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(日英同時通訳)
皆さんこんにちは。滋賀県、日本からやってまいりました滋賀県副知
事の西嶋栄治です。本日皆さんとこのセッションでお会いすることがで
き大変光栄に存じます。
始めます前に、まずは滋賀大学の久保教授とこのセッションの開催に
かかわられた全ての人に対して、私を招待していただいたこと、また話
をさせていただく機会を頂戴しましたことにまずはお礼申し上げたいと
思います。
本日、私からは琵琶湖の水質改善と生態系の課題、そしてつながりの
再生に関してお話ししたいと思います。
まず、滋賀県についてよくご存じない方も聴衆にはおられると思います
ので、短く滋賀県、そして琵琶湖のことをご紹介したいと思います。
滋賀県は日本のほぼ中央部に位置し、日本最大の淡水湖である琵琶
湖があります。琵琶湖の水は、京都、大阪、兵庫といった近畿地方の
主要な都市へ流れ、日本の総人口の10分の1以上である1450万人の
人々に飲料水や工業用水を供給しています。ちょうど画面の地図にあ
る水色で示したエリアに水を供給しています。
また、琵琶湖は世界的にも珍しい古代湖と呼ばれる湖の一つであり、
400万年以上の歴史を持ち、60種以上の固有種が暮らす生物多様
性の宝庫でもあります。
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最初に、琵琶湖における水質改善の取組についてお話ししたいと思います。
滋賀県には、住民が主体となり行政を動かし、条例の制定にまでに至った、
草の根自治の歴史があります。
「せっけん運動」と呼ばれるこの運動は、琵琶湖で赤潮が1977年に初めて
発生し、その原因がリンを含む合成洗剤にあることを知った主婦たちが、合
成洗剤を使わず、粉石けんを使おうと呼びかけたことから始まりました。この
運動は県下に一斉に広がり、行政も一緒になって運動を繰り広げました。そ
してそれから2年後の1979年には全国で初めてとなるリンを含む合成洗剤
の使用、販売等の禁止などを内容とする富栄養化防止条例を制定しました。
研究者、行政、市民の3者がスクラムを組み、湖沼の水質問題に真正面から
取り組んだ象徴的な事例がこの「せっけん運動」ではないかと思います。
その後、赤潮の発生は減少し、現在において赤潮は2010年からは全く発生
していませんので、琵琶湖の赤潮問題は一定克服できたのではと言えると思
います。
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この他にも、本県は琵琶湖の水質改善を図るため、様々な流入負荷量の削
減対策を進めてきました。
特に下水道の整備を急ピッチで進め、1980年ころにはわずか5%程度で
あった本県の下水道普及率は、2014年では全国第7位の87.9%にまでな
りました。
さらに、農業集落排水施設や合併浄化槽等の全ての排水処理施設を合わせ
た汚水処理施設整備率は、現在においては98.2%であり、ほぼ100%に
近い数字となっています。
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その結果、琵琶湖の水質は徐々に改善してきました。
琵琶湖の北湖の平均透明度は、現在では約6mにまで改善して
います。
また、人口や産業が集中している南湖においても、現在は2.4
mとなっています。
全チッソおよび全リンの値についても、富栄養化防止条例の施
行や工場排水の規制強化、下水道の整備等により徐々に改善
してきており、琵琶湖の富栄養化は抑制されていると言えると思
います。
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しかし、琵琶湖の生態系という点では、水質の改善にもかかわらず、
むしろ厳しい状況になってきています。
最も顕著に表れているのは在来魚介類の減少です。グラフを見ていた
だいたとおり、琵琶湖の漁獲量は大きく減少してきています。
その中でも、特に琵琶湖の名産であるセタシジミなど、貝類の減少が
著しくなっています。
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その原因の一つとして、湖辺の形態の変化があると思います。
かつては、琵琶湖の湖辺にはヨシ帯が生え、琵琶湖と周囲の田んぼや
内湖は水路でつながり、魚はその水路を自由に行き来する中で、田ん
ぼや内湖などで産卵するなど、湖辺域は生態系にとって重要な場所と
なっていましたが、ほ場整備や内湖の埋立て等により、生物の生息の
場がどんどん奪われていきました。
特に、ヨシ帯が琵琶湖の開発等により面積が大きく減少しました。
ヨシは水質浄化をはじめ、生物の生息場所や琵琶湖独特の景観など
非常に重要な役割があります。そこで県では、失われたヨシ帯を復活さ
せていくため、ヨシ群落保全条例の制定や、ヨシの造成など、ヨシを増
やす取組を実施しています。
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また、分断された琵琶湖と田んぼとのつながりを再生しようとする取り
組みとして、「魚のゆりかご水田」という事業を行っています。左の写真
のように、ほ場整備によりコンクリートで作られた排水路が整備された
結果、魚は農業水路を伝って田んぼまで行けなくなりました。このため、
フナなどの産卵期にあわせていくつもの堰を設けて水位を田んぼのレ
ベルまでかさ上げし、魚が田んぼまで水路を使って移動できるようにし
ました。魚が飛び跳ねて堰を上がっていく様子がご覧いただけると思
います。
このような取り組みを地元や農家等の協力により琵琶湖の周辺で実
施しています。
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琵琶湖の生態系の変化は、湖辺だけでなく、水の中でも大きな変化が起こっ
ています。
1960~70年代に北アメリカから移入されたブルーギルやブラックバスは大
繁殖し、在来魚やエビなどを捕食するなど、琵琶湖の生態系に大きな変化を
もたらし、琵琶湖漁業に大きな被害をもたらしています。
毎年、多額の税金を投入し外来魚の駆除をしていますが、外来魚は繁殖力
が強く、様々な手法で駆除を行っていますが、まだまだ多くの生息量が確認さ
れています。
また外来魚による捕食のため、絶滅に瀕している在来魚もいます。
このような外来種の問題は、世界のどこの湖でも起こりうる問題だと思いま
す。
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それから、現在、琵琶湖で非常に問題になっているのが水草の異常繁
茂です。
最近、特に南湖の湖底の約9割が水草で覆われる状況になっていま
す。これがやがて枯れて腐り、湖底に沈むと、魚類や貝類の生息が困
難になる原因になります。
水草は、琵琶湖の生態系の問題となるだけでなく、周囲への悪臭や船
舶の航行障害など、人々の生活にも悪影響を与えています。このため、
県では水草の表層刈取りと、根こそぎ刈取りを組み合わせて行ってい
ます。
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琵琶湖の保全においては、県ではこれまで「水質の改善」を主眼にお
いて、流入負荷削減対策を中心とした施策を行ってきましたが、健全
な琵琶湖を将来の世代へ引き継いでいくためには、「琵琶湖の生態系
の保全対策」をしていく必要があると思います。
その際、水源地から琵琶湖までの集水域全体について考えることが重
要であり、山~川~里~湖を一つの系としてとらえ、それぞれのつな
がりや生き物のつながり、物質の循環といった各事象間の関係性に着
目して、課題の全体像を俯瞰する必要があると思います。
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そこで、県では2014年に県内にある8つの試験研究機関と関係行政
部局による「琵琶湖環境研究推進機構」を組織し、その最初の研究
テーマとして、「在来魚のにぎわい復活」という切り口で、生物のつなが
りや生息域のつながり再生の研究を行っています。
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また、このような物理的な「つながり」と同時に、「人々のつながり」とい
う視点も重要であります。
そこで、行政だけでなく、住民、NPO、企業など、様々な主体が一緒に
なって琵琶湖を守っていく仕組みとして、「マザーレイクフォーラム」とい
うものを設置しました。
この写真のように、毎年「びわコミ会議」という会議を開催し、琵琶湖を
良くするために何が必要かを話合い、そのために自分は何ができるの
かを約束するということをしています。
こうした住民主体による琵琶湖の保全の取組には、冒頭に話した
「せっけん運動」に代表される草の根自治の歴史が生かされていると
思います。
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「つながり」を重視する考え方は、財源確保の問題にも現れています。
琵琶湖の保全のためには、水源域である森林が荒れては琵琶湖は守
れないとの思いから、滋賀県森林づくり条例を2004年4月につくり、
それを受けて、2006年4月に琵琶湖森林づくり県民税条例を施行し
ました。
同条例では、県民から800円を森林保全のための税金としていただく
他、企業からは資本金の規模に応じ2,200円~88,000円をいただいて
います。
この森林づくり県民税は、琵琶湖の保全のための資金メカニズムとし
ても機能するものであり、2014年度においては、県民との協働事業
や、環境を重視した事業の約9億8千万円の事業に対し、約8億円が森
林づくり県民税から財源充当されました。
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このように、滋賀県は琵琶湖の保全において様々な取組や経験を有し
ており、さらに我々は世界の湖沼環境の保全にも貢献していくべきだと
考えています。
このため、本県が提唱して1984年に「世界湖沼会議」を開催し、これ
まで30年に渡り世界各地を巡りながら15回開催されてきました。湖
沼会議は、湖沼環境に関する問題を単独で取り上げた国際会議として
は初めての会議であり、また、研究者だけではなく、行政、住民といっ
た3者が一堂に会して議論するというコンセプトは画期的なものでし
た。
滋賀県は、この世界湖沼会議を1984年と2001年の2回開催してお
り、また、今回参加している世界水フォーラムについても第3回会議を
招致するなど、積極的に世界規模の会議に参加しています。
本日の会議だけでは十分議論できないと思いますので、是非皆さんに
は次回の世界湖沼会議に参加いただき、引き続き議論できればと思
います。
ちなみに次回は2016年11月に、インドネシアのバリ島でありますの
で、皆さん是非ご参加ください。
簡単ではありますが、これで私からの発表は終わります。
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