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第10章 非典型担保

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第10章 非典型担保
第10章
1
非典型担保
非典型担保の意義
非典型担保とは、民法上担保として予定されている制度(抵当権、質権などの典型担
保)ではないが、実質的には担保的機能を有するために、実務上担保として利用され、
かつ判例においても確立したものをいう。
非典型担保とされているものには、買戻し、再売買の予約、仮登記担保、所有権留
保、譲渡担保、代理受領等がある。
この非典型担保は、債権・債務関係が存続するかどうかにより、大きく2つに分類
できる。すなわち、買戻しと再売買の予約は、債権・債務関係が残らない担保であり、
「売渡(うりわたし)担保」とよばれている。その他の仮登記担保、所有権留保、譲渡担
保、代理受領は、債権債務関係が存続する点では共通する。
ただし、譲渡担保はあらかじめ所有権を債権者に移転しておくのに対し、仮登記担
保は債務者の弁済がない場合に所有権が債権者に移転し、所有権留保は弁済があるま
では所有権を売主(債権者)に留保する点で異なる。
代理受領は、債権者が債務者に対する債権を担保する目的で、債務者が第三債務者
に対して有する債権の弁済受領について委任を受けるものである。
〔非典型担保のまとめ〕
形式上の所有者
買戻し
買主
譲渡担保
債権者
所有権留保
売主
主な目的物
不動産
動産
不動産
動産
-1-
通常の占有者
買主
債務者
物上保証人
買主
2
売渡担保
買戻しと再売買の予約は、総称して「売渡担保」とよばれている。
買戻しとは、売買契約と同時にした特約に基づき、売主(債務者)が代金額および契
約の費用を買主(債権者)に返還することにより売買契約を解除して目的物(不動産)を
取り戻すことをいう(579条)。これにより、売主は代金という形で資金を調達すること
ができる。
再売買の予約とは、売主(債務者)が所有物を買主(債権者)に売却するが、将来再び
売主が買主から買い受ける予約をすることである。民法上規定はないが、担保手段と
して利用されている。
両者は、債権債務関係が残らない点で共通するが、買戻しが売主から買主への売買
の解除という形式を取るのに対し、再売買の予約は、売主から買主への売買はそのま
まにして、新たに買主から売主への売買を予定し、その予約を行うという点で区別さ
れる。
3
譲渡担保等
譲渡担保とは、金銭を借り入れる場合に、債権担保のために物の所有権を債権者に
移転する担保方式をいう。債権債務関係が残る点が売渡担保との違いである。
仮登記担保とは、履行期に債務の弁済がない場合に、不動産の所有権を債権者に移
転することを予約して、この権利を仮登記によって公示する方法による担保をいう。
所有権留保とは、売買代金が完済される前に目的物の占有を売主(債権者)より買主(
債務者)に移転する売買において、売主が代金完済まで目的物の所有権を留保する担保
手段をいう。
この3つは、いずれも債権債務関係が存続する点では共通する。しかし、譲渡担保
はあらかじめ所有権を債権者に移転しておくのに対し、仮登記担保は債務者の弁済が
ない場合に所有権が債権者に移転し、所有権留保は弁済があるまでは所有権を売主(
債権者)に留保する点で異なる。
4
買戻し・再売買の予約
あらかじめ所有権を移転する形態(権利移転型)の非典型担保物権として、売渡(うり
わたし)担保と総称されるものがある。譲渡担保と同様の担保的機能を有するが、債権
債務関係が残らない点に特色がある。
すなわち、債権債務関係がないことから、買主(債権者)は売主(債務者)に対して積
極的には返済を請求できないが、売主(債務者)は一定期間内に代金を返済すれば目的
物を取り戻すことができる。
具体的には、買戻し、再売買の予約という形をとる。
-2-
5
買戻し
買戻しとは、売買契約と同時にした特約に基づき、売主が代金額および契約の費用
を買主に返還することにより売買契約を解除して目的物(不動産)を取り戻すことをい
う(579条)。売買という形式をとるが、実質的には担保制度として機能することが多い
。
たとえば、A(売主・債務者)が所有する時価8,000万円の不動産をB(買主・債権者)
に4,000万円で売却し、AからBへの所有権移転登記に「6ヵ月内にAが買戻しをする
ことができる」という特約の附記登記(不登法59条の2第1項)がなされたときに、6ヵ
月以内にAが代金4,000万円と費用を提供し、買戻しの意思表示をしてAへの所有権の
復帰を求める場合である。
6
再売買の予約
再売買の予約とは、売主(債務者)が所有物を買主(債権者)に売却するが、将来再び
売主が買主から買い受ける予約をすることである。民法上規定はないが、買戻しと同
様に担保手段として利用されている。
たとえば、A(売主・債務者)所有の不動産をB(買主・債権者)に売却するが、将来
再びこの不動産をAがBより買い受けることを予約することをいう。
再売買の予約は、実質的には買戻しと同じであるが、形式的には買戻しが売買契約
を解除する権利を売主が留保するという構成をとるのに対して、再売買の予約は、文
字どおり2度目の売買を予定し、その予約をする点で異なる。
再売買の予約には、民法上規定がなく、契約自由の原則に委ねられることから、買
戻しのような厳格な制限はない。すなわち、再売買の予約は売買契約と同時に締結さ
れる必要はなく、目的物も不動産に限定されない。また、予約完結権の行使期間も買
戻しのように10年に限定されない。
このように買戻しの要件が厳格なため、実際上は買戻しを回避して要件の緩やかな
再売買の予約が利用されることが多い。
〔買戻しと再売買の予約の比較〕
買戻し
目的物
不動産
特約の時期
売買契約時
(登記)
再売買の予約
制限なし
制限なし
返還額
譲渡性
行使期間
制限なし
あり
制限なし
相手方
代金と契約の費用
あり
定めなし…5年内
定めあり…10年以内
転得者
予約の相手方
-3-
7
仮登記担保
履行期に債務の弁済がない場合に、不動産の所有権等を債権者に移転することを予
約して、この権利を仮登記によって公示する方法による担保を、総称して仮登記担保
という。多くは、代物弁済の予約または停止条件付代物弁済契約という形をとる。
たとえば、AがBに対して3,000万円を貸し付ける場合に、AB間でB所有の甲不動
産(時価8,000万円)を目的物として代物弁済の予約がなされ、弁済期に債務者Bに債務
不履行があったときは、Aがこの不動産の所有権を取得して債権の回収を図ることに
して、同時に甲不動産につき、停止条件付所有権移転または所有権移転請求権保全の
仮登記がなされる、という方法である。
この方法は、債権者が債権額以上の価値を有する不動産を獲得できることから、実
務上多く利用されてきた。判例も、差額を清算すること等を前提にして、仮登記担保
を承認してきた。
このような流れを受けて、昭和53年に仮登記担保法が制定された。
8
所有権留保
所有権留保とは、売買代金が完済される前に目的物の占有を売主より買主に移転す
る売買において、売主が代金完済まで目的物の所有権を留保することをいう。
所有権留保は、月賦などの割賦販売において多く利用されている。たとえば、Aが
B自動車ディーラーから乗用車を300万円で購入した場合に、一括で代金を支払うので
はなく、月5万円で60回払いの割賦契約を締結する場合である。
この場合には、自動車は買主であるAに引き渡され、Aは自由に使用することがで
きるが、300万円の代金が完済されるまで、自動車の所有権はBディーラーに留保され
ることになる。
9
譲渡担保の意義
BがAより金銭を借り入れる場合に、その債務の担保としてB所有の目的物の所有
権をAに移転する形式の担保方法を、譲渡担保という。
もしBが弁済しなかった場合は、Aは所有権を取得しているから、質権や抵当権の
ような複雑な競売手続を経ることなく、目的物を自由に処分できることになる。
また、民法は「動産抵当」を原則として認めていない。すなわち、抵当権の目的物を
不動産と地上権・永小作権に限り、動産を目的とした抵当権を認めていない(369条)。
そのため、商売道具などの企業用動産を担保にしたい場合に譲渡担保が多く利用さ
れてきた。すなわち、譲渡担保を利用した上で設定者が譲渡担保権者から目的物を賃
借すれば、実質的に「動産抵当」を実現したのと同様の効果を期待できるのである。
-4-
10
譲渡担保の法律構成
《所有権的構成》
所有権は債権者に完全に移転する。ただ、債権者はその所有権を担保の目的以外に
は行使しないという、債権的な拘束を設定者に負うにすぎないと考える。
(理由)
債権者に所有権が移転するという形式を重視する。
(帰結)
設定者は無権利者となる。したがって、設定者から目的物を譲受けても原則として
所有権は取得できない。ただし、目的物が動産の場合、譲受人が善意・無過失であれ
ば即時取得することができる(192条)。
《担保的構成》
形式上は所有権が債権者に移転しているが、債権者は所有権ではなく、担保権を取
得するものと考える。
(理由)
譲渡担保権の担保という実質を重視する。
(帰結)
設定者は、所有権を失わない。したがって、設定者から目的物を譲り受けた第三者
は所有権(ただし、譲渡担保権の負担の付いた所有権)を取得する。
しかし、第三者が目的物に譲渡担保権が付いていることにつき、善意・無過失であ
った場合には、譲渡担保権の付いていない所有権を即時取得できる(192条)。
〔譲渡担保の法律構成〕
《所有権的構成》
所有権は債権者に移転。
(理由)
所有権移転という形式を重視。
(帰結)
債務者(設定者)は無権利者→債務者からの譲受人は原則、所有権を取得しない。
例外…善意・無過失のとき、即時取得(192条)。
《担保的構成》
所有権は債務者にとどまる。債権者は担保権のみを取得。
(理由)
担保という実質を重視。
(帰結)
債務者は所有権を有する→債務者からの譲受人は、譲渡担保権付きの所有権を取得。
例外…善意・無過失のとき、譲渡担保権の負担のない所有権を
取得(192条)。
-5-
11
受戻権
譲渡担保が設定された場合において、判例は、債務者が弁済期に履行をしない場合
に直ちに目的物の所有権が完全に譲渡担保権者に帰属するのではなく、弁済期の経過
後であっても、債権者(譲渡担保権者)が担保権の実行を完了するまでは、債務者(設定
者)は債務の全額を弁済して譲渡担保を消滅させ、目的物の所有権を回復する権利(受
戻権)を有するとする(最判S62.2.12)。
譲渡担保の実行には、2つの方法がある。
① 担保権者が目的物を第三者に処分してその代金を債務の弁済に充て、残額があれ
ば設定者に返還するという方法(処分清算型)と
② 担保権者が目的物を適正に評価して、評価額が被担保債権額を上回ればその差額
を設定者に交付し、目的物の所有権は担保権者に帰属させるという方法(帰属清算型)
である。
この場合に、いつまで受戻権を行使できるかという問題につき、判例は①処分清算
型は、第三者への処分時まで、②帰属清算型は、清算金の支払時まで、とする(前掲判
例)。
12
譲渡担保権に基づく物上代位
物上代位性とは、担保権を有する者は、目的物の売却、賃貸、滅失、毀損によって
債務者が受ける金銭その他の物に対しても、担保権を行使できるという性質をいう(3
04条,350条,372条)。
物上代位性は、優先弁済的効力を有する担保物権に認められる性質である。民法上
の担保物権では、先取特権(304条)、質権(350条,304条)、抵当権(372条,304条)で認め
られる。
譲渡担保の法的性質については争いがあるが、通説は譲渡担保の担保という実質を
重視して担保的構成を採っている。そして、譲渡担保は非典型担保であるが、優先弁
済的効力を有するから、それに基づく物上代位も認められるとするのが通説であった。
この譲渡担保に物上代位権が認められるかという問題については、これまで争われ
た事案がなく、最高裁の判例は存在しなかった。
しかし、最近この点についての最高裁の判例が登場した。すなわち、Y銀行のX会
社に対する債権を担保するためにX会社が輸入した商品に対して譲渡担保権が設定さ
れた事案について、「銀行であるYは、輸入商品に対する譲渡担保権に基づく物上代位
権の行使として、転売された輸入商品の売買代金債権を差し押さえることができ」ると
した(最判H11.5.17)。
-6-
13
代理受領の意義
代理受領とは、たとえば、債権者甲が融資を行うに際し、融資先である債務者乙が
第三債務者丙の承認の下に、乙が丙に対して有する債権の弁済受領の委任を受けてお
くという債権担保手段である。この場合、甲は、乙に代わって受領した弁済金を自ら
の乙に対する債権の弁済に充当する*かたちで確実に満足を受けることができる。たと
えば、甲銀行が融資先乙に融資をする際に、第三債務者丙の承認の下、債務者である
乙から弁済金受領の委任を受けておく等のかたちで行われる。実質的には債権譲渡や
債権質の設定を受けることに類似するが、これらの手段と異なり譲渡・質入禁止の特
約の規制を受けないこともあり、よく利用される。
債務者乙と債権者甲とは弁済の受領について委任関係に立つが、担保の実をあげる
ため、この委任契約には、①委任者乙からの委任契約の解除を禁じ、②委任者乙自ら
が弁済を受領することを禁じ、③他の者に重ねて委任することを禁じる内容の特約が
付される。
*受領した弁済金の返還債務(656条,646条1項)と、乙に対する貸金債権とを相殺する等による。
14
代理受領の法的性質
代理受領の法的性質については議論がある。この議論は、第三債務者の行った承認
に対する意味づけや代理受領の担保的性質への重きの置き方等についての考え方のち
がいを反映したものである。
この点、かつては、代理受領は債権者債務者間の単なる委任契約にすぎず第三債務
者は債務者に支払っても問題ないとする見解も存在した。
しかし、現在では、代理受領の担保的性質に配慮して、第三債務者に何らかの義務
を認める見解が有力である。
判例も、第三債務者丙が担保目的を知りつつ債務者乙に支払ってしまった場合には、
丙は債権者甲の担保的利益を害したものとして不法行為による損害賠償責任(709条)
を負うとする(最判S44.3.4)。もっとも、判例は、第三債務者丙に対し、債権者甲に
対してのみ支払うべき契約上の義務までは認めておらず、債務不履行責任の成立は否
定している(最判S61.11.20)。
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