると、頭痛発現が抑制できることもあります。その後頭痛が発生しても、吐き気は軽
くすみ、頭痛が始まってから内服するトリプタン製剤などの急性期治療薬の吸収を早めて
鎮痛効果を高めることができます。吐き気が強く、経口で飲めない場合には坐薬を使いま
す。
6.フェノチアジン系抗精神病薬、ステロイド、そのほか
フェノチアジン系抗精神病薬は、制吐作用のある薬で、以前はよく使用されました。
鎮静作用が目立ちますが、重症例やトリプタン、NSAIDsを使用できないケースに
は一定の役割があります。プロクロルペラジン(ノバミン)クロルプロジン(コントミン)
などが使用されることがあります。
副腎皮質ホルモン(ステロイド)は、通常の片頭痛発作の第一選択薬として用いること
はありませんが、劇症例や重症の場合には静脈注射で用いることがあります。
そのほかに、マグネシウム静注、リドカインの点鼻も有用と言われていますが、医学的
な証明は不十分です。
予防薬
急性期治療薬だけでは、頭痛による日常生活の支障をコントロールできない場合に予防治
療を行います。ケースバイケースで判断しますが、軽いものも含めて、頭痛のある日が月
に 15 日以上の人、片頭痛発作が1カ月に4回以上おこる人、発作が重度で急性期治療薬
の効果が不十分な人は予防薬を用いた治療をしたほうがよいでしょう。また、発作に対す
る不安や恐怖感が強い場合にも予防療法を行うほうがよいと思います。このほか、なんら
かの理由でトリプタン製剤が使えない人や、頭痛とともに意識障害や手足の麻痺がおこる
脳底型片頭痛、片麻痺性片頭痛の場合にも予防治療が必要です。
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1.カルシウム拮抗薬
・ミグシス、テラナス
標準的な片頭痛予防薬で「保険適用のある」薬剤です。脳血管をやや拡張した状態で安
定させる働きがあります。1日の2回、約2~3カ月続けて服用します。その後は様子を
みながら、症状に応じて、継続ないし、ゆっくり減量します。
・ベラパミル(ワソラン)
群発頭痛の予防薬としてよく使われます。元来、頻拍症や狭心症の治療薬として使われ
る薬ですが、高用量(6~9錠)を用いると群発頭痛の発作を抑制する効果があります。
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副作用として、徐脈と便秘に注意します。特に高用量を用いるときは、重度の便秘、腸閉
塞に注意する必要があります。ベラパミルあ片頭痛の予防にも用いられます。
カルシウム拮抗薬は高血圧の治療薬として使われていますが、ロメリジンやベラパミル
は血圧への影響はほとんどありません。降圧薬として用いられるカルシウム拮抗薬では、
片頭痛の予防効果が証明されているものが少なく、あまり使われません。
2.ベータ遮断薬
交感神経を鎮める作用があります。交感神経のベータ受容体の働きを抑えるプロプラノ
ロール(インデラル)は、血圧を安定させたり、心拍数を減少させる作用もありますので、
緊張しやすい方、血圧が高めの方、動悸がおこりやすい方に適しています。喘息の患者さ
んには使えません。
メトプロロール(セロケン)はベータ受容体のうちベータ1受容体を選択的に遮断する
薬剤で、喘息を誘発しにくいことが特徴です。片頭痛の治療効果はプロプラノロールとほ
ぼ同等です。
ベータ遮断薬のなかにも、片頭痛予防効果があるものとないものがあります。内因性交
感神経刺激作用のあるものは無効と考えられています。すべてのベータ遮断薬が片頭痛の
予防効果があるわけではありませんので、専門医と相談して薬剤を選択してください。
3アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB):カンデサルタン(ブ
ロプレス)オルメサルタン(オルメテック)
臓器保護作用のある降圧薬として、広く使用されていますが、片頭痛予防効果もありま
す。特に、血圧が高めの、中高年の片頭痛の治療に適しています。またアンジオテンシ
ン変換酵素阻害薬であるリシノプリル(ロンゲス)も片頭痛予防効果があります。
4.抗てんかん薬
脳の神経細胞の興奮や、過敏性を抑制する働きがあり、バルプロ酸ナトリウム(デパケ
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ン)、トピラマート(トピナ)などが片頭痛の予防薬として使われます。
・バルプロ酸(デパケン、セレニカ、バレリン)
脳内の抑制性神経伝達物質であるGABAを増加させることにより、脳の過敏性を正常
化させ、気分を安定させる作用があります。片頭痛予防薬の第一選択薬のひとつで、高い
有効性が期待できます。片頭痛予防には通常 400 ~ 600 mg を用います。眠気、体重増加、
高アンモニア血症がおこることがあります。2010 年 10 月に、日本でも片頭痛への保険適
用が一部の製剤(デパケン)について認可されました。血中濃度が上昇しすぎると、胎児
の奇形発生が増加すると言われています。このため、妊娠の可能性がある女性が使用する
場合は、血中濃度の急激な上昇がおこりにくい徐放性製剤(薬の名前の後にRがついてい
るもの)を選択し、使用量を多くとも 1000 mg 以下、なるべく 600 mg 以下にする必要が
あります。
・トピラマート(トピナ)
脳内の興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸のAMPA・カイニン酸型受容体機能を
抑制することで脳の興奮性を抑えます。副作用として手のピリピリするようなしびれ感(錯
感覚)がよく現れますが、心配ありません。眠気、体重減少、認知障害がおこることがあ
ります。
このほか、治療が困難な例では、ガバペンチン(ガバペン)、プレガバリン(リリカ)、
ラモトリギン(ラミクタール)などを用いる方法も試みられています。
カルバマゼピン(テグレトール)は以前はよく処方されていましたが、あまり効果がな
いので最近は処方されなくなりました。クロナゼパム(リボトリール、ランドセン)は片
頭痛自体を予防する効果は少ないのですが、ほかの片頭痛予防薬の補助として併用するこ
とがあります。
5.抗うつ薬
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神経伝達物質セロトニンが関与している片頭痛の予防薬として、脳内のセロトニンを増
加させる作用のある抗うつ薬が使われます。
・アミトリプチリン(トリプタノール)
その化学構造から三環系抗うつ薬と呼ばれ、古くから使用され有効性が証明されている
薬です。うつ状態の合併の有無にかかわらず、片頭痛、緊張型頭痛に有効で、特に片頭痛
予防薬の第一選択薬のひとつになっています。飲みはじめに口渇と眠気がおこりますが、
慣らしながら増量することで克服できます。通常 10 mg くらいから開始して、30 ~ 75 mg
程度を、1日1回、夕食後か寝る前に内服します。効果が発現するのに早くても6週間、
通常8~ 10 週間かかるので、気長に治療を続ける必要があります。
・パロキセチン(パキシル)、セルトラリン(ジェイゾロフト)フルボキサミン(ルボック
ス、デプロメール)
これらは、SSRIと呼ばれているセロトニンの再取り込みを阻害する薬剤で、安全性
が高いことから広く使用されています。パニック障害、社会不安障害、うつ状態が合併し
ている場合や、薬物乱用頭痛に陥っている場合の片頭痛治療に用いられます。抗不安作用
も期待できます。服薬初期に胃腸障害や眠気がおこることがあり、かえって頭痛が増強す
るケースも報告されています。
・ミルナシプラン(トレドミン)
セロトニンとノルエピネフリンの再取り込みを阻害する薬剤で、SNRIと総称されま
すが、SSRIに類似した薬剤です。効果発現が比較的早いとされています。
6.その他の予防薬
アレルギーを抑える抗ヒスタミン薬、ぜんそくの薬、ビタミン、漢方薬、ハーブなども
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片頭痛の予防に効果があります。
・シプロヘプタジン(ペリアクチン)
アレルギーや炎症を抑える抗ヒスタミン薬の一種で、子供の片頭痛や、片頭痛に伴う腹
部症状を和らげるのに使われます。けいれんを誘発することがあるので、発熱時は使用は
さけるようにします。
・ロイコトリエン受容体拮抗薬
モンテルカスト(シングレア、キプレス)
ぜんそくの治療薬です。ある程度片頭痛の予防効果があります。ぜんそくやアレルギー
のある方に併用薬として使用されます。
・ビタミン、漢方薬、ハーブ
高用量のビタミンB 2 やマグネシウムも、片頭痛の予防に効果があるという研究結果が
報告されています。酸化マグネシウム(マグラックス、マグミット)は下剤としても使わ
れます。長期連用する場合は高マグネシウム血症にならないように、ときどき血液検査で
血中のマグネシウムを測定します。
また、漢方薬では「呉しゅゆ湯」がよく使われます。
片頭痛に効くハーブとして知られているのが、フィーバーフュー(ナツシロギク)。
花はカモミールに似ていて、その苦い葉を用います。バーターバー(西洋フキ)も片頭
痛の治療に使われてきました。
今後の動きが期待できる治療法
ボツリヌストキシン(ボトックス)という筋肉を麻痺させる毒素は、少量を適切に使用
すると筋肉の収縮を抑制するすぐれた薬として利用できます。美容整形の領域で、シワ取
りに使われることでご存じの方も多いかもしれません。ボツリヌストキシンを頭頸部や額、
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鼻根部などに注射すると片頭痛や群発頭痛が軽快するという報告があります。特に慢性頭
痛に対し、米国ではかなりよい成績が得られているようです。まだ日本では、一般には使
用できませんが、今後の動きが期待される治療法です。
重度の片頭痛発作の急性期治療
通常、片頭痛の発作時間は4時間から 72 時間ですが、重度の頭痛が 72 時間を超えて
続く場合を、片頭痛発作重積といいます。片頭痛発作重積では、強い頭痛と嘔吐のために、
全く動けない状態になります。音過敏もあり、病状や経過などを詳細に聞くことが困難な
こともあります。診察時にはまず、二次性頭痛のチェックが必要です。緊急を要する脳の
病気でないことを確認したあとに、治療を開始します。食事ができていないことが多いの
で、点滴をします。点滴には制吐薬(メトクロプラミド)を加えます。そしてスマトリプ
タン(イミグラン)の皮下注射をします。
それでも不十分な場合は、副腎皮質ホルモンステロイド(デキサメサゾン、ハイドロコ
ルチゾン)や、鎮静剤(ジアゼパム)を点滴、または静脈注射します。月経時片頭痛など
では、まったく動けないというわけではありませんが、中等度以上の頭痛が 72 時間を超
えて続くことがあります。また、風邪や副鼻腔炎が引き金になって重度の片頭痛発作がお
こることもあります。このような場合にも、重積に準じて治療を行います。
妊婦、授乳期の片頭痛治療
妊娠中は片頭痛が軽くなる方が多いのですが、かえって増悪する方もなかにはおられます。
妊娠中の頭痛発作には、まずアセトアミノフェン(カロナール)を試します。用量を多め
に使えば、ある程度効果が期待できます。アセトアミノフェンで対処が困難な場合はトリ
プタン製剤の使用を検討します。どのトリプタン製剤も、胎児への重大な影響は報告され
ていませんが、最も多く使用実績があるスマトリプタン(イミグラン)から使用するのが
一般的です。効果をみながら、必要があれば他のトリプタンを使用します。母胎の状態が
悪化すれば当然、胎児にも悪影響があります。したがって重度の片頭痛発作は適切な処置
により軽減させる必要があります。妊娠中は余分な薬を飲まないにこしたことはありませ
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んが、おなかの赤ちゃんのためにも、痛みを無理に我慢しないで、適切に治療して下さい。
また、発作回数が多い場合には予防薬としてプロプラノロール(インデラル)を使います。
妊娠中は頭痛が軽くなっていた方も、出産後再び片頭痛がおこることがよくあります。
授乳している場合は、薬が母乳に移行することを考える必要があります。アセトアミノ
フェンは授乳中もあまり心配せずに使えます。トリプタン製剤を使った場合は 24 時間(イ
ミグランは 12 時間)経過してから授乳してください。最初の母乳を少し捨ててから、授
乳しましょう。事前に搾乳して冷凍保存したり、粉ミルクと併用することで、うまく対処
してください。
これは
頭痛解消
パーフェクトガイド
竹島 多賀夫
から抜粋しました
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大和田 潔
片頭痛
主役の片頭痛
まず、頭痛もちのMさんに登場してもらいましょう。
Mさんは 30 歳代の主婦です。20 歳代の頃から月に数回、時々起きる頭痛を感じていま
したが、市販の痛み止めで何とか凌いでいました。頭痛薬が効かないこともあり、そうい
ったときには横になって休まなくてはなりませんでした。吐き気も時々経験していました。
生理と関係があるときと無いときがありま
した。
それとは別に、1年に数回、見ているも
のの焦点が合いづらくなり、キラキラと歯
車がみえて物が見えづらくなったな、と思
った後、激しい頭痛に襲われることもあり
ました。もちろんそういったときには会社
は休まざるを得ませんでした。朝方に一度、
激しい頭痛発作が起きたため救急病院を受
診。緊急MRIを撮影したのですが「何も
無いですね」といわれて鎮痛薬だけもらっ
て帰ってきたことを憶えていらっしゃいました。
結婚後、頭痛はいったん鎮まったのですが、出産後また頭痛がひどくなってきました。
「子育てや家事があり、頭痛だからといって休めないのです・・」と訴えられます。
「また、
あのキラキラの後の激しい頭痛が襲ってきたら・・それに、回数も増えて、市販の頭痛薬
があまり効かなくなってしまったのです・・」と不安でたまらない様子です。肩の痛みも
続いており、心配になって頭痛外来にいらしたのでした。
片頭痛の症状はいろいろ
Mさんの症状は典型的な片頭痛を示しています。「片頭痛」という言葉を聞いて皆さんは
-1-
何が頭に浮かぶでしょうか。片頭痛はずいぶん誤解の多い病気でもあります。
片頭痛は文学的には「偏頭痛」とも書かれますが、医学的な病名は「片頭痛」に統一さ
れつつあります。皆さんは片頭痛について、次のように思われることが多いのではないで
しょうか。
●頭が痛くなるのは、よくある症状なので病気じゃない
●片側が痛いものを片頭痛という
●頭痛は市販の鎮痛薬で軽くなるし、様子を見ていれば良い
●頭痛ぐらいで専門医を探して治療してもらうのは、面倒だし必要ない
●近所のお医者さんに「脳に問題ないので病気はありません」とか、
「ひどい肩こりですよ」
「精神的な問題ですね」「更年期でしょう」「自律神経失調症ですね」と言われて様子をみ
ている
また、お医者さんの側にも、頭痛について誤った認識がまだ残っています。
●片頭痛は医学的にとても特殊な病気で、診断される人はとても少ない
●片頭痛は特有な発作の形を来すもので、その発作に当てはまらない頭痛は片頭痛ではな
い
●女性の頭痛のほとんどは、肩こりなどが原因の緊張型頭痛である
●なで肩や首の真っ直ぐなストレートネックが、発作的におきる頭痛の原因である
これはいずれも、あまり適切な考えではありません。どうしてなのでしょう?
片頭痛は病気
まず大切なことは、頭痛は日常生活に支障を来す症状であると、しっかりとらえること
が必要です。大切なときに頭痛で外出できなかったり、外出先で動けなくなることはつら
いです。「いつそんな頭痛が起きるか・・」と不安に暮らすことも精神衛生上よくありませ
ん。片頭痛の特効薬は市販されていませんので、より効く薬を探すことは徒労に終わって
-2-
しまいますが、専門医の治療によって、日常生活が大幅に改善がもたらされます。
発作のタイプはさまざま
片頭痛は、その病名のように頭の片側が痛くなるのでしょうか。名前に「片」がついて
いるところに、混乱の原因もあります。沢山の患者さんを拝見してきましたが、片側だけ
の発作でないことも良くありました。
場所もこめかみの部分だけでなく、前の方のこともあれば、目の奥のこともあります。
肩や首が張ってきて頭痛がするとおっしゃる方も数多くいらっします。肩や首の痛みだけ
に注目してしまうのは間違いです。
発作の頻度も人によって異なります。1週間に1回ぐらいの人もいれば、連日きては、
半年お休みという方もいました。1年に数回だけ、キラキラしたものが見えて、1回1回
が嘔吐を伴う強烈な発作の方もいらっします。
あるいは、ストレスから解放された次の日がダメという人も多いようです。
楽しみにしていた休日や週末に起きる頭痛も片頭痛に特徴的です。
また、ちょっと頭が痛いときに運動をして急速に悪化することもあります。
このように、さまざまな頭痛発作のタイプがありますが、片頭痛発作は吐き気やめまい、
嘔吐など付随症状が一緒に出てくることも特徴的です。なんでもない匂いが気になったり、
光がいやにまぶしく感じたりという、匂い過敏、光過敏という症状も出てきます。
軽いときには市販の痛み止めが効くこともありますが、だんだん効かなくなってきて「よ
り効果のある痛み止め」を求めるようになります。その頃にはひと月に数回という回数で
なく、ほぼ連日すっきりしなくて、時々ひどくなり、朝から頭痛がするという状態にまで
こじらせてしまうこともしばしばです。
百人百様、さまざまな片頭痛発作
片頭痛にはさまざまな頭痛発作のタイプがありますが、吐き気や嘔吐、めまい、匂いや
光に過敏になるなその付随症状が特徴的です。付随症状を伴い、後ほど述べる特効薬が効
くようなら、片頭痛と考えてまず間違いありません。
-3-
それでは、ここで、典型的な片頭痛の様子を再現してみましょう。(人によってパターン
は大きく異なることは忘れずにいて下さい)
1.まず、「何かいやな感じがする」、「イライラする」「甘いものがほしい」など、はっき
りしない予感のようなものを感じます。これを「予兆」と呼びます。後から考えると、頭
痛の前の日などに見られます。
2.次に、頭痛発作の1∼3時間くらい前に、キラキラしたものや視野の一部分が見えな
いなどの「前兆」と呼ばれる症状が出ます。これら前兆を「前駆症状」と呼びます。肩こ
りや生あくび、だるさなど、はっきりしない前駆症状の方々もいます。
3.前駆症状がいったん治まると、激しい頭痛発作が襲ってきます。頭痛は片側のことも
あれば、両側のこともあります。
4.痛みの最中あるいは、その後に吐き気などが見られる人もいます。
5.頭痛発作が尾を引く人もいます。これらの発作は合計すると数時間または半日、長い
と1日ぐらいの時間です。回数は少ない人で数ヶ月に1度から月に数回。多い人は月十数
回発作に見舞われます。
これがどの本にも書いてある典型的な片頭痛発作ですが、発作は人によって千差万別で、
慢性化してしまっている頭痛では前兆がないことがほとんどです。
前兆は全体の 10 ~ 20 %
次に、頭痛の前に起きる前兆についてまとめてみました。
●キラキラしたものが見えるというより「光が流れて見える」
●焦点が合わない
●見えづらくなる
と、さまざまです。
これを医学用語で「閃輝暗点」といいます。この前兆について、片頭痛持ちの芥川龍之
介は、「半透明な歯車が次第に数を増やして重なり、ものが見えにくくなってしまう」とい
うように書き残しています。前兆を持つ片頭痛患者さんは全体の 10 ~ 20 % だけで、前兆
-4-
のない小さな片頭痛発作が沢山起きることが普通です。
前兆が無いからといって、片頭痛ではないと言い切るのは誤りです。
片頭痛とひとくくりに言いますが、痛みに関してもいろいろです。
●コメカミの両側が痛くなる
●目の奥が痛くなって開けていられなくなる
●首や肩が張ってきて後頭部などが痛くなる
●頭の真ん中からてっぺんが痛くなる
●頭がむくんだ感じで重い
・・・などなど、痛み具合は人により、発作によりさまざまです。片頭痛という名前のと
おり、頭の片側がガンガン、あるいはズキンズキンと痛くなる(拍動性疼痛といいます)
のが典型的ですが、そういったものだけではありません。
常識と異なる痛み具合
前兆から頭痛へすすむ古典的で一般的な片頭痛はとても少なく、頭痛発作も様々です。
そのため、典型的な発作だけを教科書で学んだお医者さんから「前兆もないし、頭痛も典
型的でないから片頭痛ではない」と言われてしまうこともあります。
それではせっかく受診したのに、特効薬にはたどり着けません。日常生活に支障をきた
すような頭痛のために、専門クリニックを受診される患者さんは、実に8割近くが片頭痛
で、緊張型頭痛は2割程度だろうという新しい報告もなされています。これまでのお医者
さんが教えられてきた、「女性の頭痛はほとんどが緊張型頭痛である」という古典的な医療
常識とは異なった事実です。
片頭痛の発作様式の多様性が知られるようになり、良く効く薬が出てきたため、診断が
しっかりつき、その比率が明らかになってきました。私は、日常生活を中断せざるを得な
い頭痛はほとんどが片頭痛と考えていいと思っています。
片頭痛の付随症状
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頭痛発作中にみられる付随症状は教科書的には吐き気や嘔吐が有名です。ところがこの
付随症状にもたくさんバリエーシヨンがあります。
●ゆれる感じのめまい
●肩から首にゾクゾクいやな感じが上がってきて眉毛が痛くなる(アロデイニア)
●首や肩、腰が痛くなる(アロデイニア)
●肩胛骨の間などの背中が痛くなる(アロデイニア)
●眠れなくなる
と、さまざまです。私は特に、めまい、吐き気、アロデイニアを「頭痛の余分3兄弟」
(不眠を入れれば4兄弟)と呼んでいます。そのことをしっている専門医でないと、沢
山の病名をつけることになってしまいます。
脳の血管が拡張するのはなぜ?
片頭痛は、脳や頭の表面にたくさん張りめぐらされている血管が急激に拡張することで引
き起こされます。脳は心臓が送り出す血液の四分の一の血液が流れ込む、体の中で最も酸
素や栄養を必要とする大切な臓器です。
流れ込む血液量を決定する脳の血管の太さは、必要に応じて変化し、厳密にコントロー
ルされています。頭痛持ちの人でも、そうでない人でも変化します。ところが、この変化
の「幅」が大きい人が、片頭痛を起こします。人間全員が片頭痛予備軍といってもよいで
しょう。
脳の活性化とアロデイニア
片頭痛発作では、まずいろいろな外界の刺激やストレス、摂取した食べ物など何らかの
きっかけにより、脳の奥深くの一部分(片頭痛発生器・・センサー)が活性化し、この活
性異常が広範囲な脳へ広がっていくことが知られています。このような脳の異常興奮によ
ってもたらされる体の痛みが、アロデイニアです。その後、脳の血管が拡張してきます。
脳血管の異常にはセロトニンという物質が働きます。
さまざまな臓器の血管の太さの変化は私たちの生活を支えています。
-6-
例えば、私たちがイスから立ち上が
った時には、足の血管が収縮し頭への
血液量を確保します。
「立ち上がった」
という刺激が瞬時にノルアデレナリン
の放出を反射的に促し、足の血管を収
縮させます。ノルアドレナリンの分泌
が不十分だったり、分泌のタイミング
が遅れると、重力に従って足に血液が
溜まってしまいます。すると、頭への
血流が保てなくなり、気を失う起立性
低血圧発作というものを起こしてしまいます。血圧にも血管の収縮と拡張は大きな役割を
果たしています。脳血管拡張にはセロトニンが重要で、治療の基本となります。このよう
に、体の場所によって血管はさまざまな物質で細かく調節されています。
片頭痛を引き起こす悪循環
脳の興奮に次いで、それに呼応するように脳血管の異常がもたらされます。
急に脳血管内にセロトニンが過剰に分泌され、脳の血管の異常収縮(過収縮)が起きま
す。脳への血液量の低下は、脳の機能低下をもたらします。脳の機能低下が、視覚をつか
さどっている部分に起きると、ものが見えづらくなったり、キラキラした物が見えたりす
る前兆として自覚されます。
過剰放出により血管を収縮させるセロトニンのストックがなくなってしまうと(セロト
ニンの枯渇と呼ばれます)、今度は血管の異常拡張が起きてしまいます。血管の径を小さく
保つセロトニンが少なくなってしまうからです。
この拡張した血管が頭痛を引き起こす最初の直接的な犯人となり、ズキンズキンとか、
ドキンドキンとか、心臓の拍動のような激しい頭痛を引き起こします。あたまがぼんやり
痛いときや、眼の奥が痛むこともあります。
拡張しすぎた血管は異常な状態となり、血管内から水分がにじみ出たり、血管のまわり
に一時的に炎症(神経原性炎症)が起きたり、脳血管を取り巻いている痛み神経が刺激さ
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れ、激しい痛みが加わり、頭痛の第二の犯人となっていきます。
脳の異常興奮
このような騒動が脳の血管におきると、血管を取り巻いている三叉神経という神経を介
して、脳の吐き気中枢が刺激され、めまい中枢も調子が悪くなったりします。そのため、
頭痛がひどくなると、吐き気や嘔吐、めまいといった不随症状が出てくるのです。脳の興
奮が高まり不眠に陥る方もおられます。
そして脳の過剰な活動は脳血管をさらに拡張します。
脳の一部分の小さな活性化による引き金ー脳への異常の伝搬ー脳血管の異常による頭痛
ー神経の刺激による頭痛ー血管のさらなる拡張、と悪循環を繰り返しながら痛みは激しさ
をまし、止まらなくなってしまいます。ちなみに、痛み止めは結果的に放出される痛み物
質の量を減らす効果しかないため、頭痛には一時しのぎの薬に過ぎません。さらに、痛み
止めは血管拡張作用や、薬効が切れたときのリバウンドをもち、片頭痛をより悪化させる
こともしばしばです。胃への刺激作用もあるため、服薬ごとに嘔吐してしまう方もいます。
このような騒動が脳の血管におきると、血管を取り巻いている三叉神経という神経を介し
て、脳の吐き気中枢が刺激され、めまい中枢も調子が悪くなったりします。そのため、頭
痛がひどくなると、吐き気や嘔吐、めまいといった不随症状が出てくるのです。脳の興奮
が高まり不眠に陥る方もおられます。
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そして脳の過剰な活動は脳血管をさらに拡張します。
脳の一部分の小さな活性化による引き金ー脳への異常の伝搬ー脳血管の異常による頭痛
ー神経の刺激による頭痛ー血管のさらなる拡張、と悪循環を繰り返しながら痛みは激しさ
をまし、止まらなくなってしまいます。ちなみに、痛み止めは結果的に放出される痛み物
質の量を減らす効果しかないため、頭痛には一時しのぎの薬に過ぎません。さらに、痛み
止めは血管拡張作用や、薬効が切れたときのリバウンドをもち、片頭痛をより悪化させる
こともしばしばです。胃への刺激作用もあるため、服薬ごとに嘔吐してしまう方もいます。
忘れてはならないしびれ”アロデイニア”
目の回りがびりびりする、手がしびれる、耳の後ろや奥歯が痛い、肩胛骨の間が痛い、
なんともいえない頭の違和感がある・・およそ頭痛とは関係のない体の違和感が頭痛がす
る前に感じられる方も多くおられます。片頭痛は脳血管の拡張によって引き起こされます。
それと、同じくらいに大切なことは、片頭痛は脳を形作る神経そのものの異常でもあるこ
とです。先ほどの体の違和感は脳が作り出した違和感で、アロデイニアと呼ばれます。
アロデイニアとは聞き慣れない言葉ですね。アロとは異なるという意味で、allocate (異
なる所へ割り当てる)とか、allot (ある物を異なる人々に分配する)という風に使われま
す。デイニアは痛み、という意味で使われる医学用語です。
頭痛専門医の間では、片頭痛発作にアロデイニア、つまり、頭痛で痛みがでる頭以外に
嫌な皮膚感覚が出ることはよく知られています。慢性的な片頭痛にはアロデイニアがよく
見られるという論文もあります。
お医者さんもあまり知らないアロデイニア
このアロデイニアは、片頭痛を放っておくと、出やすくなります。しかも、たちが悪い
ことに、いろいろなところが痛くなります。まぶたや眉毛のあたりなら、まだ頭痛と関連
がありそうなので、わかりますが、耳の後ろ、首の後ろになると、耳鼻科や整形外科の病
気かな?と考えたくなります。そのため、眼科、耳鼻科、整形外科、歯科などと遠回りさ
れる方もいたっしゃいます。高級な枕に変えたり、歯医者さんに行ってマウスピースを作
-9-
ったけれど改善しなかった方もたくさん拝見しました。
手が「しびれてきて」脳卒中かな?と、びっくりした方もいらっしゃいます。日常で使
われる「しびれ」という言葉は、ビリビリすること、動かしづらいこと、感覚が鈍いこと
などいろいろな意味で使われます。私たち神経内科医はそれを見分けることも大切な仕事
です。片頭痛の「しびれ」は皮膚や筋肉の嫌な感じや痛みに近いものです。
きちんと片頭痛を治療して、自分の体をメインテナンスすると、肩や首といった頭でな
い部分の痛みも楽になります。逆に、仕事が忙しくて特効薬を数ヶ月の間、切らしてしま
ったとたんに、また肩、首、顔や手がしびれて痛くなってしまったという方も散見します。
片頭痛と体のしびれに強い関連があることを示しています。
マッサージやホットヨガで悪化
アロデイニアは首や肩に問題があるわけではないので、牽引したり、マッサージしても
一時しのぎになってしまいます。血流を良くしようと、ホットヨガへ行ったために、かえ
って頭痛の大発作を起こしてしまった方もいらっしゃいました。脳血流が増すことは、片
頭痛には逆効果だからです。
頭痛と体の痛み。一見関係ないこの2つの症状は、早めに治療することで、いっぺんに
良くなります。
頭痛治療で肩や首、腰の痛み、めまいも無くなる
- 10 -
「首の痛みが取れるなんて、最初は信じられなかったわ。だって緊張型頭痛やストレー
トネックは治らない、と言われていたから・・」頭痛治療により、頭痛だけでなく、首や
腰などの体の痛みから卒業される方が数多くいらっしゃいます。理由が分からなかった、
体のビリビリ感も消えていきます。アロデイニアが頭痛に伴って頻繁に起きるものである
ことを示す国際的な論文も多く、そのメカニズムの一端についても明らかになってきまし
た。
同様の脳の機能異常によって、
「片頭痛性めまい症」と呼ばれる、ゆれる感じのめまいも、
頭痛と一緒にやってきます。私たち頭痛専門医は、こういった世界の医師たちに検証され
て正しいと考えられるメカニズムに即して治療を行うため、効果の高い治療を行うことが
可能なのです。
大切なことは頭痛を起こさない自己治癒力
片頭痛発作は、その方にあった特効薬をチョイスして、よいタイミングで用いることで
改善できます。ところが、片頭痛をこじらせてしまうと、朝から毎日ジワーッと痛くて、
時々激しく痛くなる、という連日の頭痛になってきてしまいます。変容性片頭痛という悪
循環に陥ってしまっていることを示しています。
いったん、この悪循環に入り込むと痛み止めでは脱出できなきなります。
でも、少しの間だけきちんと治療すると、健やかな体を取り戻すことができて、薬にも
医療機関にも頼らなくてよくなります。
ひどい片頭痛発作が無くなれば、アロデイニアもなくなり痛み止めもいらなくなります。
そして、ちょっとのことでは頭痛を起こしにくくなり、頭痛の回数も減ります。さまざま
なデバイスや薬に頼らない、痛みのない生活がもたらされます。
環境と頭痛
チョコレートやチーズ、赤ワインなどの血管を拡張させる食べ物が悪さをすることも知
られています。赤ワインのアルコールやフラボノイドが血管を拡張させるからです。チー
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ズ、チョコレート、豆類のアミノ酸、インスタント食品のグルタミン酸、ハムやサラミの
亜硝酸が血管拡張作用をもたらし、片頭痛を悪化させます。
決まって、2カ月おきに片頭痛が悪化していた患者さんがいました。不思議に思って尋
ねてみると、奇数月に主婦仲間で集まって、ワインパーテイーを行っていました。赤ワイ
ンとチーズが彼女には片頭痛の増悪因子だったのです。白ワインに変え、おつまみをチー
ズ以外のものにすることで、片頭痛発作の増加を抑えることができました。
また、運動や低血糖、寝不足、寝すぎなども頭痛を悪化させる因子です。子供さんの頭
痛にはこういった環境を整えることも重要です。おやつのチョコレートをこんぺいとうや
ベッコウ飴に変えたら、頭痛が減ったお子さんもいらっしました。
女性のライフステージと片頭痛
思春期になり、生理周期がしっかりしてくると、生理周期に一致して頭痛が起きてくる
ことが「よくあります。月経関連片頭痛と呼ばれるものです。エストロジエンという女性
ホルモンが排卵期、生理の始まる前に急降下し、そのために脳血管の安定性が失われて頭
痛が起きてきます。月経関連片頭痛はなかなか手強いのですが、さまざまな方法で乗り切
ることができます。
妊娠すると、女性ホルモンの上がり下がりがなくなるので片頭痛発作は減りますが、授
乳すると頭痛はまた増えてきます。でも、授乳期でもきちんと特効薬を内服する方法があ
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りますので、心配することはありません。
更年期になりますと、ほてり、不眠、めまい感とともに出る頭痛も増えてきますが、そ
れぞれ、きちんとよい治療を行えば、ずいぶん楽になります。このように日単位の周期を
もちながら、ライフステージの中で女性の頭痛は変化していきます。
治療薬について
治療薬は、別に述べますが、発作のときに用いる特効薬であるトリプタン製剤と脳の調
子を整えて頭痛を減らす予防薬があります。
片頭痛であっても、痛みをマスクする働きの市販の痛み止めが、ある程度効果を持つこ
とがあります。しかしながら、これには落とし穴がいくつもあります。痛み止めにより様
子をみている間に治療が手遅れになり、脳血管のコンデイシヨンが悪化してしまうこと、
解熱鎮痛薬そのものによる頭痛(解熱鎮痛薬誘発性頭痛)が発生してしまうこと、市販の
薬剤には中枢に働く薬が混ざっていて薬物乱用頭痛をきたしやすいことなどです。
片頭痛発作に解熱鎮痛薬を用いると、痛みは低減しますが、いつまでもだらだらと痛くな
ってしまい、特効薬が効きづらくなります。
- 13 -
ひとつひとつの片頭痛発作に適切に対応していくと、次の発作を起こしにくくなること
は、
「ペインフリーの法則」と呼ばれています。脳血管と脳を健やかな状態に保つことが、
自己治癒力を高め、さまざまな誘因による頭痛を起こしにくくするのです。
子供と片頭痛
片頭痛は必ずしも遺伝するというわけではありませんが、お母さんが頭痛持ちというこ
とは良くあります。子供は母と父から遺伝子を引き継ぎますが、頭痛に関係する血管の性
質を規定する遺伝子や、ミトコンドリアの遺伝子はお母さん由来だからです。
お子さんは頭痛の症状をうまく伝えることができません。小学生低学年ぐらいから片頭
痛発作を繰り返すことがあり、頭痛と嘔吐の発作を繰り返すようなら、片頭痛の可能性を
考えてください。自家中毒という発作的な嘔吐を伴うお子さんが頭痛もちになることは良
く知られています。
ただし、子供の頭痛は、髄膜炎や脳腫瘍、てんかんなどが隠れていることもありますの
で、専門医での検査が大切です。環境を整えることをまず行いましょう。子供の場合、片
頭痛発作時には静かな暗いところで、ゆっくりさせてあげるのがいいでしよう。安心させ
てあげることもたいせつです。片頭痛は前述の過労や食べ物で誘発されやすいので、生活
上の環境を整えたり食べ物に気をつけることで、頭痛発作お減らしてあげることができま
す。
薬剤としては、イブプロフェンやアセトアミノフェンといった解熱鎮痛薬が用いられま
す。トリプタン製剤の有効性も確認されていますが、日本では安全性が確認されていない
と言うことでまだ、用いられていません。これまで成人使用での安全性を踏まえ、小児の
使用についての治験が始まろうとしているところです。
台閣にもよりますが、高校生ぐらいになれば、トリプタン製剤を考慮しても良いと思っ
ています。特効薬の口腔内崩壊錠や自己注射薬を用いることにより、学校やテスト、クラ
ブ活動を休まないで済むようになった方もいらっしゃいます。
- 14 -
これは
<新版>頭痛
大和田 潔
から抜粋しました。
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こんな頭痛なら、あなたは片頭痛
症状を確認しよう
片頭痛の症状には個人差がある
10 年前に比べると、片頭痛の症状については、一般の人たちにも随分理解されるように
なってきました。
「片頭痛持ち」の人にも、片頭痛に関するさまざまな知識や情報をすでに知っている方は
多いでしょうし、片頭痛の症状については日頃から身をもって体験しているわけですから、
いまさら詳しい説明は要らないように思われることでしょう。
しかし、片頭痛の症状には個人差があることも多いのです。また、一般的な、というか、
典型的なタイプの片頭痛の人でも、状況によっては症状が変化してしまうこともあるので
す。さらに、特殊なタイプの片頭痛の人では、かなり違った症状があらわれます。
ですから、自分の症状を再確認してもらう意味で、まず典型的な片頭痛の症状とはおの
ようなものかを紹介します。その次に、特殊なタイプの片頭痛の症状について紹介したい
と思います。
典型的な片頭痛の症状とは?
典型的な片頭痛の症状としては、次の1~12が特徴的です。それぞれの症状を簡単に
説明しましょう。
1.突然、発作性に頭痛がおこる
2.頭痛が起こる前になんらかの前ぶれがある
3.頭の片側が痛むことが多く、両側が痛む場合でも左右差がある
4.頭痛がピークに達するまでには拍動感のある痛みを感じる
5.頭痛の最中に食欲低下、吐き気、嘔吐をおこすことがある
6.頭痛の最中には、音、光、匂い、振動が嫌になる
7.血管が拡張しやすい状況になると頭痛がおこりやすい
-1-
8.遅くとも 25 歳までには発症する
9.祖父母、両親、兄弟姉妹にも同じような頭痛がある
10.妊娠中や授乳期には頭痛が軽くなる
11.中年になると頭痛は軽くなるが、頭痛の回数が増えたり時間が延びる
12.60 歳を過ぎると頭痛は軽くなり、70 歳以上ではほぼ消えてしまう
突然、発作的に頭痛が起こる
片頭痛というと、頭の片側にズキンズキンとした拍動性の痛みが起こる病気だということ
はよく知られています。しかし、片頭痛でもっとも特徴的なことは、このような痛みが突
然、発作的に起こってくるということです。
突然、発作的に痛みが起こるということは、言葉を換えれば、いつもいつも痛いわけで
はない、ということです。1カ月に1回だけ痛い日がある、1週間に3回ほど痛い日があ
るという具合に、片頭痛の場合には痛みのある日とない日がはっきり分かれるのです。
頭痛がおこる回数は、多い人もあれば、なかには1年間に1~2回くらいしかない人も
います。回数が多い場合、毎日痛むという人もいますが、それでも、1日中まったく同じ
程度のいたみがつづくわけでなく、朝よかったが午後になって急に痛みが強くなってきた
というふうな調子です。
このような頭痛のおこり方を「発作性の出現様式」と言います。これは、私が片頭痛の
診断をするときに、もっとも重視する所見です。
だらだらと同じような強さの頭痛がつづく場合には、発作的な出現様式ではありません
から、ほかの頭痛である可能性を考えなければならないのです。
頭痛がおこる前になんらかの前ぶれがある
片頭痛のほとんどは、「前兆のある片頭痛」と「前兆のない片頭痛」の2種類で占められ
ています。「前兆のある片頭痛」は全体の 20 % 弱、「前兆のない片頭痛」は全体の 80 %
くらいです。
「前兆のある片頭痛」にはその名の通り前ぶれがあるのですが、この前ぶれは、ほとん
-2-
どの場合、目の前に星が飛ぶ、ギラギラとまぶしく感じる、目がみえにくくなる、などと
いう視覚の異常です。星のようなものがあらわれ、それがだんだん広がっていき、やがて
消えていく症状は、閃輝暗点と呼ばれ、よく知られた症状です。
この「前兆のある片頭痛」の前ぶれは、日本人ではほとんどが視覚症状なのですが、欧
米人では視覚症状は 40 % ほどで、残りは、言葉がうまく出なくなるといった言語障害で
あったり、体の半身がしびれるといった感覚異常が占めています。
また、それらが交互に変化しながら現れることも多いようです。
日本人でも言語障害や半身のしびれが現れる人がいますが、これは非常にまれです。
「前兆のある片頭痛」の場合には、これらの前ぶれ症状がだんだんと消えていき、それ
に代わって頭痛が起こってくるというパターンをたどります。
これに対して、片頭痛の大半を占める「前兆のない片頭痛」は、その名称からいかにも
前ぶれがないように思われますが、じつは違います。
「前兆のない片頭痛」もほとんどの場合、なんらかの前ぶれがあるのです。ただ、「前兆
のある片頭痛」のようにはっきりした症状ではないために、「前兆のない片頭痛」と命名さ
れているのにすぎません。
では、「前兆のない片頭痛」の場合には、どんな前ぶれが出るのでしょうか?
その症状はさまざまですが、多いものとしては、首すじや肩の張り、生あくび、具体的
な症状は出ないが何となく予知感(頭痛がおこりそうな感じ)がある、軽い頭痛がする、
といったものです。
また、それほど多くはないのですが、腹部にも症状があらわれる人もいます。膨満感、
排便感、吐き気(悪心)逆に食欲亢進など、胃腸の蠕動運動の乱れによる症状があらわれ
ます。
「前兆のない片頭痛」の場合には、「前兆のある片頭痛」のパターンとは異なり、なんら
かの前ぶれの症状がつづいたまま、頭痛がおこってきます。
頭の片側が痛むことがおおく、両側が痛む場合でも左右差がある
片頭痛は、頭のどちらか片側が痛む病気と思われがちですが、それは違います。あくまで
「片頭痛」という固有名詞であり、症状を表している病名ではないということを理解して
-3-
おいて下さい。
ですから、決して多くはないのですが、頭の両側が痛む片頭痛の患者さんもいます。外
国の医学統計をみると、片側性は 50 % とする医学文献もありますから、そう片側とばか
り決めつけるものでもないのです。
また、頭の片側といっても、さまざまな状況があります。右側だけにしか痛みが出ない、
あるいは左側だけ、といった患者さんはかなり少数派です。ときによって痛みが右側に出
たり、左側に出たりする、といった変動を示す患者さんが最も多いのです。
さらに、頭の両側とも痛くなるが、その痛みの程度には左右差がある、といった患者さ
んも少なくありません。頭痛がおこっている間は両側とも痛いが、その最中に右側と左側
の痛みの程度が違っているのを感じることがある、という患者さんもときどきいます。
それでは、頭の左右でなく、前後についてはどうでしょうか?
片頭痛は、血液によって血管が押し広げられるときに痛みがおこる血管性頭痛です。
一般に、片頭痛は側頭部の痛みであるとさまざまな医学書に書かれていますが、これは
側頭動脈の領域で痛みがおこった場合です。しかし実際には、前頭動脈や後頭動脈の領域
で痛みがおこることも少なくありません。
側頭動脈の領域で痛みがおこりやすいのは、日本人でも欧米人でも同じなのですが、次
におこりやすいのは、欧米人では前頭動脈であるのに対して、日本人では後頭動脈のこと
が多いのです。
ちなみに、痛みの最中の自己診断法として、痛みの出ている血管を指で強く頭蓋骨に押
しつけてみるとよいでしょう。押しつけている間はひろがった血管が収縮しますので、痛
みが軽くなるのがわかるはずです。
もっともこのことを知らなくても、頭痛が起こっているときには、本能的にこういう動
作をする人は多いようです。
頭痛がピークに達するまでは拍動感のある痛みを感じる
片頭痛に特徴的な症状の一つとしてよく知られているのは、脈拍に一致してズキンズキ
ン、ドクンドクンとする痛みがあることです。
しかし、この特徴的な痛みは、頭痛の最中にいつでも現れているわけではありません。
-4-
一般的には、頭痛の出はじめから頭痛がピークに達するまでの間だけで、せいぜい1~3
時間くらいのことが多いのです。それ以降は、ドーン、ガーンとした拍動感のない痛みに
変わっていきます。
この拍動感のある痛みは、心臓が拍動して血液を送り出すたびに血管の内圧が変化し、
血管が「ほどよく」ひろがったときに起こるものです。ですから、血管芽とても柔らかい
小児や、逆に硬くなった高齢者では、拍動感ははっきりしないのが普通です。
そのほかの年代の人たちでも、血管の拡張が大きく、パンパンにひろがって強烈な頭痛
がおこったときや、逆に血管の拡張がたいして大きくないときには、拍動感がはっきりし
ないことも少なくありません。
この拍動感を、ほかの病気のものと間違える場合があります。
脳の周囲を満たす髄液の圧が低下しておこる低髄液圧性頭痛でも、拍動感を感じること
があります。この場合は、髄液圧が低いために脳の周囲の静脈が広げられ、動脈の血圧の
上下動が静脈に影響するためではないかと考えられています。
低髄液圧性頭痛の拍動感は片頭痛の拍動感よりももっと鈍いドワンドワンとする痛みで、
両側性です。体を横にすると痛みは和らぎますので、このことを知っていれば簡単に見分
けることができます。
頭痛の最中に食欲低下、吐き気、嘔吐をおこすことがある
吐き気(悪心)や嘔吐は片頭痛につきものの随伴症状である、と医学書などに書かれて
います。また、欧米の医学データをみると、片頭痛のときには 80 % くらいの割合で吐き
気や嘔吐を伴うと書かれています。
ところが日本人では、これらの症状が必ずしも毎回現れるとは限りません。「いままSW
そんなことはなかったのに、先日の頭痛のときには吐いてしまった。大丈夫でしょうか」
と心配して受診する患者さんも多いのですが、欧米人に比べると、吐き気や嘔吐の出現率
は低いようです。
それでも、「ときには吐き気を感じることがありますか?」と聞いてみると、大多数の患
者さんがイエスと答えます。嘔吐は吐き気よりも少なく、私のクリニックを受診する片頭
痛の患者さんのうち、半数の人にあるかないかですが、毎回嘔吐するという人は極めてま
-5-
れです。
また吐き気も嘔吐も経験がないという人もいます。もっともこのような患者さんは、片
頭痛がおこっても市販薬を飲むだけで済むことが多いので、私もあまり診る機会はないの
ですが、それでも「痛い最中に食欲は落ちますか?」と聞くと、ほとんどの人がイエスと
答えます。
小児では、成人に比べると、吐き気や嘔吐をおこす割合が高いと言われています。実際
に私が診た片頭痛の小児でも、成人に比べると吐き気や嘔吐を起こす割合が高いような気
がします。欧米の医学データと比べると、小児では日本人のほうが吐き気や嘔吐をおこす
割合がいくらか低いような気がします。
頭痛の最中には音、光、匂い、振動が嫌になる
頭痛の最中には、暗くて静かでひんやりとした場所で過ごしたいと思う患者さんがほと
んどです。さまざまな外界からの刺激が頭痛を強めるように感じられるからです。実際に
は、頭痛が強まるわけではないのですが、できるだけそれらの刺激を避けようとします。
明るい光、大きな音、強烈な匂いは勿論ですが、車の振動ばかりでなく、首を振る程度
の振動でも嫌なようです。欧米人では、わずかな光、小さな音、階段をゆっくり昇る程度
の振動でも嫌がることが多いようですが、日本人ではそこまでの人はかなり少数派といえ
るでしょう。
また、欧米人では、とくに頭痛を起こしていないときでも、それらの刺激によって頭痛
が誘発されてしまうこともよくあることです。しかし、日本人では、やはりそこまでの患
者さんはごくまれです。
なお、匂いについては、興味ある行動をする人がみられます。
それは、片頭痛もちで喫煙者の人は、頭痛が出そうなときにはいっしょけんめい一生懸
命タベコを吸うことです。おそらく、タバコには頭痛がおこるのを抑える血管収縮作用が
あることを経験的に知っているのでしょう。
ところが、どんなに愛煙家であっても、いったん頭痛が始まるとタバコの匂いを嫌がり
ます。これは、頭痛がおこったことによって、匂いに対する過敏症状があらわれてきたこ
-6-
とを示すものだと思います。
血管を拡張しやすい状況になると頭痛がおこりやすい
片頭痛は、さきほど述べたように、頭部の動脈の一部が「勝手に」拡張するために、心
臓から血液が送られるたびに血管が押しひろげられ、ズキンズキンとした痛みを起こす病
気なのですが、外界から血管を広げるような条件が加わったときには、それがきっかけと
なって頭痛がおこりやすくなります。
たとえば、混雑した映画館やデパートのような酸素の少ないところにいると、脳の血管
がたくさん酸素を取り込もうとしてひろがります。熱が出たとき、暑いところにいるとき、
運動をしたときなどにも血管が広がります。
また、週末や仕事の終了後など、緊張から解放されたときには、交感神経の刺激が弱ま
って血管の緊張が解け、血管が広がります。月経のときにも血管が拡張しますので、頭痛
がおこりやすくなります。
寝過ぎや寝不足も誘発条件になります。とくに、日曜日の朝などにだらだらと寝過ぎる
と、起床したあとで頭痛がおこります。これは、緊張がゆるみすぎて交感神経が作用せず、
血管がひろがったためと考えられます。ほどよい睡眠は片頭痛を軽くする効果があります
が、逆に睡眠リズムの乱れは片頭痛を誘発することがあります。ですから、中途半端な昼
寝も誘発要因になることがあります。
さらに、食事性片頭痛といって、食べ物によっても頭痛が引き起こされることがありま
す。アルコールはかなりの割合で誘発要因となりますが、どれくらいの飲酒量によって片
頭痛がひきおこされるかには個人差があります。
よく家庭用の健康書などに、赤ワイン、チーズ、チョコレートなどが片頭痛を誘発する
と書いてありますが、赤ワインの場合にはアルコールではなく、チラミンという物質が血
管の拡張を起こすことがあります。
しかし、これらの食べ物によって誘発される片頭痛は、アルコールを除けば日本人では
欧米人に比べるとかなり少ないといえます。
食べ物によって片頭痛が誘発されることがあるとはいえ、すべての食べ物に神経質にな
る必要はありません。片頭痛の患者さん自身もそれまでの経験から、何がよくないかをな
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んとなく気づいていることが多いようです。
一応、食事性片頭痛を起こす可能性があると指摘されているのは、各種発酵食品、各種
の油、オレンジ、チョコレート、各種豆類、肉類、イチジク、過量の塩や砂糖などです。
また最近は健康食品のなかにビタミンEが入っていることも多いようです。ビタミンE
は血管を広げるので、冷え性やしもやけに悩む人が愛用するようですが、片頭痛がおこり
やすくなってしまう人もときどきいます。
ビタミンEは、成分表示ではトコフェロールと記載されていますので、気になる人は健
康食品を利用する前に成分を確認してください。
遅くとも 25 歳までに発症する
片頭痛の発症年齢は若いという特徴があります。欧米人でも日本人でもだいたい 20 歳
くらいが平均発症年齢です。
もっとも、発症年齢を確認するのがなかなか難しい場合もあります。片頭痛は一般的に
25 歳を過ぎてから強くなってきますが、それ以前では頭痛があっても軽いことが多く、そ
れが片頭痛であることに気づく人はあまりいないからです。
私はこのような場合、さきほど述べた誘発要因について患者さんに聞いてみます。「中学
生や高校生の頃、人混みから帰ったときや、日曜日寝過ぎたあとに頭痛が出たことはあり
ませんか?」と問診すると、ほとんどの患者さんがそうした経験を思い出してくれます。
なかには、「 30 歳を過ぎてから片頭痛が始まった」と主張する人がときどきいますが、
これは、若い時には頭痛が軽かったために記憶に残っていないからだと思われます。片頭
痛は 25 歳くらいから痛みが強くなってきて、30 代では痛みがもっとも強くなるので、30
歳を過ぎてから頭痛が始まったように感じることもあるのでしょう。
また、50 歳や 60 歳を過ぎて初めて頭痛が現れ、医療機関を受診した結果、片頭痛だと
診断されたという患者さんもときどきいます。このような場合は、若い時のことを見事に
忘れてしまっているからだとはあまり考えられません。
むしろ、そのような診断のほとんどが誤診であるといってよいでしょう。そんな場合に
は、改めてほかの医療機関に診断を求めるのがよいでしょう。
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祖父母、両親、兄弟姉妹にも同じような頭痛がある
片頭痛は遺伝的な病気であるといわれています。遺伝といわずに遺伝的といわれるのは、
確実な遺伝様式がわかっていないからです。
一般的には、私が調べた国内での統計結果では、母親に片頭痛があると、子供の 40 ~ 50
% は片頭痛をもらいます。一方、父親に片頭痛がある場合には、子供の 10 ~ 20 % が片頭
痛を受け継ぎます。
ところが、一卵性双生児のケースでは、2人のうち1人には明らかに片頭痛があるのに、
もう1人にはまったく片頭痛がない、ということがよくあります。一卵性双生児は同じ遺
伝子をもつクローンのはずですから、片頭痛の発症を左右するのが遺伝だけであるなら、
2人ともに片頭痛があらわれてもよいはずです。このようなケースが、遺伝ではなく、遺
伝的といわざるを得ない理由の一つです。
また、祖母にはあきらかに片頭痛があるのに、親にはなくて、孫にあるというケースも
よく経験します。このようなケースを隔世遺伝といいます。
このように、片頭痛の発症には遺伝的な要因がかなり強く認められるのですが、それだ
けで説明することができない場合があるために、発症には何らかの後天的な要因も関係し
ているのではないかと言われています。ひかし、この「なんらかの」というのはまったく
不明であるといわざるを得ません。
妊娠中や授乳期には頭痛が軽くなる
女性の片頭痛の患者さんでは、妊娠すると約 80 % の人で頭痛が軽くなることが知られ
ています。
どのように軽くなるかというと、頭痛の程度が軽くなる場合と、頭痛の回数が少なくな
る場合がありますが、80 % のうち過半数の人では、妊娠中にはまったく頭痛が出なくなっ
てしまいます。妊娠のごく初期にはいくらか頭痛が残ることがありますが、中期以降にな
ると非常によい状態がつづきます。
しかし、つわりが強い人の場合には、よい状態になったのはつわりが治まったせいなの
か、頭痛が治まったからなのかよくわからないと答える人もいます。
-9-
出産を終えると、早い場合には、出産のあとすぐに激しい頭痛が出てしまうこともあり
ます。約半数の人では、出産をきっかけにして頭痛が復活します。この場合、一般的には
妊娠前に比べていくらか頭痛が強くなります。
残りの半数の人では、授乳期の間は頭痛が軽い状態がつづきます。しかし、妊娠前より
はよいのですが、妊娠中に比べるといくらか強い頭痛が出る傾向があるようです。そして
授乳期を終えると、また頭痛が復活します。この場合も、出産直後から復活する場合と同
様に、妊娠前と比べると頭痛が強くなることが多いようです。
中年になると頭痛は軽くなるが、頭痛の回数が増えたり時間が延びる
一般に片頭痛は、20 ~ 30 代では鋭い頭痛がときどきおこるという経過をたどりますが、
これが年代とともに変化してきます。40 歳を過ぎると、頭痛の鋭さはいくらか和らいでく
るので、頭痛がピークに達したときの痛みも少しずつましになってきます。
それに対して、頭痛がおこる回数が増えたり、頭痛がおこってから消えていくまでの時
間がだんだん長くなってきます。また、随伴症状である吐き気や嘔吐も、若い時に比べる
とおこりにくくなってきます。
要するに、全体的にみると、くっきりしていた症状が次第にぼけてくるのです。そして、
なかには慢性連日性頭痛(変容性片頭痛)と呼ばれるように、毎日、頭痛がおこるように
なってしまうこともあります。
頭痛が毎日おこるようになったとしても、片頭痛の特徴である「発作性の出現様式」は
残っておいますから、一日中同じような痛みがつづくわけではなく、頭痛が強くなったり、
いくらか落ち着いたりして、症状に浮き沈みがあるようになります。
60 歳を過ぎると頭痛は軽くなり、70 歳以上ではほぼ消えてしまう
さらに年齢を重ねると、片頭痛はだんだんと起こりにくくなってきます。60 歳までに約
80 % の人では頭痛がもう起こらなくなるか、かりに起こったとしても、大して困らない
程度の軽い頭痛になります。
70 歳を過ぎると、ほとんどの人で頭痛は起こらなくなってしまいます。さきほど述べた
- 10 -
誘発要因がある場合には軽い頭痛が残ることもありますが、誘発要因があったとしても、
たいていの人では頭痛は起こらなくなります。
どうして軽くなるのかについては詳しいことは分かっていませんが、もっともよく言わ
れるのは、若い時に比べると動脈が硬くなっているために血管が広がりにくくなるからで
はないか、という説です。
この説の出典がわからなくなってしまったのですが、古い医学論文に、70 歳で片頭痛が
つづいている人には脳梗塞が少ないと書いてあったのを読んだ記憶があります。片頭痛の
軽減や消失に動脈硬化が関係するならば、これは理にかなったことだと思います。
もう一つの説は、てんかんなども高齢化によって起こりにくくなりますが、それと同様
に、さまざまな命令系統が「鈍く」なるためではないか、とする考え方です。
いずれにしても、厳密にはわかっていません。最近では年齢とともに薬物乱用になると
する説が唱えられていますが、そんなことはありません。年齢が高くなると頭痛が軽くな
ってくることは確かなのです。
2.特殊なタイプの片頭痛の症状とは?
いままで述べたのは、典型的な片頭痛の症状です。一言に片頭痛といっても、なかには
特殊なタイプの片頭痛もありますし、通常の片頭痛であっても様々な状況によって症状が
変化してしまうことがあります。
このような場合には、単にトリプタンを処方するだけではうまくいかないことが多いの
です。片頭痛の治療を受けているのにうまくいっていない人たちは、たいていは次の1~
7のいずいれかの片頭痛にあてはまります。
1.前兆だけの片頭痛
2.脳底型片頭痛
3.小児片頭痛
4.片麻痺型片頭痛
5.片頭痛に伴う脳梗塞
- 11 -
6.片頭痛重責発作
7.変容性片頭痛
これらの片頭痛にみられる症状を、以下に簡単に紹介することにします。
前兆だけの片頭痛
典型的な片頭痛の症状のところで、片頭痛の人の約 20 % の人は「前兆のある片頭痛」
であると述べましたが、なかには、前兆だけがあらわれて頭痛が出ないという人がいます。
若い時には、視覚性の前兆があらわれ、これが消えるとともに激しい頭痛が起こってき
ていたのが、年齢とともに、前兆だけはあらわれるのに、それにつづく頭痛が起こらなく
なってしまうのです。
ところが日本人では、このようなケースよりも、若い時には片頭痛はなかったのに、中
年以降に視覚性の前兆だけがあらわれるようになった、という人のほうが多いのです。若
い時に前兆と頭痛があったが、あとで前兆だけになったというのなら理解できます。しか
し、中年以降に前兆だけがあらわれるようになった場合には、ほんとうにこれも片頭痛の
「仲間」といえるでしょうか?
本心では私も、疑わしいと思うことがあります。発症年齢が高いだけでなく、通常の「前
兆のある片頭痛」の前兆と比べて、前兆のつづく時間がかなり短く、10 秒前後のことが多
いからです。
このような患者さんに対する検討は以前よりときどき報告されており、片頭痛であると
いう説以外に、脳虚血によるものではないか、あるいは、てんかんと類似の現象ではない
か、といった説などが唱えられています。しかし、原因がこれだという決め手がないため
に「前兆だけで頭痛を伴わない片頭痛」という病名で呼ぶしかないのが実情です。
脳底型片頭痛
脊柱に沿って頸部から頭部へ向かう左右の椎骨動脈は、脳幹(延髄、橋、中脳と呼ばれ
る脳の部分)の途中で合流して1本の脳底動脈となり、さらに大脳の底面へと向かいます。
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この脳底動脈が原因になって片頭痛がおこることがあります。
脳底動脈は1本しかない動脈ですから、この動脈によって痛みがおこった場合には、痛
み方に左右差がありません。また、脳の根元にある動脈なので、両目の奥のほうに痛みを
感じます。
脳底動脈は、脳幹部や小脳、内耳にも細かい枝を出して血液を与えています。脳底動脈
に、拡張して広がった部分と収縮して狭くなった部分ができると、ひろがった部分では拍
動性の頭痛を引き起こしますが、狭くなった部分では脳幹などへの血流が少なくなるため
に、めまいを引き起こします。
脳底型片頭痛と診断する際の重要な所見は、両側性の拍動性頭痛であることと、頭痛と
ともにめまいがあらわれること、の2点です。
この特徴について、医師はきちんと把握しておかなければなりません。
なぜならなら、脳底型片頭痛の患者さんには血管収縮薬であるトリプタンを使用しては
いけないからです。
ただし、脳底型片頭痛の患者さんがいつもこのような典型的な症状を示すかというかと
いうと、そうでもありません。ふだんは「前兆のない片頭痛」の症状を示しているのに、
ときに脳底型片頭痛の症状を示すという人もときどきいますので、医師はその点に十分留
意しておくことが必要です。
小児片頭痛
小児にも片頭痛はあらわれます。特徴だけをかいつまんで紹介することにします。
小児の片頭痛の特徴としては、まず、成人のような典型的な症状が揃っていないことが
挙げられます。成人の片頭痛なら一般的なことが、小児ではそうでないために、小児の片
頭痛が正しく診断されないことが多いのが実情です。
小児の片頭痛では、拍動感のある痛みでないことが多く、とくに幼児や小学生では、拍
動感のないジワーッとする痛みのことが多いのです。これは、小児の場合には表現力が不
十分なために確認しづらいということもありますが、まだ血管がとてもやわらかいので拍
動にあまり影響を受けないからかもしれません。
痛みの部位についても、成人ほど左右の差がはっきりしません。完全に両側性で、しか
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も左右の痛みの差がないこともよくあります。
また、小児の片頭痛では、いったん頭痛が起こると何日も繰り返しやすいこと、朝から
頭痛がする場合が多いこと、頭痛の最中にめまいやふらふら感を伴うことが多いこと、な
どが特徴として知られています。
両側性の痛みであることや、めまいを伴うことから、小児の片頭痛は成人の脳底型片頭
痛に近いのではないかとする意見もありますが、同じであるのかどうかはまだはっきりし
ていません。
さらに、とくに小さい頃には、片頭痛等価症といって、片頭痛の代わりに別の症状があ
らわれることがあります。腹痛をくりかえす腹部片頭痛、めまいを繰り返す小児発作性め
まい、あるいは嘔吐を繰り返す小児周期性嘔吐症などが、そうです。小児科で自家中毒症
あるいは起立性調節障害などと診断された場合にも、片頭痛等価症とかなり共通性があり
ます。
小児の片頭痛は、成長するにつれて成人のような片頭痛の病像に変わっていきます。
片麻痺型片頭痛
片麻痺型片頭痛とは、片頭痛がおこる直前、あるいは片頭痛の最中に、半身の運動麻痺
があらわれるタイプのものです。
家族性の場合も、そうでない場合もあります。家族性の場合には、原因として遺伝子の
異常が指摘されていますから、専門の医療機関で検査を受けるとよいでしょう。家族性で
ない場合もあるのですが、まだ研究が進められていないのが実情です。
片麻痺型片頭痛であらわれる半身麻痺は、片頭痛がおさまると消えてしまいます。後遺
症を残すものではありません。
この片頭痛は、さきほど述べた脳底型片頭痛との関連が強いとする意見もあります。
片頭痛に伴う脳梗塞
これは、片頭痛の最中に、脳梗塞を併発してしまうタイプのものです。片頭痛のなかで
は唯一、後遺症を残す病型です。
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通常は片頭痛だけがおこっているのですが、あるとき片頭痛とともに脳梗塞をおこすと
いうものです。外国では、「前兆のある片頭痛」でこのようなことが起こるとされています
が、日本では、「前兆のない片頭痛」でもこのようなケースがおこることがこれまでに報告
されています。
脳梗塞をおこす部位はおおむね後頭動脈で、視野欠損が後遺症として残りがちですが、
重い後遺症を残すことはないようです。わが国の報告例では、妊娠中に起こった例が比較
的多いようです。このような脳梗塞は一生涯に2回おこすことはない、と書いてある医学
文献もあるくらいで、それほど繰り返すものではありません。
若年期の脳梗塞の原因としてもっとも多いのは片頭痛である、という統計結果がありま
す。これを理由に、片頭痛を治さないと脳梗塞をおこすぞ、といった脅しめいた宣伝をす
る声があります。もしそんな記事をみたら、それは暴論だと思ってください。
そもそも、血管芽やわらかい若年世代では脳梗塞をおこすことはまずありません(心房
細動によって脳動脈へ血栓が流れる脳塞栓の場合は、少し多いのですが)。したがって、片
頭痛に伴う脳梗塞はきわめてまれなものであっても、若年世代での脳梗塞の原因としては
相対的に多くなるのが当たり前なのです。
片頭痛に伴う脳梗塞がどのくらいの割合でおこるかについては、詳しい調査はされては
いませんが、私がいままで直接診てきた 5000 人以上の片頭痛の患者さんのなかでは、5
人だけです。
しかし、この患者さんたち全員、脳梗塞をおこしたあとに紹介などで私のクリニックに
来院した人ばかりです。年をとってから脳梗塞になった人は別にして、通常の片頭痛で私
のクリニックに通院している過程で脳梗塞をおこした人はいません。
片頭痛に伴う脳梗塞の症状には特徴的な点があります。
通常では、脳梗塞をおこしたときには頭痛は出ません。気がついたら麻痺などの症状が
出ていたという経過をたどるのですが、この片頭痛に伴う脳梗塞では、激しい頭痛がつづ
いている最中に、麻痺などが出ていることに気づくのです。
一般の人ばかりでなく頭痛専門医でない医師たちも、脳梗塞には頭痛が伴いがちだと思
っているのですが、じつはいま述べた通りなのです。
片頭痛重責発作
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通常では、片頭痛はせいぜい長引いたとしても2~3日で治まるはずなのですが、これ
がちっとも治まらずに、頭痛がだらだらと続いてしまう状態を片頭痛重責発作といいます。
片頭痛重責発作は、さまざまな誘発要因が複雑に関与したときなどに起こることがあり、
片頭痛の患者さんのなかには、何日も、長ければ1週間以上も頭痛が続いて苦しんだとい
う経験のある人は、きっと多いことだろうと思います。
こういう状態に陥ったときには、通常の薬の効果が出にくくなり、吐き気や嘔吐が続く
ために食べ物を口にすることもできず、脳がおかしくなったのではないかと心配になって
いよいよ不安になりますから、かなりつらいものです。
この場合、いくつかの治療法を併用するなどの対策をして、このような状態から一刻も
早く脱却するのがよいでしょう。
変容性片頭痛
高齢になると片頭痛は消えていくということは述べましたが、消える前の段階では、若
い時の片頭痛の症状とは様相が異なってくる場合があります。いくらか頭痛の回数は増え
たとしても頭痛が和らいでいく人のほうが多いのですが、もう少しやっかいな状態になる
場合があるのです。
ほぼ毎日、痛むようになり、多少の浮き沈みはあったとしても痛みはほとんど持続性と
なり、頭の両側に痛みがまたがることが増えてきます。さらに、肩や首すじ、こめかみの
痛みなども加わってきて、首や肩の筋肉の痛みを中心とする緊張型頭痛に似たような症状
になってきます。こういった状態の片頭痛を、変容性片頭痛と呼びます。
この変容性片頭痛が、一般的な片頭痛の最終的な病像であるのか、あるいは、別個に緊
張型頭痛が加わってきているのかは、結局のところまだはっきりとはしていません。また、
このような状態になる患者さんはそれまでにいろいろな薬を服用しているために、「薬物乱
用頭痛」とも診断されがちです。
患者さんが変容性片頭痛の状態になると、いずれもっと年ととれば軽くなるということ
は分かっていても、医師としてそのまま放置しておくわけにはいきません。
トリプタンは若い世代の片頭痛にはよく効果がみられるのですが、変容性片頭痛にはう
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まく効かなかったり、使いすぎになりがちです。変容性片頭痛になった患者さんに対して
は、現状では頭痛専門医の大半がうまく対処できないのが実情です。
このような場合には、私は保険診療の枠から飛び出して、また国内の医師向けのガイド
ラインに記載されていない知識を利用しながら対処します。そうすることによって、大い
に満足という場合もありますが、過半数の患者さんでは一定以上の効果が現れてきます。
ただし、そのように対処しても、まれながら全く改善の徴候さえ認められない人がなお
存在するのは事実です。
これは
こうして治す
片頭痛
薬物乱用頭痛といわれたら
寺本 純
から抜粋しました。
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片頭痛
永関 慶重
なぜ、片頭痛は見逃されるのか
頭の両側が痛い片頭痛も
片頭痛の名称の由来は頭の片側が痛むことから名付けられたといわれ、事実片側だけが
痛むケースが多いのですが、実際には4割近くの患者さんが頭の両側の痛みを訴えていま
す。ですから診察を受ける時、医師は必ず「頭のどこが痛いですか」と訪ねますが、この
時「頭全体が痛い」と患者さんが答えると、旧態依然とした頭痛診療をしている医師は迷
うことなく「緊張型頭痛」と診断してしまうことが往々にしてあるのです。
ここに片頭痛が見逃される第一の原因があります。また「首や肩が凝って痛い」と患者
さんが症状を伝えますと、これまた「緊張型頭痛」と診断されてしまうケースが多いので
すが、私の診察した片頭痛の患者さんの内、8割が肩こりを訴えておられます。肩こりイ
コール緊張型頭痛ではないのです。これが片頭痛が見逃される二番目の原因です。
また「どんな感じに痛いですか」と問われて「ギュッと締め付けられる感じです」と答
えると、これまた「緊張型頭痛」と診断されてしまうのです。
なぜこのような混乱が医療の現場で起こってしまうのでしょうか。
「国際頭痛分類第2版」
が医療現場に少しずつ浸透して頭痛診療が画期的に前進するまでは、
「目がチカチカして、
頭の片側がズッキンズッキン痛いのが片頭痛」「肩や首が凝って頭が締め付けられるように
痛むのは緊張型頭痛」というように長年捉えられてきたからです。これは過去の頭痛教育
の悪しき遺物です。両側性の片頭痛も、非拍動性の片頭痛も、肩や首の凝りを伴う片頭痛
もあるのです。
片頭痛は一般的な疾患で、全世界では人口の 12 % が頭痛に苦しみ、患者数5億8千万
人と推定されています。わが国でも 1997 年に北里大学の坂井文彦教授らによって行われ
た大規模な疫学調査によれば、15 歳以上の日本人における過去1年間の片頭痛有病率は「国
際頭痛分類第2版」の診断基準を満たすもので 6.0 % 、診断基準の1つを満たしていない
ものの片頭痛が疑われるものは 2.4 % 合わせれば 8.4 % に及ぶことが明らかにされ、これ
を総人口に当てはめると、六百万人~八百四十万人の患者さんがおられることが推定され
-1-
ます。世界保健機関(WHO)の調査によれば日常生活に支障を来す疾患の中で片頭痛は 19
位に挙げられています。
片頭痛の発作が起きているときは本当に苦しいものです。しかも月に1~2度、多い人
で週に2~3度の割で発作が起こることがありますので、仕事、学校、家事、育児等々、
何をするのも辛く、起きてうごけば頭にガンガン響きますから静かにじっとして暗い部屋
で横になっているしかない、という状況になってしまいます。
辛いのは患者さんだけではありません。家庭もまたストレスを感じて重苦しくやりきれ
ない思いをして発作の治まるのを息を詰めて待つといった状況に追い込まれてしまいます。
このような片頭痛発作を起こしている状態でも仕事に行かなくてはならない時、その作業
効率の低下は 56 % という報告も出ています。
片頭痛は患者さんや家族が辛いだけでなく社会的損失も大きく、2004 年、アメリカの医
学雑誌「ニューロロジー」はアメリカの片頭痛患者を二千四百万人と分析し、片頭痛のた
めに仕事を休んだことによる企業の損失は1年間で130億ドルと試算しています。これ
をわが国の片頭痛患者840万人を当てはめて計算してみると、約4,550億円。これ
に医療を受けるために掛かった時間や薬の費用が加算されるわけですから、膨大な社会的
損失です。
片頭痛の患者さんは男性よりも女性が多く、男性患者を1とすると女性はその 3.6 倍に
もなり、比較的若い女性に多いのが特徴です。それも月経の始まる前、期間中、終わる頃
さらには排卵期にも片頭痛が起こることが多く、妊娠中は比較的安定し、出産後にまた片
頭痛が出現し、妊娠前よりひどくなる傾向が指摘されています。そして閉経を過ぎると片
頭痛が起こらなくなる人も多いことから、女性ホルモンの分泌と片頭痛は深い関係がある
のではと考えられていますが、まだそのメカニズムは解明されていません。誤解がないよ
うに申し添えますが、閉経と同時にすべての女性患者さんからピタッと片頭痛がなくなる
わけではありません。発作が起きる回数が少なくなる人もあれば、逆に閉経後ひどくなる
人もいないわけではありません。
女性の片頭痛はピルの服用や、最近多くなってきた更年期障害の辛い症状を緩和するた
めに行われるホルモン補充療法によって誘発されることも指摘されていますので、頭痛専
門医と婦人科医からよく話を聞かれるとよいでしょう。発症年齢は早い人では3~4歳か
ら始まり、初潮の頃や二十歳を過ぎてからなど、発症年齢は個々に差があります。
-2-
幼児期の反復性腹痛、嘔吐、めまいも注意
特に注意したいのはこれまで見逃されてきた幼児期の腹痛や嘔吐、めまいなどの自律神
経症状を周期的に訴えるケースです。こういった症状で幼児が小児科を受診すると、自家
中毒や起立性調節障害などと診断されてしまうことがほとんどで「大きくなると自然に治
りますよ」というように言われています。
しかし、「国際頭痛分類第二版」では、小児期周期性症候群として「周期性嘔吐症」「腹
部片頭痛」「小児良性発作性めまい」と分類し、これらは後年、片頭痛に移行していくこと
が多いと指摘されています。
周期性嘔吐症は嘔吐と激しい悪心を繰り返し、発作時には顔面蒼白となり、嗜眠傾向を
示し、発作間欠期には症状が完全に消失し、病歴や身体所見の兆候がないのが特徴です。
また腹部片頭痛は発作性の腹部正中部の痛みを繰り返す原因不明の疾患で、悪心や嘔吐、
顔面蒼白、鈍痛または漠然とした腹痛を訴えて、1 ~ 72 時間持続する腹痛発作です。これ
も発作間欠期には異常はみられず、小児科や内科を受診しても胃腸にも腎臓にも疾患は見
あたりません。腹部片頭痛は日常生活を妨げるほどの痛みがありながら、内臓には疾患が
見つからないことから親御さんはさぞかしご心配だと思います。
こういうケースの場合、小児科だけでなく頭痛専門医の診察を受けられることをお勧め
します。片頭痛予防薬や特効薬を用いることで格段に症状が改善できますし、将来片頭痛
に移行することを未然に防ぐことができるのです。現在国内で発売されているトリプタン
製剤はいずれも「小児に対する安全性は確立されていない(使用経験がない)」と明記され
ていますが、頭痛専門医は外国の文献や学会で発表された論文などを精査しながら、小児
にも注意しながらトリプタン製剤を使用して、効果が認められています。
小児良性発作性めまいは前触れもなくめまいが生じ、時に重度の回転性めまいを起こし
ます。重度の場合は眼振、嘔吐を伴うことが多く、片側性拍動性頭痛を伴うことが多いの
ですが、数分~数時間で自然に回復し、発作間欠期に検査しても視神経、聴力、平衡機能、
脳波に異常は全くありません。
この小児良性発作性めまいは今のところ片頭痛との関連はよくわかっておらず、将来的
に片頭痛に移行するかどうかもまだよくわかりません。しかし重度の発作性の片側性拍動
性頭痛は片頭痛との関連性を疑わせる要因ではあります。
-3-
片頭痛の特徴的症状
では片頭痛はどのような症状を示すのか、特徴を挙げてみましょう。片頭痛には「前兆
のない片頭痛」と「前兆のある片頭痛」がありますが、いずれも生命に関わるものではあ
りません。以下に「前兆のある片頭痛」の特徴的な項目を挙げてみます。「前兆のない片頭
痛」は「予兆」と「前兆」を除いたものと考えていただくといいでしょう。
・頻度
これまでに寝込むほどの頭痛を5回以上繰り返しており、月に1~5回程度の発作が起
きる(回数には個人差があります)
・持続時間
一度発作が起きると4~ 72 時間続きます。
・痛み
ズッキンズッキン、ドクンドクン、あるいはガンガンというように脈打つようなかなり
強い痛みです。またギュウッと締め付けられる、割れそうになどと表現されることもあり
ます。歩く、階段の昇り降り、掃除をするなどの日常動作で痛みが増すため、通常の生活
に支障を来します。
・他の症状
悪心や嘔吐を伴うことが多く、光や音に過敏になります。
・予兆
発作の起きる数時間から1,2日前から生じ、疲労感が強くて集中できず、あくびが出
たりイラオラし、空腹感から過食になったり、甘い物が食べたくなったりします。また頸
部の凝りがあり、後頭部や後頸部のつまる感じを訴え肩こり頭痛と誤解されることがあり
ます。また、光や音に対して異常に過敏になります。悪心や顔面蒼白など様々な症状の組
み合わせがあります。
・前兆
片頭痛発作の起きる三十分くらい前から閃輝暗点、感覚障害、脱力感が起こりますが、
感覚障害と脱力感がある人はそれほど多くはありません。閃輝暗点とは視野の中心に見え
ない小さな部分が現れてそれが徐々に広がって中心が見えにくくなり、視野の周囲がキラ
-4-
キラ、チカチカ輝き、ギザギザしたものが見える状態をいいます。閃輝暗点は片頭痛の特
色的前兆症状として挙げられますが、実際にこの症状が現れるのは 20 ~ 30 % です。
端的に言いますと、1.これまで寝込むほどの発作を5回以上繰り返している、2.痛
くても 4 ~ 72 時間くらいでけろっと治っている、3.片側あるいは両側が痛い、4.学
業、家事、仕事等に支障をきたすほどの重度の頭痛、5.吐き気がある、6.眩しい、7.
おるさい・・の項目のうち2つ該当するものがあれば間違いなく片頭痛です。
特に女性では注意していただきたいのは、月経の始まる前や最中、または終わった後に、
も上記のような頭痛発作が起こる人が半数以上おられますが、このような人は排卵日前後
にも頭痛発作が起きることがあります。こういったケースは「月経関連片頭痛」として「国
際頭痛分類第二版」にもきちんと分類されており、これは紛れもなく片頭痛なのです。内
科や婦人科を受診されると「生理痛」や「月経前緊張症」などと診断されて鎮痛薬を処方
されますが、慢性的に服用を続けると「薬物乱用頭痛」になりますから、くれぐれも注意
が必要です。
このアンケートによって前兆のある片頭痛なのか、前兆のない片頭痛なのか、緊張型頭
痛なのか、群発頭痛なのか、薬物乱用頭痛なのか、慢性副鼻腔炎からくる頭痛なのか、そ
れとも緊急に手術が必要な頭痛なのか等々を見極めているわけですが、その頭痛患者さん
の分布状況をまとめたのが(グラフ1)です。
これでおわかりいただけるように、頭が痛いと来院された患者さん 15,651 例中最も多
いのが片頭痛の患者さんで 7,999 例( 51 %)、次に緊張型頭痛の患者さん 4,945 例( 31.5
%)で片頭痛が半数を占めました。
通常、内科や脳神経外科に受診される場合はこの反対の現象が一般的です。緊張型頭痛
と診断されることがほとんどで、片頭痛と診断が下されることは少ないのです。その理由
は何度も述べているように「肩こりがある」と患者さんが訴えると、迷うことなく「緊張
型頭痛」と診断されるからです。また「片側だけではなく、全体あるいは両側が痛い」と
いうと、これまた即座に「緊張型頭痛」と診断されてしまいます。
こういう状況は決して特殊なのではありません。片頭痛に対する医師の認識は今日でも
やはり薄く、2010 年6月現在、日本頭痛学会の認定頭痛専門医は全国でまだ 643 人。山
梨県では私を含めて4人。頭痛学会全体では昨年度から 23 人しか増えていませんから、
もっと多くなることを願わずにはいられません。
-5-
一説には頭痛患者さんは全体で三千万人、内片頭痛の患者さんは840万人いるといわ
れますから、もっと専門医が増えてきめ細かい頭痛診療、わけても親身な片頭痛診療がで
きるようになれば世の中はもっと明るく健やかになるのではないか、と思っています。
片頭痛はなぜ起きる
片頭痛の病態生理はまだ完全に解明されているわけではありませんが、仮説として最も
有力なのが「三叉神経血管説」です。これはセロトニンが関与する「血管説」を複合した
ものです。それについて以下述べてみたいと思います。
片頭痛の「血管説」に大きく関わってくるのがセロトニンです。セロトニンは人体に約 10
mg 存在する化学物質で、小腸の粘膜・クロム親和細胞内で合成されています。合成され
たセロトニンの約 90 % はクロム親和細胞内で消化管の運動に大きく関与し、約 8 % は血
小板に取り込まれて血液の中で使われます。そしてわずか 1 ~ 2 % が中枢神経に存在して
います。脳内のセロトニンは中枢神経系の中で神経伝達物質として脳機能全体のリズムを
整え、睡眠、体温調整、神経内分泌、性行動、認知、記憶などの生理機能に関与していま
す。
また不安、衝動性、攻撃性、強迫観念、うつ病、自閉症、薬物依存などの病態にセロト
ニンが大きく影響していることが知られています。セロトニンは行動の分野では抑制的に
働き、気分を高揚させるという働きを持っているのも特徴で、炎症の初期には末梢では発
痛物質、血管作動物質として働き、中枢では痛みをコントロールしています。人が衝動や
欲望を抑制して理性的に過ごせるのはセロトニンの働きに負うところが大きいのです。
片頭痛はセロトニンという脳内の神経伝達物質がストレスなどの何らかの刺激で血液中に
大量放出されることでなず脳内血管が収縮し、その後放出されたセロトニンが枯渇するこ
とによって血管の異常拡張が起こり、それが血管周囲の炎症を引き起こして痛み物質が放
出され血管拡張と炎症が引き起こされて三叉神経を刺激し、頭痛が発生するというもので
す。(三叉神経血管説といい、現在最も有力な説とされています)
トリプタン製剤は血管の収縮と拡張に大きく影響を及ぼすセロトニンと同様の作用を持
つ薬剤で、脳内のセロトニン受容体に選択的に働いて拡張した血管を元に戻し、また三叉
神経末端から放出される痛み物質の放出をおさえることで血管周囲の炎症を鎮める片頭痛
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の画期的な特効薬です。このトリプタン製剤の認可が頭痛診療、分けても片頭痛診療を大
きく進展させました。
同時に三叉神経血管系が過敏な反応を示すようになり、普段は感じない血管拍動を頭痛
として感知し、片頭痛が起こるとされています。
三叉神経血管説は 1980 年代から有力視されてきた説で、研究者の中には「最も魅力的
な説」と捉えている人も多いようですが、まだこの説が正しいと証明されてうるわけでは
なくあくまで仮説です。
患者さんに頭痛の起きるメカニズムを示す
なぜ片頭痛が起きるのか、これを患者さんにわかりやすく説明する方法はないものかと、
クリニックを始めた頃考えていました。私は脳神経外科医ですから、手術の必要な患者さ
んには当然のこととして頭部CTやMRIの画像をお見せして「ここに腫瘍がありますか
ら、手術をして取り除かなくてはなりません」とか「くも膜下出血です。頭の中のここが
出血していますから手術をしましょう」というように説明してきました。患者さんはビジ
ュアルで病気の根幹の部分を示されることで、「ああそうか、手術をしなければならない状
態なんだな」と納得して下さるのです。
ところが頭痛は同じように頭の中で起こっていることとはいえ、ビジュアルでお見せす
ることができないバーチャルな世界です。だからといって、「検査で頭の中は異常ないです
ね。心配ありませんよ」と言っても患者さんは納得されません。「異常はないことはわかり
ました。でも頭が痛いんです。なぜでしょうか」というのが患者さんが最も知りたいこと
だからです。
そこで考えたのがバーチャルな世界をビジュアル化することでした。幸いなことに姪が
はこだて未来大学でデザインを勉強していたものですから、こんなものを作って欲しいと
資料を渡すと、患者さんの脳内で起こっていることをわかりやすくビジュアル化してパソ
コンの画面下で展開していくチャートを作ってくれました。科学的な根拠をわかりやすく
図にしてありますので、それを患者さんに見てもらいながら説明すると、「ああ、そうだっ
たんですか」と納得して下さいます。
患者さんにしてみれば、脳の検査をしても異常がないのに頭が痛いわけですから、自分
-7-
の脳の中で今何が起こっているのかそれを目に見える形で説明されて初めて納得し、そし
て治療に前向きになれるのです。患者さんはとてもよくわかると喜んでくださっています。
特に説明が必要なのは片頭痛で、専門用語を駆使して説明してもなかなか理解してもら
えるものではありません。そこで私は、「セロトニン不足」をキイワードに以下のように説
明しています。脳の血液の中をセロトニンが10割流れていると考えてください。そのう
ち5~6割がセロトニンを受け取る物質=レセプターとピタッとくっついて蓋をすること
で血管の炎症を抑えているのです。普通の人はこれが外れてしまっても予備のセロトニン
が血液の中を3~4割流れていますから、すぐに蓋をすることが可能です。ところが片頭
痛の人はこの3~4割の予備のセロトニンが足りないので、外れても蓋ができません。
すると炎症が起きてしまい、血管が拡張して片頭痛が始まるのです。こういう方々はい
つもカツカツで蓋をしているわけですから、この状態でストレス、月経、気圧の変化、人
混み、運動、飲酒や太陽の光などの誘因や刺激によりセロトニンが外れてしまうのです。
もっと少なくなってしまうと補充部隊がいませんから血管が炎症を起こして火事になって
しまうのです。炎症により血管が異常に拡張すると、三叉神経を刺激してズッキンズッキ
ンと痛くなり、体動によりあらに血管が広がり、頭痛が増強するため寝込んでしまうので
す。というようにイラストをお見せしながら説明すると、とてもよく理解していただけま
す。
片頭痛の特効薬トリプタンとはどんな薬か
鎮痛薬は火を消さない機動隊
「頭が痛いです。肩も凝っています」と医師に告げると即「緊張型頭痛ですね。鎮痛薬
を出しましょう。一緒に緊張を緩める薬も飲んでくださいね」というケースがいまだに多
いのですが、何度もお話してきたように必ずしも「肩こり」=「緊張型頭痛」とは「いえ
ません。まず片頭痛に伴う肩こりではないかと、問診を重ねることが大切です。頭が痛い
時に鎮痛薬は病院でも処方されますし、薬局でもさまざまな鎮痛薬が販売されていますか
ら、家庭の中の常備薬といった位置づけでおなじみの存在です。頭が痛い、生理痛がひど
い、歯が痛い等々、あらゆる場面で鎮痛薬は飲まれています。でも、ちょっと待ってくだ
-8-
さい。片頭痛に対して鎮痛薬を飲み続けることは効果が薄い、効かない、あるいは逆に悪
化させるケースも多いのです。
市販の鎮痛薬と薬物乱用頭痛
市販の解熱鎮痛薬には非ステロイド系抗炎症薬と称される系統とパラセタモール(アセ
トアミノフェン)と称される系統の多種多様な薬がありますが、ほとんどの場合以下のよ
うな仕組みで痛みを和らげます。
人の細胞の中にはプロスタグランジンという生理活性物質の一群があり、血圧を低下さ
せたり、血小板を凝集させたり、睡眠を誘発したりとさまざまな役割を果たしていますが、
その中の一つに炎症・発熱・痛覚伝達作用があります。プロスタグランジンは、経口摂取
されたりリノール酸から生合成されたアラキドン酸から合成されますが、この過程で働く
酵素をシクロオキシゲナーゼといいます。非ステロイド系抗炎症薬はこのシクロオキシゲ
ナーゼを阻害して、プロスタグランジンが生み出されるのを抑制することで結果的に炎症
・発熱を抑えて痛みを和らげます。パラセタモールもシクロオキシゲナーゼの活性阻害作
用を持っていますので、非ステロイド系抗炎症薬と同じような働きをすると考えられてい
ますが、抗炎症作用を有していないことが近年解明されました。
要するに鎮痛薬は痛みを取り除いているわけではなく、炎症・発熱・痛覚伝達作用を持
つプロスタグランジンを生み出させないことで、痛みが中枢神経に伝わらないようにして
います。ですから痛みそのものを根本から治しているのではありません。軽度の頭痛や生
理痛なら鎮痛薬の服用で症状が緩和されますから、1カ月に1回とか2回程度服用される
のなら問題ないと思います。
しかし用心しなければならないのは、たとえば頭が痛くて鎮痛薬を飲むとします。薬が
効いている間は痛みがとれた感じがしていますが、時間の経過とともに薬の効果がなくな
りますからまた痛みが出てきます。すると痛みを我慢できなくてまた飲む。最初は月に1
~2回程度の服用だったのに気がつくと毎日、三回も四回も服用し、会社でも仕事でちょ
っとイライラすると頭が痛くなるのが自分でわかっていますから、イライラッとした途端
「薬を飲んどかなきゃ」と反射的に思い、「トイレに行ってきます」と言いながら鎮痛薬を
飲む。こういうケースが多いのです。こういった暮らしを何年も続けていると鎮痛薬が手
-9-
放せなくなり、いつも化粧ポーチの中には鎮痛薬が入っているという状態でまさに薬物依
存症になり、同時に薬物乱用頭痛になっていくのです。
薬物乱用頭痛は痛みを恐れ寝込んでしまわないようにと、仕事への支障を懸念して予防
的に鎮痛薬を飲むのを重ねていくことから始まります。不安のあまり飲まなくてはいられ
ないといった理由で鎮痛薬を過剰に飲み過ぎてしまい、だんだんと量が増え、効く時間が
短くなり、以前よりも頭痛がひどく、薬が効かなくなる状態をいいます。こうなると、治
療は厄介です。こういう人は是非、頭痛専門医の診察を受けて下さい。
病院で処方される鎮痛薬も薬局で売られているものに比べて成分が強いという違いはあ
りますが、基本的に炎症物質(プロスタグランジン)の発生を抑えて痛みを抑える、感じ
にくくするという点では同じです。
患者さんのデータで確信
片頭痛で苦しんでいる患者さんはセロトニンが欠乏することによって血管が異常拡張し
て血漿蛋白が血管外へ滲み出して炎症を起こし、発痛物質の産生によってますます血管が
拡張して辛い頭痛に悩まされます。また三叉神経の末梢が刺激されることでP物質やカル
シトニン遺伝子関連物質という痛み物質が血管周囲に放出されて炎症を起こし、さらに痛
みが増している状態です。この場合必要なのは、脳内の血管拡張と炎症を抑える薬で、そ
れができるのがトリプタン製剤というわけです。炎症を起こしている状態はたとえて言え
ば脳血管が火事を起こしているようなものです。「この場合に必要なのは直接水をかけて火
を消してくれる消防車ですよね」と説明します。患者さんにトリプタン製剤の説明をし、
「鎮
痛薬は火を消してくれませんのでバリケードを持った機動隊というわけです」というよう
に説明します。
すると患者さんは「今の私の状態は機動隊ではだめで、消防隊が必要なんですね」と薬
に対する理解を深めてくださり、注意事項もよく守って治療に前向きに取り組んでいただ
けます。患者さんにわかりやすく説明することが、治療効果を上げ、患者さんが満足して
下さる一つの要因だといつも再認識させられます。
患者さんにとって少しだけ問題なのは、薬価が高いことです。錠剤の場合どのトリプタ
ン製剤も1錠千円前後ですから、国民健康保険の患者さんなら1錠 300 円ということにな
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ります。私は、緊張型頭痛の場合、9割の患者さんには自己マッサージを指導し、「薬を飲
む必要はありませんよ。教えてあげたマッサージを朝昼晩合計 45 秒続けてくださいね。
それで絶対よくなりますから」と処方薬なしの自己管理をすすめるのです。こと片頭痛に
関しては、「このトリプタン製剤は高い薬ですが、血管の火事を消す理にかなったお薬です
ので、あなたの片頭痛にはこれが有効ですよ。必ず楽になります。これまで2日も3日も
じっと寝込んでいたのが早ければ 30 分、遅くても2時間くらいで痛みから解放されます」
と私は積極的におすすめします。それほど効果が高いのです。
1回に必要なのは、せいぜい1錠から2錠。国保なら 300 円か 600 円で片頭痛の痛み
から解放されます。
これを確信させてくれたのは、日々の診療における患者さんの存在です。1日だいたい
平均 90 人の患者さんを診ていますが、そのうち新しい患者さんは 25 人前後です。1日
百人の患者さんを一人で診るのは無理だと周囲からは言われます。しかし診立ての技術は
患者さんから学ぶことで上がってきたと思っています。薬が効いているかどうかは来てい
ただかないとわかりません。「あの薬は効きました」「あの薬は効きませんでした」と教え
てもらうことでマイナスデータとして蓄積することができます。通常は海外のデータで効
き方を患者さんに説明したり投薬をしています。しかし私の場合は来られた患者さんのデ
ータを逐一まとめて蓄積していますから、「こういうタイプの患者さんにはこのトリプタン
製剤が効く」とか「効かなかった」と仰る患者さんにも「同じ薬をあと何日飲み続けて欲
しい」とか「ではこちらのトリプタン製剤に変更しましょう」というように、個々の患者
さんの状態に合わせて最も満足度の高い薬を処方することができるのです。
診察しながらマイデータを集めてそれを患者さんにフィードバックする。借り物のデー
タではありませんので確信をもって診療に当たれますし、患者さんからも信頼していただ
けるのだと思っています。
データは出しやすいように大学でやってきたことを応用しています。ですから副作用に
関してもありのままに科学的データとして集積しています。そうしておけば「こんな副作
用が出る可能性がありますが、それは心配ありませんよ」と事前に説明もできるのです。
トリプタン製剤はなぜ効果が高いのか
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日本でトリプタン製剤を使えるようになったのは 2000 年4月のことで、最初に発売さ
れたのはイミグラン皮下注射薬でした。イミグランに関しては海外ではすでに 1991 年に
ニュージーランドで皮下注射薬と錠剤が発売され、同年8月イギリスで皮下注射、翌 1992
年にはカナダとドイツで錠剤が、アメリカで皮下注射お認可がなされ、現在百カ国を越え
る国で使用されています。すでに 1991 年にはニュージーランドとイギリスで認可されて
いるのですから、わが国での認可は随分遅いといってよいでしょう。
このように医薬品の最初の発売国とわが国での発売に時間のずれがあることをドラッグ
・ラグといいますが、平均すると日本は 3.9 年といわれています。イミグランの場合、認
可まで丸9年もかかったわけですから、いかに片頭痛が軽く見られていたかの一面を示し
ているのかもしれません。
しかしこのイミグラン皮下注射の導入は片頭痛治療に画期的な効果を上げ、頭痛診療に
おけるエポックメイキングおなったといっても過言ではありません。これを起点に日本の
頭痛診療が大きく変わり始めたのです。現在わが国では5種類のトリプタン製剤ースマト
リプタン=薬剤名はイミグラン錠 50 mg とイミグラン点鼻薬 20 mg 。ゾルミトリプタン
=薬剤名ゾーミック錠 2.5 mg 、ゾーミック錠RM錠 2.5 mg 。臭化水素酸エレトリプタン
=薬剤名レルパックス錠 20 mg 。安息香酸リザトリプタン=薬剤名マクサルト錠 10 mg 、
マクサルトRPD錠 10 mg 。ナラトリプタン=薬剤名アマージ錠 2.5 mg があり、このほ
かにイミグランには病院で用いる皮下注射 3 mg 、そして在宅自己注射薬キット皮下注射
3 mg があります。
これらはすべて医師の処方箋によって処方されるもので、薬局に行って「トリプタン製
剤をください」と言っても売ってはもらえませんので、必ず病院を受診してください。な
おRM錠とRPD錠は水なしで飲める錠剤で、電車に乗っている時や会議中、授業中とい
った水がない状況で片頭痛発作が起きたときにとても重宝します。口中粘膜では吸収され
ませんので、薬が溶けた唾液をきちんと飲み込んで下さい。
トリプタン製剤が登場するまでにも片頭痛治療薬はなかったわけではありません。長い
期間使われてきたカフェルゴットはメーカーが世界的に製造販売を中止する方針を打ち出
しましたので、わが国でも 2009 年 3 月 31 日をもって保険薬価削除になりました。
しかし患者さんの中には残っていたカフェルゴットを今も使っている方があるかもしれ
ませんし、個人輸入といった形で使用しておられるケースもないとはいえません。このカ
フェルゴットや今日でも用いられているクリアミンAやクリアミンSといったエルゴタニ
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ン製剤は、トリプタン製剤同様に血管収縮薬で片頭痛治療薬の中心的なものでした。ただ
発作のできるだけ早い段階で飲まなければ効果がないため前兆のない片頭痛の人は飲むタ
イミングが図りにくく、かつ随伴症状である悪心や嘔吐を強め、頭部血管への選択性が低
く、全身の血管を収縮させるため心血管系へのリスクが大きいという欠点を持っています、。
そのため心血管系疾患のある患者さんへの投与は控えるべきです。また作用時間が長いた
め頻繁に使うことができないのも欠点ですが、少なくとも同じ日に再び片頭痛を起こすこ
とは少ないため今も利用する人はいると思います。しかし、当院を受診する患者さんのエ
ルゴタミン製剤の使用は皆無になっております。
トリプタン製剤はどれもセロトニン(5ーHT)と構造が類似した設計で、セロトニン
受容体5-HT/ 1Bと1Dに選択的に働いて片頭痛で拡張した頭蓋内外の血管を収縮さ
せて正常な状態に戻し、同時に炎症を進めてしまう痛み物質・神経ペプチドの放出を抑え
ることで炎症や痛みが伝達されることを抑制し、片頭痛を鎮めます、このようにトリプタ
ン製剤は片頭痛治療に特化した薬で、通常の痛み止めや鎮痛薬とは全く違います。前述し
たように、消防隊として作用して血管の火事を消火する薬だと理解してください。
予防薬ではありませんので、発作が起きた時しか服用してはいけません。そして根治薬
ではありませんので、火事が起こったら消しに行くと考えたらわかりやすいと思います。
後で紹介します「片頭痛を誘発するものを避ける」、「片頭痛の予防薬」を参考にして医師
のアドバイスを受けてください。念のため申し添えますが、緊張型頭痛の人が飲んでも何
の効果もありません。
また、各トリプタン製剤の項目にたとえば「1日1回服用。効果が見られない場合は2
時間以上あけてもう1錠追加可能」というような注意を挙げてありますが、この「もう1
錠服用可能」という量を飲んでも効果がない場合は、その時点で服用を中止し必ず医師に
相談して下さい。しかし、一度効果があったトリプタン製剤が次の時に効果がなかった場
合、これは胃の調子の悪い時、すでに悪心がでたりして、胃の吸収が悪い時があります。
それゆえ2回目に内服することは、消防隊を増員させるということで理解して下さい。
いってみれば性格の違いというような微妙な差異がトリプタン製剤にはあり、人によっ
て相性の良い悪いがままあります。よって相性のいいトリプタン製剤を見つけるまで3カ
月くらいお試し期間が必要と説明しています。
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トリプタン製剤の特徴と服用の注意点
.
まず最初に共通の使用禁忌と慎重な服用が求められる内容を記します。
■トリプタン製剤を使ってはいけない人
・それぞれのトリプタン製剤に過敏症を起こしたことのある人
・狭心症や心筋梗塞などの心血管系に病気のある人
・脳梗塞、虚血性脳血管障害などの脳血管系に病気のある人
・コントロールされていない高血圧の人
・重篤な肝機能障害のある人
・末梢血管障害のある人
・各製剤成分に過敏症の人
・家族性片麻痺性片頭痛、弧発性片麻痺性片頭痛、脳底型片頭痛、眼筋麻痺性片頭痛、網
膜片頭痛などの特殊な片頭痛の人
■トリプタン製剤使用に慎重な検討が求められる人
・心臓病の人
・脳血管障害の可能性のある人
・肝機能障害のある人
・腎機能障害のある人
・高齢者
・コントロールされている高血圧の人
・てんかんの既往症やけいれんを起こしやすい病気の人
・閉経後の女性や 40 代以上の男性
■併用に注意が必要な薬
・SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナ
リン再取り込み阻害薬)は効果が高くて副作用の少ない抗うつ薬ですが、トリプタン製剤
と併用するとセロトニンの血中濃度が高くなりすぎてセロトニン症候群を発現させる可能
性が考えられます。SSRIやSNRIを服用している患者さんはトリプタン製剤を使用
する際には医師によく相談してください。
・エルゴタミンあるいはエルゴタミン誘導体含有製剤(カフェルゴット、クリアミン、ジ
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ヒデルゴット、エルゴメトリン、メテルギン)やトリプタン製剤を 24 時間以内に服用し
てはいけません。どちらも血管を収縮させる薬ですから、収縮作用が強すぎて血圧上昇や
血管攣縮を増強するおそれがあります。
トリプタン製剤を使う場合は必ず医師に現在服用している薬を告げてください。受診され
る際に、いま飲んでいる薬の一覧表を持参されるとよいでしょう。病院でも調剤薬局でも
処方した薬の効果と注意点を明記したものや保険調剤明細書が必ず発行れますからそれを
お持ちくださると医師も的確な判断ができるのです。
■トリプタン製剤共通の注意点と副作用
眠気やめまいを催すことがありますから、自動車の運転や危険を伴う機械操作、高所での
作業などはしないでください。
1991 年にニュージーランドでトリプタン製剤・イミグランが発売されてから 19 年になり
ますが、重篤な副作用の報告は極めて少なく安全性の高い薬と評価されています。共通の
副作用として挙げられるのは胸、のど、肩などの締め付け感や圧迫感、そして息苦しさな
どの不快感です。これらの不快感はどのトリプタン製剤でも報告され、服用後 30 分以内
に現れることが多く自然に消えていきますが、次回診察を受ける時、必ず医師に報告して
下さい。
国内での報告はありませんが蕁麻疹、発疹等の皮膚症状、一過性の血圧上昇などが1%
未満に起こったと報告があります。また稀に以下の重大な副作用が起こることがあります。
1.呼吸困難、咽頭麻痺、気管支麻痺のアナフィラキシー様症状や血圧低下を伴うアナフ
ィラキシーショック
2.不整脈、狭心症、心筋梗塞を含む虚血性心疾患様症状
3.てんかん様発作
このような症状が現れた時には速やかに医師の診察を受けて下さい。当院での 7000 例を
越える使用経験では、このような副作用は全くなく、安全性の高い薬であることを付け加
えておきます。
トリプタン製剤は片頭痛に対して極めて高い治療効果を発揮しますが、その分、慎重に
用いなければなりません。共通の禁忌事項・個別の禁忌事項・併用注意薬・慎重投与が求
められるケースをそれぞれきちんと守って使って下さい。わからないことは医師に理解が
できるまで尋ねましょう。効果が高い薬ゆえに安易な服用は重篤な事態を招く危険性があ
ることを忘れないで下さい。
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トリプタン製剤の服用タイミング
かって主流だった片頭痛治療薬エルゴタミン製剤は、頭痛発作が生じる前に服用しなけ
れば効果がなく、服用のタイミングが取りにくいものでした。しかしトリプタン製剤は、
痛みを感じたら飲めばいいという点が大きく違います。
最適な服用タイミングは「あっ、片頭痛が始まった」と感じる軽度の頭痛の時点が最も
高い効果が得られます。既述しましたように消防隊による初期消火が極めて有効なわけで
す。トリプタン製剤は服用してから脳に届くまでに 15 ~ 20 分かかりますから、閃輝暗点
の前兆がある人は、閃輝暗点が始まって 10 分経った時点で飲むと、薬が効き始める時点
と血管が拡張するタイミングが一致して効果的です。頭痛がひどくなってからだと、アロ
デイニア(脳が痛みに過敏になり通常は感じない刺激でも痛みとして感じる状態。皮膚が
過敏になって手足がピリピリしたり、手が痺れたりする現象が現れたり、髪をとかすのも
痛みで不快感が生じます。片頭痛を緊張型頭痛と間違えられて長い間正しい治療が受けら
れていなかった場合に余計に出やすいと言われています)が発生して、トリプタン製剤の
効果が出にくくなります。
トリプタン製剤を服用することで、これまで3日間くらい続いた辛い痛みは 30 分~2
時間ほどで解消されます。当院における経口トリプタン5製剤の使用例 779 例の有効性に
ついて論文で報告しました。それによると、2時間以内の頭痛の消失率は、79 ~ 94 % で、
その有効性が示されました。
どんなことでも不安や違和感を覚えることがあったら、頭痛専門医に相談するのが一番
です。必ず、よい解決法やアドバイスをしてくれるのがあなたの主治医なのです。
片頭痛を誘発するものを避ける
母親が片頭痛持ちの場合、その子供も頭痛持ちになりやすい傾向があることがわかって
きています。片頭痛になりやすい体質が遺伝すると考えられているのです。
今、頭痛に苦しんでいなくても、片頭痛になりやすい体質を受け継いでいる可能性があ
ることを念頭に置いておくと、いきなり片頭痛発作が始まったときあわてなくて済みます
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し、原因が何だろうと悩むことなく頭痛専門医を受診することができるでしょう。また現
在、片頭痛に悩んでいる人は以下の誘因物質や環境要因を避けるよう日頃から注意して下
さい。
1.片頭痛を誘発しやすい食品の摂取を避ける
チョコレート、赤ワイン、コーヒー、紅茶、チーズ、ナッツ類、かんきつ類、人口甘味
料、アスパルチームなどは、片頭痛を誘発しやすい食品と言われています。
できるだけ避けましょう。
2.早寝早起きで適度な睡眠をとることを心がける
なかには、週末頭痛があります。仕事をしてせっかく休みになった土日だけ片頭痛が起
こる患者さんがいます。これはリラックスして逆に血管が拡張して起こりやすくなるわけ
です。睡眠不足も睡眠過多も片頭痛を引き起こしやすくなります。研究者の中には昼寝も
よくないという人もいます。規則正しい生活リズムで適度な睡眠を心がけましょう。どう
しても眠れない、眠りが浅いという人は主治医に相談してください。穏やかな効き目の睡
眠導入剤を選択するなど、きっといい解決法を見つけてもらえます。
3.環境要因をできるだけ避ける
人混み、騒音、におい、光、天候の変化や太陽の光などが考えられます。騒音のひどい
場所にはできるだけ近づかない。やむなく外出するときは耳栓を利用するなどの工夫をす
るとよいでしょう。なかには、自分の赤ちゃんの泣き声で頭痛が増強する人もいます。
またにおいの原因で最も多いのはタバコです。においではカレーライスのにおいでてき
めんに片頭痛が起こるとか、ミルクのにおいがだめとか、玉ねぎを切ると片頭痛が起こる、
炊きたてのご飯のにおいがだめ、香水のにおいで必ず片頭痛が起きるという具合に極めて
個人差があります。自分にとって何が頭痛の誘因となるか日頃からよく注意して、ご自分
で見つけて避ける工夫をしてください。お子さんにカレーを作らなくてはならないような
場合は、マスクをするとかなり効果があります。また太陽の光が眩しくて耐えられないと
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いう人も多いですから、やむなく外出する場合は帽子をかぶり、サングラスを使うといっ
た工夫をしましょう。光に関しては車のヘッドライトや蛍光灯の光が耐えられないという
人もいます。昼間、太陽の光を遮る遮光性の高いカーテンに変えて、外からの光が入って
こないような工夫をし、かつアイマスクを使用することでかなり改善されます。天気が悪
くなりそうな時台風が近づいてくる時は必ず予兆が始まって、片頭痛を起こすという人も
かなり多くおられます。気象の変化ばかりは避けようがないのですが、予兆や前兆の後、
本格的な片頭痛が始まった時点でトリプタン製剤を服用することで、大きな発作を抑える
ことができます。
また、梅雨の晴れ間で湿度が高くて蒸し暑く、それなのに太陽が照りつけているような
日や、真夏の猛烈に暑くて太陽がギラギラする日も片頭痛注意日です。できるだけ涼しく、
湿度と温度を下げた部屋で静かにすごしましょう。
4.運動、入浴など身体を温めることを避ける
片頭痛の随伴症状として肩こりや首の凝りがあります。実際は片頭痛なのに長い間「緊
張型頭痛でしょう」と言われてきた人は「運動不足が原因」「お風呂に入って体をゆっくり
と暖め、リラックスすると肩や首の凝りがほぐせる」と思いこんでいますから、つい運動
したり入浴したりしてしまいます。
しかし、片頭痛にとってこれらの行為は避けなければならない事項です。血行がよくな
ると脳血管も拡張しますから、余計に片頭痛の痛みを増してしまうのです。
片頭痛の場合は冷やすことが原則です。こめかみのちょっと上の「がんえん」というツ
ボの辺りやひたい、そして首を凍らせた保冷剤や冷たいタオルで冷やすと、かなり楽にな
ります。使いやすいサイズの保冷剤を見つけたら常に冷凍庫でいくつか凍らせておくと重
宝します。片頭痛は冷やす。温めてはいけないのです。とは言え、冷やしすぐはよくあり
ません。冷やすのは急性期の辛い時だけにしてください。
片頭痛の予防
トリプタン製剤は月にどれくらいまで服用してもいいか、と患者さんからよく尋ねられ
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ます。私はできるなら月に7錠以内に留めるべきとお話しますが、なかには 10 錠を超え
てしまう患者さんもおられます。月経時の頭痛や、症状が重い患者さんの場合、1週間に
2度も3度も片頭痛の発作が起きてしまう人も決して少なくないからです。そうなるとト
リプタン製剤を月に 10 錠以上飲むことになってしまいます。これは決していいことでは
ありません。トリプタン製剤は拡張した血管を収縮させる薬ですから、これを過度に用い
ることは脳血管系や心血管系への影響が無視できませんし、トリプタン乱用頭痛という薬
物乱用頭痛になってしまいます。その場合には予防薬が必要となります。
トリプタン製剤は発作を頓挫させる薬で根治療ではありません。
そこでおすすめしたいのが予防薬です。
■カルシウム拮抗薬
月に2回以上片頭痛発作に襲われ、日常生活に支障を来している患者さんに有効な予防
薬です。カルシウム拮抗薬は降圧剤として知られていますが、その中の一つ塩酸ロメリジ
ン(市販名:ミグシスアルイハ「テラナス)は、わが国で初めて片頭痛予防薬として保険
適用薬となった薬剤です。同系列の降圧剤と比較すると脳血管に選択的に作用するのが特
色で、血管内や神経細胞へのカルシウムイオンの流入を阻害して、脳内血管の収縮を抑制
し、拡張させる働きがあります。
皆さんの中には「片頭痛は脳血管が拡張して起きると聞いてきたのに、拡張させる薬を
飲むなんて変だ」と思われる方も多いかもしれません。でも思い出して下さい。血管説で
はまずセロトニンの大量放出によって脳内血管が収縮し、その後セロトニンの欠乏(もし
くは枯渇)によって反動として血管が拡張して片頭痛が起こるーでした。
片頭痛予防薬(塩酸ロメリジン)は片頭痛のきっかけとなる脳内の血管収縮を抑制・拡
張する作用で片頭痛の起こるのを未然に防いでいこうという薬です。また血管の炎症抑制、
セロトニン放出のきっかけとなる小板凝集抑制効果も有していますので、効果の大きい予
防薬です。
マクサルトは 24 時間以内のカルシウム拮抗薬の服用を併用注意としていますので、マ
クサルトを使用している人は医師と相談してください。妊娠または妊娠している可能性の
ある人には使えません。動物実験で催奇形性作用が報告されています。
また塩酸ロメリジンは、授乳中の人は使用しないことが望ましいのですが、やむを得ず
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使用する場合は授乳を避けて下さい。幼児には投与できません。また、頭蓋内出血または
その疑いのある患者さん、脳梗塞急性期の患者さんは使用禁忌です。慎重投与や併用注意
薬もありますので、医師からよく説明を受けて下さい。副作用は少ない薬ですが稀に眠気、
めまい、ふらつき、悪心、ほてりなどが生じることが報告されており、抑鬱症状が現れる
こともあります。
■ベータ遮断薬
ベータ遮断薬は高血圧、冠動脈疾患、頻拍性不整脈の治療薬ですが、片頭痛予防薬とし
て古くから使用されてきました。プロプラノロール、メトプロロール、アテノロール、ナ
ドロールなどが効果が高いとされています。ただし、プロプラノロールはマクサルトとの
併用は禁忌となっていますので、注意してください。マクサルトを使用している人は他の
ベータ遮断薬を医師に探してもらってください。
また気管支喘息、気管支けいれんのおそれのある人は使用できません。妊娠中または妊
娠している可能性のある人は緊急でやむを得ない場合を除いて服用を避けてください。
授乳中の人は授乳を避けてください。ベータ遮断薬の中で内因性交感神経刺激作用を有
するアセプトロール、ピンドロール、アルプレノロールなどには片頭痛予防薬としての効
果がないことがわかっています。また片頭痛予防薬として保険適用がなされていませんの
で、服用する場合は自己負担になります。
■抗てんかん薬
本来は脳の神経を鎮めててんかんの発作を予防する薬剤ですが、応用として片頭痛や群
発頭痛の予防薬として使われ、また鎮痛補助薬として用いられます。
なかでもバルプロ酸ナトリウムは、GABAを調整することでナトリウムイオンチャン
ネルを抑制し、カルシウムイオンチャンネルの活動を調整することで片頭痛や群発頭痛の
予防に効果があるとされています。薬剤名はデパケン、セレニカなどが販売されています。
平成 22 年 10 月 29 日より同薬剤は片頭痛に対しての予防薬として保険適用となりまし
た。禁忌事項として、重篤な肝機能障害のある人、妊娠中の人は使用できません。他にも
禁忌事項がありますので、医師の説明をよく聞いてください。
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■抗うつ薬
抑うつ傾向がない場合でも片頭痛に関係の深いセロトニン代謝を改善することで片頭痛
の予防に効果的に働きます。最近では選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や
アミノトリプチリン塩酸塩(薬剤名:トリプタノールやラントロン)が注目されています。
トリプタノールやラントロンは緑内障の患者さんや心筋梗塞の回復初期の方、前立腺疾患、
モノアミン酸化酵素阻害剤(セレギリン)を服用中の患者さんは使用できません。
患者さんによっては片頭痛の予防薬として抗てんかん薬や抗うつ薬を処方されることに
抵抗感を持たれたり、また地元の顔見知りの調剤薬局で薬を受け取る時に添付される薬剤
名や効能を明記した書類に「てんかん」や「うつ」と書かれていることに違和感を覚える
患者さんも少なくありません。てんかんもうつも少しも恥ずかしい病気ではありませんが、
精神疾患に対する長年の偏見が片頭痛の予防薬として処方された抗てんかん薬や抗うつ薬
の名称に「精神疾患患者と思われてしまうのではないか」と不安を感じられるようです。
医師は患者さんにこのような心理的負担をもたらさないために何より丁寧な説明が求めら
れると思いますし、また患者さんも片頭痛を予防するためにこれらの薬剤が持つ有効性を
理解していただきたいと願っています。
またこれらの予防薬は漫然と飲んでいてはいけません。まず2週間目に効果があるか、
ないかを主治医と確認し、最低3カ月は決められた用量を服用して下さい。1,2カ月で
止めると頭痛がひどくなるという報告があります。その後頭痛発作が起こらなくなったら、
少しずつ量を減らして止めていきます。どれくらいの期間服用するかなど主治医からよく
説明を受けて下さい。
■漢方薬
漢方薬は予防薬や急性期治療薬として古代から使用されてきており、経験的・伝統的に
効果・安全の両面から有用と評価されています。これを裏付けるエビデンスも集積されつ
つありますので、できるだけ漢方医療を取り入れたいと考えておられる患者さんにはよい
でしょう。「呉しゅう湯」、「桂枝人参湯」「釣藤散」などが有用とされていますがまだ科学
的根拠が少ないのが実情です。
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■薬物以外の予防治療法
行動療法・緩和訓練としてリラクゼーシヨン、認知行動療法、催眠療法などがあり、理
学療法としては鍼、経皮的電気刺激などが挙げられます。また自然食品やサプリメントで
はナツシロギク(フィーバーフュー)西洋フキ(バターバー)マグネシウム、ビタミンB 2
などがその代表的なものです。ナツシロギク(フィーバーフュー)は古くから片頭痛の予
防に用いられてきて有効性が認められていますが、子宮収縮作用があるため妊娠している
人は用いてはいけません。
これらの予防法は薬物療法を望まない人、薬物療法に禁忌がある人、薬物療法に反応し
ない人、妊娠中または妊娠の可能性がある人(ナツシロギクは禁忌)薬物乱用頭痛の既往
がある人といったケースに用います。
頭痛ダイアリーを付けてみよう
あなたの片頭痛はどのような時に起き、いかなる経過をたどるか、また処方された予防薬
やトリプタン製剤はちゃんと適切な時間に服用しているか、効果は出ているか。自分自身
の頭痛の実態を理解し、処方された薬の適切な服用のタイミングを知ることはとても大切
なことですし、医師の側も問診だけでは捉えきれなかった頭痛の強度や随伴症状の正確な
把握ができますので、より的確な治療を行うことができます。
そのために有効なのが頭痛ダイアリーの記入です。頭痛ダイアリーは日本頭痛学会のホ
ームページからダウンロードできますし、また医薬品メーカーが独自に作ったものもダウ
ンロードできます。頭痛専門医のクリニックなら勿論もらえますので、ぜひ記入を習慣づ
けて下さい。記載方法は説明が付いていますので簡単です。
これは
頭痛クリニック開院!
- 22 -
依存から自律へ、そして自活へ
永関 慶重
から抜粋しました。
- 23 -
ひとりの人にある片頭痛と緊張型頭痛
意外に多い、片頭痛と緊張型頭痛の行ったり来たり
少しだけ、ここで片頭痛と緊張型頭痛のおさらいをしておきましょう。
まずは、片頭痛です。
片頭痛はキラキラした物が見えるなどの、前触れが時にある、突然おきる頭痛でした。
ずつうがあると、吐き気や嘔吐、めまい感などの付随症状があるのが特徴です。頭痛時に
は、光やにおいに敏感になり、暗い部屋でじっとしていると比較的楽になります。脳の血
管の過剰な収縮と拡張が原因と考えられています。治療は、イミグランなどのトリプタン
製剤が特効薬でした。
一方、緊張型頭痛は筋肉に痛み物質が蓄積するためにおきる頭痛です。痛みの特徴はだ
らだらとジワーッといつも肩や頭が重くて、時折強い痛みがやってきます。頭が締め付け
られるように感じることもあります。軽い運動をしたり、生活環境を整えることが重要で
した。また、外用薬や、鎮痛薬などが効果があり、筋弛緩薬や抗不安薬が治療に用いられ
ることもあります。
さて、頭痛持ちの方の頭痛ははっきりどちらかの頭痛に分けられるでしょうか。
自分の頭痛を「感じ分ける」ことがとても重要なのです。
実は、片頭痛の人にも緊張型頭痛は起きますし、緊張型頭痛の人に片頭痛がやってくる
こともあるのです。
そうです。あまり知られていませんが、ひとりの人に複数の頭痛が混在することが大変
に多いのです。
緊張型頭痛から片頭痛を合併ーWさんのケース( 30 代
主婦
女性)
頭痛に悩まされていたWさんのお話をしましょう。
Wさんは元来肩こりで、頭痛も時々おきるため、接骨院や指圧マッサージなどの治療院
を転々としていました。マッサージをしてもらうと肩こりも楽になり、頭痛も軽くなるの
でした。ところが、肩こりは良くなっても頭痛が良くならないことがあり、いろいろな治
-1-
療院を転々としていたのでした。さらに、時折ひどい頭痛がおきることに気がついたので
す。
鎮痛薬で嘔吐
近くの病院に行くと、先生から「肩こりがして頭痛がひどくなるのであれば、緊張型頭
痛でしょう」と言われ、解熱鎮痛薬と筋肉を和らげる薬を出してくれました。
数日間、薬を内服すると、少し良くなったので安心していました。確かに、肩の痛みや
頭痛は少し和らいだ気がしました。そうして時々、サッサージに通いながら生活を続けて
いました。
ある日の夕方、強い頭痛が起きてきたので、病院でもらった鎮痛薬を内服しました。け
れど、頭痛は治まるどころか、嘔吐までしてしまい、とても怖くなってしまいました。
そこで、再度近くの先生の所に行きました。
「疲れがたまっているのかもしれないですね。
少し、休んでいくといいですよ」と言われ 、吐き気止めが入った点滴をしてもらいました。
数時間も眠ると頭痛も吐き気もなくなっていました。「ああよかった」と思い家に帰り、翌
日から普段どおりの生活をしていました。
時折頭痛は感じていましたが、マッサージや、解熱鎮痛薬が良く効いていました。
Wさん本人が頭痛を撃退
ところが、そんなある日、「目の奥がえぐられるような」強い痛みと吐き気、今度はフラ
フラするめまい感まで一緒に出てきました。そこで、再び近くの病院で「今日はひどい頭
痛がありました。なにが原因なのか調べてみたいと思います」と申し出ました。そこで、
先生から紹介状をもらい神経内科専門医にかかることになったのです。
専門医のところでWさんは、「時々、痛み止めが効かない頭痛があります。頭の中に腫瘍
ができていて、すごく痛くなるんじゃないかって、家族がおどかすんです」と今にも泣き
出しそうな顔で話されます。
ところが、いろいろな診察をしてみても重症な病気はなさそうでした。それで、まず、
「頭
痛は時折ひどくなるかもしれないけれど、脳に大きな問題はなさそうですよ」と安心して
頂き、頭のMRI検査等を行いました。検査の結果も異常ありませんでした。
-2-
そこで、片頭痛の特効薬であったトリプタン製剤をお出しし、「いつもと違う、発作的な
ひどい頭痛が来たらまず飲んでみてください。吐いてしまうほどひどくなる前に飲むのが
いいでしょう。そういう頭痛が来ないのが一番ですけどね」とお話しました。
2カ月後の診察時、Wさんは何かを見つけた子どものように喜んでいます。「先生、私分
かりました。昼間、大好きな俳優のDVDを見ていたら、右目が痛くなってきて、だんだ
んひどくなってきたの。肩こりがひどくて、頭が締め付けられるような嫌な感じとは、全
く違う頭痛だと思いました。それで、もらっていた、トリプタン製剤をあわてて飲んだら
効いちゃったのよ。それから、どの頭痛にトリプタン製剤が効いて、どの頭痛に鎮痛薬が
効くのかだんだんわかるようになったのよ!すごいでしょう」Wさんは自分で見つけた治
療法で頭痛が撃退できて、本当にホッとしたようでした。
Wさんは、もともと緊張型頭痛でしたが、途中で片頭痛を合併してきた方でした。ある
いは、もともと片頭痛があったものの、気づかなかっただけかもしれません。このように
ひとりの人に複数の頭痛が存在することは決して稀ではありません。逆に、片頭痛で治療
されている方に緊張型頭痛が合併してくることもあります。
片頭痛から緊張型頭痛を合併
Jさんのケース( 30 代
主婦
女性)
Jさんは、元来ひどい頭痛持ちでした。高校生の頃から片頭痛があり、テスト中であって
も頭痛がひどい時には休まざるをえませんでした。
主婦になり、二人のお子さんを育てるようになってからは少し落ち着いていましたが、
それでも時折片頭痛があるために、私の外来を受診していました。
ある日の外来で、Jさんは「先生、トリプタン製剤で頭痛が良くなる時とならない時が
あるんです」とおっしゃいました。詳しく話を聞いてみると、どうやら、緊張型頭痛が合
併してきているようです。二人のお子さんのお弁当づくりから、学校の行事のお世話、時
折いらっしゃるお姑さんのお話の相手など、非常に多忙になってきているのがわかりまし
た。そこで、寝る前に飲む軽い抗不安薬を処方してみました。また、緊張型頭痛の特徴を
よくお話し、そんな時は、トリプタン製剤よりも、一般的な解熱鎮痛薬を内服するように
説明しました。
-3-
別の頭痛が連結
しばらくしてJさんは、「先生からの薬で、まず、夜ぐっすり眠れるようになりました。
数回頭痛があったのですが、1回目は、根を詰めてミシンがけした後に、痛み止めの頭痛
薬を飲んだら良く効きました。2回目は、肩はこっていたものの、頭痛の感じから片頭痛
だと思い、トリプタン製剤を飲んで楽になりました。でも、まだ十分でなかったので、数
時間後に痛み止めを追加して飲んだらすっかり良くなりました。頭痛の違いを感じ分けら
れるようになったのと、薬のおかげで、お守りができたみたいです」と言ってくれました。
2回目の頭痛の場合、片頭痛から始まって、その後の尾をひいた頭痛が緊張型頭痛でし
た。このように、違うタイプの頭痛が連結して出てくることがあるのです。
自分の体を知る醍醐味
「片頭痛かな」と思い、トリプタン製剤を内服し、様子をみる。まだ頭痛の尾を引いて
いる時に鎮痛薬を飲んでみる。 あるいは、再度トリプタン製剤を追加するか・・
頭が締め付けられる痛みで、後頭部も重い。緊張型頭痛だと考えて解熱鎮痛薬を内服し
てみる。しかし、目の奥が痛くなり、吐き気もでてきた・・トリプタン製剤を内服するか?
この辺りは、それぞれの患者さんが、ご自身の経験に照らして、頭痛を感じ分けていた
だく必要があります。頭痛を患う方にとって、自分の体を知る醍醐味でもあるので、試し
てみて下さい。よくご説明すると、皆さんうまく薬を飲み分けているようです。
緊張型頭痛の皮をかぶり、見逃されている片頭痛
これまで、片頭痛の後に緊張型頭痛になったり、その逆の例などのお話を致しました。と
ころがこのように複数の頭痛があると診断されている方々はまだ幸運なのです。実は片頭
痛が緊張型頭痛だと言われて、見逃されてしまっていることがあります。緊張型頭痛の治
療が施されているので、なかなか良くなりません。これは、男性にもよく見受けられるも
ので、一例を紹介したいと思います。
-4-
先日都庁に勤められている 50
歳代の男性Sさんが外来に見えました。都庁内の診療所
でもらった解熱鎮痛薬があまり効かないので、心配でいらっしゃったのです。彼の頭痛は、
いつも肩から後頭部が痛くなるタイプでした。また、時々、後頭部がジワーッとすごく痛
くなることがありました。何となく目の奥が重たくなることもあるそうです。吐き気やめ
まい感はありませんでしたが、あまりに後頭部が重たく、鎮痛薬が効かない時は仕事を休
まざるを得ませんでした。
診察すると、脳や脊髄などの神経系には異常がないようです。大変に心配されていると
のことと、脳腫瘍も否定できなかったため、脳のMRIの予約をしました。その間に、外
用薬を試してもらいました。
次の外来でSさんと、MRIの結果を確認したのですが、全く異常は認められません。
外用薬もほとんど効果ありませんでした。Sさんは「脳に異常がないのはとってもうれし
いんだけれど、この痛みはなんとかなりませんかねえ」と悲しげな顔をしています。改め
て解熱鎮痛薬に加え筋弛緩剤と抗不安薬を組み合わせて処方したのですが、あまり効果が
ありませんでした。
時折、大変に痛くなる発作があることにひっかかりました。ちょうど前の週に、学会で
「肩こり」といわれる症状に片頭痛が隠れていることが次第に明らかになってきている、
と発表されたことを思い出しました。
そこで、イミグランを試してみることにしたのです。Sさんには、「いつも携帯していて
痛みが増して来たら、飲んでみてくださいね。飲んだら、日記に付けておいて下さい」と
伝えました。Sさんは、「本当に効きますかねえ」と半信半疑です。正直言って、私も自信
がありませんでした。
1カ月後の予約診療の時、Sさんは外来ブースに入るなり、「効きました。すごいです」
と話しながらイスに座られました。痛みの強くなってきた時に、その度に内服していたら、
ひどい頭痛の頻度が下がり、ジワーッとした痛みもなくなったそうです。ひどい痛みの頻
度が低下したというのは、痛みをきちんとコントロールすることで次の発作を抑えること
ができるというペインフリーの法則に従ったものでしょう。
Sさんの1件以降、私は、解熱鎮痛薬があまり効かない「緊張型頭痛」の患者さんに片
頭痛の薬剤を試すようになりました。その結果、片頭痛薬の効果があるケースをいくつも
見るようになったのです。
-5-
これは
頭痛
大和田
潔
から抜粋しました
-6-
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エーザイ 予防から治療まで見つかる Eisai.jp
頭痛の原因は様々であり、痛みの強さ、痛む部位、持続時間など、症状も人により異なります。中には、生命が
脅かされるような危険な頭痛もあり、また治療法も異なってくるので、そのタイプを鑑別することは非常に重要で
す。
頭痛の分類と診断は、国際頭痛分類第2版(ICHD-II)に則って行います。
頭痛は、他の疾患のない「一次性頭痛」と、他の疾患に起因する「二次性頭痛」の2つのタイプに分けられます。
頭痛患者のおよそ9割は一次性頭痛であり、二次性頭痛は1割程度であるといわれています。しかし、二次性頭痛
の原因の中には、くも膜下出血のような「見逃されると死につながる頭痛」が含まれているので、以下のような二次
性頭痛の特徴を念頭に置き、危険な頭痛を察知する必要があります。
二次性頭痛が疑われる症状 1)
1. 突然の頭痛
2. 今まで経験したことがない頭痛
3. いつもと様子の異なる頭痛
4. 頻度と程度が増していく頭痛
5. 50歳以降に初発の頭痛
6. 神経脱落症状を有する頭痛
7. がんや免疫不全の病態を有する患者の頭痛
8. 精神症状を有する患者の頭痛
9. 発熱・項部硬直・髄膜刺激症状を有する頭痛
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一次性頭痛 2)
1. 片頭痛
2. 緊張型頭痛
3. 群発頭痛およびその他の三叉神経・自律神経性頭痛
4. その他の一次性頭痛
二次性頭痛
2)
5. 頭頸部外傷による頭痛(例:外傷後頭蓋内血腫による頭痛)
6. 頭頸部血管障害による頭痛(例:くも膜下出血)
7. 非血管性頭蓋内疾患による頭痛(例:脳腫瘍)
8. 物質またはその離脱による頭痛(例:薬物乱用頭痛)
9. 感染症による頭痛(例:髄膜炎)
10. ホメオスターシスの障害による頭痛(例:高血圧)
11. 頭蓋骨、頸、眼、耳、鼻、副鼻腔、歯、口あるいはその他の顔面・頭蓋の構成組織の障害に起因する
頭痛あるいは顔面痛(例:顎関節症)
12. 精神疾患による頭痛(例:心身症)
頭部神経痛、中枢性・一次性顔面痛およびその他の頭痛
2)
13. 頭部神経痛および中枢性顔面痛(例:三叉神経痛)
14. その他の頭痛、頭部神経痛、中枢性あるいは原発性顔面痛
国際頭痛分類第2版(ICHD-Ⅱ)は、階層的な分類 ( hierarchical classification ) が採用されています(グルー
プ → タイプ → サブタイプ → サブフォーム)。通常の一般診療では、1桁(タイプ)または2桁(サブタイプ)までの診
断で可能ですが、専門診療、頭痛センター等の診療では3桁(サブフォーム)レベルまでの診断が推奨されていま
す。
2)
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参考文献
1)
日本頭痛学会
:P6 , I.頭痛一般 I-2 一次性頭痛と二次性頭痛はどう鑑別するか , 慢性頭痛の診
療ガイドライン , 医学書院 , 2006.
2)
:P2 , I.頭痛一般 I-1 頭痛はどのように分類し診断するか , 慢性頭痛の診療ガイド
日本頭痛学会
ライン , 医学書院 , 2006.
片頭痛
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エーザイ 予防から治療まで見つかる Eisai.jp
慢性頭痛の治療の中心となるのは、生活
支障度が高い片頭痛です。月に1回から数
回起こり、その痛みが1日中続くような頭痛
は、片頭痛かもしれません。
典型的な片頭痛は、頭の片側で、心臓が
脈打つようにズキンズキンと痛む拍動性の
頭痛発作を繰り返します。ただし、痛みは頭
の両側で起こることもありますし、ズキンズ
キンと脈打たないことも少なくありません。
また、緊張型頭痛と関連づけされる肩こり
も、実に75%の片頭痛患者に合併することがわかっており注意が必要です。
片頭痛は、吐き気、光や音、臭いに敏感になるなどの頭痛以外の症状を伴うのが特徴です。また、階段の昇り
降りなどの日常生活動作で痛みが増すため、発作時は明かりを落とした部屋でじっとしていたいという患者さんが
多くいます。
さらに、人によっては片頭痛が始まる前に「前触れ」を感じることがあります。前兆のある片頭痛患者は、目の前
が眩しくチカチカとして見えづらくなったり、ギザギザ模様の線が徐々に視界に現れたりする閃輝暗点を訴えます。
このような前兆を訴える患者さんは、片頭痛患者全体の1~2割といわれています。
片頭痛の分類は、国際頭痛分類第 2 版 (ICHD -Ⅱ)に準拠して行うように勧められています。
通常の一般診療では、「前兆のない片頭痛」と「前兆のある片頭痛」に分けるのが、主要な分類です。専門診
療、頭痛センター等の診療では、 3 桁(サブフォーム)レベルまでの診断が勧められます。
片頭痛の分類 1)
1. 片頭痛
1.1前兆のない片頭痛
1.2前兆のある片頭痛
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1.2.1
典型的前兆に片頭痛を伴うもの
1.2.2
典型的前兆に非片頭痛様の頭痛を伴うもの
1.2.3
典型的前兆のみで頭痛を伴わないもの
1.2.4
家族性片麻痺性片頭痛
1.2.5
孤発性片麻痺性片頭痛
1.2.6
脳底型片頭痛
1.3小児周期性症候群(片頭痛に移行することが多いもの)
1.3.1
周期性嘔吐症
1.3.2
腹部片頭痛
1.3.3
小児良性発作性めまい
1.4網膜片頭痛
1.5片頭痛の合併症
1.5.1
慢性片頭痛
1.5.2
片頭痛発作重積
1.5.3
遷延性前兆で脳梗塞を伴わないもの
1.5.4
片頭痛性脳梗塞
1.5.5
片頭痛により誘発される痙攣
1.6片頭痛の疑い
1.6.1
前兆のない片頭痛の疑い
1.6.2
前兆のある片頭痛の疑い
1.6.3
慢性片頭痛の疑い
前兆のない片頭痛の診断基準
1)
1.1 前兆のない片頭痛( Migraine without aura )
A. B ~ D を満たす頭痛発作が 5 回以上ある
B. 頭痛の持続時間は 4 ~ 72 時間(未治療もしくは治療が無効の場合)
C. 頭痛は以下の特徴の少なくとも 2 項目を満たす
1. 片側性
2. 拍動性
3. 中等度~重度の頭痛
4. 日常的な動作(歩行や階段昇降などの)により頭痛が増悪する、あるいは頭痛のために日常的
な動作を避ける
D. 頭痛発作中に少なくとも以下の 1 項目を満たす
1. 悪心または嘔吐(あるいはその両方)
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2. 光過敏および音過敏
E. その他の疾患によらない
前兆のある片頭痛の診断基準 1)
1.2.1 典型的前兆に片頭痛を伴うもの( Typical aura with migraine headache )
A. B ~ D を満たす頭痛発作が 2 回以上ある
B. 少なくとも以下の 1 項目を満たす前兆があるが,運動麻痺(脱力)は伴わない
1. 陽性徴候(例えばきらきらした光・点・線)および・または陰性徴候(視覚消失)を含む完全可逆
性の視覚症状
2. 陽性徴候(チクチク感)および・または陰性徴候(感覚鈍麻)を含む完全可逆性の感覚症状
3. 完全可逆性の失語性言語障害
C. 少なくとも以下の 2 項目を満たす
1. 同名性の視覚症状 または片側性の感覚症状(あるいはその両方)
2. 少なくとも 1 つの前兆は 5 分以上かけて徐々に進展するか、および・または異なる複数の前兆
が引き続き 5分以上かけて進展する
3. それぞれの前兆の持続時間は 5 分以上 60 分以内
D. 「前兆のない片頭痛」の診断基準B~Dを満たす頭痛が、前兆の出現中もしくは前兆後60分以内に
生じる
E. その他の疾患によらない
片頭痛治療の主体となるのは薬物療法です。急性期治療と予防療法では使用する薬物が異なります。片頭痛
急性期治療薬には、鎮痛薬、エルゴタミン製剤、制吐剤、トリプタン製剤等があり、これらの治療薬は、片頭痛の症
状や重症度に応じて使い分けられます。また同じトリプタン製剤であっても、その種類によって効果や用法用量に
違いがありますので、必要に応じて使い分けるようにします。 2)
参考文献
1)
日本頭痛学会
:P2-6 , 1.片頭痛 , 国際頭痛分類 第2版 新訂増補日本語版 , 医学書院 , 2006.
2)
日本頭痛学会
:P72 , II.片頭痛 2.急性期治療 , 慢性頭痛の診療ガイドライン , 医学書院 , 2006.
頭痛の分類
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緊張型頭痛
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エーザイ 予防から治療まで見つかる Eisai.jp
頭の両側がギュ-ッと締めつけられるような頭
痛が、数十分~数日間ダラダラと続く頭痛です。
片頭痛のように、前兆や悪心・嘔吐などの随伴症
状はなく、動いてもひどくはなりません。
緊張型頭痛は「ストレス頭痛」とも呼ばれ、精神
的・身体的ストレスが原因となる場合があります。
たとえば、緊張、不安、うつ、運動不足・うつむき
姿勢、あるいは口・顎部の機能異常が、緊張型頭
痛の発症に関係します。
一般集団における緊張型頭痛の生涯有病率は30~78%の範囲とされており、一次性頭痛の中で最も多いと考
えられています。日常生活が制限されるほどの影響は低いといえますが、慢性化すると難治で生活支障度も高く
なる場合があります。
緊張型頭痛と片頭痛は症状が似ていることが多いのですが、治療法が異なるため、分類・診断にはとくに注意
が必要です。
片頭痛と緊張型頭痛は、その重症度や吐き気・嘔吐、光・音過敏といった片頭痛の特徴の有無などからは鑑別
できない場合がしばしばあります。以下の国際頭痛分類第 2 版 (ICHD -Ⅱ)による分類・診断にしたがって、エビデ
ンスに基づいた診断を導き出してください。
緊張型頭痛の分類 1)
2. 緊張型頭痛
2.1 稀発反復性緊張型頭痛
2.1.1
頭蓋周囲の圧痛を伴う稀発反復性緊張型頭痛
2.1.2
頭蓋周囲の圧痛を伴わない稀発反復性緊張型頭痛
2.2 頻発反復性緊張型頭痛
2.2.1
頭蓋周囲の圧痛を伴う頻発反復性緊張型頭痛
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2.2.2
頭蓋周囲の圧痛を伴わない頻発反復性緊張型頭痛
2.3 慢性緊張型頭痛
2.3.1
頭蓋周囲の圧痛を伴う慢性緊張型頭痛
2.3.2
頭蓋周囲の圧痛を伴わない慢性緊張型頭痛
2.4 緊張型頭痛の疑い
2.4.1
稀発反復性緊張型頭痛の疑い
2.4.2
頻発反復性緊張型頭痛の疑い
2.4.3
慢性緊張型頭痛の疑い
主な緊張型頭痛の診断基準 1)
各緊張型頭痛は、主に頭痛の発症頻度で診断されます。
2.1 稀発反復性緊張型頭痛
A. 平均して1ヵ月に1日未満(年間12日未満)の頻度で発現する頭痛が10回以上あり、かつB~Dを満
たす
B. 頭痛は30分~7日間持続する
C. 頭痛は以下の特徴の少なくとも2項目を満たす
1. 両側性
2. 性状は圧迫感または締め付け感 ( 非拍動性 )
3. 強さは軽度~中等度
4. 歩行や階段の昇降のような日常的な動作により増悪しない
D. 以下の両方を満たす
1. 悪心や嘔吐はない(食欲不振を伴うことはある)
2. 光過敏や音過敏はあってもどちらか一方のみ
E. その他の疾患によらない
2.2 頻発反復性緊張型頭痛
A. 3ヵ月以上にわたり、平均して1ヵ月に1日以上、15日未満(年間12日以上180日未満)の頻度で発
現する頭痛が10回以上あり、かつB~Dを満たす
B. 2.1 稀発反復性緊張型頭痛に同じ
C. 2.1 稀発反復性緊張型頭痛に同じ
D. 2.1 稀発反復性緊張型頭痛に同じ
E. 2.1 稀発反復性緊張型頭痛に同じ
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2.3 慢性緊張型頭痛
A. 3ヵ月を超えて、平均して1ヵ月に15日以上(年間180日以上)の頻度で発現する頭痛で、かつB~D
を満たす
B. 頭痛は数時間持続するか、あるいは絶え間なく続くこともある
C. 2.1 稀発反復性緊張型頭痛に同じ
D. 以下の両方を満たす
1. 光過敏、音過敏、軽度の悪心はあってもいずれか1つのみ
2. 中程度~重度の悪心や嘔吐はどちらもない
E. 2.1 稀発反復性緊張型頭痛に同じ
緊張型頭痛は、精神的な緊張や、頭頸部の器質的な過度の筋緊張という2つの要因により起こりうる頭痛です。
治療には、筋肉の緊張緩和を目的とした治療とともに、精神的な病態を把握し、治療することが重要となります。過
度なストレスが原因となっていることも多いので、薬物療法、非薬物療法に加えて、一般心理療法などを行うことも
効果的です。
緊張型頭痛における薬物療法 2)
臨床的に最も多く使用され、効果も高いのは鎮痛薬および NSAIDsです。処方箋薬、OTCともに比較的入手し
やすいため、長期連用による薬物乱用頭痛や胃腸障害への注意が必要です。
また、頭頸部や肩の筋肉の緊張をやわらげる筋弛緩薬や、不安やストレスを取り除く抗不安薬が用いられること
もあります。
1.鎮痛薬および NSAIDs
• アスピリン 500 ~ 1000mg
• アセトアミノフェン 500mg
• イブプロフェン 200mg
2.筋弛緩薬
• エペリゾン 150mg/ 日
3.抗不安薬
• ジアゼパム 2 ~ 5mg
• エチゾラム 0.5 ~ 1mg
4.抗うつ薬
• アミトリプチリン 10 ~ 25mg
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緊張型頭痛における非薬物療法
3)
緊張型頭痛では、頭や首、肩の筋肉の緊張した状態が長く続くことによる血流の悪化が関係しています。そのた
め、薬物療法とともに非薬物療法を行い、痛みの発生原因を取り除くことも重要です。
1.頭痛体操
慢性頭痛の診断ガイドライン
でもグレードBに位置づけられ推奨されています。副作用が少なく、コスト
がほとんどかかりません。背中や首、上半身を主に動かし、筋緊張を取り除きます。
2.頸部指圧
3.鍼灸
4.入浴
温めることで筋肉中の血流量が増加し痛みが緩和されます。
5.バイオフィードバック(認知行動療法)
バイオフィードバックとは、自分では気がついていない体の情報(筋肉の緊張など)を、機械等を使って知
覚できるようにし、体の機能をコントロールできるようにしていく心理療法です。催眠療法も同じ心理療法
で、暗示にかかりやすい催眠時に体をコントロールできるようにしていきます。
参考文献
1)
日本頭痛学会
:P18-22 , 2.緊張型頭痛 , 国際頭痛分類 第2版 新訂増補日本語版 , 医学書院 ,
2006.
2)
:P141 , III 緊張型頭痛 III-6 緊張型頭痛の急性期(頭痛時,頓服)治療にはどのよ
日本頭痛学会
うな種類がありどの程度有効か またどのように使い分けるか , 慢性頭痛の診療ガイドライン , 医学書
院 , 2006.
3)
日本頭痛学会
:P145 , III 緊張型頭痛 III-8 緊張型頭痛の治療法で薬物療法以外にどのようなも
のがあるか , 慢性頭痛の診療ガイドライン , 医学書院 , 2006.
片頭痛
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群発頭痛
2011/06/09
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群発頭痛|頭痛の分類|頭痛の基礎知識|片頭痛治療剤マクサルト| 製品情報... Page 1 of 3
エーザイ 予防から治療まで見つかる Eisai.jp
群発頭痛は、眼窩(がんか)周辺から側頭部に
かけて、短時間のキリキリと突き刺すような激しい
痛みが起こります。数週から数ヵ月の群発期間
中、毎日出現する頭痛で、夜間・睡眠時等の決ま
った時間に頭痛発作が起こりやすいのが特徴で
す。 頭痛は一側性で、頭痛と同側の眼球結膜充
血、流涙、鼻汁、鼻閉等の自律神経症状を伴いま
す。
眼の後ろ側を通っている内頸動脈が拡張して
炎症を引き起こすため、目の奥が痛むことが多い
といわれています。
群発頭痛の有病率は、0.056%~0.4%程度(1000人に1人程度)と報告されています。20~40歳代の男性に発
症することが多く、男性における有病率は女性の3~7倍です。
飲酒が発作を誘発することが多いため、発作期間中は禁酒するよう指導が必要です。
群発頭痛は、片頭痛よりもさらに激烈な非拍動性の痛みを呈します。その痛みは「ドリルで目の奥をえぐられる
よう」と表現されるほどで、発作時は痛みのためにじっとしていることができず、頭部を叩いたり、壁や柱に頭を打ち
つけたり、頭を抱えて部屋中を動き回ります。QOLの低下は片頭痛よりもさらに深刻です。
他の頭痛との鑑別は容易ですが、三叉神経痛とは症状が類似しています。発作持続時間は群発頭痛が1~2
時間であるのに対し、三叉神経痛の痛みは続いても数秒と異なるため鑑別は可能です。
群発頭痛の分類 1)
患者さんの約 10~15% は寛解期のない慢性群発頭痛とされています。
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3・1群発頭痛
3・1・1 反復性群発頭痛
群発頭痛発作が7日~1年間続く群発期があり、群発期と群発期の間には1ヶ月以上の寛解期(頭痛の
ない時期)がある
3・1・2 慢性群発頭痛
群発頭痛発作が1年間を超えて発現し、寛解期がないか、またはあっても1ヶ月未満である
群発頭痛の診断基準 1)
3・1群発頭痛
A. B ~ D をみたす発作が 5 回以上ある
B. 未治療で一側性の重度~極めて重度の頭痛が,眼窩部,眼窩上部または側頭部のいずれか1つ以
上の部位に,15 ~ 180 分間持続する
C. 頭痛と同側に少なくとも以下の 1 項目を伴う
1. 結膜充血または流涙(あるいはその両方)
2. 鼻閉または鼻漏(あるいはその両方)
3. 眼瞼浮腫
4. 前頭部および顔面の発汗
5. 縮瞳または眼瞼下垂(あるいはその両方)
6. 落ち着きがない,あるいは興奮した様子
D. 発作頻度は 1 回 /2 日~ 8 回 /1 日である
E. その他の疾患によらない
急性期(発作期)治療薬 2)
群発頭痛は持続時間が1~2時間の場合が多いため、効果が早く現われる治療が中心となります。随伴症状で
ある結膜充血や流涙、鼻汁などは鎮痛とともに次第に改善されます。
急性期(発作期)治療薬としては、唯一保険適応のあるスマトリプタン皮下注射が推奨されており、2008年4月
からは日本でも自己注射が認められています。また、酸素吸入(毎分7リットル以上)も有効とされています。
予防療法 3)
カルシウム拮抗薬(ベラパミル 360mg/ 日)は、プラセボ対照ランダム化二重盲検試験で効果が確認されていま
すが、 心伝導遅延作用による徐脈や心不全の合併が問題となっています。(※保険適用外)
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薬物療法以外の療法 3)
薬物療法の無効例では、痛みの伝達を遮断する神経ブロック療法(三叉神経ブロック、星状神経節ブロック、翼
口蓋神経節ブロック、大後頭神経ブロック)、三叉神経根切除、翼口蓋神経節切除が行われることがあります。ガ
ンマナイフ治療(放射線ビームを神経に照射する)、脳深部刺激療法(磁気的刺激を与える)も行われていますが、
効果は確立されていません。
参考文献
1)
日本頭痛学会
:P26-28 , 3.群発頭痛およびその他の三叉神経・自律神経性頭痛 , 国際頭痛分
類 第2版 新訂増補日本語版 , 医学書院 , 2006.
2)
:P158 , IV 群発頭痛 IV-5 群発頭痛急性期(発作期)治療薬にはどのような種類が
日本頭痛学会
ありどの程度の有効性か , 慢性頭痛の診療ガイドライン , 医学書院 , 2006.
3)
:P160 , IV 群発頭痛 IV-6 群発頭痛発作期の予防療法にはどのような薬剤があり
日本頭痛学会
どの程度有効か , 慢性頭痛の診療ガイドライン , 医学書院 , 2006.
緊張型頭痛
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頭痛の疫学
2011/06/09
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エーザイ 予防から治療まで見つかる Eisai.jp
わたしたちの国の頭痛の年齢分布や性別による有病率、症状の程度は、どのようになっているのでしょうか。
日本人を対象とした片頭痛の大規模な疫学調査は、過去に2回行われています。1990年の国勢調査による人
口分布に、性別、年代、地域が一致した住民4,029例を抽出したSakai , Igarashi の調査と、鳥取県大山町の18歳
以上の住民5758名に対する調査をしたTakeshima らのものです。二つの調査では、ほぼ同様の結果が示されま
した。
ここでは、Sakai , Igarashi の調査報告をもとに、日本の片頭痛の実態を見ていきます。片頭痛の疫学を知るこ
とで、正しい診断を行うための一助としてください。
国際頭痛分類(ICHD-II)の診断に基づいて実施された、Sakai , Igarashi による大規模調査の結果についてご
紹介します。1)
対象:
方法:
日本全国から無作為に抽出した15歳以上の住民4,029名
全国(沖縄を除く)の電話帳から無作為に38,779件に電話をかけ、1990年の国勢調査による人口分布に
性別、年代、地域が一致した4,029件を抽出
有病率
Sakai , Igarashi による調査では、国際頭痛学会(IHS)の診断基準をすべて満たす片頭痛の有病率は6.0%、
片頭痛と考えられながら、1項目のみ満たしていないもの(疑診例)を含むと8.4%、日本の人口を約1.3億人とする
と実に1千万人以上の日本人が片頭痛を発症しているということが分かりました(図1参照)。
また、緊張型頭痛の有病率を見ると、緊張型頭痛の15.6%に疑診例の6.8%を含めた22.4%のうち、日常生活
への支障度が少ない「反復発作性緊張型頭痛」の有病率は20.6%、支障度、受診率ともに高い「慢性緊張型頭
痛」は1.6%の有病率であるという報告がなされています。 群発頭痛の有病率は不明で、報告によりばらつきがあ
るものの、人口10万人あたり56~401人という統計が出ています。
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男女差
性別に片頭痛の有病率を見てみると、全体の8.4%に対して、男性が3.6%、女性が12.9%で、女性が男性の
3.6倍もの有病率であることを示しています。緊張型頭痛の有病率も男性18.1%に対して女性26.4%と女性が男
性に対して有病率が高い傾向にあることが分かります。これに対して群発頭痛の男女比は、5:1~6.7:1で、男性
に多いことがわかっています。
年代
年代別では、片頭痛、緊張型頭痛とも男性は20~30歳代、女性は30~40歳代の有病率が高く、就労年齢層の
割合が多い傾向があります(図2参照)。群発頭痛についても、発症年齢は20~40歳代が多いといわれています。
病型別
片頭痛のタイプ別に有病率を見てみると、前兆のない片頭痛は男性が2.1%、女性が9.3%、前兆のある片頭痛
は男性1.4%、女性3.6%という調査結果が出ており、前兆のない片頭痛が女性に多く見られることが分かります。
前兆のない片頭痛は月経との関連も指摘されており、女性ホルモンの影響も考えられています。
図1:慢性・反復性頭痛の有病率1)
図2:性別・年齢層別 片頭痛有病率1)
発作頻度
Sakai , Igarashiによる片頭痛の発作頻度の調査では、1ヵ月の発作回数は平均2.1~3.1回、1回の発作での
持続時間は、9.3~7.9時間であるという結果が報告されています。片頭痛が日常生活に及ぼす影響を見ると、「い
つも寝込む」4%、「ときどき寝込む」30%、「寝込まないが支障大」40%と、実に74%が日常生活に影響を受けて
います。とくに女性は男性に比べて、支障の度合いが大きいという結果も出ています。
誘発因子
片頭痛の誘発因子としては、「睡眠不足」71.1%、「頸・肩の凝り」67.1%、「旅行・外出」65.3%、「過労」52.9%、
「目の疲れ」44.5%、「緊張」43.6%、「睡眠過多」27.6%などが挙げられました。また、チョコレートや赤ワインなど
の特定の食品により頭痛が誘発されたとする人は極めて少数でした。
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片頭痛の有病率を地域別に見ると、日本の8.4%に比べ、欧米は10~15%と高いことが分かります。その要因
としては、人種差、地域差(緯度や気温差など)、生活習慣(食事、飲酒、喫煙、睡眠など)の違いがあるのではな
いかと推察されています。
頭痛には明確な診断基準があるとはいえ、その診断は患者さんの自己申告、記憶再生といった主観的訴えに
頼る割合が高いため、診断基準の解釈の違いが起こりうるという指摘もあります。例えば、Sakai, Igarashiの日本
での調査では、中程度の頭痛を持つにも関わらず頭痛を我慢しながら仕事や学業、家事、個人的な付き合いなど
の日常生活を過ごす割合が64%、欠勤や休業など、社会生活に支障をきたした割合は32%に過ぎないことが分
かりました。これに対し、デンマークの調査では、片頭痛を持つ被雇用者の43%が過去1年間に頭痛が原因で1日
以上仕事を休んでいたという報告があります1)。
表1:IHS診断基準による片頭痛有病率の国別比較 2)~18)
報告者
調査実施国
対象年齢 対象期間
有病率(%)
男性
欧
1年間
5.9
15.3
10.4
8
25
16
20~
1年間
8
16
12
スウェーデン
18~74
1年間
9.5
16.7
13.2
Henry, et al.(1999)
フランス
15~
1年間
6.1
17.6
12.1
Gobel, et al.(1994)
ドイツ
18~
生涯
22
32
27.5
Launer, et al.(1999)
オランダ
20~65
7.5
13.3
25
Stewart, et al.(1992)
アメリカ
12~80
6
17.7
12.2
―
―
―
8.6
20.4
―
7.2
16.2
―
4.2
9.2
―
6
17.2
―
6
18.2
―
6.6
14.9
―
4.3
6.9
―
デンマーク
25~64
Hagen, et al.(2000)
ノルウェー
Dahlof,et al.(2001)
白人
Stewart, et al.(1996)
1年間
生涯
1年間
黒人
18~65
1年間
アジア人
アメリカ
白人
Lipton, et al.(2002)
非白人
18~65
1年間
不明
亜
全体
生涯
Rasmussen,et al.(1991)
アメリカ
米
女性
33
―
Pryse-Phillips, et al.(1992)
カナダ
15~
生涯
10
23
16.5
O'Brien, et al.(1994)
カナダ(ケベック)
18~
1年間
7.4
21.9
15
Lavados, et al.(1997)
チリ
15~
1年間
2
11.9
7.3
Sanvito, et al.(1996)
ブラジル
1年間
11.3
21.8
16.1
Jaillard, et al.(1997)
ペルー
1年間
2.3
7.8
5.3
Alders, et al.(1996)
マレーシア
1年間
―
―
9
Cheung(2000)
香港
1年間
―
―
12.5
16~
15~
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Wang, et al.(2000)
台湾(台北)
15~
1年間
4.5
14.4
9.1
Roh JK et al.(1998)
韓国
15~
1年間
20.2
24.3
22.3
Sakai & Igarashi(1997)
日本
15~
1年間
3.6
12.9
8.4
Page 4 of 5
同じくSakai, Igarashiの調査によると、片頭痛患者の
医療機関の受診率は、定期的に受診している2.7%、とき
どき通院する12.3%、過去に通院したことがある15.6%。
これらを足しても、片頭痛で受診したことがあるのは
30.6%で、69.4%は一度も医療機関を受診したことがな
いことが分かりました1)。
諸外国での受診率は24~65%で、そのうち片頭痛と診
断されるのは20~50%程度と報告されています。アメリカ
の報告では10)、片頭痛をもつ人の69%は受診歴があり
図3:日本での片頭痛患者の医療機関受診率1)
ます。女性だけを見ると73%で、男性49%と比べるとかなり高率であることがわかります。また、頭痛をもつ人のう
ちで、1度も受診したことのない人は31%で、その理由は、「不都合」(55%)、「有効な治療法がある」(47%)、など
でした。さらに、過去に受診したことはあるが現在は受診していない人は21%で、理由は、「頭痛の強度や頻度の
減少」(56%)、「有効な治療法あり」(43%)、「医師ができることがないと感じる」(41%)などでした。
薬剤使用率を見ると、全体を平均して56.8%が市販薬
のみで対処しています。医師の処方薬のみを使用してい
る人は5.4%、市販薬と医師の処方薬の両方を使用して
いる人は18.6%で、薬を使用していない人は19.2%でし
た。アメリカの報告では10)、49%が市販薬のみ、23%が
医師の処方薬のみ、23%が市販薬と医師の処方薬の両
方を使用し、薬を使用していない人は5%のみであること
が分かりました。
これらのデータから、日本人は諸外国に比べ、片頭痛
図4:日本での薬剤使用率1)
に対する病識が乏しいと推察されます。適切な診断、治
療により、頭痛はコントロールできる疾患であることを広く普及させる必要があります。
参考文献
1)
Sakai F,Igarashi H.Prevalence of migraine in Japan : a nationwide survey. Cephalalgia. 1997 ;
17 : 15-22.
2)
Rasmussen BK, et al:Epidemiology of headache in a general population : aprevalence study.J
Clin Epidemiol 44 : 1147-1157,1991,
3)
Hagen K,Zwart JA, Vatten L, et al : Prevalence of migraine and non-nugraubiys headache-head
-HUNT, a large population-based study. Cephalalgia 20 : 900-906,2000.
4)
http://www.eisai.jp/medical/products/maxalt/guidance/epi.html
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頭痛の疫学|頭痛の基礎知識|片頭痛治療剤マクサルト| 製品情報 | エーザイ...
Page 5 of 5
Dahlof C , Linde M : One-year prevalence of migraine in Sweden : a population-based Study in
adults. Cephalalgia 21 : 664-671 , 2001.
5)
Henry P, Michel P,Brochet B, et al : A nationwide survey of migraine in France : prevalence of
migranie headache in adult. Cephalalgia 12 : 229-237 , 1992.
6)
Gobel H, Petersen-Braun M, Soyka D : The epidemiology of headache in Germany : a
nationwide survey of headache classification of the international Headache Society.
Cephalalgia 14 : 97-106 , 1994.
7)
Launer LJ, Terwindt GM , Ferrari MD : The prevalence and characteristics of migraine in a
population-based cohort The GEM study. Neurology 53 : 537-542,1999.
8)
Stewart WF, Lipton RB, Celentano DD, et al : Prevalence of migraine headache in the United
States. JAMA 267 : 64-69, 1992.
9)
Stewart WF, Lipton RB, Liberman J : Variation in migraine prevalence by race. Neurology 47 :
52-59, 1996.
10) Lipton RB, Scher AI, Kolodner K, et al : Migraine in the United States. Epidemiology and
patterns of health care use. Neurology 58 : 885-894,2002.
11) Pryse-Phillips W, Findlay H, Tugwell P, et al : A Canadian population survey on the clinical,
epidemiologic and societal impact of migraine and tension-type headache. Can J Neurol Sci
19 : 333-339, 1992.
12) O'Brien B, Goeree R, Streiner D : Prevalence of migraine headache in Canada : a populationbased survey. Int J Epidemiol 23 : 1020-1026, 1994.
13) Lavados PM, Tenhamm E : Epidemiology of migraine headache in Santiago, Chile : a
prevalence study. Cephalalgia 17 770-777, 1997.
14) Jaillard AS, Mazetti P, Kala E : Prevalence of migraine and headache in a high-altitudo town of
Peru : a population-based study. Headache 37 : 95-101, 1997.
15) Alders ES, Hentzen A, Tan CT : A community-based prevalence study on headache in
Malaysia. Headache 36 : 379-384, 1996.
16) Cheung RT : Prevalence of migraine, tention-type headache, and other headaches in Hong
Kong. Headache 40 : 473-479, 2000.
17) Wang SJ, Fuh JL, Young YH, et al : Prevalence of migraine in Taipei, Taiwan : a populationbased survey. Cephalalgia 20 : 566-572, 2000.
18) Roh JK, Kim JS, Ahn YO : Epidemiologic and clinical characteristics of migraine and tensiontype headache in Korea. Headache 38 : 354-365, 1998.
群発頭痛
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社会への影響
2011/06/09
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世界保健機構(WHO)の2001年のレポートでは、片頭痛は「仕事や日常生活に支障を来たす疾患」の第19位に
位置づけられています。また、女性に限定すれば、さらに上位の第12位となっています。
このように、世界的に見ても"ありふれた疾患"といえる片頭痛ですが、その一方で健康寿命を平均2~3年縮め
るともいわれています。
一次性頭痛の中でも、片頭痛は日常生活
の支障や影響が大きいとされています。片頭
痛が日常生活に及ぼす影響に関する調査1)
では、「頻繁に寝たきり」34%、「寝込まないが
支障大」40%、「日常生活の支障は軽度ある
いはなし」26%と、74%が頭痛により著しく
QOLが低下していることが明らかになってい
ます。
図1:片頭痛重症度1)
一方で、「片頭痛のために仕事や社交を休
むか」という問いに対しては、68%が「仕事や
社会生活を犠牲にすることはない」と答えてい
ます。
この双方の調査結果を見ると、頭痛の強さ
と社会活動への影響は必ずしも相対していま
せん。この事実より「寝込みたいのをがまんし
て、仕事や社交を行っている」という片頭痛患
図2:社会的支障度1)
者の現状が垣間見られます。これは、働き盛りの世代が多い片頭痛患者個人のQOL低下のみならず、仕事の能
率や生産性にもかなりの影響を及ぼしていることを示しています。
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このように、片頭痛は、患者個人の生活支障度が高い疾患であることがわかりますが、社会に与える影響も少
なくありません。
たとえば、米国の報告では、5~17歳の学業期にあたる100万人のうち、反復する頭痛によって、1ヵ月あたりに
30万日を越える通学日を無駄にしているという報告があります2)。小児が度重なる頭痛によって登校拒否に陥るこ
ともあれば、成人では頭痛によって仕事を解雇されたり、抑うつ症状を併発することもあります。
頭痛による社会への経済的損失を計るためには、直接費用と間接費用に分けて考える必要があります。
直接的経済的損失(直接損失)で代表的なものは医療費です。片頭痛治療にかかる医療費は、片頭痛患者とそ
うでない人を同世代で比較すると、患者は1.4~1.8倍も多くかかると報告されています3)4)。
間接的経済的損失のほとんどは、仕事の能率低下によるものです。1992年の米国の試算によると、片頭痛に
よって仕事の生産性が低下したための経済的損失は、年間2088~4128米ドルであったとしています。また、片頭
痛発作のために、全米中の片頭痛患者が活動を制限される日数は、1ヵ月あたり570万日にものぼると報告されて
います。別の同年の調査では、片頭痛による欠勤、仕事の能率低下などにより、年間130億米ドル(当時で約1兆
5000万円)になると算出しています5)。
片頭痛は、患者個人にはもちろん、社会に対しても直接的・間接的に多大な不利益を与えていることを踏まえ、
医療の経済性や社会性がさらに問われることを認識しておきたいものです。
参考文献
1)
坂井文彦. 頭痛の疫学と医療経済学. 神経研究の進歩. 2002 ; 46 : 343-9.
2)
Osterhaus JT, et al. Health care resorce and lost labour costs of migraine headache in the US.
Pharmacoeconomics. 1992 ; 2 : 67-76
3)
Stang PE,et al. Migraine patterns of health care utilization. Neurology. 1994 ; 44 suppl 4 : S 4755.
4)
de Lissovoy G, et al. The economic cost of migraine : present state of Knowledge. Neurology .
1994 ; 44 suppl 4 : S56-62.
5)
Hu XH,et al. Burden of migraine in the United States : disability and economic costs. Arch
Intern Med. 1999 ; 159 : 813-8.
頭痛の疫学
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片頭痛の病態と誘発因子
2011/06/09
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片頭痛の病態と誘発因子|頭痛の基礎知識|片頭痛治療剤マクサルト| 製品情... Page 1 of 4
エーザイ 予防から治療まで見つかる Eisai.jp
片頭痛の症状については『頭痛の分類:片頭痛』にあるとおりですが、診断基準を十分に満たす患者さんばかり
ではありません。典型的な「頭の片側でズキンズキンと痛む拍動性頭痛」であるとは限らないのです。緊張型頭痛
に多いと考えられていた随伴症状の一つ、肩凝りを有する片頭痛患者は、実に75%にのぼるとの報告があり、肩
凝り=緊張型頭痛と安易に決め付けることはできません。また、片側だけでなく両側性の頭痛が40%、非拍動性
が50%、ストレスによる誘発(緊張型頭痛に多いとされる)が72%もあるといいます。診断の際には、丁寧な問診
が必須となります。
片頭痛の診断でポイントとなるのは、頭痛が数日から数週間の間を置いて現れる発作性で、家事や階段昇降な
どの日常生活動作で痛みが増強する、悪心(吐き気)・嘔吐を伴う、光過敏・音過敏があるかどうか等の点です。
これらの点に注意しながら、問診を行いましょう。
片頭痛の病態生理はいまだに解明されてはいません
が、病態仮説として最も有力なのが、「三叉神経血管説」で
す。何らかの刺激で頭蓋内血管に分布する神経終末が刺
激されると、血管作動性物質が放出され、血管が拡張し、
無菌性の炎症が引き起こされ、炎症反応が次々に血管を
広がっていきます。この刺激による興奮が脳に伝えられて
悪心・嘔吐などの随伴症状や頭痛を引き起こすと考えられ
ています。神経ペプチドの中でもとりわけ、セロトニンやそ
の受容体、特に脳血管に多く分布する 5-HT 1B/1D 受容
体に関連したものや、血管拡張性物質である calcitonin
generelated peptide(CGRP) が密接に関与している可能
性が強いとされています。
片頭痛治療薬のトリプタン製剤は、セロトニン1B受容体
図1:片頭痛機序「三叉神経血管説」
に作用し、拡張した血管を収縮させます。さらにセロトニン
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片頭痛の病態と誘発因子|頭痛の基礎知識|片頭痛治療剤マクサルト| 製品情... Page 2 of 4
1D受容体に作用して、血管拡張性の神経ペプチドの放出を抑制することにより、片頭痛の症状を消失させます。
片頭痛の誘発因子としては、下記のものがあります。1)
[精神的因子]
ストレス、精神的緊張、疲れ、睡眠不足、睡眠過多
[内因性因子]
月経周期
[環境因子]
天候の変化、温度差、気圧、人ごみ
[食事性因子]
アルコール、他の食品群
片頭痛患者の中には、特定の状況下で発作が起こりやすいことを認識している人も多く見受けられます。そのよ
うな誘発因子を除去することは、片頭痛の予防につながることから、発作が起こる直前の状態を聴取することは有
用です。また、女性の片頭痛患者の多くに、月経と頭痛との関係が推定されます。睡眠は不足でも過多でも、片頭
痛の誘因となりえますし、天候の変化でもたらされる片頭痛は、気圧の変化が関係していると考えられています。
頭痛の誘因となる食品
頭痛の誘因となる食品は数多くありますが、それらの食品中に含まれる物質が、血管作動作用をもたらすため
に起こります。 血管作動作用には、血管拡張作用と血管収縮作用があり、どちらも片頭痛発作の誘因となりえま
す。
血管拡張作用を有する食品・物質
• アルコール飲料、特に赤ワイン(ヒスタミン様物質、アルコール、ポリフェノール)
• ベーコン、ソーセージ(亜硝酸化合物)
• アスパルテーム(甘味料)
血管収縮作用を有する食品・物質
• チョコレート、ココア(チラミン、ポリフェノール、カフェイン)
• チーズ、柑橘果物(チラミン)
• スナック菓子、うまみ調味料など(グルタミン酸ナトリウム)
• コーヒー、紅茶、緑茶など(カフェイン)
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片頭痛の病態と誘発因子|頭痛の基礎知識|片頭痛治療剤マクサルト| 製品情... Page 3 of 4
片頭痛の誘発因子となる食品の代表的なものは赤ワイン、チョコレート、チーズ等です。これらの食品に共通す
る片頭痛誘発物質は、チラミンなどのアミンです2)。また、中華料理に多量に含まれるうまみ調味料の成分、グル
タミン酸ナトリウムによって頭痛が誘発されることも多く、「チャイニーズレストランシンドローム」と呼ばれています。
飲酒も片頭痛の有力な誘発因子となりますが、それ以外の飲食物が片頭痛の誘発因子となるかどうかは疑問の
多いところです。患者さんが個人的に誘因と考えている飲食物以外については、あまり神経質になる必要はありま
せん。バランスの良い食生活を心がけることが大切です。
アレルギーと頭痛発作
アレルギーとの関連は明らかではありませんが、気管支喘息や、シックハウス症候群に関連した、揮発性有機
化合物の過敏症による片頭痛発作の報告があります3)。また、アレルギー性鼻炎の憎悪時に片頭痛が激しくなる
場合もあります。
ホルモンと頭痛発作
月経前には女性ホルモン(エストロゲン)の血中濃度が下がってきます。このことが引き金となって片頭痛発作
が起こると考えられています。月経のときに起こる片頭痛は、それ以外の時期に起こるものと比べて痛みが強く、
持続時間も長いため、薬が効きにくい傾向にあります。
睡眠と天候
頭痛と天候・気候は密接な関係があり、明るさや自律神経機能とも関係が深いと考えられています。明るい、日
差しの強い時期(春~秋)には、片頭痛が多い傾向があるとの報告があります4)。特に前兆のある患者さんには、
発作のない時期にも光過敏が認められ、サングラスを必要としたり、また、低気圧の気象後に頭痛発作が多い傾
向も認められています5)。
参考文献
1)
日本頭痛学会
:P65 , II片頭痛 II-1-5 片頭痛の誘発因子としてどんなものがあるか , 慢性頭痛の
診療ガイドライン , 医学書院 , 2006.
2)
Blumential, H.J. and Vance, D. A. : Headache, 37 : 665-666, 1997.
3)
渡邊美砂, 向山徳子 : アレルギー・免疫, 7 : 1364-1371, 2000.
4)
Alstadhaug, K. B. et al. : Cephalalgia, 25 : 811-816, 2005.
5)
星野綾美・他 : 日本温泉気候物理医学界雑誌, 68 : 150-154, 2005.
社会への影響
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アロディニア(異痛症)
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エーザイ 予防から治療まで見つかる Eisai.jp
片頭痛によって脳が過敏になり、本来は痛くない刺激を痛みと感じるアロディニア(異痛症)が、トリプタン治療効
果との関連で注目されています。
片頭痛患者が示す症状の中には、顔に風が当たると痛い、メガネやイヤリングが不快、髪を結んでいるのがつ
らい、くしやブラシが痛くて使えないといったものがありますが、これらは頭部アロディニアと呼ばれています。さら
に脳が過敏になると、頭部だけではなく、手足のしびれや腕時計、ベルトが不快になることもあり、これらは頭蓋外
アロディニアに分類されます。
アロディニアは、患者自身が訴えることは少ないため、丁寧な問診での聞き取りが必要です。
頭部アロディニア
頭蓋外アロディニア
顔に風が当たると痛い
手足のしびれ感
髪の毛がピリピリする
ピリピリ感
髪の毛を結んでいるのが辛い
腕時計が不快
ブラシやくしが痛くて使えない
ベルトがきつい
眼鏡、イヤリングが不快
布団や毛布が体に触れると不快
痛い側が枕に当たると寝ていられない
片頭痛は、血管の拡張と炎症が脳幹部の三叉神経
に伝わることで起こる頭痛といわれています。
顔の知覚を脳に伝える三叉神経が片頭痛によって
刺激されると、顔や頭皮など頭部の末梢が過敏に知覚
して頭部アロディニアが起こります。この末梢感作を通
過して、片頭痛の情報が視床(中枢神経)に到達する
と、感覚神経の痛覚需要の領域が拡大し、頭痛側と反
対側の上肢を中心とした違和感が生じてきます。これ
が頭蓋外アロディニアです。
図1:アロディニア発生のしくみ1)
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片頭痛患者の約7割に認められるというアロディニアで
すが、アロディニアが形成されると、トリプタン製剤は効き
にくくなると言われています。
Bursteinによる報告1)では、アロディニアの有無でトリプ
タン服薬2時間後の頭痛消失率を比べたところ、アロディ
ニアがない患者では93%と極めて高い頭痛消失率が認め
られました。一方で、アロディニアのある患者の頭痛消失
率は15%であり、顕著な差が認められました。
片頭痛発症20分以内にはアロディニアの出現はないと
されているため、アロディニア発現前の早期の段階でトリプ
図2:服薬2時間後の頭痛消失率1)
タン製剤を服用することが勧められます。アロディニアがあ
る患者においては、服薬タイミングの指導の徹底が重要で
す。
詳しくは「マクサルトによる片頭痛の早期治療」をご覧ください。
参考文献
1)
Burstein, R., Collins, B., Jakubowski, M. : Defeating migraine pain with triptans : a race againt
the development of cutaneous allodynia. Ann Neurol., 55, 19-26, 2004.
片頭痛の病態と誘発因子
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片頭痛の治療
2011/06/09
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エーザイ 予防から治療まで見つかる Eisai.jp
片頭痛の治療では、医師や薬剤師などの医療従事者と患者さんの二人三脚で、患者さんの生活の質(QOL)の
向上を目指すことが重要です。また、片頭痛患者の症状は多様で、ふさわしい治療方法もさまざまであることから
患者さん一人ひとりの症状に合わせたオーダーメード治療の構築が求められています。
医師のリードによる丁寧な問診、正確な診断がなされた後、適切な薬剤を選択します。片頭痛の状態を患者さ
んと医療従事者の双方が理解し、さらに有益な情報を得るために、頭痛ダイアリーなどを使って詳しく診ていきま
す。情報の共有を行うことで患者さんにも服薬のタイミングや誘発因子の排除をしっかり理解してもらえるようにな
ります。 お互いの協力体制を確立するためにも、医療従事者は、患者さんが頭痛治療に対する意識を高く持つよ
う指導していく必要があります。
急性期治療
1)
片頭痛急性期治療薬には、一般的には
1. アセトアミノフェン
2. 非ステロイド系抗炎症薬 (NSAID s )
3. エルゴタミン製剤
4. トリプタン製剤
5. 制吐薬
があり、片頭痛の重症度に応じて治療薬を選択することが求められます。
軽度~中等度の頭痛にはアスピリン、ナプロキセンなどの NSAIDs 、中等度~重度の頭痛、または軽度~中等
度の頭痛でも、過去に NSAIDs の効果がなかった場合には、トリプタン製剤が推奨されます。
いずれの場合も、制吐薬の併用は有用です。
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エルゴタミン+カフェインの経口薬は、発作回数が少なく発作早期使用で満足な効果が得られている患者さん
や、トリプタン製剤で頭痛の再燃が多い患者さんでは使用されることがあります。
また、急性期治療薬は3ヵ月を超えて連日のように服用すると薬物乱用頭痛をきたす可能性があるので、注意
が必要です。
詳しくは「発作時の薬物療法」をご覧ください。
予防療法 2)
片頭痛発作が月に2回以上ある患者さんには、予防療法を検討することが勧められます。急性期治療のみでは
片頭痛による日常生活の支障が残る場合、急性期治療薬が使用できない場合、永続的な神経障害をきたすおそ
れのある特殊な片頭痛の場合には、予防療法を行うよう勧められます。
予防薬には、次のような薬剤が使用されます。
• β遮断薬(プロプラノロールなど)
高血圧や冠動脈疾患、頻拍性不整脈などの合併症をもつ片頭痛患者に特に勧められます。逆に心不全や喘
息、抑うつ状態の場合は使用を避けます(推奨グレードA、※保険適用外)。日本ではリザトリプタンとの併用は
禁忌のため注意が必要です。
• カルシウム拮抗薬(ロメリジンなど)
降圧薬として広く使用されている薬剤群で、片頭痛予防薬として以前より使用されています。ロメリジンは月に2
回以上の発作がある片頭痛患者に10mg/日、経口投与すると、8週間後には64%の患者さんに片頭痛発作の
頻度、程度の軽減が期待できます(推奨グレードB、※保険適用外)。
• アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンギオテンシンII受容体遮断薬(ARB)
高血圧の治療のためにACE阻害薬を服用した患者に、片頭痛の頻度や程度の軽減が認められています(推
奨グレードB、※保険適用外)
• 抗てんかん薬(バルプロ酸ナトリウム)
月に2回以上の頭痛発作がある片頭痛患者に、バルプロ酸ナトリウム1000mgを経口投与すると、8週後には
片頭痛発作を平均4.4回/月から平均3.2回/月に減少することが期待されます(推奨グレードA、※保険適用
外)。
• 抗うつ薬(アミトリプチリン)
抗うつ薬は、片頭痛に関係の深いセロトニンの代謝を改善するため、片頭痛の予防に有用です。とくに緊張型
頭痛を合併している片頭痛に高い有効率が示されています。三環系抗うつ薬であるアミトリプチリンはエビデン
スも十分にあり、広く使用されています(推奨グレードA、※保険適用外)。
予防療法の効果判定には少なくとも2ヵ月を要します。有害事象がなければ3~6ヵ月は予防療法を継続し、片
頭痛のコントロールが良好になれば予防療法薬を緩徐に漸減し、可能であれば中止することが勧めらます。
非薬物療法は、(1)薬物療法以外の治療を希望、(2)薬物治療に耐えられない、(3)薬物療法に禁忌がある、
(4)薬物治療に反応しない、(5)妊娠または妊娠の可能性がある、(6)薬物乱用頭痛の既往がある、(7)明らかな
ストレス下にある場合、等にあてはまる患者さんに推奨されます。
薬物療法以外の一次性頭痛の治療法には、以下のようなものがあります。3)
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行動療法:リラクゼーション、バイオフィードバック、認知行動療法、催眠療法
理学療法:鍼、経皮的電気刺激など
サプリメント:ナツシロギク(フィーバーフュー)、西洋フキ(バターバー)、マグネシウム、ビタミンB2
片頭痛の誘発因子は、精神的因子(ストレス、精神的緊張、疲れ、睡眠)、月経周期、環境因子(天候の変化、
温度差)、食事性因子(アルコールなど)があります。片頭痛患者の中には、特定の状況下で発作が起こりやすい
ことを認識している人も多く、そのような誘発因子を除去することは、片頭痛の予防につながります。 4)
詳しくは「片頭痛の病態と誘発因子」をご覧ください。
片頭痛は、医師や薬剤師と患者さんの二人三脚で生活の質(QOL)の向上を目指します。患者さんが医師の指
示を理解し、積極的に治療に参加するためには、以下のようなことを理解してもらう必要があります。
• 片頭痛に対する知識
• 片頭痛と他の頭痛の鑑別
• 治療薬の効果と副作用
• 急性期治療薬の適正使用(服薬タイミング,使用量,使用頻度)
• 予防療法の必要性,効果発現までに要する期間
• 発作中の注意(静かな暗い場所で休む,痛む部位を冷やすなど)
• 妊娠の有無の確認
効率的な頭痛診療を行うためには、医師と患者さんの良好な関係が Key となります。医師は正確な診断名を患
者さんに告げ、さらに頭痛に対する適切な対処法・治療法を患者さんに説明する必要があります。
また、頭痛の症状は自覚的なものであり、医師へ正しく伝えることが難しく、頭痛の診断や治療の評価が困難な
ことがありますが、頭痛ダイアリーを使用することによって、症状の把握や正しい診断に結びつきます。
頭痛ダイアリーからは、(1)頭痛の頻度、(2)頭痛の性状、(3)痛みの強度、(4)持続時間、(5)随伴症状、(6)
頭痛出現から内服までの時間、(7)薬物の治療効果、(8)誘因、(9)生活支障度、などを具体的に知ることができ
ます。また、そのことにより患者さんと医師間のコミュニケーションを向上することができます。
問診のみでは頭痛の強度や随伴症状の正確な把握は困難なことが多いのですが、頭痛ダイアリーから正確な
情報を得ることにより、問診では診断がつかなかった症例の診断が可能となる、患者さんが自己の頭痛をよりよく
把握できる、頭痛のタイプに応じた服薬や内服のタイミングが改善される、などの利点も報告されています。
「服薬指導」についてこちらで詳しく解説しています。
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片頭痛発作重積は、「前兆のない片頭痛」を持つ患者さんに、重度の頭痛が 72 時間を越えて続くものです。患
者さんは救急外来を受診することが多く、強い頭痛と嘔吐のため、病歴の聴取が困難な場合が多いのが特徴で
す。初診時にはまず、二次性頭痛の検索を行い、全身状態を確認した上で治療を開始します。5)
1. 二次性頭痛の除外
2. 補液(静脈ルート確保):嘔吐による脱水の改善と、治療薬による低血圧などの副作用に備える
3. 制吐薬の静注または筋注:プロクロルペラジン (5-10mg) またはメトクロプラミド (10mg) (※保険適用
外)
4. スマトリプタン 3mg 皮下注: 24 時間以内の総投与量と頭痛再燃に注意する
5. ドロペリドール (2.5-2.75mg) 筋注または静注:錐体外路症状に注意 (※保険適用外)
6. デキサメタゾン (4-10mg 静注 ) (※保険適用外)
参考文献
1)
日本頭痛学会
:P74 , II.片頭痛 II-2-2 片頭痛の急性期治療薬にはどのような種類があり,どのよう
に使い分けるか , 慢性頭痛の診療ガイドライン , 医学書院 , 2006.
2)
日本頭痛学会
院 , 2006.
3)
:P35 , I.頭痛一般 I-16 薬物療法以外にどのような治療法があるか , 慢性頭痛の
日本頭痛学会
診療ガイドライン , 医学書院 , 2006.
4)
:P65 , II.片頭痛 II-1-5 片頭痛の誘発因子としてどんなものがあるか , 慢性頭痛の
日本頭痛学会
診療ガイドライン , 医学書院 , 2006.
5)
:P94 , II.片頭痛 II-2-13 片頭痛発作重積の急性期治療はどのように行なうか , 慢
日本頭痛学会
性頭痛の診療ガイドライン , 医学書院 , 2006.
:P100、111-124 , II.片頭痛 3.予防療法 , 慢性頭痛の診療ガイドライン , 医学書
アロディニア(異痛症)
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発作時の薬物療法
2011/06/09
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片頭痛の治療薬には以下のものが使われます。鎮痛薬は軽度~中等度の片頭痛に有効で、中等度以上の片
頭痛はトリプタン製剤が推奨されます。とりわけ、トリプタン製剤の用法用量や作用時間、相互作用、副作用等を
知り、剤形の特性を踏まえた上で処方することが望まれます。
患者一人ひとりにとって、ベストな薬剤・治療法を見出せるよう、以下の薬剤について熟知してください。
表1:片頭痛の急性期治療薬1)
薬剤
製品名
用量
1日最大投与量
5-HT1受容体作動薬
スマトリプタン
イミグラン ®
50mg
200mg
ゾルミトリプタン*
ゾーミッグ ®
2.5mg
10mg
エレトリプタン
レルパックス ®
20mg
40mg
リザトリプタン**
マクサルト ®
10mg
20mg
ナラトリプタン
アマージ
®
2.5mg
5mg
点鼻
スマトリプタン
イミグラン ® 点鼻薬
20mg
40mg
皮下注
スマトリプタン(自己注射もあり)
イミグラン
3mg
2回
クリアミン ® A
1~2錠
6錠(1週間に10錠まで)
アセトアミノフェン
カロナール ®
400mg
アスピリン
バファリン ®
330mg
メトクロプラミド
プリンペラン
ドンペリドン
ナウゼリン
経口
®
注
エルゴタミン製剤
エルゴタミン配合
鎮痛薬・NSAIDs
制吐薬
®
®
10~20mg
30~60mg
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*:口腔内速溶錠あり
**:口腔内崩壊錠あり
参考文献
1)
平田幸一:片頭痛発作時の治療 , Current Therapy : 26-30 , vol.26 , no.10 , 2008.
片頭痛の治療
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服薬指導
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トリプタン製剤は、脳にあるセロトニン受容体に働いて、拡張した血管を収縮させたり、血管周囲の炎症をとるこ
とで、片頭痛の痛みをやわらげます。いわゆる痛み止め(鎮痛薬)とは違い、片頭痛のもとを取り除くことができる
薬です。
トリプタン製剤の中でも最も血中濃度の立ち上がりが速いとされるリザトリプタンは、服用後1時間で最高血中濃
度に達し、効果を発揮します。片頭痛治療においては、頭痛発作後の早期服薬が頭痛改善効果を高め、患者さん
の満足度も向上します。
治療効果を最大限に引き出すためにも、丁寧な服薬指導が重要となります。
早期服薬による効果については「マクサルトによる片頭痛の早期治療」をご覧ください。
トリプタン製剤は、片頭痛の起こる前に服薬しても効果はありません。痛みが始まってから30分以内に服薬する
と最も効果が高いため、予兆期の肩こりなどの痛みと片頭痛の痛みをうまく区別するように患者さんへ指導する必
要があります。下記の図のように誘発因子があることや予兆や前兆が先行することを理解すると服薬タイミングが
掴みやすくなります。
片頭痛には誘発因子があることが多いので、それらを避けるようにしましょう。
頸部や肩のこりがある場合、緊張型頭痛と混同しないことが重要です。
⇒予兆期に服用しても効果はありません。
前兆のある片頭痛は全体の10%から20%。前兆に加えて麻痺がある場合は、要注意(トリプタン
禁忌)です。
⇒前兆期に服用しても効果はありません。
随伴症状の悪心・嘔吐は緊張型頭痛ではほとんどありません。
悪心・嘔吐がひどい場合は、制吐薬の投与も考慮しましょう。
⇒頭痛期に入り、痛みが始まったらすぐに服用することで高い効果が得られます。
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片頭痛の寛解期には眠気が症状として現れます。薬剤による眠気の場合もあるので、車の運転な
どには注意しましょう。
⇒頭痛期のピークから寛解期に服用しても効果が得られないこともあります。
図:トリプタンの服薬タイミング
トリプタン製剤は片頭痛の第一選択薬ですが、この効果があまりない場合は、片頭痛による支障の重症度に応
じて、アセトアミノフェン、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)、エルゴタミン製剤、制吐薬などの治療薬を選択してく
ださい。さらに、片頭痛発作重積や治療抵抗性片頭痛発作などの重症片頭痛に対しては、鎮静薬、コルチコステロ
イド、利尿剤などが使用される場合もあります。
あるいは、片頭痛と他の頭痛の合併型か、他の一次性頭痛か、二次性頭痛の可能性はないかなど、今一度診
断を見直してみることも必要です。
発作時の薬物療法
薬物乱用頭痛患者への対応
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薬を飲んでいるのに、毎日頭が痛い。近頃、そんな訴えをする患者さんが増えています。このような方は薬物乱
用頭痛が疑われます。
薬物乱用頭痛(MOH:Medication Overuse Headache)は急性期治療薬を頻回服用することにより起こり、二次
性頭痛に分類されます。患者さんは、服薬している薬が原因となり、頭痛が悪化している事実を正しく理解しておら
ず、頭痛が治らないとさらに市販薬や処方箋薬を服薬する傾向にあります。漫然とした急性期治療薬の処方を避
けると同時に、患者さんへの正しい服薬指導が重要となります。
薬物乱用頭痛に陥りやすい片頭痛は、中等度から重度の頭痛が繰り返し起こることにより、日常生活に支障を
きたし寝込んでしまうなど、QOLが著しく低下する疾患です。そのため、痛みから逃れるために、また仕事や家事
等の社会生活を行うため、早め早めに薬物を服薬する癖がついたり、服薬量が増えてしまうという傾向がありま
す。
また、NSAIDsや市販の鎮痛薬は比較的入手が容易であることもその一因と考えられます。
薬物乱用頭痛の有病率は、疑い例も含めると約1%と言われており、頭痛の中では緊張型頭痛、片頭痛に次い
で3番目に多い疾患です。頭痛を主訴に神経内科を受診する患者の5~10%がMOHに該当するとの報告もあり、
頭痛外来においてはその数はさらに多いと言われています。
男女比は1:1.35で女性に起こりやすいことがわかっています。また、成人だけでなく小児や思春期においても見
られますが、特に中年女性においてその罹患率が高い傾向にあります。
乱用の原因となる薬物は、NSAIDs等の鎮痛薬、エルゴタミン製剤、トリプタン製剤などが挙げられます。最も多
いのは市販の鎮痛薬を乱用しているケースですが、近年はトリプタン製剤の処方が増えていることに伴い、トリプタ
ンによるMOHの発症も報告されています。
MOHに至る平均投与回数、時間
1)
2)
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トリプタン
18回/月 1.7年
エルゴタミン製剤
37回/月 2.7年
鎮痛剤
114回/月 4.8年
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製剤別にみると、トリプタン製剤はエルゴタミン製剤や鎮痛薬に比べて、より少ない服薬回数でMOHになる傾向
があるとの報告があります。
また一方で、起因薬物を中止した後に2~10日間続くとされる反跳頭痛は、他剤に比べトリプタンによるMOHで
早く消失する傾向にあると言われています。
いずれにしても、急性期治療薬の服薬回数が頻回にならないよう(10回以内/月)、適切にコントロールし、薬物
乱用頭痛に陥らないようにすることが重要です。
薬物乱用頭痛は片頭痛患者もしくは緊張型頭痛患者、あるいはその合併例に多く見られ、群発頭痛患者に起こ
ることは稀といわれています。
MOHは薬物の過剰服用が引き金となり、痛みに対する感受性が過敏になる、つまり痛みの閾値が下がってしま
うことが原因と考えられています。
また、慢性関節リウマチや腰痛などの疾患に対して、長期に渡って大量の鎮痛薬を服用していてもMOHが問題
となることは極めて稀なことから、片頭痛や緊張型頭痛の病態そのものがMOHの発生要因に寄与している可能
性が示唆されています。 1)
薬物乱用頭痛の診断の際には、薬剤の使用状況を丁寧に聞きだすことが必要です。いつごろから何の薬剤を
何錠程度服薬しており、その期間はどのくらいなのか、また、薬物乱用頭痛の症状が出る前の元々の頭痛はどん
なものであったか、等を確認します。
薬物乱用頭痛(MOH)の診断基準
3)
A. 頭痛は1ヵ月に15日以上存在し,CおよびDを満たす
B. 8.1「急性の物質使用または曝露による頭痛」に示す以外の薬物を3ヵ月を超えて定期的に乱用して
いる
C. 頭痛は薬物乱用のある間に出現もしくは著明に悪化する
D. 乱用薬物の使用中止後、2ヵ月以内に頭痛が消失、または以前のパターンに戻る
エルゴタミン乱用頭痛
3 ヵ月以上の期間、定期的に1 ヵ月に10 日以上エルゴタミンを摂取している
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トリプタン乱用頭痛
3 ヵ月以上の期間、定期的に1 ヵ月に10 日以上トリプタンを摂取している
鎮痛薬乱用頭痛
3 ヵ月を超えて、1 ヵ月に15 日以上単一の鎮痛薬を服用している
オピオイド乱用頭痛
3 ヵ月を超えて、1 ヵ月に10 日以上オピオイドを服用している
複合薬物乱用頭痛
3 ヵ月を超える期間、1 ヵ月に10 日以上複合薬物を摂取している
治療の主となるのは、以下の3つです。 4)
1. 原因薬物の中止
2. 薬物中止後に起こる頭痛(反跳頭痛)に対する治療
3. 予防薬の投与
まずは乱用の原因となった薬物を中止し、その後に起こった頭痛は別の治療薬で対処します。頭痛ダイアリーを
記録し、頭痛が起こった日数、薬物使用日数を適切に把握すること、治療経過の観察を行うことも有効です。ま
た、原因薬物を中止したときに起こる反跳頭痛に関する事前の説明や治療計画を丁寧に説明することで、患者自
身の意識改革を促すことが治療の成功に大きく寄与します。
MOH治療の成功率は70%程度といわれていますが、再発もしばしば認められます。治療終了後1年以内の再
発が最も多く、その後、再発リスクは減少していくため、患者教育の徹底と治療終了後も継続したフォローが再発
防止の対策となります。
治療が成功するか否かは、患者さんの意識改革や忍耐力に加え、それを引き上げるように働きかける医師の役
割も大きいと考えられます。
参考文献
1)
Dowson AJ, , et al. : Medication overuse headache in patients with primary headache
disorders : epidemiology, management and pathogenesis. CNS Drugs 19 : 483-497, 2005.
2)
Limmroth V, et al. : Features of medication overuse headache following overuse of different
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3)
:P83-85 , 8.物質またはその離脱による頭痛 , 国際頭痛分類 第2版 新訂増補日
日本頭痛学会
本語版 , 医学書院 , 2006.
http://www.eisai.jp/medical/products/maxalt/guidance/treatment05.html
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薬物乱用頭痛患者への対応|片頭痛の治療|頭痛の基礎知識|片頭痛治療剤...
4)
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Diener H-C, et al. : Medication-overuse headache : a worldwide problem. Lancer Neurol : 475483, 2004.
服薬指導
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マクサルトによる片頭痛の早期治療|マクサルトについて|片頭痛治療剤マクサ...
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エーザイ 予防から治療まで見つかる Eisai.jp
マクサルト早期服薬2時間後の頭痛消失率は72%。
プラセボ(25%)に比べ、約3倍の消失効果が確認されました。
〈海外データ〉
[対 象]
マクサルトによる治療を受けたことがなく、未治療のまま放置しておくと悪化する国際頭痛学会の診断基準に基づく
片頭痛患者112名
(マクサルト10mg群:74例、216発作 プラセボ群:38例、109発作)
[方
法]
片頭痛発作が始まった時期でまだ頭痛が軽度のうちにマクサルト10mgかプラセボを服用。
頭痛日記に、発症時間、服薬時間、頭痛の程度、服薬後30分、1時間、1.5時間、2時間の頭痛の程度、服薬後24時
間の追加投与の必要性、頭痛の再発、有害事象について記録した。
[評価項目]
主要評価項目:服薬2時間後の頭痛消失率
副次評価項目:服薬1時間後の頭痛消失率
[結
果]
http://www.eisai.jp/medical/products/maxalt/max/maxdata.html
2011/06/09
マクサルトによる片頭痛の早期治療|マクサルトについて|片頭痛治療剤マクサ...
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■薬剤服薬時の頭痛重症度
■重症度別服薬2時間後の頭痛消失率
[有害事象]
マクサルト10mg群:62発作(29%)
プラセボ群:15発作(14%)
(ふらつき、眠気、めまい、胸部症状、知覚異常)
http://www.eisai.jp/medical/products/maxalt/max/maxdata.html
2011/06/09
マクサルトによる片頭痛の早期治療|マクサルトについて|片頭痛治療剤マクサ...
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【 Ninan T. M. et al.:Headache, 44 669 (2004) 】
●効能・効果、用法・用量及び禁忌を含む使用上の注意等については、最新の添付文書でご確認ください。
RPD錠の速溶性[動画]
救急治療室でのマクサルトの効果
http://www.eisai.jp/medical/products/maxalt/max/maxdata.html
2011/06/09
救急治療室でのマクサルトの効果|ドラッグインフォメーション|マクサルトについ...
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エーザイ 予防から治療まで見つかる Eisai.jp
救急治療室で治療された重度の片頭痛患者にマクサルトを投与すると、15分で頭痛が改善、
45分で随伴症状消失、75分後には頭痛消失が確認されました。
〈海外データ〉
[対 象]
3つの救急治療室で治療された重度の片頭痛患者(国際頭痛学会の診断基準に基づく)でマクサルトによる治療を
受けたことがない98名
[方
法]
マクサルトRPD錠10mgを投与し、15分おきに評価した。
[評価項目]
随伴症状(吐き気および嘔吐、光過敏および音過敏)の消失までの時間、頭痛改善までの時間、頭痛消失までの時
間、副作用
[結
果]
http://www.eisai.jp/medical/products/maxalt/max/maxdata02.html
2011/06/09
救急治療室でのマクサルトの効果|ドラッグインフォメーション|マクサルトについ...
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[副作用]
15例
(めまい5例、脱力4例、多幸症1例、息切れ1例、集中できない1例、発熱1例)
【 Emile Hay et al. : The Journal of Emergency Medicine , 25 (3) , 245 (2003) 】
●効能・効果、用法・用量及び禁忌を含む使用上の注意等については、最新の添付文書でご確認ください。
マクサルトによる片頭痛の早期治療
http://www.eisai.jp/medical/products/maxalt/max/maxdata02.html
PRD錠服薬時の水の必要性
2011/06/09
救急治療室でのマクサルトの効果|ドラッグインフォメーション|マクサルトについ...
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2011/06/09
RPD錠服薬時の水の必要性|ドラッグインフォメーション|マクサルトについて|片... Page 1 of 2
エーザイ 予防から治療まで見つかる Eisai.jp
87.8%の片頭痛患者が、
マクサルトRPD錠(口腔内崩壊錠)は水なしで服薬できると答えました。
[対
象]
国際頭痛学会の診断基準に基づく片頭痛患者41例
[方
法]
中等度または重度の片頭痛発作に対し、マクサルトRPD錠10mgを単回投与した
[主評価項目]
服薬時の水の必要性
[結
果]
マクサルトRPD錠はミント味です
[副作用]
9例に認められた
(傾眠 7件、倦怠感、浮動性めまい、聴覚障害、蕁麻疹 各1件)
http://www.eisai.jp/medical/products/maxalt/max/maxdata03.html
2011/06/09
RPD錠服薬時の水の必要性|ドラッグインフォメーション|マクサルトについて|片... Page 2 of 2
【 申請資料より 】
●効能・効果、用法・用量及び禁忌を含む使用上の注意等については、最新の添付文書でご確認ください。
救急治療室でのマクサルトの効果
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トリプタン製剤の使用量比較
2011/06/09
トリプタン製剤の使用量比較|マクサルトについて|片頭痛治療剤マクサルト | 製...
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エーザイ 予防から治療まで見つかる Eisai.jp
Summary based on article by Pascual J, et al. Headache 2002; 42: 93-98
※下記内容は海外文献に基づくものであり、国内承認外の内容が一部含まれています。
• 患者231例(女性84%)における589回の片頭痛発作にトリプタンを使用したところ、1回の片頭痛発作に
おけるリザトリプタンの使用量は、スマトリプタン、ゾルミトリプタンに比べて有意に少なかった。
• 発作後24時間以内に2錠以上の服用が必要と考えられたオッズ比は、リザトリプタン群1に対して、スマト
リプタン群またはゾルミトリプタン群で3倍以上であった。
• 片頭痛発作治療に2錠以上の服用または他剤の併用、あるいはその両方が必要と考えられたオッズ比
は、スマトリプタン群、ゾルミトリプタン群においてリザトリプタン群の2倍以上であった。
• この臨床現場に即した試験によって、リザトリプタンは、重度の片頭痛発作に対して使用される頻度が高
かったにもかかわらず、優れた有益性が認められた。
片頭痛の治療では、薬剤処方に関する費用が大きな経済負担となっている。片頭痛急性発作治療においてトリ
プタンの使用にかかる経費は高価であるため、このクラスの薬剤を最大限有効に使用することは経費抑制のうえ
で重要な方策である。「実際の臨床現場」において実施した本試験では、患者の自己報告による4種類のトリプタン
製剤の使用量について比較した。本試験の目的は、トリプタン製剤間の有効性や用法の違いにより、患者が自己
報告するこれらの製剤の使用量が異なるかどうかを検討することである。
スペインの4地区にある120の薬局で片頭痛のためにトリプタンを調剤された患者を逐次試験に組み入れた。
http://www.eisai.jp/medical/products/maxalt/max/triptan01.html
2011/06/09
トリプタン製剤の使用量比較|マクサルトについて|片頭痛治療剤マクサルト | 製...
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本試験は、患者自己報告による片頭痛急性発作(最高3回の発作)に対するトリプタン使用量を調べたオープン
ラベルプロスペクティブ研究である。併用薬剤に対する制限は設けていない。
本試験の主要評価項目は、1回の発作(発作後24時間)に対するトリプタンおよび併用薬の使用量である。他に
トリプタン製剤1錠のみで(発作後24時間以内に)他剤の併用なしに治療できた発作の回数および治療前の頭痛
の程度が薬剤使用に及ぼす影響について検討した。患者は、治療前の頭痛の程度、服用したトリプタンの種類、
錠剤および発作後24時間以内に使用した他剤を日記に記録した。
単変量の比較は、分散分析またはStudenのt検定、χ二乗検定またはFisherの直接確率検定により行った。群
間の多重比較はHochbergの修正を用いた。同一患者における複数の発作の被験者内相関修正には、GEE
(generalized estimating equation)法を用いた。補正オッズ比と95%信頼区間(CI)は、患者、発作および治療前
頭痛の程度の全変数の多変量ロジテスティック回帰分析により算出した。
231例(女性84%)の患者が589回の片頭痛発作について日記に記録した。患者の52%は1ヶ月間の発作回数
が3回以下であった。発作持続時間は、12時間以下が23%、12時間から24時間が34%、24時間以上は43%であ
った。患者1人当たりの平均発作回数(2.5回)、発作が1回、2回または3回の患者の割合は治療群間で同等であっ
た。スマトリプタンが使用された発作は135回、ゾルミトリプタン149回、ナラトリプタン90回、リザトリプタン149回で
あった。リザトリプタンは他剤に比べてより重度の発作に使用される頻度が高い傾向にあった(p=0.336)。
リザトリプタンを使用した患者が報告した1回の片頭痛発作における服用錠数(Mean±SD;1.24±0.56)は、スマ
トリプタン(1.75±1.2、p<0.05)、ゾルミトリプタン(1.61±0.86、p<0.05)あるいはナラトリプタン(1.46±0.62、p<
0.05)を使用した患者よりも有意に少なかった。1錠で十分な効果がみられた発作の割合は、リザトリプタン群では
81%と高かったが、ナラトリプタン群では60%、ゾルミトリプタン群56%、スマトリプタン群52%であった。1回の発
作で24時間以内に2錠以上を必要とする補正オッズ比は、ナラトリプタン群で2.66(95%CI 1.36-5.21、p=
0.004)、トリプタン以外の薬剤群で2.77(95%CI 1.39-5.53、p=0.004)、ゾルミトリプタン群で3.32(95%CI 1.82
-6.17、p=0.001)、スマトリプタン群で3.71(95%CI 2.05-6.7、p=0.001)であった(リザトリプタン=1とする)。試
験薬1錠のみを服用し、24時間以内に他剤を使用しなかった発作の割合は、リザトリプタン67%、ナラトリプタン
54%、ゾルミトリプタン50%、スマトリプタン44%であり、トリプタン以外の薬剤11%であった。1回の発作について2
錠以上の試験薬または他剤併用あるいはその両方を必要とした補正オッズ比は、ナラトリプタン群1.72(95%CI
0.93-3.13、p=0.084)、ゾルミトリプタン群2.01(95% CI 1.16-3.49、p=0.013)、スマトリプタン群2.64(95%CI
1.51-4.57、p<0.001)、トリプタン以外の薬剤群17.3(95%CI 7.5-39.6、p<0.001)であった(リザトリプタン=
1)。
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2011/06/09
トリプタン製剤の使用量比較|マクサルトについて|片頭痛治療剤マクサルト | 製...
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治療前の頭痛の程度は、1回の発作に対するトリプタンの使用量および他剤併用の両方に相関性を示した。リ
ザトリプタン群は、治療前の頭痛の程度に関係なく他のトリプタンよりも治療に必要とされた錠数が少なかった。
表1:治療に要したトリプタン錠数別にみた発作回数(%)および1回の発作(発作24時間以内)に使用したトリプ
タンの平均錠数(95%信頼区間)
[ Reproduced with permission ]
図1:トリプタン1錠のみ服用し発作24時間以内に他剤を併用せずに治療された発作の割合および治療されない
確率を示すオッズ比
[ Reproduced with permission ]
図2:治療前の頭痛の程度別のトリプタンの平均使用錠数(±95%信頼区間)
http://www.eisai.jp/medical/products/maxalt/max/triptan01.html
2011/06/09
トリプタン製剤の使用量比較|マクサルトについて|片頭痛治療剤マクサルト | 製...
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[ Reproduced with permission ]
片頭痛急性発作に対してリザトリプタンを使用した患者では、治療に必要とされた錠数や他剤併用が、他のトリ
プタンよりも有意に少なかった。他のトリプタンに比べてリザトリプタンでは、より多くの発作が1錠のみの服用で治
療された。スマトリプタンあるいはゾルミトリプタンでは、2錠以上の服用が必要と考えられたオッズ比はリザトリプタ
ンの3倍以上であった。さらにリザトリプタンは、他のトリプタンよりも重度の片頭痛発作に高頻度で使用されている
にもかかわらずこのような良い成績が得られた。
本試験の結果は、リザトリプタンが他のトリプタンよりも速効性かつ頭痛消失効果持続性に優れていることを示
したこれまでの試験成績と一致するものであるが、実際の臨床現場で実施された本試験の結果を確認するために
は、さらに無作為化試験を実施する必要がある。
※リザトリプタンのご使用に際しては添付文書をご参照ください。
マクサルトによる片頭痛の早期治療
http://www.eisai.jp/medical/products/maxalt/max/triptan01.html
トリプタン製剤の頭痛改善効果
2011/06/09
トリプタン製剤の頭痛改善効果|マクサルトについて|片頭痛治療剤マクサルト | ...
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エーザイ 予防から治療まで見つかる Eisai.jp
Summary based on article by Ferrari MD, et al. Cephalalgia 2002; 22: 633-658
※下記内容は海外文献に基づくものであり、国内承認外の内容が含まれています。
• 臨床試験53報のメタアナリシスの結果から、通常用量のすべての経口トリプタン製剤は有効かつ忍容性
が良好であることが示された。
• 各トリプタン製剤間に大きな差は認められなかったが、個々の患者においては幾つかの比較的小さな差
がみられ治療上意義を持つ可能性が考えられる。
• 片頭痛に対して一貫した有効性が期待できるトリプタン製剤およびその用量は、リザトリプタン10mg、エレ
トリプタン80mg、アルモトリプタン12.5mgであった。
トリプタン製剤は、現在多くの欧米諸国において、最も処方頻度の高い片頭痛治療薬である。しかし、近い将来
認可されるものも含めると、トリプタン製剤には7種類の薬剤、5種類の剤形さらに13を超える経口容量があり、医
師がこれらの中から選択するためには科学的根拠に基づくガイドラインが必要となる。種類の異なるトリプタン製剤
を直接比較した試験は少ないため、トリプタン製剤の臨床試験のメタアナリシスが、各クラスのトリプタン製剤の有
効性忍容性を比較する上で最も実際的な評価方法となると考えられる。そこで、片頭痛患者を対象としたトリプタン
製剤のすべての二重盲検無作為化比較試験から完全なデータ一式を入手しメタアナリシスを行った。スマトリプタ
ン、ゾルミトリプタン、ナラトリプタン、リザトリプタン、アルモトリプタン※およびエレトリプタンについて完全な試験デ
ータを入手した。フロバトリプタン※の試験成績は、現時点では要約の形で入手したが、この成績も含めてメタアナ
リシスを行った。この解析では、すべてのプラセボ対照試験における全推奨用量について有効性と有害事象を評
価し、その結果を直接比較試験22報について同様にメタアナリシスを行った結果と比較検討した。
※日本では未発売
http://www.eisai.jp/medical/products/maxalt/max/triptan02.html
2011/06/09
トリプタン製剤の頭痛改善効果|マクサルトについて|片頭痛治療剤マクサルト | ...
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解析責任者は、経口トリプタンのすべての無作為化比較実験(公表の有無を問わない)について「生の患者デー
タ」の提供を要請し、製薬会社またはスポンサーなしで実施された試験の場合には治験統括者に依頼した。フロバ
トリプタンを除いて依頼した情報はほぼ提供されたが、フロバトリプタンについては公知となっているデータ(要約、
学会報告)のみメタアナリシスに含めた。合計76報の臨床試験について確認し評価した。本解析には2000年11月
1日以降に入手したデータは含まれない。
解析責任者により53報の試験が本解析に適格であると判断された。これらの試験はすべて、試験方法の質と一
貫性を確保するために解析責任者が設定した4つの基準を満たした。このメタアナリシスに含めた試験は次の基準
を満たすものであった;(1)二重盲検無作為化比較実験(プラセボまたは実薬が比較薬剤)であること。(2)発症か
ら8時間以内の中等度または重度の片頭痛発作(国際頭痛学会診断基準)を有する18歳~65歳の患者を対象と
し治療効果を評価した試験であること。(3)推奨用量の経口トリプタンを用いて治療を行っている試験であること。
(4)治療効果を4段階頭痛評価尺度で評価している試験であること。
プラセボを対象とした全試験のデータは併合したが、直接比較試験については別に解析した。すべてのエンドポ
イントに関するトリプタンとプラセボ間の差の評価には、変量効果モデルを使用した(平均値と95%信頼区間[CI]で
示した)。試験デザインおよび適格性における差を調整するため、絶対値による比較および3種類の方法(リスク
[率]比、プラセボ差し引き率[プラセボによる効果を差し引いた治療効果]および治療必要数[治療効果の逆数])によ
りデータを比較したが、いずれの方法によっても同様の成績が得られた。結果の妥当性の信頼度を高めるため
に、薬剤間の治療効果のデータは、絶対値を使用した場合と、プラセボの効果を差し引いた場合の2つを示した。
総計24,089例が参加した53報の無作為化比較試験のデータが、メタアナリシスに含めるための基準を満たすと
判断された。これら53試験のうち、スマトリプタンとの試験が11報、ゾルミトリプタン9報、ナラトリプタン5報、リザトリ
プタン12報、エレトリプタン8報、アルモトリプタン3報およびフロバトリプタン5報であった。これらの試験のうち、トリ
プタンを直接比較した試験は22報であった。
解析責任者は、スマトリプタンが最初に発売され、その後最も広く処方されている経口トリプタン製剤であること
から、スマトリプタン100mgを対照薬剤・対照単回用量とした。
ほとんどすべての試験において、プロトコールに定められた主要エンドポイントは、投与2時間後の頭痛改善効
果であった。このエンドポイントの絶対有効率は、対照のスマトリプタン100mg(絶対値による平均有効率59%、
95%CI57-60)と比較して、リザトリプタン10mg、エレトリプタン80mgおよびゾルミトリプタン2.5mgで高く、ナラトリ
プタン2.5mg、エレトリプタン20mgおよびフロバトリプタン2.5mgで低かった。プラセボ差し引き有効率の比較では、
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スマトリプタン100mg(平均29%、95%CI26-34)と比較したエレトリプタン80mg(平均42%、95%CI36-48)および
フロバトリプタン2.5mg(平均17%、95%CI13-20)の差が有意であった。
図1:各トリプタン投与後2時間における頭痛改善効果(平均と95%信頼区間)
絶対値およびプラセボ差し引きによる結果を示す。濃色部分はスマトリプタン100mgの95%信頼区間。
[ Reproduced with permission ]
頭痛消失率(投与2時間後に頭痛のない患者の割合)が、ほとんどの試験における二次エンドポイントであった。
絶対値による2時間後頭痛消失率は、スマトリプタン100mg(平均29%、95%CI27-30)と比較して、エレトリプタン
80mg、アルモトリプタン12.5mgおよびリザトリプタン10mgで高く、ナラトリプタン2.5mgとエレトリプタン20mgで低
かった。プラセボを差し引いた場合でも、スマトリプタン100mgとの差は、リザトリプタン10mgとエレトリプタン80mg
で有意であった。
その他の二次エンドポイントには、投与後2時間から24時間の頭痛再発率および継続頭痛消失率(投与後2時
間までに頭痛が消失して中等度または重度の頭痛の再発がないか、投与後2時間から24時間の間に救急頭痛薬
使用のなかった患者の割合と定義される複合エンドポイント)があった。投与後2~24時間における絶対値による
平均再発率は、スマトリプタン100mg(30%、95%CI27-33)と比較して、リザトリプタン5mgと10mgで高く、エレトリ
プタン40mgと80mg(おそらくナラトリプタン2.5mgも)で低かった。スマトリプタン100mgの治療を受けた患者の継
続頭痛消失率は20%(95%CI18-21)であり、リザトリプタン10mg、エレトリプタン80mg、アルモトリプタン12.5mg
はこれより高く、エレトリプタン20mgでは低かった。
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トリプタン製剤の頭痛改善効果|マクサルトについて|片頭痛治療剤マクサルト | ...
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図2:各トリプタン投与による24時間継続頭痛消失効果(平均と95%信頼区間)
濃色部分はスマトリプタン100mgの95%信頼区間。
[ Reproduced with permission ]
少数の試験のデータであるが、トリプタンが一貫して無効(連続した3回の発作のいずれに対しても無効)であっ
た患者はまれであることが示された。79%~89%の患者において3回の治療のうち少なくとも1回は有効であり(プ
ラセボでは約50%)、47~72%で2回以上有効であり(プラセボでは17~33%)、16~47%の患者で3回の治療す
べてが有効であった(プラセボでは9%以下)。効果の一貫性が最も高いのはリザトリプタン10mgであった。
適格であった22報の直接比較試験を解析したところ、各種トリプタンの有効性にほとんど差は認められなかっ
た。しかし、スマトリプタン100mgと比べて、カフェルゴット2mgおよびナラトリプタン2.5mg(投与4時間後)の有効性
は低いが、リザトリプタン10mg、エレトリプタン40mgおよびエレトリプタン80mgの有効性は高いことが、幾つかあ
るいはすべての試験から示された。フロバトリプタンの比較試験データはないが、公表された情報源から得たデー
タによると、この薬剤の有効性は、他のトリプタンよりも低いことが示唆される(頭痛改善率41%、頭痛消失率
12%)。
http://www.eisai.jp/medical/products/maxalt/max/triptan02.html
2011/06/09
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スマトリプタン100mgを投与された患者におけるすべての有害事象の発現率は、プラセボでの発現を差し引い
た場合平均13%(95%CI8-18)であった。他のトリプタンでも同様の発現率であったが、例外としてナラトリプタン
2.5mgおよびアルモトリプタン12.5mgの発現率はプラセボと同等であった。スマトリプタン100mgを投与された患
者では、1件以上の中枢神経系有害事象を発現した患者の割合は、プラセボでの発現を差し引いた場合6%
(95%CI3-9)であり、胸部有害事象については1.9%(95%CI1.0-2.7)であった。他のトリプタン製剤の中枢神経系
有害事象および胸部有害事象のプラセボ差し引き発現率は、全般的にスマトリプタン100mgと一致していた。すべ
てのトリプタンで、有害事象の発現率は投与量の増加に伴い上昇する傾向にあった。
スマトリプタン100mgと比較した経口トリプタンの主な有効性と忍容性の評価結果を表1に一覧する。
解析責任者は、推奨用量を投与した場合すべての経口トリプタンは有効で忍容性も良好であると結論した。各
経口トリプタン間に大きな差はないと考えられたが、幾つかの比較的小さな差が個々の患者の治療において意義
を持つ可能性が考えられる。新しいトリプタンの中には、幾つかのエンドポイントについてスマトリプタン100mgより
も10~38%高い有効率が報告されているものがあった。
表1:経口トリプタンとスマトリプタン100mgの有効性と忍溶性の主要項目の評価の比較
※リザトリプタンのご使用に際しては添付文書をご参照ください。
トリプタン製剤の使用量比較
リザトリプタンとエレトリプタンの
患者選好度比較
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2011/06/09
トリプタン製剤の頭痛改善効果|マクサルトについて|片頭痛治療剤マクサルト | ...
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2011/06/09
リザトリプタンとエレトリプタンの患者選好度比較|マクサルトについて|片頭痛治...
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エーザイ 予防から治療まで見つかる Eisai.jp
Summary based on article by Láinez MJA, et al. Cephalalgia 2006; 26: 246-256
※下記内容は海外文献に基づくものであり、国内承認外の内容が含まれています。
• オープンラベルクロスオーバー試験で、片頭痛急性期治療薬としてリザトリプタン10mg口腔内崩壊錠を
好む患者の方がエレトリプタン40mg錠を好む患者よりも有意に多いことが示された(61.1% vs 38.9%、
P≦0.001)。
• 薬剤選好の理由として最も多くあげられたのは、すみやかな頭痛の改善であった。
• 臨床的有効性に関する従来型の評価項目(頭痛の改善または消失、頭痛の改善または消失までの時
間、効果の持続性、および正常機能への回復)では、両薬剤間に有意差は認められなかった。
トリプタン製剤(選択的セロトニン5-HT1B/1D受容体作動薬)は、中等度~重度の片頭痛発作に対する急性期治
療における第一選択薬である。すべてのトリプタン製剤は片頭痛の急性期治療薬としての有効性が認められてい
るが、薬剤間において薬理学的特性、有効性、および忍容性に差異が存在する。これらの差異の多くは比較的小
さなものであるが、いずれの差異も患者の薬剤に対する選好度に影響を及ぼす可能性があり、薬剤に対する選好
度は患者の総体的な治療経験を評価する指標として臨床的に意義がある。本試験では、片頭痛発作の急性期治
療薬としてのリザトリプタン10mg口腔内崩壊錠およびエレトリプタン40mg錠に対する患者の選好度を比較した。
国際頭痛学会の診断基準による中等度~重度の片頭痛に6ヵ月以上罹患し、リザトリプタンまたはエレトリプタ
ンによる治療歴のない18~65歳の患者を対象とした。
http://www.eisai.jp/medical/products/maxalt/max/triptan03.html
2011/06/09
リザトリプタンとエレトリプタンの患者選好度比較|マクサルトについて|片頭痛治...
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本試験はオープンラベルによる無作為化クロスオーバー試験として実施された。5日以上の間隔を置いた2回の
片頭痛発作を、初回の発作:リザトリプタン10mg口腔内崩壊錠→2回目の発作:エレトリプタン40mg錠の順に投与
する群と、この逆の順で薬剤を投与する群のいずれかに対象患者を割り付けた。
患者は2回目の片頭痛発作の治療後に、妥当性が実証されている選好度の調査票に記入した。患者はどちら
の薬剤を好むかを回答し、その薬剤を選択した理由として最も重要なものを1つ選択した。また、患者の頭痛日記
に記載された情報を用いて、有効性などの指標について分析した。
主要評価項目である患者の薬剤に対する選好度の評価は、2回の発作に対する治療を受けて質問票に記入
し、どちらかの薬剤を好むと回答したすべての患者を対象に行い、薬剤間の比較にはMainland-Gart法を用いた。
無作為化割付された506例のうち、実際に治療を受けた439例を安全性評価の対象とした。これらのうちの372
例が2回の片頭痛発作を治療し、どちらかの薬剤を好むと回答したのは342例であった。治療を受けた患者の多く
は白人(88%)の女性(85%)で、平均年齢は38歳であった。患者背景および片頭痛の特徴は両群同等であった。
薬剤の投与順序にかかわらず、エレトリプタンよりもリザトリプタンを好むと回答した患者の割合が有意に高かっ
た。(61.1% vs 38.9%、P≦0.001、図)。選好に対する主な理由を表に示す。いずれの薬剤を選好した患者にお
いても、すみやかな頭痛の改善を理由としてあげた患者が最も多かった。
図:それぞれの治療順序において、どちらかの薬剤をもう一方の薬剤よりも好むと回答した患者の割合
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リザトリプタンとエレトリプタンの患者選好度比較|マクサルトについて|片頭痛治...
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表:それぞれの治療薬を選好した患者があげた最も重要な理由
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投与から2時間後の評価において、全般的な治療満足度(平均スコア:3.12 vs 3.33、P=0.048)および治療の
利便性に対する評価(平均スコア;1.99 vs 2.31、P≦0.001)は、リザトリプタン治療時の方がエレトリプタン治療時
よりも有意に高かった(それぞれのスコアは、数字が小さいほど評価が高いことを示す)。薬剤に対する選好度と治
療満足度との間に高い相関が認められた。
投与2時間後の頭痛改善率または頭痛消失率、頭痛の改善または消失までの時間、投与24時間後における頭
痛消失の継続率、および投与2時間後における機能的障害からの回復率に関しては、いずれの薬剤による治療時
も同等であった。随伴症状に関しても、投与15分後と30分後の音過敏、投与30分後の光過敏、および投与60分
後の悪心に関してリザトリプタン治療時の方が有意に少なかったものの、それ以外の時点においては同等であっ
た。投与2~24時間後に、他剤(鎮痛剤または制吐剤)の投与や試験薬の2回目の投与を必要とした患者の割合も
同等であった。
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リザトリプタンとエレトリプタンの患者選好度比較|マクサルトについて|片頭痛治...
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有害事象はリザトリプタン投与後に22%、エレトリプタン投与後に27%の患者において報告されたが、両群間に
有意差は認められなかった。主な有害事象は傾眠、無力症/疲労、悪心、およびめまいであった。
本クロスオーバー試験結果から、片頭痛の急性期治療薬として、エレトリプタン40mg錠よりもリザトリプタン
10mg口腔内崩壊錠を好む患者の方が有意に多いことが示された。いずれの薬剤を選好した患者においても、選
好の理由として、すみやかな頭痛の改善をあげた患者が最も多かった。しかし、頭痛日記の記録からは、頭痛改
善または頭痛消失までの時間は、両群間に有意差はなかった。投与2時間後における利便性の評価スコアでは、
リザトリプタンの方が高く評価されたが、剤形の違い(口腔内崩壊錠 vs 従来型の錠剤)は薬剤選好に影響する要
因ではないことが示唆された。薬剤の選好は患者個人の治療経験の集積によるもので、臨床的に意義のある指
標である。
※リザトリプタンのご使用に際しては添付文書をご参照ください。
トリプタン製剤の頭痛改善効果
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トリプタン製剤の切り替え理由
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トリプタン製剤の切り替え理由|マクサルトについて|片頭痛治療剤マクサルト | ...
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エーザイ 予防から治療まで見つかる Eisai.jp
Summary based on article by Sheftell FD, et al. Headache 2004; 44: 661-668
※下記内容は海外文献に基づくものであり、国内承認外の内容が含まれています。
• 専門施設で治療を受けている片頭痛患者386例の臨床記録を解析した結果、トリプタン製剤の切り替えに
は、有効性、効果発現までの時間、効果のバラツキ、有害事象などといった多くの理由が関与しているこ
とが示された。
• 8種類のうち6種類の製剤において、「症状の改善が不十分もしくは、ない」ということが薬剤を切り替えた
理由として最も多くあげられた理由であった。残りの2製剤(スマトリプタン100mg錠とスマトリプタン皮下注
射薬)については、有害事象が薬剤切り替えの理由として最も多くあげられた。
• リザトリプタン10mg、スマトリプタン点鼻スプレー、またはスマトリプタン皮下注射薬を最初に服用した患者
群において、「他のトリプタン製剤の方が優れた薬剤であるかどうかを試したい」を薬剤切り替えの理由と
してあげた患者の割合は、他のトリプタン製剤を最初に服用した患者群よりも有意に少なかった。
トリプタン製剤(5-HT1B/1D受容体作動薬)は片頭痛急性期の中等度〜重度の発作に対する第1選択薬であり、
さまざまな用量と剤形(経口錠、口腔内崩壊錠、点鼻スプレー(NS)、皮下注射薬(SC))のものが米国においては
入手可能である。各トリプタン製剤には類似点もあるが、血中濃度半減期、最高血中濃度到達時間、最高血中濃
度、血中濃度-時間曲線下面積(AUC)、代謝、薬物間相互作用などといった薬理学的特性に差異が認められる。
トリプタン製剤の有効性については複数の無作為化比較試験によって検討されているが、それぞれの製剤に対す
る患者の好みに関して影響を及ぼしている特性については明らかではない。本研究では、専門施設で治療を受け
ている片頭痛患者を対象に、患者がトリプタン製剤を切り替えた理由を検討した。
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トリプタン製剤の切り替え理由|マクサルトについて|片頭痛治療剤マクサルト | ...
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国際頭痛学会の診断基準(1988年)による片頭痛を有する外来患者386例を本研究の解析対象とした。被験者
は片頭痛の急性期治療にトリプタン製剤を使用中であり、過去に1種類以上の別のトリプタン製剤もしくは別の剤
形のトリプタン製剤を服用した経験があることとした。
2002年2月から2002年7月にかけて、臨床記録および頭痛カレンダーのデータを米国内の第三次医療施設の
頭痛センターから取得した。すべての被験者は1年以上追跡観察され、以下のような情報を取得した:
服用中のすべての薬剤(薬剤名、用量、服用スケジュール、服用している期間、症状改善の程度、有害事象)、過
去に服用したすべての頭痛治療薬に関する同様の情報、すべての治療薬について服用を中止した理由。
臨床記録の解析後、臨床的に重要なすべての情報を以下の項目からなる標準的な形式に要約した:
(1) 患者背景、(2) 過去における薬物治療、(3) 服用されたすべてのトリプタン製剤/剤形について、患者の満足度、
そのトリプタン製剤/剤形を服用していた期間、服薬を中止した理由に関する情報、(4) ある薬剤を服用していた患
者で他剤に切り替え、元の薬剤の服用に戻った患者の数、(5) スマトリプタンを服用していた患者で剤形を切り替
えた患者の数、(6) 最後に服用されていたトリプタン製剤。
データの解析はStata(Intercooled Stata 6.0 for Windows, College Station, TX)を用いて行い、統計学的有
意差の検討には表記した場合を除き、χ²検定を用いた。
386例の被験者のうち339例(87.8%)が女性であ
表1:治療期間を通じて服用されたトリプタン製剤
り、年齢は13〜69歳(平均37.7歳)であった。追跡観
察期間は1〜9年(平均3.3年)であった。前兆のない片
頭痛は285例(73.8%)、前兆のある片頭痛は69例
(17.8%)、前兆のあることもあればないこともある片
頭痛は32例(8.4%)に認められた。頭痛センターでの
治療中に被験者が服用したトリプタン製剤を表1に示
す。アルモトリプタンは症例数が少ないため、解析から
除外した。
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トリプタン製剤の切り替え理由|マクサルトについて|片頭痛治療剤マクサルト | ...
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被験者がトリプタン製剤を切り替えた理由を表2に示す。スマトリプタン25mg錠を最初に服用した患者群におい
ては、「他のトリプタン製剤の方が優れた薬剤であるかどうかを試したい」を切り替えた理由としてあげた患者の割
合が、スマトリプタン50mg錠、スマトリプタン100mg錠、スマトリプタン20mg NS、スマトリプタンSC、ゾルミトリプタ
ン5mg、リザトリプタン10mg、またはナラトリプタンを最初に服用した患者群よりも有意に多かった(図)。このことを
切り替えた理由としてあげた患者の割合は、リザトリプタン10mg、スマトリプタンNS、またはスマトリプタンSCを最
初に服用した患者群において、他のトリプタン製剤を最初に服用した患者群よりも有意に少なかった。
「症状改善が不十分もしくは、ないこと」を理由としてあげた患者の割合は、スマトリプタン25mg、またはスマトリ
プタン50mgを最初に服用した患者群で多く、スマトリプタンSCを最初に服用した患者群で少なかった。
「有害事象」を理由として切り替えた患者の割合は、スマトリプタン100mg、スマトリプタンNS、またはスマトリプタ
ンSCを最初に服用した患者群で多く、ゾルミトリプタン、リザトリプタン、ナラトリプタン、スマトリプタン25mg、または
スマトリプタン50mgを最初に服用した患者群で少なかった。
表2:トリプタン製剤/剤形を切り替えた理由:症例数(%)
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図:薬物治療を切り替えた理由として「他のトリプタン製剤の方が優れているか
どうかを確かめてみたかった」をあげた片頭痛患者の割合
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トリプタン製剤の切り替え理由|マクサルトについて|片頭痛治療剤マクサルト | ...
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スマトリプタンSCを最初に服用して他の薬剤/剤形に切り替えた患者のうち、19.5%はスマトリプタンSCの服用
に戻っていた。他の薬剤について、切り替え後に元の薬剤に戻った割合は、スマトリプタン25mg:7.8%、スマトリプ
タン50mgまたは100mg:42.3%、スマトリプタンNS:17.7%、ゾルミトリプタン:17.6%、リザトリプタン:16.5%、ナ
ラトリプタン:9.4%であった。3種類以上の薬剤/剤形を服用した患者において、最後に服用されていたトリプタン製
剤は、スマトリプタン:29.5%、ゾルミトリプタン:31.8%、リザトリプタン10mg:25.0%、ナラトリプタン:12.5%であっ
た。
第三次医療施設における頭痛治療を対象にトリプタン製剤の使用実態を解析した結果、薬物治療に関するさま
ざまな特性がトリプタン製剤の使用実態と薬剤の切り替えに影響を及ぼしていることが示された。薬剤の切り替え
に最も大きな影響を及ぼしていたのは、薬剤の有効性であった。薬剤の有効性は複数の無作為化比較試験によ
って厳密に検討されているが、このような有効性は多くの場合、患者の薬剤に対する好みと相関していることが示
唆される。しかし一方では、薬剤の切り替えや服薬コンプライアンスを決定する要因は多次元的なものであることも
本研究から示唆され、そのような要因に関する情報は、有効性の検討を目的とした従来の無作為化比較試験から
は得られにくいものと考えられる。
※リザトリプタンのご使用に際しては添付文書をご参照ください。
リザトリプタンとエレトリプタンの
患者選好度比較
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頭痛ダイアリーのすすめ|頭痛診療のコツ|片頭痛治療剤マクサルト| 製品情報... Page 1 of 6
エーザイ 予防から治療まで見つかる Eisai.jp
日本頭痛学会 理事長 国際頭痛センター長(新百合ヶ丘ステーションクリニック)
坂井文彦 先生
日常の診療において、頭痛は多く認められる症状であるが、その診断
や治療には苦慮することが少なくない。その原因には、多岐にわたる疾患
が考えられること、また一次性頭痛においては「痛み」という目にみえない
症状が前景となっているため、患者からの情報が得にくいことなどがあ
る。
一次性頭痛のうち慢性頭痛は、片頭痛、群発頭痛、緊張型頭痛などに
代表される。日本の疫学調査では、片頭痛は15歳以上の人口の8.4%、
緊張型頭痛は22.3%と報告されており、日本での頭痛人口の多さがうか
がえる。しかし、正確な診断や治療を受けている人はあまり多いとは言え
ず、"ただの頭痛"ということで鎮痛薬のみにて経過観察されてしまうことも
少なくない。
慢性頭痛は、その症状に個人差が大きく、必ずしも典型的なものばかりではない。また、1人の患者さんが数種
類の頭痛を有することがあっても、患者さん自身はそのことに気がついていないことも多い。それぞれの頭痛の違
いを正確に記憶することは容易ではなく、いつも通りとすませていたり、正確に症状を表現できないことも少なくな
い。このため、患者さんと上手にコミュニケーションを図りながら、頭痛発作時の正確な症状を引き出すことが求め
られるが、短い日常の一般診療のなかでは困難なのが実情である。
こうした問題を解決するためにはまず、患者さん自身に頭痛に関する知識をもってもらうことが必要である。さら
に、問診やアンケートによるretrospectiveな情報だけでなく、「頭痛ダイアリー」を記載してもらうことにより
prospectiveな情報を得ることが重要である。これらを併せて、より正確な診断と、それに基づく治療方針の決定が
可能となると考えられる。4週間分の記入欄に、患者さんが記載をして持参すると、頭痛の様子が一目で把握で
き、またコミュニケーションもとりやすくなる。短時間での的確な診断や、治療効果の評価に活用していただければ
幸いである。
頭痛ダイアリーのPDF(432KB)はこちらでご覧いただけます。
頭痛ダイアリーの利用でここが変わる
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頭痛ダイアリーのすすめ|頭痛診療のコツ|片頭痛治療剤マクサルト| 製品情報... Page 2 of 6
これまでの診療
患者さんの頭痛の記憶があいまい
頭痛ダイアリー利用後の変化
自分の頭痛の症状に対して患者さんの理解が
深まる
医師に的確に症状を伝えられない
医師と患者さんのコミュニケーションがスムーズ
になる
受診時の様子と 頭痛発作時の状態に格差があ
る
日常生活での頭痛の様子が詳細に把握できる
短時間の日常診療では限界がある
薬物療法の評価も患者さんの主観に頼る部分
が大きい
短時間で確実な診断と治療方針の決定が行え
る
薬物療法の効果判定がより客観的になる
日常診療の流れのなかに、『頭痛ダイアリー』を組み込むことで、これまでは治療の必要性を認められず、就寝
や市販薬による対応でがまんせざるを得なかった慢性頭痛の患者さんたちを治療ルートにのせることができます。
これにより、患者さんの精神状態の安定と、医療機関への信頼感の醸成が望めます。
診断での活用フロー
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頭痛ダイアリーのすすめ|頭痛診療のコツ|片頭痛治療剤マクサルト| 製品情報... Page 3 of 6
『頭痛ダイアリー』の記入方法に従って、患者さんが記載欄に書き込みをしていくと、片頭痛・緊張型頭痛・群発
頭痛の鑑別や、他の要因の検討のための情報が、自然に整うように工夫されています。
頭痛症状のチェック
1.いつ起こったか?
記載方法
鑑別の目安
(一例)
午前、午後、夜に記載欄を分類
群発頭痛では、1~2カ月間は毎日ほぼ決まった時間に
頭痛が生じる。しばしば睡眠中に起こる。
2.痛みの程度は?
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頭痛ダイアリーのすすめ|頭痛診療のコツ|片頭痛治療剤マクサルト| 製品情報... Page 4 of 6
記載方法
鑑別の目安
(一例)
+++(重度)、++(中程度)、+(軽度)の3段階で記載
緊張型頭痛は他の慢性頭痛に比べ、痛みの程度は比
較的低い。また突然激しい痛みが生じた場合は二次性
頭痛も疑われる。
3.どんな痛みか?
記載方法
鑑別の目安
(一例)
(脈)=脈打つ痛み、(は)=はき気、(重)=重い痛み、
(吐)=嘔吐
片頭痛はズキンズキンと脈打つような痛みが特徴であ
り、吐き気を伴うこともある。運動や階段の上り下りによ
って痛みが強くなる。
4.日常生活への影響度は?
記載方法
鑑別の目安
(一例)
+++(何も手につかない)、++(能率が通常の半分以
下)、+(大きな支障はない)
群発頭痛では何も手につかなくなることが多い。片頭痛
でも家事や仕事がつらく、寝こむケースもある。
5.どこが痛いか?
記載方法
鑑別の目安
(一例)
MEMO欄に記載
片頭痛では頭の片側ないし両側、緊張型頭痛では頭全
体、群発頭痛では一方の目の奥が痛む。
拡大画像
6.どのぐらい続いたか?
記載方法
鑑別の目安
(一例)
記載の継続の有無で把握
片頭痛では頭痛が数時間から3日間ほど持続する。群
発頭痛の持続時間は1時間ほど。
頭痛以外の症状のチェック
1.頭痛の前ぶれは?
記載方法
鑑別の目安
(一例)
MEMO欄に記載
片頭痛では、チカチカとしたまぶしい光や、ギサギザ模
様の線が視界に現れる人もいる。
2.誘因と思えることは?
記載方法
鑑別の目安
(一例)
MEMO欄に記載
片頭痛ではストレスからの解放、月経、天候の変化など
が誘因。群発頭痛では飲酒が引き金になることも少なく
ない。
頭痛ダイアリーの記載例
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Case Study 1
片頭痛
1週間に1回の頻度で、悪心や嘔吐などを伴った拍動性の頭痛を認める。ストレ
スから解放された週末に出現することが多い。
記載例を見る
Case Study 2
片頭痛+反復性緊張型頭痛
自覚的には強い頭痛のことのみ認識していたが、日記を記載することにより、2
種類の頭痛の判別が可能となった。
記載例を見る
Case Study 3
緊張型頭痛
肩こりを伴った、後頭部あるいは頭部全体の頭重感や鈍痛が頻回に認められ
る。締めつけ感も相当強い。悪心や嘔吐などの随伴症状は認められないか、あ
っても軽度である。
記載例を見る
Case Study 4
群発頭痛
30分~3時間程度の短時間の持続で、激しい頭痛が1日に何回も出現する。日
中にも認められるが明け方に多い。鼻汁、結膜充血、流涙などの随伴症状を伴
う。症状が重度のときでも酸素吸入が有効だった。群発の期間は1~2ヵ月間
で、1~2年おきに起こる場合もある。
記載例を見る
北里大学病院神経内科外来において慢性頭痛と診断された患者さん218名を対象に、初診時に問診だけから
得られた診断と、再診時に『頭痛ダイアリー』を用いて再度検討し直した診断とを比較検討しました。その結果、患
者さんの訴えのみからは片頭痛と診断されていた患者さんの28%に、反復性緊張型頭痛の混在が認められまし
た。
また、慢性緊張型頭痛と診断された患者さんのうち、27%において片頭痛が混在していることもわかりました。
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このように2種類以上の頭痛が混在している場合は、患者さん自身がそのことに気付いていない場合も多く、『頭
痛ダイアリー』から得られる情報は、頭痛のより正確な診断の一助となることは明らかです。
問診による診断と日記による診断の比較(N=218)
日記による診断
→
片頭痛
問診による診断↓
反復性
緊張型頭
痛
慢性
緊張型頭
痛
片頭痛
+
反復性緊
張型頭痛
片頭痛
+
慢性緊張
型頭痛
群発頭痛
分類不能
片頭痛
46
30
1
0
13
0
0
2
反復性
緊張型頭痛
58
0
50
3
5
0
0
0
慢性
緊張型頭痛
26
0
0
14
0
7
0
5
片頭痛
+反復性緊
張型頭痛
14
2
0
0
12
0
0
0
片頭痛
+慢性緊張
型頭痛
19
0
0
5
0
9
0
5
群発頭痛
10
0
0
0
0
0
10
0
分類不能
45
4
1
10
3
12
0
15
合計
218
36
52
32
33
28
10
27
土橋かおりら:Prog. med, 21, 34(2001)一部改変
患者さんに『頭痛ダイアリー』への記載をお願いするにあたり、慢性頭痛に対する患者さんの認
識が高ければ、記載に意欲がもてますし、また記載内容も的確になります。
患者さんにお渡しいただく『頭痛ダイアリーの使い方(PDF:1.8MB)』には、片頭痛、緊張型頭痛、
群発頭痛などの頭痛タイプを患者さんがセルフチェックできる「頭痛チェックシート」を掲載しており
ます。ぜひ患者さんの理解の向上・モチベーションアップにご活用ください。
WEB版 頭痛チェックシートはこちらでお試しいただくことができます。
http://www.eisai.jp/medical/products/maxalt/support/diary.html
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頭痛チェックシート|資材/便利ツール|片頭痛治療剤マクサルト| 製品情報 | ...
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エーザイ 予防から治療まで見つかる Eisai.jp
片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛などの頭痛タイプを患者さんが
セルフチェックできる「頭痛チェックシート」を作成しました。 ご用命
の場合は、弊社医薬情報担当者(MR)までお申しつけ下さい。
下記で、「頭痛チェックシート」の診断内容を実際にお試しいただ
くことができます。
頭痛チェックシート【PDF:861KB】
下記の質問で該当する症状をチェックしてください。
1. 頻度はどれくらい?
月に数回、頭痛を繰り返
同じような痛みがほぼ毎日
1~2ヶ月間は、毎日ほぼ
す。持続時間は数時間か
起こる
決まった時間に起こる。痛
ら長くても3日
みの持続は約1~2時間
2. どのような痛み?
ひどくなると「ズキンズキ
締めつけられるように重く
ン」と脈打つように痛む
痛む
えぐられるように激しく痛む
3. どこが痛む?
頭の片側あるいは両側
頭全体もしくは後頭部や首
片方の目の奥
すじ
4. 家事や仕事は?
何とかできる
http://www.eisai.jp/medical/products/maxalt/tools/check.html
何もできなくなる
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頭痛チェックシート|資材/便利ツール|片頭痛治療剤マクサルト| 製品情報 | ...
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するのが辛く、できれば寝
ていたい
5. 動くと痛みはどうなる?
できれば動かずじっとして
痛みが軽くなることがある
いたい
激痛のためじっとしていら
れない
6. 頭痛以外の症状は?
吐き気を伴うことがある。
ふわふわしためまいや肩
目が充血する。涙がでる。
光や音に敏感になる
や首のこりを伴う
鼻水がでる
頭痛が起こる前に肩や首
頭痛のときはいつも肩や首
頭痛が起こるのと同じ側の
がこる
のこりがある
肩がこる
じっとして、痛みが過ぎる
マッサージやストレッチをし
じっとしていられない
のを待つ
たり、お風呂に入る
7. 肩や首のこりは?
8. 頭痛が起きたときは?
0個
が多いあなたは
の疑いがあります
0個
が多いあなたは
の疑いがあります
0個
が多いあなたは
の疑いがあります
月に数回繰り返し起こり、頭の
頭痛の筋肉の緊張やストレスな
1~2ヶ月間ほぼ毎日続き、痛
片側あるいは両側が脈打つよう
どにより、頭全体が締め付けら
みは1~2時間持続します。片
にひどく痛みます。吐き気を伴
れるように痛みます。多くの人
方の目の奥が激しく痛み、目の
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頭痛チェックシート|資材/便利ツール|片頭痛治療剤マクサルト| 製品情報 | ...
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ったり、光や音に敏感になり、
が肩や首のこりを伴い、幅広い
充血、涙が出ることがあります。
女性に多くみられます。
年齢層にみられます。
男性に多くみられます。
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