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地域内ネットワーク構造のビジュアル表現ツールの開発と その応用の

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地域内ネットワーク構造のビジュアル表現ツールの開発と その応用の
オンライン ISSN 1347-4448
印刷版 ISSN 1348-5504
赤門マネジメント・レビュー 2 巻 4 号 (2003 年 4 月)
〔 研 究 会 報 告 〕社会ネットワーク研究会
2003 年 2 月 28 日
1
地域内ネットワーク構造のビジュアル表現ツールの開発と
その応用の可能性
―広島県「世羅郡 6 次産業ネットワーク」の活動を事例に―
網藤 芳男
近畿中国四国農業研究センター
E-mail: [email protected]
1. はじめに
広島県の世羅郡には、
「世羅郡 6 次産業ネットワーク」という組織があります。国と県か
ら半分ずつ給料をもらって、地域の農業を手助けする仕事をする、農業改良普及員という制
度です。その農業普及員のある人が仕掛け人になって、
「世羅郡 6 次産業ネットワーク」が
始まりました。生産物をつくって市場に出荷するというのが、通常の農業の形態です。しか
し単にそれだけではなく、お客さんに来てもらってビジネスを行う形態まで含めて、地域内
の様々な異業種を一括りにしたものが「世羅郡 6 次産業ネットワーク」です。
「6 次産業」
とは、「1 次産業+2 次産業+3 次産業」という意味合いです。
このネットワークには、全部で 40 の団体・グループが参加しています。たとえば、農家
が自分たちで店舗をかまえて作物を販売する直売所、農産加工や商品開発を自ら手がけて販
売していく女性たちのグループ、花の観光農園、さらに農業から少し離れた分野ではパン屋
さんなども、このネットワークに参加しています。みんなでまとまって、自分たちの地域を
ひとつのブランドとして売り込んでいくことで、地域の活性化をはかっていくというのが、
そこでの目的のひとつです。
2. ネットワークと活性化について
最初は、地域のコーディネーター的な人物が仕掛けることで、「世羅郡 6 次産業ネットワ
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本稿は 2003 年 2 月 28 日開催の社会ネットワーク研究会での報告を宮崎正也(GBRC)が記録し、
本稿掲載のために報告者の加筆訂正を経て、GBRC 編集部が整理したものである。文責は GBRC に、
著作権は報告者にある。内容の引用または複製には著作権者の許可を必要とする。
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©2003 Global Business Research Center
www.gbrc.jp
社会ネットワーク研究会 2003 年 2 月 28 日
ーク」が始まりました。地域の活性化をはかりたいというのが、ネットワークづくりの一番
の目的でした。そしてもうひとつ、地域内で産業活動をしている人たち(主に農業者)の農
業所得の増大と、働く場(就業機会)の拡大についても念頭に置いていました。これは、地
域全体のメリットと、そこに参加しているメンバーのメリットとの両方の側面を考えていく
ことの必要性を意味しています。
具体的にどのような活動をしているのかといいますと、広島市に出向いてイベントを行う
ことで都市部の人たちとの交流をすすめ、世羅郡地域の特色をアピールしたりしています。
また、マネジメント・セミナーと称して、ネットワーク参加者たち自身の経営能力を高める
ための講習会を開いたりしています。要するに、地域の経済活動の拡大をはかるためのいろ
いろな事業を企画して行っています。
ネットワークに参加している人たちの中には、そんなに意識の高い人ばかりではなく、た
だおつきあいとして入っているだけという人もいます。事業の規模は、一番大きなところで
年間売り上げが 1 億 5000 万円くらい、小さなところでは年間の売り上げが 100 万円くらい
と、バラツキがあります。大規模な農園から、おばあちゃんたちのグループまで、多種多様
な人たちが集まっているのが、
「世羅郡 6 次産業ネットワーク」です。
人であっても組織であっても何でもよいのですが、「複数の何らかの対象があって、それ
らの間に何らかの関係がある」という条件を満たしてさえいれば、「ネットワーク」と呼ん
でいいと思います。この概念定義に依拠して、実際の「世羅郡 6 次産業ネットワーク」の現
状を見てみます。
まず、
「世羅郡 6 次産業ネットワーク」には多くの会員が参集しており、40 の団体・個人
が参加しています。たとえば、直売所がひとつの会員として参加しているのですが、その下
には直売所に農産物を納めている人などがいて、大きなところですと 300 人くらいが関係し
ています。さらにその 300 人が、いくつかのグループに分かれています。言ってみれば、重
層入れ子状態になっています。
また、会員間で、ものや情報のやりとりがあります。もの(農産物)は、当然、作る人、
食品加工する人、販売する人といった人たちの間を流れていきます。中には、観光農園のよ
うなところですと、自分のところでものを作って販売もしていますし、同時にそこで作った
ものを直販所に持って行ったり、あるいは他の生産者からものの納入を受けていたりと、相
互のやりとりがあります。地域の中で、ものや情報のやりとりがあるのです。人とものと情
報、さらにカネとエネルギーの流れがそろえば、一通りの人間の社会経済的な活動が全部そ
ろいます。とりわけ今回は後述するように、ものと人と情報の動きや流れをどうやったら把
握できるだろうかという点を、ビジュアル表現ツールの開発を通じて考えていきます。
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最後に、付け足しになりますが、
「世羅郡 6 次産業ネットワーク」では定期的にイベント
も開催しています。これが、現状です。
一方、このような特色を持つ「世羅郡 6 次産業ネットワーク」、そしてこの地域が、いか
にして「活性化」するのかというところに、私の最大の関心があります。「活性化」とは、
「ある地域や集団の活動量が増えていく状態」そして「ある地域や集団で以前よりも何かが
よくなったと感じられる状態」として定義できます。つまり、その地域にいる人が「以前よ
りもよくなった」と自ら評価できる状況を想定して、それを表現する指標を作っていきたい
と考えています。物理量よりも、心理的な量でもって「活性化」を表現したいと思っていま
す。この「活性化」の視点を、実際の「世羅郡 6 次産業ネットワーク」の分析へと落とし込
んでいきます。
その際、第一は、「会員間でのものや情報や人の交流が増えていく状態」、第二は、「ネッ
トワークの活動を通じて、経済状態や生活がよくなったと感じられる状態」について、それ
ぞれ検証していくことになります。
3. ネットワーク活動のビジュアル表現ツールの開発
その第一歩として、ネットワーク活動をまず表現していくことを考えました。ネットワー
ク内のものや情報の流れが一目で視覚的にわかるようになれば、それによって大きな可能性
が生まれます。たとえば、会員たちが自発的に自分たちで「情報」を組織的に集めて視覚化
することで、そういうものを利用して自分たちの状況を把握したり、あるいは今まで気がつ
かなかったところを再発見したりすることが可能になります。ビジュアル表現ツールを使う
ことによって、日常のコミュニケーション(会話や会議など)とは違ったかたちでのコミュ
ニケーションが成立します。ひいてはそれがネットワークの活性化につながるのではないか
と私は考えています。
これが、ネットワーク活動のビジュアル表現ツールを開発した動機です。
4. ネットワーク活動の調査:実例
実際に調査を行ったのは、2001 年の 12 月です。
「世羅郡 6 次産業ネットワーク」の会員
に、会員間での
① ものの流れ、② 情報の流れ、③ 人の流れ(応援関係)についてお聞
きしました。その際、現状(当時の 1 年間)と将来の希望をあわせて答えてもらいました。
この質問は、40 の個人・団体(代表者またはネットワーク参加者)に面接形式で行いまし
た。そこで得られたデータをビジュアル表現ツールによって視覚化し、「みなさんの状況は
こうですよ」というように提示することができました。
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以下では、その結果を紹介していきます。
ネットワーク内の会員間コミュニケーション・ツールとしての位置づけをアイデアとして
持っていたので、まず地図を表示させ、その上に 40 団体の所在と団体略称を記載しました
(ただし現地の人たちは、団体の名前が記載されていなくても、凡例の業種分類と照らし合
わせれば、どの団体であるのかはわかってしまいます)
。
次に、この 40 団体の間でやりとりされる、もの・情報・人の流れそれぞれについて、目
に見えるかたちで表現しました。質問調査結果データから、もの・情報・人に関する現在と
将来の希望、両方の流れを記述する六つの図を作成しました。団体間の関係は、各質問項目
における回答選択肢にもとづいて、三種類の線(青・緑・赤)によって分類・表示しました。
このようにして表示される六つの図をもとにして、私たちは様々な分析を進めていくこと
が可能になります。たとえば、もの・情報・人それぞれの分野間における現状の比較(横の
比較)を行うことも容易にできます。あるいは特定の分野における現状と将来希望との比較
(意向の比較)も行えます。さらによりミクロな視点からは、あるひとつの団体を抜き出し
て、そこを中心に他の団体との関係性を表示させることで、ネットワーク内における当該団
体のポジショニングや役割を把握することも可能になります。
また、とくに地域の活性化の観点から分析するのであれば、現状と将来希望、あるいは現
状と 1 年後というように、時間的な経過に沿ってネットワーク活動を表示することで、活性
化の程度を「相対的に」検証することができます。
「世羅郡 6 次産業ネットワーク」の連携について、今回ここで得られた分析結果から次の
二つのことがいえると思います。ひとつは、もの・情報の交流と比べて人の交流は少ないが、
いずれも増やしていくことを希望している団体がほとんどであるということです。もうひと
つは、新しい会員の場合、認知の程度は低いが、関心・理解の促進ではほとんど差がなく、
新たに交流を希望している会員がいるということです。
5. まとめと今後の課題
これまでの調査・分析結果にもとづき、現場への発信として、いくつかの提言をすること
ができます。
第一は、誰もがネットワークの主役であるという点です。「あなた作る人、私売る人」み
たいになっていないだろうかという現場への問いかけです。
第二は、公的支援は必要ですが、しかし、それに依存しすぎていないだろうかという点で
す。情報の交流が、新しい知恵を生み出すのです。そこにこそ、ネットワークの醍醐味があ
るといえます。
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第三は、
「世羅郡 6 次産業ネットワーク」は拡大志向であることがわかった点です。つま
り、的確な情報収集と共働活動がパワーを生み出しているのです。
そして、ネットワークの活動が地域の活性化に対して、どのように寄与しているのかをま
とめると、次のようになります。まず、「会員間での情報交流が、会員の連携を強化して、
地域経済の活性化をもたらす」というのが、会員独自の活動による効果です。一方、公的支
援が地域全体の活性化に果たす役割としては、「イベント活動(非日常的な活動)を実施し
て、地域の知名度をアップさせて、多くのお客さんに来ていただけるようにする」ことがあ
げられます。
最後に、今後の研究上の課題を提示します。まず何よりも、ネットワークをより活性化す
ることを目標とした、新しい情報共有の仕組みが必要であると、私は感じています。そのた
めの仕組みのひとつとして、今回開発したネットワークのビジュアル表現ツールをうまく活
用していきたいと考えています。究極的には、ネットワークの会員間で情報を共有し、そこ
から新たな発見を導き出す・・・・・・という流れが、私のような外部の研究者が関与しなくても、
ネットワーク内で自発的に行われるような仕組みづくりをめざしたいと思います。
また、より具体的な課題としては、ネットワーク分析の手法をさらに身につけることで、
地域経済の活性化・計画的生産(地域内資源の有効活用)やマーケティング・商品開発に役
立つような情報共有支援システムを開発していきたいと考えています。
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赤門マネジメント・レビュー編集委員会
編集長
編集委員
編集担当
新宅 純二郎
阿部 誠 粕谷 誠
片平 秀貴
高橋 伸夫
西田 麻希
赤門マネジメント・レビュー 2 巻 4 号 2003 年 4 月 25 日発行
編集
東京大学大学院経済学研究科 ABAS/AMR 編集委員会
発行
特定非営利活動法人グローバルビジネスリサーチセンター
理事長 片平 秀貴
東京都千代田区丸の内
http://www.gbrc.jp
藤本 隆宏
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